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1951-03-08 第10回国会 衆議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年三月八日(木曜日)     午前十一時二十九分開議  出席委員    委員長 安部 俊吾君    理事 押谷 富三君 理事 北川 定務君    理事 田嶋 好文君 理事 猪俣 浩三君       鍛冶 良作君    佐瀬 昌三君       古島 義英君    松木  弘君       眞鍋  勝君    山口 好一君       上村  進君    加藤  充君       世耕 弘一君  出席国務大臣         法 務 総 裁 大橋 武夫君  出席政府委員         人事院総裁   淺井  清君         法制意見長官  佐藤 達夫君         検     事         (法制意見第四         局長)     野木 新一君  委員外出席者         專  門  員 村  教三君         專  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月八日  委員梨木作次郎君辞任につき、その補欠として  加藤充君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 三月七日  角田町に簡易裁判所設置の請願(安部俊吾君外  一名紹介)(第一〇七〇号)  の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  商法の一部を改正する法律施行法案内閣提出  第四二号)  法務行政に関する件     —————————————
  2. 安部俊吾

    安部委員長 これより会議を開きます。  法務行政に関する件を議題といたします。発言の通告がありますから、通告順によつてこれを許します。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 法務総裁にお伺いしたいことは、近ごろ検察官のことでいろいろ問題になつておるようでありますので、問題になつておる点を明確にしてもらいたいと思つて質問するのであります。  そこで第一番にお聞きしたいのは、検察官特殊性であります。いわゆる一般公務員と対比いたしましてどういう性格を持つておるものか、また身分保障はどのようにお考えになつておるかを伺いたい。
  4. 大橋武夫

    大橋国務大臣 公務員といたしましての検察官性格は、これを裁判官並びに行政官という分類の上から申しますると、行政官であると考えます。しかしながらその事務は、個人権利義務、しかも身体の自由あるいは名誉というような、重要な事柄関係した仕事を担当いたすのでございまして、これにつきましては、その職務の厳正公平、正をふんで恐れずという心構えをもつてこれを行う必要がありますので、検察官がその良心に従つて自由に活動のできますように、これを保護することがこのために必要であるわけでございまして、これがために特に検察庁法におきましても、第二十五條におきましてその地位保障するという規定を設けてあるものと考えておるのでございます。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第二十五條によつて身分保障規定せられておりまするが、さらに一般公務員としての保護は、この規定によつて廃除せられておるものか、それとも公務員公務員としての身分保障があつて、その上にさらに検察官身分保障が加わつておるのか、この点をお伺いしたいと思います。
  6. 大橋武夫

    大橋国務大臣 検察庁法第二十五條規定は、公務員としての検察官に対し、一般公務員に対する公務員法による保護のほかに、特別の規定として定められてあるものと解釈しております。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さらに重ねてお聞きしたい。それでは、裁判官検察官との差異はどの程度のものでありますか。
  8. 大橋武夫

    大橋国務大臣 旧憲法時代から、裁判官職務独立性というものがございまするので、特に裁判官個人保護においては、完全欠くるところのないようにする必要があるという趣旨に基きまして、裁判官に対しましては、免官転官転所職務停止等身分上に関する重要事項、また報酬の減額というような事柄に対しましては、すべて本人意思に反してこれを発令することができないように、最も手厚い保護をいたしておつたのでございます。これに対しまして検察官につきましては、同じく重要なる人権に関係ある職務でございまするが、しかしながらその職務は、自己の良心に従つて行動するのみならず、これに対しては検事一体原則によりまして、上司の指揮監督によつて、厳正公平、誤りなきを期するという措置を講じてありまするので、その身分保障につきましても、裁判官よりは多少手厚さにおいて異なるところがあつたわけでございます。従いまして免官職務停止俸給減額につきましては、検察庁法第二十五條により保障をいたしてあるわけでございます、転官等につきましては側ら規定をしていないわけであります。但し、それでは転官についてはまつた保障がないかと申しますと、公務員法によりまして、従来よりも地位の低い官職に転ぜられることに対しては、公務員法による保障によつて、その意思に反してこれを行うことは原則としてさしとめるということに相なつしおります。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それはその程度にしておきまして、さらにそれでは検察官に対する任免のいわゆる人事権はだれが持つて、どういう方法で行使せられることになつておるのでありますか。
  10. 大橋武夫

    大橋国務大臣 検察官一級検察官及び二級の検察官ということに相なつております。一級検察官と申しますものは検事総長次長検事検事長、これが一級と相なつておりますが、これらに対しまする任命は、内閣において権限を持つことになつておるのであります。従いまして、法務総裁の提案によりまして閣議決定の上発令をいたします。そしてその発令の方式といたしましては天皇の認証を受ける、こういう順序を経るわけであります。その他の検事はすべて二級でありまするが——ちよつと訂正をさしていただきます。検事は、認証官たる検事一級、二級の検事、こういうふうにわかれておりまして、ただいま一級検事として御説明を申し上げましたことは認証官たる検事誤りでございまして、この点を訂正さしていただきます。その他の一級、二級の検事につきましては、認証式を行わずして任命をいたすものでございまするが、これは法務総裁において任命するということに相なつております。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこでさらに具体的に伺いたいのは、検察庁法第二十五條に「その意思に反して、その官を失い」と書いてありまするが、「その官を失い」という意味は、具体的にどういう内容を持つておるものか、伺いたいと思います。
  12. 大橋武夫

    大橋国務大臣 「官を失い」というのは、免官という意味を持つものということに解釈いたします。なおその詳細の理由についてお尋ねがございますれば、法制意見長官からお答えいたします。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それは具体的に伺いたいです。まず官あるいは検察官としての任免であろうと思うのでありますが、同法第三條との関係においてこれを明白にしておいていただきたいと思います。長官からでよろしうございます。
  14. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 御指摘の、第二十五條にあります「その官」と申しますのは、ここの文字に現われておりますごとく、検察官は「その官を失い、」とございますから、この場合の「官」は検察官というものを受けたものと考えております。ただこの第二十五條條文を離れまして、平たく第三條等と対照しつつ、官とは何ぞやということを検討いたしますならば、これは広い意味の官と狭い意味の官と二通りあると申し上ぐべきであろうと思います。従いまして、この第三條にいつておりますように、「検察官は、検事総長次長検事云々とすると、ここに列挙されておりますものは、狹い意味においての官であると解釈して妨げないと思います。但し先ほど申し上げましたように、第二十五條にいつております「その官」と申しますのは、この文字からも明らかでございますように、広い意味の官を押えたというふうに考えております。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 重ねて伺いますが、それでは第三條に、「検察官は、検事総長次長検事検事長検事及び副検事とする。」こうありまするのは、検察官たる官の中にこういうものが入つておる、こう明記したものと心得ていいのでしようか、それともこれらのものは独立の官と解釈すべきものか、これをもう一ぺん明確に伺いたい。
  16. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 たとえて申しますれば、検察庁法にいうこの検察庁というのは、一つの庁であることは当然でございますが、さらに第一條に明らかでありますように、「検察庁は、最高検察庁高等検察庁云々とするとありますので、「そのいずれが庁であるかといいますれば、片一方は広い意味の庁であり、片一方は狭い意味の庁であるというのと同様に、ただいまの御質問につきまして、この検事総長次長検事が官ではないかと言われれば、これも官であると申し上げざるを得ないのであります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もつと具体的に聞きたいのですが、検事長なり次長検事が職を転じて行き、そしてさらにほかの検事長に行きますとすれば、一旦官を失つて、また新たに官を得るものなのか、それとも官は失わないのだ、ただ職が違つて来たのだ、こう解釈すべきか、その点をお伺いいたします。
  18. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 次長検事検事長にかわるのには、次長検事が一ぺんその地位失つてしかる後に検事長という官職につくという観念になるかどうかということがお尋ねの要点だろうと思いますが、この点はきわめてはつきりしておりまして、われわれの多年の人事の扱い方、その形式から申しましても、ただいまの例にありますような普通の転任の場合におきましては、あくまでも今までの官名がそのままくつついておつて、そうしてその人に次の新しい任官がなされて、新しい任官がなされます以上、兼任でない以上は、前の官職は事実上消えるという考え方になつております。実際の例で申し上げると、きわめてはつきりいたしますが、一ぺん免官して、そうして新たに任官するということは、もちろん不可能なことではございません。その場合、法務事務官何のたれがしを罷免して、新たに今度は法制意見長官任ずるという場合の辞令を考えますと、一ぺん法務事務官を罷免された人を、今度法制意見長官に任ぜられます場合には、ただ裸の肩書のない佐藤達夫という、普通の一般民間人任命するのと同じ形の辞令になります。ただ裸の佐藤達夫に対して法制意見長官任ずるという辞令になります。それから法務事務官である者を転任の形で法制意見長官にいたします場合の辞令を申し上げますと、法務事務官佐藤達夫法制意見長官任ずるというて、あくまでも前の肩書がそのままついております。そうして新しい官を取得しますと、兼任ということが認められない以上は、前の官は当然消滅するということでありまして、辞令形式から申しますと、その点はきわめて明確であると思います。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、かりに札幌検事長仙台検事長にかわつて来たときには、一旦札幌検事長たる——札幌でなくともいいですが、検事長たる検事資格失つて、そうして新たにまた仙台なら仙台検事長たる検事資格を得るのか、検事資格はなくならないけれども、検事長たる資格だけがかわつて来て、前のはなくなるものか、それをはつきりしておいてもらいたいと思います。
  20. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 先ほど職という言葉がございましたが、ただいまの事例は、職と言いますか、むしろその配置の問題になりまして、検事長勤務先というものは、官名と申しますか、検事長という名前にかかわらず、勤務先がおのおの規定されるという形でございまして、ただいま申しましたような、たとえば任官形式とか転任形式とかいうものなしに、簡易な配置の問題として手続が行われる、ちようどある所の検事正を他の検事正に移すという場合と同じに考えております。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の聞かんとするのは、それでは検事長検事長でいいとして、次長検事検事長になる場合、また検事正検事長になる場合、もちろん検事正たる職はなくなりますが、検事たる職も失われるのか、もつと具体的にいえば第二十五條でいう、免官ということにはまるのか、免官でないのか、こういうことになるのです。
  22. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 これも明らかなことでございまして、次長検事検事長に転ぜられますれば、次長検事でなくなり、検事長になることは明瞭でございますが、検察官たる点においては少しもかわりはないということになります。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それから今ちよつとおつしやいましたが、検察官公務員法適用があるといたしますと、官と職——公務員法に出ておりますこの点の区別はつきりせないのでありますが、どう区別したらいいかを伺いたいと思います。
  24. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 一応私からお答えいたします。あと淺井総裁から…。私の承知しております限りにおきましては、公務員法は御承知通りに、職階法もありますが、要するに新しい職階制度におきましては、今までわれわれの頭にありましたような官とか職とかいう区別はもうなくなつておる。新しい公務員法制度のもとにおいてはなくなつておるというふうに考えております。
  25. 淺井清

    ○淺井政府委員 私から補足させていただきたいと思いますが、ただいま佐藤長官から申し述べましたように、公務員法建前といたしましては、官と職との区別はないということに一応相なつております。つまり任官補職というものの区別はないのが、新しい公務員制度一つ性格でございます。ところが現在におきましては、二つの意味におきまして任官補職というものが区別されておるように思います。第一は、一般行政官吏におきましては、まだ過渡期にございまするため、つまり職階制の完成に向いつつある過渡期にございまするために、事務官、技官、教官という官が、職と別にあるわけでございます。でございますから教官任命せられ、何々大学教授に補すというような形が残つておるように考えております。それからもう一つは、憲法その他の建前上、どうしても任官補職とが別々にならなければならないものが存在しておるように思うのでございます。これは下級裁判所裁判官の場合、いわゆる高等裁判所以下の場合でございまして、この場合は任命権内閣にございますが、補職まで内閣で取扱いますことは、これは司法権独立建前からいけないというようなこともございましようか、御承知のように裁判所法では下級裁判所補職最高裁判所で行う、さように相なつております。そうすると任命補職ということがわかれて来るようになつております。そこで具体的に申しますれば、検察官の場合でございますが、検察庁法第三條にいうこの検事総長以下の者は、官であると人事院といたしましては考えております。すなわち検事総長も官でございますれば、次長検事検事、副検事も官であると考えておりまするが、同時に検事総長次長検事は職であろうと思つております。でございまするから、検事総長任命すると発令がございますれば、これは任官補職両方に兼ねたものであろうと思つております。ただ検事長の場合に相なりますると、検事長任命するとありまして、次にどこそこの検察庁検事長任命するということになりますれば、補職がわかれて来ることに相つておりまするが、ただいま申し上げました理由で、公務員法建前といたしましては、これはなくなるのでございまするが、今申しましたような過渡期にある場合と、それから裁判官検察官のような特殊性のある官吏に対しましては、任官補職とが違つておる、かように相なつております。
  26. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大分明確になりました。進んで検察官に対する身分保障趣旨は、先ほど裁判所のもので大体わかりましたが、もう一ぺん承りたいのは、第二十五條によつて保障されておることは、どこまでも不利益になる場合だけに保障されるものか、それとも不利益にならぬでも、身分のかわる場合に、今の言葉でいうと、職及び官がかわる場合に保障されるものか、この点を重ねてお伺いいたしたいと思います。
  27. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 まあわれわれ自然に読みまして、第二十五條は「その意思に反して、」とございますから、おそらく利益の場合はその意思に反することはないということになるでありましよう。要するにその意思に反してこういう処分を行うことを禁止しておる。簡單に申し上げればそういうふうになります。
  28. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると官及び職において不利益でないものを、かりにそれをその意に反したこをとして拒んだとすれば、これは俗にいう一種のだだをこねるものと心得てよろしゆうございますか。
  29. 大橋武夫

