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1951-05-15 第10回国会 参議院 文部委員会 第34号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年五月十五日(火曜日)    午前十時三十八分開会   —————————————   本日の会議に付した事件 ○産業教育法案衆議院提出)   —————————————
  2. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それではこれより本日の委員会を開会いたします。  本日は産業教育法案審議に当りまして、我々の参考になるために参考人のかたにお越し願つたのでありますが、御陳述を願いまする前に、委員長といたしまして一言御挨拶を申上げたいと思います。  本委員会に付託されておりまする産業教育法案でございまするが、これは議員立法で、衆議院のほうで立案されまして、衆議院を休会前に通過いたしまして本委員会に付託されたのであります。戦後の状況から考えまして、青少年職業教育ということが非常に重要であり、延いては我が国産業立国立場から考えまして、非常に緊急であり、重要であると考えられまするのでございまするが、又一面予算措置の問題、或いは教育基本法なり、学校教育法なり、法体系との関係どもありまして、参議院の文部委員会としては、これは愼重に審議をいたさなければならないという観念で我々進んで参つているのであります。つきましては、この方面の御経験の深い又いろいろと御関心をお持ちであるおかたがたお越し願つて、我々の審議を進める上において参考になる点をお聞かせ頂ければ結構かと思いまして、お願い申上げたのでございまするが、非常にお忙しい中にもかかわりませず、我々のために特に繰合せて御出席頂きましたことを一同に代りまして厚くお礼を申上げる次第であります。  つきましては、本日午前、場合によつては午後にかけて皆さんに忌憚のない御意見を承わり、又場合によつては失礼にあたるかも存じませんが、私たち委員から皆さんがたの御陳述に対していろいろ又重ねてお聞きすることもあろうと思います。そういう点もあらかじめお含みの上でお願い申上げたいと存じます。  御発言の順序は、特に御用がございまして早くお帰りの御希望のかたは先へ願いまするが、さもない場合には公報に載つておりまする順序でお願い申上げ、そうして一通り御陳述願つたあとで併せて皆さんがたにこちらからお尋ねする機会を与えて頂きたい、こう思つております。時間は別にこちらからお願いして御意見を承わるのでございますから、何分でなければならないというようなことは申上げませんが、大体十分でも十五分でも皆さんがたの意のあるところをお盡し頂ければ結構かと存じます。そこの点は皆さんがたのお計らいでお願い頂ければ結構かと存じます。お聞きいたしました上でまとめて又皆さんがたに我々のほうからお尋ねを申上げたいと思います。その点について失礼にあたる段があるかも知れませんが、あらかじめお断り申上げておきたいと思います。  それでは公報に載つております順序お越し頂きのかたからお願いすることにいたします。どうかよろしくお願いいたします。それでは先に矢川さんからお願いいたします。
  3. 矢川徳光

    参考人矢川徳光君) 私矢川でございますが、実は旅行しておりましたところへこの御案内を頂きまして、一昨日帰つて参りましてからいろいろとまあ拜見した次第でございまして、或いは私の頂いた資料についての読み方が足りないところもあるかもわかりませんが、この問題はふだん考えておつたことでもありまするし、大変重要なことだと思いますので、率直にこれから私の考えを申上げて皆さんの御参考にさせて頂きたい、そういうふうに思います。  大体私の考えといたしましては、今日お見えになるかたがたの数から考えまして、まあ最初にいろいろと……、あとで御質問を伺うといたしましても、最初にはまあ十五分かそこらぐらいでまとめてお話しなければならないのかと思いまして、まあメモをそういう程度でこしらえて参つておりまするから、そういう限りについて一通り申上げまして、いろいろ又御意見がございましたら、それに私のほうで御返事するようなことが出ましたら申上げたい、こういうふうに思つております。  私はかねがねまあ教育学のほうに関係しておりまして、まあ教育学者の端くれのようなものでありますが、昨年の日本教育学会にも出ましたし、今年広島での教育学会に出ましても、やはり産業教育という言葉では出ておりませんが、勤労青少年教育というものが非常に重要な問題として取上げられているのであります。発表者のうち特に一人は、定時制高等学校崩懷のことにつきまして、数字を挙げて熱心に研究発表があつた、そういうことを伺いましても非常に肝銘するところがあるのであります。ここで産業教育法というこういう名前になつておりますものにつきましてお話をするのにつきまして、極く一般的な事柄を申上げるのは如何かと思いまするけれども、むしろ産業教育という事柄教育労働との関係の問題だろう、こういうふうに思うのであります。人間をこしらえる上におきましての教育労働との関係の問題、こういうふうに私は考えて見たいのであります。そういたしますと、これは教育歴史の上からも教育現実と申しますと、今日日本においての教育の現れ方、アメリカにおいての教育の現れ方、イギリス、フランス、中国、ソ連といつたような所においての教育の現れ方というようなものと関係があるわけであります。つまり教育歴史の上からも教育理論の上からも教育労働との結合ということが大変重要な問題でありまして、そういう観点から、やはり最初にこの法案の初めに出ております法の目的といつたような事柄考えなければならないと、こういうふうに思います。と申しますのは、やはり基本的な点がはつきりしなければ、運用でどうにでもなると、こういうわけのものでないと思いますので、そういう点を最初に一言申上げてみたいと、こう思います。  要するに人間はただ単に知識だけで人間ができ上るとけ思いませんので、やはり実際の労働といつたような事柄との関連人間の性格ができて来たわけでありますから、この方面から考えまして教育労働、又はここで使われておりますような意味とはやや違うかも知れませんが、産業と、こういつたような事柄との関連考えなければならない。そこでそのような教育歴史でありますとか、教育現実でありますとか、それの理論付けでありますとかというような事柄皆様に申上げるまでもなく、それぞれの時代によつて大変現れ方が違う。明治初年と明治後期と大正と昭和と違うというような事柄は申上げるまでもなく、例えば先般の第二次世界戦争の以前にどういうふうな現れ方をしたか。日本におきましては戦争中にどういうふうな現れ方をしたか、こういつたような事柄考えて見なければ、ここで一般的に教育労働との繋がりというような事柄を申しましても、誠に漠然としている次第であります。併しそういうことを申上げる時間の余裕もございませんので、これから要点だけをちよつと申上げてみたいと、こう思うのであります。  で、産業教育というような事柄につきまして今申上げたような観点から見ますと、やはりこれは産業体制がどうであるか、今日日本におきまして産業体制がどういうふうになつているかというような事柄が掘り下げて考えられなければ、やはり枝葉末節事柄條項に抑えて書き上げて、それでそれの運用の仕方を考えるという小手先の事柄なつてしまう。そういう点で今度の法案考えられました場合に、一体日本のどういつた産業体制の上にこれを置くのかということがはつきりしないのであります。ただ現れております條文だけで見ますと、私といたしましては大変困つた考え方の上にこれは立つているのではないか、こう思います。と申しますのは、やはり教育というからには国民利益になるような人間をこしらえなければならない。教育利益というような言葉を、教育に関して利益ということを使いますと、大変教育を軽視しているように思いますけれども、これは正直に、まじめに考えて参りまして、やはり国家利益国民利益というふうに考えなくちやならないと、こう思います。取り分け産業教育というようなことになりますと、一体産業に従事して働く者は誰かという観点が重要なのでありまするから、やはり勤労青少年と申しますか、そういう人たち利益考えなければならない。つまり実際にその産業にあずかつて自分の体で働いて、それで生活を立てて、それで又知識なり人格なりの向上をみずから図つて行かなければならない人々立場からこれは考えなければならない。そうしますと、今日そういう人たち日本産業体制のなかにどういう状態に置かれているかということを掘り下げて考えなければならないと思います。そこで今日の産業体制がどういうふうになつているかということにつきましては、いろいろお集りの皆様でお考えはまちまちだろうと思いますが、私といたしましては、この法案のどこかにもありますように、日本経済自立というような体制なつていない、そういうふうに考えるのであります。従つてそういう事柄一般的なバツクといたしまして、具体的にこの法案につきましてどう考えるかという事柄ちよつとこれから二、三の要点にまとめてお話してみたい、こう思います。  全体といたしまして率直に申上げますと、私は現在の産業体制というようなものが青少年利益をもたらすような体制なつていない、こう思います。率直に考えまして、いろいろ伝えられておりますように、何だか戦争準備のような体制がやはり進みつつある、これを否むわけには行かない。そういたしますと、そういう中におきまして青少年を若しかしたら戦争に引ずり込むかも知れないような体制の中において産業に従事させるというような点から考えますと、大変これは子供たちの、青少年たち利益に反するものになるように考えるのであります。と申上げましても、初めに申上げましたように、繰返して申上げておきますが、実際に教育労働という事柄を本当にあるべき……まあ、私個人として考えますような、望んでおりますような体制の中に置いて、勤労青少年のための教育をするという事柄には異議はないわけであります。併し今日の具体的な日本状態においてはこれは戦争に一歩足を踏込みそうな状態にある、その中においてこういう法案ができますということは、日本青少年戦争から守るという観点から私は反対したい。従つて全体の法案といたしまして、これが廃棄されるという事柄を、廃案になる事柄を私は御参考に申上げたい、こういうように思うのであります。そういう要点を三つばかしにまとめて主な点だけを申上げますと、先ず第一にこの法案が基本的な出発点といつたようなことから少し疑いが… つまり私といたしましては拜見いたしまして不満足なのであります。と申しますと、今日の我が国経済自立という事柄とこれは結び付けようとされていますけれども、実際に我々の国の経済というものが自立しているかいないかということは大変重要な問題なのでありまして、若しこれがいずれかの国の経済に依存しているものである経済だとすれば、やはりその中で行われますところのこの産業教育というものは、そういう外国への依存態勢教育の面から協力する、こういうような事柄になりまして、大変これは私どもといたしましては、私個人といたしましては不満足なことになつて行く、こう思うのであります。そういう点につきましてはいろいろこの中に、まあ言葉を若し取上げますならば、いろいろのところに協力態勢といつた事柄が出て来ておりますが、そういう点はよほどよく考えなければいけない。この法案の中において考えられているところ、つまりこの文面となつて現われているところから解釈いたしますと、この協力態勢というのは私は反対なのであります。そういう点が一つ、つまり日本産業現状から考えまして、そのような協力態勢というものが教育部面産業教育として持込まれます場合には、やはり下請的な、徒弟的な人間をこさえることにしかならない、私はこういうふうに思います。  それから次に、例えば第一條なんかに出ております勤労に対する正しい信念というようなことがありますが、それはやはり日本経済自立というような事柄をどのように解釈してこの法案ができているのか、又はそれを教育方面に移して見ました場合に、青少年たちにどういうふうにこれを指導しようとしているのかという点に大変疑いが……率直に申上げますと、これは一つ奉仕的な考え方であり、現在の外国依存といつたような経済体制において子供たち勤労青少年たちの力を集めて奉仕させる、こういう形になると私は考えるのであります。そこで現在いろいろと憂慮されているところのこの戦争態勢、こういつたようなものの中におきまして、これが若し実施されるようなことになれば、私の想像するところは或いはあたらないかも知れませんが、過去におけるところの我々の体験から考えましても、これはやはり学徒動員といつたような形、或いは中学生から大学生に至るまでそういつた事柄に捲き込まれる虞れが十分にある。過去においてはそうであつた、今後においてもそういうようになるに違いない、こう私は考えますので反対したいわけであります。若し大学の場合にこれを持つて参りますとするならば、やはり科学的な研究ということが軍事科学研究への奉仕、又それへの勤労奉仕、こういつたことになると思いますので、この法案が立てられて基本的な出発点に誤りがあるとこう思いますから、これを反対の第一の理由にいたしたいとこう思います。  次に第二には、これは教育という部面考えまして本末を顛倒しているように思う、こういうような点を申上げたいのであります。でそれは例えば先ほどもちよつとその一端を申上げましたように、定時制高等学校崩懷といつた事柄、前の青年学校制度時代ほどにも勤労青年教育される機会を与えられていないという点、それから高等学校運営の仕方につきましても、私個人といたしましては、この実業高等学校といつたようなものと一般高等学校といつたようなものとの経営のあり方のパーセンテージについて疑いがある、そういうようなところもありますが、併しもつと基本的に申上げますと、一体我々は憲法で約束されたところの義務教育国庫無償といつたような点を、これを一体どうしようというのであるかというような事柄が私といたしましてはわからない、この法案をこしらえられた場合の観点がわからないのであります。勿論目の前に勤労青年たちといたしまして十分に教育機会を与えられていない人があるのでありますが、実際に又教育体制を立派なものにし、本当に日本の国に役に立つような、殊に日本勤労層に役立つような教育をするという事柄は基本的にはやはり基礎教育が強化されなければならないので、目先のことだけでは解決できない問題がある、そういう点につきまして、やはり今日の産業教育法案というものが外国経済使節団、そういつたようなものによりまして義務教育国庫無償という事柄国庫負担による無償という事柄が殆んど空文に化せられている、そういうものに乗つかつて、逆に申上げますとそういうものは無視されて崩壊せしめられておる、その一方十分の義務教育を、中学校までの十分の義務教育を受けられていない、そういう人々をやはり産業協力態勢ということに引込むために教育面から協力する法案としてこれができて来ておるのではないか、若し万一こういうものが実施されるとするならば、どのようにその運営者が好意的に、善意的に運営いたしましようとも、やはりそれは青少年のために不幸な結果になる、私はこういうふうに考えます。つまりそういう意味で、基礎的な教育とここに現われておりますような産業教育といつたような事柄とはこの考え方では本末が顛倒しておる、こういうふうに考えますので、第二の反対理由といたしたいのであります。第三には、やはり教育と申しますからには人間を作るわけでありますので、この中からどういう人間を作るような目的なり目標なりが出て来ておるかと申しますと、本当は経済自立というような言葉がこの中には書かれておりますけれども、そこには本当の精神が現われていないであちらこちらに分散しておる、今は時間に限りがありますふう申上げられませんが、あちらこちらに分散しておりますからわからん、どういうふうな人間を作るかということは、例えば第三條第五号にあります「産業教育実施について、産業界との協力を促進すること。」ところが産業界というのはどういうもので成立しているかということをはつきりさせなければ、どういう形の教育をするのかということが全くわからない、それから勤労青年といつたようなもの、又は大学の学生というような考えからいたしましても、例えば第八條の第二項には「産業経済教育勤労等の各界」こういつたような言葉が出て参りましたが、こういうところにこの法案が立案された場合の提案者労働教育観というものが私の考えと食い違つておる。そこでそういつたような形ででき上がる人間というものは本当に日本の国というもの、又は日本勤労層人々といつたようなものに幸福をもたらさないものであるとこういうふうに思います。簡単に言い換えますならば、第三の反対理由といたしましては、本当に独立国家人間というものを作るのに、これには役立たない、産業方面からも役立たない、こういうふうに考えますので、これには反対いたしたい、こういうふうに思います。そういう理由からいたしまして、初めに申上げましたように、この案全体というものが廃案になるようなふうにして頂く、私といたしましてはして頂きたい。但し労働教育との関連という事柄はもつと別の根本的な関連から考えなければならない、こういうようなふうに考えて参りましたので、要点だけをかいつまんで申上げた次第でございます。
  4. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 次は高橋さんにお願いしたいと思います。
  5. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) 私栃木県の教育委員をいたしております高橋通亮でございます。私の立場は県の教育行政をお預りして過去三カ年やつて参りました体験と、なお私が小学校及び旧制高等学校旧制中等学校教員として二十三年やつて参りました体験の上に立つて意見を申上げたい、こう思うのであります。先ず第一に、今日の学校教育という点から最も大きな問題、こういうものを考えてみますると、全般的に見まして教育財政が非常に貧困でありまして、そのためにいろいろな支障を来たしております。もう一つ部面は、実際教育に携わる教員の質と量との不足から来るところの問題、大きく考えますると、この二つの問題があると思います。これらを普通義務教育について申上げますると、六三制度の不完全な実施から参ります。例を申上げますると、何度かこちらにも我々の立場の上からお願い申上げましたが、新制中学校認証外工事についての補助の打切りなどが非常に票つておりまして、進歩的な考えを持つた市町村長が殆んど今次の選挙で以て落選をしております、非常な政治的な問題としても発展しておるのでありまして、私ども教育行政をお預かりする際非常な障碍を来して参つております。なお優良な教師不足というふうな部面もいろいろな点で現われておりまして、現在でも各県の義務教育担当者の数のバランスというようなものはとられておりません。又幼児教育などについて見ましても、全部が市町村にその設置、運営が依存されておりますために、殆んど申訳的な運営しか今日できておらんのであります。特殊教育につきましても、教員の質、それから養成所の問題など、広汎な支障を来しておりまして、特に我々が考えなければならない精神衛生方面などは殆んど忘却されておるような状態にあります。今回の本法案による実業教育面につきましても、やはり同様に実際面としましては、実業系統科目普通教科科目が雑居しております。一つ学校で雑居しておりますために、そこにいろいろなトラブルやら障碍を来しておることは本当に困つたことだと考えておるのです。設備についても最も貧弱なのは実業教育方面の問題であります。こういうふうに考えて参りますと、本国会で問題となつておるところの本法案は、単に一つ一つを抜き出してこれを解決する、こういうふうな立場に立つたのでは所期の法案目的は達成できない。これはやはり義務教育も、幼児教育特殊教育も、実業教育も全部総括的な立場に立つてそうしてこれを解決しなければ駄目であるということを体験上から申上げたいと思うのであります。個々の問題の解決策として考えられる点は、先ず実業教育の問題について申上げまするならば、一つ設備資金不足、これは確かに今日最大の急務であります。従いまして最も大事な実費、実験、こういつた方面の完全な実施が不可能であります。なおこういう学校については生産品処分による設備充当、こういうことが各県とも行われておつたと存じますけれども、私は栃木県ですが、栃木県におきましても過去三カ年独立会計を以て製品によつてできた処分お金をその学校設備に当てたのであります。けれども非常にこれは考えそのものはよろしいのですが、これが邪魔をいたしまして、私どもが各学校補助金を支出する際、この独立会計が僅かな金でも非常な障害を来たしたのであります。なおこのお金目当にして一層設備に充当しようというふうな考え方から教育の本道を損ねまして、そうして売上高の競争をやる、こんいうふうな形になつて参つたので、今年度より独立会計を廃止いたしまして、一般会計に私の県では改めたのであります。なお次に経費の問題でありますが、時代産業教育実施する学校は全部本体が県費支出なつております。従いまして各県によるところの不均衡をこの法案による形で出発する際には、永久にその差を改めることがむずかしいのではないかこう思うのでありまして、私の県では現在文部省案乙号暫定基準によつて実施しておるのであります。そういう現状です。次に最大障害と思いまする点は、実業学校にはたくさんの普通教師としての養成を受けないいわゆる専門的な助手というふうなものがたくさんございますが、この助手待遇改善、特に私どもを縛つております免許法の改正、こういうものを是非実施して頂きたい。それによつて実習助手待遇改善どもできるのであります。それから普通のリベラルコース高等学校と、実業系統高等学校との特異点を申しますと、非常に実業学校は実利的に、そうして教育が事務的になされ勝ちな傾向を持つておるのは全国一つの流れなのであります。この教育という場に携わる者は、事務的に実利的に学校を経営し、教育を行うということにつきましては、私ども全国教育委員は非常なこれに不満を持つておるものでありまして、私どもといたしましては是非とも有能な完全な産業人の育成とういふうに持つて行きたいのであります。以上のような見解から本法案を見ますると、次のような点が欠陷があるのではないかと思うのであります。即ち法の体系を非常に紊しております。私が考えて見まするのに、やはり折角簡素化され、そして従来の複雑多岐教育体系をここで整理したものを再びこの産業教育法案によつて紊してしまう、是非ともこの教育体系を紊さないようにしてもらいたい、こう思うのであります。  次に先ほども申しましたが、財政の問題は是非はつきりと国庫負担によるということを明示して頂きたい。それから行政面について申しますると、人事行政がこれでは行えない。私どもがお預りしても、こんな形で逸脱したものをここに持込まれたのでは、現場にあつてども教員を任免、転用することが不可能になります。例を申上げます。農業高等学校に例をとりましても、或る学校にはリベラルコースを踏んだ教員、いわゆる国語、数学社会というような一般教員と、それから実務的な農業専門教員と、両方が合わさつて一つ農業高等学校を形成するのであります。その際に若しこの法案のごとき特別な待遇とか何かを若しも行うとすれば、その実務的な教員はよろしいとしても、普通科担当教員をどのようにして人事交流やら何かを行うか。甚だむずかしいのではないか。  次に委員会審議会との関係でございますが、これもいろいろ問題があると思うのであります。従いまして私はこのような欠陷があるところの法案にはこのままでは賛成がしかねるのであります。私は正しい産業教育振興のために、本委員会に積極的にお願いし、力説したいと思う点を以下申上げたいと思うのであります。  第一点は、一般教育の振興がなくては産業教育の振興はない。分離した産業教育の振興などということはおよそ不可能である。私の県で、昨年小学校中学校の児童生徒について、実態調査を行いましたところ、三十七万の兒童生徒の中で、二万五千名近い一ヵ月以上の連日欠席児童がございます。この二万名に近い欠席児童は殆んどが実庭の貧困、いろいろ学用品などの不揃い、給食費の不払い、こういう問題から来ておるのでありまして、こういう実態の上に如何に継足しの産業教育だけを取上げて振興しようとしても、それは不可能に近いのではないか、こう思うのであります。  第二点としましては、教育財政の確立をこの法案によりお願い申上げます。大部分を国庫負担にして頂きたい。現在は教育費が平衝交付金の枠内によつて支給されておりますけれども、若しもこの平衡交付金制度が改変でき得ないとするならば、これが補助の枠が平衡交付金の中にあるのか外にあるのか、この法案ではちよつと見当が付かない。今日地方財政は非常に逼迫しておりまして、地方財政の改革によりまして、乏しい税源は殆んど国と市町村とにしぼり取られて、私どものお預りする県の財政というものは全くみじめなものです。そのみじめな財源に頼つておるところの今日の実業教育産業教育というようなものが、なおこの不明確な補助金制度などによつたのでは到底目的が達成できない。この点をはつきりと一つ法案で謳つて頂きたい。こう考えるのであります。細かい点でございますけれども、この法案に盛られた審議会の性格について考えて見ますると、十三條に地方審議会を国庫より補助を受ける都道府県は置かなければならない。それ以外のもの、補助を受けないものは置かなくてもいい、こういうふうに書かれてありますが、これは補助をもらうために審議会を置いて調査研究をさせるのか、産業教育を振興させるために審議会を置くのか、ちよつと見当が付かないのであります。若しも振興させるといたしましても、その補助を受くべき條件が満されたら審議会というものは要らない。暫定的な性格を持つものか。この辺が非常に不明確ではないか、こういうふうに思います。  なお諮問に関しましては、教育委員会と設置者である知事側との同等の立場に立つて諮問するようになつておりますけれども産業教育の責任をどちらに負わする気におなりになつているのか。この点も不明確であります。  なお最後に、特別会計の問題がここに取上げられておりますけれども、先ほども申上げましたように、学校は飽くまでも工場化させないために、そうして生産競争をさせるだけを一つの手段とするようなこの生産品処分考え方は、折角今日新らしくこの学制改革によつてやや軌道に乗りつつあるこの実業教育体系を再び元に戻すような危険性が含まれておりまするので、この点を是非とも是正して頂きたい。それから産業教育に従事する者についての特別待遇が考慮されておりますが、これは誠に結構で双手を挙げて賛成申上げますけれども、ここにありますように、特別に月給を余分に出すとか何とかいうような、或いは教員養成機関を別個に持つとかいうようなことではなくて、私ども考えております特別待遇というのは、十分な教官の研究室を持たせ、或いは十分な研究のできる時間を持たせ、或いは有能な教員を雇うために今日縛つておるところの免許法を改正して、前歴計算の体制を十分に行う、こういう形でこの待遇改善考えて頂きたい。待遇改善といつてもただ単にお金をたくさん支払うというようなものでなくて、時間とか設備とか、そういう方面での十分な待遇をお考え願いたい、こう思うのであります。  なお私どもの県におきましても、事務局より委員会がこの法案の過程についての説明を伺いましたが、この経過については甚だ遺憾であつた。我々委員会としては純真な本法案教育法案である限り、その過程に甚だ不満足なものを持つ。若しもこういうことが今後行われるということになれば、教育はこの面から崩される、こういうふうに考えまするので、十分御吟味願いまして、只今申上げたような点を是非とも改正をお願いいたして、その上に立つてこの法案の成立を自分といたしましては賛成するものでありますが、以上のような点を十分改正されない場合には、残念ながらかくのごときものは委員会としては甚だ困つた存在であると率直に申上げます。
  6. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 次に栃木大学工学部長都崎雅之助君にお願いいたします。
  7. 都崎雅之助

