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1951-05-15 第10回国会 衆議院 行政監察特別委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年五月十五日(火曜日)     午前十一時八分開議  出席委員    委員長 篠田 弘作君    理事 島田 末信君 理事 塚原 俊郎君    理事 内藤  隆君 理事 小松 勇次君    理事 山口 武秀君       大泉 寛三君    岡延右エ門君       鍛冶 良作君    志田 義信君       中川 俊思君    中村  清君       野村專太郎君    福田 喜東君       藤田 義光君    坂本 泰良君  委員外出席者         証     人         (紀栄丸船長) 富樫 光雄君         証     人         (紀栄丸機関         士)      田島 信男君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  証人出頭要求に関する件  不正入出国に関する件  委員会報告書に関する件     ―――――――――――――
  2. 篠田弘作

    篠田委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。自然休会関係報告書の提出が延び延びになつておりましたので、三月以来の調査経過につきまして、お手元に配付してある通り報告書を作成いたしたのでありますが、これを委員会報告書として議長に提出いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なければさよう決定いたします。なお字句の整理等につきましては、委員長に御一任をお願いしたいと思います。     ―――――――――――――
  4. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは不正入出国に関する件を議題といたします。  本件につきましては理事諸君とも協議の結果、本日紀栄丸船長富樫光雄君、紀栄丸機関士丹島信夫君、十六日に根室警察署長細川栄太郎君、炭鉱工員江川文彌君、十八日に福岡地方検察庁検事中島精一君、国立療養所長愛生園長光田健輔君、以上の六名の諸君に、それぞれ本委員会出頭を求める手続をいたしておいたのでありますが、以上の諸君を本委員会証人として決定いたすことに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 山口武秀

    山口(武)委員 議事進行について……。大分委員が少いようですが、これでいいのですか。
  6. 篠田弘作

    篠田委員長 特別に法律をつくるわけでも何でもない。これから証人調べるのだから、委員はそのうち集まつて来ると思うので、継続してはどうですか。
  7. 山口武秀

    山口(武)委員 一応その点明らかにしておいて、それなら了承いたします。
  8. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは御異議なきものと認め、さよう決定をいたします。  なお光田君は老齢でもあり、健康状態も思わしくない模様でありますので、目下さらに連絡中でありますが、出席不可能の際は国立療養所全生園長林芳信君に変更いたすことを御了承願いたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  9. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。     ―――――――――――――
  10. 篠田弘作

    篠田委員長 それではこれから不正入出国に関する件につきまして調査を進めます。  証人より証言を求むることにいたします。ただいまお見えになつている方は富樫さんですか。
  11. 富樫光雄

    富樫証人 はい。
  12. 篠田弘作

    篠田委員長 あらかじめ文書をもつて承知通り、本日正式の証人として証言を求むることに決定いたしましたから、さよう御了承ください。  ではただいまから不正入出国に関する件につきまして、証書を求めることにいします。  証言を求める前証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務上知つた事実であつて、黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところによりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人富樫光雄朗読〕    宣誓書   良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  13. 篠田弘作

    篠田委員長 署名捺印してください。     〔証人宣誓書署名捺印
  14. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証言を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また発言の際は、その都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらで証言を求める場合はおかけになつていてけつこうですが、お答えの際は御起立を願います。  証人経歴について述べてください。
  15. 富樫光雄

    富樫証人 経歴というと……
  16. 篠田弘作

    篠田委員長 たとえば学校をどこを出たとか、だういう仕事をやつてつたとか、あなたは今紀栄丸船長でしよう、何年ぐらい前から船長をやつているとか、そういうことについて。
  17. 富樫光雄

    富樫証人 現在船長をしておりません。
  18. 篠田弘作

    篠田委員長 それではいつごろまで船長をやつてつたのですか。
  19. 富樫光雄

    富樫証人 あの当時です。
  20. 篠田弘作

    篠田委員長 あの当時といつて、いつ。
  21. 富樫光雄

    富樫証人 三年ぐらいしかやつておりません。
  22. 篠田弘作

    篠田委員長 今何をしているの。
  23. 富樫光雄

    富樫証人 今水夫をやつております。
  24. 篠田弘作

  25. 富樫光雄

    富樫証人 紀栄丸でなく、宝油丸というのです。
  26. 篠田弘作

    篠田委員長 何年から何年くらいまで船長をやつていましたか。
  27. 富樫光雄

    富樫証人 昭和二十三年から二十五年までやつておりました。
  28. 篠田弘作

    篠田委員長 証人船長として、紀栄丸昭和二十五年十二月ごろ、どういう目的根室から北海道知床牛島羅臼に回航さしたか。
  29. 富樫光雄

    富樫証人 それは魚の生結めをやつてつたのです。
  30. 篠田弘作

    篠田委員長 どこから。
  31. 富樫光雄

    富樫証人 根室からやつて羅臼、あの沿岸でとつた魚をやつてつたのです。
  32. 篠田弘作

    篠田委員長 それで根室から羅臼の方に、魚の生詰めをやるために船を回航したわけだね。
  33. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  34. 篠田弘作

    篠田委員長 それではもちろん船主はそれをよく知つてつたわけですね。
  35. 富樫光雄

    富樫証人 船主はわかつております。
  36. 篠田弘作

    篠田委員長 羅臼において、北大農学部特別研究生と称する今川英男及び雑誌記者と称する村尾啓一郎両名から、根室まで乗船を依頼され、これを許したそうですね。
  37. 富樫光雄

    富樫証人 それは、今川という人が前に来て頼んであつたのです。二人一緒に来て頼んだのではない。そうして最後には結局二人とも乗せました。
  38. 篠田弘作

    篠田委員長 それを乗せるについては、どういう経過で乗せたのですか。
  39. 篠田弘作

    篠田委員長 羅臼から根室まで乗せてくれ……。
  40. 篠田弘作

    篠田委員長 だれが頼んだのですか。
  41. 富樫光雄

    富樫証人 今川という人です。
  42. 篠田弘作

    篠田委員長 だれに頼んだ。あなたに頼んだのですか。
  43. 富樫光雄

    富樫証人 初め機関士に頼んだのです。それで船も小さいし、めんどうだから、船長がいないからだめだといつて田島君が断つた。そうすると、あとでまた来てみますといつて、二時間ほどたつてからまた来て頼むから、乗せることにしたのです。
  44. 篠田弘作

    篠田委員長 それは君が乗せたんだね。
  45. 富樫光雄

    富樫証人 はい。
  46. 篠田弘作

    篠田委員長 初めから二人乗るということはわかつてつたのですか。
  47. 富樫光雄

    富樫証人 いいえ、一人だということだつたのです。それでその日に出帆しなくて、出帆の際教えてくれということであつたので、宿まで迎えに行つたのです。
  48. 篠田弘作

    篠田委員長 だれが行つた
  49. 富樫光雄

    富樫証人 私が行きました。
  50. 篠田弘作

    篠田委員長 初めは断つてつたけれども、出帆の日には、朝宿まで迎えに行つたのですか。
  51. 富樫光雄

    富樫証人 初めは断つたのです。二度目に来たとき承諾したものですから、迎えに行つたのです。
  52. 篠田弘作

    篠田委員長 それはどういうわけで迎えに行つたのか。
  53. 富樫光雄

    富樫証人 結局、御苦労でも出帆の際には宿までちよつと知らしてくれという話で……。
  54. 篠田弘作

    篠田委員長 出帆時刻がわからないから、出帆時刻がきまつたら知らしてくれ、こういうわけだね。
  55. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  56. 篠田弘作

    篠田委員長 君たちはこれをただ乗せたの。
  57. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  58. 篠田弘作

    篠田委員長 金は別にもらつていないのですね、お礼は一つももらわなかつたのですか。
  59. 富樫光雄

    富樫証人 初め頼みに来たときに、しようちゆうを一本持つて、お願いしますと、そういうようなわけだつたのです。
  60. 篠田弘作

    篠田委員長 しようちゆうというのは一升びん……。
  61. 富樫光雄

    富樫証人 四合びんです。
  62. 篠田弘作

    篠田委員長 安いな。しようちゆうの四合びん一本もらつて、二人を羅臼から根室まで乗せることにしたのですね。
  63. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  64. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは羅臼から根室までどのくらい時間がかかるのですか。
  65. 富樫光雄

    富樫証人 大体自分の船で六時間半から七時間かかります。
  66. 篠田弘作

    篠田委員長 それで羅臼出帆してから根室へ着くまでにどういうことがあつたか、はつきり言つてごらん。
  67. 篠田弘作

    篠田証人 羅臼出帆して根室へ着くまで、茶志骨沖あたりから針路をかえて国境を越えて国後に行きました。
  68. 篠田弘作

    篠田委員長 どういうわけで針路をかえて国後行つたのですか。
  69. 富樫光雄

    富樫証人 それは拳銃を向けられて行つたのです。
  70. 篠田弘作

    篠田委員長 だれが拳銃を向けたの。
  71. 富樫光雄

    富樫証人 今川という人と、もう一人乗つた人がいます。
  72. 篠田弘作

    篠田委員長 その名前はわからないの。
  73. 富樫光雄

    富樫証人 わかりません。
  74. 篠田弘作

    篠田委員長 のんきだね。村尾啓一郎という人じやないんですか。
  75. 富樫光雄

    富樫証人 それはこつちに来てから聞いたんです。
  76. 篠田弘作

    篠田委員長 名前はそのときわからなかつたのだね。
  77. 富樫光雄

    富樫証人 私は村尾という人を迎えに行つたのではなく、今川という人を仰えに行つたのです。
  78. 篠田弘作

    篠田委員長 そのとき二人いたのだね。乗せるときは二人だつたのだね。
  79. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  80. 篠田弘作

    篠田委員長 契約は一人だつたね。
  81. 富樫光雄

    富樫証人 朝起しに行つたら、二人一緒に来ました。
  82. 篠田弘作

    篠田委員長 それで二人一緒に乗せたのだね。
  83. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  84. 篠田弘作

    篠田委員長 どの辺で拳銃を向けられたか。
  85. 富樫光雄

  86. 篠田弘作

    篠田委員長 茶志骨沖というと、羅臼出帆して何時間くらいたつてからですか。
  87. 富樫光雄

    富樫証人 約四時間です。
  88. 篠田弘作

    篠田委員長 その間は日本の領海をずつと航行していたわけですね。
  89. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  90. 篠田弘作

    篠田委員長 そこで拳銃を向けられてどこへ行けと言つたの
  91. 富樫光雄

    富樫証人 拳銃を向けられたときは、自分ストーブにあたつてつたのです。そして田島君がかじを持つていたんです。大体四十分くらいたつてから行つて見たら、コースが違うから、ともに行つてみたんです。そうしたら自分にも拳銃を向けて、あたつていたところに行つているというわけです。
  92. 篠田弘作

    篠田委員長 すると、君がストーブにあたつていたとき、田島君がかじを持つていて、田島君に拳銃を向けて進路をかえさせたわけだね。
  93. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  94. 篠田弘作

    篠田委員長 そして君にも向けたのだね。
  95. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。向うへ行つているというのです。
  96. 篠田弘作

    篠田委員長 それから君はそのままストーブにあたつていたわけだね。
  97. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  98. 篠田弘作

    篠田委員長 それで国後のどこへ着いたの。
  99. 富樫光雄

    富樫証人 センペコタンです。
  100. 篠田弘作

    篠田委員長 そうして国後に着いてどうしたの。
  101. 富樫光雄

    富樫証人 国後に着いて、その今までのストーブ部屋に監禁されたわけです。
  102. 篠田弘作

    篠田委員長 みんなですか。
  103. 富樫光雄

    富樫証人 いや、二人だけです。
  104. 篠田弘作

    篠田委員長 君と田島君と……。
  105. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  106. 篠田弘作

    篠田委員長 あと水夫はいないのかね。
  107. 富樫光雄

    富樫証人 いません。
  108. 篠田弘作

    篠田委員長 では君と二人で動かしているの。何トンの船ですか。
  109. 富樫光雄

    富樫証人 五トンばかりです。
  110. 篠田弘作

    篠田委員長 それで監禁されて錠をかけられたの。
  111. 富樫光雄

    富樫証人  いや、歩哨がついていたのです。
  112. 篠田弘作

    篠田委員長 どういう歩哨……。
  113. 富樫光雄

    富樫証人 武装したロシヤ人歩哨です。
  114. 篠田弘作

    篠田委員長 ソ連歩哨だな。ソ連歩哨がついて君らが監禁されたのだね。
  115. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  116. 篠田弘作

    篠田委員長 あとの二人は……。
  117. 富樫光雄

    富樫証人 あとの二人はどこかへ上つてつた。それはよくわからないのです。
  118. 篠田弘作

    篠田委員長 上つたところを見ると、あらかじソ連連絡のあつた人だな。つかまつて行つたのではなく、上つて行つたのだろう。
  119. 富樫光雄

    富樫証人 一人は上つて行きました。村尾という人です。
  120. 篠田弘作

    篠田委員長 ピストルを突きつけた人だな。
  121. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。それから今川という人は――大体自分らは国後近くになつたとき、向らの監視船が来て、四人とも自分の船から監視船に来せられたのです。
  122. 篠田弘作

    篠田委員長 船はどうした。
  123. 富樫光雄

  124. 篠田弘作

    篠田委員長 君は向うに着いてから監禁されたとさつき言つたじやないか。
  125. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。それは船がセンベコタンに入つてから、一番先に村尾という人が上つたのです。それからわしら二人は自分の船に来て監禁された。今川という人が一人あと残つて、その後どうなつたかわからないのです。
  126. 篠田弘作

    篠田委員長 監禁された時間はどのくらいですか。
  127. 富樫光雄

    富樫証人 大体十三日から二十日までの間、調べるときだけ船から上げて、あとは船に監禁しておくのです。
  128. 篠田弘作

    篠田委員長 食事向うでくれたのですか。
  129. 富樫光雄

    富樫証人 いいえ、自分でたいて食べたのです。
  130. 篠田弘作

    篠田委員長 食事をつくるときは監禁されてないのか。
  131. 富樫光雄

    富樫証人 食事をつくるときは、監禁された部屋の中でたいたのです。
  132. 篠田弘作

    篠田委員長 証人根室に帰つて来てから、根室警察に、国後に回航したというときの事情を届けたのだろう。
  133. 富樫光雄

    富樫証人 はい。
  134. 篠田弘作

    篠田委員長 それはあなたが自分の意思で届けたのか、あるいはまた、一説によると、便乗者の命令で届け出たということも言われておるけれども、どつちかね。
  135. 富樫光雄

    富樫証人 それは自分が帰つて来て船主のところに行つたのです。そうすると船主のところでも、捜索願いを出してある、それですぐ連絡した方がいいというわけで届け出たわけです。
  136. 篠田弘作

    篠田委員長 何月何日に根室にもどつて来たか。
  137. 富樫光雄

    富樫証人 十二月二十日です。
  138. 篠田弘作

    篠田委員長 十二月二十日にもどつて、十二月二十日に届け出たかね。
  139. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  140. 篠田弘作

    篠田委員長 その間に四日間ばかり期間があつたというが、そんなことはないかね。
  141. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  142. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたのお父さんは千島に抑留中、ソ連の密偵を勤めさせられたということをいうのだが、それはほんとうかね。
  143. 富樫光雄

    富樫証人 それはわかりません。
  144. 篠田弘作

    篠田委員長 聞いたことはないのか。
  145. 富樫光雄

    富樫証人 ありません。自分らは大分離れておりますから。
  146. 篠田弘作

    篠田委員長 どのくらい離れているか。
  147. 富樫光雄

    富樫証人 親たちは空知におります。
  148. 篠田弘作

    篠田委員長 行き来はしないのか。
  149. 富樫光雄

    富樫証人 二、三年行き来していないのです。
  150. 篠田弘作

    篠田委員長 それじや別にお父さんからそういうことを相談されるとか、指示されるということはないわけだね。
  151. 富樫光雄

    富樫証人 全然ないです。
  152. 篠田弘作

    篠田委員長 それで羅臼から根室向うとき、何トンくらいの生を積んだいたの。根室から羅臼に行く目的は、生を買いに行つたのでしよう。だから帰るときは生を相当積んでなくちやならないわけですね。
  153. 富樫光雄