    大橋国務大臣 利益不利益をいかに考えまするかは、通常の場合におきましては、まず客観的な標準のもとに、ある転任本人利益であるか不利益であるかということをきめると思うのですが、しかしこの転任を命ぜられます本人にとりましては、本人個人的な事情から、一般には不利益と認められるものが逆にかえつて利益であつたり、またその逆であるというような場合もあろうかと存じまするので、利益不利益ということをまず定めることがなかなかむずかしい。従いまして、ある転任交渉に対しまして、これを拒んだからといつて、一概にいわゆるだだをこねておるというふうに取扱うこともいかがと存ずるのであります。要するに拒む場合におきまして、その拒むことについて何人も納得するに足るような理由が、主観的にしろ、客観的にしろ、ある場合においては、これはだだをこねておるというふうに言うわけにはいかぬと思います。
  30. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私のそれを聞かんとする本意は、不利益の転職ではないのだが、自分一個の都合上、今までのところがいいと思う、こういう場合に、そういうときには第二十五條適用がないのだからといつて本人意思に反して強行できるのか、それとも本人意思に従わなければならぬのか、その点を聞いたわけであります。
  31. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私は検察官転任につきましては、第二十五條保障というものが、そこまで包括しておるものではない、こう解釈をいたしております。しかしながら従来からの司法部内におきまする慣行といたしまして、裁判官の場合と同様に、検察官に対しましても、転任についてあらかじめ本人の意向を確かめて、できるだけ本人意思を尊重して、その異動発令するというような慣行が存在いたしておつたのであります。このことは旧憲法時代におきまして、裁判官転任に対し憲法による保障があり、また検事に対しましては、何らの保障がなかつたそのときにおきましてすら、この検事官転任については、そういうふうな慣行的な習慣が確立しておつたのでありまして、私はこの慣行検察官職務の公正というものを確保いたします上からいつて、きわめて適切な手段である、こう考えておるのであります。従いまして、検察官人事におきましても、第二十五條法律的な要請はなくても、実際上の運用といたしましては、できるだけ本人意思を尊重して、転任発令すべきものであるという建前のもとに、これまで異動行つて参つたのでありまして、またこのことは、今後といえども、検察の公正なる人事、また検察官職務の執行を厳正公平ならしめる上からいいまして、その地位に安んじて職務を行わしめるという趣旨から、やはりこの慣行はあくまでも尊重しなければならぬ、かように考えておる次第でございます。
  32. 鍛冶良作

    鍛冶委員 われわれもそうあつてほしいと思つております。また今後もそうあるべきものと思いまするが、いくら尊重するといいましても、任免権を持つておる者の見解もしくはその当時の職務都合上、その本人意思に従つておれぬという場合には、これは第二十五條にいう不利益なる転官でない以上は強行できるものであろうと思いますが、もう一ぺん伺つておきます。
  33. 大橋武夫

    大橋国務大臣 納得できるような合理的な理由が示されずして、転任交渉が拒まれました場合において、その人事検察部内の人事行政の上からいつて、どうしても必要であるという場合におきましては、本人のために生ずるところの不利益と、国家のために生ずるところの利益とを比較較量いたしました上、国家要請としてこの人事を強行することが必要であるという確信を得るに至りましたならば、責任者といたしましては強行することもまたやむを得ないのではないか、かように考えておるのであります。しかしさような場合におきましても、できるだけの手段を盡すことによつて、円満に人事を運営するということが私の望ましいところでございます。
  34. 鍛冶良作

    鍛冶委員 具体的に承りたいのですが、最高検次長検事が他の検事長転官するということは、不利益と見ておりますか、それとも昇進でありましようか。これは今までの慣例その他法律的にあるならば、なおさら明確にしていただきたいと思います。
  35. 大橋武夫

    大橋国務大臣 法律形式の上から申しますると、どちらも認証官たる一級検察官でございますから、形式的にはこの転官本人不利益であるとは思われないのであります。特にさらに形式を主張いたしまするならば、次長検事検事総長に対する一補佐機関であり、しかも検事長というのはこれは長官でございますから、そういう意味におきましても、決して検事長不利益地位であるとは考えておらないのであります。ただ具体的の場合におきまして、木内君が検事長転任に対してあらかじめ同意を与えられなかつたその場合に、木内君がこれは不利益なりと判定されたか、利益なりと判定あれたか、それは私の方では確めてはおりません。
  36. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ここでもつと根本的に承りたいのは、先ほどもちよつと申し上げたのでありますが、検察官転任及び転官の場合に、第二十五條解釈だけでよろしいか、それとも国家公務員法第七十五條及び第八十九條との関係において、支障なく両方法律が行くものでありますか、この点明確にしていただきたい。
  37. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 先ほど前提として法務総裁から申し述べました通りに、検察官公務員法上の一般職でございますから、建前として公務員法は全面的に適用になりますが、ただ第二十五号がその特例となつております関係上、第二十五條に該当する部分だけは、さらに保障が強くなつておるわけでございます。私どもの考え方から申しますれば、この第二十五條転任転官の場合の保障には触れておりませんから、その部分はただいま御指摘公務員法の問題となるわけでございます。従いまして公務員法上におきましては、ここに淺井総裁もおられますけれども、第七十八條においてその意に反して降任し、または免職する場合の規定がされておるわけでございます。この場合において降任し、または免職とございますからして、ただいまの同等の官職の間における転任は降任の問題にはならないわけでございます。従いまして第七十八條の問題にもならない。さらに先ほど御指摘のありました不利益云々のことがございます。ただいままたお話にありました第八十九條の問題でございますが、職員の意に反する不利益処分に対する審査というものがございますが、この不利益処分と申しますのも、客観的に見て不利益である、だれが見ても不利益と思われる、たとえば階級が下つた、あるいは免職されるとか、あるいは俸給が下げられるという場合についての審査規定しておるのでございまして、本人個人の特殊の理由によるいわゆる不利益とするものまでも、ここで保護しておるかどうか、私はこの條文からはそこまでの保護は出ておらぬというふうに考えるわけでございます。
  38. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もつと立ち入つて承りたいのですが、かりに第二十五條によつて不利益にあらずとして転任その他をやつた場合に、本人がこれは不利益だと思つたならば、さらに公務員法適用があるのだからというので、第八十九條によつて身分保障に関する規定を主張できるかどうか、こういうところまで承りたいと思います。
  39. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 法文を見ましても明らかでございますように、本人不利益なりと認めます以上は、一応人事院に対して申し立てることはもちろん可能でございます。
  40. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると検察庁法第二十五條ではできないけれども、そういう場合に、これはやつてみなければわかりませんが、公務員法第八十九條の第二項によつてこれは非常に不利益だ、こういうので説明書の交付ですか、そういうことはできるわけですね、やろうとすれば。
  41. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 たとえば本人不利益だと思い込んでおるにかかわらず、任命権者の方は不利益と思わずに理由書をつけずにやつてしまつた、そういう場合に本人は不服として人事院に訴えることは可能であろうと思います。ただ人事院がそれをお取上げになるかどうかわかりませんが、それはお取上げにならないのが多いのではないかというふうに考えます。
  42. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ほぼ明瞭になつて参りましたが、これは法律論を離れて少し政治論になりますが、今問題になりました木内次長検事転任について、世上いろいろ問題がありますので、法務総裁の所見を承つておきたいと思います。今日本内次長検事転官せしめなければならなかつた理由及び経緯等はいかがなものでありましようか。
  43. 大橋武夫

