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1951-03-07 第10回国会 参議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年三月七日(水曜日)    午前十時五十八分開会   —————————————   本日の会議に付した事件検察及び裁判の運営等に関する調査  の件  (検察官人事問題に関する件) ○派遣議員の報告   —————————————
  2. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 只今より委員会を開きます。
  3. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 私はこの際法務総裁に対して、今回の検察人事に関する点について御所見を伺いたいと思います。検察庁法の三條並びに二十五條に関しまする解釈については両様の意見があるようでありますが、新聞を通じて法務総裁意見並びに意見局解釈等については新聞に発表されておりますので、その範囲においては了承いたしておりますが、依然として今日只今も従来解釈されておるごとく、やはりこの次長検事転官については次長同意を必要とせずというような解釈をおとりになつておるのですか。先ずその点をお伺いいたします。
  4. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 検察庁法二十五條に関しましては、従来検察官の一部におかれまして検察官の各種類、即ち検事総長次長検事検事長及検事、副検事、これらの各検察官相互転官におきましても第二十五條の制限があるという学説を唱えておられたのでありまするが、私といたしましては、法務府におきまして慎重に研究をいたしまして、現在におきましては検察庁法二十五條規定検察官相互転官において適用のあるものにあらず、かようの解釈をいたしておる次第でございます。この理由につきましては、法制意見長官が見えておられますから補足的に説明を申上げたいと存じます。
  5. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 要点につきましては新聞紙等において御承知であろうと存じますが、新聞紙等の記事におきましては、まだ盡しておらないことがあるように存じますので、多少くどくなる虞れがございましようが、一応我々の考えておりますところをお聞取り願いたいと存じます。  問題の要点は、この二十五條検察官は「その官を失い」、という点にあるのでありまして、この文字面から申しますと、或いはいろいろな考え方が出るかと存じますが、我々はあらゆる他の條文その他との関連におきまして、只今総裁の述べましたような結論なつた次第であります。ここに「検察官は、前三條の場合を除いては、その官を失い、」とありますのは、検察官は「その官を失い、」というのでありますから、一応素直に読みますれば検察官の中にはいろいろな種類がございますけれども、その広い意味での検察官はその地位を失わないというふうに読むべきであろうと考えるのであります。申すまでもございませんが御承知通り裁判所法におきまして、裁判官について同じような保障條文を置いてあるのでございます。この裁判所法におきましては四十八條に身分保障に関する條文を置いてございますが、裁判官は、公の彈劾又は国民の審査に関する法律による場合及びこれこれの場合を除いてはその意思に反して免官転官転所職務停止又は報酬の減額をされることはないというふうに、はつきり免官転官転職というようなふうに謳つておるのであります。この検察庁法におきましては只今申しましたように、「その官を失い、」ということだけになつております。而も裁判所法検察庁法は同じ議会において審議されまして、而も同じ月の官報に公布されておるのであります。この字句の使い分けというものは大きな意味を持つものと考えるのが常識であろうと存ずるわけであります。そこで転職はただ検察官の場合について保障されておりませんのと同様に、転官もこの二十五條としては保障しておらないと読むのが自然ではなかろうか、又そう読むほかはないであろうというのが裁判所法との比較における結論でございます。  それから更にこの検察庁法の中で見ましても、検察庁法の中で今の二十五條に「検察官は、前三條の場合を除いては、」とございます。実はこの前三條というのを見ますと、先ず二十三條というものがございます。これには「検察官が心身の故障、職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないときは、検事総長次長検事及び検事長については、検察官適格審査会議決及び法務総裁の勧告を経て、検事及び副検事については、検察官適格審査会議決を経て、その官を免ずることができる。」というふうに書いてあります。罷免の場合として職務適格理由があれば、検察官適格審査会議決を経て罷免できるというふうになつております。この二十五條の前三條の場合を除いては、」云々と、この罷免に関する二十三條の規定をいたしておるわけであります。従いましてこの「意思に反して、その官を失い、」というのは、二十三條に対応して即ち一応罷免の場合というふうに考えることが自然であろう。若しもそういうふうに考えませんと、仮に或る地位について検察官は不適格である、併し検察官の他の地位にその人を転任させれば、まあその地位には適当であろう、即ち検察官の内部で転任が必要であるという場合に、二十三條で罷免すればこれはもう首になりきりでございます。転任ができないわけです、その地位を。検察官としての地位を持たせながら、その他の適当な地位に転じようという場合の手段が、この検察庁法の中にはないわけでございます。どうしても、二十三條で一遍罷免行為をしなければならない、これもおかしなことになるわけであります。従いまして、この転官についての保障というものは、検察庁法においてはなされておらないと見るほかはなかろうというのが又その理由一つに当てはまるわけでございます。なぜ裁判官の場合と検察官の場合とかような身分保障の差別をしておるのであろうか、これは申すまでもございません。裁判官については、完全なる職務上の独立を以て何人の指揮をも受けないのであります。その身分保障は飽くまでも完全でなければならない。従いまして、旧憲法、新憲法を通じまして、裁判官については憲法みずからが保障條文を置いておるということも言えるだろうと思うのであります。検察官につきましては御承知通り検事と一体の原則の下に、法務総裁或いは検事総長以下の指揮の下に働くという建前のものでございますから、裁判官との間にその点の違いがある以上は、身分保障についても多少の違いがあるということは、もとより合理的であると言わなければならないかも知れないというふうに考えるわけであります。併しながら検察官としてこの職責が嚴正、公平であるべきことは申すまでもないことでありますから、この二十五條においてその身分に関する極めて根本的な点については嚴格に保障しておる、即ち、その官を失う場合、私の申しまする意味は“その官を失う場合の保障職務停止保障、或いは俸給減額保障ということを申しておるのであります。而も俸給減額保障というものは、別に検察官俸給に対する法律というものと相待ちまして、非常に有力なるこれは保障手段なつておると申し得るのであります。そういうふうなところを彼此勘案いたしまして、先ほども総裁の申しましたような意見に到達した次第でございます。
  6. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 御承知通りに、次長検事並びに検事長検事総長の三つの地位にありまするものは、いずれも天皇認証によつて任官せられることになつておるようであります。そこでこの認証手続というものが、どういうふうに実際上はなされておるのであるか、今日もやはり前兼子意見局長官がこれに対する一つの見解を新聞に報ぜられておりますが、これによりますると、次長検事はこれが検事長転官する場合には、先ず次長検事を免じて、新らしく検事長認証辞令を出すようになつておるように見受けるのであります。若しそうであるとしますならば、やはり三條の規定にありまする検事総長次長検事、並びに検事長検事、或いは副検事、これらがやはり一つの官ではないかということの解釈ができるように思います。私どもこの検察庁法審査いたしますときに、突如として出されたために、十分に検討をでき得なかつたのでありまするから、記憶を辿つてどういうふうな状況であつたか、まだ甚だおぼろげで十分の確信も持つておりません。私のお尋ねすることもむしろ疑義を質すという程度でありまするから御了承をして頂いて、そうしてその任官方法がどういうふうになつたかということをこの際一つ承わりたいと思います。  そこで検事総長にいたしましても、従来から私ども考えておりましたのは、只今やはり意見局長官の言われた通りに、検事総長にいたしましても或いは次長検事にしても、検事長にしても、本来の官としては合せて一つ検事であるというふうに考えておつて、そこで検事総長にいたしましても、或いは検事長にしましても、大体補職ではないかというふうに従来の考えを持つていた。ところが検察庁法ができてからあとに、今より考えまするというと、やはり兼子さんの意見のごとくに、検事総長にいたしましても、或いは次長検事にしても、検事長にいたしましても、これはやはり天皇認証によつて任官されるのであるとするならば、補職は別なものであつてはり官ではないかというような気がしてならないのです。されば次長検事認証一つしかありませんのできまつておる。そこで補職手続を別段なさらなくても、ひとりでもつて直ちに、一人を任官して次長検事という辞令が出れば、直ちにこれは補職も合せて行いますけれども検事長の場合には、札幌、名古屋、広島というふうにそれぞれ場所が違つております。そこでこの場合には検事長というのはいわゆる官であつて、そこでどこどこに補するというのは、これは法務総裁の裁量によつてでき得るのでありますが、官自体に対する立場からいたしますると、やはり検事総長次長検事検事長検事、副検事はやはり官であるのではないかというふうに三條の規定から解せられるのでありますが、その点について併せてその任官の実際、これを一つこの際特にお伺いいたします。
  7. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 只今官と職との関係、それから任官手続に関連してのお尋ねでございましたが、先ず官と職という観念を分けて、検察庁法のあらゆる條文を見ますると、只今鬼丸委員のおつしやいましたように、検事総長というのが一つの官として扱われており、次長検事一つの官として扱われており、検事長一つの官として扱われており、その他のものは検事、それから副検事、そういう分類の下にこういう小さな意味での官という扱いをしておることはこれは事実でございます。  ただ少し余談を申上げて恐縮でありますけれども、今のお言葉にもありましたように、昔はこれは一本の検事という名前で全部が補職で、ただ検事総長等は親補されるというような形で非常に丁重な補職が行われたということであります。当時この検察庁法なり、或いは裁判所法などを立案します場合にも、先ずその点を問題にいたしまして、検事総長なり何なりについて親補という制度が現行憲法の下において認められるならば勿論それでよいのでありますけれども、ただ遺憾ながらこの憲法には、天皇国事に関する行為として、法律に定める官吏の任免を認証することと書いてありますから、補職認証ということはないのじやないか。法律を以てしても天皇国事行為を拡張するわけにも行くまい。併し一方において天皇の下において、その補職でも任命でもいいが、天皇のところそういう行為が行われるという丁重な手続をとりたいという要請があるものですから、むしろ技術的な見地から、これを認証官という意味から検事総長というのを職ではなくて官にしようではないか。それから又次長検事もそうである。副検事は後に下の方にくつきましたものでございます。これは別でございます。上の方の認証に当るものはそういう程度でありまして、まあ機械的、技術的な要請から官としたという経緯でこれはございます。  従いまして検事正ども、その方の実質的なバランスから申しますと、検事正も又検事長並に官としていいじやないかという実質的な性格は十分に備えておるわけでありますけれども、これは御承知通り補職なつております。従いまして、話は飛びますが、検事正補職を外されて平検事なつたりするような場合には、検察庁法保障はないという話は行くわけであります。要するにさようなことでありまして、この検事総長次長検事検事長というものが官であることは、これはおつしやる通りであります。そこで補職関係で残りますのはこれは申す必要もないのでありますが、検事長というものが地方にたくさんありまして、これらの間は大阪に行けとか或いは名古屋に行けという場合は、検事長というものについての補職するということがそこに観念がでてくるということになると思います。大きな面から申しますと、只今のようなことに一応なつております。  そこでこの転任の場合でございます。転任行為はこれは行政官につきましても検察官につきましても皆同様でございますが、私自身も転任辞令をたびたび頂きましたけれども一応罷免辞令がでて、それから新らしいポストについての任命辞令が出るということは一度もございませんで、例えば法制局長官佐藤達夫、これを法務庁法制長官に任ずということで、法制局長官という元の地位をそのままにしておいて新たに法務庁ができた場合に法制長官任ずるというのであつて、決して我々、平頭と申しておりますが、平頭のただの達夫というものに転任辞令が出るのでございません。従いまして官を失つて新たに官に就くという観念と、それから今まであつた官からよその官にそのまま転じて行くという場合の手続とは、辞令の上におきましてもこの点ははつきり区別されておるのでございます。
  8. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そういたしますとこの検察庁法の第三條の精神としては、検事総長、並びに次長検事、それから検事長検事及び副検事というのがいわゆる一つの官であるということは只今の御説明によつて明らかにされたわけです。成るほど法制局長官に対して今度新らしく検事なら検事任命される場合には、法制局長官を免ず、而して検事に任ずという二様の辞令を用いないといたしましても、もとより法制局長官兼任でないことは確かだと思います。或いはその辞令が落ちる、落ちないは別といたしまして、少くとも前の官は新らしき任官によつて当然消えるものである。理論的にはやはり次長検事というものが検事長に代る場合においては、本質的にはやはり次長検事という官は一応当然失われるということになるのはこれは間違いないことではないかと思います。こういうようなことが結局過ちのもととなり、それから従来のやはり補職関係等過ちのもととなつて、二様の今度は解釈が表に現われたということになるのではないかと私は思います。  ところが規定自体が非常にあいまいのように伝えられておりまするが、私はこの三條と二十五條ある限りにおいては、従来次長検事にいた人が検事長任官される場合には、前にやはり次長検事というものの官は実質的に失われる、そこで新らしく検事長任官されるというのが私はこれは本質的のことじやないかと思うのです。そういうことになりまするというと、やはり本内氏らの今回とられておりますようなふうにして次長検事検事長に代る時分には、当然二十五條の「官を失い」に該当するのだという私はその解釈はあながち無理からざる解釈じやないかというふうな感がするのであります。私は今度の問題の起りましたことについてのことは、のちに申上げるといたしましても、先ず以てこの点について、この際この解釈を確立しておく必要があるじやないか。若し現在の規定自体において確立ができないとするのであるならば、一歩前進してそういう疑義は一日も早くこれを解消して明確なる規定に直す。こういうふうな転官までも、そうしたような転任の場合も、なお且つ保障するのであるかどうかという、今度新らしい一つの観点に立つて研究しなければならんことだと思います。  そこでこの際私はこれを確立するためには只今説明のごとくに、前に次長検事であるその次長検事を今度は検事長天皇認証する場合には、次長検事を免ずるという辞令を用いなくとも検事長任ずるというのであるならば、前のやはり次長検事が当然消えるのだとするならば、やはりこの免官の形にはどうしても引つかかると思うのです。この点を一つもう一回明確にして頂きたいと思います。
  9. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 只今お話通り兼任ではございませんから、前の官から他の官に転じますれば、前の官はその結果として事実上消えてしまうということはこれは申上げるまでもないことでございます。ただ辞令形式等におきましては、転任というものと免官というものははつきり区別されておるということを申上げる次第でございます。
  10. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そこでこの際ちよつと念を押して置きまするが、もとより今度の人事を行うに当りましては、法務総裁只今委員会において御答弁になり、且つ又意見長官の御意見のごときこの三條及びこの二十五條解釈を持たれた趣旨に立たれての人事扱いをなされたものであるというふうに承わつてよろしうございますか。
  11. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 法律解釈につきましては私は只今法制意見長官が述べられました解釈が正しいものであると、かように確信をいたしておるのであります。併しながら従来から検察官異動につきましては、法律解釈規定の如何にかかわりませず、これは明らかにこの点につきまして疑義をさしはさむ余地のなかつた裁判所構成法の当時におきましても、検事異動検察官異動につきましては、判事に対しますると同様あらかじめその同意を得たるのちにおいて転官手続を取る。かような部内慣行が確立せられておつたのでございます。即ち現在の検察庁法におきましてさような解釈余地があるなしということにかかわらず、従来より明らかにさような慣習は法律上要求せられてはおらないという解釈が明らかでありましたる従来におきましても、検察部内の慣行といたしまして、検察官転任については原則として本人意思を尊重いたしまして命令をいたす、という仕来りと相成つてつた実情でございます。  私はこの慣行検察の公正を期する上におきまして極めて適切な事柄であると信ずるものでありまして、就任以来極力この方針を維持して、人事運営をいたして参つたのでありますが、今回の異動に関連いたしまして、一部の関係者は何ら合理的な理由に基くことなく、ただ現在の地位を固執するという念願を示される以外に合理的な理由説明がなかつたというような事情もございまして、私といたしましては、元来中央におきまして、検事総長次長検事、或いは地方におきましては検事長、これらの部内首脳部に相当しまする要職にあられるかたがたのかような態度によりまして、検察官の全体の人事が停滯いたすというようなことは到底耐え得るところではないのでありまするので、熟慮の末、たとえ関係者同意が最終的に得られない場合におきましても、この法律上の許された権限範囲内におきまして、本人意思関係ない異動を断行することも又止むを得ない、かような決意をいたしたような次第なのでございます。  もとより私がかような決心をいたしましたる際におきましても、そのとき考慮いたしましたることは、かくのごとき措置は従来の部内慣行に反することは明らかでございまして、私が従来の部内慣行でありまする、でき得る限り本人意思を尊重しなければならないという原則をこの場合において維持することができないという事態は、これは極めて異例の事態である。かように考えまして、これが将来長く検察官人事保障についての適切なる慣行を、この例外的な、一時的な措置によつて破壞いたすということは好ましくないことでありまするので、これは極めて異例なる場合におきまする例外的な措置として止むを得ない、こういうつもりで決意をいたしたのでございます。従いまして、これが将来の検察官人事についての原則にいたすというような考えは毛頭ないわけでありまして、将来におきましても飽くまで従来通り円滑なる人事を行いたいという所存であることを附言いたしまして、お答えといたす次第でございます。
  12. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そこで私は法務総裁が、従来の慣例云々によつて穏健な方法によつて人事を行われるというお考えの下に立たれたことであるということは、よくわかります。そこで、併しながらなかなかそれは到底望みがたいというお考えを当時お持ちになつたことは、只今説明によつてわかりましたが、その際、第二十五條及び三條ということの規定に対して、こうしたやはり法律問題を根拠とする相当なる強い反対意見が出るのではなかろうかということを予想していたかどうか、これを一つこの際伺つておきたい。その予想をしても、なお且つこれは規定上あえて差支えないのであるからという確信の下に、この人事を断行したのであるか、この点を伺いたい。
  13. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 具体的の問題につきまして申上げることは、でき得る限り避けたいと存じた次第でありまするが、併し御質問にお答えいたしまするために、このたびの事件経緯に多少触れることがあるかも知れんと存じております。  私は昨年秋以来、検察陣刷新強化を図るために愼重に考慮をいたしましたる結果、このたび内定いたしたような異動案基本線に沿うようにいたしたいという決心をいたしたのでございます。併しながらこれは法律において、法務総裁権限として公然認められたことであるにいたしましても、検察部内の人事につきましては、従来より行われておりまする一定の慣行があり、而もその慣行検察人事の公正を期し、延いて検察権の行使を嚴正、公平ならしめるための極めて適切なる事柄である、こう考えておりましたから、でき得る限りこの線に沿うて措置することが必要である、こう考えまして、各関係者と相談をいたした次第でございます。もとより私はあらゆる努力を盡しまするならば、かような慣行に従つたいわゆる穏健、円満なる方法による人事というものが、必ず成し遂げられると確信をいたし、そうしてできるだけこれを実現いたしまするためには多少の日子、或いはこの人事に到達いたしまする段階といたしまして、予備的な人事というものをいたすことも妨げない。こういう態度でございまして、飽くまで当初考えましたる人事自己権限に基きまして、部内多年の慣行を顧みるところなく、これを独断專行いたすという意思は毛頭なかつたのででざいます、  併しながら私並びに検事総長の完全なる了解の下に立案せられましたるこの異動方針を実行するに当り、殊に佐藤検事総長が多大の熱意と、又多大の努力と誠意とを以て推進いたしましたるにもかかわりませず、昨年秋以来最近に至りまするまで、約数カ月に亘るもこの交渉が進展を見るに至らなかつたわけであります。従いまして、佐藤検事総長も遂にこれは円満なる妥結を得ることは不可能であるという結論に到達せられまして、私に報告せられたのでありまするから、この上は私は自己の責任におきまして、自己権限に基いてこれを処理いたしたい。こういう決心をいたしまして、その方針の下にこれが手続を進めた、こういう次第でございます。
  14. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 それでは続いて私が今度の人事の問題について重ねて伺うのでありまするが、昨年の秋以来、木内次長検事に対して転官折衝を内々、極めて穏健なる態度を以て検事総長と相協力して努力を重ねて参りましたけれども、その見通しが付かなくなつたということはわかります。そのときにはすでに具体的にどこどこの検事長に出てくれよとかいうようなところまで、具体的に本人折衝せられた模様をも新聞で拜見いたしておりまするが、やはりそこまで最初から具体的に話されて折衝をなさつたのでありますか。
  15. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 昨年十一月以来、新たなる任地を指定いたしまして交渉をいたしたのであります。
  16. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そこでそれは恐らく大阪渡辺検事長次長検事に配して、そうして又渡辺検事長後任にというような折衝であつたのであるか、或いはそれは後のことであるか。又次長検事後任に岸本氏を迎えるというようなことまでも併せて折衝の内容に入つたのであるか。それから岸本氏を後任に持つて来るという折衝の際は、すでに佐藤検事総長との間に了解ができておつたのでありますか。これを一つ承わりたい。一番最初は、転官の場所は大阪を指したのであるか、或いはその他どこでありましたか。その点を伺いたい。
  17. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 事は検察首脳部の重大なる人事に関連いたしまするのでございまするし、殊に具体的な人名を挙げての御説明ということに相成りますると、いろいろな影響もあろうと存じまするので、この際公開の席におきまする御答弁を差控えさして頂きたいと思います。
  18. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 御尤もなことと思います。ただ私はそうすると、新聞に報道されておりまする範囲において、この際誤解を解いておく必要があると思いまするために伺つておきたいと存じます。私の新聞によつて承知しておりまするところによりますると、最初は、次長検事をどこに持つて行くか、それはわかりません。私わかりませんが、後に至つて法務総裁の談話の一節として、大阪のほうに転出してもらうような折衝はしたけれども、これも聞き入れなかつたということがございましたが、新聞の報道の事実はあることと承知してよろしうございますか。
  19. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私の只今申上げることを避けたいと申上げた趣旨は、すでに木内君に関連いたします限り、これは新聞に種々報道せられておりまするので、この際お答えいたしても差支えないと思いますが、渡辺君その他、他のかたがたの氏名の出ますことについては、今回の席上においては何とぞお許し願いたい、こう申上げたつもりでございます。  そこでお尋ねになりましたる木内君の任地の問題でございますが、木内君につきましては、約十日前まで大阪に転出をしてもらいたいという交渉を続けて参つたことは事実でございます。そうしてこれについて佐藤検事総長も、私の方針に全く同調せられまして、誠心誠意木内君の説得に当られたのでございますが、その折衝の結果は、もはや所期の通り木内君の同意を得るということは困難である、不可能である、こういう見通しに立つたということを私に報告せられたのであります。従いまして私といたしましては、一木内君の個人的な念願というものが検察人事の全体を運営いたして行く障碍となるということは、到底堪え得られんところである。又さようなことを一日も長く放置するということは、私の職責に対する責任観念の上からいたしまして、忍びがたいところでございましたので、この上は木内君が東京以外の地に転ぜられるということについては、到底同意を期待することは不可能であると、こういう前提の下に異動案を作成いたしたのであります。すでに木内君の同意が不可能であるということを前提といたしまする以上は、この異動を発令いたしましたるのちにおきまして、木内君が或いはこの命令に従わないという場合もあり得るのではないかと、こう予測いたしたのであります。そうなりますると、従来の慣行大阪という地位は、これは相当右翼の検事長でございまして、    〔委員長退席、理事伊藤修君委員長席に着く〕 この重要なる検事長に故障を生じたる場合におきましては、これがあとの手直しをいたしまする場合は、ひとり大阪検事長だけの椅子を動かす問題ではなく、これに関連いたしまして、少くとも他の二、三の検事長、その他の重要なる椅子を動かさねばならん、こういう事態と相成るわけでございます。これは木内君が終極的に同意しないことを前提といたしまする以上は、人事をいたしまする私といたしましては、当然予想しておかなければならない事柄であつたのであります。従いまして、この治安の重大なる現在の実情におきまして、短期間の間にかようなる広範囲異動を重ねて行わなければならんということは、事情の如何を問わず検察能力を阻害いたしますことは必然でございますから、私どもはあらかじめ同意を與えないところの木内君のために用意する新らしい任地というものは、木内君が同意しないことによつて生じた故障を、できるだけ極限するということの期待できるポストであることが必要である、こう考えまして札幌を選んだのであります。
  20. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 だんだん事情が分つて参りましたが、私どもが第三者の立場から見ておりますると、先に大阪検事長法務総裁から折衝しておつたにもかかわらず、同意を得なかつたというところから、今度は札幌の検事長に転出せしめようとした跡が明らかになつた。これは一体懲戒を意味することであるか、或いは又木内次長を結局辞職せしめるという一体意図に基く転出の計画ではなかつただろうかということを実は疑つたわけなんです。率直に申上げますと、なんとなれば只今の総長の御説明のごとくに、検察部内において、とにかく大阪検事長は東京に次ぐべき第二の検察庁である。その重要なるポストに転出を交渉しておつて応じないというものを、応じないからといつて、直ちに踵を返して札幌といいますると、まあどちらかと申すと、高松に次ぐべき第二の下司の下司、下の下である、そこへ突然として転任をせしめるということになるならば、結局追討ちをするのじやないか、結局自殺を法務総裁は予期し、且つなさしめるべき手段のために札幌を選んだのじやないか、というふうに実は非常に私は暗い気持を持つてこの異動について見たんです。只今法務総裁の御説明によると、成るほど若しも大阪に転勤を強行した場合に、当然大阪の席を動かさなければならん、その次の問題でお困りになるということもよく私にはわかります。わかりますが、それにしても札幌は少しえらかつたと実は思うんです。そういたしますると、どうしてもやはり予期されたことだから、予期のごとく本人が辞職しないかも知れませんが、こういうものを形の上から見ると、やめざるを得ないことに追い込んだのではなかろうかというふうに世間では少くとも思つておるのではないかと私は思います。殊に部内の状況をいささか承知いたしておりまする者から見るというと、一段とその感を深くいたすのであります。私は法務総裁が感情的に人事を行うというようなことは考えられませんことであり、又考えたくないのであります。併しながらその結果に現われておるところから見ると、それから先のことは少し感情に走りすぎたのじやないかということも実は非常に虞れを持ちますのであります。  勿論私はここに立つてこの際明らかにいたしておきたいと思いますることの重要なる点としては、一つ検察庁法について疑義をあとに残さないように明確にして置きたいということが一つ。その次の問題としては只今私の申上げまする趣旨が世間の者から見ると、如何にも法務総裁は一度は穏健中正なる非常な最初は処女のごとくしまいに至つては脱兎のごとくというようなふうに、どうも私は非常に感情に走るような総裁じやないかということを世間が思うに至つているのじやないかということを憂えるのであります。そこでどの地を選ぶといえども結局は木内氏は転出はしないのだという見通しだということはわかりますが、それにしては少しどうももう少し何かの方法があつたのじやないかと思いまするが、総裁只今の御心境はどうであるか。  それから更に今朝の新聞によりますると、すでに木内氏が辞表を提出され、これに対しては極力慰留をして、何とか一つこの際部内に残つておられたいということに対して熱意を以て留任をお勧めしたいつもりであるという新聞が出ております。これも恐らく事実だと思います。若しそれが事実とするならば、その意のあるあなたの意見の発表と行動との間において大なるその開きがありますることを思います。これを一つこの際この委員会を通じて天下に私は明らかにする必要があろうと思います。検察庁のため、殊に重要なる法務総裁の立場を私は立派にして置きたいと思います趣旨から伺うのです。
  21. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私は就任いたしまして以来、緊迫重大化いたしまする国内治安対策の一環といたしまして、検察陣営の刷新強化ということが絶対の要請であるという考えの下に、この人事のことを愼重に考慮いたして参つたのでございます。そうしてこの間におきまする一つ考え方は次長検事の職というものが極めて重要である。殊に現在の佐藤検事総長はその御出身が裁判官並びに司法行政官でございまして検事としての実務をとられることはないのでございまして、この次長検事が他の場合に比しまして一層重要なる意味を持つものであるということを考えまするというと、いろいろな事情を総合いたしまして、この点に今回の異動の重点を置くべきものである。こう結論を下したわけであります。この方針の下に私は、木内次長検事はもとより検察界におきまする手腕家でありまして、検察部内の重宝の一人と考えておつたのでございまするが、終戰後長らく東京におられまして、地方の第一線の御勤務をとられるということが御本人の将来のためにも必要でありますると同時に、又検察の将来に重大なる任務を期待せられておりまする同君のためであるばかりでなく、検察部全体のための必要である、こういう考えを持つたわけであります。この考え佐藤検事総長におかれましても全く私と意見が一致をいたしたのでありまして、これにつきましてどうしても次長検事の転出ということが必要であるという考えの下に私と佐藤総長が昨年秋以来協力して努力をいたしたのであります。併しながらこの努力の結果は遂に佐藤検事総長から如何にやつてもこれ以上見込はないという御報告でございまするので、これは止むを得ず本人同意を得ずともやらなければならん。本人同意を得ずにやるといたしまするならば、必ず後に木内君に関連した故障が予想できるわけでありまして、木内君の発令後において何らかの故障ができまするならば、その故障を直しまするために手直しの新らしい人事を重ねてやらなければならない。そうすればその人事はできるだけ極限する必要がある。若し木内君を大阪に出して、そうして木内君が大阪へ行かないということになりますというと、これがために大阪以外になお二つ、三つの椅子を動かさなければ木内君によつて生じた故障を補填することができない。こういうことになるわけでありまして、木内君が同意されない以上は当然予想されます爾後の手直しの人事を成るべく極限いたすというためには、札幌或いは高松に一応当てる、こういうことは、これは人事上の常識として止むを得ざることであると私は考えたのであります。もとより私はこの案の実施は最後まで木内君が同意を與えられないということを前提にいたしたものでございますから、この計画を検事総長にお示しをいたし、又検事総長を通じて木内君に御伝達を頂きましたるのちにおきましても、これを閣議にかけるといたしまするならば三月六日の閣議に上程したい、これは三月八日から検事総長が渡米されることに相成つておりましたので、その前に処理することが必要であるそこでその前に処理しまするためには、三月六日が最終の閣議と相成つておるのであります。そこで異動案検事総長に提示をいたしましたのは今月の一日でございます。これは通常の異動案の総長に対する内示から見まするというと数日間の余裕をとつておるわけであります。私は特に必要以上に余裕期間を置いて総長にこれを内示したわけであります。この趣旨は私のこの案を強行いたすという、最後には強行いたすという決意を示すことによりまして、何らかの局面の転換を図りたいという熱意に出でたるにほかならないのでございまして、その後におきましても適当なる時期におきまして私は木内君の同意が希望せられ得るならば、その間における木内君の任地については十分に再考の余地があるということを総長にまで申し伝えたわけであります。このことも新聞紙等において一部報道せられているのでございまして、私は決して木内君が私の案に同意をせられなかつた、これに対する仕返しとして札幌にやるという意思は毛頭なかつたのであります。札幌は、ただ木内君が最後まで同意をしなければ、札幌にして置かなければ、木内君が赴任しないという十分なる根拠ある予想ができるわけでありますから、その場合においては非常に引続き起る事態を局限する必要がある。そのための技術的な理由による必要から札幌を選んだわけでありまして、若し私の提示いたしましたる案に対して、予告いたしましたる期間内において木内君が転出に同意される見込が立つたという場合においては、必ず札幌であることは必要でないばかりでなく、札幌以外の他の可能なる任地に振り替えるということを伝えたのであります。    〔理事伊藤修君退席、委員長着席〕  これは検事総長も十分に承知しておられますし、恐らく御本人もその私の意思については十分に承知せられておつたものと思うのでございます。決して私は木内君を殊更に窮地に陷れることによつて自決せしめようというような底意があつたわけでもなく、又木内君を遠隔の地に赴任せしめるということによつて、制裁的な、或いは又私の私憤の一端を洩らすというような、感情的な理由に基いてかような措置をいたしたのではないのであります。私としましては一切の行きがかり、及び一切の感情を度外視いたしまして、国民のために真に検察刷新強化を図らなければならない。そうして国民諸君のこの重大な国内治安に対する切なる要請にお応えをいたし、その信頼に応えるという以外には、何らの考えはなかつたのでございまして、この点に関しましては、私は純一無雑の境にあつたということをこの席から申上げるに決して躊躇しないものでございます。
  22. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 木内次長検事の問題につきまして、それがために検察人事の停頓を来たしておりますことも、私も陰ながら聞き及んでおります。故に法務総裁としては非常な考慮を重ねたことと思います。そうして又今日の日本の現状から見まして、検察陣の強化刷新の必要なこともよくわかります。只今までの説明によりまして見れば、結局検察庁法二十五條解釈といい、三條の解釈といい、只今解釈が正しいものであると信ぜられて、このいわゆる人事を行わんとしておられるにかかわらず、殊更に次長検事はこれに反対し、ために検察治安の目的がこれがために支障を来たすというふうな国家的に大きな問題がある場合において、それこそ……それならば私は検察官適格審査委員会のほうでその処置をしてもらうことが一番適法であり、又穏健であつたかと思います。どうも新聞の報道するところによりますと、法務総裁は非常な熱意が高いために、佐藤検事総長に対しても、若し次長検事の説得ぐらいできないならば総長をやめたらどうだというようなことを言つた新聞に報道されておりますけれども、これは新聞の誤りとは思いますけれども、とにかく非常な熱意と、私は任地たる札幌にやるのだということが、如何にもどうも脱兎のごとき法務総裁の英雄ぶりに、少し戰慄しておる人がおるのではないかということを思うが、只今の答弁によりまして、成るほどやはりその当時の場合、検察官適格審査委員会方法を選ばずして、この際一挙に解決しようというときに、或いは名古屋に持つてつても受付けず、広島に持つてつても受付けずというので、万策盡きて、結局跡の始末を考えて、止むを得ずそこに持つてつたのだというふうに、私ども承わつて置いてよろしうございますか。
  23. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 全くそれ以外の何らの考えはないわけです。札幌に木内君を現実に赴任させようということを予想いたしたのではないのであります。恐らく予想されないだろう。赴任されないだろう。その場合においてあとに起る事態を收拾するための技術的の必要からいたしまして、これ以外の途を発見することができなかつた、こういう次第であります。
  24. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 時間がないようでありますから、極く端折つて重要な点を伺います。今日の新聞の報道によりますと、佐藤検事総長は岸本氏を次長検事に迎えることに対しては反対のような口吻を新聞紙上に洩しております。これは併し総裁の曾つての話によりますと、一切は佐藤検事総長に大体あの時と同一線で以て推進されておるのだと了承しておつた。ところが今日は意外な新聞記事で、意外に感じておるのです。なお又佐藤検事総長は渡米を見合せられ、併せて今後自分の立場について考慮をせなければならん場面に直面したというようなことも新聞に出ております。これはどうも何らか非常な嵐を含んだ言葉のように思います。それに対する総裁の見通し、これで果して部内人事が円滑に進行されるかどうか。それからなおこれに続いて今度部内の恐らく大異動を御決心なつたものと想像をいたします。人事扱いに対しまする、私どもの少くとも見ました今度の法務総裁のとられました行動には、一々理由はあつたでありましようけれども、少くとも若干適切を欠くもののあるのじやないかということを遺憾に思います。今後の検察人事は殊にむずかしいところでありますから、併せて今度の広汎なる人事異動に対しましては深き考慮を拂われまして、再びこのようなことを繰返すことのないように、万全の一つ御注意を申上げて、御注意をお願いいたします。
  25. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 佐藤検事総長は、岸本次長の起用につきましては全く同意をしておられます。それから検事総長が渡米を中止せられたということは、いろいろこのたびのことに関連いたしまして、部内において検事総長の国内にとどまることが適切であるという状態である、こういうことを検事総長みずからが判断をせられましたので、従つてさようなことに相成つたのであります。今回の異動は、これが実行につきまして重大なる難関があることは当初より予想されたものでありまするが、果せるかな、いろいろな問題にぶつかりまして、非常に世間の批判を招いておるのでありますが、当初より総長はこの異動につきまして、根本方針においては全面的に私と意見が一致せられまして、そして私の、この異動の故障なく実現されるということのためには全力を盡して協力して頂いたわけでございまして、これがためにかようなる一時の騒ぎを生じておるということにつきましては、佐藤総長のみの責任にあらずして、これはむしろ私の不徳のいたすところにほかならんのであります。従いましてこの問題に関連いたしまして佐藤総長が特にこの間においてどうであつたかというようなことは決してないわけでありまして、私みずからも不徳であり、佐藤総長の多大なる御協力があつたにもかかわらず、佐藤総長をして所期のごとき成果を挙げしめることができなかつたということについては、非常に申訳ないと、かように考えておるのであります。併しながら現在におきましては不測の事態によりまして図らずも局面が收拾せられましたので、検察の陣営は全く清新明朗の気運の下に全検事は一丸となつて重責に当りたいという熱意に燃えつつあるわけでございまして、図らずも今日検察部内におきまして、俗に言う雨降つて地固まるといつたような、上下一体となつて協力一致、この困難なる時局を克服いたしたいという気分がほのめいておるのでありまして、これは昨日も私と総長とが、これまでのいろいろの我々のとりましたる手段につきまして反省を加えますると共に、この新らしい気運を更に推進いたしまして、今後の国家の要請に倍旧の努力をいたしたいということを誓い合つておるような次第でございます。
  26. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 私はなおこの点に対しましては、もう少し総裁に承わりたいと思いまするけれども総裁の時間がございませんので、この程度で打切りまするが、くれぐれも日本現在の状況等を御考慮願いまして、最後に一つ過ちのないように万全を期して頂きたいということをお願い申上げる次第であります。
  27. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) では休憩いたしまして、午後一時半から再開いたします。    午後零時十六分休憩    —————・—————    午後一時五十九分開会
  28. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 只今より委員会を開会いたします。  先般行いました議員派遣中、青少年犯罪問題及び少年法の改正のための調査に関する件について、派遣議員の報告をお願いいたします。
  29. 宮城タマヨ

