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1951-02-02 第10回国会 衆議院 予算委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年二月二日(金曜日)     午前十一時二十一分開議  出席委員    委員長 小坂善太郎君    理事 有田 二郎君 理事 橘  直治君    理事 西村 久之君 理事 川崎 秀二君    理事 林  百郎君       青木 孝義君    麻生太賀吉君       尾崎 末吉君   小野瀬忠兵衞君       川端 佳夫君    北澤 直吉君       島村 一郎君    庄司 一郎君       玉置  實君    苫米地英俊君       松浦 東介君    南  好雄君       中曽根康弘君    平川 篤雄君       西村 榮一君    水谷長三郎君       小平  忠君    黒田 寿男君       天野 公義君    井手 光治君       角田 幸吉君    甲木  保君       久野 忠治君    坂田 道太君       鈴木 正文君    田中 啓一君       永井 英修君    中村  清君       井出一太郎君    今井  耕君       勝間田清一君    川島 金次君       砂間 一良君    横田甚太郎君       小林  進君  出席国務大臣         内閣総理大臣  吉田  茂君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君         農 林 大 臣 廣川 弘禪君         労 働 大 臣 保利  茂君  出席政府委員         内閣官房長官  岡崎 勝男君         大蔵事務官         (主計局長)  河野 一之君  委員外出席者         專  門  員 小林幾次郎君         專  門  員 園山 芳造君         專  門  員 小竹 豊治君     ————————————— 本日の会議に付した事件  昭和二十六年度一般会計予算  昭和二十六年度特別会計予算  昭和二十六年度政府関係機関予算     —————————————
  2. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 これより会議を開きます。  昨日に引続きまして質疑を続行いたします。西村榮一君。
  3. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は本日総理大臣に対しまして、現下国際情勢に対する認識についてまずお伺いし、第二点には、対日講和條約の條件について希望と、かつ総理大臣の御見解をただし、第三点においては、アメリカ極東政策、特に対日政策の過去五箇年の誤謬を指摘いたしまして、日本はこの国際動乱に際会いたしまして、一体何をなすべきかということの三点を中心といたしまとて、総理大臣の御見解をただしたいと思うのであります。  第一にお伺いいたしたいことは、先般来本会議並びに新聞紙上におきまして、総理大臣国際情勢に対する見通しにつきましてはしばしば拜聽いたしました。しかしながらこれは総理大臣の現在置かれた地位にもよりましようが、その断片的な国際情勢に対する総理大臣認識というものは、はなはだ隔靴掻痒の感があり、かつわれわれも首肯し得ないのでありまして、私は、現在の国際情勢というものは、総理大臣が楽観せられておるほど、楽観はいたしておらないのであります。同時に悲観もいたしておりません。すなおに、ありのままに国際情勢考えてみまするならば、今日の段階は、世人が言うように、第三次世界戰争がいつ始まるかということよりも、むしろ第三次世界戰争に対する進行過程にあるのではないか。すなわち一九四五年から一九四七年までを冷たい戰争と見、四七年以後今日までは暖かい戰争と見、この暖戰がさらに刻々に熱を加えつつあるのであります。この危険にして不幸なる歴史進行過程を逆行せしむることは、今日のあらゆる要素の必然的進行から見ると不可能であると思うのであります。従つて私は前段に申し上げましたように、すでに第三次戰争は始まつておるのである。むしろその段階に入つたという認識のもとに、一体日本はいかなる国家再建方策をとらざるを得ないか、特にこれが外交の面において、日本はいかなる対策をとらざるを得ないかという諸点につきまして、総理大臣の率直なる御見解を承りたいと思うのであります。
  4. 吉田茂

    吉田国務大臣 御質問の範囲が非常に広大無辺であつてお答えしにくいのでありますが、現在の事態が第三次戰争に入りつつある、あるいは移行する前提である、これはそうでもあるかもしれませんが、そうでないかもしれない。私の考えは必ずしも国際情勢に対して甘いとか辛いとか申すわけではなくて、率直に考えてみて、日本として最も恐るべきことは、神経戰に入り、いろいろなことがあつて、そのたびごと国民が不安な状態に置かれる、これが一番危険であり、また国民として用心しなければならぬ点であると思うのであります。ようやく国情の安定しつつある今日に、不安をかもすようないろいろな事態というか、流言飛語といいますか、あるいは輿論というか、議論が行われるということは、悲しむべきことである。国民国際情勢真相きわむることが、今日において神経戰を沈静せしむる唯一方法ではないか、こう私は考えて、なるべく国際事情真相について知らせたいと考えておりますが、何分今日においてはいろいろな制約を受けて、自由に外国事情等についてきわむる手段がはなはだ不完全であるために、真相を伝えることにおいてはなはだ遺憾に思うことがありますが、なるべく国際情勢なり客観情勢については、外務省をしてその得た情報もしくは研究の結果について、時々刻々発表せしめたいと考えております。
  5. 西村榮一

    西村(榮)委員 総理大臣神経戰をいろいろ御心配のようでありますが、私は日本国民はあまり神経戰にはかかりておらないと思うのでありまして、神経戰の生ずる間隙というものは、政府対策無為無策であり、同時に事の真相を告げない、真相を告げても一方的な見解を披瀝するところに、神経戰の危険があると思うのでありまして、この点についてあなたが統轄されておる外務省から発表される外交白書なんかは、これは最も外務省みずからが神経戰にかかつておるのでありまして、これは将来嚴重なあなたの統制力をもつてお取締りを願いたいと思うのでありますが、しかしそのことについては、私はこれ以上お伺いいたしません。しかしながら私がただいま申し上げました点の中に、なお具体的に申し上げてみますと、今日の中国共産党外交政策並びにその作戰計画というものを考えてみますと、中国共産党は明らかに第三次世界戰争必至と見て、その対策を立てておるものとこれは常識上判断せねばなりません。すなわち朝鮮介入一つの現われ、同時に私が仄聞する中国共産党の時間表によりますならば、六月には仏印の攻略を完了する。(「ノーノー」)夏から秋にかけてビルマに侵入する。次にはインドパキスタンに対して脅威を与えるということは、これは共産党諸君が今ノーノーと言われたが、共産党以外は大体すなおに考えればその時間表は適用されるのであります。同時に次にはインドパキスタンに対して脅威を与えるという対外政策並びに軍事的考慮から、国内的には中国共産党のとるところの工場地帶並びに政府機関というものは、将来万一に備えて北支東支並びに奥地に移転しつつある。こういうふうな情勢考えてみますならば、日本を取巻く国際情勢はきわめて険惡にして、かつまた危険なるものといわねばならぬと思うのであります。  そこでかかる情勢に際会いたしまして、日本独立中立と平和をいかに確保して行くかということが、現下日本の最大な課題でなければなりません。そこで私はこの国際情勢険惡の中に際会いたしまして、日本独立中立と平和とを、いかに守り通して行くかという点について、総理大臣の御構想を承りたいと思うのであります。
  6. 吉田茂

    吉田国務大臣 ただいまのお話を承つておると、西村君自身が相当神経戰の患者であるように感ずるわけでありますが、はたして中国の方針はそうであるかどうかということは、私はここにそうでないと申す資料もなければ、そうだと申す資料もございません。そこで日本安全保障はどうするかという結論になりますが、日本安全保障は、これを国内と国外にわけて考えてみて、国内治安警察組織において保護する。外界の侵入に対しては、これはいずれの国においても一国だけの力をもつて守るのではなくて、いわゆる今日は集団保障といいますか、コレクテイヴ・セキユリテイーで、アメリカのごとき国といえどもコレクテイヴ・セキユリテイーの線で守ろうといたしておるように考えられます。日本外界の危険がどういう方面から、どう来るか、いつ来るかということは、ここに予測もできないことでありますが、来るとして、その場合にどうするか、一国だけの力をもつて、たとえばソビエトの強大な兵力に対するということも、もしありとしたところが、これは解除の日本としてはできないことであり、従つていかなる形でもつてコレクテイヴ・セキユリテイーに入るかということは、後の問題であります。米英その他の国といえども集団的保障考えている今日、日本だけが独力をもつてささえるということは、むずかしいことであり、できないことであると思います。ゆえに集団保障の一環に入つて行くというよりほか方法はないと思います。しからばどうして入るか、それは独立して後の話であつて、まず独立を回復して、まず西村君も全面講和というJうなお考えをお捨てになつて独立を回復して、しかる後に、ゆつくとお考え願いたいと思います。
  7. 西村榮一

    西村(榮)委員 いろいろ言葉のやりとりは、時間の節約上やめておきましよう。そこで今総理大臣が明らかにされたのは、日本安全保障国連集団保障に求められるというような意味であつたのであります。私はこの際総理大臣に明らかにしておきたいと思うことは、今ソ連攻勢に対して、日本一国防衛は不可能だ、だから集団保障に求める、こう言われたのであります。そこで私はこの点を明らかにしておきたいことは、総理大臣は、万一ソ連が全面的な攻勢日本に展開する場合において、それは当然第三次世界戰争であります。この第三次世界戰争に際会いたしまして、国際連合安全保障を求めるというのでありますが、その国際連合日本防衛するだけの軍事的能力が今日現存しておるかどうかということについて、あなたの御見解はいかがでありますか。
  8. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は集団保障の力に求めると申したのであつて、必ずしも国連とは申したわけではありません。また国連がいかなる力を持つておるかというお尋ねでありますが、これに対しては私としての私見はありますけれども、この国会において公に言明することはよろしくないと思いますから、これに対してお答えは差控えます。
  9. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は率直に申しますと、国際連合世界侵略国に対してこれを防衛し、自由と平和のためには満腔の熱意を示しておられると思うのであります。しかしながら不幸にして第三世界戰争が突発したときに、その軍事的能力に対する限界も一応考えておかなければ、その外交政策あるいは国策というものが樹立できません。そこで国際的に集団保障を求めるとともに、私どもはかかる国際連合軍事能力限界考え、あるいは世界情勢というものを考えて参りますならば、日本はこの険惡なる国際情勢に際会して、いかにして独立と平和と中立とを堅持して行くかということが、これが大きな問題であります。従つてこれは宗教的感覚による平和念願や、あるいは平和を唱えるだけのから念仏では達成できないのでありまして、国民戰争の渦中に巻き込まれたくない、日本国憲法従つて国際紛争から中立を堅持し、その平和を維持したいという国民希望を、いかに具体化するかということが、現下の重要な問題であるといたしますならば、この点は明確にしておかなければならないと思うのであります。従つて問題は、日本国憲法に従い、あるいは国際法従つて日本には自衛権というものが存在するということを私は確信しておるのでありまして、総理大臣はこの点においては従来同意であつたのでありますが、なお一応日本には自衛権というものが確立存在しておるかどうか、自衛権が存在しておるということであれば、当然自衛能力というものが確立しなければならぬ。その法律で許された範囲内における自衛能力というものをいずこに求められるか、先ほどの御答弁によると、警察予備隊に求められておるようでありますが、ただ單にそれだけに依存されておるのかということをお聞きいたします。
  10. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えいたしますが、権利があれば必ず能力が伴うということは、少しく独断に過ぎはしないかと思います。権利があつても、その権利を行うだけの能力がない場合もある。だからそう簡單には申せません。日本自衛権があるなしにかかわらず、日本の安全が日本国民によつて守らるべきものであり、日本国民がそれだけの覚悟がなければ、日本のかち得た自由も守り通すことができないと思います。この点については少しも考えは違つておりません。
  11. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はやはりこの際、日本法律的に許された範囲内において、あるいは国際條約の上において許された範囲内において、自衛能力というものを確立すべきである。今総理大臣はその点あいまいにされたのでありますが、政治の最も大きな任務というものは、国民の生命、財産の信託を受けておるということであります。これを守る最善の努力をする。しかもその努力をしてなお足らざるところは、外国援助を受けなければならないが、初めから外国援助を受けるということで、日本安全保障を求めるということは、これは本末転倒をしておるのでありまして、私は言いにくいことであるけれども、かつて国民政府、あるいはその他の国の事例を見て、私どもはみずから守る意思と能力をここに集結しなければ、日本防衛は完成されない、こう考えておるのであります。そこで私は日本自衛力の問題につきまして、先般委員会においても総理大臣に申し上げたのでありますが、自衛力自衛権に基いて確立すべきである。しかしながらその自衛力というものは、第一には、封建的軍事国家再建になる軍隊構成は避けねばならぬ。民主的防衛組織をつくる。その意味において、今日の警察予備隊の性格と行き方については、反省せなければならないと思うのであります。第二点においては、日本自衛能力が海外に派遣されて、外国傭兵的役割をなしてはならぬ。第三点においては、日本自衛力確立のために新しい国民負担を増加してはならぬということ、すなわち自衛力確立のために必要なる費用は、現在の千数百億円の終戰処理費削減によつて、その財源を求めるというふうな諸條件の確認を求めて、私は真の民主的自衛能力確立すべきである、こう考えるのでありますが、総理大臣の御見解はいかがでありましようか。
  12. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は、日本独立なり安全は、みずから守るべきものであるけれども、自力だけでもつて集団的攻撃には当ることができないだろうということを申したのであつて、今お話のように警察予備隊は外に使うなというのですが、外国に持つて行かないということはその通りでありますし、その趣意であります。国内治安を推持するのが本務であります。ゆえに外国に出して兵隊のかわりに使うという考えは毛頭ありません。しからばこの安全を保障するために、あるいは自衛のために費す費用は現在以上に増すなとおつしやるけれども、これはお話と少し違うように考えます。できるだけの財力を傾けて、なおみずからの力でもつて自衛すべきものである。そのためには支出について今日あらかじめ制限をつけるということは、あなたのお話も少し違つておると思います。私としてはできるだけの財力を傾けても日本自衛権は守るべきものだと思います。
  13. 西村榮一