    参考人(都崎雅之助君) 都崎であります。私今まで文部省の職業教育及び職業指導審議会の委員をやつておりました。その観点から今回出ておりまする産業教育法というものにつきまして、私の意見を申上げたいと思うのであります。  この産業教育法というものを一通り見ますと、三章から成つております。第一章は総則であり、第二章は審議会のことであり、第三章は補助の問題、こういうようになつております。法案ちよつと見ましたときに産業教育法とありまするので、現在学校教育法がある、それに対して産業教育法をなぜ別個にしなければならないかという気が起るのです。この内容をよく見まして、又我々のやつております職業教育及び職業指導審議会でも論じておりますことを考え合せまして、この産業教育法はかくのごとく解釈すべきものと、こう私は思つております。それは大体産業教育と申しますが、私ども産業教育、或いは単に職業教育と申しておりますが、設備の充当なくしてその立派な教育は行い得ない。これは私はあとからそれぞれ専門のかたがお話になることと思うのでありますが、その設備充当のために国から特に金を出してこれを補助しよう、その補助ということに非常に重きを置いた。又もう一つ産業教育には産業教育の特殊なものがある。その特殊なものを学校教育法の中に収めることは不適当である。従つて要するに国庫補助と申しますか、それを中心とした法案でありまするので、学校教育法の勿論枠内であり、学校教育法に対する補助法であると、こう私は解釈いたしておるのであります。そういう意味におきまして私がこれから申上げますことは、私自分自身の解釈をかように解釈いたしておるということを申上げるのでありまして、若しそれが私の解釈以外のものでありましたら、そのときに又伺つて参りたいと存じます。そういう意味におきまして、この法の体系としましては、私はこれは飽くまでも学校教育法補助法としてできておるものである、それを作る必要があるかどうかということになりますと、これは私はどうしても作るべきものである。これからお話いたしますように、学問が地に付いて、子供が教育によつて社会に役立つような人になるのにはどうしても設備が要るのであります。ただ口先だけで、或いはクラス・ルームで黒板だけで教えるのでは教育は完成しないのであります。そういう意味におきまして、こういう形の法案はどうしても必要である、かように存じます。それから三章に分れておりますので、あらつぽく各章について所見を申上げます。  第一章は総則でありますが、目的と定義と国の任務が出ております。目的については、これは文章の書き方もあり、解釈の仕方はいろいろありましようが、ともかく教育を受ける者は世の中へ出て皆働くのであります。その産業に寄与するように、それに正しい理解を持ち、正しい指導を受けて出る。こういう教育は非常に必要であると存ずるのであります。問題になりますのは二條と三條、特に三條でありますが、先ず二條ではこの産業教育法で取扱われるところの範囲を入れております。これを見ますとおおむね中学校高等学校における教育が主になつておるようであります。各種学校のごときは人づておりません。私は産業教育を振興させるならばすべての教育に及ぼすべきものと思うのでありますけれども、これは結局費用の国庫補助の問題である。先ず何を優先すべきであるか、順序関係で先ずこれが取上げられたものと思うのであります。若し国の財政が許しますならば、今後国においてこれを補助する、或いは別個の法律においてももつともつと教育の対象拡張すべきものと考えるのであります。法案の立案せられましたものは、先ず中学校高等学校における教育の振興、それに補助をするというのでありまするならば、先ず一応はこれで以て満足すべきものではないか、結局日本の国の実力、経済力に関係することであります。なお私はこの第二條におきまして、要するに職業教育をやるんだということを書いておるのでありますが、この中には職業指導ということを含んでおる中学校、或いは将来置かれるであろう高等学校における職業指導というものを含んでおるということを解釈して、それは二條、三條或いは十八條の関係において、十八條に「職業指導」という言葉を誰つております。職業指導に対して国の補助を出すということを謳つております。私はこの二條の教育の範囲の中には職業指導を相当に利用してそれを考えておるのである、こう解釈しておるのであります。  第三條は、これはこの法案のできまする一番大きな狙いの一つでありましよう。要するに産業教育についての総合的な計画を立てる、これは私は前々考えておりますることで、単に行き当りばつたりに、或いは地区的に産業が興つたのでは困る、勿論地方には地方的な事情があるのでありますが、国は国として一国の産業考える。それに対する産業教育の総合計画を持つて然るべきものであります。この産業総合計画、それに伴う教育の総合計画を立てるということは、これは最も必要なことであります。問題になりまするのは二、三の援助をすること、これはアメリカのスミス、ヒューズ法によれば、補助の対象は人件費に及ぼさず、全部おおむね物件費に使つております。物件費を主として対象といたしておるのであります。これは国柄の相違でもありましようし、先ず日本の国としては現在のところではいろいろな事情がある。施設、或いは設備などの拡充が先ず必要なものと存じます。この点は私は狙いはよろしいのじやないかと思います。それから四番目の教員養成、これはおおむね大学教育関係して参るのでありますが、産業教育に関する現在の我が国教員養成計画というものはまだ十分できていないのであります。私はこの四号には特に今後力を入れて頂きたいと存ずるのであります。五番目につきましては、産業教育とのコーペレーシヨンでありますが、これは産業界とのコーペレーシヨンのみならず、学校学校同志のコーぺレーシヨン、或いは中学校高等学校のコーペレーシヨンというように、如何なるものであろうとその関係のありまするところのものはお互いに協力をやつて行く、コーペレーシヨンをやつて行くというのは当り前であります。今までの日本教育はともすれば学校学校、社会は社会というようなことで、学校から出て来るものは社会で役に立たないというのであります。この点特に今後気を付けるべきであります。結局は学校教育というものは社会に出て行くおおむね職業人を作るのであります。昔のように学校を出てただ教養だけあつて楽に暮すということは許さるべきものではないのであります。なんらかの技能を持ち世の中に出て働かなければならん、世の中で働くための役に立つ人たちを作るのであります。それに産業界、或いはもつと広く言つて結局一般社会との接触、お互いの協力は最も必要なのであります。  それから第五條について私の所見を申上げます。これは問題になるだろうと思いますが、産業教育に携る教員に対して特別な考慮が払われなければならん、私はかように考えております。若しこの五條が産業教育に携る人たちの給料を少し余計くれとか、歩がいいようにしてくれというのならこれはとんでもないし、これはかように解釈したくもないし解釈していない。産業教育は実習、実験を主とするものでありますが、実習或いは実験はその他のいわゆるリベラルコースとは体系が違つておりますが、そこに特殊事情がある。その特殊事情に対しては特殊事情に合うように別個に考慮が払れわなければならんことは特に断わつてもらつたほうがいい。これに関連して或いは教員免許法とかその他の関連法規がこれに準拠しろとは言えないでありましようが、それと関連してその他の関連法規の中にその項目を挙ぐべきものと考えております。第五條の産業教育に従事する教員がよい歩になるというような意味であるならば、これは以てのほかであると存ずるのであります。  第二章は審議関係であります。中央において第三條に掲げた計画を或いは各地方審議会から提出されるものを審議するために審議会を置かなければならんことはもとよりの話であります。その内容が書いてありますが、これは今後において如何に運用されるかが問題であります。地方審議会については余力問題を感じないのであります。中央産業教育審議会については私はかように考えております。この辺を読みましても非常にごちやごちやしております。このごちやごちやしておるのはどこから出て来るかというと、結局現在の地方行政が公立学校につきましては教育委員会にその権限があり、私立学校については知事にその権限がありますので、一本で行かない。若しこれが一本で行くものなら公立学校補助ということだけを、或いは公立学校だけとの関係であるならば地方産業教育審議会なるものは教育委員会の一委員会として作るべきものであるとか、又さような構想で運用すベきであり、さように解釈すべきものであると考えます。従いまして現在のこの法案におまましても、公立学校については地方教育委員会の傘下にその意見で一本で行くべきもの、さように運用さるべきものと解釈しております。ただ私立学校に対しての財政的援助がありまするので、それを教育委員会に持たせることはやつてやれないことはないでありましようが、相当関連の法規その他において厄介のものであります。そこでこれは知事にそのままにしておくのであるが、地方産業教育審議会は教育委員会に指導性をとらせて、そこで人を人選さして地方の了解を得て、地方との相談において産業教育の地方審議会を作る、従つて私立の学校に対しては地方教育審議会は知事の権限の下にその掲示によつて動く、即ち地方審議会は教育委員会と知事とのダブル・コントロール、おのおのその所管がある。公立学校については嚴として教育委員会がこれを運用すべきものである、こう私は考えております。なお委員の任命その他につきましてはすべて教育委員会に指導性をとらせておるようでありまするが、その点私のように解釈いたしましても別に差支えはないんじやないかと思うのであります。私はこの第二章の審議会はさように考えております。  それからその次の財政的援助、第三章でありますが、これにつきましては、私若し許されるならば、幾ら幾らの金を毎年国庫から補助するということを書いてもらえば有難いのでありますが、それは現在のように動いております県或いは国の財政というようなことから考えてこれができないのであればいたし方ない、この基準をきめてこの予算の範囲内においてやつてもらう、予算の範囲内において補助をいたすよりいたし方がないと思うのであります。その運用につきましては相当この審議会の活動に待つことが多い、かように存ずるのであります。特にさつきも申上げましたが、その十八條でこれが高等学校中学校を大体対象にしておる、なお又産業教員養成をする大学教育というものをその対象に考えておる、それともう一つ十八條にあります職業指導のための施設ということを書いてあります。これは現在は中学校に職業家庭科というものがあります。それを対象に書かれたものと存ずるのでありますが、現在我々日本の今までの教育というものはいい健康な社会人を作ると言つております。その社会人というものは広い意味考えておるでありましようが、もつと具体的に考えますならば、教育目的というものは各個人の性能を立派に伸ばし合う、同時に立派な社会人たることが必要であるが、それと相並んで経済能力を持つた子供を世の中に送り出してやる必要があるのであります。中学校を出て、その六割或いは七割のものがそのまま世の中に出ております。或いは高等学校を出ましてもその大半のものは世の中に出るのであります。それに対しては現在のいわゆる実業学校にあらざる普通課程の高等学校、或いは中等学校は殆んど何らの職業に対する指導なしに出て行く、できるならばこれを指導し、或る程度の技能を持たすならば最もよろしいのであります。少くとも適当な職業指導をし、社会人となる経済能力を持つ人を作つてやることが義務教育において最も必要である。高等学校においても十分考えてやらなければならん問題であると思うのであります。この点につきましても十八條に謳つておるわけであります。特にこの点を今後十分予算的措置がとらるべきで、とられなければならないと考えておるのであります。  以上のようなわけで一章、二章、三章は大体できておるんですが、最後に持つてつて、最後と申しますか、短期の産業教育ができておりますが、これは勿論勤労青少年に対する教育でありまして、これが必要なことは勿論この項目は甚だ結構なことと存じております。  以上三章についてあらまし私の所見を申上げたのでありますが、個々について申しますならば、まだ足りないと思うところがあるのです。産業教育というものがとかく金がかかる、その金がかかるためにどうしても遅れ勝ちであつたために、ここでこの法案ができ、それに国庫の補助ができますならば今後これが種になつて伸びて行つてくれるものではないかと存ずるのであります。丁度今から三十四年前アメリカでスミス・ヒューズ法が出ましたときに、あれは非常に制限がやかましいのでありますが、一人の議員の反対だけで法案が通りました。その後四十四年間非常にこれが栄えて、それの追加の法律がたくさん出て参つておるのでありますが、どうか私はこの法案がみのりまして、日本産業振興の礎石となれば非常に結構なことであると存ずるのであります。私のお話は終ります。
  8. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは次に東京第五商高校長石田さんにお願いします。
  9. 石田莊吉

    参考人(石田莊吉君) 第五商業高等学校の石田でございます。私は現場のほうを代表してというような意味でお招きを頂いたものと考えるのでありますが、なお商業の先輩の先生もお出でになりますので、成るべく重複を避けるため、又個々の問題につきましては、大体只今各條に亘りまして都崎先生から御説明がありましたような点は私同感でありますので、極く総論的なことを申上げて、あと一つずつにつきましては、御質問の機会に申上げたいと存じます。  新らしいこの教育制度の基本的な性格は何と申しましても、教育機会を等しく国民の大衆に与える、こういう点であると考えます。この教育機会均等の原則を確立するためには、只今申しましたようにただ多数の者を学校に入学せしめる、成るべく高い程度の学校に入学せしめるということでは足りないのでありまして、同時にその教育内容なり、教育方法といつたようなものにつきましても、でき得る限り生徒の関心とか或いは将来の希望とか、或いは又社会の要求というようなものに合致するように制度を作つて行かなければならないと考えるのであります。勿論この新らしい六三制度はそういつた形において出発をいたしたことは当然でありますけれども、併しながらその現状を実際見ておりますと、いろいろの点に欠陥があります。併しなかんずくその中で大きな欠陥と私の考えますのは、中学校卒業生の六五%、それから更に高等学校へ上つた生徒の同じく五%、或いは七〇%に近いと思うのでありますが、それらの生徒が直ちにこれらの学校を卒業してすぐに職業に就く、こういつた状態にありますことは文部省その他の統計で明らかなのでありますが、その職業に関するところの教育というようなものが、極めて不完全である、これはもう先ほど来どなたからも御指摘があつた通りでありまして、極めて不完全なる教育が行われております。なぜそれじやそういうような不完全な教育が行われておるがといつたような原因につきましてはいろいろあろう思います。例えば一般的に世間の関心が産業教育というようなものについて高まつておらんというようなことも考えられますが、何と申しましても直接の原因は、これは産業教育に関する施設が不十分である、こういう点と、それからその教員組織が貧困である、こういう点と、又我々自身反省しなければならん点でございますけれども、その教育の内容なり、方法なりに多少の欠陷があるのではないか、こういうふうに考えております。そこでどうしてもこれらの欠陥を除いて、そうして本当に立派な産業人を世に送る、こういうためには職業教育に関する設備を充実し、又教員組織を完備ならしめるような制度を作り上げなければならないのでありますが、これは私は五十年間職業教育の振興、或いは七十年と言つてもいいかも知れませんが、叫ばれながら今日こういうような状態にありますことを見れば、どうしても法律の力によつてこれらの欠陷を排除して、真に役立つことができる産業人を育成して行くようにしなければならんのじやないかというように考える次第であります。この法律を見ますと、そういう点におきまして、特にこの日本現状に鑑みて、産業教育の施設について大幅な国庫の補助をするというような規定を中心といたしまして、且つこれに関連いたしますところのいろいろな規定が載つております。特に只今申上げました欠陷の底を貫いて流れておるところの一つの大きな問題といたしましては、第三條の第一号にございます産業教育の振興に関する総合計画の樹立ということ、これは今までこういうことがなかつたために以上述べるような欠陷が起つて参りまして、産業教育が振わない原因をかもし出したんだとこう考えますので、我々はこの第三條の産業教育の振興に関する総合計画の樹立ということを基底にいたしまして、あと二号、三号、四号、五号に亘つて諸般の体制を樹立いたしまするならば、我が国産業教育は画期的の進展を遂げるものではないかと考えられるのであります。細かいいろいろな具体的な問題、或いは設備不足等についての具体的な問題につきましては、文部省の統計等にも載つておりましようし、又工業、農業につきましても後刻それぞれの専門の先生からお話があろうかと思いますが、現に極く卑近な私たちの周りの東京都について考えて見ましても、十八校の商業学校がございまするが、その中で我々は一つの例を挙げればタイプライター、商業教育にはこれは是非必要な器具でありますが、そのタイプライターの設備の状況を見ますと、最低基準を大体まあ本当なら一学級というところでありますが、一校二十人といたしまして、その最低基準に達することのできる学校は僅か十八校の中に二校しかない、こういうような状態でございます。又その他簿記室の整備にいたしましても或いは実践室、商業教育においてはこれは最も必要な……、工業学校における実習と同様でありますが、その実践室の設備を完全に持つている学校というものは一校もない。極めて不完全なものを一、三校が持つている、こういうような状況でありまして、或いはもう商品陳列館とかその他のことに至りましてはこれは問題にならんといつたような状況にございまして、商業教育だけから考えましても如何にその設備が貧弱であるかということはおわかり願えると思います。又教員の面におきましても、東京でありますからして、まだ辛うじて商業関係教員を私の学校などでも集め得るのでありますが、これが地方に参りますと、商業の教員というものは非常に不足しておりまして、もう校長はこの商業の教員を集めるのには非常な困難を感じている。地方から東京に出たいという考があつても、もう後任も得られないというようなことで出さんといつたようなことで、非常に今教員のほうも払底している。ほかのほうの社会科とかその他の教員については十分あるのでありますが、商業、特に商業の実習的な方面、タイプライターとか珠算とか、或いは簿記であるとか、こういつた実務関係教員不足は夥しいものであつて、このような状態あと二、三年経過するならば、教員の面から商業教育は崩壊するのじやないかというふうに私たちは考えるようなわけでございます先ほど矢川先生、或ひは高橋先生から本法案についての御反対なり、或いは修正の御意見がございまして謹んで拜聽いたしたのでありますが、その中に矢川先生のほうのお話で、これは戦争に動員する一つの法律じやないかというような御意見が述べられておつたのでありますが、私ここで別に討論するつもりじやございませんが、これはどういうところから出たのか、はつきり私には合点が行かないのですが、むしろ産業教育を振興することこそ日本の平和を維持するゆえんである。こういうふうに私は考えるのでありまして、平和を維持するためにむしろこの産業教育を振興する。それからその次に又お二人の御意見もあつたのでありまするが、これは基礎教育本末顛倒しているというような御意見であつたように拜聽いたしたのでありますが、私たちこの法律を見まして、この法律の面だけ見まして、これは産業教育法でありますからして、非常に産業教育に重点を置いているのでありますが、その基礎的な法律として、我が国には教育基本法、或いは学校教育法、或いは社会教育法というようなものがあつて、その補完法としての産業教育法であるのでありまして、その法律によつて我々は教育いたして参ります場合には、決して一般教育というものを軽んずるというのではなくして、今教育全体のうちからして非常に欠陥とされているところの産業、職業に関する教育をもう少し振興させるために、その欠陥を補うためにこの法律ができたのだ、こういうふうに解釈いたしているのでありまして、この法律が実施されて、産業教育が盛んになつたために一般教育が非常に軽視されるというようなことに若しなりますならば、これこそ非常に大きな問題ではないかと考えるのであります。なお個々の細かい問題につきましては、私といたしましてもいろいろと考えている点もございますが、先ほど都崎先生が申されたことに大体一致しております。時間も余りないようでございますので、あとで御質問の機会に述べさせて頂きまして、この辺で私の陳述を終りたいと思います。
  10. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは次に都立北豊島工業高等学校長の佐藤さん。
  11. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) 私都立北豊島工業高等学校の佐藤でございます。私も現場にある者でありまして、その立場においてこの産業教育に関する私の考えを申述べさして頂きたいと思うのであります。  私に劈頭に先ずこの産業教育法には大いに賛成するものであるということを率直に申上げたいと思うのであります。その理由の第一としては先ずこの産業教育を振興するために特に法律を制定されることが非常に必要であると思うのであります。第二番目にはこの法律の内容が極めて適切であると考えるからであります。先ず第一の理由について申述べますと、その一つといたしまして、先ほども石田校長から数字的なお話がありましたが、まとめまして国民の九五%というものが高等学校以下の教育に終つているのであります。国家の健全な発達を図り、又国民の生活の安定確立を期するならば、この層の教育、特に職業教育に力を入れることが国家としての重要な責務であると考えるものであります。然るに従来この点において或いは普通教育偏重である。又は滔々として進学教育に堕する等の点がありまして、甚だ遺憾に存じているところのものであります。而も我が国現状におきましては、率直に言いまして、この経済自立産業の振興ということが最も喫緊の要事であることを思うときに、この法律は現実に即して極めて当を得たものと信ずるのであります。  それで第二番目といたしまして、今日のままでは到底職業教育が遅々として進歩しない、こう考えるのでありまこに省略させて頂きますが、従来実業教育の振興のために如何に多く叫ばれておりましたか、又如何に多くの陳情或いは建議、決議等が行われて来たことでありましようか。私工業教育に従事すること三十幾年、実にその間毎年毎年繰り返されておつたのであります。而もその期待は殆ど満足されておりません。かくのごとくして遂に今日に立ち至つたわけでありますが、その実情は如何でありましよう。真に見る人をして見せしめるならば誠に寒心に堪えんものがあります。国民の期待するところの立派な職業教育、或いは責任ある職業教育などとはけだし縁の遠いものであると思わざるを得ないのであります。なおこの点については後刻附け足しておきたいと思うのでありますが、その次には従来から実業教育費国庫補助法というものがありましたが、予算は昨年度においてゼロになつております。私はこの国庫補助是非復活してもらいたいと考えております。併しながらこの法律は今日の事態に即しない点があるとも思いまするので、改める必要がありましよう。なおこの国庫補助法と関連いたしまして種々の問題もありまするし、又学校教育法、社会教育法等を補足するものとして単行法として制定することが極めて当を得た望ましいものであると私は考えるのであります。  なおここに一言附加えておきたいと思うことは、昨年米国の第二回教育使節団が参つたのでありましたが、その際に職業教育について報告いたされました。その中に一般教育改善された点が多々あつて誠に喜ばしいのでありますが、職業教育は頗る不振である。でこれについては文部省の努力も足らなかつたじやないか、或いは又関係筋の指導も足らなかつたのではなかろうか、今この職業教育の振興を図るとするならば、職業教育法とも言うべきその法的根拠を以て進めることが極めて必要であると考えるというふうに報告されておるのであります。以上この四点が法律を制定さるることについて賛意を表した理由であります。  第二の理由として申しましたところの法律の内容についてでありますが、これは全面的に賛成するものであります。併しながらここに時間の関係もありまして二、三について申上げたいと思うのであります。第一番目に設備に関する国庫の補助、これは絶対に必要であると考えるのであります。このことについては喋々申上げるまでもなく、前のかたがたからもお話がありましたので、重複するようでありますけれども、この一事でもこれは誠に深刻な問題でありますので、而も急を要する問題でありますので、この一事なりとも十分なる御認識を頂いてこの法案が可決されることを私は希望するためにあえて申上げるのであります。産業教育において実験、実習は殆んど生命であるということはこれ又申すまでもないことであります。で殊に高等学校における理科の教育というものは主として現場の作業を直接担当するものの教育であります。作業に対するところの能力は直ちに彼らの又生命でもあると同時に、その国の例えば工業なら工業の工業力に重大なる影響を与えるものであります。これは工場の現場においてよく御覧になりますれば、誠に数字の上に驚くべき結果として現れるのであります。殊に我が国のごとくこの九〇%以上が中小工業である。広義に言いますれば中小工業であるということを思うときに、この点は特に重視されなければなりません。なお実習の重要性について申上げたいことは多々にありまするけれども、省略いたしますが、かように重要な実験、実習のための設備というものは誠にみじめな状態にあるのであります。それに学校設備は荒廃してすでに時代に即しません。或いは戦災学校の復興は未だにできておりません。一台の機械に数人の生徒がそれを取まいて、そうして実習を行なつておるというような有様であります。而もその実習費というものは彼らの父兄から出したところの費用によつて実習が行われておるというような状況であります。かようにいたしますれば実習能率の上らないことはこれは言うまでもありませんが、我々この工業人の育成に当りましては、この実験、実習を通して或いは仕事を通して本当の工業人、真に生きた工業人の教育をやりたいと思つておるのでありますが、諾々のこうした教育的な効果は期待すべくもないという、実にこの職業教育の存亡に実質的にはかかる問題であるとも考えるのであります。なお私は学校設備というものは単に生徒だけを対象としてはいかんと思う。特に地方の工業学校等におきましては、地方の工業の発展のために寄与するところがなければならない、これは日本の実性に照して最も注意すべき事柄である。それから又都会におきましても、中小工業を指導するところの役目を果すべきである。かようにいたしまするときに、工業学校設備というものは我が国産業教育の発展に極めて重要な役割を務めるものと考えるのであります。又務めなければならんと思うのであります。かようにして設備は充実いたしたいのでありまするが、併しながら現状は前に申上げた通りでありまして、これを地方の財政のみにゆだねることは到底これは困難なことであります。必ず是非この国庫補助の法を制定されまして、そうしてこの設備の充実を図つて頂くことが望ましいと思うゆえんであるのであります。  次には私は中央並びに地方の審議会について意見を申上げたいと思うのであります。産業は申すまでもなく結局各地々々において行われておるのでありまして、その地方の実情に最もよく適することが必要であることは申すまでもありません。併しながら産業の性格から見ますときに、単にその土地にとどまることなく、その中心であるその地方、更に国、更に国際的にも緊密な繋りを有するものでありまするから、その計画に当りましては、広い視野に立つて計画を立て、利断を下すことが絶対に必要であるのであります。単に一地方の偏見や独断に陷るようなことがあつてはならないと思うのであります。かような意味におきましても、中央及び地方の審議会が必要でありまするし、又この国庫補助が行われるということになりますと、その適正化を十分に期さなければならない、かような意味におきましても必要である。又委員の各メンバーを通しまして、各界との連絡を緊密にして行くというような期待もかけられることでありましようから、極めてこの中央審議会並びに地方審議会のこの必要というものは重大なものと考えます。なおその任命或いはその権限等につきましても、これは極めて妥当であるだけ、私は一言その意見を述べておきたいと思うのであります。更に教師に関する問題であるとか、教科書に関する條項等、いずれも必要且つ適切な條項と思うのであります。  私は最後に、第四條の実験、実習より生ずる収益に関する條項について述べたいと思うのであります。これはややともすると、この世間から妙な見方をされるのでありますが、私はそのためにも是非これは一言触れたいと思うところであるのであります。これは収益……工業の場合について考えて見まするならば、実験、実習より収益を挙げるということは極めて困難なことであります。併しながら若し収益が生ずることがありましたならば、これはこの第四條にあることによつて工業教育の効果を向上する上に極めて有意義であると思うのであります。これについてもたくさんの申上げることがありますけれども、要するに実習というものはすべて役立つものを作らなければならない。で職業教育における技術というものはその経済的技術でなければなりませんし、又工業であるならば物を作ることである。物を作ることの喜びを満足させるためにはどうしても有用な物を作るということが必要であるのであります。ここからいわゆる工業人としての諸々の必要なるこの教育が行われておるのでありまして、私はこの教育の効果を非常に期待しておるのでありまして、従つてこの條項はそれらの有意義なる生産的実習を奨励するに役立つものと存じて賛成するあります。  大体私の申上げたいことは以上を以て終りますが、まあ現場にある者といたしましては、恐らく異口同音に賛成させることと思うのでありまして、この法案が制定されますならば、その教育の職にある者に対する非常な激励になり、且つ社会はこの教育を信頼して生活の確立、会社の安定、産業の振興というものは期して待つべきものがあると、私はかように考えまして、この法案皆様の御努力によりまして、可決せられることを私は希望するものにあります。以上。
  12. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 午前中もう一人………都立園芸高等学校長の山本さんにお願いします。
  13. 山本佳男