    ○宮城タマヨ君 当委員会におきましては、かねて検察及び裁判の運営等に関する調査の一項目として調査を継続しておりました青少年犯罪調査について、今回は特に本年一月一日から少年法の適用年齢が十八歳から二十歳に引上げられました結果生じました検事先議の問題などを中心として、右年齢引上げ後におぎます現地諸機関並びに施設の少年事件の処理及び收容状況等を調査いたしまして、これを年齢引上げ前の状況と比較検討して立法の資に供することを主眼目といたしました。それに加えますのに、本年二月十一日四国少年院に発生いたしました收容少年四十八名の集団逃走事件もございましたので、それらの原因、経過及び結果を詳細に調査いたしまして、今後におきますこの種施設のあり方を探及すると共に、四国少年院女子分院の新設問題等も調査することを目的といたしまして、須藤、宮城両委員は二月二十五日より六日間に亘り香川、高知の両県に出張いたし、各地におきまして調査をいたしましたのでございます。調査に関します詳細については、関係各機関及び施設から提出されておりましたこの諸種の参考資料、統計資料等を添付して置きましたから御了承願うことといたしまして、ここでは極く簡單に調査の概要についてのみ報告いたしますことといたします。大体四項目に分けて申上げたいと思つております。  第一は、年齢引上げ後における各機関の少年事件処理状況及び検事先議の問題等に関する諸般の意見でございます。本問題に関しましては、二月二十六日高松高等裁判所大会議室におきまして、高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長、検事長検事正以下各担当係官が出席の上に約二時間くらいに亘りまして会議を行いました。それから又三月一日には、高知地方裁判所会議室におきまして、所長、検事正以下各関係係官に出席を願つて、同じく約二時間会議を行いまして、その報告や意見を聞くと共に、これに対する当方の質疑について説明を受けたわけでございました。先ず高松家庭裁判所におきます本年一月一日以降、即ち年齡引上げ後二月二十日までの少年事件受理件数を見ましたところが、その総数は二百五十三件で、昨年、つまり昭和二十五年の同期間の百三件に比較いたしまして、受理件数は約二倍半の増加となつており、これに対します処理件数は本年は百八十七件、昨年は百四十四件でございますが、本年の受理件数二百五十二件に対します処理件数の率は七四%で、昨年の受理件数百三件に対する処理件数の率は一四〇%になつておりますが、それに対して約半分ということになつております。又高知家庭裁判所におきます本年一月分の少年事件受理件数は百三十七件、二月分、二月の二十四日まででございますがそれが百五十六件となつておつて、昨年一カ年の受理件数が八百十件でございますから、これを十二等分いたして一カ月平均を出しますと六十七件となつております。これと比較いたしますと、本年一月、二月とも約二倍の増加を示しておるのでございます。更にこれを処理件数と比較いたしますならば、本年一月一日以降二月二十四日までの処理件数百四十七件、昨年一カ年の処理件数八百二十八件、一カ月平均六十九件、即ち本年一月一日から二月二十四日までの受理件数二百九十三件に対します処理件数が百四十七件の、率は約五〇%、昨年のそれは約一〇〇%となつております。昨年度においては両家庭裁判所とも少年事件に関します限り、その受理事件のすべてを処理することができたのでありますが、本年度においては、まだ一月、二月の両月のみではございますが、高松において二六%、高知において約五〇%の未済事件を残しておるという有様でございます。この事実が示唆いたしますように、これら家庭裁判所におきます少年事件の受理件数は、今後ますます増加の一途を迫るものと予測されておるものでございますが、これに対する処理能力には余り多くの期待をかけることができない現状でございます。従つて今後当然積つて参りますと予想せられます未済事件に対処すべき、両裁判所当局の対策を質しましたところ、高松の家庭裁判所におきましては、現在の職員定員が不足なので、これを裁判官において高松本庁のみでも二名増員、現在は四名でございます。二名増員し、調査官、同官補を現在の二倍、現在は五名でございます。二倍に増員することが必要である旨を力説されておりました。又高知家庭裁判所におきましては、現在裁判官は全部地方裁判所との兼務になつており、調査官も又全部書記官の兼務になつておりまして、独立した調査官も調査官補も一人もございません。こういうこの書記官も訴訟事件に立会わなければならないのでございますし、目下民刑訴訟事件のスピード処理に追われまして、そのほうへ全力を傾けております関係上、家庭裁判所の事件処理はややもすると遅れがちなのでございますが、本年六月頃ともなれば、訴訟事件処理も一段落する予定で、まあそうなれば家庭裁判所專務に一名くらに廻すことができるので、少年の未済事件処理も能力を少しくらいは増すであろうということでございました。次に職員の定員を増加したところで、現実にこれを充員することができるかどうかの問題でございますが、この点に関しましては、両裁判所とも裁判官にして家庭裁判所に勤務することを希望する者は少い、その事実を認めており、従つて少年調査官、同官補の増員によつてこれを補うより仕方がないとの意見でございました。それから少年法第五十五條、少年事件地方裁判所より家庭判所への逆送については、高松においては殆んどその適用の例がなく、又高知におきましては皆無でございました。それからこの不開始、不処分となつたものでございますが、高松におきましては、本年一月一日より二月二十日までの処理件数百八十七件のうちの百四件、即ち五五%、高知におきましては、本年一月一日より二月二十四日までの処理件数百四十七件中六十八件、即ち四六%がこの不開始、不処分となつておりまして、いずれも相当高率を占めておるのでございます。これに対しまして、裁判所側の見解といたしましては、これらの事件は多く特別法犯(経済統制法令違反、道路交通法令違反、漁業法違反等)で、従つて旧法時代においては警察や、検察庁においで微罪不処分とした事件であるが、新法施行後はこのような事件も一応家庭裁判所に送致されることが多くなり、裁判所としてはこういう事件の多くは不開始、不処分として処理せざるを得ないので、このような現象を呈することとなつたのである。併し不開始、不処分に附したものの再犯は極めて僅少であるということが述べられておりました。高松、高知両家庭裁判所とも一般よりの通告、少年調査官の報告による受理件数は極めて少く、その多くは警察よりの送致によるものでございますが、その理由として、両裁判所当局の述べるところによりますれば、少年法が一般民間に徹底していないこと、一般市民がややもすると遠慮して、このような手段をとらないことなどによるものだという御報告でございました。  それから最後に、少年事件検事先議の問題でございますが、これに対する高松家庭裁判所の意見は、絶対反対であり、その理由といたしましては、新少年法によつて少年事件の取扱にもたらした理想はこれをそのまま伸ばすべきであつて、その理想に反する検事先議を、たとえ一時的にもせよ、導入することは、折角伸びつある芽を摘むのに等しいことであるというのでございました。そうしてその処理には、前述の通りに、裁判所職員の定員の増員と、少年院の拡充によるべきだとの意見でございましたが、我が国現在の国家財政上、そのようなことが若し許されないとするならばどうするかというような当方からの質問に対しましては、確答が與えられなかつたのでございます。それから高知家庭裁判所も大体高松同様の理由によつて検事先議反対の意見でごいましたが、ここでは若し裁判所職員の定員を増加できないとするならばどうするかという質問に対しましては、ここは先ほども申しましたように審判官も調査官も全部兼務でございましたのでございますが、こういう場合におきましては、検事先議も止むを得ないであろうということの答弁がございました。一方検察庁側は高松、高知のいずれも、検事先議を絶対必要なりと、強力にこれを支持しており、その理由といたしましては、十八歳以上二十歳未満の者の犯罪は、数的にも質的にも極めて憂慮すべきものがございまして、現在の家庭裁判所のスタツフ、又收容施設の不備、我が国の客観情勢を考慮いたしますならば、当然検事先議が必要であるというのでございました。殊に高松地方検察庁の担当官は、昨年度におきます同庁受理事件中、最も多数を占めておりますのは二十歳の者の犯罪事件であり、その次が二十一歳の者で、従つてこの治安維持の面から見てもこのままでは不可であり、実質的に見てスタツフの少い家庭裁判所をして虞犯から犯罪少年の事件まで大幅に取扱わしめる現在の少年法自体に無理があり、家庭裁判所は虞犯少年と十四歳以下の不良少年の事件を取扱うだけでも相当に事件があるのであつて、更に又少年の刑事事件について、家庭裁判所を経由することによつて検事の起訴権が本質的に制限を受けることは、公訴権に対する侵害とも考えられるとの意見を述べておりました。そうしてこの検事先議を応急臨時的な措置としてよりも、恒久的な措置として希望しているような、極めて強硬な主張がされておりました。なお、十八歳以上二十歳未満の犯罪少年に対する罰金刑の科刑につきましては、家庭裁判所、検察庁のいずれも、これに賛成する旨の意見でございました。その理由は、特別法処理上必要であるというのでございました。  ここでついでに参考までに申して置きますが、高知地方検察庁におきまして、本年一月一日以降起訴意見を附して家庭裁判所に送致した犯罪少年は七名でございました。そうしてそのうちの六名が起訴のために家庭裁判所のほうから検察庁に逆送せられた由でございました。  第二、矯正保護施設及び保護観察一般に関しまする諸問題についてであります。二月二十七日に高松矯正保護管区本部管区長室におきまして管区長代理第一部長、四国地方少年保護委員長、高松少年保護観察所長以下各関係係官が出席の上会議を開きまして、諸般の報告を聽取すると共に、こちらからもいろいろの問題を出しました。又同日高松少年保護鑑別所、高松刑務所、四国少年院を視察し、翌二十八日、四国少年院分院、丸亀少女の家を、更に三月一日高知少年保護鑑別所及び高知刑務所をそれぞれ視察いたしました。右のうち四国少年院、同院分院につきましては、後に述べることにいたしまして、その他の施設及び関係各員の意見の概略を申して見ます。先ず管区本部におきまして、現在四国には少年院がたつた一カ所でございまして、年齡引上げに対処するため愛媛県西條市の西條刑務支所の一部を特別少年院とし、保護少年の收容に充てるために目下改造中でございます。まだ完成いたしておりません。これが完成すれば定員百名の收容能力を持つものでございますが、その施設は十八歳以上とそれ以下の者とを区別して收容するよう整備する予定でございます。現在特別少年院に送致される者は増加の傾向にあり、少年法の精神に照らし、理想的には検事先議には賛成しがたいけれども、現実には家庭裁判所收容施設が整備拡充せられるまでは、暫定的な措置として検事先議も止むを得ないであろうという意見が述べられました。なお四国管区内におきましては、昭和二十七年度の予算によつて普通少年院一カ所増設の予定であります。設置場所は香川県内が適当であるとのことでありました。地方少年保護委員会側は、これに対しまして、少年院に收容中の少年に対する家族の面会その他のいろいろな事情で当該少年に與えますところの影響の重大性を認識しますならば、その便宜を考慮いたしまして、少年院は各県できるならば一カ所ずつ設置するのが望ましく、一県に集中することは好ましくないと主張されました。又高松少年保護観察所は、現在の陣容で現在の約二倍半くらいの事件を処理する能力があるとのことでございました。委員会及びこの高松、高知の両少年保護観察所が特に強調いたしましたことは、保護司の事務、主としまして報告書の記載などに当らせますために各保護管区に一名くらいずつの有給保護司を置いて欲しいとのことでございました。それから又この旧法時代に存在しましたような民間の個人経営の保護団体を復活して、これをして仮退院、仮釈放後の少年の世話に当らしめますことの必要性を非常に強調されたのでございます。それから更生緊急保護法の欠陷に対します非難は、いずれの観察所におきましても指摘せられたことでございまして、これは特に附加えて置きます。その論点は、同法が現実を無視し保護団体なるものの本質に対する深い認識を欠くものであるということが理由でございます。高松及び高知両少年保護鑑別所を視察いたしまして受けました印象は、一言にして盡しますれば、この両所とも他の多くの少年保護鑑別所と同じく、内容は拘置監に過ぎず、看板だけを塗り替えたに過ぎないというような感じをやはり受けました。高い、それこそ高い外塀に囲まれまして、そうして各收容室の入口のドアにはそれぞれ嚴嚴重な鍵が施してございます。なおその窓には鉄格子がはめられております。この高松や高知両刑務所の未決監を見ましてこれと比較して見ますならば、その差は殆んど認められません。而もその職員も刑務官の服裝に似ましたような服裝をいたしておりますし、鑑別室はございますけれども、何らそこに見るべき鑑別器材は殆んど備えてございません。本当に申しますならば、保護鑑別所とは正にそれこそ羊頭狗肉の感があると言いたいくらいのことでございまして、いつも私はこの委員会で申しておりますように、どうかこの保護鑑別所を新設されるとき又改造されますときには、保護に理解のございますかたが、この種の建物に非常に指導力を持つて頂きたいということを、殊に私は法務府のかたに申上げて置きたいと思つております。  第三は、四国少年院の收容少年逃走事件につきましてでございます。去る二月十一日発生した四国少年院の收容少年逃走事件につきましては、その経過の詳細は、同院の提出しておりますところの報告書を付けておきましたから、ここでは改めて詳しいことは申上げないのでございます。私ども両委員は、一応見ました上で、院長室におきまして約三十分間に亘り今度逃げました事件の首謀者と目されております門田輝之、それから岩佐和夫という両名に両接いたしまして、懇談して見たのでございますが、その結果これらの少年はいずれも片親を失い、門田は母親がなく、岩佐は父親がなくて、いずれも両親を欠いておりまして、非常に不幸な家庭に育つたものです。そうして素質も尋常であり、性格的にもそう異常は認められないが、門田のほうはすでに退院する時期が参つておりますけれども、これを引受けてくれるものがないということで、あとからの卒業生が次々と出まして螢の光を歌つて皆を送りますたびに悲観をしておつたという院長の話でございましたが、私と話しましたときにも、早くここを卒業して出て行きたいけれども、自分は引受けてくれる人がないのだということを非常に淋しそうに物語つておりました。結局は彼らの犯罪、逃走の一連の行動は、全く環境の然らしめるところでございますというふうに気の毒に思つたことでございました。この少年院を視察いたしまして子供たちと話しておりました直後に、丁度雨が降つておりましたのでございますが、そのときに考査室に謹愼中の少年たちが又七名ほど逃走したという報告に接しまして、私ども非常に驚きましたのでございました。こういうふうに再三逃走事件が発生いたします原因は、全くこの両少年院を見ましたときにすぐわかることでございますけれども、実にこの少年院というものが間に合せのものでございまして、旧兵舎の倉庫を改造したということで、建物自体が少年院として非常に不適当でございます。改造されておるのでございますけれども、その改造も誠に粗雑なものでございまして、一時の間に合せでございますし、殊に思いましたのは、この一面がすぐ道路に面しておりまして、丁度その道路から中を見ますと、お風呂屋でも覗いて見られるような感がございます。全くのバラツクでございますのです。で、この四、五十人近くも逃走いたしましたところのものが四十人以上帰つて参りましたのでございますが、その少年たちが容れられております所も、いわゆる完備しました少年院におきましての考査室というようなものが一室もございませんので、狹い暗い部屋に七、八人の者が押し込められておりますというような実情でございまして、決してこれを考査をする、鎭めるというようなことでなくて、むしろ逃走いたしました者が又次の逃走の相談をするのに実にいいような仕組になつておると私どもは見て参りました。これじやいけないなと思つて院長に申したすぐ次の瞬間に、そこから逃げたというような様子でございます。その全体といたしまして採光や通風にも何らの考慮がございませんというような模様から、その全体が陰惨の感を抱かしめておりますような施設でございまして、むしろ私はあれで若し子供が逃げないなら不思議だと思うくらいな所でございました。而もここには定員九十五名に対して二倍を超えますところの二百数名、丁度その日、二月二十六日現在は二百五名を收容しております。これに対します職員の増員はそのときに僅かに一名に過ぎないというような報告でございました。同少年院に逃走事故が頻々として発生いたします原因は、語らずして明らかでございますが、職員は院長以下非常に手薄でございますにも拘わらず熱心に、而もこの逃走事故発生後でございますから、もうそれこそ晝夜兼行その職務に当られておりますので、見る目も気の毒なように疲れておられました。これは要しますのにこの施設の整備、職員の増員、それから四国全体にたつた一カ所ということが非常に無理なことでございまして、早く少年院の増設についても御当局にお願いしたいと思つたわけでございます。  最後に簡單に第四、四国少年院分院、丸亀少女の家の新設問題でございます。丸亀少女の家は、現在丸亀旧城内、亀山公園の一角を占めておりまして、大変景色のいい非常に靜かな土地に、建物も新らしく、收容の娘も定員が五十六名に対しまして現在は四十名きりおりません。この分院はこれを本院と比較いたしますならば、実に雲泥の差があるということができます。今般これを本院から分離いたしまして、女子の本院に昇格すると共に、新たに丸亀市中津公園隣接の海岸に六千百九十八坪の土地を購入いたしまして、ここに新たに女子少年院を建設せんとする準備がございまして、すでにその土地の買入れも終られまして、建設も昭和二十六年度の予算によつて早急に着手するということでございました。私ども一行はその新購入土地も視察いたしましたが、海岸でそれこそいい土地でございますので、その環境もいいし、女子の少年院としては大変理想的な少年院を建設することができるということには大変喜んだのでございます。併しここで一言附加えたいと思いますことは、その女子少年院、少女の家は、現在の施設、設備も相当によろしいのでございますし、新らしくてこれはまだ十分利用の価値がございますので、移りましてもこれを何とか利用したらどうだろうかということと、それから大きい立場に立つてこの少年院、男子少年院及び少女の家を見ましたときに、今ここで女子少年院が新らしく立ちますということは、大変それは結構なことでございますが、併し四国におきまして現在の男子少年院のあの不足な、実に二倍以上の定員がございまして、施設が非常に悪い、日本一不備でございましようかと思うようなああいう施設でございますので、むしろ私はこの少女の家の新設よりも、若しも予算が不足でございますなら、これは男子の少年院をもつと増設する、新設するということのほうが、あの四国においてのこの保護少年の問題を早急に解決するのではないかと思いまして、このことを法務府当局に申上げて今度の私の報告を終りたいと思つております。   —————————————
  30. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 只今の御報告に対する御質疑はあと廻しにいたしまして、法務総裁が見えましたから質疑を引続いて行います。
  31. 伊藤修

