○
証人(
榊原亨君)
患者又はその家族が信頼しております
医師から薬をもらいたいという希望がございますときには
医者からもらい、
自分が信頼しておる薬剤師のかたから薬を調合してもらいたいときには自由な意思によ
つて薬剤師のほうからもらえるということを私どもは任意と申しておるのでございまして、その
任意分業と申しますのは全く、
患者の任意の意思によるという意味なのでございます。従いましてこの
任意分業の姿がいいか、或いは法的で以て規定いたしまする
ところの
医師から、
医者が薬を渡してはいかんというこを規定いたします私どものいわゆる
強制医薬分業がいいかということを判定いたしますのには、大体三つの方向があると私は
考えておるのでございます。その一つは、
医師に果して
調剤能力、薬を調合いたします能力があるかどうかということを見極める必要があるのでございます。二つには、理論的に、先ほどからも
証人のかたがおつしやいましたように、理論的に
医師の
調剤を禁止するということが果していいかどうかということの考察でございます。
最後に、これは最も重大なことではありまするが、果して
強制医薬分業と申しますものが
国民の利益になるかどうかという、この三つの観点から私どもはこれを考察いたしたいと思うのでございまするが、終戰後まだ問もない今日でございます、
経済状態の逼迫しておる我が国といたしましては、この第三番目の、
国民の利益
関係にどういう
影響があるかということを主として現実の面において
考えまして、ここれを判定する必要があると私は
考えておる次第でございます。
そこでその第一の、
医師に果して薬を調合する力があるかどうかということでありますが、これは私どもが薬剤師の先生がたは、薬を合わしてはいかん、薬を
調剤してはいかんということを言
つておるのではないのでございまして、勿論薬剤師の
かたがたは立派な能力者ではございますけれども、
患者の利便、或いは
患者の希望のある場合には
医師も薬を合わすことができるかどうかということであるのであります。御承知のようにこの薬事学というものは、薬を作り出す、合成、これは
武見君が申上げたのでありますが、合成するという方面のこと、薬を分析いたしますこと、それから今問題にな
つております
ところの薬を調合いたしますこと、或いは薬の効き方を
考えます
ところの薬理学、こういうものがいろいろあるのでありますが、薬の効き方ということにつきましては、これはもう私ども
医者が知
つておりませんと、これは処方箋も書けないわけでありますし、治療もできないわけでありますから、特にこの薬の人体における効き方がどういう方向に効いて来るかという学問については、特に長時間の教育を受けておるのであります。それから薬を合わせますという
調剤学につきましても、これは明日も御
証言があると存じますが、相当の時間の
調剤学というものを我々は学んでおるのであります。又その実際につきましては、私ども科学者といたしまして、薬を計るとか、或いは混合するとかいうことは、この
調剤学を待つまでもなしに、化学の実験その他において十分にその能力を持
つておる次第でございます。又現に私どもは
医者といたしまして
調剤をいたしまして大した過ちがないというようなことを
考えて見ますということ、
医師に
調剤の力がないということは言えないと私は
思つておるのでござ
います。
第二の問題でございます
ところの、理論的にそれではこの
医薬分業ということがどうだということになるのでございまするが、御承知のように先ず第一番目には、世界中どこで一体
法律を以て
医者が薬を合わしてはいかんということを禁止しておる所があるか。これは先ほども
お話がありましたのでございますが、ドイツ並びにその周囲の所、或いは英国の社会
保険、保障等の場合にはさような規定もあるかと存じますが、アメリカのごときは、
医師が
自分の診察をいたしました
患者に投薬、
調剤をすることができるばかりでなく、ほかの
医者の処方箋をも
医者が合わすことができるのであります。これらの点につきましては、この厚生常任
委員会におられます
ところの堂森
委員なんかが欧州なんかの実情を
調査しておいでになりましたので、お聞き下さればよくわかるわけでありますが、今チユーリッヒの
