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1951-05-22 第10回国会 衆議院 行政監察特別委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年五月二十二日(火曜日)     午前十時三十三分開議  出席委員    委員長 篠田 弘作君    理事 佐々木秀世君 理事 島田 末信君    理事 塚原 俊郎君 理事 内藤  隆君    理事 猪俣 浩三君 理事 山口 武秀君       大泉 寛三君    岡延右エ門君       鍛冶 良作君    川本 末治君       田渕 光一君    中川 俊思君       野村專太郎君    柳澤 義男君       大森 玉木君    藤田 義光君       加藤  充君  委員外出席者         証     人         (横浜地方検察         庁特別捜査部長         検事)     大津 広吉君         証     人         (横浜警察本         部刑事部捜査第         一課長横浜市警         視)      高橋 一夫君         証     人         (横浜警察本         部刑事部鑑識係         電気技術者)  井出 光正君         証     人         (乗客)    平田 善夫君     ————————————— 五月二十二日  委員横田甚太郎君辞任につき、その補欠として  加藤充君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  証人出頭要求に関する件  桜木町国電事故に関する件     —————————————
  2. 篠田弘作

    篠田委員長 これより会議を開きます。  桜木町国電事故に関する件について調査を進めます。ただちに大津広吉証人より証言を求めることにいたします。大津広吉さんですね。
  3. 大津広吉

    大津証人 はい、そうです。
  4. 篠田弘作

    篠田委員長 あらかじめ文書で御了承願つておきました通り証人として証言を求めることになりましたから、さよう御了承願います。  ただいまから桜木町国電事故に関する件について証言を求むることになりますが、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務知つた事実であつて、黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところによりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人大津広吉朗読〕    宣誓書  良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  5. 篠田弘作

    篠田委員長 宣誓書署名捺印を願います。     〔証人宣誓書署名捺印
  6. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証言を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また発言の際は、その都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておるときはおかけになつていてよろしゆうございますが、お答えの際は御起立を願います。  桜木町駅の国電事故についてあなたが検事としてお取調べになつた概要について述べていただきたいと思います。
  7. 大津広吉

    大津証人 この桜木町国電事件は、事件当時は横浜地方検察庁刑事部所管といたしまして、宮本部長検事が指揮して、吉川検事がこれを最初に監督しておりました。それは当日からすでに現場参つたのでありますが、二十六日から私の方の特別捜査部に属する樺島検事が応援いたしまして、両方でやつてつたのであります。そうして多分四月三十日ごろだと思いますが、その所管を私の方の特別捜査部に移しまして、爾来私の方の所管で井川、樺島検事がやつてつたのであります。私も直接これにタツチいたしましたのがそのころからであります。当時すでに被疑者八名は警察から送致されておりまして、そのうち在宅者三名を除きましては四名勾留されておりまして、なお一名を検事逮捕いたしております。それは検事の方で逮捕、勾留をいたしておりました。それ以来取調べを進めまして、五月の十六日運転士車掌、十七日に助役工手長信号手、これを一応釈放いたしまして、現在なお各種の資料を収集し、捜査を続行いたしております。こういうような大体経過になつております。
  8. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたが勾留された人の氏名をひとつ。
  9. 大津広吉

    大津証人 勾留をいたしましたのは、運転士中村曄、それから車掌大矢治雄、それから工手長中沢重二、それから信号手高原豊秋、それから助役岩田一平、その他在宅取調べましたのが電力工手武井島造それから同じく長谷川定雄工手副長平井育造であります。
  10. 篠田弘作

    篠田委員長 これは国電としても非常にまれに見る惨事でありますが、事故発生当時の従業員処置について、あなた方検察庁はどういう考えを持つておられますか。
  11. 大津広吉

    大津証人 処置と申しますと、事故発生直後ですか。
  12. 篠田弘作

    篠田委員長 発生直後、要するに処置いかんによつてはあれだけの惨害を起さなくてもよかつたのじやないか。そういうことについて国鉄従業員車掌であつて運転手であつても、駅関係であつても非常に遺憾の点があつたのじやないかと私どもは思つておりますが、あなた方検察庁としてはどういうふうにお考えになつておりますか。
  13. 大津広吉

    大津証人 私どもは御承知のように、本件事故がいわゆる刑法上の刑事責任を問うべき問題かどうか、同時に刑事責任を問うとすれば、何人にその責を問うべきかという点に捜査の点がある。その見地から取調べをいたし、また取調べをいたしておりますから、御質問の点になりますと、やはり当時各自がいかなる行動をとつたかという関係を申し上げてみた方がはつきりいたすのであります。そこで事件の概略はすでに御承知だろうと思いますが、一応その点から申し上げます。  桜木町駅の北方、ちようど横浜寄りでありますが、横浜駅から参りまして桜木町駅にかかる手前に場内信号機があるわけでありますが、その場内信号機のすぐそばに第四号鉄柱という送電架線鉄柱がありますが、その付近から横浜寄りにおきまして午前中保土ヶ谷配電分区の電力工手長以下九名が碍子のとりかえ作業をやつてつたのであります。この碍子国鉄車輌長の説明によりますと相当古いのでありまして、その補修をかねて新型碍子のとりかえをするというのであります。ちようど午前中の作業を終りまして、晝食後一時過ぎから作業にとりかかりまして、武井工手長谷川工手が一組になつて第四号鉄柱上つて、その鉄柱上り送電線側碍子のとりかえ作業を開始したのであります。そのしよつぱなに事故を起して、その送電架線メツセンジヤーワイヤーという吊つておりますものを切断してしまつた。当時長谷川工手武井工手はその作業従つてつたのでありますが、一応私ども捜査したところでは、武井工手のスパナの操作が誤つて鉄柱のビーム、横木でありますが、この一端に柄が触れまして、そのアースによりましてメツセンジヤーワイヤーが切断されたというように認められるのであります。その現場には工手長、副工手長みないたのでありますが、それぞれ工手長、副工手長は監督の位置で、地上で作業を監督し、他の者はそれぞれ一組二人ずつでほかの鉄柱登つたという状況でございます。そこでそういうふうなメツセンジヤーワイヤーを切断したときに、この架線左右両方にわかれまして、弛緩垂下の現象を起した。そこで第一次的に申し上げれば、その際武井工手作業操作を誤つてそのメツセンジヤーワイヤーを切断したことが、まず一つ過失考えられるのではなかろうかということが一つのポイントであります。そこでそういう事故発生しましたために、その送電架線の下を走る電車、これはもう危険が発生したわけであります。そこでその場の責任者であります工手長がただちに桜木町駅の信号所にかけつけて、その故障連絡したわけであります。その際に副工手長あとに残りまして、現場善後処置に従事したわけでありますが、この際に工手長としては、副工手長以下に対して、自分現場を離れるのでありますから、まず電車に対する災害発生を未然に防止するために、進行電車をとにかく急停車させるところの措置を講ずべき一応の義務があるのではなかろうか、この点がまず工手長としての第一点であります。それから工手副長もその応急処理をすることが当然でありますけれども、同時に工手長自身現場を離れるのでありすまから、自身みずからもその場にある限り電車の安全を確保するために緊急停車信号をすることが副工手長の問題であります。それから工手長は次に信号扱い所に行かれまして、高原信号手故障連絡をした。高原信号手はこれを助役に報告した。ところが一応われわれの捜査したところでは、工手長高原信号手供述が顕著に食い違つておるのであります。工手長の方は、上り線電車はとめてくれ、つまり線路を基準にして通報したように申しております。ところが信号手の方は、上り電車はとめてくれ、下り電車はよろしい、そうするとこれは電車基点にして連絡したように供述しております。これは一見一致するようでありますが、桜木町の場合は必ずしも一致しないのであります。上り線路をとめてくれということになりますと、本件メツセンジヤーワイヤー切断による影響によつて発生したあの火災の現場クロス点は、上り線路はとめてくれということでしたら事故にならぬ。ところが上り電車をとめてくれというのですと、上り電車でもあすこに入るものがある。そこで電車単位として連絡したのか、線路基点にして連絡したのか、この辺はなはだ微妙な陳述になつておる。それから助役の方は高原信号手から架線が切れたらしいという連絡があつた供述しております。架線が切れたらしい、どこの場所でいかなる程度に切れたかということがわからなかつた。そこで助役高原にどういうことだ、つまり故障程度位置を確かめたようであります。ところが高原信号手にもそれがわかつていなかつたようです。そうして高原信号手助役の二人の間にそれぞれ電話でこの故障位置程度について問答を重ねているうちに、電車が入つて来てしまつて事故になつた、こういう状況であります。そこで高原信号手言い分と、中澤工手長連絡とは、はたしていずれが正しいかということは、非常に微妙な問題でありますが、この点につきしては、われわれもいろいろと検討を加えておりますが、はたして両者いずれが正しいか、あるいは両方とも違つておるかということは、目下検討をいたしております。しかし大体観測されるところは、観測と申しますか、一応考えられる点は、連絡が不十分であつたということは明瞭であるというように考えております。なおこの点につきましては、私ばかりでなく、高検、最高検まで十分に検討を盡した上で結論をしたいが、とにかく連絡不十分であつたということは言えます。
  14. 篠田弘作

    篠田委員長 それで普通上りをとめてくれと言つた場合には、上り線路をとめてくれと言つたか、上り電車をとめてくれと言つたか、速記がとつてないのだから、これは水かけ論になりますが、おそらく上りをとめてくれということだけは言つたと思う。電車線路かは別問題として………。そういう場合、上りをとめてくれと言つた場合には、電車をとめるのか、上りに入るすべての電車をとめてしまうということになるのか、電車をとめるということはもちろんだけれども上り線路もとめるということが普通の常識になつておるか。これはやはり議論というよりも一つ常識だと思うのです。また慣例だと思うのです。上りをとめてくれと言つた場合には、上り線路をとめるのか、上り電車をとめるのかということは、鉄道は長い間営業しているのだから、そういうことは普通常識また慣例として、ぼくは行われていることだと思うのです。そういう点については検事局は………。
  15. 大津広吉

    大津証人 証言上りという言葉と、上り線という言葉と、あるいは上り電車という言葉とは、大分ニユアンスが違うのです。上りといいますと、われわれは上り下りと通常は言つておりますが、本件被疑者の場合は、一方は上り線と言い、一方は上り電車と言う、こういうわけです。そのしつぽにくつつくわけです。それによつて電車単位にするか、線路単位にするか、こういうことになります。
  16. 篠田弘作

    篠田委員長 上り線、はつきり言つておればこれは問題にならぬと思うのですが、いずれにしても電車をとめればこの災害は起きなかつた。ところがたまたま下り電車上り線に入つたことによつてつた惨害ですね、これは………。そこであなたはただ二人の言葉を並列さして今研究しておられるのか、あるいは中沢工事長というものと、高原信号掛と二人を対決さしてみられたことはありますか。
  17. 大津広吉

    大津証人 対決はさせません。
  18. 篠田弘作

    篠田委員長 それはどういうわけですか。
  19. 大津広吉

    大津証人 被疑者両名を同じ部屋でですか。
  20. 篠田弘作

    篠田委員長 ええ。
  21. 大津広吉

    大津証人 これはまだやりません。
  22. 篠田弘作

    篠田委員長 まだその段階ではないのですか。
  23. 大津広吉

    大津証人 それは必要ないと考えております。それはあまりに供述が食い違つておりまして、かりにこれを両者対決さしても、おのおのその言い分を主張するだけであつて、そうしておれが違つていたというように訂正するような問題ではない。対決させても、結果においてはお互いの主張を反駁するだけで、これは無意味ではないか、かように考えております。
  24. 篠田弘作

    篠田委員長 それはその問題だけで対決させることになれば無意味であるかもしれないけれども、そのあと高原信号掛から何か中沢工手長が口どめされたというようなことを言つておりますが、そういうことは検事局で言つておりますか。
  25. 大津広吉

    大津証人 言つております。
  26. 篠田弘作

    篠田委員長 その問題はどうですか。
  27. 大津広吉

    大津証人 その問題につきまして申し上げますと、あの電車がもえ出しておる、もえているときだと思いますが、そうすると眼前にはまだ生きている人もあつたか、あるいはみな死んでおつたかわかりませんが、とにかくもえているときに、その信号所におつて両者の間にお互い過失原因を抹殺しようとするような言葉の交換がされた事実があるようであります。但しこれも食い違つておりまして、お互いに相手方から言われたと称して、自分はそれに同調しなかつた、こういうふうに主張しておるわけです。中沢工手長の方に言わせますと、どうしてあんなことをしてくれた、自分はあれほど連絡せよと言つたのに、実はおれが悪かつたのだ、だからおれは知らないことにしてくれということを信号手から言われたということを言つております。それから一方、高原信号手に言わせますと、工手長が来て、そうしてたいへんなことになつた。だが君の方にも責任があるのだから、あのクロツス点架線が切れて、電車がもえたということにすれば、おれの方も旗を出さぬで済むからそういうことにしようじやないかということを工手長の方から言われた、こういうような要旨を申しております。従つてこの部分も非常に顕著に違つております。
  28. 篠田弘作

    篠田委員長 これはさつきの上り線をとめてくれと言つたのと、上り電車をとめてくれと言つた違いよりももつと——われわれが考えてみまして、片一方はとにかく連絡しているのだから、上り線にしろ、上り電車にしろ、そのときはそういう言葉の論争はなかつたわけですから、一応この工手長の方からいえば、自分連絡したにもかかわらずとめなかつたという忿懣が、ほんとうに連絡しておれば、あつたとぼくは思うのです。そうなれば結局私は、工手長の方から信号手に対して頼むということはまず常識上あり得ない、こういうふうに思うのですが、その点の取調べはどういうふうになつておりますか。
  29. 大津広吉

    大津証人 今のところこの点は、両者とも相当詳密に取調べをいたしましたが、その基本線両方相譲らぬ。そうしてやはりこの点も先ほど申し上げましたように、上り線路言つたか、上り電車言つたかという問題とからむ問題で、この点も両者十分検討しておるわけです。
  30. 篠田弘作

    篠田委員長 それからこの災害の結果について証人をいろいろ尋問してみた結果は、これはもちろん今言つたようメツセンジヤーワイヤーが切れたその後の処置が、今言つたよう信号との連絡がまずかつた。これが最大の原因ではありますが、その後の乗客の救済という場合、たとえばDコツクというようなもののありかも知らぬとか、あるいはまたガラス窓が三重になつつたとか、そういういろいろの問題もありますが、そういう施設の上の欠陷、あるいは従業員教育上の欠陥、あるいはまた何か鉄道関係の機構上の欠陷というようなものについて、取調べのうちに非常に気がつかれたというようなことがありますか。
  31. 大津広吉

    大津証人 先ほど申し上げました通り、私どもは大体刑事責任を判断するにあたつては、刑事責任個人の問題である、つまり個人を中心とした刑事責任の問題である、その角度からいろいろ捜査をいたしたのであります。もちろん一つの律件は、やはり事件環境というものがあるわけです。この環境は、その事件責任者の情状の問題に密接な関係があります。この点はできるだけ資料を集めるために努力いたしております。なお鉄道側にも要求した資料もあるのであります。まだ未着のものもあります。ただいま御質問のような点につきまして、鉄道側に包括的な資料の提出を求めておりますが、未着であります。そこで大体不十分ながら現在までに御質問要旨に触れるような問題を申し上げますと、まず本件については、一応架線故障によるものである、それに電車が入つてつた軌道並びに車輌には故障はなかつたように認められます。しからば架線故障電車災害防止にあたつてはどうすればよかつたかというと、先ほど申し上げましたように、各個人のいろいろな不注意があつたように考えております。不注意の結果、そういう事故発生したのでありますが、事故直後の処置としまして、運転手がいわゆるDコツクといろ床下のコツクをはずせば、容易に自分でもドアがあけられるわけです。ところがそれは運転手知つておるのでありますが、当時狼狽したといいますか、気がつかなかつた。もしそれがあけられたならば、おそらく全部に近い人員が助かつたのではなかろうか。アークによつて直接火を受けた者は別でありますが、そうでない者は大多数は助かつたのではないか、かように考えられるのがまず一点残念であります。それから車掌は、Dコツクを知らない、教育を受けてないと申しております。また教育をした者も調査いたしましたが、これも知らないのであります。教えたことはないようであります。車掌事故発生直後第一輌目にとんで参りました。そのときは運転手よりも時間がかかつておりますが、なお窓から飛び降りる人がある。自分もぶら下つている人をおろしてやつたということを申しております。これもDコツク操作すればある程度の人は助けられたのではないかということが考えられる。そしてそのほかに、電動車、つまり事故を起した機関車でありますか、その運転手席検車掛の金子という者がちようど出動途中便乗しておりました。これは職務上乗車したものとも言えないのでありますが、桜木町駅に出動する途中であります。これは検車掛ですからDコツク知つてつたのですが、これもそのとき気がつかなかつた。それで駅側はもちろんみな知らぬのであります。つまり当時、事故現場にはDコツク鉄道職員で二人知つてつた。ところがその二人とも気がつかずに使わなかつた。こういうような点があるのであります。こういうようにDコツクを使うことを知つておるものはわずかに二人、その二人さえその当時には気がつかなかつた。そのほかの鉄道職員至つてはみな知らない。こういうような状況従業員非常対策における訓練について適当かどうかということは、これはまた検討を要する問題だ、かように考えます。
  32. 篠田弘作

    篠田委員長 そういう問題も検事局としては検討しますか。
  33. 大津広吉

    大津証人 その問題についてもなお資料を集めまして検討をいたすつもりでおります。  それから御承知のように今車内にはみな張札がありまして、車内コツクをあける方法を明示してあります。当時はああいうものが全然ない。もしああいうものがあの当時張つてつたならば、百数十名に上る乗客でありますから、相当混乱はしたけれども、中にはそれに気がつく人もある、張つてあるのですから見てあける人がある、一箇所あければ二箇所あくというぐあいで、ほとんど全部の人が人命をそこなわずに済んだのじやないか、こういう点が考えられる。この点もあの張札がなかつたということがやはり一つの問題だと考えます。  車輌の問題でありますが、六三型電車は評判が悪いと伝えられておりますけれども、あの事故は六三型電車でなかつた発生しなかつたかという問題を一応検討してみますれば、ほかの電車でもああしたところに入ればああいう事故発生しだであろう、六三型電車であつたことが本件事故発生原田に直結しておるとも言い切れない。この六三型の電気部門に関しましては、東鉄車輌長に私が直接尋ねましたところでは、かつて製造当時は資材節約のために相当粗悪な材料を使つてつたから割合に事故があつたが、その後それを電気部門に関する限りはすべて改造してしまつたから、現在では、つまり事故当時におきましては、電気部門に関する限りにおいては他の電車とかわりはない、こういうような陳述であつたのであります。そういうことと、本件車輌故障そのものから発生したというよりは、架線故障で、その場に行けば他の電車でも発生したのではなかろうか、こういうことを考えると、ただちに六三型電車そのもの本件事故と直結するものとは考えられない。ただ六三型電車は御承知のように三段窓であります。これが非常の場合、ドアがあかぬというわけで、乗客の避難を不可能にしたということは事実だと思います。ただやはり車輌長の言うところによりますと、東鉄管内におきましては電動車が千百輌あるそうであります。そのうち五百十輌があの六三型である。約五割近くがあの電車である。その電車中央線、総武線、京浜線のほとんど全部、それから山手線に一部という程度つておる。従いましてそういう窓の構造自体が、とにかく結果においては事故災害をある程度に防止できなかつたということは言えるのであります。その点も検討いたしております。  それから屋根構造でありますが、この屋根木製でありまして、その上にアスフアルトに砂をまぜた塗料を塗つた布がかぶせてあります。このような木製屋根というものは、ああいう電車にはほとんど大部分そうであります。鉄板製のものが少い。新造車もやはり木製である。聞くところによりますと、ああいう電動車の中で二百両ばかりが鉄板で、そのほかは木製だそうであります。
  34. 篠田弘作