    ○伊藤修君 午前中におきまして鬼丸委員から、詳細各般について、今度の木内問題について御質疑がありましたから、大体のアウト・ラインは承知したのですが、なお二、三点その御答弁の中で御釈明を求めなければならんと思うのであります。法務総裁も午前中仰せのごとく、現在ほど国内治安の確保を要求されるときはないと思うのです。従つて我が検察陣の構成というものに対しまして、我々が重大なる関心を拂うことは又当然のことと思うのであります。これは一総裁の感情的な御意見によつてこれが左右されるということになりますれば、最も由々しい問題であろうと思うのであります。我々の尊敬するところの大橋総裁が、さような感情の下に今度の問題を引起されたとは思わない。併し率直に申上げまして、誠に私は大橋さんのお手並が余り上手であるとは思わない、不手際であると申さざるを得ないのであるが、今朝ほどの法制意見局長官の御意見で、法文の解釈は詳細に承わりましたが、併し検察庁法の制定当時におけるところの立法精神が一体どこにあるか。これは今朝鬼丸さんが我々委員会というお説があつたのですけれども、これは先の貴族院時代におけるところの制定法でありまして、我々委員会においてタツチしていない法案であります。従つて当時の立法精神というものを、私たちは速記を通じて見る以外にはないのです。併し速記においては何らこの点について触れていないです。併し思うに裁判官に対するところの身分保障規定が明細に掲げられておる一方、行政官に対するところの身分保障というものはあり得ない。その中間をとつて、ここに検察庁法の第二十五條というものは制定されておる。而してそれは、一般行政官のごとき、保障のない、というよりは、保障のあるという一つの明示がなされている。併しその明示は裁判官ほど行つていない。明らかになつていないというこの立法の措置が奈辺にあつたでしようか。我々がこれを率直に考えた場合において、日本の検察官が、御承知通り諸外国の検察官とはこと異なつて、検察官職務執行の上におきまして、或る意味の、例えば不起訴処分であるとか、起訴猶予であるとかいう一つの司法的処分を行なつている。今日の日本の治安を維持するの大部分は、この検察官の処置によりて大部分免かれているのです。又それは、私は日本の検察官職務行為の特質ではなかろうかと考えるのです。これがあつてこそ今日としては少くとも私は裁判官の大きな負担というものを、一面においては免がれ、他面においては国民に対しまして一つの反省の期間を與える、過つた過失に対して反省の期間を與える。又無事の人をそれによつて一応処理し得るという大きな役割を果している。言い換えれば実質的裁判を多分に行なつている。こういうところに日本の検察官の特殊な地位が認められているのじやないかと思うのです。又もう一つ理由といたしましては、少くとも国家の司法の面の大きな役割を負担しているところの日本の検察官の公正なあり方というものを保持するために、一般行政官より以上に身分保障というものを高からしめ、確保するということは当然のあり方ではないかと思うのです。ただ問題は、二十五條において裁判官のごとき分析的に一つ一つこれを明示しなかつたというところに疑義を生じておるのでありますが、併し精神は少くとも裁判官と同等、準ずるという考え方にこの法文が起草されておることは疑いもない私は事実であると思うのです。先ほど法務総裁が、過去において検察官転任、或いは転職に対しましては、一々本人意思を問うておる。そういう慣例を自分としては尊重して行きたかつた。今度はそれは特別の例外であると仰せになりましたが、まさにそのこと自体は、この法文の精神を実際面において行なつておる、裁判官と同様な立場において、同様な処置を講ぜられておるということは、それ自体でも私は明らかに今日までの当局者としては、責任者としてはこれを肯定していらつしやるのではないかと思うのです。時たまたま法文を楯にいたしまして、いわゆる明確を欠く点を楯にいたしまして、仮に佐藤法制意見局長官のごとき御意見であるといたしましても、それが正しいといたしましても、その法文を楯にいたしまして濫りに検察官地位異動せしめるというがごときことは、私は今後におけるところの日本の治安維持に対しまして、その重責のあるところの人々に対しまして、安心して職務の遂行に当らしむることは不可能ではなかろうかと思うのです。そういう保障があつてこそ、日本の治安維持のために全面的に全力を盡して指導するという信念もでき、覚悟もできると思うのです。その一番上位にあられるところの法務総裁のお考えとして、私はこの点に対しまして誠に遺憾でないかと思う。法務総裁のお言葉を以ていたしますれば、今度は例外だ、併し多く例外として行われたことが一つの先例になると思うのです。今度限りだという仰せか、或いはこれは例外であつて、今後も又やり得ることである、例外はしばしばこれを行うのだというようなお考えであるか。若しそうであるとすれば、全国の検察官地位というものは、風前の灯のごとき、極く貧弱な地位の下に置かれなくちやならんと思う。若しそうであるといたしますならば、日本の治安維持ということは、この面から法務総裁の御企図になる反対の結果を生ずるのではないか、崩れるのではないか、かように憂うるものです。この点に対するこの御意見を伺いたいと思います。
  32. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 先ず第一に、このたびの異動に関連いたしまして、御承知のようないざこざを生じたことは甚だ不手際ではないかという御批判でございますが、私はこの不手際であつたという御批判は、包括的に見まして誠にお言葉の通りでありまして、この点は極めて遺憾であつたと存ずるのであります。ただこの不手際ということの意味でございまするが、私といたしましては、みずから是なりと信じましたるこの異動を、あらゆる手段を通じまして円満に解決しようと存じまして全力を盡したことは事実であり、又これにつきましては時間的にも相当の余裕を持ち、又方法的にも第二次的、第三次的の手段を盡すというような、あらゆる角度から、私に許されたるすべての方法手段を盡して、全力を以て当つてつたつもりであるのであります。或いはもう少しこれを手際よくやるという方法といたしまして、関係者でありまする木内君に対しまして影響力のある第三者を介して、これを懇談的に解決するというようなことも一案であつたかと存ずるのでありますけれども関係者の中にかような提案をなされたかたもございます。併し私はかくのごとく第三者の力を借りてこの問題を解決いたしまするということは、政治的中立性、又極めて公正でなければならんところの検察官人事行政といたしましては、この根幹をなす人事の問題に、第三者の力を借りるということによつて、将来第三者の意見が介入するということの端を開くことがあつては、これは甚だ不本意である。私といたしましては、さような見地よりこのことはひたすら私並びに検事総長及びこれを補助いたしまする現在の事務当局、これだけの力によつてこれは解決すべきものである。この以外の部外の人たち、或いはその他の人々のお力を借りてまでこの問題を解決したくない。多少不手際ではありましても、少くとも責任当局であります検事総長、又検察庁並びに法務府の当局者だけの力によつてこれを解決いたそう、こういうことは私は初めから熟慮の末決定をいたしました。これによつて若し我々の手によつてできないものならば、第三者の御援助を仰いでこの問題を解決しようということは、これは将来第三者の恩惠に浴することによりまして、これに対する報恩感謝の念を以て自然将来第三者がこの検察人事に介入する。私といたしましては、いやしくも恩を受けたる以上は、自分の頼む場合はこれは幾らでも頼む。併し頼んで御世話になつたかたから御要望がありましたる場合において、それは聞くことは聞くが、聞かぬことは聞かぬというような態度をとるということについて自信がありませんでしたので、飽くまで部内の私ども関係者だけの間の問題として、そしてそれだけの力を合せることによつてのみこの問題を解決しようと思つてつたのであります。従いましてこの問題の解決に当りましては、司法部の諸先輩等の力は何ら借りておりませんし、又政党その他部外のかたがたの力も借りておりません。ただ私といたしましては、頼りといたす検事総長の全面的な御協力を煩わしまして、検事総長があらゆる手段を盡されましたる後におきましては、ただ私に許されたる権限範囲内において、私自身の責任によつて解決をしたというわけであります。併し顧みますれば、このことが不手際な出来栄であつたという御批評に対しましては、何ともお言葉をお返しするつもりもないわけであります。  それから従来の検察官人事について、裁判官と同様な措置をとつて来たということがあるし、又それを尊重すべきであるということを私が申上げたのであります。従つてそのことが即ち検察庁法第二十五條規定の精神ではないか、こういう御質問であつたと思うのでございまするが、この裁判官と殆んど同様にまで高められておりまする従来の身分保障の実際上の慣行というものは、却つて憲法時代におきまして、明らかに法律上の規定において裁判官検察官とが異なつ保障を與えられておりましたる当時からの慣習でございます。この慣習をそのまま引続き今日において行なつておるということは、決して検察庁法第二十五條規定には、裁判官検察官は同じような保護をすべきであるということを規定した意味とは必ずしも考えておらんのであります。併し先にも申上げましたるごとく、この法律上明らかに規定を異にいたしておりましたる当時においても、殆んど同様の取扱をいたしておりましたる裁判官検察官のこの取扱の慣行、これは検察制度の運営の上から見まして、今後においても極めて適切なるものであるということを私は痛感をいたし、又この適切な慣行をできるだけ守り続けることが又私の職務一つである、こういう考えの下に、今日までこれによつてつたのでありまして、今回の異動におきましても、当初よりでき得る限りかような方法によつて人事異動をいたしたい、こう念願をいたし、又その方針の下に進んで参つたことは、先ほど申上げたごとくであります。ただその間におきまして、あらゆる手段を盡して、而もなお木内君の同意が得られなかつた場合におきましては、検察庁法第二十五條規定解釈に照らしまして、本人意思に反して地方に転出する措置をとることも止むを得ない、こういう決意をいたし、又かような決意を実行する準備があるということを、検事総長を初め関係者に通知をいたしたのであります。これがためにいわゆる検察官身分保障についてのこのたびの紛議を生じたわけであります。併しながらこれらの紛議のその後の経過を顧みますると、検察庁法第二十五條規定解釈如何にかかわらず、従来のこの異動に関する取扱方針を守りたいということについて検察官諸君も同調せられました。そして木内君に対しましては、理由なき承諾の拒否ということがかかる問題を発生する端をなすのであるから、何とか承知をするようにというふうに説得をせられ、又検事総長においてもさような趣旨の説得をせられたということを聞いております。幸いにいたしましてこのたびのことにつきましては、木内君の辞職という事態を生じましたので、私がかねて避けたいと思つておりましたところの従来の慣行を、止むを得ずんば、例外中の例外的の措置として、この際例外的な取扱をするという、この取扱を実行に移すことは避け得た次第でございまして、この点は今回の異動におきましても、決して木内君の意思に反して異動を強行したということにはなつておらないわけであります。
  33. 伊藤修