医師のごときは、
医師のほうが、
日本と
反対でありまして、
医者のほうから
分業をや
つてくれと希望しておるのに、三回も
国民側におきまして、これは
医療費が上るから困るということで、
国民側で
反対いたしておるような事実があるのであります。こういうことをお
考え下されば、理論的に申しましても、外国がそうだから
日本がどうだというような
お話は成り立たぬと思うのであります。又法理論的に申しましても、大審院の判決にございますように、
患者の病名、若しくは容態を聞き、病状を判断し、これに適応する薬名を調合供与するは医の行為にほかならずということが、はつきりと大審院の判決にもあるのでございまして、法理論からいたしましても、
医師に
調剤を禁止するということはどうかと私どもは
思つておる次第でございます。
医師のほうからも、薬剤師のほうからも、自由に
患者が撰択してもらえるという制度が勿論私どもはよいと
思つておるのでございますが、なお
日本の
医師は薬師と昔から言われ、又外国と著しく事情が違
つていることは、先ほどもどなたか御
証言にな
つたところでございますから、省略さして頂きたいと存ずるのでありますが、結局
医療といいますものは
経済的な取引ではないのでありまして、全く人と人との人格的信頼に立
つて行われるものでございます。而もこの
調剤投薬と申しますものは、
医療の一
部分でありまして、当然この
調剤投薬については、
医師が責任を持
つてやるべきであります。併しながら
医師の手が及びませんときには、或いは
患者が希望しますときには、当然その
専門家でおられる
ところの薬剤師のかたにお願いするということは、丁度外科
医師が手術をいたしますときには、消毒した機械で手術をしなければならんのが、当然それは外科
医師の責任であります。併しながらその機械を消毒いたしますのは便宜看護婦に頼む。或いはレントゲンの治療をいたします、或いはレントゲン写真をとることは、当然これは治療の一環といたしまして
医者の責任でございますけれども、便宜レントゲン技師にそれをお願いする、こういうような立場に私どもはこの
調剤ということを見ておるのであります。そこで理論的に申しましても、
只今お話申上げました通りでございますが、それでは一番大事な
国民の利害
関係、利益ということにつきましては、一体この
強制分業はどんなふうにな
つておるか、先ほども
お話になりましたように、第一番目に
考えられやすいのは、
医師の秘密治療の公開ということでございますが、これは私どもが
考えて見なければならんのは、処方箋をもらいまして、
患者のかた或いは家族のかたが、その処方の薬の名前を知りましても、それは決して衛生思想或いは衛生に対する概念が深まるというわけではないと私は
思つておるのでございます。御承知のように
医者が
患者を治療いたしますときには、これはいろいろ指導いたします、いろいろこういうふうにしなければならん、或いはああいうふうにしなければならんということを指示いたしまして、病気の治療の方法の方針を
医者が当然授けるべきであるということは、
法律ではつきりきま
つておる
ところでございますが、ただ単に処方箋の中に含まれます
ところの薬の名前を見ただけで、そうしてそれが
医療の
向上になるというようなことは
考えられないのであります。むしろその場合に、例えば熱を持
つております
患者が処方箋をもら
つて、アスピリンと若しも処方箋に書いてありました場合に、それが熱の出たときにはアスピリンを飲めばいいのだなというようなことを
患者が
考えまして、
自分で次に同じような熱が出たときに同じようなアスピリンを買
つて来て
自分が飲む。或いはこの前のアスピリンを合わして下さいというようなことを薬剤師のかたに強要して、お願いをして、そうして若しも飲んでそれが同じ種類の熱でなしに伝染病であ
つたという場合にはとんでもないことになるのでありまして、この素人療治、或いは素人のかたで
考えて単に処方の
内容を見て、これはこうだというようなことの速断をするということは、教育を受けない、まだ教育の十分でない我が国にと
つては非常に危険なことだと私は思うのであります。このことは単に
