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参考人(
大森真一郎君) それでは簡単に
要点だけ申上げたいと思います。順序といたしまして、第一には
質問の
要点につきまして、総合的な御回答を申上げて、それから第二点は
食糧問題に対します
日本農民組合としてその
基本的態度について若干申添えて置きたいと思います。第三には、新らしい
管理制度についての
構想の若干の点を申述べて、私の
お答えを終りたいと思うのであります。
第一点は、第一の点につきましては、現在の
食確法なり、
食管法なり、これは共に廃止して、そうして新らしい
構想の下に、
食糧管理制度についての
立法が望ましいということを総括的に申上げて見たいと思うのであります。これは現在の
食確法にいたしましても、これは
食管法を
基礎としての
手続法でありまして、その間に我々実際上の今までの
食糧統制の
経過から見まして、
改正すべき多くの点もありまするが、基本的には
食確法にいたしましても、
食管法にいたしましても、これは戦時
経済的な
色彩を非常に強く持
つておるのでありまするから、今後作られるものは民主的な、即ち
農民の
自主申告を
基礎とした、更に
農業経営についての
自主性を
確保するという基本的な観点に立つた新らしい
立法が望ましい。即ち戦時
経済的な
色彩を一掃した
法律を我々は望むということで、第一の
質問についての総括的な
お答えにいたしたいと思うのであります。
第二の点の我々の
基本態度につきましては、先ず第一には、
政策の
一貫性を主張いたしたいと思うのであります。殊にこれは
農業の
特殊性から見まして、現在のように常に
食糧統制撤廃ということが次々と叫ばれますこ、
農民自体の
経営に対する困難が非常に強められて、而も実際上におきましては、昨年の麦の
供出の当時を振返りますれば明らかなように、これは本当に
強権発動的な
収奪が行われるというような結果になるのであります。この点は強く主張いたしたいのであります。即ち
日農といたしましては、
食糧のような
国民経済に非常に大きな
影響を与えるものにつきましては、単純に
農民としての目前の利害ということを
基礎にいたして、やはり漸進的な
見通しを以て一貫した
政策を樹立するということを基本的な
態度といたしたいと思うのであります。この点につきましては、若干申上げて置きたいのでありますが、前の麦の
供出の際にとられました
措置につきましては、非常に遺憾の点が多いのでありまして、我々は
朝鮮事変の勃発と同時に、この
事変に対しての
見通しにつきましては、楽観的な
見通しをとる
政府と我々とは
見解を異にしてお
つたのでありまして、我々は
事変が長期化するという
要素を強く捉えてお
つたのであります。従いまして
食糧管理制度はやはり
存続すべきであるという当時の
考え方であ
つたのであります。
政府におきましては、麦の
統制を絶えず撤廃するような
新聞発表等がありました
関係上、各地を廻りまして視察した結果によりまして、やはり
農民が
事前に或いはこれを他に流したり、食
つてしまつたりするというような結果で、非常に
供出の成績が悪かつた而も
政府におきましては、
関係方面からの強い要請に基きまして、これは
強権発動を伴う
供出の強化をや
つたのであります。実際
上日農の東京都
連合会の
調査によりましても、
西多摩郡におきましては、
西多摩村で四十万、霞村で三十万、調布村で二十万、多西村ですか、これに二十万、福生村で二十万、これは
調査済のものでありますが、こういう巨額な
村費を以て麦を
買入れて
供出完了という姿だけを
とつたという
事態が発生しております。その他正確な
調査でありますが、東村山村においては八十万
程度、平井村におきましては、約百万円
程度の
村費の支出があつたやに推測されるような
事態が発生しておるのであります。こういうことはやはり根本的に
改正しなければなりませんので、我々は飽くまで
漸進主義をと
つて食糧管理に対しては基本的な解決をしなければならんというふうに
考えておる点であります。
第二点は現在のような
食糧不足、これは私
どもの観測が変りまするが、今後
輸入食糧に依存することは非常に
危険性も多いし、
国内食糧の
増産は叫んでおりまするが、
予算措置等を見れば、決して一割
増産が可能であるという予測をとれないのでありまするから、こういう
食糧不足時において、若し
統制が撤廃されたと仮定いたしますれば、これは当然に
米麦に対する投機性が非常に強まるということを
考えざるを得ないのであります。単に
統制が撤廃されたから投機性が強まるというだけでなく、これは農地改革後における
農民の構成の変つたという点を私は指摘しなければならんと思うのであります。と申しまするのは、農地改革後においては、御承知のように地主というものが殆んどなくな
つております。
農家に自力によ
つて米麦を保有するだけの
経済余力がないのであります。
従つてこれは戦前におきまする地主が大半の米を保有しておつた際においてすら、一般の米穀
統制法においての
統制も不可能なのでありまして、そうして米の
価格というものは常に引下げられる、いわゆる買叩かれるという結果を持
つてお
つたのであります。これは計数的にも申上けられる点でありますが、これは戦後におきましては、零細
農民、
米麦を自力によ
つて保有することのできない零細
農民にな
つておるのでありまするから、この点投機性はより強まるということを
考えざるを得ないのであります。
従つて自由
経済的な米穀
統制によりましては、その効率が非常に低下して来ておるということを御指摘申上けなければならんと思うのであります。最近における肥料の騰貴等の点を更に
考えますれば、これは製粉工場等の
買付、又闇流しというような
可能性も強ま
つて来るのでありまするが、こういう点で
統制撤廃については私は十分警戒しなければならんというふうに
考えておる次第であります。
第三の点は、これは我々が
統制撤廃を反対して