    富樫証人 大体普通だつたら千二、三百貫積むのですけれども、そのときはもう切上げになつてしまつて魚がなかつたのです。ほんの一部だけ魚を積んで、あと働き人の着がえを積んであつたわけです。
  154. 篠田弘作

    篠田委員長 魚はどのくらい積んでおつたか。
  155. 富樫光雄

    富樫証人 魚は二、三十貫しか積んでなかつたです。
  156. 篠田弘作

    篠田委員長 それじや、航海するのにどのくらいの金がかかるの。一ぺん根室羅臼を往復すると。
  157. 富樫光雄

    富樫証人 大体四千円くらいかかります。
  158. 篠田弘作

    篠田委員長 二、三十貫の魚で経費がまかなわれるか、まかなわれないか。
  159. 富樫光雄

    富樫証人 まかなわれないです。
  160. 篠田弘作

    篠田委員長 それはだれの負担になるの。
  161. 富樫光雄

    富樫証人 それは何ぼか利益があつたのでやつたのであつて、その利益の方からの負担になつているのです。
  162. 篠田弘作

    篠田委員長 それじや利益はどこであげるのですか。
  163. 富樫光雄

    富樫証人 魚を積んで来たときの利益です。
  164. 篠田弘作

    篠田委員長 それでカバーするわけだね。――それでは委員諸君から何か御質問ありませんか。
  165. 塚原俊郎

    塚原委員 私はあの辺の地理はよくわからないですが、先ほど聞いていると、羅臼から根室までは、六、七時間で行けるのでしよう。
  166. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  167. 塚原俊郎

    塚原委員 すると、あなたが監禁されたのは七日間、しかもそれは自分の船で自炊されておつたと言いましたね。
  168. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  169. 塚原俊郎

    塚原委員 そういう一週間分、十日分の食糧は積んでおるのですか。
  170. 富樫光雄

    富樫証人 積んでおります。それは最悪の場合……。
  171. 塚原俊郎

    塚原委員 遭難したというような場合を予想してですか。
  172. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  173. 塚原俊郎

    塚原委員 初めから国後に行くつもりでそれだけ積んだんじやないですか。
  174. 富樫光雄

    富樫証人 違います。それは自分羅臼を出航の際に、八升ばかり借りて来て船に積んだ米ですから……。
  175. 塚原俊郎

    塚原委員 北大農学部今川英男君というのは、前から知つてる方ですか。
  176. 富樫光雄

    富樫証人 名はわかりません。
  177. 塚原俊郎

    塚原委員 今まで、今川というのではなしに、たとえば羅臼からどこまで行つてくれというので、あなたは特別便宜をはかつて乗せたことはありますか。
  178. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  179. 塚原俊郎

    塚原委員 この場合が初めてですね。
  180. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  181. 塚原俊郎

    塚原委員 いま一つ疑問に思うのですが、わずか六トンの船でしよう。どのくらいの大きさですか。
  182. 富樫光雄

    富樫証人 大体長さ三十尺であります。
  183. 篠田弘作

    篠田委員 三十尺としても、あなたがストーブにあたつてつたそのとき田島君がピストルを突きつけられて、方向をかえろと言われたとき、あなたは全然気がつかなかつたですか。
  184. 富樫光雄

    富樫証人 わかりませんでした。
  185. 篠田弘作

    篠田委員長 わかるでしよう。その船には四人しか乗つていないんでしよう。
  186. 富樫光雄

    富樫証人 大体甲板がここにあつて、その下が部屋になつているのです。
  187. 塚原俊郎

    塚原委員 甲板の下にあなたが入つていたわけですか。
  188. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。結局うしろの方でそういうことがあつても全然わからないのです。
  189. 小松勇次

    小松委員 お尋ねしますが、あなたは十三日から三十日までの間ソ連歩哨によつて監禁されたというお話を承つたのでありますが、その監禁された間に、いろいろソ連の人によつてあなた方がお調べを受けたと思うのです。さように私は承つたのですが、そのときにどんなお調べを受けたか、その状況を知りたいのです。どういう人がお調べになつたか。
  190. 富樫光雄

    富樫証人 大体調べた人の階級は、日本階級でいつたら大尉くらいの人です。それでどういうわけで越境したか、それからまた日本の国にはアメリカの兵隊がたくさん来ているかとか、あるいは野付半島とか、そういうところの部落の名前でずね、そういうことを聞いた程度のことです。
  191. 小松勇次

    小松委員 そういう程度といいますが、いま少し詳しくその点を話していただきたいのです。
  192. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたは長い間調べられただろう、何回も何回も調べられたのだろう。
  193. 富樫光雄

    富樫証人 二回……。
  194. 篠田弘作

    篠田委員長 何時間くらいずつ…。
  195. 富樫光雄

    富樫証人 大体三時間くらいずつ。
  196. 篠田弘作

    篠田委員長 三時間くらいずつ調べられたことを、その程度言つても、今は、一分きりしやべつていない、だからもう少し詳しく思い出して、はつきり言いなさい。
  197. 小松勇次

    小松委員 ソ連の方がお調べになるときにあなたは言葉は通じないでしよう。
  198. 富樫光雄

    富樫証人 わかりません。
  199. 小松勇次

    小松委員 どういう方が通訳されたのです。
  200. 富樫光雄

    富樫証人 兵隊です。
  201. 小松勇次

    小松委員 それはどこの兵隊がやつた
  202. 富樫光雄

    富樫証人 ソ連のです。
  203. 小松勇次

    小松委員 その人はよく日本語がわかるのですか。
  204. 富樫光雄

    富樫証人 わかります。
  205. 小松勇次

    小松委員 その人はどういう階級の人です。
  206. 富樫光雄

    富樫証人 その人は上等兵くらいじやないかと思うのです。
  207. 小松勇次

    小松委員 なおいま少し詳しくお聞きしたいのですけれども、そんな程度なんですか、お調べを受けた二回だけでもつて……。
  208. 富樫光雄

    富樫証人 どつちも同じような聞き方です。
  209. 小松勇次

    小松委員 それからあなたのほかには何という方でしたか、機関士ですか、田島さん、その方もお調べを受けたのですか。
  210. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  211. 小松勇次

    小松委員 その人は何回くらい受けました。
  212. 富樫光雄

    富樫証人 同じです。
  213. 小松勇次

    小松委員 二回くらい。
  214. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  215. 小松勇次

    小松委員 やはり同じような程度のものを聞かれた。
  216. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  217. 小松勇次

    小松委員 それから村尾さんが――あとであなたは名前がわかつたというのだが、ピストルを突きつけた人、村尾さんという人は先に上陸されたそうですが……。
  218. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  219. 小松勇次

    小松委員 この人はソ連と何か近しい関係があつたようにあなた方は感じませんでしたか。
  220. 富樫光雄

    富樫証人 大分何というか近しいというか、あるいはまた連絡がとれてあつたように思うのです。
  221. 小松勇次

    小松委員 とれてあつてなおかつあなた方は越境したということでお調べを受けたのですか。
  222. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  223. 小松勇次

    小松委員 近しいというのはどういうぐあいに近しいとあなたは感じたのですか。あなたの感じだけでもよろしい。
  224. 富樫光雄

    富樫証人 大体向うのスパイみたいな、そういうような感じ自分らは持つてつたのです。
  225. 小松勇次

    小松委員 この方は常にどこにおつたのです。あなた方は羅臼から乗せて行つたのですけれども、いつもこの人は羅臼におつた方なんですか。それはわかりませんか。
  226. 富樫光雄

    富樫証人 それはわからないのです。
  227. 小松勇次

    小松委員 この人はしよつ中羅臼からソ連領に往復しているような人には、あなた方は感じなかつたですか。
  228. 富樫光雄

    富樫証人 全然感じなかつたです。
  229. 小松勇次

    小松委員 けれどもこの人はソ連と密接な関係がある人であつた、また連絡があつたというようなことをあなた方は感じられたわけですな。
  230. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  231. 小松勇次

    小松委員 この人たち村尾さんと今川さんは、その後あなた方と一緒帰つたのですか。
  232. 富樫光雄

    富樫証人 帰りません。
  233. 小松勇次

    小松委員 そうすると向うへ残つたきりですか。
  234. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  235. 小松勇次

    小松委員 あとの消息はわかりませんか。
  236. 富樫光雄

    富樫証人 全然わかりません。
  237. 小松勇次

    小松委員 それからあなた方が航海中に、日本関係海上保安庁とかあるいはそういうような船が監視しておるようなことはなかつたのですか。航海している際にそういう船にあなた方はぶつかつたことはありませんか。
  238. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  239. 小松勇次

    小松委員 全然この付近には日本海上保安関係警戒船というようなものは出ておりませんか。
  240. 富樫光雄

    富樫証人 出ていないです。
  241. 小松勇次

    小松委員 そのときだけでなくて、ふだんも出ておりませんか。
  242. 富樫光雄

    富樫証人 出ていないです。
  243. 小松勇次

    小松委員 わかりました。
  244. 福田喜東

    福田(喜)委員 証人にお尋ねいたしますが、証人はマッカーサー、ラインというのを御存じですか。
  245. 富樫光雄

    富樫証人 わかつております。
  246. 福田喜東

    福田(喜)委員 今まで船長として航海されるときに、マツカーサー・ラインを出るとか出ぬとかということに気を使つたことがありますか。
  247. 富樫光雄

    富樫証人 あります。
  248. 福田喜東

    福田(喜)委員 どの辺にあるか、あなたは御承知ですな。
  249. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  250. 福田喜東

    福田(喜)委員 御承知なんですな。
  251. 富樫光雄

    富樫証人 はあ。
  252. 福田喜東

    福田(喜)委員 漁船がよくソ連領へ出かけるのは、魚をとる量、つまり漁獲量が多いので、マツカーサー・ラインなんかどうでもいい。生活上魚が多いところへ行くのは当然だとあの辺の人は考えているか。つまり裏から言えば、マツカーサー・ラインなんかそう心配しなくてもいい、あつても大したことはないというふうに考えているのではないですか。それで魚が多いところを追つて行く。
  253. 富樫光雄

    富樫証人 ライン内であればおそらく一尾の魚もとれないような状態ですから、結局ラインを突破するような状態になるのではないかと思うのです。
  254. 福田喜東

    福田(喜)委員 今まであなたが船長として航海しているときに、漁をするような場合でも、取締り機関、向うの人間あるいはこつちの人間によつて、尋問とか取調べを受けたような経験がありますか、ありませんか。
  255. 富樫光雄

    富樫証人 これは別にないです。
  256. 福田喜東

    福田(喜)委員 あなたはピストルを突きつけられたということなんですが、ピストルを突きつけられて何とかペコタンというところへ渡るときに、途中で向う監視船が出て来たのですか、それとも向うの港に着くまで何のこともなかつたのですか。
  257. 富樫光雄

    富樫証人 大体私は部屋の中に入れられているものですから……。監視船に乗せられるときに出て初めてわかつたようなことです。
  258. 福田喜東

    福田(喜)委員 監視船が来て乗せられるとき、監視船が来て待つてつた様子ですか。航路をかえたときに向う監視船が来て臨検とか捜査をやつたのですか。そういうところはわからないですか。五トンや六トンの船でわからぬことはないと思うが……。
  259. 富樫光雄

    富樫証人 国後からはしけで向うの見張りが来て、連絡して監視船が出て来たように思いす。
  260. 福田喜東

    福田(喜)委員 村尾とか今川氏から連絡があつたようなことはないですか。
  261. 富樫光雄

    富樫証人 監視船に帽子を振つて合図をしておつた
  262. 福田喜東

    福田(喜)委員 帽子を振つて合図したということは、あなたの考えではあらかじ連絡があつたように思いますか、どうですか。冷静に率直に言つていただきたい。
  263. 富樫光雄

    富樫証人 それは連絡ないと思うのです。
  264. 福田喜東

    福田(喜)委員 しかしこつちから帽子を振るというのはおかしいじやないか。こつちが違反しているのに取締り官憲に向つて帽子を振つて合図するというのは、あらかじめ何か連絡があつたように見え顧せんか。常識はずれですな。
  265. 富樫光雄

    富樫証人 それはどうだかね。(笑声)
  266. 福田喜東

    福田(喜)委員 帽子を振るというのはおかしいじやないか。
  267. 富樫光雄

    富樫証人 大体用事のない船が何がゆえに晝中国後のそういうところに行くかというのです。やつぱり用事があるから行つたんだと思います。それでこういうようにして……。
  268. 福田喜東

    福田(喜)委員 こうやるのはおかしいでしよう。
  269. 富樫光雄

    富樫証人 結局は監視船に向つて撃たないように、そういう意味……。
  270. 福田喜東

    福田(喜)委員 これは普通だつたら逃げるのがあたりまえでしようね。
  271. 篠田弘作

    篠田委員長 こつちから出かけて行つているのだろう。
  272. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  273. 篠田弘作

    篠田委員長 向うから撃たれることが困ると思つて帽子を振つたということなんだろう。
  274. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  275. 福田喜東

    福田(喜)委員 今委員長が尋問したときに、機関長が先にピストルを突きつけられた。お前ひつ込んでおれ、こういうことを言われたのですか。そのときあとから船長として……。
  276. 富樫光雄

    富樫証人 えうです。
  277. 福田喜東

    福田(喜)委員 ひつ込んでおつて部屋へ行つてストーブにあたつてつたわけですか。
  278. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  279. 福田喜東

    福田(喜)委員 ちよつとストーブにあたつておるということはおかしいことはないですか。
  280. 富樫光雄

    富樫証人 それはそういうふうに聞こえるでしよう。だが実際の場面にあるとそうするより方法はないのですよ。
  281. 福田喜東

    福田(喜)委員 そのピストルというのは、どんな拳銃でもつておどかしたのですか。
  282. 富樫光雄

    富樫証人 ピストル名前もよくわからないな。
  283. 塚原俊郎

    塚原委員 日本のものか、それもわからないか。
  284. 富樫光雄

    富樫証人 わからないね。
  285. 福田喜東

    福田(喜)委員 紀栄丸というのは何か共産党の人が買つたのだといわれておりますが、船主船長さんの間に何かそんな話はなかつたですか。
  286. 富樫光雄

    富樫証人 全然ないです。
  287. 福田喜東

    福田(喜)委員 そういううわさはなかつたですか。
  288. 富樫光雄

    富樫証人 そんなことするような船主でないのです。大体根が魚屋ですから……。
  289. 福田喜東

    福田(喜)委員 魚屋でも、共産党の人が買つたのだということは、言つたことはないのですね。
  290. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  291. 福田喜東

    福田(喜)委員 もう一つ重要なことをお聞きしますが、あなたが羅臼とか根室におられたときに、日常生活で感じておられる空気ですな。むずかしい言葉で雰囲気といいますか、東京へ来たときの雰囲気と大分感じが違うでしような。
  292. 富樫光雄

    富樫証人 それは違う。
  293. 福田喜東

    福田(喜)委員 どういうふうに違うか。
  294. 富樫光雄

    富樫証人 こつちの方はのんびりしておりますし、向うの方は……。
  295. 福田喜東

    福田(喜)委員 逼迫しておるでしような。
  296. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  297. 福田喜東

    福田(喜)委員 つまりこつちの方はのんびりしておるし、向うの方は切迫しているということか、どういうふうに切迫しているか。それをもう少し具体的に言つてソ連の方から常に連絡があるとか、あるいは向うから参るとか……。
  298. 富樫光雄

    富樫証人 そんなものは問題でないですよ。食うか食わないかということが問題です。
  299. 福田喜東

    福田(喜)委員 生活問題ですね。
  300. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  301. 福田喜東

    福田(喜)委員 それから一番初めに監視船が来てあなたの船に乗り移つたのはどの辺ですか。センペコタンというのとはどれだけ隔たつているのですか。
  302. 富樫光雄

    富樫証人 大体二マイルぐらいですな。
  303. 福田喜東

    福田(喜)委員 三海里ですか、三マイルですか。
  304. 富樫光雄

    富樫証人 三海里というか、マイルというか……。
  305. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 先ほどからあなたの話を聞いておりますと、普通の人をかつて乗せたことはないという話だつたね。
  306. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  307. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今川という人は全然今までは知らない人でしよう。
  308. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  309. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それで断つたわけですか。
  310. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  311. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 なぜ断り切れなかつたか。
  312. 富樫光雄

