○
西村(榮)
委員 その原材料の騰貴の推定の基礎となりますものは、現在においてもすでに原材料は二五%の騰貴とな
つておりますし、船賃は三倍にな
つておりますし、食糧の国際的暴騰その他を勘案いたしますならば、おそらく本年度末におきましては、多くの物価の高騰と相なります。本
予算案ではとうていこの予定事業を遂行して行くということは、困難に相なることは火を見るよりも明らかであります。
従つて、今年度の
予算を金額の面においてあくまで遂行して行こうといたしますならば、その事業は四割ないし五割の削減をするか、これを繰延べしなければならないのでありますが、同時に、公共事業費、文教費その他を勘案いたしまして、事業の繰延べないしは縮減というものが困離たることを御存じの
大蔵大臣は、遂に本音を吐いて、追加
予算の提出もやむを得ないということを表明せられたのであります。そこで問題は、今の
予算を審査しているときにおいて追加
予算のやむを得ないことを
言明せられたのでありますが、しからばそれに対する財源は一体どこにあるのか。追加
予算を
言明されながら、その財源をどこにもわれわれは見出すことができない。私
どもは追加
予算の財源を見出すことは困離であるのであります。しかも一方においては、追加
予算の提出が必至である。これを
考えてみますならば、当然将来
国民の増税あるいは一大犠牲と相な
つて現われて来る
予算案、しかも
政府みずから自信のない
予算案を、何として
国会がその権威と
国民の信頼感によ
つて審議することができるでありましよう。これは
政府自身も顧みて反省せられなければならないと思うのでありまして、
政府が自信のない
予算案を
国会に
審議、これを可決せよという
政府の意思というものは、きわめて無理な難題をわれわれにふつかけておると申さざるを得ないのであります。(「心配するな」と呼ぶ者あり)これは
自由党の諸君のように心臓も強く胃袋も強く、公約無規の常習犯であるならばとに
かくといたしまして、(拍手)良心と識見を有する
政治家のとらざるところであるということをわれわれは第一に申し上げざるを得ないのであります。
第二に問題にな
つておりますものは、何と申しましても今日は
世界的な軍備の大拡張の
段階に入
つております。
世界の市場は、買手の市場から売手の市場に転換したということは、私が警言するまでもなく、
政府並びに
自由党の諸君はよく御存じなはずであります。しからば問題は、その
世界経済の大転換期に際会いたしまして、これに
わが国の生産対策並びにインフレ対策その他の政策が相一致しておるかどうかということを
考えてみます。ならば、これはてんでんばらばらだと申し上げざるを得ません。原材料は国際的にますます暴騰しおる。しかるに
わが国は輸出即輸入という態勢をとらないで、今日五億有余ドルの手持ち外貨が出て来たのであります。手持ち外貨は、貿易利潤から発生して参ります利潤でありますならば、慶賀すべきでありますけれ
ども、
国民に必要なる
物資を輸出して、その材料を輸入できないで手持ちドルがふえたということは、
わが国の
経済にとりまして、一大致命的な欠点であると申さねばなりません。おそまきながら今あわてて原材料の手当に従事するというのでありますが、その間半年間の時間的ずれでどういう現象が起きて来るかと申しますならば、国際的価格は二割、三割、はなはだしきに至
つては二倍も暴騰するどともに、船賃がまた三倍に暴騰しておるのでありまして、この時間的ずれは、
日本国民経済の非常なマイナスとな
つて、
政府が念願せられておりますところの民間の資本蓄積は、ここに枯渇して来ておるのであります。
従つてこの生産計画並びに産業政策を続けて参りますならば、
国民はデフレーシヨンとインフレーシヨンのはさみ撃ちにあ
つて苦悶しておるのが、今日の
現状であると申さねばなりません。そこで問題は、なぜドルの手持ちがこれだけ増加したのであろうか、同時に現在の産業界が非常に苦しんでおるということは、先ほど民主党の代表によ
つても述べられたように、あるいは数日来の論議によ
つて、金融政策の上において論ぜられましたように、民間に産業資金がないということ、
政府の財政的吸上げがきびしいということ、同時に
政府は財政資金として吸い上げては行くが、それが民間に返
