○中馬
委員 私九州並びに山口県の
水害状況調査の
報告をいたしたいと思います。
私
どもは去る七月十九日から十日間にわたり
千賀委員長並びに私それに藤井専門員及び
農林省農地局
災害復旧課の樋上
技官を帯同いたしまして、熊本、鹿児島、宮崎、大分、福岡及び山口の六県にわたり、今般の
水害の
被害状況を
調査いたして参りましたので、ここに御
報告申し上げます。
今般の
水害は、七月初めに襲来いたしました
ケイト台風並びに七月八日ごろから十五日ごろまで不連続的に多大の
降雨量をもたらしました梅雨型
豪雨の二つの
被害が重複したのでありますが、私
どもの視察いたしました
地帯におきましては、前者の
被害はさしたることはなく、主として後者の
豪雨によるものであります。この
豪雨はまことに空前の
豪雨と称すべきものでありまして、隆雨量の最も多か
つた福岡県朝倉郡甘木町のごときは、この間に千三百四十五ミリにも達し、平均年間隆雨量約二千ミリの三分の二近くがこの一週間ばかりの間に降
つてしま
つたのであります。また熊本県におきましても、最大雨量は千ミリに達し、その他の諸県も大体四、五百ミリから七、八百ミリに達しているのであります。このため河川の氾濫を来しまして、住居、橋梁、堤塘、
耕地、林道等を破壊、流失、埋没せしめました上、
人畜にも多大の損失を与えたのであります。今これら六県におきます農林
関係だけの損失を
現地側県当局の
調査によ
つて見まするに、福岡県は、
耕地関係五億四千五百万円、林業
関係二億一千二百万円、農
作物関係三十六億七千万円、計四十四億三千余万円に達し、熊本県は
耕地関係七億三千八百万円、林業
関係一億一千四百万円、農
作物関係約七億円、計約十五億円余となります。鹿児島県は
耕地関係六億四千余万円、農
作物関係九億四千余万円、
山林関係四億一千余万円、計約二十億円余であります。宮崎県は
耕地関係十四億五千万円、農
作物関係五億七千万円、林業
関係一億一千万円、計約二十一億円余に達します。大分県は
耕地関係三億五千万円、農
作物関係三億二千万円、
山林関係八千万円、計約七億五千万円余であり、山口県は
耕地関係五十億四千万円、農
作物関係八億九千万円、
山林関係八億六千万円で、計約六十七億九千万円余に上るのであります。これら六県を合算いたしますと、実に百七十三億円に達する状況であります。また人命の損傷も多大でありまして、死者七十三名、行方不明四名、負傷者は重軽傷合せて五百十名にのぼ
つております。この人的
被害の大部分は、鹿児島県と山口県の両県によ
つて占められ、それに次いで福岡、宮崎の両県と相な
つております。この内訳を申し上げますと、死者七十三名は、鹿児島県四十名、山口県二十八名、福岡県三名、宮崎県二名とな
つております。行方不明は、鹿児島県二名、宮崎、山口それぞれ一名ずつとな
つております。負傷者は、山口県四百二十八名、鹿児島県三十九名、福岡県二十八名、宮崎県十六名であります。
このほか橋梁、建造物、道路、港湾施設等の損害を合計算いたしますならば、その
被害総額は驚ろくべき金額に上るものと想像されるのであります。私
どもは熊本、鹿児島、宮崎及び山口四県下の主要
災害地をつぶさに視察いたし、また大分、福岡両県下につきましては、私
どもに続いて視察を予定されております島村政務次官に
現地調査をお願いいたしますことといたしまして、主として県当局の
説明並びに地元の
陳情等を聴取いたしたのであります。その際至るところで座談会、懇談会等を催しまして、地元民との隔意のない
意見の
交換をいたし、また
災害地
農民諸君の奮起を促し、あるいは県当局を激励鞭撻いたしまするとともに、私
どもも
国会議員として、また衆議院
農林委員として十分なる力添えをいたすべきことを強く誓
つて参つたのであります。
被害状況を実地について見ますと、山口、鹿児島両県のごときは特に激烈をきわめているのでありまして、山口県佐波川の堤塘はまさに寸断の状況で、沿岸数十箇所を決壊いたし、
耕地を流失埋没し、またこの
地帯は林産物の産地であります
