○稻村順三君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、二十四日、本院で行われた
吉田総理の
施政演説並びに
大蔵大臣の財政
演説に関連いたしまして、
農業問題の基本問題を
中心に、
関係閣僚に若干の
質問をいたしたいと存じます。われわれは、第八
国会終了直後、
野党各派の要望を結集いたしまして、救農のための臨時
国会を正式手続によ
つて要請いたしました。しかるに、
吉田内閣は荏苒日を送
つて、あえてその要望を無規し、今に至
つてようやく臨時
国会を召集したのであります。しかもこの臨時
国会たるや、通常
国会を前にいたしまして、
審議の時間もなく、重要問題を取扱うことができなくな
つておるのであります。そればかりでなく、最も大事な
農業関係の議案というものを
審議することができないような
状態にな
つております。われわれが救農臨時
国会を召集すべしと要請したゆえんのものは、
吉田内閣の超均衡
予算方針が五、六月ごろに至
つてようやく深刻に現われまして、すなわち農産物の相対的下落、鉄状価格差の拡大、
金融の逼迫、
農業協同組合の財政的危機、
税金攻勢等の諸現象が顕著にな
つて参りましたのを、これを契機といたしまして、
国会において根本的な
農業政策を立てる必要があると
考えたからであります。しかるに、これに加えて台風が全国を荒し、いもちが北陸
地方に蔓延し、
農民生活の破壊というものに拍車をかけました。
かくのごとき悲惨事は、まず
政府の超均衡財政
方針に始まり、そのため災害の結果に対してすでに
農民が抵抗力を失
つていたことによ
つて惨事が倍加されたのであります。
従つてこれらはすべて
政府の
責任であります。
政府といたしましては、
責任を痛感するという意味において率先
国会を召集すべきが至当であると思うのであります。現にここに出席の
廣川農林大臣が、救農よりももつと積極的な
興農国会を開くべきであると言つたくらいであります。これは
政府部内におきましても、
責任政治の建前から当然であるという意味があつたことを証明しております。
なるほど臨時
国会は開かれております。しかし今日開かれているものは、われわれの要請した臨時
国会の意義を失つたものでございます。憲法で議員の要求によ
つて臨時
国会を召集すべき旨を規定しているのは、明らかに緊急事態に応ぜしめるためであります。たとい召集期日の規定がないにいたしましても、この精神は尊重されなければならないのであります。(
拍手)しかるに、條文の形式的解釈によ
つて今日まで延引したことは、実質的には憲法の精神を蹂躪したものであり、かつ民主主義の冒涜でなければなりません。(
拍手)
政府が、
かくのごとく憲法の精神を蹂躪する行為をあえてなすに至つたことは、これは單に偶然であるというわけには行きません。実に現
内閣が
農業問題を軽視するということそれ自身に根原があるのであります。民主主義は單なる精神的説教では徹底するものではありません。
生活上における経済的裏づけがなければならないのであります。目下
日本の民主主義化にと
つて最大の障害は
農村であります。しかも、
農村を今日のままにしておく限り、人口の過半数を
農村に持
つている
日本の民主主義化は絶対に不可能であります。
従つて政府がこの
農村窮乏のとき救農臨時
国会を開かなかつたことは、民主主義化に熱意のなかつたことを何よりも雄弁に物語るものであります。(
拍手)
私は、か
つて予算委員会におきまして、
総理に対して、民主主義は近代
生産機構の上でなければ繁栄しないと思うがどうかという
質問をしたときに、
総理は同感の意を表しました。だが
総理は、その意味を十分に理解しておらないのであります。民主主義は近代
生産機構の上でなければ繁栄しないというのは、近代的
生産機構の上にのみ
生産者はその
生活の独立が保障されているからであります。みずからの
生活が他によ
つて勝手に左右されるとき、いかに
政治の上に平等を與えても、それは一個の形式と化し、実質的には
政治的権利を喪失したものと同じであります。
かくては、民主主義とは一個の空文にすぎません。それならばこそ民主主義は、と
かく自立生活を脅かされがちである労働者には、自力によ
つて生活権を防衛する権利として団結権や罷業権を與えているのであります。しかるに、わが国の
農民は、その
生産機構が古くさい
関係で、いまだか
つて生活権が保障されたこともなければ、また現に保障されてはおりません。
終戰前までは、
農民はまず地主によ
つていつでも土地を取上げられるという点で、常にその
生活の土台が脅かされて参りました。次に農産物の販売、
農村必需品の購買、
農業資金の融通を通じて、商業
資本、先進
産業の
資本、金貸しに常に個人
生活を
犠牲にされて参りました。また
農民は、
資本主義の育成の
資本を蓄積するために、
政府からさえ重税を課せられて、最低
生活もしばしば撹乱されて来ております。そこには民主主義のなか