    ○伊藤修君 二十五條に対するところの、いわゆる立法精神に基くところの解釈についての明確なる御答弁はなかつたようでありますが、併し御答弁の全趣旨を拜聽いたしますと、そう解釈しないというふうに考えられるのです。併し私は少くとも只今申上げましたごとく、いわゆる裁判官身分保障に準じた解釈をとつて、今後の検察運営に対するところの一つの規範として頂きたいと思うのです。又そうすることが日本の検察陣の確立の上において望ましいことであると強く私は要求して置きます。又そういうふうに今後の運営につきましてもお取扱があつて然るべきじやないか。若しそうでないとするならば、先ほども申上げましたごとく、全検察官地位というものは非常に脆弱化する。或る一人のおかたのお考えによつて検察官の望まざるところのいろいろな地位に変転させられるというようなことがありますれば、安んじて仕事をなし得るということには至らないと思う。この点を非常に私は憂うるのでありますから、その点に対するところの御意見を附加えてお伺いして置きたいと思います。
  34. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私といたしましては、検察官身分保障に関する二十五條規定如何にかかわらず、でき得る限り裁判官と同様に転任についても承諾を求めるということは、これは法律上の要求とは私考えておりません。併し慣行上の要求であり、又この慣行原則的にこれを尊重すべきものであるという考えを持つておるのであります。従いましてこの紛争の途中におきまして、検事の有志の一部の人が私の所へ来られまして、この問題についての私の見解を質されたのでございまするが、その際におきましても、私は只今申上げましたような趣旨を十分に説明をいたしまして、これらの諸君もよく私の意のあるところを了解せられたものと確信いたしておるのであります。そしてこれらの諸君が主となりまして、種々木内君に対して説得せられたということも新聞を通じて承知いたしておりまするので、今日全国の検察官諸君は、この問題についての私の考えというものを十分に了知せられて、又この問題に関する限り私を信頼せられておる、こう存じます。現在において検察官の諸君の間には、この点に関する何らの不安も存在しないことを私といたしましては確信をいたしておる次第であります。若し又私の真意が今日すべての検察官諸君に了解せられておらないようなことが将来判明いたしました場合には、適切なる措置によりましてこのことをよく知らしめ、その身分法律によらずといえども、長年の慣行により十分に保障せられておること、そして又法務総裁といたしまして、その慣行を十分に尊重し、理由なく濫りにその地位を転ずるがごとき意思は毛頭持つておらないということを十分に周知せしめまして、彼らをして安んじてその職務嚴正公平な運営に邁進して頂きますることのできるように努力をいたしたいと、かように存じておる次第であります。
  35. 伊藤修

    ○伊藤修君 法務総裁の御答弁は、二十五條解釈としては明確でありませんが、少くとも私の申上げたような、いわゆる身分保障に対しまして裁判官に準じて今後安んじて仕事のできるように取扱うという御答弁であることに対しましては私は賛成いたしますが、ただ法律解釈といたしましては、多少見解が違うらしいですが、私は二十五條解釈といたしましてもそういうあれは出て来る、いわゆる文字解釈、論理解釈のみにとらわれず、法全体の立法趣旨からそういう解釈はでき得る、こう申上げて置きます。  次にもう一つお尋ねして置きたいことは、今朝ほどの御答弁によりまして、いわゆる今度の異動の主たる原因、目的は、いわゆる検事総長が司法官出である、又次には法務行政に携わつておられて、いわゆる検察事務には堪能でない、これを補う意味において、現下の時局に鑑みまして、少くともこれを補う意味において、この次長検事の補任ということが重点をなした、こういう御趣旨に拜聽いたしました。そのお言葉を率直に素直に我々が聞きますれば、御意図のほどはよくわかりますが、或いはこれが誤解されて世間にとられる虞れがありますから、一応確めて置きたいと思います。言い換えますと、いわゆる検事総長検事総長の職責にふさわしくないのだ、足らざる人だ、だからそれを補うために次長検事を変えるのだという誤解を生ずるのでありますが、そういう御趣旨であるといたしますれば、恐らく私はあなたの御答弁はそういう御趣旨でないとは考えますが、若しそういう御趣旨でありますれば、然らば検事総長を推薦されたのは総裁ではないか。総裁自身がそういう足らざる人を推薦して、その補いを今回求めるということは、すでに第一歩において誤つておるのじやないかということを私は申上げたいと思います。その点を明確にして御答弁をして頂きたいと思います。
  36. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 人事につきましては、人おのずからいろいろのお考え方があると存じます。従いまして私のこの問題についての考え方というものが、必ずしもすべてのかたがたの御賛同を得ることは困難かと存じますが、私が検事総長人事について考えましたことは、役所の機構というものがあり、そしてそこにいろいろな役人というものがありまするゆえんのものは、これらの関係の役人が協力一致をするということが前提になり、そうしてこれらの協力一致によりまして、相より相助けて、その乏しきを補い、その長を一層添えて、このスタツフというものとしての全能力を高める、というふうにこれを運営いたすべきものと考えておるのであります。たまたま検事総長が任期の関係上更迭いたすことと相成つたのでございまするが、この際におきまして、私は検事総長というものが、他の如何なる部下が與えられようとも、その人一人が万能であつて、いつ如何なる場合においても、検察当局の最高の能率を発揮させることができると、そういうような万能的なおかたというものは、実際問題として求めて得られるべきものでない。従つていろいろな関係上、先ずこれならば検事総長として恥ずかしからんというかたがあれば、これを検事総長に推薦いたす、併しこのおかたは、どのおかたといたしましても、部下に如何なる部下があろうとも、これ以上の検事総長はないというようなかたはないわけでありまして、そのおかたに対しましては、部下のスタツフというものについても或る程度これを取併せて考えまして、この一連の人事として検察の機能を最高度に発揮せしめることができるならば、それが、私は今日の機構といたしましては、最善の人事一つとなるのではないか、こう考えたわけであります。従いまして私は、佐藤検事総長の推薦に際しましても、この考えの下に佐藤検事総長、そうしてこの検事総長としての全能力を発揮せしめ、又最高度にその能率を高めるために、部内を見渡しまして岸本次長検事が適当である、こう考えたのであります。そこでこれを実現する方法といたしましては、佐藤検事総長を推薦いたしまする前に、私が腹蔵なく佐藤君と意見を交換いたしまして、佐藤君に配するに岸本次長検事という線が、私は今日考え得る最善の人事であると、こう考えたので、適当なる機会において岸本次長を起用するということを相談いたし、この点につきましては佐藤君も私と全く意見の一致を見た次第でありまして、従つて私は何ら不安を感ずることなく、これこそ最善の人事なりという確信の下に佐藤検事総長を推挙いたした。こういう事情でございます。ただお断り申しておきまするが、その際において木内君を転出せしめて、その後に岸本君を持つて来るということにつきまして、如何なる時期に、又如何なる手段によつてこれを実現するかというようなことにつきましては、これは将来において話合いの上きめるべき問題でありますので、その点につきましては、推薦当時においては話合いをいたす用意はなかつたのでありますが、原則的な線におきまして、完全なる意見の一致を見ましたので、私はこれは最善の人事であるという考えの下に、この人事を推進いたした次第でございます。
  37. 伊藤修

