○酒井
参考人 私ただいま御
紹介にあずかりました
帝国石油株式会社の社長、酒井喜四であります。
今回
政府から提案されました
関税定率法の一部を
改正する
法律案のうち、石油に
関係するのは五一九番の炭化水素油という項目にうたわれた内容でありますが、炭化水素油というのは、いうまでもなく俗にいう石油及び石油
製品類であります。その内容を拝見しますと、一が原油、重油及び粗油という一段、二がその他として、これを比重にわけまして、甲と乙とにわけておりますが、甲は、主として揮発油、軽油に相当するものであり、乙は主として機械油に相当するものであります。そして今回盛られた
税率は、原油、重油、粗油の項目に対しては従価一割、揮発油、燈油、軽油の類に対しては従価二割、機械油に対しては従価三割という率が盛られておるのであります。これは現在の内外の事情から見て、わが国における石油鉱業並びに石油の精製業を
保護助長するという
立場から、この三段階の
税率を設けられたということは、おおむね妥当なものと私は
考えるのでありまして、
従つて今回の提案されました
政府案に賛意を表するものであります。以下私が
関係しております石油鉱業の
立場から若干の
意見を述べさせていただいて、御
参考に供したいと思うのであります。
国内原油の
生産は、
大正の初期におきましては年産五十万キロリツターでありましたが、その後幾多の変遷を経まして、
昭和九年ごろには四十万キロ程度の産油を見たのであります。戦時中は
南方方面への人員資材の供給等のため、また戦後は労働不安及び戦時中の濫掘の
影響等のために、原油の
生産量は激減いたしまして、一時は年産十六万キロリツターという
状態でありましたが、その後
政府の積極的な助成対策と、企
業者の企業合理化の努力とによりまして、
昭和二十五年度すなわち本年三月に終る過去一
年間における産油量は、年三十二万キロリツターというところまで上昇して参
つたのであります。そして現在の見通しとしては、来年度は大体において三十六万キロリツターの
生産を確保し得るという段階に到達しておるのであります。しからばこの
日本の石油資源の将来はどうであるかということになりますと、私どもは少くとも近き将来に年産五十万キロリツターまでは、確実に
生産を上昇し得るという見通しを立てておる次第であります。
これらの現実の
生産を確保いたしまする資源
関係の方をひ
とつ見ますると、原油の埋蔵量も結局は探鉱の積極的な推進と、最近に
アメリカから導入されました二次回収法の採用によりまして、いわゆるわれわれのいう石油の埋蔵量というものが、著しく増大して参
つておるのであります。
従つてわれわれはその将来に対してきわめて明るい期待を持つものでありますが、試みに今専門家で推算されておりまするわが国の石油の埋蔵量の
数字を述べますると、大体千二百万トンないし千五百万トンといわれておるのであります。これはわが国の専門家及びGHQの天然資源局の専門家による一致した見解であります。なおただいま申し上げました、二次回収法という目下
アメリカにおいて広く行われておる採油回収法をとりますると、この
方法によ
つては、さらに旧油田から在来の
生産量と同様の油が回収されるのであります。わが国においてもこれを採用することによ
つて、少くともさらに埋蔵量として六百万トン程度の増加を見込み得る、かように
考えておるのであります。ただしかしながら、石油資源埋蔵の規模及び分布は、わが国においては米国その他の大産油国の場合と異なりまして、比較的規模が小さい油田が広範な地域に分布されておりまする
関係から、たとえば帝国石油の場合を例にと
つてみますると、八橋油田のごとき大規模油田とともに、群小の散在しておりまする油田をあわせて仕事をいたしまして、それによ
つて全体の採算をとり、資源の絶対的回収量を増して行く、かような必要があるわけであります。
従つて国際的な
日本の石油における競争という点になりますと、遺憾ながら今日の企業の段階におきましては、まだ基礎確実ということは言えないような事情にあるのであります。かくのごとき場合、結局は
関税による
保護を絶対に必要とし、これによ
つて対外的な競争力を確保する以外に
方法はないと、私どもは
考えておるのであります。
一方原油の
価格の面からこれを見まするならば、昨年六月におきまして、
アメリカ原油はCIFキロ当り六千二百円で
輸入されることにな
つて、これはさや寄せするために
国産原油
価格は、メリツトを考慮いたしまして、キロリツトル当り六千七百円に引下げられたのであります。しかしながら六千七百円では、とうてい企業は維持できないということから、
