○宮城タマヨ君 当
委員会におきましては、かねて
検察及び裁判の
運営等に関する調査の一項目として調査を継続しておりました青少年犯罪調査について、今回は特に本年一月一日から少年法の適用年齢が十八歳から二十歳に引上げられました結果生じました
検事先議の問題などを中心として、右年齢引上げ後におぎます現地諸機関並びに施設の少年
事件の処理及び收容状況等を調査いたしまして、これを年齢引上げ前の状況と比較検討して立法の資に供することを主眼目といたしました。それに加えますのに、本年二月十一日四国少年院に発生いたしました收容少年四十八名の集団逃走
事件もございましたので、それらの原因、経過及び結果を詳細に調査いたしまして、今後におきますこの種施設のあり方を探及すると共に、四国少年院女子分院の新設問題等も調査することを目的といたしまして、須藤、宮城両委員は二月二十五日より六日間に亘り香川、高知の両県に出張いたし、各地におきまして調査をいたしましたのでございます。調査に関します詳細については、
関係各機関及び施設から提出されておりましたこの諸種の参考資料、統計資料等を添付して置きましたから御了承願うことといたしまして、ここでは極く簡單に調査の概要についてのみ報告いたしますことといたします。大体四項目に分けて申上げたいと思
つております。
第一は、年齢引上げ後における各機関の少年
事件処理状況及び
検事先議の問題等に関する諸般の
意見でございます。本問題に関しましては、二月二十六日高松高等裁判所大会議室におきまして、高等裁判所長官、
地方裁判所長、家庭裁判所長、
検事長、
検事正以下各担当係官が出席の上に約二時間くらいに亘りまして会議を行いました。それから又三月一日には、高知
地方裁判所会議室におきまして、所長、
検事正以下各
関係係官に出席を願
つて、同じく約二時間会議を行いまして、その報告や
意見を聞くと共に、これに対する当方の質疑について
説明を受けたわけでございました。先ず高松家庭裁判所におきます本年一月一日以降、即ち年齡引上げ後二月二十日までの少年
事件受理件数を見ましたところが、その総数は二百五十三件で、昨年、つまり昭和二十五年の同期間の百三件に比較いたしまして、受理件数は約二倍半の増加と
なつており、これに対します処理件数は本年は百八十七件、昨年は百四十四件でございますが、本年の受理件数二百五十二件に対します処理件数の率は七四%で、昨年の受理件数百三件に対する処理件数の率は一四〇%に
なつておりますが、それに対して約半分ということに
なつております。又高知家庭裁判所におきます本年一月分の少年
事件受理件数は百三十七件、二月分、二月の二十四日まででございますがそれが百五十六件と
なつてお
つて、昨年一カ年の受理件数が八百十件でございますから、これを十二等分いたして一カ月平均を出しますと六十七件と
なつております。これと比較いたしますと、本年一月、二月とも約二倍の増加を示しておるのでございます。更にこれを処理件数と比較いたしますならば、本年一月一日以降二月二十四日までの処理件数百四十七件、昨年一カ年の処理件数八百二十八件、一カ月平均六十九件、即ち本年一月一日から二月二十四日までの受理件数二百九十三件に対します処理件数が百四十七件の、率は約五〇%、昨年のそれは約一〇〇%と
なつております。昨年度においては両家庭裁判所とも少年
事件に関します限り、その受理
事件のすべてを処理することができたのでありますが、本年度においては、まだ一月、二月の両月のみではございますが、高松において二六%、高知において約五〇%の未済
事件を残しておるという有様でございます。この事実が示唆いたしますように、これら家庭裁判所におきます少年
事件の受理件数は、今後ますます増加の一途を迫るものと予測されておるものでございますが、これに対する処理能力には余り多くの期待をかけることができない現状でございます。従
つて今後当然積
つて参りますと予想せられます未済
事件に対処すべき、両裁判所当局の対策を質しましたところ、高松の家庭裁判所におきましては、現在の職員定員が不足なので、これを
裁判官において高松本庁のみでも二名増員、現在は四名でございます。二名増員し、調査官、同官補を現在の二倍、現在は五名でございます。二倍に増員することが必要である旨を力説されておりました。又高知家庭裁判所におきましては、現在
裁判官は全部
地方裁判所との兼務に
なつており、調査官も又全部書記官の兼務に
なつておりまして、独立した調査官も調査官補も一人もございません。こういうこの書記官も訴訟
事件に立会わなければならないのでございますし、目下民刑訴訟
事件のスピード処理に追われまして、そのほうへ全力を傾けております
関係上、家庭裁判所の
事件処理はややもすると遅れがちなのでございますが、本年六月頃ともなれば、訴訟
事件処理も一段落する予定で、まあそうなれば家庭裁判所專務に一名くらに廻すことができるので、少年の未済