    篠田委員長 それはどういうわけだか調べましたか。
  35. 大津広吉

    大津証人 その点は鉄板にするということは一応考えられることでありますが、鉄板にすると、架線が切れた場合電気鉄板に伝わる。そこで作業などに困るという場合もあります。それで大部分木製である。現在の新造車木製だという話でありました。そういう事故の面から考えた見方もあるようであります。それから六三型電車の天井はベニヤ板であつた。これも非常に燃焼をすみやかならしめる原因をなしたと言えるのでありますが、これは鉄板に改造する企画があるそうであります。
  36. 篠田弘作

    篠田委員長 何か機構上の欠陥……。
  37. 大津広吉

    大津証人 人的機構でありますか。
  38. 篠田弘作

    篠田委員長 人的な機構、それから要するに国鉄の組織そういうものの間に何かお気づきになつた点はありませんか。
  39. 大津広吉

    大津証人 私の方は、申し上げます通り個人責任からその職場などの環境という問題を取上げております。その面から申し上げますと、国鉄の機構は非常に細分化しております。末端は非常に細分しておりますから、機構の細分は責任の細分になるわけであります。そこでその責任の相互関連、総合性ということが検討されていい問題ではないかと考えます。本件の場合も、工手長信号手連絡すれば役が済む。信号手もあまり事故内容をキヤツチせずに、助役に報告して指揮を受ける、こういうようなぐあいに、どうも自分責任分野を型通りにきめて行くのではなかろうか、それでその相互関連のそうした場合における総合性といいますか、やはりそこに欠陷といえば欠陷があつたのだと思います。工手長現場にいたのですから、事故の応急修理はもちろん必要でありますが、これはしかしそのほかに人夫がおるわけでありましてそれが一人でも電車の緊急停止の信号をすればよい。ところが工手長が行つておるからあとはいい、自分は仕事に専念する、こういうような状況であります。機構の細分が責任の細分をもたらし、さらにその責任感における総合という問題について若干考慮するものがあるのではないか、そういうような気がいたします。
  40. 篠田弘作

    篠田委員長 よくわかりました。今言つたように、たとえば進行の信号が出ておつても、信号の出したその瞬間に、距離のあるところで事故発生しないとも限らないのだから、立つてつた工手なり副工手長なりが、手ぬぐいでもいいし、帽子でも振れば、あるいは線路のところで手を広げても、とまつたと思うのですがね。
  41. 大津広吉

    大津証人 信号旗を持つておるのです。
  42. 篠田弘作

    篠田委員長 それならなおさらとまつたはずだ。そういうところに応急対策を講ずる責任感というか、あるいはまた常識というか、そういうものに欠けておつたという点もあるけれども、大体において責任は彼が持つておるのだからというところにあつたと思いますが、総合性に欠けておつたということは、やはりあなたのおつしやる通りだと思う。検事局でもそういう点を認めておられるようだが、これに対して、もちろん検察庁個人刑事上の責任の追究であつて、そういう点までおそらく何も言われないかもしれませんが、しかも今言つたように、それもやはり国家機構から見ると責任の細分化であつて、結局そういう点は検事局も意見として述べられることはちつともさしつかえないと思う。ただ個人責任の追究ということだけでなしに、そういう面を、お調べになる際は十分調べておいていただいた方が、参考になつていいと思う。
  43. 大津広吉

    大津証人 それはやはり事件環境というものを調べてみませんと、忽然として空中に現われたものが事件でなくて、やはりその地上の関係というものを調べておかなければならぬので、その関係も、必要な面は、なるべくやるつもりでやつております。
  44. 篠田弘作

    篠田委員長 どなたか御質問があれば……
  45. 塚原俊郎

    ○塚原委員 今大津証人証言を聞いておりますと、結局この問題は架線故障によるものであつて、軌道並びに車輌には大した故障を認めないという話です。私たちも昨日までこの問題を調査しておりまして、その点を非常に痛感しております。この根幹とするところの架線故障、つまり中沢工手長が、十二名の工手と第四鉄柱付近で工事をしておつた、そうして武井工手のスパナの操作によつて架線が切断された、これはたいへんなことだというので、ただちに信号所に行つて、その旨を連絡した。中沢工手長信号所に行く場合に——あなた方は平井副長、それから長谷川、武井という電力工手をお調べになつたそうですが、あとに残つた者に対して、どういう指示を与えて信号所連絡に行つたのですか。
  46. 大津広吉

    大津証人 中沢工手長は、みんなあとを頼むぞ、こう言つてつたというのです。「みんな」という上に「平井君」という言葉をつけて、平井君、みんなあとを頼むぞ、と言つたかもしれない、つまりただ単に、みんな頼んだというのだつたか、平井——平井というのは副長でありますが、副長の名前をつけて、平井君、みんな頼むぞ、こういうふうに言つたのか、とにかく、みんな頼むという言葉を伝えた。そこで本人の意思を分析いたしますと、これは、その当時そう考えておつたのか、あとでそういうふうに説明するのかわかりませんが、一応私の聞いたところでは、事故のつまりメツセンジヤー・ワイヤの切れたところの応急措置、同時に進行電車緊急停車をしてくれという意思がこもつておる意味で、みんな頼むぞと言つた、こういうふうに申しております。しかし明らかに、お前たち必ず停車信号を出せと明言していないことは、事実のようであります。
  47. 塚原俊郎

    ○塚原委員 われわれが中沢工手長証言を求めましたけれども中沢工手長はその席で、これはえらいことになつた電車をとめなければ大きな事件が持ち上るのではないか、そこで自分はあわてて信号所に飛んで行つて、しかも大きな声で、息せき切つて信号所に対して連絡をし、そうしてさらに電話をかけた、ということを中沢工手長は言つております。それからそれを受けた高原信号手は軽い気持でこれを受取つた。つまり、やつちやつたという言葉だけしか聞かなかつた。しかしこれに対して質問したところが、何も答えがなかつたという証言をしております。私が昨日高原信号手に対して、あなたは、やつちやつたということに対して、架線が切断したということを想像しなかつたかということを聞きましたのに対して、高原信号手は、そういうことは考えないということを言つております。証人のお話を聞いておりますと、この高原信号手は岩田助役に対して連絡した事項の中に、架線が切れたらしいという電話問答をしておるということがありましたが、その辺のところをはつきり証言願います。
  48. 大津広吉

    大津証人 高原信号手は、やつちやつたい、ということを言つて工手長が入つて来たという。それで、どうしたんだと聞くと、上り電車をとめてくれ、下りはいいのか、いいんだ、こういう供述であります。やつちやつたいというのは、故障の意味にとれるわけでありますが、その電力工手長の中沢とは、顔は見たことがあるかもしれませんが、あまり知合いの仲ではないのです。しかしその日の午前中高原信号手は、信号所から北方、今の故障現場にやや近い方ですが、その辺の転轍機の掃除に行つた際に、そつちの方で工手が架線の工事をやつてつた碍子か何か運ぶことをしておつた、そこで、その辺で工事をしておることは知つてつた、その工手長と思われる男が来て、やつちやつたというので、それは上り架線故障だと思つた、こういうふうに私には説明しております。
  49. 塚原俊郎

    ○塚原委員 その架線故障というのは、架線の切断という意味ですか。
  50. 大津広吉

    大津証人 切断であるのかどうかということは、本人は聞いていないと申しております。
  51. 塚原俊郎

    ○塚原委員 先ほど大津さんのお話では、架線が切れたという電話問答をしておつたということですが……。
  52. 大津広吉

    大津証人 それは助役がそういうふうに聞いたと言つたのです。助役が、高原からの電話では架線が切れたらしいという電話であつたというのです。
  53. 塚原俊郎

    ○塚原委員 先ほど証人も述べましたし、またわれわれの方の調べたところによりましても、この事件のあつたあと、中沢が高原に会つたところが高原は、知らぬことにしてくれ、頼む、という、何というか、もみ消しのようなことをやつております。また一方高原に言わせると、中沢の方から、君らに責任がかかるかもしれないから、電車が入つたと同時に架線を切つて火をはいたということにしようじやないかと言つたという。この両方は、これは証人の言うように、いくらやつても水掛論であるかもしれませんが、たまたまこのときに、この信号扱所というところは非常に狭い部屋だそうでありますが、寺山良平という信号手がおつたということを聞いております。この寺山良平についてお調べになつたことがございますか。
  54. 大津広吉

    大津証人 寺山につきまして、私直接調べておりません。樺島検事取調べをいたしました。その供述要旨は、大体において高原の意見と合つているのであります。
  55. 塚原俊郎

    ○塚原委員 この両者と対決させてやることは無意味であるということを、先ほどあなたはおつしやいましたけれども、今後において対決さしてやるお考えはございませんか。
  56. 大津広吉

    大津証人 これは一応そういう方法が考えられるのでありますが、よく考えてみますと、事故現場において、事故発生直後いずれからかそういう話が出た、そういう問題について検事が調べた、それから警察取調べにおきましても、そういう食い違いがあつた。私の方に来てもその線は依然維持された。そういう状況を見ますと、両者を対決させて、お互いにデイスカツシヨンしてもらつて、いずれが本当かということをとることは、これははなはだ困難であります。捜査の技術といたしましては、そういう供述の相違する両者を一室に対決させることが相当かどうかということは、これは非常に疑問が多いのです。あまりやつたことがないのです。私はやつた経験はございません。また本件の、そういう最も致命的な問題、頭を下げれば完全に負けなのでありますから、そういうことを意識しておれば、決して相譲らぬのが普通であります。われわれはやはりそれ以上おのおのの供述をとる上において、その供述が変化するという見込みはないと一応考えております。
  57. 塚原俊郎

    ○塚原委員 今までないような未曽有の大事件を起していてわれわれが調べた証人言葉を聞いておりますと、あるいは私個人考えになるかもしれませんが、どうも責任というものを転嫁するようなきわめて不愉快な証言に大分ぶつかりました。たとえば先ほど言つたように、お互いにもみ消しの打合せをしておるとか——そういうことはあるいはないかもしれませんが。その他の点においても、態度においても、あらゆる点において、あれだけの事件を起した責任は結局信号手架線工手にはなかつたというようにわれわれには受取れるのであります。先ほど証人のお話によりましても、この問題は架線故障によるものであつて、軌道、車両には大したことはないということでありますが、証人が今までお調べになつておりまして、こういつた被疑者の自責の念と申しまするか、責任感と申しまするか、そういう点についてはどういうふうにお考えになりましたか。
  58. 大津広吉

    大津証人 お尋ねの点に触れるかどうかわかりませんが、ああいう事故の際、災害が割合軽微である場合にはもつれが少いのでありますが、結果が非常に大きいものですから、そこで各関係人がそれぞれ自己保身をはかるということは一応考えられるのであります。そういうことがはたしていずれの側にあるかということは非常に困難な問題でありますが、とにかく心理状態としては、ああいう大結果を起してしまつた。それが一瞬にして自分過失だということから、よい方に自責の念を持つて行けばいいのでありますが、悪い方に自責の念を持つて行ままして、そうして過失の軽減をはかることがあります。これが重大なので、われわれは十分検討したいと思つておりますが、内心はそれぞれ恐縮しておるとは思います。一応私の調べた概観から申しますれば、工手長は十分なる連絡をとり、自分としては何の過失もなかつたのだ、言いかえるならば、自分は不利であつたということを申すような態度に出ております。高原信号手としては、向うが聞いても答えてくれぬのだから、自分としてはなすべきことはなしたという外観を呈する陳述をしておる。これをもつてすれば責任感の問題はおのずから判定し得るのではないか、かように考えております。
  59. 篠田弘作

    篠田委員長 今の塚原委員質問に関連してお尋ねいたします。この中沢工手長高原信号掛を対決させるということは、両方とも自分責任がないといつて争うから無意味だとあなたはおつしやるが、なるほど両方とも同じ主張をしますから、言葉の上だけをとればおそらくこれは無意味だと思います。しかしどちらか一方がうそを言つているんだと私は思います。その場合、たとえば、上り線に入れろとか、上り電車をとめろとかいつたような問題は、これはうそとも何とも言えない。しかし口どめを頼まれたか頼まれぬという問題については、おそらく二人のうちどつちかがうそを言つているものと思うが、そういう場合対決させれば顔色をかえるとか——大岡裁きじやないけれども、そこに何かあると思う。今の検察庁のお話を聞くと、あまりに言葉の上だけで取調べをしているように思えるのです。必ずしも大岡裁きがいいというのじやないが、そういうような何か顔色を見るとか——うそを言つている場合とほんとうのことを言つている場合には、顔色をかえるということもあると思います。
  60. 大津広吉

    大津証人 その点につきましては、対決もあるいは必要かもしれませんが、しかし対決せずとも、私たち捜査をする際には、相手に任意に供述させなければならぬ。もちろん言い分を聞くわけでありますが、これはあらゆる観点から——場所をかえ対象をかえ、上下左右から質問して、それでそのポイントをあらゆる角度からながめるわけであります。従つてそういう際には、その人の表情なりあるいは言いまわしなり、前後の矛盾なり、供述の一回、二回、三回というぐあいに一貫性、あるいは発展性、こういう問題をいろいろと検討いたしましてそうして判定するわけであります。
  61. 篠田弘作

    篠田委員長 いま一つ高原信号手が聞いても中沢工手長が答えてくれなかつた供述したとあなたはおつしやいましたが、それはどういう意味ですか。
  62. 大津広吉

    大津証人 それは、高原信号手が、一体どうしたんだ、と言つても答えてくれぬので、つまり、やつちやつたよ、と言つた、それで卓上の電話——高原の電話ですが、それでかけようとする。どうしたか、と言うと、いや、上り電車が入つて来る。下りはよいのか、と言うと、下りはよいのだ。それで電話をかけた。
  63. 塚原俊郎

    ○塚原委員 着という言葉を使いませんでしたか。
  64. 大津広吉

    大津証人 結局共通なんです。着も下りなんです。
  65. 篠田弘作

    篠田委員長 言葉を聞いて、工手とか信号掛は非常に教育を受けた人ということは言えないかもしれませんが、おい、みんな頼む、と言うときに、一言、電車とめておいてくれよ、と言えば、同じ悪い言葉使つてもほぼ物が通ずると思うのです。やつちやつた、ということのかわりに、架線を切つちやつた、という言葉を使えば、大して言葉をよけい使わないでも——今は民主主義だから教育することはできないかもしれませんけれども故障ができたときの合言葉というようなものは国鉄にはないのですか。もつと簡単に言い現わす言葉は。
  66. 大津広吉

    大津証人 ないです。
  67. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 一、二お伺いいたします。中沢工手長が、メツセンジヤーワイヤーの切れたのを察知いたしまして連絡に行つた。この工事をしている人は十二名一組になつているようでありますが、もしその十二名の方々が、技術部門を担当しているのだから、いつ何どきどういう事故が起るとも限りませんので、信号旗を持つているということでありましたが、信号旗は工手長が一人で持つていらつしやるのですか。それとも副長なり、あるいはおのおのが持つているのですか。それをお調べになつたことがありますか。
  68. 大津広吉

    大津証人 ちようどその現場には工手長と副工手長、その他六名の工手と人夫一人、合計九名おつた信号旗は一組持つていたわけでありまして、それを工手長現場に残して信号所に行つております。ですから、信号旗を使えば電車緊急停車はできるわけであります。
  69. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 一組というとどういうのですか。赤と青の、それが一つという意味ですか。
  70. 大津広吉

    大津証人 そうです。
  71. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 そうすると、それを現場に残して行つたというのでありますが、その現場に残して行つた信号旗というのはもちろん責任者が持つているのだろうと思いますが、その場にただ置いて行つたのか、それとも副長なら副長に預けて自分が走つてつたのか、その点お調べになりましたか。
  72. 大津広吉

    大津証人 その点は、もちろん信号旗を具体的に指示しておらぬのであります。私の聞いたところでは、あとを頼むぞ、ということで向うへかけつけたのであります。それでやれとか具体的に指示しておらぬのであります。
  73. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 具体的に指示しなくても、そのときに自分が持つていた信号旗をどこに置いたかというようなことはお調べに……。
  74. 大津広吉

    大津証人 それは自分現場に置いて行つたわけです。その現場は、とにかくこの柱で事故を起したが、次の柱でやつている者もあります。ところがこれがスパイクした。これは電柱の上に乗つかつちやつてつたわけです。はしごに乗つてつた長谷川工手は、自分では下りたと言つておりますが、落つこつちやつたというような状況であります。それで、おいどうした、というぐあいにかけよつた。ですから、同じ現場に皆集まつた。そういう場所に信号旗があつた、そういうようなことであります。
  75. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 そうすると、現場信号旗が置いてあるということになりますと、信号旗の使い方は工手長とか副工手長とかいう順序でなく、たとえばこういう日中の工事でありますから、電車が入つて来ないということは予想できないわけです。しよつちゆう入つて来るということを常に念頭に置いて工事しているものと考えます。またそういう場合信号旗のあることも、その九名の人は全部知つておると思うのです。だれでも電車が入つて来るのを見た場合、その信号旗を上からの命令がなくても使用していいような組織にふだんなつておりますか、その点をひとつ伺いたいと思う。
  76. 大津広吉

    大津証人 それはそういう際に使用すべきものを持つているものとわれわれは考える。ただこの場合は駅の構内の外側でありますから、駅へ連絡すればいいと最も安易な方法を考えて、それで安全なりと考えたようでありますが、しかしそれにしても、ちようどたとえばこの柱が第四番目といたしますと、この反対側は要するに二本の線路があるだけであります。つまり上下線があるだけです。いくらも距離がない。ここに場内信号機が立つている。これが停車信号に切りかえられるまでは危険性があるわけです。ですからただちに緊急停車の措置を講ずべき状態であつたと一応考えた。ところがこの現場に残つた人たちは、工手長以下みな応急処理——ワイヤー両方切れましたから。ロープで結びつけてリングを通してひつぱり上げるという、応急処理をすることに専念しておつて電車がそばに来て初めてわかつたというような状況であります。
  77. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 その点私らにはちよつと合点が行かないのです。メツセンジヤーワイヤーが切れたのを応急処理をしていたというのでありますが、われわれも兵隊で電信隊というような方面の仕事をやつておるので少しはわかるのです。常にそういう仕事に全部が全部かかつておるのではなく、電車が来るということの監視を一人や二人つけなければならぬということは当然なのであります。その場合、全部が応急処理をやつてつて、一人として他の方面の関係を監視する人を置かなかつたのかどうかということをお調べ願つたかどうか。
  78. 大津広吉