    西村(榮)委員 大体自衛力の点については総理大臣は御同感のようであつたが、経費の点については、将来費用が非常にふえるということを示唆されたのであります。これは重要なことであります。今日日本国民が千数百億円の占領費を支払つておるのでありますが、これはあなた御承知の通り国民にとつて非常な負担であります。しかもこの占領費昭和二十年九月二日における休戰條約によつて日本が負うべく義務づけられたものでありますから、やむを得ないのでありますが、今日占領軍が駐屯しておるということは、日本責任ではありません。連合国責任です。従つてマツカーサー元帥も言われたように、日本休戰條約を完全に履行しておる、いつでも講和ができる、しかしながら講和のできない諸條件外国側にあるのだということを明言されている。しからばその立場からいうと、占領軍費というものは、長引けば何らかの処置を講じてもらうということは当然ではないかと私は思います。特にその占領軍費は、一つ日本警備費だと考えますならば、将来日本自衛力のために生ずる財源支出も、これは日本警備費でありますから、性質は同じです。従つて私は日本自衛能力確立するためには、この占領軍費削減によつてその財源を求める。しこうして新しき日本自衛力確立のために国民に増税を求めないということは、自由党政策にしても私の意見と一致するだろうと思うのでありまして、今の総理大臣の御答弁は、これは日本の大きな問題でありまして、当然予算審議の大きな問題でありますから、御訂正を願いたい。しこうして私はあなたから求めたいと思うことは、日本自衛力確立費用は、占領軍費削減によつて求めるのだということの御答弁を伺えれば、政党政派を超越いたしまして、日本国民は喜ぶと思うのでありますが、この点ひとつお伺いしたい。
  14. 吉田茂

    吉田国務大臣 政党政派を超越してお答えいたしますが、占領終了後においてどうなるかということは、占領を終了した後において静かに党派を超越してともに考えたいと思います。
  15. 西村榮一

    西村(榮)委員 この問題についてのこんにやく問答はやめておきましよう。  次に私は総理大臣に別な観点から、あなたの專門の外交の問題について教えを受けたいのでありますが、それはしばしば問題になつおる講和会議に際会いたしまして、日本代表講和会議に列席する資格があるかどうかということの問題であります。それはイタリアの例にもございます。いろいろありまして、あるときには出席する権能がない、あるときには出席できるといろいろうわさされておりますが、この点はどうかということを総理大臣に伺いたい。私の考えるところは、敗戰国であつた日本代表が出席できるという條項はどこにもありません。同時に出席できないという條項もどこにもない。この問題をあなたは一体どうお考えになるか。出席できるとお考えになるか、出席できないというお考えであるか、一応承りたい。
  16. 吉田茂

    吉田国務大臣 御指摘の通りに、出席できるとも書いてなければ、出席できないとも書いてはない。そうしてまた従来の第一次世界戰爭あとにおいては、ドイツの全権は講和会議に招集されておりますから、多分できるだろうと思いますが、出席できるとここであなたとお約束いたしてもいたし方ないことであります。ただ希望と想像を述べるだけであります。
  17. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は法律的に出席できるとも、できないとも條約の上に書いておらないということあでりますならば、それは法律問題じやなしに、政治的感覚の問題であると思うのであります。従つて終戰以来六年経過いたしました今日の状態において、国際情勢は一変しておる。特に日本国代表を出席せしむるかどうかということは、連合国の諾否に一にかかつておるのでありますが、この問題は歴史の上において、連合国正義と修理をたつとぶ限界のテストになるのではないか。連合国が真に條理を重んじ、正義をたつとび、しこうして平和を愛好するという熱意がございますならば、当然その交渉相手国たる日本代表を出席せしめて、ここに無理のない條約を得心ずくで結ぼう。戰勝国の軍事的あるいは政治的な優位によつて無理な條件を押しつけるということよりも、そこにかつて戰爭相手国で、戰争中は憎惡と反感が燃えて戰つたけれども、一九四五年の九月二日、休戰條約が締結いたされました瞬間から、敵国と味方との区別は撤去いたしまして、次の講和会議世界の自由と平和を愛好する諸国民が、その自由と平和の世界的維持について平等なる観点に立つて人類的立場に立つて協議を開くのであるという、広い博愛のアメリカ伝統の精神にのつとつて考えてみまするならば、これは当然日本代表は平等の資格において招聘せられるものと私は考えるのでありますが、この点総理大臣見解をもう一度ただしておきたい。
  18. 吉田茂

    吉田国務大臣 ダレス氏も講和は、何という文字を使つておられたか覚えておりませんが、戰勝者と戰敗者との聞の條約ではないというような気持でもつて條約は締結されるのではないということをはつきり言つておられますから、多分西村君の言うような態度に連合国、少くともアメリカ政府は出るであろうと私は期待いたしております。しかしお約束はいたしません。
  19. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は、あなたはアメリカ総理大臣ではないのでありますから、約束を求めておるのではない。日本国民希望を申し述べて、あなたの奮起と努力を要請しているわけですから、その線に従つてひとつ馬力をかけてもらいたい、こう思います。  そこで私は時間もありませんから、次に講和條約の内容について総理大臣に御見解を承りたいのであります。アメリカの対日講和原則の中の領土の問題を取上げてみますと、琉球小笠原アメリカ信託統治に置く、台湾と澎湖島と南樺太千島とは、米、ソ、中国、英国の四箇国が将来決定するが、講和会議後一箇年以内に決定しないときには、国連総会でこれを決定するとされておるのでありますが、これは私ども日本国民にとつてふしぎにたえない見解であります。台湾の問題は私は当然解決されておると思いますが、琉球小笠原千島樺太は、明らかにこれは歴史的にいつて法律的に申しましても日本領土であります。この日本領土が、沖繩小笠原だけがアメリカ信託統治になり、南樺太千島だけがあとで解決をはかるということは、一体何を意味するものであろうか、私はふしぎにたえない。共産党諸君は、沖縄小笠原は返せと主張されますが、南樺太千島に対しては、ソ連領有を認められるごときほおかむりの発言をされている。この点は私は日本国民立場に立つて共産党領土の問題についての見解ははなはだ遺憾であります。しかしながら翻つてみて、アメリカの七原則の中における沖縄小笠原アメリカ信託統治にする、他は一年後において国連の決定にまかせるということは、結局これは帰するところ外交交渉は、アメリカ沖縄小笠原信託統治に置くということは、そのはねつ返りといたしまして、当然樺太千島とはソ連領有を承認せざるを得ない情勢が、平和のときにおいては必然的に発生して来るのではないかと思うのでありまして、これははなはだ遺憾千万だと考えておるのであります。自由党政策を見ましても、当然沖縄小笠原とは日本領土権を認めてもらいたいと主張されております。私は自由党とは政敵でありますけれども、この点においては自由党見解に敬意を表するものでありますが、自由党総裁として、あなたは一体いかなる御見解をお持ちになつておるか、この点を承つておきたいと思います。
  20. 吉田茂

    吉田国務大臣 外務大臣としてお答えをいたします。外務大臣としてあるいは日本政府として、いまだ講話條約の内容については最終的に明示されておりませんから、今日責任地位にある私が、あらかじめこれに対して私見を述べるということは差控えたいと思います。しかし御趣旨はよく承つておきます。
  21. 西村榮一

    西村(榮)委員 しからば私は外務大臣に対しまして、法律解釈をお伺いしたい。自由党総裁としてのあなたの御答弁はなかつた。総理大臣としての御答弁もなかつた。そこで私はこれから外務大臣としてのあなたに対して法律的な解釈をお伺いしたい。と申しますことは、日本領土を決定するものは、これは申し上げるまでもなく、ポツダム宣言カイロ宣言との二つであります。カイロ宣言日本から取上げる領土を大体において規定しております。ポツダム宣言は八千三百万の日本国民の生存の領土を規定されておるのでありまして、ポツダム宣言によりまするならば、日本の四つの島とそれに付随するもろもろの島は、われらが決定する、こういうのでありますが、このわれらの決定の中には、一体日本が入つておるのかどうかということは、はなはだ疑問でありまして、私はわれらというのですから、たしか日本も入れてくれるものと考えてはおるのであります。従つてわれらの決定ということは、これは講和会議において決定されるものであるから、日本も当然入れてもらいたいと考えておるのであります。そこでカイロ宣言は、日本からとる領土——朝鮮を独立せしめ、台湾中国に返すということを規定し、ポツダム宣言は、民族生存の土地を四つの島と小さい島々においてこれを与えると決定されておるのでありますが、その間に未決定なものはどこにあるかというと、沖繩小笠原千島並びに南樺太はこの両宣言においては未決定であります。そこでこの未決定の領上を決定する基準をどこに求めるかと申しまするならば、カイロ宣言にはかようなことが明記されております。それは一九一四年の第一次世界戰争の開始以後において、日本国が奪取し、または占領した太平洋における一切の島々を日本国より剥奪する。次にその他の日本国が暴力と貧欲により略取した他の一切の地域より驅逐せらるべしと書いてあるのであります。従つてここに解決しなければならないことは、沖繩小笠原千島南樺太は、日本が貧欲と暴力とをもつて奪取した領土であるやいなや、この点であります。私はこの四つの島は、歴史的に日本領土であり、日本人の祖先以来居住の地であつて、決して貧欲や暴力でもつて奪取した領土ではないと確信しておるのであります。これらカイロ宣言ポツダム宣言、大西洋連合国憲章並びにその他の従来の国際條約の慣例に従つて、この四つの問題は、法律上未解決になつておるのでありますが、外務大臣として法律解釈を一体どうお考えになるか、お伺いしたいと思います。
  22. 吉田茂

    吉田国務大臣 法律解釈は私ははなはだ不得手なところでありますから、かりに明確な御答弁をいたしても、あなたの満足はいかないであろうと思いますし、のみならずこれは講和條約としての将来の内容をなすものでありますから、私としてはお答えができません。
  23. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 西村君に申し上げます。さつきも申したように、総理大臣は渉外関係で十二時正確にこちらを出られなければなりませんから、あとは午後に讓つていただきたいと思います。——では午前中はこの程度にいたしまして、午後は二時より再開いたします。  これにて暫時休憩いたします。     午後零時一分休憩      ————◇—————     午後二時四十九分開議
  24. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  質議を続行いたします。西村榮一君。
  25. 西村榮一