    富樫証人 羅臼はその当時雪があつて、パスを運転するのに非常にしにくいということと、乗つていても危険率が多いということで、それで十五日に札幌に会議がある、それでバスが行かないということになると困るから、ぜひ会議に間に合せなければならぬから乗せてくれというようなことだつたのです。
  313. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 頼まれたのですか。
  314. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。自分の名刺も出して、別に怪しい者じやない、こういう者だから頼むというので……。
  315. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それでしかたなしに乗せたというのですか。
  316. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  317. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そのときは一人だと言つたのですか。
  318. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  319. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなたは金は何ももらわぬと言うが、無理に乗せてやつてただということはおかしいと思うが、何かお礼はあるものと思つてつたのか、しかたがないからお礼なしでも乗せてやれということか。
  320. 富樫光雄

    富樫証人 まあ学生だし、名刺も持つており研究生なんです。それで学生がしようちゆう一本とおかずを少し持つて、これでひとつ無理にも頼むと言われたので、それに対して乗り銭は何ぼよこせなんていうことは言えないですよ。自分らは客船でないし、そういうような商売じやないんですから。
  321. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこで迎えに行つたら二人で出て来たのですか。
  322. 富樫光雄

    富樫証人 迎えに行つたときはたれも出て来ない。玄関から呼んだら返事をしたので、そのなり船に帰つて来た。大体宿屋と船まで二丁半ばかり離れておるが、船に来たときには二人来たわけですよ。
  323. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 一人でさえ乗せられぬと言つておるのに二人来たらこれは困ると言いそうなものだが、その点どうですか。
  324. 富樫光雄

    富樫証人 そうは言えぬ朝二時だから、寒いときにその二人で来た。今川さんは自分一人で行くつもりであつたが、同じ宿屋にとまつてつて、これに乗せてもらうと都合がいいから頼んでもらつてくれということで、そういう話になつて、それで一人乗るも二人乗るも同じだから乗せて行こうということで、そういう話になつた
  325. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 別段そこで変だなというような感じは起らなかつたのですか。
  326. 富樫光雄

    富樫証人 起らなかつたです。
  327. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 元からの連れでなくて、宿で一緒にとまつて話したら、おれも乗せてくれと言つた、こういうことですか。
  328. 富樫光雄

    富樫証人 同じ宿におつてそういうようなことになつたのでしよう。
  329. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それでしようちう持つて来たのは最初今川が持つて来たわけだね、今度二人で来ても何も持つて来なかつたのか。
  330. 富樫光雄

    富樫証人 あとになつてそういうことはわかつたが、その人もしようちゆう一本とおかずを少し持つて来た。
  331. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 やはり頼むというので持つて来たのですか。
  332. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。もう一人の人は乗るときに持つて来た。今川さんは前の日に持つて来た。
  333. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それでしかたなく乗せてやるということになつたんですか。
  334. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  335. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 身なりはどんなふうだつたか、今回は学生服を着ておつたか。
  336. 富樫光雄

    富樫証人 今川さんは半オーバーを着ていたのでよく見なかつたのですが……。
  337. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いま一人は。
  338. 富樫光雄

    富樫証人 もう一人の人はちよつとラシャの外套みたいようなものを着て防寒ぐつをはいておつた
  339. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今川より年は上か。
  340. 富樫光雄

    富樫証人 上です。
  341. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そうすると学生か何しておる人かということは考えなかつたのですか。
  342. 富樫光雄

    富樫証人 それは出発するときだから、そんな余裕はないんですよ、機械をかけて乗るのを待つてつたというわけですから……。
  343. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうも一人でさえ断るものを、二人来たからそれは困りますと言いそうなもんだが……。その点を聞くと、学生だから同意したと言うておりながら、今度学生以外の年取つたりつぱなラシヤの外套を着ておる者が来ると、何か考えそうなものだ。
  344. 富樫光雄

    富樫証人 別に大して考えない。一人乗るも二人乗るも同じだから乗つて行きなさいと乗せた。
  345. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それからあなたの船は根室なのかね。
  346. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  347. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 根室から羅臼に行くときは相当荷物があつて行つたのかね。ただ魚を買うために行つたのか。
  348. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。魚を買いに行つたんで荷物はない。
  349. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あるかないかわからないが、大体あるだろうと思つてつた。そうしたら思うようになかつたのか。
  350. 富樫光雄

    富樫証人 前からやつてつた仕事で、大体九月ごろからずつと帰つてつたんです。だからもう一ぺんくらい積んでもいいだろうと思つてつた
  351. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 また魚があるだろうと思つて行つたのが。
  352. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  353. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それで魚を二、三十貫積んだというのかね。
  354. 富樫光雄

    富樫証人 そうでま。
  355. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あと何を積んだのですか。
  356. 富樫光雄

    富樫証人 あとは夜具とか行季とかそういうものを積んだのです。
  357. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それは根室からかせぎに行つてる者の……。
  358. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  359. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 かせぎに行つてる者は乗せてくれというようなことはないか。
  360. 富樫光雄

    富樫証人 じきに荷物か積まれなかつたから陸へ来てしまつたのです。その晩……。
  361. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 荷物だけ残つてつたのかね。
  362. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  363. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 かせぎ人なんか乗せてくれと言つたら乗せることはあるか。
  364. 富樫光雄

    富樫証人 そういうことはありますね。覚えた人なら……。
  365. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなた方の船以外にも、そういうたまに乗せてくれといつて乗る人はおりますか。全然漁師とかそういうものでなくてもそういうような例があるかね。
  366. 富樫光雄

    富樫証人 おそらくないと思うのです。普通の定期船とかあるいはそういうような船以外にはですね。
  367. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今まででもそんなようなことは聞いたことはありませんか。
  368. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  369. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 君ら初めてか。
  370. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  371. 島田末信

    ○島田委員 その二、三十貫の魚はいつ積みましたか。
  372. 富樫光雄

    富樫証人 それは六日の日だつたかな。
  373. 島田末信

    ○島田委員 十二月六日ですね。
  374. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  375. 島田末信

    ○島田委員 それから食糧はいつ積みましたか。
  376. 富樫光雄

    富樫証人 食糧は十一日の日です。
  377. 島田末信

    ○島田委員 それから出帆が何日でしたかね。
  378. 富樫光雄

    富樫証人 十二日です。
  379. 島田末信

    ○島田委員 それから羅臼から根室へ行く間で、あなたがストーブ部屋へ立ててもつたのは何時ごろですか。
  380. 富樫光雄

    富樫証人 大体夜明けだから六時ごろですね。
  381. 島田末信

    ○島田委員 ストーブ部屋へ入つたのは大体越境間近ですか。
  382. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  383. 島田末信

    ○島田委員 それで今の村尾ピストルを向けたのを知らなかつたわけですね。
  384. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  385. 島田末信

    ○島田委員 それから越境して四十分くらいして、今度はともへ出てみたのですか。かじをとりかえてから……。
  386. 富樫光雄

    富樫証人 とりかえてから何ぼ走つてるかそれはわからないのですが、交代して三、四十分たつてから暖まつたから出て行つた
  387. 島田末信

    ○島田委員 そのときはもうピストルは向けてなかつたのですね。
  388. 富樫光雄

    富樫証人 そのときは向けておつたのです。
  389. 島田末信

    ○島田委員 三十分も四十分もの間ピストルを向けたことになるのですか。
  390. 富樫光雄

    富樫証人 そうだろうと思います。
  391. 島田末信

    ○島田委員 ずつと向けておつたのですか。
  392. 富樫光雄

    富樫証人 自分に向けたのか田島君に向けたのかわからないですが……。
  393. 島田末信

    ○島田委員 田島ピストルを向けたからかじをとりかえたということになるのですね。
  394. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  395. 島田末信

    ○島田委員 それから三、四十分してストーブのところから出て行つたら、やつぱりピストルを向けておつた、こういうことになるのですね。
  396. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  397. 島田末信

    ○島田委員 ピストルを向けてかじを変更させたまま動かしておつたわけですね。
  398. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  399. 島田末信

    ○島田委員 出て行つたときにあなたにピストルを向けかえたのですか。村尾という人が……。
  400. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  401. 島田末信

    ○島田委員 その村尾ピストルを向けたときの態度はどんなぐあいでしたか。いわゆる気軽な意味でピストルを向けたか、あるいはものすごいとか……。
  402. 富樫光雄

    富樫証人 ものすごいです。
  403. 島田末信

    ○島田委員 殺されそうな気持がしましたか。
  404. 富樫光雄

    富樫証人 しました。
  405. 島田末信

    ○島田委員 それでピストルを向けられたときあなたはどういうことをしたのですか。
  406. 富樫光雄

    富樫証人 自分は陰の方に下つたわけです。
  407. 島田末信

    ○島田委員 逃げたわけですね。
  408. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  409. 島田末信

    ○島田委員 そろすると村尾はどう言いました。
  410. 富樫光雄

    富樫証人 別に何も言いませんでした。
  411. 島田末信

    ○島田委員 ただ向けたまま……。
  412. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  413. 島田末信

    ○島田委員 それでストーブ帰つたのはどうして帰つたのですか。
  414. 富樫光雄

    富樫証人 そこへ立つていてもしようがないし、ストーブのところに今川という人が乗つていたから、その人も村尾の組じやないかと思つて様子を見に行つたのです。
  415. 島田末信

    ○島田委員 ストーブへすつ込んでおれとだれか言つたのですか。
  416. 富樫光雄

    富樫証人 別にそれは言わないのです。
  417. 島田末信

    ○島田委員 言わないがそろそろとストーブの方へ入つてつたわけですね。
  418. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  419. 島田末信

    ○島田委員 それであなたはかじをとりかえたときに、その場で文向も何も言わずにただ黙つて陰の方に逃げて、それからそろそろとストーブの方へ入つたわけですね。
  420. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  421. 島田末信

    ○島田委員 それから最初今川があなたに羅臼から根室に乗して行つてくれと言つて頼んだのは何日でしたか。
  422. 富樫光雄

    富樫証人 十二日だと思つております。
  423. 島田末信

    ○島田委員 十二日は出帆の日でしよう。
  424. 富樫光雄

    富樫証人 とにかく出帆の前の日だつたのです。
  425. 島田末信

    ○島田委員 前日に来て初めて会つたでのすか。
  426. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  427. 島田末信

    ○島田委員 十一日に初めて今川と会つたわけですね。
  428. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  429. 島田末信

    ○島田委員 そのときには羅臼から根室まで乗して行つてくれろと頼みに行つたのですね。
  430. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  431. 島田末信

    ○島田委員 それから二回目に会つたのはやはり十一日ですか。初めに会つたときには断つたでしよう。それを承知したのはやはり十一日ですか。
  432. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  433. 島田末信

    ○島田委員 それは十一日の何時ごろですか。
  434. 富樫光雄

    富樫証人 日暮れだから、大体四時ごろですね。
  435. 島田末信

    ○島田委員 それは再び今川があなたのところにたずねて来たのですか。
  436. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  437. 島田末信

    ○島田委員 舶の中で会いましたか。
  438. 富樫光雄

    富樫証人 船の中で会いました。
  439. 島田末信

    ○島田委員 出帆の日取りは十二日というのはあらかじめわかつてつたのですか。
  440. 富樫光雄

    富樫証人 わかつていないのです。
  441. 島田末信

    ○島田委員 急速に出たわけですか。
  442. 富樫光雄

    富樫証人 大体風が吹いておつて羅臼に避難しておつたものですから、風がなぎ次第出帆するからと、そう言つてつたのです。
  443. 島田末信

    ○島田委員 それはいつごろから出帆の予定だつたのですか。
  444. 富樫光雄

    富樫証人 それは……。
  445. 島田末信

    ○島田委員 六日に点を積んでおるのですが、魚を積むと同時に、なぎさえすれば出たいといろ気持だつたのですか。
  446. 富樫光雄

    富樫証人 いやそうではないのです。
  447. 島田末信

    ○島田委員 大体何日ごろ出る予定で……。
  448. 富樫光雄

    富樫証人 魚は六日に積んでおるけれども、さきに言つた若い人の着がえを積まなければならない。それが波があつて陸へ船がつけられない。それで着がえを積んでなぎ次第出帆する予だつたのです。
  449. 島田末信

    ○島田委員 出帆する予定は大体十二日ということはわかつていないのでしよう。なぐ日がわからないから……。
  450. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  451. 島田末信

    ○島田委員 十二日にないだからすぐ出したというわけですね。
  452. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  453. 島田末信

    ○島田委員 六日に魚を積んで、夜具やなんか積んだときに大体出帆の準備はできたはずですが、その夜具やなんかを積んだのは何日ですか。
  454. 富樫光雄

    富樫証人 十日だと思います。
  455. 島田末信

    ○島田委員 そのときにどうして食糧も積まなかつたのですか。
  456. 富樫光雄

    富樫証人 一緒に積んだのです。
  457. 島田末信

    ○島田委員 十日に積んだのですか。
  458. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  459. 島田末信

    ○島田委員 これは十一日と言つておるけれども……。
  460. 富樫光雄

    富樫証人 日にちはよくわからなくなつた……。
  461. 島田末信

    ○島田委員 それではどうでしよう。今川村尾を乗してあげることにして、それから急に思い立つて食糧も積んだということになつておるんじやないですか。
  462. 富樫光雄

    富樫証人 いや違いますよ。それは羅臼から約三里ほど知床の沖の方に積んで来ておるのですから、米や何かは……。
  463. 島田末信

    ○島田委員 要は村尾今川が乗らなくても、食糧は食糧としてそれだけのものは積む予定だつたのですね。
  464. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  465. 島田末信

    ○島田委員 それは何日分くらい積んだのですか。
  466. 富樫光雄

    富樫証人 米約八升くらい積んだのです。
  467. 島田末信

    ○島田委員 結局あなたとかじの取手の二人の食糧ですか。
  468. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。それは配給があつたのを白にしてもらうのに羅臼に置いてあつたのです。その分を借りて来たから積んだのです。
  469. 島田末信

    ○島田委員 田島君は二人乗せることを乗り込む初めから知つていたわけですか。
  470. 富樫光雄

    富樫証人 わからないのです。
  471. 島田末信

    ○島田委員 乗つてから知りましたか。
  472. 富樫光雄

    富樫証人 乗つてからでもわからないのです。機械の方へ入つてつたから……。
  473. 島田末信

    ○島田委員 機械の方ヘピストルを持つて今の村尾君が入つて来たわけですね。君は機械室に入つてつたの。そうじやなく、田島だろう。
  474. 富樫光雄

    富樫証人 結局機械をかけつぱなしで、機械室へたいてい入らないのですよ。油さしに入るぐらいなんです。
  475. 島田末信

    ○島田委員 それで田島君は、結局今回、村尾の二人が乗つておることを知らずにおつたわけですか。
  476. 富樫光雄

    富樫証人 今川さんが乗つておるのはわかつておるのです。
  477. 島田末信

    ○島田委員 村尾というのは知らなかつたのですか。
  478. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  479. 島田末信

    ○島田委員 知つたのピストルを向けられて、初めて知つたのですか。
  480. 富樫光雄

    富樫証人 いや違います。二、三十分たつてから、寒いというので田島が防寒具をとりに行つたら、今川さんが中に入つているし、もう一人の人が上におつて、二人なんだなということを知つたのです。
  481. 島田末信

    ○島田委員 ピストルを向けられたのはかじ場ですね。
  482. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  483. 島田末信

    ○島田委員 なかなか度胸のいい男なんですね。ピストルを向けられて知らん顔をしてかじをとつておりましたか。
  484. 富樫光雄

    富樫証人 それは青くなつておりました。
  485. 島田末信

    ○島田委員 やはりふるえておつたでしようか。
  486. 富樫光雄

    富樫証人 そうだと思うのですけれども……。
  487. 島田末信

    ○島田委員 あなたが来たときの感じはどうなんです。平気でかじをとつておりましたか。
  488. 富樫光雄

    富樫証人 重々しい顔をしておつたと思います。大体見たときに、どこへ向いておるかということを聞いたけれども、一向にかじをまわさなかつた。変な顔をしておると思つてそこえ行きました。そうして自分に向けられて初めてわかつたのですから……。
  489. 島田末信