    大橋国務大臣 このたび検察庁異動の問題につきまして、世上いろいろと注目の的となりまして、またこれに関連いたしまして毎日新聞紙上をお騒がせいたしておるということは、私といたしましてはまつたく不徳のいたすところと深く反省をいたす次第でございます。ただいまお尋ねをいただきましたので、この機会にこの異動についての私どもの考え方を、経過に従つて申し上げたいと思うのであります。  実は昨年の六月に私法務府に入つたのでございまするが、七月の十四日に、検事総長が停年で退職をされました。福井検事総長でございます。従いまして後任の検事総長任命しなければならぬということになつたわけでございます。そこで私はこの後任の検事総長の人選に着手をいたしておつたわけでありまするが、そのために各方面の人々にお会いをいたし、また部内のいろいろな諸君にもお会いいたしまして、検察庁の全体の人事というものについての自己の認識を深めることに努力を続けておつたのであります。この間において私が感じましたことは、従来検察部内におきまして、いわゆる塩野閥、反塩野閥なるものが存在をいたし、その間において人事をめぐつて相当の確執がある。これはこの派閥に関係をしておると称せられまする各個人については、ほとんどみずから意識しておられないかもしれませんが、しかし部内の一般にそういう認識があり、また社会一般におきましても、さような認識を持つておられるように見受けたのであります。そして塩野閥の代表的な人物と目せられておつたものは岸本広島検事長であります。反塩野閥の頭目と考えられておつたものが木内次長検事であつたのでございます。私は従来各官庁におきまして、公務員の間におきまする派閥の存在、しかしてその派閥間の確執というものが、いかにその官庁の能率を阻害いたし、国民の信頼を裏切つたかという事例をあまた見聞いたしておりますので、国家治安の重大なるこの時期におきまして、真偽は別といたしまして、さようなる派閥が存在するといううわさが立つだけでも、これは重大な問題である、こう考えたのであります。従いまして検事総長人事というものは、検察部内最高の人事でございまして、この人事もまた派閥抗争に全然無関係に遂行することは不可能である。必ずや派閥間の抗争に何らかの影響を及ぼすものである、こう考えまして、私はこの検事総長任命という機会に、検察部内派閥の一掃を企図することが、自分の使命である、こう考えた次第でございます。私はかようなる構想のもとに、両者の派閥の間にありまして、比較的穏健なる立場に立つておられたところの佐藤刑政長官を中心とし、この派閥の解消を企図いたしてみたい、こういう構想を抱懐するに至つたのであります。  元来両派閥の代表者と称せられておりまする木内次長検事にいたしましても、岸本広島検事長にいたしましても、このお二方はいずれも司法部内におきましてすぐれた検察官として、多年その手腕をうたわれた方々であり、また部内の信望のおもむくところ、おのずから二つの派閥の代表的な人としてうわさを立てられたのでありまして、私はこの検察界におきまする至宝とも目すべきお二人が、真に検察のため協力一致をいたすということによつて、初めて検察の全能力を発揮し得るものと、かように確信をいたしたのであります。そこで検事総長任命いたします場合においては、この検事総長任命ということを契機といたしまして、この派閥関係の根本的な解消ということをできるだけ考えてみたい、こう思つたのであります。  そこでもう一つ、私がこの検事総長人事に関連いたしまして、次長検事をも動かしたいということを考えましたのは、従来私長らく内務省におりまして、内務省におきましては、絶えず中央、地方の職員の入れかえということが言われておつたのでございます。御承知通り、旧内務省におきましては、警保局、土木局、地方局、衛生局、きわめてその職務の範囲が広汎でございます。従いましてかようなる役所におきましては、中央の仕事というものは非常に專門化しておりますから、中央、地方の入れかえということが必ずしも能率向上のゆえんでない、こう私は内務省在官中には考えておつたのでございますが、これに反しまして検察庁事務というものは、まつた検察一本でございますから、中央においても地方においても、その仕事というものは根本的に一つである。そしてすべての検察官がこの検察事務に習熟いたしまするためには、あるときは中央において全般的な企画の仕事に携わり、またあるときは地方の第一線にあつて実務に携わる。この両者の経験を積むということが、真に検察官の向上のため必要であるばかりではなく、さようにして検察事務の中央、地方の表裏を通暁しました検察官が首脳部に存在するということが、検察の能率発揮のため必要ではないか、こう考えまして、私は特に検察の幹部の人事におきましては、絶えず一定の期間を週期といたしまして、中央、地方の交流ということをやる。地方にいる者はいつも地方の下積みになり、中央の者は絶えず中央の要職にするというようなことは、かえつて個人の修練の機会を逸するばかりではなく、全体の人たちの気分も沈滞せしめるおそれがある、こう考えまして、中央、地方の入れかえということもこの人事の上において必要である、こう存じたのであります。  もう一つ、この中央、地方入れかえということを進めますと、木内次長検事は終戰後ほとんど東京に在勤しておられます。従いまして私は適当なる機会におきまして、木内次長検事が第一線の検事長として、地方第一線の体験をさらに深くされることが、御本人のために必要であるのみならず、検察首脳部が中央にのみおり、地方の実情からうとくなるということは、検察界のために一つの不幸である。一面岸本検事長は終戰後ほとんど地方におられまするから、地方において十分体験せられたる実際的の知識経験をもつて、この中央企画に参画してもらうことが必要である。ことに終戰後のわが国の状況というものは、従来百年にして変化するところを一年にして変化するという、実に変転目まぐるしい世相でございまするから、過去の中央の経験をもつていつまでも中央の企画に当るべきでなく、非常にかわつて来た地方の実情をはつきり把握した方が中央に来るということも必要である、こう存じたのであります。  話は前後いたすかもしれませんが、もう一つ木内次長検事にこの際転出していただいた方がよい、こう思いましたのは、これが一つの派閥解消の契機になり得る可能性がある、こう私は確信をいたしました。司法部内におきまする派閥は、伝えられるところによると長年のことでございまして、これが解決につきましては、なかなか一通りのことでは参りません。派閥の解消ということは、いわば両者の和解ということでございます。和解においては、常に優位にある者がその利益の一部を相手方に与え、そうして相手方の感謝の念を基礎として和解をして行く、こういうことが私は適切ではないかと思つたのであります。木内君は長らく中央において中央の地位を固執しておられ、一方において岸本君は、しばらく地方におられたので、私はこの機会に、木内君が大悟一番、自分は長く東京におつたから、この際ひとつ地方に出たい、ついては君が東京へ来ておれのかわりにやつてくれ、おれはしばらく大阪で勉強して、地方から君に協力しよう。木内君のこの大乗的態度に対しましては、岸本君も必ず感情的に感謝の念を持たざるを得ないであろうし、ここに両者がほんとうに握手をし、相携えて日本の検察の一体化を完成し、あらゆる派閥を解消する一つの機縁があり得る、こう私は確信をいたすに至つたのであります。そうして佐藤検事総長を中心にいたしまして、この機会に木内、岸本両君をして真に握手せしめ、将来においてはいたずらに自己の利益を相互に主張することなく、互いに相手のためを考え、ある者は中央より喜んで地方の任地におもむき、そのかわりに相手は中央に入つて来る。まに適当な機会において、地方において相当の体験を積まれた岸本君が中央に帰られ、そのあとに木内君が喜んで出て行かれる、こういう態勢ができ上つたならば、これこそ一つの和解であり、そうしてかような手段以外に、この派閥解消ということは私としては考えられなかつたのであります。  今から考えてみますると、私のこの考え方というものは、あるいは非常に甘い見通しであつたという御批判があるかもしれません。また結果的に見まして、その御批判に対しましては、潔く服しなければならぬと存ずるのでありますが、当時の私の心境といたしましては、さような考えをいたしたわけであります。そこで私は、検事総長の候補者と考えておりましたる佐藤刑政長官に対しまして、私のその考えを詳細申し上げましたるところ、これに対しましては、佐藤君もまつたく同感の意を表せられたのであります。ただ佐藤君は、その実現の時期についてはまた具体的に相談をいたしたいということでありましたから、これはまことにごもつともなお言葉でありまするので、私といたしましても了承をいたし、佐藤君と私とはまつたく将来の構想について一致したる意見のもとに、私は佐藤君を検事総長の最適任者として御推薦申し上げた次第なのでございます。かくのごとく、この木内問題に関しまする私の構想は、検事総長更送の当時から十分に佐藤検事総長と話し合つた問題であるということをまずもつて御了承願いたいのでございます。  その後、昨年秋の初めになりまして、私は検事総長に対しまして、かねてから話し合つておりましたこの人事の問題について具体的な相談をいたしたい、こう申し上げまして、久しきにわたつていろいろ御相談をいたしたのであります。人事の終局の目標をどこに置くかという点については、すでにただいま申し上げましたるごとく、木内次長検事と岸本検事長の中央、地方の入れかえ、この点につきましてはまつたく意見が一致いたしておつたのでございまするが、佐藤検事総長は、ただその方法において私と所見を異にせられておることが明らかとなつたのであります。それはどういうことであるかと申しますると、私自身といたしましては、多年にわたるこの派閥を解消するには、相当具体的な荒療治がこの際必要である。そうしてそのためには、ほとんど何人も不可能であると考えておるところの木内君と岸本君の円満なる更迭、直接交代ということを実現いたしまして、この木内君と岸本君の更迭が円満に行われたということを天下に示すごとによつて、この派閥解消の契機とすることが最も適当である、こう考えたわけであります。これに対しまして佐藤君は、その方法はあまり荒療治過ぎはしないか、むしろこの交代をできるだけ円滑に行いまするためには、木内君から岸本君に至りまするまでの間に、中間的に第三者を一時はさむ方がよかろう。そして適当なる時期において終局的に岸本君を次長検事に持つて来る、これがよかろう、こういう御意向であつたわけであります。私といたしましては、自己の考えておりまするところがやはり最善であると確信いたしておつたのであります。この人事たるや次長検事でございまして、検事総長の直接の部下であります。従つてこの問題についての第二次的な責任者はまず佐藤検事総長であるといわなければならない。かつまたこの人事の行われましたる後におきまして、派閥解消という——私と佐藤君の両者が話合いの上、これこそわれわれの使命であると確信をいたしました、この派閥解消に向つて努力を重ね、そうしてこれを実現すべき第一次的な責任者もまた検察界の中心であります佐藤検事総長であるといわなければなりません。そこで私といたしましては、この人事の手続を取運びまする第一次責任者であり、今後派閥解消についての第一次責任者であるところの佐藤君と私と終局の目的において意見が一致いたしまする以上は、多少その実現の手段方法において私と所見を異にいたすところありといたしましても、私は第一次的の責任者たる佐藤君が真にこれを推進いたしまするためには、佐藤君みずからが最善なりと信念をもつて確信するところの人事を認めなければこれはむずかしい、そう思いましたので昨年の十一月に至りまして、私は佐藤君の構想を承認いたしまして、中間的な人物をもつて充てるということはよろしい、終局的な目的において君とぼくが一致している以上は、これを責任をもつて遂行しようとするところの君の構想を承認しよう、こういう態度に出たわけでございます。  爾来佐藤検事総長を中心といたしまして——私もまたこれに協力をいたしたのでございますが、この異動の前提條件となりまする木内次長検事検事長転出についての折衝を開始いたしたのでございます。その当時は、私どは木内次長検事の手腕力量から見まして、検事長に転出されるといたしまするならば、少くとも大阪が適地である、こう判断をいたしまして、佐藤検事総長を通じ、また私みずからも、この検察の派閥解消についての私並びに佐藤検事総長の根本的な考え方を述べ、そしてこの解消の手段としてこれが最も必要であるゆえんを述べ、また将来の検察のために、また木内君御自身の検察官としての将来のために、これが適当であると確信をいたす旨を述べまして、極力これに対して同意を表せられるよう懇請をいたしたのであります。しかしながらこの私並びに佐藤検事総長の一致の努力というものは、遂に昨年中においては効果を上げることができなかつたのでございます。その後今年一月に入りまして、佐藤検事総長が三月八日に出発いたしまして、アメリカに見学においでになり、約二月半の間東京を去られるということが決定をいたしたのでございます。従いまして、この重要なる人事の問題をそのときまでに事前に解決をいたしたい、こういう点について私は佐藤検事総長と意見が一致をいたしましたので、最後的な努力をいたしたい、こういう段階と相なりまして、具体的に大阪の検事長の渡邊君に対しまして、木内君とその地位を交代してほしい、こういう交渉までいたしたのであります。そして木内君が承知をされますならば、この人事は実現できるという見通しが立ちましたので、私は爾後佐藤検事総長をして、二月末までの間にこの人事について同意を表せられるようあらゆる努力をお願いいたしたのであります。  しかるに二月の二十七日でありましたか八日でありましたか、要するに二月のほとんど最後の日に相なりまして、佐藤検事総長がお見えになりまして、自分としてはあらゆる努力を盡しましたけれども、もはやこの問題については万策盡きたという状態であるということを復命せられました。そこで私といたしましては、かねてから検察庁法第二十五條というものの解釈につきまして、一時世上に検察庁側の解釈として伝えられたような、さような解釈があるということも聞いておりましたので、いやしくも法律をつかさどりまする法務府の人事におきまして、法規に違反したところの処分が行われるというがごときことは、これはとうてい許すべきことでございませんから、この点につきましては佐藤法制意見長官を初め、法務府の諸君に対しまして十分愼重に研究をいたすように命じてあつたのでございます。この研究の結果が二月の末に完了をいたしまして、その結果といたしまして先ほど来私の述べましたような解釈が法務府の解釈として確定をいたすに至りました。そこで私といたしましては、この人事というものは私の就任においての一つの使命であり、個々の人の動きがどうということではございませんが、この人事によつて真に重大なる治安を担当しまする検察の能率的運営が可能になる、こう考えましたから、これはあくまでも私の使命として遂行をする必要がある、こう考えまして、すでに佐藤検事総長がこの問題についてあらゆる努力をいたしたけれども、ここに万策が盡きたと言つて来られましたので、この上は私みずからの責任におきまして、私に与えられた権限に基いてこれを解決いたしたい、こう考えたのでございます。  そこで私といたしましては、ただいまも申し上げましたる通り、法務府の法律的な解釈というものについては、私どもは一つの意見を持つておりまするが、これが木内君の意思に反して強行されまする場合においては、必ずこの法律解釈ということが問題になる。またこの法律解釈が問題になるばかりでなく、この人事の内容というものについても、必ずや世上の批判の的となる、こう考えまして、そうしておそらくこの人事を強行するということになりまするならば、各方面からこれを阻止しようという力も必ず現われて来る、こう予想をいたしたのであります。そこでかようないろいろな障害が起るということを私自身が覚悟をいたしまする以上は、私が自己の責任において断行しなければならぬという計画は、当然その主役を演じなければならぬところの私自身が、ほんとうに信念をもつて最善なりと信ずる計画でなければならない。他人の意見に引きずられたり、あるいは第三者の指示によつたり、あるいはまた自己の都合、自己の利益がいささかでも入つておりました場合においては、あらゆる障害の前にこれを強行するという決意は必ず鈍るものであります。そこで私は熟慮の末、自己の良心に考えまして、国家の現状から見、また検察の現状から見、この人事は国民のために絶対に必要であるところの最善の案である、信念に誓つて最善の案であるという強い確信の持てる案でなければいけないと、こう考えまして、後に伝えられましたような人事異動計画をとりきめたわけなのでございます、私はこの計画につきましては、一時世上におきまして、これは党のさしがねによるのではないか、あるいはまたかえつて木内をおつぱらつてそこに新しい閥をつくろうとする私の下心があるのではないかというようなうわさも流れたことを知つております。私はこの計画をつくつた際におきまして、必ずさような声が上るであろうということも予想しておりました。そして私はいろいろな非難を受け、いろいろな障害を乗り切つてこれを断行いたしまするためには、あらゆる角度から見て、世論の批判に耐えるだけの十分な案でなければならぬという確信のもとに、この案を内定いたしたのであります。そうしてこれは木内君が従来の態度を変更されない以上は、必ず私としては強行いたすという決意をいたしまして、そうして先週の金曜日にこの案を佐藤検事総長に内示をいたして、その意見を求めたのであります。佐藤検事総長はこれに対しては全面的に反対であるという旨を申し出られたのであります。しかしながら私といたしましては、すでに第一次的の責任者でありますところの佐藤検事総長は、佐藤君みずからの構想に従つて私の了解を得て全力を盡されましたけれども、万策盡きたと言つておられて、バトンを私に渡されたのであります。従いましてバトンを握つた私がこの苦難の道を切り抜けまするには、私みずからの信念に誓つて最善なりと確信する案でなければ、私としては確信を持つてこれを強行することができないのでございますから、もはや万策盡きたと言つて私にバトンを渡されましたる佐藤検事総長のこの際におきまする賛成反対の意見は、私としては考慮する必要はない、こう考えまして、自己の判断に従いまして、これを強行いたそうという意思を重ねて強く表明いたしたのであります。  そこでこの案は、次長検事にただちに岸本君を持つて来る。そして木内君の任地は大阪にあらずして札幌である。これが当時の案であります。この点につきましては二つの疑問が持たれると思います。それは十日前までは大阪の渡邊検事長木内次長検事と交代しよう、こういう法務府側の案であつたのに、この際において何ゆえに岸本一君を持つて来たか。その事情はただいま申上げましたるごとく、第一次的の責任者でありますところの佐藤検事長の責任において、またその努力においてこの人事を推進するということを考えます以上は、佐藤君がみずから最善なりと考えられる案にして、しかも最後的には私と同一の目的に達し得るのでありますから、手段方法は佐藤君の判断に従つてこれを許すのが私の立場として当然である。しかしいまや佐藤君が万策盡きて私にバトンを渡されました以上は、このたびの責任者たる私みずからの努力によつてこれを解決する以上は、私みずからがいかなる困難の場合においても、確信を持つてこれが最善なりということを主張できるところの私自身の構想がなければならぬ、こう思いましたので、十日前には渡邊次長検事の構想でありましたものが、ここに岸本次長検事という線になつたわけでございまして、事情はそういうふうな趣旨であつたということを申し上げる次第であります。  なほまたもう一つの点は、さきには木内次長検事に対して大阪転出を慫慂しながら、最後の段階に至つて札幌を充てた。このことについて御疑念の向きがあると存ずるのであります。この御疑念は私まことにごもつともなことと思うのでございまするが、実は私といたしましては、この案は、先ほどから申し上げましたような経過から見まして、最後の段階に至りますまで木内君の同意は得られないということを前提といたし、その場合において、これは私の責任において強行するということを前提といたした内容なのであります。木内君が最後まで地方転出に同意せられない、そうなりますと、大阪についてすら同意せられない木内君が、札幌への転出に同意せられることはとうてい考え得られません。これは名古屋にしようが、広島にしようが、どこにしようが、最後まで同意をせられなかつたのでありますから、発令後におきまして、必ず木内君に関連いたしまして、いろいろな支障を生じて来るものと思つたのであります。あるいは赴任を拒絶せられるあるいはこの発令は無効であるというような御主張があるのではないか。これは別に木内君がさようなことを考えておられたであろうということを私どもは想像をいたしてそう考えたのではなく、私といたしましてはあらゆる事態を想像いたしました上でこの案をきめなければならない。強行発令をいたしました場合に木内君が赴任せられない、あるいは辞表を提出せられるということを十分に考え、それに対する対策をもこの案の中に含めておかなければならない。あるいは大阪、名古屋に強行するということになりまして、辞表を提出せられますると、大阪、名古屋の検事長の補充をいたしまするには、その後におきまして少くとも重ねて二、三の検事長級の異動を行わなくてはならなくなります。すなわち一週間あるいは二週間の短期間にさような大規模な検察首脳部の人事異動をやる、またやらなければならないような状態に押し詰められるということは、私といたしましては今日治安の責任者として耐えることができなかつたのであります。そこでどうしても木内君が地方転出をがえんじないということを前提といたしまする限り、あとの手直しの人事ができるだけ手軽に参るということで準備いたさなければならない。それがためには同意せざる以上は、木内君の任地は跡始末の簡單な札幌もしくは高松のいずれかでなければならない、こう考えまして、この二つのうちで便宜札幌といたしたわけであります。このことは決して私は木内君が大阪をけ飛ばしたから、その腹いせに札幌に飛ばせというような了見は毛頭持つたわけではございません。さような自分の感情あるいは自分の一方的な考え方、そういうものがごの案の中にいささかでもありましたならば、私は世の中の批判に耐えて、この案を最後まで囲執するだけの勇気を失うであろうということを想像いたしたのであります。私みずから、これは個人的なものでございまするから、一般からはどういう批評があるかは別といたしまして、少くとも私自身において何ら自分の利害あるいは第三者の勢力あるいは自分の感情こういつたものがいささかでもまじつてつたならば、私としては最後までこれを強行する勇気がくじける。これは少くともたれの前に出しても、私としては信念を持つて良心に誓つてそれが最善の人事である、こう確信をいたす案であつたのでございまして、何らさような腹いせ的な意味はなかつた、まつたく最悪の段階を予想いたしました人事の技術的必要から、木内君の任地を札幌といたしてあつたわけであります。これは大阪を承認せざる以上、木内君が札幌におとなしく行かれるというようなことは、とうていあり得ないだろうという可能性が強く考えられたからであります。しかしこの異動案は、あくまでも木内君が最後まで地方転出を同意せられない場合のものでございまするから、もし木内君が地方転出に同意せられるような事態がありまするならば、その際におきましては木内君の任地については検事総長に一任をいたしたい、こういう意思を私は土曜日の晩に人を通じて申し入れ、またその後に至りまして法務府の官房長、刑政長官を使いとして検事総長のもとに送りまして、はつきりこのことは申し上げてあつたのでありまして、佐藤検事総長はそのことを十分木内君にも伝えられ、またそのことを頭に置いて最後まで木内君の説得に努力をせられておつたのであります。従いまして私といたしましては、できるだけこの問題は最後の瞬間に至るまで円満解決に努力すべきものである、そうしてまた円満に妥結をすることが、今後の検察官身分保障の上からいつても適切である、こう考えまして円満解決に努力をいたしたのであります。しかし最後の段階におきましては強行をもやむなしという決意はかたかつたのであります。  しかしてもう一つ、この問題がかように紛糾いたしますについては、私としては多少みずから求めたというような傾きもなくはなかつたのでありますが、この点を釈明いたしたいと思うのであります。なぜこの問題を急に解決しなければならなかつたかというと、先にも申し上げましたるごとく、三月八日に検事総長の渡米の出発期日が定められておりましたので、それに間に合う最終の閣議は三月六日の閣議であつたのであります。私は三月六日の閣議においては最後的な解決を得なければならぬ、こう思つておりました。しからばもつとおそく、三月六日までこの人事を伏せておくか、あるいは佐藤検事総長に通達をいたすにしましても、数日間の余裕を与えるということでなく、どうせやるならばもつと差追つた時期にやつたらどうだろうかということも考えたのでございまするが、私は最後まで円満解決を希望いたしておつたのであります。それにはできるだけ時間の余裕を相手方に与えることが適当であるし、またその間においてこれが新聞紙等に漏れまして——これは私はただちに金曜日に異動案を内定いたしまして、佐藤検事総長の意見を徴しました後に、関係の各検事長に対しましてこれに同意するかどうかということを電報で照会いたしました。この電報照会をいたしまするならば、中央で厳秘にしておりましても、地方において漏れて必ず新聞に載るだろう、しかし私みずから漏らすわけには行きませんが、これが新聞に漏れ、そうして一般の人たちがこれに対して批判を行われるということは、むしろ私としては望ましいことだつたのであります。この問題に関する限り、私はあらゆる角度から批判をしていただきたい、そうしてそれらの批判に対して、私はすべての点について、私がこれが最善の人事なりと信ずる理由を十分に説明をいたす機会を持ちたい、そうしてそのこと自体が結局事態を円満に収拾する一つの機縁ともなり得るであろう、こういう期待のもとに、ことさら火曜日の閣議に上程するという最終的な期間を示し、そうしてなおこれに対しては、木内君が同意するならば、木内君の任地については一切検事総長の意見におまかせするという妥協の條件まで示してこれを内示いたしたわけでありまして、このことは、私は決して初めから何でもかんでも強行しようというのでなく、最後的には私はこれはぜひともやらなければならぬ人事である、こういう確信はありまするが、しかし大筋さへ通るならば、検事総長の意見によつて妥協的な線を打出すことはやぶさかでない、こういう態度をとつてつたのであります。最後的な結果につきましては、すでに御承知だと存じまするから、経過につきまして御報告申し上げます。
  44. 鍛冶良作