政府にいろいろ配慮いただきまして、キロリツトル当り千七百円の
価格調整金を得て、
輸入原油との間に均衡をはか
つた事実があるのでありまして、かくのごときは平常時において、
国産原油が常に外油の
輸入による脅威に直面しなければならないということを、端的に物語
つておるのでありまして、しかもただいま申しましたような
価格調整金というような応急措置は、本來恒久措置としての
関税のごときものに、切りかえらるべき性格のものであろうと私は
考えるのであります。なおまた現在は、その後の
情勢によ
つて価格調整金は、昨年の十二月以降なくな
つておるような事情であります。この際つけ加えておきたいのは、巷間原油
価格が現在一万円以上であるかのごとく伝えられております。そしてそれを基礎として
関税の
議論が行われておるやに思うのでありますが、これには非常な誤謬でございまして、
国産原油は最近における
物価騰勢による原油高にもかかわらず、キロツトル当りマル公八千四百五十円の低位にくぎづけられており、
一般物価水準から見ますと、この程度の
価格はかなり低位に置かれておるということが、
数字の上でも証明されるのであります。
わが国におきまする石油鉱業の経営の規模は、帝国石油の場合におきましても、今日なお安定した経営規模の段階に達しているとは言えないのであります。すなわち石油鉱業経営の基盤は、新油田の発見のために探鉱面への投資を可及的に増大して行かなければ、結局は
生産が縮小して没落するわけであります。これを当社の
数字をと
つてみましても、
昭和二十二年度以降の各年度の投資総額と、探鉱面への投資額を比較してみますと、
昭和二十二年度においては、全体の投資が六億三千万円のうち探鉱面はわずかに八千万円、
昭和二十三年度十一億五千万円中一億五千万円、
昭和二十四年度においては二十億円中二億九千万円、
昭和二十五年度におきましては二十五億円中五億円が探鉱に振り向けられるというようなぐあいに、逐次探鉱面への投下の割合が順調に上昇して参
つておりまして、これは一面各般の助成施設によ
つて日本の石油鉱業が順調な足どりをたど
つておるというのでありますが、さらに今後における
生産量及び埋蔵量の増大をはかるためには、旧油田の維持回収をはかるとともに、新油田の発見のために、容易にかつ多額の投資を行い得るような経営規模を、確立しなければならないのでありますが、私どもとしましては、企業体が遺憾ながら今日その安定段階に達していないと
考えまするので、少くともそういう段階に達するまでは、
関税による
保護を絶対に必要とするということを強調したいのでございます。
次に
国産原油の
生産量が
需要の一割程度にすぎないから、さして
保護の
価値もないのではないかとい
つたような反対論をしばしば聞くのでありまするが、消費が計画的に行われておりまする今日においては、実は約二割を
国産原油をも
つて供給している事実をこの際述べておきたいと同時に、供給量が比較的僅少であ
つても
国産原油を有するということは、外
国産原油
輸入という国際貿易
関係において、取引上の牽制たり得るのみならず、国家経済自立上絶対的な強みと言わなければならないのであります。この点は過去においていろいろな石油政策がとられた場合において、外社による
国内市場の恣意的な形成を、
国産油の存在ということによ
つて——比較的ではありますが、ある程度これを阻止し得たという事実を幾つかあげることができるのであります。こういうようなわけでありまして、今日
国産原油の
増産の見通しはこの面においてもはなはだ力強い次第でありまして、この際ある程度の
関税の
保護によりまして、さらに
国内石油鉱業の伸張性を助長されんことを希望してやまない次第であります。
次に
関税率について申し述べますならば、さきにわれわれは石油の国際
価格を標準といたしまして、従価、それからまた戦前における
関税率の振合い等も
考えて、昨年の十二月ころまでは、われわれは従価比率として、原油に二割の
関税率を主張して参
つたのであります。しかしながらその後
国際情勢の変化によりまして、CIF
価格もかなり上昇して参
つております現状でありますので、現在は一割の
政府原案の
税率を甘受しなければならぬと
考えておるのでありますが、この場合におきましてもCIF
価格の上昇が、御
承知のように主としてタンカー運賃の異常な高騰に基因しておるというその事情を
考えますときは、将来に向
つては実は