日本だけではないのでありまして、現にアメリカにおきましても、この処方箋によりまして無診投薬、或いは素人療治ということの弊害が多いために、これを如何にして取締るかということは、アメリカでも非常に困
つておるのが現状でございまして、こういうことをよくお
考えを願いたいと思うのであります。又先ほど薬剤師のほうのかたから処方の
内容を公開されるというと価格が下るという
お話があるのでありますが、決してそういうものではない、先ほど五円六十銭という数字をお示しにな
つたのでありますが、それは一剤におきまする薬の、
健康保険におきまする一剤の中に含まれておる
ところの薬の原価であります。それに薬包紙、そういうものが七十何銭であります。或いは管理費などの経費を入れますと、平均いたしまして九円三十九銭という数が出て来るのであります。その上更にこれに税金を見てみますと、
健康保険におきましては、五十万円以上収入のものにおきましては、大体半分の税金というものを、見なければならんという現状でございますと、そういたしますと
只今のこの
医療費が決して高いものではないというのがよくおわかりが行くと思います。従いまして若しも正確なる薬の
内容が公示されましても、そのために
医療費が下るということは、私どもは到底
考えることができないと
考えておるのであります。次にその利益と
考えられておりますのは、
医師の
調剤の時間が省けるから、自然に
技術の
向上が来たされるということでありますが、これもアメリカ人のかたが
調剤なさいますその
技術と、
日本の人の
調剤いたします
技術とは非常な違いがあるのです。例えて申しますと、皆さんがたがお飲みにな
つていらつしやいます
ところの薬を紙で包んである、この包むのは
日本人でなければできないことです。従いまして向うの
調剤の時間と、こちらの
調剤の時間について、その労力というものは非常な違いがあるのでございます。従いまして若しも先ほどの
お話の通り、往診とか、或いは
患者は、大体
日本におきましては零床診療所、即ちベットを持ちません、病床を持ちません診療所の一日平均の
患者数は二十二人ということに昭和二十五年な
つておるのであります。従
つてそういうぐらいの
患者を見てみまして、一日の投薬
調剤するということは、さして大きい時間を消費するものでないのであります。勿論それ以上の
患者が入
つて来ると、
医者は現に薬剤師のかたにお願いして、
自分のうちに薬剤師のかたに来て頂いて、そうして
調剤するのが実情でありまして、単に
医薬分業をしたから、
強制医薬分業をしたから、それで時間が浮いて来て、医学の
技術向上のために非常に役立
つたということは、一
部分はあるでございましようが、机の上でお
考えになるようなことではないのであります。これに反しまして
強制医薬分業をいたしましたために受けます
ところの損失というものは非常に大きいのであります。先ずその
医療費の負担が増大するということは、先ほどもいろいろ
お話が、御
議論があ
つたのでありますが、私どもの計算いたします
ところによりますと、新らしい
医療費体系でなしに、現行のままでは一応約一二%の
医療費が増加いたします。その額は百十七億に上ります。又新らしい
医療費の体系、新らしい
医療費の体系と申しますと、これはまだ御
議論の余地がありますので、私どもが計算いたしました新らしい
医療費の体系によりまして、薬剤師の先生がたが御
調剤なさいますのが六四%、
医者が
調剤いたしますのが三六%と若し仮定いたしましても、現行の
医療費の二八%の増加を来たすのであります。
更にここに一つ大きな問題として皆さんがたに御承知おきを願いたいことは、社会
保険の診療についてであります。御承知のように先ほども一剤投薬、二剤投薬という
お話があ
つたのでありますが、社会
保険の診療におきましては、できるだけ必要のない場合には、一剤投薬ということをや
つておりました。そうして現状に応じまして、
医者の出して参ります請求書を査定いたしておるのであります。若しも社会
保険の診療
報酬に違
つた治療のために二剤投薬をいたしておるような場合には、その一剤の費用を取消して削
つておるのであります。そうしてこの社会
保険法の