    鍛冶委員 詳細承りましてよく事情はわかりましたが、私一言つけ加えておきたいのは、世上いろいろうわさが出まして、この異動は政治的意味がある。もつと具体的にいうと、新聞では来るべき地方選挙に備えて総裁がやられたなどと言つておりまするから、そういうことはないものとは心得ますが、一応真相を承りたい、かように考えてやりましたわけで、そういうことはないものと思いますが重ねて御返答願いたい。
  45. 大橋武夫

    大橋国務大臣 この異動をいたしまする時期が、たまたま地方選挙直前に相なりましたので、一部の新聞におきましては、選挙対策ではないかという疑問を持たれておるのでありまするが、経過はただいま申し上げましたような経過でございまして、実は昨年以来八箇月にわたつて私はできるだけ円満なる解決をはかりたいという考えのもとにあらゆる努力をいたして参つたのであります。それがために漸次延引をいたして、偶然にも今日に及んだという趣旨のものでございます。そうしてこれがどうしても三月六日の閣議にかけなければならないということに相なりましたのも、突然一月にきまりましたところの佐藤検事総長の洋行の出発時期がたまたま三月八日であつたという趣旨であります。その時期の点から申しまして選挙直前に行われたのは、これはさような偶然なことでございまして、この機会をねらつたというものではございません。なおまた選挙対策といたしまして、政党的な今後の検察の運営を可能ならしめるためにやつたのではないかというお疑いもあるかもしれませんが、私は検察職務はあくまでも公正でなければならない、特に政党政派によつてその取扱いを二、三にするというがごときことがあつてはならないものという信念を持つております。そうしてこれが決して私の所属いたしまする政党のさしがねであつたり、あるいはそれと気脈を通じたり、あるいはその影響下に行われたものであるということではないということをはつきり申上げますと同時に、実は打割つた話まで申上げますと、二月の末に近いある時期におきまして、この人事がほとんど絶望という状態に相なりました際、関係者の一人から、事態かくなる以上は、他人のあつせんを依頼してはどうだろうか。特に木内君説得のために部外の方のあつせんを依頼してはどうだろうかという提案もあつたのでございます。しかし私といたしましては、この部外の方——これは特に政党の幹部でございますが、そういう方にこのあつせんを依頼いたし、そのお方のお力によつて局面を打開いたしました場合においては、私並びに佐藤検事総長は、そのお方のおかげによるの非常な窮境を救われたことに相なつてでありまして、私といたしましては、その方に対しましては心から恩義を感じなければならぬわけであります。私が恩義を感じたその周旋者が、将来検察官人事に対しまして、何か私に依頼されることがあつた場合におきまして、これを拒絶するという勇気はまつたく持ち得ないのであります。従いまして、私は将来の検察官人事にあたりまして、あくまでも自己の良心に基く行動の自由を束縛されたくない、こう考えまして、この窮境を脱するためには、ただ佐藤検事総長、あるいは法務府におきます官房長、刑政長官その他法務府部内の関係者だけの協力一致によつてあらゆる努力を盡したい。しかし部外の第三者の援助は絶対に仰がずにこの問題を解決いたしたい、こういつて、その提案は取上げなかつたのでございます。この一事によりましても、この人事に関連いたしまして、私が検察人事の公正、独立を守りますためには、部外者の援助すら断つたということによりまして、私の心事につきましては御了承を願いたいと存ずるのであります。
  46. 鍛冶良作

    鍛冶委員 事情並びに法律論についてたいへん明瞭になつて、われわれ満足するところでありまして、今までの御所見からすれば、この問題に対する将来の疑義もなくなつたようには考えますけれども、万一この法律解釈についてこういうふうに紛争するということになれば、はなはだおもしろくないことだと考えますので、今の御解釈でずつと押し通して行かれるか、それとも何らか将来に対して立法措置でも講じた方がいいとお思いになつておるか、この点の御信念をあわせて承りたいと思います。
  47. 大橋武夫

    大橋国務大臣 ただいままでの事態の経過に徴しましても、また法務府といたしましての見解からいたしましても、検察庁法第二十五條に対する政府の解釈というものはすでに定まつております。従いまして、これに関連してただちに法律改正の必要ありとは考えておりません。しかしながらこの問題は、検察官身分保障という非常に重大な問題に関係いたしますところの重大な事項でございますから、なお今後におきましても、十分に研究を重ねるようにいたしたいと思います。
  48. 鍛冶良作

    鍛冶委員 よくわかりました。そこで、いろいろこういうことが強行されるということになれば、全検察官の志気に影響があるとか、不安を与えるとかいうようなうわさも出ておりますので、今日の状態からしてさような不安はないと御確信があるかどうかを最後に承りたい。
  49. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私といたしましては、初めにも申し上げましたごとく、第二十五條解釈問題は別といたしましても、検察官人事につきましては、できるだけ裁判官に準じて、事前に本人意思をただし、本人の意向を尊重して、これを発令いたすという従来からの司法部内における慣行は、検察人事の上においてきわめて適切なことである。そしてこれは私といたしましても極力尊重維持しなければならぬ、かようにかたく信じております。そうしてこの私の考え方から申しますと、このたびの木内人事におきまして一時私が強行しようという決意を固めたのは、これは自分自身の考えといたしましては、やむにやまれぬ非常中の非常な異例な場合でありまして、将来かくのごとき異例なことは断じて再びあるべきものではないと考えておるのであります。そうしてこの後におきましても、従来の人事に関する手厚い慣習というものは長く続くべきもの、こう考えております。この点はこのたびの人事問題に関連いたしまして、最高検の数氏の検察官が私のところに来訪いたされました際におきましても、十分私の意のあるところを了解せられたことと確信をいたしております。従いまして全国の検察官諸君においても十分にその職に安んじておられるものと存じますが、しかしこのことについては、今後ももし多少の不安があるというような事実がありましたならば、これに対しましては、検事長検事正その他の機関を通じまして、各検察官に漏れなくこの趣旨を徹底いたしまして、真にその地位に安んじて職務の巌正公平を守り、国民諸君の信頼に報い得られるようにいたしたいと考える次第であります。
  50. 安部俊吾

    安部委員長 猪俣浩三君。
  51. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 大体鍛冶君が質問されまして明らかになりましたので、私は重複しないように簡單にお尋ねいたします。  佐藤検事総長検察庁法に対する解釈と、法務府の解釈が違つたかのごとき新聞報道を見たのでありますが、もし違つたとするならば、佐藤検事総長はいかなる解釈法務総裁に進言されたのであるか、これをお聞かせ願いたいと思います。
  52. 大橋武夫

    大橋国務大臣 法律解釈につきましては、法務府の機構といたしまして、法制意見長官がその責任者と相なつております。従いまして、検事総長、あるいはその他の検察庁検察官というものは、これは検察事務責任者でありまして、法律解釈につきます責任者ではございませんから私は伊藤検事総長解釈をただしたことはございません。
  53. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私はそういう意味お尋ねしておるのではない。それはあなたから説明されるまでもなくわかつておる。そういう形式的な意味じやない。それは佐藤検事総長検事の頂点であつて、その佐藤検事総長を頂点とした相当数の検事団が、法務府の解釈と違つた解釈をもつて臨んだやに新聞に出ている。それだから私は実際をお尋ねしている。なぜならば、巷聞伝うるところによれば、佐藤検事総長自身が、非常に今考えているということが伝わつておる。そこであなたにそれをお尋ねするのです。しからば佐藤検事総長は、この検察庁法解釈について、あなたと何らの打合せもしなかつたのですか。
  54. 大橋武夫

    大橋国務大臣 重ねてのお尋ねでございまするが、佐藤検事総長が、いかなる解釈を下しておられるか私は承知いたしておりません。またその他の検事団においていかなる解釈を決定せられたか、これも私は全然承知いたしておりません。
  55. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると佐藤検事総長は、この検察庁法解釈については、何らの意見を表明したことがないと承つてよろしいのですか。
  56. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私といたしましては、佐藤検事総長に対して、解釈について意見を求めたことはございません。また検事総長からの資格において、私が法務総裁として意見を聞いたことはございません。
  57. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 佐藤検事総長の構想とあなたの構想とが違つておるが、最初は佐藤検事総長にまかせておつた。それがうまく行かないでバトンが渡されたから、最初の自分の構想で強行する態度をきめたという事情はよくわかりました。そして佐藤検事総長は、この派閥解消のあなたの構想には最終的には同意したが、過程的においては、とにかくいわゆる塩野派の巨頭たる岸本、それから反塩野派の巨頭たる木内、これをただちに入れかえることをせずに、中間的な人物を配置したいという意向があつた。われわれ常識上判断いたしまするに、派閥を解消せんとして、その一方の派閥の隊長である岸本を、それに正反対の立場に立つて抗争しておつたと伝えられる木内をやめさせることによつて、ただちに補充させる、これが派閥解消の道であるというあなたの説明は、われわれどうも不敏にしてはつきりわらぬ。やはり佐藤検事総長が考えたような案がよかつたんじやないかと思うのでありますけれども、それが実現しなかつたというのであります。しかしながら、どうもあなたが最初に考えられ、最後に強行された考え方というものは、常識上としては私にはぴんと来ない。甲の派閥の隊長をしりぞけ、乙の派閥の隊長をすえる、これが派閥解消になる、いわゆる塩野派と称せられる一党を率いておるところの岸本氏が次長検事として乗り込んで来られて、自分の勢力を強化するということが絶対にないとあなたは考えるか。その岸本氏が乗り込んで来たら、われわれはどうも常識上、かえつて派閥が、いわゆる塩野派なるものが、今後大いに勢いを振つて、そういう対立感情が強化されるのではないかというふうに考えるのでありますが、あなたの見通しはどうでありますか。
  58. 大橋武夫