    大津証人 その現場に残つたの工手長を除きまして八名残つた。これはみんな故障応急処理に専念いたしまして電車のことには全然関心がない、そういう状況でありました。その点がはなはだ私としては納得できない。そこで現場に残つた工手副長は代理としてやはり責任がある。自分みずから、あるいは他人を使つてもいい、とにかくその工手副長が緊急停止の措置を講ずべきでなかつたかということが、工手副長に対する一つのポイントであります。
  79. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 私もそれが非常に合点が行かないものですから、それを承つたのであります。そういう一組で作業する場合は必ず係というものがあるものであります。あなた方のお調べでは、九名のうち八名が全部それに専念していたということがお取調べの調書に載つているのだろうと思いますが、その人たちが調べられる前に、何かその打合せをしたような形跡があるかどうか、それをひとつお聞きしたい。
  80. 大津広吉

    大津証人 その点については別に何も聞いておりません。故障現場へ残つた連中の問題は別に聞いておりません。
  81. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 それを聞いていないといたしましても、そういうようなことの方面に注意をする人間がいなかつたというようなことについての御不審はあなたもお持ちであろうと思いますが、どうですか。
  82. 大津広吉

    大津証人 もちろん電車に対して十分注意をして——そこは十二分間隔くらいで頻繁に通つてつたのでありますから、その電車に対する処置を当然行うべきであつたというように考えるのであります。
  83. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 次に架線故障によつてこの事故が起きたと思いますが、この起きたあと処置であります。それにつきましてDコツクという開閉器でございますが、Dコツクを使用することを知つていたのは運転士と、もう一人のそのときたまたま乗り合していた検車の職員です。その乗り合していた人は忘れたとしても、運転士は、常にそれを考えていなければならなかつた。しかしたまたま狼狽したために、その応急スイツチを入れなかつたと、いうことでありましたが、先ほどの証人証言の中におきましては、車掌がいち早く焼けておる電車のところに来て、乗客の飛び出すのや何かの手伝いをしていたということでありましたが、その間に運転士はどういう行動をとつておりましたか、お調べ願つたかどうか承りたい。
  84. 大津広吉

    大津証人 運転士供述によりますと、ちようどクロス点に入つたと思う途端に、パンタグラフが大きな音がして火がぱつと出た。それで驚いて急制度をした。もちろんスリツプしたのでありますが、何か架線故障を起したと思つてパンタグラフを下げる操作をした。そしてうしろの方をちよつと見ると、ちようど客室に通ずるドアがある。そうすると天井付近にアークが吹いておる。これはたいへんだというのでパンタグラスを上げた。というのは、ドアをあくべく車掌スイツチを押すためであります。ところがその車掌スイツチを押したと言つておりますが、自分が海側のスイツチを入れ、たまたま便乗していた金子が山側を入れたのではなかつたか、両方ともあかなかつた。そこで自分は車外に飛び出して行きまして、車の前部を通つて山側に来た。そうして一、二輪目間の連結の上に乗つて、第一両のうしろ側の通り抜けするドアをあけようとしたがあかなかつた。やむを得ず第二両の貫通ドアを明けて中に入つて、そして三、四箇所の床下コツクをあけた。そして第二両の乗客の避難を助けた。その後お客さんの救出みたいなことをやつてつたのでありますが、その間の動作はよくわからぬというのであります。その後金子検車手、これももちろん活動しておつたのでありますが、三両目の連結を切つたということを言われたので、自分は最後尾に行つてパンタグラフを上げて後部三車輌の後退をさせた、こういうふうに申しております。大体そういうようなことであります。車外に出てから車の前部を通つて、山側を通つて第一、二両目の連結に来る途中にDコツクがあるわけです。これをふだんは知つておるが、そのときは気がつかなかつた、こういう話であります。
  85. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 もう一つお伺いしたいのですが、この事故架線工事による事故ですが、メツセンジヤーワイヤーが切れたという時間と、その電車が入つて来たというその間の時間はどれくらいの時間でございましたか。
  86. 大津広吉

    大津証人 この点もまだ検討を要するものでありまして、いろいろと検討を重ねておりましたが、まずメツセンジヤーワイヤーが切断いたしましたのが一時三十八分ごろだ。その根拠は、メツセンジヤーワイヤーの切断によりまして、横浜変電区のハイ・スピード・ブレーカーが飛んだ。その飛んだのを記録いたしておりますので、もしその時計と書く人の遅速による誤差がなければ、一応一時三十八分に切れたのではないかということが考えられるのであります。それから電車の発火のとき、当然変電区に感覚があるわけです。これが午後一時四十四分であつた。これは横浜の変電区のハイ・スピード・ブレーカーが一時四十四分に切れた。これもやはり時計と人間の書く遅速、この誤差がなければ、一応一時四十四分である。こまかい話ですが、技術者の話はよくわかりませんが、話によると、もしその時刻よりも千分の八秒以内にハイ・スピード・ブレーカーが飛ばないならば、発電機がやられてしまうが、一応そういう現象はない。ブレーカーが飛んでおるから、一時四十四分、この時刻に事故発生したのではなかろうかとそれで考えられる。これは一応の資料であります。  それから今度電車関係で行きますと、これは運転士にしても車掌にしても、それぞれ時刻に感覚を持つておるわけでありますが、これらの供述は、一分とか、三十秒とか二分とかいうようなことはいろいろと食い違いがあるが、とにかく大体一時四十二分ごろというような供述があるのであります。車掌の場合は一時四十二分これの直後時計を見たということになつております。この時計がはたして確かであつたかどうかという問題がここにある。そこで二分なのか四分なのかという問題ですね。これは検討を要するのでありますが、私の方から国鉄に照会した結果、一応の事故原因について調査の回答がありましたが、それによりますと、国鉄の方は一時四十三分を一応示しております。しかし今の四十四分は技術的には根拠があるわけですね。横浜の変電区のハイ・スピード・ブレーカーが飛んだ時計が間違つていたか、書く人が遅かつたということになれば誤差があるわけですが、一応機械的にはその事故発生したのは一時四十四分、この点につきましてはなお検討を要する点がある。
  87. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 そこが非常に機械や電気を扱う場合におきましては、時間ということが最も重大な問題になつて来るのでありますから、ひとつその点は、一分や二分は一般に考えるとどうでもいいのだろうと考えるかもしれませんが、専門的に言うと、何千分の一、何百分の一秒というのが、電気を扱う者の大きな使命になるわけであります。その点において、私は時間ということを十分にもつとお調べ願つて国鉄では四十三分と言う。車掌は四十二分を見た。供述によると四十四分だということになると、そこに非常ないろいろの問題が、将来の問題等もからんで来ると思いますから、その点はひとつ検察庁においても、十分に的確なるお調べを願いたいというのが、私の気持であります。それからもう一つは四十二分に車掌が発火の現場を見た、火が出たということであろうと思うのでありますが、それから救出作業が機宜を得なくて多くの人命を喪失してしまつた。お気の毒な状態になつた。その間の大体の時間等はこれはよくわかるだろうと思います。すなわち発火してからのその点のお調べがありましたら……。
  88. 大津広吉

    大津証人 発火から最初のアース、それからいつまで火災が続いておつたかという問題は、実は正確にはわからぬので、現場の者は具体的に時間的にはつきりはかつてつた者はない。ただこういうことは言えるのであります。一時四十四分に横浜変電区のハイ・スピード・ブレーカーが飛んだから、そのときにまず一応事故が起きたと思うが、その事故の起き方も非常に緩慢に来た場合と急激に来た場合と、いろいろケースがある。それからハイ・スピード・ブレーカーの個性もありますし、横浜桜木町のことですから距離的には近いのですが、もし遠ければやはり距離に反比例しまして抵抗がある。そういう問題を考えると、四十四分とはつきりと言い切れない点が多少あるのではないか。ただそのトロリー線は四十四分に切れた。饋電線の方が、これはハイ・スピード・ブレーカーが横浜変電区に通してなかつた。そこで事故直後新橋の電力指令からと思いますが、その指令によつて事故があるからとめろというのでとめた。それが一応四十四分に記録された。その間にアークが飛んだものだろうということが考えられる。それから車体が燃焼して、これは最初から燃焼したのかもしれませんが、何分ぐらいで焼けてしまつたかということは、人の口から数分であつた、七、八分で焼けたというように、いろいろ言われておるのであります。それ以外に確かめておりません。ただアークが飛んでいたであろう時間は四十四分ないし四十八分の間であつたのではなかろうかというような一応の根拠はある。それからその事故の始末ですが、実は私その当日欠勤しておりまして、現場を直接見ておりません。しかも先ほど申し上げた通り事故当時他の係でやつたので、その直近の現場は私は踏んでおりませんから詳しいことはわかりません。
  89. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 事故発生した時間が一時四十四分でもどうでもいいが、それが何分にして電車が焼けてあれだけの人が焼け死んだという時間が、ただ単に数分であつたというようなことで、将来のいろいろな処置については、こういう重点的に——われわれは犯罪を出すための調べじやございませんが、国会としては今後のいわゆる応急処置というようなことも考えなくちやならぬと思う。もちろんあなたは当日おいでにならなかつたので、現場は調査しなかつたのでありましようが、国鉄やその他の方面ではこれは大体わかるだろうと思うのですが、その点をひとつ十分お調べを願つて……。
  90. 大津広吉

    大津証人 その点申し上げます。大体私の方といたしましては、まず現場事故状況を調べております。それからその後人的捜査を進めておりますし、いろいろな資料を集めております。しかし事故そのものから考えますと、とにかく架線故障があつたことは事実で、一応切れたということが外見的にもわかり、物的証拠もある。事故はそのクロス点で起きたことは確かで、ここでメツセンジヤーワイヤーを切れば、そのクロス点まで影響が及んでいただろうということは推測することができる。そういう状況下に電車が入れば、発火の危険もあるだろうという事実も一応納得ができる。しかしこのことは過去の事実でありますから、われわれとしては一応このメツセンジヤーワイヤーを切つたときにいかなる現象が発生するか。このクロス点でいかなる結果を伴うか。電車がそこに入つたならばどういう状況になり、どこにタツチするか。それ以後どういう現象が起きていかなる事故を起すか。さらに言えばその燃焼はいかなる結果を起すか。いろいろな条件があります。こういう点を、われわれ事件の物理的経過ということを一応考えたのであります。そこで最も端的に言えば、その故障そのものを再現してみればいいわけですが、これは物理的にも不可能、経済的にも不可能です。そこで実は五月八日ころでありますか、国鉄自分で実験をやることになつた。その際にわれわれもその点を確かめさせてもらおう、こう考えた。ところが国鉄でもやつてみたところ、いろいろたいへんなことでありますから、困難があつたらしく、一応見送りになつたということです。ところが私の方としますれば、やはり法廷に事故の物理的経過ということを一応説明しなければならぬ。当時の客観的状況とやはり現在はかわつておる。もちろん鑑定人などの知識を借りまして、そういう方法の実証も考えられるのでありますが、これとても事件後であるから、とにかく大事をとつて、できる限り過去の事実の条件にマツチするように、しかもできるだけ犠牲は少くしてもらいたいという要望を国鉄に提出いたしまして、十五日の拂曉に、終電後から始発までの間に桜木町駅の現場で実験をいたしました。それは第四号鉄柱を人為的に切るわけですから、条件がちよつと違うわけです。それを切つてみまして、そうして左右延長の弛緩の状況、異変状況を測定いたしました。それからそのそばに六三型の電車を電流を切つて機関車で押しておつつけて、メツセンジヤーワイヤーとトロリー線の間にちようど入るかどうかやつてみた。これは入ります。これは過去の事実そのものではない。しかしわれわれの実験の結果は、あくまで間接ではありますけれども、間接にも一応そういうトロリー線とワイヤーの間に入る。入ればハンガーがありますから、それをとりはらつて、トロリー線が下るだろう。下ればこういうふうにパンタグラフのわく内に触れるだろう。触れればアースするだろうということが一応考えられる。そういうふうに一応間接的ながら事故の物理的な経過は調べてみたわけです。
  91. 山口武秀

    ○山口(武)委員 工手がスパナーを落して架線を切断した。そのことが今回の事件の直接的な原因になつておるわけですが、工手がここで工事をしておる場合にどういうような状況のもとに工手が落しただろう。工手がそういうスパナーを落すというような過失を常に繰返すような状況において行つたのかどうか。こういうようなスパナーを落すというような条件は、これは常にあることなのか、それとも珍しい過失なのか、まずこの点をお聞きしたいと思います。
  92. 大津広吉

    大津証人 スパナーを落したのではなくて、クリツプのナツトをゆるめておつたのですが、スパナーを送りますね、その際あの尖端がこういうふうな三角形的になつて、こつちの鉄骨の一端にぶつかつたわけです。こういうような状況で切断した、こういうような状況が認められるのですが、そういう現象は私たちの方では珍しい事故であると聞いております。
  93. 山口武秀

    ○山口(武)委員 私の聞いている事実なんですが、架線の改修工事というものが、かなりあぶなつかしい方法でやられているということを聞くのであります。いわゆるあなたの言う事件環境の問題です。それで実は架線の改修工事の場合に、請負会社のようなものがあつて、その請負会社が、国鉄で働いている工手の人をアルバイトで使つている。従いまして気分的にもたるんでいる。そして精神的にも肉体的にも疲労の状態にある。こういうような状況のもとで改修工事がなされておる。そういうことがありますれば、そこで故障というものが起るのは、これは往々にしてありがちなことになつてしまうわけなんですが、この点に関しまして、あなたの方で何かお調べの結果耳に入つたことがあるかどうか、この点をお伺いしたいと思います。
  94. 大津広吉

    大津証人 そういう工手がアルバイトしておるかどうかということは聞いておりません。
  95. 山口武秀

    ○山口(武)委員 それでは先ほどの問題点なんですが、工手長上りをとめてくれということを高原信号手に言つておるわけですが、この解釈が一応線を起点として言われたものか、それとも電車単位として言われたものかというところに問題があると思うのですが、先ほどの証人の答弁によりますと、これは高原君の証言つたと思うのでありますが、上り電車をとめてくれと言われた、こういうふうに証言されたと思うのです。そうすると、上り電車をとめてくれと言つたということになると、これは電車単位としてものを言つたということになるのではないかと思うのですが、この点は証人の言い違いであつたのか、それともその通りであつたのか。
  96. 大津広吉

    大津証人 高原信号手供述によりますと、中沢工手長からの話では、上り電車をとめてくれ、下り電車はいいのかと聞くといいのだという趣旨を高原君が供述しているわけです。
  97. 山口武秀

    ○山口(武)委員 今証人は趣旨ということを言われましたが、私が聞いておりますのは、厳密な言葉の使い方の問題なんです。上り電車という言葉言つたのか。証人は先ほどそういう証言をなさつたと思うのです。この点いかがですか。
  98. 篠田弘作

    篠田委員長 その食い違い、信号手上り線をとめてくれと言つたし、聞いた方は上り電車をとめてくれと言つたという、その食い違いを説明していただきたい。
  99. 大津広吉

    大津証人 それは私は今ここに書類を持つておりませんから、私の記憶で申し上げますが、趣旨ということは記憶であるからという意味であります。要するに高原信号手中沢工手長から聞いたところは、上り電車をとめてくれ、こういうことを聞いた、こういう趣旨であります。
  100. 山口武秀

    ○山口(武)委員 どうも言われることがわからないのですが、それでは先ほどの証言の際に、中沢工手長がたいへんなことを起してしまつた電車が来て架線が切れたことにしてくれというような申入れを高原に行つた高原にこういうことを言つたというときに、そこには寺山という男がいた。この寺山も、川島検事の調べによると、高原言い分と大体合つておるということを言つておる、こう言われたのですが、これは川島検事が調べたにいたしましても、あなたも御承知だろうと思うのですが、この高原言い分というものをちよつと詳しく聞かしていただけませんか。
  101. 大津広吉

    大津証人 高原言い分と申しますと……。
  102. 山口武秀

    ○山口(武)委員 寺山の言い分です。
  103. 大津広吉

    大津証人 寺山ですか、これは私が直接調べておりませんし、私は取調べをした川島検事から大体聞いたことを覚えておるのですが、その趣旨は、総括して結局高原信号手供述の線と大体一致しておる、こういうことのみを聞いておつて、具体的に彼がどう聞いたという事実は、私一々調べておりませんから、私自身も認識しませんし、具体的にこう言つておるという調書を見たわけでもございません。要するに川島検事が、私と一緒にやつておる間に、寺山君を調べまして聴取したことは、大体高原の言つておることに一致しておる、こういう程度に私は聞いておるのです。     〔委員長退席、島田委員長代理着席〕
  104. 山口武秀

    ○山口(武)委員 証人はこの事件に関する調査の責任者ではないですか。
  105. 大津広吉

    大津証人 一応責任者であります。
  106. 山口武秀

    ○山口(武)委員 そうしますと、この高原君と中沢君の言い分の食い違いという問題は、きわめて重大な問題でありまして、しかもこの両者言い分の違いのいずれが正当であるかということにつきまして、寺山の言葉というものがまたきわめて重大なかぎになつて来るわけでありますが、このことに関してあなたは特に知らなくともよろしかつたのですか。
  107. 大津広吉

    大津証人 お答えします。しないでよろしいのではありません。検事捜査は、検事が一人ですべての関係自分で担当いたして取調べる場合もございます。しかし複雑多岐な事件になりますと、数名の検事がいわゆる共同捜査というものをやります。そうして各検事の担当部門をきめまして、それぞれ担当関係者を取調べ、そうしてそれはやがて総合さるべき問題でありますが、一人の検事がすべての被疑者にわたり、あるいは関係人にわたつて調べることは事実上不可能であります。川島検索は私の属する特別捜査局の一人でありまして、私よりも先に本件にタツチしておりまして、そうしていろいろな関係人を取調べております。そこで私は川島検事について、その部分については十分に捜査を頼んで、その報告を受けておりますから、それで十分と考えております。
  108. 山口武秀

    ○山口(武)委員 しかしこの寺山の言葉というものは、少くともこの事件のポイントの一つをなしているものだ。この証言の言い違いという問題について、あなたはそれほどあまり詳しく知つていないというようなことでよろしいかどうか、あらためてお聞きします。
  109. 大津広吉

    大津証人 お答えします。高原信号手並びに中沢工手長は私も直接調べました。川島検事高原、中沢、寺山そのほか関係者を調べております。つまり一人が一人を専属してやつておるわけでなく、それぞれ重複し、あるいは相互に関連して取調べをいたすのであります。従いましたわれわれとしては十分に連絡してありますから、その点で別に遺憾なことはないと考えております。しかし御意見は御意見として拝聴いたします。
  110. 山口武秀

    ○山口(武)委員 私は今の証人の答弁では少々了解しがたい。  次の問題を伺いますが、たとえばこの上りという問題についての言葉が線を基点としての解釈になるのか、電車単位としての解釈になるのかという問題、それから中沢と高原言い分の完全な食い違いという問題、これは事件捜査する者といたしまして、事実はもちろん一つしかありませんし、いずれかというよりも真実のものを究明しなければならないわけですが、今のところ二つのものが全然対立のままになつて未解決である。これについて今後どういうふうに取調べるのか、なお検察庁の見込みとしれは、どちらが真実に近いものになつているのか、この点に対するお考えを聞きたいと思う。
  111. 大津広吉