    ○島田委員 私はあなた方が相談の上で、計画的にやつたとは思わぬけれども、大体うすうす二人は変なやつだ、あるいはただ者じやないぞということも十分察せられて、ピストルを向けられたときには案外平気だつたという印象を受けるんだが、そういうことじやないかね。
  490. 富樫光雄

    富樫証人 違います。
  491. 島田末信

    ○島田委員 ピストルを向けられる時分にはそんなこともありそうなことだぐらいの、大体受入れ態勢というか、心構えができておつたのではないですか。
  492. 富樫光雄

    富樫証人 いやそんなことは全然ございません。
  493. 島田末信

    ○島田委員 そうでなければ田島君がびつくりして、ほとんどかじをとる気持もしないし、何かそんな平穏な結果は得られまいと思うが、どうだろう。
  494. 富樫光雄

    富樫証人 そういう場合になれば、やはり言うなりになるよりしようがないと思うのです。
  495. 島田末信

    ○島田委員 あなたは結局そういう場合には大した動揺もなかつたわけだな。
  496. 富樫光雄

    富樫証人 動揺がないわけはないです。
  497. 島田末信

    ○島田委員 動揺はあつたけれども、すいたようにしてみろというような気持だつたんだね。
  498. 富樫光雄

    富樫証人 やはりそうなるよりしかたがないです。
  499. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 さつき言つたときに、何か村尾から警察へ届けてもいいと言われたわけですか。
  500. 富樫光雄

    富樫証人 自分は何も言われないですよ。
  501. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 田島はどうですか。
  502. 富樫光雄

    富樫証人 田島はそんなことを言われたらしいけれども……。
  503. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 田島言つてつた、どういう意味だ。
  504. 富樫光雄

    富樫証人 どういう意味とは。
  505. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 村尾警察へ届け出ろと言つたことは……。
  506. 富樫光雄

    富樫証人 それは警察とは言わなかつたけれども、保安庁かどこか、調べられた場合には何も隠さなくてもいいから、現在のありのままを言えということを言われた。
  507. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 君には言わなかつた、あなたは田島から聞いたんだね。
  508. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  509. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 軽い意味で、ただ警察言つてもさしつかえないぞという意味ですか、何か意味があるように思うんだが、別にないのですか。
  510. 富樫光雄

    富樫証人 自分としては別にどんなあれで言つているのかわからないです。
  511. 山口武秀

    山口(武)委員 お伺いしますが、羅臼から根室へあなたの船が向うのは、これはだれの命令で行つたのですか。
  512. 富樫光雄

    富樫証人 それは自分の意思ですよ。
  513. 山口武秀

    山口(武)委員 船主の方から話があつたということはなかつたですか。
  514. 富樫光雄

    富樫証人 船主は全然関係してなかつたです。
  515. 山口武秀

    山口(武)委員 そうしますと、この船があちらへ向うことについて、あなたのお父さんからの関係ということは全然ないのですか。
  516. 富樫光雄

    富樫証人 全然ありません。
  517. 山口武秀

    山口(武)委員 このときあなたのお父さんは、この船がいた場所から、かなり離れていたのですか。
  518. 富樫光雄

    富樫証人 離れております。
  519. 山口武秀

    山口(武)委員 どのくらい離れておりましたか。
  520. 富樫光雄

    富樫証人 大体根室から汽車でもつて十何時間ございます。札幌のちよつと向うでございますから……。
  521. 山口武秀

    山口(武)委員 そのときにあなたのお父さんの手紙が来ておるというようなことはないですか。
  522. 富樫光雄

    富樫証人 ないです。
  523. 山口武秀

    山口(武)委員 そうするとあなたのお父さんりさしずでその船がこつちへまわつたということは全然ないですね。
  524. 富樫光雄

    富樫証人 全然ないです。
  525. 山口武秀

    山口(武)委員 それではあなたのお父さんについての問題ですが、あなたのお父さんは二十一年に千島から引揚げまして、抑留中にソ連の密偵の任務を負わされていたというようなうわさがあるという話でしたが、あなたは聞いておりませんか。
  526. 富樫光雄

    富樫証人 自分のおやじはソ連の方には行つておりません。
  527. 山口武秀

    山口(武)委員 千島から引揚げられたでしよう。
  528. 富樫光雄

    富樫証人 千島に全然行つていないのです。それは何か間違つておるのではないですか。美唄というところにずつとおつて、全然千島の方には出ていないのです。
  529. 山口武秀

    山口(武)委員 ソ連の密偵だといううわさが別な方面から飛んでいたことは、あなたは聞いておりませんか。
  530. 富樫光雄

    富樫証人 全然ないです。
  531. 山口武秀

    山口(武)委員 あなた自身がお父さんに日常接触していても、そういうようなことは感じませんか。
  532. 富樫光雄

    富樫証人 全然感じません。
  533. 山口武秀

    山口(武)委員 それから次にお伺いしたいと思いますのは、あなたが拳銃を突きつけられて国後島に向つた向うからソ連監視船が来たというのですが、これはマツカーサー・ラインを越えてからですね。
  534. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  535. 山口武秀

    山口(武)委員 それで向うから船が来まして、これは拿捕されたということですか、それとも連絡があつて誘導されたということですか。
  536. 富樫光雄

    富樫証人 それはどういうふうになるのですか、自分らはとにかく国後行つたのです。陸伝いに村尾のさしず通り行つたのですから、そこへ監視船が来て乗せられたのですから、それはどういうようなことになるのですかね。
  537. 山口武秀

    山口(武)委員 そのときに拿捕されたのか、向う連絡があつて誘導されたのかということは、あなた自身の判断ではわかりませんか。
  538. 富樫光雄

    富樫証人 それはわからないね。
  539. 山口武秀

    山口(武)委員 たとえばあなたは向うへ行つてから、向うの係官からの調べを受けたと言われますが、そのときの調べに、なぜ越境して来たかということを言われたと言われておるのですがどうですか。
  540. 富樫光雄

    富樫証人 聞かれました。
  541. 山口武秀

    山口(武)委員 あなたは何と答えましたか。
  542. 富樫光雄

    富樫証人 拳銃を向けられてここへ来たと言いました。
  543. 山口武秀

    山口(武)委員 向うでなぜ越境して来たかということを聞くのには、向うでもあらかじ連絡があつたら、なぜ越境して来たかというようなことを聞かぬと思いますが……。
  544. 富樫光雄

    富樫証人 それはわからないですね。どういう意思で向うが聞いておるのかわからないです。
  545. 山口武秀

    山口(武)委員 向うのあれはいいです。あなた自身の感じたことはどうですか。
  546. 富樫光雄

    富樫証人 ……
  547. 山口武秀

    山口(武)委員 いや、わからなかつたらいいですが……。そうしますと、あらかじ連絡があつて誘導されて行つたというふうにはあなたは判断できませんね。
  548. 富樫光雄

    富樫証人 それはよくわからないね。
  549. 山口武秀

    山口(武)委員 誘導されたというふうな言葉は使えないが、何だかわからないということになりますね。
  550. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  551. 山口武秀

    山口(武)委員 それからあなたは今川とか村尾ソ連と密接な関係があつた感じたというのですが、一体どういうところで密接な関係があつた感じましたか。
  552. 富樫光雄

    富樫証人 それは一体だれが調べてそういうふうに言つておるかわからぬけれども、密接な関係があるというのは、今川村尾ソ連と密接な関係なんていうのは全然わからないね、自分は。
  553. 山口武秀

    山口(武)委員 そんなことが、関係があつたということも……。
  554. 富樫光雄

    富樫証人 それはね、村尾という人は多少関係があるということは、それはわかるですよ。
  555. 山口武秀

    山口(武)委員 なぜです。
  556. 富樫光雄

    富樫証人 向うの兵遂と話しているところから見て、まんざら――全然われわれのする話とは違うから、これは何か大分関係があるというような……。
  557. 山口武秀

    山口(武)委員 それは向うへ行つてから感じたことですか。
  558. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  559. 山口武秀

    山口(武)委員 それまでは感じなかつたのですか。
  560. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  561. 山口武秀

    山口(武)委員 今川についてはどうですか。
  562. 富樫光雄

    富樫証人 今川という人については、自分としては全然関係ないと思つております。
  563. 山口武秀

    山口(武)委員 関係ないと思つている。
  564. 富樫光雄

    富樫証人 はあ。
  565. 山口武秀

    山口(武)委員 それからあなたはさつきの言葉に漁がないからよく漁船はマツカーサー・ラインを越えているということを言つておりましたが、そういうことはしばしばですか。
  566. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  567. 山口武秀

    山口(武)委員 漁がないからマツカーサー・ラインを越えて先へ出ているということを言われましたね。
  568. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  569. 山口武秀

    山口(武)委員 そういうことがしばしばあるのですか。
  570. 富樫光雄

    富樫証人 そうでないかと思うんだけれども……。今拿捕なんかありましたから。
  571. 山口武秀

    山口(武)委員 そうじやないかと思うと言うのは、あなた話に聞いたか見たかというようなことはないのですか。
  572. 富樫光雄

    富樫証人 自分からはそう思うんだけれどもね。
  573. 山口武秀

    山口(武)委員 そう思う……。
  574. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  575. 山口武秀

    山口(武)委員 それまでの間に、そういうことでソ連船から拿捕されているというような話は聞いておりませんか。
  576. 富樫光雄

    富樫証人 漁船がですか。
  577. 山口武秀

    山口(武)委員 ええ。
  578. 富樫光雄

    富樫証人 拿捕されているですよ。
  579. 山口武秀

    山口(武)委員 拿捕されている……。
  580. 富樫光雄

    富樫証人 ええ。
  581. 山口武秀

    山口(武)委員 いいです。
  582. 福田喜東

    福田(喜)委員 ちよつと二つ三つさらにつけ加えてお尋ねしますが、あれですが、あれですか、越境して、マツカーサー・ラインを越えて、監視船が来てから、村尾向う兵隊と話している。これはロシヤ語で話しておつたのですか。
  583. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  584. 福田喜東

    福田(喜)委員 ロシヤ語ですね。
  585. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  586. 福田喜東

    福田(喜)委員 仲よく話しておつたわけですね。
  587. 富樫光雄

    富樫証人 まあ普通に話しておつたわけです。
  588. 福田喜東

    福田(喜)委員 あなたそのときは部屋り中にとじ込められておつたわけですか。
  589. 富樫光雄

    富樫証人 向うのロスケの監視船部屋の中に。
  590. 福田喜東

    福田(喜)委員 ロスケの監視船ですか、自分の船ですか。
  591. 富樫光雄

    富樫証人 ロスケのです。
  592. 福田喜東

    福田(喜)委員 それからその前に、田島君が変な顔をしてかじを変な方に向けておつた。お前ひつ込んでおれというわけで、自分ストーブのところに行つたと言うが、そのときどういう気持だつたか。
  593. 富樫光雄

    富樫証人 自分の気持ですか。どういう気持もこういう気持もなかつたですよ。
  594. 福田喜東

    福田(喜)委員 つまり私のお聞きしたいのは、ストーブに黙々としてあたつていたわけでしようが、こういうことろに来て、監視船にふんづかまつて向うへ連れて行かれるのだろうが、そういうことの危険はあるわけですね。そうして生死のほどもわからぬようなことになるかもしれないんですが、ピストルを突きつけられたときに、なせこういうことをするのかと言つて反抗するような気持は起らなかつたのですか。
  595. 富樫光雄

    富樫証人 それは起りました。
  596. 福田喜東

    福田(喜)委員 ピストルをつきつけられて、反抗するとして、それに抵抗することの危険と、ソ連に連れて行かれたときに行く先がどうなるかわからぬということの危険は、どつちがあろと思つていたのですか。
  597. 富樫光雄

    富樫証人 それは無抵抗の方がいいと思つた
  598. 福田喜東

    福田(喜)委員 無抵抗の方がいい。
  599. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  600. 福田喜東

    福田(喜)委員 とつつかまえられることはないと思つたのか。というのは、ぼくが言うのは、証人の陳述の印象からしますと、とにかく無抵抗で連れて行かれて、少しも反抗の色が見えないというのは、何か今川村尾のやることについて、積極的に援助とまでは行かなくとも、そういうことが起るかもしれぬということは暗黙に知つてつたような気もするのです。そういう印象がありますが、そんなことはないのですか。
  601. 富樫光雄

    富樫証人 全然ないです。
  602. 福田喜東

    福田(喜)委員 とつつかまえられるとどういうことになるかわからぬという気持は、全然なかつたのですか。ほつておくよりほかないと思つてつたわけですか。
  603. 富樫光雄

    富樫証人 結局自分の無抵抗というのは船でもつてばたばたすれば射たれる。彼としても死ぬか生きるかどつちかなんだから……。
  604. 福田喜東

    福田(喜)委員 向うにとつつかまつたときは、死ぬか生きるかわからぬと思つたのですか。
  605. 富樫光雄

    富樫証人 まずそれはあとの問題として、彼に抵抗すれば自分が射たれる、それよりかおとなしくしておれば、向うへ行つてもまさか殺されないだろう。
  606. 福田喜東

    福田(喜)委員 そういうことですか。
  607. 富樫光雄

    富樫証人 そう自分は思つておとなしくしておつたのです。
  608. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつと関連がありますから聞きますが、あなたのお父さんは今空知の美唄におるので、全然田島に会つたことはないという話ですが、根室警察調べたときに、向らの調べソ連の将校か兵隊か知らぬけれども、君のお父さん名前知つておる。よろしく言つてくれということをソ連調べた人からことずけがあつたということを、根室警察言つておるという通知がこつちへ来ておるのだけれども、それはあなたじやなくて田島君なんだね。
  609. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  610. 篠田弘作

    篠田委員長 田島君のお父さんは、ソ連にいつたのだね。
  611. 富樫光雄

    富樫証人 ソ連におつたのです。
  612. 篠田弘作

    篠田委員長 これを乗せる場合に、乗る人があなたのところに直接話に来たのか、田島君を通じて話に来たのか。
  613. 富樫光雄

    富樫証人 田島君のおやじさんですか。
  614. 篠田弘作

    篠田委員長 いや田島君自身を通じて……。
  615. 富樫光雄

    富樫証人 いや船に直接来たのですから……。
  616. 篠田弘作

    篠田委員長 田島君が仲介したわけじやないのだね。
  617. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  618. 篠田弘作

    篠田委員長 君に直接会いに来たのだね。
  619. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  620. 篠田弘作

    篠田委員長 積荷とかそういうものは一つも手をつけなかつたのか、ソ連では。
  621. 富樫光雄

    富樫証人 つけない。
  622. 篠田弘作

    篠田委員長 魚も、衣類も、ただ調べて返したわけですか。
  623. 富樫光雄

    富樫証人 ただ調べたのです。
  624. 福田喜東

    福田(喜)委員 委員長、ちよつと。それは一番初め田島言つたので、船長に言つたんじやない。
  625. 篠田弘作

  626. 富樫光雄

    富樫証人 田島君でなく、船に来た。そのとき二人で寝ておつたが、来たから出てみたらそういう話になつたのです。
  627. 篠田弘作

    篠田委員長 田島が出たわけだね。
  628. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  629. 篠田弘作

    篠田委員長 君の話は違うじやないか。君の船に来て、君に話したと言つただろう。
  630. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  631. 篠田弘作

    篠田委員長 一番最初は田島に話したんだろう。
  632. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  633. 篠田弘作

    篠田委員長 だからそこが大事なんだよ。だから田島から話を聞いたんだろう。
  634. 富樫光雄

    富樫証人 おいどうするといつたから、いねいからと断われ……。
  635. 篠田弘作

    篠田委員長 だから田島から聞いたんじやないか、さつきから君のしやべつているところによると、そうじやなくて、向うの人が君のところに先に直接来て、そうしてものを頼んだというふうに話をしておるのだけれども、君は今川という人が船へたずねて来て、君に直接頼んだというふうに話しておる。
  636. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  637. 篠田弘作

    篠田委員長 ところが今聞いておるとそうじやなくて、君ら二人寝ていたんだろう。そこへ「紀栄丸」と呼んだから、君が田島にちよつと出て見ろといつたところが、田島が出て行つて、結局今川田島の間に乗せてくれるか、乗せてくれないかという話が出て、「船長」と田島が聞いたんだろう。そこで断わつたんだろう。その次に来たときはだれに会いに来たのだ。
  638. 富樫光雄

