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説明員(
野尻徳男君) それでは極く箇單に各地区の
状況だけ申上げます。
先ほど終戰以来の概略の経緯を申上げましたが、現状におきましては巣鴨に、この表にございますように千三百四十六名、三月十二日現在でございます。外地に七百二十名、総計二千六十六名の
戰犯者が抑留されております。この中にはまだ未決の者が十一名残
つておりますが、これは主として現在続行されておりまする濠洲のマヌス島の裁判の未決者であります。この裁判は続行中でございますから、恐らく三月一ぱいを以て終るのではないかと予想をしております。二千六十六名のうち、
死刑判決を受けました者は七十七名、
無期判決は四百六名、その他は有期でございます。軽いほうの
有期判決者はすでに逐次釈放され、満刑しつつありますので、概して五年以上とい
つたようなところの人が多いのでございます。抑留地につきましては、外地ではこの表にございますように、仏印、これはサイゴンに
死刑判決を受けた方が四名、それから英国管理下ではマライ地区数個所、それから離れたところではボルネオのゼツセルトン、それからビルマの管理にな
つておりますが、英国の
判決を受けました者がラングーンにおります。なお英国と濠洲との両方の
戰犯者を収容しております香港に七十名くらいの者があります。それから濠洲のマヌス島に二百六十名ぐらいでありますが、これは先ほど申しましたように一部裁判が続行されております。それから先ほどお話に出た
フイリツピンのヤニラの近くの
モンテンルパに百十四名というところが外地の現在の抑留地分であります。従来は非常に多数の抑留地に、もつとたくさんの者がおりまして、裁判も各地で行われたのでありますが、現在では裁判をや
つておりますのはマヌス島のみ、抑留者もこの通りに減
つて来ておるわけであります。
各地の
状況の特異な点だけ申上げますと、その順序は南のほうから申しますと、濠洲のマヌス島におきましては
死刑囚、未決囚、既決囚それぞれ嚴格なる区分をいたしまして、鉄条網の張りめぐらしたうちにそれぞれ少しずつ待遇を異にしておるのでございますが、相互の連絡は全くとれません。そうして未決囚につきましては現在弁護団が
日本から派遣されまして裁判に協力しておるわけであります。大部分のものは既決でございますが、従来待遇その他につきましては必ずしも満足すべき
状況でございませんでしたので、従来から
家族それから
政府からも
GHQを通じまして
歎願しまして、待遇は最近においては相当に改善されて参
つております。なお内地から慰問品と申しますか、救恤物資を送ることを許可されまして昨年も二回に亙
つて送
つております。その
状況は別の表に差上げた通りでございます。年末に送りましたものはまだ利着したということを聞いておりませんが、それによりまして、辛うじて故国の匂をかぐことができておるわけであります。味噌、醤油等の
日本に特有の食事というものにつきましては非常に現地では喜んでおります。なお通信は相当の年月を要するのでございますが、漸く殆んど全員にとれるようになりまして、極めて一部のみが連絡がなかなかとれないとい
つたものも中にはございます。特にマヌス島におきましては、台湾人であ
つて、
日本軍に従事して
戰犯になりましたものが相当数ございます。一部朝鮮人も含まれておるように思いますが、七十六名現在おりまして、台湾との通信連絡も思うように行かないために非常に悩んでおるという
状況を特に指摘し得ると思います。他の地域と違いましてこの濠州はまだ裁判が全部
終つてないためでありますか、殆んど減刑なり、仮釈放とい
つたような恩典が附与されておりません。
判決の日から
判決のされました刑期だけ確実に服役するとい
つたような
状況でございますので、現在五年以上のものは帰
つておらない
状況でございます。食事その他は漸次そうや
つて改善されては来ておりますけれども、思うような食事がとれない、又量も少い、熱地であるという
関係から体力が低下しておりまして、これは南方全域に通じて言えることでありますが、平均一キロ半くらいの体重減を生じております。ために病人も相当数逐次出るような