    西村(榮)委員 午前に引続きまして総理大臣に質問いたします。午前中とは観点をかえます。せつかく総理大臣答弁と私の質問とが呼吸が合つて、これから本格的な論争に入ろうとしたときに、小坂委員長が水を入れられたので、論旨をかえざるを得ないのですが、特に重要な問題は、本日の正午において、ダレス特使が講和の性格——日本安全保障の用意があり、経済的向上の保障等を中心として、その意見を述べられたのであります。これに対しまして、問題は、ダレス氏の見解を申し述べられて、あと日本政府並びに日本人民の選択にまかせると言われておるのでありまして、この日本国民が選択しなければならぬ事項について、二、三総理大臣の御見解を承りたいのであります。  第一点において、ダレス氏の講演の中に、われわれは戰争のためではなく、平和のための建設を実際に行つている。第二は、日本政府並びに人民は、共産主義の間接的侵略に対して、確固たる障壁を設ける義務がある。第三においては、日本が間接の侵略に対し、自己防衛をするならば、直接の侵略に対しては、米国は国連憲章の認める地域的集団安全保障の措置に日本を参加せしめる。次にダレス氏は、しかしこれは強制ではなく、日本自身が選択すべきであると、こう述べられておるのであります。従つて平和に対する努力、共産主義の間接的侵略に対する障壁を設ける義務並びに日本の自己防衛に対して、日本がいかなる対策をとるか、これはダレス氏は強制するのではなくして、日本自身の選択にまかせる、こう明示せられておるのでありますが、この問題について総理大臣はいかなる選択の方法を選ばれようとしておるか、これをひとつ承りたい。
  26. 吉田茂

    吉田国務大臣 私としてダレス氏のお話の筋はまことにけつこうな話であり、われわれにとつていい福音であると思います。しかしながらそれに対して、一々こう、あるということは、私としてお答えをすることは避けたいと思います。
  27. 西村榮一

    西村(榮)委員 このダレス氏の発表を見て、日本がこの険惡なる国際情勢に際していかなる方向を選ぶか、特に政府並びに国会がいかなる方向を選ぶかということは、国民が重大な関心を持つておるのであります。特に国民の憂慮禁じ得ざるところは、現下窮迫せる国民生活もさることながら、将来の生命、財産と国土の防衛に対して、いかなる対策を持つかということは、これは寸時もゆるがせにすることのできないほど重大な関心を持つておることである。従つてこの機会に、政府はこれに呼応するの態勢をとつて、どうするのかということを国民に明示する義務が、私は政府当局にあるのではないか、同時にそれは国会にも存在するのではないかということを考えまして、重ねて総理大臣のそれに対する明確なる御答弁がなくとも、大体の方向だけでも、国民にこの際お示しになる義務があると思うのでありますが、いかがでございましようか。
  28. 吉田茂

    吉田国務大臣 ダレス氏の話について、主張とか、あるいはこれに対し意見を述べるわけではありませんが、御質問のようなことはすでに施政の方針にも述べております。日本としては、みずから防衛する力を持たなければならぬ、防衛すべきであり、しかして防衛するためには、警察予備隊国内治安については特別警察組織をもつてする、そうして外部の侵略等については、侵略が起つた場合に善処するということは、施政の方針にも申しております。
  29. 西村榮一

    西村(榮)委員 私がけさほどお尋ねした中に、日本自衛権が存在する。しからば自衛能力を持つべきである。しかしながら、当然それには財政負担が伴うのであるから、ここにダレス氏が示された日本自衛力確立いかんということは、これは日本人自身が選択すべきである、こう明示されてダレス氏自身も自衛力の問題については、これは承認せられておるのであります。残る問題は、自衛力確立するとするならば、その財政上の処理であります。私は自衛力確立について、けさほども申したのでありますが、それは財政上の処置として、これ以上国民負担をかけてはならぬ。従つて自衛力確立に対する諸費用というものは、占領軍費千数百億円の削減によつて求むべしと私は確信しておるのであります。もしもかりに自衛力確立の方向に進むとするならば、その点において、ダレス氏と総理大臣お話合いになつたかどうか。同時に、私の希望から申しますると、日本現下の財政と、国民の担税能力からいつて、ぜひそうしてもらいたい、こう思うのでありますが、総理大臣の御見解はいかがですか。
  30. 吉田茂

    吉田国務大臣 私がダレス氏とどういう話をいたしたかということは、ここで発表する自由を持ちません。それからまたお話のような問題は、独立した後に、真に日本の安全を脅されたときに善処するという以上に、今日は言える問題ではないと思います。
  31. 西村榮一

    西村(榮)委員 しからば次にお伺いしておきたいと思うことは、ダレス氏のお話の中に、日米両国連合の証左として、米国軍隊を日本とその周辺に保持することを考慮する、こういうのでありますが、これは昨年秋以来、何か軍事協定の話が進んでいるというようなことをしばしば外電が報じておつたのであります。そこで問題は、講和成立後といえども日本に対して、アメリカが、あるいは特定国家日本国内に駐屯するか、日本の周辺に駐屯するかということについて何かお話合いがありましたか。
  32. 吉田茂

    吉田国務大臣 かかることは、かりにあつたとしたところが述べる自由はないのであり、また言うべきものでないと思う。
  33. 西村榮一

    西村(榮)委員 これは総理大臣答弁とも覚えません。国会議員が国家の運命に関する重大な問題を質問しているときに、国会に対して述ぶる理由はないということは、一体どこに基くか。内閣が諸條約を締結する権限は、日本国憲法第七十三條第三号において認められておるのであります。その條約を取結ぶときには、事前または事後に国会の承認を受くるべしとあるのでありまして、国会がそれを質問しているのに対して、言うべき筋合いのものでないということは、一体いかなる意味ですか。
  34. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはあなたの質問とも覚えません。私は理由がないとは言わない。自由がないのです。人との間の話を、ダレス氏とどういう話をしたか、一々私は国会において言うべき自由は持つておらない、こう申すのであります。
  35. 西村榮一

    西村(榮)委員 そうすると、それはこういうふうに解釈していいのですか。国会に報告すべき義務はないということではなしに、今はその話のいきさつをここに御報告する段階に達していない、こういうふうにわれわれは解釈していいですか。
  36. 吉田茂

    吉田国務大臣 その通りです。
  37. 西村榮一

    西村(榮)委員 大体わかりました。そうすると両国の間において、大体において今公表する段階には達していないが、しかしダレス氏が述べられた日米両国連合の証左として、米国軍隊を日本とその周辺に保持することを考慮するというふうな話合いがあつたと、その含みとして解釈してよろしいか。しかしこれは報告する段階ではない、こういうことに解釈してよろしいか。
  38. 吉田茂

    吉田国務大臣 解釈はあなたの御自由です。
  39. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はそこでお伺いしたいのでありますが、この講和会議が開かれるといたしまするならば、先ほど申しましたように、憲法第七十三條第三号に従つて、内閣は條約締結権があるが、しかしそれは事前または事後において国会の承認を受けなければならぬ、こういうことに相なつておるのでありますが、内閣はその條約の草案ができたときに、事前において、これの国会の承認を受くるという手続をとられるかどうか。憲法の建前から行くならば、そのことは当然だと思うのでありますが、念のためにお尋ねいたしておきます。
  40. 吉田茂

    吉田国務大臣 政府は憲法の規定によつて行動いたします。
  41. 西村榮一

    西村(榮)委員 しからば、なお一点お伺いしたいのでありますが、その條約の内容が、日本国憲法と相矛盾し、抵触するの事態が起きたときにおいては、一体その條約の草案に従つて、憲法改正を事前に行つて、締結せられるのであるか、あるいは條約を締結した後において、憲法改正の手続をとられるのか、あるいはまたその條約それ自身が日本国憲法と抵触するという場合においては、その條約を拒否されるかどうか、この三点をお伺いしたい。
  42. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の想像では、憲法に反するような條約を結ぶことを要求せられることはないと思います。しかしながら仮定の場合についてはお答えしない。
  43. 西村榮一

    西村(榮)委員 そうまあ総理大臣も興奮なさらずに、これは国会の討論でありますから、まあひとつお互いに打解けて日本人同士としてお話をしようと思います。そこで私はまあ大体において、その点については総理大臣お答えにくいだろうと思いますし、またあんまり年寄りを興奮させてボイコツトでもされると困りますので、これはそこそこにいたしておきたいと思うのでありますが、しかし問題になる点は、自衛力の問題であります。これはまた総理大臣が興奮するといけませんから、簡單に申しますが、たとえて申しますると、こういう点がございます。これは私が言うのじやないから、興奮しないで聞いていただきたい。アメリカの極東問題の專門家であるウオルター・リツプマン氏はこう書いています。独立の精神は、あらゆる形式の軍事的占領に反抗する。独立の精神こそ、われわれの最良の、かつ最強の武器である。アメリカが極東においてこの点を考慮しなかつたために孤立化し、中国問題に失敗し、ひいては朝鮮動乱においてソ連の巧妙なる政策のわなに陷つて、アジアの諸民族をしてアメリカの目的及び政策について疑惑を深めつつある、と述べておられるのであります。これは私の意見ではない。ウオルター・リツプマン氏の意見である。そこで私は総理大臣にお伺いしたいのでありますが、あなたは日本自衛力の問題については、私と同意見なることを承認せられた。しかしながらその問題を日本独立と、真実の国土防衛の信念なくして、今日の警察予備隊防衛の安全が期せられると考えられるならば、それはきわめて甘い考え方であります。單に人数や兵器だけでは、国土は防衛されません。燃ゆるがごとき祖国の愛国心と自国の領土を守るというこの独立心がなくして防衛力の完璧は期し得られません。しかりといたしまするならば、私どもはここにおいて、一体完全独立とは何か。このことを考えてみまするならば、沖縄小笠原は返還しない、講和條約成立後における保障占領と申しまするか、何らかの形において外国軍隊が駐屯する、これがはたして完全独立の形態であると言い得るかどうか。私はかくのごとき事態において、日本警察予備隊に真に祖国を防衛するという精神的気魂が一体どこから生れて来るか。私は率直なる総理大臣の御見解を承りたい思うことは、この点でありまして、沖繩信託統治の名において領有しよう、小笠原領有しよう、講和会議の後において、外国の軍隊が駐屯しよう、これが独立国家であるかどうかということは、はなはだ私疑問とせざるを得ない。従つてかかる状態において、真実に祖国防衛の信念が日本国民の中に生れて来るかどうか。あなたは国民の信念によつて国民の自発的意思によつて防衛したいと言われておるが、新聞だけを見ても、このことにおいて一体それがはたして可能であるかどうか、私は信念として総理大臣の御見解を承りたい。
  44. 吉田茂

    吉田国務大臣 警察予備隊は着々御希望のような精神において生れつつあります。この点は御安心を願いたい。しかし、沖繩その他の問題はいまだ條約の内容としても明示されておりませんから、お答えいたしません。
  45. 西村榮一

    西村(榮)委員 明示されていないというのでありますが、ダレス氏の講演の中にもあるが、同時に七原則の中にもある。これを一体どういうふうな方法においてアメリカの対日講和條約について反省を促されるか、そうして日本国民の念願たる領土の問題をどう貫徹されるか、特に自由党諸君は、賢明にも社会党より遅れるごと半年でありまするけれども沖繩千島の問題は、日本領土なりと主張される、あなたはその総裁である。自己の政党の決定した事項をどう貫徹して行くか、この点を承りたい。
  46. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の話は前と同じであります。いまだ公然日本政府としては交渉しておらないからお答えはしない。
  47. 西村榮一

    西村(榮)委員 だんだんあなたは興奮するからちよつと困るのですが、私はそのことを公式に受けてなくとも——公式に受けるということは、今のアメリカ日本との状態において、これは別な形態になつておる。新聞に発表し、ダレス氏が公式にそれを公表されたならば、日本政府の首班として、かつまた政治家として、それが大体どの見当においてなされておるか。しからばこれを一体日本国民の感情あるいは日本国の利害関係から、その反省をどう促して行くか。公式に受ける受けないの問題じやありません。現に新聞に出ている。公式に声明している。あなた自身にそういう交渉があつたかないかということじやない。日本国民全体がそれを受取つておる。あなたのところの政党自身もそれになつておる。だからそれをどう処理しようかという御信念のほどを私は承つておるのです。
  48. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは日本政府としては——あなたはすべて新聞によられるが、私はまだ公式の公文としてもらつておりません。つまり公式の交渉として受取つておりませんから、これに対していかなる考えがあつても、この席上において自分はこういうふうにこれから処置するとか、ああいうふうに処置するとか、将来に起る交渉に対してこういうふうな戰術で行くというようなことは、あらかじめ申すわけに行かない。これは当局者として言うべからざることであるからお答えしない。
  49. 西村榮一