    大津証人 本件はまだ検察官が起訴いたしておりません。検察官が意思を決定するときは起訴するときであります。特に本件の場合は、当委員会で非常に御関心を持つておるように、われわれの方の検察内部におきましても非常に関心を持つておりまして、高等検察庁、最高検察庁の指揮を受けておるのであります。従いまして本件の最終的決定につきましては、不日高等検察庁並びに最高検察庁に報告の上、十分議を盡しまして決定する、従つて今御質問のような点につきましても、目下十分に検討をいたしております。しかし結論は今申し上げる段階に至つておりません。
  112. 山口武秀

    ○山口(武)委員 結論は今申し上げる段階でないということを言われましたが、結論は出るというような確信は持つておりますか。
  113. 大津広吉

    大津証人 結論は出したいと考えております。
  114. 山口武秀

    ○山口(武)委員 それから私昨日中沢君の話をいろいろ聞いたのですが、一つ中沢君の話についてわからない点があつたのですが、中沢君と高原君との日常の交友関係というもの、あるいは職場における交友関係というものがあつたのですか。それともそういうような関係はないのか、この事件でたまたま顔を合せたというようなことになつていのですか。
  115. 大津広吉

    大津証人 私が聞いたところでは、交友関係というものはなかつたようであります。顔は幾分知つているという程度であつたかもしれませんが、名前までは知らなかつたということを高原君が言つております。そういう特殊な交際関係というものはなかつたようであります。
  116. 田渕光一

    ○田渕委員 大体国鉄の施設上の欠陥とか、あるいは機構組織の細分化というような点はわかつたあと証人で技術的なことはわかると思いますが、私は平素の教育訓練というようなものを、この捜査上からつかみたいというのが私のねらいである。人的要素の問題で、責任観念の完全、不完全というようなことについて、当委員会において中沢証人高原証人の間に大きな食い違いがあり、お互い責任のなすり合いをするということは、すなわち職分に対する責任観念あるいは一つのはつきりした理念がないからであります。そこでいいか悪いかということは検察庁にまかせておけば、刑罰を科するのであるからよろしいが、私たちのねらつているところはそうではなく、有能でないまでも、かように三十年近く一つの職場におつて、もう経験とすれば十分できている人間が、もう一つつつ込んだ親切味がないために、要するにこういう事故を起したというふうに思えるのであります。検察側がそういうような点で対決させなかつたというような点についても、証人のどれがいいか悪いかは、われわれも常識によつて判断はいたしております。けれども、とにかく日本の官庁機構というものは、寄らずさわらず、よけいなことをしないでじつとしておれば経済部長になり知事になる。(「よけいなことを言うな」と呼ぶ者あり)こういうような非常な寄らずさわらずの態度がこの問題を起しておる。こういうような点から行くならば、私たちは国鉄の機構をかえると同時に、国鉄の訓練をしなければならぬ。つまり国鉄は、乗客は乗せてや売るのだ、貨物は運んでやるのだというような思想がずつと古い憲法の天皇制時代から来ておる。終戦後のどさくさなどには、ことに哀訴歎願してやみ切符まで頼んでおつた。主人公であるお客が外の寒いところにさらされて、駅長その他の職員がストーブをたいてあたつておる。こういう考えがこの三十年もいる連中の思想に入つている。よけいなことはしないでいいという線と、一つ乗客に対する関心がないということは、運転士証言ではつきりしております。器物の方が大事だ、国鉄電車が大事で、お客は大事ではないという態度であつたが、将来は運ぶところの生命、われわれの車体を完全に守る訓練をしなければならぬ。それに対しては、今の国鉄の監理委員会がいいのかどうかというような点にも行かなければならぬので、私たちはここへ証人を呼んで、あなた方に材料を提供してくれとか、あるいはもつと刑罰を重くしなければならぬというようなことは言わない。国会はもつと大きな観点からお願いするのですが、少くとも中沢証人高原証人の食い違いというよう点になつて来ると、われわれはもうこれ以上聞く必要はない。私から率直に言わせれば、無能な人間を使つているというところに間違いがあるのだ。無能な人間であるからしてああいう小さい箱の中で三十年もおる。気のきいた者はおりはせぬ。とかく日本の人的な配置の使い方が間違つておる。これはきのうなんかでも、まことに高原証人なんか気の毒な人間であると思う。ほんとうにこういうような大事なところの信号手に配置しておつたということが間違いである。今度は逆にわれわれは洗つて行かなければなりませんが、科学的に私はまだどうしても納得の行かない点があるのです。これは今主任検事さんに聞いてみてもわからぬので、あと証人に聞いてみたいと思いますが、結局あなたが今この事件取調べ中でありますけれども、そういうふうな点について、あらゆる施設、機構、六・三型いろいろな話があつたのでありますが、二人の証人、あるいは運転士車掌をお調べになつて、こういうような点についてお感じになつた点を伺いたいと思います。率直なことでけつこうです。あなたから見て、いわゆる印象と申しましようか、そういう点でけつこうであります。
  117. 大津広吉

    大津証人 国鉄職員の訓練、教育の問題につきましては、実は鉄道教習所側から現在の教科書、教材等を取寄せまして、どういう訓練を行つているだろうかということを目下検討しておるのでございますが、まだこの点については結論が出ておりません。それから事故時における非常措置についていかなる訓練を行つているかという点についても、実は回答を求めているのですが、まだ参つておりません。
  118. 田渕光一

    ○田渕委員 取調べ中に、四人なら四人に対して、ちよつと感じた点だけあなたに伺つておけばよろしいのです。
  119. 大津広吉

    大津証人 私の感じとして、主観的な考えを申し上げるのにはあまり材料がないのでありますが、ただ事の結果から判断いたしまして、当時の事故関係者の措置等から考えまして、総合した角度から申すならば、一応鉄道の訓練目標が通常の業務関係程度に行われているんじやないか、非常措置については少くとも欠けていたのではないか。たとえばDコツク運転士検車掛だけは知つてつたが、駅側のものはだれも知らぬ。車掌を教養する者も知らない。これは私直接に聞いたんでありますが、運送長か何か、いわゆる、Dコツクというのは車輌を検修するために教えているのであるというようなことも申しておりました。ところが、あれを使うことによつて、非常時における人命の救助になるということは教えてない。それがこういう事故を起した状況なんですが、そこで私の方では実は鉄道側に要求しておりますところの、職員の教養、訓練の状況という問題についての資料を実は待つているわけであります。実はそういうことが本件事故に対する重大なる環境のキー・ポイントであります。そういう環境下に置かれた職員が本件事故を起したということになるならば、これは本人にとつて一つの犯情になるわけであります。そういう角度から私たちは今の御質問のことを十分に調査したいと思つておりますが、今のところは、個々の人から見たところでは、どうも事故に対処した、即応した措置をとり得る訓練が欠けておるのではないかという感じがするのであります。総合したものはまだ請求しております。
  120. 田渕光一

    ○田渕委員 私は立法府から捜査を依頼されているこのことに対して、別に干渉がましいことは申し上げないのでありますが、六・三型がどうだとか、機構が技術的にどうだとかいうような問題よりも、少くともいかなるりつぱな電車をこしらえても、機械を与えても、人間の魂の入つていない者に使わしたらゼロです。これが主でなければならぬと思うのであります。少くともそういう材料をわれわれに提供できるように、これからももしまた調べられましたならば、そういう点に重点を置かれていただきたいと思います。きのうは時間がなかつたので、証人二人について十分の尋問をし、そこまでつかめなかつたのでありますが、私らはそういうものをつかんで——今日まであらゆる大きな鉄道事故があつた場合、これを国会が取上げたのに、今度ほど重大な関心を持つたことはない。先ほど佐々木委員が申した通り、わずか一分か二分で適当な措置を講じておればこういう大惨事は起きなかつた。結局人間が無能なやつであつたからこういうことになつた。こういう問題を追究して行くと、人間の訓練の方法になると思うのであります。こういうような意味で、人的な方面から、機構の方も参考になるような点をお取調べを願えば当然発見されるその材料を提供していただきたい。またわれわれ悪くなつた方々の霊が安んずるように、将来未然に災害防止になるために国会もやつておるのですから、あらゆる角度からお取調べはありましようが——そういう意味において、私はいかなるりつぱな国会であつても、議員がしつかりしていなければ日本の国会は何にもならぬと同じことです。いかに検察庁がしつかりしていても、中にいる検事がほんとうに魂の入つた人間でなければ検察庁は何にもならぬのであります。われわれは電車ももちろん完全なことを要望いたしますけれども、その前に人間の魂、こういう点をつかみたいと思います。簡単にお取調べの参考に願つておきたいと思います。
  121. 大津広吉

    大津証人 物的、人的の問題につきまして、できるだけ環境を調べたいと思います。
  122. 島田末信

    ○島田委員長代理 加藤君に申し上げますが、盡食までにもう一人やることになつておりますので……。
  123. 加藤充

    加藤(充)委員 証人環境という問題と、個人責任という問題と二つにわけて、しかも個人責任を追究されるのが証人の立場上の職務であると、こういうふうに証言されておるのでありますが、それに関連していろいろと質問が出ておるようです。そのことについて一、二お伺いしたいのであります。国鉄交通機関のような仕事場所におきましては、最近能率化並びに速度から言えば高速化ということが、これは歴史的、経済的な要望としてぐんぐんアツプされて来ておるのであります。そういう場合におきまして、ばかだから、箱の中に三十年すわつてつたのだというような発言もあつたようですが、そういうようなことになりますと、人間はほとんど機械の一部分化され、仕組みの部分的なものに組みかえられて行つて、人間的なものの特徴がだんだんと失われて行く傾向がきわめて顕著だと思う。従いまして、私は先ほど証人の、環境個人の二元的な方面からこの問題を追突されておるというような形は、従来の犯罪の責任を追究するという立場からすれば、一応納得も行くのでありますけれども、しかしそういうふうな立場と方法論はこの問題の本質を明らかになし得ない最近の状況下にあると思うのであります。動物すら虐待すべきではない、こう言われております。こういう場合におきましては、個人的な訓練の軽視をここに私は主張するつもりは毛頭ありませんが、個人的訓練というのは、結局労働強化の問題になるのであります。労働強化の問題でこれが解決されるものとは思いません。従いまして、私がお伺いしたい点は、事件が大量的な被害を瞬間に出したところに問題がある。問題点はそこにあるのだということでありまして、また国会がこの問題を取上げておりますのも、そういう点からだということもうなずけるのでありますが、さすればああいうような何輌も連結し、しかも何百人かを一ぺんに運ぶ列車のただ一人の運転手しか、そのDコツク操作を知らないというような状態のもとにおきましたならば、六三型の問題をここで問題にする考えもございませんが、証人が確認されておりまするように、あれが三段の窓になつてつて逃げられなかつたというようなこと自体も、大量的な被害が起きた原因だとも言われておるのでありまするから、そういう条件のもとで走らせております場合におきましては、Dコツク操作——すなわちこの電車はきわめて事故が起らないように操作はしておるけれども、一日一緩急あれば、事故発生となれば、逃げにくい状態にあるのだというようなことで、Dコツクについて相当な措置をしておくべきことが問題だと思うのであります。従いまして環境が重大だという点でお尋ねするのですが……。     〔「質問をやれ、」「意見を言うな」と呼び、その他発言する者あり〕     〔島田委員長代理退席、委員長着席〕
  124. 篠田弘作

    篠田委員長 御静粛に願います。
  125. 加藤充

    加藤(充)委員 そういう条件、環境のもとに運転されておるのでありますから、お客さんを運びまする国鉄といたしましては、Dコツク操作を事前になすべきじやなかつたか、私はこの責任はあれだけのとつさの瞬間に、たまたまDコツクをあける操作を知らなかつた一人の運転手責任を追究するよりも、むしろ環境として、私は国鉄のそういう措置、告示、具体的なその問題が、大量的な被害を瞬間に出してしまつたことの大きな責任だとも思えるのですが、この点について御見解を承りたい思います。
  126. 大津広吉

    大津証人 御質問の要点は、Dコツク操作を教えないことが本件事件関係がある、そういう教えなかつた責任者の処分問題いかん、そういうことになりますね、その点につきましては、いろいろ資料も集め、かつ検討を加えております。その問題につきましては、なお最高検察庁、高等検察庁と十分協議いたしました上で、今後の方針を決定することになつております。いまだ申し上げる段階に至つておりません。
  127. 加藤充

    加藤(充)委員 それからもう一点、上りというのが上り線であつたか、上り電車であつたかということが重大だということなんですが、これは中沢といいう工手長のいろいろな仕事の関係上、あるいは高原という信号掛のいろいろな職務の経験上、上りということをさしずする場合に、工手長では上り線ということを言い、信号掛では具体的な電車信号なんでありまするから、上り電車というところに重点を置いて感じられるような、しかもとつさの場合に、そうピンと来るような職務上の経験とういうものを持つてつたのではないか、そういう点についてお確かめになつたかどうか、その点を承りたいと思います。
  128. 大津広吉

    大津証人 もちろん電車を目の前に置いて毎日作業をしておる男でありますから、相当電車に対しては詳しいことを知つておるわけであります。しかしながら当日いかなる言葉を使つたかということが本件の問題であります。従いまして、やはりその言葉の語句、語呂、それを中心として事を見なければならない、そういうことに考えております。
  129. 加藤充

    加藤(充)委員 とにかく先ほどの評人の証言によれば、上りということが出たということはあります。上り電車であつたか、線路であつたかということまでは、はつきりしないが、上りということが話題に上つたことは事実であると思われるというように証言をなつたのであります。私がお聞きしたいのは、さすれば上りという言葉を聞いたときに、あるいは言葉を発する場合に、中沢という工手長、それから高原という信号掛は、上りということで、どういうことを強く感じ、ピンと来るような職務上の経験あるいは職責上の立場にあつたかというようなことについて、上りという言葉はたいへんにニユアンスが多いということでありましたけれども、それを感ずる立場も非常にニユアンスが多いのじやないか、こう思うのであります。
  130. 大津広吉

    大津証人 お答えします。上りという言葉でなく、中沢工手長は、上り線には入れてくれるなと言うのです。それから高原信号手の聞いたところでは、上り電車をとめてくれ、上り電車上り線とはあまりまぎれない言葉であります。
  131. 加藤充

    加藤(充)委員 よその場所であるならば、上りというのは、線路にも通ずるし、電車にも通ずるが、あの災害発生した場所においては、上り線ということは、必ずしも上り電車のそれとは一致しない、こういうことを言われたのであります。それで私は質問したのありまするが、今になつて、それは大した違いじやないと証人が言われるのだつたら、証人とりくつの言い合いはするつもりはありませんから……。
  132. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつと加藤委員に申し上げますが、それはあなたのお聞き違いじやないのですか。あとで速記録を調べればわかりますが、私はあなたと同じ質問証人にしたのです。上り線工手長が言い、信号手上り電車とこう聞いておる。そうすると線であるか、電車であるかということは、調べてみなければわからないが、上りという言葉を使つたということは、これは考えられる。そこでぼくとあなたと同じ考えになりまして上りをとめてくれと言つたのじやないかと言つて聞いたところが、証人は先ほどもそうじやない。工手長上り線をとめてくれと言い、信号手上り電車をとめてくれと言うのでそれが水かけ論になつて、まだ解決がついていないという話である。
  133. 加藤充

    加藤(充)委員 わかりました。そのことについては私ども調べないのでわかりませんから、それはそれでいいのです。ところが中沢という工手長は、上りという言葉の中には、上り線というようなことを強く感ずるし、また信号掛としましては、具体的な電車だから、それは上りということがピンと来ると上り電車だというふうに理解をする。上りということについても、路線とピンと来るような職責や職歴の経験がそういうふうなことになつて、瞬間のときの理解が、今から開き直れば、いろいろなことの違いになつて出て来るのじやないか、こういうふうに私は感じたから……。
  134. 田渕光一

    ○田渕委員 先ほど加藤君から、私の発言中にああいうばかだからということがあつたと言われましたが、これは共産党的な煽動の言葉でありまして、当委員会がこれを審議して行くということが、全国の国鉄の全従業員の緊張、いわゆる引締めの一つの台になつて行くわけだと私は思います。ただ三十年に近い経験を持つた中沢君にしろ、高原君にしろ、きのうの証言の能度、人物的に批評して、決して有能達識な人とは見られません。少くとも無能にひとしいと私は思う。それはなぜかというと、私がこんなことを言わなくても、加藤君はわかるだろうと思うが、あの人類に近いさるですら、三十匹、四十匹の集団で食糧をあさりに行くときは、一匹が木の上に登つて、外敵を見ればただちに知らせる。これから言うならば、少くとも数分置きに来る電車の中であれだけの仕事をするのであるならば、中沢君は前方に一人の赤旗を持たした者を配置するのがあたりまえなのに、これをしておらぬから無能だという。しかしそんなことをわれわれは言うのじやない。そんなことは検察庁にまかしておけば刑罰を科する。われわれはそういうような点を見出さんがためにかかつておるのでなくて、決して共産党的な、駅夫で働いておれば、信号手で働いておるのはばからしいとい感じでなく、われわれは少くとも緊張してやれという線に持つて行かなければならぬ。これがために私は決してばかだという表現はいたしておりません。そういう観念は毛頭ございませんことをはつきり申し上げておきます。
  135. 篠田弘作

    篠田委員長 他に御質問がなければ、大津証人に対する尋問はこれにて終了いたしました。証人にはたいへん御苦労様でした。     —————————————
  136. 篠田弘作

    篠田委員長 引続き高橋一夫証人より証言を求めることにいたします。  高橋さんですね。
  137. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうであります。
  138. 篠田弘作

    篠田委員長 たいへんお待たせしましたが、時間の都合上、これから引続いてあなたの証人尋問をいたします。あらかじめ文書で御了承願つておきました通り証人として証言を求めることに決定いたしましたから、さよう御承知おき願いたいと思います。  ただいまから桜木町国電事故に関する件について証言を求めることになりますが、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務知つた事実であつて、黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられかつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところによりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人高橋一夫君朗読〕    宣誓書   良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  139. 篠田弘作

    篠田委員長 署名捺印してください。     〔証人宣言書に署名捺印
  140. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証言を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際は、その都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておりますときはおかけになつていてよろしいですが、お答えの際は御起立を願います。  証人の今おやりになつておる仕事をひとつ御説明願います。
  141. 高橋一夫

    ○高橋証人 横浜警察本部刑事部捜査第一課長でございます。
  142. 篠田弘作

    篠田委員長 どういう仕事ですか。
  143. 高橋一夫

    ○高橋証人 刑事部長の補佐としまして、犯罪の捜査一般をやつております。
  144. 篠田弘作

    篠田委員長 この国電桜木町駅の問題につきまして、あなたみずから関係者をお調べになりましたか。
  145. 高橋一夫

    ○高橋証人 調べておりません。
  146. 篠田弘作

    篠田委員長 だれが調べましたか。
  147. 高橋一夫

    ○高橋証人 それは全部分担して調べておりますから……。
  148. 篠田弘作

    篠田委員長 総合したものはあなたのところに届いておりますか。
  149. 高橋一夫

    ○高橋証人 記録は届いております。
  150. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたは一回も関係者を調べたことはないわけですね、自分では。
  151. 高橋一夫

