○篠原
政府委員 ただいま文部
大臣から
宗教法人法案の
提案理由の
説明がありましたが、私は、その補充の意味で、この
法案の大綱について御
説明申し上げたいと存じます。
この
法案の
目的といたしますところは、第一條において明らかでありますように、
宗教団体が憲法で保障されております信教自由の基盤の上に、その独自、特有の宗風と伝統を存続しつつ、自由かつ自主的な
活動をするための物的基礎を確保することにあります。すなわち
宗教団体の財産権の主体性を明らかにすることであります。これがためには、あくまでも信教自由の原則、ひいてはそれが国政との
関係において生ずる政教分離の原則を十分に考慮しなければならないと
考えます。このととは、自由の尊重とともに、責任の明確化と公共性の配慮ということが必要とな
つて参るのであります。以上の
趣旨から、この
法案は常に自由と自主性、責任と公共性を主眼とし骨子として、全体系が組み立てられておるのであります。
以下、本案の大綱について、章を追
つて御
説明申し上げます。
第一章総則第一條におきまして、この
法律の
目的は、
宗教団体に
法律上の能力を與えるごと、すなわち、
宗教団体が法人となり得る道を開くことにあることを明らかにしております。そして、
宗教団体は、法人となることによ
つて、その
宗教団体の名において、財産を所有し、これを運用することもでき、その他
宗教団体の
目的を達成するための業務や事業を運営する上に役立つことになり、
宗教団体自体の
目的達成を容易にすることともなるのであります。この
法律の
目的はあくまで憲法の保障する信教の自由を尊重する点に立脚し、決して宗教上の行為にまで触れるものではないことを明らかにしておるのであります。
第二條は、この
法律で「
宗教団体」と申しますのは、宗教の教養を広めること、儀式行事を行うこと、信者を教化育成すること、この三つを主たる
目的とする
団体をさしておりまして、神社、寺院、教会のような、いわゆる單位
団体では、礼拜の施設を具備していることを予想しておりますし、また、教派、宗派、教団のような、いわゆる包括
団体では、右の單位
団体を二つ以上包括していることを予想しておるのであります。
ただいま礼拜の施設ということを申しましたが、本殿、拜殿、本堂、会堂などの礼拜の施設のほかにも、宗教法人の主たる
目的のために必要な固有の建物や工作物や土地がありますが、これらを、この
法律では「境内建物」または「境内地」と呼ぶことにしております。
第五條は、所轄庁に関して規定しておりまして、神社、寺院、教会などの單位
団体の所轄庁は、都道府県知事とし、教派、宗派、教団などの包括
団体の所轄庁は、原則として文部
大臣としております。
第六條は、公益事業またはその他の事業に関する規定でありまして、後者の事業に伴う收益は、宗教法人の
目的に沿
つて使用されなければならない
趣旨で、もしこれに違反すれば、第七十九條の規定により、所轄庁からその事業の停止を命ぜられることがあります。
第七條から第十一條までにおきましては、宗教法人の住所、能力、責任などにつき民法の規定を取り入れ、また登記の効力、登記の場合の届出に関して規定しております。
第二章におきましては、宗教法人の設立に関する事項を規定しております。第十二條には、設立に関する内部的に
手続として、民法法人の定款に該当する宗教法人の規則を作成して、その規則について所轄庁の認証を受けるべき旨を規定しております。
宗教法人の規則の記載事項に、公告の
方法がありますが、この公告は、宗教法人の設立、財産処分、被包括
関係の設立廃止、合併、解散等の場合に、信者その他の利害
関係人に対して行うもので、宗教法人の公明適正な運営と自主性を考慮した
制度でありまして、公告の
方法は、登記事項としております。
宗教法人設立の旨を公告いたしましてから、所轄庁に規則の認証を申請し、その認証を受けた後、設立の登記をいたしまして、ここに宗教法人が成立するのでありまして、第十三條から第十五條までにその旨が規定してあります。
所轄庁は、認証の申請を受理いしまますと、三箇月以内にその規則を認証する旨の決定か、または認証することができない旨の決定をすることにな
つております。この場合、文部
大臣が認証することができない旨の決定をしようとするときは、宗教法人
審議会に諮問しなければならないことにな
つております。