    西村(榮)委員 よろしゆうございます。私は総理大臣の、あなたの愛国心に訴えて、この問題は公表はできないが、日本国民のためにがんばつてくれるだろう、かつ自由党の総裁として党議を尊重せられるのであろう、こういうことに解釈いたしまして、この質問は打切ります。  次に私はあなたに技術的な問題について承つておきたいことは、次の講和條約の締結に対して、領土の決定に際会いたしまして、わが国はヤルタ協定の法律的拘束を受くるかいなや、この点一応承つておきたい。
  50. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはまた講和條約の内容に将来関係することでありますから、お答えいたしません。
  51. 西村榮一

    西村(榮)委員 総理大臣の御答弁としては少し見当違いです。ということは、わが国はヤルタ協定の存在は存じておりません。終戰條約、降伏文書の法律基礎は、カイロ並びにポツダム宣言に基いて終戰條約というものは成立した。当時われわれはヤルタ協定なるものの存在は存じません。かつまた日本政府並びに国会に対してヤルタ協定の存在は公式に通告を受けておりません。これは明らかに戰勝国の領土上のやみ取引であります。(発言する者あり)うしろの自由党諸君はやみ取引でないというふうに、ひやかし半分で言われているのでありますが……(「共産党だ」と呼ぶ者あり、笑声)共産党か、いや取消しましよう。共産党諸君の言うことだつたら、それは無理はないと思う。それはあたりまえなんだ。(「言いかけたんだ」と呼ぶ者あり)そうですか、それはまあ反省したのだろう。日本人として。
  52. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 私語を禁じます。
  53. 西村榮一

    西村(榮)委員 そこで私は、これを明らかに国際間のやみ取引でありまして、終戰條約の中に日本はこのことを存じません。今日まで公式にわれわれは通告を受けておりません。しからば一体日本国民が終戰條約当時に知らなかつたこの協定が、はたして法律日本講和会議において拘束を受けなければならぬか。政治的の影響力は、これは別です。法律上受けなければならぬかどうかということを、外務大臣として吉田茂先生にお伺いしたい。
  54. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたします。もし連合国の間のやみ取引であるならば、私としてはこれに対して言をさしはさむ自由を持つておりません。
  55. 西村榮一

    西村(榮)委員 さしはさむ自由を持つていないということであるならば、これは法律上拘束を受けないということに解釈したいと思いますが、いかがでしようか。
  56. 吉田茂

    吉田国務大臣 解釈は御自由であります。
  57. 西村榮一

    西村(榮)委員 しからばここに盛られておる領土の問題は、当然日本国民法律上の拘束を受けない、私はこう解釈しておるのですが、総理大臣はいかがでしようか。
  58. 吉田茂

    吉田国務大臣 解釈は御自由であります。
  59. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は次の講和会議についていろいろ総理大臣にお伺いしたこともありますが、今日の事情において御答弁のしにくい点もあろうかと思います。そこで遠慮をいたしまして、最後の問題として、私は総理大臣にお伺いしたいのでありますが、日本国民は自由と世界の平和のために貢献することに協力することは、決して惜しむものではありません。それに対して日本自身がまた平和と自由を阻害するところの従来の行為につきましては反省せねばならぬと思います。しかしながら今日戰勝国の間において、はたして世にいわれておる平和と自由と国際正義の観念が確立しておるかいなやということは、私は多大に疑問とするところであります。一、二の例をあげまするならば、終戰後日本国民が生きる道として平和産業、特に繊維工業に力を注いで、その国際的進出に成功するや、自分の国の利益のためにこれを抑圧しようとする国があつたということはあなたは御存じのはずである。第二点においては、東南アジアの市場において日本製品が進出するや、これまた抑圧せんとする国があつたということもあなたは御存じだ、同時に日本国氏がその伝統的能力従つて、海運国として復活しようとするや、その十分の一の低廉なる日本海運の船員によつて運航せられる海運業の進出を阻止しようとする国があつたということは、これまたあなたが御存じの通りであります。私はここにおいて共産党沖縄小笠原を返せと主張するが、千島樺太のソビエトの領有を認めんとすることは、まことに笑止といわなければならぬとともに、対日講和の七原則に基いて琉球小笠原アメリカ信託統治の名によつてこれを処理しようというところにおいても、私どもはこれを承認しがたい多くの問題があるのであります。私はこれを考えてみまするならば、今回の戰争は明らかに大西洋憲章においても、これは領土の拡張を要求しない、利益を求める戰爭ではない、西洋諸国の正義、人道と、自由と平和のための戰いであるというこの観点から立ちまするならば、今日の戰勝国がとりつつある領土の処理の仕方、あるいは日本の経済進出に対する政治的圧力を加えんとする態度に対しまして、はなはだ不愉快、不可解なるものが存在するのであります。そこで私はダレス氏のこの声明において見られるアメリカの大体の方針、これを察知いたしまするときに、まずわれわれが考えなければならぬことは、戰勝国並びに西ヨーロッパ諸国がみずから自由を尊重し、国家独立を尊重し、平等なる人種的平和を尊重するという正義、人道を、まず対日講和の諸條約のもとにおいて、立証されることが先決問題ではないかと思うのであります。私どもはその観点に立つて、次の講和会議敗戰国と戰勝国との区別を撤廃した上に立つ、平等感の上に立つて世界の自由と平和のために協力するということであるならば、これまた私どもは自由と平和のために協力することについては何ら協力を惜しむものではありませす。そこで私は、かような点を考えてみまするならば、総理大臣に対しまして、くどいようでありまするけれども、この條約上日本領土だと承認せられておる沖縄千島、あるいは小笠原南樺太、同時に日本の商業権の問題、同時に完全独立の問題について、なお一層の御検討を願いたいのでありますが、その点に対して総理大臣の自信のほどがおありかどうかということを承りたい。
  60. 吉田茂

    吉田国務大臣 先ほども申す通り講和條約の内容に関するものについては、あらかじめ外務大臣としてお答えすることができません。また西村君にお願いいたしますが、できないような問題をもつて年寄りをおいじめにならないようにお願いいたします。
  61. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はその点につきまして、わかつたようなことをくどくどしく申し上げたのでありまして、大体その真意が御了解が行くことと思つて総理大臣は御努力くださるものと解釈いたしまして、最後に私は日本が一体世界政策の上においてどうしなければならないかということについて、簡單に、与えられた時間だけで結論を結びまして、質問を終りたいと思うのであります。と申しますることは、日本の将来の国策を決定する上において、何と申しましても重大な影響を持つものはアメリカ極東政策であります。しかるに終戰以来五箇年間のアメリカ極東政策考えてみますると、多くの矛盾と欠陷を包蔵しておるということは、これは否定し得ません。私はアメリカが西欧諸国の十六世紀ないし十七世紀以来伝統的にとつて来た掠奪的植民地政策というふうなことを用いずして、平和の友好関係を結んで、西欧諸国に比してアメリカがアジアの民主化、近代化あるいは生活水準の引上げについて努力されたことにつきましては、実に感謝にたえないのであります。しかしながらここに問題になるのは、不幸にしてアメリカ人はアジア人の心理を十分に理解していなかつたところに、これは善意から来るとしても、結果は非常に惡い結果を生んでおるということを、現実の日本状態、アジアの状態において否定し得べくもありません。その問題の一つ、二つの例を拾つてみますると、第一に民主化の問題でありますが、民主化を機械的に押しつけた結果が、アジアの風俗、習慣、伝統を無視したことによつて、そのアメリカがねらつた民主化というものは逆な結果を来して、一つの混乱が生じております。第二は、アジアの勤労者層とアメリカが結合するよりも、むしろ反動的な政治要素と結合したことにおいて、今日の共産党の台頭の余地を与えたということは、これは否定し得ません。第三に、領土的野心は比較的アメリカにはなかつた、しかしながらその経済政策を見まするならば、これは自国の資本の利益を中心としておつたがゆえに、世に資本による侵略との誤解を与えたということは、これは私は否定し得ないと思うのであります。第四点において重要なことは、アメリカ極東政策の中においては西欧第一主義の政策をとつて、アジアを第二義的に取扱つて来たのであります。しかしながらヨーロッパ文明をささえておる豊庫は、牧場はアジアでありまして、ソ連アメリカのこの世界政策の逆を行つて、アジアを押えることによつて、ヨーロッパの牧場を、根を絶とう、根のない草にしようとして、アメリカと逆にアジアの侵略に対して着々として準備を整えて来たことが、今日明らかな現実の政治であります。私はこの四つのアメリカ極東政策の欠点の上に立つてアメリカ希望することは、第一にはアジアの民族主義を尊重する態勢をとつてもらいたいということ。第二点には、西欧第一主義からアジアを軽視するというこの態勢を改めて、東西両洋を尊重するという態勢をとつてもらいたい。第三点においては、アジアの伝統的文明と道徳的、感情や、固有の社会組織を十分に考慮して、機械的民主主義を導入するというふうなことは避けて、民主主義とアジアの民族主義との結合における効果ある政策をとつてもらいたい。これを私はアメリカ極東政策の上において求めたいのでありまして、このことは、私は総理大臣に申し上げるということよりも、総理大臣を通じて、あなたは最もよきアメリカの友人であられるそうでありますから、あなたを通じてこの卒直なるわれわれの意見をアメリカにお伝えを願いたい。  同時に最後にお聞きしておきたいと思いますることは、当然講和会議が成立いたしまするならば、終戰條約によつて決定せられたる占領軍費はその瞬間に私は帳消しにせられることと思うのでありますが、その占領軍費講和條約とともにわれわれは義務を免除せられるものであるかどうか、最後にこの点をお伺いいたしまして、私の質問を終りたいと思います。
  62. 吉田茂

    吉田国務大臣 御希望のところは、機会がありましたらとくと伝えますが、最後の点については、私はお答えをすることを差控えます。
  63. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 この際林百郎君より関連質問を求められております。一点に限つて許可をいたします。林百郎君。
  64. 林百郎

    ○林(百)委員 西村君の質問に対する総理の答弁について、私は関連の質問をしたいと思うのであります。吉田総理は社会党の西村君の質問に対して、かりにソビエトが日本に侵入するということを考えた場合に、日本安全保障は集団的になされなければならない。すなわちアメリカの助けを借りなければならないというようなことを答弁されているのである。これに対しまして一九五〇年二月十四日の中ソ同盟條約によりますると、日本の国または直接もしくは間接に日本の国と侵略行為について連合する他の国の侵略は繰返されてはならない、このために中ソは同盟をする。また中ソ両国は世界大戰の同盟諸国と共同して、日本国との平和條約を可能な最短期間のうちに締結するために、相互の合意のもとに努力するということを明らかに言つておるのであります。これによつてすでに中ソ両国の日本に対する講和の態度は明瞭であります。これにもかかわらず、一国の総理大臣として、しかも外務大臣として、連合国の一国を仮想敵として考えて国会において言明をなさることは、ゆゆしい問題だと思います。これはすみやかに総理としては取消すべき言葉と思いますから、取消していただきたいと思います。実は総理のこの片言隻句の中に総理の本心が現われておるのではないかと思うのでありまして、この点あと二、三この問題に関連してお聞きしておきたい点があるのであります。先ほど西村君の質問の中にもありました通りに、実は西村君は中共は六月にビルマに侵入する計画があるというようなことを言われたと思いますが……(「仏印だ」と呼ぶ者あり)仏印ですか。本人が認めているから間違いない。近ごろ再軍備論者が盛んに共産軍の侵入を口実にして、この自衛のためと称して再備軍を企てておるのであります。ところが一体日本の国に侵入する危險のあるものはどこかということについて、総理にじつくり考えていただきたいと思うのでありますが、これは私の意見ではない、伍修権が国連において声明していることを簡單に総理にお話しておきたい。これによつて一体アジアの諸民族はどこの国から侵略されそうだということを真劍に考えておるかということを参考に考えていただきたい。伍修権はこう言つておる。日本の独占支配を企てており、日本民族を奴隷化しさらに日本を侵略戰爭の基地、アメリカの植民地に転落させようとしている、米国政府のこのような対日政策は、日本人民の利益のみならず、中国人民、朝鮮その他アジアの諸民族の共通の利益に損害を与えるものである。朝鮮、台湾侵略用の参謀本部は日本に置かれているのであるということを言つておる。むしろアジア諸民族に対して、侵略の危劍のあるのは中国、ソ同盟ではなくてアメリカであるということを、はつきりアジアの諸民族は考えていることを、首相はもう一度想起していただきたいと思うのであります。  そこで第三の問題としましては、ポツダム宣言の第六項には、「われらは無責任なる軍国主義が世界より駆逐せらるるに至るまでは、平和、安全及び正義の新秩序が生じ得ざることを主張する」ということがある。これを根拠にして、講和締結後も米国軍の軍事占領と、日本の国の集団自衛の根拠とされておるのでありますが、この「無責任なる軍国主義」というのは、明らかにソ同盟も入つた連合国が、ナチスのドイツと東條軍閥の日本に対してなされたポツダム宣言でありますから、これは社会主義国あるいは共産主義国は、この範疇には入らないことは明らかであります。従つてこれを口実にして、アメリカ軍の講和締結後の軍事占領とか、あるいは国連憲章第五十一條による集団的自衛の根拠にはならないと思いますが、このポツダム宣言の第六項に書いてある「無責任なる軍国主義」ということの中に、共産主義国あるいは社会主義国をも含むと考えるかどうか、首相の考えを聞きたいと思うのであります。従つて……。
  65. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 林君。一点だけに限つて許したわけですが……。
  66. 林百郎