つたのは当然であります。
終戰とともに、
日本民主主義化の重責を帶た
マツカーサー元帥が、
農民解放に関する指令におきまして、農地改革の断行と、これによ
つて自作農と
なつた
農民を再び小作農とざせぬための
措置として
農業協同組合の結成を命じましたのも、これが民主主義にと
つて欠ぐことのできないものであることを示したものであります。しかるに
吉田内閣は、この意義を十分に理解しておらないのであります。すきがあつたならば農地改革を打切ることばかり
考えて、まず
国会を通すことのできなかつた自作農創設特別
措置法の一部の
改正を政令によ
つてあたえてなし、旧土地
制度完全解消の件につきましてもこれを緩和しようとしたり、
農業委員会法を制定いたしまして農地
委員会の
廃止を策動したりしておるのであります。農地改革は單なる慈善心からばかりでなく、実に
日本民主化という
世界史的意義をも
つてなされたものであることを知らねばなりません。この
世界史的任務は、あらゆる
機会において常に推進されなければならないのであります。しかるに、まだまだ相当量の小作地も残
つております。山村
農民の
生活自立にと
つて不可欠なる薪炭林もまだ解放されてはおりません。そして、それらは
農民生活自立の支障とな
つているのであります。この支障は除去されなければなりません。
そこで私は、
吉田総理大臣及び
廣川農林大臣に対して、いかなる方法によ
つて今後農地改革を堆し進めるつもりか、また今日の農地改革の程度において
日本農民の
生活を
自立せしめる
農業合理化の
基礎とすることができるかどうか、この点を聞きたいのであります。どうも
政府のやり方を見ますと、農地問題の本質に対してはまつたく無知であるのであります。これ私が現
内閣が民主主義を理解していないとするところの第一の理由であります。
農地改革は、
農業を合理的に近代化する前奏曲ではありますが、合理化そのものではありません。それにもかかわらず、池田
大蔵大臣は、か
つて予算委員会におきまして、農地改革ができたから合理化は完了していると断定いたしました。これこそ
吉田内閣が
農業問題にいかに無知であるかを表明したものであると私は思うのであります。(
拍手)それはとも
かくといたしまして、
農業生産機構の近代化、すなわち合理化には、その前提として、
生産に使
つている土地條件を、経営合理化を可能とするように整備しなければなりません。土地改良、農地の交換分合、治山治水等がこれであります。この点、
政府は他の
農業政策に比べますと、いささか熱意があるようなふうに見えてはおりますが、しかしながら、これといえ
ども多分にゼスチュア的であ
つて、民主主義化の一環として、
農業合理化の建前からこれを
考えているのではないのであります。
なぜかというに、二十三年、
吉田内閣ができて以来の
農業関係公共事業費を見ますと、災害復旧を除きまして、二十三
年度、二十四
年度は百億未満、二十五
年度におきまして百二十億くらいで、かかる大任務を持
つているところの事業としては、あまりにも少額であります。
農業関係公共事業費を増した増したというのは
政府の宣伝ではありますが、その内容を見ますと、そのうち著しく増しておるのは災害復旧費だけであります。災害復旧費はもとより必要ではありますが、それは決して
農業合理化を積極的にするのではありません。百パーセントにこれが完了いたしましたとしても、それはマイナスからゼロにもどるだけのことなのであります。
従つて、災害復旧費と合理化の費用とは、これは全然別物でございます。しかも災害復旧費はふえたとい
つても、
昭和二十三
年度には被害の四九%、二十五
年度には三八%ぐらいしか復旧してないのでありまして、仕事の量から申しますれば、誇ることができないで、むしろこれは
政府の怠慢を示すほかの何ものでもないと思うのであります。(
拍手)
このように災害復旧が年々残されておるからこそ、そこで年々被害が拡大再
生産されております。このような土地條件の整備に関する費用が少いために、現に少からぬところの費用を、
農民が、あるいは
地方自治体が負担しておるのであります。
自立経済のできないところの
農民に、かような償却に多年を要する固定資金を負担させるということ自体、
農民の
生活を窮乏に追い込み、結局は民主主義発達を阻止する原因であると言うも過言ではありません。
かくのごとき費用こそ当然にも国が全額負担すべきものであると思うのであります。
政府のやり方は、まつたく民主主義を伸長させるための
計画性を全然持
つておりません。
計画性がないばかりではなくてこれにこれだけの費用を使つた、
予算をとつたというな宣伝によ
つて、ただこれを
自由党の
選挙道具に使
つておるよりほか何ものでもないのであります。(
拍手)
そこで私は
安本長官並びに
農林大臣に尋ねるのでありますが、一体どれだけの費用で何年間に、どれだけの量を、土地改良、農地の交換分合、治山治水等の事業として使うつもりであるか、また土地改良の全額国庫負担を