関係上、伐採された木材が多量に上流から流れて参りまして、人家、橋梁、堤防等の破壊を一段とはなはだしくしたのであります。私
どもは
現地で
家屋の中に突入している大きな木材や、半壊、全壊の
家屋も多数に見ました。またその出水量がいかに多か
つたかは、電線に流出のごみがかか
つている点からも想像されるので、電柱も没せんばかりであ
つたといわれます。また鹿児島、宮崎両県のシラス
地帯は軽石を含んだ火山灰
地帯でありまして、地表水の浸透あるいは地下水の湧水によりまして土壌の崩壊を来すのでありますが、これは広さ数
町歩にわたる面積の畑、または
水田ないしは
山林地等が、高さ五十メートル内外に垂直に割れ、土砂とな
つて流失するのであります。そのありさまは、宛然小コロラド峡谷を想像せしめるものがあります。シラス
地帯に前に申し上げましたように、人名の損傷が多いのは、かかる崩壊しやすい性格によるものであります。これらの
災害に対する応急
対策は各県とも熱心に講ぜられておりました。九州各県では緊急県議会を招集して、
復旧対策を講ずるとともに、他方冠水した
水田で稲が流失あるいは腐蝕して再生の見込みのないところは、それぞれ県下で苗の余
つているところのものを取寄せたり、または現に植えられているものの一部を供出せしめたりして補植をしたり、あるいは陸稲に置きかえる等の
措置を講じております。決壊の堤防、流失埋没の
耕地の
復旧につきましても、すでに涙ぐましい努力を続けている姿が見られたのであります。また鹿児島県下のシラス
地帯におきましては、崩壊地または崩壊の危険にある場所から六十メートル以内は
水田耕作を禁止する等の
措置をと
つておりました。さらに山口県のごときは緊急
融資二億円の見込みが立つやいなや、ただちに県財政資金の中から二千万円をとりあえず
支出して
災害市町村に交付し、また農信連に対しましても県の財政から千五百万円を利子補給金として
支出し、単協を通じ無利子で罹災農家に
融資させ、営農復興資金の
融資をはか
つております。同様の
措置は熊本県その他においても講ぜられておりますが、山口県では、このほか仮住宅をさしあた
つて五十戸分をつくり、県と地元町村の
負担で
被害者に無償で交付しているのであります。私
どももこの仮住宅の建設をまのあたり見て参りました。さらに今後住宅金融公庫から資金を借り入れる場合、頭金は県において
負担し、
土地その他を地元町村にあつせんさせる等の応急の
対策を講じておりますが、これらの
措置は
災害農民の奮起に非常に役立
つているように見えたのであります。
次に今般の
災害に対し
現地から寄せられました
要望につきまして、主要な点を申し上げます。
一、本
年度公共事業費に計上されている
災害復旧の予備費を速急に
支出してほしい。
二、
災害復旧に関しましては、単なる原形
復旧よりも
改良工事に重点を置き、
災害に対する予防的
措置を講ずるとともに、生産力の高揚をも同時にはかるようにせられたい。
三、今般の
災害に際し土壌保全
対策を講じた所は
被害が僅少である点にかんがみ土壌保全の
対策を積極的に講ぜられたいというのでありまして、特に鹿児島、宮崎両県下のシラス
地帯についてはこの
要望が特に強か
つたのであります。
四、
団体営等の小規模
土地改良に対する補助金制度を復活してほしい。
五、
災害復旧の
国庫補助率はその
災害の多寡あるいは
被害の激甚さの度合いに応じて定めるよう考慮してほしい。
六、
農林漁業資金融通特別会計を増額して、農林金融の道を拡大し、さらに長期かつ低利の営農
復旧資金とも言うべき資金
融資の
わくを設定して
農家経済復興の方途を講ぜられたい。もしかかる資金の設定が困難であるならば、さしあたり罹災
農家経済復興資金に対する利子補給を考慮してほしい。
七、罹災農家に対する還元
食糧は供出価格とするよう特別の
措置をとられたい。
八、今回のごとき非常
災害に際しては警察予備隊を出動させて
災害地援助に当るような
措置を講ぜられたい。
九、材木の
濫伐にかんがみこの際急速に植林を促進せられたい。