状況でございます。特に
死刑囚十一名、これは極く最近
判決のございました海軍
関係の事件で七名を加えまして十一名にな
つたのでございますが、この処遇につきましては、全く隔離されておりまして、現地に
死刑囚の教誨師として送
つております浅井教講師さんが辛うじて短時間連絡できるのみでありまして、而もそれも單なる安否を問うておる程度でありまして、その他のことに関しては連絡できない、いわんや他の者は一切面会ができないという
状況にありまして、内情は私どもに詳しく伝わ
つておりませんが、相当苦しい
立場に置かれております。食事
あたりも土間でしやがんで短時間に食べるとい
つたような
状況でございますし、一切他人との談話をすることができません。独房に入
つておりますので、全く孤独な
立場にあります。昨年秋頃からこの
死刑囚が
判決されて出て来たのでありますけれども、恐らく
死刑の
執行はされないであろうという
希望的な観測であ
つたのでございますが、現地におきましては、最近絞首台は準備されたということを聞いております。又詳しいあれがありましたら御質疑に応じていたします。
次は英国
関係でございますが、先ほどのように各
方面に分散して収容されておるのでございますが、その管理
状況につきましては必ずしも一定しておりませんが、概して現地の土民、現地人と同じような起居をする刑務所が多いのでありまして、その獄則に縛られまして、又必ずしも
日本人に対して好意的でない気持が多分に反映いたしまして、食事の量にしましても、運動にしましても又各種の規則等につきましても、非常な辛酸を嘗めておるという
状況にありまして、現地ではとにかく内地服役を一日も早くお願いしたいということを本人らも念願しておりますし、
家族もその切願であります。クワラルンプールのように
ちよつと特異性のありますところでは、現地の華僑の奥さんにな
つておる
日本人の婦人がおりまして、これらの連中が差入れ等も若干や
つてくれているのでありますし、特に森という人が大変よく面倒を見てくれるというような感謝の声もございます。
日本から殆んど従来慰問品の送出しを許可されなか
つたのであります。この
関係で現地でも殆んど救恤品が来ることを諦めておりますが、せめてもの通信だけを頼みにいたしております。その通信もオートラムの
あたりでは三十分間ぐらいの間にまとま
つて来た束にな
つたものをざつと見てしま
つてすぐ回収するとい
つたようなことで内地の声も十分受取れないという気の毒な
状況にございます。ビルマにつきましては、その前にこの土地におきます恩典でございますが、イギリス当局としましては昨年服役期間一年を八カ月計算にするということと、まあ再審査と申しますか、量刑の調整を若干やりまして、そのために若干ずつの減刑処置を受けております。これは英国の管理下にあります地域全域に及んでおるようでありまして、香港にもその服役者に恩典が及んでおります。香港には濠洲の処罰を受けた人も入
つておるのでございますが、これも同一の管理を受けておる
状況でございます。なお香港におきましては、
無期の者は二十一年という計算にして、而もその三分の二服役すれば、つまり一年を八カ月計算にするわけです、釈放されるという規定が宣告されたそうでございまして、同じ濠洲の
戰犯者でありましても、マヌス島におる者と香港における者とはそれだけの恩典の差ができております。ビルマにつきましてはこれはイギリスが処罰したものをビルマ当局が管理を引受けておるという
状況にございます。
従つて内地服役とか何とかいう行政的な処理も英国当局がこれに同意しなければ
執行できないという
立場にあるようでございます。併し
一般の待遇につきまして他の地域と違いまして、ビルマ人は
日本人に大変好意的でございまして、又その当局も非常に面倒を見てくれておるようでありまして、司法
大臣がわざわざ刑務所を廻
つて何か不自由なところはないかというふうな慰問の言葉をかけ、待遇も改善してくれているという
状況であります。なおバーモ博士であるとか、ビルマ第一の実業家と言われるニザメという人も絶えず差入れをしてくれているといろ