食糧管理を今後主張する場合、現在の日本の
経済状態から見まして、一番恐れる点は
価格の面で、いわゆる低
価格を茶碗とした
統制、いわゆる低
米価政策を
中心とした
統制というものが実現し易い
可能性のあること、こういう点が我々非常に虞れられるのであります。本年度の日本
経済の
見通しといたしましては、どうしても低
価格を
基礎として、いわゆる
食糧統制というものが直ちに低
価格、低
農産物価格制度と維持するような形に発展し易い危険があるのであります。この点が我我は新らしい
食糧管理制度を主張する場合においても、常に
価格政策が
裏付けとならなければならない。即ち保護
政策を
基礎とした、
農民の
経済を維持する
価格政策を
裏付けとした
統制方式がとられなければならん、こういう点を我々は
考えざるを得ないのであります。
第四の点といたしましては、これは
政府が現在
考えておりまするように、麦だけの
統制の撤廃をやつた際、どういう状態になるかと申しますると、これは
統制撤廃直後におきましては、麦作地帯においては有利な条件が出て来るかと思うのであります。これは麦の
生産費が非常に増嵩するということが、例えば肥料において最も多く麦作において重要性を持ちまする過燐酸の輸入
価格の値上り、こういう面からい
つても
生産費が上りまする
関係、輸入麦が漸次制約されまする
関係から、麦の
自由価格というものはこれは高まるのは当然でありまするが、麦作地帯はそれで若干有利になると思うのでありまするが、併しこのしわ寄せは全部米の単作地帯に被せられるという結果になると
考えるのであります。
従つて麦作地帯と米作地帯とのアンバランスが出て参りまして、
農民経済のうちに各
農民地帯別の
農民経済が非常にアンバランスになるという結果が出て来ると思うのであります。こういう点で我々は単純に麦の
統制撤廃を主張できないという
一つの根拠を持つわけであります。以上簡単に四点だけ
基本的態度として申し上げて見たいと思うのであります。
然らば第三の我々の主張いたしたいところの新らしい
食糧管理制度というものは、どういう
構想を基本的に持つべきであるかという点になるのでありますが、これは飽くまで自由申告を
基礎とした
食糧管理制度、一言にしてはそう申上げられるのでありますが、これを従来の用語で申しまして、
事前割当制度、
事後割当制度という点から申しますると、我々は
事前割当の観念を
基礎として行きたいと思うのであります。と申しまするのは、今までの
事前割当におきましても、これは
制度そのものの欠陥というよりも、この
運用におきまして、結局
政府側で一定の
数量を抑え、作の如何にかかわらず、或いは
作付の如何にかかわらず、これを
国家の必要を
基礎として
農民に押付けたという結果が、今日まで
食糧問題で紛糾せしめた原因であろうかと存ずるのであります。併しながら
事前に一定の
割当をするということは、これは
生産の
計画性を維持するという上において私は絶対に必要である、現在の
食確法において、いろいろこれは欠陥がありまするが、我々はこの
食確法に反対せずして、基本的には是認して参つたというのも、要するに
生産の
計画性という一点だけでありまして将来においてもやはりこの
計画的な
生産をなすということは、日本のように
食糧の絶対量の
不足しておる国においては当然であろうかと存ずるのであります。そうしてただ
事前割当という従来のやり方では私はいかんと思うのでありまして、この点につきましては、私
どもは先ず
農民の
自主申告したものを、これを部落なり或いは村の農地
委員会なりが、その妥当性を検討しまして、更に県がこれを吸上げる、そうして県が吸上げたものを国が吸上げる、そこで国においてはそれによ
つて、
自主申告によ
つての大体の
数量が把握できまするから、これに従来の日本の
生産量の計数等もありまするので、これと打合せて
外国食糧の輸入
計画を樹立し、そうしてこの輸入
計画に基きまして、更に若干の訂正を要求する場合には、これは
増産要求として下へ流す、それを
農民が受入れられる範囲においてこれを
決定するという方法をとりますれば、
事前に
割当をいたしても、これは
農民の
農家経営の
自主性を崩すということはあり得ないと思うのであります。ただ
関係当局のほうでは、これを単に手続がうるさいというような観念をとるかも知れませんが、やはり
農民の
自主性を重んずる限りにおいては、これだけの手続はとる必要があろうかと思うのであります。これを現在農林省で
考えられているような
事後割当一本で行くとしたならば、どういう結果になるかと申しますれば、結局
事後割当におきましては、
事前における
農民の
生産の
計画性というものが失われ、
作付転換が無制限に行われる結果となりまして、
生産量の多いほうが困難になるという点、又
政府としても予
措置をやるだけの余裕がない、結局必要であれば、
農民があ
つてもなくても、徹底的にこれを
収奪するという結果が生じて来ると思うのであります。こういう点で
事後割当一本で進むという
方針につきましては、反対せざるを得ないのであります。
又
輸入食糧の
管理につきましては、これはコンマーシャル・フアンドのものでありましても、この
買付等につきましては、これは貿易業者を使
つて差支えないと思うのでありまするが、
買入価格の点、又
買入は全部
政府の手によ
つて買入れる、
国家によ
つて管理するという方法をとりたいというふうに
考えておるのであります。こうなりますると、関税問題はすでに問題にならなくなるのでありますが、関税自主権の
考え方は基本として飽くまで持
つておるというふうな
態度をとりたいと思うのであります。そのほか機構については、やはり現在のような官僚的な
統制を
基礎とするところの機構でなしに、民意を十分に反映できるような、現在の機構を民主化して運営するという方法をとりたいと思うのであります。
時間が大部進みましたので、以上非常に大雑把でありまするが、それらの点を若干申述べて我々の
意見といたしたいと思うのであります。