考えておるかどうか、また
農業関係の災害復旧を即時完了するところの
意思があるか、ということであります。これまでの
政府のやり方は、これまで述べた
通りに、まことにたよりないのでありまして、これ民主主義化における
農業の役割について
政府において理解がないという理由の第二であります。
以上の土地條件が整備されるならば、これを
基礎といたしまして初めて経営の合理化が行われるのであります。しかし、それには三つの障害を克服しなければなりません。その一は、
農民には設備資金並びに運営資金がないということであります。その二は、
農村に過剰人口があるという事実であります。その三は、
農業技術が未発達だということでございます。しかるに
政府は、これに対してゼスチユア的の熱意すら示していないのであります。
農民の資金難に対処する意味において、
農民の自己資金動員の組織として
農業協同組合がありますが、元来余裕のない
農民の出資金と預金とでできておる組合であります。
農民資金の需要に応ずることができるわけはありません。それどころか、
農民組合の維持にすらむずかしく、とうてい
農業生産のめんどうを見ておるということはできないのであります。そこで、ひたすら組合維持の建前から、
農民を
犠牲とする商業
資本にまで堕落しているという事実をわれわれは見のがすことができないのであります。(
拍手)それでもなお、全国組合中三八%は経営困難に陥
つているのであります。それというのも資金難から来るものでありますから、真に
農業協同組合の機能を発揮させるためには、長期にわたる設備資金はこれを国家
資本から、短期運転資金には国家が保証を與えるということによ
つて、これを協同組合を通じて融資する
制度をつくらなければならないと思うのであります。(
拍手)
しかるに現
政府は、むしろこれと逆の道を歩んでいると言えるのであります。たとえば農協に普通法人税を課したり、
地方税の
改正に際して附加価値税をこれに課そうとしたり、議会がきらいであるところの
政府は、政令がすきだと見えて、
政府は農林中央金庫の融資を政令で制限したりしております。いずれも
農業協同組合を破壊し、
農業金融を逼迫させることばかりや
つておるのであります。(
拍手)わずかに
農業手形によ
つて農業金融が息づいておるのでありますが、他に長期
金融の道がないために、当然長期にわたるところの償却資産に対するものまでも
農業手形に依存している現状でございます。收穫を担保として発行されているこの手形、これを長期に類するものまで借りるというならば、これは結局往年における青田売り以外の何ものでもないのであります。(
拍手)
この点に関し、すなわち
農業金融、
農業協同組合の育成に関して、
大蔵大臣並びに
農林大臣はどうして行くつもりか。
農村人口の過剰、これは特に終戰後、復員、引揚げによ
つて顕著となり、さらにデフレは失業者を帰村せしめ、これに拍車している
状態であります。
政府はこれに対して何の手も打
つてはおらぬではありませんか。そのため、たださえ過小農と言われているところの
農民はさらに零細化し、合理化とはおおよそ縁なきものにな
つて行きつつあるではありませんか。私は、森
農林大臣時代に、この点について警告したとき、兼業農家だから農政の相手にしないと放言したのであります。これ実に
政府の過剰人口
対策の貧困を告白しているものでありまして、現に開墾だとか、あるいは有畜化であるとか、
農村工業化だとかいうところの、過剰人口を吸收すべきところの
政策に対して、何ら積極的な手を打
つていないではありませんか。(
拍手)この過剰人口をどうや
つて処理するつもりか、
大蔵大臣並びに
安本長官、
農林大臣の意見を聞きたいのであります。
農業経営合理化にと
つてもう
一つの障害は、
日本農業の技術が未発達であるということであります。しかるに
日本財政の最も大きな欠階は、技術研究に対してほとんど見るべきものがないということであります。技術の
農業への導入に関しても、ほとんど意が拂われておりません。
農林大臣は、今日の
状態で
農業合理化に対応でるというふうに
考えているかどうか、この点について
質問したいのであります。
かくのごとく
農業経営の合理化が無計画、無
方針のままに放任されておりまして、私は民主主義に対して
政府が理解しているとは思えないのであります。これ
政府が民主主義に対して理解のないという第三の理由であります。このように合理化がある水準まで達したとき、
農民はどうやら
世界市場と結びついている市場価格に対応し得るように
生産費を引下げることができるのであります。
農民は、そのときに初めて
自立できるのであります。そこで
日本の民主化が発展して行くのであります。
しかし、所期の水準に到達すること、これは一朝にしてできるものではありません。若干の時間を要します。そこで、それまでの手段として、
農民に対して保護をするということが絶対に必要とな
つて来るのでございます。そうして保護