税率の一割ということについて、かなりの不安を包蔵するものと言わざるを得ないと思うのであります。
次に
関税の
改正が
消費者に及ぼす
影響について少し述べてみたいと思います。一部の報道等には、原価に対する従価一割の
関税が、
一般石油
製品の
消費者に深刻な
影響を与える。しかもその
影響は、一割の原油
関税が、結局は消費最終
価格において二割五分程度の
影響を与えるというような記事等を見たのでありますが、これはま
つたくの誤りでありまして、われわれの計算するところによりましても、また
政府の
物価庁等において計算した結果によりましても、一割の
関税の引上げが最終
製品価格に及ぼす
影響は、五%ないし六%程度となるのでありまして、これらの誤解からいろいろ論議されておることは、われわれとしてはなはだ迷惑に感じたような次第であります。この点はとくと御了承を願いたいと思うのであります。しかも最初に申し述べましたように、
関税は
原料と
製品にわかれておりまして、
製品におきまして揮発油等二割、機械油等三割というような
税率がかけられておりまする等、これは普通の
製品市場の
価格としましては、最終
価格は結局この
製品関税に支配されるという結果に相なるわけでありまして、
従つて先ほど申しました原油
関税の引上げによる最終
製品への五%ないし六%程度の
影響は、
製品の市場
価格の決定の間において大体吸収されるものではないかというふうに、われわれは見ておるのであります。
この際特に申し述べておきたいのは、石油
関税の
影響はただ原油
関税のみでない。これは
製品を通じて行くのであるということを申し述べただけでありまして、決して精製業
保護のためにする二割ないし三割の
関税率に、反対をするという
意味ではございませんので、この点を御了承願いたいと思います。ただ一言触れておきたいのは、一部論者のうちに、この際原油、重油、粗油のみの
関税をゼロとして、
製品の方の二割ないし三割の
関係は、そのまま存置してもよいではないかというような
議論があるやに聞くのでありますが、かくのごときことになりますと、結局今申し述べましたような事情から、
消費者の負担の軽減は何ら行われることなく、しかも一面原油から精製へわたる
産業政策上の面において、著しく不均衡を来すものでありまして、あくまで
関税は石油鉱業から精製業を総括的に、しかも
一般的にながめて、その可否を論ずべきものであろうと
考えます。最後に、
関税によらずして、
国産原油の
保護は他に助成
方法があるのではないか、むしろそうやるべきではないかという
議論が行われるのでありますが、探鉱助成金等による
保護は、きわめて特殊な
方法による助成でありまして、企業本来の
立場からは、企業計画の策定は、
価格というような客観的な経営指針に基いて、自由に行われることが望ましいのであり、またかような安定目標があ
つてこそ、企業が創意とくふうを生かして、自由にその力を伸張し得るものであると
考えるのであります。
従つて関税制度は、本来的にこの面の作用を有する恒久的な
保護制度として、絶対的効果を有するものであるというふうにわれわれは
考えるのでありまして、この点において、特殊な助成政策と
関税政策との間には、十分そのねらいと効果を分離し、また私企業としての石油鉱業が活発に活動し得る面を
考えた場合に、この際
関税制度というものがとられることに十分の裏づけがし得ると
考えます。
最後にもう一点触れておきたいのは、原材料の重要な石油を確保するために
輸入関税をかけることは、
輸入の円滑なる運行を阻止しはしないかという面であります。この点は、われわれ過去における
状態を振り返
つてみましても、か
つてライ社、ス社というような
外国会社が、
日本に
製品を主として入れるというような
方針をと
つた時代において、しかも
原料に一割五分ないし二割程度の原油
関税がかけられた当時においても、そのために原油の
輸入が非常に円滑を欠いたということはなか
つたのであります。いわんや今日、できるだけ原油を入れて
国内精製を増加しようとする
方針をとり、しかも
外国会社との間に逐次資本の提携の行われている場合において、
国内石油鉱業
保護のために一割程度の
輸入関税をかけることが、外油
輸入を阻害する重大な要因になるということは、とうてい
考えられないものであると私は
考えるものでありまして、以上述べましたところによりまして、
国内石油鉱業
保護のために少くとも従価一割程度の
関税をぜひかけて、今後の発展を助成していただきたいという希望を述べまして、私の
意見を終らせていただきます。