    参考人(山本佳男君) 都立園芸高等学校の山本でございます。  私は我が国農業より農業高等学校のことに対して意見を申上げます。新教育制度実施されてから三年余を経過しており、一応はその外郭は整えられましたのでありますが、具体的な内容については更にて層の研究と努力とが要望せられており、持に教育目標への実施方法におきましては、一般的教養の点については画期的刷新が行われ、進歩改善が顯著であるのでありますが、職業的教養に関しましては、一段と低調であることに注目せられまして、職業教育軽視の世論が高まりつつあるような現状は、日本再建の前途誠に憂慮に堪えないと考える次第であります。年々新制中学を卒えるものはおよそ百七十万を数えます。そのうち百万余は直ちに実務に従事し、新制高校に進学するものも卒業後はその七割近いものが実業に従事するという現実からも、職業教育を更に考慮しなければならないことは言うまでもないと存じます。全国の農、工、商、水産の各学校長協会、同教員研究集会、或いは全国実業教育協会、実業教育振興中央会を初めといたしまして、各団体や朝日、読売、日本教育新聞、そうした各紙が陳情とか声明或いは社説などで世論喚起に努めて来たのは、真に国民の必要とする教育に対し深甚な考慮と善処を切望しているゆえんでありますが、我が国全人口の半ばを包容する農家及び農業従事者の面からこれを見ますれば、総農家戸数は五百九十万九千二百二十七で、専業従事者千七百六十五万四千四百九十九名、この一戸当りの耕地面積は九反歩弱、その生産量は全人口の食糧を充たすことができず、年に二割の不足を来たしておる状態であります、アメリカでは一人当り二十一人分を生産するのに比しまして、我が国では三人分の生産という貧農に過ぎないのであります。更に詳しく申上げますれば、五反歩以下の農家は二百四十五万余戸で四一%を占め、自家生産物の八割以上、自家消費農家は五〇%、約三百万戸、米十俵以上供出農家は全体の約六百万のうち百七十六万戸という零細化である、而もこれらの農家が失業者人口の約半数を吸収するという状態であります。このような経済状態におきましては、子女を高等学校大学教育まで望むことは困難であると存じます。真に我が国農業を国本とし、重要視するならば農家の保護政策も考えられましようが、一面農業教育の振興に待つほかはないと思料いたすものであります。未だ農業者は栽培、飼育の技術や経営の方法においても大方親譲りを固執する者が多く、時代の進展に即応することは遅々たるものであります。国土の縮小せられた今日、自給自足の域に達するのにも、又一定面積より有価値の生産をして輸出農業に進出して行くのにも、先ず農業経営や生産技術に巧みな有為の人材を多く養成することが目下の急務と存じます。  今農家子女の新制中学校卒業以後の動向を推定いたしまして考察いたしますれば、農家の子女は全卒業者の過半数を占めております。およそ八十五万、そのうち全日制の上級に進学する者十七万、農業以外の職業に従事する者が十万、残る五十八万は直ちに農業に従事するものであります。年々新たに農業に従事するこれらのものは中学校の職業科において施設も教員組織も不十分の所で職業選択とか職業指導というようなことで野放しにされるのであります。従つて第一に中学校における職業科施設設備の充実と、これに伴う職員組織の改善が急務と存じます。次に卒業して実務についておる者の教養のために、過去におきましては一万五千余の実業補習学校があり、そのうち一万三千余は農業補習学校でおよそ百万の生徒を擁しまして、年々三十二、三万の終了生を出していたのであります。現在はこれに代るに定時制及び別科の制度がありますが、施設、教員の面からか、その発達は遅々としております。速かにこれを拡充して就学の機会を与えることが緊要と存じます。  次に高等学校に進学する十七万のうち農業課程に進む者は三万五千に過ぎないのでありまして、農家の後継者、主として長男は年々二十余万を数えられますが、これらの後継者が農業課程を望まず普通課程を志望するのは、如何なる理由にありましようか。昨年の状況は農業課程を了えて農業に従事した者一万八百十六、普通課程を了えて農業に従事した者一万四百六十三という現象を呈しております。高等学校農業教育は、単独の農業高等学校は百四十一で、他は総合制で特に注目を引く点は、職業課程には設備とこれに伴う教員組織が必須條件であるにかかわらずこれらの点が極めて低調なので、一般の魅力を失い、学校数においても生徒数においても、従来年々拡充されて来た農業教育機関が新制度実施以来漸減の一途を辿りつつあることは誠に遺憾に堪えぬところであります。今ここに施設貧弱の理由を挙げますれば、旧来の農学校明治二十七年頃までは十余校で、当時経済界の根本を養う実業教育の振興が叫ばれ、二十七年には実業教育費国庫補助法が布かれ、なお簡易農学校の規程もできたので、雨後の筍のごとく各方面に設立せられたのであります。明治三十八年には甲種乙種の制度が確立し、当時は甲種六十四、乙種四十四であつたのでありますが、大正九年には甲種九十六、乙種二百十六という傾向で、この乙種の数の多いのは、一度に地方の要望を満すことができないので、先ず組合立とか、都立として簡易なものを設置し、これを足場に県に移管しようという手段を取つた考えられます。大正十年より甲種に昇格の傾向が見え、甲種百十五、乙種二百四、これが昭和九年には甲種二百四十六、乙種九十四、これら県に移管されたものも甲種に昇格したのも設備その他の充実までは顧みられず今日に及び、これが又新制度農業高等学校として発足しましたので、校舎にしましても、施設、設備にしましても、組合立、郡当時の面影を残している点からも想像できると思います。校舎の素朴は大いに愛すべきでありますが、農業課程であるから貧弱な施設でよい、農民だからとて粗悪な衣服を着るべきだという理由はないと思います。  女教員の問題についても定数、待遇、資格、養成などありますが、制度の単一化は持殊性まで無視することではないと存じます。この持殊性を無視し、一般教員と同様とするなら職業課程の現実自体を見れば明瞭であります。なおその他幾多諸問題の改善、充実を切望していた際、ここに現実に即したこれら諸問題を解決するに極めて適切な産業教育法案を拝見し、又吟味いたしまして、双手を挙げて賛成いたすと共に、一日も早く立法化されることを熱望してやまぬものであります。具体的な面はいずれ質問のときにいたすことといたしまして、これで終ります。
  14. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは休憩いたします。    午後零時二十八分休憩    —————・—————    午後一時五十一分開会
  15. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは午前に引続き参考人のかたの御意見を承わることにいたします。槇枝さんどうぞ。
  16. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 午前中にいろいろな、持に学校において直接職業教育を担当する方々の御意見を、或いは教育委員の地方における教育行政を担当せられる方からの御意見を拝聽したのでありますが、幼稚園から大学までを包含する団体として一応日教組という立場から、ここでこの産業教育法に対する意見を申述べたいと思うのであります。  先ず終戦後とられました日本教育行政のあり方として、第一点は学制改革、即ち六三三四の制度によつて国民全般の知識水準というものを高めて行きたいということの大きな目的の下に改革がなされたのであります。  それから更にもう一点は教育行政のあり方として、教育が他の政治権力或いは経済界又は曾つての軍国主義時代にありました軍閥等のいわゆる国家権力によりまして支配されない、飽くまでも教育が自主、独立して行かなければならないという面から文部省の権限というものを大幅に縮小いたしまして、教育行政の地方分権をやつたわけであります。そうして各地方の住民から直接選挙によつて選出されるところの教育委員を以て地方の教育行政の任に当らした、こういう二つの大きな教育面におきますところの改革がなされて以来ここに五カ年間、その実践を通して来たわけでありますが、その経過から見まして、今日我々が最もこれらのものについて反省し、又矛盾点、或いは欠陷というものを指摘いたしました際に、いろいろな欠陥なり或いは矛盾点も出て来ておるわけであります。こういう面につきまして、やはり新学制制度というものの内容なり、そうしたものについての大幅な検討というものをやつて行かなければならんということは考えられるのでありますが、持にこうした諸欠陷というものが一体いずれのどこにあるのか、その原因がどこにあるのかということを探究いたしました際に、先ほど栃木県の教育委員の方がおつしやつておられましたが、やはり私もその大きな原因というものは、教育財政の貧困というところにあるのではないかと思うのであります。これは勿論物的な面或いは人的な面、質的な面、いろいろな面から探求されなければなりませんが、持に教育財政の貧困ということが根本原因となつて、これはこの産業教育のみならず、一般普通の義務教育、又幼兒教育或いは持殊教育、すべての教育に亘つて多少の差はあろうとも、殆んど同じようにどの教育の面においても、財政面の欠陷からしてその施設なり設備というものが非常に荒廃しておるということは言えると思うのであります。その一例をとりますれば、例えば新学制制度の一環として持に叫ばれて来ました六三制の建築を見ましても、この義務教育の建築というものが年々やつては来ておりますものの、昨年の七月の文部省調査によりましても、まだ百十幾万坪の建築が必要である。これに要する経費というものは少くとも百九十億というものが組まれなければならないにもかかわらず、これに対して僅かに四十三億の予算が計上されてあるのみであつて、又これを以て六三建築費は打切りだということまでも称せられておる。又これは先般の三十八回の教育刷新審議会の総会で建議されたことでありますが、そこで出された問題では、特に義務教育の面ですでに建築されておる校舎の中で復旧を要するもの、非常に危険なもので復旧を要するものとして、坪数で約百九十万坪のものがあるということも発表されておるわけであります。従つてこうした一端を義務教育の面のみにとつて見ましても、ここに校舎そのものが無いというために二部授業或いは三部授業をやつておるということも現にあるのでありまして、これはそうした一端を見ましても、結局義務教育或いは幼兒教育、又持殊教育或いは実業教育、すべてに亘つてこういう教育財政の貧困からして施設なり設備の未完成、或いは未完備というものがなされておる。又今一面は、教育員の問題でありますが、教師のやはり不足、これは教師になり手が少いというよりも、むしろ教育者というものの不足はやはりこの教育財政の面から来ておる、と申しますのは具体的に言いますと、例えばアメリカの教育なんかを見ましても、聞くところによりますと、大体三十人乃至三十五人というような学級の生徒を受持つて先生が教育しておる。ところが日本教育にあつては小学校どもまだ六十人なり或いは七十人の学級を抱えておるという実情があり、そういうことはすでに経済的から来る人的な面で十分なる個性の伸展ということがなされないということが言えるわけであります。特に一昨年は義務教育国庫負担法というものが廃止されまして、更に昨年来文部省の特に叫んでおります標準義務教育費の制定につきましても、未だ何ら成立の方途というものが見出されてないというような実情にあるわけであります。従つてこうした一例をとつて見ましても、教育財政の貧困というような面からただ単に産業教育のみならず、一般義務教育を主眼とするところの国民全般の教育というものが非常に荒廃に瀕しておる。従つてこの際に考えるべきことは、この産業教育のみのことを持出して行くのでなくして、飽くまでも全般的な教育の視野に立つて産業教育奨励、振興ということも考えられなければならないと思うのであります。そういう観点から申しますならば、ここに産業教育法として出されたけれども、他のものに対して一般的な問題から見た場合に、そういうものに目を蔽つて、ここにこれのみを持ち出すということには賛成し難いわけであります。ただそうは申しましても、決して私は一般教育或いは義務教育が疎かになつておるから産業教育の復興にやるべきではないというのではないのでありまして、飽くまで職業教育についてもこの振興というものは当然図つて行かなければならない。又持にいろんな教育が荒廃に瀕しておる中にあつて、終戦以来特にこの職業教育の面が特別な陷没地帯になつておるのではないかということも又論を待たないと思うのであります。従つてそういうことから考え併せて行きました際には、やはり国民全般の教育のレヴエルを上げる、そうして義務教育を中心としたところの教育施設に対し、教育の充実をやるという視野に立つて産業教育の振興という面にどこまでも考を持つてつてもらわなければならん。そこで特別に職業教育の面が陥没しておるというような面について、何とか応急の措置をやらなければならんという場合に、この一つ職業教育法というものが考えられ、この振興に関する法律というものが考えられるということは私も一応考えるのでありますが、ただそうした場合に、現在の出されております法案をめぐつて見ますときに、これに対する一つ々々の條項を玩味しましたときに、このままの法案では果し産業教育の振興になるかどうかという点にかなりの疑わしい面があるのではないかそこで少くとも私は職業教育の振興という建前から申しますならば、次に申上げます五点については必ず考えて行かなければならん、留意をして行かなければならない。その一つ勤労に対する正しい信念を確立するということであります。職業教育を通じて生徒、兒童そうして国民一般にまで勤労に対する正しい信念を確立して行く、それには曾つて日本が世界の市場におきまして受けた非難、と申しますと、非常に劣悪な労働條作の下に低賃金に抑えられながらも献身的な、而も盲目的奉仕するという精神、こうした一つ勤労観、こういうふうなものを払拭いたしまして、どこまでも正しい勤労精神というものを養つて行かなければならん。ところが現に未だ現在の職業教補の面を通しましても十分そうした今申上げましたような献身的な、盲目的奉仕するという一つ勤労観というものが未だ払拭されていない。それは例えば一九五〇年度の英国の労働組合会議でありますが、六百二十万を擁するこの会議の年次大会におきましても、日本労働者に対する低賃金という問題がわざわざ提議されて討議されておるという点を見ても、世界的に見て日本労働勤労というものに対する正しい評価がなされていないのではないかということが窺えるわけであります。今一つ教育というものをどこまでも生産事業的に考えてはならない。これは勿論こういうことはないと思いますけれども、特にこの教育というものはその効果を焦つてはならない。この場合に産業教育あたりでその効果を焦るの余り明日の日の生産を増すとか、或いは明日の日の貯蓄を増すというような考えの下にこの産業教育法が立案されるという工合になりましては、一つのそうした企業的な、打算的な考え方からこの法律が出されるということになりますならば、これは勤労に対する正しい信念が助長されるということは望めないのみか、むしろ学校を工場化して行き、前の徒弟的な勤労教育というものに堕して行く虞れがあるのじやないかという点から、飽くまでも教育というものは企業的に、或いは生産事業的な考え方で論じられてはならんということを特に強調したいわけであります。従つて勤労に対する正しい信念というものは飽くまでも専門的、或いは技術的な面からこれを探究するのでなくて、どこまでも社会生活の総合的見地から把握して行かなければならんということを特に申上げたわけであります。  それから二番目の問題といたしまして、日本教育体系であります。日本教育体系としては特に教育基本法教育の憲法とも言うべき法律としてあり、その下に学校教育法、社会教育法という二つの枝が出ております。この際にこの産業教育法というものの位置するところ一体どこであるか。先ほどどなたか申されておりましたが、産業教育法というのは名前はちよつとどうかと思うが、内容については学校教育法補助法であるというようなことを申されておりましたが、成るほど内容的にはそういう面も織込んであるように思いますが、併しながら二條の定義のところを見ましても「中学校高等学校又は大学が、生徒、学生又は青少年その他一般公衆に対して、」というように非常に広く分野が規定されておりまして、これは学校教育のみならず社会教育の面までも跨つている法案であるという点に非常な疑念を持つわけであります。勿論職業教育の振興というものは一般社会までも影響さして行かなければならないけれども、先ほど申しましたように、日本教育そのものが非常に危機に瀕しておるという現実に立ちますならば、そうした一般青少年とか、公衆というものにまでも発展よりは、むしろ現段階においてはどこまでも学校教育法の中にあつて学校教育の範囲内にとどめるべきである。とどめてその振興ということに持に重点を注いでもらいたいと思うのであります。なおこの表現につきましては聞くところによりますと、或いは現在すでに東北あたりで採用されております中学校、或いは高等学校あたりの成年学級、或いは社会学級とか、或いは別科とかいうようなことも考えられておるのかと思いますが、そういう問題はどこまでも職業教育として考えられるのでなくして、これは大きく言いますと、やはり六三三制の内容の検討というところへ入つて行かなければならん。又そうした別科とか、社会学級、或いは成年学級というようなものについては若しもこれを規定付ける必要がありとするならば、やはり学校教育法の中に規定すべきであつて、こうした商業教育法の中にこういうものを織込んで行くべきではないと考えるのであります。  次に教育行政の在り方でありますが、これは冒頭に私申上げましたように、日本教育行政の在り方として教育委員制度の採用というものは文部省の権限というものを大幅に縮小して教育の地方分権を行なつた。そうして地方の自主性に基いて地方に即応したところの教育をやつて行くという建前をとつておる場合に、現在ここに出ております審議会の問題でありますが、中央に産業教育審議会というものを置き、更に地方にそれと同じような地方審議会というものを置いて行く。これは勿論規定付けをみますれば文部大臣の諮問機関であり、又教育委員会の諮問機関ということにはなつておりますけれども、この審議会がなされる権限の問題、これが非常に広汎に亘つておる。審議会の権限が非常に広汎に且つておるということと、更に地方審議会の場合に、中央審議会が議して決定した中央の基準というものに準拠して行くということを出しておる点から見ますならば、ここに再び中央集権的な考え方が出て来るんではないかということと、今一つは文部省の基準に則つて地方の教育委員会が自主的にやつておる教育行政という在り方に、ここに又別個な中央審議会、地方審議会というものができて行けば、教育行政の一元化ということに相反するような面が出て来るのではないかということを憂うるわけであります。  それから次に学校教育内容に関する問題でありますが、持にそれの例としてここに第四條に持つて来て、学校の収益でありますが、この収益をその「学校の実験実習に必要な経費又は生徒若しくは学生の厚生に必要な経費に増額して充てるように努めなければならない。」という一項であります。これは持に私はむしろこの逆のことを規定してもらいたいとさえ思うわけであります。と申しますのは、農業学校、或いは商業学校にしましても、私は農業学校におつたことがありますが、そこで一県に、私の県に三つの学校がありましたが、ここで以て収益を独立会計としてその学校の実験実習、或いは生徒の厚生という面では卒業旅行の経費あたりに補助をするというようなことがなされておつたわけであります。そうしてそれから来る弊害というものはその一面から言いますならば、教育の本質をむしろ失つて、生産に重点を置かれたということは私身を以て体験したことがあるわけであります。更に県が予算を編成するに当りまして、勿論ここには「増額して」とありますけれども、その学校の収益というものがその学校の実験実習の施設に充てられるという條件がありますならば、教育委員会としてはやはりこれを見越した予算というものを立てて行くということが常道になつて来るわけであります。そこに学校としては少しでもたくさんの収益を挙げることによつて施設が充実するというところへおのずと行かざるを得ないということになるわけであります。そうして極端になれば同じ県内に三つの農業学校があれば、それがお互いに競争し合うというところにまで発展して行く危険があるわけであります。従つてこの條項につきましては、むしろ規定するならばそうした実験実習によつて生じた経費というものはどこまでも全額を納入して、それをその学校でそのまま使うということはさせないというような規定すらすることが、むしろ教育の本質を失わない問題ではないかと思うわけであります。  次に五点としまして予算の問題でありますが、先ほど総括的に申しましたように、教育の復興というものは勿論予算的措置というものが十分なされなければならない。この場合に現在の日本の各種教育を見ましたときに、教育財政の貧困からいずれの教育施設も充実されていないという現状であります。従つてこの際にどこまでも教育の、この職業教育についての予算についも十分なる措置をしなければならない。そのときに現在ここに規定されております文句を読んで見ましたときに、これでは果して国が予算をどれだけ編成して、どれだけそれが交付されるのか疑わしい面が出ておるのであります。というのは一定の基準を国が定める、そうしたならばその基準に従つてその当該基準にまで高めようとする場合においては、これに要する経費を予算の枠内において補助するということは、高めようとする場合という文句と予算の枠内においてという、この二つの文句によりまして非常に消極的になつておる。そこで飽くまでもこの予算措置につきましては、例えば実業学校教育補助に関する法律がありましたが、あのときのように毎年国は予算を以て定めるところの金額を補助金として支出しなければならないというような一項を入れて行く、こういうように積極的に入れて行くことによつて毎年度必ず通常予算で取るんだということをはつきり明文化して行く。更に当該地方が高めようとするということになつて来ますと、地方財政に頼る面もこの現在の原案では相当出ておるわけでありまして、それが一定の予算を組んで高めようとするというときに初めて国からも補助する。これでは真の振興にはならないのであつて、どこまでも国庫負担は基準に達しない基準以下のものに対しては全額を国庫が負担して補助してやるんだというところにまで行かないと、最も恐るべきことは、現に窮迫した地方財政のうちにあつて、同じ貧しい教育予算のうちにおいて共食いを始めるというような虞れも生ずる。又は全然この規定は別に出しても出さなくてもいいようになつておるので、有名無実の法案なつて行くという虞れもある。そういう心配を特に持ちますので、この予算面についてははつきりと先ほど申しましたような点を明記して頂きたいと思うのであります。明記しなければならないと思うのであります。なお申し遅れましたが、先ほど矢川先生のほうからでございましたか、産業教育、この法案について戦争を導くというような意味が述ベられ、更に次のどなたからでしたか、これこそが戦争を導かないというむしろ平和に、平和国家を建設する何があるのだというような反論も出ておりましたが、私はやはりこの法案の見方によつてはその見る見方によつてはいずれの面も一応肯定できると思う。というのはやはり非常な危険な面を含んでいると思います。従つてここでそういう問題を解消するためには、日本は現在ポツダム宣言を受諾いたしまして、持に平和憲法のもとにどこまでも平和な国家を建設して古くというところの義務と責任がある。なお教育基本法にも平和的な社会人を育成して行くということが載つているにもかかわらずこういう観点から考えますならば、一條の目的の中へ持つてつてはつきりと平和産業に寄与するという文句を入れることによつて、これは今の問題は解消するのではないかと思うのであります。そういう以上いろいろな問題について述べましたが、なお一條々々、或いは一項々々につきましての問題はあとつておりますけれども、又御質問がありましたならばそれにお答えするといたしまして、要するに総括的に申しますならば、今申しましたように、現法案には幾多の問題点が含まれている。でどこまでもこの法律を単独法として、これのみに重点を指向して、これだけを別個に考えて立法するということには賛成できないのであります。教育の全般的視野に立つて、どこまでも国民の資質向上、国民全般の向上という点に立脚して、その中の一環としての職業教育振興というように把握して行かなければならん。こう考えるわけでございます。なお洩れた点がありましたならば、後ほど御質問によつて補足説明をさして頂きたいと思います。
  17. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは次に全国洋裁学校協会連合会長松野さんにお願いいたします。
  18. 松野喜内