    ○林(百)委員 これが最後です。従つてこれを根拠にして、太平洋防衛同盟だとか、あるいは日米防衛協定だとか、あるいは国連警察軍への参加とか、こういうことは許さるべきものではないというように考えておりますが、これに対して総理の答弁を求めます。
  67. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は西村君にお答えをした文句をはつきり覚えませんが、しかしながらそれはもしそういう場合にはという、もしの場合であつて、必ず共産主義国が日本征伐に来ると申したわけではないのであります。また日本に、アメリカ軍の日本及びアジア民族征伐の参謀本部があるというようなお話でありますが、そういうものはありません。またポツダム宣言の何とかいうところはどう考えるかということは、これはどうぞ連合国にお聞き願いたい。
  68. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 砂間一良君。
  69. 砂間一良

    ○砂間委員 吉田総理大臣にお尋ねいたします。講和條約が締結されましたら、占領軍は撤退するのですか、しないのですか。
  70. 吉田茂

    吉田国務大臣 まだその点については話合つておりません。また公式の交渉も受けておりません。
  71. 砂間一良

    ○砂間委員 話合つておるとかおらぬとかいうことでなくて、また交渉を受けておる受けておらないでなくて、占領軍日本に駐屯しておるということは、講和條約ができないで占領されているからいるのでしよう。講和條約が成立すれば、占領軍日本に駐屯する根拠はなくなると思うのですが、その点について総理大臣はどういうように考えておられるのですか。
  72. 吉田茂

    吉田国務大臣 講和條約ができた場合に、今のような問題が起りましたときには研究いたします。
  73. 砂間一良

    ○砂間委員 それは研究することではないと思うのです。わかりきつたことだと思うのです。そういう言葉の裏には、講和條約後もアメリカの軍隊が日本に駐屯するといふ含みを持つておるから、そういうように言われると思う。  それではその次にお尋ねしますが、講和條約成立後は、日本防衛に対してどう考えておるかという先ほどの西村君の質問に対しまして、対内的には今の警察で十分やつて行ける、対外的には集団保障によるということを申されました。その集団保障ということはどういう内容を持つておるのですか。
  74. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは侵入を受けた場合の相手方の力にもよるわけであつて日本の力だけで及ばない場合には、集団保障等の方法によるほかしかたがないと申すので、集団保障がどうだああだということは、今のところお答えができない。現在問題になつておらないから……。
  75. 砂間一良

    ○砂間委員 講和條約ができて、そして占領軍が撤退する。まだその集団保障もできないという間隙を、どうやつて防衛して行くつもりなのですか。
  76. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは独立できたときにお答えいたします。
  77. 砂間一良

    ○砂間委員 集団保障に加盟した場合には、日本外国軍隊が通過したり、あるいは日本に駐屯する、そういうことを予想しているのではないですか。
  78. 吉田茂

    吉田国務大臣 予想はいたしません。そのときの事態に応じて考えますと申しておるのであります。
  79. 砂間一良

    ○砂間委員 首相は全面講和は望ましいということを前から言うておられます。そうすると、中国及びソビエトが早期全面対日講和を望んでいるというふうにお考えですか、望んでいないとお考えになつておりますか。
  80. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は知りません。(笑声)
  81. 砂間一良

    ○砂間委員 知りませんというようなことは、私は日本の総理としてでたらめだと思う。いやしくも講和問題が論議されているときに、その連合国の主要国であるところの中国及びソビエトが、日本講和に対してどういう関心を持つておるか、どういう態度をとつておるかということを知らないということはないと思う。すでにソビエトにおいても、中国においても、対日講和についての態度は幾多の声明によつて明らかにされている。それを知らないということはないと思う。そして一方においてはダレスと会つてアメリカの方とばかり單独講和を結ばうとしている。一体ダレスはどういう資格日本に来ておられるのでしよか。
  82. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は知らないから知らないと申したのであります。ダレス氏は大使として見えたのであります。
  83. 砂間一良

    ○砂間委員 私ども連合国に対して無條件降伏したのでありまして、従つて講和の問題も、当然これは連合国に対して講和の問題は問題になると思うのです。ところがダレス氏が日本に来るについて、連合国代表して来ておるとか、あるいはどういう資格で来ておるとかいうことについては一向不明であります。しかもその資格不明の人と吉田総理は会つて、何かごそごそ話しておられる。こういう態度こそ、故意に中ソを除外して單独講和に持つて行こうという、そういうことが吉田総理がみずから全面講和を妨害していることになつておると思う。全面講和に対して総理はどれだけの努力をしておるかということを聞きたいと思う。
  84. 吉田茂

    吉田国務大臣 どういう努力をしておるというようなことは、外務大臣としては申せません。
  85. 砂間一良

    ○砂間委員 單独講和は私は必ず戰爭になると思う。そういうことを吉田総理は予想せずして、戰爭を覚悟せずして、單独講和は結べないと思う。総理は戰爭に対する覚悟があるかどうか。(笑声)
  86. 吉田茂

    吉田国務大臣 覚悟はございません。なるべく平和に行きたいと思います。
  87. 砂間一良

    ○砂間委員 アメリカやそのほかと單独講和を結べばその瞬間に單独講和を結ばない国と敵対関係になると思う。敵対関係にもしならないとすれば、そういう條件があるならば、全面講和ができるはずなんです。そうすれば必ず日本戰争に巻き込まれることになると思うのですが、戰爭になることを承知して今の單独講和の方へ持つて行こうとしておられるのですか。
  88. 吉田茂

    吉田国務大臣 私が申すのは、全面講和希望するが、日本講和條約に入らない国——入りたくないという国があればいかんともできないのじやないかというのが趣意であります。
  89. 砂間一良

    ○砂間委員 日本講和條約に入りたくないという国はどこですか。
  90. 吉田茂

    吉田国務大臣 存じません。(笑声)
  91. 砂間一良

    ○砂間委員 存じませんというのは…。
  92. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 砂間君、御継続願います。——どうぞ質問を続けてください。(笑声)
  93. 砂間一良

    ○砂間委員 再軍備について総理は、軽々に言うべきでない、愼重に考慮すべきだというふうなことを言われております。しかし今の警察予備隊は、あれは軍隊であるということは明らかだと思うのであります。大体警察と軍隊との違いはどこにあるのか。
  94. 吉田茂

    吉田国務大臣 軍隊と警察の区別は私も存じません。しかしながら警察予備隊国内治安のために、国内に組織されたものであります。
  95. 砂間一良

    ○砂間委員 国内治安のためならば、何もどろぼうや、すりをつかまえるのに重機関銃や、迫撃砲を持つ必要はない。あの装備は一体どこから借りて来たのか。
  96. 吉田茂

    吉田国務大臣 あれはアメリカから借りたものもありますれば、日本で買つたものもあります。
  97. 砂間一良

    ○砂間委員 私はこの……。
  98. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 砂間君、御質問を願います。     (「共産党員がはずかしいじやないか、しつかりやれよ」と呼ぶ者あり〕
  99. 砂間一良

    ○砂間委員 やめます(笑声、拍手)
  100. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 御苦労様でした。小平忠君
  101. 小平忠

    ○小平(忠)委員 緊迫せる国際情勢のまつただ中に、昭和二十六年度の予算の提出を見たのでありますが、この予算の内容というものは、私は国際情勢の推移によつて絶対的に左右されるものだということをまず考えてみなければならぬと思う。そういう見地から総理大臣外交問題、特に講和問題を中心にいたしまして、重要なる点をお伺いしたいと思うであります。  御承知のように、朝鮮動乱は中共の参戰によりまして、まつたく新たなる段階に突入いたしましたし、またこれに前後いたしまして、ソ連の西欧進出というものが、欧州情勢を一層緊迫化いたしておるのであります。その結果、今日の朝鮮問題は、單なるアジアの問題ではなくて、完全に欧州問題と結びついておるといわなければならないと思うのであります。終戰以来満五年有余を経過いたしました今日、われわれ日本国民の待望久しい講和の問題も、いよいよことしは結ばれるというような見通しがついたのでありますが、その間に、私がここに強く指摘をしなければならぬことは、国連の対日講和促進の努力や、あるいは日本の一日も早く講和を望むという、こういう熱意に対しまして、あらゆる卑劣なる手段をもつてソ連が妨害し、日本国民がこの誤れる太平洋戰争の中に巻き込まれて、その結果、日本は御承知のように非武装憲法下において、日本の平和国家建設のために努力をして来たというこの努力も、今日においては一抹の不安を感ずるのであります。そこで私は、世界民族の平和を希求するというこの前提のもとに、全面講和というものはわれわれも理想とし、これを主張し続けて参つたのでありますが、しかし今日のソ連なり、中共の惡辣なる不法手段によつて、今日のような段階に突入いたしました場合において、われわれといえども全面講和というものに対しましては、根本的に再検討をし、さらに多数講和もやむを得ないのじやないかということを、私はまず前もつて申し上げなければならないのであります。そこで昨年の十月二十八日にダレス氏からソ連マリク国連代表に手交いたしました例の対日講和原則、これは私は非常に重大なる内容を持つておるものと解するのであります。すなわちこの七原則の第三項の領土の問題、あるいは第四項の安全保障の問題、これらについて昨日からいろいろ総理大臣に他党の質問があつたのでありますが、私はその講和の基本となるべき問題について、総理大臣に重要な点を重複しないようにお伺いしてみたいと思うわけなのであります。  そこでまず領土問題でありますが、先ほども社会党の西村君の質問なり、あるいは昨日の川崎君の質問等にも触れておるのでありますが、この領土問題については、今回のこの七原則の第三項によりますと、琉球小笠原諸島につきましては、米国を統治国とする国連信託統治制下に置くことに同意してもらいたい。さらに台湾、澎湖諸島、南樺太千島列島の地位については、英、ソ、華、米、四国の将来の決定にまつべきである、こういう点なのでありますが、私はこの問題に関して——先ほども西村君の質問に対して共産党諸君たちが、これは例のヤルタ協定によつて台湾なり千島列島については明らかにされているのだ、こういうことをおつしやいますが、私はこれについて、特に千島列島、南樺太の問題については、歴史的あるいは法律的根拠において、日本領土であるということをはつきりと強く指摘したいのであります。と申しますのは、御承知のように、安政元年に例の千島列島の、ソ連日本とのいざこざの問題を解決すべく、南千島たる歯舞、国後、この両島と例の歯舞諸島、この南千島というものは日本領土であるとはつきり話合いをつけましたときに、樺太全島についても日本領土ということにソ連も了承し、その條件として中千島以北をソ連の権益としてあつたわけでありますが、その後もいろいろ紛争がありましたので、明治八年に千島全島との交換條件樺太が一応ソ連の領域になつたわけであります。そこで御承知のように日露戰争において、例のポーツマス会議において、日本は戰いに勝つた、しかして講和に参加した諸国が樺太全島の変換問題についていろいろ論議され、ソ連はその当時確かに樺太日本領土であるのだがという條件南樺太日本に返してくれた、こういう歴史的な問題から追究いたしますときに、千島列島、樺太の問題については当然日本領土ということにおいて断固主張してもよろしいと私は思うわけであります。仄聞するところによりますと、総理大臣自由党の党の決定に従いまして、今回のダレス氏との——本日で三回おやりになつておるわけでありますが、この会談において千島列島、南樺太小笠原諸島、琉球の問題については日本領土として認めてもらいたいということを、総理大臣がダレス氏に要請されたということを聞いておるのでありますが、それは事実かどうか、その点をお漏らし願いたい。
  102. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたしますが、私がダレス氏にどういうことを要請したかというようなことは、ここで言明をはばかります。但し、今お話のような、千島南樺太等の歴史上の関係等については、連合国はよく承知いたしておるはずであります。
  103. 小平忠