    ○高橋証人 ありません。
  152. 篠田弘作

    篠田委員長 責任者ですね。
  153. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうでございます。
  154. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは現在まであなたが責任者として、あなたのところにいろいろな報告が来ておる思うのですが、その報告について、今度の事件原因、結果あるいはそれに対するいろいろな処置に対する欠陥であるとか、施設の欠陥であるとか、そういう問題について、あなたのところに集まつた報告によつて、結論を概略話してください。
  155. 高橋一夫

    ○高橋証人 第一番の御質問原因でありますが、御承知のように架線工事をしておりまして、架線が切れ、そこへ電車が突入して来て、パンタグラフが吊架線にひつかかつたというのが原因であります。それで電車が火を発してあれだけの死人を出したのであります。運転車、車掌、それから当時現場において実際にその事故原因となつた作業をしておりました工手というものを検察庁へ送致いたしましたが、なお三日おきまして工手長の中沢氏、それから信号手の芦原氏この人間を逮捕して検察庁に送致したわけであります。ただいまお問いの中に欠陷と申されましたが、私どもとういう電車事件というものは初めて扱つたわけでありまして、従つてパンタグラフとかあるいは吊架線というような言葉も今度の事件を扱つて初めて覚えたのであります。従つてどこに欠陷があつたかということはわれわれには調べることができなかつたわけであります。
  156. 篠田弘作

    篠田委員長 原因はだれが見ても架線が切れて、切れたところへ電車が入つて来た、上り架線が切れたために下りの架線が下つてつた。それを知らないで電車が入つて来てパンタグラフをそれにひつかけて切つたということははつきりしておりますけれども、われわれが今あなたにお聞きしていることは、そういう原因はもうすでにわかつているが、なぜあんなに大きな災害になつたか、なぜあれだけの人を殺さなければならなかつたか、その一番大きな原因と見られるのは、一体何であるかということを、ひとつあなた方調べた範囲内で言つてもらいたいと思います。責任ばかりじやない。原因です。
  157. 高橋一夫

    ○高橋証人 ちよつと一口に申し上げるのはなかなかたいへんですが、電車が火を発したということは、今申し上げました通りであります。しからば事後の処置をどうすればよかつたかという問題に帰するのではないかと思いますが、私が捜査員の話を聞いた範囲では、運転士が制動手配をとりましてパンタグラフを下げた、こう言つております。それでドアーをあける操作をしたけれども、実際には開を押してあつたけれども位置がうしろで、ああいうようになつていたために、実際には操作をしたけれども、きかなかつたということになつております。従つて、それはそれといたしまして、事故が起きたときに、運転士がすぐに車から飛び出して二輪目へかけつけて行つたというのでありますが、私ども考えといたしまして承知いたしましたのは、貫通ドアーがそこにあるわけでありますから、あれだけの大勢の人がわめいておるのでありますから、貫通ドアーをあけて中に入つてコツク操作したならば、もつと被害が少かつたのじやないかということ、もう一つ車掌の問題でありますが、これも操作はしたと言つておりますが、もし機械的に操作ができなくても、少くとも自分の努力によつてできるだけのことはやらなければならなかつたじやないかというふうに私は考えております。
  158. 篠田弘作

    篠田委員長 すると、できるだけのことをしなかつたというように警察では思つておるのですか。
  159. 高橋一夫

    ○高橋証人 私はそう考えております。
  160. 篠田弘作

    篠田委員長 どういう点で……。
  161. 高橋一夫

    ○高橋証人 それは陳述によつてそういうふうに私は考えます。
  162. 篠田弘作

    篠田委員長 陳述のどういう点で……。
  163. 高橋一夫

    ○高橋証人 運転士が……。
  164. 篠田弘作

    篠田委員長 貫通ドアーをあけなかつたということは、運転士責任として確かであるけれども運転士はそれについていろいろ事情を言つていますが、車掌がもつとできるだけのことをしなければいけなかつた。それをしなかつたのだというふうにあなたは言われたのだけれども、それはどういう点であなたの方では認定されたのですか。
  165. 高橋一夫

    ○高橋証人 今申し上げました通り、機械的に操作ができなくとも、前部にかけつけて窓をこわすなり、こつちのドアーをあけて出すなり、何かできたと思います。
  166. 篠田弘作

    篠田委員長 車掌は出したと言つておるのだけれども、それは警察の方では認めていないわけですか。
  167. 高橋一夫

    ○高橋証人 私が聞きました範囲では、車掌は二輌目か三輌目か自分ではつきりしないが、そこへ入つてドアーをあけたと言つております。
  168. 篠田弘作

    篠田委員長 一輌目に対する操作を何もしていないというのですね。
  169. 高橋一夫

    ○高橋証人 いたしておりません。
  170. 篠田弘作

    篠田委員長 だれか御質問はありませんか。
  171. 島田末信

    ○島田委員 取調べを開始したのはいつでしようか。
  172. 高橋一夫

    ○高橋証人 被疑者に実際に当りましたのは、二十四日六時ごろだと思います。
  173. 島田末信

    ○島田委員 二十四日というのは事件発生の日ですね。
  174. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうであります。
  175. 島田末信

    ○島田委員 そうすると、事件発生が十三時四十四分ということだから、大体一両目に乗つておられた皆さんが被害をこうむつて、火災のために命を捨てられて、もうすでに事済みになつたというその経過時間はどのくらいでしようか
  176. 高橋一夫

    ○高橋証人 二時半ごろじやないかと思います。
  177. 島田末信

    ○島田委員 そうすると、二時半ごろから六時までの間、三時間半ですか、このくらいの余裕が取調べまでの間にあつたわけですね。
  178. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうであります。
  179. 島田末信

    ○島田委員 この時間のずれのある間において、事故発生さすことについて非常つ関係のあにた人々やら、事故発生後、これが防止救済等について関係のあつた国鉄従業員の皆さんが、この善後措置について何かと打合せをする時間的な余裕はあつたように思われますが、事実こういう打合せをしたような形跡は見られぬのですか。
  180. 高橋一夫

    ○高橋証人 自分の聞いた範囲では、そういうことはわかりません。
  181. 島田末信

    ○島田委員 これは打合せがあつたことは事実だとか事実でないとかいうことは、今立証すべき何ものもないというのは、われわれ理解できるのですが、ただ今回いろいろ証人にお聞きした範囲内から申しますと、打合せがあつたなかつたにかかわらず、事故発生については、責任の細分と申しますか、おのおの自分の所属だけを何とかやつておればいいという程度の所作行動が多かつたように思います。ところが事故発生におけるいろいろな責任については、極力これを回避するために、打合せでもやつたのだろうかというふうに想像されるところが非常に多いと思う。そこで私が一番感ずるのは、まず事故を起さないということにつきしては、むしろおのおの所属しておる各分担事項を、守ると同時に、他の分野に対してもそれが一番いい処置であると信ずるならば、積極的にそのはからいをすれば、もう少し事故発生も防げたであろうし、また事故発生後におけるいろいろな処置もある程度とられたのではないかと思うのです。ただ責任を負うという段になりますと、みんなが総合的に力を合せて、お互い責任をあいまいにするとか、あるいは回避するということに相当努力したような結果になつておるのじやないか。私はこれを感ずるがために、あるいは時間的なそういう余裕があつたとすれば、何かとあと処置について打合せでもした結果で、そういうことになつておるのじやないかと思います。これは善意的な解釈とは言えないかもしれないが、一応そういうふうに想像されるのです。そこでお聞きしたいのですが、車掌言い分では、ちようど四号柱の近くを列車が前進したときに、十メートルばかりあとで、工手が手を振つて信号をやつてつたというふうに言つておりますが、こういう事実は認められますか。
  182. 高橋一夫

    ○高橋証人 車掌はそう言つておりますが、当時九名おつたわけですけれども、私たちの調べた範囲では、手を振つたということは聞きません。
  183. 島田末信

    ○島田委員 そういう事実は認めないのですね。それからパンタグラフを運転士が下げて、電気を遮断しようとしたが、さらに今度はドアをあけるために、パンタグラフを持ち上げたというふうに言つておりますが、運転士事件発生後運転台から外に飛び出すまでの時間は、あなたの方の調べではどのくらいの時間と認められますか。
  184. 高橋一夫

    ○高橋証人 時間と申しましても、運転士の言う話では、ほとんど瞬間程度じやないかと思います。結局パンタグラフを一度おろして、それからまた上げて操作をしたと言つておりますが、それは調べによりますと、上げた下げたということは、運転士言い分であつて、上げる操作、下げる操作をしたというのが正確ではないかと思います。というのは、パンタグラフはすでにゆがんでいるのですから、正常の動作でないわけですから、運転士が上げた下げたということは、上げる操作をした、下げる操作をしたというのだと私は感じております。
  185. 島田末信

    ○島田委員 そこで私は先日来非常に不審に思つてつたが、パンタグラフを実除に下げたとか、実際に上げたというのではなく、今のあなたの証言が事実じやないかと思います。実際その当時パンタグラフが下つたならば、これは私はしろうとだからわかりませんが、電気が遮断されて、火をふいておつたのが一応とまつたのじやないか、こう思うのですが、それがとまらずにおつたということは、パンタグラフは下らずにおつた。下げる操作をしたかどうかわからないが、一応したと認める。その次にドアをあけるために、パンタグラフを上げて、電流を通ずるという操作を一応考えたらしい。これも実際に電流を通ずるようなところまで具体的にパンタグラフがそういう位置を示さなかつたということで、むしろ私の考えから行けば、そうしたかつたということくらいのもので、実際に手が触れたか触れないかは、十分確認できないのじやないか。むしろ同時に雷のような音がしたので、あわてて飛び出したのであつて、今あなたが言われるように、瞬間に飛び出したというのは、真実に近いように感ずるのです。そこでこういう証言からいつて、たとえば工手が手を振つて、とめたということも、事実まだ認められない程度である。あるいはパンタグラフを実際に上げた下げたということも、それが確認のできないような事実で、しかも運転手事件発生と同時に、あわてて外に飛び出したというのが、むしろ真実に近いのじやないか。こういうことから観察しまして、今の信号手言い分とか、あるいは中沢工手長の行動とか、すべておのおの自分責任をある程度果したとか、果すつもりで行動したというふうな形にはなつておりますけれども、そこに何らか関通性を持つてお互い責任を回避するような結果になつているように思われるので、一応あなたのその取調べの結果に対する確信のあるところを承りたいと思います。
  186. 高橋一夫

    ○高橋証人 ただいまの御質問でありますが、架線が切れてすぐ工手長信号所連絡に行つた。その連絡した場合に、中沢工手長は、上り線電車を入れるなということを向うへ断つた。向うの高原信号手は、それでは下り到着はいいのだなということだつたのです。ここに確認が足らなかつたという点、またこちらでもはつきり連絡をしなかつたという点に、重大な過失があるのではないかと私どもは認めております。
  187. 島田末信

    ○島田委員 私の質問とちよつと離れておるようでありますが、この程度で……。
  188. 大森玉木

    ○大森委員 私は証人が言われた、運転手が余裕があつた、いわゆる貫通ドアをあけなかつたという点から考えまして、もう少しつつ込んでお聞きしたいと思います。私はこの問題は大きな問題であると考えるのであります。なぜかというと、運転手が、今申し上げましたように、戸をあけて中の人を救い出す余裕があつたというお言葉から考えてみると、私もそうあるべきだと思うし、さらにまた車掌が、これもやはり同時にけがも何もなしに出ておる。そうすると、これもやはり中におる人を一人でも二人でも救うだけの余裕があつた。しかしこれをやらずに、二人とも飛び出してしまつてやらなかつたということになりますならば、あなた方はどういう取調べをしているか知らないが、私は三鷹事件のようなものではないかと思うのであります。あれは架線が切れたということであるが、架線を切らすべき仕掛がしてあつたのではないかということまでつつ込んで考えたいのです。一体運転手車掌が、自分たちが責任を持つておる車内に火事が起きておるのに、その車門を捨てて、その電車を捨てて、二輌、三輌目に行つてつたということでもるならば、これは箱詰めにして火をつけて焼いておる、ここまで掘り下げて考えてみる必要がないか。あなた方はここまで研究しておられるか。ただ単に架線が切れたから火を吹いて、それが事故になつたのであるいしう考え方か、またそこまで考えて調べておられるか。これは私は簡単な問題でないと思います。ただ架線が切れておつてひつかかつて火を吹いたということならば、これは事故である。しかし行為的にやつたのではないか。三鷹事件はあの通り行為的にやつた仕事である。さらにまた今度のこの問題は、百何名というものを詰めておいて、しかもこれは焼き殺したのだということも考えられるのであるから、運転手車掌が何か連繋を持つて、この仕事を行為的にやつたものではないかということに対してあなた方はどういうふうに考えておられるか、ちよつとお尋ねしたい。
  189. 高橋一夫

    ○高橋証人 自分としては、故意にあれをやつたのだとは考えません。あれだけの大勢の者を故意に焼き殺してしまうということでやつたのだというふうな頭で自分は調べておりません。あくまでもやはり過失であるという見込みのもとに捜査を進めております。現在故意であるということの資料は何もありません。
  190. 大森玉木

    ○大森委員 私はなおあなたがそういうふうに判断をいたすからお尋ねするのであるが、しからば故意ではないのならば、その貫通ドアがあるのだから、これをあけるということに対しては、一人なら忘れておつたということも言えるが、運転手もそれから車掌も、二人とも忘れておつたので、一体それは故意でないと言えるかどうか。こういう点はあなた方が、ただ単なる事故であつた、こういうふうな考え方で調べていることは見当がはずれているではないか。私が常識的に判断してみるならば、ここに二人の人がおつた。その二人は毎日その代行をあずかつている人である。そういたしますならば、常識上だれが見ても、この戸をあければ中にいる人を幾らも逃がすことができる、こういうことくらい知らないというならば、先ほど田淵君が言われたことく、無能者であるということになる。いやしくもその人たちは相当の年輩で、まだ血気盛んな人である。こういう人たちがその衝に当つてつて、そしてそれは知らなかつた自分だけ逃げてしまえばいいというようなことは、これは私は、あなたが先ほど言われるように、故意であつたという証拠もないが、しからばこれは過失であつたという証拠もないのであるから、この点をはつきりとあなた方が糾明することが、今度のこの事件に対して大きなものがあるのじやないかということを考える。一体この点はあなたの言われるように、なるほど故意だという証拠がないと言うが、しかしながら、上からば過失であつたという証拠がどこにあるか。やはり線が切れたというのは、切らすようにしておけばそれは切れる。間違つてつて来たということなら、それは間違いだということになる。だからこの点は、あなた方の常識上、あるいはそのときの状態、そのときの事態を判断してそしてこれは故意であつたか、過失であつたかということをよく判断してもらいたいというふうに考えてお尋ねいたしたのであります。あなたの言われるように、証拠がないというならば、しからば過失であつたという証拠がどこにあるのか、私はこうお尋ねいたして、これで質問を終ります。
  191. 高橋一夫

    ○高橋証人 ただいま故意の証拠もない、過失の証拠もないのだと言われましたが、運転手の当時の気持からしますと、中へとても入つて行けないというところからあけなかつたのだということで、それをあける気持は全然なかつたのだということではないように私はとれました。ただ勇敢にそこに飛び込んであけなければいかぬじやないかということを、われわれが要求するだけのことでありまして、運転手が故意にあれをあけなかつたのじやないかというようなことは、私ども考えておりません。これははずれるかもしれませんが、実際にあの事故をへ冷静に考えるといろいろ考えられますが、たいへんだというようなことで、ただみながら呆然としたというのがほんとうじやないかと私は考えるのです。
  192. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 一つだけお伺いいたします。先ほど横浜地方検察庁特別捜査部長の大津証人から承つたのでありますが、事故発生が一時四十四分とも言われ、四十二分とも言われ、あるいは四十二分とも言われ、大体一時四十四分だろうというのが大津証人証言でありましたが、そこでその事故発生してから、どのくらいな時間で電車が焼けて、あるいは大勢の人が焼け死んだかということをお聞きいたしましたところが、数分にして焼けたのじやないかということでありました。ただいまあなたの証言をお聞きいたしますと、焼けてしまつたのが二時半ごろじやないか、こういう御証言でありますが、そうするとそこに大きな時間的な食い違いがあるのです。たとえば二時半で電車が焼けて多くの犠牲者を出したということになれば、大体四十何分という時間があつたように思われるのであります。ただ先ほどの大津証人の話ですと、数分だということであれば、非常に時間が少かつたということでありますが、この二時半というのは的確な御調査の上の御証言でありますか。それとも大体二時半ごろだつたというお考えでありますか。
  193. 高橋一夫

    ○高橋証人 先ほど私の言葉が足りなかつたのです。消防の記録を見ますとよくわかりますが、私が言つたのは、いつあの人たち全部の息が絶えたかということでなくて先ほどは完全に消火してしまつたということを申し上げたわけであります。従つてあの百何名の人が何時に落命したかということは証明つきません。
  194. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 消防が消火し、これが鎮火したのは二時半、こういうことですね。
  195. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうです。
  196. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 そうすると、一時四十四分に発火したということになれば、これは駅のホームに近い場所です。その場合に、もちろん私らは運転手車掌処置ということにつきましては、非常に遺憾の点があります。また同時に何分にして車内の人が焼け死んだかということは、これは後日の問題として大きく真剣に時間的に調べなければならぬことだと思いますが、その場合桜木町駅の駅員並びに従業員の人たちが、いかなる行動をとられたかということをお聞きになりましたかどうか。もしお聞きになりましたらその状態をお聞かせ願いたい。
  197. 高橋一夫

    ○高橋証人 実は一番最初に被疑者を検挙しましたのは、緊急逮捕をしたわけです。御承知通り自分の方には四十八時間しか持ち時間がありませんので、被疑者を固めて送るということで手一ぱいです。従つて被疑者を送つてしまえば、あと検察庁の指示によつてこちらが捜査するということになりますので、こまかい点といつてははなはだ語弊がありますけれども、荒筋を送致するわけでありまして、あと検察庁の方で勾留を請求しておきまして、調べるわけでありますから、非常に私の方は雑駁な調べをしておるということに盡きるわけであります。でありますから、あとから、そのときでたくて数日たつてから関係者を調べるわけでありますから、ほんとうのことが生れて来ないわけであります。当時の配置状況等もとつてみましたが、結局あの当時だれが何をやつたかということはとり得ない。配置だけはとつてあります。
  198. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 消火したのが二時半だとすると、大体四十何分、五十分近く時間がありますが、私のもつと聞きたいことは、駅の構内といわれる場所ですが、そこで消火に努めたのだが、消火したあと電車の窓あるいはドアーを努力してあけたような形跡が見られなかつたか。それはあけられないままで焼けてしまつたのか。
  199. 高橋一夫

    ○高橋証人 車体の検証をしたのは自分じやありませんが、検証によりますとドアーはあいておらない。
  200. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 全然あいていないとすると、もちろん、Dコツクというのは使わなかつたのですから完全にあかなかつたろうと思いますが、外部からいろいろな器物をもつてあけようと努力したような形跡、内部の人はもちろんそんな努力をしてもあかないのですから、外部からいろいろな器物を持つて来て破壊でもしてあけて救い出そうとする努力の形跡があつたかどうか、その点はわかりませんか。
  201. 高橋一夫