    参考人(松野喜内君) 私はこの法案に対して、次々の理由によつて先ず概論的に賛意を表するものであります。  第一、この本案は地方の事情に明るい議員各位が共同の提案をなされたこと、いわば国民の世論を結集してお出し頂く法律である。その狙いの趣旨は、この意味において私は第一賛意を表したいという気持であります。  第二には戦災を受けました六年の義務教育、これは復旧することすら誠に容易でないと思つたのに、更に我が国はこれを九年の義務制に新教育をやつて来た。実に有史以来のことであり、新制中学の建設には各地とも血みどろの思いをして決行しておることと思うのであります。敗戦国がよくここまでやつたものだと思わずにおれません。一応は整いつある次第でありますが、併し諸先生方のおつしやる通り、この六三制の完成までには実になみなみならん格段の努力、経費、財政の裏付とを要することでありましよう。この六三制の完成は国民つて努力をしなければならんと考えます。併し又一方これが完成をする上に間接的に役立つ意味から言つても、産業教育職業教育に思いをいたさなければならない。思うに教育経済経済教育、お互いに相関性を持つと申しましようか車の両輪のごとく、互いに原因ともなり結果ともなり、因果関係にあるということ、即ち教育の完備を図ろうとすれば経済が先立つのだ、我が国経済自立を図ろうとすれば、教育の根本策を立てなければならん。どちらが先か後か、いろいろ議論の仕方もありましようが、鐘が鳴るのか橦木が鳴るのか、鐘と橦木の合が鳴るという言葉のあるがごとくに、或いは一家離散いたしまして、学校へ行きたし銭はなし、こういつた環境にある青年はアルバイトをやつて通学いたしておるといつた次第で、否その通学がやりたくてもできない実情と同様に、今や国全体が教育の振興を図ると共に経済の樹立に邁進しなければならんということである。現行の教育におきましても、中学や高等学校には職業科課程があるとは言え、一般教養課程の上に比べてはやや遺憾な状態にある。諸先生がたも先刻だんだんと現場教育状態から御報告になつておりまして、私もこれは同感であります。特にその施設設備における貧弱、これが故にこそ議員各位は国会において産業教育振興の上に力を入れて下さる。この趣旨には同感の意を表しなければならんと思う次第です。以上が三番目です。  第四には回顧すれば明治二十七年でしたか、井上文部大臣時代実業教育振興方策の樹立といい、続いては明治三十二年の実業学校令の公布のごとき、我が国産業教育に多大の貢献をしたことをこの際再検討する必要があると考えます。終戦前までは中学校や高等女学校が二千二百五校あつたのに対して、農工商の実業中等学校が千五百八十一校あつたと言われております、青年学校や実業補習学校もそれぞれ各市町村にできまして、いよいよこれより産業教育の発展を見ようという折からこういう事変に際し戦争となり、遂に花も咲かず、実も結ぶに至らなかつたことは残念であります。而もこのこういう思い切つた教育の新制度改革をしようとあつて、ここに新教育制度を見た今日であること、そこで全国国民はこの在りし日のことを思い、今日の新らしい制度と比べて、新旧教育制度をつぶさに比較して見ておる次第なんであります。苦い経験も前途に希望を懐きつつこれを眺めておる次第であります。思うに私どもは新制度の長所は十分これを認めなくちやならんと共に、又更に考え直さなければならん点をも考慮する必要があると信ずる次第であります。先ほども皆さんがおつしやる通り一般教育科目産業教育科目との比重を考えて、これが不足を訴えて来ておる国民の各位の陳情といい、請願といい、要望というものは、なかんずくこの設備施設に対して補充の要望がされて来ておるという次第、どうしてもこの輿論には耳を傾けずにはおれません次第なんで、こういう意味から言つても本案の大体の趣旨には誰しも賛意を表せねばならんと考えます。  第五番目には、先進国に比べて我が日本職業教育が甚だ不利な状態にある、御承知のようにアメリカは地方が自主的に教育の実際を扱つておる次第ですが、職業教育に関することにおいては中央政府よりこれが補助を出しておるというような次第、他山の石として我々はここに参考とすべきことではないでしようか。  第六番目には、日本教育はとかく理論に長じておると言われるが、応用的の教育には欠けておると評されておる、教育上の共通的欠陥があると言われておる。学校を卒業しても実社会へ行つて割合に役立たないと言われる、父兄の悩みのあるところも考えねばなりません。教育制度改革に当つてはこうした理論面と実際の方面の並進すべきことを考えねばならん。殊に自然科学、つまり科学の知識においては日本国民全体のレベルを高める必要がある、向上させる必要がある、国民が挙つてこういう方面に応用活用を考えて行くことこそ即ち我が国経済に大なる寄与をし、我が国自立経済、即ち経済価値倍加作用にも大なる貢献をするものだと思います。教育を発展したかつたらこういう経済のほうの教育に努力をせんければ金はできない、打算的とか或いは営利的に走ることだけではなくて、我が国教育には財政の貧困、これをどうするかということを我々は考えなければならん。この点教育の点においてできると信じます。その意味において産業教育教育を発展せしめる六三制完備の直接関係の基調となるものだと信ずるものであります。私はここでこの案に賛成するのみか、成るほど皆さんがおつしやる通り考え直さなければならん部分的の点もあるでありましようが、一躍理想的の法案にはなかなか参らない。私は更に前途に希望を持つて見たいのは、一体日本のこういう教育制度改革に当つて、かかる教育経済経済教育の面から見て、殊には等しく青年らが、その青年が実に先ほどの御報告の通り、中学校高等学校の卒業生にして七〇%以上の者が専門学校大学のほうへ行きたくも行かれんという状態にある多数の青年等をどうするか、少数のことに我々は今かれこれ考えておるべきでない。多数の日本の困つておる青年らをどうしたらいいか、ここに大きい意味の、もつと広い意味の、二、三〇%でなく七〇%以上のこの勤労青年に対して広く産業経済教育をしなければならん。今回はそれまで行つておるんじやない。私は願わくば産業教育法というものを将来更に一段と進めて、働学一体の教育と申しましようか、働きつつ学び、学びつつ働く、働きながらもすべての者が教育の恩典に預る津々浦々の青年にあらしめたいということを思いつつ、あえて働学一体の教育法ということまで進んで頂きたいものである。働きつつ学び、学びつつ働く青年のための教育法といつたものを是非制定して頂きたいことを念願して止みません。  以上は本案に対する私はその狙いにおいて、目的、趣旨において総括的に賛意を表して見たいことの理由を述べた次第でありました。併しここに一つだんだん逐條的に考えて、つぶさに検討いたしまして、是非とも委員各位に御理解を願い、修正の点をば御採用願いたい点を申さずにはおれません。と申しまするのは、ここの案のうちに第一、官公立のみでなく、私立学校産業教育関係のほうにもその施設や設備補助金をということをお出し下さつたこと、つまり私立学校にも及ぼされたこと。これは委員各位もそれぞれ国会においての御盡力もさることながら、私は私学の方面の代表と言つてはおこがましいのですが、そういう方面から見た眼でそういう見地から感謝の意を表さずにはおれません。併しながら不幸にしてこの法律をつぶさに見ますと、一口に私立学校と申しますけれども衆議院のほうの速記録を拜見いたしましたところが、その質問のうちに、この私立学校といううちには各種学校は含まれておるのか否やということの質問があつたに対して、政府委員からは含まれていないとの答弁があつた。私はこの点について再検討をお願いして止みません。切望して止みません次第ですが、今その理由を申して見たい。  先ほど諸先生の報告のうちに、都崎先生も縷々本案をば御感想をお述べになりまして、できることならばこれは更に拡張して各種学校にも及ぼすべきでないかといつた言葉があつたことを覚えております。又石田先生からもいろいろお話があつた中に、先ほどの中学高等学校を出てからもその職のほうに実際就く者に思いをされて、統計の数字等をお出し頂き、その中で都立の商業学校を代表してのお言葉であつたが、タイプライターというものがあり、珠算という言葉があり、簿記という言葉がありました。それはどうでしよう。東京都の公立高等学校において勿論そうでありましようが、私立のそういうものは実にたくさんあるわけなので、タイプライター專門の各種学校もあれば、又珠算なり簿記なりの專門学校もあるわけなんです。そうすれば均霑性を持たなければならんとか、私学のほうもさように平等に扱わなければならんという建前から論ぜられているにもかかわらず、そういうほうがそこに加わつていないということは不公平というものではないでしようか、というような感じを持つ次第であります。又佐藤先生の言葉の中にも公立の工業高等学校を代表してのお言葉であつたが、私立のほうも各種の学校のうちにも電気の機械科や電気尋問の各種学校があり、そういうところの公立の学校設備、施設のほうのみが補助を受けて私立学校補助すると言いながらそういうものが入らん。各種学校にそういうものが入らなこいとは不公平ではないでしようか。ひとり電気ばかりじやない。ラジオの製造の各種学校といい、時計の製造の各種学校といい、どういうものでしよう。あえて私はお訴えせずにはおられません。山本先生のおつしやつた中にもやはりそういつた数字によつて、つまり卒業後の大学等へ行けないでやつている者の話があり、先ほどお話のように或いはここにも論ぜられてあるように、こうした現場教育かたがたがお訴えになることは私も至極同感である。洋裁方面学校においても同様です。確かに尋問学校とか女子大とかそういつたかたがたが更にそうした洋裁のほうの、自分が職として芸は身を助ける。我が手に職を覚えるためにいそしんでおる日本職業教育をやつておる学校も、それは立派な腕をだんだん磨いて行くわけなんです。こういつたほうにはこの法案は均霑されないのであります。私は切にそういうほうも加えて頂きたいことを各位にお訴え申上げ、わけても委員各位に是非一つお聞き願いたいとうことを切望するゆえんであります。  更に若干の理由を重ねて申上げますならば、この法案では公立学校や私立学校の両方の設立者に対して、産業教育の内容を充実させるために必要な経費について補助するとなつているが、そのうちの私立学校、その私立学校の中には今申上げましたように各種学校が入つていない。各種学校と申してもいろいろありましようが、即ち私立学校法ができまして、いわゆる学校法人、準学校法人等はいわゆる財産その他もこれを公共性を持つて公に出してしまい、自主性に基いてやつておるという状態なんです。然るにそのほうに今少しく設備を、施設をよくすれば、大なる産業教育に貢献をして今までも来たが、なお一層せしめるということがある。無論中には今の審議委員諸公等が見られてそれを検討なさる向きもあるのでありましようし、その中には同じそういう私立学校の持殊学校でも補助を辞退する学校も出て来る。いずれにしてもそういうものにあずかる途を、芽を出して頂くことが絶対必要であると思いますので、持にお願い申上げる次第であります。  今一言附加えさせて頂きますが、これらの法人には一般の私立学校の設置する学校法人に関する規定が殆んど準用されておる次第なのです。主務官庁の監督規定の適用においては学校法人と何ら異るところがないはずである。私立学校に関する根本法規である私立学校法においては、学校法人の設置する私立学校と、準学校法人の設置する各種学校とは全く同様の取扱いが現に行われているにもかかわらず、今回の補助に関してこれが平等に扱われていないということは妥当でないと信ずる。  第三には、法人の設置する各種学校の総数はさほどの数でなく、予算に大なる影響をというほどのこともないと信じまして、又これが採択検討は審議委員諸公に任す。又辞退することもあると申しました次第です。だから芽を出して頂くことが大切であり、産業教育の根本であると考えなければならんと思う次第であります。このように法人の設置する各種学校の法的地位を確認することは、他の各種学校に対して内容の改善に大きな刺激とか奨励を与えるものである。各種学校の地位、内容の向上に貢献せしめるように努めるゆえんである。現在の法人組織の各種学校は多大の経済的困難をもあえて忍びつつ、中等学校高等学校を卒業して来た多数の生徒が実に実際的にこういうような産業教育を受けるものであつて我が国職業教育に大きな貢献をした過去をも思い合せまして、これは何人も認めるところであることに思いをいたされまして、若し本法案のうちに各種学校をもお加え頂くことができましたならば、国家産業経済に資する点が多いということのここに希望意見を附しまして、私の陳述を終る次第であります。
  19. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは次に古川電気工業社長西村啓造さんにお願いいたします。
  20. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) 私は平素会社の経営に没頭しておるものでありまして、教育の機構とかいうようなものについては甚だ申訳ないが全く素人でありまして、今日この席に出て私の意見を申上げることは誠に恥しく思う次第でありますが、併し折角のお呼び出しでありまするので、私の考えておることだけ申上げて責を塞ぎたいと思います。  申すまでもなく日本経済自立せしめ、又我々の日本国民生活を向上せしめるためには、産業の振興ということが根本であります。それでありまするから、この法案そのものはその産業振興に一大進歩を来そうという本法案の御趣旨に対しては勿論異存がなく、満腔の賛意を表するものであります。ただ申上げましたごとく、私教育そのものの方法等について素人でありますので、如何にすればいいかということはこの法案を拜見しましたが、大体結構じやないかと思う程度でありまして、細かい点につきましては然るべきかたがたの御研究に待つ次第であります。ただ私が素人的に考えまするのに、学校で特に産業教育とか何とかいつてやることは先ほどの弁士のかたもおつしやつたように、どうも理論に傾きやすいのじやないかというふうに思うのであります。私は理論はともかく、日本人全体が産業的な人間、能率的な人間、仕事のできる人間というようなふうになつて行くこをと希望するのであります。例えてみれば、国民教育を一通り済んだらタイプライターくらいは打てる、或いはラジオの機械くらいは直せる、或いは自動車の運転くらいはできる、そんなようなふうに、或いはそろばんもわざわざそろばんの学校に行かなければそろばんが役に立たんといつたようなふうでなしに、国民の躾としてそのくらいなことは皆やれるようになつていることが望ましいのであります。お嫁に行くときに料理を稽古しなければお嫁に行けないということでなしに、お嫁に行くときには自然家庭料理に親んでおりますが、あれと同じ程度に、学校を卒業して社会に出るときには一通りの産業人としての教養が身に付いておるというふうにありたいと思うのであります。そしてそれは何も理論に精通する必要はないのでありまして、もつと実際的に実務がそれにかなえば私はいいと思うのであります。少し脱線かも知れませんが、私この間アメリカに行つておりまして、或る国民教育に関するパンフレツトを拾つたのであります。それは「ミラクル・オブ・アメリカ」と書いてあります。「アメリカの不思議」というのであります。開いて見ましたところが、書き方は一家の子供が自分の親をつかまえて、今アメリカはこんなにたくさんの自動車を持ち、こんなにたくさんの電話を持ち、こんなにたくさんの油を使い、紙を使つておる、かような高い水準に到達しておるが、これは一体どうしてできて来たか、又この生活水準は今後も維持できるか、或いは更によくなるか、というような質問を親交さんにしたのです。ところが親交さんは、それはアンクル・サムのおじさんに聞くがいいと言つて、アンクル・サムを引合いに出してそれに答えさしているのであります。その答えを非常に子供にわかるように平易に書いておりまするが、アメリカといえどもいわゆる植民時代は非常な貧乏であつて、皆自分で木を伐つて家を建て、薪も作る、おつかさんは棉を作つて、それを紡いで着物にするという次第であつたのであるが、それが分業が発達してから非常に国民経済が楽になつて、要するに一人々々の生産力が高まつて来た、次にアメリカ人はほかの国民に優つて非常に機械に対するインタレスト、興味がある、又機械を工夫し機械を使うことに非常に興味を持つておる、それがアメリカの産業を非常に発達さした、一人々々の生産力が非常に躍進したということを書いております。これに続いて、例えば交通の便が開けたとか、産業機構が変つたとかいうことも書いてありまするが、それらのこと、要するに一人々々の生産力が増したということが今日のアメリカを築いた基であるということを強調しておるのであります。そして更にこの努力、額に汗してそういうことを開拓して行つたが、その努力が続けられる限りアメリカの一人々々の生産力は増し、そして一人々々の生活は向上するということを結論に書いておるのであります。三合の配給を受けたければ、各人が三合の米を作り、或いは米を作るに匹敵するだけの生産力があれば三合の生活水準に到達し得るのでありますから、我々産業人はみんなが自分の生活向上をしたければ、それに匹敵するだけの生産をするという心構えを持たせる、これが国民に対する産業教育の僕は根本ではないかと思うのであります。  これも、脱線かも知れませんが、私は日本人は非常に非能率的な国民性を一面に持つておるように思うのであります。例えて見れば、日本の歌というもの三十一文字しか使わない。俳句は更に十七文字であります。その三十一文字か十七文字かの短いものにどうして自分の思想感情を入れようかというそこに非常に苦心をしておる。それでもなんとか歌になつたと言つてそれを喜んでおる。併しもつと変えればもつと文句くてもいいから立派な思想感情を織込んでやつたらもつと大文学ができるのじやないかというふうに思われる。或いは音楽をやるにしても、西洋の琴は四十本も五十本も糸があります。日本の琴は十三本しかない。それを更に工夫して三本の三味線にし、物始きな人は更に一本にする。そういう貧弱なものでも何とか音楽ができるというところに興味を覚えておる。尺八にしましても、西洋の楽器なら笛なら簡単に音が出るのに、尺八というような非常にシンプルな道具をこしらえて、そうしてそれでも何とか音楽をやつて見せる、首を振るだけでも三年もかかるようなむずかしいものをこしらえて、それで何とかやつて見せるというところに興味を覚えておる。併しそれは能率的じやない。もつと道具をたくさん使つてもいい、立派なものを使えばいい、そうして短い時間に楽に立派な製品がたくさんできるというようなふうに仕向けることが大事なことじやないか。そういうふうに日本は如何にも貧乏国にできておると思うのですが、貧弱なものを使つて何とかやつて見せるというところに興味を持つておるが、私は豊富なものを使つてそうしてたくさん作つて大きく世の中を渡るようなふうの心構えにすることがいいじやないか、こう思うのであります。甚だ蛇足でありまするが、これを附加えて私の責をふさぎます。
  21. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは最後に苫小牧製紙会社社長の中島慶二さんにお願いいたします。
  22. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 私は只今西村さんのお話同様、紙を作つております製紙会社の責任者でありまして、この法案そのものについて一応拜読はいたしましたが、條文或いは字句その他について全くの素人でありまするから、そういう点についての意見は差控えまして、それは専門のかたにお願いするとしまして、産業教育を振興するという根本趣旨の法案制定にいつては衷心から賛意を表するものであります。  従来から、これは私は若い時分からそういうふうに感じておりまするが、どうも従来は学校教育理論のほうに別に重点を置いたわけじやないでしようけれども一般の風潮は理論的のものを以て優つておる、言い換えれば、それが高尚の教育に感ぜられて、或いは工業とか、農業とか、商業とか、そういうはつきりとした産業部門の名の付いた教育はそれよりは幾分低級と言いますか、少し語弊もありまするが、そういうようなふうに一般考えられておるじやないか、これはいろいろ各方面かたがたと従来教育問題等について話合いますと、多くのかたが大体そういうふうに考えられておるということに意見が一致しておるようですが、これは無論明治維新以来いろいろな日本国家発展上の過程から来まして、以前には或る程度止むを得んかも知れませんが、これは時の為政家の責任にのみ帰するわけでもありませんが、この産業教育ということについてもつともつと早くこの点について重点を置かれ、又この教育振興について歴代の政府当局もお考えになるべきじやなかつたかというふうに実は考える次第でありまして、私はむしろ今日かかる問題がいわゆる表面化したということは、むしろ遅きに失するような考えもいたしまするし、私は別にこういうものを法律によつてどうこうという形を言うわけじやありませんが、どうも従来からこの産業教育について少し歴代政府の方針が不徹底じやないかというふうに実は考えておる次第であります。現在私どものいわゆる実業界と申しまするか、各産業の殆んどこれは例外なくそういうふうに考えられまするが、一番最も今望んでいる学校卒業生に対する希望といいまするか、どういう人を希望するかということは、これは重工業、軽工業、そういう産業部門区別なく、とにかく実際仕事に当つてよく物がわかつて、そして本当にその事業の中堅となり得る人、いわゆる産業の中堅層、これを最も実は望んでいる次第であります。少くも私に関する会社に限つては最もそういう中野を実は願つておる次第であります。勿論国民全体が全部が大学教育、或いは理論、実際両方面を兼ねた高等教育を受けられればこれに越したことはございませんが、特に私は今日は中等、高等程度の点に重点を置いてお話するわけですが、学窓を出られて、勿論学校では数多い産業を全部、紡績或いは造船或いは又製紙、化学、その他あらゆる部門にすぐ間に合うような生徒を養成するということはこれは無理な話でありまして、如何にそれが設備されようが、これは殆んど希望するほうが無理でありまするが、併しいわゆる産業に対する学校教育方針が余り理論的でなく、できるだけ実際面にもやつて頂くということは、これは学校を出られて社会に出てもすぐに間に合うし、又それが日がたつに従つて非常に進歩の程度も早いということは事実でありまして、殊に終戦後は憲法で労働組合法もはつきりと認定されて、いよいよこれからこういう従業員方面もがつしりとそういう面を認識して、共に国家経済再建をやらなければならん時代でありまするから、極く少部分の大学教育を受ける人以外の大部分の人にこの産業教育を一層徹底さして頂きたい、これは実業界全般の希望じやないかというふうに考えられる次第であります。学校設備というとこになりますと、これは無論できるだけ徹底するに越したことはありませんが、これ又財政面もあり、種々の関係から、そう各産業に亘つて全部理解を与えるということはなかなか困難と思いまするが、できるだけ各産業に共通に当てはまるような基本設備をやるとか、いろいろそういう点もございましようが、この法案にもちよつと一部見えますが現在実際にやつておる産業部門の工場なり商店なり、そういう方面学校が直接連繋して学校の校務と併行してそういうことをやられるということも一つの方法じやないか、まあ各産業の部門をただ漠然と工場の形を見せたり、或いは機械の並列を写真に撮つたり、そういうことでは余り効果はありませんでしようけれども製造工程を微細に部分部分に連絡的に撮つれ映画などをやられれば相当参考になるのではないかと思われますし、そういう具体的のことは御当局の方針にお任せするとして、とにかく我が実業界としても最も中堅の実際家を数多く希望しておる、従つて日本国家産業としてもその点が最も今必要に追られておるのじやないかというふうに考えます。ただこういうふうに我々が希望するような立派な青年を多く社会に出すには、どうしても教育者に人を得なければならんということは、これは論を待たない次第でありまして、これは勿論国家財政その他地方の財政、いろいろの関係がありまして、そう我々のただ希望條件だけでは簡単に行かん点もありましようが、どうも従来からひとり産業教育者に限つたわけじやありませんが、教職に当る先生方の物質的待遇といいまするか、いわゆる俸給といいまするかが非常に低きに失する、これはひとり私が感ずるだけじやなくて、もうあらゆる方面においてこの問題は話に出るのでありまして、これは常問に遺憾なことであつて、教授が自分の子弟を専心に教えて、そうしてそのかたわら多少のそういう自分の本務に必要な参考書その他を購入し得るような余裕は当然あるべきでありまするが、現在はそれどころじやない、もう自己の生活自体がすでに問題であるというようなことは各方面で耳にもしますし、又自分の身近な人で実際にそういう待遇を受けている人もありまするが、これはやはり本当に教育に專心当り得る態勢に置かなければ、どうしても如何に教育振興を叫んでもなかなか理想的なわけに行かんと実は考えておる次第であります。これは先ほども申上げましたように、財政面その他にいろいろ影響もございましようから、ただ我々産業人として産業問題について、教職員の問題についてそう考えておる、そういうふうに是非なつてもらいたいというふうに考えております。その他多少細々したことで意見もございますが、今日は私の参考人としての話はこれを以つて終りといたします。
  23. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 本日お出で頂きました十人のかたの非常に参考になる御意見を承わつたのでありますが、その御意見に対して各委員から御質問をさして頂きたいと存じます。これは皆様がたの御意見に対して議論をするのではなしに、重ねてお教えを受けたいと思うので、又短時間で意を盛して頂く機会がなかつたので、補足的にお話し頂く機械を作りたい、こういう意図からでございますから、各位に或いは無躾けな質問があるかもわかりませんが、あらかじめ御了承頂き、お答え願いたいと思います。各委員から質問を願います。
  24. 岩間正男

    ○岩間正男君 私はこれは簡単に都崎さんか佐藤さんにお伺いしたらいいと思うのでありますが、第一に今日お話がなかつたのですが、この法案の第一條ですね、これにこの勤労に対する。正しい信念を確立しという條項があるのでありますが、これは今後産業教育法案というものが行われるとすれば、具体的にはどういう方法によつて今後新らしい勤労観というものを確立する方法をとられるか、正しい勤労観というものの内容をこれはどういうふうにお考えなつておりますか、その点承わりたいと思います。
  25. 都崎雅之助