    ○伊藤修君 岸本氏のお話が出ましたのですが、従来我々は法務総裁も御承知のことと存じますが、日本の検察部内におきましては、いわゆる平沼閥というものがあり、それがいわゆる塩野閥となり、そうして今日はどういう閥になつておるか知りませんが、とにかく一つの流れがあるのです。新聞でたまたま拜見しますと、岸本氏は主流であるとこう言う、一体何が主流が私にはわかりませんが、どういうものが法務府の中に主流として存在するのか、これ又一つの奇怪な言葉でありますけれども、その主流という意味は、只今申上げまするごとく、曾つてのいわゆる平沼閥であるとか或いは塩野閥であるとか、そういうものを指して言うのではないかと、こういうふうに臆測するのでありますが、私の考えるところによりますれば、少くとも日本の検察陣営の中においてそういう閥を存在せしめることは、今日の場合として極力これを否定しなくちやならんと思うのです。だから恐らく法務総裁の下におけるところの検察陣営というものに、そういうものがあり得るとは考えないのです。又それを極力法務総裁としても否定せらるべき方向に検察行政というものを行われなくてはならんと確信して疑わないのですが、巷間にそういう批評をこうむるということは、延いて以て検察陣営に対するところの一つの暗影を投げかけるものと言わなくてはならんと思うのです。殊に新聞紙上の言葉を借りて申しますれば、法務総裁がそうおつしやつたかどうか私よく存じませんが、いわゆる法務総裁は身を賭しても岸本次長の実現を図るとかいう趣旨の記事を私は拜見したと思うのです。おつしやつたかどうか存じませんが、一体如何に惚れた人事といえども確信を持つた人事といえども、一国の法務総裁が、身を賭してもその人事を遂行しなくちやならんという強い決意をそこに表明して、暗に強行し、暗に木内君を窮地に陷れて辞職せざるを得ないところまで押し込めて行くと、いわゆる政治問題化することを恐れて、木内君は先ず国家のために退出するという、そういうところに追い込めたということは、何かそこに派閥的な意図があるのか、若しくは派閥的な意図を推測せしむるような一つ人事行政があり得るのか、法務総裁のお考え方を一つつて置きたいと思います。
  38. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私はこの佐藤検事総長に配するに岸本次長検事というのは、これは佐藤検事総長任命、当時におきまして、当時までに私が虚心坦懷純一無雑の気持であらゆる方面の情報を総合いたしまして、又私みずからの知識をも加味いたしまして、これが必要である。こういう結論を出しておつたわけであります。そうして只今いわゆる岸本君の派閥云々というお話がございますが、この点は、この人事において中心をなすものでございまするから、少しく蛇足かも知れませんが、申上げることをお許し願いたいと思いまするが、こういうことをこういう席で申上げることは、果して適当かどうかは私は存じませんが、従来から只今お述べになりましたごとく、塩野閥とか或いは反塩野閥ということが、司法部内において言われておつたことは事実であります。さようなものが事実あるなしにかかわらず、少くとも世の中からそう見られておつたということは、これは否定することができないことであるかと思う。私が法務府に入りまして考えました第一のことは、先ず今日の時局におきまして、如何なる官庁、如何なる集団的機構におきましても、派閥の存在ということは決してその機能を増進するゆえんではない。あらゆる分野において派閥を打倒して、その機関に関係する全員が協力一致いたしまして、一丸となつて進む態勢を確立するということが必要である。これはひとり司法部内において必要であるばかりでなく、如何なる社会、如何なる面においても私今日最もこれが必要なことであると、こう考えるものなのであります。従いまして司法部の首脳人事を立案いたしまするに当りましては、これをやろうということを主眼といたしたのであります。そこで最近におきまする検察部内の人事の跡を顧みまするというと、部内で相当の人材といわれておりますところの岸本次長は、終戰後長く中央において適当なる地位を與えられることなく、地方機関を転々として動いておる。そしてこの間におきまして、木内君は終戰後引続き中央において要職を占めておるのであります。今日あらゆる行政におきまして、殊に終戰後従来の数十倍、数百倍のスピードを以て変転いたしまするこの国内の事情を正確に把握するということは、特に検察の行政においては必要でございまするから、それがために検察関係の官吏というものが、事情の許す限り或る者が中央に、或る者が地方にという偏したる勤務をすることなく、中央地方適当なる機会に交代いたしまして、そうしてその第一線における経験を以て中央の企画に当り、中央における知識を以て第一線の事務を推進するという機会を與えることが、これが検察官個人の修養のために必要でありまするばかりでなく、検察の能率を上げる上からいつても必要でありまするし、又これが検察界に清新の気を注入いたすに必要な事柄であると、こう思つたのであります。このことが木内君と岸本君を交代せしめようとした先ず第一の理由であります。  次に最近におきまする検察部の実情を申上げますると、木内君が最近久しく中央の検察官人事の要職でありまする次長検事を占めておられたということによつて、曾て塩野閥に属するという批評を受けておられました幾多の優秀なかたがたが、單にそれだけの理由によつて久しく志を得ていない、又それに反対の人たちと目されておつた人人が逆に栄進を続けておるというようなことがいわれておるのであります。私は事実さようなことがあるかないかは別問題といたしまして、さようなことが、風説として流布されておることを否定することはできなかつたのであります。そしてこのことによりまして、特に部内の空気の実際は別といたしまして、社会一般から塩野閥対反塩野閥の確立であると、或いは最近においては反塩野閥がはびこつておるというようなことを批評せられ、事実さようなことがなくとも、他からさような批評がありまするというと、これによつて部内にいつとはなしに対立的な感情もできて来るということは、これは極めて見易き道理でございます。これを打破するということが絶対に必要であると考えたのであります。これは先ほど伊藤委員の言われましたる派閥というものが若しあるとすれば、これは打倒して、そうして一元的な態勢を作り出したいと、こういう私の考えであつたわけであります。そしてそのためには一方においては岸本君がその代表者であると言われ、一方においては木内君がその代表者であると言われておりまするが、私はこの二人のかたがたはいずれも検事として長らく中央地方の要職を占められ、又その才幹におきましても識者よりも高く評価せられておるかたがたでありまして、これは検察界におきましていずれ劣らん重宝として今日十分に貢献しておられておるのみならず、将来におきましても当分の間この二人のかたの存在というものが、検察官にとつて非常に大きな希望であると、こう考えておりました。そこでこの二人のかたがたが検察官界においてはいずれ劣らん大切なかたがたであり、而も御当人は相互にさような感情は絶対にないと確信いたしておりまするにもかかわらず、世上、部の内外におきまして、この二人が互いに反目しつつある。こういう批評がありまするので、私はこの二人が握手されるということが、そうして又握手したという姿を実際に社会に示して頂くということが、これが最も大切ではないか、こう考えたのであります。そこで私は佐藤検事総長に岸本次長を配するのがいいと考えましたのは、長らく中央におられました木内君といたしましては、適当な機会に地方へ出られることによりまして、木内君が反塩野閥の一方の旗頭であつて、何か公正でない人事を行なつておるのじやないかというような批評を根絶する好機会でもありまするし、又私は概して誰でも中央の地位地方地位より好ましいと思つておるのは、これは現実の人情でございまするから、只今中央におられます木内君がその中央の地位を捨てられまして、僕も大分長らく東京におつたから今度岸本君、君が僕に代つてつてくれないか、その間僕は地方に行つて勉強して来よう、こう言つてこの二人が向き合つて握手をされるということができますならば、これは私は検察界のために、何よりも大切な派閥打倒の礎石である。そうしてこのことが今日非常の時局において国民諸君の最も要望せられるところであると、かように確信をしたしまして、この趣旨に従つて佐藤検事総長と相談をいたしてこの線を打出したのであります。従いましてこの紛争の経過におきまして、佐藤君が岸本君が次長に来ることには喜んでいないというようなことを伝える向きもあつたのでありまするが、この根本的な考えについては当初から私と佐藤総長との間には十分完全なる意見の一致がございまして、そうしてただ私の考えに今申上げました岸本君と木内君とが中央、地方の場所を入れ変えるという、そうしてそのことが派閥の解消についての好箇の機会をなすという、この根本の考え方については佐藤君と私とは全く意見が一致したのであります。ただこの交代というものを如何なる手続によつて実現するかの、その方法の如何によつては却つて我々の企図に反するような結果も出る虞れがある、却つてそれが両者の……両者と申しましても木内、岸本両氏御本人ではなく、いわゆるその派閥と称せられるかたがたの間の感情的な抗争を激化する端になりはしないか、そこでできるだけこれは刺戟しない形において実現しよう。そうしてこれを実現するについて、刺戟しない形というのは、木内君のあとに直ちに岸本君を持つて来ることなく、その間に第三者を一時的に置いて、そうしてその次にいよいよ岸本君を連れて来る。こういうことにするほうが却つてこの際刺戟せずにより以上私どもの意図するところの派閥抗争を解消する途である。これが佐藤検事総長考え方であります。私はこの抗争と伝えられるところの根源というものは、なかなか根強いものであるから、周りの人たちがこの抗争を処理しようという場合におきまして、成るべく当事者双方を刺戟しないような方法によつて実行するということは、却つてそういう緩和剤を用いること自体が、我々がそういう抗争が存在するということを認識しておるということを、証拠立てることでありまして、そういう証拠立てによつて派閥抗争の存在を公に認めるということになり、却つて緩和或いは解消の意図とは逆の方向に進めて行く虞れがある。これが私のこの問題についての考え方である。従つてこの根深い抗争を解消いたしまするためには、この際私どもが労わりの感情というような、何と申しますか、緩和剤を用いるというような、さような妥協的な気持を全部捨て去つて、赤裸々に両者を相対立せしめて、そうして事の真相を十分に究め、お互いに実態を十分に究めた上に、それを基礎として両者が握手して和解すると、こういうことでなければ私は根本的な途はない、こう考えたのであります。或いは言葉が足りずに御了解を得がたかつたかも知れませんが、要するに派閥の解消ということがこの木内、岸本交代の動機であり、そしてこれを実現する方法といたしまして、一旦その間に第三者という緩和剤を用いることが、その目的を達成するに適当であるというお考えが当初の佐藤検事総長のお考えであり、そしてこれに対して逆に私はむしろ痛いところははつきり痛いように、この際幾ら痛くとも根本的な手術をするという気持になつて、その実相を明らかにする。そういう意味で、直接にこれを交代するということがむしろこの際根本的に解消するゆえんである。こういう考え方……、考え方が佐藤総長と私とは根本的に対立したように世間には映つたかと思いまするが、実は当事者双方の考え方は、要するに目的論といたしましては全く一致いたす。但しこの実現の方法といたしまして中間的なものを入れるか、入れないかという点について長らく意見の一致を見なかつたのであります。ただこの問題はすでに昨年秋におきましてとにかく第一次的の責任者でありまする佐藤検事総長がさような御意見を固執せられておりまするから、私がこれを頭から拒否するということは必ずしも適切でないと考えまして、暫らく佐藤君の考えに従うという方針の下に、中間的第三者を介入せしめるという方法を眼中におきまして、木内君に対して総長より折衝をお願いしておると、こういう事実なのでございます。私どもといたしましてはこの派閥の解消ということが根本の動機であつたわけでありまして、この人事に関連いたしまして、むしろ私が派閥抗争を利用しようとしたとか、或いは検察陣営の中に政治的勢力を導入しようとしたとかいうようなことも伝えられておりまするが、これに対して今日まで私はあえて積極的に弁解いたすという方法はとつておりません。これは今日までの、又今後の私の実績によつて身を以て弁明すべきことであつて、一片の口頭辞令によつてなすべきことでないと、かように私は考えておりまするので、あえて口頭を以てそうでないというようなことを軽々しく申上げてはおりません。只今御質問を頂きました派閥の問題についての私の根本的な考え方をこの機会に申上げさせて頂きました。
  39. 伊藤修

    ○伊藤修君 詳細に今度の異動の真の目的をお話し下さいまして感謝いたします。今朝のお話だけではただ表面的の理由だけであつて、那辺に今度の異動の真の目的があるかということを……今御答弁によつてはつきり把握することができたんです。あるかないかわかりませんが、巷間伝えられるところの司法部内の派閥を解消することに法務総裁努力せられた。その御盡力のほどに対しましては敬意を表します。併し事総裁のお考えと違つて、結果的にはむしろ派閥を復活せしめたと、いわゆる塩野閥とか或いは他の閥を、一方の閥を復活せしめた。戰後久しく地方に遠ざけられた閥を又部内に持ち込んだという印象を與える結果に至らしめたことは、私は非常に遺憾だと思います。この点は総裁においてはつきり明確におつしやつて頂いておいたほうがいいと思う。なお今一点は、新聞において伝えられるところによりますれば、総裁がいろいろな点において非常にこの問題については御努力なつて、又熱意を傾けて、先ほども申上げましたように総裁が一身を賭しても敢行しようと、こういうお気持のほどが今の派閥解消の問題に全力を挙げて、ここにおいて確乎たる検察陣営を建直すという御熱意であつたというならば、それで知り得るのです。御趣旨のほどはわかり得るのですが、併し世間では時たまたま地方選挙に向つており、いわゆる自由党の選挙を有利ならしむべく、あたかも選挙干渉をせんがごとく今度の検察陣営を強化する。而も私は岸本君の人柄は知りませんが、少くとも峻烈というような感じを與える人らしいのです。併し私はそれは本当に知りませんですよ。責任を以て申上げるわけではありませんが、少くともそういう強い検事を据えて、そして今度の地方選挙を彼を以て行わしめると、だから法務総裁としてはあらゆる努力を拂つてこの実現を期して、あらゆる障害を打破つてこれを実現したのだ、無理押ししたのだ。こういうふうに巷間に伝えられておるのですが、この点は今総裁は身を以て今後の自分の行いによつてこれを実証しよう、だから見ておつてくれという御論御尤もでありますが、少くとも国民はそういう疑惑を持つておるのですから、むしろこの席上において総裁ははつきりその点は責任を持つてここで言明して頂いたほうがいいと思うのです。この点を重ねて申上げておきます。
  40. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 重ねての御質問でございますのでお答えを申上げます。第一に、動機の如何は別として、この問題の外部に伝えられたる経緯並びに結果等から考えて、結果的には一の派閥に代えて他の派閥を引入れたという印象を一般に與えておる、こう言われるのでございます。私の不手際のためにさようなる印象が一般に與えられたとするならば、これは全く私の不徳のいたすところでありますので、恐縮に存ずるほかはないのであります。ただ私といたしましては、派閥の発生ということは、畢竟するに人事行政がそのよろしきを得るか否かということが根本であると存じます。若し岸本君がいわゆる塩野閥の代表的な人物であると目せられておるといたしましても、検察官人事ということは、これは一次長検事の全責任にあらずして、法務総裁の全責任でございまするので、私は今後検察官人事につきましては派閥の解消ということを根本精神といたしまして検事総長次長検事以下関係者を指導いたしたい、かように考えておるのであります。もとより微力にいたしまして、果して将来長く誤りなきを得るや否や、これは実績によつて御覽を頂くよりほかはないのでございます。精神といたしましては派閥を私ども断じて解消しなければならん、こういう考えを持つておることを申上げます。  次に、このたびの人事異動地方選挙に対する対策の一つであるような印象を與えておる、こう言われておるのでありまするが、私は検察のあり方というものは、政党政派に捉われることなく、いわゆる政治的中立の立場を嚴守いたしまして、正義に従つて公正な運営をすべきものである。このことはもとより申すまでもないのでありまして、選挙の取締りにおきましてもこれが検察の根本なのであつて検察精神がこれ以外にないということを確信をいたしております。たまたま選挙前の今日になりまして、これを強い決心を以て断行をいたしたことによりまして、あたかも選挙対策のごとく見らるるに至つたということは、衷心から遺憾に存じておるのであります。今朝来申上げておるこの異動は、昨年佐藤検事総長就任の当時に意図いたしました。爾来特に木内君に対して具体的な折衝を行いましたのは、昨年十一月以来のことでございます。このことがいろいろな障害によりまして、漸次延び延びになつたのでございまするが、三月八日に、即ち明日に佐藤検事総長が渡米せらるる予定になつておりました。従いまして私は約二カ月半に亘つて総長がお留守になりまするから、その間次長検事を、どうしてもその前に次長検事の更迭をなす必要あり、これは佐藤検事総長とこの洋行の相談がきまりました当時から話合い、約束をいたしまして、そうして両者協力して努力をいたして参つたのであります。そうしてこのことが相当取運びまして、だんだんいろいろ世間にも取沙汰されるように相成りましたので、只今の治安の重大なる時期に当りまして重大なる人事異動を遷延することによりまして、部内に長く不安の空気を漂わすということは適切でないと存じましたので、当初よりの予定の最終期限でありまする三月六日を目しましてこの問題の解決を図つた、こういう次第なのであります。そうしてこのことに関連いたしまして、世上職を賭しても私がこれを断行するという決心であると伝えられたのは事実でございますが、私の考え方といたしましては、検察のことについては、みずから何ら経験を有するものではなく、又実際これについてそこまで立入つた指導をいたす能力もないわけでありますし、又権限もないわけであります。而して重要なる検察の仕事というものは、検事総長次長検事、この最も重要なる首脳者に十分なる能率を期待し得るということが必要でございまして、私はそれによつて初めて安んじてこの責任のある地位を続けて行くことができると、こう思うのであります。この問題は一次長検事の問題のごとく考えられますが、私自身といたしましては刻下重大なる治安について責任ある地位にあるのでございまして、この責任は私個人の力によつてどうこうすることはできない、それぞれ適当なる人を信頼して、これによつて責任を果して行く以外に途はないのでありますから、私が安んじて責任を果し得ると信じた態勢を確立いたすことができなければ、私みずからの良心といたしましては、その力なくして位におるという以外の何ものでもないのでありまして、このことは私の政治家としての良心の到底許すところではないのであります。従いまして私は、これは国家、国民のためになすことであつて、必ずやこの異動は世論の支持のあるものである、そうしてこれに対しては私自身何ら私心によつてこれを企図するにあらず、純一無雑の境地において真に国家、国民のために最善の人事であるという信念の下にこれを立案いたし、そうして自己の信念が保障せられない以上は、一日としてその地位に安んじておることはできない、これはただ私の政治的良心の問題であつたわけであります。この私の心中蔵しておりまする決心なり或いは信念なりが、いろいろまあ報道によりまして折に触れ外部より推測せられまして、それがために職を賭するのではないかというような想像も生まれたかと存じますが、事実はさような次第でございます。
  41. 一松定吉

    ○一松定吉君 只今の木内事件に関連して、私も法務総裁の御意見を質して見たいのです。法務総裁の今までの御答弁によりますると、如何に検察陣営の改革に御努力相成つたかということについては私も大いに敬意を表します。そういうようなお考えで、この検察陣営の改革をやるという非常な確乎たる法務総裁がなければ、検察陣営がときに派閥抗争を盛んにして、いわゆる検察権の公正なる運営を阻むことが大きいことは私もよく承知している。あなたがそういうようなお考えで今度の木内君の問題に御精励なさつたということは私は何ら異存はありません。又あなたがそういうお考えでやつたことが自由党の選挙対策に云々だとか、あなたが自分の法務総裁としての権力をほしいままに振舞おうというような、そういうお考えでないことも私は諒といたします。ただ併しながら、私がここに本当に心配することは、このいわゆる検察庁法の二十五條の官ですね、この官というものの解釈が、あなたのように解釈されるのか、或いは私は次長検事というのは官だということの確信を持つておりますが、これは次に私の意見を申上げますが、次長検事というものは官じやないのだ、検事総長というのは官じやないのだ、こう考えて今度のいわゆる札幌行きをあなたが強行されようとしたことについては私は異論がある。そこで官というものの御解釈について私もう一度一つつて見たい。あなたの言ういわゆる検察庁法の二十五條の官というのは、これはいわゆる検察官そのものを官という、検事総長とか次長検事とか、検事長とか、或いは検事だとか副検事とかというものは官でないと御解釈なつておりますが、その点を先ず一つつて見たいのであります。
  42. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 検察庁法二十五條におきまする官というのは、検察官のすべての種類の官を総合いたしましたる官を官と、こういうふうに観念をいたしておるのであります。
  43. 一松定吉

    ○一松定吉君 そういたしますと、検察庁法の第三條のいわゆる検察官種類規定の中に、検事総長次長検事検事長検事、副検事というのはこれは何ですか。
  44. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 官の一種類でございます。
  45. 一松定吉

    ○一松定吉君 然らば、官の一種類であるならば、検事総長というのは官ではありませんか。次長検事というのは官ではありませんか。それを伺いたい。
  46. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 観念をはつきりいたしまするために、甚だ卑近な例を用いることをお許し願いたいと思います。官というのは、これは検察官の官というのは、次長検事という一つの官ではなく、検察官のすべての官の総称でございます。例えばこれを魚について申上げますると、「たい」だとか「ひらめ」とか、或いはいろいろな種類があろうと存じます。これらの総称として魚という観念がある。その金魚というのも一つの魚であります。併しその全体を総合した魚という総合的な観念があろうと思いまするが、私ども解釈といたしましては、かような意味におきまする総合的の観念としての官を、二十五條の官という字で現わしておる。従つてこれは決して官の一種類ではない。その結果この解釈といたしましては官を失うとは……従つて「たい」が「ひらめ」になることは魚たることを失つたのではないのでありまするから、それは魚を失つたのではなくて他の魚に転じたのである。こういうふうに考えるべきである。これは畢竟、検察官検察官以外の官に転任せられる、そういう場合にはこれはもはや魚でないのであるから、魚たることを失うというふうに言えますが、この場合において官を失うというのは、そういう一つ検察官から他の検察官に移る場合は含まない。こう私ども解釈いたしておるわけであります。
  47. 一松定吉