    大橋国務大臣 最初に申し上げましたるごとく、この私の考え方というものは、一つの派閥をおつぱらつて他の派閥を迎え入れるということでは根本的にないのであります。私の考え方は、岸本君と木内君と交代するという、そういう一つ事柄を契機といたしまして、この双方を十分に和解させ、これによつて派閥を解消する、こういう構想であつたのであります。
  59. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それはそれでよろしい。終りましよう。ただどうもあなたの説明を聞いておると、私どもはそういうあなたの構想はちよつと常識はずれしておると思う。特別に優秀な頭脳からはそういうふうに考えられるかもしれませんけれども、常識はずれしておる。それはしかしあなたがそういう信念を持つたと言われればこれはしかたがない。ただ佐藤検事総長が、あなたのその構想に対しては、どうも釈然としておらないということが巷間聞えるし、この検察庁法解釈についても、法務府の解釈とは違つた解釈を持つておるというふうにも伝えられるのでありますが、佐藤検事総長は、自分の進退に対して考慮しておるような情勢がありますか、ありませんか。
  60. 大橋武夫

    大橋国務大臣 この問題につきましては、佐藤検事総長は、最初より私の考え方に根本的に同意せられまして、そうして昨年以来今日まで、長期間にわたり私の根本的な構想に心から協力せられまして、あらゆる努力を盡してくだすつたわけございます。不幸にいたしまして、木内君のああした最後まで拒絶せられたということによりまして、佐藤君としての万策は盡きたという状態に相なつたのございますが、この上は私がこれをバトンを受けてやる、そうして私がバトンを受けてやります以上、私の構想に従つてやるということは、私としてはほかにとる道はないのであります。その場合におきまして、これは終局の目的であるばかりでなく、私の構想というものも、また一つの方法をも含んだものでありまするから、方法に対して佐藤総長が、従来からの立場から、一応自分としては賛成することができない、こういう意見を述べられたからといつてこれは当然のことなのであります。決してそのことは検事総長法務総裁が対立したということではない。この意見を述べるということが検事総長の職責であります。検事総長が最初から御自身で考えておられる信念によつて両者を交代せしむるということが不適当である、こう考えられまする以上、同意できないと言われるのはこれは当然であります。そういう返事をすること自体が職に忠なるゆえんでありまして、また事実私と根本的に意見が違うにもかかわらず、まああなたがやられる以上はしかたがない、こう言われるならともかくとして、それは賛成であるというようなことを述べられたとしたならば、そのことみずからがかえつて職責を怠るものであろうと思います。私が意見を求めましたのは、賛成をして協力してくれろという意味で意見を求めたのではなく、これはこの人事を取運びまする手続上、法務総裁が常に検察官人事については一応検事総長の意見を聞かなければならない。必ずしもその意見を採用するとか、拘束されるということはない。手続上として、必ず直接責任者である検事総長の意見を聞かなければならない、こうなつておる。この意見を問い合せるということは、まつたく手続上の必要でありまして、これに対しまして率直に検事総長が意見を述べられるということ自体が、私に対して協力してくださるゆえんであるわけでありまして、私は佐藤検事総長が、長きにわたつてこの問題に御協力くだすつた態度については、常に感謝の念を持つておるような次第でございます。そうしてまた私みずからの構想に従つてこれを強行しようといたしました場合におきまして、その後におきましても、木内君に対して検事総長はあらゆる努力をして木内君を説得し、そうして私の人事を支障なく実現せしむるよう全面的に協力していただいたことは事実であります。この点についても、私は非常に大なる感謝を持つておるような次第であります。従いまして、この問題に関連いたしまして、佐藤検事総長は終始私に対して協力せられておる、こういう次第でございますので、これに関連いたしまして、佐藤検事総長がその進退を考慮されるというようなことは、私にはその意味が、全然わかりかねる次第でございます。
  61. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私のお尋ねしたのは、さような情勢があるかないかという質問でありますので、あなたの答弁は、さような佐藤氏が自分の進退を考慮しているやのことはないという御答弁と聞いておきます。  もう一点、さつきも聞いたのですが、岸本という相当の豪傑らしいですが、この次長検事が乗り込んで来て、いわゆる塩野閥を大いに奮起させるというような傾向は、あるという見通しですか。ないという見通しですか。
  62. 大橋武夫

    大橋国務大臣 昨日、上京を命じてありましたる洋本検事長が参りました。私はこの問題に関連いたしまして、世上いろいろなうわさも立つておりまするし、また岸根君が上京いたしました場合においては、いろいろな人が顔を見に行つたり、またその際いろいろな情報を通ずるということもあろうと思うのであります。これらの情報は、必ずしも正確なものばかりではないと思いますし、またある意図のもとに出た情報もあり得ることでございまして、これらの情報に対して、岸本君が不用意にこれを受入れますると、将来岸本君が仕事の上においてやりにくい点もありはしないかと存じまして、私は昨日岸本君が東京駅に到着いたしまする時刻に、法務府の官吏を出迎えにやりまして、どこへも行かず、だれにも会わずに、ただちに法務府へやつて来い、そうして法務府へ来たならば、官房長の案内によつて、ただちに佐藤検事総長のところへ参れ、そうして佐藤検事総長と帯同して私のところへ来るようにと申しまして、昨日その通りに参りました。そうしてその席上におきまして、私はただいま申し述べましたような私の根本的な構想、それに対しては佐藤検事総長はまつたく意見が一致いたしておつた、ただ方法的に多少の違いが——先ほど来申し述べましたような経緯を十分に佐藤検事総長及び関係者の立会いの上で赤裸々に申し上げまして、私並びに佐藤検事総長のこの人事に期待した意図が那辺にあるかとということをよく了解せしめたわけであります。従いまして、今後におきまして御心配のようなことは断じてないと確信をいたしておりまするとともに、また将来につきましても、私並びに佐藤検事総長は十分協力いたしまして、さようなことのなからしむるように努力をいたす決心でございます。
  63. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 非常にこまかいお心づかいで御注意になさつていることは感心いたしました。どうぞその方向で派閥なんかを解消されるように御努力願いたいと思うのであります。  このあとは法律問題についてちよつと一、二お尋ねしたいのですが、検察庁法第二十五條には、「官を失い」とある。この官というのは検察官のことなんです。次長検事というものは狭い意味の官であるし、第二十五條はこれは広い意味の官である、こういうふうな法務府の御見解でありますが、その第二十五條の「官」を広い意味の官と解釈し、第三條の「官」は狭い意味の官と解釈する根拠はどこにあるでありましようか。
  64. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 お許しを得まして私からお答え申上げます。先ほども触れましたところでございますが、多少それに補足いたしまして、われわれの見解を申し述べたいと思います。  第二十五條にいつております「その官」は先ほども触れました文理上から申しましても、「検察官は、」云々とありまして、「その官を失いとありますから、当然「検察官は、」というその称呼を引受けた官であるということは、文理上当然であると思います。なおその他第二十五條のみならず、裁判所法との関係検察庁法中の他の條文との関係等を念のために比較較量いたしましても、その結論には誤りはないということでございます。御承知通りに、裁判所法におきましては、第四十八條におきまして保障規定を設けておりますが、この場合には「その意思に反して、免官転官転所職務の停止又は報酬の減額」というふうに、はつきり「免官転官転所」とうたつておるのでありまして、裁判所法検察庁法とは新憲法に基きまして、同じ会期の当時の帝国議会におきまして成立したものでございます。かつまた同じ日の官報に相並んで公布され、同日から実施されておる法律でございます。その法律の相互の類似しておりまする條文を対照いたします場合におきまして、この検察庁法の第二十五條というのは、転所はもちろん転官をも保障しているものでないということは、その方面から裏づけし得ると存じておるわけであります。なおついででございますが、検察庁法の第二十二條から第二十三條、第二十四條という條文がございます。第二十五條におきまして「検察官は、前三條の場合を除いては、」といつておりまするが、この「前三條」がちようど第二十二條から第二十四條までに対応するものでございます。この場合に対応條文を考えますと、第二十三條というのがこれに対応する條文であります。ごらんの通り第二十三條には、職務上の非能率その他の事由によつて検察官職務をとるに適しないときには、検察官の適格審査会の議決を経てその官を免ずるという道を設けておるのであります。従つてこれに対応しておりまする第二十五條の「官を失い、」と申しまするのは、検察官地位を失わしめる、免ずる場合をいつておるというふうに言わざるを得ないと思います。万一、第二十五條におきまして、転官の場合をも保障しておるということになりますと、ある一定の地位にふさわしくない人を他のその地位に適した検察官にかえようという場合には、その意思に反してはどうしてもかえ得ない、第二十三條を発動して罷免行為をとらなければ、その目的は達し得ないという非常に不合理な結果になります。かたがた第二十五條におきましては、転官保障はしておらない、ただ先ほど来申し上げました通り、これが降任になります場合におきましては、国家公務員法保障がごございます。また俸給減額を来すような転任につきましては、はつきりとその意見に反して俸給減額されることはないというふうになつておりますので、別途検察庁法の姉妹法となつておりまする、検察官俸給等に関する法律、あの約束を受けるわけであります。この範囲において必要なる身分保障ができておるというふうに思います。
  65. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の説明で大体わかりましたが、そうすると第二十五條は極端に解釈しますと、次長検事を平検事にし、あるいは検事長検事正にしても、第二十五條の違反ではないという結論になるわけですか。
  66. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 第二十五條の違反にはなりません。
  67. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、これは国家公務員法その他の法律によつて救済を求める道がある、こういうことになるわけですね。
  68. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 その点は、先ほど申しました検察官俸給等に関する法律を一体としてごらんになりませんと、結論が出て来ないわけであります。現行法制のもとにおきましては、俸給減額ということを——たとえば検事総長検事長になる場合におきましても、検事総長俸給額というものは、はつきり四万八千円になつております。それから一般検事長におきましては四万円というふうに、はつきりとわくづけがしてありますから、現行法制上はそれは不可能でありまして、人事院まで持つて行く問題ではないと思います。
  69. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 もう一点それに関連して、人事院総裁お尋ねいたします。国家公務員法の第七十五條には職という言葉になつておりますが、さきに官と職との区別について明快な御説明をいただいたのでありますが、第七十五條の職というのは結局官職両方免職されることがない、すなわち免職というのは検察庁法の第二十五條免官と同じ意味でありますか、違つた意味でありますか。
  70. 淺井清

    ○淺井政府委員 国家公務員法としましては、実は官職と申すのが正しい言い方でございまして、職と申しましても、官と申しましても区別はないのでございますから、ただいまお示しの通りでよろしいかと存じます。
  71. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 たつた一点だけ関連いたしまして……。検察庁法の第十六條によりますと「検事長検事及び副検事の職は、法務総裁が、これを補する。」こう記載されておりますが、この職というのはさつき人事院総裁のお答えになつ官職の職でありましようか、また違つた意味の職でありましようか。この解釈人事院総裁法制意見長官にお伺いいたします。
  72. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 先ほどの話に出ましたように、国家公務員法では官職区別ということを超越しております。ただ国家公務員法より若干前に出ております検察庁法においては、昔からの例を踏襲いたしまして、一応官の概念と職の概念とを区別したままに残つておるわけでありますが、その場合におきましては御指摘の第十六條の、たとえば検事について申しますれば、検事正という職がある、その検事正に補するのは法務総裁が行うというのであります。
  73. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そうすると先ほど言いました第二十五條の官、それから狭い意味の官というのは第十六條の職に当るわけでありましようか。
  74. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 非常に複雑で申訳ございませんけれども、そこまでは参りませんので、この場合で申しますと、検事長というのが小さい意味の官になり、検事がまた小さい意味の官になる、その人が検事正という職に補せられるというような考え方であります。
  75. 安部俊吾

    安部委員長 それでは暫時休憩いたします。二時より会議を続行いたします。     午後一時三十六分休憩      ————◇—————     午後二時十五分開議
  76. 安部俊吾

    安部委員長 休憩前に引続き会議を開きます。猪俣浩三君。
  77. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今回は木内氏がみずから身を引かれたために、一面よかつたような感じもするのでありまするけれども、一面またこの検察庁法その他の解釈、すなわちそれから生じまする検事地位保障問題が究極的にはつきりしない点をまだ残しておるということは、下手やると悪例を残すようなことになりますので、心配な点があると思うのでありますが、そこでこれは仮定の問題になりまするけれども、木内次長検事札幌検事長任命されても、これを拒否して、また退官もしないというような場合におきましては、法務総裁はいかなる処置をおとりになる御予定でありましたか、お聞かせ願いたいと思います。
  78. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私といたしましては、この問題は当初よりでき得る限り円満に解決いたしたいという方針で進んで参りましたので、現実に私の内示いたしましたる異動を強行するような事態は起らないであろうと、こう思つたのでありまするが、当時の内輪の仮定の議論としては、そういう場合にどういう事態が発生するであろうというようなことは、個人的に論議をいたしておつた、とはございます。私みずからもその論議に参加いたしたこともございまするが、この点は私どもまつたくそういう仮定のもとに、單にわれわれの法律上の研究としていたした程度でございまして、最後的にそれによつて意見を確定しようというような段階にまでは至らなかつたのでありまして、でき得るならばお答えいたすことを御容赦願いたいと思います。
  79. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いろいろ法務総裁の立場でおさしさわりがおありになることは了解いたしましたので、純然たる法律的の解釈として、一体どういう法規のもとに、どういう道があるのであるふということを、法務府としては研究なさつていらつしやいますか、それをあとで法制意見長官からでもお伺いいたすことにしましよう。  それからきのうも参議院の法務委員会を傍聴いたしておりましたら問題になつたでありますが、この検察庁法第二十三條の検察官適格審査会の問題であります。これには一項と二項がありまして、二項には、「検察官は、左の場合に、その適格に関し、検察官適格審査会の審査に付される。」そうして一号、二号、三号とあるのでありますが、木内氏が次長検事として適格じやないというような、あるいは行政上どうもその地位にとどまらせしむることが、いろいろの意味において検察行政をスムーズにやる上に、適当でないというようななことを法務総裁はお認めになつたときに、この検察官適格審査会に持ち出して、審査を行うというようなことができるのかできないのか、それをお尋ねいたします。
  80. 大橋武夫