    参考人(都崎雅之助君) 私はかように考えております。勤労に対する新らしい観念、これは非常に漠たる見方で、人によつて違う、これは時代によつて違う、この考えが変つて来ておるかと思うのであります。民主的な世の中におきましては、各人が各人の持つておりまする能力を、最も優れたものをできるだけ有効に使用して社会のために盡す、同時にそれによつて自分の生活を支えるということであるわけであります。それの方法としましては、最も大切なことは職業に対する指導であるということなのであります。その問題につきましては先ほどもちよつと申上げたのですけれども我が国の今までの教育というものは、単に健康にして立派な社会人を作るというだけであつたのでありす。教育目的はその人の自己の発展ということ、社会人としての立派な意識、経済生活の単位としてのその人の能力を見付け出し、それを伸すということにあると思うのであります。私はさように考えております。それのやり方はどうか、先ず中学校における職業指導より始める、かように存ずるのであります。
  26. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) 正しい勤労観念の養成ということは、これは我々職業人として当然その目的の中に織込まなければならん事柄であると思うのであります。従つてそういう御質問のあつたことも又当然と思うのででありますが、私は正しい勤労観念といいますのは、つまりその時代の良識によつて判断さるべきものである、こう考えるのであります。併し私の考えるところはその根柢なるものがある、つまり工業人であるならば、先ほども簡単に触れたのでありますけれども、工業人は物を作るということである。先ず作るということに非常な誠心誠意の本当の熱意というものが根柢になつておる、その職業々々に応じて自分の受持のものに本質的な努力を払うということが根柢であると思うのであります。併し正しい勤労観念の適用につきましては、時代の良識によつて判断して行くべきものと思うのでありますが、従つてこの正しい勤労精神の涵養ということは、当然この産業教育の場合、言われなければならん事柄である、かように思います。
  27. 岩間正男

    ○岩間正男君 もう少し具体的に私は伺いたいのであります。どういうふうにして果されるか、例えばカリキュラムの問題の中にこれは入るわけなんですけれども、それとまあ誠心誠意というようなお話があつたのですが、この誠心誠意というような言葉も非常にやはり内容ももう少し具体的にならないと漠然たるものではないかと思います。この誠心誠意に働いて行けるその根柢にやはり我々は正しい、社会観、勤労観というものを打ち立てなければ、これは確立されないというふうに考えております。そこでそれも内容は時代によつて、良識によつて変るというお話でありますが、それではお伺いしたいのですが、例えば現在この職業科、それからそういう実業学校あたりではですね、日本に行われておりますところの労働法、或いは働基準法、労組法、こういうふうな労働三法のごときものを教えておるかどうかであります。これは如何ですか。それからこういうものを教えるべきとお考えになりますかどうですか。この点を非常に私は重要だと思うのですが、これは憲法にも保障されておりますところの基本的な労働権利ですね、そうしてそれがどういうふうに、当然労働者の一面におきましては権利としましても、どういうふうに守らなければならないか、こういう問題がですね、非常にこれは新らしい時代の要請としては、当然新らしい憲法なんかと連関してこれは教育の中に積極的に私は打ち立てられなくちやならないものだ、こういう点が具体的にされないとですね、これは漠然とする、正しい労働観ということは、これは戦争時代にも同じ言葉で言われたのでありまして、中味はどうか、これは現在の教育で行われておるかどうか、行われていないとすれば、これに対して皆さんはどういう感じを持たれておるか、こういう点お伺いいたしたいと思います。
  28. 石田莊吉

    参考人(石田莊吉君) 石田からお答えいたします。只今岩間先生からの御質問の労働三法でございますが、これは当然高等学校の、持に高等学校の課程におきましては、生徒に教えなければならないものであつて、先ほども中島先生のほうからも労働組合の重要性について持にお話があつたのでありますが、経営者側から見てもああいつたようなお話なんであります。まして我我の生徒の大部分というものは卒業いたしまして、直ちに労働者として職場に働くものでありますので、これは当然教えなければならない、どういうふうなカリキュラムの中にそれを織り込むかということは文部省のお考えもありましようし、又各都道府県教育委員会の考え方もあろうし、又最終的には学校並びに生徒が最後にカリキュラムは作成することになるのでありますからして、そこで最終的な決定をいたすものと思いますが、およそ現段階においては社会科という教科がございますので、社会科の中に労働の問題が入つて参ります。そこで主としてこの三法について生徒と共に研究をするという時間を、相当時間を持つております。それからなお労働組合法なり或いは基準法なり、そういつたものの重要性に鑑みまして、各地方の教育委員会、或いは教育に直接は関係ございませんけれども、労政事務所等におきましては積極的に学校のほうに働きかけて、こういうものについての正しい解釈を課外として、持別教育課程といたしまして実施しておるというようなところも多数見受けられるわけであります。十分意を盡さない点があつたかも知れませんが、以上を以て岩間先生に対するお答えといたします。
  29. 岩間正男

    ○岩間正男君 そこにですね、日本教育体制の中で、どの程度そういうものを具体的に、私たちは実は今まで研究をしておらんのでありますが、先ほども槇枝さんのお話の中にあつたのでありますが、イギリスの労働組合会議において日本経済政策に対する非難の問題がありました。それから実はつい最近でありますけれども、国連の経済社会理事会におきまして、日本労働政策に対する全面的な非難決議がなされておる。これは何かというと低賃金の問題である。この低賃金の一番基幹となるのは青少年の低賃金の問題である。これは戦争前からの日本の重大問題として、青少年労働をこれは大巾に搾取する、搾取という言葉がいろいろこれはお嫌いのかたもいらつしやるかと思いますから、利用する。で、そういうような立場で以てこれが助長されておる。紡績なんかは最も特徴的に現われた姿だと思います。女工哀史のような姿を生んだのでありますから、こういう姿が日本では戦後においてもこれが払拭されていない。これに対して今の国連の経済社会理事会が非難をいたしただけでなくて、実はイギリスの紡績協会、或いはアメリカの紡績協会におきましても、最近のこのダンピング、日本のダンピングについて非常に大きな関心を払つている。そうして再びメード・イン・ジャパンが復活する、こういうような恐怖に対して烈々として訴えられている。こういう問題を私たちが産業教育法案のような形で出されている法案と連関させないで検討しないで、我々はこの問題をおることはできないわけです。これは当然国会議員の任務だと考えておる。そういう非難決議が起つているところに日本労働行政の一つのあり方、或いは労働に対する教育一つのあり方、それが勤労観というものというような言葉で表現されていると思うのですが、こういう点を非常に大きく見直さなければならない。こういう点について十分にこれは反省すべき問題があるのじやないか、こういうふうに思うのでありますが、こういう点を考えまして現在どうでしようか。現在の教育の中で、こういうような労働教育というものが、本当にこれは満足すべき状態に達しておられると考えておられますかどうか。殊に労働者の基本的権利の擁護というような問題は、日本のような後進国であります。殊に労働運動というものは、終戦後においてやや正常に法的にも認められ、直ちに発達して、そこにはいろいろな問題も一方ではあつたかと思いますけれども日本はむしろこれはまだいわば冬を迎えるので重ね着をしなければならん、決して裸にすべき状態でない、こういうことで、果して教育組織の中でこれをどういうふうに考えておられ、これに対しどういうふうな努力をされるお考えでおられますか。こういう決意をお聞きすることによつて産業教育法案の内容というものは殆んど私は変らざるを得ないのじやないかと思いますが、こういう点についてお聞きしたいと思います。
  30. 石田莊吉

    参考人(石田莊吉君) 現在の学校教育の中で、労働問題についてどの程度の教育をやつでいるか、満足すべき状態にあるかどうかという御質問なんでありますが、これはまあそれぞれ学校によつて差異があると思いますが、私自身の見解を以ていたしますれば、相当程度具体的なことを申上げますと一番はつきりすると思いますので、ほかの学校のことはよくわかりませんが、私のとこでは、社会科の場合に、社会科の時間に時事問題というのがございますが、それを文部省の規定によりますと、何か六つぐらいの単元をやつておるようでありますが、これは私の学校として持別なカリキュラムで編成いたしておりまして、他のほう臓ほかに讓つて、実は労働問題については半年十分勉強させるような機会を三年において与えております。単元を二つにいたしまして、国際問題と労働問題という二つの単元として研究させておるというようなことで、非常に労働問題については重視しておりまして、相当程度生徒もこの問題については理解を深めておるものだと確信いたしております。併しながら私の力の足りないためにまだ十分に或いは御期待に副うようなところまでは行かないかも知れませんが、いよいよこの法律が通過いたしまして、そして産業教育というようなものが非常に大きく浮び上つて参りますならば、恐らくこれに伴いまして先ほども御質問がありましたように、この第一條に、研究に対する正しい観念を確立すると、こういうような項目もはつきり謳つてございますので、いよいよ各学校においてこうした研究に対する正しい観念を養成し、そうしてこの労働問題については誤りのない方向に生徒を導いて行くことのでき得ることと確信いたします。そういう意味におきましても本法が一日も早く通過して、実施されることを希望せざるを得ないわけなんであります。
  31. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) ちよつと申上げますが、非常に時間のお急ぎのかたがございましたらお申出下さいまして、そのかたに早くお尋ねしたいと思いますが、お時間の御予定で早くお帰りになるかたがございましたら……。
  32. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 私ちよつと三時半に帰りたいと思いますので……。
  33. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 中島さんに対する御質疑があれば……。
  34. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 中島さん並びに西村さん、どちらも実業界のほうからおいで下さつたのでありますが、御二方に御質問申上げたいと思います。あなたがたの会社では相当お若い人も働いていると思うのでございますが、定時制高等学校のほうにどのくらい就学さしているか、或いは持にあなた様がたの会社は、別に定時制の課程の高等学校を設けられておるかどうか、その点について承わりたいと思います。
  35. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) ちよつと数は私覚えておりませんが、前に約小人数でしたけれども、卒業生を年々百人程度出すという目標で、工業のほうを専門に、会社の直属の学校を設けておりました。これは戦時中いろいろな、この若い人の動員その他の関係で中止しました。今はやつておりません。今どの程度までそういう学校の人が率を占めているかはちよつと数字的にわかつておりませんので、甚だ御希望に副いませんが……。
  36. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) ちよつとお答え申上げます。私の会社でも或る工場におきましてもう二十年来、もう少しになるかと思います。三十年来と申しましようか、その当時の高等小学校を卒業した程度の者に対しておよそ二年くらいの、初めは徒弟学校と申しましたが、その後いろいろ名を変えましたが、要するに職業教育をやつております。そうしてそれが今は工場において、相当いわゆる労働者階級の最も頼もしい人間として働いておるのであります。戦争中一時中止いたしましたが、最近この二年くらいから又それを復活しております。
  37. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 そうすると定時制高等学校をやつておる……。
  38. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) 定時制ということはどういうことなんですか、私は素人なのでそういうむずかしい定時制というのはよくわかりませんが、どういうことですか。
  39. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 ともかく若干の若い人を集めて教育をなさつておる……。
  40. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) そうでございます。
  41. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 会社で必要な技術を授けるために必要な教育をなさつておる。こういうわけなんですね。
  42. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) そうでございます。
  43. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 それでは次にお尋ねいたしますが、両会社としては定時制高等学校に学ぶ人間が相当いると思うのでございますが、そういう定時制の高等学校に行きたいと希望している者がいると思いますが、会社によりますと、その高等学校に行くのを抑えてやらない会社があるのですが、あなた様の会社では奨励なさつておるのですか。余りそういう学校に行くことを抑えていらつしやるのですか。どういう方針をとられておるかということをちよつと承わりたい。
  44. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) 別に抑えてもおりませんし、むしろ事情の許す限りやろうと思いますが、併し持に奨励しておるというものでもございまいません。
  45. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 私のほうもあり余る人数をおいておるわけでもございませんから、会社側から積極的に学校へ出れ出れというようなことはいつておりません。又どの程度まで就学しておるか、私はちよつとそこは事務当局に聞かんとわかりませんが、行くことを決して抑えるということはいたしておりません。
  46. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 実業界を代表されたお二方からさつきからいろいろ御意見を述べてもらいましたが、私は次のように了承したのですが、間違いがないかお尋ねしたいと思います。それはお互いに敗戦国で、国家経済にせよ或いは国民経済にせよ、非常に貧弱なものだ。すべて教育の面を見るというと、非常に理論ずくめで、非実際的であり非能率的である。中学校あたりでも労働に理解を持つとか、或いは将来個性に適した進路を選択する能力を与えるとか、そんな理窟ぽい非能率的な教育方針をとつてつては役に立たない。それでまあうんと研究して学の薀奥でも究めるような人はそういう教育をするとして、国民の七五%も占める一般の大衆に対してはともかく早く役に立つ技術を身につけるような、そういう手取り早い教育をやるのが、我が国国民経済からいつてもぴつたりして、産業の進展にも寄与するのだ。そういう教育方針をとつてやられたほうが職業教育は振興するのだ。自立経済にも寄与できるのだ。こういうふうに実業界の現場の窓から職業教育の振興を見られておるように私は拜聽いたしたのでありますが、さようでございましようか。
  47. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 大体お説の趣旨なんです。持に私が先ほど冒頭に申上げましたが、この二十才前の、何の仕事をしても最も一番頭に泌み込む、まあ実例でありますが、碁や将棋をやつても、二十才前に覚えたのと、全然二十才後に覚えたのとは違うというようなくらいに、いろいろなな過程の事情なり又本人の希望なりで大学教育を受けられないような人が、直ちに社会化出ていろいろな産業につく場合には、その年齢においてすでに産業教育を受けておる人と、そうでなくて、ただ基礎教育の幾何代数、三角、そういうようなものだけで出られるのとでは非常にそこに相違がありますから、そういう程度で、私は大学へ行かれないような人は、単なる理論基礎教育でなくて、できるだけ多く早く産業教育をさして、社会に出して頂ければ、我々のほうの受入態勢としても非常に好都合でもあり、それが又本人に対しても非常に仕合せではないか。延いては国家全体の経済再建にも非常に寄与するところが多くはないかというふうに実は考えるわけであります。
  48. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 この際今の御意見に対して教育学者としての矢川さん並びに教育委員としての高橋さんから今の見解に対しての御意見を承わつておきたいと思います。
  49. 矢川徳光

    参考人矢川徳光君) 只今いろいろ申上げたいことはございますが、直接的には只今のお話のありました事柄に対しでということになりますと、これは徹底的に誤つているのでありまして、こういう考え産業人がおいでになる限り、この産業教育法というものを通過させたら、日本勤労青年は非常に愚民化する。全く今の産業界の指導者がたは教育ということを御存じないし、その教育というものがどういうふうに国家の役に立たなければならないかという事柄について全然零である。例えば誠に言葉尻を取るようで失礼でありますけれども教育というものは碁将棋になぞらえて考えを述べることができるようなものではないのであります。そういうことは目先の役に立つ人間をこさえるのにはいいでありましようけれども人間というものはやはり精神を持つているのでありまして、ただ目先の又は手先だけの技術でありますとか、すぐ役に立つような技能でありますとかというような、そういう技能だとか業ということではなくて、その人間がどういう精神を持つておるか、その人間国家に役に立つか役に立たないかということが大切なのでありまして、そういう点から考えまして、只今お話のありました点に直接的に私のほうからお答えせよということでございますならば、初めに申上げましたように、只今のような考を持つておいでになる限り勤労青年は不幸な青年になるだろう。況んやこの産業教育法が通過したならば、ますます国家的に合理化しない事柄になる、そういうふうに考えます。  ただもう一つだけ、丁度発言を与えられましたので申上げておきたいのは、産業界を指導しておいでになるかたも、教育に直接関係しておいでになるかたがたも、とにかく非常に日本産業状態というものを甘く考えておいでになる。もう少し掘り下げて考えなければいけませんし、日本教育の事情につきましても、いわゆる受売り的な浅薄なものでありまして実状を御存じない、そういうふうに考えますので、そういう面からも実は申上げたい点がございますが、発言の範囲を越えるかと思いますので、只今のお尋ねに対しまするお答だけ申上げた次第であります。
  50. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 只今の話でちよつと言葉が足りませんようでしたが、人格ができてない、人間ができていないじやないか、これは産業教育に限らず、あらゆることについてこれは絶対條件でありまするから、何も私がただ職業専門で、形だけ整えばいいというような意味じや絶対にありません。ただ私が碁将棋になぞらえたというのは、一番物覚えのいい二十才前に、そういう高等教育に行かれないような人については、その時期を最も有効な産業教育にやつて頂きたいという話を実はしたわけでありまして、別に精神的のほうはどうでもいいというようなことは勿論考えておりません。
  51. 木村守江

    ○木村守江君 本日の参考人との会合は、各参考人意見を拜聽することにとどめるはずであつたのでありますが、参考人一つのテーマを与えて、それを討論させるというようなことは、本会議の精神を逸脱したものと思いますから中止してもらいたいと思います。
  52. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 同感でありますが、別に御議論を誘発する気持はないのでありますが、またまた一つの問題について異つた意見があつて、お互いのこれは意見の相違でありますから、参考人のかたもお気持を悪くされずに、お互いに意見が違つておりますのですから、そのつもりで我々は議する次第でありますから、お互いの間に議論に亘るようなことのないように、これは一つ皆各委員のかたにもお願いしたいと思います。矢嶋君続いて一つ……。
  53. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 私は実業家代表のお二方に対する質問はそれだけで終りなんですが、そういう御意見は私確認する必要があるから承わつたのであつて、それに対して教育学者として、或いは教育委員のかたはどういう見解を持つているか聞きたかつたのです。例えば又申上げますが、各種学校のほうは、松野先生のほうから言われるというと、各種学校を入れて欲しいと言われるのですよ。それに対して今度向うのかたは果してそういう御見解かどうか、やはり参考人を呼んだ以上は聞いておかなければならん。議論を誘発するという必要はない。又参考人のかたもお互いに余り議論討論にならんような軽いお気持で私は御答弁してもらいたい。こう思つております。
  54. 木村守江

    ○木村守江君 どうも委員長は今日の運営の仕方が或る程度間違つておるのじやないかと思うのです。私は各参考人から参考人の率直な意見を聞くのが今日の会合を持つた意義だろうと思うのです。そのことにつきまして一つの問題を出して、それから誘発的に討論させますと、どうしても討論になるということは止むを得ない状態だと思います。これは参考人から参考に聞いて、誰がこういう議論を持つた、誰がこういう議論を持つたと、別に一つの問題について、小さな一つの掘り下げた問題についていろいろな議論をさしたら、これはいろいろな意見を述べさせたら議論になりまし、どうしても討論にならざるを得ないと思うのです。そういうような議事の持ちかたをやめにもらいたいと思います。
  55. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) よろしい、わかりました。承知しました。委員長から最初に申上げましたように、これは各人のお持ちの御意見を承わりまして、それぞれの間の意見の相違は勿論あろうと思います。ただ我々委員がお尋ねしたいことは、最初にお断りいたしましたように、量ねてお教えを乞いたい、こういう意味であります。そのつもりでお答えを願いたいと同時に、御意見の相違点が若しあるならば、それにとどめたい。それ以上に議論をするということはこれは避けたいということは最初に私は申上げておきました。各位もそのつもりで一つお願いいたしたいと同時に、委員のかたもそのつもりでざつくばらんにお尋ね頂いて、議論に亘るということになれば、これは意見の相違でありますから、お答え頂かなくても結構であります。それから先ほど申上げましたように時間の迫つておりますおかたはお帰り頂いても構結であります。それでは矢嶋君。(「ちよつと僕に議事進行を許して下さい」「議事進行はいいじやないか」と呼ぶ者あり)
  56. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 私は高橋さんのお答えを聞きたいと思つたのに、委員長が許可しないとあればそれは結構です。    〔木村守江君「議事進行、それはいかんよ」と述ぶ〕
  57. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) あなたのはわかつておりますから……。    〔岩間正男君「僕にもやらして下さい。議事進行」と述ぶ〕
  58. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 委員長は先に高橋さんのお答えを求めます。
  59. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 委員長ちよつと……、私が要求したのですから私が申します。(「取消して下さればいいのです」と呼ぶ者あり)私はここで参考人のかたにわざわざおいで願つて、随分興奮しておるようですが、そういう空気を醸し出したくないので、もう高橋先生の御答弁を強いて要求いたしません。取消します。
  60. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それからお答え頂くほうも、相互にどうも、意見の相違がありますから、御答弁頂かなくてもいい場合があつても結構ですから、そのつもりでお答え願います。   (岩間正男君「議事進行と述ぶ」〕
  61. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 岩間君、今日は定足数も別にありませんから、議事進行ということでなしに……。
  62. 岩間正男

    ○岩間正男君 簡単に話します。余りに……、ここでオープンに話合つたらどうかと思うのです。皆に聞いてもらつて……矢嶋君のさつきの質問は何も悪いことじやないと思う。当然学問的な立場から、それに対して歯に衣を着せずに、ざつくばらんな意見を述べて頂くことは当然差支えないと思う。それが当り障りのないことで委員会運営されるのでは、私はこの委員会を持つた意義はないと思う。だからざつくばらんに、要するに個人感情とか、そういう意味で言つているのじやないのですから、十分に盡させて頂いて結構だと思います。余り抑えられる必要はない。
  63. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それじや質問を続行いたします。続いて矢嶋君ありますか。
  64. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 お二人のかただけの質問をやつてつて、私はまだ次の質問がありますが、実業界のお二かただけには済みました。委員長、私は、実業界お二人のかたお忙しいから早くと言つたから、そのかたに対する私の質問は終りました。ほかのかたに対する質問はありますけれども、それで実業界の代表お二方に対する質問がありましたら早く済まして頂いて、お忙しそうですからお帰り願つたらいいと思います。
  65. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 実業界のかたがたに御質問あるかた、成るべく……。
  66. 成瀬幡治

    ○成瀬幡治君 これは西村さん、中島さん、どちらでもよろしうございますが、この法案の中に、第三條の第五項に「産業教育実施について、産業界との協力を促進する、」こういうことが誰つてあるわけですが、このこととは別個といたしまして、只今矢嶋委員のほうからも定時制高校などというような話もありました。或いは戦時中におけるところの青年学校と申しますか、ああいうようなこともあつたわけでございますが、例えばまあ今いう中学校ですね、新制中学を終つて出た子供さんをあなたのほうでも採用されて、そこでまあ会社に役立つような教育を会社自体として、例えば半年乃至一年間くらいやつてつて、そうして何というのですか、会社の本職工というのですか、これから役に立つようにして、成るたけならば中学校を卒業した子を雇う、そうして会社自体で或る程度育てて、それから本当に間に合うような職工さんと申しますか、働いて行ける人にあなたのほうで十分教育をして頂くような御気持のようなものはないのか。或いはそういうことをやるとすると、非常に会社が財政的に国難であつてそういうようなことは現段階においては会社自体で非常に国難である。こういうふうに今お考えなつているのか、その辺のところを少しお聞かせ願いたいと思います。
  67. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) お答え頂きます。
  68. 中島慶二

    参考人(中島慶二君) 実は先ほども申上げましたが、以前長くそういう会社直接で中学校卒業者を百名程度年々に入れるということでやつて参りましたが、これは戦時中いろいろな青少年動員等の関係で、今は中止はしましたが、非常に好結果を得ておりましたが、又一面やはり先ほど西村さんのお話のように、二年間やつておるわけですね。これが中学を卒業して三年程度の当時の高等工業なり或いは高等商業なりを事業して入られる人もおりますが、それらの関係が相当そういう高等程度の学校の卒業生を入れますから、比較的いろいろな問題で人事方面ちよつと困つた点もあつたのです。これは大局から見れば大した問題じやないかも知れませんが、そんなような事情がありまして、これは会社直属の学校じやないか、これはどこどこの高等工業を出たのだというようなことで、少し人事上でちよつと困つた点がありまして、実は戦後まだはつきりした考えがきまらんものですから、今日まだそのままで、会社自体でやる方針でやつておりましたですがね、併しこの問題については非常に私は関心を持つている。だから全然やらんとは申上げませんが、過去においてそういう二年程度の会社直属の学校と、それから三年程度の地方の高等工業出の関係などについて相当苦しんだ点もありますのですから、今は專ら各学校の卒業生の就職についてはいろいろ困難もされておるようですから、できるだけそういう卒業生を事情の許す限り多く収容しようという方針ではおります。
  69. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) 私も一言申上げます。先ほども申上げましたが、理論じやない、実情をお話申上げるのでありますが、前に高等小学卒業程度ぐらいの者に一、二年の補習教育を、我々の会社の仕事に順応するような職業教育をやつたわけであります。その後戦争中に中島さんのおつしやつたように、中学卒業生なんかうんと割振られて来たのですが、それらの人を見るというと、いわゆる人間としてはできておるかも知れません。又立派な素養はあるのでありまするが、職場における仕事振りを見るというと、却つて一、二年の短期の卒業生、我々の手許で育てた者よりも、平たい言葉で言えば役に立たない、そこで会社の取扱いでも、或いは同僚の中でも、結局そういう人が重く用いられないというような不幸な結果になるのであります。それで私が申上げることは、職業教育というようなことをそんなむずかしいことは言いません。又我々の個々の工場なんかに必要な者を御要求することも無理でありまするから、極く普通の、どこへ行つても役に立つようなことは、いわゆる産業教育として学校で教わつていてもらつたならその人は幸福じやないかと、こう思うのであります。それがその人の人格にどう影響するか、それをやつたから人格が悪くなると私は思いませんし、又その人が幸いにも実業教育によつて社会に出たときに楽にいい位置、いい給与につければ、その人はその長い間に人格も一層よくなり、学校におる間だけぢやない、社会人としてからも教養が深くなり、いいスタートが切れるというような考えを持つております。
  70. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 実業界のかたに御質問があるかたは簡単に……。
  71. 岩間正男