現行法におきましては、設立の登記後に、所轄庁に届け出ることにな
つておりますが、本法におきましては、登記前に所轄庁から認証を受ける
制度をと
つているのであります。これによりまして、自由を濫用して、
宗教団体でないものが宗教法人と
なつたり、はなはだしく不備で法令に違反するような規則をもつ宗教法人ができて、取引の安全を害したりするようなおそれを防止することが、期待されのであります。本法で認証と申しておりますことは、第十四條にもありますように、当該
団体が、第二條に規定されているような
宗教団体であり、また、規則や
手続が法令の規定に適合しているものであることを、所轄庁において確認する行為でありまして、事実について認定して、公の権威をも
つて宣言するにとどまり、それからいかなる効果が生ずるかは、もつぱら
法律の定めるところによるのでありまして、その行為をした所轄庁の意思によるものではありません。この点、第三者の
法律行為を補充して、その効力を完成させる認可とは、性質上の相違があると申すことができます。また、認証には、宗教そのものの正邪曲直、新旧大小の価値判断にわたるようなことは、決して伴わないものであるのであることは言うまでもありません。認証につきましては、あくまで愼重を期し、
宗教団体の正当な利益が保護されるよう、宗教法人
審議会の諮問その他愼重な
手続に関する定めをするほか、再審査と訴願が、第十六條及び第十七條に規定せられておるのであります。
第三章は、宗教法人の管理に関する規定でありまして、宗教法人の役員として、本法で定めておりますものは、代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員、仮責任役員及び清算人であります。
現行法では、宗教法人には総代三人以上を置くべしという規定がありますが、この総代の規定は廃止いたしまして、責任役員を三人以上置かなければならないことにな
つております。この責任役員は、必ずしも総代のかわりではありませんから、その資格、任免、職務等は、その宗教法人の特性に応じてみずから定めることにな
つております。規則に別段の定めがなければ、宗教法人の
事務を、責任役員の定数の過半数で決し、その議決権は、おのおの平等とされております。代表役員も、責任役員の一人としてその責に任じますが、宗教法人の
事務の総理の権限及び代表権は、代表役員にあるのでありまして、この点、現行法の主管者に相当するものであります。第十八條から第二十條までの規定におきましては、責任役員及び代表役員並びに責任役員及び代表役員の代務者に関する定めをいたしております。第二十一條は、民法第五十七條の特別代理人に相当する仮代表役員及び仮責任役員の規定であります。
第二十三條は、宗教法人のうち、單位
団体が、重要財産について
法律上の処分をしたり、境内建物や境内地について、事実上の処分をしたりする場合には、原則として、あらかじめ規則で定めるとこちによるほか、公告をしなければならないという規定であります。現行法では、重要財産として不動産のほかに、神社寺院教会財産登記簿に登記されている宝物と、基本財産たる有価証券とが掲げられておりますが、この財産登記
制度は、従来ほとんど利用されないので、廃止いたしました。この宝物と、境内建物、境内地たる不動産につきましては、規則で定めるところによらなかつたり、または公告をしなかつたりして、これを処分しまたは担保に供しますと、その行為は無効になることにな
つております。このことは、従来の方針を尊重し、宗教法人の重要な財産である宗教財産の流出を防ぐ
趣旨でありますが、一方、取引安全の
趣旨から、善意の相手方や第三者に対しては、その無効をも
つて対抗できないことといたしました。
第四章は、規則の変更に関する規定でありまして、宗教法人が規則を変更しようとするときは、まず内部的
手続として、規則所定の
手続を済まし、対外的
手続として、所轄庁の認証を受けなければならないことにな
つております。第二十條から第二十八條までは右の
手続を規定しております。第二十九條は、規則の変更について、認証できない旨の決定があつた場合の再審査及び訴願に関する規定であります。規則の変更は、設立の場合のように、登記によ
つて効力を生ずるのではなく、規則の変更に関する認証書の交付によ
つて効力を生ずることにな
つております。
ここに規則の変更の