医療費を少くするように現在や
つておるのでありますが、若しも今これを何らかの処置を講ぜずして
強制医薬分業というようなことをやりますと、
医者のほうからは、処方箋を取るか取らんか、これは別でありますが、
医者のほうからは
技術料の請求が出るだけであります。そうして薬剤師の先生がたからはその
調剤手数料を含みました
薬価の請求があるのでありますが、薬剤師のかたは処方箋によ
つて機械的に合わしておいでになるのでありますから、従
つてそれが診療
報酬に違反いたしまして、一剤でいい
ところを二割、三剤を使
つた処方箋を頂戴されておられましても、それを査定することができないのであります。何となれば、その処方箋を書くのが
医者であります。その
医者まで遡
つて計算することができないのでありまして、これが社会
保険法におきまして、
強制医薬分業をや
つた場合には、
医療費が著しく上ると仮定されるこれも一つの大きな原因であります。これを何とか処置しなければいかんと
思つて私どもも
考えておるのでありますが、今の
ところ名案が浮ばんというのが現状でありまして、これはとくと
委員会におかせられましても、社会
保険局のほうにでもお聞き下されば、これは事実ははつきりわかると思うのであります。この事実については
厚生省も今の
ところ御対策がないと
考えております。更に又
医者はおのおの
自分の好みます薬というものを、一応使います薬というものを保管しておるのであります。
ところがすべての
医者からのいろいろな処方箋によ
つて合わせるということになりますと非常にたくさんの薬を保管しておかなければならんということになりますので、一人々々の
医者が保管しますよりも非常にたくさんの薬を用意しますために、それに要しまする資本の投下というようなものは非常に大きな額に上るのでありまして、このことから申しましても、
医療費が高くなるわけであります。私どもはこういう点からいたしまして、非常に細かいこの
資料を出して、
臨時診療報酬調査会或いは
臨時医薬制度調査会或いは臨時
医療報酬調査会において
是非具体的な数字を以て御計算をお願いして、少くともこの
医療費が増すか、増さんか、これはもう
国民に取
つて一番重要なことでございますから、この御計算を願
つて御検討をお願いいたしたいということを再三再四当
委員会において申上げたのでありますけれども、不幸にしてこの数字的御検討は臨時
医療報酬調査会におきましても
医薬制度調査会におきましても行われていないということは、私ども
医師会側にとりまして極めて残念なことと存ずる次第であります。更にこの時間、労力というものが
患者の負担になる。先ほども
医薬分業をしたほうが却
つて時間が少くなるという
お話でございましたが、これは子供を背負
つて小児科へお母さんが参りまして、そうして漸く子供を診察してもら
つて、そうして帰り、又この子供を背負
つて近所の薬屋さんまで
行つて、漸く薬をもらうというと、そのことの労力と時間がどれくらいになるかということを、常識的にお
考え下さればわかることでございまするので、その点については触れません。更に先ほども
お話がございましたように、診療、治療の責任の所在がはつきりしない。
強制医薬分業をいたしますと、治療の責任の所在がはつきりしない。これは御承知のように若しも今ここに
患者がござざいまして、病気が治らんといたします。その場合にお
医者さんの見立が悪いため病気が長引いて治らんのか、これは今の薬剤師の先生がたはそういうことはないとは思いますが、若しもその薬剤師のかたが御
調剤になる薬に何らかの違いがあるのじやなか
つたか、この問題の責任がどこにあるのかということがはつきりしないのであります。でそれはその薬を分析して見ればすぐ間違いはわかるじやないか、こういうふうにお
考えになるかも知れませんが、今の化学におきましては、例えばアスピリンならアスピリンを、バイエルのアスピリンを使いました場合、バイエルのアスピリンを使
つておるか普通のアスピリンを使
つておるかということを分析を以ていろいろに証拠立てることができないのであります。ヂアスターゼにいたしましても、先ほドヂアスターゼの検定の話があるということは申しましたが、どこの製品を使