事件処理も能力を少しくらいは増すであろうということでございました。次に職員の定員を増加したところで、現実にこれを充員することができるかどうかの問題でございますが、この点に関しましては、両裁判所とも
裁判官にして家庭裁判所に勤務することを希望する者は少い、その事実を認めており、従
つて少年調査官、同官補の増員によ
つてこれを補うより仕方がないとの
意見でございました。それから少年法第五十
五條、少年
事件の
地方裁判所より家庭判所への逆送については、高松においては殆んどその適用の例がなく、又高知におきましては皆無でございました。それからこの不開始、不処分と
なつたものでございますが、高松におきましては、本年一月一日より二月二十日までの処理件数百八十七件のうちの百四件、即ち五五%、高知におきましては、本年一月一日より二月二十四日までの処理件数百四十七件中六十八件、即ち四六%がこの不開始、不処分と
なつておりまして、いずれも相当高率を占めておるのでございます。これに対しまして、裁判所側の見解といたしましては、これらの
事件は多く特別法犯(経済統制法令違反、道路交通法令違反、漁業法違反等)で、従
つて旧法時代においては警察や、
検察庁においで微罪不処分とした
事件であるが、新法施行後はこのような
事件も一応家庭裁判所に送致されることが多くなり、裁判所としてはこういう
事件の多くは不開始、不処分として処理せざるを得ないので、このような現象を呈することとな
つたのである。併し不開始、不処分に附したものの再犯は極めて僅少であるということが述べられておりました。高松、高知両家庭裁判所とも一般よりの通告、少年調査官の報告による受理件数は極めて少く、その多くは警察よりの送致によるものでございますが、その
理由として、両裁判所当局の述べるところによりますれば、少年法が一般民間に徹底していないこと、一般市民がややもすると遠慮して、このような
手段をとらないことなどによるものだという御報告でございました。
それから最後に、少年
事件の
検事先議の問題でございますが、これに対する高松家庭裁判所の
意見は、絶対反対であり、その
理由といたしましては、新少年法によ
つて少年
事件の取扱にもたらした理想はこれをそのまま伸ばすべきであ
つて、その理想に反する
検事先議を、たとえ一時的にもせよ、導入することは、折角伸びつある芽を摘むのに等しいことであるというのでございました。そうしてその処理には、前述の
通りに、裁判所職員の定員の増員と、少年院の拡充によるべきだとの
意見でございましたが、我が国現在の国家財政上、そのようなことが若し許されないとするならばどうするかというような当方からの質問に対しましては、確答が與えられなか
つたのでございます。それから高知家庭裁判所も大体高松同様の
理由によ
つて検事先議反対の
意見でごいましたが、ここでは若し裁判所職員の定員を増加できないとするならばどうするかという質問に対しましては、ここは先ほ
ども申しましたように審判官も調査官も全部兼務でございましたのでございますが、こういう場合におきましては、
検事先議も止むを得ないであろうということの答弁がございました。一方
検察庁側は高松、高知のいずれも、
検事先議を絶対必要なりと、強力にこれを支持しており、その
理由といたしましては、十八歳以上二十歳未満の者の犯罪は、数的にも質的にも極めて憂慮すべきものがございまして、現在の家庭裁判所のスタツフ、又收容施設の不備、我が国の客観情勢を考慮いたしますならば、当然
検事先議が必要であるというのでございました。殊に高松
地方検察庁の担当官は、昨年度におきます同庁受理
事件中、最も多数を占めておりますのは二十歳の者の犯罪
事件であり、その次が二十一歳の者で、従
つてこの治安維持の面から見てもこのままでは不可であり、実質的に見てスタツフの少い家庭裁判所をして虞犯から犯罪少年の
事件まで大幅に取扱わしめる現在の少年法自体に無理があり、家庭裁判所は虞犯少年と十四歳以下の不良少年の
事件を取扱うだけでも相当に
事件があるのであ
つて、更に又少年の刑事
事件について、家庭裁判所を経由することによ
つて検事の起訴権が本質的に制限を受けることは、公訴権に対する侵害とも
考えられるとの
意見を述べておりました。そうしてこの
検事先議を応急臨時的な
措置としてよりも、恒久的な
措置として希望しているような、極めて強硬な主張がされておりました。なお、十八歳以上二十歳未満の犯罪少年に対する罰金刑の科刑につきましては、家庭裁判所、
検察庁のいずれも、これに賛成する旨の
意見でございました。その
理由は、特別法処理上必要であるというのでございました。
ここでついでに参考までに申して置きますが、高知
地方検察庁におきまして、本年一月一日以降起訴
意見を附して家庭裁判所に送致した犯罪少年は七名でございました。そうしてそのうちの六名が起訴のために家庭裁判所のほうから
検察庁に逆送せられた由でございました。
第二、矯正保護施設及び保護観察一般に関しまする諸問題についてであります。二月二十七日に高松矯正保護管区本部管区長室におきまして管区長代理第一部長、四国