    ○一松定吉君 検察官というものは官であるということはこれは間違いないですね。その官の一種類はやはり官ではないんですか。あなたの言うそれはただ種類というだけで官ではないのですか。そうすると魚類というものがあると、全部は魚である。ところがそのうちで金魚は魚でないのかどうか、私は金魚もやはり魚であると思う。そうすると官である。あなたのおつしやるところは金魚は魚の一種類だとおつしやる。併し金魚はやはり魚のうちの魚、金魚という魚だ。即ち次長という官、これをどう御解釈になるか。
  48. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 官というのに二通り観念があるということを私は先ず前提として申上げたいという趣旨であつたのであります。  即ち検察官におきましては検事或いは次長検事、或いは検事長というように狹い意味の官と、これらを総称いたしましたる広い意味の官とがある。その二十五條の官は広い意味の官である。そして今御質問になりましたる次長検事は官ではないか、それは官であります。併しこれは狹い意味の官である。二十五條の官ではない。こういうことを申上げた次第であります。
  49. 一松定吉

    ○一松定吉君 二十五條の官は広い意味の官である。狹い意味の官ではないという解釈はどこから出るのですか。
  50. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) これは法律の全体の趣旨を総合いたしましたる解釈でございます。
  51. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこがあなたと我々の解釈と違う。元の裁判所構成法では検事というものと判事というものとに分けておつた。だからして、判事は官である、検事は官である。ところが今度検事総長次長検事検事長検事、副検事と、こう分けたがためにこういうような疑問が生じた。けれどもそれはやはり検察官のうちの一部類であつて、やはり検察官が官であると同時にその官の一部はやはり官である。こう我々は解釈するのですけれども、それはもうあなたと私ども法文の解釈について意見が違うのですから、幾らここで議論してもこれは同じことですからやめます。そこであなたに伺つて見たいのは先刻から、あなたの御釈明によると派閥解消のために木内氏を検事総長の下において東京に駐在せしめることはよくないと思うから云々とおつしやるけれども、私どもはこの法律解釈からして次長検事も官であるからその意思に反して免職、転任、その地位を失わしめることができんという解釈をとつておるが、それは別としてあなたのおつしやるようにこれは派閥解消のために、東京において検事総長の下で執務せしめるということは適任でない、こういうお考えであるならば、この検察庁法の二十三條にちやんとそういうときにはこういうようにするんだよというので審査会というものが設けられておる。それを何故にこれによらなかつたか。それを一つ伺いたい。
  52. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) これが実は、やはり先ほど申上げました狹い意味の官と、広い意味の官の観念を分けて私ども考えておる、それから出て来ておるわけでございますが、審査会におきまして官を免ずる場合におきましては、その職責を十分に盡し得ないというのが……、これは広い意味の官として十分に盡し得ないという場合にそれをやることがよかろう。検事総長としては十分でないから審査会にかけてこれを次長検事に落すとか、或いは次長検事審査会にかけて罷免をいたして、他の検事長に起用するというような場合において、この審査会の制度によるべきということは、これは制度の根本的な精神ではないではないかというのが、審査会の権限についての私ども解釈であります。
  53. 一松定吉

    ○一松定吉君 あなたは官というものが検察官だとおつしやつた。然らば二十三條は検察官である、検察官が適任でないというときには、これこれの場合においては審査会の採決を経てあなたに報告し、あなたが適当な処置をとる、こういうことに規定されておる。次長検事というものは検察官です。検察官であるならば、その検察官が不適任であるならばやはりこの二十三條になぜよらない、次長検事検察官でないというならあなたの今の御議論は正しい。次長検事検察官であるとするならば二十三條には、検察官が不適任であるときにはこれこれの措置をとれとしてある。そうすると何ですか、二十三條のこの規定は、木内は検察官ではないと、こう御覽になつたんですか。
  54. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 実際問題といたしまして、次長検事検察官適格審査会にかけて罷免をいたしまするというと、これを検事長に起用するということは不可能でございます。従いましてさような措置をとることができないと、こう私ども考えたのであります。
  55. 一松定吉

    ○一松定吉君 あなたはそうすると何ですか、不適任の人であつてもそれを検事長に持つて行きたいために法律を無視しておやりになつたと、こうおつしやるんですか。
  56. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私ども検事長として十分に活動を期待し得る人は、不適任として審査会にかくべき人ではない、こう考えております。
  57. 一松定吉

    ○一松定吉君 私ども検事長として十分に活動のできる検事が、何故に次長検事として活動できないか、その理由を具体的に説明してもらいたい。
  58. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私は木内君が次長検事たるの資格がないということを初めから申しておりません。検察官人事刷新強化のために、この際これを更迭することが政策的に見て必要である、政策的と申しますのは、政党政派という意味ではなく、法律的とか、或いは理論的とかというよりは、これはよりよい検察陣営を作り、検察の機能をより多く発揮せしめる、そういう線に副うてこれは必要である、こう考えたが故なのです。次長検事として不適任として罷免すべきものなりというようなことは初めから考えたことは一回もございません。
  59. 一松定吉

    ○一松定吉君 それではあなたは便宜主義だね、便宜主義で法律解釈を二、三にするということですか。二十三條は検察官が不適任であるときには審査会の議に付せよとある。然らばあなたの今言う通り、政策の上からよくない云々ということであれば、この二十三條の法文は政策の如何によつてこれが解釈を二、三にすることができるというお考えですか。
  60. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) このことは人事行政に関連いたしたる規定でございまして、人事行政につきましてはおのずから技術的な要請というものがあるわけでありまして、この法文というものが検察官人事行政の根本的な考え方を拘束するというような、そういう性質のものではない、人事行政の円滑なる運用と、そして職務の公正なる執行というものを調整するという点において妥当なる解釈をして行く、これは私は法の解釈であつて、これは決して便宜主義ではないと存ずるのであります。今日私の申上げたような解釈に従うにあらずんば到底検察陣刷新強化、又誰がおいでになりましても検察人事の運用ということは不可能になることは明らかでありますから、従いまして私は依然として私の申上げましたる通り解釈が妥当であるという考えを持つわけであります。
  61. 一松定吉

    ○一松定吉君 それはどうもますます奇怪千万ですね。そういうような人事行政を自由自在にやることがあるから、特に二十三條というものをこしらえて勝手にやらせないというのがこの立法の精神なんです。あなたの言うようなことにすると、どうも自分の気に入らんようなことはこの法の解釈を自分の利益なように解釈して、そうしてこの手続によらんでもいいという解釈は、それは法務総裁として余りに私は利己的解釈だと思うんです。明らかにちやんと明文がある、この明文が……、だからしてこの明文によつてあなたがすべてのことを処置なさるということであれば問題は起らない。然るに二十五條では検察官というものはすべてのものを称するのだ、こう解釈し、二十三條では検察官というものには次長検事は含まないかのごとくあなたは解釈なさる。同じ検察官というものが二十五條で、いわゆる次長検事というものは検察官の一部であつて、魚の一部であるのだ、一部だけれどもとにかく魚というのであるのだから次長検事から検事長にやることは、これは魚は変らないのだということであれば、二十三條に検案官にこういうふうな不都合なことがあるときには、審査会にかけよというのですから、明らかに不都合なことがある、職務執行上そういう人を東京に置いておくことはよくないということであれば、明らかにあなたのお考えのように、二十三條の規定運用、もうこういう問題は起らないと私は思う。この点についてあなたの二十三條に関する本当のお考えをもう一度伺いましよう。
  62. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 一松委員は法律につきましては、特に御堪能のかたでございまして御質疑も極めて緻密精細に亘つておりますので、お許しを得まして法制意見長官からお答えさして頂きたいと思います。
  63. 一松定吉

    ○一松定吉君 結構です。
  64. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 今朝ほど実は一通りの御説明を申上げました際に、二十三條にも触れまして申述べたのでありますが、只今又新たなる観点からの御質問でございますから、私からお答えさして頂きます。問題の要点は、ここに二十三條にあります「その官を免ずる」、この免ずるということと、それから只今具体的な問題となつております。転官、いわゆる転任でございます。転任ということと免ずるということとの違いにまあ一つ鍵があるわけでございますが、その違いはもう一松先生十分御承知のことと存じましてあえて申上げませんが、この二十五條におきまして、その官を失うという中に、今の問題になつておつたような転任というところまで保障しているかどうかというのが一つ要点になるわけであります。それに対しまして、これは只今総裁から申しましたように、検察官という広い意味における官を失うことを言うのであるから、検察官の内部における転任というものはこの二十五條では触れてはおらないということを一応申したわけです。そこで二十三條を見ると、二十三條には御指摘のように、不都合なことその他の理由によつて職務を執るに適しないときに審査会の議を経て官を免ずることができる。これはもうその本人意思にかかわらず、官を免ずる場合は二十三條でちやんと途を設けているではないか、然らば官は失わずして新たなる官に変るという検察部内における転官が、この本人意思がそれに反するならば絶対にできないということは二十三條の対象上から言つても読めないということは一つの裏付として出て来る議論なんでございます。従いまして只今或る人がおつて、その人がその地位に適しないという場合は勿論検察官適格審査会議決を経れば罷免することができる。併し罷免には及ばないじやないか、更に適当な官職が他にあればそれに転任さしてもいいじやないかという場合もあるわけでございます。その場合は二十五條及び二十三條を離れて、運用としてこの検察庁法は認めておるということを今朝ほどから申上げたわけでございます。
  65. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると何ですか。意見長官の御意見は免ずることのできることだけが三十三條の規定だとおつしやるのですか。
  66. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) さように読んでおります。「官を免ずる」と書いてあります。
  67. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると、その上司の命に従わないで、職務の執行についていろいろな故障のあるような場合は、そうするとどの規定でこれに制裁を加えるということになるのですか。
  68. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) でありますから、この罷免に値いすると申しますか、この二十三條の條件に該当すれば、こういう手続を経て罷免することができるということが書いてあるわけであります。罷免はする必要がない、検察官としての地位を奪つてしまう必要はない、検察官の分のポストから他の検察官のポストに廻すならば、何とか罷免にはしなくてもまだやつて行けるだろうという場合に生ずるのが、転任の場合でございます。従いまして、この転任本人意思に反する場合といえどもできるだろう、この二十三條の対象上そういうことになるわけであります。
  69. 一松定吉

    ○一松定吉君 併しそれはとんでもないあなたのお考えだと思います。そうすると何ですか、この二十三條の二項三項の場合にも必ずこれは免ずる場合ですか。二十三條の二項、三項は、本人を免じようと思つてつたけれども審査会でその必要はないという場合には免ぜんでもいい。私の言うのは、審査会になぜかけなかつたのか、免ずるためにかけるというのじやない、あなたの答弁は免ずるためにかけるというお答えですが、そうでない、不適当と認めるというようなときにはこの二十三條の手続によつて審査会にかけなさい。この審査会がこれは免ずべきものでない、これはこのままにして置くほうがよろしいのだというようなときには、やはりその通りに留任もできるのですから、何も免じなくてはならんという場合ではないと私は思います。それは第二十三條の二、何もこれは二や三は免ずるという場合に限つておらんのです。
  70. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) この二十三條の二項で審査会の審査に付せられました結果、この三項というものが働いて参りまして、これこれについては罷免の勧告を行える、これこれについてはこれを罷免しなければならないというふうに、飽くまでもこれは罷免ということに一貫しておるように私は読んでおります。
  71. 一松定吉

    ○一松定吉君 それはあなた、相当と認めるときはですけれども、その二項、三項は罷免しなければならんという確定的な規定じやないじやありませんか。この通牒を受けたときにそれが適当であるかどうかということは、法務総裁検察官適格審査会からの報告によつて法務総裁は適当に処置ができるわけです。そうでしよう。
  72. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 罷免するその罷免の場合は三項で、或いは第一項で規定しております。転任させればいいじやないかという場合は、この二十三條は別問題として、当然可能であるということでありまして、この御見解と私の考えと同じであります。
  73. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこで私はこういうような問題があるのになぜにこの審査会にかけずして、そうして御自身で強行なさつたかと聞くのです。
  74. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) それは人事行政の問題で、私からお答えするのも如何かと思うのでございますけれども、二十三條のは罷免する場合の規定でありますから、只今の問題としては具体的に人を罷免しようというお考えは内閣にはなかつたんじやないかということで二十三條を活用することは避けられたというふうに推測をいたす次第であります。
  75. 一松定吉

    ○一松定吉君 いや、私の言うのは一体罷免でも、或いは転任でもできるんでしよう。転任はできないのですか。二十五條規定、前三條の規定によらなければこれこれのことはできん、前三條の規定によつて官を失うこともある、職務停止することもある、又俸給減額されることもある。二十五條のものは、即ち二十三條のこれによつて左右されるんじやないのですか。あなたのお答えは二十三條、二十五條というものはこれは罷免に関することだけだからとおつしやるけれども、これは二十五條の前三條の規定によつて免官もできれば、停止もできるし、減額もできる。これは審査会の規定によつてこの二十五條が如何ようにも運用ができると私は解釈しておるのですが、どうですか。
  76. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 私の考えでは二十五條というのは、その意に反しては官を失つた職務停止されたり、或いは俸給減額されることはないということを言つておりまして、その意に反しまして、仮に転任をするという場合に二十五條保障の問題ではないというふうに考えるのであります。従いまして今のお話に出て来ております二十三條というのは、そのうちの罷免する場合、どうしてもその検察官としての地位にふさわしくないという場合に罷免する手続をきめておるのでありますけれども、仮にその意に反して俸給減額しようという場合に、然らば検察審査会の議決さえあれば俸給はどんどん下げ得るかというと、私はそれはできないというふうに読んでおるわけであります。
  77. 一松定吉

    ○一松定吉君 併しあなた、二十五條規定は「検察官は、前三條の場合を除いては、その意思に反して、」その官を失うこともないぞ、職務停止されることもないぞ、俸給減額されることもないぞ、こういうのでしよう。前三條は、いわゆる二十二條は停年です。停年の場合には、これは当然やめなければならないぞ、退官の場合の二十三條は今の審査会にかける、二十四條はいわゆる他の事由によつて剩員、人が余つたときの話である。ですからして二十三條のこのことは免官に関するだけじやなくて、これはやはり二十五條規定によつて免官も勿論であるが、職務停止もできるし、或いは俸給減額することもできると、こういうふうに私は解釈するのですけれども、二十三條の審査会でこれは一体職務停止しなければならんという審査会の意見というものは違法ですか。
  78. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 私は多少ズレてはおりますけれども、結局一松先生のおつしやることと趣旨は同じことになると思います。ただズレておると申しますのは「前三條の場合を除いては、その意思に反して、その官を失い」、に該当するのはどれかと申しますと、御指摘の二十二條と二十三條がそれに該当する。それから「職務停止され、又は俸給減額される」という問題の関係條文は、前條の只今の二十四條、これに職務停止俸給減額を含んでおるのでありまするそこで辻褄が合うわけです。ただ一松先生のおつしやることとちよつとズレておるだけです。
  79. 一松定吉

    ○一松定吉君 私の言うのは、一体法務総裁のようなお考えであるならば、この二十三條の規定に従つて、そうして適当にすれば問題が起らなかつたんだ、そういう規定を設けておるのだから、法務総裁のような行政的の方法によつて自分はやるのだから、この二十三條は広く解釈するのだということが私の意見とは違うのです。そこで今あなたの御意見によると、二十三條は免官するときだけだということですが、二十五條からしても、もとより免官のときだけでないじやないですか、免官のときもあるし、或いは職務停止のときも審査会にかけてこれは職務停止すべきであるということを法務総裁に報告すれば、そうすれば法務総裁はそれによつて停止ができる、これは二十五條によつて規定している。あなたは二十三條は免官のときだけだとおつしやるから、いわゆる法務総裁は木内を免官しようという考えはなかつたのだからかけなかつたのだと、こうあなたは解釈されるけれども、そうじやない、そこはどうですか。
  80. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) それはいわゆる文章の読み方の問題でありまして、私は二十三條は、「免ずることができる」と書いてありますし、先ほど申上げましたように、罷免するという言葉がございますから、これは又文字通り解釈して置きませんと、検察審査会の審査さえあれば俸給もどんどん下げられるという解釈も又出て来ますので、そこにはおのずからやはり限度を保つべきであると思いますので、「罷免」なり、或いは「免ずる」という言葉は素直に読んで置いたほうがよくはないかと思います。
  81. 一松定吉

    ○一松定吉君 それはとんでもない話である。あなたのこの三項の「職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないかどうかを審査」するんでしよう、適しないかどうかを審査して、これは罷免しなければならん、これは停職しなければならん、これは暫らく休ませなければならんというようなことがこの二十三條の三項の概定で、審査会はその意見を具申することはできるのでしよう、できませんか。できんならばあなたの言うことは正しいけれども、できますならばあなたの言うことは間違いである。二十三條の三項を御覽なさい、三項には明らかにそう書いてある。あなたは一項だけを御覽になるから、一項は免官するときのことであるが、二項、三項は審査会がこういうことを審査した、その審査会はその時分にはこれはどうも職務をとるには適しない、こういうふうに報告したらどうなるか、或いはこれは暫らく休ませるがよいという報告を法務総裁にする、そういうようなときに、法務総裁がいわゆる二十五條規定によつて一刀両断ずばつとやることはいいと、こういうのです。あなたは二十二條、二十三條を免官のときだけに限るから、法務総裁が木内を免官する意思のないときだからかけないというのは間違いじやないか。
  82. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) この点につきましては、これは二十三條の審査会の運用の方針の問題でございます。この審査会の運用におきまして、職務をとるに適しないという議決があつたこの場合において、法務府といたしましてはその議決が実質的に正当であるかどうかということを判定いたしまして、それが正当であるという場合におきましては、その場合に許される措置といたしましては罷免という以外にはないと思います。こういう考えを持つております。従いまして只今先生のお述べになりましたごとく、月給を下げるとか、或いは職務停止するというようなことは、その議決を相当と認めたる場合におきましても、二十五條によつてはなし得るものではない、こう私は考えます。そしてこれ以上はもはや見解の相違ということに相成るのではないか、解釈論の対立ということに相成りまして、まあ大体この辺で御意見は承わり置いたと存ずるのであります。
  83. 一松定吉