つているかということは分析を以て証明することができないのであります。従いまして病気が治らんからという場合に、その責任がどこにあるかということが化学的に
考えましてもはつきりし得ないのが現状であります。
任意分業の場合はどうであるかということでありますが、これは
任意分業で処方箋を
患者がもらいたい、その家族がもらいたいと言われます場合には、勿論その
患者、或いはその家族のかたが最も信用される薬剤師があるから、そういう要求をなさ
つてもらわれるわけでありますから、そこにはそういう間違いが起らん、起ることが少い、こういうふうに私は
思つておる次第であります。更に先ほども
お話申しました無診投薬が殖える、或いは無診療の
調剤が殖える、伝染病の早期発見ができん、まあいろいろそういうことから
考えましても、この
強制医薬分業というものは、ただ机の上で
考えましてこれはいいとか悪いとかというようなこととは違
つて、直接
国民の利害
関係に関連して来る重大なことであ
つて、この
強制分業によ
つて利する
ところと損する
ところと比べますならば、この損失というものは雲泥の差であるということを申述ベたいと思うのであります。
それでもなおどうしても
強制医薬分業をしなければならんということになりますというと、その条件というものが必要にな
つて来るのでありますが、その条件と申しますのは、第一番目に、
国民の利便を
中心として
考えなければならんという条件であります。たとえて申しますというと、アメリカなんかでこの
医薬分業がスムースに
行つておりますのは、どの家でも自動車を持
つておる、交遊機関はもうくもの巣のように張
つておるということでありますし、これは簡単に自動車に乗
つて薬をもらいに行けばいいのでありますが、
日本におきましては、先ほど申しましたようにそう簡単に行かない、混み合う電車の中を、又電車に乗
つて行かなければならないということにな
つて来る。或いは昼休みに
ちよつと工場の職場で診察をしてもら
つて、すぐに薬をもらえればいいのですが、もらえんということになると、又帰りに寄
つて薬をお
医者さんにもらわなければなならんというふうに交通機関というものが整備されておりません現状といたしましては、甚だこれはむずかしいのではないかと思うのであります。又
日本の生活様式そのものにつきましても、時間的余裕がない、これは勿論であります。毎日御飯を炊きましてそうして炊事をしておる奥さんが薬をもらう時間を限るということは、外国の簡単な生活様式とは違
つておるということ、或いは又薬局の分布にいたしましても、それから薬局のかたからいつでも薬を頂く、若し
調剤を拒む場合にはこれは罰則を設けるということは、丁度お
医者が若しも診察を拒んだ場合には制裁を加えられるということと同じような態勢にならなければいけないのではないかと私どもは
考えておる次第でございます。又先ほど薬局が
医療機関の一部として公共性があるということを盛んに
高野先生が言われましたが、全くその通りでありまして、薬局の公共性が十分に認められておらなければならん。或いは先ほど
武見君が言われましたように、この医薬品の規格というもの、或いは生産の原価、或いはこの医薬品に対する誇大
広告というようなものに対する取締というものができて来なければ、どうしても甚だこれがむずかしいのではないかと思うのであります。更に先ほどもこの歯科
医師会の先生がおつしやいましたように、
国民の
医薬分業に対する知識、例えば更に今後販路を
求めたり、むちやに注射器を買
つて来て
自分で注射をするとか、或いは処方箋の期限を守らなか
つたり、いろいろそういう
国民の教育というものが十分行き渡
つておりませんときに、このような
強制的に
法律を以てきめますということは、到底
国民の側といたしまして、
国民の利益者の側といたしまして忍ぶことができないのであります。それではこういうことを取締
つたらいいじやないかということになるのでありますが、果してかくのごとき広汎なるいろいろな方面における取締ができるでございましようか。ということは、単なるヒロポンというあの一つの薬の取締さえが十分できない現状、あのヒロポンの取締さえができないというこの現状をお