十、防災ため池のごとき出水を調節し、かつ灌漑に役立つ施設を増置せられたい。
おおよそ以上のような
要望がございましたが、いずれも
災害対策として緊急に対処すべき事項であろうと存じます。
なお
一般的に見まして
水害をこうむる
地帯は、反面旱害にかかりやすい傾向があります。山口県佐波川沿岸のごときは特にその傾向が顕著で、すでに水不足となり、目下揚水機を動員して灌漑に努めるとともに、井堰、灌排水路の
復旧に全力を尽しているのであります。同様の傾向は熊本、鹿児島、宮崎等の各県についても見られるのであります。
今般の
災害の状況は大体以上のようでありますが、何と申しましても、このたびの
水害の大きな原因は、降水量が近年まれに見る大量でありましたことが前に申し上げました最大降水量千三百ミリにも達している点からも想像されるのでありますが、なお他面におきまして、治山治水
対策の不徹底、土壌保全
対策の欠如等が大きな原因を来していることも否定し得ないのであります。例えば熊本県緑川上流の大矢野原二千
町歩は、大部分は原野とな
つているが、もしこれが植林せられてお
つたとしたならば、あるいは堤防決潰ものがれ得たのではないかと言われているのであります。山口県佐波川につきましても、その周辺の山々が欝蒼たる
森林におおわれておりましたならばかほどな
災害にはならなか
つたと思います。特に鹿児島、宮崎両県のシラス
地帯のごときも、地表水または地下水の適切な処理方法を講ずることによりまして、その崩壊を防止し得、少くとも
災害を最小限度に食いとめ得ると信ずるのであります。今般の
災害で鹿児島県下における人命の損失が意外に多か
つたのは、かかる特殊土壌に対する保全
対策が欠如してお
つたがためであ
つたとい
つても過言ではありません。
以上をもちまして、
災害調査の
報告を終るのでありますが、この際特に申し上げたいことは、速急に
公共事業費災害復旧予備費の
支出をはかりまして、罹災
農民が
災害から雄々しく立ち上りました再建の意志を助長し、その希望を達成してやることが生きた政治の要諦であろうと存じます。今般の
災害は前にも申し上げましたごとく、私
どもの視察いたしました六県の農林
関係だけにつきましても、
被害金額は百七十三億円にも上ると推定されますが、このほか山陰、近畿、中部、関東、
東北の諸県にも
災害は及んでおりますので、これらを合算いたしました農林
関係被害総額は二百五十億円余に達するといわれております。従いまして、この際少くとも五十億円
程度の
財政支出をいたしまして、
災害地
農民の熱烈な再建の
要望にこたえるべきであり、必要に応じては
補正予算の計上をも考慮すべきであろうと思います。
さらに今後の
災害復旧は、
改良工事を
中心として十分予防
対策を講じ、
災害を未然に防止する
措置を真剣に考慮すべきであり、特に特殊土壌その他特別の事情により、
災害の頻発しやすい
地帯に対する土壌保全、
災害予防の
措置を強化することの必要なことはいまさら申し上げるまでもありません。かような
災害を防止し、天災を克服する強力な
対策を講ずることが、わが国農業の基本的生産力を強化するゆえんでもあると信ずるのであります。
なおこの際私は、一言地元県会議員の方々のお礼を代弁させていただきたいと思います。実は今回の
災害に対しまして、建設省あるいは
農林省関係におきまして、非常な努力を傾けられたのであります。鹿児島県の県議会におきまして、今回の
災害に対しては農林
関係の方々の仕事が非常に早か
つた。建設省に比べて約一週間から十日ぐらい仕事が早く進行したということを聞きました。さらにまた県議会の農政
委員長は、
農林省に対しまして非常な感謝の意を表明いたしております。農林本省あるいは熊本の
農地事務局の努力に対しまして、今後ともひとつかくのごとき迅速、丁寧なる作業をしていただきたいと県議会の名前において感謝をいたしておりましたから、私からも一言御
報告を申し上げて、今後一層の御鞭撻をお願い申し上げたいと思います。
以上をもちまして、私の
報告を終りたいと思います。