    ○一松定吉君 これは私はとにかく検事の将来の身分に関することですから、今あなたのおつしやるようにあいまいにこれを解釈して置くととはできん。私も司法官出で、もと検事をした男ですから、やはりこういう点は明確にして置いて、後日争いの起らないようにしなければならん。今あなたの御答弁によると、審査会が免職しようという時分に免職しなければならん、免職せよと言わない、審査会の審査にかけたときに、これは職務を行わせることは少し無理だから暫らく停職せしめようという決議をした、そのときにあなたがこれを見て、これは停職することが正しいということであれば二十五條で行ける。これは停職させようというけれども少しこれは無理だ、やはりこれは免官させなければならんと思つて免官させられない、二十五條審査会の符申がそうならんから……そこで審査会というものがいわゆる人事問題を愼重に取扱うために、法務総裁が自由にすることができないためにこれは設けた規定であります。それはあなたのように二十五條では検察官というものを全部称して検察官というのだから、検察官から検察官にかえることは二十五條の制裁ではないのだ。二十三條では検察官というものは、いわゆるあなたの考えだとすると、検事検察官でないかのごとき考えを持つていらつしやるようですから、この問題が起る。これは解釈問題、意見の相違ということではない。これは二十三條の三項の明文にちやんと書いてある。佐藤意見長官免官するときにかけるんだということは、審査会の答申に限りませんよ。だからして私はそういうときには二十三條の規定によつて審査会にかけて、審査会の審査によつてその答申を基礎にして法務総裁が適当な措置をとることがいいのであるのに、なぜそれをなさらなかつたか。こう言つたところが、法務総裁はそれはそういうことをすると免官させられるから困る。免官だけじやないじやないかというのが今追加問題が起つて来ている。おれは木内を免官させたくないというなら、何も二十三條の審査会にかけて免官するような必要はない、これはやはり停職だけでいいのだということであれば、法務総裁免官はさせないでも済むわけです。だからして法文の解釈をこれは曲解して、そうして自分に利益のあるような解釈をされたら検事も困る、これは明らかにして置きたい。
  84. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) くどいようで恐縮でございますが、内閣と申しますか、政府側から罷免について発動する場合がこの二十三條の第一項の規定でございます。次に只今の御指摘の第二項の規定は、一号は三年ごとの定時審査、それから二号は各検察官についての随時審査ということでございまして、只今の問題になつておるような事柄にはちよつと適合しがたい場合と存じます。第三号は検察審査会のほうから「職権で各検察官について随時審査を行う」ということになつておりますし、かたがたこの二項の場合は、只今の問題には縁の遠い條文ではないかというふうに考えております。従つてこの際は一項の問題としてお考え頂ければいいのではないかというふうに考えております。
  85. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると、二十三條は内閣の場合に限ると、こういうのですか、あなたのおつしやる二十三條の第一項は……。内閣ということは何も書いてないじやないですか。
  86. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) それは内閣は余計ですけれども、任免権者が発動いたします場合には、イニシアチーブをとつて任免権者が発動いたします場合が第一項の問題でございます。それから第二項のほうは、只今申しましたように定時審査と随時審査というようなものでありまして、事柄が多少違つておりはしないか、具体的な問題には当てはまり得ない條項ではないかということを申上げたのであります。
  87. 一松定吉

    ○一松定吉君 つまり二十三條は法務総裁のそういう発動が認められておりますね、免官のときに法務総裁の勧告を経てその官を免ずることができる、これは法務総裁です。その二項はすべて検察官について「三年ごとに定時審査を行う場合」、これは検察官関係はない。その次の二号は「法務総裁の請求により各検察官について随時審査を行う場合」、即ち法務総裁が随時審査を請求する、その随時審査を請求するのに何も官を免職する場合に限るという規定はないじやないですか。第二号、それから第三号は「職権で各検察官について随時審査を行う場合」、これはいわゆる適格審査会の職権でやる場合ですから、二号の「法務総裁の請求により各検察官について随時審査を行う」ことのできる場合はなぜにこれは当てはまらないですか。佐藤さんどうですか。
  88. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) たびたび繰返すことは御遠慮いたしますが、要するに最初のあれのお答えに戻りまして、これは免ずるのだから罷免しなければならんという点、仮りに先生のおつしやるように二項が問題になるといたしましても、依然として罷免するという言葉があり、免ずるという言葉がある以上は、転任の場合等は問題にならんであろう、そういうことは最後のしめくくりの問題になると思います。
  89. 一松定吉

    ○一松定吉君 そういたしますと、二十五條職務停止される場合はどういう場合ですか、誰がやるのですか。
  90. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) これは「前三條の場合を除いては」とございますから、二十四條で剩員がある場合、それ以外は意思に反しては職務停止はできない。
  91. 一松定吉

    ○一松定吉君 二十四條は剩員があるときですよ。剩員があるときにはそれに任ぜるけれども、剩員があるときというのは二十四條の場合に職務停止をするということはありません。「前三條の場合」ですから、前三條はみな含むんじやないですか。
  92. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) それは先ほど申上げましたように、前三條を数えて、二十二條と二十三條と、これはその官を失う場合の特例になるであろう。それから二十四條は俸給減額になりますから、例外になると、又欠位を待たせる、半額で欠位を待たせるのでありますから、恐らく職務停止されるわけでありますから、職務停止の例外にもなつておるというふうに考えます。
  93. 一松定吉

    ○一松定吉君 二十四條は、併しながら剩員のときにはこれは書いてある。「検察庁の廃止その他の事由に因り剩員となつたときは、法務総裁は、その検事長検事又は副検事俸給の半額を給して欠位を持たせることができる。」欠位を持たせるであります。欠位を持たせるということは、一方で職務停止ということですか。
  94. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) これは検察庁が廃止になつておりますから、勤務すべき場所がございません。従いまして、当然職務停止されることになると考えております。
  95. 一松定吉

    ○一松定吉君 それは当然停止される場合もあるが、併し停止しなくて、ただ欠位という場合ですね。それは職務を行うことができないとか何とかいう場合ではないのですか。意思が薄弱だとか、病気だとかいうことで特に職務停止されるということは、二十四條に限らんと私は思う。前三條の規定とあるのを、二十四條に限つて解釈になるからそういう解釈になる。そうすると、審査会の権限というものは、免官のときだけに審査会の議に付されるのですか。
  96. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) この二十五條は、その意思に反する場合でございますから、病気等によりまして休みたいと申出て来られる場合は、これ以外の問題になるわけでございます。従いまして、二十四條の場合、今の意思に反して欠位を持たされるということは、一種の職務停止というふうになると思います。
  97. 一松定吉

    ○一松定吉君 その意思に反してということは、それはもうその官庁が廃止されるから当然お前さんは仕事をする場所がないのだから、月給を半分やるから職務のできるまでお待ちなさいということであるわけですね。これは意思に反してやるというのは、それほど強いのです。本人はやりたいと思つているがやれない。いわゆる審査会で、お前のやり方はよくないから暫らく待てとこう言われたときに、審査会の採決によつて、この意思に反して職務停止されるのではないのですか。審査会というものの職権によつて職務停止ということはできるのですか、できないのですか。それを一つ答えて頂きたい。
  98. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 結局元に戻つて参りまして、この二十三條の審査会にかかる事項はどういう事項かということになるわけです。それは今の免ずると、罷免という言葉から、それに盡きるということでございます。
  99. 一松定吉

    ○一松定吉君 それでは、停止される場合にはかけられないのですか。職務停止をさせたい、この人間はいかんからという場合には、審査会にはかけられないのですか。
  100. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 私はかけられないと思います。
  101. 一松定吉

    ○一松定吉君 然らば、そういうときにはどういう処置をとるか。
  102. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) 本人意思に待つ以外には方法はないと思います。
  103. 一松定吉

    ○一松定吉君 それでは併し職務を荒廃することになつて、この立法に欠点があるということをあなたはお認めになるのですか。
  104. 佐藤達夫

    政府委員佐藤達夫君) この二十五條と言いますのは、今朝ほど申しましたように、検察官身分保障するのが主眼でございますから、その線からすべてができておるので、その意思に反して停止されるようなことがないということを保障しておるのであります。従いまして、この保障は、特に明文を以て例外のない限りは、このまま素直に解するほかはないように思います。
  105. 一松定吉

    ○一松定吉君 それはいかんよ。審査会というものがあつて、そうしてこの人については職務停止しなければならんということは、審査会の審査によつて、それを法務総裁に申告する。法務総裁は成るほどと思うと、その審査会の採決を待つて停止するのです。そうしなければ、一向意味をなさんことになつて、私どもはそういう法文に欠陷があると認めなければならん。そういう除外規定があれば、あなたの解釈は正しいのですよ。除外規定がない限りは、審査会がこの審査をする職権を持つておると、こう私は解釈をするのでありますが、これは解釈の相違ですから、これ以上は申上げません。
  106. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 今ちよつと重大な御発言がございましたので、ちよつと私の考えを申上げて置きたいと思います。検察官職務停止ということにつきましては、剩員の場合に止むを得ず職務停止を行うことは、二十四條においてその意思に反しても止むを得ないという明文を以て認められております。その他の場合におきましては、本人意思によつて自発的に欠勤をいたし、これがために事実上職務停止状態になるということはともかくといたしまして、官の命令によりまして、職務をとるべからずということを命ずることは、許されないと存じます。そうして現実に職務をとるに適しない状態にありまする場合におきましては、審査会の議を経まして、これを罷免する以外に途がない。これが今日の検察官職務停止についての法務庁の取扱の基本的な考え方であります。
  107. 一松定吉

    ○一松定吉君 いわゆる職務をとることができぬときに停止を許さぬという根拠はどこですか。
  108. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) これは二十五條に、その意思に反して職務停止をしてはいけないと、二十五條の明文によつて禁止されております。
  109. 一松定吉

    ○一松定吉君 それは二十五條の、審査会の採決によつて許されればその意思に反してもできるのです。前三條の規定によつてと、それはどうです。
  110. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 二十三條は罷免に関する場合の規定でございまして、職務停止に関する場合は二十三條には含まれてありません。
  111. 一松定吉

    ○一松定吉君 その根拠はどこにあるのですか。そんなことは二十五條には書いてない。
  112. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 根拠はこの法文自体が根拠でございます。
  113. 一松定吉

    ○一松定吉君 その法文自体が今論議の中心になつておるのですよ。
  114. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) それではこれ以上はもう御勘弁願います。
  115. 一松定吉

    ○一松定吉君 それでは最後に一つ、今のあなたの御意見は御意見として承わつて置きましようが、そういうように疑問があるのです。ですから、そういう疑問を解消するために、これは一つ法務総裁という建前からしても、検事を安心せしむるためにも、一つこれらのものを明文を以て明らかにするか、或いはこういうようなときには、大阪に行くはずであつたのをいやがらせに札幌にやるというようなことをせんで、そうして本当に検事が喜んで自分から退職するとか、或いは転換するとかいうような方法をおとりになることがいいのですよ。それだけのことをあなたの御参考のために私の意見を申上げて置きます。これで質問を終ります。
  116. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 一松先生、今朝ほどの委員会においでになりませんでしたと思いますが、私先生の、検察官がその身分に関して十分なる安心を持つて、そうして嚴正公平にその職務を遂行することのできるようにするということが必要であるというこの御意見につきましては、私もとより全く御同感でございます。そうして従来からも御承知通り検察部内におきまする人事の実際は、あらかじめ事前に交渉をいたし、でき得る限り事前に同意を得て転任を命ずるという慣行が確立いたしておりまして、そうして私はこれは検察人事の公正の上から言つて絶対に尊重すべきものであるという考えの下に運用をいたして参つたのであります。ただ今回のことは極めて異例の場合でございまして、現在、将来に亘つてさようなことをしようというつもりは当初より毛頭なかつたのでございまして、而も幸いにいたしまして、私が一時決意をいたしましたる異例の措置はこれを実行に移すことなく、従来の慣行を存続せしむることを得たことを、衷心より喜びといたしておる次第でございます。私といたしましては、今後においてもでき得る限り従来のこの慣行を尊重しなければならん、又尊重することが私の重大なる使命の一つであるということは、固く決意を持つておるのでございまして、この点は適当なる方法を以ちまして検察官諸君にあまねく周知して頂きたいと、かように考えておるのであります。なお又、これも午前中に釈明をいたした次第でありまするが、大阪承知しないから腹いせに札幌へやつたというお言葉がございましたが、私は次長検事と喧嘩いたしたわけではないので、腹いせをする必要はなかつたのでございまして、これは全く人事行政に基きまする技術的な要請から、止むを得ず、気の毒ではありまするが、かような任地を選んだのであります。詳しくは速記録によつてよく私の心持をお酌みとり頂きまするよう懇願をいたします次第であります。
  117. 一松定吉

