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今野武雄君 私は、
日本共産党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
法案に対しまして
反対の意を表明せんとするものであります。
事ただいまの
委員長報告を聞いておりますると、この
法律によ
つて労働災害の
負担の公平をはかる、それからそういうことを通じて
災害を防止する、そういうことが述べられて、いかにもよさそうに見えるのでありますが、しかしながら、現在
労働災害の問題は、
日本の
労働者にと
つて実に真剣な問題なんです。だから、これを單に法文の文句の上からだけ見たのでは、事これはどうにもその実態
はつかめないのであります。これに対してわれわれが態度を決定するためには、この
法案の
背景にどういうものがあるか、どういう
背景のもとにこの
法律が
実施されるか、その点を
はつきりさせなければならないと思うのであります。
御
承知のように、二月二十七日と二十八日の
両日にわたりまして、
国連の
経済社会理事会では
日本の労働問題が
議題にされまして、そこでも
つて、
日本の
労働者がいかに迫害されているか、
労働組合がいかに彈圧されているか、そうして
日本における労働政策とうものが
極東委員会の諸指令に
はつきりと違反しているという事実が確認されて、このことを非難する
決議案が十四対三という圧倒的な多数によ
つて成立しておる。この事実をわれわれは、
はつきりと知らなければならないのであります。
自由党の
諸君は、衆議院で多数だとい
つて、いい気にな
つておるけれ
ども、
世界の目は、
はつきりと判断しておる。
日本の
労働者がどういう
状態であるか、
日本の
政府がいかに
極東委員会の諸決定なんかに違反して
労働者を虐待しているかということ、
つまり吉田内閣の
反動性を
はつきりと認識しておる。そのことをわれわれは知らなければならないわけでありまする
その
内容について、ここで詳しく申し述べるいとまはありませんが、私
どもは
官庁統計によ
つて見ましても、
昭和二十二年以来、
日本の
生産がだんだん増して来た。ところが、その増したのは、だれの
負担によ
つているかということが、
はつきりしておるのであります。それは、
労働者一人
当りの
生産量について、二十二年の平均を一〇〇といたしますと、現在では三〇〇にな
つておるということ、
つまり二十二年に比べて、
労働者一人
当りの
生産量が三倍にふえているという事実であります。しかも
工場の
設備などは、さほど改善されていないのであります。特に昨年の
朝鮮事変以来は、
労働者一人
当りの
生産量は二倍に上
つております。こういうような、はげしい一人
当りの
生産の増強というものは、何によ
つてなされておるか。それは結局において、
労働者のからだを削ることによ
つてなし遂げられておるわけでございます。
私は
神奈川の出身でございまするが、京浜の
工業地帶に
行つてみれば、
あすこに
造船所や
製鉄所がずらつと並んでおる。
あすこに
行つてごらんなさい。やかましい
工場の中で、ひどいときには二日も三日も続けて徹夜をする、疲労を直すいとまが少しもない、こういうことのために、船台からおつこつたり、あるいは機械に巻き込まれたり、こういうことによ
つて労働者が
災害を受ける。このために、
労働省も
報告しておるように、
労働災害は
朝鮮事変以来特に激増しておるわけであります。しかも
労働省の
職員の言うところによれば、
労働省の
統計は
災害の少いところだけを選んでや
つておるというようなことさえいわれておる。こういうような、ごまかした
統計すらも、なおごまかし切れない
労働災害の
増加、その
災害を受けた
労働者の
家族たちは一体どうなるか。ほんとうにもう現在のこの世の中では、そういう
人たちは、どうにも立ち直れない
状態になるわけでございます。だから、
労働災害増加の第一の
原因は、戰争に伴うひどい
労働強化にあるということが言える。
第二の
原因として指摘されることは、
工場の
設備も改善しないで、しかもこの
労働強化をや
つて利潤をむさぼろうとしている
資本家の、きたない根性です。こういうことのためにも、また
労働災害が
増加しておるわけでございます。
従つて、この
労働災害を防止する、減少させるということは、現在
労働省がや
つておりまする
産業安全運動とか、あるいは今度の
法律の
改正とか、そういうものによ
つては何ら解決できないということは明らかであります。特に今度
日米経済協力というようなことをやるとい
つておるが、ここでは、さらに恐るべき
労働強化が予見されておる。このことは
経済安定本部さえも認めておる。これ以上