    ○高橋証人 これは結局消防が先に行つて水をかけるために窓ガラスを割るということがありますので、はたしてそれが人を救うために窓ガラスをこわしたのやら、また消防が水をかけるためにこわしたのかという区別はつかないのです。
  202. 佐々木秀世

    ○佐々木(秀)委員 窓ガラス程度のことじやなく、ドアども、駅が近いのですから、まくら木一つつて来てもこわせるじやないか。それは三分や五分ならこわせません。しかし相当の時間があるのですから、たとい中の人が死んでいたとしても、外部からそれを救うべく努力の形跡がなかつたか。ただ消防による窓ガラス破壊の程度でなく、ドアそのものが破壊されていたような努力の形跡がなかつたか、こういうことをお聞きしているのです。
  203. 高橋一夫

    ○高橋証人 私が参りましたのは、ちようどよそへ行つておりまして、三時ごろなのでありまして、従つて電車がすつかり焼け落ちておつたわけでありますが、他の者から聞きましても、そういう大きな痕跡、いわゆる助けるためにドアを破るというようなことは聞いておりません。
  204. 大森玉木

    ○大森委員 先ほどお尋ねしたときに、証人は故意でないと言つてつたが、なるほどそうかもしれない。しかしながらその人たちの思想はどうですか。思想問題に対してはよく調べられておりますか。思想が違つておりますと、あるいは三鷹事件のようにひとりでに電車を走らせて、そのために何十人も殺したというようなこともある。それは百人でも、二百人でも——国を破壊しようという人たちなのであります。こういう人たちのやることならば、これは決して事故とは言えない。これはやはり故意ということになる。だからその思想問題に対してよく調べておられるかどうか。この点をお聞きしたい。
  205. 高橋一夫

    ○高橋証人 故意にそういうようなところから来ておるのではないかということを、ことさらに掘り下げて調べてはいないわけであります。しかしあの運転手あるいは車掌に私どもが接した感じから見ますと、そういうことはないのじやないかというふうに感じておるわけです。なおこれは調査が不十分かもわかりませんが、そういうふうに自分は感じます。
  206. 中川俊思

    ○中川委員 証人に一点だけお尋ねします。大森委員から先ほどさんざ質問されていることなんですが、これに対してそういうことはないだろうと思うということであり、われわれも不可抗力であつたと思うのですが、しかしあなたは捜査責任者として、そこまで調べようという考えは今までなかつたのですか。たとえば不隠分子の計画的行動でなかつたかというようなことを調べてみようという気持は今日までなかつたのですか。
  207. 高橋一夫

    ○高橋証人 ただいまのお問いでありますが、工手が誤つて架線を切つたということが明瞭でありますので、従つて工手と一緒になつてそういうことをやつたとはどうしても私は考えられません。
  208. 柳澤義男

    ○柳澤委員 先ほど四十八時間の捜査の持ち時間ということですが、それは刑事訴訟法の定むるところですが、その後検事の指揮によつて警察の方でも捜査を続けましたか。それとも検事の方へ全部移管してしまつたのですか。
  209. 高橋一夫

    ○高橋証人 検事の方に移しました。
  210. 柳澤義男

    ○柳澤委員 身柄も全部。
  211. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうです。
  212. 柳澤義男

    ○柳澤委員 警察は四十八時間以上は何も関係していなかつたのですか。捜査を継続していなかつたのですか。
  213. 高橋一夫

    ○高橋証人 やつております。
  214. 柳澤義男

    ○柳澤委員 やはり身柄は警察に置いて調べたのですか。
  215. 高橋一夫

    ○高橋証人 最初の二日だと思います。
  216. 柳澤義男

    ○柳澤委員 最初の二日で、あとはどこで……。
  217. 高橋一夫

    ○高橋証人 刑務所で。
  218. 柳澤義男

    ○柳澤委員 全部ですか。
  219. 高橋一夫

    ○高橋証人 はあ。
  220. 柳澤義男

    ○柳澤委員 普通の場合ですと捜査の継続している間はたいてい身柄を手元へ置くでしよう。
  221. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうでございます。
  222. 柳澤義男

    ○柳澤委員 この場合はそうしなかつたのですか。
  223. 高橋一夫

    ○高橋証人 事件が非常に大きい、重大であるというので、検事の方が主として取調べをすることになつたので……。
  224. 柳澤義男

    ○柳澤委員 検事が主として調べるとしても、警察勾留しなかつたのですか。
  225. 高橋一夫

    ○高橋証人 しないのです。
  226. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そこに私は不可解なところがあると思うのです。拘束したのは一体何名くらいですか。
  227. 高橋一夫

    ○高橋証人 自分の方で拘束したのは六名です。
  228. 柳澤義男

    ○柳澤委員 だれとだれですか。
  229. 高橋一夫

    ○高橋証人 中村運転士、大矢市掌、電車の実際の現場にいたのです。工手二名、工手長、それから信号手
  230. 柳澤義男

    ○柳澤委員 中沢ですか。
  231. 高橋一夫

    ○高橋証人 ええ。
  232. 柳澤義男

    ○柳澤委員 それから高原信号手
  233. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうです。
  234. 柳澤義男

    ○柳澤委員 寺山は調べませんでしたか。
  235. 高橋一夫

    ○高橋証人 調べました。
  236. 柳澤義男

    ○柳澤委員 拘束はしなかつたですか。
  237. 高橋一夫

    ○高橋証人 しませんでした。
  238. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そうすると警察で調べたときも中沢と高原はずいぶん食い違いがありましたか。
  239. 高橋一夫

    ○高橋証人 ありました。
  240. 柳澤義男

    ○柳澤委員 あなたの記憶ではどんなふうに違つておりましたか。
  241. 高橋一夫

    ○高橋証人 具体的に申し上げますが、工手長はこういう言葉です。やつてしまつたから上り線電車を入れるなということを向うに告げた。向うでは、高原の方では、架線が切れたとも何とも言わない、じや下り到着はいいのか、下りはいいのだということを言われた。こう言つております。
  242. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そこでもう一つ大きな問題として、やつてしまつたあとです。事故があつたあと中沢は、あれほど上り線へ入れては困るというのにどうして入れたかということを詰問したというようなことを言つていませんか。
  243. 高橋一夫

    ○高橋証人 調書を見れば出ております。
  244. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そうするとそれに対して中沢の調書には、知らなかつたことにしてくれ、頼む、ということを高原から言われたというような記載がありましたか。
  245. 高橋一夫

    ○高橋証人 それはどつちにもあります。
  246. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そうするともう一つ聞きたいが、高原の方には中沢が来て、君らにも責任がかかるかもしれないから、電車が入つて来て同時に、つまり電車架線を切つたというように言つておいてくれという頼みを受けたようなことを陳述してなかつたのですか。
  247. 高橋一夫

    ○高橋証人 言つております。
  248. 柳澤義男

    ○柳澤委員 そうすると三人の非常に重大な責任者はまつたく相反するような、責任のなすり合いというか、たとえば中沢の調書をそのままに受け入れれば、高原信号手に重大な過失責任がある、故意とは言わないが重過失責任がありますね。また高原の調書によるならば、中沢に重大な責任がある、重過失責任があるという供述になるでしよう
  249. 高橋一夫

    ○高橋証人 はあ。
  250. 柳澤義男

    ○柳澤委員 なぜといえば、高原の方から言わせれば、もう少し具体的な注意があれば完全に防止ができた。また一方から行けば、それだけ言つておけば信号さえかえてくれれば事故発生しなかつた、こういう結論にとれるわけでしよう。
  251. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうです。
  252. 柳澤義男

    ○柳澤委員 こういうような大きな食違いがあるのに、身柄をどこに置いて調べたのですか。それを聞きたいのです。
  253. 高橋一夫

    ○高橋証人 自分の持時間の間は伊勢佐木の警察署です。
  254. 柳澤義男

    ○柳澤委員 あなたの持時間の間にこの食い違いは解けないでしよう。
  255. 高橋一夫

    ○高橋証人 解けないのです。
  256. 柳澤義男

    ○柳澤委員 これは最後まで何日拘束しました、検事の指揮によつて
  257. 高橋一夫

    ○高橋証人 これは四十八時間置きまして、刑務所に送りました。
  258. 柳澤義男

    ○柳澤委員 それからあと判事の勾留状によつて勾留したのでしよう——どのくらいの日数を置きました。
  259. 高橋一夫

    ○高橋証人 これは検事の方でやつておりますから……。
  260. 柳澤義男

    ○柳澤委員 捜査課長がそんなことを知らないというのは——こんな重大な事件なんだから、大体のところだつてわかりそうなものですが——ではもう一つつけ加えて別の方面からお聞きしますが、かりに今行われておる選挙違反の検挙でも、村会議員の選挙で百円か二百円御馳走したとかしないとかいうのも、今日まだ選挙直後から勾留されている者がたくさんある。おそらくあなたの管内にも入つておりはしないかと思う。みんな警察に置いて、刑務所に送つていない。刑務所に送れば面会も比較的自由に面会の規則によつてやられる。警察に置いておいたら絶対に面会させないというようなことで厳重な捜査を続けておる。つまらない、とるに足らない戸別訪問があつたとかなかつたとかいうことでさへ、これほどにまでしてやつておる。しかるにこういう重大な事件に対して身柄を全部刑務所に送つて、面会もおそらく禁止していないに違いない。そういうような捜査の方法は、通常の観念からいつて、あまりにも甘い考え方ではないかと思うのです。それで捜査に当つた責任者であるあなたの考え方を聞いておるのです。
  261. 高橋一夫

    ○高橋証人 今の二人の問題ですが、これはくどいようですが、私の……。
  262. 柳澤義男

    ○柳澤委員 あまりに食い違いが大きいのに簡単に片づけておる。
  263. 高橋一夫

    ○高橋証人 ただいま甘いという言葉でございましたが、それは考えようですが、私の方はむしろ重大だからこそ検事の方で直接調べてやろうということであつたので、検事に引継いで……。
  264. 柳澤義男

    ○柳澤委員 あなたは刑事訴訟法を知つておるでしよう。捜査権はだれにあるのですか。
  265. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうでありますけれども……。
  266. 柳澤義男

    ○柳澤委員 警察捜査権はあるのでしよう。
  267. 高橋一夫

    ○高橋証人 捜査の主体はこちらにあるのです。
  268. 柳澤義男

    ○柳澤委員 元の刑事訴訟法ならわかつておるのです。捜査権は当然検事にあるのではなく、警察にあるのです、検事がこれを指揮しておるけれども。ほかの犯罪についてこれだけの食い違いがあつたとしてごらんなさい。警察は絶対に身柄は放さない。警察に置いておつて絶対に面会させない。しかるに犯罪ありとして——犯罪があるかどうかはわからないが、拘束をしておつて、これだけ大きな食い違いがあつて、どつちに責任があるかわからないような、あるいはまるででたらめかしれないような供述の食い違いがあつて、それに対して警察は事重大だから検事にやつてしまつたというのは、ほかの犯罪の捜査方法と比べて私はふしぎにたえない。それをもう一ぺん、あなたの方はどういう方針によつて捜査しておつたのかお聞きしたい。
  269. 高橋一夫

    ○高橋証人 さつきも申し上げたのですが、検察庁でも特捜班を置きまして、この事件についてやつてつた。でありますから、わしの方に身柄を送れば、検事の方でそれをつくといつた建前でそういう捜査をしたのでありまして、こちらで身を入れないという意味でやつたのではないのであります。
  270. 柳澤義男

    ○柳澤委員 しかし普通の場合の捜査と非常に違つていますね。私の聞きたいのは、この国会でこれを取上げていることが、何も一、二の人の過失がどの程度であるとか、刑事責任がどうであるとかということを中心にしてこれを追究しようというのではないのです。少くとも捜査に当るあなた方までもが、このいわゆる公共危険の最も伴うところの輸送の重大性に対して、単なる過失であるということだけで、ほんとうに大切なる任務であるということよりも、簡単な考え方を持つておるのではないか。一つの選挙違反の調べよりもまだまだうかつ考えを持つておるのではないか。そういうことであるならば、おそらくこれは将来とも国民が身をまかせて輸送をゆだねるということは、これは一般的な感じが低過ぎることから、この事件発生しても、多分あやまちであつたというだけの単なる鈍い感覚で——ことにさつき検事言葉のはしの問題であると言つておられる。言葉のはしの問題というような鈍い感覚でもつてつてつたのでは、将来ともこの危険性は除去されない。それで私は検事にこれを聞くことは知つておるが、時間も非常に迫つてつたし、あなたの方に捜査権がある。現実に捜査の主体が警察にあることは、現在の刑事訴訟法にはつきりしておる。そこでほかの事件に比較してあまりに捜査が緩慢である、検事の指揮権に名前をかりて、捜査の主体にあるところのあなたの方の捜査の仕方が、単なる過失であつた、乗つていた人は気の毒だということくらいに思つて、重大なことだという認識が非常に薄いように思われるからお聞きする。少くともここでお聞きすることは、単なる過失とか刑事責任の問題ではなく、またこれを重くしてくれ、軽くしてくれということの問題でもない。こういうことに対して捜査当局も、またこの委員会を通じて全国民が、ほんとうに公共危険の重大性を認識して輸送の任務のゆるがせにできないということを反省したいのです。これに対するいろいろな組織及び人的訓練その他一切について、お互いに手を携えて、将来の危険を防ぐということが何よりも大きな問題である。この点について少くとも捜査当局までも麻痺してしまつておるような態度では、はなはだもつてよくない。こういう観点から、私はあなたに対して今お聞きしたのです。捜査の主体性があなたの方にあるということならば、まことにどうも緩慢な仕方である。ほかの事件に比較して非常に緩慢であつたということをお認めになりますか。しかもたつた六人しか調べておらない。おそらく普通の事件つたら、もつと多数の人を調べる。故意に強盗したとか窃盗したとかいう問題ならば、おそらくあなたの方はもつと大きく考えるでしよう。ところがただ過失であつたというような考え方でもつて、公共の大きな危険が含まれておる事件を調べておる。一秒の注意をすれば未然に防げる事件である。こういう重大なものに対しては、もつともつと大きな注意が必要なんだという’感覚というものがないのではないか。今申し上げるように、この事件に対してもただ三面記事をにぎわすような事件というような感覚で捜査に当られたから、そういうような捜査の主体性にあるあなたの方の調べ方であつた。こういうことをお認めになりませんですか。
  271. 高橋一夫

    ○高橋証人 今たつた六人と申されましたが、それは被疑者を六人ということですか。
  272. 柳澤義男

    ○柳澤委員 おそらく参考、被疑はたくさんあるはずです。またここに手を振つたとかなんとかいう者もあればいろいろあるんだ。それから駅長、助役に至るまで、これらはすぐ近所の構内にいるのです。この人たちは、ただああ入つて来たとぼやつとしているが、もう入つて来たときは見送るときと同じような緊張した態度でもつて、駅長といえども見なければならない。そういう点にだれ一人として十分な注意をしておらない。ことに電車においては、一秒の差で人命の何百を失うかわからないような結果を招来する。それに対してすべての人の感覚が鈍い。そういうようにあげて行つたならば、その近所にいた駅長も助役も全部調べてしかるべきだと思いますが、全部調べておりますか。
  273. 高橋一夫

    ○高橋証人 駅を除いて参考人は四十五、六名調べております。
  274. 柳澤義男

    ○柳澤委員 その中に拘束に値する著は一人もないのですか。
  275. 高橋一夫

    ○高橋証人 それは検事と相談しております。たとえば例の寺山信号手とか、それから副工手長と一緒にいた二名も捜査すべきであるということは検事と相談しております。
  276. 柳澤義男

    ○柳澤委員 寺山なんというのは一諸に行動しておつたということですね。
  277. 高橋一夫

    ○高橋証人 そうです。
  278. 柳澤義男

    ○柳澤委員 またこの事件をうやむやに葬り去るために、中沢から申入れがあつたという話です。そういう点にともかく捜査としては非常に緩慢であつたということは言えますでしようね。
  279. 高橋一夫

    ○高橋証人 私どもはほかの事件に比べて重大でありますから、一生懸命やつたつもりでありますが、緩慢であつたと認められればやむを得ません。
  280. 柳澤義男

    ○柳澤委員 しかしながらこういつた重大な問題に対しては、捜査当局もほかの問題と違うように捜査の主体性を遺憾なく発揮していただきたいと思います。その点はおそらく同感じやないかと思います。
  281. 田渕光一

    ○田渕委員 先ほど証人は、事故が起つた後の事後の措置に捜査の主眼点を置かれたということですが、事故が起る事前の捜査になぜ主眼を置かれなかつたのでありますか。先ほどあなたはあるいは言い漏らしなすつたかもしれませんが、どういうぐあいにして措置をとつたかという委員長の御質問に対して、主として事後の措置をどうするか、たとえば車掌ドアをあけるとか、火を消すということに主眼点を置かれて捜査して、どうして事故が起つたかという点に主眼点を置いて捜査をやられていない。そこでひいては先ほどの大森委員あるいは柳沢委員が言われた線まで行くのです。なぜそういう点をからつぽにしてしまつて、ただ運転士車掌をひつぱつて来て、四十八時間事後の措置に主眼を置いたかという点を伺いたい。
  282. 高橋一夫

    ○高橋証人 それは言い足りなかつたのであります。あそこへ入つておるというのは当然だというように今のお話では聞えますが、架線が切れたということは、高島駅の近所から注意さえしておれば見えるわけであります。しかも運転士は渡り線の近所へ来まして、同乗の金子という検車掛と大丈夫だという話をしておるということです。ですから注意しておれば、急に垂れ下つて来るわけじやなく、相当に垂れ下つておるのですからわかります。そういう点で、ただ単に運転士の事後措置が悪かつたから火を発したというのではなく、注意さえすれば運転士は見える状態でありました。
  283. 田渕光一

    ○田渕委員 すでに中沢証人高原証人の食い違いがあるのですが、そのときに少くともあなたの言われる、事前に工手長の方にほんとうに正義感というか、注意力が完璧であつたというのであれば、あれだけ言つたのになぜやらなかつたかと、人間の感情の発露として、あと高原に相当きつく言わなければならぬ。二人の調書を見れば、どつちもたらんくらんとしておる。そういうことをなぜ四十八時間以内に調べなかつたか。ほんとうにとめる精神から言うておるならば、なぜ貴様やらなかつたか、それでこんなことになつた、こう行かなければならぬ。おまけに頼むぞ、消そうじやないかというように、彼らの間であなた方の捜査する前に証拠隠滅の相談をしておる。最も大事な工手長工手長使つてつた部下に、もしほんとうに正義感があつたらこのようなことはない。ただ事後のことばかりに主眼を置いて、そういう点に捜査の主眼点がなかつたじやないかと思います。どうも中沢あるいは高原に対して捜査当局がなぜ対決をやらせなかつたか、そこでやらしてみればわかつたかもしれない。私ほ芝居じやできないと思う。こんな点自警という観念から捜査が鈍つたのじやないかということも考えられるのですが、そうじやなかつたですか。これはあるいは私の想像かもしれませんが、こういう点もひとつ率直にお伺いしたいのです。
  284. 高橋一夫