手続として注意すべきことは、第二十六條第一項後段と、同條第二項から第四項までに規定しておりますところの、包括
団体との被包括
関係の設定、廃止にかかる規則の変更に関する規定であります。現行法では、この点が必ずしも明確ではありませんので、本法におきましてはこれを明らかにし、当該宗教法人の規則中に、包括
団体からの脱退について、包括
団体が一定の権限を有する旨の規定があ
つても、その権限に関する規定によらなくてもよい旨を規定し、認証申請前に、信者その他の利害
関係人に対して脱退または加入の旨を公告し、脱退の場合には、現在の包括
団体に対してその旨を通知し、加入の場合には、加入先の
承認を受けなければならないことにな
つております。脱退、加入に関する根本的自由を認める
考えは、現在とかわりはございませんが、單に主管者と数人の総代との意思によ
つて決定されているのと比べて、より公明であり、より民主的であるということが言い得るのでありまして、従来往々見られたような紛議の防止に役立つものと、期待されるのであります。
第五章は、合併に関する規定でありまして、これは現行法にはない規定であります。この合併に関する規定を設けましたことによ
つて、現在の、解散をして清算
手続を経なければ、合併と同じような結果が得られないという不便を取除き、清算
手続を経ないで、権利
義務の包括的承継ができることになるのでありまして、教化力を強化するための合併要望の傾向が地方に見受けられる
事情から見まして、特に必要な
措置と
考えます。
合併は、信者その他の利害
関係人に対する公告、財産目録等の作成、債権者に対する催告と、所轄庁の認証とが必要とされております。第三十三條及び第三十四條の規定がこれでありまして、第三十五條には、吸收合併の場合における規則の変更のための
手続、新設合併の場合における規則の作成と設立の旨の公告、また、第三十六條には、合併に伴う被包括
関係の設定、廃止の場合における公告、
承認、通知について規定されております。
第三十八條及び第三十九條は、合併に関する認証の申請と、認証の決定などの規定でありまして、第四十條には、合併に関する認証についての再審査と、訴願の道を規定しております。合併の効力は、設立の場合と同様、登記によ
つて生ずることにな
つております。
第六章は、解散に関する規定でありまして、第四十三條に、解散の事由として、任意解散と六種の法定解散を規定しております。任意解散の
手続といたしましては、合併の場合と同様、規則所定の
手続、信者その他の利害
関係人に対する意見を申し述べる旨の公告、それから所轄庁の認証が必要でありまして、解散の認証に関する再審査と訴願につきましても、規定しておるのであります。解散の効力は、任意解散の場合は、解散に関する認証書の交付によ
つて生じ、法定解散の場合は、その車由の発生によ
つて生ずることにな
つております。
第四十九條は、清算人に関する規定でありまして、所轄庁の認証の取消しと、裁判所の解散命令による解散の場合の清算人は、裁判所が選任する点が、現行法と異な
つております。
第七章は登記に関する規定でありまして、第一節の法人登記の規定は、現行の宗教法人令施行規則の定めるところと大差なく、合併に関する登記が新たに加わつた点が、異なる
程度であります。
第二節の礼拜用建物及び敷地の登記も、現行法とほとんど同じでありますが、第六十九條第一項後段の規定に、礼拜の用に供する建物の敷地として登記した土地が、分筆や移築によ
つて礼拜の用に供する建物の敷地でなく
なつた場合は、登記の抹消をしなければならないという規定などが加わ
つております。
第八章は、宗教法人
審議会に関する規定でありまして、これは文部
大臣の諮問機関として
文部省に設置され、認証その他この
法律によりその権限に属せしめられた事項について、
調査審議する機関であります。
委員は十人以上十五人以内とし、宗教家及び宗教に関し学識経験がある者について文部
大臣が任命することにな
つております。この
審議会の設置によりまして、所轄庁によるこの
法律の適正な運営が期待されるのであります。
第九章、補則、第七十九條は、被包括
関係の廃止を防ぐことを
目的としたり、これを企てたことを
理由として、当該宗教法人の役員に対して、不利益な取扱いをしてはならないとし、その役員の身分を保障する一方、被包括
関係を廃止した宗教法人も、従前の債務履行の
義務は免れないという規定であります。