地方少年保護委員長、高松少年保護観察所長以下各
関係係官が出席の上会議を開きまして、諸般の報告を聽取すると共に、こちらからもいろいろの問題を出しました。又同日高松少年保護鑑別所、高松刑務所、四国少年院を視察し、翌二十八日、四国少年院分院、丸亀少女の家を、更に三月一日高知少年保護鑑別所及び高知刑務所をそれぞれ視察いたしました。右のうち四国少年院、同院分院につきましては、後に述べることにいたしまして、その他の施設及び
関係各員の
意見の概略を申して見ます。先ず管区本部におきまして、現在四国には少年院がた
つた一カ所でございまして、年齡引上げに対処するため愛媛県西條市の西條刑務支所の一部を特別少年院とし、保護少年の收容に充てるために目下改造中でございます。まだ完成いたしておりません。これが完成すれば定員百名の收容能力を持つものでございますが、その施設は十八歳以上とそれ以下の者とを区別して收容するよう整備する予定でございます。現在特別少年院に送致される者は増加の傾向にあり、少年法の精神に照らし、理想的には
検事先議には賛成しがたいけれ
ども、現実には家庭裁判所收容施設が整備拡充せられるまでは、暫定的な
措置として
検事先議も止むを得ないであろうという
意見が述べられました。なお四国管区内におきましては、昭和二十七年度の予算によ
つて普通少年院一カ所増設の予定であります。設置場所は香川県内が適当であるとのことでありました。
地方少年保護
委員会側は、これに対しまして、少年院に收容中の少年に対する家族の面会その他のいろいろな事情で当該少年に與えますところの影響の重大性を認識しますならば、その便宜を考慮いたしまして、少年院は各県できるならば一カ所ずつ設置するのが望ましく、一県に集中することは好ましくないと主張されました。又高松少年保護観察所は、現在の陣容で現在の約二倍半くらいの
事件を処理する能力があるとのことでございました。
委員会及びこの高松、高知の両少年保護観察所が特に強調いたしましたことは、保護司の事務、主としまして報告書の記載などに当らせますために各保護管区に一名くらいずつの有給保護司を置いて欲しいとのことでございました。それから又この旧法時代に存在しましたような民間の個人経営の保護団体を復活して、これをして仮退院、仮釈放後の少年の世話に当らしめますことの必要性を非常に強調されたのでございます。それから更生緊急保護法の欠陷に対します非難は、いずれの観察所におきましても指摘せられたことでございまして、これは特に附加えて置きます。その論点は、同法が現実を無視し保護団体なるものの本質に対する深い認識を欠くものであるということが
理由でございます。高松及び高知両少年保護鑑別所を視察いたしまして受けました印象は、一言にして盡しますれば、この両所とも他の多くの少年保護鑑別所と同じく、内容は拘置監に過ぎず、看板だけを塗り替えたに過ぎないというような感じをやはり受けました。高い、それこそ高い外塀に囲まれまして、そうして各收容室の入口のドアにはそれぞれ嚴嚴重な鍵が施してございます。なおその窓には鉄格子がはめられております。この高松や高知両刑務所の未決監を見ましてこれと比較して見ますならば、その差は殆んど認められません。而もその職員も刑務官の服裝に似ましたような服裝をいたしておりますし、鑑別室はございますけれ
ども、何らそこに見るべき鑑別器材は殆んど備えてございません。本当に申しますならば、保護鑑別所とは正にそれこそ羊頭狗肉の感があると言いたいくらいのことでございまして、いつも私はこの
委員会で申しておりますように、どうかこの保護鑑別所を新設されるとき又改造されますときには、保護に理解のございますかたが、この種の建物に非常に指導力を持
つて頂きたいということを、殊に私は
法務府のかたに申上げて置きたいと思
つております。
第三は、四国少年院の收容少年逃走
事件につきましてでございます。去る二月十一日発生した四国少年院の收容少年逃走
事件につきましては、その経過の詳細は、同院の提出しておりますところの報告書を付けておきましたから、ここでは改めて詳しいことは申上げないのでございます。私
ども両委員は、一応見ました上で、院長室におきまして約三十分間に亘り今度逃げました
事件の首謀者と目されております門田輝之、それから岩佐和夫という両名に両接いたしまして、懇談して見たのでございますが、その結果これらの少年はいずれも片親を失い、門田は母親がなく、岩佐は父親がなくて、いずれも両親を欠いておりまして、非常に不幸な家庭に育
つたものです。そうして素質も尋常であり、性格的にもそう異常は認められないが、門田のほうはすでに退院する時期が参
つておりますけれ
ども、これを引受けてくれるものがないということで、あとからの卒業生が次々と出まして螢の光を歌
つて皆を送りますたびに悲観をしてお
つたという院長の話でございましたが、私と話しましたときにも、早くここを卒業して出て行きたいけれ
