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国務大臣(
吉田茂君) 今回の
ダレス大使一行の
日本訪問に際し、私及び
政府係官が
大使その他と話し合つたことの
内容につきまして、お話いたします。
今回の
話合いは、
講和條約の交渉または下相談というものではなく、
講和及びこれに関連する諸般の問題について互いに隔意なく
意見を交換いたした次第であります。今回の
話合いを通じて私が特に深く感銘いたしましたことは、
わが国に対する
米国の好意の銘すべきものがあることであります。これは敗戦の旧
敵国として
日本を見ていないというだけのことではありません。
米国は
敵国としての旧怨を忘れるばかりでなく、進んで
日米両国が
民主自由主義諸国の一環として
共同防衛の責任をわかち、将来の長きにわた
つて友交関係を結ぶことを希望しておる熱意を示されたことであります。(
拍手)
私は、
わが国として新しき将来の運命を開拓して行くについては、
民主主義諸国、特に
米国と緊密に協力して行くべきであると、かねがね信ずるものであります。この点は、
国民大多数も最も同感するところであると私は確信いたすものであります。(
拍手)
従つて、
米国政府がかように寛大、友好的な態度を示されることは、
日本の将来のために、はたまた東洋平和のために、まことに御同慶の至りであります。(
拍手)
米国政府が
日本との
平和條約について抱いておる
構想は、いわゆる七
原則に示されておるのであります。この七
原則は、
平和條約に取入れらるべき
内容のほとんど全般を盡しているものであります。その
内容は、各位においてすでに御
承知のことでありまするから、ここに繰返しません。
米国がこのような
情想を提示しているゆえんも、前述の
根本方針に照して考えるときは、初めてよく了解せられるのであります。われわれとしては、このような
米国の対
日講和方針が他の
関係諸国のいるるところとならんことを念願いたす次第であります。
講和に関連して最も問題となるのは、
わが国の
安全保障の点であります。
安全保障は、
国内の
治安確保と、
外部からの
侵略の排除という両面があるわけであります。一国の安全は自力で確保するのが
根本であることは、私が従来常に申しておるところであります。
国内の
治安は、
現状においても、こうも懸念なしと信ずるのでありますが、ますます
警察治安の機関を充実いたしまして万遺憾なきを期する考えであります。しかし、対外安全の面については、現在の
日本としては、
独力のみでは確保いたしがたい場合も想像しがたくないのであります。さらに
わが国のみならず、
国際情勢の緊迫せる
現状において、いずれの国も
共産主義の侵攻に対して
共同防衛をも
つてするのほかなく、(
拍手)
独力をも
つて安全を保障し得ない
現状にあるのであります。今回の
話合いに際して、
ダレス氏が、さしあたり、もし
日本が希望するならば、
日本に対する
外部からの
侵略を排除するために、
米国の兵力による援助を興うる用意があるとの意向を表明せられたのであります。(
拍手)この
米国と
協力関係に入るということは、
国際の
現状のもと、最も適当した策であります。また
国民の大多数が心から歓迎するところであると信ずるのであります。(「
ノーノー」
拍手)私は、この趣意により
話合いを進めた次第であります。
われわれが、ただ一方的に他国から安全を保障されるだけで、みずからの国土を守るのに、みずからは何らの犠牲をも拂わないということは、
国民としての自尊心がこれを許さないところであります。(
拍手)また
世界平和確保のため協力するということは、
平和愛好国としての責務であります。
日本の果すべき役割の
内容と
範囲は、
日本が
独立を回復し、
自由諸国の社会に対等の一員として仲間入りをいたしました上で、
わが国力の回復の度合いに応じて将来において決定せらるべきものであると信ずるのであります。(
拍手)この点は、
ダレス氏も最もよく了解せられたところであります。
その他七
原則に含まれている広汎な
事項について、
米国の
構想を聞き、領土、
国連加入、
民主的改革、賠償、
在外資産、
戰争犯罪人、
通商経済、漁業、
文化交流など、
わが国民の最も
関心の深い
事項については、十分に話し
合つたのであります。その結果、十一日の発表の
双方のステートメントにあります
通り、すべての点において
双方にとり最も満足すべき了解に到達いたしましたことを欣快といたします。(
拍手)そのうち
米国の特に
関心を有する
東太平洋の漁場については、わが方において一方的に
自発的措置を講ずることによ
つて暫定的に解決いたしたのであります。
米国は、今回の結果を
考慮に入れて、
平和條約締結のため、他の
連合国とさらに折衝を重ねられることとな
つております。私は、今回の
ダレス使節団の
日本訪問が、
講和問題解決に一段の促進をすることと信ずるのであります。またそうあることを衷心から希望いたしてやまないのであります。
講和問題が、かように推進せられるに至りましたことは、
マツカーサー元帥の
日本に対する日ごろの深い理解と、多年の間の不断の支援によるところであります。特にここに
諸君とともに謝意を表したいと思うのであります。(
拍手)
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