第七十九條は、事業から生じた收益を所定の使途に使用しない場合は、一年以内の期間を限
つて、所轄庁がその事業の停止を命ずることができる規定であります。
第八十條は、認証の取消しに関する規定でありまして、所轄庁は、設立または合併の認証をした場合に、当該
団体が宗教法人の前提である
宗教団体でないことが判明したときは、認証書交付の日から一年以内に限り、その認証を取消すことができるという規定であります。この事業の停止と認証の取消しは、宗教法人
審議会の意見を聞いた上でなければできません。また、この停止と取消しのいずれの処分に対しても、訴願をすることができることにな
つております。
裁判所が解散を命ずることができる事由は、五つ規定されておりまして、その一は、法令に違反して公共の福祉を明らかに害する行為があつたこと。
宗教団体の
目的を著しく逸脱し、または一年以上その
目的のための行為をしないこと。三は、礼拜の施設を二年以上備えないこと。四は、一年以上代表役員も代務者も欠いていること、五は、認証書交付の日から一年以上を経過した後において、所轄庁の認証の取消しの事由に該当することが判明したこと、この五つであります。裁判所による解散命令は、職権と検察官の請求によるほか、さらに所轄庁や利害
関係人の請求によ
つてもできるように
なつた点が、現行法と違
つております。
第八十三條におきましては、礼拜用建物及び敷地に対する差押え禁止の規定で、これは現行法の精神を踏襲しております。
第十章は、罰則の規定でありまして、認証申請の添附書類に不実の記載があつた場合、その地法が要求しております公告、届出、登記等一定の
手続を履行していないような場合に、一万円以下の行政罰で、ある過料を科することにな
つております。
附則について申し上げます。この
法律は、公布の日から施行され、その施行の日から、宗教法人令とその施行規則を廃止することにな
つておりますが、この
法律施行の際、現に存する宗教法人令による旧宗教法人につきましては、この
法律による新宗教法人となるまでは、旧宗教法人として存続することができることにな
つております。従
つて、宗教法人令とその施行規則は、旧宗教法人が存続する限り、本法施行後も、なお効力があるのであります。
旧宗教法人が新宗教法人となるのには、本法中宗教法人の設立に関する規定に従わなければならないのでありまして附則の第五項にその旨を規定しております。また、宗教法人令では、合併に関する規定がありませんので、二つ以上の旧宗教法人が合併しようとする場合は、新宗教法人の設立に関する規定に従
つて、一つの新宗教法人となることができる道を第六項において開いております。
旧宗教法人が新宗教法人となる場合は、合併の場合も、本法の設立の登記によるのでありまして、第六十一條第二項に掲げる宗教法人登記簿に記載されるのであります。これに反しまして、宗教法人令によ
つてなされた公衆礼拜用建物及び敷地の登記は、本法による登記と当然みなされます。
旧宗教法人が、もし被包括
関係を廃止しようとする場合は、新宗教法人となることに伴う場合に限り、これをすることができることとし、公告と同時に通知の
手続をとらねばならないことを、第十三項及び第十四項に規定しております。
旧宗教法人が新宗教法人になるには、本法施行後、一年六箇月以内に認証の申請をしなければなりません。所轄庁は、認証の申請を受理してから一年六箇月以内に、認証に関する決定をしなければならないことにな
つております。もし本法施行後一年六箇月以内に認証の申請をしなかつた場合には、その旧宗教法人は解散するのであります。
第二十二項では、旧宗教法人のうち、教派、宗派または教団で、新宗教法人と
なつたものの所轄庁は、文部
大臣とする旨を定めております。
第二十三項以下は、本法の施行に伴う
関係法規の改廃に関する規定であります。
以上、この
法案の大綱について御
説明申し上げましたが、この
法律におきまして特に留意いたしました点は、宗教の自由と平等、宗教法人の特性と自主性の尊重に最大の注意を拂いつつ、現行法の長所を取り入れ、その短所を補
つて、その運営が
宗教団体及び一般国民の福祉の増進に積極的に寄與するよう苦心したということであります。この
法案の成立につきましては、宗教界から大きな期待がかけられておる次第でありまして、何とぞ愼重御
審議の上、すみやかに議決くださるようお願いいたす次第でございます。