状況であります。この地域も慰問品を送出すということは従来許可されておらなか
つたのでございます。今のような現地の差入れがありますのと、最近はときどき
日本船が米積みに
向うへ参りまして、そのたびごとに面会を許可されまして、連絡なり又差入れを許されておるようでございますので、先ず物心両面に亙
つて比較的いいほうな
状況にな
つて、なおつい最近この地区におきましては一年の服役期間に六カ月の加算がつくという、その割で計算をされるように昨年一月からな
つたそうであります。
従つて比較的早く
帰り得る
状況にあると思います。以上のごとく南方諸地域
フイリツピンを除きまして各地とも大同小異でございまするが、熱地であり、又給与も不良であり、又戰争に出ましてから、長いのは十年近くも抑留されておるという
状況にありますので、たとえ現地でこれは
フイリツピンからの……話がそれますが、
フイリツピンからの連絡によりましても、仮に将来東亜の天地が乱れた、
日本が危いとい
つたときでも決して外地におることを
自分らは
希望するものでない、つまりどんな苦労をしても
日本に
帰りたい、こういう気持を表明しておるのはこれは当然だと思いますが、
家族も目下唯一の念願であります。
政府といたしましても昨年秋
GHQに内地服役の
歎願をいたしております。これに対しては未だ何らの回答がございませんが、目下のところ見通しは
はつきりいたしておりません。それから申し落しましたが、仏印のサイゴンには
死刑囚が四名残
つております。これは昨年の六月、その他の者はやはりサイゴン若しくはサイゴン附近のプロコンドル島という島に既決にな
つてお
つたのでありますが、内地服役いたしまして、
死刑囚だけが残
つております。これ又一年以上放擲された
状況にございますので、大丈夫であろうという予測はしておりますけれども、
家族のものとしては
フイリツピンの
状況もございますので、いても立
つてもおられんという
状況でございます。これは先ほどの濠洲につきましても同様の感じと思います。
フイリツピンにつきましては、今詳しく御説明がございましたので省略いたしますが、一言附加えますと、加賀尾という教誨師さんが、これは昨年の三月まで比島に教誨師として残留することを許されたのでありますが、その後みずから挺身して残されまして、今なおその世話に当
つておられます。殊に最近
死刑囚が出たりしますというと、それらの一切の始末、残る者の不安や家庭を慰めることから、各種のお世話を一切引受けてや
つておられるかたがおるということを附加えます。通信は全域とも大体通ずるようにな
つております。これは一、二年前までは、甚だしく連絡がとれなか
つた場所もございまして、
家族の悩みであ
つたのでありますが、最近はよくこの面は改善されましたし、給与も
一般に従来とは面目を新たにしておることは事案でございますが、何分
日本人の嗜好に適さない食事等が与えられる
関係もありまして、病人は各地とも多発しております。せめてこの病人だけでも早く巣鴨のほうに帰してもらいたいという
希望を
政府としても非公式にお願いしておるのでございまするが、実現に至
つておりません。これに比しまして、巣鴨の管理の
状況は最近は特に自治を許され、又
日本人の直接の管理に世話を受けるようになりましたために、外地の抑留とは面目を異にした
状況でありまして、巣鴨の管理の
状況がいいということは外地に刻々に伝わ
つて参りますが、その
状況をお聞きして、外地抑留者といたしましては是非減刑もさることながら、とにかく内地に服役替してもらいたいということが熱願でございますし、又
手紙が参りますというと、マツカーサー減刑並びに仮釈放の恩典が加えられますので、外地では五年、六年とい
つたところでないと釈放されないものでありましても、現在巣鴨からは、巣鴨に抑留されている
人たちは、十年以上の人も仮釈放で出て来るという
状況にありまして、甚だその辺が不均衡と言えば不均衡にな
つておるわけであります。早く米軍の管理下に入れてもらいたいという
希望を持
つております。以上極く概要でございますが……。