    ○岩間正男君 ちよつと西村さんにお伺いしますが、先ほど西村さんだつたと思うのですが、学校を卒業して来たらタイプライターぐらいは打てるように、機械の組立ぐらいはできるように、こういうお話なんですが、これはやはり一般教育の中でどこにでもそういう教育が行われて欲いということを御要求じやないんですか。それとも特に産業教育というのは実業学校的な、実務に近いような教育の中でこれをとるのと、どつちをお考えなつていらつしやるのですか。
  72. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) それは、私は日本の生活が余りアメリカに比べても、或いはヨーロッパに比べても時代遅れがして、機械というものが日本人にとつて一つの、ひどい言葉で言えば怖いものの存在のようになつておるから、もつと機械というようなものに馴染むということが近代人の生活だと思うのです。それだから一遍にそれはタイプライターもでき、自動車の運転もできるということは、日本としては望めないかも知れませんが、ああいう近代生活に離れられないような機械というようなものは、一通りの学校を出た人間は、大体は馴染んでおるというようなことを希望するんで、それが産業教育であろうが普通教育であろうが、私としては問題じやない。
  73. 岩間正男

    ○岩間正男君 そうすると今の教育の中にそういような一つの技術教育というようなものを加味しろ、こういう御意見ですね。
  74. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) ええそういうような……。
  75. 岩間正男

    ○岩間正男君 産業教育の中でそういうものを果すという意味じやなくて……。それともう一つは、これは中島さんのお話だつたと思うのですが、上の学校に行けないような子供は、これに対して大急ぎで技術を教えたほうがいいんじやないか。こういうお話なんですが、やはり教育機会均等、それから一つの一国の教育の行政として考えるとぎに、貧乏でそういう上の学校に進めないその子供だけを産業教育の対象にやつて行く場合、ここに我々悩みを持つておるわけです。我々の立場としてはですね。そうじやなくつて、やはり、例えば中島さんのお子さんならお子さんでもそういうような教育をされる、そういうことが非常に重要なんだというふうに考えるわけなんですが、どうもやはり貧富の差によつて産業教育というものが一つの階級的な性格を持つておる形になるんですね。今のような話が……。
  76. 西村啓造

    参考人(西村啓造君) 私の考えは、金持の子であろうが貧乏人の子であろうが、近代の社会生活には昔の日本の生活よりももつともつと機械いうようなものに馴染んだ生活、こういうものを利用する生活、そういうものを工夫するといういうようなことが今後の社会の進歩になるんだから、これはその人の地位とか、或いはそれが工場労働者になろうが、自立経済をやろうが、そんなことは別問題で、そういう意味において、そういう科学的の水準をもつと高めるという意味において、いわゆる産業教育というものに若し織り込むものなら織り込んで頂きたい、こういうふうに思つております。    〔若木勝藏君発言の許可を求む〕
  77. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 実業界のかたに……。
  78. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 いや、実業界じやないのです。
  79. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それじや西村さん、お忙しいでしようからお帰り頂きまして、若木君。
  80. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 私は現場の校長さんのかたに伺いたいのでありますが、どなたでもよろしうございます。石田さんでも或いは都崎さんでも佐藤さんでも、どなたでも、現場の、持に高等学校の経営というふうな立場から、これは学校教育法に基き、或いは又高等学校設置基準、そういうふうなものに従つて高等学校を経営して行く場合に、いわゆる専門の学科についての教育に当つて、その場合に当つて設備とか或いは実験、実習の費用が極めて貧弱なために、それに示されておりますところの教育実施ができないから、そういう点について十分なる国家からの補助を頂けば、これでいわゆる今設置されているところの高等学校目的が達せられる。同時に勤労青年教育の、産業人としての教育の振興もできる、こういう程度に考えられるか。或いは現在経営に当つた経験から見まして、今の学校教育法に示されておるところのこの高等学校の経営では、それでは到底不十分であるからして、それは持別な教育体系を持つたところの、まあ産業教法というふうなもの、産業の振興という方面からどうしてもそういう形に進めなければならない、こういうふうにお考えになるか、この点について伺いたいと思います。
  81. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) どなたからでも……。
  82. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 どなたでも、向うの現場のかたでも……。
  83. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) 私どもはこの新学制の発足につきましても参加しておるのでありますが、その際に必ずしも職業教育の面が今日のごとき頗る不振の状態になるとは思わなかつた。政府当局の努力によつて、又社会のこの面への理解、或いは我々の努力によつて産業教育必ずしも振興し得ないものではないというふうに考えておつたのでありますが、従つてその範囲内において我々はできる限りの努力をして来たつもりでありますが、先ほども申上げましたように、如何せん今日のこのままでは到底我々の希望するところの産業教育の十分なる責任を果し得ないというようなことから特別なことが必要であるということと、特に国庫補助の面を我々が強く希望しまして、これと関連いたしましてこの職業教育に関する法律の制定を望んだというのでありまして、これなければ絶対にできないと考えたわけではなかつたのであります。今日においてはこうした学校教育法や社会教育法と抵触するものではありません。ただその補足をしたものであると思うのでありますけれども、これを設けることによつて産業教育の振興を期し得ると、こう考えておるようなわけでございます。
  84. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 栃木高橋さんは栃木までお帰りになりますので、時間がありませんから、高橋さんに御質問になる方は先に一つ……。
  85. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 高橋さんにお伺いいたします。高橋さん、先ほど普通課程と專門課程の雑居では困るというようなお言葉ちよつと出たのでございますが、これは終戦後やつておるところの高等学校の総合経営というようなものを否定される立場でございますかどうか、もう少し掘り下げて意見を承わつて見たいと思います。
  86. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) 高橋です。お答えします。決して総合的な運営を否定したものではありません。むしろ私は、この総合的な運営を今後助長せなければならん、こう思いますけれども、この法案から考えられることは、その総合的運営を阻害するような傾向が多分に含まれておるからこの点を修正して頂きたい、こういうことを申上げたわけです。
  87. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 それでは重ねてお伺いいたしますが、県によりますと総合高等学校ではどうしてもうまく行かないというので、総合高等学校について峻烈な批判をして、折角総合制にしたのを相当壊して行つているところがあるように私今も事実聞いておるわけでございますが、栃木県の実情は今どうでございますか。それとも総合高等学校をやられて、確たる見通しを立てられておりますか、重ねてお伺いしておきたいと思います。
  88. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) お答えいたします。私の県の実情を申上げますると、概括して御報告すれば、先ずやつと現在見通しのつく、軌道に乗つた、この程度でございます。将来はこの設備、それから職員の組織、それからカリキュラムの再検討、こういう部面から一段と内容の充実を図つて行きたいと思つております。一例を申上げますと、私のところに足尾銅山がありますが、ここには従来銅山経営の私立の工業の高等学校がありましたが、終戦後私どもはこれを県営に移管し、併せてここに普通課程を設置して、総合経営を行つております。会社のほうの設備、技師、そういつたものを十二分に援助して頂いて、職員の不足、それから設備不足、そういうものが会社の積極的な援助によつてなされまして、実にこの法案に見られる第三條の五の実現がなされておるのであります。これは一つの例でありますけれども、そういう状態に行つておる場所もございます。
  89. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 次にお伺いいたしたい点は、まあ高橋さんは栃木県の教育行政の責任者の立場におられるわけでありますが、先ほどのお言葉の中にも、実験実習の不完全とか、高等学校教育の不十分な面も言葉の端に出されたかと思うのでございますが、その場合にこの乙号暫定基準言葉が出ましたが、文部省でちやんと省令で高等学校設置基準というものをきめて、それに生徒数の定員も職員の定員も、施設の基準もきめておつて、なお且つこれが実施されないで、而もこの本年度甲号基準になるべき段階に来てなお乙号暫定基準でやつておる。こういう実情については、まあ職業課程の高等学校のみならず、一般高等学校からも相当教育行政責任者であるあなた方のほうにいろいろ学校長のほうから意見が出ておるんじやないかと思いますが、その代表的な意見を余り長くならん程度で今承わりたいと思うのであります。
  90. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) 誠に恥しい話ですが、私の県はまだ乙号暫定基準を脱却することは今年も不可能であります。大体県全体の職員を昨年度だけ確保するのに、全県下のPTAの署名捺印をもらいまして、やつと我々委員会あと押しして頂いて現在の職員数を確保したような状態で。先ずこの法案に盛られるような内容を獲得するということは実に遠い話であります。従つてどもの希う点は、先ほども申上げたように大部分の校長の意見、現場の声は、こういう法案は誠に結構だけれども、これを実施する際には曖昧な、補助或は予算の範囲内、こういうような空手形でなく、はつきりと国庫補助と、こういうふうに謳つて頂きたい。そうしないと、私どもは折角この立派な法案を頂戴いたしましても、これを現場に実施する際に、予算の面、金の面で行詰つてしまうのであります。  細かい点は申上げませんが、とにかくこの法案実施する際には、補助の面をはつきりと謳つて頂きたい。そういたしませんと、我々はどのような責任を持たせられましても、無い袖は振れないのであります。十分この点御審議なさる各位の御努力をお願いしたいこう思うのです。
  91. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 私だけやつて済みませんが、あと二点だけお伺いしたいと思います。あとで現場の校長さんからも承わりたいと思うのでございますけれども、先ず教育委員としての高橋さんにお伺いいたしたいのですが、それは少し根本に遡るのでございますけれども、今盛んに施設と予算というものを非常にクローズ・アップしておるわけなんですが、予算を取り、施設ができただけで職業教育の振興ができるものでしようか。もう少し申上げますと、今の高等学校の八十五単位、それと必修の三十八単位との関連ですね。これはまあ現場においてはどういうようにやられておるかということを校長さんから承わりたいと思うのでありますが、あの八十五単位と三十八単位のあれで職業教育というものは本発に振興するものでしようかどうでしようか。まあ平素からお考えなつておるかと思うのでありますが、簡単でよろしうございますから、その御見解も承つておきたいと思います。
  92. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) 私の知つておる範囲を申上げまするならば、八十五単位、あんなものでは到底不可能だと、こう考えております。なお併しながら法で縛られておりますので、どうしようもないですけれども、できる限り我々の学校運営についての立場からいいますと、これを課外補習とかいろんな、何といいますか、補助的な、法以外の、努力を払つてこれらの不足を補つておるわけでありまして、なお産業人が果してこんな形で立派に育成ができるかどうか、現在の程度のもので満足できるかどうかということについては、いろいろ細かい点があるかと思いますが、私の承知しておる範囲では、まあ痒ゆいところに手が届かないというのが現実の問題じやないかと思います。こういうふうに思つております。
  93. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 最後にもう一点お伺いいたしたいと思うが、それは国立の大学並びに私立の大学がこれは文部大臣所管になつておるのでございますが、地方の公立学校が地方教育委員会の所管になり、私立学校と公立の大学だけがまあ地方の首長の所管になつておる。従つて先ほどあなた様の御意見の中にもありましたように、地方審議会が両股にかかるような形になつておる。これについて或るかたからは、飽くまでも教育委員会の指導性において運営されるという意見が出たのでありますが、結局私立学校の所管をどこに持つて行こうという問題になると思うのでありますが、教育委員会といたしましては、やはりこの私立学校教育委員会の所管にしないで、知事の所管、今のままがいいようにお考えなつておられるかどうか、それともこれを知事の所管から、全部教育一切は教育委員会の所管にしたほうがいいというようなお考えを持つておられるかどうか。私立学校の所管の件につきまして教育委員としてのあなたの御見解をお伺いしたいと思います。
  94. 高橋通亮

    参考人高橋通亮君) 私どもの県では、実質的には委員会が一切責任を持つて運営しております。私立学校も形の上では、併し県費補助或いは国家補助を受けるために恰好だけは知事の所管に入れておりますけれども運営面或いはその他異質的な管理の両は一切私どもがお預りしてやつております。そうしない場合には、到底私立学校独自の立場に立つてそうして予算をとるとか、或いは内容の均一化、公立学校とレベルをひとしくするという努力を払つても、これは不可能なんです。現在の私立学校は実にこれは苦しい立場に立つておりますので、私どもは先ほど松野さんからもお話がありましたが、私の考えから言えば、私立学校委員会の直轄下に置くというとこが一手にやりやすりいのじやないか。別に繩張の問題とか何とかじやなしに……。知事のほうは単に県費支出という予算の関係だけからそういうふうな形になつておるのであります。私の県では私立の学校も我々が実質的に運営して援助してやつております。
  95. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 高橋さんにお尋ねのかたはありますか。続いて他のおかたにお尋ね願います。
  96. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 先ほどの続きを質問いたします。先ほどのお話では、現在の高等学校の経営では到底責任あるところの教育は果し得ないというようなお話であつたのでありますが、どういう点についてそういう点が言われるか、それを具体的にお聞きしたいと思います。
  97. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) それは最も大きな面は施設の面であります。先ほども申上げたのでありますが、もう戦災学校のようなところは殆んど目も当てられないような貧弱な設備でありますから、工業学校は、私の区域で言いますれば、責任ある工業教育は成立たない、我々は責任を持てない、こういうことなんです。
  98. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 そうするとそれは設備の上の問題ですな。そうすると経費によつて解決できる問題ですね。
  99. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) 設備の面は経費でできますが、一つ最も大きな問題を申上げたのでありますが、なお運営に関して非常な不自由を感じておりますし、又教師の面についても非常に不都合を感じておりますし、それから教科書の面なども非常にこれは困つております。多々あります。かようなわけであります。
  100. 若木勝藏

    ○若木勝藏君 私の伺いたいのはそういう経費によつて解決し得る問題は簡単にできるだろうと思うのです。そうでなしに、学校の経営上から今の高等学校のこの学校教育法、或いは設置基準に示された、これによつて経営して行く場合には、到底責任あるところの教育はできない、産業教育について……。だから新たなるところのこういう産業教育法案というような別な機構を持つて来なければならないと、どこまでも考えらるるか。その問題を聞いたのです。
  101. 山本佳男

    参考人(山本佳男君) 現在の一番の欠陥は、先ほどから佐藤さんからも話された通り設備の点、それから教員の面、それから教科課程の内容、運営上の面、それらには教科書の面とか多々ある思いますが、これらが十分に行つたならば、この職業教育というものは振興するのじやないか、こういうように一応は考えられますが、私は今までの歴史から考えましてこれは到底不可能な話、というのはここに中学校なら中学校の職業科、国語、社会、理科というような教科がございますが、決して職業科はこれは特別に取扱えということは言うてないと思う。これが施設は全然ありはしない。もう教員も禄な者のがないといつてもいいんじやないかと思うのですが、この施設を整え、教員も十分なものを整えて、而もその内容も運営よろしきを得たら、これは国語、社会、数字、そうしたものと同様に同じレベルまでに私は一般がこれは食いついて来るが、今までの面からは私は食いついて来ない。というのはどういう点にあるかと言えば、明治初年以来日本教育というものは、むしろ指導者の養成であると申してもよい。つまり小学校出た者は中学校に、中学校出た者は高等中学に、高等中学出た者は大学にと、そうしてそこに椅子を狙つてつて来た。こうした長い間の習慣というものは、職業に従事する者に対しての考え方というものが、一段低いというような慣例が未だ去つていない。それが証拠には、現在普通課程に進む者、大学に進む者は一部分である。約六割から七割という者が産業に従事するにかかわらず、先ほども統計を示しましたように、農家の長男で当然、当然じやなくて実質上農家の跡を経営して行くにかかわらず、普通課程、昨年の例でありますと、一万余名であります。これが今後の商業或いは水産、こうした面に普通課程を出てそうして従事しておる。いずれも高等学校であつてそこには何ら人格教養の面においても、高等学校の目標といたしましては、一般教養とかそれから職業的な教養、それから個性の進展と、三大目標があるにかかわらず、現在それを等閑に附しておる方面に向うという点は、何となしにこれは一般普通課程に進んだほうが見榮もいいし、将来も何とかなるだろう、こういうような考え方じやないか。そこにおいてこの設備をしましても、同じレベルまでには私は一般考え方というものは行かん。それでこうした欠けておるほうをピック・アップして、これは国家の面からも必要だろうという点を叫んで、初めて同じレベルに行くのじやないか。そういう面から、今まで特に教育法におきましてはこういう点が欠けておつたのだ、そこでそれを、この面が欠けておつたのだという点を社会に明らかにすることが極めて私は必要なものじやないかと思います。そこでこの補足的なものを一つの単行法といたしまして出すことは、現在から推しましても将来極めて必要だ、こう考える次第であります。
  102. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつと松野さんにお願いします。松野さんはさつきこの法案の中に各種学校を入れないことは玉に疵だというふうな話をなさいましたが、各種学校と申しましても非常に種々雑多な学校があると思うのですが、どういうような程度に各種学校を限定なさるか、お伺いしたい。
  103. 松野喜内

    参考人(松野喜内君) 木村先生の御質問、先ほど私が証言申上げました、又希望申上げました各種学校一つ口に各種学校と申しましてもいろいろある。その中には、産業に殊に貢献し……、つまり私立学校中の中学校高等学校、こういうものが産業教育に従事したと同じようなふうに、各種学校においても同様の貢献をしておるものがあることを見逃しては困る。これについても機会均等にお願いしたいと申上げたのです。従つて各種学校は多種多様ですから、これが検討を加え、如何なるところに補助を与えるか、如何なるところに一線を画するかということが問題になつて来ると考えます。よつて学校法人又は準学校法人というところに一線を願うことも一つだと思います。又そのうち補助を望まない学校もあるかも知れません。又その点も選択よろしきを得て、審議委員諸公等に検討を頂いて……、持殊学校を出た者が恩典に与らないで無視されることのないよう、ひとしく産業の奨励、振興に骨折つておることが認められないことは、不公平というか、遺憾に思つております、仰せの通り多種多様ですが、一線を画することによつて一つ芽を出して頂きたい、こういう考えです。
  104. 木村守江

    ○木村守江君 重ねてお尋ねしますが、誠に失礼な言い分かも知れませんが、準学校法人と申しましても、本当に名前だけが準学校法人で、内容においては全く営利的なような学校も多いと思うのですが、その点如何ですか。
  105. 松野喜内

    参考人(松野喜内君) お答え申します。今仰せの通りで、実は若し時間が許せば委員各位にも、今日の日本における各種学校現状を一部でも見て頂きたいと思うのですが、文部省は最近各種学校の数を調査しております。まだ全部集りませんが、例えば大阪等もまだ来ておりませんので、はつきりしたことは申上げかねますが、今申しましたいわゆる学校法人というのが百三十七、併しこの中にはいわゆる産業教育といつたようなほうの関係でなく、盲聾学校とか幼稚園等も含んでおることを御承知頂きたい。又準学校法人の今日までに出ておるのは七十四校となつております。そういたしますとこれら併せて二百十一と申しましようか、そうして今の盲聾や幼稚園等を差引きましてどんなことになりましようか。確かな細かいところまでお答えしかねますが、仮にそれが百となるといたしますと、その中から補助をすべきものの選択を誰がするか、それは先ほど申しました審議委員諸君が検討するというのが一つの建前だと存じます。如何がわしいものは無論オミットして、いいものは一つ芽を出して頂きたいというのがお願いです。
  106. 木村守江

    ○木村守江君 有難うございました。次に日教組の槇枝君にちよつとお伺いします。極めて単刀直入ですが、槇枝君はこの法案に賛成なんですか。
  107. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 端的にお答えいたしますと、現在出されております法案、このままの形においては反対です。
  108. 木村守江

    ○木村守江君 それではちよつとお尋ねしますが、私の聞いた範囲においては、この法案がいわゆる教育基本法並びに学校教育法並びに学校教育法というものから逸脱したような法案だというように第一番に聞いたのですが、私の聞いたところでは。それからあなたが教育関係されまして実際教育家としてこの法案が通りましてこういう教育行政をやつて、それが本当に教育基本法にも学校教育法にも関係しないでやつて行くのだというように考えますか
  109. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 私は教育基本法なり或いは学校教育法あたりと全然関連しないでこれをやつて行くということは非常に困難だと思います。だが併しこれは補助法になつておりますから、持に学校教育法補助的な法律になつておるということと、而もその内容、主目的は、やはり一定の予算を以て補助する、いわゆる財源の面ですね、その面が重点的に取上げてあるわけですね、この終いのほう……、そうしますと一般学校教育というものを離れて、補助ということが一番の主眼になつておるとすれば、今各種学校のお話もありましたように、この前天野文相の御発言にあつた運用を誤らなければ賛成だというような、あのお言葉もありますように、運用を一歩誤れば非常に学校教育を逸脱した方向に行く危険性というものを包蔵しているという点を指摘したのです。
  110. 木村守江

    ○木村守江君 それでは結局この法案というものはそのままでも教育基本法、それから学校教育法というものに順応した産業教育を行うというようには考えられますね。
  111. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) これは私の趣旨はこうですから、よく確認して頂きたいのは、どこまでも教育基本法に則つた法律であり、そうして学校教育法と社会教育法という二つの体系に分れておりますけれども、先ほど申上げたのは、この二條において定義で明らかにここに出ておりますのは、中、高、大、それに持つてつて青少年、或いは一般公衆という方面にまで発展しておるということに非常な範囲が漠然としておる。従つて飽くまでも教育基本法に則つて、而もその中の学校教育法に限定してもらいたいというのが私の一点であります。
  112. 木村守江

    ○木村守江君 私は槇枝君は実際教育家で非常な経験を持つているから言うのですがね、この法案が素人に示すのだつたら、この第一の目的の場合に、この法律は、教育基本法に基き学校教育法並びに社会教育法の精神に順応して産業教育と、こういうふうなことを、それは素人に示すならばそれまで確然としなくちやならないと思うのですが、少くとも学校教育をなさつて教育の実態を知つている人だつたら、私はそういうような制限と言えば言い過ぎかも知れませんが、要らないじやないかと思いますが、如何ですか。
  113. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 私が申上げるのは、決して目的の一條なら一條の文句の中に、あえて教育基本法に則るとか何とかというようなことがあるとか、入れなければならんとかどうかいうことではないわけです。と申しますのは、例えば補助の場合を見ますと、第十八條の二項に「前項に規定するもののほか、国は、公立学校の設置者に対し、予算の範囲内において、左の各号に掲げる経費について補助するものとする。」更に一項にも掲げてありますが、一定の基準というものが一体奈辺に定められるかということが、今度のこの法案自体で行きますと、地方教育審議会というものが基準を定めるということになつて来るわけです。そうしたときに、飽くまでも学校教育というカテゴリーを踏むならば、どこまでも教育が主眼でなければならない。その場合極端な例を申上げて失礼かと思いますが、若しも日本の曾つて戦争中ありました、一時軍需産業というものが非常に盛んになつてこれが増大した。そうしたときにそういう軍需産業を行なつている会社あたりに学校の生徒、学生という者が動員されておつた。そうした場合に、それは学校研究施設と見なしてそういうものに対する補助も出すという方面に発展する危険性もなきにしもあらずということを指摘したのであります。決して言葉や字句そのものではないわけです。
  114. 木村守江

    ○木村守江君 私は槇枝君のさつきの話を聞いていると、第一にいわゆる教育基本法並びに学校教育法、これと離れたような方向に行きやしないかというようなことを非常に虞れておつたので、そういうことを言つたわけなんですが、その点はそういうふうなお考えでしたならばそれでいいとしまして第二番目に、槇枝君のいわゆる実費の収益を施設の充実に充てるということについて、槇枝君は実際実業学校の先生をしておつて、そうして非常に弊害を認めたというお話と聞きましたが、それと反対に、実習によつて生じた収益を一遍県に収めるということが、果して正直にやられますかどうか。それからそのままに、実際収益金というようなものでも収益金にしないで無駄使いしてしまうというようなことが実際ありませんでしたか。
  115. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 私が先ほど自分で体験したと申上げましたのは、実業学校教師としてでなく、私は実業学校の生徒として体験したのであります。それは学生の頃に修学旅行に半分の補助するからといつて、一生懸命働いて農作物を売つて、その収益を以て補助するというようなことをやられたのであります。そういうことによつて卒業旅行の半分を補助してもらつた。これによつて卒業旅行ができると一生懸命働かさせられたところの体験を持つておる。こういう危険性がある。それから今木村先生は正直に納めるかどうかということをおつしやつたけれども、私はやはり、飽くまでも正直に納めないであろうからというのでこれをこういう形にするというところにこの立案の本旨があるとすれば、これはなお更危険なものだと思います。
  116. 木村守江