考え下さいますれば、これを取締るということはなかなかむずかしい。これはどうしても
国民の教育、教養というものが盛
上つて来た場合でなければいかんじやないか、こんなふうに私どもは
思つておる次第であります。
そこでそれでは今までのままで、現行のこの
任意分業のままで放
つておいていいのか、そのままにしておくつもりかという
お話でございますが、その点については、私どもははつきりと具体案を申上げたいと思うのであります。それは今これを
法律できめるというようなことでなしに、いわゆる新らしい
医療費の体系というものを至急実現して頂く、新らしい
医療費の体系、それは結局
薬価の中に
医師の
技術料を含まない医料費の体系、言い換えて申しますならば、
医者が
調剤投薬いたしましても、それによ
つて利益を得ないような
医療費の体系というものを
是非実現して頂きたい。これが実現いたしますというと、
医者が
調剤投薬しますというのは、何ら一つも利益がないわけでありますから、何を好んで忙がしいのに、
医者がわざわざ
患者が
求めないの
に
調剤投薬するというものはなくなる、これは当然なことであります。ただ
医者がこの利益を
求めないで
調剤投薬いたします場合というのはどの場合かと申しますと、
患者が
医者を信頼しまして、どうしても先生の薬でなければいかんから、どうしても先生からもらいたいといいます場合、或いは
患者の全くの利便からサービスとして、ただ薬を投薬するだけが残
つて来るわけでありますから、かような状態になりますというと、
医者は自然に処方箋を発行することが多くなり、又そういう状態になりますというと、
患者のほうも自然に教育が行届いて来るわけであります。この新
医療費の体系というものが実現いたしますれば、何を好んでこの困難なときに、
法律を以て
強制的に
医者が薬を飲ましてはいかんというように禁止する必要がどこにあるだろうかということを私どもは特に申上げたいのであります。先ほどもいろいろ
お話がありましたが、この
医療費が高いとか安いとかいう問題がありますが、処方箋が高いとか何とかいう
お話を承わ
つたのだと存ずるのでありますが、現在役所におきまして土地の台帳を閲覧する、土地の台帳を見せて頂くだけの手数料が二十円であります。これは現に
政府がと
つておいでになる。その土地台帳を見せるだけが二十円ということをお
考え下さいますれば、私どもの
医療費が那辺にあるかということはよくおわかりになろうと思うのであります。又先日御
証言にな
つたということを承わ
つておるのでありますが、この
技術料につきましても、先ほどもこの
診療費体系において上げるか下げるかということは、上げる下げるという問題じやない、
医療費が上がる下がるという問題じやなくて、上げないか下げないかということが問題であるという
お話であ
つたのであります。私どもは非常にそれは疑問に思
つた。と申しますのは、
臨時診療報酬調査会におきましては
科学技術を
向上し、
国民の
医療を全
つたからしむるために適正なる
医療費は何ぼであるかということを査定する
お話だ
つたと私は思うのであります。適正なる
医療費が何ぼであ
つたということを
お話しておるわけでありまして、勝手気ままに上げるとか下げるとかいうことができる、一つの控の中に無理にはめ込むということは、私はとんでもないことだと思うのであります。又
臨時診療報酬調査会においてもそういう御結論はなか
つたと私は思う。この点については、
勝俣委員がいらつしやいませんが、
勝俣委員からも御
証言頂けばはつきりわかると思うのであります。なお先般この
技術料につきまして、
技術料の計算の
基礎が現行
医療費の平均
報酬の時間給を以て基本とするというような
お話があ
つたように聞いておるのでありますが、これは現行の
医療費の平均
報酬ではないのであ
つて、理論的に適正なる
医療の平均
報酬は何ぼであるかという基準を市めて、この
医療報酬の算定をするという
お話だ
つたと私は
考えておるのであります。従いまして如何なる平均
報酬が正しいか、適正であるかということ、如何なる
医者の生活費、平均
報酬と申しては失礼でありますが、如何なる
