○相馬助治君 私は
只今議題に依せられておりまする
法律案に対しまして、
日本社会党を代表いたしまして、先ほど吉川
委員説明にかかりまする
日本社会党提案の修正案並びにこの修正された部分以外の
政府原案に対しまして賛成いたしますると共に、岩木
委員説明にかかりまする民主党並びに緑風会提案の修正案並びに社会党が修正いたしました部分を除く
政府原案に対しまして反対いたすものでございます。
先ず
政府原案を私どもが見まするというと、御承知のように今般のこの
警察法の一部
改正法律案というものは、国民の異常なる関心が持たれておることは皆様すでに御案内の通りであります。この
只今議題に供せられておりまする
政府提出の原案を見まするというと、これは
国警の捜査権の拡大であり小自治
警察の廃止であり、加えて
国警定員の増加等々を骨子としたものでございまして、これが
意味するところは、新
警察制度が従来のプロシア乃至フランス流の中央集権的
警察制度を、米英風の自治
警察を主体といたしまする
警察制度に切替えたもの、即ち曾
つてマツカーサー元帥が或々
日本国民に対しまして手紙を以て警告いたしましたところの精神、今再びこれを思い返して読んで見ますならば、
マツカーサー元帥はこの
書簡について、次のように述べているのでございます。過去における国家権力による
警察力濫用の根本的是正をこの際なさなければならない。この
目的を達成するためには、中央集権的統制に不可分に附随する
警察国家的可能性は最も注意してこれを避けねばならない。極右たると極左たるとを問わず、反民主的分子が、国民を
警察テロの網の中に陷落させるような事態を再び可能ならしめてはならない。以上の根本
目的は
憲法に盛られた
地方自治の原則に則
つて警察制度を完至に
地方分散することによ
つて最もよく達成することができると指摘しておるのであります。そういたしまして、
昭和二十二年十二月十七日法律第百九十六号を以て公布されましたるところの
警察法、この法によりまして、
警察の
民主化というものは非常に進められたのでありますと共に、この
警察法の前文が謳
つておりまする「国民のために人間の自由の理想を保障する
日本国
憲法の精神に従い、又、
地方自治の真義を推進する観点から、
国会は、秩序を維持し、法令の執行を強化し、個人と社会の責任の自覚を通じて人間の尊嚴を
最高度に確保し、個人の権利と自由を保護するために、国民に属する民主的権威の組織を確立すると
警察法の前文が謳
つておるでありましてこの前文が余すところなく
日本の
警察制度の根本、いわゆる真義を
説明しておると思うのでありまして、その根本精神は飽くまでも
警察の
民主化と
地方自治の真義に則
つて、国民に属する民主的権威の組織でなければならないとし、中央
政府から独立したそれ自身の
地方警察であらねばならないと
規定しておりますし、そのことは中央集権的に統制された
国家警察網が再び形を変えて現出することを嚴に防止せねばならんということを教訓的に示しておると私は理解するものでございます。こういう意図を以て施行されましたところの
警察法によ
つて警察の
民主化というものは非常に進み、
日本の
民主化に当
つて相当貢献するところのあ
つたことは我々それを否むことのできない事実であろうと思うのでありますが、ただこの制度の導入に当りまして、やや直訳的に過ぎ、
日本の実情を然視したきらいがないではなか
つたのでございます。即ち自治
警察或いは
国警の縄張り争いから来るところの捜査
能力の低下、こういうような
意味におきまして、今日
警察制度が根本的に再検討されねばならん
段階に至
つておることは私も認めるところでございます。併しながらこの際我々が忘れてはならないことは、
警察法の前文に謳われている真精神を飽くまで保持しようとするならば、過去三カ年間に亙
つたいろいろの自治
警察或いは
国警の運用上の欠陷を是正するにとどめる、別な面から言いまするならば、
自治体警察をいよいよ強化せしめるという一路を迫ることこそが、飽くまでも
警察法の真精神に徹するものであろうと思うのであります。ところが今般
警察法の前文はそのままといたしまして、
政府より我々に示されたような原案が提出されたのでありまして、これに対しましては我々は残念ながら反対せざるを得ないのであります。国家の
治安という観点から眺めて、国の
治安は飽くまでも国家それ自身がみずからの責任において守らなければならない、理の当然であります。
警察を最も機能的ならしめるためには、それが勢い中央集権的な形態を迫るということは必然的な運命であります。併しながらさればとい
つて、我々はくどいようでありまするけれどもマツカーサー・レターによるというよりも、誤れる戦争に突入し、
日本のもろもろの誤れる制度のうちでも、特に軍閥、
官僚と並んで、曾て
警察国家といわれたその弊害を知れる我々は、敗戦というこの大きな教訓の下においては、どこまでも
警察法の前文が謳
つている真精神を確保しなければならない、敗戦国民としての必然的な義務であることを思いまするときに、
能率主義と民主
主義は或る点において相剋する必然的の運命を内蔵しておりまするけれども、それにもかかわらず我々は今般の
政府提案の原案に対しまして、残念ながら賛成することが到底不可能なのでございます。
先ず
政府原案におきまして、第一に
地方自治
警察の廃止を謳
つております。これは一応肯けます。即ち下部の声というものが弱小自治
警察を廃止せよという論に満ちていたことは我々も肯くのでありますが、これは第一の理由といたしまして、財政的欠乏ということが挙げ得られると思うのでございます。従いましてかなり困難な注文ではありますけれども、財政的裏付けをこれに加えることによ
つて本問題は解決されますると共に、住民投票という極めて民主的なる方法をとるのであるから、このことはよろしいという説をなすものがありますけれども、残念ながら
日本の
民主化の度合いにおきましては、住民投票という極めて形式的には民主的であるというその方法においても、弱小自治