    ○木村守江君 その槇枝君の体験はこの法案とは別に関係がないと思うのです。私は実際この問題にぶつかつて実際やつたのですが、実習によつて得た金を以て施設に充てるということが行き過ぎかどうかは、指導する先生によると思います。勿論先生が間違つて指導したら行き過ぎになるかも知れませんが、少くとも本当に産業教育を進展させようという考え方であつたら、そういうことはなくなると思うのですが、如何ですか。
  117. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 勿論運用する先生によつて相当変つて来るということは当然言い得ると思います。併し原則的には、やはり実業学校というものは収益というものを目標にするのでなくして、収益を以て自分の施設に充てるとか、或いは生徒、学徒の厚生事業に充てるというように原則的に立法化されておるということは、これはやはりこういう方面にどうしても重点をおかざるを得ない。ところがこの間永田町小学校において促進大会がありましたときに或る農業学校の校長さんが見えておりまして、一晩私のところに来られてこの法案について話をされた。そのときにこの補助に関する四條についての問題が提起されたときに、その農業学校の校長さんがこういうことをおつしやつた。今までのように国や県から予算的な補助をしないで、非常に貧弱である場合は止むを得ずこういうものを以て充てるけれども、これは本道じやないと思う。それによつて一層経費の削減ということがなされる。これはその校長さんの体験されたことで、丁度その隣にもう一つ農業学校があつた場合、県で予算を編成するときに、大体あすこはこれくらいの収益があるからこれくらいの予算をやろう。こういうふうに出て来る。そうすればどうしてもそれくらいの売上げというものを上げなければならない。上げなければ自分の施設が悪くなるという場合に、どうしても生産というものに重点をおかざるを得なくなるということです。
  118. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 木村さん簡単に願います。
  119. 木村守江

    ○木村守江君 今収益の問題を予算に組むというのは、これは収益を見込んで尨な予算を組むということは私はないだろうと思います。例えば農学校つたら、鶏が何羽おるから、それから卵が幾ら取れるというような計算でやるのでありますから……、(「意見を抜きにしてやれ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)あなたと考え方は違うかも知れませんが、実際問題として、何もなくて教育されるのと、誰かの幾分の犠牲によつて作られた施設によつて教育された効果とは、実際問題としてどうだと思いますか。理論でなしに……。
  120. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 理論ではなくて……、自分の施設というものは自分で実際に生み出して、生産によつてそれでできたという施設、そういうものを尊ぶという精神、これは学校教育としてはあり得べきではないと思います。
  121. 木村守江

    ○木村守江君 勿論あり得べき形態ではないが、実際問題となつた場合にどうですか。何も施設がないよりもあるほうが……。
  122. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 極論して、無より有を生ずるならば……。(「答弁する必要なし」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し。)
  123. 木村守江

    ○木村守江君 予算の問題ですが、定められた金額を予算として毎年出すというのはどういうのですか。
  124. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) 予算問題で私の申上げたのは、定められた金額というのは、幾ら幾らと定められたものをもともと金額を明記するいうことはこれは不可能だと思う。毎年経済的に予算というものは動いております。而も一体基準に合わないものがどれだけあるかということは、毎年動的なものですから、法文上幾ら補助せよというような、金額を明記せよということは不可能である。私が申上げたのは、決して金額を明記するというわけではないのでありまして、要するに毎年予算を持つて補助金を組み、予算によつて編成されるところの金額を支出すると、はつきりと法制上必ず国家職業教育振興に関しては予算を編成しなければならないという義務付けをしておかなければ、有名無実の法案になる虞れがあるということを申上げたわけであります。
  125. 木村守江

    ○木村守江君 この法案が通つたら、勿論これは予算を作つてそれを提出しなければいけないのじやないですか。これは当然予算を作るために出す法案なんですよ。
  126. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) それは予算を作るために出す法案であるということは明らかであります。この法案條項の解釈で行つた場合には極めて消極的である。これはもう少し積極的な法律にすべきだと思います。
  127. 木村守江

    ○木村守江君 もう一つ、この補助の方法によると、それは地方の財政的負担が大きくなるというような話ですが、私はこれは補助の建前からいつて、勿論全額国庫支出は誰でも希望するところですが、実際問題で義務教育は、小学校の建築にしても又新制中学の建築にしても、これは全額負担ということはでき得ない問題なんです。そういう点から考えて、これはやはり国庫から或る程度の……大体において半額負担なんですが、半額補助というような線をきめなければ、これは到底国家財政が許さない。従つてそういうことになると、この法案ができないということになるのではないかと思いますが、これについて何かお考えは……。
  128. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) これは法文上は、この前衆議院に出ておつたときには二分の一ということが入つておりましたが、今度削除されておりますが、今の木村先生の御発言によりますと、やはり半額という気持で書いておるのだとおつしやられておりますが、そうなりますとなお更この法案で、ここにこのように一定の基準に達しないものについてこれを高めようとする場合においては、この文句の解釈はどのようになつて行くかといいますと、例えば山口県と広島県の二県で以て、山口県は非常に貧弱な、そうして教育予算というものは少い。隣りの広島県は或る程度裕福県である。こう仮定した場合に、いずれの県の実業学校不足しておる。併しながらその場合に山口県は不足しておるけれども高めようとすることはできない。自分の県財政が許さないという場合にはこれに対して補助を与えられない。自分の県でこれを高めようというので予算を編成した場合には、二分の一を国から補助してもらうということになると、この法文解釈からいつてそういうふうに……。
  129. 木村守江

    ○木村守江君 そういう問題は、平衡交付金でアンバラスを修正されることになる。
  130. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) そこが私のおそれておるところです。平衡交付金でこの半額なりそういうものを切るということになると、現在平衡交付金が非常に……。   (岩間正男君「委員長、質問の整理をやつてくれ」と述ぶ、その他発言する多し〕
  131. 木村守江

    ○木村守江君 それは違いますよ、半額が平衡交付金に入つておるという意味ではない。地方財政のアンバランスは平衡交付金によつて……、    〔岩間正男君「今日は意見を聞いて置くだけではなかつたか」と述ぶ、その他発言する者多し〕
  132. 木村守江

    ○木村守江君 この法案戦争を誘発する慮れがあるというのはどういう点ですか。戦争を誘発する虞れがあるのですか。
  133. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) いや、それは私の発言ではありません。
  134. 木村守江

    ○木村守江君 いや、さつき矢川さんだつたか、戦争を誘発する慮れがあるということを言つたときに、あなたは、私も運営如何によつてはそういう慮れがあるということを言つたから、私は聞いておるのですが。
  135. 槇枝元文

    参考人(槇枝元文君) いや、わかりました。私がさつき申上げたのは、戦争誘発の慮れがあるということと、そうでない平和、これこそ平和だという二つの線が出ましたが、これはいずれも肯定できないということを申上げたのです。その戦争の誘発という問題は、先ほどちよつと触れましたのですが、やはり実業教育に関して国庫が補助をするという場合に、補助の基準というものをどこで作るかといえば、中央の産業教育審議会というものでその基準設定を行つて行く、無論これは文部省がこれに対しての決定はやるわけでありますが、中央産業教育審議会でやつておる。この審議会のメンバーはどのような人かというと、その中には経済産業勤労等々の人間、各界から成立つておる。そうした場合に、日本経済日本産業というものは常に重点というものがあるわけです。そのときに国の政策として、ここで若し軍需産業方面に重点を置く、平和産業から軍需産業に切換えようとなさんとするならば、そういうことがあつたとした場合に、そのときの補助の基準というものが、そういう方向の教育をやるものに対する補助をするというような線が打出される危険性がある。そういうふうに利用され得る危険性がある。そうして運用されたとすれば、これは戦争誘発の方向に持つて行くと言わざるを得ないということになります。
  136. 岩間正男

    ○岩間正男君 私は簡単に一点だけ伺つておきます。実はこの法案関連しまして現在の日本産業態勢経済態勢、こういうものが非常に重要になつて来ると思うのでありまして、この問題につきましては、この法案戦争協力的な態勢がこれから出て来るじやないかというのと、いや、これに対してむしろこれを徹底すれば平和に徹することができるという、こういう二つの面があります。それに対して槇枝さんのほうから、飽くまで平和のために寄与するということを謳つたらどうか、そういうことでそういう問題が解決できるのじやないかという意見が出た。私は予算委員会におきましてもこの問題をずつと見て来まして、それと関連して考えておつたうちに、一番問題になつたのは、今日本の置かれておる態勢の中で、こういう方面の持つておる役割が、個人的な意図或いは主観的な意図がどうあろうとも、客観的にどう動くかという問題、由来日本教育は視野が非常に狭かつた。そうして、自分たちの陷没地帶からものを見ておつた。私自身そうであつた。葦の髄からものを見ておつた。世界における日本の置かれておる客観情勢というものを把握できない。そういうところからともすると教育というような一つの技術面からものを判断して、そうして自分の意図ではないのに、やはり戦争協力などということをこれは東條時代にはやらされた。こういう点から私は申上げるのでありますが、これを皆さんはどういうふうにお考えになりますか、この点だけを伺つて置きたいと思います。それは現在日本経済態勢の中に、第十国会でも非常に問題になりました日米協力態勢の問題が考えられております。これに対しては閣僚諸君は、こういう態勢はないということをひたすら頑張つた。併しその後休会になつて選挙、れれからそれ以後の態勢を見ると、こういう態勢は刻々出ておるのであります。日米経済協力というものは何も我々が申しておるのではなくして、言うまでもなくこれはほかの、日本経済とか朝日とか、毎日新聞の解説によつても、これはアメリカ軍拡産業の一環として、下請工業的な性格を持つて来ておる。そうして経済面、資金面、それから資材面、或いは動力面、こういう点においてこれはそういう性格を濃厚に持たされて来ておる。その点で外資の導入が伝えられ、又受入態勢としては独占禁止法の緩和の問題、或いは開発銀行法案というものが去る三月二十一日の閉会間際に出されておるのであります。而も又その後ダレス氏がアメリカに帰つてなしたところのそういう報告を見ても、日本産業は利用しなくちやならん、例えば太平洋の防衛のために利用しなくちやならん。銃の照準器、パラシュートなどを作るためには大いに役立つであろうということを述べておる。又日本がアメリカに協力させられるためには三つの要点があります。それは言うまでもなく一つは地理的な環境の問題一つ日本産業力、これを非常に現在の軍拡産業の中で利用している。もう一つは人的資源の問題であります。人的資源の問題では軍備の資源によれを使つて行く、つまり兵隊を作るという意味一つでありますが、もう一つの問題は産業動員をするという問題であります。この問題は見逃がすことはできないのでありまして、当然これは青少年のこういう産業組織を一つここで組織する、そういう国家補助によりましてそういう態勢を打ち出すということは、その現場にある人たちの主観的意図はどうであろうとも、日本態勢、更に日本の置かれておる国際的な態勢の中から非常にそういうものが推し進められて行くということは、これは免がれ得ざる現状であるということは、単に我々が主張しておるだけではなくして、これはほかのジャーナリズムなんかも大いに論じておるのであります。こういう点から考えますと、この産業教育法案というものがこういう客観的情勢と即応してどういうような役割を果すか、ここに先ほどの、これをやることによつて平和に徹するという御意見と、或いはこれが、戦争協力するという体制になるという意見の分れ目だと思うのですけれども、こういう点からどういうふうにこの産業教育を通じて、どのような外部の権力やそういういろいろな要請があつたにしましても、これを平和産業に守り拔くという、どういう方法を皆さんは具体的に考えておられますか。この点が私たちとしましてはこの法案を論議する土において、これを法定する上において最も重大な、これは日本の民族の将来と深い関係を持つところの最大の問題だと考えておるのであります。こういう点から曾つて我々は戦争時代にいつか協力させられた、そういう体制のほうにいつか持つて行かれた、中には自分から進んでそういう体制をやつて来たのであります。これをしないという考えを持つておられるのか、考えを持つておられるとすれば、それをどのような方法によつて、組織によつてそれを貫徹させると考えておられるのか、こういお点に対してはつきりした皆さんのお考えを示して頂いて、私たちの法案審議参考に供して頂きたいと思うのであります。
  137. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 石田さん、山本さん、佐藤さんの三人のかたのどなたかお一人のかたから……。
  138. 石田莊吉

    参考人(石田莊吉君) では私から……、非常に重要な問題について御質問があつたわけでありますが、若しも万一そういう客観的な情勢にあるならば、いよいよこれは教育者の任務というものは重大であつて、我々は現在教育基本法に定められてありますところの教育目的、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」この大原則に向つて我々としては勇往邁進しなければならない、こういうふうに考えるわけでありまして、産業教育法はこれは教育基本法或いは学校教育法或いは社会教育法の一つ補助法としてできている以上、先ほど来幾度か議論がありましたが、この根本原則というものをやはり当然産業教育においても貫かなければならん、こういうふうに私は考えるのであります。従いましてその方法の具体的の個々の問題につきましては、情勢が本当にそういうふうに現わはて来た場合におきまして我々は対処しなければならんと思うのでありますけれども、私は最初に申上げましたように岩間先生の御指摘になるようなことが若しも事実として現われて来るようになるとすれば、いよいよ我々の責務の重大性を感じ、而もこの産業教育、今までの教育は、これは日本教育について、過去の教育を御指摘になりましたようでありますけれども、これは軍国主義、帝国主義的な教育ということが中心であつたのでありますが、現在の日本教育はどなたがどういうふうに御解釈なさろうと、巌として教育基本法或いは憲法がございますのでありますからして、その線に向つて我々はひたすらこの道に励んでおるわけであります。そうなつて参りますと、産業教育について特に我々の子弟に対しまして先ほど来お話がありましたような正しい勤労観を与え、そうして産業に関する技術を磨かせる、こういつたような点から申しまして、むしろこの産業教育法を推進して行くことこそ平和を守るゆえんである、こういうふうに私は考えておるようなわけでございます。
  139. 岩間正男

    ○岩間正男君 日本教育体制について只今は御決意のほど伺つたのでありますが、同時に我々は日本教育体制について客観的につかんでおる、分析しておる現状におきましてどうですか。例えば憲法にある戦争放棄の問題がこれは非常に問題になつております。ところがこれは天野文相なんかに聞きますと、これに対しては論議をしてはならん。我々の社会科の問題として、すでに戦争は放棄したのだ、だから戦争は絶対しない、従つて軍備のごときはしない、こう論ずるのが何が悪いと言いましても、文教の府にある責任者がそういうことは論議してはいけないということを言つておる時代です。そういうことがどうですか、職場で皆さんどうですか、反省して頂きたい。果して今日では堂々と平和を守り、本当に飽くまでも日本憲法を我々が貫くというそういう一つの決意で現在やられておるかどうか。これは私は客観的に現状を見ておるわけです。そうしますと一つのそういう信念というものを貫くだけの具体的な組織とそれに対する行動、そういうことが用意されないというと、これは如何に大きな声で如何に信念的に述べられても、私たちはなかなかこれはむずかしい。又この問題が単に教員だけのよくするところではない。恐らく元来教員は権力に弱い、現状においてもそうであります。これは終戦後四年、五年経つたのでありますけれども、実際そうであります。現状において権力に弱いのであります。私はあえて言います。そういう態勢において私たちを本当に納得させて、そうして本当にそれを信ずることのできるような態勢を今日見たいと思うのでありますが、少くとも終戦後、四年前、三年前、こういう態勢から比べてずつと後退しておるというような姿を見ますと、なかなかこれは重大な問題じやないかというふうに考えるわけであります。で、この点は私議論をする考えはありませんから、私の意見だけを述べてあとに譲ることにいたします。
  140. 荒木正三郎

    ○荒木正三郎君 二、三の問題につきまして石田君にお尋ねしたい。その一つの問題は、先ほど実業科と申しますか、実業科の指導に適当な教員を得ることが困難な事情にある、こういうお話であつたようであります。これは待遇の問題と非常に深い関係があるというふうに思うのですが、適当な教員を得るためには、その他一般教養に従事している教員待遇よりも一段上位の待遇を確保しなければならない、こういうような見解であるか。そういう点についてお伺いしたいと思います。なおこれに関連して、現在の実業科指導に当つておられる教員待遇に、一般教養に従事しておる人の待遇とどういう関係にあるのか。そういう実情を併せてお話し願いたいと思います。  それから第二番目の点は、この産業教育を施す対象の問題なんですが、学生、生徒及び青少年、その他一般公衆に対してやる、こういうことなんですが、これも非常にいいと思うのですが、そこまでの余力を求めることが、現在そういう余力があるかどうか、そこまで期待して実際やれるかどうか、こういう点ですね、学校で学生、生徒を対象としてこういう産業教育の振興を図つて行く、更に進んで卒業した者、或いは一般大衆にまでこういう教育を及ぼして行くのだという余力、実際的な面から、そういう余力を望むことができるかどうかというような点についての見解、それから第三番目は、実験実費の収益を学校で処置する、こういう問題ですが、これにはやはりかなりの弊害が起るのじやないかということを思うのです。といつて、こういう収益を全部理事者に納めてしまうということも私は妙味のない問題だとは思うのですけれども、これを法律でこう規定してやつて行くということは、やはり起るであろうところのことを考慮すると、相当考慮しなけはばならんじやないかというふうに思うのです。先ほど栃木県の教育委員のかたがおつしやつたように、栃木県の教育委員会で適切な処置が従来はとられたような話があつたわけです。そういう実際的な教育委員会の判断に任してする方法もあると思うのですが、法律でこういうふうに規定するこりとについてそうう弊害の面と関係して更に聞いて置きたいと思うのです。  それから第四番届は、これは私の最も危惧しておる重大な問題なんです。それは先ほどからの陳述内容を伺いますと、この法律が通ればかなり産業教育の振興に役立つのだ、よくなるのだ、こういう意味で非常に強い賛成の意味を表されておりましたが、果してこの法律ができて期待に副うような振興ができるかどうかということについては、私はかなり疑問を持つておるものなのです。と申しますのは、この法律で重要な点はまあいろいろあるだろうと思うのですが、その中でも国庫補助の問題です。この法律ができて果して国庫補助がかなりの金額が出るかどうかという点について危惧を持つておる。その理由は、実業教育費国庫補助法という単独立法があつてその第一條には実業教育を奨励するため国庫は毎年予算を以て定めるところの金額を支出するというふうに明記されておる。この法律がとにかく無視されていたのですね、実際上こういう法律があるのに。今度も内容は殆んど国庫補助の問題については変りがないように思うのです。これに大きな期待を持つことは、私としては相当疑問に思つておるのです。むしろ政府がこういう問題について本腰を入れるというふうの問題のほうが重要であるというように考えておるのですがね。こういう点の見解ですね、一応承わりたい。以上四点をちよつとお聞きしたい。
  141. 石田莊吉

    参考人(石田莊吉君) 先ず第一に、たしか第五條と思いますが、教員の資格と待遇の問題でありますが、これにつきましては私はこういう見解を持つております。現在産業教育に従事する教員は特に少いのでありますが、非常に足りないということは先ほど申上げた通りでありますが、これは勿論一つには待遇の問題が一般の実業界より、先ほど中島先生のほうからもお話がありましたが、低いというような点もあると思うのです。併し一般的にこれは教員待遇が、ただに産業教育に従事する教員だけでなくて、教員全体の待遇が低いのでありまして、これに対してはやはり教員全体の待遇を上げるように一つ方面で努力をして頂くということが必要ではないかと考えられるのであります。併しながら又一面産業教育に従事する者が特に只今申上げましたような実状にある場合に、号俸の引上げとか、そういうような問題でなくて特にこれらは実験、実習といつたようなこともやりますし、そういうような被服とか或いは実験の器具であるとかそういうようなものについての補助を与えるというようなことは、これは当然必要じやないかと思うのです。それでやはり先ほどどなたかからお話があつたのですが、余り単一化してしまうというとこだけが主になりますと、特殊性を忘れてしまいますと、これはいけないのじやないか、現に盲聾唖学校の先生については特別に待遇が与えられているというようなことを聞いておりますので、現段階において私は産業教育に従事する職員だけを号俸を引上げろ、こういうような極端な要望をするものではないのでありますけれども、一応そういう現状にあるということをお考え願つて、特にその特殊性については幾分なりとも考慮を払つて頂くということが必要ではないか、こういうふうに考えておるわけで、この法文を見まして決してこれによつて号俸の引上げを策しておる、或いは号俸の引上げというとこを予定しておる、こういうふうには私自身は解釈いたしておりません。  第二の問題でございますが、一般公衆に対して産業教育についての助成をやつて行くだけの余裕があるかどうかというようなお話でございますが、新しい教育一つの行きかたといたしましては、学校拡張と申しますか、スクール・エクステンシヨンというようなことは、これは相当重要なものであると私は考えております。そういう意味で、できるだけこの学校教育を受けることのできない、濡れた者を、学校の施設を十分利用させてそうして学校教育をして行く、こういうことは現在の我が国にとつては相当重要なことではないか。これは先ほど統計を示しました通りの状況で、実に国民の九〇%が高等学校だけで以て終つてしまうというような状況にある場合において、一層その感を強めるのでありまして、私たちといたしましてはでき得る限りそういう者に対しても国家の助成をお願いいたしたい、こういうふうに考える次第であります。  それから第三の御質問の収益の問題でございますが、これは大変に申訳ないのでありますが、実は私商業高等学校であつて、こういう経験を持たないのでございます。それでいろいろ御意見のあるところ一々御尤もであつて、これを規定の中に入れろというふうにお考えなつているかたの御意見も御尤であるし、又多少危険性も包蔵しておるというふうに考えておられるような御意見にも尤もな点があるように聞きまして、自分自身として判断に苦しんでおるので、この点について私の意見がこうだと実際の経験を持つておりませんので、はつきりここで申上げることは一つ控えさして頂きたいと存じます。  それから第四は、こういつた法律を出すことによつて果して産業教育が振興できるかどうか、特に国家補助の問題は、今までの実業教育国庫補助法が空文であつたじやないかというようなお話でございますが、私たちといたしましては、特に議員の各位の絶大なる御協力を得まして、何とかこれが空文にならない、本当に国庫から多額の金を出して頂く、若しもこれが空文になるというようなことであつたならば、予算の裏付がないというようなことなら、こういう法律を作つてもこれは何もならないことでありますので、何とか皆様がたのお骨折りによつて本当に実のある、予算の裏付のある法律にして頂きたいと、こういうふうに考えるわけでありまして、私といたしまして、これはちよつとむずかしいとか、或いはでき得るとかいうようなことを断言できませんが、ただむしろ私たちよりも議員の各位のほうでこの点については十分お骨折り頂きますならば、この可能性は必ず出て来る、こういうふうに考えるわけであります。以上四点につきまして簡単でございますが、お答えに代えます。
  142. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 都崎さんにお伺いいたしたいと思います。今朝の読売新聞にも学校で調査した一部の統計が出ておりましたが、基礎学力の低下ということがよく言われておるのでございますが、都崎んさは幸い大学にいらつしやるようでございますが、高等学校から皆さんのほうの学校においでになる生徒の基礎学力をどういうふうに見られておられるか、大学の教科課程を進めるに当つて不都合な点が生じておるかどうか、大学の窓から見た高等学校の生徒の基礎学力についてちよつと承わりたい。
  143. 都崎雅之助

    参考人(都崎雅之助君) 基礎学力が現在低下しておる、これは事実であります。それじや今度の学制制度が悪いかというと、これはそうは軽々には言えない、一番大きな原因は、今頃入つて来る学生は丁度勉強盛りの、頭に入る頃に戦争を経験しておりますので、大事なところがブランクになつたということが一つ、それからもう一つは、教育改正によりまして御承知のように六三三となつ義務教育が非常に殖えた、義務教育の子供が殖えた、従つて先生が殖えた、だからこれは端的に申上げますと、先生が今までの先生で間に合わさなければならなかつたので、それに先生が追つ付かないというところにあるものと私は見ております。それからもう一つ大学教育の中でどうするかという問題はこれは只今研究いたしておるのでありますが、大学教育の中で一般教養を非常に重視せよというので、単位数も限定されておりますので、専門教養とそれから一般教養とを如何に修めさして行くが、若しこれを一般教養だけを、きめられたものを先にやつてしまつて、専門教養はあとからぶつけるというのは、これはかなり無理なことが起る場合が生ずるのでありますが、これは中のやりようであります。そういうようなわけで、現在入つております学生はかなり昔に比べて現在のところでは全般的に言つて低下しておるということはいなめない、併しそれには今申しましたように戦争の影響であるとか、或いは又学制改革により教師不足したことによるというような他の原因その他もありましようが、そういうことが制度それ自身にどうこうということをそれによつて断定することはできないように思います。
  144. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 いい御意見を承わつたのでございますが、私も基礎学力が非常に落ちておるということはよく聞きますし、私もそれを感ずるところもあるわけであります。今高等学校卒業生の職業教育不振ということが非常に問題の重点に上つておるようでございますけれども大学を卒業した生徒の技術教育というものの低下というものは私は非常に懸念されるのじやないかと思う。一方で基礎学力の低下ということを聞いて、一方で職業教育の不徹底ということを聞きますというと、一体新教育はどういうところに実があつたのか、こういう疑問が起つて来るわけであります。これを掘り下げて御意見を伺つても限りがないと思いますが、そういう立場から佐藤先生或いは山本先生はどういうふうに把握されているか。ちよつと御意見を承わりたいと思います。  もうちよつと申上げますが、最近非常に子供が役に立つようになつた、非非に生活或いは地域社会に即応した教育を受けて、非常に教育がよくなつた、基礎学力だけが落ちたということだつたら幾らか慰める点もあるわけです。ところが両方とも徹底しておらんというようなことを聞かされますと、私は先にも申上げましたように新教育はいずこにあるのかというような疑問が起つて来ますので、第一線で実際教育に携われておる佐藤先生や山本先生から、その角度から簡単でよろしうございますからお願いいたします。
  145. 山本佳男

