○国務大臣(大橋武夫君) 伊藤
委員にお答えいたします。
先ず第一の御質問は、今日世界が二つの陣営に分れており、これに関連いたしまして、国内において種々治安上の問題を生じておるのであるが、現在の
警察力において、この
国内治安を十分に維持できるかどうかという御
趣旨に拝聴いたしたのでございます。現在国内の
警察力といたしましては、一般
警察といたしましていわゆる九万五千の自治
警察、ほかに三万の国家地方
警察、都合十二万五千、そのほかに
警察予備隊といたしまして七万五千、都合二十万、これが正規の
警察力ということに相成
つておるわけであります。この
警察力の人員の数というものが必ずしも今日の
日本として少きに過ぎるということはないのでありますが、併しこれが
運用におきましては、この二十万の
警察力を治安の確保のために完全に有効に活用できる態勢ができておるかどうかという点になりますると、いろいろ問題があるわけじやないかと思います。特に地方
警察、自治
警察この両者の活動がおのおの別々にな
つておる。そうしてこれの両者についての連絡
関係が必ずしも理想的ではないという批判がございまする。この点は従来一本にまとま
つて運用されておりましたる
日本の国家
警察というものに対しまして、その一部が分かれて自治
警察を作り出した。そうしてこの自治
警察ができる際におきまして、特にこれは従来の国家
警察に隷属したごとき従来の地方の
警察ではなく、これは自治体の独立したところの
警察であるという
趣旨が非常に強く強調されたわけであります。もとより基本的人権を擁護し、
警察として真に民主的なあり方を期待いたしまするためには、従来のごとき国家の中央集権的な形をとるよりも、むしろ地方分権的な行き方にするということのほうが、或いは地方の地元地元における住民の監視を容易ならしめるという
ような点から申しましても、適切な処置であ
つたと
考えられるのでありまするが、併しながらこの
警察を国の全体の
警察力として
考えて参ります場合におきましては、一朝有事の際においてはこの折角存在いたしておりまするすべての
警察力が有機的に統合的に活動をいたし最高度に能率を発揮するということを常に
政府としても又各
警察としても
考えるべきことは当然なのでありまして、か
ような点から申しまするというと、自治
警察というものは必ずしもその自主独立性を強調することによ
つてのみ
警察法における自治
警察としての真面目を発揮し得るものではなく、国家地方
警察その他他の自活
警察との連絡協調という
ようなことについては、常に独立自主性を主張すると同じ強度を以て、これを主張し又念頭に置くべきものであると
考えられるのであります。併しながら今日までの段階におきましては過渡的に従来の統一せられたるものが分裂いたしましたために、反動的に独立性を強調する、自主性を強調するという点が非常に強くな
つておりまして、連絡という点におきましては必ずしも十分ではないという状態にあるのでございます。今後この制度の
運用又要すれば或る
程度の
改正によりまして、これらの自治
警察と国家
警察との連絡協調が平素より十分に保たれる
ようにいたしたいと
考えておるのであります。これが完全に行われまするならば十二万五千の
警察力というものが殆んど終戰当時又戰時中におきまする我が国の
警察力に比較いたしましても殆んど五割以上増加いたしておるわけでありまして、
相当な
警察力として活動が期待できるのであります。殊に今日におきましてはそのほかに七万五千の
警察予備隊の発足を見た次第でありまするので、これらを総合いたしますると現在における治安の維持という
ようなものについては十分に信頼を置き得るものと確信をいたすのであります。ただでき得る限り先に申上げましたるごとき各機関の徒らなる小さい立場から自主独立性を強調するばかりでなく、国家的な大きな立場から見るべきところの相互の連絡協調性を今後増すことによりまして、全体の能率を上げて行くということが尚必要であると
考えておるわけであります。
第二の御質問は
警察予備隊のあり方についての御質問であ
つたのでございます。
警察予備隊はその設けられましたる
趣旨が、一般
警察力の補充的な作用を営むものである。その任務といたしまするところは勿論国内の平和と秩序を維持し、公共の福祉を保障することでありまするけれ
ども、具体的に申しまするというと一般
警察が
処理できない
ような事態の発生に際しまして出動をするということにな
つておるのでありまして、その活動は補充的と申しますか、或いは補強的と申しますか、そういう使命を與えられておるのであります。併しながらそれは飽くまでも
警察の任務に従事する
警察であることは明らかでございまして、マツカーサー元帥の書簡及び
警察予備隊令においてもこの
趣旨は明らかにされておるのでありまする従いまして
警察予備隊は軍隊とは明確に異なるものと言わなければならんのでありまして、軍隊というものは元来外敵と戦うということがその第一の任務と相成
つておるものである。過去の我が国の軍隊も国内において出動することもございました。いわゆる地方
長官の出兵請求に基いて出動いたす建前にな
つてお