    ○小平(忠)委員 そのことはたびたび伺つても、大臣は言を左右にして一向その内容についておつしやらない。それではその内容については総理大臣立場もわかりますから、あえて追究いたしませんが、総理大臣御自身のお考え、この四つの島々についてのお考え、個人的なお考えでもけつこうでありますから——これは日本国民として一番大きなものでありますから、御私見でもけつこうですから、会談の内容ということは別個にいたしまして、この機会に承つておきたいと思うわけであります。
  104. 吉田茂

    吉田国務大臣 私が今日ここで申すことは私見というようなものではなくて、かりにそれが私見であつても、事実は公と申しますか、政府考えということになりますし、そして領土の問題は最も微妙な関係がありますし、講和條約の最も重大なる内容をなすものでありますから、これに対して私見という名においても申すことはできないと思いますので、差控えたいと思います。
  105. 小平忠

    ○小平(忠)委員 その点はそれ以上私は追究申し上げません。  次にこの基本的な問題として、例の七原則の第四項に記載されておりまする安全保障の問題でありますが、かりにこの原則を基本にいたしまして、講和條約を持つたという場合、この第四項の規定から参りますと、当然基地の提供という問題が起つて参るわけであります。先ほど申し上げましたように、現在のようなソ連なり中共の出方、考え方を考えてみますれば、日本自体においてはもちろんただちに自衛力というものが整備確立されない見地から、当然このような基地の提供等も起つて参ると思うのであります。その場合に、基地を提供するというような場合において、日本の完全なる自主権というものが回復されるかどうかという点について、特にこういう問題についての権威であられる総理大臣にお伺いしたいのであります。
  106. 吉田茂

    吉田国務大臣 現在のところは基地の問題あるいは軍事基地とかという問題は、具体的な話に乗つておりません。またダレス氏のいわゆる七項目なるものは日本政府に提示されたのではなくて、連合国の間の話合いの原則として提示されたので、それを日本国に公の問題として、あるいは交渉の題目として申し出しはしていないのであります。またダレス氏は講和使節ではないのであります。日本側の意見その他を聽取しに来たのであつて交渉に入つているわけではないのであります。従つて今言つたような御質問に対してお答えすることができないのみならず、これに対してとやこう交渉いたしておる事実は毛頭ないわけであります。
  107. 小平忠

    ○小平(忠)委員 私の質問の要旨が徹底しなかつたために御回答願えなかつたわけでありますが、私がお伺いしましたのは、かりに基地を提供するという段階に至つた場合において、講和條約締結後、はたして日本の完全な自主権というものが確立されるかどうかという、この解釈についてお伺いしたいのであります。
  108. 吉田茂

    吉田国務大臣 希望を申せばむろん完全な自主権の回復ということは考えなければなりませんが、しかしこれは現在問題になつておらないのでありますから、具体問題になつた場合にお答えいたします。
  109. 小平忠

    ○小平(忠)委員 それでは次の問題をお伺いする前に、非常に重要な問題で大臣の見解を承つてみたいと思うのでありますが、現在多数講和とかあるいは全面講和、單独講和という問題があります。そして講和会議は戰勝国と戰敗国の間において結ばれるわけでありますが、かりに戰勝国全部が参加されない、すなわちこれは多数講和あるいは單独講和とも申されておるわけでありますが、その場合かりに十箇国の戰勝国があつて、対象国があつて、そのうち五箇国は日本講和を結びたい、こういう場合に日本政府なりあるいは日本の意思として、そういう講和なら結びたくないと言つて、拒否する拒否権があるかどうか。私はこの拒否権の問題については、これは外交講和條約等のかつて歴史、そういつたものから、拒否権というものは敗戰国においてはないというように考えるわけでありますが、御承知のようにこういうデリケートな問題でありますから、それで拒否権はないにしろ、日本としてかりにそういう一部分の、全部でない国々とならいやだと言つてそれを断ることができるものかどうか、こういうことについて非常にわかり切つたような話でありますが、総理大臣見解を承つておきたいのであります。
  110. 吉田茂

    吉田国務大臣 それはまだはなはだ微妙な問題であります。問題が具体的に提示せられたときにおいて考えるべきものであり、あらかじめその場合には拒絶するとかなんとかいうことは、これは私としては言うことを差控えます。
  111. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 お約束の時間ですから一点だけ許します。続行してください。
  112. 小平忠

    ○小平(忠)委員 私は、非常に大事な問題で時間もありませんから、要点をお伺いしたいと思うわけでありますが、昨日の川崎君の質問に対して、総理大臣は例の芦田意見書なるものに関して今日の事態認識、これについてはまつたく同感である、その内容方法手段においては意見を異にするが、この事態認識については同感である、とおつしやつたわけであります。そうおつしやつた反面、昨日の川崎君の質問の中にも、次のようなことを答弁されておるわけでありますが、今日日本国内における治安維持の問題、現段階においてはまつたく現在の予備隊なり、あるいは海上保安隊の実態によつて治安維持上完全なるものであるということを大臣は明言されたわけであります。私はこの問題を非常に重要な問題であると考えますのは、現在の予備隊の訓練の内容なり、あるいは編成の内容なり、そういう点から総合いたしますと、今日日本国内におけるところの第三国人あるいは共産党がいろいろ策謀をめぐらしておりますところの問題に、はたして対処し得るかどうかという点について、大いなる疑問を持つのであります。はつきり申し上げてよろしいことは、現に北海道における例のマッカーサー・ライン、これはあの根室から稚内沿岸に至る非常に広大なる地域におけるところの海上の警備等、これはまつたくお留守であります。そうして例のマツカーサー・ラインというものは非常に接近いたしておりますために、常時ソ連の船艇がまつたく北海道の海岸線に到達し、夜のごときはほとんどソ連の探照燈によつて、常時密告、あるいは日本国内の問題についても筒拔けである。こういうことを現に私はこの耳で聞き、目で見て来たという事実を総理大臣に申し上げなければならぬ。そういうことを考えてみまするときに、いかに大臣がここで一切口をかたくしておつしやらなくても、あるいは国民の前に自信がある、治安維持については絶対大丈夫である、こう申されましても、現在の予備隊の実態なり、あるいは北海道の例のマツカーサー・ラインの現状を見ますと、国内でいかにいろいろな問題を論ぜられましても問題になりません。こういう観点から、ほんとうに国内治安の維持を確保し、一朝有事の場合においては絶対大丈夫であると申されましても、御承知のような現在の予備隊の予算なり、あるいは海上保安隊の予算なり、あるいは訓練の内容なり、そういうものでは実に中途半端なものである、私はこう思うのであります。あえて、私は警察予備隊の強化を云々するのでなくして、今日のように国際情勢の微妙な段階においては、総理大臣はいささか腹をもつてこの問題に対処していただきたいということを申し上げ、さらに私は共産党に対する対策として、例の非合法化の問題がずいぶん昨年から論議されておりますが、私はあえて共産党を彈圧せよとか、あるいは思想彈圧をせよということを申し上げないが、今日のような緊迫せる事態においては、真にやむを得ないその過程において、思い切つて共産党の非合法化の問題を、徹底した方法をとらない限りにおいては、国内でいかなる問題を論じてもだめだ、そういう見地において総理大臣はこの共産党対策、非合法化の問題についてこの機会に所信を明らかにし、国民に納得の行く考え方を披瀝していただきたいと思います。
  113. 吉田茂

    吉田国務大臣 警察予備隊は現に編成の途中にあると申してもよいような状態であります。むろん予算も十分でありませんが、しかしながら財政の許す限りにおいて警察予備隊費用を出している。これは国の財政とも関係いたしますからして、一層理想的な予備隊をただちにつくるというても時を要するのであつて、多少不満なところもありますが、現在の事態治安の維持については一応は心配はないと思います。海上保安隊については、装備その他についてははなはだ遺憾なことがあります。これは北海道ばかりでない。九州その他においても同じような問題があつて、これに対して相当の装備を与えることに今努力いたしております。しかしその他に、日本の警察力以外に、アメリカの艦隊等が始終まわつておりますからして、ただちに非常な事態が、つまり外国侵入の事態が起るとも考えない。また考えておつても、今申すようなわけで編成中にある警察予備隊、その編成の完成はつとめて急いでおりますから、できるだけのことはいたすつもりでありますが、一応の治安は維持されていると思います。  それから共産党非合法化についての話でありますが、でき得べくんば非合法化にしたいと思いますけれども、これは共産党員といえども日本人でありますから、あまり深刻なことをせざる間に共産党諸君の反省を促すことができることによつて、静かに共産党諸君の行動を監視いたして……(笑声)観察いたしております。
  114. 小平忠

    ○小平(忠)委員 時間が参つておりますので、私は簡單な点を大臣に一点だけお伺いしますが、追放解除の問題について、先般官房長官が講和後といえども追放解除は残るだろうということを現に発表されているわけでありますが、この問題に関して一体追放解除というものはいつまで、日本が完全なる主権が回復されても、残るものか。この点について総理大臣の所見をお伺いし、最後にもう一点、これは先ほど申しあげましたように、私たちは、全面講和を理想としてそれに対して努力をするという総理大臣見解もわかりますが、そこで大事な問題は、われわれが今回の七原則内容をそのままうのみにして、またそういう態勢で講和に突入するというような場合においては、非常にゆゆしき問題が起る。これは武器のない、自衛力のない、いかに国連が完全なる安全保障をすると言いましても、私は今日の段階はまつたく世界の二大国、共産主義陣営か民主主義陣営かの二大対立、日本は今どちらにくみするかのせとぎわであります。その場合に、もう今日は決定的な段階として行くべき方向はきまつている。きまつているのだが、その際に完全なる安全保障というものと、日本自体の自衛力確立されるという自信と見通しがないままで講和に突入するということは、私は日本が再びこの戰爭の渦中に飛び込むような危險性があると考えるわけであります。そういう面から、大臣の現在の立場から申しますならば、もちろんこういう問題については軽々しく表現はできませんでしようし、またそれをこうだ、ああだということの批判ができないこともわかりますが、私はこのダレス特使が参つておる重大なる段階において、一国の総理大臣として、国の政治家として、日本の八千万国民代表してこの講和問題にぶつかる場合の腹構えとしては、あくまでも、完全なる安全保障日本自体の自衛力というものが確立されるという——日本の現在の経済力からいいまして、どうしても日本自体では完全なる自衛力というものはできない。これはアメリカあるいは連合国がどれだけ経済的その他すべての面に援助をするか、そういう見通しがつかない限りにおいては、この講和には絶対反対であるというぐらいの覚悟をもつてこの講和会議に臨むという腹構えが必要であろうと思うのでありますが、この問題について私は最後に総理大臣の所見を伺いまして、私の質問を終ります。
  115. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見はとくと承りました。
  116. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 黒田寿男君。
  117. 黒田寿男

    ○黒田委員 私はきようは多少ゆつくりとお話を承らさせていただきたいと思いまして、いろいろと準備をしておりましたが、先ほど理事の方から、総理も大分お疲れになつておるようだからというようなお話で、相かわらず時間の制限を受けたのであります。そこで制限されました時間に適当する範囲の問題を多少拾い上げまして、御質問申し上げてみたいと思います。  問題は、やはり対日平和條約に関する合衆国の七原則提案に関聯するものでありますが、これにつきまして多少の御質問を申し上げるとともに、あわせて若干の希望をも申し述べさせていただきたいと思うのであります。但し私は、先日首相がダレス特使と会見のために、本会議場を退去なされましたあとで、その議場におきまして、この問題につきましては若干の質問をしたのでありますが、これにつきましては、今日私はなるべく早い時期に本会議場におきまして御答弁を願うことにいたしまして、重複を避けまして、その問題に関連しましてもう少し掘り下げて行つてみたいと思うのであります。なおお答えになれぬ部分もあるということも私は十分御想像申し上げますので、その場合は、国民の一人の考え方、希望としましてお聞きおきを願いたいと思うのであります。  第一は、わかり切つたようなことでありますけれどもポツダム宣言は降伏後の日本がこれを遵守すべき最高の外交文書と私は考えております。あらためて質問するほどでもないことと思いますけれども、念のためにまずこのことをお聞きしてみたいと思います。
  118. 吉田茂

