○鮫島法制局参事 ただいま
お尋ねの点は、第七条が憲法違法ではないかという
お尋ねと解しまして、そういうつもりでお答えいたします。第七条によりますと、
運輸大臣が申請になりました
鉄道を譲渡すべしという決定をしまして、その告示がありますと、
国鉄と申請者との間に
運輸大臣が決定をいたしました
内容と同一の
内容の譲渡契約が成立したとみなされる。そうしてその契約の
内容に従いまして、
国鉄は問題の
鉄道を譲渡し、また譲り受け人は当該
鉄道を讓り受けなければならない、こういうふうにあるのでございます。そこで問題を二つにわけまして、
国鉄の側につきまして、
国鉄の意思に
関係なく
運輸大臣が譲渡の決定をいたしまして、そうしてその決定に縛られて
国鉄が譲渡することが、憲法違反ではないかという点が一応問題になるわけでございます。御承知の
通り国有
鉄道は
公共企業体でございます。その
国鉄の成立のいきさつから申しましても、それは
政府の行
つている
事業ということを、広い意味からは申し上げていいのではないか。
一つの
公共企業体でございまして、その
国鉄の持
つている財産は、一般国民の持
つている私有財産とは、
国鉄の成立の過程から申しましても、性質を異にするのではないかということが申されるのであります。それから今度申請者が
鉄道の譲渡を申請いたしますのは、この
法律案の第一条にもございます
通り、
公共の利益に合致する場合でなければならないのでございます。もちろん
国鉄が問題の
路線をただいま経営しておるのでございまして、それももちろん
公共の利益に合致するのではありますが、第一条にうた
つておりますのは、その申請者に譲渡いたしまして、申請者に経営さして行くことが、現在の
国鉄が経営している場合よりも、より
公共の利益に合致する場合に限
つて譲渡いたすのでありまして、そういう意味から申しまして、
国鉄が
運輸大臣の決定に
従つて譲渡しなければならないというのは、憲法二十九条の「私有財産は、正当な補償の下に、これを
公共のために用いることができる。」という
規定にまさしく合致するのではないか。正当な補償ということにつきましては、第五条におきまして、
運輸大臣が譲渡の価格を公正妥当に決定するとございますので、この憲法二十九条の「私有財産は、正当な補償の下に、これを
公共のために用いることができる。」この
規定の精神から申しまして、何ら違法ではないのではないか、こういうふうに
考えるのでございます。
それから申請者の側でございますが、申請者の側につきまして問題になりますのは、おそらくその申請者が
考えておりました値段よりも、非常に高い値段がきま
つた、そういう場合にその譲渡を受けなければならないということは、申請者に対して無理をしいるものではないかというようなことが、問題になるのではないかと思います。その点につきましては、まず申請人が申請いたすますときには、
法律の
規定によりまして申請している。
従つて法律の条項に従いまして、値段は申請人の言う値段できまるのではなくて、第五条によ
つて運輸大臣が決定する価格で決定される。それからまたいやしくも譲渡が決定されるならば、申請人の方ではそれを引受けて経営しなければならぬという
義務が、第七条の
規定にあるのだということを前提といたしまして申請しておるのでございますから、その点から申しましても、申請人に無理をしいるということは、
法律的にはないのではないか。それからもう
一つ、
運輸大臣が譲渡すべきかどうかということを決定いたします際におきましては、第四条の第三項にもございますように「当該
鉄道の位置、利用状況、収支の状態その他諸般の事情を考慮し、当該
鉄道を譲渡することが
公共の利益に合致し、且つ、第一条第一項の目的を造成するかどうかを判断して、決定しなければならない。」こうな
つておるのでございます。従いまして
運輸大臣は譲渡を決定するにつきましては、まず第五条の
規定によりまして譲渡価額を公正妥当に決定する。そうしまして
運輸大臣が決定した価額によりまして申請人は、はたして譲り受けの能力があるかどうか、また
運輸大臣が決定した譲り受けの価額によ
つて譲り受ける意思があるかどうか。それから今申しましたように、譲り受ける意思はあるが、もちろん譲り受ける能力、資力があるかどうか。それからまた譲り受けた場合に、将来にわた
つて鉄道の経営を順当に経営して行けるものかどうかというようなことを、当然判断することになるのではないか。もしそうでございませんと、たとえば
運輸大臣の決定した額によ
つては、申請人はとても買えない。買う意思がない。あるいは買う意思はあ
つても、買う資力がないというような場合に、それにもかかわらず譲渡いたすようなことがございますと、かえ
つて鉄道の経営ができなくなることになりまして、譲渡することかえ
つて第一条の目的に反することになりますので、そういう場合にはむしろ譲渡すべからざるものというように決定いたすわけでございます。いやしくも
運輸大臣が讓渡の決定をいたします場合には、第四条第三項の
規定によりまして、今申し上げましたように申請人は買う意思があり、また買う能力がある。また将来にわた
つて経営して行くことができるということを判断した上のことでございます。従
つて運輸大臣が決定しまして、それに
従つて申請人が買
つて行くということは、申請人の意思にごうも反するような結果は招来しない、こういうような
考えのもとにこの第七条をつく
つたのでございます。