    大橋国務大臣 検察官適格審査会につきましては、これは現実のその地位に適当いたしておるかどうかという問題よりも、そもそもその個人検察官としてとどまらしめることが適当であるかどうかという、すなわち転任の問題にあらずして、罷免するやいなやということが問題となつた場合においてのみ、この検察官適格審査会に付する実益がある、こう私どもは解釈いたしております。
  81. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうしますと検察庁法第二十三條の二項の場合において、検察官適格審査会の審査に付されるという場合は、すべてこれは検察官たる地位をやめさせなければならぬような場合に限る。その他の場合においてはこういう審査に付されることはないという御見解なのでありますか。
  82. 大橋武夫

    大橋国務大臣 これは第二項にその適格に関し、審査に付される、こうございまするので、適格というのは、検察官として必要なる資格を備えておるかどうかという、検察官たるの資格の存否の問題を審査する、これが検察官適格審査会の目的であると考えますがゆえに、当然行政的措置といたしまして、罷免すべきやいなやということについてこの審査会に付すべきものと解釈いたしております。
  83. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは先ほども御答弁があつたので、私はそれでわかりたのでありますが、なお念を押しておきます。次長検事という地位にあつた者を札幌検事長というふうに発令した場合に、これは第二十五條の違反ではない。免官ではないのだから違反ではないというその説明はわかりましたが、国家公務員法にいうところの降任ということはお認めなさるか、なさらぬか。
  84. 大橋武夫

    大橋国務大臣 次長検事検事長とは、いずれも認証官たる一級検事でございまして、ことに検事長という職は独立検察庁長官でございまするので、私どもといたしましては、次長検事よりもむしろ建前といたしましては検事長の方が重い、こう考えまするが、しかし法律的にはこれはまずまず大差ない、こう見るべきものではないかと考えております。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先ほどの人事院総裁の答弁によりましても、次長検事というのは官と職とが結合されておる、検事長というのは官であつて職ではないと言われておる。そこで私のお尋ねしたのは、官と職との結合している次長検事、これは一人の人間であります。そのポストと検事長たる官のほかに職として札幌検事長——地域は札幌というそういう場合におきましても、なおあなたのそのお立場はおかわりにならぬでしようか。
  86. 大橋武夫

    大橋国務大臣 検事長のうちには常識上むしろ次長検事より、はるかに高い地位であると考えられる任地もあるわけでございます。たとえば東京の検事長のごときは俸給令によりますると、常に次長検事よりも高給を支給しなければならない、こうなつております。しかしその任官の場合におきましては、やはり検事長という官に任ぜられるわけでございますが、私は一人一官が必ずしも補職を要する官よりも高いとよう見解は当らない、かように考えております。
  87. 安部俊吾

    安部委員長 世耕弘一君。
  88. 世耕弘一

    世耕委員 私は法務総裁に簡單に数点お尋ねいたしたいと思うのでございます。吉田内閣は元来どうも物事を秘密主義に取扱うくせがあるという非難が多かつた。ところがきよう大橋総裁の御説明を聞いて非常に愉快に感ずるのは、かなりつつ込んだ人事のいきさつまでも公表せられたということで、私は吉田内閣にその人ありと非常に心強く感じたのであります。私はかくあるべきだと思う。この点については大いに敬意を払いたいと思うのでありますがごく簡單に数点伺つておきたいと思うことは、先ほど来の木内問題取扱いについて慎重を期せられたことはよくわかりますが、木内氏が何ゆえに強硬にこの栄譽ある転任を望まなかつたか、その点の説明がなかつたように思うのであります。これは簡單でよろしゆうございますが、何かこれには理由があるのだろうと思うから、誤解を一掃する意味におきましてお答え願いたいと思います。
  89. 大橋武夫

    大橋国務大臣 昨年十一月以来私と佐藤検事総長が相協力いたしまして説得をいたしておつたのでありますが、その間におきまして、私が直接木内次長検事から聞きましたる説明は、木内氏みずから次長検事に最も適任であり、また次長検事として御奉公することが木内君の最も望ましい念願である。従つて他の検事長転任するということは、自分としてはまつたく考えられない。こういう理由を承つただけであります。なおそのほかにいろいろ理由として巷間伝えられておるところがございますが私みずからこの耳に承りましたる理由としては、ただいま申し述べたごとき理由を伺つた次第でございます。
  90. 世耕弘一

    世耕委員 木内氏が最近新聞記者に述べた記事の一、二点をとらえてみますると、最後に最高検次長検事の職を辞職した事由は、吉田内閣に動揺を与えたくないから自分はこの際やめた、こういうことが出ておりますが、こういう点はどうでございますか。
  91. 大橋武夫

    大橋国務大臣 そのことは私新聞紙を通じて承知いたしておりまするが、その間いかなる理由によつてさような声明をせられたかにつきましては、関知いたしておりません。
  92. 世耕弘一

    世耕委員 かようなことは軽々に発表すべきことではなく、何かここに疑惑があるがごとく世間に問題を投げかけるおそれがありますから、究明しておく必要があろうと思うのであります。また同時に、せつかく公正な立場で人事行政をなされておられる大橋法務総裁の面目の上からも、世間に疑惑を残さないことを私は希望してやまない。  それから次にお尋ねいたしたいことは、法務総裁は派閥を打破するために非常に苦労をなさつたという御説明があつたが、これについては同感の意を表したいのであります。しかし私は、むしろ場合によつては派閥けつこう、なぜかといえば、今日は党派がわかれている。だから官僚の中にも派閥は当然起つて来るだろう。むしろ派閥の中に人材が集まる場合があるのです。だから必ずしも派閥は私は非難すべき筋じやないと思う。ただ特に注意を喚起したいのは、派閥よりも今日の政界を毒しているものは何かといえば、閨閥なのです。一、二私はここに例をあげましよう。たとえば吉田内閣における電力人事の問題——人の名前を申し上げては何ですけれども、これも事実だから申し上げましよう。電力人事に対する麻生、白洲某、これは派閥でなくて、むしろ閨閥だと世間では論ぜられております。せつかくあなたが派閥の端まで苦労して公正を期そうというやさきに、こういうことが新聞に麗々しく載つて今問題になつております。たまたま今度は検察庁人事にやはりかような空気が漂うておつたとするならば、非常な国家の損失であります。法務総裁としてよりも、国務大臣として、私は考慮を払つていただきたいと思う。  それから次に問題は、これは猪俣君からも言うておつたが、検事総長はあなたの部下であり、監督下にある。また次長検事は同時に検事総長の部下なのである。その部下が自己の公正な人事を処理することができなくて、最後にあなたが処理しなければならぬ。しかもそれに半年くちいかかつておる。こういう事実をとらえて来ますと、検事総長は部下統率の能力なしという結論が出て来る。これはほつておけないでしよう。こんなボロを出してどうなさるか。おそらく本人は何かの責任を感じておられたと思うが、こういうことも今後検察事務を強化する上に、敏捷な活動をする上において重大な問題ではないかと思う。今決意がなければ承らなくてもよいが、当然これは考えらるべき問題ではないか。ことに先ほど来の委員諸君との質疑応答の中にも、私は解しがたい何ものかが残つておると思う。多年議会生活をしておれば、少しは勘ですぐわかる。こまかい説明は私は求めませんが、こういう点について率直な御意見を聞いて——あげ足をとつて窮地に追い込もうというんじやない。でき得るならば、あなたの公正な気分をこの際天下に発表して、国民の信頼感を増してもらいたいということが私の希望であります。
  93. 大橋武夫

    大橋国務大臣 およそ官職というものには、それぞれ期待された職責というものがあるわけでございますが、そうしてまた官吏というものはその職責を完全に遂行されるということを、一般的には期待いたしておるわけであります。しかしながら現実に発生いたして参りますいろいろの事務というものは、これは実際的に非常に困難な仕事もたくさんあるわけでありまして、人がその能力の限りを盡しまして、しかもなおかつできなかつたという場合におきましては、これは本人としても全力を養したものであり、またそれ以上できないといたしましても——その事柄がその役所において通常起り得るような状態について全力を盡して、しかもできなかつたということならば、これは私も上司として当然責任を間わなければならぬと思います。しかしこのたびの事態は、これはだれが考えましても、普通要求せられる程度の努力をもつて、またあらゆる手段方法を盡しても、これはなかなかむずかしい事柄であるということが結果的に私は明らかであると思いますので、この問題につきまして佐藤検事総長が最後にみずからの力だけで成功することができなかつたからといつて、これは検事総長として職責を果すに何ら欠くるところはなかつた。こういうことは、先ほどしばしば申し上げました通り人事行政におきましてきわめて異例の事柄でございましてこの異例な事柄については、通常検事総長に要求せられる全力を盡されてしかもできなければ、その上司たる私におきまして、全責任をもつてこれを協力または推進いたし、そうして私と検事総長とが相より相まつてこの問題を解決すべきものだと思うのでございます。従いまして、法律建前あるいはその他の点におきましては、どこまでが検事総長の責任であり、どこから先が法務総裁の責任であるということは、必ずしも明確ではない。また明確でないと同時に、同じ役所においてかりにそれぞれ職務を分担いたしておりましても、私といたしましては全責任を持つておるわけでありますから、最後的には常に私がその責任においてあらゆる部下の職責に対しまして協力すべきものであります。しかもなおこれが所期の目的を達し得なかつた場合におきましては、全力を盡しました部下が責任をとるというものではなく、最後的に全責任を負つております私が、みずから自己の責任を判断すべきものであると思つております。従いまして、このたびの事件につきまして、佐藤検事総長は私の期待いたしました全力を盡して協力を示されたのでございまして、私はこの点について佐藤検事総長には多大の感謝の念をこそ持て、何らの不足を感じておるわけではございません。このことは、昨日佐藤検事総長にも十分に私の感謝の気持を伝えまして、その労をねぎらつた次第でありまして、要するに、事態をかく紛糾に導きましたことは、結果において私自身の責任であつたのでございまして、私はこの事態について佐藤検事総長が責任を痛感されるというような筋合いのものではまつたくない、こう確信をいたしております。
  94. 世耕弘一

    世耕委員 今のお話は、むしろ法務総裁としての立場よりも、大橋個人の感情からそういうりくつが割出されて来たように私には思われる。それも上に立つ者がそういう愛情があつてしかるべきものだということは考えられる。それについてはとやかくは申し上げません。しかしながら、検察当局が非常に緊張しようとする今日の時代に、一次長検事を処理するために、半年も八箇月もかかつてごちやごちやして、やつとここに結末がついたというようなことは、国家の重職を果す者の立場から見て、少し不満な点が起るのであります。古い言葉を申しますれば、賢者位にあり、能者職にあり、しこうして治国平天下ということを言うておる。賢者が位になくて、能者が職にないから国が乱れるのだということは、昔の本に出ております。一次長検事を処理するために、大橋法務総裁自身が職を賭して闘わなくちやならぬということは、はたして賢者健在なりやということを言いたいわけです。ここに私たちの一つの憂いがある。なければ、この機会にすつきりと責任の帰趨を明らかにしておかれることの方が、国家のためにいいのじやないかと考えるのであります。しかもその一人事をなすがために、いろいろな新聞記事、社会問題を発生せしめたということが一つと、これも新聞記事でありまして、直接承つたのでないからどうかと思いますけれども、この問題については、大橋法務総裁は職を賭して断行すると仰せられた、木内次長検事また職を賭して闘うという。特に大橋法務総裁が職を賭して闘うということによつて木内次長検事が職を賭したという結論になつて来ている。この間にも何だか割切れぬものがあるということ、それから派閥はないというような言いまわし方であつたけれでも、事実は派閥がここまで問題を紛糾させたということは、前後の事情から推量ができます。しからばこの派閥をどういうふうにして今後解消するか、この間の人事は、はたして派閥解消のりつぱな目途をつけたかどうかということが言える。これは無理かもわからないけれども、もし派閥があるとするなれば、派閥にわけた検事の色わけができるはずでありますから、その資料がおありであつたら、公表してもらわなくてもいいが、御提出を願いたい。実際を言えば、そこまでつつ込まなくちやならない。大橋法務総裁は派閥ということをあまりはつきりお言いにならなかつたけれども、御説明の結論を突いて来ると、派閥が災いをなしたということは明らかだ。そうすると、検察庁内に派閥があるとわれわれは断定せざるを得ない。かようなことは、時局重大なときに、あり得べからざることだと私は思う。この問題はひとり検察庁だけではございません。各省に派閥の巣をくつて、そのためにかえつて円満なる行政が行われない例が多々あると思うのであります。一法務府の問題として取扱わないで、この際腹をきめて強く善処してもらいたい。この点について御意見はいかがでございますか。
  95. 大橋武夫