つたのでありまするが、併しそれは飽くまでも第二義的な任務であ
つて、主たる任務、第一義的な任務というものは飽くまでも外敵と職かうということが任務であ
つたのであります。かかる過去の軍隊と異なりまして、
警察予備隊は過去の軍隊が第二義的の任務としてのみ
考えてお
つた国内の治安維持という、これを第一義的而も唯一の使命として設けられたものなのであります。従いましてこれはか
ようなる性格の上から申して軍隊とは全く異なるものであります。
警察の性格、性質を持
つておるものであると
考えておるのであります。而してこの
警察としての性質、即ち一般
警察が
処理できない
ような事態が起りました場合において出動をする、こういう性質から
考えまして、
警察の予備隊の持つ武器は、当然一般
警察の持つ武器よりも重い装備を持たなければならないということは、その任務から来る当然の結果となるわけであります。即ち現在の
警察予備隊におきましては、占領軍より貸與せられておりまするカーバイン銃を全員携帯することにいたしておるのであります。これは極めて小型の小銃でございまして、約十八発を連続発射し得る
ような装置でございますが、併しその射撃距離、有効距離というものは数百米の
程度でございまして、むしろ威力という点から申しますると、従来
日本の軍隊の用いておりましたる歩兵銃等に比較しますると、小銃というよりはむしろピストルに近いものでありますが、これを全員に持たしておる
ようなわけであります。且つ又その目的が
警察の通常
処理できない
ような事態という場合の出動を予想いたしておりまするので、これは国内におきましては、いわゆる集団的な破壊行動というものを予想いたすわけでありまして、これらの集団的破壊行動に対して出動する
警察予備隊といたしましては、これを部隊として編成をいたし、そうしてそれに対処する
ような特殊な訓練を平生から実施することが必要となるわけであります。従いまして訓練の上におきましても、部隊としての行動を威力あらしめるという
趣旨からの訓練か先ず第一義的に必要となるのであります。通常の
警察と相異なりまして、日常社会に発生いたしまする
警察事犯の取締を行い、或いは一般
警察行政の手伝いをするという
ようなことは、最初から使命として
考えていないのであります。むしろそういうことから離れまして、非常事態に出動するという使命一本によ
つて、この
警察予備隊を編成いたして参りますることが、少数の人員によ
つて最も威力のある
警察力を作り得るゆえんであると、か
ような
趣旨を以ちまして一般
警察事務等からは切離しております。又配置から申しましても、一般
警察とは切離して、特殊の部隊として各地に配置をいたしておるのであります。従いまして、現在の段階におきましては、先ず訓練の順序として、差当り一時も早くこの第一義的の使命に向
つて、有効に働き得るものにいたしまする
ような、新らしい武器の操作、或いは集団的破壊行動に対処するところの部隊行動という
ような点の訓練が主眼にな
つておりまして、
警察行政に関する知識等につきましては、今日の訓練におきましても殆んどこれを実施いたしておらない状態です。ただ併しながら現在の
警察予備隊の編成は、一般隊員が募集せられ、幹部として指導、監督、訓練の責任を負うべき機関がまだ十分にできておりません。今日隊長その他の幹部とな
つておりますのは、仮に任命されたものでありまして、これは将来において本式な訓練を受けた正規の幹部と交替せしめるということにな
つておりまして、さ
ような次第でありまして、現在の
警察予備隊は幹部の配置が殆んどできておらない。従いまして訓練といたしましても、特に現在は部隊訓練という
ような点のみを行な
つておるのでありまして、精神的な指導の面でありますとか、或いは学課でありますとか、そういう面が非常に遅れておるということはこれは事実であります。私
どもといたしましては来月中旬頃までに、一応新幹部を配置いたし、これらの新幹部によ
つて今後の教育の重点といたしまして、従来からの部隊行動、或いは武器の操作という面と並行いたしまして、民主的な
警察予備隊としての必要な学課という面の訓練も行う
ようにいたして参りたい。でき得るならばそういう段階に相成りますれば、
警察としては一般的な知識を訓育する
ようにいたして参りたいという
考えは持
つておりまするが、現在におきましてはさ
ような状態でそういうところまで参
つておらないのであります。従いまして現在の
警察予備隊の部隊としての訓練の仕方、又装備が一般
警察に比較して重い、こうい
つた点から見まして、この
警察予備隊というものは普通の
警察と全く違
つた、むしろ軍隊のごときものであるという
ような世間の誤解があるということは、私
どもも十分
承知いたしておるのであります。この点は全く誤解でありまして、その誤解のよ
つて生じまするゆえんのものは、現在までの
警察予備隊が未だ創立の過程にありまして、十分私
どもが計画いたしておりまする完全な姿にな
つておらない、それがために訓練等におきましても、私
どもの計画いたしました
ような線でなく、むしろ軍隊に近い
ような、そうい
つた教育の面が先行をいたしておる、この結果軍隊ではないかという