    富樫証人 そのときは直接私が会つたのです。
  639. 篠田弘作

    篠田委員長 直接会つたのか。
  640. 富樫光雄

    富樫証人 船へ上つて来たのです。
  641. 篠田弘作

  642. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  643. 篠田弘作

    篠田委員長 では話は君がしたのか。
  644. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  645. 篠田弘作

    篠田委員長 だからそういう点が大事なんだ。全然田島というものは知らないことになつておる。直接君に話したことになつておる。ところが今聞いてみると、田島というものに先に話をしておるわけだ。それでは田島今川というものの間に何か知合い関係があるというふうに君は思つてなかつたか。
  646. 富樫光雄

    富樫証人 全然思つておりません。
  647. 山口武秀

    山口(武)委員 今の問題で証人に聞きますが、紀栄丸にやつて来て、田島君といつて呼んだのですか。
  648. 富樫光雄

    富樫証人 いや違います。
  649. 山口武秀

    山口(武)委員 たまたま田島君が出て来ただけですか。
  650. 富樫光雄

    富樫証人 第一番に来たときに、紀栄丸と呼んで、この船は根室に行くそうじやないですかと聞いたのです。
  651. 篠田弘作

    篠田委員長 君らが寝ているのにか、そこをはつきりしなければならぬのだよ。
  652. 富樫光雄

    富樫証人 紀栄丸と呼んだから出て見れやと言つたのです。そうして田島君が出た、この船は根室へ行くそうだけれども、そうじやないですかと聞いたのです。そうして行くのだつたら、ちよつと根室まで乗せて行つてもらえないですかと聞いたのです。
  653. 篠田弘作

    篠田委員長 聞いたつてわからないじやないですか。寝ておるのだから……。
  654. 富樫光雄

    富樫証人 聞えているのです。いねえと言えつて小さな声で言つたのです。だめだと断われと言つた。そう言つた田島君が、船長がいねえからわからない、こう言つて断わつたのです。
  655. 山口武秀

    山口(武)委員 そうすると田島君をそとにたずねて来たというような気配はなかつたのですか。
  656. 富樫光雄

    富樫証人 違います。
  657. 山口武秀

    山口(武)委員 たまたま紀栄丸言つて来ただけですね。
  658. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  659. 山口武秀

    山口(武)委員 それでただ田島君が出て行つたというわけですか。
  660. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  661. 山口武秀

    山口(武)委員 田島君とその人の話だけで、何か連絡があるか、あるいは特別な関連か、特別な関係を持つような話の筋合いがありましたか。
  662. 富樫光雄

    富樫証人 全然自分としてはそういうことは思わないのです。
  663. 山口武秀

    山口(武)委員 そうすると田島君と特別なことというようなものは何もあなたは感じなかつた。そういう状況は見ることはできなかつた。こういうことになりますね。
  664. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  665. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そうすると最初はそれでいいが、二度目に村尾が来たときに、今度は二人で乗せてくれということを、だれに言つたか。
  666. 富樫光雄

    富樫証人 ぼくに言いました。
  667. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 田島と何か話はなかつたか。
  668. 富樫光雄

    富樫証人 田島君は機関室におつたからわからないでしよう。
  669. 篠田弘作

    篠田委員長 いや、君は二人でいたと言つたじやないか。二度目に来たときに……。
  670. 富樫光雄

    富樫証人 村尾が来たときの話です。
  671. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 田島はおらなかつたのだね。君は田島にどうしようということは相談しなかつたのか。
  672. 富樫光雄

    富樫証人 相談しなかつた……。
  673. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それでは君が二人で乗りなさいということを言つたのか。
  674. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  675. 塚原俊郎

    塚原委員 やはり今の問題に関係しておりますが、先ほどの証人証言を聞いておると、あとから言われたことと、大分違うところが出て来たのです。雪があつて自動車が通らない。だから根室まで船で送つてやろうというあなたの同情した気持はわかるのです。あなたが最初に断わり続けておい、て、気の毒だから乗せてやろうというときに、田島君がどうだ、やはり乗せて行つたらいいじやないかということを、あなたたに進言しましたか。
  676. 富樫光雄

    富樫証人 別に言わないです。
  677. 塚原俊郎

    塚原委員 あなたの一存ですか。
  678. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  679. 塚原俊郎

    塚原委員 その点間違いありませんか。
  680. 富樫光雄

    富樫証人 間違いないです。
  681. 塚原俊郎

    塚原委員 最後に重複するようですが、さつきあなたは小松君が質問したうち、二回にわたつて、三時間、ロスケから日本のことをいろいろ聞かれた……。
  682. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  683. 塚原俊郎

    塚原委員 さつきは非常に簡単なんですが、あなたが今思い出せるだけのことをちよつと言つてください。どういうことを聞かれたか。
  684. 篠田弘作

    篠田委員長 一番初めから。
  685. 富樫光雄

    富樫証人 第一番と船がどこから来たか、羅臼からいきなり根室に行つたか、それとも根室から何日の日に……。
  686. 塚原俊郎

    塚原委員 日にちはけつこうです。こういう條項、こういう條項を聞かれたということを……。
  687. 富樫光雄

    富樫証人 第一番に根室から何日に発つたか。どこへ行つたか。そして知円別というところに行つてから、知円別で何していたか。その日にちを大体聞いたです。そして自分は、知円別でしけのために船を上げて、穴をあけたりして、それを修理するためにだいぶんかかつたから、それをやつて、物を積んで、羅臼へ来て、今度は今川氏が来た。今川氏がどういうふうにして来たか。二人一緒に来たか、それを聞いた。一人で来て、こういうようなわけで乗せることにした。そうして乗せたら、しようちゆうをもらつた。しようちゆうをもらつた。しようちゆう飲むのかと開くのです。自分はよけい飲まないから、二人でその晩にびんのやつを半分くらい飲んだか飲まないくらいですから、そう答えてやつたら、その残つたしようちゆうはどこにあるかというのです。船がセンベコタンに着いたときにすでに、ロスケの兵隊たちも飲んでいるのだから、そのしようちうがどこにあるといつたとき、ロケスの兵隊が持つてつたと言つたら、いや、ロスケはそんなことをしないというのです。
  688. 塚原俊郎

    塚原委員 やつら、飲んじやつたのか。
  689. 富樫光雄

    富樫証人 一本半も飲んじまつたのです。
  690. 塚原俊郎

    塚原委員 ひどいやつらだ。(笑声)
  691. 富樫光雄

    富樫証人 それを聞いておる。飲まないというし……。それから結局コースを終えるまで、国後向うまでの間に、村尾がどういうことを言つたか、今川がどういうことを言つたか、それを聞いた。別に村尾ととしても大したことも言わないし、私らも、お容さんはどちらですかと、御商売は何ですかと聞いたです。それに対して、商売は、自分は雑誌社の者であつて、国は神戸かどこかあつちの方だとか言つていたですよ。そうして別に大した話もないし、ときどき、現在船の歩つている位置を聞く。今どの辺を走つておるかとか、そんなことを言つていて、大体茶志骨というところの辺まで来た。それから田島君に、おいおいお前コースを少し曲げてくれと言つた自分ストーブに当つて来るから、君交代してくれといつて下に行つた。そうしておる間にそういうように拳銃を向けられて行つた。そうして今度はロスケの監視船に乗せられた。それまでを詳しく何回も聞いた。どういうわけで回航したか。拳銃を向けられた。拳銃でないというのです。その拳銃はどこにありますかと、こう聞かれたつて、われわれ今度は村尾が今どこにいるものだか、どういうようになつているか全然わからないでしよう。わからないと言つたところが、拳銃はどこにあるか。それは拳銃でない。黒い皮の手袋にだまされたのだ。あなたは残念でしよう。そんなことを言つていました。そして今度は一々言つたことを紙に書いて、何回も同じようなことばかり聞くのです。そして初めに言つたことと後から言つたのと、日にちとか時間とかかわつていると、それに対してまた、初めにあんなことを言つて、今度はこう言う。うそばかりいつているというようなわけで、そんなことで、大した問題ではないのだけれども、時間がかかるわけです。
  692. 塚原俊郎

    塚原委員 日本の国内の事情なんかのことは聞かなかつたですか。
  693. 富樫光雄

    富樫証人 国内の事情は別に聞かなかつたです。それから根室半島の部落の名前を聞いた。それから戸数は何戸くらいあるとか、あるいはまた建物はどういう建物があるかとか、そういことを聞いた。それから今の根室にアメリカの進駐軍の何かないかとか……。
  694. 塚原俊郎

    塚原委員 その点が今大事なんだ。アメリカの進駐軍の何か……。
  695. 富樫光雄

    富樫証人 進駐軍の何とかいつたけれども、自分は、兵含か何かとこう聞いたので、それはない、自分にはわからない、こういつた。それ以上無理には追究して聞かなかつたです。大体において聞かれたというのはそういうような程度のものです。
  696. 塚原俊郎

    塚原委員 それで最後に、あなたの現在の気持はどうですか。そういうことろに行つて、いわゆるあなたの言うロスケに調べられて、くそおもしろくないというような気持を持つておるか、この二人にだまされたという非常に憤慨の気持を持つておるか、あなたの率直な気持はどうですか。
  697. 富樫光雄

    富樫証人 持つております。
  698. 塚原俊郎

    塚原委員 しやくにさわつてしようがないか。
  699. 富樫光雄

    富樫証人 そうです。
  700. 塚原俊郎

    塚原委員 けつこうです。
  701. 篠田弘作

    篠田委員長 ほかに御質問ありませんか。……なければ富樫証人に対する尋問はこれをもつて終ります。証人には遠いところを御苦労さんでした。  それでは午後一時まで休憩をいたしまして、次の証人田島君を尋問することにいたします。     午後零時二十九分休憩      ――――◇―――――     午後一時四十二分開議
  702. 篠田弘作

    篠田委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  不正入出国に関する件について証人より証言を求むることといたします。ただいまお見えになつておる証人田島信男さんですね。
  703. 田島信男

    田島証人 はい。
  704. 篠田弘作

    篠田委員長 あらかじめ文書をもつて承知通り、本日正式に証人として証書を求むることに決定いたしましたから、さよう御了承願います。ではただいまより不正入出国に関する件について証言を求むることといたします。  証言を求める前に証人に一言申し上げます昭和二十二年法律第二百二十五号議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人に証書を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならぬことと相なつております。  宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人の配属者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあつた者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあつた者がその職務上知つた事実であつて、黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになつております。しかして証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは、一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられることとなつておるのであります。一応このことを御承知になつておいていただきたいと思います。  では法律の定めるところになりまして証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書朗読を願います。     〔証人田島信男君朗読〕    宣誓書   良心に従つて、直実を述べ、何事もかくさず、又何事もつけ加えないことを誓います。
  705. 篠田弘作

    篠田委員長 署名捺印してください。     〔証人宣誓書署名捺印
  706. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証書を求めることになりますが、証言は、証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際には、その都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、これから質問をしているときはおかけになつていてけつこうですが、お答えの際は御起立を願います。  あなたの経歴を述べてください。――過歴とはどういう学校を出たとか、どういう仕事をいつからいつまでやつてつたとかいうこと……。
  707. 田島信男

    田島証人 私は学校は高等科二年を卒業して、郵便局の電報配達だつた
  708. 篠田弘作

    篠田委員長 どこの郵便局……。
  709. 田島信男

    田島証人 根室郵便局。
  710. 篠田弘作

    篠田委員長 小学校は。
  711. 田島信男

    田島証人 根室高等小学校を出て……。
  712. 篠田弘作

    篠田委員長 根室高等小学校を出て、根室郵便局の電報配達をやつてつた……。そうして。
  713. 田島信男

    田島証人 郵便局をやめてから船に乗つたのです。機帆船に。
  714. 篠田弘作

    篠田委員長 何という機帆船……。
  715. 田島信男

    田島証人 機帆船名ですか。昭盛丸。
  716. 篠田弘作

    篠田委員長 何トンぐらいの船。
  717. 田島信男

    田島証人 六十トンくらい。
  718. 篠田弘作

    篠田委員長 それはいつごろ。
  719. 田島信男

    田島証人 昭和二十二年の十月です。
  720. 篠田弘作

    篠田委員長 水夫で乗つたのだね。
  721. 田島信男

    田島証人 いえ、違います。
  722. 篠田弘作

    篠田委員長 何で乗つた
  723. 田島信男

    田島証人 コツク長で。
  724. 篠田弘作

    篠田委員長 それから。
  725. 田島信男

    田島証人 ずつと漁船乗りしたのです、いろいろと。
  726. 篠田弘作

    篠田委員長 ほんとうの魚をとるやつね。
  727. 田島信男

    田島証人 はい。そうして去年の十月半ばに紀宋丸に乗つた
  728. 篠田弘作

    篠田委員長 去年の十月、二十五年の十月だね。
  729. 田島信男

    田島証人 はい。その機関長になつた
  730. 篠田弘作

    篠田委員長 機関長……。
  731. 田島信男

    田島証人 私は免状はありませんけれども、機関のことを心得えております。それでもつてつたのです。
  732. 篠田弘作

    篠田委員長 免状がなくても機械は動かせるのだな。
  733. 田島信男

    田島証人 ええ。
  734. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたは昭和二十五年十二月ごろ、北海道の知床半島の羅臼で、北大農学部今川英男及び雑誌記者と称する村尾啓一郎の両名から、根室まで乗船さしてくれという依頼を受けたそうですが、今川とあなたとの間に何か個人的な関係がありますか。
  735. 田島信男

    田島証人 ないです。
  736. 篠田弘作

    篠田委員長 何にもない。
  737. 田島信男

    田島証人 はい。
  738. 篠田弘作

    篠田委員長 初めて会つた
  739. 田島信男

    田島証人 はい。
  740. 篠田弘作

    篠田委員長 その乗船の交渉を受けたときの模様を話してください。
  741. 田島信男

    田島証人 十二日の日、晝ごろあたり、私が船で茶わんを洗つつおつたんです。
  742. 篠田弘作

    篠田委員長 どこで洗つてつた
  743. 田島信男

    田島証人 羅臼港内の紀栄丸の船首で。
  744. 篠田弘作

    篠田委員長 十二日に。
  745. 田島信男

    田島証人 ええ。
  746. 篠田弘作

    篠田委員長 港内で茶わんを洗つてつた……。
  747. 田島信男

    田島証人 ええ。そうしたらば、十二日の十二時ごろ……。
  748. 篠田弘作

    篠田委員長 夜中の。
  749. 田島信男

    田島証人 ええ。そうしたら、この船は根室へ行くそうですが、乗せて行つてくださいと私に言つた。そうしたら、船頭が寝ていたけれども、めんどうくさいからいないと言つた。船頭が来たらば相談してみる、じや、またあとで来ます。はいはい。そうして今川さんは帰つた。それで船頭に相談したのです。今あなたも聞いたでしようけれども、お客さんが乗せて行つてくれと言つたが、どうすると言つた。ううんと言つて何も言わなかつた。そしてまた再び四時ごろ来たのです。そうしてこのとき……。
  750. 篠田弘作

    篠田委員長 四時ごろとはいつの四時ごろ。
  751. 田島信男

    田島証人 午後の四時です。
  752. 篠田弘作

    篠田委員長 朝の六時ごろかい、一番最初は。
  753. 田島信男

    田島証人 晝の十二時。
  754. 篠田弘作

    篠田委員長 十二日の晝の十二時か。
  755. 田島信男

    田島証人 晝の十二時で、そうして再び午後の四時ごろ来て……。そうして船頭に乗せてくれと乗船を願つたわけです。そのときは私は何も話さなかつたのです。今川さんには。
  756. 篠田弘作

    篠田委員長 船はいつ出帆したんですか。
  757. 田島信男

    田島証人 十三日、羅臼をね。根室から羅臼行つたのは十一月二十三日です。二十三日に出帆したのです。羅臼へはね。
  758. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつと時期が違うのじやないかね。十二日に出帆したのは午前二時……。さつきの船長の話だと、十一日に、船の中で、君と船長と二人で寝ておつた。そこに紀栄丸紀栄丸と呼ぶので、自分が起きないで、田島君に起きてみろと言つたら、君が起きて出てみた。そうしたう君に、この船は根室に行く船だそうだが、乗せて行つてくれないかという話をしておつた。そうしてこつちから船長がいないと言え、断わつてしまえと言つたので、君は今船長がいないからと言つて断わつたというのだが、今の話を聞くと、君は茶わんを洗つてつたのだね。
  759. 田島信男