    ○高橋証人 今自警ということで捜査が鈍つたのじやないかというお話ですが、決してそうではありません。捜査が鈍いとすれば、私の捜査技術が鈍いのだろうと思います。横浜市警全体が捜査技術が鈍いのだと私は考えておりません。それから今の対決の問題であります。これも捜査の技術の問題になりますが、お互いにぶち合わしてしまうということは、最後に私どもつておることでありまして、裁判に行けば対決になるわけでありますが、捜査の方では対決ということは容易にやらないようにしておるわけであります。
  285. 田渕光一

    ○田渕委員 私は自警、国警の軽重のことを言うのではありませんけれども、新刑事訴訟法になつて警察当局あるいは捜査当局が非常に緩慢でしようがない。感度が鈍い。もとの警察のようではありません。一例を申せば、よほど民間人の方が捜査当局、警察当局より能力を持つている。ということは、自分のなくした物を取返さなければならないために、これはひとつの物欲のためばかりではないが、非常に関心を持つておる。全般を通じて、自警国警を問わず、今日の警察というものの士気は新刑事訴訟法になつてから何しているのじやないか。黙否権を行使さすとか、あるいは勾留期間が短かいということからだれているのじやないかと思いますが、そういうような点に対して、あなたがこの事件を通じて知つた警察機能の欠点というようなことがあればおつしやつていただきたい。この際そういうような点も国会において見出してみたいと思うのです。
  286. 大森玉木

    ○大森委員 先ほどの私の質問に対して、故意であつたとか故意でなかつたとかいう問題ははつきりいたさないが、しかし起つた後におけるところの処置、火が起つた、火が起つた乗客を出すことができなかつたということは、要するに機械的に自動的に動くドアであるがゆえに、電気がきかなくなつて出すことができなかつた。そうして窓が嚴重であつた、こういうことであるが、少くも観覧場へ参りましても、やはり非常口というものがある。こういうものを一つの機械のみにたよつておるがゆえにかくの、ごとき過失を起した、こう私は考えている。今後ともそうした問題が起きた場合には、電気の作用によつて動くドアであるがゆえに、電気から発火するとまたまたその通りを繰返すことになる。であるから、今後これは大きな問題として、すべての出入口を改革するよう国会から要求せねばならぬ。しかしながら、そうした窓口だけにして置いたという責任は、今日になつてみると私は当局にもあるではないかと考えるが、その点をあなたはどう考えるか。もう一ぺん言い返してみると、そうした電気の作用によつて動くドアだけであつて、そのために動くこともどうもできなかつた。それに非常口があれば逃げられたのであつて、簡単に人力であく、われわれの力であくものがあればできるのであつたが、これがなかつたためにそうなつた。窓口というものが二重、三重になつてつて出られなかつた。もしもドアの右とか左とかどつちかが違うようなぐあいになつておるならば出れた、そういうふうに考えるが、捜査をあずかるあなたとしてはどういうふうに考えられるかということをちよつとお伺いいたします。
  287. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつと証人に注意しますが、田渕委員質問と大森委員質問は大分意味が違いますから、別々に答弁してください。
  288. 高橋一夫

    ○高橋証人 先ほどの新刑事訴訟法の問題でありますが、当初非常に拘束時間がないので困つたというふうに考えておりましたが、実際やつてみますと、前のようなやり方よりも、お互いがほんとうに法律を守るならばよいと私は考えております。しかし、これは守らないものと守るものがあつたならば困りますけれども、みんながきめた法律をみんな守るということであるならば、やはり現在の刑事訴訟法でもよいじやないかというふうに自分としては感じております。  それからただいまのあれですが、それはやはり事故があつた場合に、簡単にあく窓があればあつた方が私どももよいと思います。
  289. 篠田弘作

    篠田委員長 Dコツクというものがあるでしよう。あるけれどもそれを引くことを忘れた……。
  290. 高橋一夫

    ○高橋証人 ただいまのはドアではなくて窓の問題ではありませんか。ドア、あれは自動でできることになつております。
  291. 大森玉木

    ○大森委員 中のものはあけられないのだね。
  292. 高橋一夫

    ○高橋証人 みんなあくんです。
  293. 篠田弘作

    篠田委員長 他に御質問がなければ、高橋証人に対する尋問はこれにて終了いたしました。証人には長い間御苦力さまでした。  暫時休憩いたします。     午後一時三十八分休憩      ————◇—————     午後二時五十五分開議
  294. 島田末信

    ○島田委員長代理 休憩前に引続き会議を開きます。   この際お諮りいたしますが、先刻理事会におきまして協議の結果、不正出入国に関する件について二十五日、江川文弥君の証言関係者として椎野悦郎君及び有馬敬君、東京警視庁刑事部長古屋亨君、二十六日、国家地方警察本部長官斎藤昇君、法務府特別審査局長吉河光貞君、出入国管理庁長官鈴木一君、二十八日、海上保安庁長官柳沢米吉君、法務総裁大橋武夫君、以上八名の諸君を証人として喚問したいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  295. 島田末信

    ○島田委員長代理 御異議なければさよう決しました。     —————————————
  296. 島田末信

    ○島田委員長代理 それでは、桜木町国電事故に関する件につき、引続き井出光正君について証言を求めることにいたします。  井出光正さんですね。
  297. 井出光正

    ○井出証人 そうです。
  298. 島田末信

    ○島田委員長代理 あらかじめ文書で御了承願つておきました通り証人として証言を求めることに決定いたしましたので、さよう御承知願います。  ただいまより桜木町国電事故に関する件について証言を求めることになりますので、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務知つた事実であつて、黙祕すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところによりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人井出光正君朗読〕    宣誓書  良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  299. 島田末信

    ○島田委員長代理 宣誓書署名捺印を願います。     〔証人宣誓書署名捺印
  300. 島田末信

    ○島田委員長代理 これより証言を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際は、その都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておりますときはおかけになつていてよろしゆうございますが、お答えの際は御起立を願います。  証人の経歴を簡単に述べてください。
  301. 井出光正

    ○井出証人 昭和三十年東京物理学校理化学科卒業、卒業と同時に株式会社津上製作所に入社、二十四年、横浜市警本部勤務を命ぜられ、現在に至つております。
  302. 島田末信

    ○島田委員長代理 証人の専門は電気ですね。
  303. 井出光正

    ○井出証人 そうです。
  304. 島田末信

    ○島田委員長代理 鑑識実務に従事した期間はどれくらいですか。
  305. 井出光正

    ○井出証人 三年になります。
  306. 島田末信

    ○島田委員長代理 桜木町国電事故原因については、調査したことがありますか。
  307. 井出光正

    ○井出証人 あります。
  308. 島田末信

    ○島田委員長代理 それでは、その調査鑑定した大要をひとつ述べてください。
  309. 井出光正

    ○井出証人 まず四号鉄柱ワイヤー・クリツプをはずそうとしていた、そのときに碍子を固定しております鉄塔から出た腕があります。ビームと申しておりますが、それはあそこの一番上の図に詳しく書いてありますが、横浜側のワイヤー・クリツプをはずそうとしていたときに、上にありますアングルのビームにスパナが接触した。そこで回路の異常電流によりまして、上につつております吊架線、一名メツセンジヤーワイヤーと申しますが、それがそこで両断しました。従つて両断しますと、あれに加わる張力が、あそこの現況で八百キロ近くかかつておりますから、その張力によつて、四号鉄柱を中心にしまして、横浜側それから桜木町側に非常に吊架線並びに電車線がたるんだということになります。それからたるみましたたるみが、先日も実地検証をやつて大体資料はまとまつておりますが、切れたのは、上り線側で切れておりますが、下りから電車が入つて来ましたときに、渡り線から今度は上り線路に切りかえになりますが、そのときに切れたたるみが、四号で切れましたのが、七号、八号間のところで約三十センチぐらい電車線が下にたれさがつておる。そこで下り線から入つて来た電車のパンタグラフが、吊架線と下の電車線の間に入つて、九本のハンガーをとつております。その九本のハンガーをとつたために、屋根上に電車線が落ちまして、落ちると同時に、ハンガーをとつていたときの機械的の打撃によつて、パンタグラフが破壊していた。破壊ということは機械的にこわれているのですが、電気的に絶縁能力がなくなつた。第三碍子という碍子がありますが、その碍子のところから接地された。接地されて電車はああいつたように燃えたのでありますが、燃えるときに、パンタグラフが機械的に破壊されて車体に接触した。従つて電車の場合、御承知のように、鉄塔の上にプラスが来ておりまして、電車線にプラスが来ておりまして、マイナス側が下の線路になつておりますから、車体のどの部分でも、金属部分にプラス側が接触すれば、間接アースされたことになりますから、接地されたことになりますから、非常に大きな電流が流れる。それが直接の電車の焼失原因であります。  それから鶴見饋電室の電気関係に入ります。それではそういう事故を防止できなかつたかというのですが、それは過去において、あそこの赤く、一番右のあれでおわかりになると思いますが、川崎変電区から来ております電気が、鶴見饋電室というところへ入りましてそれからさらに出て来まして、横浜変電区に入りまして、それから現場に入る。
  310. 塚原俊郎

    ○塚原委員 どうですか。現場に行つて地図でやつてもらつたら……。
  311. 島田末信

    ○島田委員長代理 現場へ行つてつてください。現場といつても、地図の上で……。
  312. 井出光正

    ○井出証人 大分縮尺してありますが、この部分が川崎変電区になります。それからここが鶴見饋電室です。鶴見饋電室の母線に一度入りまして、それから高速度回路遮断器を通しまして横浜変電区の高速度遮断器に入る一歩手前で、デイスコン・スイツチというスイツチがありますが、それを経て桜木町現場の方に行つている。それからまた横浜の変電区から出たのも桜木町方面あるいは鶴見の方面へ供給されておる。大体こういつたシステムにはなつておりますが、この高速度回路遮断器といいますが、これが三十八分に、ここでこのワイヤー・クリツプと、それから先ほど話しましたが、このワイヤー・クリツプの上のビームの間にモンキー・スパナというスパナがありますが、それが接触して切れました。そのときの接地電流によりまして、一時三十八分に横浜のこのサーキツト・ブレーカー、これと、それから鶴見饋電室のこの高速度回路遮断器が約三十八分に同時に働いております。それでこれが切れて、電車が入つて来まして、パンタグラフがごわれて車体にアースしたわけですが、そのときには横浜変電区の高速度回路遮断器が働いておりますが、鶴見が働かなかつたということです。その川崎変電区の働いたのが大体約一時四十四分、ですから前のが約三十八分、それから今度のやつが約四十四分ですから、その間に六分の時間があるのです。それでここから横浜変電区の高速度回路遮断器を、切れたから四十四分にまた入れてみた。けれども入らなかつた、入らないと、何か国鉄電気関係の命令系統がありまして、新橋の司令の方ヘスイツチが入らない、どこか事故じやないかと連絡をしました。そうして向うから——新橋の電力司令の方から入つて来たのが、四十八分に、鶴見饋電室の横浜の方へ行く電気回路を遮断しろ、開放しろという指令があつたので、ここのところで切つたのは四十八分です。四十八分に指令があつてつておりますが、それまでは持続的にずつと横浜の火災の現状の方に約四分——四十四分にこの事故があつて、それから四十八分に新橋から切れという指令があつたといいますから、四分間火災の現場電気が供給されていたんだということが言えるわけです。それでこれが働けば問題はなかつたのですが、従来横浜変電区のちようどここに入つたのですが、この部分に高速度回路遮断器が二十三年ごろまでついていた。その後はずしたのですが、ここにさえ高速度回路遮断器があつたならば、ああいう惨状は呈さなくて済んだんじやないか、電車屋根にアースされた瞬間にこつちの高速度回路遮断器が働きますから、そうすればああいつた惨状を呈さなくて済んだんじやないかということがこの場合言えるわけです。大体それで……。
  313. 島田末信

    ○島田委員長代理 モンキー・スパナが今の線にかかつたということは普通あり得ることですか、大した不注意つたとも言えない事故ですか。
  314. 井出光正

    ○井出証人 大して不注意つたとは私は思われません。というのはモンキー・スパナの長さが約二十五センチありますけれども、二十五センチくらいの間隔の場所ですから……。
  315. 島田末信

    ○島田委員長代理 それで線が切断されると同時にその工夫は下に落ちたのですか。
  316. 井出光正

    ○井出証人 そのモンキー・スパナをビームに接触させた方を、武井という工手だそうですが、それが切れると同時に上のビームの方に上つた。それからもの一人は桜木町側のワイヤー・クリツプをはずしておつたのですが、それが長谷川というのですが、それは火をふき出したというので、下に飛び降りたというのです。これは私その原因を直接突きとめようと思つてお聞きしたのですが、そういうことになつております。
  317. 島田末信

    ○島田委員長代理 それから発火後きわめて火のまわりが早かつたということや、非常に熱度が高くて、通例考える以上に高熱だつたというふうに言われておりますが、それには特殊の原因がありましたか。
  318. 井出光正

    ○井出証人 それは使つております塗料、ニス類であるとか、そういつたものがありますから、それが一度火を発すれば非常に燃えやすいということははつきり言えると思いますが、それではほかの電車にそういうものを使つていないかといいますと、やはり私鉄でもほかの線でも、ニスも塗つておりますし板も使つておりますが、ただそういうところに非常に火のまわりが早かつたということは、先ほどお話しましたように、鶴見饋電室を経て川崎の電気が四分間もの長い間通つていた。それがために陶器類について見れば、非常に高温度でなければ溶けないものが、第三碍子なんかはほとんど影も見られない程度に、こういつた陶器類が全部溶けているというところから推して見ても、非常に高温度であつた、しかも非常に広範囲であつたということが、ある程度フアクターになつておるのではないかとということは言えると思います。
  319. 島田末信

    ○島田委員長代理 それかも火をふいたというように聞いておるのですが、それは火をふいたというのではなく、今のパンタグラフだとかハンガーというものが、車体の屋根に落ちかかつたと同時にそこから火をふいたというのですか。
  320. 井出光正

    ○井出証人 停車寸前に九本のハンガーが、パンタグラフが入つたところからとられておりますが、それが九本とられているところと停車位置とを両方総合して考えてみますと、おそらく九本目をとつてすぐ、停車寸前に接地されたのじやないか。九本のハンガーは機械的に破壊されておりますから……。
  321. 島田末信

    ○島田委員長代理 結局その接続点から発火したわけですね。
  322. 井出光正

    ○井出証人 接続点といいますか、もしあれが完全接触という——機械的にはここにおいて接触しているのですが、電気的に言う場合の完全接触だつたならば、ああいつたところで鉄が熔けるほど温度は上らないわけなんです。ところが機械的にはくつついておりましても、電気的に見ますと非常に不完全接触であるという場合には、ジユールの法則というものがありますが、それで行きますと、そういつた抵抗の非常に多いところに火を発するのだということは理論づけられるわけです。
  323. 島田末信

    ○島田委員長代理 次に事故防止上施設に改善すべきどういう点があるかということについてお尋ねしたいと思いますが、渡り線と上り線との電車線の接続点に施設上改善しなければならぬような御研究はありますか。
  324. 井出光正

    ○井出証人 それは従来はあつたのです。渡り線と上り線電車線がクロスしたところには網のようなものが前は——横浜市電なんかは今ても使つておるようですが、ああいつたものを使つておれば上り線電車線が下りましても、それに並行して渡り線の方もいくらか下つて、結局網状になつておれば傾斜する程度ですから、そうすればあそこには食い込まなかつただろうということははつきり言えると思います。
  325. 島田末信

    ○島田委員長代理 そうすれば今後そういう網状のものをとりつける必要があるというふうにお考えですね。
  326. 井出光正

    ○井出証人 とりつけておけば一番いいじやないかと思います。
  327. 島田末信

    ○島田委員長代理 それから電車の発火と同時に横浜変電所の高速度回路遮断器が働いたが、鶴見饋電室の高速度回路遮断器は働けなかつたというふうに言われておりますが、現在の給電方法に何が改善すべき方法はありますか。
  328. 井出光正

    ○井出証人 それは当然川崎の変電区の方から来る電気を一旦横浜変電区の母線に入れまして、あそこにデイスコント書いてありますが、その下に高速度回路遮断器を入れてあれば、四十四分に横浜変電区のやつが働いたと同時にそれも働いたわけです。理論的に言いますと……。そうすればそういうことはなかつた。、それから川崎変電区の方から桜木町事故現場までの電気抵抗を計算しても、鶴見饋電室の高速度回路遮断器は働かなくとも当然いいことになるわけです。大きな電流が流れても、電気抵抗を計算してみますと、当然働かなくしていいわけです。ということは、反面働かなくてもいいことになるということを予期できるのだたならば、横浜変電区にそれをとりつけておけばいいじやないかということは、はつきり言えるのではないかと私は思います。
  329. 島田末信

    ○島田委員長代理 その点では高速度回路遮断器というものが横浜変電区の方にこれから先とりつけておけば、今度のようなことはないというわけですね。
  330. 井出光正

    ○井出証人 そうです。
  331. 島田末信

    ○島田委員長代理 それからいわゆる六三型電車について何かこれを改善するような御方針がありますか。
  332. 井出光正

    ○井出証人 私それについてとやかく言うあれでもないのですが、しかしああいつたドアの開閉機これは六三型に限りませんが、それが当然あくような装置というものを、だれが知つてつてもいい。簡易にあれを操作できるというようなものがあれば、六三型に限らずして、いいのじやないかと思います。それと、ああいつたこともありますから、窓は大きくして、いただければ、あるいは窓を壊せばそこから少数の人間であれば逃げ出せるというようなことはありますが、塗料とか、可燃性の造宮物が使つてあるということは、これはどこでもそういつたものを使つていると思う。何も国鉄に限らず、私鉄でも実際そういうものは使つておるのですから、それに対しては言えない。最近出ております不燃性の珪藻塗料、ああいつたような不燃性のものを使つていただければなおけつこうじやないかとは思います。
  333. 島田末信

    ○島田委員長代理 それでは委員の方から御質問があれば……。
  334. 大泉寛三

    ○大泉委員 この事件の真相を把握するには、証人の立場がきわめて大切な任務であると思いますからちよつとお伺いします。機械の進歩発達が交通機関に改善を與え、この利益は能率的にはきわめて大きいものであるが、反面電車等の車体の機械装置が相当に進歩されているにかかわらず、その全部の機能を発揮する任務に当る者が、特に電車等を運転する者が、その職務的というか、職責的というか、そうした方面の進歩していないのが、こうした大きな悲劇、大事件を起した原因であろうと思うのです。電車の運転に関連しているすべての総合的な機械とともに、人物的な配置が適当であつたかどうか、あなたの技術的立場から見て、技術的な活動に人物的の配置が欠陷を生じていたのじやないか、これを認めていられるかどうか。
  335. 井出光正

    ○井出証人 事故が、機械が進歩して、人が進歩していないというか、そういつたものの総合であると言われるのですが、またそれとも十分納得の行くお話ですが、それと運転手にしても、車掌にしても、その処置が——私も学生時代に電気鉄道という学問が一分科にありまして、二年ほどやりましたが、私でも座席の下にもコツクがある、車外に出ればコツクがあるということは知つております。六三型にしてみましても、最大収容人員といいますか、約五百名も乗せられる、そうしますと五輪連結で満員電車としてみますと、二千五百人ばかり飛つているわけですが、それだけ大勢の生命を預つている運転手にしても車掌にしても、ああいつた安全装置があるにかかわらず、その操作ができなかつた、それはもう運転手自体にしても、そのコツクのそばを通つているにかかわらずそれがあけられなかつたというようなところからみても、もう少し国鉄としても、運転手あるいは車掌、あるいは線路関係の工手にしても、もう少し高い技術的な安全運転といいますか、そういつた方面に力を注いでやつたならば、おそらく一名Dコツクといいますが、Dコツクくらいはあけられたのじやないか、もう少し機械的の素養があつてもしかるべきじやないかということは、今度の事件につきましてはつきり言えると思います。
  336. 大泉寛三