警察廃止問題をめぐりまして、住民投票の形というものが、どのような形において現われるかということを
考えましたときに、思想的な面からも、且つ又別個の
治安の面からも、我々は今日
警察廃止をめぐ
つて極めて不十分なる準備の下に住民投票をする姿を思うときに、一応慄然ならざるを得ない点があると思いますことは、不肖相馬一人の懸命にとどまるものではないことを私は確信いたすものでございます。而もそうすることがよいと申すわけではございませんけれども、この際我々は民主
主義という
言葉そのものに迷わされることなく、むしろ法律を以て十万人以下の所はなになにせよということをやられることこそが現実に即していない、かくせよというのではないのでありまするが、
政府原案のような形を以て行くならば、そうすることに符節を合しておるものであると私は警告的
意味を以て附加えざるを得ないのであります。現在の
警察法の根本的な基調とな
つておりまする中央集権から、
地方分権への精神、こういうことを
考えるときに、我々といたしましては、一面実行不可能のごとき、又一般の声を無視しておるかのごとき姿を以
つておりますけれども、吉川
委員の提案にかかりまするところの社会党の修正案は、誠に
警察法前文の真精神を活かしたる理想の案なりと自負せざるを得ないのであります。
第二には定員の増加の問題であります、原案によりまするというと、
地方自治警の廃止によりまして、当然それだけ
国警の定員も増加いたしますると共に、
警察学校及び
警察大学に在学する
警察官五千人を限り云々といたしまして、
国警が定員の増加を図
つております。表面見まするところは五千人の増員であるかのごとく見えますが、先ほど
鈴木委員も指摘されましたように、弱小自治
警察の廃止によ
つて一万人、且つ又、自治
警察側の定員が廃止されたということによりまして、少し大袈裟な話をするならば、今日
日本の
警察の定員は無制限に拡大される一つの必然的運命をこの
法案は持
つておるということを指摘しなければならないのであります。我が国は戦時中におきましても警官の数は十万人を超えた歴史的事実を持ちません。それが現在でも自治警並びに
国警合せて十二万五千人、数においては決して少くございません。
治安の
情勢から見て云々ということを言
つておりますけれども、これは先に
警察予備隊も生れておるのでおります。従いましてこれだけの数を持
つておる
警察が
治安の必要上、なお増員しなければならないとすることは、
法務総裁以下、
国警長官以下みずから
警察の無能なることを天下に声明することを
意味するものでございます。とかく
官僚組織というものは、何か口実を見付けまして、みずからの身代を殖やすというこれは性格を持
つております。このことは幾つかの我々は歴史的事実において知
つております。帝政ロシアの秘密
警察が仕事がなくなるとストライキや暴動を煽動して、みずから肥る理由とした事実、或いはナチスドイツにおいてもそのような事例を我々は知
つておるのでありまして、定員の増加ということを
考えるならば、先ほど我々の党より指示いたしましたるような形におきまして、むしろこの問頭は暫らく放棄して、実質的に
警察の機能を高めるように、
警察官の教養を高めるための給与の改善、通信、鑑識その他
警察の持つ機能の力をより科学的ならしめるという方向に目を向けるべきであろうと私は
考えるものでございます。
要するに基本的な問題について一応述べたのでございまするが、とにかく
政府原案の持つものは、しばしば吉川
委員の指摘いたしましたように、一言にして盡すならば、
吉田内閣の反動
政策の先駆を示すものであります。且つ又
地方分権による民主
主義育成の
政策を講ずることなくして、単に
能率的
立場に名を借りて、民主
主義的
地方分権主義の圧殺を図らんとするものであります。
国家警察力及び
治安対策といたしまして、
警察法規定以外に
警察予備隊、海上保安隊、法務府
特審局のいわゆる
警察力があるにもかかわらず、これに目を蔽うて、一連の繋がりにおいて
改正するということを怠
つた政府の怠慢を如実に
説明しておるものでございます。そういう
意味合いにおきまして、私ども
日本社会党におきましては、先ほど吉川
委員が
説明いたしましたる通り、定員五千名の増加に反対いたしまして、装備、機械力、科学的捜査方法の完備、相互間の協力による
警察力の質的向上を図ることを
考えました。且つ又二十條の二におきまして、知事の非常事態時における
自治体警察処理に対しまして我々は反対するものでありまして、この
治安維持上重大なる事案ということも、
言葉としてはわかりまするが、具体的にはこれはそのときどきによ
つて解釈は極めて困難なるものを含んでおると思うのでありますると共に、とにかく
自治体というものの今の
政治的な
立場を
考えて見まするときに、
政府原案は極めて危険なりと言わざるを得ないのであります。同時に我々は次には町村
警察の廃止を住民の一般投票によ
つて行うということに反対いたしますると共に、どこまでもこの町村
警察というものを、
地方自治法の真精神によりまする
自治体警察というものの姿を我々は残して行くということを基本精神とするものであります。次にこの
国家地方警察或いは
自治体警察というようなことで、たびたびその名称上から来る論議が繰返されたのでありまして、これにつきましては本質的な
立場から私は討論する用意を持つのでありまするが、時間の都合上これは本会議に譲りたいと思う次第一であります。
要するに私は、先ほど来縷々述べましたように、
政府原案に反対いたしますると共に、民主党、緑風会の修正は極めて善意に満ちたるものであ
つて、両
委員の修正動議に敬意を表しまするけれども、百尺竿頭一歩を進めて、現在の
日本の
状態に照しまして、組合
警察の精神を確保いたしますると共に、根本的な修正が必要であ
つたと思うのでありまして、残念ながらこの修正案にも反対せざるを得ないのであります。従いまして以上述べましたような
立場を以ちまして、私は
日本社会党提案の修正案に対する賛成の
意見を開陳するものでございます。