    吉田国務大臣 その通りであります。
  119. 黒田寿男

    ○黒田委員 そこでその次は、この最高文書としてのポツダム宣言日本に対する効力はいつまで続くものであるか、私は講和條約成立のときまで続くべきものと思うのでありますが、この点いかがでございましよう。
  120. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは講和條約の形にもよりますけれども原則としてはそうあるべきものであると思います。
  121. 黒田寿男

    ○黒田委員 そうしますと、これはまた仮定論になりますけれども、万一全面講和が行われないで、單独講和というようなことになりました場合、講和から残されました国七の間におきましては、依然としてポツダム宣言がわれわれにとりまして最高の外交文書として、その効力を続けて行くものである、こういうように考えるのでありますが、この点はいかがでございましようか
  122. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは自然講和会議のときに、あるいは講和條約の中に何とかうたわれるか、あるいは別の條約ができますか、とにかく講和会議において何か打合せが出るだろうと想像いたします。
  123. 黒田寿男

    ○黒田委員 その次は、ポツダム宣言内容中に、講和條約と関係のありと思いますような部分があるのでありますが、そういう部分につきましては、形式上の表現は別といたしまして、実質上におきましては、それと同様の内容におきまして、講和会議の中にこれが引継がれるものである、こういうように私ども考えておるのであります。これにつきましてどうお考えになつておるかということをお聞きしたいのでありますが、その前にちよつと私の質問の内容をもう少し明らかにしておきたいと思います。たとえばポツダム宣言内容の中には、今日までの間にすでに実現せられた部分もあるのであります。たとえば第六項の軍国主義者の権力及び勢力の除去、あるいはまた第九項の日本国軍隊の完全なる武装解除、あるいは第十項の基本的人権の尊重の確立、これは新憲法の中に現われておりますが、新憲法もこうした見地から制定せられたものでありまするけれども、このように拾い上げて参りまして、すでにポツダム宣言内容のうち実現せられたものもあるのであります。ところが将来に残された部分がある。たとえば第八項の領土問題に関するものであります。それから第十一項の産業の維持の問題、あるいは世界貿易関係へのわが国の参加の問題、それからまた第十二項の連合国軍隊の撤収問題、こういうものが将来の問題として残されております。そこで私どもの今まで考えておりましたところでは、過去におきましてこの宣言に基いて一定の事項が実現せられましたことくに、将来におきましても、この宣言のうちの残された部分につきましては、宣言にあります通り内容においてこれが実現せられるものであるということを期待してよいと私ども考えて今まで来たのであります。もう少し具体的に申しますれば、講和問題、すなわち将来残された問題との関連におきまして考えますときに、宣言中の、講和会議の議題となり、講和條約の内容となるべきような性質のものは、やはりその実質上そのままの内容におきまして條約の中に引継がれるものであると期待して来ておつたのであります。もしそうでなければ、この宣言に対して私ども日本人の持つております信頼感は失われてしまうのであります。われわれはポツダム宣言にはこう書いてあるけれども、これはいつかえられるかわからないという感じを与えられましたら、日本人のポツダム宣言に対する信頼感は失われると思う。またこの宣言の日本人に対する権威も喪失せられるようになると思うのであります。そこで私が質問いたしましたように、ポ宣言の内容講和條約と関係ある部分は、それと実質上同様の内容において講和條約の中に引継がれるものであると考えておりますが、総理はこれに対してどのようにお考えになつておりますか、お聞きしたいと思います。
  124. 吉田茂

    吉田国務大臣 お話のような点については、講和條約の内容をなして講和條約の中に書き入れるものもありましようし、入れないものもありましようが、しかし私の今までの感じでは、戰勝国が降伏した国に対してというような非常に嚴密な、ひどい、苛酷な條項は挿入せられないだろうと思います。のみならず、日本独立を害するとか、主権を害するとかいう條項はなるべく省こうという気持であろう、これは想像でありますが、そういう感じがいたします。
  125. 黒田寿男

    ○黒田委員 そこで私ども問題になると思いますのは、今回対日平和條約に関する合衆国の七原則なるものが、極東委員会構成国に対しまして、アメリカの提案として示されたのであります。ただこれは日本に提示されたものではないからというような見地から、私どもこれをぼんやりと見過しておくことはできない。やはりこれに基いてやがて日本に対しまして講和條約の原則が示されると思いますので、今から私どもは熱心にこれについて研究をしておかなければならぬと思うのであります。そういう立場で私ども多少この七原則につきまして研究いたしました結果、私の見るところでは、ポツダム宣言内容と、七原則内容との間に抵触を生ずるようなものがあるように考えられるのであります。これに対しまして総理は、交渉ではありませんけれども、話合いをダレス氏とやつておられるのでありますから、やはり七原則につきましては、十分に御研究になつておると思います。そこで私はそういう疑問を提出いたしまして、首相の御見解を承りたいと思いますが、これは価値判断ではありません。七原則に賛成であるか、あるいは反対であるかというようなことを、すなわち価値判断を首相に私は求めておるのではありません。私は今そのような無理なことをいたそうとは思いません。ただ表示されている内容が、客観的にわれわれが研究いたしまして、どこに相違があるかという事実認識の問題にすぎないのでありますから、この点ひとつ異つたところがあると思うかどうか。あるとすればどういうところが異なつておると思うかということについて、もしお聞かせ願うことができますればお願いしたいと思うのであります。
  126. 吉田茂

    吉田国務大臣 それはどの点が異なつておるかということの御意見を伺いたいと思います。
  127. 黒田寿男

    ○黒田委員 そういうお話でありますならば、私はここが違うというように考えます点を指摘してみたいと思います。たとえば領土問題についてであります、これは台湾という一つだけの問題について申し上げてみても、差異があり、抵触するところがあると思えるのであります。これはどういうことであるか、多少私の見解を詳しく申し上げてみますと、元来ポツダム宣言によりますれば、台湾は、カイロ宣言に、従つてこれを吸収しましたポツダム宣言によりまして、中国がこれを回復するというように、もう断定的に書いてある。私どもはこのように簡單に台湾については運命が決せられるのだというように従来考えさせられて来ておつたのであります。ところが七原則に従いますと、台湾の問題は、澎湖諸島、南樺太及び千島列島の地位に関連いたしましてと同様に、連合王国、ソビエト連邦、中国及び合衆国の将来の決定を日本は受諾する。條約が効力を生じた後一年以内に決定がなかつた場合には、国際連合が決定する。こういうように書いてあるのであります。これは私は非常に違うと思う。将来決定するのでありますから、あるいはポツダム宣言が吸収いたしましたカイロ宣言に表示されておりますと同様の決定になるかもわかりません。けれども、将来のことでありますから、違つた結果になるかもわからない。これはもう常識上十分にこういう表示のもとからわれわれが推測できることでありまして、そこであるいは中立地帶にされるのではなかろうか、あるいはまた信託統治というようなところへでも持つて行こうというような意図でもあるのではなかろうか、こういうようにいろいろな疑いをさしはさむ余地がここにある。しかしそれだけならばまだ私どもは大したことはないと思いますけれども、最も私ども日本といたしまして見のがすことができないのは、将来場合によりましては国際連合総会が決定する、そういう場合があるかもわからないということになつておるのであります。そうしますと、日本戰争に負けましたけれども、この日本が遂行いたしました戰爭に関係のない国も加わつた国連によりまして、戰争に関連して発生いたしました領土問題の変更について議せられることを、わが国としてそのまま受諾してよろしいのであるか。常識上、負けた国の領土の帰属問題は、その国と戰つて勝つた国と負けた国とが協議いたしまして、その帰属問類を決定するというように私ども考えておつたのであります。そして日本領土日本から離脱される問題につきまして、日本戰争に関係のないような国の意思までが関与するような方法で、その帰属問題が決定せられるというようなことを一体認めてよろしいのであるか。私はこれは重大な問題であると思う。従つてこのことは單にポツダム宣言内容に抵触するだけではなくて、われわれの常識から申しまして、国際法上の通念に違反しておるのであります。私はこれは民主主義の原則ではない、正義原則に反しておると思う。自分かつての都合でどんなことでもやつていい、こういう一種の專恣の思想がここに含まつているのではなかろうか、私はそういうことを考えております国がどこの国であろうと、冷静に理論的に、また日本立場という見地からこれを申すことは、少しもさしつかえないと思うのでありまして、そこで先ほど申しましたように、ポツダム宣言に書いてあることと、七原則に書いてあることとは非常に違う、こう私が考えるのが無理でありましようか。私は自分の常識を信じております。私は自分の多少の研究を信じておる立場から、どうしてもここに相違があると思う。首相はこれにつきまして疑問を起されなかつたのでありましようか。ダレス氏にお会いになりましたとき、このことにつきまして何らかの質問を提起されなかつたのでありましようか。私はこのことをお聞きしてみたいと思うのであります。しかしダレス氏がどう言つたかということは別問題といたしましても、違うか、違わないかということだけは、事実認識の問題でありますから、お答えを願いたいと思う。
  128. 吉田茂

    吉田国務大臣 外ほど申した通りポツダム宣言を受諾したときと今日の空気はよほど違つていると思いますから、連合国あるいはアメリカ政府が提案するものは、ポツダム宣言よりはもつと緩和された形において来るだろうと私は想像するのであります。しかして今御指摘のことは、緩和されたか、緩和しないか、これは今日私として議論をいたすべき地位にないのであります。講和條約の内容として提示された場合に初めて政府として意見を言うべきものであつて、今日これはポツダム宣言内容と違つているから云々といつて、私はこれに対する批評をすべき地位におりませんから、お答えはいたしません。
  129. 黒田寿男

    ○黒田委員 これは私先ほど冒頭において申し上げたのですが、私は意見を聞いているのではありません。こういう方法でやることがよいか惡いか、これがはたしてポツダム宣言内容より緩和されたものであるか、それとも別な方向に進められたものであるか、そしでまたそれに対して日本として賛成するか反対するかというようなことは、私は今お聞きするのが無理だと思いますから、お聞きしようと思うのではない。しかしいやしくも国際法の多少の知識を持つておる——吉田首相は同時に外務大臣であると思います。そうして国際連合につきましても、総会にはどういう国が出席するか、日本戰争と関係のある国だけが国際連合の総会に出席するというような考えは、これは全然間違つた考えで、そうでない国も参加するのでありますから、そういう国で、すなわち日本戰争に関係のなかつた国によつて日本領土問題が決定せられるということになつている。これはもうだれが見てもわかる。そこでこれとポツダム宣言内容とが違うか、違わないかという、先ほど申しましたように、意見ではなくて、内容の事実の認識をお尋ねしているだけであります。これは、お答えできないでしようか、これもできないとおつしやいますればやむを得ませんから、次に進みますれども、もう一度念のために申し上げておきます。
  130. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えは差控えます。
  131. 黒田寿男

    ○黒田委員 いま一つ、私の次の質問に関連いたしますポツダム宣言内容と、七原則内容との相違の点をあげてみたいと思います。しかしこれはなるべく簡單にやりますが、たとえばポツダム宣言の第十二項におきまして、占領軍の撤収問題が取扱われておりますが、私どもこれを見て、おそらく講和條約が締結いたされますときには、占領車の撤収時期が、講和條約締結後何箇月というような、たとえば六箇月とか、そういうようなことで規定せられまして、その他に外国軍隊の駐屯問題などが條約の中に入るなどとは、ポツダム宣言の第十二項からは私ども考えておりませんでしたし、またポツダム宣言のどこを見ましても、そういうところはないのであります。しいて求めれば日本が軍国主義を離脱いたしまして、十分民主主義国になるまでは、占領軍がとどまるという別な規定がありますが、しかしそういう意味における保障占領というものが、持続されなければならないような状態に、まだ日本が低迷しているとは私は考えない。マ元帥も、日本では相当民主主義が進んでいる。ここで講和をやる資格ができたと、こういうように言われておるのであります。そこでそういうように私どもが期待しておりましたのと、七原則の第四項のようになつて行きます場合、すなわち日本国の施設と、合衆国及びおそらくはその他の軍隊との間に、継続的協力的責任が存在することを考慮する、こういうことになつております。ここもやはり私は大きな違いであろうと思うのでありまして、これも事実認識の問題にすぎないのでありますから、お答え願えれば、違いがあるかどうかということをお答え願いたい。
  132. 吉田茂