    大橋国務大臣 この問題は非常に重大化いたしましたので、私が職を賭してやる、こういうふうに言つていたように伝えられておるのでございまするが、私はこれを職を賭しても断行するというようなことは、何人に対しても申したことはございません。ただ私の心境といたしまして、検察陣の刷新強化のためには、この人事は最善にしてしかも絶対に必要であると考えます。そうしてこの必要なる人事が、何らかの事情によりまして、実現不可能であつたといたしまするならば、私は治安の責任者検察責任者といたしまして、その職責を果すことにおいて自信を持つていない、こういう心境にあつたわけでございます。従いまして職責に自信を失つた以上は、その場合において政治家としてとるべき措置がおのずからあろうとは存じまするが、しかし私はこれは必ずできると確信をいたしておりました、またできなければならぬ人事であると確信をいたしておりましたから、これに職を賭すというようなことを具体的に考えたことはないのであります。  それから派閥を将来どうするかという点でございます。これは私は確実なる派閥の事情は承知いたしておりません。また部内におきまする派閥の個人的な色わけ等について、今後において知りたいとも思つておりません。要するに今まで派閥があるのではないかと相当世の中から言われておつた。かりにありといたしまするならば、なくなすというような線を人事において強く打出して行かなければならぬと考えるのであります。従いまして、今後におきましても、人事個人の能力に応じ、適材が適所に配置せられるということ、これ以外に派閥の発生を防止し、またかりに存在いたすとするならば、その派閥を解消せしむる道はないと思うのでございます。検察人事につきましては、今後においても一段と、部外のいかなる勢力にも影響を受けることなく、もつぱら検察部内の事情を十分に把握いたしまして、何人がいかなる角度より批評いたされましても、公明正大なる人事を常に行わなければならぬ。またそういうことによつて世耕委員の御期待に沿うことができる、こう考えておる次第でございます。
  96. 世耕弘一

    世耕委員 時間をあまりとると悪いから、私はあなたに重ねてお尋ねすることを避けますが、結局あなたのおつしやることは、頭の方を隠してしつぽを出している。そのしつぽをたどつて行けば、あなたの説明が矛盾して来るということはわかつておりますけれども、それを私はこの機会に申しません、それはやぼですから。けれども、あなたも派閥はいかぬということをすでに認識されておるんだから、これについて善処なさる誠意をくんで、これ以上私は申しません。ただもう一点伺いたいのは、こういう事件は過去においてございましたか。もしあつたらその例と、なおかような事件が、今後人事異動に数回繰返されるようなことは非常に不幸でありますから、今後かようなことのないように、根を断つ方法をあなたの在任中に御計画になる必要があるのではないか、この点についての御決意を伺つておきたいと思います。
  97. 大橋武夫

    大橋国務大臣 かような事件は、できる限りすみやかに検察庁人事というものを公正な軌道に乗せる、そしてその後において、常に公正な人事を確実に推進して行く、これ以外に防止の方法はないと考えます。
  98. 世耕弘一

    世耕委員 最後に一点お尋ねしますが、巷間伝えるところによると、検事総長大橋法務総裁との対立関係すら世間では流布されております。これもおそらくお耳に入つたろうと思いますが、もしそのようなことがあるとするならば、私はこういう問題はあなたの今の信念においてすつきりさしてもらいたい。黒白を明らかにして、すつきりしていただかないと、検察庁内においていろいろな勢力が伯仲して、いわゆる公正な法務総裁の威令が行われないということは、国家のために不幸でありますから、特にこの点を要望いたしまして、私の質問を終ります。
  99. 安部俊吾

    安部委員長 上村進君。
  100. 上村進

    ○上村委員 前の方の質問で大分わかつて参りましたが、一、二点われわれが法務総裁説明を聞いて、かえつて不審の出たところからお聞きしたい。  第一に派閥をなくするということでございましたが、この人事がはたして派閥をなくするということから出たとすれば、その派閥の具体的な事実というものは、一体お調べになつたのかどうか。たえば岸本派が一体どういうことをやつてつたか、それに対して木内派がどういうことやつてつたか、そしてそれがどういうふうに検察行政に影響しておつたかということをお尋ねしたいのです。
  101. 大橋武夫

    大橋国務大臣 今朝来申し上げました通り、派閥どういうことは、私はそれが事実検察部内においていかなるものであるかということを詳細調査いたしておりません。また調査するつもりもなかつたわけであります。ただ部の内外におきまして、さような派閥の存在ということについてある程度の風説が流布いたしておりまするので、この風説の存在そのものを否定する必要がある。これがまたおのずから、事実がかりに存在するとすれば、派閥を漸次解消せしめる道になる、こういう考えで、この人事を構想いたした次第であります。
  102. 上村進

    ○上村委員 そういうよう風説的なことで、いやしくも検察庁の最高幹部をその意に反して動かそうとすることはむしろ間違いじやないかと思うのですが、その点は今どういふうにお考えになつておるか。
  103. 大橋武夫

    大橋国務大臣 それはどうも上村先生のお言葉とも存じません。風説を基礎にして動かそうとしたのではなく、風説が存在しておるということは最たる事実であると私は認識をいたしたわけであります。そしてその事実を解消せしめるということによつて、かりに存屈するとすれば、さような派閥関係も漸次解消されるであろう、こういう考え方のもとにこれを構想いたしたのであります。一介の風説を根拠として云々という意味ではなく、その風説の存在が現実の事実であつて、そのこと自体が検察行政の能率を阻害いたすのであります。あくまでもその根源を破壊するということが、この場合必要である、こう確信をいたす次第であります。
  104. 上村進

    ○上村委員 まことに説明がうまいようですが、そうすると、具体的に木内さんを一方の派閥の大将として転出させなければならぬというようにお考えになるとすれば、少くとも木内さんが最高首脳部へ入つて後にも、なおそういう派閥についているそれなことをやつて、これでは検察行政にぐあいが悪いということにならなければ、監督の立場にある法務総裁としては少し早計だと思うのですが、その点どういうお調べをなさいましたか。
  105. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私は木内君にいたしましても、岸本君にいたしましても、検察官としての行動において、あるいはその他の職務の執行にあたりまして、派閥的な行動に出た事実があるということは全然承知いたしておりませんし、またさような事実を調べようということを意図したことも全然ありませんでした。少くとも部の内外を通じまして、この両氏を中心にいたしまして派閥抗争があるのだといううわさが流れており、そのうわさが流れておるということ自体が、検察の威信にも関係いたし、また検察の能率を阻害いたすのでありまするから、このうわさを根本的に解消せしむるような方法において人事を考えることが必要である。そのためには中央、地方の入れかえという将来の効果をもねらいまして、この派閥の中心人物が円満に、談笑裡に中央と地方を入れかえまして、この一つのゼセチユアによつて、さような風評が幸いにして根拠なきものであるならば、根拠がないものであるという事柄を、もし根拠があつたとすれば、さようなる関係はこれによつてつたく根本的に解消せしめられたものであるという事柄を、事実によつて、その一つのゼスチュアによつて部の内外に示してもらいたい。これがさような風評を根本的に解消する措置として必要である、こう私は考えたわけなのでございます。
  106. 上村進

    ○上村委員 その点は議論になるからやめましよう。そうすると、こういうことはどうでしよう。とにかくあなたの取締りあるいは監督として、そういう意図でなされたのであるということは一応わかりましたが、そういう場合に、具体的にいえば、木内さんのように、私はそういうことはいけない、そういう命令に従えないといつて、この問題に反抗された場合に、どうしてそれを強く押し切るほどの理由にされたか。派閥というものを、一体法務総裁はどういうふうに考えておるのでしようか。その派閥という観念をお聞きしたい。
  107. 大橋武夫

    大橋国務大臣 派閥ということは、特に官庁におきまする派閥というものは、その所属の官吏の間に、おのずから利害、感情等の関係によりまして、友をもつて結ぶに至りまして、しかもそれが人事行政の上に相当な影響をいたし、そうして人事行政と相まちまして、これらの派がお互いにしのぎを削るというような状態が私は派閥ではないかと心得ます。
  108. 上村進

    ○上村委員 私は派閥ということは、やはりある一方の権力を持つた大将がおりまして、それの思う通り無理やりにその派一本にまとめようとすることが派閥であろうと考えます。そうすると、法務総裁がこのたびとられた処置は、派閥をなくするといいながら、私どもの考えておるところの派閥行為をやつているように思われるのですが、その点は今どういうふうにお考えになつておりますか。
  109. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私の行動に出ました動機は、まつたくみずからは派閥を解消したいという純なる動機から出たわけであります。しかし私の考えが、常に必ず結果的に所期のごとき効果を上げ得るかどうかということについては、私は別に確信を持つておるものではございません。今後の事実によつて、これは皆様の前にお示しいたすよりほかはないものと存じます。ただ私がその動機において、さような動機以外のことを考えておつたのでないということだけを御了解願いたいと考えるのであります。
  110. 上村進

    ○上村委員 そうすると、この人事というものは、相当重大だと思うのです。要するに木内君という人は、なるほど任意辞職でありますけれども、結局これは権力者の権力によつて詰腹を切らせられたものと思います。とにかく検察庁の最高の次長検事ともいわれる人が、こういうふうなことをやられるということになれば、首を切つたのではありませんけれども、私から見れば同じことであろうと思われる。こういうことがどんどんやられるということは、むしろ派閥のために、実際に働く検事検察官なるものが非常に不安を抱くのではないか、こういう点からしまして、法務総裁説明に対しては、はなはだ御親切、御丁寧な答弁ではあるが、その説明では大衆はおそらく納得しない人が多いだろうと思われるし、それから検事団におかれても、おそらくそうであろうと思うのです。ですからこの人事に対しては、法務総裁の方に相当責任があろうと思いますが、その点の御意見を承つて私の質問を終ることにいたします。
  111. 大橋武夫

    大橋国務大臣 これについて、私に責任があるであろう、これは初めから私の責任において行つたことでありますから、全責任は私にあるわけであります。但しお断り申し上げたいと思うのでありますが、私は決して詰腹を切らせようと考えてこれをやつたのではない。ただ私の構想いたしまするところの人事の刷新強化という上から申しまして、木内君の転出ということが必要でありました。そしてこれをでき得る限り同君が自発的に承認されるということをこいねがいまして、そのために昨年以来今日まで数箇月の久しきにわたつて佐藤検事総長とともに説得に努めて参つたのであります。しかし最後において、木内君がどうしても承諾を与えられる見込みなしという段階になりましたので、やむを得ず自己の権限においてこれを強行しなければならぬと覚悟をいたしたのでありまするが、しかしその後におきましても、この決心を、相当の余裕をもちまして先方に通告いたしますると同時に、一面におきまして、木内君が最後の瞬間までの間において、幸いにわれわれの意図を了とせられまして、快く同意を与えられまするならば、必ずや他の適当なる地位を考慮する余裕が十分にあるということもあわせて通告いたしまして、ひたすら円満妥結をこいねがつてつたのでございます。木内君がこれに対しましてああした行動に出られたということは、私も検事総長も、最後の瞬間までまつたく思いがけなかつたことでございまして、初めから計画的に詰腹を切らせるというようなことは、まつたく当らざることと存ずるのであります。と同時に、這般の実情は検察官の諸君におかれましても、十分に私の説明によつて了解をしておられるのでありまして、最後の時期におきまして、検察団の諸君が木内君に対しまして、検事総長にその進退を一任せよ、こう勧告せられましたことは、結局これは検事総長において適当なる任地を考慮せられるがゆえに、それに一任をいたして快く転出を承諾すべきである、こういつて検察官の諸君が一致して木内君に説得の労をとられたわけであります。これによりましても、私の真意は十分多数の検察官諸君に理解せられておる次第でありまして、私はこれによつて今日検察官諸君が、私が何ら理由なく、ひたすらに法律規定をたてにとりまして、従来から存在いたしておりまする検察官身分保障についての慣例的なやり方を破壊しようということを決して考えておるものではない、その従来の慣行をでき得る限り尊重いたし、そうしてできるだけ円満に人事を進めるべきである、こう考えておる熱意については、十分な御理解を持たれ、またその身分について十分な実際上の安全を自覚せられて、心安く職務に勤められておるものと確信をいたしておるのであります。また今後の事実におきまして、私の期待を裏切るような事実が実際に明らかとなりました場合におきましては、重ねて私の真意を十分に伝えまして、この点は十分理解を得て、その職務の公正のために、また検察の権威を保持するために、安んじて働いていただくことのできますように措置をいたしたいと存ずるのであります。
  112. 加藤充

    加藤(充)委員 関連して二点ほどお伺いしたいと思うのでありますが、朝鮮の戦争が起る前後から、憲法保障されております基本的人権、とりわけ言論や出版、集会、結社、団体行動というようなものの自由が制限されて来ております。ポツダム宣言や極東委員会の諸決定や、あるいは新憲法は、こういう傾向のもとに平然と踏みにじられて、街頭でも、皆さん御承知だと思いますが、職務質問という名前で、カバンの中や服の中まで取調べられ、中にはそのまま警察にひつぱられたりしておる者も出て来ておるし、またいろいろ生活の苦しいことから出て参りますところの人々の抗議や不平のはけ場所が一切押えられて、文句言うなということになつておるのであります。私は朝鮮の戰争が開始以来、こういう傾向が強まつたということに関連して、こういう横暴なやり方は、ごく最近まで日本に行われていたことなのでありまして、満州事変前後から太平洋戰争終結までの日本の軍国主義者といわゆる特高が、侵略戦争を遂行するために、これに反対した共産党はもちろんのことでありますが、いわゆる自由主義者、あるいは進歩主義者、あるいは最後にはキリスト教の信者まで獄中にたたき込んでしまつたという苦い経験をわれわれは今思い起すのであります。私はこの点について特にお尋ねしたいのは、政府では吉田ワン・マンだけが、治外法権の外国軍隊の相当長期の駐屯を望み、同時にまた日本の再軍備を当然の帰結とするような内容の単独講和を、多数が熱望しておるというようなことを言つておるような状態でありますが、これは国民の多数ではないと思います。また国民の多数、少数はさておきましても、国民はやはり平和を望み、日本の再軍備に反対する多くの人々の中から、講和を目の前にしていろいろな動き方が出て来おります。出て来るのはまた当然であると思いますが、こういうやり方に対して、政府が全面講和あるいは再軍備反対、戰争介入の反対ということに対する人々の運動を弾圧するということは、大橋氏の責任においてとつてもらつては困るということからお尋ねするのですが、このたびの次長検事の非常にぎごちない更迭によつて、こういうフアツシヨ的な傾向をさらに強めるための人事の更迭をおやりになつたのか。そうでなかつたならば、こういう傾向に対して、次長検事の更迭とともに、これを機会にしてあなたの御見解を聞いておきたいと思います。
  113. 大橋武夫