医師の平均生活費というものが適正であるかということを理論的に定めます場合には、どうしても最低生活費というものを計算しなければできないわけであります。
ところが最低生活費を
求めるということはなかなかむずかしいから、平均生活費で行くというような、そういう意味ではないと私は
考えております。又そういう意味で私どもが平均
報酬というものの基準を
求めたわけではないわけであります。御承知のように、現行の
国民総
医療費と申しますものは、極めて不合理な社会
保険の診療
報酬の枠がこの中にあるのでありまして、これはどうしても、
科学技術に基く適正な
医療内容を持つようにきめ直さなければいかんのであります。例えて申しますと、ここに久下医務局次官が御出席でありますが、この間アメリカの
お話を承わりますと、アメリカで官吏の出張費が約十ドル、そうして宿賃は大体三ドル半だ、それで入院料は何ドルだと言
つたら、二十ドルだということであります。そうすると宿賃が三ドル半で入院料が二十ドルと申しますと、
日本で幾らかと申しますと、
日本の宿賃は一千円、入院料は二百円こういうふうなことでありますので、これじやどうしても適正に上がるか下がるかという問題でありまして、上げるか下げるかという問題でないと思うのであります。御承知のように憲法におきましては、最低の生活というものを保障されておるのでありますが、この最低の生活と申しますのは、昭和何年の最低生活かということはこれはもう皆さんがたもよくおわかりのことであります。最低生活は昭和二十年であ
つてもいいのでありますけれども、その
医療はどうしても昭和二十六年の
医療でなければならん。日進月歩の
医療というものは、
日本国民の生活水準が低いために
医療はそれに準じて低くてもいいのではないのであります。若しも低くてもいいのでありますならば、私どもはペニシリンの注射をやめなければならん。ストレプトマイシンの注射をやめなければならん。けれども今の日進月歩の医学をやるためには、どんなに苦しい生活をしながらもペニシリンを射し、ストレプトマイシンを射さなければならんのでありますから、従
つて最低生活の水準はどこにございましようとも、
日本の
国民に施しますその
医療というものは、最高の、現代に応じた適正な
科学技術に基く
医療を施さなければならんのでありまして、ここに私どもは
医療担当者といたしましても、又その他の部面におきましても、非常な苦しい
ところがあるのであります。と申しましても、私ども
医療担当者だけが利益を得ようという
考えを持
つておるのではないのでありまして、結局
国民の
医療そのものに
影響を及ぼします点において十分なる御考慮を払
つて、そういうお互いに苦しい……
医者も我慢する、
国民も我慢する、
政府のかたも保護政策を……
医療施設に対して低利資金を出して頂くとか、課税を安くして頂くとか、いろいろな保護政策があると思うのでありまして、そういう保護政策を
政府もや
つて頂きまして、ここに三者が一体になりまして犠牲を拂
つて、そうして何とかや
つて行かなければならん。今の苦しい
日本の現状において何を好んで
医療費の上ります
ところの、或いはまだまだいろいろな弊害の多いと
考えられます
ところの
強制的に
医薬分業をして、
医者が薬を
調剤してはいかんということを
法律で以てきめるということは、これは暴挙ではないかと私は思うのであります。
私どもは御承知のようにこの
法律が施行された場合に、どんな弊害が
日本に起るかということは先生がた御存じであります。例えば六三制の問題にいたしましても、警察制度の問題にいたしましても、あれが制定されまして数年を経た今日において又再検討しなければならんというこのことは何を物語るかということを深くお
考え下さいまするならば、その二の舞を又もやせんとする
ところのこの
強制医薬分業法案に対しましても、私どもは心から賛成を申上げることはできないのであります。以上を以ちまして私どもは新らしい
医療費体系を行うことによ
つて、事実上
分業の姿が
日本にできましても私どもはあえてこれに
反対を唱えるものではない、むしろ賛成をしているものでありますけれども、これを
法律を以て
強制してやるということについては、私どもは
反対の意を表する次第であります。