生産できないという、ぎりぎりの
生産限度の倍以上の注文を受けて、それを遂行して、しかもそれを戦争に役立たせようとする、こういうようなことを今たくらんでいるわけでございまするが、そういうことよ
つてさらにさらにく
労働強化がひどくなり、
労働災害が激増して来ることは明らかであります。
ところが、そればかりではない。最近
労働災害の
取扱い方について、実に常識を逸した
取扱いが出て来ておるのであります。というのは、昨年以来
労働災害が
増加した結果、
災害保険が
赤字にな
つて来た。そこで当局は、
労働災害の
取扱いをできるだけ少くするように
資本家を指導しておるようでございます。その証拠には、あちらこちらで、
労働災害であるべきものを
労働災害として扱わないという
取扱い方がどんどん出て来ておる。これは
保險関係ばかりではありません。たとえば
特別調達庁関係のLRの
労働者などについてみます。と、横須賀の
事業場などでは、
職場の
監督が
労働災害をよけい扱い過ぎるというので首にな
つている例があるわけであります。
つまり労働者が
職場で
災害を起す。当然
労働災害保險なり、あるいは
労働災害手当なりをもらう権利があるわけであります。ところが、そうすると会計が
赤字になるというので、それを
労働災害と認めないで、本人の不注意であるとか、その他いろいろなりくつをこねて、そういうものを認めない
傾向が出て来ておる。それを公平に
労働災害というふうに認めようとすると、その
監督は、どうもお前は無能力であるということで首になる、こういうことが出て来ておる。
ところが、この
法案の
改正は、ますますそういうような
傾向を促進させるわけでございます。というのは、
労働災害の多いところの
保險料率を
引上げるというのでありますから、
資本家は、自分の利益からい
つても、
労働災害保險の
取扱いを少くした方がよろしい。そこで、まずまずも
つて労働災害の
取扱いを少くする。だから、
労働災害を減らすのではなくて、正式な
労働災害を
労働災害として扱わないような
取扱いをふやして、それによ
つて災害保險の
取扱いを減らす。これがこの
法案の目指すところになるわけでございます。これは
法案にはそう書いてないけれ
ども、現在の
労働者が圧迫されておる
状態、
労働組合が圧迫されておる
状態、こういうものから見れば、当然そういうところへ行くわけであります。
従つて、われわれは断じてこれに
賛成するわけには行かないわけでございます。
しかも、私
どもが
委員会で質問しても、どうしてもわからなかつた点は、たとえば
日本の
労働者が、
横浜港外で働かせるということで、どんどん
——へ連れて行かれておる。そして、その
——に連れて行かれた連中が、あつちで
——に
従つて死んでおる。その遺骨もどんどん買え
つて来ております。こういうことに対しての
取扱いはどうするのか、これに対しては法規があるのか、こういうことを質問した際に、
労働次官は、
はつきりと、そういうものに対しては法的な
規定はない、こういうことを言
つておる。われわれから申しますれば、
日本人を
横浜港外で働かせるということで
——へ連れて行くというのは、いかにもぺてんであります。実にけしからぬことである。なるほど
——は
横浜港外かもしれない。
横浜港内でないことはきま
つている。だけれ
ども、そういうことで
日本の
労働者を
——に連れて行くというのは、これは
日本の憲法にも違反する重大な問題だと思
つているのでありますが、同時にそういうものに対する何らの
補償も法的にはない。
それから、こういうような
法律があ
つても、それを無視されている例は山のようにたくさんございます。現に私の住んでおりまする
神奈川県でも、平塚の営林署の管内にある丹沢の山の中で、二月二十四日に、トロツコがひつくり返
つて事故を起し、
死傷者を出している。ところが、その死者の
葬儀代だけは出しているけれ
ども、それに対する
補償、あるいは
重傷者に対する
補償は何らなされてない。そのために今大闘争が持ち上
つておるわけでありまするが、そういう事例さえもあるわけであります。こういうような、まつたく
法律を無視したやり方の中で、こういう
法案の区々たる
改正をする、これによ
つて労働災害を防止するなどということは、おこがましい。そればかりではなく、さつき申したように、
労働災害を
労働災害として扱わないような
扱い方が促進される。これは
労働行政ではなくして、
国連で指摘され、批判されておるような
日本の
労働行改の弾圧的な性質、こういうものをますます促進する道具として使われる。この意味から、われわれは断固として
本案に
反対するものであります。(
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