    ○大泉委員 機械を発明する者はみな頭がいいのですが、それを操作しようという者は相当の訓練あるいは修練というものが必要なので、使う者がどうも訓練も足りなかつた、あるいはそうした総合的な立場においてやる有機的な活動に対しては特に訓練が足りなかつた、こう思われます。そこで人物の配置ということは総体的に見てどうしても必要だと思うので、技術的方面から見て人物の配置に対して欠陷があつたかどうかという点を、証人はどう思われるのですか。
  337. 井出光正

    ○井出証人 それは非常に主観的の問題ですから、私それに対してとやかく言うことはないのですが、運転心得というものに当然あけるように載つてつて、そういうときにあけなくてはならぬということがあつて、それをあけなかつたということになると、非常に片手落であつたということは言えるのですが、従来Dコツクというようなコツクがありながら、そういうものをあける操作に対して教育されていないというようなことからしてみれば、今度のこの事件はあの運転手にしても車掌にしても、あの程度処置しかできなかつたのではないかと思います。
  338. 大泉寛三

    ○大泉委員 きのう証人としてここに来た信号手がいろいろ答弁されたけれども、どうもああした人物が責任の一班を負つておられるとなると、全体的な立場から見て、ああした惨事が起る、こういうふうに私は思うので、特に人物の配置を聞いてみたのです。それならば各部分的な責任者たちの怠慢上から来た設備の欠陷というものはあつたのですか。
  339. 井出光正

    ○井出証人 設備上の欠陷というものは、ああいつた事故がありましてから、座席の下にある三万コツクを張紙でもつて指示している。これをこういうふうにあければあくからといつたようなことがありますが、ああいつたことはもつと前に当然やつておかなくてはならないのじやないか、実はこれはちよつと余談になりますが、私この事件で、燃えておるうちに行きまして、現場で会いました警察官あるいは検事にしても、あれをあければドアをちよつと手で押せばあくのだということすら、一般の人が今まで知らなかつたと言うのです。それを知らなかつたのかと、私自体そこへ行きまして実に驚いたのですが、そうですが、そういうことができるのですかというような状態にあつた。ああいうようなことは前々から乗客にここをあければあくのだというような知識は與えておいて、よかつた。それが何かいたずらするからというようなことであるならば、消極的の立場でなくて、もつと積極的にそれがあかないように、小さい子供にはいたずらできないように上へ上げるとか、あるいは火災報知機のようにガラスをつけて、ガラスを欠かなければあかないというふうに、もつと前からやつておいてしかるべきじやないか。当然ああいうことも従来予期し得なかつたことではないのです。私も市警本部の鑑識に勤めておりますが、二十四年のちようど今ごろだと思いましたけれども、湘南電車という品川から浦賀に通つておる電車がありますが、あれがやはり火災で私現場べ行つて調査したことがあります。そういうところから推しても、ままあるいつたことはあるので、そのときも、あまり記憶がはつきりしないのですが、多分二十人くらいの負傷者が出て、二名だか重傷者がいたというので、私タツチしてやつたことがあるのですが、ああいつた火災とか電気的な欠陥というのは、ああいうふうに頻繁に起しておるものですから、あり得ることなんです。あり得ることなんだから、ドアにしても、事前にあけられるように何らかの方法をとつて、指示あるい設備を設けておけば、あれほどの惨状はなかつたんじやないかと思います。
  340. 島田末信

    ○島田委員長代理 ちよつと関連するからお尋ねしますが、電気事故でそういう火災を起した場合に、電流を絶縁する方法というのは何々あるのですか。
  341. 井出光正

    ○井出証人 電車内ですか。
  342. 島田末信

    ○島田委員長代理 電車内だろうが、変電所だろうが……。
  343. 井出光正

    ○井出証人 その場合には先ほどお話をいたしました変電機に高速度回路遮断機というものがあれば、それが働いてくれるわけです。
  344. 島田末信

    ○島田委員長代理 それから運転手とか車掌が応急の処置として絶縁するような方法はないですか。
  345. 井出光正

    ○井出証人 パンタグラフをすぐ下げろということは指示されているようです。
  346. 島田末信

    ○島田委員長代理 パンタグラフを下げて絶縁すると、火災は一応とまるというわけですね。通常の場合。
  347. 井出光正

    ○井出証人 今度の場合のようにパンタグラフが破壊されていなければですね。
  348. 島田末信

    ○島田委員長代理 破壊されていたから効を奏さなかつたというわけですね。
  349. 井出光正

    ○井出証人 そういうわけです。ですから一般の場合に、上に正規の電車線の張り方がしてあれば、パンタグラフさえ下げれば、一応正気的の関係というものはないわけです。絶縁できるわけです。
  350. 島田末信

    ○島田委員長代理 すると今度の場合は、いかなる方法をもつてしても、運転士車掌あるいは車体の近くにおつた者が電流を絶縁するという方法は、まず見つからなかつたわけですね。やつてみても効を奏さなかつわけですね。
  351. 井出光正

    ○井出証人 電気的にはそういうことが言えます。
  352. 島田末信

    ○島田委員長代理 何かそれに対して、今後パンタグラフが故障を起した場合、そういう場合でも、変電所や何か待たずに、運転士車掌が絶縁するというような方法は考えられますが、装置の上で。
  353. 井出光正

    ○井出証人 しかしあの電車の車体の下というのは、電気配線が非常に混雑しておりますから、どこにどういう事故があるかわからないので、パンタグラフがああいつた状態になつても、それを電気的に絶縁しろということになると、一番いいのは金属類を屋根や——アングルと申しまして、アングルが全部曲つてつておりますが、それを使わなければ一番いいことになるのですが、しかしそれは不可能じやないかと思いますから、結局電車でそういつた事故の場合に変電区の方で自働的に非常に大きなオーバー・ロードのかかつた場合には働いてくれるというようなものがなければ、おそらくだめじやないかと思います。
  354. 島田末信

    ○島田委員長代理 車体の改造の上ではそういつたことは考えてみてもあまり実用向きじやないというわけですね。
  355. 井出光正

    ○井出証人 おそらく不可能に近いんじやないかと私は思います。
  356. 島田末信

    ○島田委員長代理 ほかに御質問ありませんが。——別に御質問がないようですから、それでは証人に対する尋問はこれをもつて終ります。証人には御苦労様でした。     〔島田委員長代理退席、内藤(隆)委   員長代理着席〕
  357. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 次に平田善夫君より引続き証言を求めることにいたします。  平田善夫さんですね。あらかじめ御承知おき願つておきました通り証人として証言を求めることに決定いたしましたので、さよう御了承願います。ただいまより桜木町国電事故に関する件につきまして、証言を求めることになりますが、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務知つた事実であつて、黙祕すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところによりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人平田善夫君朗読〕    宣誓書  良心に従つて、直実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  358. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 宣誓書署名捺印を願います。     〔証人宣誓書署名捺印
  359. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 これより証言を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また発言の際には、その都度委員長の許可を得てなされるよう願います。こちらから質問した場合にはすわつておいでになつてようございますが、お答えのときは立つてお答えを願います。  平田証人の簡単な経歴をお聞かせください。
  360. 平田善夫

    ○平田証人 長崎県南松浦郡五島福江町四六七番地に生れ、長崎市勝山尋常高等小学校卒業、大正十二年震災後十六才のとき鶴見へ参つたのです。それから昭和七年以後現在の六角橋に住居しております。
  361. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 御職業は何ですか。
  362. 平田善夫

    ○平田証人 職業は駄菓子商をやつております。
  363. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 あなたは、この桜木町の大惨事の際、第一輌目に奥さんとともに乗つておられたのですか。
  364. 平田善夫

    ○平田証人 そうです。
  365. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 それでは遭難当時の事情を述べてください。
  366. 平田善夫

    ○平田証人 私はそのときは家内とともに日暮里駅からその車に乗り合せました。ちようどそのときは時間が時間だつたもので、楽に席にすわることができました。第一輌目の左側の最後部の窓側にすわつて横浜駅までずつと進行して来ました。横浜駅へ来る間には、相当満員に近いほどの乗客が乗つておりましたが、それが大半横浜で降りまして、桜木町へ行く間には見通しのつくような状態で、いすはほとんどあいてないが、つり革につかまつている客があつちこらち十四、五名くらいだつたと私は思います。それでちようど桜木町間近にかかつて来て家内に、もうホームが近いからおりるしたくをしようと言つているそのさ中に、どつと急ブレーキがかかりまして、私がすわつているその態勢がぐらぐらと前によろめいた。それが直るか直らないうちに、ものすごい音とともに、運転台の屋根からさあつとものすごい火をはいた。その火が溶鉱炉をこぼすようなものすごい音とともに、その火はぱつと下に散つて来て、あつと思つたその瞬間にその火の出たまわりにいた乗客の人は、あつ危いというものすごい声もろともに、私が一輌目の一番最後部にいるものですから、私のすわつた方はまだ運転台から遠く離れておりましたので、火が来ない私の方に殺到して来ます。それであつ、これはたいへんだと思つて、私はいきなり六三型の窓の一番下の窓をさつとあけて、手と首をその窓からつき出して、どこへ出ようかと思つたそのときには、すでにもう私のからだは身動きができないのです。からだを前に出したきりでうしろから来る怒濤のような人に上半身はくぎづけにされて絶対に動かない。もがけどもがけど出ようと思つても、上半身が動かないのです。そのうちに、時間にしたら二分くらいたつているのではないかと思いますが、火はびーびーびーという音を立てて天井から燃え移つて来るのがわかりました。窓からはすーつすーつとなま暖かいけむが流れて来まして私は窓から首を出しながら、もうおれもここでやられるのかな、これは死んじやうのかなと思いました。だけど、ここで死んじやだめだ、よしつと、自分で、自分の心を励まし、ぐつとからだを向うべ伸びようとしても、窓が小さいものですから、私のからだが入つたきりどうしても余裕がとれない。それに押されているし、どうしてもからだがきかない。もがいているうちに、私の上半身が幾らか楽になりましてぐつと伸びた。伸びたところが、ちよう一輌目と二輌目の連結の間からからだが出ておりますから、こうやりましても向うに手がかりがない。自分の手がかりがないものですから力が出ない。だからぐつと伸びた瞬間に向うの窓を破つて手がかりをこしらえた。今考えますと、ここにできている傷はガラスで切つたのではないかと思いますが、ガラスを破つて手がかりをこしらえてぐつと伸びましたけれども、それでもからだは向うへ出て行かない。そのときはもう背は熱くなつて来ている。火はどんどん来ておりますし、もがいているうちに、ちようど三輌目のところへ二十五、六歳くらいの男の方が通り会わしたので、助けてくれとその人をぼくは呼びとめた。呼びとめまして、その人が私のところへ来て、そのガラスの割りかけを全部割つてくれた。そうしてその人は片手でもつて、ぐつとひつぱつて、二輌目へ移してくれた。その瞬間私はぱつと二両目へ飛び込んだ。飛び込んだときには私を救うてくれた人の姿は見えなかつた。それではつとうちの家内はとその出た瞬間に思つた。思つてあとを振り返つて、その車の中を見たときに、すでに頭を抱え、手を伸ばし、折り重なつてつたりと死んでおる方がぼくの目に映りました。それでちようど左側を見て、うちの家内はと見た。ちようどうちの家内が右側の窓より両足を出して、今出ようとしておるところ、だらんと足だけが窓からたれておりました。あつと思つて、すぐそのそばへ行つて、私はその足をひつぱつた。ひつぱつたけれどもどうしても——そのときはすでに窒息しておるものですから、ひつぱつても手ごたえがない。よく見ると家内が倒れておる顔の上に二人ぐらい折り重なつておりました。二、三回ひつばつてみましたが、そのときには、この窓があいておるところへ火焔と煙がさつさつと私の顏を沸うのです。こうやつてみてもぱつと来る。私はこうやつて、そのひつぱるだけの力か出なくなつた。そのうちに火はどんどんこつちへ来るものですから。どうせもう死んでおるし、自分に危険が迫つて来ましたから、私は心の中でだめだ、かんべんしてくれよ。私はそれで危険が追つたから、すぐその二輌目から下へ飛びおりました。飛びおりまして外へ出まして、どこへ行つていいか線路上をふらふらしておりますと、そこへ駅員がこのくらいのカンへ油を持つて、やけどをした人はこれつけてくれと言いましたから、私はいきなり手をつつ込んでぴりぴりしておる顔面になすつた。そうしてすぐかたわらに顏と手をやけとしてすわつておる方がありましたから、あなたもつけなさいよ、私はそのカンをその人に與えた。與えておるうちに、私は手に傷があるということを意識しまして、よく見ると出血がはなはだしい。これはと思つて、いきなりポケツトに自分が持つていた新聞紙で包みまして、どこか、と思つてまごまごしておるうちに、また駅員が来まして、けがをしたか。した。じや、と言つて桜木町の救護班の方へ私は連れて行かれました。そうして自動車に乗りましてすぐ病院に行つて治療しまして、そうして家へ行つてこれを知らさなければと思つて家へ帰りました。
  367. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 まことに聞いておりましても、その阿鼻叫喚の光景が非常によくわかりますが、その二十五、六歳の青年というのは、何か駅員であつたですか。
  368. 平田善夫

    ○平田証人 駅員じやないと思います。
  369. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 駅員じやない。それでその駅の者で、燃えておる車輌のそばへ接近して、これを救おうとした者はおりましたか。
  370. 平田善夫

    ○平田証人 私のあれでは、その燃えておる車のそばには、駅員は一人も見当らなかつたと思います。そのときに、家内の足をひつぱつておるそのときに、駅員なりもしくはだれかそこへいたらば、もう一人手を借してくれたら、家内を黒焦げにしなくて、焼かないで出せたんじやないかとぼくは思いますが、そのときに手を借りる人さえ、その一輌目の燃えておるまわりには駅員はただの一人も見受けられなかつた。ぼくのおりたその当時は……。
  371. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 昨日調べました車掌並びに運転士の話では、第一輌目のそこ、あるいは二輌目と三輌目の間、こういうところをまわつて何とかして救おうと努力したというのだが、そういうような形跡はなかつたですか。
  372. 平田善夫

    ○平田証人 ぼくは一番最後に出たと思いますから、ぼくの出たところはぼく一人が出たので、家内が足を出しておるぼくの反対側の窓からは男の方が二人出ました。
  373. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 もちろんだれもいないのだから、外から器物なり石なりをもつてガラスを破壊して出そうというようなこともなかつたわけですね。
  374. 平田善夫

    ○平田証人 全然ありません。
  375. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 あなた自身の肉体で割つたのだから……。
  376. 平田善夫

    ○平田証人 そうです。
  377. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 そうして奥さんを失つたということはまことにお気の毒でありますが、現在かような国電に対しましてどいうような御感想をお持ちになつておりますか。
  378. 平田善夫

    ○平田証人 国鉄にですか。まあそのときのあれに対しまして、今私の国鉄に対する感想は、そのときには火はばつと一時下へ下りましたのですけれども、その火はずつと来たのではなくて、ぱつと来たスパークの火は一旦すつと行つて天井から燃え始めたのです。一旦運転手は外へ出たというふうに聞いておりますけれども、出たときにもう一度自分責任感より、身を飜して自分は死んでも一人でも二人でもドアをあけて、犠牲者を最小限度に食いとめようという精神があつたならば、もう一度出た運転台から入り込んで、そうしてドアーの一つなり二つなりあけてほしかつたということをそのときに痛感しました。また私は二輌目から飛び降りたときに、その油をつけているときに、二両目と三輌目の連結をはずしておる駅員を見ましたのですけれども、そのときにおいみんな手を貸してくれ、この車をはなすのだから手を貸してくれ、そういう声が私の耳に入りました。はつとその方を振り向きますと、あの五輌連結ですが、三輌目を人間の力で肩で押すということになると、少くとも十人、十五人の人間は要するのじやないかと思いますけれども、その連結を放しておるそのときには一輌目はもう盛んに燃えているのです。その燃えているのをさておいて連結を放しているということには、ぼくは非常に憎しみを感じたです。乗客のある声でも、そういう燃えてない方はあとにしろ、燃えている方を先にして、燃えてない方はあとにしろと叫んでいる声が私の耳にも入りました。ああいうことをしていたのは、私としては国鉄のすることが実に残念だつた。まあそういうことをしなくとも、助けられないまでも、燃えている方へ来て、石を投げるなり、ドアを壊すなりして、助からぬまでもしてもらいたかつた国鉄従業員のあのときの態度として、してもらいたかつたということをぼくもそのときに痛感したのです。
  379. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 鍛冶君。
  380. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そうすると今のお話を聞きますと、あなたの出られたの一輌のうしろの窓ですね。わきの窓じやないから……。
  381. 平田善夫

    ○平田証人 うしろの窓です。
  382. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それだから二輌目の間に出た。
  383. 平田善夫

    ○平田証人 そう、そう。
  384. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そのときに一輌目のドアをあけて二輌目に入つてつた人は相当ありますか。
  385. 平田善夫

    ○平田証人 ありません。
  386. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 ドアはあかなかつたの
  387. 平田善夫

    ○平田証人 あかなかつたです。二輌目のドアというやつは内開きになつていますから、それをあけようと思いましたけれども、そのときには火のついている方からだあつと潮のごとく五十人なり六十人の人がそこに入つて来たために、あかない。絶対にあかないです。そこへ来ているものですから、ほんとにあかなかつたです。
  388. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もつとも、あけば二輌目に行くまでもなく間に落ちてしまうですね。
  389. 平田善夫

    ○平田証人 そういうわけです。
  390. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 きのう運転手は一輌目から二輌に相当人が入つて来たものだから二輌の戸をあける……。
  391. 平田善夫

    ○平田証人 いや、それはありません。絶対にありません。一輌目と二輌 目の間の連結から出た人はぼくと、ぼくのわきから出た人が二人しか出ない。ぼくはこつちの窓から一人出たきりで、向う……。
  392. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 向うの方から二人。
  393. 平田善夫

    ○平田証人 そうです。
  394. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 狭い窓から、むりに窓をこわしてもらつて出た。
  395. 平田善夫

    ○平田証人 そうです。ぼくは窓をこわしていただいて出た。
  396. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 向うはどうだ。
  397. 平田善夫

    ○平田証人 向うはこわしたかどうかはつきりいたしません。ぼくはこつちの窓を、二十五六才の人に令部こわしてもらつて、それから向うに引つ込んでもらいました。
  398. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それからすると、一輌から二輌に行つた人は一人もないわけですね。
  399. 平田善夫

    ○平田証人 ありません。
  400. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それじやきのう運転手言つたのは間違つている。うそなんだ。
  401. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員長代理 それでは他に御質問がなければ平田証人に対する尋問はこれにて終ります。  証人にはまことに御苦労様でありました。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時二分散会