ども、自分は引受けてくれる人がないのだということを非常に淋しそうに物語
つておりました。結局は彼らの犯罪、逃走の一連の行動は、全く環境の然らしめるところでございますというふうに気の毒に思
つたことでございました。この少年院を視察いたしまして子供たちと話しておりました直後に、丁度雨が降
つておりましたのでございますが、そのときに考査室に謹愼中の少年たちが又七名ほど逃走したという報告に接しまして、私
ども非常に驚きましたのでございました。こういうふうに再三逃走
事件が発生いたします原因は、全くこの両少年院を見ましたときにすぐわかることでございますけれ
ども、実にこの少年院というものが間に合せのものでございまして、旧兵舎の倉庫を改造したということで、建物自体が少年院として非常に不適当でございます。改造されておるのでございますけれ
ども、その改造も誠に粗雑なものでございまして、一時の間に合せでございますし、殊に思いましたのは、この一面がすぐ道路に面しておりまして、丁度その道路から中を見ますと、お風呂屋でも覗いて見られるような感がございます。全くのバラツクでございますのです。で、この四、五十人近くも逃走いたしましたところのものが四十人以上帰
つて参りましたのでございますが、その少年たちが容れられております所も、いわゆる完備しました少年院におきましての考査室というようなものが一室もございませんので、狹い暗い部屋に七、八人の者が押し込められておりますというような実情でございまして、決してこれを考査をする、鎭めるというようなことでなくて、むしろ逃走いたしました者が又次の逃走の相談をするのに実にいいような仕組に
なつておると私
どもは見て参りました。これじやいけないなと思
つて院長に申したすぐ次の瞬間に、そこから逃げたというような様子でございます。その全体といたしまして採光や通風にも何らの考慮がございませんというような模様から、その全体が陰惨の感を抱かしめておりますような施設でございまして、むしろ私はあれで若し子供が逃げないなら不思議だと思うくらいな所でございました。而もここには定員九十五名に対して二倍を超えますところの二百数名、丁度その日、二月二十六日現在は二百五名を收容しております。これに対します職員の増員はそのときに僅かに一名に過ぎないというような報告でございました。同少年院に逃走事故が頻々として発生いたします原因は、語らずして明らかでございますが、職員は院長以下非常に手薄でございますにも拘わらず熱心に、而もこの逃走事故発生後でございますから、もうそれこそ晝夜兼行その
職務に当られておりますので、見る目も気の毒なように疲れておられました。これは要しますのにこの施設の整備、職員の増員、それから四国全体にた
つた一カ所ということが非常に無理なことでございまして、早く少年院の増設についても御当局にお願いしたいと思
つたわけでございます。
最後に簡單に第四、四国少年院分院、丸亀少女の家の新設問題でございます。丸亀少女の家は、現在丸亀旧城内、亀山公園の一角を占めておりまして、大変景色のいい非常に靜かな土地に、建物も新らしく、收容の娘も定員が五十六名に対しまして現在は四十名きりおりません。この分院はこれを本院と比較いたしますならば、実に雲泥の差があるということができます。今般これを本院から分離いたしまして、女子の本院に昇格すると共に、新たに丸亀市中津公園隣接の海岸に六千百九十八坪の土地を購入いたしまして、ここに新たに女子少年院を建設せんとする準備がございまして、すでにその土地の買入れも終られまして、建設も昭和二十六年度の予算によ
つて早急に着手するということでございました。私
ども一行はその新購入土地も視察いたしましたが、海岸でそれこそいい土地でございますので、その環境もいいし、女子の少年院としては大変理想的な少年院を建設することができるということには大変喜んだのでございます。併しここで一言附加えたいと思いますことは、その女子少年院、少女の家は、現在の施設、設備も相当によろしいのでございますし、新らしくてこれはまだ十分利用の価値がございますので、移りましてもこれを何とか利用したらどうだろうかということと、それから大きい立場に立
つてこの少年院、男子少年院及び少女の家を見ましたときに、今ここで女子少年院が新らしく立ちますということは、大変それは結構なことでございますが、併し四国におきまして現在の男子少年院のあの不足な、実に二倍以上の定員がございまして、施設が非常に悪い、日本一不備でございましようかと思うようなああいう施設でございますので、むしろ私はこの少女の家の新設よりも、若しも予算が不足でございますなら、これは男子の少年院をもつと増設する、新設するということのほうが、あの四国においてのこの保護少年の問題を早急に解決するのではないかと思いまして、このことを
法務府当局に申上げて今度の私の報告を終りたいと思
つております。
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