    大橋国務大臣 このたびの私のとりました人事がフアッシヨ的であるというふうな御批判でございまするが、フアツシヨ的ということは、共産党の諸君がやられますように、暴力をもつて法律、秩序を破壊しようというのがフアツシヨ的であるのでありまして、私のごとく検察庁法第二十五條規定を正当に解釈いたし、法律によつて私に与えられましたる権限の範囲内におきまして、国民の利益のために確信をもつて処理するということは、これは立憲民主政治のもとにおける政治家として当然の措置である。共産党の諸君のごときフアツシヨとは、全然根本的にその面目を異にしておるのであります。
  114. 加藤充

    加藤(充)委員 それで……。大橋さん、ちよつと待つてください。それは卑怯だ。
  115. 大橋武夫

    大橋国務大臣 約束の時間が過ぎましたから……。
  116. 加藤充

    加藤(充)委員 逃げてしまつたからしかたがないですが、実は暴力で破壊を事としておるものは、少くとも共産党と関連のあるものではないという例証を、きようの新聞に出ておりましたあの上十條か何かで起きた事柄の上で実証して、大橋さんの責任を私は聞きたかつたのですが、ほかの人でもいい。それはほかでもありませんが、日映の松本久彌というカメラマンと毎日のニユース・カメラマンの谷田貝という二名が、きのうの午後二時ごろ、ニュースマンとして当然の、腕章を巻いて行動をしておる間に、警察官にたたかれて、新聞記者の連中が抗議をしておるのですが、職務執行の陰に隠れて暴力を振つておるのは、共産党ではなくてまさに警官だということになる。かんじんかなめのことを言おうとしておるときに逃げてしまつたので、どうにもしかたがありませんが……。(「また呼んでやれ」と呼ぶ者あり)では委員長に要求しておきますが、この次ぜひ大橋さんの出席をおはかり願いたいと思います。
  117. 安部俊吾

    安部委員長 加藤君にお答えいたしますが、加藤君は三分間の発言でありまして、大橋総裁はそれに答えまして、逃げたのでも何でもないのであります。もし御要求があれば、次の機会に大橋総裁を迎えます。
  118. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 佐藤意見長官人事院総裁に尋ねいたしたいのであります。長い間お待たせしてはなはだ恐縮なんですが、これは今回の事件を想定しないでもいいのですが、実際上法律上の御解釈を御説明いただきたいと思うことは、ある官職に補したときに、赴任をがえんじない、さればといつて退職もしないという場合には、どういう手続が検察官に対してとられるのですか、法制的に御答弁いただきたいと思います。
  119. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 その場合は、結局職務の執行をがえんじないわけでございますから、懲戒処分になるわけであります。従いまして、公務員法による手続はふむというふうに了解しております。
  120. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、今回木内氏が退職しないで、しかも札幌行きをがえんじないという場合は、懲戒処分に付されるということになるわけですね。
  121. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 何人たるとを問わず、官職にある者が赴任の命令に違反した行動をとりました場合には、懲戒の問題になることと存じます。
  122. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第二十五條解釈として、官というものを広く解釈なさるとすると、中央のひのき舞台におる者を僻陬の地に移す。実際は首を切りたいのであるが、それでは第二十五條保障があるから、その脱法行為としてさような行動をして、それを聞かなければ懲戒だということになると、第二十五條身分保障がほんとうの身分保障にならぬのじやないか。その意味において検事団においても異議があつたのだろうと思うのですが、これを広く解釈されるとそういうことになる。同じ検事長あるいは同じ検事正といたしましても、その任地において天地霄壌の違いがあることは申すまでもないことである。東京から札幌というようなところ、あるいは昔は沖繩というようなものがあつたのですが、検事長あるいは次長検事というものは、官としては同等だという見解も立ちましよう。しかし次長検事は官と職が備わつたものでありますから、検事長という官自体は同等であつても、それに対して職を与える場合に、それが東京と札幌ということになりますと、結局形だけは第二十五條の違反でないというのだけれども、事実上は脱法行為としてそれが行われるおそれがあるのではないか。でありますから、検事団の一部においては、次長検事というものはそれ自体第二十五條にいう官であると主張するようになつたのではないかと思いますが、そういう官と職を考えた場合に、第二十五條を広く解釈されると脱法行為が行われやせぬかという心配があるが、それに対してはいかがですか。
  123. 佐藤達夫

    佐藤(達)政府委員 ただいまの御設例は任地の問題でありまして、勤務地の場所の問題であります。従いまして、先ほどからるる申し上げておりますように、大きな意味でも小さな意味でも、いずれにせよ官とは全然関係のない問題でございます。従いまして、この第二十條のいろいろ御質問になつております問題とは関係のないことである。裁判官の場合でありますれば、転所という文字はつきり用いております。これは職であろうと、あるいは職以外の勤務地の指定というような軽い勤務命令であろうと、転所という言葉を用いておりますが、第二十五條の場合はそれがありません。これは法文の解釈の問題としては何人も疑いのないところだと存じます。
  124. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それは十分承知しておるのですが、これはあなたに対する質問としては適当でない、法務総裁にやればよかつた。広く解釈すると脱法行為がありはせぬかという疑いが出る。第二十五條からいえば合法的であろうが、実際からいえば詰腹を切らせる方法として用いられる例があるのではないか。それに対して懸念がないかということをお尋ねしておる。
  125. 淺井清

    ○淺井政府委員 私からお答え申し上げますが、一体法律の運用と申しまするものは、これは良識ある運用を前提として立法されてあるというこは御承知通りでありまするから、もし悪意をもつてこれを運用いたすということになれば、いかなる法律にもさような穴はあるように心得ております。そこでお尋ねのところを究極にまで押し進めますれば、現在の検察官身分保障、ことに問題になつております転官というものを、裁判官と同じように保障するところまで高めるかどうかという問題になつて参るだろうと思います。そこで検察官は普通一般職に属しておりまするから、人事院としても申し上げるのでございまするけれども、この転官を、検察官には保障せずして、裁判官だけに保障しておるという制度は、明治憲法以来数十年にわたつて実施して参つた制度の違いでございまして、今日までさまで弊害はなかつた。今朝法務総裁がお答えになりましたように、事実の慣行として本人の承諾をとつていた。しかし法制上は、裁判官には認めるが、検察官には認めない、かように運用して参つて、さまでの支障がなかつたものでございまするから、現行制度でよろしいかと存じます。
  126. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の御答弁で、もう私が尋ねることを答えられたような気がするのでありますが、なお念を押しておきます。検察庁法第二十五條について、この官を広く解釈するがゆえに、次長検事札幌検事長になつても、これは官を動かしたのではないから何ら違法ではないという法務府の御見解でありますが、国家公務員法の第七十五條解釈からして、官と職を兼ねた次長検事というものを今度は札幌検事長——地域的にも札幌というようなことを頭に置いた場合に、これはいわゆる第七十五條の降任という中には入らないわけですか、入るわけですか。
  127. 淺井清

    ○淺井政府委員 それは入らないと解釈いたします。
  128. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 よろしゆうございます。
  129. 安部俊吾

    安部委員長 法務行政に関する質疑は、本日はこの程度にとどめます。     —————————————
  130. 安部俊吾

    安部委員長 次に商法の一部を改正する法律施行法案を議題として審議に入ります。本案に対する一般的な質疑は後日に譲りまして、まず逐條審議に入り、第一條より逐次政府委員より説明を聴取いたしたいと思います。野木政府委員
  131. 野木新一

    ○野木政府委員 それでは商法の一部を改正する法律の施行法案につきまして、逐條的に概略の御説明をいたします。  まず第一條でございますが、本條は商法の一部を改正する法律、昭和二十五年法律百六十七号の施行に必要な経過的措置を規定するにつきまして、便宜のため設けた定義規定であります。ここに商法とは、商法、明治三十二年法律第四十八号をさすものであります。従つて商法の一部を改正する法律の施行の目から効力を失う同法附則第二項の規定、商法第三百四十三條の特則をなす規定でありますが、その規定は特に旧法中に入れる旨を明らかにする必要があるわけであります。  次に第二條でございますが、第一項は、新旧商法の適用についての基本原則を掲げたものであります。商法につきましては、明治四十四年及び昭和十三年の改正にあたつて、施行法規はともにこの原則によることも明らかにしておるのでありますが、今回の改正に際しても、またこれらの先例を踏襲したわけであります。他にこの原則に立つものといたしましては、最近の民法改正の際の経過規定等がございます。第一項に掲げるところは、この法案における経過規定原則でありまして、その具体的適用については、解釈上疑義を生ずる場合もありますので、この法律は以下の各條において、それらのおもな場合について個々に規定を設け、解決をはかつておるのであります。第二項は、第一項の原則たる新法遡及主義から当然のこととも考えられるのでありますが、事柄を明らかにするために設けた規定でありまして、ここに言う新法に抵触する定款の定めの例といたしましては、株式譲渡の制限、裏書の禁止に関する定め、商法第二百四十一條の規定による株主の議決権の制限に関する定め等がこれにあたり、契約の條項といたしましては、新法による株式譲渡の制限の撤廃を無意味ならしめるような特約の内容等があげられるわけであります。  次に第三條でございますが、本條は、裁判所のする解散命令についての経過規定であります。すなわち新法施行前に裁判所が請求を受け、または職権によつて着手した解散命令に関する事件については、手続の維持のため、新法施行後も議法によることといたしました。「旧法第五十八條に定める事件及びその事件に関連する同條に定める事件」といたしましたのは、第五十八條に定める事件には、本案と会社財産の保全処分とがありますが、そのいずれか一方について請求または着手があれば、他の一方についても旧法によらしめんがためでございます。なお請求を却下された利害関係人の責任についても、請求が新法施行前になされたものであれば、これを旧法通りといたしました。  次に第四條でございますが、本條は解散命令の請求または商法会社編上の訴えの提起について要求される担保に関する規定は、新法施行前にすでに供した担保については、新法施行後も適用があることといたしまして、担保提供請求者の既得利益保護いたしました。従つて本條は前條、第二十三條及び第二十九條に対しては限定的規定となるわけであります。本條は「新法施行前に供した担保に関してのみ」と言つておるのはその趣旨を示したものでございます。  次に第五條でございますが、株式会社の設立についての経過規定でございます。設立手続が新法施行前すでに発起人による株式総数の引受または株主募集荷手の段階に達しましたものにつきましては、既成の法律関係を尊重する見地からいたしまして、新法施行後もその設立につましては、旧法を適用することにいたしました。従つて発起人、取締役及び監査役の責任につきましても、特別の規定がない限り、旧法が適用されることになります。第一項本文の場合で、新法施行後に設立の登記をする場合には、会社は旧法によつて成立するものでありますが、次の第八條及び第二十一條の適用によりまして、登記事項につきましては、新法に代うことが可能でありますから、本條に但書を設けたわけであります。  次に第六條ででございますが、新法施行前に成立した株式会社または新法施行後旧法によつて成立する株式会社が、新法施行後またはその成立後存続するためには、その定款に絶対的記載事項として、新法の要求する「会社が発行する株式の総数」の定めがなければならないわけであります。本條第一項は、前者については、新法施行前に発行した株式の総数が、後者につきましては、設立に際して発行する株式の数がそれぞれ会社が発行する株式の総数として定款に定められているものとみなすことによりまして、これら旧法によつて成立した会社が定款の変更を要せずして、新法施行後存続し得るようにいたしたわけであります。本條第二項は種類株についての同趣旨規定でございます。  次に第七條でございますが、新法施行前に成立した株式会社については、会社が発行する株式の総数、発行済み株式の数のように、新法の施行によつて当然新たに登記すべき事項を生ずるのでありますが、本條はその登記に関する規定でありまして、第一項はこれらの事項の登記の期間を特に六箇月としたのであります。なお代表取締役の登記につきましては、第二十一條第三項に別に規定がございます。  次に第八條及び第九條でございますが、いずれも第五條に対する特別規定でありまして、第八條は、新法施行後旧法によつて会社が成立した場合及び新法施行後に株式の申込みが取消された場合の発起人の填補責任について、第九條は発起人、取締役及び監査役の会社の設立に関する責任の新法施行後における免除及び追及の訴えの提起につきまして、今回の改正の趣旨にのつとり特にそれぞれ新法によることといたしているわけであります。  次に第十條でございますが、商法の一部を改正する法律附則第四項は新法施行前に成立した株式会社についてのみ株式の金額を旧法通りとしているのでありますが、本條第一項は、新法施行後旧法によつて成立する株式会社についても同様に取扱いました。第二項は、新法が株式の券面額を引上げたことにかんがみまして、株式の金額について旧法の適用を受ける株式会社につき、特に特剔抉議によつて株式を併合して一株五百円以上のものとすることかできる道を開いたものであります。  次に第十一條でございますが、本條は新法施行前にされた記名株式の移転について、その効力譲渡の方法、対抗要件等旧法によることを明らかにしたものでありまして、第二條第一項の原則から当然のこととも考えられますが、ただ旧注によれば譲渡が無効である場合は、当然に同項但書の規定により無効と解せらるべきであるかにつきましては、疑義を生ずるおそれがありますので、この規定を設けたわけであります。新法施行後に名義書かえの請求があつた場合に、その譲渡が新法施行前のものか、新法施行後のものか判然しない場合がありますので、本條但書は、その場合にはいわゆる資格授与的効力を認めた新法第二百五條第二項、第三項の規定適用を妨げないことといたしたわけであります。
  132. 安部俊吾

    安部委員長 この際お諮りいたしますが、本案の逐條審査は今日はこの程度にとどめまして、午後一時開会予定の戸籍法改正に関する小委員会がまだ開会せられておらぬのでありますから、本委員会はこれをもつて散会したいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  133. 安部俊吾

    安部委員長 御異議がなければさよう決しまして、本会は散会いたします。  次会は公報をもつてお知らせいたします。     午後三時三十八分散会