    ○一松定吉君 今のあなたの御決意のほどを承わりまして、私も非常に嬉しく感じます。是非一つそういうような方針でやつて頂きたい。ただ大阪の問題を札幌云々という点については、これはまあよく一つ考えなさい。これは世間で非難があるのですから……、私もここで議論はしませんよ。大阪というところは、東京の検事長よりも大阪検事長のほうが司法部内ではむしろ尊ぶところなんです。そこにやるということを大阪検事長承知しなかつたために札幌にやるということは、木内君の心情を思つてみると、同情に堪えんのです。札幌というところは、高等検察庁のあるところは七つですか、そのうち一番悪いところです。東京を除いて、大阪は一番よいところです。その一番よいところに行くはずであつたのを、札幌にやるということは、何といつても人間としてはそれは忍びないことですよ。あなたが行政上のいろいろな手続のためにおやりになつたということは、それはいいでしようけれども、併し木内君の心情を察してみると、又司法部内における地位ということを知つておる我々の立場から見ると、札幌というところは、高等検察庁のあるところでは一番悪いところです。そこにやるというのですから問題が起るのですけれども、そういうことについて、私はあなたを攻撃はしませんから、どうか将来そういう問題については一層愼重におやり下さるようにして、私はあなたが司法部内に盡されておる御功績はよく認めておりますから、そういう方針でおやり下すつて、ますます司令部のために一つ御盡瘁賜わらんことをお願いすると、こういうことで質問を打切ります。
  118. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 午前の法務総裁の御説明によりますると、塩野系の派閥は法務総裁つとにこれを認めておつて、これを何とか解消しなければならん、派閥解消について就任以来非常に肝胆を碎いておつたということは、しばしば午前以来当委員会において総裁より説明のあつたところであります。そこで申すまでもなく、検察部内において派閥抗争が堂々と久しきに亘つて行われますることの弊害は、これはもう一刻も速かに解消しなければならんことは、全く私ども同感であります。そこで総裁が就任以来これを解消するため応、先ず一方の代表者とも見るべき、反塩野系の代表者と見るべき木内次長検事地方に転出せしむることが必要である、同時にその一方の頭目と見るべき岸本氏を次長検事に起用することが、事を解決する上において、やがて双方握手せしむるの手段一つとして適当であると考えたという御説明が先ほど来あつたのであります。この派閥抗争に対する弊風については、総裁も、又検事総長も全然同感だと、同時に又これを解消することについても、検事総長は全然法務総裁とその考え方を一にしておる。ところが検事総長のほうでは、いきなりすぐこの木内次長検事地方に転出せしめて、そのあとに岸本氏を起用することになれば、余りにも見えすいたやり方ではないか。一方を転出せしめ、他方を起用するということになれば、やがて結局この派閥が露骨になるだけであつて、却つてよくないのじやないか。故に若干の間、この間何かほかの人を一応次長検事に置いて、然る後に時を得て又更迭するということのほうがいいんじやないかという意見検事総長が漏らしておつたということを先ほど御説明がございました。恐らくさように、やはり私ども新聞を通じて検事総長意見もそういう意見つたろうと私思います。ところが又一方総裁が就任以来この弊風を根本的に芟除しなければならんという考えの下に、木内氏の更迭に非常な努力を重ねて来た。数カ月に亘つて本人の説得に努めたけれども、応じない。又大阪転出を申出ても、応じない。結局まあ手のつけようがなくなつた。そうするというと、依然として検察部内におけるこの派閥抗争というものの弊風を除くことはできないのであるから、これはどうしてもこの際自分は職を賭してでもこれを解消せしめなければならんという悲愴な決心総裁が持つに至つたということも、先ほど来の説明でよくわかりますが、併し木内次長検事に対して総裁がそうした立派な理路整然とした理由に基いて一つ人事行政を行わんとすることを、如何に説いてもそれに応じないというその木内次長検事態度に対しましては、これは相当にその監督者として又考えなければならんことであろうと思います。この意味において、午前にも私が申上げましたことは、それだけの有力な理由を備えておるものならば、一体この検察官適格審査会というものにかけて、そうしてこの審査会の採決に待つという方法が一番合法的であり、穏健ではなかろうか、こういうことを午前中からも申上げたのであります。先ほど来の御答弁によりますると、木内氏が大阪にも転出を肯んぜない。そこで札幌に転出することに内定したのは、到底検事長に転出ということを強行しても、やがては木内氏がその検事長としてとどまるようなことはないのだと、その命令に服するということについての見通しは全然絶望であるとの御答弁が、午前中以来しばしば繰返されておりましたね。さすれば、先ほど来一松委員の質問に対する、二十三條の規定によつて、若しも検察官適格審査会のほうで以て不適格だということの結論を見たときには、罷免せなきやならん。罷免せなきやならんが、併し自分としてはまだ木内次長は有用な人であるから、なお検事長としてとどまつてもらつて、それで検察事務のために大いに努力してもらいたいという希望を持つておるから、検察官適格審査会には自分のほうではかけなかつたのだというふうに先ほど来答弁が変つてつたのです。これは恐らく政府委員として、委員会において一方が尋ねられるというと、他方がこれに対して何とかして責任を逃れるということで、互いに言い合いをするようなことになつてしまうが、これは得てしてあり勝ちなことでありますから、私は強いてそれをかれこれ申すのではありませんけれども、何だか質疑応答の間に邪道に入つてしまつたような気がしてならない。若しも言うがごとくに、検事長として木内次長検事検察界にとどまつてもらいたいという大きなる希望を持たれておるとするならば、大阪の転出を慫慂しながら、これをも拒絶しておるのであるから、恐らくは転出を結局強行しても、やがて木内次長検事の承認を得ることはできないという見通しがあつたから、発令してもあとの埋合せに困るから、結局札幌のほうに転出することに内定したのだと、こういうお説がございました。これは明らかに前の午前の私に対する当委員会のお答えと、只今一松委員との質議応答に対するお答えとの間においては大変雲泥霄壤の差があるように存じます。この点は一体どちらが本当であるか。そこで固くなつていろいろ質問しますと固いお答えが出ることになるのでありますけれども、私は大体午前以来の当委員会において総裁の答弁といい、或いは又長官の御説明等も承わつて思いまするに、結局総裁は派閥抗争の一方を拔本塞源の途をとつて断乎として肯んじざればというのか、肯んぜずして結局やはり辞任ということの結論に行くという御見通しがあつてなされたのではないかというふうに先ほど来から気がしてならない、というのはやはりこの検事総長の言われるごとくに、両者相対しておりまする場合に、一方を他に転ぜしめて、その後任に一方の又代表を据えるということ自体がすでに非常な大きな無理がある。そこでその無理をそのままやるということはやがて又はつと行詰まつてしまうから、この間むしろ緩衝地帶を置いておいて、順次円満にその異動ができるというふうにすることのほうがいいのじやないかというような検事総長意見のほうが翫味する価値があるような気がどうもする。甚だ失礼な言葉を用いるようでありますが、総裁はお若いから大いにその元気に任せて一挙に拔本塞源の途を講ずるということを狙いに出発したのであるか。一応この点を承わつて置きます。
  119. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) これは非常に人事をやる際の構想と申しますか、責任者としての主観的な要素も多分にあるわけでございまして、必ずしも私の考え方について完全な御了解が願えるかどうかは別といたしまして、私の考え方といたしましてはこれによつて派閥を拔本的に解決するということを飽くまで困難と考えておつたわけであります。そうしてこのことは佐藤総長との話合いにおきましても、数カ月の間にいろいろ話合いをいたしたのでありまするが、全く考え方が一致をいたしておる。ただこれを如何にして実現するやその方法において多少見解を異にいたしております。併し私は第一次的な責任者でありまする検事総長にできるだけこの問題の処理を委任することが第一段として適当であると考えましたので、暫らく自説を撤回いたしまして、検事総長の抱懷する構想によつてこれを実行しよう。こうして昨年の十一月以来、先月終末に至りまするまで検事総長の構想そのものを採用いたしました。そうしてそれによつて解決を図らしむるよう私も参加いたしますと同時に、検事総長の全面的な努力によつて実現を図ろうと企図いたしたわけであります。然るにこの検事総長努力が全く水泡に帰しまして、検事総長とされましてはこれ以上打開の途は急速には得がたい。洋行をされまして帰つて来られまするまで待つて欲しいということでありましたが、これは洋行するという当時からこの問題はそれまでに処理しようという方針を二人で話合つてつたのでありますが、それを待つということは、それは私としては心許ないわけでございまして、然らば私の構想によつて私自身の責任においてこれをやつて行こうということに相成りまして、この検事総長が不可能なりという見通しを私に持つて来られましたときを境といたしまして、私の責任において実行をいたすということならば、私が最も適切なりと考えておりましたる、私自身の構想をやる以外に途はない。こう考えまして、そこで岸本検事次長という線を打出してこれを強行いたしたのであります。ただ併し木内君のポストにつきましては、当初よりでき得る限りは大阪にいたすべきものであると、こう考えました。併し大阪は不幸にしていろいろな事情のために直ちにその地位が空くということは期待できませんでしたが、名古屋あたりに行つて暫らく大阪の空くのを待つてもらう、こう思つたのでございますが、午前中申上げましたごとく、私のこの案というものは木内君が最後の瞬間まで同意を與えないということを前提にいたしました場合の案であるが、木内君か同意をいたすということになりまするならば、その場合にはこれは話合いによつて案が当然変つて来るわけであります。私といたしましては、最後まで私の責任と構想によつてやるという場合に、木内君の同意というものが当然予期せられないという場合における最後の案というものをきめていたわけであります。でありまするから、これは勿論閣議に上程して実行すべき案の内容というところまでに至つておりません。併し止むを得ざればこれを実行しなければならんということは考えておりました。併しこれは当然実行されるということは必ずしも考えておりませんでした。木内君の同意が與えられまするならば、当然案は改めらるべきものであるということを考えており、又心中において考えておりまするばかりでなく、三月六日の閣議に上程するという計画を通達いたし、この案の内容を示しましたる後に、その最後の瞬間に至りまするまで総長、木内君において十分協議熟慮さるべき十分なる時間を與えて、土曜日の晩に人を通じて私が若し木内君の同意が得られる場合においては、木内君の任地は当然札幌というわけではないのでありますという旨を通じたわけであります。又佐藤総長におかれましても、私のその考え方をこれが最後的な案ではないという事情を十分に承知せられまして、最後の瞬間に至りまするまで木内君の同意を得られて、木内君に真に適切なる地位を定めまするように努力を続けられておつた次第でございます。
  120. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そういたしますと、総裁が、検事総長に輸出の説得を依頼いたしまして、総長のほうからもう絶望という返事を受けた後に、初めて岸本いう線が出たのですか。或いはすでにその辺の後任は岸本ということの内意を総長に告げて、総長はその事情を知りながら交渉に当つたわけなんですか。
  121. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 当初から成るべく早い時期に岸本にしたいということ、それからそれについては佐藤総長も全く同意見であつたのであります。併しこれを実行する時期、方法において、佐藤君と私は見解を異にいたし、木内君から直ちに岸本君に行くことなく、その間に第三者を入れることがむしろより効果的であると、こういう佐藤君のお考えであります。私はむしろ直接にいたすことがより効果的であるという考えでありました。この二つの考え方について、双方いろいろな角度から話合いをいたしたのでありまして、私は爾来一貫いたしまして私の考え方がむしろいいと、こういう考えを捨てなかつたのでありまするが、併し実際の仕事に当りましては、第一次的の責任者が真に信念を持つて確信を持つて説得をいたすということが必要でございます。従いまして、検事総長に暫らく全力を挙げてやつてもらいます以上は、検事総長の構想を尊重すべきものなりと、こう考えまして、第三者を木内君の後任にいたすという線を打出しました。それが十一月のことでございます。そしてそれ以来二月末になりまするまで、私は一貫いたしまして佐藤総長の真に是なりと信じておられるところのこの第三者を入れるという構想、それによつて佐藤総長が全力を挙げて木内君を説得するという線を外したことはございません。私が最後に、佐藤総長がどうしても所定の期限までの間には木内君の承諾を得ることは不可能である、こういうことを復命せられましたので、それ以後私みずからの案においてこの問題を処理いたしまする以上、当初よりの私の考えに立ち戻りまして、洋本という線によつてこれを私の案において断行いたしたいと、こう考えるに至つた次第でありまして、御質問のごとく、総長が最後的な回答をもたらされた後において、私は具体的な問題として岸本君を考えた、こういう次第であります。
  122. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 非常にその点は私は明瞭になつたわけです。今初めて伺つてわかりましたが、最初から木内氏の地方転出を望まれ、その後任に洋本氏を直ちに起用したいという案で出されたとするならば、私は初めから片一方の旗頭である木内次長をこの際やめざせるという計画の下になされたのではないだろうかということを私は実は非常に疑いを持つのであります。只今の御説明によりますと、やはりそういう考えを持つてつたのであるけれども検事総長からそれはいけないから第三者を間に一人入れて、極めて微温的な方法によつて所期の目的を遂げるようなことによつて、一旦それを肯定されて、若干の期間その線に沿うて総長が努力された、而もこれに応じなかつた、それならば仕方がないから元に切換えて、自分の考え通りに断乎としてやるほかはないのだ、こういうことに至つたという御趣旨に伺つてよろしうございましようね。
  123. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) さようの通りでございます。
  124. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そこでそういたしますと、今度最後に札幌行きの問題ですが、この問題は先ほどの説明によりますると、一つのさぐりと申しましようか、或いはゼスチユアと申しましようか、とにかく最後的な決心でないけれども、然らば自分のほうに権限があるのだ、本人の承諾を得るために情理を盡して承諾を得んとして努力を拂つた、然るにもかかわらず、木内氏は頑としてこれに応じない、実にけしからんというようなことから、そこで然らばもう一度元に返つて法務総裁権限によつてこれを強行する、そうするというと、やがて自分のほうとしては札幌に木内氏をやろうというようなことの相手方に意思表示というか相手方に感じせしめることは、一つはやはり、そうして木内次長の反省を求める手段としてその構想をとられたのでありますか、その点を一つ……。
  125. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私は人事に当りましては、如何なる場合においても自己の個人的感情を人事の上に反映せしめるということはなすべきものではないという考えを持つております。従いましてこの折衝と申しましようか、手続の過程におきまして、勿論私も人間のことでございまするから、いろいろな感情はそのときどきにあつたことは事実であります。これは決して否定いたすわけではございません。併しながらこの異動の案というものはこれはあらゆる角度から検討いたしまして、私の個人的な感情は一切まじえたものでない。これは事務当局の各角度からする事務的な検討を経て、そうして私自身の信念としてこれを採用いたしたのであります。そうして最後にただ札幌を一応の任地として内定と申しますか、内示をいたしたわけでありますが、これは今朝も申上げましたごとく、木内君の承諾が最後まで得られない場合においては最後の責任において実行いたす案でございます。その場合には前提となつております木内君の不承諾ということは、当然その発令後において木内君が実際任地に赴いて職務をとるときに、種々なる故障を生ずることがあるということも当然予想しなければならない、その場合において発生いたしまするいろいろな困難を最小限度に局限いたすということのためには、一応の木内君の任地というものを札幌、或いは高松、この二つのどちらかにして置くということがこれは人事の技術の上から来る要諦なのであります。私の考えておりました案は、これはたびたび申上げました通りに、木内君の不承諾ということが前提になつております。そうして承諾する場合においては、木内君の任地には十分考慮するということは、最後的な回答を総長を通じてもたらされるときに十分なる余裕を置きまして、事前に十分に先方に通じてあるわけであります。この間のいきさつというものについては、当事者間において何ら考え方には行違いはなかつたということを今以て確信をいたしておるのであります。そして私は蛇足ではございますが、この案を実際に私が実行に移すという上から申しますると、これが実行をいたしまする過程において、又実行の後におきまして、これは検察官人事の上におまましては真に木内君の意思に反してこれ々実現いたした場合においては、これは非常に重大なる問題であると思います。従つて当然この案は国民の面前におきましてあらゆる角度より批判され、検討さるべきものであるということを十分に覚悟いたしております。従つて私自身の主観といたしましては、この内示しましたる案の作成に当りましては、一身の感情であるとか、或いは一身の好悪であるとか、或いは一身の利害ということはもとより、政党政派の一方的な要請、そういう一切のものを捨て去りまして、純粹に日本の国民のすべての人々の前にこの案を提示して、あらゆる角度よりするところの批判に対して十分に堪え得るものであり、そうして私はこれを実現するということが検察の強化刷新のために、真に国家国民のために必要欠くべからざるものであるという信念、この信念に基きまして、私はこの案の内容はあらゆる国民の批判に対して堪え得るものである、少くとも私といたしましては純粹なる意味において最善なるものである、こういう確信を以てやつたわけであります。従いまして、輿論も必ずやこれを認めてくれるであろうし、一切の障害、あらゆる反対運動というものも案自体の値打というものによつて、案自体を支持するところの輿論、或いは識者の批判と申しますか、その力によりまして必ず国民の前で堂々とこれは実現できるものである、こういう確信を持つて出発をいたし、又その確信の下に終始いたしておつたということを附加えさして頂きます。
  126. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 この人事の実行に当つて、純一無濁の気持を持つて常に臨まれたということをしばしば繰返されて、この委員会総裁は言われましたし、又只今検察事務の公正を期さなければならんということに対する御意見も伺つたのでありますが、併しここでだんだんと午前以来この問題に対して検討を加えて参つたのでありまするが、要しまするにこれは三つの私はやまがあると思う。ということは、法律解釈の相違点についてはこれは別です。これはいずれどちらかにやはり解決しなければならんことと思いまするが、それは別といたしまして、今度の人事に関して私どもこそ本当に岸本さんがどんな人であろうか、又木内さんがどんな人であろうか、一切の関係がございませんが故に、誰を保護する、誰をどうするというようなことはありませんが、ただ客観的に木内氏と、それから岸本氏とは両者共に塩野閥を中心とする両巨頭である。そこで多年反塩野閥、その反塩野閥が跳梁跋扈して部内に非常に楓爽として君臨しているということについては、私どもも実は司法関係としていささか承知いたしております。又木内次長の口から岸本氏の塩野閥であることについての、適格でないということを直接に私自身も聞いております。それであるからして極めてこれは公知の事実であります。このときに当つて総裁が一方において木内次長を他に転出せしめ、それに代えるに反対の岸本氏を直ちに後任に持つて行くということは少し荒つぽ過ぎやせんか、又一方においては大阪転出を慫慂しながらこれを拒絶したことによつて札幌の検事長のほうに今度は変えて行つて、最後の悲壯なる決心、職を堵してもと言われる職を堵しての悲壯なる決心を強いられた総裁は、或る意味からいうと恫喝、そういうようなふうに感ずるくらいの強さを木内氏に見せて、そうしてその反省を求めたというのであるから、結局やはり詰腹を切らせることに相成つたのだ。要するにこれは一体所定の計画に基くことでないだろうか。さればこそ今木内氏が辞職したときに、今朝来もしばしば申されましたが、これは誤解を他日に残す言葉と思いますから特にこの際用いるわけでありますが、幸いに職権に基く人事を行わずして済んだということは非常に幸いであるという言葉であるが、幸いとは何ぞや、いわゆる木内次長検事がやめたということが幸いということになる。如何にもそれは語句が適切でない使い場所のように思います。これらが相合してやがて今度の人事について、結局あなたの言われる純一無濁の気持だということは、あなた自身がお考えの下にやられたことは、今朝来の精細に亘る説明でもよくわかりまするが、客観的の、大ずかみの点についてそういうふうに三つも四つも何だか当初以来これは木内氏を詰腹を切らせる、結局追込みの戰術によつて所期の目的を遂げたからあなたは幸いを得たというようなふうに見られるような嫌いがあります。検察人事の公正と将来に及ぼしまする影響等とをお考え願いまして、誤つた見方をしておるものに対しましては、一つ十分にあなたからやはり満天下に向つて明らかにして頂きたいことは、やがて今度はこのいわゆる検事長異動に続いてなすべき大異動が予想されます。これについて若しも総裁人事行政に対する一般の危惧等がございますると、実はかえがたき地位にある検事の職でありまするから、及ぼしまする影響が非常に大きい、覆水盆に返らざることになる虞れもございます。これがために歴代総裁が司法部内の、殊に検察部内の人事の行政が非常にやりにくいことは恐らくひとり大橋法務総裁だけでなく、歴代総裁の非常に悩みとして来ておることと私ども承知いたしております。どうかそうした大きな異動等をも将来されまする場合に、部内の不安を一掃されるように、ただ單に儀礼的に、部内は極めて平靜に喜んで晏如としてその職にあるということの儀礼的の言葉でなく、一つ本当に有終の美を納めるべき気持を以て言つて頂きたいということをこの際申上げて、私の質疑を終ります。
  127. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) お尋ねを頂きました点に限りお答えを申上げます。  第一は、木内君の転出を考えた動機でございまするが、これは私は当初から申上げましたる通り、木内君の転出と岸本君の次長検事ということは私の構想においては、これは切離した問題ではなかつたのであります。私はこれは木内君を追うて岸本君を迎い入れるというような考えはない。木内君についても岸本君についても私は個人的には旧知ではなく、何らの恩惠もない人たちです。ただ司法部内の派閥についていろいろな噂を聞きました。かくのごとく派閥の存在というものが国家的にも大なる不幸をなす原因ばかりではなく、検察官の個人的な将来にも非常に憂慮すべき不幸を招来すると、こう考えましたので、根本的にこれを解決するということが私の使命の一つであると確信をいたしたわけであります。従いまして大阪に木内君に出てもらいたいということは、大阪において、中央において得ることのできない第一線の検察事務についての修練を積み、第一線において中央の職務から暫らく離れておりました岸本君を中央に出して、これに中央においての修養を続けてもらいまして、両者いずれも検察界において得がたい人材でありますから、これらの諸君が、或る者は中央に、或る者は地方に……、これが検察の仕事というものが非常に多岐多端に渡る仕事でありますように、中央の事務についでの專門家、地方についての專門家というものが、必要性が限られたる検察の仕事でありまするからして、中央の検察官としての專門家、地方検察官としての專門家というようなことはない、中央において練達ならば、地方においても練達であり、地方において練達の人は、中央に来て初めて検察に貢献できる。中央、地方においてそれぞれの経験というものは、併し必ずしも同一でありません。従いまして、中央、地方において或る期間ずつ交替しながら、中央、地方を通じて、全般的な検察事務について修練をするということが、将来の検察事務の首脳者として絶対に必要なことである、そうしてそれが望ましいことである、両君個人のためにも望ましいことであると同時に、我が国の検察界の将来のためにも望ましいことであるということが根本的な考えでございまして、今一人は地方で、一人は地方より中央に参る、次の機会においては地方に出たものは中央に戻り、只今中央に迎い入れられたるものが次の機会においては地方へ行つて協力する、この二つの流れの代表者が本当にお互いの立場というものを十分に了解をいたし、真に心から打ち解けて協力をして行く、そうしてそういう美しい関係ができ上つたということを検察官の諸君はもとより、すべての国民の前に明らかにする一つのゼスチユアといたしましても、私はこの両者の交替ということが最も効果的な方法である、こう確信をいたしたわけであります。そうしてその考えの下にこれが実行の方法について検事総長といろいろ協議いたしましたる後、暫らく検事総長の案に同調して、検事総長をしてその責任において実現せしめる、これに私は全面的に協力をいたして参つた、こういう次第でございまして、当初より木内君に詰腹を切らせるがごとき考えは毛頭なかつたことは申すまでもないのであります。そうして先ほど来私の申上げた言葉のうち、幸いにも測らざる事態の出現によつてこれが解決をいたした。私がこう申しましたのは、最悪の場合においては、私が最も大切な事柄として極力嚴守し、維持しようとしておりましたところの従来の検察官人事に関する慣行というものがこのたび止むを得ざる事態による例外的な措置といたしまして、私の解釈いたしまする検察庁法二十五條解釈といたしまして、従来の慣行をここに例外的の措置として一時破らなければならない、これは私としては非常に不本意なことであり、この不本意なことをやらないように私は八カ月の間努力をいたして来ておつたにもかかわらず、それが遂にそういう最悪の事態に至つた、これは私といたしましては非常に不本意なことであつたのでこれが不測の事態によつて避け得たということはその意味において仕合せであるとこう申したわけでありまして、まあ検察界における至宝の一人として、かねて敬意を拂つておりましたる木内君をかようなる事態によつて失うということは、これは私の最も遺憾に堪えないところでございます。これは私の不徳のいたすところと存じまして、誠に心から恐縮をいたしておる次第でございます。
  128. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 法律解釈が午前中以来、二十五條解釈法務総裁としても、又法務庁としてもとられておる解釈が正しいということでありましたら、法の解釈はそこにあるとするならば、これを実行することについてそれほど私は罪悪じやない、それよりもむしろ本人をしていろいろなる手段方法によつて詰腹を切らせるようなことになつたならばそのいわゆる計画こそ非常に恐るべきことだ、だからむしろ私は規定がそういう規定であつたならば、例外も原則もなく、それはむしろやはり規定規定として、どのいわゆる方面においても、法の前には衿を正してそれに従わなければならんものである、だからそれは私は決して幸いではないと思う。本当は私の言うのは幸いの言葉は適当ではない、むしろお使いにならんほうがいいのだ、こういうことを実は先ほどちよつと中に含んで申上げたわけなんです。あなたのほうは幸いだというけれども、片方のほうはやめてしまつて何が幸いだ、詰腹を切らせながら幸いだということは以てのほかだということになつて、あなたの功績は上がるかも知れませんけれども、他方はどえらい目に会う。そういうことはいけない。それよりも法に従うのは万人共に同じだ、だからして、私はその点を誤解されやすいし、だからむしろそういうことはこの際避けたほうがいいのではないか、こういうふうに老婆心ながら申上げたわけなんです。
  129. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 鬼丸委員の御親切な御忠言を感謝いたします。
  130. 一松定吉

    ○一松定吉君 議事進行について、私は総裁に対しまして、共産党の取締等について適当の機会に一つお尋ねをしたいのでありますが、何か総裁が余りお差支えのないようなときにでも……。
  131. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 又連絡いたします。
  132. 一松定吉

    ○一松定吉君 御連絡願うことをお願い申上げて置きます。
  133. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 本日はこの程度で散会をいたします。明日は午前十時から開会いたします。    午後五時十九分散会  出席者は左の通り    委員長     鈴木 安孝君    理事            伊藤  修君            宮城タマヨ君            鬼丸 義齊君    委員            長谷山行毅君            山田 佐一君            齋  武雄君            棚橋 小虎君            岡部  常君            一松 定吉君            須藤 五郎君   国務大臣    国 務 大 臣 大橋 武夫君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君   事務局側    常任委員会專門    員       長谷川 宏君