    参考人(山本佳男君) 私は一般教養の面におきましては旧来よりも勢つていることは考えておりません。他面職業教育の断におきましては旧来よりもずつと劣つているというように考えておるわけでございまして、両方とも全部死んでいるというようには考えておりません。
  146. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 それでよろしうございます。続いてお伺いしませんが、次にお伺いしたい点は、学校教育法の第一條に謳われている学校、それから各種学校がたくさんできて来た。先ほど松野先生からお話がございましたように、各種学校国家社会に貢献しているところは第一條の学校以上と何ら変りない。どういうお話であるわけですが、各種学校が非常にたくさん繁栄して来るということは、第一條に謳われる学校に勤務されている先生としてどういうふうにお考えですか。何か故に各種学校というものが繁栄して来るか、そこのところをちよつと……。
  147. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) やはりこれは社会の実際の事情によることであると思います。その事情といえば、社会の要求が率直に反映しておる各種学校の性格というものは申すまでもないわけでありますが、例えば洋裁であるとか理容であるとか、そういつた実際の社会の仕事に結付いておる、それが殆ど重点になつておる。そうしてリベラルコース、それからボケーシヨナル・コース高等学校のほうは專門的な教育はやりますけれども、今言うようにリベラルコースのほうでは非常に稀薄になつている。それですから彼らの要求を全部充たすことができない。それで各穐学校のほうに行くのではなかろうかと私は思います。それも結構なことであると思うのですが、それに関連して私の希望を、考えておるところを申上げますと、やはり教育一般的教養というもの、この教養というものの形も吟味してかからんとならんと思うのでありますが、やはり人間的な教養というものを根底としてそうしてその職業教育、或いは健全なる職業教育もできると思うのでありますから、私はこの産業教育法におきましても、やはり学校教育精神に則つた職業人の養成という二とを希望しておるわけなんです。各種学校の発達しておるのは、本当に社会の要求を率直に反映しているものと私は考えております。
  148. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 そうしますと、裏返えして聞きますと、佐藤先生はこの法案の第二條は修正する必要はない、こういうお考えだと、こういうふうに私聞き取れるのですが、そうでございますか。
  149. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) それは最初に申上げましたように、全面的にこのままで結構だと思つております。
  150. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 矢川さんお急ぎですか。
  151. 矢川徳光

    参考人矢川徳光君) 急ぎませんが、私今基礎学力の問題が出ましたが、これは産業教育という事柄を何らかの形でお考えになるこの参議院の委員のかたたちに是非参考に申上げておきたい事実がありますから、適当なときにちよつと発言をさして頂きたい。
  152. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 これは産業教育審議するに当つて相当根本的な問題があると思いますが、国民的な理想と要求によつて教育基本法ができえ、学校教育法ができて第一條に学校というものを謳つた。そうして教育課程審議会を作つて、そうして国民的な要求とか或いは社会的な要求によつて各種学校が非常に多くなつて来るというところに、私は考えなくちやならん問題があるのじやないか、それがいいか悪いかは別ですよ。別として、結局これは教育行政家並びに政治家の教育に対する私は責任になると思うのですけれども、先ほどそれで私は実業家の代表のお二人のかたにああいう質問をしてお伺いしたのですが、それと今佐藤先生の言われたのとは符が合うような感じがするのでございますが、結局今の教育内容なり方法ではいかんということになるのでしようかね、どうでしよう。
  153. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) これは私の知つておる者でありますが、この三月に新制中学を卒業した女の子、それが高等学校に入ろうか、或いは洋裁のほうのまあ勉強でもしようかというようなことでいろいろ考えられたようでありますが、結局その結論は……、私も相談に与つたのでありますけれども、結局書は洋裁の勉強をして、そうして夜は夜学にですね、高等学校のほうに学ぶという結論になつたわけでありますけれども、本当に今の高等学校における家庭科というようなものは、本当にこの職業人として立てるような徹底した職業教育が行われていない、又父兄もそれを期待できないこう考えておる。併しながらやはり人間と生まれたので、やはり一般的なそうした高等学校の性格を持つたところの教養を望んでおるというので相当努力を要するけれども、夜高等学校に行つて勉強をしたい、こういうようになつたのでありまして、私はできることならばやはりその学校教育法に基いたような教育をできるだけ普及することに努力して行きたい。併しながら一面そうした個人の社会的な生活を、自分の個人的生活を営む上において、私は確たる定職を持たすようにして行くことが必要なのではなかろうか、こういうように考えております。
  154. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 その点の質問は打ち切りまして、もう一つ次にお伺いしたい点は、第五條の問題はさつきからずつと出ておりましたが、私も変つた答弁がありましたらお伺いいたしたいのです。教育委員高橋さんが、これをやられては人事行政はやれない、こういう御発言がございますましたわけですが、第一線におられる校長さんとして、まあ先ほど石田先生のお話を承わりましたし、なお人によりますというと、実験に必要な設備とか或いは時間的に特別扱い云々ということがございましたが、この具体的な方策についてどういうふうにお考えなつておられるか。今までいろいろな問題にぶつかつておられるのじやないかと思うのですが、個人意見で結構なのですが、どういう具体的な方策というものを胸に描かれているのか、描かれていましたら、今まで出ていない事柄の中でありましたら……、どうぞ山本先生。
  155. 山本佳男

    参考人(山本佳男君) 教員待遇の問題であります。特に農業関係ですと三つの生き物を対象にしております。最も重要な生徒、それから家畜、作物と、こういうようなものを対象にしておるのでありまして、従つて時間的の問題から申しましても、八時から始まつて四時に打ち切るというようなことは、これは到底むずかしい場合が多いわけでございます。そこでこの面に関しましては具体的に私のほうでは何時に登校して何時にこれが家に帰るかという点を、これはもう自発的な面を一つ教員が進んで出す。四十八時間どころでなしに、五十六時間というような数を出して来ておるものもおります。併しこれらは何ら不平なしに、まあ自然を友にしておるというような点からでありまするけれども、我々はその状態を見ておりましても、これは何とかこれらの超過の面に関しましては面倒を見てやらなくちやならんじやないかという点が考えられるわけであります。なお養蚕実習なり或いは炭焼実習なり、徹夜の場合もあります。で、現在におきましてはこれらに対して深夜手当というものがあるのでありまするが、これらの予算の両におきましては殆んど見ておらんようなことで、実際にこれを頂戴しておるところが極めて少いと思います。超過勤務は、これは学校には超過勤務手当というものは宿直、日直以外には現在出しておらんというような状態でございます。なお衣類にいたしましても、地下足袋を穿き、被服はいたむ、これらに対して他の者よりも余分に持ち出すというような点があるわけでありますが、こうした特殊性に対しましては何とか我々学校長といたしまして、部下職員に対して何とかしてやりたいというのが我々の叫びでございます。
  156. 成瀬幡治

    ○成瀬幡治君 ちよつとこれは佐藤さんにお尋ねしたいと思いますけれども、まあ産業教育を復興する上において施設とか金の問題が非常に大きく取上げられておる。まあそういうようなことをたびたびお聞きしたわけですが、この十八條に関してお尋ねしたいと思うのですが、これを通すことにあなたたちは非常に賛成しておいでになるようであります。今までの過去の文部省の教育予算の取りかたなんかを見て参りますと、全然よう取つて来なかつた。こういう立派な実業教育国庫負担法というような法律があつて、而も支出しなければならないというようなことを謳つておりながら、而も昨年度はなかつたというような現状において、これと今度出て来るところの補助を比較して見ますと、逃げ様は幾らでもあると思う。当該基準までに高めようとしておるのであるとか予算の範囲内であるというように、非常に後退したものだと思う。でこれを長い目で見なくちやいけないと思うのです。今度は一応いろいろな経緯があつて出してくれるかも知れないけれども、次にはどうなるかというとこを長い目ではつきり見て行かなくちやならないと思う。その場合にあなたたちは全国産業教育のこの法案を通す促進会というような一つの大きな運動を展開されて、そうしてお通しになつたとしても、私は本当に法文そのもので言うならば非常に後退したものだ。それをあなたたちが促進を盛んにしようとしておられるけれども、逆に出られておる、盛られておるところのこの補助に対するところの法案は、内容はこちらのほうのものよりも後退したところの法案であるのに、あなたたちは非常に賛意を表しておられる。私にはその点がどうしても納得ができないと思う。で、あなたたちは前のようなこういうものであつてすら取れなかつた現状から、後退したものであつてなお且つそれが満足……、而も予算が何らかの形において出されて来るというような何か確信的なものがあるのか、我々議員としては実に自信がない。それにあなたたちが後退したものに対して賛成だ、賛成だとおつしやることが私は、産業教育を振興しようとするあなたたちと同じ立場におる私としてはどうしても納得のできんことなんです。それに対してあなたたちは何か確信的な自信があるのかないのか、その点を私佐藤さんに簡単でよろしうございますから、御見解の御披瀝を頂きたい。
  157. 佐藤孝次

    参考人(佐藤孝次君) そういう御心配を頂くことは私どもも非常にむしろ有難いのでありまして、私どもといたしましてはこの法律の掲げようとしておる或いは予算の範囲内というような言葉がありましても、これは当然のことであると考えまして、決してマイナスになつたものとは思いません。先ほどもちよつとこの点に触れたのでありますが、前の実業教育国庫補助というあの補助法は、やや時勢に即しない点があつて、この点これは改められなければならないというように私のほうは考えておつたのであります。これを改める際に、この際産業教育の進展のために必要なりと、又適当なりと考えることを、この単行法の中に関連するものもありますので盛つてもらいたい、こう思つておるのであります。それから高めようとする場合というのは、これがむしろ積極的に私の期待をかけておることは、文部省において他の政令か何かで基準というものが設定され、その基準に達するまではこの補助の対象に十分なり得る。それから又その他の場合も補助の対象になり得る場合もありますのですから、この設置基準に大きな私どもは期待をかけ、又その設置基準というものに達しない学校全国に非常に多いということを考えるときに大いに期待するわけであります。
  158. 成瀬幡治

    ○成瀬幡治君 これは政令で定める基準ということは私にもわかりますが、その場合に達しないものについてこれを当該基準まで高めようとするんでしよう。基準を定めておつても、高めようとする意思がなければ、それの補助はやれないということがはつきり書いてある。それを基準を作るからそれに対して期待が持てると、こうおつしやるのですけれども、その点どうも私納得行かない。そんなことで予算を出すくらいならもう少し教育予算はどんどん出ておつたはずです。そういうふうに私は考えたくないのです。それほど甘くないのですから。あなたの考えと私の考えは相当違つておるのです。私の聞きたいことは、あなた個人として御賛成になるのだつたら私は異議はない。ところが全国産業教育の促進会というものを置くといわれる場合は、全国の第一線に立たれるあなたがた代表の意見が、こういう法案に対して賛成であるということについて、私は本当にあなたたちがどうして賛成か、どうしても納得が行かない、これは意見の相違で、これ以上聞いてもしようがないと思います。
  159. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) それでは山本さん御意見どうですか。
  160. 山本佳男

    参考人(山本佳男君) 大分遅くなりましたから簡単に……。これは意見ではなくて、皆さんがお考えになる場合に事実として申上げたい、こう思います。尤もしまいにちよつとだけまとめる意味意見を申上げるかも知れませんが、と申しますのは基礎学力の問題が出ましたが、これは大変重要なことでありまして、例えばとにかく二十才までぐらいは大して基礎学力を与えておかない、基礎学力が要らないとはおつしやいませんでしたと思いますが、大してその点を知識的に重要視しないでもこれは一応比喩的に使わして頂きますと、将棋の駒でも動かしかたを覚えておればよろしい、それが産業教育考えてもよろしい、少し言葉が違つておりますが、一応そういうふうに理解すればそういうことも言えるかと思います。それは大変私としては誤つておると思いますので、基礎学力は大変重要です。その点産業教育というものについて同時に考えなければならん。知識という言葉と技能という言葉を切離しては誤りであるということを実は意見として申上げたいのですけれども、それは省きたいと思います。基礎学力はどうなつておるかということにつきましては、これは実に日本教育学会の重要な問題で、昨年度、本年度におきまして、両年度に頂つてこれは研究したわけであります。不幸にして日本教育学会は金がないので、印刷物を刷つて公開することができない実情であります。でありますから今わかつております限りにおいて……、皆さんのお耳に入るのは遅いと思いますので、この案を審議される委員のかたに御参考に申上げる次第であります。それから昨年慶応大学日本教育学会の大会がありました場合に、進歩基準という学力問題についてでありまして、いろいろ意見がありましたが、結局いろいろの意見といつても、調査して実情を知らなければいけないということで、これが日本教育学会の課題として本年に持越されたのであります。どういうふうに処理されたか、これは長くなりますので省きますが、今年広島で五月三日、四日、五日の黒日間でありましたが、その場合一応の中間報告があつたのであります。大変秩序立ちまして準備を、と申しますのは、日本教育学会が責任を持つておりますので、秩序だつた方法が考えられて、テストの方法も専門家が頭を練つて、この三月に中学を卒業する者についてのテストをやつたのです。それの中間報告がございまして、実際にテストをやつた対象は、全国に亘りましていろいろ適当な抽出方法をとりまして、できるだけまあ学者たちとしても公平な態度をとられたわけであります、中間報告でありますから……、と申しますのは、今申上げましたように三月に行われたテストで五月の初めに報告をするわけでありますから、実際に調査されたのが一万人を超え、定数を超えたらしいのですが、実際はその中の一千人だけ抽出いたしまして報告があつたのであります。その報告も勿論只今詳しくは時間の関係上申上げることはできません。でありますから一、二御参考になるようなことを申上げたいと思います。これは学会の最後の日に義務教育修了兒学力についてという報告があつたのです。いろいろ専門分野からその方法について、調査の仕方についてお話があり、最後に城戸幡太郎氏が全体をまとめられまして言われたその中のことを具体的に御参考になるような事柄を一、二申上げて見たいと思います。やがて発表される機会があると思いますので、その場合の資料と並び併せて本当にお考え頂きたいのであります。こちらでは一、二実例として申上げるごとにいたします。  これは社会科のテストとして行われたのであります。その社会科のテストと申しましても、社会科というからには教科書も読めなければならない、文章も書けなければならない、算数もできなければならない、読み書き算のテストが行われたのです。そのテストをやつたものを鞄の中に持つておりますが、見本を持つておりますが、とにかくそういう形で、そういう方面に亘つてやられた例えば社会科の問題について思想、文化、統済、そういつたような問題について、それから歴史というような問題について、各方面のものに亘りまして総合的にテストが行われたのです。その結果例えば国語の書取、語の理解、文脈の理解ということについてテストが行われたのです。どういうようなことになつたかと申しますと、これは例えばわかりやすい例を挙げて御紹介しますと、昭和の昭という字を二十何種書いて、誤字があるわけです。それからそれは表になつてちやんと出されたのでありますが、実例として表に掲げられてグラフになつているのでありますが、それから例えば別な字で申しますと、本籍の籍という字で、これを中学卒業者が、三年制の、一千名のうちどのくらい誤字を書いたかというと、誤字の絶対数ではなくて、どういう種類があつたかと申しますと、本籍の籍という字について百四十五種類の字がある、そこで報告者である城戸幡太郎氏がどう言われたかというと、学力が下つたつたとは我々学者として簡単には言えない。だけど新教育の結果かくのごとき想像力の逞ましい子供を作つたということは、その功績だろうという意味事柄を言われた。それから申告といつた言葉の理解の仕方が間違つておるというような事柄、税の申告といつた語の理解が違つておる。文脈の理解については、例えば論理的な関係でありますとか、推理力でありますとか、判断力でありますとか、といつた点につきまして非常に劣つておる、こういうことであります。それから数学のほうにおきましては、片言隻句を捉えるわけでありますから、十分御納得が行かないと思いますが、その表現を借りれば、かなりできが悪い、ところどころにそういう言葉が入るわけです。実例がグラフに出ている。それを出しながら説明されたが、相当にできが悪い、こういうわけです。それから社会科は必然に経済及び思想、文化、こういつた方面におきまして理解の程度を現わすことになります。それでどういうようなことでそれが現わされたかと申しますと、重要性の順序を、物事の社会生活の中においての、又は経済においての、思想、文化の方面においてのその重要性の順序を判断する能力が非常に低くて困つたものである。個々の事柄はばらばらに知つているけれども、それがどういう位置に属するものであるかといつたような、全体の秩序の中において理解の体系━━むずかしく言えば、体系化された理解と申しますか、少し子供としては……、そういつたような事柄は、そういう形で頭の中には考えていないでありましようが、そういう自分の知つている事柄の重要性の順序、これについては大変理解が悪く、ただ個個の事柄について○をつけるか×をつけるかということは随分上手である。これは大変困つたことだ、こういうようなことがあります。  それから又歴史についての報告の一端を申上げますと、まあいろいろございましたが、例えば今日の憲法が一体どういう順序でできて来たかというような事柄、それから三権分立といつたような事柄、自分たちが受けている義務教育ということはどういう形にあるのかというようなことがはつきりわかつていないようだ。それから労働争議といつたような問題も、やはりテストの中に出ております。労働争議という事柄は、戦後忽然として生れて来たもののように考えて、戦前にどういうふうにそういう事柄があつたかということを理解しておらない。まあこういうふうな事柄で、誠に簡単ではありますが報告がありまして、全体はどう言われているかと申しますと、それがいつの頃に比べてこれだけ下つたという事柄は我々としては言えないけれども、誠に不満足であるということだけは言える。これは併し千名だけの報告であるから、ほかの多くの場合について総合的に研究したあとで又改めて正確に発表するということの結論であつたのであります。それだけ一応御参考に申上げたいと思います。それから……。
  161. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 途中ですが、それでいいと思います。
  162. 矢川徳光

    参考人矢川徳光君) 簡単に済ませますから、成るべく私への御質問がありましたら、次の……。それから新教育がどういう功罪を持つているかという御意見もございましたので、これも事実として御参考に申上げたい。日本に新教育が入れられました直後、日本教師諸君に最大の影響を与えました或る書物があります。これは著者の名前はここで遠慮したいと思います。その場合にどういうことが言われたかと申しますと、先ほど産業教育の指導者たちが言われたことを理論化している。これはどうしても産業教育ということをお考えになる御当局のかたがたにお知り願いたい。これはエンジニアではありませんが、若しここに理想的な医科大学というようなものを作るとすれば、今日は大学というものに病院が附属している。これは附属していることが誤りである。病院に大学が附属すべきものである。学生は医者が診察し、手術しているところを見習えばいい、仕込んでもらえばいい。そういうようなふうにちやんとその書物に書いております。これは大学の某教授でありますが、最もよく売れた書物であります。こういう形で新教育理論が入れられて、重点的の教育ということが理論化されている。結局官費でさせている大学からそういう書物が出てよく売れたのであります。もとはそういう考えかたがどこから来ているかと申しますと、率直に申上げますが、やはりアメリカから来ている。ではアメリカではどういうふうになつているかという、学力の問題につきましての二、三の例を申上げて見たい。これはちやんと或る書物に書いてありますから、私の説明でなくて、そのままのもとの文章ですから読んで見たい。例えばハンソンという人がこういうことを言つている。題は「ハイスクール教師のなげき」というのですが、その論文の中にこう書いております。「わが国の全体にわたつて中学校教師たちのなげきの声がきこえる。第一〇学年の生徒たちが教科書を読む力がないのだ。だから、国語も、歴史る、衛生もろくにはやれない。理論数学だとか物理学だとか化学だとか、その他の特殊な科学だとかの教授を、うまくやつていくことはとてもできない。」こういうわけです。それから選択課目制度というものが我々のところにもある。そこで代数でありますとか幾何でありますとかいうものを、一体どういう学生たちがどれくらいのパーセンテージで学習して選択しておるかというパーセンテージの例も出ております。これも一、二かいつまんで申上げますと、例えば一九〇〇年と一九二八年と一九四〇年の例を申上げますと、代数につきましては、一九〇〇年には五六%の生徒がそれを選択したが、一九二八年には三五%、一九四〇年には二二%しか学習していない。それから幾何につきましては、一九〇〇年には二七%の者が選択したが、一九二八年には一九%、一九四〇年には一〇%しか選択していない。こういうような実例が出ております。  それからもう一つこういう言葉があります。「中学校の自然科学の教科のなかで一番きらわれているのは物理である。それを選択科目としている学校では、物理を選ぶ聖徒はだんだんへつていく傾向がみうけられる。中学校一般の生徒が物理を相当に学習していくためには、かなりおおくの数学的計算をしなければならないからであろう。」これが一例、もう一つ三行ばかりのものを読みます。ジヨンズ・ホプキンズ大学のボウマンという総長の話でありますが、題は「民主教育のディレンマ」というので、その中にこういうことが書いてあります。「アメリカのおおくの大学、とくに古い東部の大学では、中学卒業者の学力がベラボウに低いことをなげいている。ジヨンス・ホプキンズ大学の一九四四年報では、ギウマン総長が、さいきんの中学校卒業者が英語と数学についてはまるでダメだといつている。」こういう点がございますので御参考に申上げた次第なんであります。
  163. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 委員長ちよつと……。
  164. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) もう簡単に願います。
  165. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 誤解があつてはならんと思います。私はさつき申上げたのはこういう意味で申上げたのですから……。基礎学力の低下ですね。一般教育が高まり、職業教育が徹底すれば基礎学力の低下は問題でない。こういう意味で私は申上げたのではなくして、基礎学力の低下に十分関心を持つておるので、これの影響は大学なつて、どういうふうになつておるかということをお伺いして、終戦後の教育職業教育が十分徹底していないかも知れないが、職業に対する理解とか、その自己の適応性とか、そういう広い意味におけるところの職業指導というものは、私は戦前の教育よりも戦後の教育のほうが徹底しておると思います。ただ鍬を使うとか、工場で旋盤を廻わすとか、そういうところまで施設の関係で行き届いていないかも知れないけれども、若し欠陥があるとすれば、むしろこの基礎学力の低下という方面に新教育欠陷があればあるのではないかという私は考えを持つておりますので、基礎学力に対しては欠陥があるが、職業教育指導というものは不十分ながらも常態になつておるとすれば、新教育を見ることは、理解はできるけれども、両方ともいけないというのであつたならば、新教育はそこに問題がある。こういう疑問を持つがという、こういう意味で私は申上げたのであつて職業教育が進めば基礎学力はどうでもいいという意味で申上げたのではないのであつて、その点誤解のないように願いたいと思います。
  166. 矢川徳光

    参考人矢川徳光君) 決して誤解して申上げたのではないのでございます。
  167. 堀越儀郎

    委員長堀越儀郎君) 大分時間が長くなりましたことでして……。  では終了に当りして公述人のかたがたにお礼を申上げます。我々産業教育法案審議するに当りまして、愼重なる態度で我々の審議参考のために種々御経験のあるかたがたの御指示を頂きまして、併せて非常にお忙しいところを長く御出席頂いて、且つ長時間に亘つてお話を頂き、議員のぶしつけな質問に対しても快よくお答え頂き、厚くお礼を申上げます。今後審議の上において十分に御意見のほどを参酌いたして進みたいと思います。閉会に先立ち一言お礼を申上げます。非常に遅くまで有難うございましたそれでは本日はこれを以て散会いた します。    午後五時三十九分散会  出席者は左の通り。    委員長     堀越 儀郎君    理事            成瀬 幡治君            若木 勝藏君            木内キヤウ君    委員            川村 松助君            木村 守江君            工藤 鐵男君            平岡 市三君            荒木正三郎君            和田 博雄君            高橋 道男君            山本 勇造君            大隈 信幸君            矢嶋 三義君            岩間 正男君   事務局側    常任委員会専門    員       竹内 敏夫君   参考人    教 育 学 者 矢川 徳光君    栃木教育委員 高橋 通亮君    茨城大学工学部    長       都崎雅之助君    東京都立第五商    業高等学校長  石田 莊吉君    東京都立北豊島   工業高等学校長  佐藤 孝次君    東京都立園芸高    等学校長    山本 佳男君    日本教職員組合    法制部長    槇枝 元文君    全国洋裁学校協    会連合会長   松野 喜内君    古川電気工業株    式会社社長   西村 啓造君    苫小牧製紙株式    会社社長    中島 慶二君