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田島証人 そうです。大きな船のように、ブリツジと機関室と別々にないのです。小さい船だからブリツジも機関室も
一緒なんです。ブリツジといいましても、箱型のちりよけにつく
つてある
程度です。それが機関室の入口にあるのです。そして茶志骨が目の前にな
つたら、船頭が、寒いからストーヴにあた
つて来るから――私はいつも御飯たきをするのですが、手がきたなか
つたから、おれやるからお前
かじをと
つていてくれ、とこう言うのです。それで私は持
つていた。交代して間もなく、こらつと言
つたように思うのです。私はひよつと
うしろを見た。そうしたら
拳銃が……。船を
国後に向けろ。お客さん、じようだんを……よしてください。――私は
警察の人か何かの人でも
つて、
拳銃みたようなものを持
つて、
調べか何かに来ているんだなと思
つて、じようだんはよしてください。これはじようだんじやない、これをよく見ろ。――そのときは日が少し
上つたので、不気味な色に光
つたわけです。これは
拳銃というものだなと思
つて、私は
国後へ向けたのです。そして汽罐室に絶対入るな、ここを動くな、ただ私の言う
通りに
かじを持て。そうしてその人は私に、
拳銃を向けて、
国後へ向けて走
つたわけです。そうして、それから約十分か十五分ぐらいして、
船長が表のところから顔を出して、ばかやろう、どこへ向けて走
つている、こう言
つた。そうするとその人は黙
つていた。そうして
船長は文句をぶつぶつ言いながらともへ来たのです。おも
かじ側は物を積んであ
つて通れないのでとり
かじを
つたわ
つて船長は来た。そして私の
かじを持
つている横に来た。そうすると
船長に
拳銃を向けた。二人並んでいたわけです。そして
拳銃を見せて、
船長に、お前は黙
つている、もとへもどれ。それで
船長は黙
つて表に行
つた。そうすると
船長が帰
つてすぐ、今度は
今川さんがおも
かじ側から来たわけです。そしてどこへ行かれると言うと、お前は黙
つて引込んでいろ。そうして
今川さんも汽罐場に入
つてしま
つたのです。そうして私に、そのときはしばらく黙
つてお
つた、そして、私はこういうことをして
国後へ渡るのは、君たちにあやまるが、こういうことをするよりほかになか
つたと言
つた。それで私は、こんなことをしなくても幾らでもあるから、こんなことをして困ると言
つたら、いや困らない、君たちはロシヤへ行
つても三日以内に必ず返してやる、そして、君たちに一万円ずつの金をやるから、
日本へ帰
つたらとられないようにしろ。そんなものいらない、ただなるべく早く帰してくれと言
つた。いや帰すも帰さぬもない。ただ私を
国後のどこでもいいから揚げてくれと言
つた。私は
国後の案内は知りませんと言
つた。そうしているうちに国境を越えてしま
つたわけです。そうして
国後のハツチヤスにロシヤの監視哨がある。そこで船を
向うへ着けられないかと言
つたから、着けられないことはないけれども、もしものことがあれば困ります。と言
つた。