政策中最も重要なことは、価格の面において農産物の
生産費をカバーし得るようにすることであり、鋏状価格差を解消することであります。また
農民に対するところの負担を軽減するということでございます。しかるに、この点に関しましても
政府は何ら見るべき手を打
つてはおりません。十月一日までに米価をきめるということは、これは
法律で定めているところであるにもかかわらず、十一月下旬にな
つても、正式にこれの決定を見ることができなかつたではありませんか。
供出はすでに進行しております。そのために一部代金の仮拂いしかできないのでありますが、その一部代金すらもが
農業手形の期限が来ているというので引落されているのであります。これは
政府の都合で米価の全額支拂いができなか
つたのでありますからして、
農業手形の期限を延期するくらいの手を打
つてしかるべきものであろうと私は思うのであります。(
拍手)
また米価の決定につきましても、
政府の態度は遺憾きわまりないものがあります。
政府は、米価が俵裝込め五千五百二十九円だと発表いたしましたが、米価
審議会に事前にこれをかけたという事実はないのでございます。
法律的解釈はどうであ
つても、
審議会というものを設けた意義は、
政府の
方針決定前にこれをかけるという意味に私は解釈してしかるべきものであると思うのであります。(
拍手)次に米価そのものについても、
日本農民組合を初めといたしまするところの
農業団体は、裸で五千八百円を要求いたしましたのに対して、これも米価
審議会にもかけずに無視してしま
つております。
賃金ベースとの
関係があるからというのであるならば、何がゆえに二重価格制というものをとらないのであるか、この点につきまして
農林大臣並びに
安本長官に尋ねたいと思います。新米価で、まだ古い
生産機構の中にある
農民の
生活を
自立させるように保護し得ると
考えているのであるかどうか。
農業手形の期限に対するところの
対策ができているのかどうか、この点につきましてもお伺いしたいと思うのであります。
なお
政府は、近々
主食の
統制を撤廃すると
言つております。このことは、価格の面で
農民を保護する必要がないということを天下に声明したものであると私は思うのであります。国際価格にさや寄せすれば価格騰貴をいたしますから、保護の必要はないというようなことは言えるかもしれません。それでは賃金ペースを上げるということを前提としているのかどうか、この点を
安本長官にお伺いしたいのであります。どちらにいたしましても、
政府は競争力のないところの
農民を手放しで自由市場の中に追い込もうとしていることは間違いないのであります。
それから鋏状価格差の解消につきましても、
政府はまつたく無為
無策であります。最近
肥料統制を撤廃する前に、すでに合計約十割の値上げをいたしましたが、撤廃後さらにその内地
生産の一部を
輸出いたしたのでありまして、この
輸出の結果、
肥料価格が上りました。かかる
肥料価格のつり上げをなしたところの
責任は、一体だれが負うべき性質のものであるか。この点
質問いたしますと、あるいはこれを
通産大臣に転嫁する人もございますし、
農林大臣に転嫁する人もございます。はなはだしきに至
つては、
日本以外のものにその
責任を転嫁しようとしている事実があるのでありますから、私はこの点、
通産大臣並びに
農林大臣に明確に
責任を明らかにしてもらいたいと思います。
また
農民の負担につきましても、
政府は羊頭狗肉の
政策によ
つて、
農民に対して
減税をした、
減税をしたと呼称しておりますが、これは單に所得税の点から申しますと、多少そういうことが言えるかもしれませんが、
地方税を重課して、これを中以下の
農民に対して
考えてみますと、むしろ中以下の
農民は増税とな
つているのであります。(
拍手)この点、
大蔵大臣並びに
岡野国務大臣はどう
考えているか、御
答弁願いたいと思います。
以上
農民保護に関しても、
政府の
考え方は何の積極性も持
つておらないのであります。
かくて、
農民は依然として低賃金のてことして民主主義の圏外に置かれておるのであります。これが私の、
政府が民主主義と
農業との
関係において無知であるとする理由の第四であります。
かくのごとく
吉田内閣は、どれをと
つて見ましても民主主義に関して無知であるということを表明しておるのであります。またこの無知のゆえに、
朝鮮動乱が起るや、大胆にも
農業合理化のための何ら
予算的裏づけもないところの
食糧一割
増産運動をやり出したのであります。まことに
戰争中の
農業報国運動というものに返つた感があるではありませんか。(
拍手)反動
内閣といわれるのもゆえなきにあらずと言いたいのでありまして、この点、
吉田内閣はとくと反省すべきものでございます。私は、この点をこいねが
つて質問を終えたいと存じます。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇〕