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1950-12-04 第9回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年十二月四日(月曜日)     午前十一時十一分開議  出席委員    委員長 安部 俊吾君    理事 北川 定務君 理事 田嶋 好文君    理事 猪俣 浩三君       鍛冶 良作君    高橋 英吉君       古島 義英君    牧野 寛索君       松木  弘君    眞鍋  勝君       吉田 省三君    大西 正男君       石井 繁丸君    田万 廣文君       上村  進君    梨木作次郎君       世耕 弘一君  出席国務大臣         法 務 総 裁 大橋 武夫君  出席政府委員         警察予備隊本部         次長      江口見登留君         検     事         (法務法制意         見第四局長)  野木 新一君         検     事         (法務特別審         査局長)    吉河 光貞君  委員外出席者         国家地方警察本         部長官     齋藤  昇君         最高裁判所事務         総長      五鬼上堅磐君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局         長)      内藤 頼博君         判     事         (最高裁判所事         務総局人事局         長)      鈴木 忠一君         判     事         (最高裁判所事         務総局民事局         長)      關根 小郷君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      岸  盛一君         專  門  員 村  教三君         專  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 十二月四日  判事補の職権の特例等に関する法律の一部を改  正する法律案内閣提出第二七号)(予) 同月二日  燕町に登記所設置請願松木弘紹介)(第  二〇五号)  鳴門市に簡易裁判所並びに区検察庁設置請願  (眞鍋勝紹介)(第二〇七号)  法務局職員給與改訂に関する請願佐藤親弘  君紹介)(第二六六号) 同月三日  福島町に簡易裁判所及び検察庁設置請願(田  中不破三君紹介)(第三六九号)  前橋地方裁判所桐生支部権限甲号支部に昇格  の請願長谷川四郎紹介)(第三七〇号) の審査を本委員会に付託された。     ――――――――――――― 同月二日  警察官ピストル射殺事件に関する陳情書  (第一七二号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  裁判所法の一部を改正する法律案内閣提出第  一三号)  刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案(内  閣提出第一四号)  民事訴訟法等の一部を改正する法律案内閣提  出第一五号)  裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正  する法律案内閣提出第二二号)  訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の  一部を改正する法律案内閣提出第二四号)(  予)  検察行政及びこれと関連する国内治安に関する  件  裁判所司方行政に関する件     ―――――――――――――
  2. 安部俊吾

    安部委員長 ただいまより会議を開きます。  今日の日程に入る前にお知らせしておくことがございます。すなわち去る二日委員角田幸吉君が辞任せられ、同日補欠として武藤嘉一君が委員に選任されました。  ではこれより今日の日程に入ります。なおこの際お諮りしておきまするが、今日の議題に関し、裁判所側より発言を求められました場合には、国会法七十二條第二項の規定により随時これを許したいと思いますが御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 安部俊吾

    安部委員長 御異議なければさようとりはからうことにいたします。  まず検察行政及びこれに関連する国内治安に関する件を議題にいたします。発言の通告があります。順次これを許します。世耕弘一君。
  4. 世耕弘一

    ○世耕委員 検察関係の問題についてお尋ねをいたしたいと思いますが、まだ係の方がおいでにならないようでありますから、国警関係の方から二、三点お尋ねしておきたいと思います。過般の委員会朝鮮人分布状態並びに韓国人朝鮮人との数について明瞭な御説明のあつたことを私了承いたしておりますが、なお戦後において帰化した元の朝鮮人あるいは二世の朝鮮人というようなものは御調査になつておられるかどうか。あらば数字をお示し願いたいと思います。
  5. 齋藤昇

    齋藤説明員 戦後朝鮮人の帰化とか国籍問題につきましては、何ら新しい措置は講ぜられておりません。従前日本におりました朝鮮人で、昭和二十二年の何月まででありましたか、日本におりたい者は、日本法律を守る、そして日本の官憲の取締り日本人と同様に受けるという條件のもとに日本におつてもよし、そうでない者は帰国するようにということで、相当数が帰国をいたしたのであります。従いまして、現在合法的に日本におりまする朝鮮人は、そういう種類の人たちであります。これらの人たち日本国籍を取得するかまたは朝鮮国籍を取得するようになるか、おそらくこれは講和会議のときの問題であろうと、私はその方の関係ではありませんけれども考えておるのであります。現状はそういう状況でございます。従いまして先日法務庁の方からここで御説明になりました朝鮮人及び韓国人の数と申しますのは、いずれも合法的に登録されておる内地在住朝鮮人であります。しかしこれらのうち何パーセントが日本に将来帰化して日本人となりたいと考えておるか、その点は全然わからない。あの際に御説明がありましたが、あのときの登録は最初の出発はただ朝鮮人としての登録であつたわけであります。ところが居留民団の方から強い要望がありまして、韓国人として登録のできるようにとりはからつてもらいたいという強い要望がありました。従いまして、登録の半ばからそういう韓国人として登録をしたい者は、そういう名前使つてもよろしいということに変更をいたしまして、そこで朝鮮人としての登録されておる者の中にも、何と言いますか、韓国人側立場に立つ人もあるであろうと思つております。朝鮮人としての登録をそのままにしておるという人もあるであろう、かように考えております。
  6. 世耕弘一

    ○世耕委員 この間の御説明を基礎にして考えてみると、今の御説明と総合しますと、この間の数字は非常にずさんな大ざつぱなものだという結論が出て来るわけであります。そこで進んでお尋ねいたしたいことは、すでに名古屋でも事件が発生したようであります。京都にも事件が発生したように聞きますし、ほとんど全国的に神戸事件と同様な事件が発生しようとしておる。推測するところによると、近く関東方面にもこれが伝播する気配があるということは、ほとんど常識的に考えられておるようであります。この間の神戸事件説明によりますと、神戸以外の土地からひそかに集合して来ておるという事実がある。そうすると、もう完全な組織行動であるといわなくちやならぬ。しかもその事件内容たるや、朝鮮人という名前を使いますが、主として朝鮮人指導性を握つておるということであります。一概に朝鮮人言つても、いわゆるわれわれと思想を一にする穏健なる社会生活をせんとするまじめな朝鮮人、いわゆる暴力をもつて自己意思を達成せんという朝鮮人との間に相当はつきりした線を引いておかなければ、今後の国際問題を取扱う上に私は重大な問題があるのではないかと思う。従来日本国籍を持つておるとか、あるいは日本人と結婚しておるとかいうような者の素行状態等も、調べてみると割合に穏健な行動をしておるようであります。こういうような点から考えまして、いわゆる日本に永住を望む者、日本に帰化せんとする者と、また隣国としての友好関係を結ばんとする韓国人、全然それと異なつた北鮮思想、中共の思想をそのまま持つて行こうとする方とは、はつきり警察行政の上にでも目途をつけておく必要があるのではないか、私はかように考えるもの、だから、特にお尋ねするわけであります。その点はよく御了承を願つておきたいと思います。  なおもう一つは、この平和な日本にことさらに暴力をもつて自己意思を達成せんとするがごとき行動をする者に対しては、本国に送還する手続がおのずからなくちやならぬと思うが、こういう点に関して何か調査資料があるか、あるいは何か政府との折衝がおありになるかどうかお聞きしておきたいと思うのであります。
  7. 齋藤昇

    齋藤説明員 ただいまの御意見の次第は、私どもにおきましてもまつたく同様に考えておるのであります。従いまして、日本法律をよく守つて行こうという人たちと、ともすると日本法律を無視する傾向にあるという人たち状況は、できるだけ把握するように努めておるのであります。朝鮮人送還の問題は一つの大きな政治問題だと考えるのでありますが、現在の法律におきましては、御承知のように外国人登録令がございまして、その登録令違反朝鮮人すなわち密入国者、これらの人たち送還手続規定はあるわけでありますが、そうでなくて、先ほど申しますような方法で合法的に日本に在住している朝鮮人に対しましては、いかなる犯罪を犯しても、これを送還するという道はただいまないのであります。これをどういうように扱いまするかは非常に大きな問題だと考えておるのであります。先ほどもお尋ねにありました通り、合法的にいる朝鮮人は、あるいは将来国籍をどちらに持つかわからない状況にある関係もあろうと考えます。しかしながら、今後の情勢いかんによりましてどういうような措置をとらなければならないかということにつきましては、政府の方とも意見の交換をいたしておるような次第であります。
  8. 世耕弘一

    ○世耕委員 最近外国人犯罪に対する裁判権も確保されたように聞いておるのでありまして徐々にそういうふうに改革されて来ることと思いますが、ことさらに日本法律を無視して平和を破壊するような異国人に対しては、国民の一人としても、また政府としても、適当な処置が当然考えられなくちやならぬはずであります。そういうような連中とわれわれは同居しなくちやならぬ義務はないと思うのであります。この点は現場のあなた方が直接痛感することがかなり多かろうと思いますから、政府要路とよく折衝されて、必要に応じて司令部当局とも嚴重な御交渉をなさることが、むしろ日本国民平和生活の上に重大な影響があると思いますから、この機会に特に私は政府側注意を喚起しておきたいと思うのであります。  次に神戸事件を想起し、あるいはその他最近起つた暴動事件を想起いたしますと、あれほど組織的な行動を起して暴動に入つた者に対して、警察隊は常に後手々々を打つておる。これはどういうわけか。騒動が起つてしまつてから手続をとつて取締るということは、きわめて簡單なことでありまするけれども治安とかあるいは行政警察その他の関係から見て、むしろ治安事前に確保する、未然騒動を防ぐというところに、警察ほんとう使命があるのではないか。けれども現在の警察組織の上から見て、それができないとおつしやるならば、できるようなくふうが幾らでもあるんじやないかと私は考える。御説明によつては、また重ねてお尋ねいたしますが、これについて何か御意見があれば、この機会に承りたいと思います。
  9. 齋藤昇

    齋藤説明員 ああいつた事件未然に防止いたしますことは警察の職務であるという御意見は、まつたく同感でございまして、われわれその責任を痛感いたしておるのであります。しかしながら今回の事件の際におきまして、自治体警察も、これに関係いたしました国家地方警察も、あの程度に治めましたことは、よくやつたのではないか、かように私は考えておるのであります。神戸事件のごとき場合におきまして、警察がもし非常にどじを踏んでおりましたらば、もつともつと、あの数倍の事件になつたのではなかろうかというように考えられる節もあるのであります。すでに当日は早朝から警察も動きましたし、大分外から朝鮮人集まつて来ることに対しましても、なし得る限りの防止の方法も講じたのであります。しかしながら三々伍々集まつて参る者に対しまして、これを全部阻止するというやり方もできない現状でもありますし、警察といたしまして、私は最善の努力が払われておつたものだと、かように考えておる次第であります。
  10. 世耕弘一

    ○世耕委員 あなたのお立場としては、最善を盡したのだとおつしやることは、私はむしろ同情に値いする。けれども国民の忌憚ない批評から言うと、警察行動は不十分であつたといわなくちやならぬ。この国民の批評する不十分であつたということの意味がどこに存在するかということを、愼重な態度で私は聞きとつていただかなくちやならぬと思う。神戸事件は取上げませんが、最近名古屋で起つた事件を御承知のはずだ。しかも庁内は襲撃のために数時間カン詰め食つて生命すら危險状態にあるではありませんか。さようなことを起らせるということが、治安はもうすでに維持されていないということになる。さような危險が発生することを予知して防止したとおつしやつてくださるならば、私は満足して警察行動に対して敬意を表したいのだが、遺憾ながら事実はこれに反しておる。おそらくかような行動が今後大きく、もつと組織的にできて来ることの不安があるのです。だからこの際お尋ねいたしたいのだが、立場説明しにくいところもありましようが、特にこういう点を除去することにもつと手を打たれたらいかがでございましようか。もし警察隊が手不足であるならば、増員計画をお立てなすつたらいいじやありませんか。予算がなかつたら、なぜ予算を要求なされないか。何も遠慮する必要はないじやないか。われわれの生活治安がなくて何が保障されます。われわれの生命財産警察の一手によつてのみ守られ、公正な警察の力によつてのみわれわれは安んじて生活ができるのであります。その警察力足らずというたら、何をもつてわれわれは生活が維持できるかということの不安がそこに出て来る。御承知通り英国普通法、コンモン・ローをひもといて考えてみたときに、警察の力が足りない場合には、国民協力を得るということが出ているじやありませんか。もし警察の力が足りなかつたら、国民警備隊というか、あるいは何か自治的な組織をして、われわれの生活並び社会不安を除去するようにしなければならぬ。そういう段階に私は今日到達しておると思う。そこで具体的な問題に入りますが、結局新刑法、新しい憲法というものにとらわれて、警察の最も必要なるところの情報網収集にあなた方が不十分ではないかということがここにうかがわれる。私は治安を確保し、そうしてほんとうにその警察の真価をあげようとすれば、どうしても情報網収集が必要だ、情報網の活動が必要だと思う。昨日の新聞によりますと、マツカーサー元帥新聞記者との会談において説明したところによりますと、北鮮における国際軍行動について、いわゆる索敵といいますか、敵の存在を明瞭ならしめるために、自己作戰計画を確実ならしめるために、索敵行動のためにあの大きな作戰行動をしたということを言うておる。軍にさような斥候とかあるいは索敵行動が大きな必要であるとするならば、警察にも私はさような行動が必要じやないか。しかしながら従来の言う情報とか何とかということが割に非難があるからというので、かえつてあまりに縮み上つているのではないか。だから、ほんとうに手足となるべき神経戰警察からちぎれてしまつているので、がんとなぐられなければ目が覚めない。これではたして治安が維持できるか。私は過般の国会法務総裁にこれに関して似通つた質問をいたしました。それは何かというと野坂君の一月声明によると、平和的手段による革命は不可能である、それは自分の考えとして錯覚であつたゆえにむしろ暴力的革命をやるのだ、こういうことを宣言しておる。そういう声明法務総裁読んだかと聞きましたら、読みましたということを法務総裁は回答しておる。しからば重ねてお尋ねするが、暴力革命を宣言して、これをやるということをはつきり明瞭ならしめた以上は、すでにもう行動に入ることは明らかである。さようなことを政府は黙認するのか、もしさようなことを黙認することが政府として当然許されるまらば、われわれでもやるぞと言つた。そうしたら殖田法務総裁は、実行に移つたらということを言つておる。実行に移つてしまえばもうおしまいではないか。ひとたび暴力革命実行に移つたら、取締るはずの連中がくくられるようになる。くくられたら取締りはできやしないじやないか。そういうきわどいところまで今日の国内情勢行つておるのではないかと私は思います。だから、かなりつつ込んで実はお尋ねするわけなんですが、お立場上私はしいてお返答を求めるわけじやないけれども、これだけの認識だけは持つておいていただきたい。そうして場合によれば、必要に応じて勇敢に私は司令部に要求する必要があると思う。もしあなた方の力が足らなかつた国会の力を借りればよいじやないか。政府の力が弱ければこれが偽らざる国民の要求じやないかと実は私思いますので、特にお聞きする次第であります。
  11. 齋藤昇

    齋藤説明員 われわれにとりまして非常に御同情のある御意見を承りまして、感謝にたえません。私どもといたしましては、御説の通り犯罪情報事前に正確に入手するということが非常に必要なことだと考えております。従いまして、気持におきましては、決してはばかつたりあるいは遠慮するような気持は持つておりません。許された予算と人員の範囲内で、最善を盡したいと思つて努力いたしております。その程度で御了承願います。
  12. 世耕弘一

    ○世耕委員 結論的にもう一点申し上げますが現在の警察制度で満足できますか。あれで完全に治安の確保ができるとあなたお考えになつておりますか。私は不十分じやないかと思う。だから、むしろ不十分の点があれば、どしどし予算を要求して、足らなければ、国会協力も得るし、司令部協力も得たらどうか。結論的に申し上げますならば、治安があつてのみわれわれは安んじて生活ができるのだ。一番大切なことは今日の場合経済も大切なことはもちろんであるが、これと並行して警察の正しいあり方ということと、力のある警察ということをわれわれは要望してやまない。これは今後想像される幾多の難問題が発生して来るから、私は予見的に実はあなたに注文をつけるようなわけです。私は現在の警察制度組織並びに機動性等考えて不十分だというふうに考えている。なお警察予備隊の点については別な機会お尋ねするとしまして、この点についていずれ他の議員諸君からも御質問があろうと思いますから、私はこの程度にとどめておきますが、特に御留意が願いたいということをお願いいたしておきます。  それから最後に一点お尋ねしておきたいのは、たとえばこの間の東京大学並びに早稻田大学国警自治警が出動する場合、どういう手続をとつて出動なさいますか。これについてもいろいろトラブルがあるようでありますが、こういう点に対しましても、いたずらに警察が飛び出して行つて、純正な学生を弾圧するがごとき風評が出ているのでありますから、私はこの機会警察当局がどういう考え処置に当つているのだということを明確にしておく必要があるじやないかと思いますから、お尋ねしておきます。
  13. 齋藤昇

    齋藤説明員 学校内におきまする集団的な不穏な行動がありました場合、今例にあげられましたような最近の事例のごとき場合におきましては、警察といたしましては、学校当局から要請があつた場合に出るというようにいたしているのであります。明瞭なる普通犯罪の場合には、これは学園といえども当然飛び出して行つてさしつかえないと思うのでありますが、学校の雰囲気あるいは教育といいますか、しつけといいますか、そういうものが非常に密接な関係を持つておりますような問題につきましては、学校意見を尊重いたしまして、学校と無関係に飛び出して行くということのないように事実やつている次第であります。
  14. 世耕弘一

    ○世耕委員 それはほんと言うと消極的なんです。学校はもう一つ社会なんです。戰前の警察から言うと、どうもあなたの学校には不穏な形勢があるから、万一の場合お気をつけなさつたらいいでしようということで、よく注意を喚起して、そして未然騒動の起らぬようにした例が幾多あるのです。最近の警察行動は、事件が起つて総長や学長やあるいは学校責任者カン詰になつて、救い出しに行くときにのみ警察が活動するというような状態です。だから、これを世界的に見ると、実に日本大学はふしだらな大学だということを世界に発表するような不祥事件が起つている。事件未然に防ぐということが警察本来の使命であるとするなら、もう少し積極的な親切さが持てるのではないかというふうに考えられる。京都大学のごとき例を見ましても、総長が二十何時間か、不良学生のためにカン詰にされた。そして要請されて初めて三百か五百の警察官が、これを救い出しに行く。それだけが警察の役目だ。それじや何にもならぬ。しかも救い出しに行くと、不良学生——学生であるか何かわからぬが、トラックの前に寝てしまつた。だから一々それをひつぱり出し、よけながらトラックを動かして行つたというような状況なんです。お考えが少し上品過ぎやしないかと私は考えておる。もつともつと積極的な警察行動が今日必要ではないかというふうに考えております。私が大学関係ある者の一人として申し上げたいことは、大学自治をはき違えていやせぬかということです。ことに東京大学のごときは、国家予算をもつてつている以上、国家支配権のもとに服従する、方針に従うというのはあたりまえのことです。ある限度がある。絶対自由というものはあり得ない。さような場合に、警察は正しい見解をもつて進むべきじやないか、私はかように考える。  なおこの機会に、適当じやないかもしらぬが、つけ加えて申し上げたいことは、各大学では、赤の行動をしたとか、あるいは不穏行動したといつて学生を多数処分しております。学生不穏行動によつて処分することは、学校教育の建前上当然でありましよう。しかしながらなぜさような学生を指導した教授を処分しないか。教職員をなぜ処分しないか。今日文部省の態度は、この点について逃げ腰です。うるさいからとでも言うのでしよう。これは不都合です。学生ばかりに責任を負わして、先生の方は負わぬというのは道理に合いません。だから、赤い卵を生んだからといつて、卵ばかりつぶして、赤い鶏をほうつておけばいつまでも赤い卵を生むじやありませんか。だからちようど権兵衛が種まきやからすがほじくると同じようなことをそこに言うことができる。この思想対策ということに対して、純正な考えをお持ちくださることが警察に必要である。思想に対する研究、対策等について、彈圧するという意味ではありませんです、正しい判断が必要じやないか。私はあえて言う。共産主義思想そのものに対して、私は反対いたしません。私は公然とよそでも言つておる。けれどもその行動自体に対しては、われわれは強く反対して来ておる。われわれの将来の社会共存共栄ほんとう共産主義思想で、お互いに助け合い、おれの物はお前の物、お前の物はおれの物という天国を求めたいのは理想です。それが共産主義思想でなくちやならぬ。お前の物はおれの物、おれの物はおれの物という思想であるから闘つて行かなければならぬ。警察官の中にも思想的にいろいろ非難ある人が多いようでありますが、国警首脳者であるあなたは、ひとつ学問的にも実際的にも、両方兼備した強い警察精神というものを打立てて、その上に部下指導に当つていただけば、力強い信念のある行動ができるのではないか、私はかように思うのでありますが、この点に関して、これは簡單説明ができないと思いますが、気持だけでも、この際聞かせていただければけつこうだと思います。
  15. 齋藤昇