つて来ないということ、私は先ほど
自由党の代表者によ
つて本
予算を非常にほめられた中に、私が賛成しているのが
一つあります。それは通貨の増発は恐れるに足らず、こうおつしや
つた。これは
自由党年来の主張です。私は通貨の増発は、決して
日本の
経済の将来にと
つて、恐るべきものではないということは、
自由党の代表と同じであります。ただ問題は、その増発されて行
つた通貨が巡回コースを円滑に通
つて、元の心臓に納ま
つて、もう一ぺん出て行くという巡回コースであるのであります。心臓から出て行く血液が、からだ全体をまわ
つて、元の心臓にもどる、このコースが金融機関に欠けておりますならば、それは
わが国の金融政策上一大欠陷であるといわねばなりません。しかるに民間から多くの財政資金を吸い上げて行
つて、見返り資金は千二百億活用しないままに眠
つておる。五億ドルの手持ちドルは、これまた何ら活用をしない。
わが国に大体産業資金として活用せられておらない資金は、先ほど民主党の代表が指摘されたインヴエントリー・フアイナンスその他の費目を合せて約四千億円、これが眠
つておるのであります。一体現内閣のとんちんかんな産業政策並びにこの常識上判断のできない四千億円の資金を、どうして眠らしておくのであろうかということが、民間の
一つのなぞであります。安本長官は目をむいて聞いておられるが、(笑声)あなた自身もよくお
考えにな
つて——私はあなたに反省の時間を與えるために、今
国会においてはあなたと論争しなか
つた。安定本部長官は、
大蔵大臣よりいくらか良心を持
つておるだろうと思うから、猶予期間を與えておる。このふしぎな財政政策をなぜと
つておるか、これは
経済学上あるいは実際の金融政策の上において、産業政策の上において、ふしぎな現象である、これは増田君もラジオ討論会ではいろいろつべこべ御
説明なさるが、私は聞くたびに、はなはだ苦しい
答弁だと、いつも御同情申し上げておるのでありますが、このふしぎな財政政策というものは、四千億円を遊ばしておいて、しかも民間には非常な金詰まりを来して、民間には貧血が起きておる。一体このふしぎな財政政策というものは、どこから来るのであろうかというなぞを解くために、いろいろ頭をしぼ
つた。そこで巷間
一つの説が飛んで来た。このふしぎな財政政策は、これをため込んで、将来独立後における再武装の費用に充てるのだということが一般に伝えられておるのであります。そこで私は……(「インフレをとめるのじやないか」と呼び、その他発言するものあり)まあ黙
つて聞けよ。インフレをとめるかどうかは、これからおれが話すのじやないか。そこで問題は、私はこの四千億で、はたして
政府が
考えておられると民間で流布されておる再武装ができるかどうか。かりにそういうことを
政府が
考えておるとすれば、私はその短見
にして幼稚なる
経済政策を笑わざるを得ません。なぜならば、
政府がかりに再武装をそのため込んだ金でするといたしましても、私は今日の再武装は、国際的に
物資の欠乏の今日においては、金だけではできないということを
政府の諸君はお
考えにならなければなりません。現にこのことができるならば、豊富な物量と
世界の半分近い金貨を持
つておる
アメリカでさえも、将来の万一に備えて、今日国際的に
物資の買いあさりをしておる。備蓄輸入をしておる。單に金だけで再軍備ができるとお
考えになるならば、私は今日における国際的な物の面における認識が下足であると申さなければなりません。これは私が申し上げれば、岡崎君は思い当る節があられると思うのでありますが、かりに金だけをも
つて、それで再武装の費用がまかなわれるといたしますならば、私が先ほど申しましたように、金だけではできないということが一点。物の裏づけがなくてはならぬということ。同時に金だけあれば、
外国から兵器を買い入れるのだというお
考えが、もし
政府当局にあるといたしますならば、それは
日本国にと
つて危險千万といわなければなりません。何となれば、
日本自身に必要なるところの兵器を
外国にのみ依頼するということは、結局兵器供給国の傭兵的存在とな
つて、
日本の独立と
自衛のために危險なことであるといわなければなりません。この巷間の流説がかりに事実といたしましたならば、私はその反省を促さざるを得ないのであります。それよりもこの四十億円の資金をもちまして、ただちに原材料を仕入れ、
日本の生産施設の補修、改善に充当されて、も
つて日本産業の基盤を拡大し、
国民生活の安定と国力を充実すべきである、こう私は思うのであります。これだけの産業資金を民間に出すということは、一見してインフレの激化になるというような懸念もあ
つたのでありますが……(発言する者あり)上林山君は大分神経戰にかか
つておられるようでありますが、先ほどあなた方の代表の
宮幡君が、通貨の増発恐るるに足らずと言うたじやないか。私はこの通貨の増発は恐るるに足らないが、これを有効に使うか使わないかによ
つてインフレーシヨンかデフレーシヨンになるのであ
つて、私は今
日本にため込んでおるところのこの千二百億円の見返り資金、インヴエントリー・フアイナンスを組みかえて、これを産業設備改善費に出しても、決して私はインフレーシヨンにならないと思う。なぜならば現在のインフレーシヨンの諸原因というものは、これは物の欠乏から来ているのであります。
日本の生産施設の縮小再生産過程と原材料の下足から来ておるのでありまして、物が下足して来る、生産基盤が縮小して来る、この
日本の貧血している中になお血液をしぼりとる、しかも貧弱な
経済でありますから、熱の低いのにかかわらずこれに向
つて解熱剤を與えて血をしぼり、マラソン競争をしろというふうな政策というものが、今日の
自由党の政策であるといわざるを得ません。私はこのゆえに現在の超均衡
予算というものは、必ずや近き将来破綻するということを、ここに警告申し上げざるを得ないのでありまして、現に先般来安定本部長官が、この
委員会において述べられたのは何であるかというと、物価は騰貴いたしませんしインフレーシヨンは大丈夫です。そんなに御心配になるほど物価は暴騰いたしませんとあなたが述べたその二日後において、安定本部の発表は将来物価の暴騰を警告して、これに対策をしなければならぬということをあなたの役所自身が発表している。このことを
考えてみますならば、の
予算案並びに財政政策というものは、私は近く破綻を免れないと思うのでありまして……(「心配するな」と呼ぶ者あり)心配するなということでありますが、特に私は
日本の将来のために憂えるのであります。これは現内閣の一大失敗であり、現内閣の
一つの弱点はその金融政策にあります。私は金融政策の問題はあとで述べることといたしまして、他の問題で一言触れておかなければならぬことは、先ほど
自由党の代表によ
つて、減税によ
つて国民生活は安定した。民主党の代表によ
つてその点を反駁されたのでありますが、私はここに数字をも
つてその御
意見に
お答えしておきたい。ということは、減税は実質的には数字をおはじきになればわかるのでありますが、三%であります。ところが庶民階級にとりまして、最も影響をこうむる主食の騰貴は九%でありまして、安定本部の報告によりまするならば、食糧は一二〇%、被服は一一六%、光熱費は一九〇%、住宅費は一五一%に暴騰すると言われておるのでありまして、これを
考えてみまするならば、私
どもはここに将来
物資の騰貴に備えて、
国民生活の安定をはからなければならぬのでありますが、それに向
つて何らの対策が講ぜられてない。特に朝鮮事変以来特需景気による超過利得者に対しまして、三百億円前後の増税を求めて、その増税によ
つて社会保障並びに失業救済費に充当してはどうかという提案をいたしたのでありまするが、
政府はこれに対して何らの
考慮を拂わないのであります。結局
政府が鬼の首でもと
つたように騒ぎ立てる減税というものは、この特殊利得者の課税を回避するための形式上の減税を行
つたというにすぎないのでありまして、これまた羊頭を掲げて狗肉を売るものといわざるを得ません。
最後に、現内閣の最も弱点であるといわれておる金融政策について私はその反省を促したいのでありますが、元来ここにおられる林副総理その他の古い党人は、私の申し上げることをよく御了解くださると思うのでありますが、政友会の昔から、この
自由党の特色というものは、生産復興に対する積極的政策をも
つてその党是として来たのであります。遠くは高橋財政しかり、近くは石橋財政によ
つて、インフレ恐るるに足らずと豪語したことは、世人なお耳に新たなるところであります。しかるに、主税官たる池田勇人君が
大蔵大臣に就任し、またドツジ氏が来朝するに及びまして、安定第一主義の名のもとに、
国民生活と生産の復興とを犠牲に供して、ひたすら通貨の安定のために、国をあげて奉仕して来たのであります。その結果は、生産基盤の縮小となり、
日本経済の基盤は弱体化して矮小化した。その
一つの証拠は、国際的激動期に際会いたしまするや、この重大なる影響を
日本経済が受けて来たのであります。これは岡崎官房長官のラジオ討論の材料になるかと思いますから申し上げておきますけれ
ども、
アメリカの物価が朝鮮事変以来今日まで、わずかに一七・八%の上昇であるにかかわらず、
わが国は安定本部の控え目な統計によりましても、四六%の暴騰に相な
つておるのであります。これは一体何を物語るか、
アメリカよりも、約倍、二倍半、三倍近くの影響を、国際
経済の上に受けるということは、
わが国の
経済の基盤というものが、それだけ弱体化しておるという、このあらしに耐えられない弱体性というものを、われわれはよく認識しなければならぬと思うのであります。このことは、私は銀行家の指導による金融政策が今日失敗したということは、大きな問題であろうと思います。なぜならば、
外国流の金融政策を
日本がそのままうのみ
にしたところに、この金融政策の過去二箇年の大きな失敗があるのであります。
外国の川において泳いだかつぱが、
日本へ来ておれは水泳の選手だからと言うて、あわてて
日本の川に飛び込んでみたけれ
ども、
アメリカの川と
日本の川とは事情を異
にして、ふちもあれば瀬もあ
つて、そこでふちに巻き込まれてあつぷあつぷと言うておるのが、今日の金融政策であるといたしますならば、この
世界的選手をも
つて任ずるかつぱが、川におぼれるというのはかつこうが惡いというので、いまだに方向転換できないというのが、今日の
予算案の欺瞞的な案として現われた
一つの証拠であるといわざるを得ないのでありまして、このことがもしも
外国の銀行だけに言い得るといたしますならば、私は
日本の
大蔵大臣に例をと
つてみますると、昨日中曽根君の
質問に対して、
日本の
大蔵大臣は何と
お答えに
なつたか、自分は無記名定期預金の廃止には反対である、けれ
ども向う様から言われたのであるからこれはいたし方がないのであ
つて、何がゆえにこれを廃止したかということは向う様へ行
つて聞いてくれ、自分は腹の中は反対であ
つたということは速記録に残
つております。私はこの
考え方が今日この自信のない
予算案の提出とな
つて現われて来たといわざるを得ません。もし
大蔵大臣が無記名定期預金の廃止、あるいは今のドツジ氏の指導する金融政策に向
つて反対であるならば、何がゆえに
大蔵大臣はその職を賭して反省を促さないか。私
どもは、自分は反対ではあるが、言われたからしかたがない、これ以上の
内容は向うへ行
つて聞いてくれというようなことを聞くに至りまして、その
大蔵大臣の良心と信念が奈辺にあるかを疑わざるを得ないのであります。しかも問題はこの
予算案を提出するにあたりまして、初めは追加
予算を出しませんと言い、その途中から遂にどろを吐いて、追加
予算はやむを得ませんと言うに至
つては、どこに
責任があるか。良心と信念を持
つて予算案を提出せられたかということを疑わざるを得ないのでありまして、個々に申し上げれば四、五時間かかりますから、私は礼儀を重んじて大まかな数字だけで反対の
意見を申し述べたのでありまして、これを要約いたしまするならば、
予算編成の基礎的條件がすでに崩壊し去
つたということ、しかもそれは
国際情勢の激変に備えて、金融産業政策がとんちんかんであるということ、同時に第三点においては、
大蔵大臣の自信なき——インヴエントリー・フアイナンスその他において自信なき、みずからの良心と信念によ
つて編成されたものではないというふうな諸点を指摘いたしまして、私はこの際
予算を返上し、この
予算案に向
つて反対するとともに、この自信のない、しかもおれは反対なのであるけれ
ども、向うから言われたからしかたがないというような、この無
責任なる
答弁をせられた
大蔵大臣は、良心と
政治家の信念に
従つてその職を去られんことをあわせて勧告いたしまして、討論を終ります。