    田島証人 そうです。
  760. 篠田弘作

    篠田委員長 船長は寝ておつた…。
  761. 田島信男

    田島証人 ええ。
  762. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつとそこに食い違いがある。――それでは証人は終戦後国後島に渡つたことがありますか。
  763. 田島信男

    田島証人 ありません。
  764. 篠田弘作

    篠田委員長 この間行つたのが初めてだね。
  765. 田島信男

    田島証人 ええ。
  766. 篠田弘作

    篠田委員長 あなたのお父さんは長く千島にいたのか。
  767. 田島信男

    田島証人 千島の志発島におりました。
  768. 篠田弘作

    篠田委員長 何年くらいおつたの
  769. 田島信男

    田島証人 約一年半ぐらいおりました。
  770. 篠田弘作

    篠田委員長 いつからいつまで……。
  771. 田島信男

    田島証人 よくわからぬです。私はまで学校に行つていたんです。
  772. 篠田弘作

    篠田委員長 お父さんは何をしていたの。
  773. 田島信男

    田島証人 海運運搬業をしていたです。
  774. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは行つたり来たりしておつたのでね。
  775. 田島信男

    田島証人 そうです。
  776. 篠田弘作

    篠田委員長 どんな船に乗つていた……。
  777. 田島信男

    田島証人 ハル丸と言つて八トンばかりの船です。
  778. 篠田弘作

    篠田委員長 それは根室国後の間を行つたり来たりしていたわけですね。
  779. 田島信男

    田島証人 国後ではない、志発です。歯舞です。色丹の次に位します。
  780. 篠田弘作

    篠田委員長 そうか。千島といつて国後にいたことはないのでね。
  781. 田島信男

    田島証人 ええ。
  782. 篠田弘作

    篠田委員長 紀栄丸は、船長は十二日と言つているし、あなたは十三日と言つているが、十三日でも十二でも、とにかく羅臼にほどういう目的行つたのか。
  783. 田島信男

    田島証人 君らの船は小型漁船の冷蔵船です。それで羅臼から根室までの間は、魚の運搬なんです。それで魚を積みに行つたんです。
  784. 篠田弘作

    篠田委員長 おもに何を積みに行つたか、魚といつてもたくさんある。
  785. 田島信男

    田島証人 魚といつてもいろいろありますが、かれい、いか、そんなようなものですね。そのときによつて何でも積みますけれども……。
  786. 篠田弘作

    篠田委員長 十二月ごろというと何ですか。
  787. 田島信男

    田島証人 あのときはかれいがおもな目的でした。
  788. 篠田弘作

    篠田委員長 それで魚は積んだの。
  789. 田島信男

    田島証人 羅臼に着いたらばしけだつたです。それで魚はあつたわけだけれども、荷物の荷役を見合せていたのです。そうしているうちに内地の船が私どもの値段よりも相当高く買つてつたわけです。それで間に合わないので、一時見合わせようというわけで、二、二日待つた。そうしているうちに南で吹かれた。しけにあつて、知円別に船が上げられたわけです。船を上げると同時に、村の人に総出で巻いてもらつて、船の穴の明いたところを修理しまして、なぎを見て船をおろして根室に来ることにしたのです。
  790. 篠田弘作

    篠田委員長 船を上げたのはどこですか。
  791. 田島信男

    田島証人 知円別です。
  792. 篠田弘作

    篠田委員長 羅臼のどのくらいの方角ですか。
  793. 田島信男

    田島証人 羅臼から五里くらいです。
  794. 篠田弘作

    篠田委員長 五里北だね。
  795. 田島信男

    田島証人 そうです。
  796. 篠田弘作

    篠田委員長 その故障は小さい故障ですか。
  797. 田島信男

    田島証人 そうですね。一尺五寸ぐらいの穴を明けたんです。
  798. 篠田弘作

    篠田委員長 それを何日問で修理したの。
  799. 田島信男

    田島証人 一時間か二時間で修理したです。
  800. 篠田弘作

    篠田委員長 一時間か二時間で修理しちやつたのか。木造船だね、
  801. 田島信男

    田島証人 ええ。
  802. 篠田弘作

    篠田委員長 知円別で修理したのだね。
  803. 田島信男

    田島証人 そうです。
  804. 篠田弘作

    篠田委員長 それで先に行つた内地の船に高く買われちやつて、君たちは買うことができなかつたわけか。
  805. 田島信男

    田島証人 買うことができないわけではないが、値段が合わないから見合せたわけです。
  806. 篠田弘作

    篠田委員長 買わなかつたわけか。
  807. 田島信男

    田島証人 ええ。
  808. 篠田弘作

    篠田委員長 何も買わなかつたか。
  809. 田島信男

    田島証人 何もといつても、あれでも、先に、内地の船が入る前に、十箱ぐらい積んだのがあつた。それはしけのときに海に入れた。
  810. 篠田弘作

    篠田委員長 投げたんだな。
  811. 田島信男

    田島証人 投げたんでなく、落ちちやつた
  812. 篠田弘作

    篠田委員長 甲板に積んであつたのか。
  813. 田島信男

    田島証人 デツキに積んであつた
  814. 篠田弘作

    篠田委員長 そうか。帰りには魚は一つも積んでなかつたわけだな。
  815. 田島信男

    田島証人 帰りは積んであつたのです。
  816. 篠田弘作

    篠田委員長 何んぼぐらい。
  817. 田島信男

    田島証人 みやげ物ばかり五箱くらい……。
  818. 篠田弘作

    篠田委員長 そのほかに何を積んではつたの
  819. 田島信男

    田島証人 その知円別で船を上げたときには、山本という業者の番屋がある。そこの漁夫に手伝つてもらつて船を巻いたわけです。船を、しけているときに横になつて上げたのです。村の人が出てくれたけれども、だれもあの寒いときに海の中に入つてくれる人がない。そこの漁夫に入つてもらつて、大まわしをかけて巻いた。その漁夫は根室へ帰つて来る漁夫です。そこでその礼として、その荷物、雑貨を積んだ。
  820. 篠田弘作

    篠田委員長 どのくらい積んだの。
  821. 田島信男

    田島証人 三十個です。
  822. 篠田弘作

    篠田委員長 漁夫は何人。
  823. 田島信男

    田島証人 さあ、それは……。
  824. 篠田弘作

    篠田委員長 漁夫は何人分かわからないけれども、三十個積んでやつたのか。
  825. 田島信男

    田島証人 そうです。
  826. 篠田弘作

    篠田委員長 羅臼を出たのはいつ……。羅臼出帆して根室まで帰る。羅臼出帆したのは。
  827. 田島信男

    田島証人 十三日です。
  828. 篠田弘作

    篠田委員長 十三日の何時ごろ。
  829. 田島信男

    田島証人 朝二時です。
  830. 篠田弘作

    篠田委員長 それで、どの辺まで来たときに……。その状態をよく話してざらん。羅臼を出発してから、とにかく千島までつれて行かれるときの話を、そとであなたは思い出してごらんなさい。
  831. 田島信男

    田島証人 羅臼を出るときには、私は機関室におつたのです。そこで船頭の命令によつて前進のあれをしたわけです。クラツチを……。そして羅臼出帆した。そして私は機械の調子をとつて、機関室からデツキに出ようとした。そうしたら十二月ですから、寒いから、表に防寒外套を取りに行つた。そうしたらお客さんに出会つた。デツキの入口で……。寒いから中にどうぞ。私はここでけつこう。そうですか。私は忙しいのでお客さんにかまつていられないから、船室に防寒外套を取りに行つたら、中にもいた。お客さんが二人ですねといつたら、私は今川さんと一緒に乗せて行つてもらうことになりましたからよろしく。ああ、どうぞどうぞ。私は船頭が乗して行くものをどうのこうのという権利もないし、どうぞどうぞと言つて、防寒外套を着て来たわけです。そして船頭に言つた。お客さんが二人なんですね。ああ、もう一人、今川さんと相客で乗して行つてくれというから……。ああそうですか。それで羅臼を出た。そして三十分くらい、その表にいたお客さんはともに来て、羅臼のあの辺の状況を、巡視艇が通るかとか、漁船がどうとか、この辺は戸数がどのくらいあるか。国後はどの方向に見えておるかとか、いろいろなことを聞くのです。私はあまりふしぎに思つたから、お客さんはどちらですかといつた。私は神戸の者で、雑誌社の記者で、種とりにこつちに来た。農漁村という雑誌社の者だ。それでこういうことをいろいろ調べているのだ。ああ、そうですか。それでは私らの覚えていることは教えましよう。いろいろなことを雑談したのです。
  832. 篠田弘作

    篠田委員長 かじをとりながら……。
  833. 田島信男

    田島証人 私は機関士ですから、機関の調子をとつてしまうと、仕事がない。あと油をやるだけですから、ただいるだけです。
  834. 篠田弘作

    篠田委員長 そのときは、ともに行つたのは……、船長かじをとつた……。
  835. 田島信男

    田島証人 ええ、とつています。
  836. 篠田弘作

    篠田委員長 君はただ甲板てそういう話をしていただけだな。
  837. 田島信男

    田島証人 そうです。大きな船のように、ブリツジと機関室と別々にないのです。小さい船だからブリツジも機関室も一緒なんです。ブリツジといいましても、箱型のちりよけにつくつてある程度です。それが機関室の入口にあるのです。そして茶志骨が目の前になつたら、船頭が、寒いからストーヴにあたつて来るから――私はいつも御飯たきをするのですが、手がきたなかつたから、おれやるからお前かじをとつていてくれ、とこう言うのです。それで私は持つていた。交代して間もなく、こらつと言つたように思うのです。私はひよつとうしろを見た。そうしたら拳銃が……。船を国後に向けろ。お客さん、じようだんを……よしてください。――私は警察の人か何かの人でもつて拳銃みたようなものを持つて調べか何かに来ているんだなと思つて、じようだんはよしてください。これはじようだんじやない、これをよく見ろ。――そのときは日が少し上つたので、不気味な色に光つたわけです。これは拳銃というものだなと思つて、私は国後へ向けたのです。そして汽罐室に絶対入るな、ここを動くな、ただ私の言う通りかじを持て。そうしてその人は私に、拳銃を向けて、国後へ向けて走つたわけです。そうして、それから約十分か十五分ぐらいして、船長が表のところから顔を出して、ばかやろう、どこへ向けて走つている、こう言つた。そうするとその人は黙つていた。そうして船長は文句をぶつぶつ言いながらともへ来たのです。おもかじ側は物を積んであつて通れないのでとりかじつたつて船長は来た。そして私のかじを持つている横に来た。そうすると船長拳銃を向けた。二人並んでいたわけです。そして拳銃を見せて、船長に、お前は黙つている、もとへもどれ。それで船長は黙つて表に行つた。そうすると船長が帰つてすぐ、今度は今川さんがおもかじ側から来たわけです。そしてどこへ行かれると言うと、お前は黙つて引込んでいろ。そうして今川さんも汽罐場に入つてしまつたのです。そうして私に、そのときはしばらく黙つてつた、そして、私はこういうことをして国後へ渡るのは、君たちにあやまるが、こういうことをするよりほかになかつたと言つた。それで私は、こんなことをしなくても幾らでもあるから、こんなことをして困ると言つたら、いや困らない、君たちはロシヤへ行つても三日以内に必ず返してやる、そして、君たちに一万円ずつの金をやるから、日本へ帰つたらとられないようにしろ。そんなものいらない、ただなるべく早く帰してくれと言つた。いや帰すも帰さぬもない。ただ私を国後のどこでもいいから揚げてくれと言つた。私は国後の案内は知りませんと言つた。そうしているうちに国境を越えてしまつたわけです。そうして国後のハツチヤスにロシヤの監視哨がある。そこで船を向うへ着けられないかと言つたから、着けられないことはないけれども、もしものことがあれば困ります。と言つた
  838. 篠田弘作

    篠田委員長 そこは何というところですか。
  839. 田島信男

    田島証人 ハツチヤスです。ハツチヤスの浜まで走つたわけです。そうしたらロシヤの監視船がノツエトの先から斜めに根室の方へ走るようにして、直角にまわつて私たちのところから約千メートル離れてとまつたのです。そうしたら向うが帽子を振つた。そうしてこちらのその人も表に行つて帽子を振つたのです。そうすると、また私に前進の命令が来たのです。そうして私はロシヤの監視船に横づけにした。そうしてロシヤの監視船に乗せられて、センペコタンに入つたわけです。
  840. 篠田弘作

    篠田委員長 それはセンペコタンの沖何マイルぐらいですか。
  841. 田島信男

    田島証人 センペコタンの沖じやないのです。ロシヤの監視船に乗せられたところはハツチヤス沖です。
  842. 篠田弘作

    篠田委員長 さつき船長はセンペコタンの三マイル沖だと言つたが……。
  843. 田島信男

    田島証人 違います。
  844. 篠田弘作

    篠田委員長 ハツチヤスの沖だね。
  845. 田島信男

    田島証人 そうです。
  846. 篠田弘作

    篠田委員長 海岸からどの程度離れておるか。
  847. 田島信男

    田島証人 約三千メートルぐらい離れております。
  848. 篠田弘作

    篠田委員長 それでハツチヤスからセンペコタンまで何マイルあるのですか。
  849. 田島信男

    田島証人 さあそれはわからないです。
  850. 篠田弘作

    篠田委員長 監視船に乗せられてからセンペコタンに着くまで何時間ぐらい……。
  851. 田島信男

    田島証人 時計は持つていなかつたのですけれども、約一時間半ぐらい走つたと思います。
  852. 篠田弘作

    篠田委員長 そうすると君はじようだんはよしてくださいと言つたときに、向うは何と言つた……。
  853. 田島信男

    田島証人 じようだんはよしてくださいと言つたら、何がじようだんだと言つた。よく見ろと言つたのです。それで私は拳銃を見直したわけです。
  854. 篠田弘作

    篠田委員長 それまでに君はその男とは一ぺんも口をきいたことはないか。
  855. 田島信男

    田島証人 はい。見るのも初めてです。
  856. 篠田弘作

    篠田委員長 それから羅臼を出てから国後まで行つて、そこで監視船につかまつてどういうふうにされたのです。
  857. 田島信男

    田島証人 私は汽罐場におつたのです。そうしたらロスケが乗つて来て、私の手をひつぱつて監視船に乗せられたのです。
  858. 篠田弘作

    篠田委員長 君はそのときかじをとつていたのではないか。
  859. 田島信男

    田島証人 そのときは汽罐場に入つていたのです。回転するのに、クラツチをインするのに汽罐場へ入つたのです。
  860. 篠田弘作

    篠田委員長 そのときかじはたれがとつていた。
  861. 田島信男

    田島証人 かじは離してありました。ロシヤの監視船に横づけにして、それからロスケが乗つて来て、私を無理やりにひつぱつて監視船に乗せられた。そうして簡単な服装検査をされて、そして表に連れて行かれた。そうすると船長さんが入つてつた。そしてそこに入ると同時にまたロスケが入つて来て、詳しく、くつまでぬいで身体検査して、そうして絶対動くなと言つて手をこうやつて、動かすな、動かすと手をはたく。そうしてセンペコタンに連れて行かれたのです。
  862. 篠田弘作

    篠田委員長 それはロシヤの兵隊かね。動くなと言つたの兵隊かね。
  863. 田島信男

    田島証人 監視船の船の人です。
  864. 篠田弘作

    篠田委員長 おもかじ側から来たというのは、右か左か。
  865. 田島信男

    田島証人 とりかじといえば左、おもかじといえば右の方です。
  866. 篠田弘作

    篠田委員長 それから向うへ着いてどうしたのですか。隆地と上つたのですか。
  867. 田島信男

    田島証人 センペコタンへ着くと同時に、ロシヤの歩哨が乗つて来たのです、銃を持つて。そうしてそれとちよつと遅れて通訳が入つて来て、将校が二、三人入つて来た。
  868. 篠田弘作

    篠田委員長 通訳は日本人ですか。
  869. 田島信男

    田島証人 ロシヤ人です。そうしてその人と握手したのです。私にも手を出したのです。私はいやいやながら出したところ、無理にこうやつて握手したのです。そうしてその人といろいろなことを笑いながら話をしたのです。
  870. 篠田弘作

    篠田委員長 その人は君らと一緒に監禁されたのではないのだね。
  871. 田島信男

    田島証人 違います。
  872. 篠田弘作

    篠田委員長 その二人は別の部屋へ行つたわけですね。
  873. 田島信男

    田島証人 そうです。
  874. 篠田弘作

    篠田委員長 そうして君らが調べられるときは、その人たちは笑いながら話しておつた
  875. 田島信男

    田島証人 まだ監視船にいるときです。センペコタンに着いて、桟橋に横づけになると同時に、前の外套をぬいで、レインコートを着て、そうしてボストン・バツクとカバンを持つて将校と一緒上つてしまつたのです。そうして私らは今川さんと三人その監視船に残されたのです。
  876. 篠田弘作

    篠田委員長 今川も監親船に残されたのですか。
  877. 田島信男

    田島証人 そうです。そうして通訳が、あなた方は少々お待ちくださいというので、待つてつたら、あなた方は今晩船に帰つて寝なさい。ああそうですが。そこで通訳の案内で桟橋に行つて、私らの船はあかが入るので、私はあかをかき終ると同時に、船室に入れられて、上からふたをされた。
  878. 篠田弘作

    篠田委員長 そのときは君ら二人でしたか。
  879. 田島信男

    田島証人 そうです。
  880. 篠田弘作

  881. 田島信男

    田島証人 船へ乗せられて連れて行かれたのです。
  882. 篠田弘作

    篠田委員長  ハツチの上にふたをされて入つたのは君ら二人だけですね。
  883. 田島信男

    田島証人 はい。
  884. 篠田弘作

    篠田委員長 今川君ともう一人の村尾という人とは知合いだつたらしいか、それともそうでないか。
  885. 田島信男

    田島証人 そうでないと思います。
  886. 篠田弘作

    篠田委員長 宿屋で会つただけの……
  887. 田島信男

    田島証人 私ほはつきり知らぬけれども、知合いでないと思います。
  888. 篠田弘作

    篠田委員長 そうすると今川という人は村尾に利用されたかつこうになつているのですか。
  889. 田島信男

    田島証人 そうらしいです。
  890. 篠田弘作

    篠田委員長 それからもう一つ。あなたはこういうことを根室警察で言つたことはないか。取調べたソビエトの係の人が、君のお父さん名前はよく知つておる。帰つたらよろしく言つてくれというようなことを言われたことはないか。君のお父さん調べたロスケの係官が、君に、君のお父さん名前はよく知つている、帰つたお父さんによろしく言つてくれと言つたということを、根室警察で言わなかつたか。
  891. 田島信男

    田島証人 言いません、何も。
  892. 篠田弘作

    篠田委員長 そういうことを言われた覚えもない……。
  893. 田島信男

    田島証人 何もそういうことを言われたことはなかつたです。
  894. 篠田弘作

    篠田委員長 君は今まで何か共産主義とか党とか、そういうものに入つたことはないかね。
  895. 田島信男

    田島証人 党派に入つたことはありません。
  896. 篠田弘作

    篠田委員長 共産党に友達でもあるか。
  897. 田島信男

    田島証人 ないです。
  898. 篠田弘作

    篠田委員長 そういう運動をしたこともね。
  899. 田島信男

    田島証人 政治運動は何もありまん。
  900. 篠田弘作

    篠田委員長 わかつていながら向うに連れて行つたというのではないのだね。
  901. 田島信男

    田島証人 ええ、違います。
  902. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは向うの取調べその他の模様については委員諸君から御質問を願います。
  903. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 最初に頼みに来たときに、あなたは会つたと言うが、そのときは、船長がおらぬからと言つてつた。その次に来たときに船長とどういう話をしましたか。
  904. 田島信男

    田島証人 そのとき、乗せて行つてくれと言つたのです。そこで船長が、あなたは何商売の人ですかと言つた。そしたら、その人が名刺を出した。その名刺を出したときに、私は立つたひようしにその名刺をちらつと見た。そうしたら今川とあつた
  905. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 肩書は……。
  906. 田島信男

  907. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 学生らしいふうをしておつたか。
  908. 田島信男

    田島証人 学生らしくなかつたです。防寒帽をかぶつて、脚絆をしておつた…。
  909. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 研究生というと学生なんだろう。
  910. 田島信男

    田島証人 はつきりわからないです。
  911. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこで、船長はそのとき、よろしいと言つたか。
  912. 田島信男

    田島証人 すぐよろしいというのでなく、ねちねちしておつて、乗せて行きたくないような顔をしていたです。
  913. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それで……。
  914. 田島信男

    田島証人 船長は、あした――そのとき十二日はしけなんです、十三日はなぐかどうかわからないのです、あしたなぐようだつたら乗せて行つてやると言つたのです。
  915. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いやなふうな顔をしながらか。
  916. 田島信男

    田島証人 そうです。
  917. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 金か何かよこさなかつたか。
  918. 田島信男

    田島証人 そのときにしようちゆう一本とさつまあげ十枚ばかりくれたのです。寒いから食つてくださいと言つて。それでいらないと言つたのです。
  919. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それは渡してもらう手間か、船賃がわりか。
  920. 田島信男

    田島証人 船賃といいますと、私らは定期でも何でもないから、人を乗せることはできないのですけれども、定期ですと船賃はそれどころではありません、五、六百円します。
  921. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなた方は、しようちゆうをくれたというが、何かほかにお礼するものとは思わなかつたか。
  922. 田島信男

    田島証人 私らは別に船賃をとろうといつた、そういう気持で乗せたのではなかつたのです。ただその人が、十五日までに船を間に合せて帰らなければならない。あそこまでのバスに乗ると、運転手が停車駅々々々で酒を飲むらしい、それで物騒だから乗せてくれ。そこの道が悪いのです。危険なところを通る、だから船の方が安全だ。それに船が明日朝出るようだつたら晝までに根室に入れますから、根室に寄つて支庁にあいさつして行きたい。それで楽に間に合うわけです。ぜひ乗せて行つてくれというわけです。
  923. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そのときに自分一人だと言つたでしようね。
  924. 田島信男

    田島証人 一人だとは言わなかつたけれども……。
  925. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 ただ私を乗せて行つてくれと言つた……。
  926. 田島信男

    田島証人 そうです。
  927. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 その話をしてそれからあとどうしたのです。
  928. 田島信男

    田島証人 そうしてその人は帰つたわけです。あした出るようだつたら旅館まで迎えに来てください、船長はああいいですということで、その次の朝船長が迎えに行つたのです。
  929. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今川さんと言つて行つたのですか。
  930. 田島信男

    田島証人 それはわからない、私は船にいたから……。
  931. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それで船長は先に帰つて来たか、お客さんを連れて来たか。
  932. 田島信男

    田島証人 それは、私はわからない。船長の命令通り……
  933. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いや、船の出るまで、乗るときの状態を聞きたい。
  934. 田島信男

    田島証人 乗るときの状態は、私は汽罐場におつたからわからない。
  935. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 全然下へ入つてつたか。
  936. 田島信男

    田島証人 下といつても、朝二時といつたら暗いです。汽罐場は電気が明るくつけてあるけれども。潮は下潮一ぱいで岸壁が高いから、岸壁の上を人が通つても見えないです、こんな小さい穴一つしかないから。
  937. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこであなたは、出るまでは汽罐室におつて、上にだれが乗つたか……。
  938. 田島信男

    田島証人 お客さんが乗つたか乗らないかもわからない。
  939. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どんな話をしたかもわからない。
  940. 田島信男

    田島証人 はい。
  941. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 さつきあなたが言つたようなことで、初めて二人だということがわかつた
  942. 田島信男

    田島証人 そうです。
  943. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今川と外套を着た人と何か話をしていなかつたか。
  944. 田島信男

    田島証人 今川さんは中にいてキヤラメルを食べていた。その人は上にすわつていた。
  945. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 別に何も話をしなかつたか。
  946. 田島信男

    田島証人 しないようであつたと思います。
  947. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 二人の間は、全然知らぬ人の間のように、あなたは見ておつたか。
  948. 田島信男

    田島証人 知らぬようであつたと思います。
  949. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 自分一人でさえいやだというのを、そんな知らぬ人を連れて来て乗せろということははなはだわれわれには了解できにくいのだが、何か関係があるのじやないですか。
  950. 田島信男

    田島証人 それは私らにもわからないです。
  951. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 連れて来たときの模様や、話の状態は聞かなかつたか。
  952. 田島信男

    田島証人 はい。
  953. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あと船長から聞いていませんか。
  954. 田島信男

    田島証人 何も聞かないです。
  955. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それから拳銃を出して、おどかされたが、決して心配いらぬ、三日以内にもどしてやるということは、拳銃を出したあと言つたのですか。
  956. 田島信男

    田島証人 国境を越えてからです。
  957. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなたは、じようだん言つちやいけませんと言いながら、拳銃を出されたから、これはたいへんだから、言うことに従わなければならぬと思つてつたのか。どういうことです。
  958. 田島信男

    田島証人 そのときはそう思いました。言うことに従わなければ、動いては撃つというのです。汽罐場に入つてはだめだというのです。そうして船を国後に向けなければ撃つというのです。
  959. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 しかたないから君は向けた。
  960. 田島信男

    田島証人 そうです。
  961. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこで、心配いらぬ、三日以内に帰してやると言つたのかね。
  962. 田島信男

    田島証人 国境を越えてからそう言つたのです。
  963. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それから、帰つた警察へ行つたらいいと言つたそうだね。
  964. 田島信男

    田島証人 帰つて向うに行つたら、海上保安庁に調べられるだろうと言つた。はい、調べられますと言つたら、こういう人が渡つたと言えというのです。
  965. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 言つてもさしつかえないというのかね。
  966. 田島信男

    田島証人 そうです。
  967. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 名前は言わなかつたか。
  968. 田島信男

    田島証人 何も聞かなかつたです。
  969. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 村尾何がしという名前はいつ聞いたか。
  970. 田島信男

    田島証人 村尾という名前は帰つて来て警察で聞いたのです。
  971. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 乗せた君方がわからないのに、警察でどうしてわかつたか。
  972. 田島信男

    田島証人 宿帳を調べたのです。
  973. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 はたしてその神戸の雑誌記者であるということを確かめました。
  974. 田島信男

    田島証人 私は何もそういうことは調べない。
  975. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 警察で聞いたか。
  976. 田島信男

    田島証人 そうです。
  977. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 村尾という名前を聞くと同時に商売は何だということを聞いたか。
  978. 田島信男

    田島証人 何も聞かなかつたです。
  979. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 君はただ神戸の者で雑誌記者だと言つてつたというだけだね。
  980. 田島信男

    田島証人 調べられるときは、名前も何も知らぬから、警察でもそう言つたのです。
  981. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今日雑誌記者がほんとうであつたかどうか知らないですか。
  982. 田島信男

    田島証人 雑誌の記者でないということだけはわかつています。
  983. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どういう者ですか。
  984. 田島信男

    田島証人 何だか参議院だか衆議院だかの議員とかなんとか言つておりました。
  985. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それはどこで聞いた。
  986. 田島信男

    田島証人 こちらの方から調べに来たのです。そうしてそのときは人相から何からして共産党の追放を食つた議員でないかというのです。だから私は今でもそう思つております。
  987. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 君はほかからそう聞かれただけなんですね。確かに議員だつたと聞かれたのではないですか。
  988. 田島信男

    田島証人 そうではないです。
  989. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 幾つくらいの男だつた
  990. 田島信男

    田島証人 四十一、二です。
  991. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 りつぱな風でしたか。
  992. 田島信男

    田島証人 わしらの船に乗つたときは夜中ですから、暗いからよくわからなかつた。スキー帽のくされたようなのを深くかぶつて、外套の長いのを着ていたので、どういう人相の人かわからない。黒ぶちめがねをかけていた。ロシヤの監視船に乗つたときは晝間の明るいときでしたから、そのときに初めてわかつたのです。りつぱな紳士だつたです。
  993. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今まで見た写真その他でこういう人だと思い当るような人はありませんか。
  994. 田島信男

    田島証人 似たような人はいるが、あごが似るとひたいが似ないとか……。(笑声)
  995. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どんな人に似ておつたか。今まで知つておる写真その他でどういう人に似ていると思いますか。
  996. 田島信男

    田島証人 写真その他見せてもらいましたけれども、名前は忘れました。
  997. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 共産党で追放になつた人の顔があつたか、写真の名前は忘れたか……。
  998. 田島信男

    田島証人 写真の名前は忘れました。
  999. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 見せられた写真に似たのがあつたか。
  1000. 田島信男

    田島証人 ありました。
  1001. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 その写真はだれに見せられましたか。
  1002. 田島信男

    田島証人 警察です。
  1003. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 十二日の十二時ごろに乗船の交渉を受けたときに、船長は非常に不満に思つてつたのですか。
  1004. 田島信男

    田島証人 乗せてくれと言われたときですか。
  1005. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 そうです。
  1006. 田島信男

    田島証人 不満にというわけではないですけれども、乗せて行つてくれと言われていやとは言われませんから……。交通が不便なところでもつて、それで定期が前の日に出ているのです。十四日になるとまた定期がある。十五、十六と続けて三日ある。だけれども十三日は根室に行く船がないのです。
  1007. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 そこで十三日出帆は朝の二時ごろでしたか。
  1008. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1009. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 それで船年が迎えに行つたのですか。
  1010. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1011. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 十二日の交渉のときにあまり歓迎していない乗船交渉を受けたのに、二時という真夜中に旅館まで迎えに行くというのは、はなはだ親切過ぎると思う、私の考えでは……。
  1012. 田島信男

    田島証人 そうですか。
  1013. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 考えてください。初め乗船をあまり気持よく思わないものが、あの寒い、寒風の吹くところを夜中の二時に……。
  1014. 田島信男

    田島証人 寒風といいましても、わしらはそういうことは普通に感じている。わしらはそういうことは普通に思つてつたのです。迎えに行つたり便宜をはかつてやることは、あの辺の方の世話にもなつているし、わしらはそういうことは普通です。迎えに行つたり乗船を待つのは……。
  1015. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 しかし船の大小はあるけれども、船長というものは船の全責任を持つている。その者がわざわざ宿屋まで行つて……。
  1016. 田島信男

    田島証人 小さい船は、船長機関士といいますけれども、船長水夫兼雑役夫といろいろやります。私も機関士といいますけれども、何でもやります。飯たきもやれば船長代理もやる。
  1017. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 岸壁から旅館まで大分遠いのですか。
  1018. 田島信男

    田島証人 近いです。
  1019. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 岸壁の付近ですか。
  1020. 田島信男

    田島証人 ええ。羅臼の岸壁は旅館の近くです。小さい村ですから……。
  1021. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 それで迎えに行つた。そういう親切を盡すことはその辺の普通の人情なんだね、それはことさらに行つたわけではない……。
  1022. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1023. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 もう一つ、海上保安庁が調べたのでしよう。ところがあなた方が羅臼から出るときに、そういうものが乗つてつたかどうかということは、海上保安庁は知るわけがない。今のあなたの答弁によると、宿屋の宿帳を調べたという話ですね。あなたの船今川村尾という者が乗つたということはどうしてわかつたのですか。
  1024. 田島信男

    田島証人 保安庁のことはわからない。二十日の晩六時に根室に入つた。そうしてすぐ七時に警察に行つて連絡し、その晩は十二時ごろまで警察で大体のことを聞かれ、翌朝CICに呼ばれて釧路まで行つた
  1025. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 そうすると海上保安庁が今回、村尾という体前を知つたのは、あなた方が根室に着いて警察へ行うて、警察から電話をかけたのですか。
  1026. 田島信男

    田島証人 それはわからない。
  1027. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 警察から電話が通じておるかどうか。
  1028. 田島信男

    田島証人 それはわからない。
  1029. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 だけれどもあまりに早く名前が知れ過ぎている。
  1030. 田島信男

    田島証人 根室に釧路海上保安庁の出張所がある。そこで調べた。
  1031. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 そこでもう一つ聞きたいのは、その晩出帆した船はあなたの船だけだつたのですか。
  1032. 田島信男

    田島証人 羅臼の町には三ばいいたが、その朝出帆したのはわしらの船一ぱいだけです。
  1033. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 午前二時に出帆するのはあなたの船一つだけですか。
  1034. 田島信男

    田島証人 その日に出帆するのはありません。わしらの船は小さい船ですから定期のまねはできない。少々波があつても無理して……。六トンといえばこんな小さい船で、人がようやく歩けるくらいなんです。
  1035. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 さいぜんあなたの答弁によると、今川英男なるものの名刺は見たのですね。
  1036. 田島信男

    田島証人 北大農学部今川と、ちらと見た。若、うして晩寝るときになつて、あの人は何という人だつたかと船長言つて今川と言わなかつたか、そうだとか、違うとかいろいろ言つたのです。船長もたしか今川言つていた。
  1037. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 その名刺は船長が持つているのですか。
  1038. 田島信男

    田島証人 返した。
  1039. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 船長が名刺を見て今川に返したのですか。
  1040. 田島信男

    田島証人 ええ、
  1041. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 おかしい。名刺というものは、もらつてポケツトとかどことかにしまうものだ。
  1042. 田島信男

    田島証人 わしは名刺なんかもらつたこともないしね。(笑声)
  1043. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 名刺というものは出されたときちよつと見て返すものだと思つてつたのか。そんなものじやないでしよう。
  1044. 田島信男

    田島証人 私に出した名刺ならポケツトに入れておきますけれども、船長はこんなものをもらつてもしようがないからというのでポケットに入れずすぐ返したのでしよう。
  1045. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 どうもおかしい。いかに純朴な人、いかにいなかの人でも、今日、村会議員でも村の青年団の団長でもみんな名刺の交換をやつているが、それを一つ一つ見て返すというのはおかしい。
  1046. 田島信男

    田島証人 わしらは名刺なんというものは使わないで名前言つている。名刺をもらうことは一年のうちに一回ももらえば関の山です。
  1047. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 今川英男なる者の名刺を船長が見て、それに北大農学部の肩書きがついていた。今川というものの名前船長は多少知つておるのじやないか。そういう名刺のような証拠品が将来残つちや困るので、返したのではないか。
  1048. 田島信男

    田島証人 それはわからない。私は船長はそういうことはないと思いますけれどもね。
  1049. 内藤隆

    ○内藤(隆)委員 よろしゆうございます。
  1050. 塚原俊郎

    塚原委員 羅臼を出てから針路根室にとつたことは間違いないですね。
  1051. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1052. 塚原俊郎

    塚原委員 何時間日ぐらいに拳銃を突きつけられたのですか。
  1053. 田島信男

    田島証人 四時間くらいですね。
  1054. 塚原俊郎

    塚原委員 つまり明るくなつたころ……。
  1055. 田島信男

    田島証人 明るくない。夜は明けておりますけれども、日は上つていない。
  1056. 塚原俊郎

    塚原委員 それはどこら辺に来たときですか。
  1057. 田島信男

    田島証人 茶志骨――羅臼の下に標津というところがあります。あの近所です。あの辺に来たときに……。
  1058. 塚原俊郎

    塚原委員 そこでピストルを突きつけられて国後に行けと言つたのですね。あなたは今までに国後へ一度も行つたことはないでしよう。
  1059. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1060. 塚原俊郎

    塚原委員 しかし機関手をやつていればかじとることがうまいから、どの方向に行くということは、何がなくともわかりますか。
  1061. 田島信男

    田島証人 何がなくともと言つても、私は陸が見えなかつたら、海図をはかることも何も知らないし、あそこは国後だからあそこへ向けろと言われれば……。私はただあのときに、国後がどつちの方だと言うと、お前たちはあそこに行けると言つたじやないか、どこでもいいから国後につけろ。国後はそのときはぼやつとまだ朝もやがかかつてつた
  1062. 塚原俊郎

    塚原委員 標津から国後は見えますか。
  1063. 田島信男

    田島証人 見えます。ずつと根室からでも見えます。茶志骨というところが国後に一番近い。
  1064. 塚原俊郎

    塚原委員 それで拳銃を突きつけられてから国境線を越えるまでには何時間くらい……。
  1065. 田島信男

    田島証人 あそこは十五マイルくらいですから……。
  1066. 塚原俊郎

    塚原委員 あなたの船は何ノツトくらいですか。
  1067. 田島信男

    田島証人 七マイル。
  1068. 塚原俊郎

    塚原委員 それでセンペトカンとか何とか言つたね。
  1069. 田島信男

    田島証人 ゼソベコタン。
  1070. 塚原俊郎

    塚原委員 いやゼンペコタンではない、さつき言つたあちらの場所は……。
  1071. 田島信男

    田島証人 ハツチヤス。
  1072. 塚原俊郎

    塚原委員 そこへ行くまでの間、ずつと拳銃を突きつけられたの。
  1073. 田島信男

    田島証人 そうです。
  1074. 塚原俊郎

    塚原委員 それから、船の中でいろいろあなたにその土地の状況を、自分は新聞雑誌の記者だから、そういうようなことを調べに来たというようなことをあなたにいろいろ質問しましたね。あなたはそれに答えていましたね。
  1075. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1076. 塚原俊郎

    塚原委員 それでいよいよ拳銃を突きつけて向うへ行けと言つたときには、言葉の調子がかわりましたか。
  1077. 田島信男

    田島証人 ぐつとかわりました。
  1078. 塚原俊郎

    塚原委員 べらんめえ口調ですか。
  1079. 田島信男

    田島証人 べらんめえ口調つて何ですか。(笑声)
  1080. 塚原俊郎

    塚原委員 つまりおどかし口調だな。
  1081. 田島信男

    田島証人 もう猫かぶつていたようでしたね。
  1082. 塚原俊郎

    塚原委員 それであなたは非常な恐怖感を感じた、恐ろしかつた
  1083. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1084. 塚原俊郎

    塚原委員 その拳銃はほんとうの拳銃つたか。
  1085. 田島信男

    田島証人 ほんとうの拳銃つたです。
  1086. 塚原俊郎

    塚原委員 さつきの証人に聞くと、手袋か何かを見せつけられたのが、お前たちは拳銃と思つたんだろうと、さつきの船長はそういうようなことを言つてつたが……。
  1087. 田島信男

    田島証人 ほんとうの拳銃です。
  1088. 塚原俊郎

    塚原委員 それほ日本製の拳銃ですか。どれくらいの大きさだつたか。
  1089. 田島信男

    田島証人 こちらの方で私が大体形のことを説明しましたが、ブローニングの小型とか言つていました。
  1090. 塚原俊郎

    塚原委員 それで、三日で帰すと言つたそうですが、あなた方が向うで実際にとめられたのは……。
  1091. 田島信男

    田島証人 八日。十三日の日に行つて二十日に帰つて来たから八日です。
  1092. 塚原俊郎

    塚原委員 その間、取調べられたのは何回。
  1093. 田島信男

    田島証人 二回、二日です。
  1094. 塚原俊郎

    塚原委員 その取調べはどこでやつたのか。
  1095. 田島信男

    田島証人 兵舎です。
  1096. 塚原俊郎

    塚原委員 その都度船から揚げられて……。
  1097. 田島信男

    田島証人 目隠しして……。
  1098. 塚原俊郎

    塚原委員 それでどのくらい歩かせられたか。
  1099. 田島信男

    田島証人 そうですね、一町半か二町ぐらい。
  1100. 塚原俊郎

    塚原委員 それで八日間で実際に調べられたのは二回ですね。
  1101. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1102. 塚原俊郎

    塚原委員 それは何時間くらいです。
  1103. 田島信男

    田島証人 初めの日は向うへ行つてから四月目の日に、午後の四時ごろに私を呼び出しに来た。船長は午後一時ごろに……。
  1104. 塚原俊郎

    塚原委員 別々に呼ばれたの。
  1105. 田島信男

    田島証人 船長が来ると同時に私がつれて行かれました。手ぬぐいが一本しかなかつた。それで船長が来てから船長の目隠しをとつてから私が行つた
  1106. 塚原俊郎

    塚原委員 二人そろつて……。
  1107. 田島信男

    田島証人 取調べは一人。
  1108. 塚原俊郎

    塚原委員 別々の部屋で……。
  1109. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1110. 塚原俊郎

    塚原委員 日本人は一人も入つていないですか。
  1111. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1112. 塚原俊郎

    塚原委員 それで、どういうことを聞かれたか、あなたが今記憶にあることをひとつそこで証言してもらいたい。
  1113. 田島信男

    田島証人 調室に入つた、そうしたら名前、それから兵籍関係、住所、本籍、身元調べのようなことをずつと聞いた。そうして今度、あなたはなぜ越境したかということを詳しく聞かれた。羅臼でもつてどういうふうに乗せて、それでどうしてここに来たか。それで事実あつたことを全部言つた。そうして今度北海道の様子、根室の様子、羅臼の様子をいろいろ聞いた。
  1114. 塚原俊郎

    塚原委員 いろいろというのはどういうことを……。こまかく言つて
  1115. 田島信男

    田島証人 根室の港湾設備、人口、進駐軍、警察が何名とか……。それで私は今までロシヤに行つた人の話を聞いたのでは、たいていのことは知らないで通して来たという、で、知らないと言つたら、銃殺にされるとかロシヤにつれて行くと言われた。あなたは銃殺ですからこつちへ来なさいと言つて連れて行かれた。小さい寒い部屋に三十分ぐらい置かれた。出されて、また調べられて、夜の十時ごろ帰つて来た。
  1116. 塚原俊郎

    塚原委員 そうすると、調査というのは相当脅迫的な調査ですか。
  1117. 田島信男

    田島証人 そうです。強制的に聞かれた。
  1118. 塚原俊郎

    塚原委員 別になぐられたとか、そういうことはないの。
  1119. 田島信男

    田島証人 なぐられはしませんでした。
  1120. 塚原俊郎

    塚原委員 ただ言葉でもつてきついことを言われた。
  1121. 田島信男

    田島証人 はい。
  1122. 塚原俊郎

    塚原委員 その程度ですか。あと、ほかに何もありませんか。聞かれたのは。
  1123. 田島信男

    田島証人 それだけです。
  1124. 山口武秀

    山口(武)委員 簡単にお伺いしますが、先ほど委員長の質問のときに、ソ連側の調べの際に、あなたのお父さん名前はよく知つているから帰つたらよく言つてくれ、こういうことを言われたんではないかと言いましたが、あなたはそういうことはない、と言いましたね。確かにないのですね。
  1125. 田島信男

    田島証人 はい。
  1126. 山口武秀

    山口(武)委員 そういうような今委員長から質問されたような疑いがあるような節は何かありましたか。こういうことを言われたのは全然根も葉もないことですか。
  1127. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1128. 山口武秀

    山口(武)委員 それから向うに渡つた村尾という人かあるいは今川かどつちかわかりませんが、それが共産党の追放された衆議院議員あるいは参議院議員ではないかということを言われたと言いましたが、それはだれに言われましたか。
  1129. 田島信男

    田島証人 それはこちらの東京の監査局の人です。私は名刺をもらつたけど……。
  1130. 山口武秀

    山口(武)委員 監査局というのは何の監査局……。
  1131. 田島信男

    田島証人 何の監査局だか……。そのときに何でも監査局と言つておりましたが……。その人が二人来て、私を取調べて、いろいろ向うのことを言つたときに、初めから終りまで聞かれたんです。そのときに写真を見せてくれた。そうしてその中に似た人がないかと言われましたから、共産党の何とかいう人に似ておつた、ちよつとね、だからこの人に似ていると思つて私はその人とばかり思つていた。
  1132. 山口武秀

    山口(武)委員 監査局に、追放された議員ではないかと聞かれたのに対して、あなたがあるいはそう思つたかもしれない、この点は……。
  1133. 田島信男

    田島証人 私が聞かれたときに、この人でないかいと言われたときに、この人ではないかと言つた、私はそう思つて
  1134. 山口武秀

    山口(武)委員 それだけの話なんですね。
  1135. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1136. 山口武秀

    山口(武)委員 それからあなたのお父さんが千島に一年半いたという話ですが、そこから帰つて来たあなたのお父さんは、ソ連の密偵であるというような、うわさがあつたことはあるのですか。
  1137. 田島信男

    田島証人 うわさですか、スパイですか、別にそんなことは聞いておりません。
  1138. 山口武秀

    山口(武)委員 全然聞いておりませんか。
  1139. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1140. 山口武秀

    山口(武)委員 あなた自身はお父さんに会つてもそのような気配は全然感じられませんでしたか。
  1141. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1142. 山口武秀

    山口(武)委員 あなたのお父さんが千島に一年半いたというのは、正確にはいつごろでしたか。
  1143. 田島信男

    田島証人 戦争中に私のうちは海運業なんです。ハル丸といつて八トンばかりの船で志発から歯舞諸島の多薬まで行つていろいろ荷物を積んで、そうして生活を立てていた。そしてロシヤにつかまえられた。そうして第一回の引揚げまで帰つて来なかつた
  1144. 山口武秀

    山口(武)委員 帰つて来てから密偵だというようなうわさが飛んだのですか。
  1145. 田島信男

    田島証人 そういううわさとか話は何も聞かないです。
  1146. 山口武秀

    山口(武)委員 聞きませんか。
  1147. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1148. 篠田弘作

    篠田委員長 ちよつとこの写真の中に、君は、今その話が出たんだが、その人に似ている人があるか見てみたまえ。     〔委員長写真を証人に示す〕     〔「それは竹中じやないか」と呼ぶ者あり〕
  1149. 篠田弘作

    篠田委員長 何かほかに御質問ありませんか。
  1150. 福田喜東

    福田(喜)委員 一つ証人にお尋ねしますが、証人は郵便局の通信電報係をやつてつたと言われますね。
  1151. 田島信男

    田島証人 ええ。
  1152. 福田喜東

    福田(喜)委員 発信、受信ができますか。
  1153. 田島信男

    田島証人 できないです。ただ配達だけです。
  1154. 福田喜東

    福田(喜)委員 それからどういう言葉で話したのですか。竹中君と似ておる村尾という人ほ、あなたと京都市で話したのですか、東京の純粋の言葉で話したのですか。
  1155. 田島信男

    田島証人 普通標準語だつたですね。私はあまり言葉はよくわかりませんが。     〔「この委員のしやべつているような言葉だね」と呼ぶ者あり〕
  1156. 田島信男

    田島証人 ここの人は癖がありますよ。(笑声)
  1157. 篠田弘作

    篠田委員長 今もしその人に会つて見たらわかりますか。
  1158. 田島信男

    田島証人 監視所の中で見たようなかつこうをしておればわかります。
  1159. 篠田弘作

    篠田委員長 スキー帽をかぶつて、防寒服を着て……。
  1160. 田島信男

    田島証人 スキー帽をかぶつて、防寒服のえりを立てて、黒ぶちのめがねをかけていましたから人相はよくわからない。
  1161. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは御質問がなければ田島信男君に対する証人尋問はこれで終ります。どうも遠いところ御苦労さまでした。  本日はこれをもつて散会いたします。明日は午前十時から開会しますから、委員諸君にはどうぞその時間までにおいでを願います。     午後二時四十三分散会      ――――◇―――――     〔参照〕    行政監察特別委員会調査報告書    (行監調十ノ一)  標記の件行政監察特別委員会設置の  決議に基き別紙の通り報告する。   昭和二十六年五月十五日      行政監査      特別委員長 篠田 弘作    衆議院議長林讓治殿     ―――――――――――――    行政監察特別委員会報告書   三月中における本委員会調査の   概要密輸、密出入国が経済、財政、治安上に甚大なる害悪をもたらすことは多言を要しない。しかるにこれを取締る諸官庁相互間の協同、連絡に統一を欠くものがあり、事務処理上好ましからぬ欠陥を示現しているに鑑み、本委員会はこれら治安行政の組織運営につき綜合的監察を行う必要ありと思料し、三月二十七日、二十八日の両日に亘り、左記の証人を喚問して証言を求めた。  三月二十七日      出入国管理      庁第一部長 田中 三男君  三月二十八日     海上保安庁警     備救難部長  松野 清秀君     国家地方警察     本部警備部長 柏村 信雄君