    吉田国務大臣 軍隊駐屯の問題も、これは将来に属することでありまして、今日こうなるであろう、こうならないであろうという予測は、私としてはつけかねますのみならず、それは具体問題が起つたときに御相談いたしたい。
  133. 黒田寿男

    ○黒田委員 ちよつとこの際ついでに承つておきたいと思いますことは、この七原則の第四項の中には、安全保障の中で日本国の施設という言葉がありますが、この施設とは何ぞやということを考えますのは、日本人としてあたりまえのことです。これがどういうものであらうかということは、政府としても親切にお答えがあるべきだと考えます。たとえば兵舎を提供するというようなことにすぎないのか、あるいは軍港、飛行場その他のいわゆる軍事基地というものが、この施設の中に含まれるのであるか、これも多少常識のある者は、すぐ疑問を出すのであります。これはきわめて單純な疑問である。私はこの施設とは何ぞや、その内容につきまして、吉田首相からひとつ承りたいと思うのであります。
  134. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはダレス氏に聞いたこともありませんからして、あなた以上の特別な知識は私は持つておりません。
  135. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 黒田君、大体おまとめ願います。
  136. 黒田寿男

    ○黒田委員 どうもいろいろと時間の制限を受けますが、もう少し進めさしていただいて承りたいと思います。なるべく簡單に……。とにかくどうなるかわからないといたしましても、アメリカの方の提案といたしましては、日本国に合衆国及びおそらくはその他の軍隊が駐屯する、継続的協力的責任が存在することを考慮するということになつております。そこで私はこの問題につきまして、これが憲法とどういうように関係するか、また憲法とどういう抵触を持つかという問題につきましては、本会議で質問いたしましたからここでは繰返さないことにいたします。これはひとつ本会議の議事録をごらん願いまして、お答え願いたいと思います。  そこで私は本会議で触れなかつた問題につきまして、多少、これは首相にもお願いかたがた申し上げてみたいと思いますが、私は安全保障の問題は講和條約の條項の中には入れるべきものではない、こういう考え方を持つておるのであります。これはいろいろと議論もあることでありますが、合衆国の提案の中には項目の中に入つておりますから、このままにしておけば、あるいはこれが講和條約の内容として挿入せられるのではなかろうかと考えますので、私はその不適当であるというゆえんを多少論じて、これはもしお答え願えなければけつこうでありますが、むしろ総理に対して希望を申し述べたい。それは元来講和條約は平時友好関係にあります国家の間に締結せられます條約とは違うのでありまして、ダレス氏は日本は敗者としては取扱わないというようには言つておられますけれども、私どもはかように甘く考えてはならぬ、やはり対等者間のとりきめではなくて、戰勝国と敗戰国との不平等関係を基礎としたとりきめであるということは、率直に認めなけはばならぬところであると考えます。従つて戰勝国と自由に意思決定をなすべき余地を持たないのでありまして、これが普通であります。言いかえれば相手方の押しつける條件を——これは言葉の表現がどうかわかりませんが、涙をのんで受諾しなければならぬということもあり得る性質のものであります。そこで元来こういう性質のものでありますから、そこで私はこういう性質の講和條約の中に挿入すべき事項につきましては、一定の限度があると考えるのであります。要するにいわば押しつけられるのでありますから、押しつけられるのに適したようなものだけを講和條約の中に入れるべきである。それをもう少し具体的に申しますと、主として日本が侵略戰争を行いました過去の責任についてそれを問われる問題、たとえば領土の問題、あるいは賠償の問題、こういうようなものが私は講和條約の中に取扱われるべき問題であると考えます。安全保障問題は過去の問題ではありません。日本戰争を遂行いたしました責任を問われる問題ではないのであります。将来の問題でありますから、こういう将来の問題は私は日本講和條約を締結いたしまして、文字通り独立国になり、自由意思を持つ国になりましたあとで、こういう問題について協定をするかどうかということを、決定すべき性質のものであると私は考えるのであります。そこで私は講和條約の條項の中には、安全保障に関する條項は入れるべきではない、こう考えます。この点につきまして、もしお答えができるならば——日本国民の中にそういうように考えておる者がおそらくたくさんあると私は思います。そういうことを、ひとつ首相に頭に入れておいていただきたいと思います。しかしこの際こういう條項を入れるか入れないかということにつきまして、御意見を承ることができますれば、なおけつこうであると思います。どうでございましようか。
  137. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見は御意見として伺つておきます。思うに、国民の期待に反するような形では、講和條約の内容として、お話のような押しつけられるということは、非常に少くなつたのではないかと私は想像いたしております。御意見は御意見として承つておきます。
  138. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 黒田君、時間ですからこれでおやめいただきます。それでないと小林君のところへまわらないのであります。今まで小平君に特にお許ししましたものですから、その時間だけあなたに増しますと、どうしてもその分だけあとに食い込みまして、あと小林君にまわらなくなりますので、お約束ですから、恐縮ですがおやめ願います。
  139. 黒田寿男

    ○黒田委員 まだ多少お尋ねいたしたい点もあり、そして私どもといたしますれば切実な問題があるのでありますが、あとの人の利益ということを考えまして、きようは私はこれでやめまして、また他の機会にいろいろと承りたいと思います。
  140. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 小林進君。
  141. 小林進

    小林(進)委員 委員長にお尋ねしますが、総理は十分前に何か御用事でお帰りになるというのでありますが、それはほんとうでありますか。
  142. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 最初に、あなたは特にここにおいでになるのがおそくて、あなたは午後になつてからお見えになつたようでございますが、あなたがおいでになる前に、けさほどから理事会を開きまして、きようの日程について御相談いたましたときに、総理は三時から一時間半、つまり四時半まで時間をいただく、五時からはどうしても緊急の渉外関係の御用事があるので、十分前にはどうしても出なければならないような様子であつたのであります。四時半までということでありましたので、その間の時間の割振りをいたしまして、三人の方にそれぞれ二十分を限つてというお話をしてあるのであります。ところがそれがだんだん延びましてこういうふうになりましたので、あなたにはたいへんお気の毒でありますが、できるだけ簡單に要点だけお願いいたします。
  143. 小林進

    小林(進)委員 私も二十分与えられたものと思つて予定したのでありますが、時計を見ると、あと七分しかないのであります。これでやれということになると……。
  144. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 やむを得ませんからお願いいたします。
  145. 小林進

    小林(進)委員 それでは時間の来ますまで首相にお伺いいたしますが、ダレス氏の声明の中にも、日本の経済を安定するということが非常に重要視せられておるがごとく感ずるのでありますが、その経済を安定するということについて、総理といたしましては、連合国に対する問題と、それから国内の態勢を整備するという二つの問題があると思うのでありますが、それをわけて、連合国にはどういうことを要求せらるるか、またこの講和條約を受入れる態勢として、国内の経済をどんなぐあいに安定の方向へ持つて行かれるか、このことをまずお伺いいたしたいと思うのであります。
  146. 吉田茂

    吉田国務大臣 いかなる話をダレス氏にしたかということはお答えいたしません。
  147. 小林進

    小林(進)委員 率直に申し上げまするが、総理の方にもいろいろの輿論が入つていると思いまするが、われわれがわれわれの知る範囲で調査いたしましたところでは、現在国民の気持というものは、どうもわれわれは食えない、東京人はもちろん九割は毎日その日の生活に追われており、日本人の八割も食うことのみに追われておつて講和條約やら自衛権やら再軍備などという問題も、観念的には重要であるということは一応わかるけれども、日常食うということで頭が一つぱいで、どうもそこまで具体的に身につまされてものが考えられない。いわゆる共産党の侵入の問題も、生活に苦しめられているわれわれの頭では、これも一つ世界の流行じやないか、日本つて一度くらいは洗礼を受けてもいいだろうというような気持さえする。こういうふうな声を私どもしばしば耳にいたしておるのでありまして、この国民の空気が私は八割と申し上げる。そのパーセンテージに差はあるかもしれないけれども、この気持が国内にある限り、いかに予備隊を強化してみたり、あるいは警察を強化してみたところで、とうてい本物の自衛態勢というものは私はでき上らぬと思う。現に予備隊の諸君あたりも、なに二年間勤めて、国家に大事があつても、命なんか投げ出せるか、手当金をもらつつて、次の営業に資することが私どもの望みだと答えている。警察官もその通りで、われわれは日常の生活に追われている、だからなるべく命を投げ出すような危急の場合には出ないで、日常手ごろの勤務ぶりを示していればいいと言つている。こういうような率直なる気持、おそらく総理の耳には入らぬと思いますけれども、われわれはこういう気持を率直に聞いているのでありまして、この国民全般の空気がある限り、いかに講和條約を叫んで、いかに自衛権のあるなしを叫んで再軍備を口にしても、とうてい日本講和條約後の自立態勢、国内態勢というものは、私は整備されないと思うのであります。この点を首相はどう考えられているか。真に講和條約を受入れる態勢ならば、この点をいま少し真劍に考えて、これに対する拔本的な処置を講じなければならない、私はこう思うのでありますがこれに対する首相の所見を承りたいと思うのであります。
  148. 吉田茂

    吉田国務大臣 日本の安定、日本国民生活向上のためにも、なるべく早く講和條約によつて国の安定をはかり、独立をはかり、そうして国が繁栄するというふうに持つて行くべきものであつて、そのためには講和條約は一日も早くすべきものである、こう私は考えて、早期講和をしきりに申しておるわけであります。
  149. 小林進

    小林(進)委員 講和條約が成立すれば、こういう問題が解決するとおつしやつる首相のそのりくつが、どうものみ込めないのであります。そこでいま一応私はこの問題を別な言葉でお聞きしたいのでありまするが、それは日本に寄せられたトーマス・マンの寄稿でありますが、その中に日本に対する言葉としたこういうことが言われておる。それはすなわち、何百万人となき人々が飢え、腹はうつろに、胸はやせさらばえて、人間以下の生活をしながら死んで行くような地上の富の分配の仕方、今日になつてもなお貪欲盡くることを知らず、しかも技術の進歩に直面して、今では非難の的になつているような地上の富の分配の仕方を改めるということなのです。これはもうだれ一人として飢えるようなことがあつてはならない。だれ一人として人間以下に扱われたり、單なる土人になつたり、搾取の対象になつたりしてはならないこれがある限り、世界の平和、日本の平和というものはあり得ない。平和は至上の命令であり、だれ一人飢えない国をつくるということが、真に平和への近道であるということを言われておるのであります。私は一国の政治はあくまでもこれを基調にして考えて行かなければならぬと思う。また、この前来られた、私の紹介をいたしているデンマークの人の言葉がある。東京を歩いて見たときに、実にその宏壯偉大なる規模はデンマークもとうてい及ばない。実に偉大なる東京の文化に驚いたが、一歩裏へ行つて見れば、あの貧弱な、貧しい飢えた家と、あのみすぼらしい姿は、これもまたデンマークにはない姿である。日本ほど貧富の差のはげしいヴアラエテイーに富んだ世界を見たことがない。これが日本の大きな病根で、この姿がある限り、日本がいかに思想善導を唱え、反共を唱えても、真に日本の民主主義という形はあり得ないであろう。デンマークは農村、都市至るところに文化も教育も均霑していて、これだけの差はない。だからこそ外来思想に冒されるようなことは断じてデンマークにはないということを言つておられるのであります。従いまして、首相が反共論者であり、共産主義が真にきらいならば、これを排除する一つの具体的な策として、どうしてもここに政治の重点を指向していただかなければならないと私は思うのでありますが、この点をいま一度お伺いしたいと思うのであります。
  150. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見は御意見でありますが、講和はなるべく早くいたしたいと思います。
  151. 小坂善太郎

    ○小坂委員長 本日はこの程度にいたしまして、明日は午前十時より開会、質疑を続行いたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十一分散会