ような感じを隊員みずからも持ち、又世間においてもそういう誤解を生じておる、か
ように
考えるのであります。この誤解の生じましたことにつきまして、私
どもも今日までのそうしたところの仕事の進行が、必ずしも期待
通り手際よく行かなか
つた、それがために教育におきましても現在の
ような状態である、その結果か
ような誤解を一般に生じておるのでありまして、この点につきましては私
どもも深く遺憾に
考えております。併しながら本来の
警察予備隊の性格は先ほど申上げましたごとく、一般
警察にもあらず、又軍隊にもあらず、
一つの新らしい
国内治安のための
警察力でありますから、その線に沿うた編成、訓育、これを早く完成いたしまして、世人の誤解を解く
ように努力をいたしたいと
考える次第でございます。
第三に予備隊の現在の配置が連合国軍の兵站基地を守る
ようにな
つておるではないかという御質問の点でございます。これは事実におきましてさ
ようにお感じに
なつたといたしますれば、それは十分理由があることだと存ずるのであります。即ち
警察予備隊七万五千の募集ということは非常に急に行われたのでありますが、
警察予備隊の募集を
考えまする上におきましては、これら募集いたしましたる隊員をどこに收容するかという容れ物が一番の問題とな
つたのであります。ところでこの容れ物ということになりまするというと、従来の陸海軍その他の持
つておりました国有の建物について今なお不用に帰しておる、そうしてこれらの
警察官を收容いたしまする
ように転用できるものは各地に
相当あ
つたし、又現在もあるのでございまするが、併しそれは長年使用いたしておりませんでした
関係上、内部の設備等におきましても直ちに利用し得る状況にはなか
つたのでございまして、これには
相当の金もかけ、又時間もかけて修理をしなければ、
警察予備隊を収容するには不適当であるというふうな状況であ
つたのであります。幸い連合国軍
司令部におかれましては、この新らしい人たちを急に募集する、ついてはその收容の施設としては
司令部の側においてできるだけの心配をしてやる。ついては丁度
朝鮮動乱のため米軍部隊の一部が退去したままにな
つておる。連合国軍の兵舎として用いてお
つた建物もあるし、又曾
つて連合国軍が使用いたしておりまして、そうして撤退いたしましたために現在空いておる建物、これらの建物を取りあえず指定するからそこに収容してはどうかというお話があ
つたわけであります。そこで
政府といたしましても、他に急に收容すべき適当なる建物がありませんでした
関係上、取りあえずの運びといたしまして、連合国軍の兵舎として使用いたしておりまする建物であ
つて、現に空いているところに仮に容れてもらうということにいたしました。その結果は当然連合国自体の兵舎として管理されてお
つた建物でありまするから、連合国の兵站基地を守る
ような地位にあるのはこれは当然であ
つたわけであります。結果的には御
指摘の
ような形にな
つたのであります。併しながら現在使用いたしておりまする建物、これは連合国軍の建物を使用する、建物を一時借用いたしておるわけであります。
警察予備隊側といたしましては、今後でき得る限り速かに
日本政府の
警察予備隊の専用の庁舎として使用すべき建物、これを決定いたし、それを修理して使用に耐え得る
ようになり次第、そこに引越をさせる。こういうことに相成
つておりまして、今すでに殆んど毎日のごとくに一部ずつ新たなる庁舎が完成し次第そこへ移動しておるという実情でございます。従いまして今後におきましては
日本政府の必要に応じまして、建物さえあればそこへ配置するという
ような運びにあるわけであります。これは必ずしも連合国軍の兵站基地を守る
ように配置しなければならんものであるというふうには私
ども考えておらないわけであります。
それから第四に、現在の朝鮮の動乱の状態の将来というものを
考え、仮にこれが朝鮮全土に拡が
つた場合において
日本の治安は大丈夫であるかどうか、特に思想の攻勢、遂には暴力による侵入、最後には軍の力によ
つて侵入をいたして来る。これに対処して万全の措置があるかどうかという御質問であ
つたのであります。少くとも思想攻勢、或いは国内におきまする暴力の攻勢に対しましては、これは
国内治安の問題でございまして、この点につきましては
警察予備隊及び一般
警察、この力を十分に活用いたしまするならば、国内の治安は十分に確保できるものと
考えております。併しながら将来において外国軍隊が我が国に侵入して来るという
ような場合におきましては、これは私
どもは単なる
国内治安の問題と
考えまするよりは、むしろ
日本国の安全保障の問題として
考えるべきものではないか、さ
ようなる
意味合におきまして、この外国からの軍の侵攻という
ような問題となりますると、單なる
国内治安の問題ではなく、
従つて又現在の
警察力のみによ
つて処理できるものであるとは
考えておりませんし、又
警察としても、
国内治安だけの建前から
警察予備隊にいたしましても装備をいたしておるのでありまして、現在における外国の正規軍隊によりまする侵入ということに対しましては、国の安全保障の問題として別途に
考えて行くべきではないか、か
ように
考えておる次第であります。