    齋藤説明員 及ばずながら、ただいま世耕委員のおつしやるような方向に向つて、最大の努力をいたしておるのであります。私の一番の関心事は、ただいま世耕委員のおつしやいました点にあるのであります。警察官ほんとうに民族の幸福、人類の幸福のために役立つような、そういう強い人生観、世界観を持ち、それに立脚して、その理想を達成するために全身の努力といいますか、言葉が大げさでありますが、全生命を打込むというところにあるべきだ、かように考えて指導いたしておるのであります。従いまして、今おつしやいます通り、世界観なり、あるいは人生観の持ち方というものに、非常に教養上も注意をいたし、努力をいたしておるような次第であります。
  16. 世耕弘一

    ○世耕委員 最後に一点だけ結論として申し上げますが、警察使命というものは偉大な任務があるのだということを警察官自身が知つていなければならぬ。治安の全部、全国民社会生活の保安がわが一身にかかつておるのだという信念を、まず養つていただきたい。これさえあれば、人権蹂躙にはならない。私は最近の警察行動を全部非難しようと思いません。われわれが自動車でうちへ帰るときに、所々で不審尋問されます。じつと私はそれを見ておる。帽子をとつて、まことに失礼だが、ちよつと調べさせていただきますからしばらくお待ちを願いたいと言うて、ちやんとドアーをあけてあいさつして、それから運転手といろいろな質問応答されている警察官をときどき見かける。私はそういうようなりつぱな態度に対しては、どうも御苦労様という言葉が出ざるを得ない。ところが黙つて昔風にとめて調べて、そしてドアーをぴしやんとしめて、行けと言うようなまだ旧式な警察官があるのです。またスピードを間違えて出し過ぎる、あるいはまわり方を違えた場合に、警察官にとめられた一、二の例がある。そうするとドアーをあけて、運転手をつかまえて曰く、あなたは大事な先生を乗つけて走つているのじやないか、万一事故あるいは被害をこうむるようなことがあつたり、けがでもなさつたら、あなたの責任は果せますか、われわれは決して交通をやかましく言うのではないけれども、事故を防止するためにやるのだ、気をつけなさいよと言うと、運転手はむしろ感激して、帽子をとつている。警察のあり方は二色あるのだが、私はこの旧式の警察態度を改めないで、国民からかわいがられない警察官のあることを遺憾に思う。しかしその中に優秀な警察官が存在することを私は認めるのであります。こういうようなささいな点が、意外に警察への協力を深める大きな機会になるのでありますから、こまかいことでありますけれども、御注意願いたいということと、過般委員会でも問題になつておりましたが、共産党の幹部が地下にもぐつて、もうすでに大分長くなる。私がこの委員会で聞きましたところ、逮捕する確信があると言うたから、私は安心した名古屋で一人逮捕されたようですが、その名古屋で逮捕したのもおおむね民間の協力によつて逮捕されたということを聞いております。それはそれといたしまして、私はこの機会に重要な一点をあなたにお尋ねし、また関係政府委員にもお尋ねしておきたいと思うことは、ただ自己の住所を明記して届け出るだけでいいのにもかかわらず、それをしないばつかりに十年以下の懲役とか十万円以下の罰金をくう、そんな大きな犠牲を承知しながら共産党の幹部が地下にもぐるというのには、それ以上に大きな目的があつてもぐつておるということが推定できる。その原因について警察は十分御研究になりましたか。その研究が遂げられなければこの幹部逮捕は不可能である。手探りであるということを私は言いたいのだが、この点はいかがですか。あなたの所管にはあるいはならないかもしれませんが、御協力なさるので、これは重要な点だからお尋ねしておきたい。
  17. 齋藤昇

    齋藤説明員 及ばずながら、ただいまの点は——追放された共産党幹部で今令状の出ております者に対する捜査の方法、根本問題は十分研究いたし、ただいまお尋ねの点につきましては、十分認識を持つておるつもりであります。御安心を願います。
  18. 世耕弘一

    ○世耕委員 この点はいかがですか、私は前に法務総裁にも検察関係にも注文したはずでありますが、名古屋の春日某かを逮捕したときも、民間人の協力が多数あずかつたと私は聞いております。そうすると、民間人の協力を得なければ逮捕不可能だということが推量できる。民間人の協力を得るということになれば、一番手取り早い方法は結局賞金をかけるということである。ところが警察当局、検察当局はこの賞金をかけることを非常に嫌うような感があり、話題にのぼつておるといつの間にか消えてしまう。私は一人の幹部逮捕に百万円かけろと言つておる。もし政府あるいは警察に金がなかつたら民間で募集すればいい。おそらくこれまであなた方が地下逃亡の幹部を逮捕するために使つた金は推算して数千万円と私は思う。それなら十人にかりに百万円ずつ一千万円かけさえすれば、おそらく一週間足らずして私は逮捕できると思う。地下にもぐつたといつて、穴を掘つてもぐらもちのように地の中に、人間のいないところに住んでおるはずはない。必ず人間と交渉がある。百万円出せば必ず一週間で逮捕できると思う。なぜ近道をやらないのかというのです。極端な例をいえば、本人が飛び出して来たときはどうするか、本人にも百万円やればいい。それまで徹底している。その家の奥さんや書生や女中が来てもかまいやしない。目的を達すればそれでいいでしよう。むだなところに数千万円金を投ずるなら、その手取り早い方法をなぜやらないのかというのです。今日機械化的、機動的な活動が警察方面にも活用されているのに、経済的な面から見て、しかも群衆心理をぴつしやりとにぎるこの行き方をなぜ活用しないのですか。何かそこにわけがあるのですか。何か法律的故障があるのですか。何でもないことをなぜやらないのか、警察官がつかまえて来たら、そういう優秀な警察官には百万円やればいい。それが欧米的な捜査方法一つの秘訣ではないかと思う。おそらく司令部の諸君にも、この理論を言えば頭のいい諸君はオーケーと来るだろうと思う。なぜそれをもつと積極的にやらないのかと思うのであります。だから、ある意味においては、そういうことをすると早くつかまるが、共産党の諸君に悪いから遠慮してやらないのかなあと思うくらい私は妙なひがみを持つて見ているのですが、その点はどうですか。これで私の質問を終ることにします。
  19. 齋藤昇

    齋藤説明員 賞金問題は、この件につきましてもうわさにのぼつてつたようであります。御承知通り下山総裁の場合に賞金をかけた例があります。賞金それ自身について警察はいやがつておるわけでも、またその方法がいけないときめ込んでおるわけでもありません。しかしながら普通犯罪と違いまして、こういう場合に民間の協力者の多くは自分の名前の出ることを隠したいのでありまして、賞金というものではどうしても本人の名前が先に出ます。これについて協力が得られるかどうかという点は疑問ではないのであろうか、かようにも考えておるのであります。なおしかしこれは研究の問題でもありますので、よく考えたいと思います。
  20. 世耕弘一

    ○世耕委員 質問せぬつもりだつたけれども質問するが、普通犯罪じやない特殊性があるからおやりなさいと言つておるのです。どうも最近は、めんどうになると他殺者でも自殺者に固めてしまうくせがあるように思えてしかたがない。失火でもそうです。漏電と言つたらそれで責任者がなくなる。他殺者も、これを自殺というように片づけてしまえば責任がなくなる。これはごく簡單なことだが、そこに警察の微力、無能というものが非難されて来る。いつかも私が申し上げましたように、昔の信用ある警察は、警察のちようちん一つ出しただけで警察の旦那が来たというので治まつてしまつた。ピストルを撃つても近ごろ治まらない原因はどこにあるかというのです。そこを私は考えていただきたい。昔は警察というちようちん一つ出しても警察の旦那が来たと言つてみな治まつて、縛につくものは縛につくし、素直になつた。その威力を発揮してもらいたい。それでなければ信頼できない。国民協力を得るということは金銭ばかりではありません。特殊性のある犯罪だからこれをやつたらいいじやないか。予算がなければ国民に訴えて金を寄付させればいいではないですか。私にやらせれば一千万円ぐらいの金は集めて見せる。また同時に、やらぬつもりならこれは別です。けれども、そのつもりなら金の一千万円ぐらい集めるのはわけはない。もう一つは、名前が出ると言うが、名前を出さなければよい。富くじのように名前を出さないで秘密にして、秘密の情報をあなたの方に提出してくれた者に対して秘密に税もかけないでやる方法はありますよ。あなたに知恵がないというなら知恵を貸してもよいのです。だから、あなたに積極的な頭がおありになればできることだと私はかように考えます。いずれ私の意見を述べるチャンスがあろうと思いますので、あまり多くの時間をとることは他の委員に失礼ですからとどめておきますが、意のあるところだけは十分研究していただきたい。私が單純にここでお願いするのは、国民意思のどこにあるかということをそんたくいたしまして、総括的にお願いしているということだけお聞き願えばけつこうです。
  21. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の世耕君の質問に関連していると思うのでありますが、新聞、あるいは巷間伝えるところによれば、関東地方に何かやはり神戸や、あの辺に起つたような事案が起るのじやないかというような不安があるのであります。これに対しまして国警あるいは特審局におきましては、関東地方にああいうふうな暴動的なものが起るような形勢があるのかないのか、あるとするならばいかなる事実があるのか、公表できる範囲において御説明いただきたいと思います。
  22. 齋藤昇

    齋藤説明員 ここで公表できるような事実はございません。しかし四囲の情勢から考えて、あるいはそういうことがあり得るのではなかろうか、かように考えられる点はあります。確実なる事実があつて、それに基いてこういうことが必ず起り得るということはただいま申し上げる資料を持つておりません。
  23. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先ほど世耕氏が言つたように、事が起つてからたたくというのじやおそいということに相なりまするならば、どういう根拠か知りませんが、そういう一般的な不安を持つておるのが実情であるとするならば、これは鋭意事の起らざる未然のうちに、何らかの方法において十分なる御研究をなさらなければならぬと思いますが、もちろんさような行動に対しましては、十分いろいろの情報を集め、警戒にあたつておられると思いますけれども国民の不安の一端を表わしましてそういうことに対しまするいかなる活動を警察なり、特審局においてやつておられるのであるか承りたい。
  24. 齋藤昇

    齋藤説明員 ただいま世耕委員から御指摘ありましたように、できるだけ事前情報をひそかに入手をすることに努める、これ以外に方法はないのでありまして、私どもは可能な範囲内で最善の努力をいたしておる次第であります。
  25. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 関連質問はこれだけですが……。
  26. 安部俊吾

    安部委員長 なお猪俣委員から警察予備隊国内治安に関する件の御発言の通告がありまするが、増原本部長官はちよつと関係方面に行つておりまするが、江口次長がおいでになつておりますので、猪俣君に発言を許します。
  27. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 ちよつと関連して……。先ほどの質疑応答で承つたのですが、朝鮮人日本法律に従わなくても、送還する法律上の手続がないということですが、これはどうも私は了解できないのであります。そこで先ほどのあなたのお話から聞きますと、昭和二十二年に、日本法律に従う者はおつてもよろしい、従うことがいやなら帰つてもよろしい、こういうことを言われままが、これはわれわれの方も知つております。そこで私は法律に従うのはいやだけれども、帰るのもいやだと言つたらどうなさるのですか、まずそのことから伺いたい。
  28. 齋藤昇

    齋藤説明員 日本法律によつて処罰することになります。
  29. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そのときに帰してやるという方法はなかつたのですか。
  30. 齋藤昇

    齋藤説明員 日本法律に従わないけれども、こちらにおりたいというような意思表示をしたことはなかつたのであります。日本法律に従う、日本法律で処罰されることを承知をするということでおつたのであります。
  31. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうもおかしいのですが、そうするとそれは処罰するとおつしやるが、法律に従うことのいやな者は帰れ、法律に従うことのいい者はおれということで、私は法律に従うのはいやだ、しかし帰らぬとこう言つた者を処罰する方法はなかつたのですか。犯罪があれば処罰するのは、これは日本法律に従おうと思つてつたのだからそうするのは当然だと思いますが、その点は何かなければならぬと思うが、そこはどうですか。
  32. 齋藤昇

    齋藤説明員 先ほど申し上げましたような説明で、何月何日まで向うへ帰りたいと思う者は送還してやる。それ以降は送還はできないかもしれない。こういうことで向うへ帰りたいという者を当時帰したわけであります。従いまして結論としては残つております者は帰りたくなかつた日本法律の処罰をそのまま甘受をする、こういう形になつてつたと思います。
  33. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 外国人日本において日本法律に従わない、また日本国内において治安上妨げになるというようなことがわかれば、当然帰されるものと私は考えられますが、帰されない理由はどこにあるのか。
  34. 齋藤昇

    齋藤説明員 これは私の方の問題ではありませんで、むしろ外務省の問題であろうと考えております。朝鮮人国籍の帰属問題、日本に在住していた朝鮮人国籍問題というものをどう取扱うか。先ほども申しますように、これは講和会議のときの問題であろうと考えますが、その点が確立いたしませんと、半分外国人であるがごとく、半分日本人であるがごとく、こういう程度の取扱いというようになつている。従つて合法的に登録された朝鮮人は、国籍の所属いかんにかかわらず日本人と同様の扱いをする、こういう立場に立つてつたものと私は承知いたしておりますが、それ以上の点は私は外務省、あるいは大きく言えば政府朝鮮人国籍取扱いの問題にかかるであろう、さように考えます。
  35. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうもまだはつきりわかりませんが、朝鮮人は、そうやつてずつと日本に住んでおつたら、そういう疑問が起るというのならば、朝鮮人以外の外国人であつたら、これは日本においてこういう者を置いたら治安上妨げになると認められたならば、あなた方はやむを得ざる理由に加えて見ておりますか。それはどういう方法をおやりになるか。
  36. 齋藤昇

    齋藤説明員 朝鮮以外のいわゆる連合国人の問題につきましては、ただいまのところではもつぱら総司令部の問題にかかつておると私は承知をいたしております。国内で処理する方法はまだ与えられておらないと私は承知いたしております。
  37. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もちろんそうでしようが、そのときあなた方はこういうものを置いてもらつては困るということを連合国に言うて行く方法はありそうなものと思います。
  38. 齋藤昇

    齋藤説明員 それは事実上連絡の方法はございます。
  39. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 連合国人でそれができるのに、朝鮮人においてできないということはなおさら了解に苦しむですが、それはもつと研究してみてからでないとやられないという、今のあなたの言われるようなことを乱暴している朝鮮人が聞いたら、これを得たりかしこしと思うから質問するのだが、連合国人ですらあるのだから、ましてや乱暴の朝鮮人を始末できないということはないと思う。これは研究していただけるか、それとも処置がないのかどうかお答え願いたい。
  40. 齋藤昇

    齋藤説明員 これは研究の余地のある問題だと考えております。ただいま私は現状を御説明を申し上げているわけであります。なお研究を要する余地のある問題だ、かように考えてせつかく研究いたしたいと思います。
  41. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 十分研究していただきたいと思う。この間朝鮮人日本における数を聞きましたが、これは確か八月末現在だと聞いた。その後においてなお相当の入国者があると思うのです。正当なる手続を経て入国しておる者また密入国が相当多いと心得るのですが、それらに対して相当の調べができておるかどうか、これは国警長官の方で何なら、ちようど特審局長がおられますから、特審局長からでもよろしゆうございますから承りたいと思います。
  42. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 ただいま御質問の点につきましては、八月以降の計数はまだ上つておりません。ただ先般当委員会で私が在日鮮人の計数を御説明いたしましたところが、帰りますると、居留民団の方から翌日お話がありまして、民団側で在日鮮人を登録をした、ところが約三十万名登録しておるというようなことを申しておりました。私はこれに対して、それは民団側は政府機関ではないので外人登録令による登録ではない、これをそのままオーソライズするわけにはいかぬが、一応参考として承つておく、できれば民団側の全国各都道府県別の登録計数を採集できれば幸いである、こういうふうに答えておきました。そのとき民団側の登録数は約三十万名だと申しておりました。ただいま御質問の八月以降における密入国の状況は、私どもの直接所管でもございませんし、間接の調査もまだ出ておりません。御了承願いたいと思います。
  43. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 これはつかまらぬ者はやむを得ぬかもしれぬが、つかまえたらたいてい帰しておられると思いますが、近ごろの状況はどのくらいなものですか、八月以降のをひとつちよつと聞かせてもらいたいと思います。
  44. 齋藤昇

    齋藤説明員 朝鮮人の密入国の問題は、御承知通り先般より外務省の出入国管理局で取扱うことになつたのでありますが、私の方も関係しておりますから私の知つている限り申し上げます。朝鮮で戰乱が起りまして以来、私の方では密入国者あるいは避難者という形をとつて相当ふえるのではないかという考えを持つて対策を立てておつたのであります。しかしながら事実はこれに反しまして、朝鮮海域における取締りが非常に嚴重になつた結果かと思うのでありますが、密入国者はそれ以前よりも非常に減つておるのであります。朝鮮で戦乱が起りまして、一、二箇月というものはほとんどなかつたといつていいような状態であります。最近若干ふえて来ておるだろうと考えておりますが、戰乱が始まつて以来今日まで密入国者として上つて参りました者を取押えました数は、総計いたしましておそらく三百名前後、あるいは三、四百名程度ではないかと考えております。戦乱の開始後はまだ向うに送還をいたしておらぬと承知いたしております。ほとんど大部分は大村の収容所に収容いたしております。戰乱開始以前から密入国者として逮捕されておりました者と合せまして六百名前後ぐらいになつておると考えております。最近送還できる可能性が考えられたのでありますが、まだ今日までそのままになつております。こういう状況でございます。
  45. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 よろしゆうございます。
  46. 安部俊吾

    安部委員長 世耕委員に申し上げますが、予備隊関係について御発言はありませんか。
  47. 世耕弘一

    ○世耕委員 あります。
  48. 安部俊吾

    安部委員長 それではただいま江口次長が見えておりますから——世耕弘一君。
  49. 世耕弘一

    ○世耕委員 実は予備隊関係質問相当重大なことを聞きたいと思うので、できたら総理大臣の御出席を願いたいと思うのですが、それはあるいは注文がむりかと思いますので差控えますが、できれば長官の御出席をおとりはからい願いたい。その上で問題は——きわめて私の質問簡單で十分か十五分で済むのですけれども、問題が問題だけに当の責任者が出ていただけば非常にけつこうだと思います。
  50. 安部俊吾

    安部委員長 それは増原本部長官ですか。
  51. 世耕弘一

    ○世耕委員 そうです。
  52. 安部俊吾

    安部委員長 ただいまGHQに行つていらつしやるから、連絡して午後出席するようにいたします。
  53. 世耕弘一

    ○世耕委員 そういうふうにおとりはからい願えればどなたかにお讓りして保留いたします。
  54. 安部俊吾

    安部委員長 了承いたしました。猪俣浩三君。
  55. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは委員長にお願いしておくのですが、私も世耕氏と同じように、警察予備隊の問題は、国内及び国際的に重要な問題でありまするけれども、この正確な将来の見通しのごときは総理大臣が出ないと権威がないと思うのであります。そこで総理大臣がおいでにならぬといたしましても、法務総裁なり、あるいは長官なりがお見えにならぬというと、さような問題については答弁を求めてもいたし方がないと存ずるので、これは後刻にまわしたいと思うのであります。できましたら総理大臣なり法務総裁なり、あるいは長官なり御出席願つて質問いたしたいと思うのであります。そこで今次長がおいでになつておるそうでありますが、午後は長官はおいでになるのですか。
  56. 安部俊吾

    安部委員長 連絡いたしますから、午後は長官はいらつしやる。
  57. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 とにかく警察予備隊につきましては、第八国会でも私は法務総裁質問しましたけれども、まだ機構がきまつておらぬということで全然答弁をなさらない。そこで、この国会において明らかにしたいことが多々あるのでありますが、やはり大綱につきましては長官がおいでになつてからにしたいと思うのでこれは留保いたしておりますから、長官の出席を必ず委員会として要求していただきたいと思います。
  58. 安部俊吾

    安部委員長 了承いたしました。
  59. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこでその他のこまかいことにつきまして次長に一、二御質問いたしたいと思うのであります。それは警察予備隊が出動する場合は、およそ二つあると思うのでありまして、一つ警察法六十二條による非常事態の宣言のあつたとき、これは内閣総理大臣が最高の責任者となつておりますから問題外といたしまして、そのほかに警察予備隊令の第三條第一項に、治安維持のため特別の必要ある場合におきまして行動するということが書いてあるのであります。そこでお尋ねいたしたいことは、警察予備隊令第三條第一項によつて出動する場合は何人の、要請によつて出動するものであるかお尋ねしたいと思うのであります。
  60. 江口見登留

    ○江口政府委員 事実問題といたしまして、どういう方面からの要請により、またどういう状態が生じた場合に出動の命令が総理大臣から下るかということにつきましては、予想的なお答えはできまするが、はつきりとこういう場合とこういう場合に出動するのであるということは、具体的にはなはだ表現しにくいのでございまして、ただここに書いてあります通り治安維持のため特別の必要ある場合においてということ、こういうことをもう少し敷衍いたしますれば、第一條にもありまする通り国家地方警察及び自治体警察警察力の補完として予備隊が出動する場合がある。その場合には、もちろん各方面の要望によつて出動する場合もありましようが、要望がありましたところで、その要望通りに出動しない場合もありましようし、最後の出動するしないの決定権は総理大臣の判断によつて行われる。こういうふうに考えております。
  61. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういう御答弁であると、なおその先のことを御質問しなければならぬのでありますが、昭和二十二年九月十六日に、警察に関するマ書簡が出ておる。この精神に基いて警察法ができ上つたことは申すまでもない。この日本警察のあり方、性格につきましての根本法であるところの警察法と、政令で出されましたるこの予備隊令というものは、警察という観念については同じものであるかどうか、それをお尋ねしなければならぬと思う。それはどういうふうにお考えになりますか。
  62. 江口見登留

    ○江口政府委員 あくまで国家地方警察及び自治体警察警察力を補うための警察予備隊でございまして、それが出動する場合におきましては、ただいま申し上げました通り、あるいは現在国内治安の第一の責任者でありまする警察関係における判断なり要請なりが非常な重きをなすであろうことは間違いないところでございます。
  63. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 もし警察の観念が、警察法の警察と予備隊令の警察とが同様であるならば、申すまでもなく警察法の精神は、警察の民主化及び警察の中央集権化を避けておる根本方針であることは、あなた御存じの通りである。民主化の一端として公安委員会というものが存在しておることは申すまでもない。非常事態が発生いたしまして警察法の六十二條によつて行動する場合におきましても、この運営の企画その他におきましては、国家公安委員会が立案に当ることに相なつておる。こういう精神と調和することに相なりまするならば、一体内閣総理大臣が独断によりまして警察隊を出動させるというようなことは避けなければならない。少くとも公安委員会の要請によるということが、この警察法と予備隊令の警察と同じ観念のもとに活動するものならば、そういう原則を確立しなければならぬと思うのであります。しからざればいわゆるこの権力が内閣総理大臣に集中するようなことに相なる疑いができて来て、この警察法の根本精神でありまするところの権力の集中と民主化の精神と沿わないと思う。でありまするから、非常事態宣告の場合におきましても、国家公安委員会が、その立案に当るような趣旨に相なつておるとするならば、この両方の予備隊令と警察法を調和する観念からしますならば、少くとも公安委員会の要請に基いて活動するというふうにしなければ調和しないと私は思いますが、これはいかがですか。
  64. 江口見登留

    ○江口政府委員 公安委員会の要請ということも、非常に重要な要素であることは申し上げるまでもございません。ただ公安委員会も大きな府県の分もありますし、あるいはそれ以下の分もございますし、その要請がありました場合、それに対する予備隊自体としての判断をきめます際には、やはりいかなる種類の公安委員会の要請であるかということも十分考慮の上で最後の決定をいたさなければならぬと思いますが、もちろん公安委員会発言力が非常に強く働いた上でなければ、この予備隊というものは発動すべきものではないと考えております。
  65. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 もちろん公安委員会が要請しても、要請に応ずべきかどうかは、もちろん総理大臣の権限でありましようが、たとえば旧軍隊組織の時分には、地方知事が師団長に向つて兵力の出動を要請した、それによつて師団長が出かけるのであつて、さような要請のない場合に師団は活動しないというふうな建前でこの警察法と調和するためには、要請は地方なり国家なりの公安委員会が要請する。それに基いて措置すべきかどうかを総理大臣が判断する。判断する権力は総理大臣にあることは否定しないのでありますが、その出動の要請の事実上の主体をどこに置くか、これを確立しておきませんと、警察権が時の政権によつて濫用せられるという疑いがあるから私はこの質問をしている。もし内閣総理大臣の判断によつて、予備隊がただちに出動できるというような原則に相なるならば、警察法の精神とまつたく違つた一つの軍隊が出現したといわれてもしかたがないと思う。これにつきまして予備隊の指導者はいかなる観念を持つておるかを今質問をしたのです。これははつきり態度を決定しなければいかぬ時期に遭遇しているのじやないか。予備隊が軍隊であるという世評もあるのでありますが、これはいろいろな点にありましよう。こういうふうな公安委員会を重視し、それによつて活動するということによつて、わずかに警察法の精神と調和するのではないか。それまでも蹂躙しまして、しかも警察法と何ら齟齬しないものであるというようなことは、強弁にすぎないと思う。その点につきましてしつかりした御答弁をいただきたい。今日できなければ、関係当局と御相談の上でこの委員会に対する答弁によつて、この警察予備隊なりあるいは政府なりの見解を一定さしておきませんと、非常な誤解を抱くのみならず、また濫用をせられるおそれがあるのでありまして、簡單なようであつても重大問題だと私は思う。あなたの御答弁としては、公安委員会を拔きにしてもなお発動する場合があり得るのか、それをもう一度念のためにお聞きいたします。
  66. 江口見登留

    ○江口政府委員 現在の警察と予備隊との関係、ことにいかなる場合に警察予備隊が出動すべきかということをはつきりしたものにしようという意見ももちろんございます。ただ出発早々でございまして、まだこまかいところまで関係方面と相談が完成したわけではございませんが、何らか文字によつてそういうようなものをきめておいた方がいいのではないかということも考えております。ただそれをやりますと、あるいは法律の改正というような問題にまで波及するかもわかりませんし、それらの点につきましては相当愼重に——われわれなおざりにいたしておるわけではございませんので、できるだけただいまお話のありましたような線に沿つて行動できる基準を近き将来きめたい、かように考えております。その基準をつくります際に、公安委員会の要請がなくても出動する場合があるかというお尋ねになりますと、めつたにはないけれども、たまにはあるかもしれないというふうにお答えするより仕方がないと思います。
  67. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 警察予備隊はどこまでも国家地方警察あるいは自治体警察の弱体を補うものであるという御答弁は、終始一貫しておることであるのであります。ところが先ほど申しましたように、この国家非常事態の際におきましても、警察法第四條第六号の規定によりまして、国家非常事態に対処するための警察の統合、計画の立案及び実施に関する事項は、国家公安委員会がやつておる。国家非常事態の際にもそういうふうになつておる。しかるにそういう警察法とまつたく違つて、公安委員会を拔きにした発動というものを警察隊の出動に認めて、しかもこの警察法と予備隊令は何ら矛盾しないのだという説明が、一体可能になるかどうかということが考えられまするから、立案の際にはよほど御注意を願つておきたいと思うのであります。今早々の際に性格を決定的にしておきませんと、これは非常な誤解を招くのみならず、弊害が生ずると思いますから特に私ども要望いたしておきます。  それから第二点といたしましては、警察予備隊が出動するような場合におきましては、もちろん国家警察及び自治体警察も出動するだろう。しかしながらこの国家地方警察及び自治体警察、なおその上に予備隊という三者がみな出動した場合、現地におきますあるいはその他におきまして、この三者を統合する者は何人であるか、実際の指揮統一する者は何人であるか、これも予備隊令にもはつきりしておらぬし、もちろん警察法には予備隊というものを予定しなかつたから書いてない。そこで事実問題といたしまして、これはどういうふうに統合されるのであるか、御説明を承りたいと思うのであります。
  68. 江口見登留

    ○江口政府委員 この点につきましては、あるいは国警長官からも御回答があるかとも思いますが、私ども考えておりますのは、ただいま申し上げましたようなその行動の基準というものがはつきりきめられておりませんので、ただ漠然とお答え申し上げるよりいたし方ないと思いますが、非常事能の適用がありました際の国警、自警の一時的統制権は総理大臣に帰属する。同時にまた警察予備隊の指揮権も総理大臣の手中にある。従いましてこの三者の相互間の連絡、活動、それらはやはり総理大臣が各部門における助言により、あるいは情勢判断により、運用の最後の決定はやはり総理大臣の名において決定される、こう考えておるのでありまして、それに至るまでの事務系統なり、指揮系統なり、その下部では、きわめて複雑でございますので、またはつきりした御回答を申し上げるまでに研究が進んでいないような次第でございます。
  69. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の国家地方警察及び自治体警察関係だけでもはなはだ複雑になつておる。そこへまた予備隊というものが出て来る。しかも予備隊というものは、これらの二つの警察を補完するものであるという答弁であるが、そうするとあなたのお考えでは、内閣総理大臣がその事態々々に当つてだれだれを指揮官とするかということを臨機にきめる、こういう方針ではないかという御説明であります。しかしさようなことで一体有機的な、強力な活動ができましようか、そのときどきに場当りにだれを指揮官にするかなどということをきめて、この複雑な三つの警察を統合して行くことができるかどうか、そうしてその活動につきましても、一体公安委員会とどういう関係になるのであるか。地方警察及び自治体警察はそれぞれ公安委員会がある。その公安委員会と全然関係のない警察予備隊令というものによつて出動する。そこに警察予備隊がある、そうすると公安委員会とは一体どういう関係になりますか、公安委員会を拔きにしてなお総理大臣が非常事態宣言にあらざる場合においても、臨機に指揮命令者をつくるということに相なるのであるか、さような企画につきましてまだきまつておらぬというようなことは、こういう非常事態がいつ発生するかわからない場合に、私ははなはだ遺憾なのですが、まだそういうことの具体的な研究はできておりませんか。
  70. 齋藤昇

    齋藤説明員 ただいまの点につきましては、ある委員会で大橋法務総裁もただいまはこう考えておるというふうに答弁をせられておるのであります。そして私ども警察の方の面から見ましても、その行き方で行くのが適当ではないかと考えておりますので、その点を申し上げておきたいと思います。予備隊が出動いたしました場合に警察との関係は、どちらが指導権をとつて他の方をその指揮下に入れるかというように考えないで、指揮系統はやはり警察の面と予備隊の面と二本ある。先ほど御指摘になりましたように、以前知事の出兵請求権に基きまして軍隊が出動をいたした場合におきましても、警察はその指揮下には入らなくて、事実上協力をいたしたのであります。予備隊は軍隊ではありませんけれども、その同時に出動いたしました場合の関係は、事実上の問題といたしまして、事実上の協力によつてやるということが一番いいのではないか、かように考えております。その事実上の協力ということがはたして円満に行くかどうかという御懸念もおありであろうと考えますけれども、過去の軍隊が出ました場合における警察との関係と同じように、一本の指揮系統にしなくても、それぞれの分野において指揮者が協議をしながら持場を定め、職務の遂行が可能なものだと考えておるのであります。国家地方警察自治体警察との関係は、たとえば国家地方警察自治体警察の応援に出かけました場合には、その当該自治体の公安委員会の管理に入りますが、実際上はそこの自治体の警察長の指揮下に入るか、または公安委員会の要請いかんによりましては国家地方警察の指揮者のもとに自治体の警察を入れて指揮をするか、両方の方法があるわけでありますが、しかしながら実際の活動面におきましては、指揮系統は事実上は一本として行われる、こういう状況になつております。
  71. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の国家地方警察自治体警察は、要請しましたところの公安委員会がすべての計画を立案してやるということになつて、一応統一がついておる。国家警察の出動の点につきまして、何人の要請によつて出動することが警察法の精神に最も適するものであるかということとも関連があるのでありまして、すでに非常事態に際しましても、なお国家公安委員会というものの活動が中心に相なつておる。しからばそれを補完すべき予備隊というものが出動しても、結局におきまして、この、要請いたしました公安委員会というものとの連関を十二分にお考えになつておつくりにならぬと、いわゆる警察の民主化の精神でつくりました警察法と予備隊令というものが、まるで離れてしまう。ところが政府要路人たち説明は、一体昭和二十二年九月十六日のマ書簡の精神と今回の予備隊をつくることに対するマ書簡の精神とが同じであるか違うのであるかという質問を、第八国会で私がいたしましても、全然同様であつて警察はかわりがない、それは自治体、国家警察をただ補完するものであるという答弁に終始されておる。しかるに実際具体的な活動問題になつて来ると、どうも警察法の精神と離れた組織、機構を予備隊にはつくろうとしておられる。それがため国内的にも国際的にもいろいろ疑惑が出て来るわけであります。そういうことに対して私は警察法の精神で予備隊というものが存在しておるならば、すでに警察法において根本理念というものがきまつておるのであるから、いまだに出動をだれがやるのであるか、その統合、指揮命令もだれがやるのであるかということがはつきりしない答弁は出ないと思う。それはこの予備隊というものを特殊な存在たらしめようとする皆さんの観念が頭の中にある。さればというて、この警察法と、普通の警察法に準拠する国家地方警察なり自治体警察と、あまり別なこともできないというような悩みから、いまだもつてそういう重大なことを決定しておらぬというように私どもには受取れるのであります。これはどこまでも警察法の精神にのつとつてその運営を考えていただかなければいかぬと思う。今の次長の御答弁によりましても、さつぱりそのへんがわかつておらぬので、この上質問しましてもどうかはわからぬのでありますけれども、ただ総理大臣の指揮命令というようなことですべてを解決しようとなさると、これは軍隊になつてしまいます。軍隊ということを避けたいならば、公安委員会との連関を考えて、この公安委員会制度というものを十分に取入れるように考慮なさらぬといかぬ、こう思うのでありまして、まだ立案がされておらないとすれば、その精神で立案していただきたいことを強く要望しておきます。  それからなおこまかいことになりまするが、警察予備隊令第三條の第二項に、警察予備隊の活動は、警察の任務の範囲に限らるべきものであると、こう書いてあるが、この警察の任務というのは、警察法の警察の任務と同様のものであるかどうか、これも御答弁願いたい。
  72. 江口見登留

    ○江口政府委員 私は個人的の解釈になるかとも思いまするが、その警察の任務と申しまするのは、第一條の警察の任務だと、こう解釈すべきではないかと思います。
  73. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、警察法による警察と違つた警察予備隊令における警察という観念だと、こういう意味でありますか。
  74. 江口見登留

    ○江口政府委員 そういう解釈をいたしております。
  75. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、日本には警察法による警察の任務と、警察予備隊令による警察の任務と、二つの警察があることになるわけですか。それはあなた違いはせぬか。そんな答弁をして、とんでもない問題が起りますよ。
  76. 江口見登留

    ○江口政府委員 警察という字句の問題でございますが、第一條が先ほど申しましたように、現在の国警自治警を補う意味警察であります。そういう意味における警察でございまするから、現在の国警自治警警察を補う意味警察で、従いまして一條、三條から通読いたしますると、警察という意味に二色あり、三色あるという意味にはならないと思います。
  77. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ですから、この警察予備隊令の警察というのは、その警察を補うという意味なんだから、やつぱり警察法による警察というのと同じ意味じやないですか。警察の観念というものは、警察法からあなた方答弁なすつているでしようが、警察法をもととしての警察の観念と、予備隊令に警察の任務と書いてある警察というものは同じ観念であるのか、違つたものであるのかという質問です。
  78. 江口見登留

    ○江口政府委員 同じ範疇に入るものと解釈しています。
  79. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、同じということになりまするならば、犯人の逮捕とか何とかいうことが起るわけでありまするが、これは警察予備隊施行令によつて、この警察はただ一般の警察と違つて、活動の範囲に制限があるということは理解できるのであります。ところが警察予備隊令によつて制限されているこの範囲におきましては、一般の警察と予備隊とは競合するものであるか、警察予備隊令に警察予備隊の本来の活動範囲として規定されたものについては、一般の警察は全然容喙できないのであるか、それを承りたい。
  80. 江口見登留

    ○江口政府委員 施行令十三條についてのお尋ねかと存じます。もちろん警察予備隊において行いまするところの十三條の権限は、これによつて現在の警察の権限を奪取しているというわけではございませんで、やはり二本建てで働く場合があると存じております。
  81. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、そういう二本建てで働く場合も、どちらが主体であるかということはまだ明らかにならぬわけですか。
  82. 江口見登留

    ○江口政府委員 予備隊といたしまして、十三條に関する御質疑のような事例が生じたことはまだございませんが、今後のわれわれの気持といたしましては、やはり現場々々におきまして、いずれが主として担当するかということを協定の上きめて、そこで権限の紛淆を生じないようにやつて行きたい、かように考えております。
  83. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 予備隊ができてから、今までの間に出動した実際の事例がありますか。
  84. 江口見登留

    ○江口政府委員 まだ一度も出動したことはございません。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 何か官公労の諸君が総理官邸に陳情に来たときに、新聞を見ると、予備隊が三百名とか出て来たということを書いてありましたが、あれは事実でありますか、新聞の虚報でありますか。
  86. 江口見登留

    ○江口政府委員 私の方には全然関係ないことでございますので、私としては存じないと申し上げるよりしかたがありません。
  87. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あれは大きな問題ですがね。ああいう新聞はあなたもごらんになつたと思うのだが、関係がないと言つたつて、予備隊が出たか出ないかというようなことは、ああいう新聞が出たらすぐ調査しなければならぬと思うんですがね。それは全然出た覚えがないのであるか、出たかもしれないが自分の方に報告がないというのですか、どつちなんです。
  88. 江口見登留

    ○江口政府委員 警察予備隊としては行動いたしておりません。あるいは警視庁の予備隊の出動ではなかつたかと存じます。
  89. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なおこまかいことをお聞きするようでありまするけれども警察には通信施設があり、これは国家地方警察の管理に属して、自治体警察もその恩惠に浴しているのですが、この警察のいわゆる通信網を予備隊も利用なさるのであるか、これとまるで別個な通信管理をなさるのであるか、この点について……。
  90. 江口見登留

    ○江口政府委員 予備隊の通信施設に関しましては、当初出発の際におきましては、国家警察本部の通信施設を利用させていただきましたが、今日では漸次その方の施設とは無関係となりつつあります。従いましてその目的といたしておりまするところは、できるだけすみやかに予備隊自身の通信網を確立するような方向に目下研究を進めておるような次第でございます。
  91. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは違うのであるとするならば、そうなるかもしれませんが、どこまでも国家地方警察及び自治体警察日本警察の中心体である、予備隊というものはただそれを補うのであるということならば、この国家地方警察の通信施設なり何なりを完備して、それに予備隊がやはり加入なさるということが、警察一本の管理上いいんじやないかと思われるのであるが、どういう必要があつて、まつたく別個なそういう設備をなさるのであるか承りたい。
  92. 江口見登留

    ○江口政府委員 現在承りますところによりますと警察の方におきまする通信施設ももう精一ぱいでありまして、それ以外の、たとえば予備隊の通信施設をこれに入れるとか共用するとかいう余力はないように聞いております。それからまた、ある通信施設を設けました際には、通信要員が常にその施設を動かし得るだけの訓練をやらなければならないのであります。やはりそういう点から申しまして、現在の警察の通信綱とは別のものを設けて、ことに日ごろからいざという場合の利用に習熟させる必要があろうかと、かように考えております。
  93. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なお、警察法の第十四條によりますと、「国家地方警察本部に警察学校を附置する。」こうありまするが、予備隊は、一体この警察学校に入学させて訓練することになつているのか、なつていないのか。
  94. 江口見登留

    ○江口政府委員 現在の警察学校に入学させようという気持はございません。ただ、それでは警察予備隊として別に学校を設けるか設けないかという点につきましては、目下研究中でございます。
  95. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 一般の警察官と同じように、すでにできておりまする警察学校を利用なさらぬで、なぜ特殊な学校をつくるかつくらぬかをお考えになるのであるか、その点承りたい。
  96. 江口見登留

    ○江口政府委員 この予備隊の使命は、先ほどから申し上げますように、国警、自警の補完的作用をなすにとどまり、その範囲は非常に狭められておるのでございます。一般の警察学校におきまして、全警察官に教授されているような教授科目は、その大半はむずかし過ぎて——と申しますか、あるいは一般の刑事犯罪その他に関しまするものなどもございまして、そういう点は予備隊員には不必要なものが多々あるのであります。従いまして、もう少し狭い範囲において、装備などの点から申しまして、專門的なかなりこまかい教育をやらなければならぬ性格のものでありまするので、その範囲が多少食い違つておるように考えられます。従いまして、やはり既存の警察学校を利用さしていただくよりは、別の施設にいたしまして、限られた範囲内で、こまかい專門的な教育を続けて行つた方がいいのではないか、かように考えております。
  97. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういうふうな、すべて特別なものをおつくりになつて教育も特別にする、そうするとその教育というのは、いわゆる軍隊教育ではないかという疑いをわれわれは持つのであります。もちろん範囲が違うにしても、警察官のあり方について根本的な教養をこの警察学校でするんだろうと思う。そうすると、国警長官に伺いますが、今の警察学校というものは、どういうものを中心にして教育なさつておるのか。
  98. 齋藤昇

    齋藤説明員 教育内容のお尋ねだと思いますが、民主警察のあり方を根幹といたしまして、これに必要な精神的な意味の科目及び警察活動に必要な実科をあわせて教育をいたしております。
  99. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の警察学校における教育の中心は、いわゆる民主警察の根本理念を教えることであると私も聞いているし、今の長官の説明によつてもそうだろうと思う。そうして実際の警察活動というものについての訓練ももちろん施さなければならぬから、しておるのでありましようが、この警察学校を置いた精神及び目的というものは、画期的な警察法に基きまするところの警察官警察精神警察官のあり方を教育することであつたと思うのであります。今の警察活動の範囲が、予備隊におきましては一般警察官よりも狭いということは理解できるし、そういう点だけは、もちろん特別な教育をしてもいいと思う。しかしせつかく警察学校というものができて、民主警察の根本理念を教え、社会常識を教えているとすれば、予備隊も、こういう設備はすでに国家にできておるのだから、ここへ入れて訓練をなさらぬと、一般の警察とまつたく別な精神や気構えを持つ警察というものができ上つて来て、これが将来相当禍根を残すと思うのであります。一元的にみな同じ警察であれば、すでにできているこの学校を利用して、なぜそういう精神教育をしないのであるか。御承知通り、経費の節約を非常に叫ばれている際に、警察予備隊だけ特殊な教育を施すということに対して、私どもははなはだ疑問を持つのであります。あなたの、ただ任務が、範囲が多少違うという説明だけでは、どうも納得いたしかねる。実際の警察活動の訓練というものは違つてもいいと思う。ただ大きな眼目について、警察大学でこの予備隊をなぜ訓練しないのか。なおまた予備隊に志願して入つて来られた方には、戰時中の軍人関係の人が多い。こういう人たちが今どういう思想状態になつているか、私もつまびらかにいたしませんけれども、もしその下地を助長するような特殊の教育をやるならば、軍隊になつてしまいます。日本の憲法第九條に違反する。それを避けるならば、せつかく警察法の精神に基いてその精神を打ち込むためにできておりまする警察大学をなせ利用しないのであるか、もう少し御説明願いたい。
  100. 江口見登留

    ○江口政府委員 もちろん警察予備隊員に対しましても、民主主義国家における警察予備隊員としての心構えと申しまするか、そういう精神教育を決してなおざりにいたしておるわけではございません。ただ現在のところ発足早早でございまして、実地訓練の方に重きを置いておりまするのと、それから隊員の直接精神的訓育に当る上級幹部というものが、まだ少ししか発令されておりませんので、これらの上級幹部が発令されて、各宿舎の方へ配属されることになりますれば、その人たち考え方によつて一般の隊員が指導されて参ると思います。そういう方たちといたしましては、われわれといたしましても最も現代の民主主義国家にふさわしい、予備隊警察官を指導させるに足ると思われる人を選んで配属いたすことにいたしておりますので、今後は十分そういう教育も徹底するであろうと考えております。警察大学にある建物を利用してみたらどうかというお考えでございますが、もちろん予備隊の数も非常に多いのでありまして、警察大学自身の都合もございましようし、われわれとしては、できるならば別の施設を持ちたいとは思つておりまするが、御意見の点もございまするので、他の面とも相談して研究してみたいと思つております。
  101. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私はこまかい点につきましてはこれで打切りまして、なお警察予備隊の性格その他につきましては、後ほどあらためてお尋ね申し上げることにして、これで打切ります。
  102. 安部俊吾

    安部委員長 午後一時半まで休憩いたします。     午後一時一分休憩      ————◇—————     午後二時十八分開議
  103. 安部俊吾

    安部委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  検察行政及びこれと関連する国内治安に関する件、及び裁判所の司法行政に関する件を一括議題といたします。梨木作次郎君。
  104. 梨木作次郎

    ○梨木委員 古河特審局長にお伺いいたしたいと思います。  去る十一月二十一日だつたと思いますが、わが党の風早議員が、議員会館におきまして、防共新聞社の社員と名のる人四名によつて人糞をぶつかけられた事件のあつたことは、御承知だろうと思いますが、この四名の暴漢は、風早代議士と対談をしておりまして、そのあげくにこういう乱暴なことをしたのでありますが、対談の経過について風早君から聞いてみますと、反共的な思想背景並びに団体に所属しておる者であることが明らかなのであります。その後——私は今手元に持つて来ておりませんが、あの事件に関連して風早代議士のところへは、この間は人糞であつたが、今度はさし殺すぞという脅迫状も来ております。そこでこの防共新聞と名のる反共団体の背景というものは相当根強いものがあると思うのであります。これに対しまして当局はどういうふうな調査、対策、処置を講じておるか、この点をまずお伺いしたい。
  105. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 ただいま御質問になりました防共新聞社員の暴行事件につきましては、目下検察庁において捜査中でありまして、私ども特別審査局といたしましては、これらの事件はきわめて遺憾な不祥事件と思料いたしまして、目下防共新聞社を中心といたしまして、はたしてこの新聞社の内容がいかなるものであるか、団体的な背後関係その他につきまして調査を進めておる次第であります。
  106. 梨木作次郎

    ○梨木委員 防共新聞社というのは、いつごろできて、どこに事務所があつて、そしてどれくらいのメンバーがおるか。それからこの防共新聞というのは、反共的な団体の宣伝機関紙ではないかと想定される節もあるのでありますから、これについてどういうような調査をしておるか、それをお伺いいたします。
  107. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 現在調査中でありますので、その全貌を盡すわけには参らぬのでありますが、大体明らかになつた諸般の事情を簡單にとりまとめて申し上げます。防共新聞社は、本社を東京に置き、昭和二十四年一月ごろ設立されたと言われておるのでありますが、認可の年月日は、昭和二十四年七月三十日付となつております。その構成は、総局及び支社が全国に九箇所ありまして、社長は現在七條金藏でありまして、発行責任者は福田進であります。社員は全国で約三十五名、ほかに約三十名の宣伝員がおることになつております。防共新聞社は営利追求を目的とする個人経営の新聞社の形態を持つておるのでありますが、その半面におきまして、新聞記事を通じまして諸般の防共思想その他の普及宣伝を目的としているのではないか、かような点について今調査中であります。簡單に申し上げると大体以上のような次第であります。
  108. 梨木作次郎

    ○梨木委員 資金関係の出どころ、それからこの新聞社と結びついておる団体、そういうものはわかつておりませんか。
  109. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 防共新聞は、従来毎日曜日を発行日とする週刊紙でありまして、発行部数は、一時は三万部に達したこともあるのでありますが、最近は非常に部数が減少いたしまして、一万部程度というような状況であると認められるのであります。本社から予約購読者に直送する分が約二千部前後、都内の街頭販売が若干部数、これらの部数を除きましては、すべて地方支社に送付されて、支社から販売されておるような状態であります。  資金関係としては、目下調査中でありますが、きわめて資金難の状況にあるものと認められるのであります。  次に、防共新聞社が関係している団体は何かというような御質問の趣旨と承りますが、防共新聞社員が関係している団体と申しましては、憂国同志会があるのであります。また新鋭大衆党との関連も過去においては認められるのであります。ごく簡單に申し上げますと、憂国同志会は昭和二十四年の四月、福岡の久留米市において、前会長の脇田利行の主催によつて結成された団体であります。現会長は田中勝慶であります。前会長の脇田利行は、防共新聞社の前社長福田素顯が防共新聞を設立した当時に、同社員として福田のもとでこれが経営に関与したのでありますが、まもなく郷里久留米市に帰りまして、同年四月十五日、憂国同志会を結成するとともに防共新聞社九州総局責任者となつたのであります。その後九州総局の責任の地位は他の者に讓りまして、もつぱら、ご自身は久留米支局長に就任しておるのであります。この脇田は本年二月憂国同志会を脱退したので、防共新聞社と憂国同志会との関係は、現在直接には切れているというような状態になつております。次に今回事件を起した被疑者と目される者のうちで、平田盛之は、この憂国同志会の会員ということになつております。平田は、郷里佐賀県から本年四月上京して防共新聞社に入社した者でありまして、在郷中憂国同志会に入会し、さらに郷里においてみずから主催して日本興国同志会を結成して、その会長に就任した事実もあるのでありますが、現在でも憂国同志会に籍を有しておる者と認められるのであります。  次に新鋭大衆党との関係でありますが、今回の事件の被疑者の一人となつております星一は、かつては新鋭大衆党員として活動した事実があるのであります。御承知通り、新鋭大衆党はすでに解散団体として指定されておる団体でありまして、星一自身が新鋭大衆党在籍中に同党の暴力事犯に関与した事実はまだ認められておりません。かような次第でございます。
  110. 梨木作次郎

    ○梨木委員 今の御報告によりますと、憂国同志会並びに防共新聞社の社員は、私が今申しました通り暴力行為を現実にやつており、またその後も風早代議士に対して、今度はピストルとか、そういう武器をもつてさし殺すというような脅迫状を出しておる事実に徴してみるときに、明らかにこういう団体は合法的な存在を許すべきものでないと考えるのであります。これに対しまして早急に解散させるべきであると思うのでありますが、当局はどういう見解を持つておりますか。
  111. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 先ほども申し上げました通り、今般の防共新聞社員の暴力事犯はきわめて遺憾にたえない不祥事犯だと考えております。私どもといたしましては嚴重に調査して至急にその措置を決したいと考えておるのでありますが、まだ調査中でございますので、あらかじめその結論をお約束いたしかねるような次第でございます。
  112. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それから最近特に新聞その他で報道せられておりますが、旧職業軍人の地下組織というようなことが流布されております。こういうようなものに対する監視は最も嚴重にしなければならぬと思うのでありますが、このたびの防共新聞社員の国会議員に対する暴行ざた、これはほんとうに端緒的なものでありまして、今後これらの暴力ざたは、これをこのままに放置するならばますます熾烈になるかと思うのであります。そこで当局が今調査した範囲で持つておる右翼反共団体と目せられる団体の詳細、これは団体名とその主宰者、それから機関紙があるなら機関紙、そういうものの明細な資料を委員長あてに出していただきたいと思うのであります。これを要望しておきたいと思います。
  113. 安部俊吾

    安部委員長 梨木委員からも右翼団体登録団体名の表の提出を求められておりまするが、なお委員長からもその提出を当局に要求しておきます。
  114. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 ただいま当法務委員会の御要求によりまして、いわゆる右翼反共団体と称するものの一覧表の提出を求められたのでありますが、多少の時間の余裕をいただきましてできるだけ早く御提出いたしたいと考えておりますが簡單に申しますと、現在反共を標榜しており、反共の色彩がきわめて濃厚であるというような団体で、届出されている団体は、本部、支部を合しまして約三百団体に及んでいるのであります。大小無数ございますが、そのうちおもなるものは、日本革命菊旗同志会、救国青年連盟、大和党、立憲養生会、日本独立青年党というような五団体があげられるのであります。その他にも地方的な比較的活発に活動している団体も二、三あります。これらの団体につきまして、届出団体の資料に基きまして至急に御回答いたしたいと考えております。
  115. 梨木作次郎

    ○梨木委員 特審局長に対する質問はこの程度にいたしまして、大橋法務総裁警察予備隊関係で伺います。過般の法務委員会におきまして、警察予備隊の隊員で解雇された者が約一千名弱という御答弁があつたのでありますが、その後予算委員会かではそれが五百名であつたというような御報告もあり、非公式にもそういうお話を伺つたのであります。この点も少し予算委員会と当委員会における答弁が食い違つておりますから、明確にしていただきます。
  116. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 この人員につきましては、食い違つたというのではなく、当時の調査で約千名以内と聞いておりましたが、千名以内でどの程度であるかということをさらに詳細に調査いたしましたるところ、五百名以内であることが明らかになつたわけであります。
  117. 梨木作次郎

    ○梨木委員 そこでこの五百名の解雇通告を受けたという隊員は、これは過般の法務委員会におきましては、解雇を取消して、その後において二名以上の医者の診断書云々、それからその他のものについては療養のめんどうを見るというような御答弁があつたように承知しておるのでありますが、その点私が聞いておつたのでは少し明確を欠いておつたので、ここではつきりお伺いしておきたいのであります。一旦解雇通知を出したが、これは取消すということにはつきり確定したのかどうか、まずその点をお伺いしたい。
  118. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 解雇の処分をいたしまして帰郷せしめたという措置は、これは当時申し上げました通り手続上の錯誤でございましたので、全部これを取消しいたしました。そしてその後この五百名以内の人たちに対する処置といたしましては、隊務に服し得るということが二名以上の医師によつて診断された者については、ただちに元の所属の隊に帰す。また現在発病中であるとか、あるいは発病の状態にはありませんでも、診断の結果、従来の作業に引続き従事する場合におきましては発病のおそれが十分あると認められます者につきましては、これは予備隊の責任において当分十分な静養をなさしめる。そうして六箇月ないし八箇月くらい療養せしめた後にその処置を決定いたしたい。こういうようにはつきり取扱いをいたした次第であります。
  119. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それでその分は大体わかりましたが、この五百名はどことどこのキヤンプで、何人解雇されたか、その明細を聞きたいのであります。
  120. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 その明細につきましてはちよつと申し上げるわけに参りません。数は五百名以内でございます。
  121. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それは今まだ総裁の手元に資料が来ておらないからとおつしやるのか、それとも発表に何か支障があるからできないとおつしやるのか、どちらか、もし今手元にないのだとするならば五百名はどこのキヤンプで、何という人が解雇処分を受け、その後解雇されるということになるのでありますが、それを知らしてもらいたいのであります。
  122. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 ただいまのところ発表いたしかねる次第でございます。
  123. 梨木作次郎

    ○梨木委員 実は私こういうことをお伺いするのは、こういう点が心配だからであります。実はすでにもう解雇通知を受けまして、そうして裸同然で郷里に帰つておるのが大部分であるように聞いておるのでありますが、過般国会の方へ陳情に来た人たちは、どうもやり方がおかしいので、本部長官に会つて事情を確かめ、かたがた陳情に来たのだ、こういうことなのであります。そこで私はただいま五百名最初は千名といい、その後五百名になつたということ、しかもそれが手続上の手違いというようなことでありますが、われわれの聞いたところによりますと、はつきりした解雇処分の通告を受け、これは不当だということで、東京まで電話をして確かめ、また東京へ来て増原本部長官にも会い、るる陳情したが、増原長官はどうにもできないことなのだ、というようなことで、その間手続上の手違いがあつたというような形式的な問題ではどうも了解しにくいような点が多々われわれには感ぜられるのであります。そこで私はどうしてもこういう陳情を受けた議員といたしまして、その責任上これらの五百名の人々に、これははつきり国会においては解雇処分が取消されたということをやはり知らしてやるべきだと思うのであります。その点について危惧があるからお伺いするのでありますが、しかも解雇された人の氏名を発表できないということになりますと、ますます私はその解雇処分というものが、はたしてどのように処置されるかどうかということについても危惧を持たざるを得ないのであります。どうして発表にさしつかえがあるのか、これをもう一度お伺いしたいと思います。
  124. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 発表にさしつかえがありますので、発表いたすわけに参りませんのでございます。
  125. 梨木作次郎

    ○梨木委員 私はそういうことになりますと、あとの質問の中にもこの点について合点の行かないところがありますので、その問題と関連してお伺いいたします警察予備隊いろいろの訓練が行われております。この訓練の課程というものは何をどれだけ課して、教練はどういうふうにやるか、こういう計画はどういう内容になつておりますか、それをひとつお伺いしたい。
  126. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 これは追つて資料をもつて申し上げることにいたします。
  127. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それでは警察予備隊において行われておる訓練の内容は、追つて御発表くださるというのでありますから……。私たちが得た情報によりますと、この中には野戰築城という科目があります。それから救急衛生という科目、この救急衛生というのは、たとえば戰場で負傷した場合の救急の措置を講ずる訓練だそうでありますが、われわれは警察予備隊員として入つて来たのだ、一体戰場で負傷した場合の救急の訓練を受けるというのは、どうも合点が行かないということで、非常に警察予備隊の本質そのものについて、疑惑を持つておる隊員がおるというように聞いておるのでありますが、そういう訓練が行われておるかどうか、これをお伺いいたしたいのであります。
  128. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 負傷者の取扱いにつきまして、訓練をいたしておる事実はございます。
  129. 梨木作次郎

    ○梨木委員 野戰築城の訓練をしておるかどうか。
  130. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊が、村落において、あるいは都市において、行動いたしまする場合の必要なる動作について訓練をいたしておる事実はございます。
  131. 梨木作次郎

    ○梨木委員 次にお伺いしますが、今警察予備隊は全国でどこと、どこと、どこに、どれだけの人員が配置されておるのですか。
  132. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊の配置されております箇所につきましては、後に資料によつて提出いたしたいと思います。但し各地区におきまする人員については、ただいまのところ発表いたしかねます。
  133. 梨木作次郎

    ○梨木委員 元の海軍兵学校のあつた江田島におきまして、幹部教育をやつておるそうでありますが、この江田島の幹部教育というのは、どういう組織になつておるか。それからまた東京の警察予備隊の本部の近くにも、幹部教育の施設があるというように聞いておりますが、江田島の分と東京の分とは、どういう関連があつて、どういう組織になつておりますか、これをお伺いしたいのであります。
  134. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 江田島におきましては、一般隊員から募集いたしましたる者のうち、特に幹部に耐え得る能力を有する者と認められましたる隊員を全国的に選拔いたしまして、ここで幹部として必要なる訓練をいたしておるのであります。そして越中島における幹部訓練は、江田島においていたしましたる幹部訓練を終了いたしましたる者のうち、さらに上級の幹部に耐え得る能力があると認められました者を、その目的をもつて特別に教育をする、こういうことに相なつておるのであります。
  135. 梨木作次郎

    ○梨木委員 各キヤンプには、外国人が訓練の衝に当つておると聞いておるのでありますが、一体日本のその現場の責任者との関係はどういうことになつておるのでありましようか。
  136. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 各キヤンプに外国人の指導官がおりまするが、幹部は仮に任用しております。実は今のところ各キヤンプにおきまする幹部というものは、仮の幹部でございます。これらの人が実際に隊員の訓練に当りまして、その指導をするというふうな役割に当つておるのであります。
  137. 梨木作次郎

    ○梨木委員 普通この各キヤンプのキヤンプ指揮官というものがあるそうでありますが、このキヤンプ指揮官というのが外国人だそうであります。そうしてキヤンプ指揮官のもとに三、四名ないし四、五名の外国の指導管がおると聞いておるのでありますが、その通りでありましようか。
  138. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 キヤンプの指揮官は、警察予備隊で任命いたしましたる隊員のうちから選ばれた仮幹部がこのキヤンプの総指揮に当つておるわけであります。そうして今外国人のキヤンプ指揮官ということを言われましたが、それはおそらく警察予備隊の各キヤンプにおきまする訓練について、指導的援助を与えておりまする数名の外国人のうちの指揮官たる人を、各キヤンプ指揮官と、こういうふうに言つておるのではないかと思います。すなわち各キヤンプにつきましては、援助及び指導に当りまするところの占領軍司令部の要員があるわけでありまして、その要員のうちの最古参者を、これは要員全体の指揮官でありますから、それでおそらく指揮官と、こう言つておるのであろうと思います。これは警察予備隊の指揮官ではなく、その援助のために、派遣せられておりまする司令部要員の指揮官である、それが混同いたしたのではないかと、かように推察いたす次第であります。
  139. 梨木作次郎

    ○梨木委員 そこで、実際予備隊員の受ける印象から申しますと今総裁が答弁せられたような、外国人の指導的援助のために来ておる人がキヤンプの実際的な実権を握つておるように、印象を受けるというのであります。そうして事実、今度解雇を受けた人たちは、そのキヤンプの日本人責任者からは何の話もなくて、このキヤンプにおけるところの外国人の指導官から解雇通告を受けたというのでありますが、この点についての事実関係、つまり日本人責任者から解雇通告がなされたのか、それとも外国人の指導官から解雇通告がなされたのか、この点についてお伺いいたしたいと思います。
  140. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 予備隊本部といたしましては、解雇の通告をなした事実はないのでありまして、これが原隊において解雇せられたるがごとく取扱われておることは、これは先般来申し上げましたるごとく、手続上の錯誤であつたわけであります。従いまして当局といたしましては、その錯誤として行われました解雇のことを取消しておる。つまり初めから解雇がなかつたのであるということを明らかにいたしたわけであります。
  141. 梨木作次郎

    ○梨木委員 この解雇された人が東京へ参りまして、増原本部長官に会つて、実は裸同然で出されてしまつたということで、これでは不当ではないかということを申しまして、療養費であるとかあるいは帰るための交通費あるいは宿泊費、そういうものを要求したところが、実は自分のところではほうき一本、紙一枚も、キヤンプにおる外国人の指導官と申しますか、その人のサインがなければ買えないのだ、だからあなた方の言う要求はもつともなことであるが、私一存ではどうにもできないのだということを、はつきりと言明されておるのでありますが、この点と今の総裁のおつしやることに大分違いがあるようでありまするが、その点についての御見解を承りたいと思います。
  142. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 増原長官が隊員に対しましていかなることを申したかわかりませんが、予備隊の責任はあくまでも日本政府にあるのでありますし、また予備隊の経理は日本関係法によりまして、日本政府によつて行われつつあるのでありますから、紙一枚長官が買えないというようなことは、申すはずはないと私は考える次第であります。
  143. 梨木作次郎

    ○梨木委員 現在の警察予備隊員が採用されましてから今日まで、どれだけの、つまり月給と申しますか、これが支給されておりますか、何月何日に幾ら払われ、何日何日に幾ら払われて、現在まではどういうふうになつておるか、これをお伺いいたしたい。
  144. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 予備隊の俸給は、当初給与が決定に至りませんでした関係上、二千円、三千円というような金額をもつて内払いせられておつたのでありますが、十一月の中旬にこれが最後的な決定を見ましたので、ただいままでに正規の給与の総額を支払つておるわけであります。
  145. 梨木作次郎

    ○梨木委員 こういうような給与の支払いが、最初政府が発表したような状態で、払われなかつたことなどのために、札幌附近にあるキヤンプでは隊員がサボ状態に入つたという事実があるやに聞いておるのでありますが、さような事実はありませんか。
  146. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 札幌でありましたか、あるいはその附近の他のキヤンプでありましたか、ただいま正確に記憶いたしておりませんが、北海道の一部のキヤンプに対しましては、一部の共産党員が働きかけまして、あるいはサボをやらせようというような動きはあつたようでございまするが、警察予備隊においては、何らの動揺はなかつたということを承知いたしております。
  147. 梨木作次郎

    ○梨木委員 その次にお伺いしますが、最近政府では警察予備隊をさらに三万五千ないし四万ふやそうという計画を進めておるということが言われておるのでありますが、そういう事実はありましようか。
  148. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊を増強する何らの計画はございません。
  149. 梨木作次郎

    ○梨木委員 十二月二日付の新聞のワシントン発UPによりますと、トルーマン、アメリカ大統領が新聞記者との会談におきまして日本人部隊を朝鮮戰線に使用することがあるかどうかという問いに対しまして、橋のところまで来れば渡らねばなるまいと言つたと伝えられ、そうして新聞社の注として、これは適当なときが来ればそのような決定がなされることを意味すると解されている、ということが伝えられておるのでありますが、日本警察予備隊につきまして、アメリカのトルーマン大統領はこういうことを言われておる。そうするとやはり警察予備隊朝鮮内戰に動員されるのではないかということを、われわれ——日本人として恐れるのでありますが、この点についての総裁の御見解を伺いたい。
  150. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 大統領の言われましたことは、私はよく存じておりませんが、しかし警察予備隊が国外の戰争のために用いられるということは、絶対にあり得ないことであると考えております。
  151. 梨木作次郎

    ○梨木委員 そこで実は先ほど総裁にお尋ねしましたつまり五百名の解雇通告を受けたということ、それは手違いの解雇であつたということになつたそうでありますが、それらの氏名について御発表を願いたいと言いましたところが、それは発表できないのだと言う。そういうことや、あるいは教練の課程を見ますと、どうも日本治安維持のための警察の補充的なものであるとは、どうしても考えられない節がたくさんある。そこへ持つて来まして、今申しましたようなトルーマン大統領のこういう談話が発表せられた。しかもわれわれの聞いておるところによりますと、解雇に当りましては、日本人責任者が全然関与しないでそういう措置がなされたというようにも聞いておる。こうなつて来ました場合に、一旦警察予備隊に対しまして、朝鮮へ出動すべしという命令を出されたとき、その命令に対しまして、日本人はこれを拒否することができるかどうか。法律的に、それを拒否すれば占領政策違反ということになるのかどうか。この点をお伺いいたしたいのであります。
  152. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊員に対しまして、朝鮮に出動すべしという命令が出ることは、想像いたしておりません。
  153. 梨木作次郎

    ○梨木委員 想像いたしておらないというのは、政府としてはそういうようなお答よりほかないと思うのでありますが、事実予備隊員にしてみますと、われわれの聞いたところによりますと、予備隊員は、中へ入つてみますと、警察と思つて来たのが、どうもこれは軍隊らしいというように感じておる、それで、いろいろこん新聞記事が出ますと、これは朝鮮へ出動させるのじやないかという心配も出て来る、そこで隊員といたしまして、やはり深刻に考える。またその家族といたしましても、警察予備隊といつて、国内の治安維持のために自分のむすこが、あるいは夫が行つたつもりでいたのが、それがやはり生命を賭しての戰場に行かなければならぬということになると、やはり考え方、その覚悟というものが、また新たにならなければならぬということになるわけでありまして、これはどうしても私たち聞いておきたいのは、一体それを拒否することが、占領目的違反になるのかならないのか、その点をどうか責任ある御答弁を願いたいと思います。
  154. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊に対しまして、朝鮮に戰争のために行けというような要求があろうとは思われませんので、これに対しましてはこれ以上のお答えをいたす必要はないと考えます。
  155. 梨木作次郎

    ○梨木委員 まだお尋ねしたい点もありますけれども、私ほかにも用事がありますので、大橋法務総裁に対する質問はこれで打切りまして、私が質問を出しておりました最高裁判所の事務総長質問いたしたいと思います。  まず第一にお伺いしたいのは、三鷹事件の控訴公判が最近行われることになつております。ところが新しい刑事訴訟法によりますると、控訴いたしますと、まず控訴趣意書というものが控訴を申し立てた者から出される。その控訴趣意書を点検しまして、そうして理由があるかないか、また事実調べをしなければならぬかどうか、こういう点を調べた後におきまして、一定の裁判をする。こういうことになつておることは御承知通りであります。ところが三鷹事件の控訴公判におきましては、昨日の新聞つたと思うのでありますが。十二月二日付で検事側の控訴趣意書が出たそうであります。しかるに高等裁判所ではこの控訴趣意書の出ない前に、もう控訴審におけるところの公判期日を指定して来ております。たしか十二月十八日から後、三開廷ばかりを指定して来ております。控訴申立人の控訴趣意書の提出がない前に、こういうように公判期日を入れるということ、これは明らかに異例なことであります。もちろん刑事訴訟法によりまするならば、裁判所は職権で控訴の申し立ててあつたものについて事実調べをするかどうかを調査する権限もあります。しかと少くとも控訴申立書の出ない前に公判期日を入れるということは、明らかにこれは異例なことであります。そうしますと、あれだけ世間の関心を呼んだ事件において、かかる異例な取扱いをするということは、かりにその裁判所が結果的には公平な裁判をしたといたしましても、裁判を受ける人間からいえば、何かこれは控訴審におきましては、異例な取扱いがされておるというところから、とにかく公平な裁判であるかどうかを疑うようになるのであります。この点につきまして、最高裁判所は何か特別に東京高等裁判所に対しまして、控訴申立書が出なくても早く期日を指定して、早く裁判をしてしまえというような、何か指示でもされたのかどうか。この点をお伺いしたいのであります。
  156. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまの御質問は、主として東京高等裁判所における事件の審理模様の点が多いようでございますが、この点は裁判の手続に関する問題であります。ただ裁判所において早く審理せよとかどうせよとかいうような、個々の事件についてさような指示をした、ことに三鷹事件についてさようなことをいたしたことは絶対にありません。
  157. 梨木作次郎

    ○梨木委員 最高裁判所といたしましては、司法行政上、やはり裁判の進行状況はある程度指示し、あるいは監督し、あるいは助言をするというようなことはあるのだろうと思うのでありますが、それは全然関与しておらないとおつしやるのでしようか。
  158. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまの三鷹事件については、さようなことはございません。
  159. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それではお伺いいたしますが、事務総長名前でこういう通達がされております。たとえば公職追放令、あるいは団体等規正令、こういう事件においては、これは日本には裁判権がないのだ、だからその旨を至急伝達するというような通達をなしております、これに基いて下級審というものは、やはり解散団体の財産の管理処分に関する裁判については、われわれから申しますならば、民事訴訟や裁判所法を無視したような裁判をしている実例があるのであります。これはどういうように考えておりますか、こういう通達をすることによつて、下級審を、しかもこれは最高裁判所がするのならばともかくも——最高裁判所が具体的な事件について判断を下して、それが判例となつて下級審に一つの裁判の統一的な目的を達成させるというのならばともかくも、事務総長名前でこういう通達を出すのは、どうもおかしいと思うのでありますが、この点についての御見解、またそういう事実があるのかどうか聞きたいと思います。
  160. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 最高裁判所といたしましては、一般的の事件について審理の促進をはかるとかあるいはその事件の進行状況を統計的に資料を収集するとかいうようなことはいたしておりますが、個々の事件について司法行政上とやかくさしずをしたことはございません。
  161. 梨木作次郎

    ○梨木委員 だから私はこの点を最高裁判所の事務総長としてどうお考えになつておるか、つまり具体的に申しますならば、昨年の朝連の解散に伴つて非常に不当な財産の接収が行われた。この問題についていろいろの救済の訴訟が起つておるのでありますが、この訴訟はまだ下級審でこういうことが行われておる。それに対しまして最高裁所がこういう通牒を出すということは、明らかに下級裁判所に何らかの拘束的な結果をもたらすようなものである。こういう通牒を出すことは不当だと思うのですが、これはどうお考えになつておりますか。
  162. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 この通達が不当であるかどうかは考え方のいかんによるのですが、とにかく追放令に関しましては、御承知通りホイツトニーの書簡というものがありまして、その書簡に基いて通達をいたしておるのもございます。
  163. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それについてはいいのです。ホイツトニーの平野力三氏の問題に関連しての、あの具体的なものについてはよろしい。しかし、たとえば朝連の事件について裁判権がないということについてのGHQからの明示的な意思表示というものは何らないのであります。ないにもかかわらず裁判所はそういう裁判をしている。しかもこれを最高裁判所の方で通達として出しておる。ここに日本裁判権日本裁判所自身が好んで放棄するような結果に陥るようなことをやつておる。私はここを非常に不当だと思うのです。こういう通達はなすべきものではないという考えでありますが、どうお考えになりますか。
  164. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 この団体等規正令に関する問題につきましては、所管の民事局長から答弁いたします。
  165. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいま梨木委員のお話でありますが、団体等規正令に関する問題は、平野事件の追放の問題が個人に対するパージでありましたのに比較いたしまして違つておりますのは、団体に対する。パージでございます。それからもう一歩進みまして、人または団体に対するパージ以外に、人または団体の行為に対する。パージの問題があります。これはアカハタの発刊に対する停止処分、これは一つの行為に対するパージ、この三種類がございますが、ただいま申し上げました個人に対する。パージの事件につきましては、ただいま事務総長からお話がありましたように、ホイツトニーから最高裁判所長官あての裁判権なしという書簡が出ております。それでその書簡だけで団体に対するパージに関する裁判権、さらにアカハタの発刊に関する行為につきましてのパージ、これに対する裁判権がどうなるかということはやはり疑義がございます。ところがホイツトニーから出ました書簡につきましての解釈につきましては発令官憲としての解釈としまして、その解釈が出ました以上は、最高裁判所といたしましてもその解釈を公にいたす必要がございますので、その意味の通達をいたしたわけであります。
  166. 梨木作次郎

    ○梨木委員 この点はもう少し聞きたい点もありますが、時間の関係がありますからこの程度にいたします。  それから最高裁判所の事務総長にお伺いしたいのでありますが、今裁判所の書記官、裁判官の報酬の引上げの問題が問題となつておりますが、実際書記官及び書記官補、この人たちは裁判の運営におきましては裁判官とともに非常に重要な仕事をしておられるのであります。ところが他の行政官と違いまして、ざつくばらんに申しまして、裁判所の書記官というものは余得というものがないのであります。そういう関係から非常に待遇は他の行政官に比べまして悪いわけであります。こういう点につきまして最高裁判所に対しまして、実は書記官の方から今度の裁判官の報酬引上げの問題に関連しまして、いろいろ待遇改善の要望が出ておはずなのであります。ところがこういうことをいたしますると、最高裁判所のその係の人たちは、そういう陳情をする人たちに対して、何かいやがらせ的ないやな感じを与える。そういう陳情をするひまがあつたら、もう少し仕事をしろとかいうようなことを言われるそうでありますが、事実裁判官の報酬引上げの問題についてはあなた方も非常に御熱心だ。私は何もその熱心ということを非難するわけではないのでありますが、同じような熱心さを持つて書記官や書記官補の待遇改善の問題について努力してもらいたいと思うのであります。この点について現在こういうことがあるのであります。ベースの号俸の調整の問題でありますが、たとえば現在書記官の仕事を七〇%以上をしておらないと、この号俸調整の特典にあずかることができないというようなことがなされおるのでありますが、こういう問題につきましては、やはりこのわくをはずしてもらいたいという非常に熱心な要望が書記官の諸君から出されて来ておるのであります。こういう問題につきまして最高裁判所はどういう考慮を払われておるか、また一年未満だとか——この間一般の公務員との間の号俸調整の場合におきまして、少し書記官や書記官補が号俸の調整で待遇がよくなつたようでありますが、それにいたしましてもこれにはいろいろのわくがある。このわくをはずしてもらいたいという要望があるのでありますが、この点どういうふうに考えておりますか、これをお伺いしたいと思います。
  167. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまの梨木委員の御質問のうち、裁判所の書記官や書記官補の待遇が非常に惡いというお言葉がありました。まことにその通りでごもつともなのであります。裁判所の書記官、書記官補の待遇については、最高裁判所の事務当局としても、最高裁判所設立以来いろいろな方策を講じて参つたのであります。先般この書記官及び書記官補に対して号俸調整が人事院の規則によつて行われましたのも実に当委員会の非常な御理解と御同情によつてできたものとわれわれは感激いたしておるのであります。この書記官、書記官補の待遇については、われわれはなお現在のこの程度より改善したいと目下いろいろ考慮中であります。先ほど書記事及び書記官補その他事務官の待遇改善について最高裁判所に陳情をすると、非常にいやな扱いをするということを言われましたが、決してさようなことはございません。ただ勤務時間中にさようなことを諸君が持ち出さなくても、われわれは諸君以上に考えておるということをよくさとして帰しておる状態であります。  それから号俸調整に関しまして、書記官にはございませんが、書記官補の七〇%以上という問題でございますが、大体この書記官及び書記官補を他の一般事務官よりもよりよく待遇したいということは、やはり裁判の事務に直接携わるがゆえなのであります。従つて書記官補にして裁判の事に携わらない者に対しては、かような調整は行わないのであります。その七〇%というのも今のような趣旨から出たのであります。なおこの点については所管の人事局長が参つておりますから詳しく御説明申し上げます。
  168. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 書記官の号俸のことについて梨木委員から御質問ですから大略申し上げます。書記官が号俸の調整を受けるということになりましたのは、今事務総長から申し上げましたように、書記官の仕事の困難性に対して特別な号俸の調整をするという趣旨であります。御承知のように書記官の仕事として、一番苦心がいり、精力を費す点は、あの法廷に立ち会つて調書をとる、それから法廷から出て来てさらにそれを作成するという点に書記の一番の仕事の中心がある。従つてその点に一番困難性が伴うわけであります。しかしながら本来ならば現在裁判所の書記官のみが法廷の立会いの書記官としての仕事をするわけですけれども、書記官の人数が足りませんので、書記官補という制度を設けて、書記官の職務を代行させるという建前をとつておるわけです。ですから仕事の面から申しますと、書記官本来の書記官の仕事と、書記官補の仕事は、仕事の内容から申すと同じわけであります。そういたしますと書記官が四号の調整を受けるならば、書記官補もやはり四号の調整を一応受けていいではないかというような考えも立ちますけれども、書記官補というのは大体において裁判所に入つて日が浅いのであります。今回調整を受けられることになつた書記官補は書記官補になつてから十八箇月以上を経た者、しかもその十八箇月以上を経た者であつても、全部調整を受けるのでなくして特に書記官としての代行を命ぜられた者が受けるという建前であります。従つて年月が浅くて、実は十八箇月未満の書記官補というのは、実質上から申せばいわば書記官としての修業中の者なんです。ですからそこで十八箇月という線を画するのが正しいか、十箇月にするのが正しいか、十二箇月にするのが客観的に正しいのかということになりますが、それはいろいろ考え方があるでありましようけれども、人事院としても、この特別号俸調整をほかの官庁の職員に対してもやつておる関係上、まあ十八箇月というところに線を持つて行つて画すのがつり合い上いいだろうというので十八箇月未満の者には、書記官補であつても号俸調整をしない。しかもその書記官補については、号俸調整をする号数が、本来の書記官の半分の二号ということになつておるわけであります。大体そういうようなかつこうになつております。
  169. 梨木作次郎

    ○梨木委員 そこでこの七〇%以上の公判立会いをしなければならぬということが、一つ條件になつておるようでありますが、書記官補諸君の話によりますと、たとえば地方と非常にたくさん事件を扱つている東京とか大阪というところでは、地方では一件とか二件しか公判立会いをしない、そこで公判立会いが百パーセントになる。ところが東京とか大阪というようなところでは、非常にたくさんの公判立会いをしておつても、たくさんの数を扱うだけに、それが七〇%のわくに入らない、こういうところに非常な不公平さがあるということを漏らしておるのであります。これはどうお考えになりますか。
  170. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 それも結局は、各裁判所における認定の問題にも関係して来るわけですけれども、たとえば地方の裁判所の方におるものと、東京の方の裁判所におるものと比べてみましても、今梨木委員からおつしやつたようなそういう差別はちよつと出て来ないのではないかという気がするのですけれども、結局七〇%をやつておる。七〇%というのは、なぜ問題になるかといいますと、十八箇月未満の代行書記官補には、七〇%以上の本来の裁判書記官としての法廷立会い、これに関連する仕事をやらせないようにしてくれということになつておるわけです。つまり十八箇月未満の者には号俸調整をしないのだから、その者には、号俸調整にあずかるものと同様な過重な労働をさせないでくれという意味で七〇%という線を持つて来たのです。それというのは、結局書記官の仕事は、御承知のようにいろいろありますけれども、法廷の立会いが主眼でありますがそのほかに支払い命令を出したり簡單な、法廷立会いと関係のない仕事があります。そういう仕事がいろいろあるけれども、法廷立会いというような、むしろ市労働になるような仕事は号俸調整を受けない者は七〇%未満にしてやつておいてくれという点からして、七〇%ということが問題になるわけです。そうお考えくだされば、なぜ七〇%ということが問題になつておるかということがおわかりじやないかと思うのです。
  171. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それではもうこれで終りますが、実はそういうわけでありまして、書記官諸君からは、どうもこれはわれわれも公判に立合つて経験しておるのでありますが、非常に公判立会い書記官というのは、成規の時間をも超過しまして、六時、七時、八時というぐあいになつておるわけで、それからあとでしかも調書を整理しなければならぬ。こういうことのために公判関係者も調書ができないために公判の進行が遅延するというような事態も起きて来ておるのでありますがこういう点を考えた場合に、この書記官の待遇改善ということは、裁判全体の公正な運営と、促進のために重要な要素であると思うので、この点につきまして、これらの人たちからの要望を十分くみとつて、それらの陳情に対しても、よく耳を傾け、努力していただきたいということを要望する次第です。
  172. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 この書記官のただいまの実際の実務状況についての梨木委員の御意見、まことによく御理解ある御意見だと存じます。申すまでもなく、書記官は裁判機関の重要なものでありまして、今後書記官の待遇を改善するとともに書記官のその質についても、裁判所としては十分考慮いたしまして、内外ともにその待遇の改善方法を考究いたしたいと存じます。
  173. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ちよつとこれは事務総長お尋ねするのが適当かどうかわかりませんし、通告なしに突然の質問でありますから、後日でもけつこうでございます。それは裁判所と地方の議会の決議との間にトラブルが近ごろ起つておる最も顕著な実例は、大阪の茨木市会で、市会議員を満場一致で除名した、そうするとその市会議員が裁判所に対して、地位保全の仮処分をやつて裁判所ではこれを許可した、ところがすでに除名になつたから補欠選挙をやつておる。ところが除名された人は、裁判所の行為によつてその地位を失わぬことになつたために、今度は補欠に名乗りを上げて選挙運動をやつていた人が宙ぶらりんになつてしまつて、まことに妙な事態を引き起した。それから石川県の穴水町におきまして、これも地方議会が予算案を議決をした、ところがその地方議会の予算を含むたくさんの決議に対しまして、執行を停止する仮処分をされた。それがために税金をとることもできず、従つて自治体警察学校の先生に月給を払うことができないという事態を引き起してしまつた。少し私ども裁判所行動が行き過ぎているのではないかと思われる節もあるのでありますが、そのような地方自治体の決議と裁判所の裁判との間の調和の問題が新たなる問題として登場して来るのではないかと私は思います。そこでかような地方議会の決議その他につきまして、裁判所が仮処分その他の方法によつてこれを行わしめないようにしたような事案が全国的にどうなつておるか、なおまた大阪の茨木市会に対しては、裁判所はどういうふうに処置なさるおつもりであるか。もちろん個々の判事に対しては了解ができないと思いますけれども、最高裁判所として何らかそのような問題について配慮なさつておるか、お聞きいたしたいと思います。
  174. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまの御質問に対しましては、ちよつと私の手元に資料もございませんが、ちようど幸いに行政局長が参つておりますから、行政局長の知る範囲において御答弁いたさせます。
  175. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいま猪俣委員からの、地方議会と裁判所との関係でございますが、これは私どもの方に行政局所管といたしまして、各地方議会の議決に対しまして、その議決が違法であるということを前提といたしまする取消しの訴えが出ましたときの訴訟については、全部報告が参つております。それで全国の地方議会につきまして、地方自治団体として議会内部の争いというものは、政治的な争いはやはり訴訟の面に出て参ります。お話のように地方議会を構成されておる議員を除名するという議決があり、あるいは予算の議決がある。それらの議決が違法になされたということを前提にいたしまして訴えが起きましたときに、その訴えが勝ちか負けかはつきりするまでの間に何とか一応のところその議決がいかぬのだという仮の地位を定める。先ほどの例で申し上げますと、議員として除名されますと、公判の判決がありまするまで議員として働くことができるように仮の措置を命ずる、そういつた停止命令をとることができることが行政事件訴訟特例法第十條にございます。そういつた十條の発動は、これは先ほどちよつと梨木委員からお話がございました例の平野事件の問題のときに、あれは裁判権がないということになりましたけれども、そのホイツトニー局長の書簡が出ます前は、はつきりいたしておりません関係から、東京地方裁判所からはパージを停止するという仮処分をいたしました。それ以外にいろいろ問題がありまして、行政事件特例法では行政事件については民事訴訟の仮処分の適用がない。そのかわりただいま申しました第十條の規定を設けて非常に條件を制限いたしまして、かりに停止することができるという規定を設けたのでございます。そうしてその議決に文句のある者が訴えを起してその訴えを起した原告が申立て人となりまして、かりに停止してくれという申立てがありますと、それに嚴格な條件を適用して発動する場合があります。今おつしやつた例は十分考えた上でそういつた十條の発動があつたものと思われますが、これは今調査いたしますが、なお具体的の事件でございますので、具体的の停止の決定がございますと、それに対して最高裁判所として司法行政の面からはとやかくはちよつと言えないのじやないか。全般的の問題につきましては、合同その他におきまして愼重にするようにということを伝えることはできますけれども、具体的の事件としてその決定を取消せというようなことはできかねることを申し上げます。
  176. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それで要望でございますが、実は大阪の茨木市会の決議文及び仮処分申請書を私全部調べてみましたが、どうも実に珍妙なケースだと思うのであります。そこできようの質問になつたので、私は裁判所の職権を縮小しようという意味は少しもありませんし、地方議会の乱暴な議決もあると思うのでありますが、大阪府の茨木市会の問題は異常だと思うのでありまして、最高裁判所でも相当御研究願いたいと思うのであります。この仮処分の申請者の申請理由も、これを許可されました裁判所の理由も、実に私は不可解だと思う。こういうことをやりましては、地方議会の議決というものは、まつた意味をなさぬことになるおそれが多分にあるために、今質問したのでありますから、十分御研究の上、善処方をお願いしたいと思うのであります。
  177. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいま猪俣委員の御指摘になりました御要望なり事件について、十分調査いたしたいと思います。
  178. 安部俊吾

    安部委員長 それでは本議題に関してはこの程度で終ります。  次に日程によりまして、昨日に引続きまして裁判所法の一部を改正する法律案外四案を一括議題といたし、質疑を行います。質疑は通告順によつてこれを許します。世耕弘一君。
  179. 世耕弘一

    ○世耕委員 私は証人の問題について一点だけ伺つておきたいと思います。証人の問題で憲法の第三十七條によりますと、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ」云々ということが書いてあるようであります。これらの基本的な権限を理由にしまして、証人に対していろいろな観点から尋問を開始されることが想像できるし、また私もそういう場面にぶつかつたことがございます。ところが被告人が自己立場を有利に展開せんがために、しいて証人に自分の考えていることを言わそうというような言動を用いることが多々あるのであります。たとえば一例を申しますなれば、ある問題に触れて証人喚問された場合に、お前はあのときにこういうことを言うたではないか、今証言したところによると、それとは相反したことを言うておる、かような言動をなすということは非人格的だ、人の風上にも立たせ得られない人物だというように罵倒的に、被告が尋問する場合をわれわれ経験するのでありますが、そのために気の弱い証人は遂にそこに妙な妥協的発言をして糊塗するということで、かえつて真相を究明できない場合があり得ると私は想像するのでございます。こういうような被告の態度が、かえつて審理そのものの神聖を害するおそれがあると思うのでありますが、その場合の救済の道があるかどうかということを、私は聞きたいのであります。なおまた被告人と証人の立場を見ますと、ある場合には公衆の面前で罵倒されるというような非常に不名誉な状態に立ち至る場合があるのでありますが、そういう場合の証人の立場を擁護する取扱いがあるかどうか、一点だけ伺つておきたいと思います。
  180. 野木新一

    ○野木政府委員 仰せのように、被告人が証人を反対尋問する権利は憲法で保障されておるところでありますが、しかしそれが濫用にわたるようになつてはならないのでありまして、ただいま御指摘のような場合、すなわち証人に証言を強要するとか、証人を公衆の面前で罵倒するとかいうことになりますと、これは少し行き過ぎになるものと存ぜられる次第であります。そういう場合につきましては、現在の訴訟法におきましては、二百九十五條に「裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重復するとき、又は事件関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、これを制限することができる。」というような訟訴指揮権の規定がございまするので、裁判長がこの原則を適正に行使いたしまするならば、そのような行き過ぎは防ぎ得るのではないかと存ずる次第でございます。
  181. 世耕弘一

    ○世耕委員 そういう場合に実際に活用されておりますか、私はないと思うのです。
  182. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 それは全国的にいろいろ事例はございましようが、かなり活用されておるということを聞いております。この被告人の場合は憲法との関係がありまして、反対尋問権は憲法上被告に認められた権利であるという点で、裁判所もその権限については相当愼重に考えておりますが、しかし現下のような場合はただいま野木政府委員の指摘された二百九十五條によつて制限することができるのであります。
  183. 世耕弘一

    ○世耕委員 憲法の條章からいうと、被告の立場を擁護するのあまり、事件に直接関係のない者にむしろ大きな責任を持たすような場合が非常に多いように思うのです。しかもその被告とそこで猛烈な激論をするということは、かえつて紳士としてしのびない。ところが相手はそれを見込んで罵倒する。それを裁判長は今御指定のその條文を適用しないで黙つて見ている実例を二、三私も経験したのです。それで実はお尋ねするわけです。そのためにはなはだしく証人の名誉を毀損するような場合があり得る。しかもそれはそういう多数の人の前でそういう罵倒を受ける場合があるのですが、そういうような結果、せつかく証人の言わんとするところがかえつて曲げられるようなことがありはせぬか。われわれのような立場にあるものはそういうことを何とも考えません。自己の信念通り言いますけれども、少し気の弱い証人はかえつてそこで曲げた発言をする。一例を申しますとこういうことです。お前はそこで言うたじやないか、それを今この前言わぬというようなことは偽証罪だ。すぐおれは訴える。裁判長私は訴えます。こういうような脅迫にひとしいことに実は私もぶつかつて来た。これは私の体験したことです。私にそれくらいのことを言うのだから、おそらく一般の気の弱い、ことに女性のように世間を知らない、法廷が何であるか知らない者はまごついてしまつてかえつて妙な証言をするのであります。そうすると憲法に規定されたこの條文が悪用されはせぬか、これは私は強く守つていただかなければ、証人になる者がしまいに非常な不愉快な立場に立たなくちやならぬということの一点と、もう一つこれも経験談から申し上げたいのは、弁護士と他の訴訟人との間には裁判の日にちを決定なさることは一応了承できますが、証人には日にちを指定して何日に出頭しろ、もしこれに応じなかつたら罰金とか逮捕するというようなことがうしろに書かれております。法律常識のない者はびつくりして多くの経済上の犠牲を払つて実は出席をする場合が多かろうと思うのです。こういうような点も人権を擁護するような意味から御考慮さるべきものではないか。われわれは一人の人の証人に立つために多くの旅行を変更しなくちやならぬ場合が多いのです。裁判所から旅費とか日当とかいうようなものが出るようでありますが、旅費、日当にかかわらず、たくさんの費用をこちらが損をするような場合がある。一例を申しますと、私は静岡で一人の人の証人に申請されたことがありますが、午前正十時ということでありましたが、静岡まで正十時に行くには、汽車の関係から勘案しますと、どうしても沼津か静岡に一泊しなければその時間は励行できない。証人に呼び出されるということは非常に迷惑なことなのです。それでこの條文が善用されないでかえつて悪用されるきらいがある。これを何とかして是正することを考慮の中へ入れておいていただきたいということを希望する。
  184. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 先ほどの被告人の証人尋問権が濫用されるという事例があるということは確かに伺いました。いわゆるクロス・エクザミネーシヨンといつておりますが、この制度は母法国であるアメリカあたりでも、その実際の運用についていろいろな弊害があるという議論もあるわけであります。しかしこの被告人が自分の犯罪について証言する証人を自分の目の前でテストするという権利は、これはまた非常に重大な権利であります。これは単なる訴訟手続の問題として考え去るごとのできる問題ではなくて、やはり憲法上の基本的人権としてあくまで尊重しなければならぬと私は思います。ただその濫用の弊は、裁判所の強力な訴訟指揮によつて適当にコントロールしなければならぬと思います。その運用は非常にむずかしいと思いますが、何分この新しい法律が施行されてまだ二年にもなりません。しかも裁判所の方でも実務家の会同で、新法の運用等について協議いたしておりますから、近く行われる会同でもそういう問題を取上げて一緒に考えてみたいと思います。  それから証人の問題でございますが、これはなるほど証人の召喚状を突然お受取りになる方としては非常にごもつともな感じだと思います。英、米の証人は、あらかじめ検察官なり弁護人なりがちやんと準備して、そうして証人の都合のいい日を前もつて調べて、そうして両当事者が何日と何日にはどれどれの証人を調べて、そして訴訟をやろうという行き方ですと、非常にそういう弊害がなくてうまく行きますが、何分現行法の建前は、両方から申請のあつた当事者について裁判所がそれを決定して呼び出す。つまり証人とのつながりは全然なくて、ただ事件に必要な証人ということで呼び出している関係でありますから、先ほど御指摘のようなこともあるいは起り得ると思います。しかし万やむを得ない場合にはその理由を一応届をお出しになれば、その日は延期してもらうということもございます。そういう点から今後の新しい訴訟手続の行き方の一つの材料として考えたいと思います。御了承願います。
  185. 世耕弘一

    ○世耕委員 御説明を受けまして了承いたしました。  もう一点伺いたいのは、先ほどの事例によつてお伺いするのですが、法廷において著しく証人を侮辱したような言動があつた場合は、証人から名誉職損の手続をとる前に裁判長として適当な処置をとられるのが公平な裁判じやないか。一方において被告人を擁護して、被告人は自己立場を擁護するために、相手の人格を傷つけ、相手の名誉を公然と傷つけることが平気で行われるということは、他人の権利を侵害するという建前から言えば、私は決してこの立法の精神に準じたものじやないと思うのです。過去のことだから一例を申し上げてもいいかもわかりませんが、私はことし一つ事件に証人に立つたことが実はあるのですが、被告人が私のところへ来て何回も泣きついて、どうぞこうこういう証言をしてもらいたい、だから法廷に立つて私はこういうようにお願いするということを泣きついて来た。けれどもそれは君誤解を生ずるからやめてくれ、同時に今後ぼくの方へそういう問題をとらえて交渉に来ることは迷惑だと言うて、私は実は拒絶した。にもかかわらず、今度は法廷に立てば、お前があのとき言つたのはうそじやないか、きさまは政治家として、大衆の指導者として立つべき何らの資格もない、不都合千万の不徳義漢だと申して罵倒する。私といたしましては、お前何を言うか、お前この間おれのところへ泣きつきに来て、これだけは助けてくれと言つたじやないかと一言言えば、私の汚名はすぐそこでぬぐわれることはわかつていても、それはあまりに被告人を窮地に陷れることであつて、私は意味ないと思つたから、私の良心で、黙つて実は笑いながら下りましたけれども、さようなことに対しては、私は被告人の権利擁護をむしろ逸脱していることだと思います。さような場合に対して、少くとも法廷にある裁判長は、よく公平な立場で越権行為にならぬようにおとりはからいにならぬと、証人の意義が滅却するのではないかということを私は考えるわけです。幸いにしてそういう点についても御考慮を払つて御研究くださるという話でありますので、期待をいたしておりますから、よろしくお願いします。
  186. 梨木作次郎

    ○梨木委員 今のと関連して……。証人の尋問の問題に関連するのでありますが、実例といたしまして、私はどうも不都合だと常々感じておるのでありますが、憲法第三十七條の第二項によりますと、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。」公費で証人喚問の権利が与えられておるわけなのでありますが、実際を見ますと、有罪になりますと、この証人喚問の費用の負担が被告人に命ぜられるような、ことになつております。こういうことになると、私は憲法の保障している、公費で自己のために強制的手続によつて証人を求める裁判というものが空文に帰するように思うのでありますが、この点はどういうようにお考えになつておるのか。
  187. 野木新一

    ○野木政府委員 憲法三十七條第二項の関係でありますが、ここで一応規定を置きまして、刑事訴訟法で訴訟費用負担の規定がありますが、訴証費用の負担を命じましても執行の点におきまして、五百條で「訴訟費用の負担を命ぜられた者は、貧困のためこれを完納することができないときは、訴訟費用の負担を命ずる裁判を言い渡した裁判所に、訴訟費用の全部又は一部について、その裁判の執行の免除の申立をすることができる。」というような規定がありまして、この規定によつて免除ができる関係になつておるわけであります。
  188. 梨木作次郎

    ○梨木委員 ですからそこで私がお伺いしたいのは、こういう問題が起つて来るわけです。今度の新しい刑事訴訟法では、大体当事者主義的なやり方でどんどん被告の方で証人を審問しなければならない。その費用は非常に厖大なものになる。不幸にしてそれが有罪の判決を受けるということになると、これはかりに生活苦に耐えられなくて窃盗をやつたとか、あるいはいろいろな経済的な理由で犯罪を犯したような場合に、この刑事訴訟法の訴訟費用の負担というものは非常に過重なものになります。これによつてさらに執行を受ける。こういう証明を得て免除を受ける手続もさることながら、私は根本的にはこういう刑事訴訟法が訴訟費用を被告人に負担させるというのは、憲法の第三十七條の規定からいつて違反ではないかというように考えるわけなんです。現実の問題といたしましてこれを深刻に考えますと、これは自分で費用を払わなければならぬということを考えますと、証人の喚問さえある程度考慮しなければならぬという事態が起つて来るわけであります。この点はどういうように憲法との関連においてお考えになるか、実際問題といたしまして改正の要があるように私は思うのでありますが……。
  189. 野木新一

    ○野木政府委員 この点につきましてはすでに憲法違反ではないという判例があるようでありまして、その詳細は刑事局長より御説明をいたさせます。
  190. 安部俊吾

    安部委員長 梨木君にお諮りいたします。あなたの発言の通告がこの次になつておりますので……。田万廣文君。
  191. 田万廣文

    ○田万委員 民事訴訟法の一部を改正する法律案について一言伺いたいと思います。事件の促進化というものにつきましては一応私どもは了承いたすのでございますが、目的は事件を早期に解決するということだけではなくして、真実をつかんで正しい裁判を受けるということが目的にならなければいかぬと思うのです。その意味から行きまして、民事訴訟法の一部を改正する法律案の提案理由の第四に書かれておりまするところの在廷証人、これについて問題があるのでございます。その理由書を読み上げますと、「在廷証人等に対する日当、旅費、止宿料等の支給であります。右にも申し述べましたように集中審理によつて証拠調べを行うようになりますと、勢い証人等はその尋問を申し出た当事者が同行して在廷証人等として尋問する場合が多くなるものと考えられます。」ということを予想しておるのでありますが、私どもそう長い経験ではございませんが、二十年の弁護士の経験から言つて、実際の立場から考える場合に、証人というものは、申し上げるまでもなく非常に重大な証拠になるのでございまして、ただでさえも良心に従つて真実を述べというようなりつぱな宣誓をしておきながら、ずいぶんいかがわしい証言をする証人が多い。まして今度のこの改正法案が通過するということになりますれば、提案理由に予想しておりまするように、たくさんの証人を事件の当事者が連れて参る。その連れて参る際においては、必ずや——これは私ども考えが多少行き過ぎかもしれませんが、こうこういう点についてお前さんは証人として調べられるのであるが、こういう点を申してもらいたいというような誘導的な打合せがそこに起り得る可能性といいますか、危險性が非常に多くなつて参ると思うのであります。そういう点を考えて参りますと、なるほど訴訟促進には一応障害になるかもしれませんが、従来のように一応証拠調べなら証拠調べの申請をする、そうしてそれが採用になつて、次回に証拠調べの期日が指定になる。その指定した日に、やはり証人なり鑑定人をお調べになるということがむしろ真実を発見する意味において適当ではないか。ただ事件の促進化という問題に急であつて、真実性を失う多分の危険性がこの第四の証人、鑑定人の尋問において起り得るのではないか、私はこれを非常に懸念するのでありますが、この点についてどういう御見解であるか、聞かしてもらいたい。
  192. 野木新一

    ○野木政府委員 御心配の点は一応ごもつともと存じますが、今後の民事訴訟法の行き方といたしましては、一応次のように考えている次第でございます。すでに現在においても民事訴訟法におきましてはいわゆる交互尋問と言いましようか、証人は当事者が尋問するという形式になつております。昔のように裁判長が先に立つて職権的尋問をするという方式になつておらぬようであります。従つて交互尋問の形で行きますと、英米もそうであるようでありますが、今後の行き方としては、あるいは当事者の弁護人は、この争点についてはどういう証人があるということを探しまして、その証人について、一体その証人か争点に適応するかどうかということをあらかじめあたるという場合もだんだん出て来て、むしろそつちの方があるいは多くなるのではないかと存ぜられる次第であります。これは今までの考え方から行きますと、ことに日本の国においては非常に潔癖でありますから、そういうことは心ある辯護士としては避けておる。むしろ偽証教唆の疑いをこうむつてもいかぬし、また疑いをこうむらないまでも、むしろそういうことは避けて、裁判所に白紙のままで証人に出てもらつて裁判所で証言してもらうというようなことであつたと思いますが、今後の行き方といたしましては、まず第一にその点が少し切りかわつて来るのではないかと察せられるわけであります。  次に在廷証人のことでございますが、今後とてもやはり準備手続を開きまして、準備手続でいろいろの爭点をきめ、その爭点に対してどういう証人があるかということを決定して、そうしてその証人のうちだれを裁判所が採用するかということをきめまして、口頭弁論期日が定められますと、その口頭弁論に最初の期日はどの証人、次の期日にはどの証人というようにあらかじめきめておいて、呼出しをするというのが常例になると思いますが、それでもそういうふうになるべくその日に証人の人を確保するという意味で、当事者の方からあるいは連絡をして連れて来るという場合も出て来ると思います。またただいま申し上げましたような訴訟の行き方になつて来ますと、現在よりも一層、当事者があらかじめ証人と連絡しておいて、この点についての証言ということで法廷に証人をつれて来るということも勢い、少くとも旧刑事訴訟法当時よりも大くなる。しかもそういう場合はそういう場合で、裁判所が採用した証人のことを考えますと、これは裁判所があらかじめ呼んだ証人と同じように取扱つて行つた方が適切である。なお刑事訴訟法につきましては現にそのようなことになつておりまして、いわゆる在廷証人として尋問した者につきましても、裁判所は本来呼んで来た証人と同じように旅費、日当などやつておりますので、この最後の点は今の刑事訴訟法の行き方とも合すということにもなるわけでございます。
  193. 田万廣文

    ○田万委員 一応御説明はよくわかるようでありますが、もう一点お尋ねしたいのは、辯護士といたしましては、証人とは面接をなるべくいたさないようにして、真実を率直に証人に法廷で言つてもらうということはもう当然のことでありますが、しろうともそうなければならぬのでありますが、当事者本人というものは得てして、いわゆる事件にふなれなために、あまり力を入れ過ぎて黒を白、白を黒というようなことを証言で言つておることは皆さんよく知つていることと思います。そういう危険性が、この事件の促進化ということになると、勢いここに提案理由に書いてある通りに当事者が計画して証人を連れて来るという危險性が生じて来る。そういう意味から真実性を発見するという意味が失われて間違つた証言がなされて、解決は早く行われたが正しい裁判は阻害せられる危險性がある。こういう結論に陷つて行く可能性が多いのではないか。こう私は心配しておるのでありますが、なお納得の行くように御説明願いたい。
  194. 野木新一

    ○野木政府委員 わが国の今までの実情から考えてみますと、過渡的には仰せられるような心配が多少あるとは存じますが、もし証人が当事者に頼まれて法廷でうそを言うというような場合の対策といたしましては、この反対当事者の反対尋問権というものがそこで大いに意義を持つて来るわけでありまして、反対当事者はその証人の証言の矛盾をついて、その証言の信憑力を弱めるというような方式になりますので、あまり見え透いたうそはすぐ暴露するのではないかということで、反対尋問権というものはそこにも非常に意義を持つて来るわけでありまして、英米の方も反対尋問権というものをその意味で重視しているわけであります。
  195. 田万廣文

    ○田万委員 反対尋問によつて大体真実がつかめるという御説でありますけれども、現在の交互尋問の仕方は、御承知通り申請した側から先に申請せられた証人を調べておるのである。従つて一度黒なら黒と証言をした場合において、反対尋問でいかにこれをついてもやはり先に申請し、先に交互尋問の権利を獲得している申請者の方で証言が行われるということは相なるわけであります。従つて今おつしやつたようなお話はよくわかるようであつて、実際問題としては逆な結果が生れて来る。今の政府委員のお話であるが、むしろ私は交互尋問については申請をした側から先に証拠調べをするのではなくして、相手方から先に尋問をせしめるべきである。これがほんとうの交互尋問でないかと考えるがいかがでありますか。
  196. 野木新一

    ○野木政府委員 御説のような見解もあるいは立ち得るかもしれないと存じますが、やはり交互尋問の仕方は多年行われて、長年の試練にたえて来たものを制度化しようとするわけでありまして、英米でその後何年かにわたつて鍛え上げられて来た制度であり、しかも申請をした側は一応証人を裁判所に提出する。相手方の矛盾をついて行くということでこの証人尋問の方式にきめられておるわけでありますが、わが国といたしましてもこの方式をとつて行つた方がやはり無難であると存ずる次第であります。     〔委員長退席、田嶋委員長代理着席〕
  197. 田万廣文

    ○田万委員 最高裁の方より私の今の交互尋問に対する御意見を承りたい。
  198. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいま田万委員からの交互尋問に関するお話でありますが、私ども政府委員と同様の見解をとつておりまして、交互尋問の制度は要するに裁判官が行司になりまして、当事者は相撲をとつているということでありますが、当事者が相撲をとる以上は当事者のやることは間違いないのだ、もう正々堂々と闘うのだということを前提とするわけであります。これは辯護士の方が事前に証人に会われることはむしろ奬励すべきことであり、辯護士の方を尊重するゆえんである。辯護士の方は少しも御遠慮なさらずお会いになつて調査されてしかるべきではないか。実は古い憲法時代にこういう事例がありました。それは辯護人の方が申請した証人が許されたある一定の日に証人として調べることになつた。ところがどうも証人がはつきりしないので、自分の事務室に証人を呼ばれまして、法廷を事務所につくりまして、自分が裁判長となつて練習を重ねた事件がありました。当時の考えでは田万委員が仰せられたように、やはり弁護士道徳に反する。いわゆる偽証を教唆したのではあるまいかというので、告訴され、起訴された事件があつたそうでありますが、しかしそれは偽証教唆すればともかくといたしまして、ただいまではそれは当然何度も練習されてもいいわけであつてしかもその練習の結果、法廷で証人が堂々とおじけずにほんとのことが言える。もし偽証を教唆してうそのことが出て来た場合には、相手方が法廷技術を書して戰つて勝負を決する行司役であります裁判官がどちらの相撲のおしりをつつつくようなことは絶対にしてはいかぬ。することはかえつて公平を害するといつた考え方、こういつた考え方でただいまの訴訟法の形態ができておることは御承知通りだと思います。私どももそういつた方向に進んで行つてしかるべきなんじやないかと考えております。
  199. 田万廣文

    ○田万委員 すこしくどいようですが、交互尋問の方法については、私はむしろ申請者側より先に、被申請者側の方で尋問したら真実がつかめるのじやないか、これは実際問題です。ただいま政府委員のお話では英米でそういうことをやつて、非常に効果を上げておるというけれども、何でもかんでも英米の流儀に堕して行くということは、今日の日本の情勢、また一般人の感覚というものは英米人並に行つておるのではないから、そういう過渡期においてこういうりつぱな制度だろうけれども、その交互尋問を英米流に行くというと、むしろ私は今までの結果から考えて、危險はあつてもプラスになるものはない、こう思うのです。従いましてこれは後日の研究問題として残ると思うけれども、この点は実際の裁判を通じて、いずれがプラスになるかということを御研究を願いたいと思います。  それから裁判所の一部改正についてお尋ねいたします。  簡易裁判所制度また判事を採用せられまして、今日まで相当事件を取扱つておられたと思うが、民事刑事を通じて予期しただけの効力、結果が得られておるのでありましようか、それをひとつ統計の上でなくても……。
  200. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 まず刑事事件の方からごく概略を御説明申し上げます。刑事につきましては御承知のように昭和二十四年から新らしい刑事訴訟法が施行されまして、その前は旧刑事訴訟法でありました。新刑事訴訟法が施行されるときに、すでに全国の裁判所には従来の事件がたくさん残つていたわけであります。終戰後ことに事件がふえまして、裁判所の負担は驚くべきほど過重であつたのであります。たとえて申しますと高等裁判所について申しますと、高等裁判所は一番受理件数がはなはだしかつたのでありますが、戰事前の控訴院と比較しますと、戰後の高等裁判所は二十倍ないし三十倍の事件を受持つことになつたのであります。ところが裁判官の数はとうていそれに対処するほどふえてはおりません。わずか二倍ないし三倍ふえておるだけであります。従いまして戰前の約十倍ぐらいの仕事を高等裁判所の判事が負担して来たのであります。地方裁判所におきましても同様でありまして地方裁判所におきましては戰前の八倍から約九倍に事件がふえたのであります。ところが裁判官がふえたのはわずか一・五倍という状態であります。戰前の約七倍にも及ぶ負担をにないながら来たのであります。そうして新刑事訴訟法が昭和二十四年一月一日から施行されましたが、昭和二十三年の十二月末現在において簡易裁判所には古い事件が八千四百八十件、地方裁判所には二万八千四百十五件、高等裁判所には一万八千六百六十六件という厖大な旧法事件が残つていたのであります。そのために新法の運用が危ぶまれ、裁判所がやがて破産するだろうと言われて来たのでありますが、幸いに今日の状態は破産状態に陥ることなく、概して事件を片づけて参つて来ております。そうししことしの九月現在では高等裁判所は古い事件は一万千六十一件これは地方裁判所に占い事件が残つておりまして、それがどんどん来てますから、こういうことになりますが、地方裁判所は三千六百七十五件まで減らしております。全体から見ますと旧法事件の地方裁判所の負担というものは、そう大した憂うべき数ではない。やがてはこの程度事件は一掃されることと思います。簡易裁判所におきましてはわずか六百七十五件しか旧法事件が残つておりません。そういう状態事件を処理したという運用の面から見れば、とにかくどうやら過重な負担をにないながらここまでこぎつけて来た。概して良好であるということが言えると思います。
  201. 田万廣文

    ○田万委員 簡裁判事増員について、現在お考えがございますか。
  202. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 簡易裁判所の判事の増員のことにつきましては、現在定員の上から申しますと、約百名ばかり定員が欠員になつております。ですからその欠員の補充はできるだけいたしたいとは考えておりますけれども、その欠員を補充する以上に定員を増加しようということは現在のところ考えておりません。
  203. 田万廣文

    ○田万委員 この点はあまり詳しくないのですが、簡易裁判所の判事は相当長い年限裁判所の書記をなさつた方とか、あるいは旧制の大学を卒業せられた方、実際に弁護士、あるいは判事、検事の経験のない方が、裁判所の判事に採用せられておるのだろうと思いますが、こういう方に一つの希望を持たす意味で、何年かの簡易裁判所の判事をやつた場合において、何らかの特権が与えられるというやうな期待権をこれらの人に与えるという考え方は、裁判所においてお持ちでありませんか。またそういう話は出ておりませんでしようか。
  204. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 これは御承知通り裁判所法第四十五條の「多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者は、前條第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる」ということになつております。この中に多年司法事務に携わつて簡易裁判所の判事の職務に必要なる知識経験のあるということに該当するような裁判所の職員、ことに書記官の方の職員があれば、四十五條によつて選考し得る制度になつております。  それから裁判所の規則の方にもこれにマッチしまして、簡易裁判所の選考委員会規定というようなものができておりますけれども、この規定があるために、たとえば今御質問になつたように、何年裁判所の書記を勤め上げれば、それが必ず簡易裁判所の判事に選考される既得権となる、そう認めるというようには考えておりません。やはり簡易裁判所の判事にいたしましても、裁判官でありますから、ただ年限を積んで、裁判所に長くおつたというだけで判事にいたすということは、国民の権利に非常な影響もあることですから、長く裁判所の書記官で実務をやつてつても、この選考を受けるには、やはり受ける資格のある実力を備え、人格を備えておる者でなければ、この選考によつて簡易裁判所の判事にはすることができないというように考えております。特権というようなことには持つて行きたくないと考えております。
  205. 安部俊吾

  206. 梨木作次郎

    ○梨木委員 訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案についての御質問をしたいのでありますが、これは執行吏の恩給の條件を引上げる改正案のようでありますが、この問題に関連いたしまして、最近地方におきましては不景気になつて来たためのもありますが、非常に執行事件が多くなつておる。ところが執行吏があまり数が少いとか待遇も悪いので、内職をしておるのがどうか知りませんが、このために裁判の執行の問題に関連して、執行する方も非常に困つておるが、執行された方も不当な執行をされた場合の救済の、いろいろな法的措置を講ずるのに非常に不便を感じておるわけなのです。そこでこの執行吏の充実の問題をどういうふうに考えるか。現在私の知つておるところでは、たとえば差押えをしまして、いつ競売になるのか、そういうことが、執行吏が裁判所に来ておらないために、自宅におるままに、それらの不当な執行について、異議申立てやその他の手続をしようにも記録も何もない、非常に困つておるわけであります。ほとんど乱雑きわまる裁判の執行が行われておる現状です。それをめぐつて事件屋が非常に不当なことをやつておるという状態であります。これらの実情を当局ではどの程度につかんでおられるのか、そしてそれに対する対策をどういうふうに考えておられるのか、これを伺いたい。
  207. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいまの点につきましては、便宜最高裁判所の方からお答えいたしたいと思います。
  208. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいまの梨木委員からのお話ごもつともな点が多々あります。実は最高裁判所といたしましては、全国の執行吏につきまして、執行吏は御承知のように手数料を報酬といたしておりまして、もし手数料が足りないときには、国庫補助ということになつております。それで、結局一年間の手数料総額が七万一千円に達しませんと、その差額を国家が補助するということになつております。現在三百人近くおりまして、国庫補助を受けないで十分やつて行ける者は、約三十人くらいしかおりません。実は御承知のように、また今お話がございましたように、どうも収入が全般的に上つておりません関係から、執行吏を希望する人は、少うございまして、その結果かなり補充難がございます。実は執行吏は国家公務員法によりまする公務員になるわけでありますが、まだ規定の整備が、完全でないところから、いろいろ恩給とか、それから俸給を一般公務員の増額に伴いまして、ただいま申し上げました七万一千円をさらに上げなくちやならぬといつたいろいろな企てをしなければなりません関係から、むしろ執行吏を裁判所の補助機関ということに持つて行つたらどうか。これにはいろいろまた実際上の困難も伴うかと存じますが、制度としてもう一度出直して考えてみたらどうかということで、実は最高裁判所といたしましては、全国の裁判官に集まつていただきまして、その意見を徴しまして、ただいま研究中でありますが、もし研究がまとまりますれば、その結果を法務府の方にお願いしあるいは国会にお願いして、そういう改革をやつたらどうか。そうなりますれば、あるいは執行吏の補充難ということもなくなるのではないか、いろいろ考えておるのでありますが、現状はおつしやる通り、かなり人員も少いために遺憾なことがございますけれども、そういつた企てをただいまいたしておるわけでございます。
  209. 梨木作次郎

    ○梨木委員 今おつしやつたような執行吏制度の改正の方向、私がちよつと漏れ聞いたところによりますと、たとえば検察庁の事務官だとか、それから簡易裁判所の書記官、そういう者に執行吏の仕事をやらせるというような構想があるやうに聞いたのでありますが、その通りでありますか。
  210. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいまのところではそういつた考えはございません。
  211. 梨木作次郎

    ○梨木委員 これは希望として申し述べておくのでありますが、この執行吏制度を充実しないと、せつかく裁判制度を充実させましても、最後のいよいよ権利を実現する段階におきまして、いろいろ不都合なことが多々起きるわけでありますが、早急に案をつくつてこの点を充実するようにしていただきたい。  その次にお伺いいたしますが、裁判所法の一部改正の問題に関連いたしまして、今後簡易裁判所の扱う事件の範囲が拡大されたのでありますが、この三年以下の懲役をもつて処断すべき場合に、だから三年以上ということになれば、これは地方裁判所に行くということになるわけでありますが、この判断、これは今までもあつたことだと思いますが、私実情をあまりつかんでおりませんので、その辺のところもあわせてお聞きしたいのでありますが、第一の段階で、最初はなるほど検察庁の方におきまして、三年以下というような見通しで簡易裁判所へ起訴する。しかし審理の過程においてこれは検察庁側か裁判所側か、いずれかにおいて新しい何らかの事実を発見するというような事態が起ると思うのでありますが、これらは実際的にどういうふうに扱つて行かれるつもりでありますか、お伺いいたしたいと思います。
  212. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいま御質問の点は、おつしやる通り、まず第一義的には検察官の方で判断します。たとえば窃盗の例をとつてみますと、窃盗は法定刑十年以下でございますが、まず検察官の方で事案の内容その他から見て、せいぜい二年くらいの求刑でよろしかろうというような場合には、簡易裁判所へ起訴いたします。ところが簡易裁判所でよく調べてみますと、どうもこれは悪質であつて、三年六箇月ないし四年くらいの刑を言い渡さなければどうも適当でないという場合には、裁判所法第三十三條第三項の規定によりまして「簡易裁判所は前項の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない」ということになりまして、結局事件を地方裁判所に移すわけであります。従つて簡易裁判所はその段階の判断をいたすわけであります。
  213. 梨木作次郎

    ○梨木委員 この辺のところが非常にむずかしいと思うのであります。そうすると、裁判しない前にどうもこれは三年以上になりそうだということになつて来るわけなのでありますが、ここのところはあらかじめ予断をいだくようにもなると感ぜられるのでありますが、そこはどういうぐあいに考えておられますか。
  214. 野木新一

    ○野木政府委員 実際問題としては、検事がその起訴状だけを見て、これは三年以上だから云々というような判断をすることは、ほとんど事実上なくていろいろ証拠その他を審理して行つてみて、そろそろ結審近いという段階になつて、すなわち量刑ができるような段階になつて、どうもこれではぐあいが惡いという場合には、今言つた事件を移すことになるわけでございます。
  215. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それはわかりますが、しかし私はどうもこの規定そのものが非常におかしいと思うのです。これは裁判にあらかじめ予断を与えるというようなことになる。しかもどの段階においてでもこれができるということになると、ますます非常におかしいものになると思うのですが、この点はどうですか、それでよろしいですか。どうもおかしいと思うのですが……。
  216. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 ただいまの御疑念はなるほど條文の上からはただちにだれでもいだかれる御疑念だと思いますが、これまでの裁判の実際では、刑期の問題で簡易裁判所がこれは三年以上になりそうだから送つたという事件があるということは聞いておりません。むしろ訴因の問題で、自分の方にこの事件についての管轄権がないからということで送ることはたまにありましたが、刑期の問題でそういうデリケートな問題を生じたということは聞いておりません。
  217. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それはその程度にいたしまして、先ほど私、質問が途中で切れましたが、公費をもつて証人の喚問をするという権利を保障しておる憲法第三十七條、これはなるほど刑事訴訟法にもそういう規定があつて、今のお話だとこれは憲法違反にならないのだという御答弁でありましたが、実際問題として非常に不都合な結果が起きて来ておるのであります。窃盗をやりまして、その方は大したこともなく、あるいは場合によつては執行猶予にもなる、ところが非常に大きな訴訟費用の負担の判決を受ける。もちろんそういう事件におきましては、非常に多くの証人を呼んで、割合に被告人に有利な判決を受ける場合もある。しかしその結果その訴訟費用を調達するために再び犯罪を犯すというような事例があるということを刑事を專門にやつておる弁護人諸君から聞いておるのであります。そこで私はこれは非常に不都合だと思うのでありますが、こういうやり方につきましては、憲法三十七條の精神から申しまして、これは改正した方がよろしいと思うのでありますが、改正の意向を持つておられるかどうか、またこういう訴訟費用の非常に多額な負担のために実際に問題を起したというような実情、そういう点をどういう程度につかんでおられるか、これを伺つておきたいと思います。
  218. 野木新一

    ○野木政府委員 何分新刑事訴訟法が施行になりましてようやく二年になろうというところであります。しかして先ほどの執行免除の申請の規定もまだ十分に徹底しておるとあるいは申されないきらいもあるかと存じますので、政府側といたしましては、なおあの規定を十分活用していただくことにしたいと思つております。そういう意味におきまして今の段階においてただちにこの点の改正を考えるというところにまではまだ至つておりません。
  219. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それから今度の簡易裁判所事件の管轄の拡大の中に住居侵入というのが入つております。最近の傾向といたしまして、労働事議等の過程におきまして、住居侵入の容疑の事件が今後ふえるだろうと思うのです。ところが事件は住居侵入ということになつておりましても、相当複雑な事件が今後多くなるだろうと思うのでありまして、これを簡易裁判所に扱わせるということは私はあまり適切ではないと思うのですが、現在の住居侵入が労働事議に関連して起つておる実情との関連において、どういうようにお考えになるか伺つておきます。
  220. 野木新一

    ○野木政府委員 実は今度の法案を立案する途中におきましてもただいま御指摘のような議論が出まして、窃盗のような住居侵入に関するものは比較的簡単であるから、簡易裁判所でもよろしい、しかしながら労働爭議に関連して起つたような事件は非常に複雑であるし、問題がむずかしいから、そういうものでも簡易裁判所に扱わせるのは少し行き過ぎじやないかという議論がずいぶん起りました。私ども考えますに、住居侵入は罰金刑と懲役刑の選択刑になつておりますので、こういう事件は現在の裁判所法によりますと、地方裁判所簡易裁判所の共管になつております。そしてこういう事件を地方裁判所簡易裁判所の共管にしております趣旨は、事件の内容によつてむずかしいものは地方に起訴し、簡單なものは簡易に起訴するという運用ができるようにするために共管にしておるわけでありまして、今の住居侵入のような場合には、まさにその共管の趣旨を大いに発揮すべき場合だと思います。従いまして実際の運用におきましては複雑な事件は地方にまわし、單なる窃盗とか、住居侵入とかそういうありふれた簡単なのを簡易裁判所にまわす、そういうふうな運用になつて行くものと思つておる次第であります。
  221. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それはその程度にいたしまして、私たちがもらいました資料を見ますと、「第一審事件の控訴率」というのがありますが、昭和二十四年中に新法事件が一三%、旧法事件が五三%ということになつておるのでありますが、新法事件がどうしてこんなに控訴の率が少くなつておるのか、その原因がちよつと理解しにくいのでありますが、説明していただきたい。
  222. 野木新一

    ○野木政府委員 この点の原因でございますが、まず控訴率の点でございますが、昭和二十四年中には新法事件は約一三%、旧法事件は五三%、昭和二十五年一月から九月までの間におきましては、新法事件一八%、旧法事件五三%となつておりまして、明かに新法事件の方は控訴率が少いわけでありますが、この理由はいろいろ考えられると思いますが、一つは新法事件は新法の建前として一審に審理を集中いたしまして、一審の審理を十分丁重にする、そのかわり控訴審の方はいわゆる事後審の構造にする。そうした建前にした関係上、当事者も一審に十分力を注ぎまして、一審にきまつた場合には一審の判決を尊重するということがまず考えられると思います。ところが旧法事件につきましては、旧刑事訴訟法時代と同じように覆審でありますから、一審は適当にやつておいて控訴審に行つて大いにがんばろうというような気合も残つておるのじやないかと思つております。それからまた考えられますのは、簡易裁判所事件の控訴率と地方裁判所事件の控訴率が違うという点から考えてみますと、新法におきましては控訴審が高等裁判所になつております。簡易裁判所事件も高等裁判所ですから、旧法事件は、簡易裁判所事件はその地方を管轄する地方裁判所に行くという関係になつておりますので、その点も多少影響しておるのじやないかと思う次第であります。
  223. 梨木作次郎

    ○梨木委員 私はこう思うのです。この新法になりまして、このように控訴の率が減つて来たということは、実際裁判を受ける者の側からいえば、新刑訴になつてからは覆審制度じやないというので、控訴に行つて救われる可能性が非常に少くなつて来ておると私は見ておるのでありますが、第一審で十分審理が盡されたという見方は、少くとも事実に反しておると私は思います。刑事訴訟法の改正の結果、こういうような事態が起きて来ておると思うのでありますが、あなたの方はそうは見ないのですか。
  224. 野木新一

    ○野木政府委員 経過的の分子が大分あります。と申しますのは、新法施行後間もなくのことでありますので、まだ新法の控訴審のやり方というものが普及徹底をしていないという点も、先ほど申し落しましたが考えられます。しかしいずれにせよ、今後の行き方といたしましては、第一審を丁重にして、第一審でできるだけよい判決をするようにして行つた方がよいのじやないかと思う次第であります。
  225. 梨木作次郎

    ○梨木委員 私は最高裁判所の方にこの点についての御見解を聞きたいのでありますが、控訴いたしましても——この資料によりましても破棄率が昭和二十四年中は一九%、こういうぐあいになつておるのでありますが、運営の問題としてもつと思い切つて破棄しろというのはおかしいのですが、もつと大膽に遠慮なく控訴審において第一審の裁判を検討して、どしどし破棄すべきものは破棄して行く、ところがこういう強制的な指導監督あるいは助言と申しますか、こういうようなことを希望するわけなのでありますが、こういう点についての配慮がどれくらいに行われておるか伺いたいのであります。
  226. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 まず旧法事件と新法事件とによりまして控訴率が非常に違うという点が顕著な点であります。その点について御説明いたしますと、なるほど新法施行後、旧法事件と新法事件との控訴率を比較しますと、資料に差上げましたような非常な相違があるのであります。これはしかしかりに戰前の昭和五年から十四年の十年間の控訴率の平均と比較してみますと、これは区裁判所、地方裁判所事件を合せて一七・五%、これから見ますと、旧法事件の戦後の控訴率は戦前の三倍に上つて来ておる。新法事件の方が少いというよりも、むしろ旧法事件の方が急に目立つて非常に顕著なふえ方をしておるというふうに見られると思います。それから控訴審における破棄率でございますが、これは新法が施行されました当初は非常にごの破棄率が少かつたのであります。ところが半年くらいたちましてから、ぐんぐん上昇して来まして、昨年の統計では昨年末全国的な平均は二三・一%まで行つております。しかしこれは施行後のいろいろな事情から非常にパーセンテージに月ごとにギヤツプが多かつたのであります。ある高等裁判所支部におきましては、五〇%以上も破棄率を示したこともあるのであります。しかしこの破棄件数の大部分は、量刑不当による破棄、事実誤認による破棄であります。そういう点から見まして、控訴審における破棄というものは相当活溌に行われて来ております。新法の控訴審の破棄理由と旧法の大審院の上告審における破棄理由と大体同じでありますが、大審院時代の破棄率に比べますと、はるかに控訴審の破棄率が多くなつて来ておる、そういう状態であります。控訴裁判所といたしましても、よく会同ごとにいろいろ協議して地方裁判所の判事が不満に思うくらいに控訴審の方では勇敢に破棄をやつておるという実情であります。
  227. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それから私先ほど事務総長にも伺つたのでありますが、これは最高裁判所としましては事件の促進に関してはあの事件を早くやる、この事件をこうやるというような一応の指示というものはやつておるのですか、おられないのですか、これを伺います。
  228. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 刑事につきましては法規上意がなければならぬという事件があります。選挙違反事件とかあるいは公職のパージの事件とかいうようなのは、これは法規によつて急がなければならぬということになつておりますが、それ以外の事件について、個々の具体的な事件を最高裁判所の方から指定して、あれを早くやれとか、これを遅らせろというようなことは絶対にやつておりません。
  229. 梨木作次郎

    ○梨木委員 そういたしますと、先ほども質問したのですが、三鷹事件の控訴公判ですが、これは控訴趣意書の提出の前に公判期日を指定するというやり方は、明らかに裁判の公平を維持する上からは不当なやり方だと思うのです。この点について何か最高裁判所の方から事件促進についての御一意でもあつたのかと思つてつたのですが、最高裁判所からないとすれば、何か外部からのそういう注文があつたのですか。これは何か政治的な圧力が他から加えられたような感じを受けるわけです。刑事訴訟法を曲げてまで——曲げてまでというと語弊があるかもしれませんが、異例な扱いをしておる。私は最高裁判所に重大な注意を喚起したいのですが、その点についての御見解を承りたい。
  230. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 その点につきましては、実は私ども先ほどその問題がそういうことになつておるということを知つた次第でありまして、全然そういうことは知らずにおりました。もしほかからそういう処置をとれというようなさしずがあるとしますれば、必ず最高裁判所事務総局の渉外課なり、あるいは刑事局なりへそういう連絡があるのですが、そういう連絡は全然受けておりません。その点だけははつきり申し上げておきます。
  231. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それでは質問を他に移しますが、今度民事訴訟につきましては弁論の集中主義というのを採用されるようであります。そしてその結果、最初の口頭弁論期日はやむを得ない理由がない限り、変更はしないというような規定に改正されるようでありますが、一体これでやりまして訴訟が促進されると考えているかどうか。これはなるほど今の日本の弁護士の生活の実態と勘案した場合に、弁論を集中的にやつても、その期日をあらかじめ打合せをしましても、これはやはり非常に多くの事件を扱つておる。というのは、現在の日本の弁護士の生活の実情というものは、私はアメリカの状態は知りませんが、やつぱり経済的な條件は惠まれたものではありません。従つてたくさんの事件を扱わなければならぬということになつております。たくさんの事件を扱わなければなりませんから、非常に忙しい。あらかじめ予定したその集中された期日においてやはりさしつかえが出て来る。そうしてそれを延期しなければならぬということになつて来ますと、集中された期日は裁判所があらかじめ予定して、その期日を明けておるわけでありますから、これがむだになるというような事態が起きて来る。でありますから、この弁論集中的なやり方というものは、精神はよくわかるのですが、日本の裁判を実際に運営している裁判所側における、また弁護士側における実情にそぐわないものが多々あると私は考える。はたしてその点についてうまくやつて行ける自信があるかどうか、この点を伺います。
  232. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいま御指摘の点は、わが国の民事訴訟のやり方が非常に大きな改革になりますので、その切りかえにつきましては非常な困難を伴うかとも存じますが、やはりこうして切りかえて行けば、訴訟の促進に役立つものと信じて立案した次第であります。
  233. 梨木作次郎

    ○梨木委員 信じただけでは私はちよつと納得が行かないので、もう少し具体に伺いたいのです。たとえばこういうやり方で行つて、最初に訴状が出る。それから準備手続を開く。準備手続を開いた後におきまして、今の裁判所の実情からいつて、どれくらい置いた後に期日が指定になるのか。今裁判所の持つている手持事件で、こういう順序で行けば具体的にははたして促進になるのかどうか。たとえばこれは私の頭で考えた想像でありますが、かりに最初訴状を出して、それから一箇月後に準備手続に入る。それから準備手続に入りまして、今度集中弁論の期日が指定される。それが二箇月後に入つたといたします。そのときにもしもさしつかえが起つたり、この期日が次にまわるときにはいつ入るのか、二月後に入るのか、半年後に入るのか、そういう点の実際の裁判所事件数とそれから弁護士界の実情というものを実際つかんで、その結果として促進が実現できるというような自信を持つておるのかどうか。そういう点について何か科学的な調査をされて、一応の見通しを持つておられるかを伺いたい。
  234. 野木新一

    ○野木政府委員 現在裁判所の期日の指定がどのようなぐあいになつておるかという点を、一応裁判所の事務局において調査いたしていただきましたのが、お手元に差上げてあります資料の十七ページに載つておるのであります。これによりますと、第一回の期日を事件受理後から何日後に指定するか、次回期日を何日後に指定するか、一日に指定する事件及び証人、実際に審理する事件及び証人というように、全部わけてありますが、これは現在の運用のもとにおいての調査でございます。これで新法のような集中弁論になりますと、どのようになつて行くだろうかという点につきましては、やはり第一回の期日の指定はこれと大差ないのではないかと思います。それで準備期日の期間が今よりも大分ふえまして、それからいよいよ口頭弁論になりますと、一日にどの程度調べるかという点は、事件と証人数などは大体ここと似かよつたことになるかと存ぜられるのであります。しこうして集中弁論にしますと、裁判官が頭に覚えておりますから、判決は新鮮な印象で判決することができる。今のようでありますと、記録を読んでもずつとあとまわしになつて、また少し記録を読み、またちよつと調べてやるということになつて、裁判官としましては事件に対する新鮮味というものが非常に失われますので、そういうような点からも、集中審理にいたしますと、判決が非常に早く、しかも新鮮な記憶の中にできまして、正確な判決ができるのではないかと存ずる次第であります。なおこの点の見通し等につきましては、最高裁判所側からも御説明願うことにしたいと思います。
  235. 梨木作次郎

    ○梨木委員 質問はまだありますが、今日はこの程度にしておきます。
  236. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私は民事訴訟法の改正案とそれから裁判所法の一部改正する法律案とについて、ちよつと簡単に質問したいのですが、梨木君の言われるのも実際問題としては相当に理由があると思うのです。準備手続が済んで、公判の期日を定めるときに、これは大体幾日くらいという予定をきめて集中審理をやろうとする。そこで弁護士の都合を聞いてきめられることであろうと思いますが、三日も四日も五日も続けて弁護士の都合のいい日をとろうとするときには、よほどの間隔を置かなくては期日の指定ができないと思いますが、この点はどうお考えになりますか。
  237. 野木新一

    ○野木政府委員 その点わが国の実情といたしましては、少くとも施行当初におきましては、なかなか問題の起る点と存じますが、この法案の立案の趣旨といたしましては、弁護士会の方の御協力を願い、実情に適したところから徐々に進めて行くよりほかないと思つております。
  238. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 弁護士会の了解を得てからと言われるが、あなた方裁判をやられておわかりでしようが、今の調べ方でも、刑事事件一つきめるにも、民事事件をきめるにも、なかなか一月や一月半では両方合せて出て来ないですよ。それが三日も五日も続けてあけておけということになつたら、一月や二月ではきまるものではないと思うのであります。弁護士の都合にかまわず、裁判所がかつてにきめればできるでしようが、そんなことで審理ができるかどうか、なかなかりくつだけではいけないので、実際に自分で裁判をやり、また自分で弁護人になつた気持考えてもらいたいものだと思うのです。この点お考えになつたのかどうか、お考えになつたらどれだけの自信があるのか、それをお聞きしたい。
  239. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいまの点につきましては、たしかにおつしやるような点があると存じますが、やはりこの際審理を促進するという大方向から考えてみますと、今までのようなやり方ではなかなか十分いかない。今まで何回も何回も審理促進ということが叫ばれながら、その効果が十分あがらなかつたという点からみますと、この際やはり別のやり方に思い切つて切りかえてみてはどうかというので、思い切つて切りかえてみるわけでございます。しかしその運用の当初におきましては、おつしやるようないろいろな点が起るのではないかと存じますが、この点は裁判所それから当事者ができるだけ協力して、少しでもそういう困難を克服しつつ実情に沿つてだんだんこの制度をはぐくんで行きたいという考えでございます。
  240. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 これ以上は議論になりますからやめますが、そこで民事訴訟法と裁判所の一部を改正する法律案とにつきまして、民事の点では三万円くらいに引上げ、刑事の事件でも非常に取扱う事件をふやすと言われるのは、私はあながちその考え方が悪いとは考えないのですが、こういうことになりますと、簡易裁判所判事の仕事が非常にふえて来ますし、また判事の任務が非常に重くなる。そこでその前提から考えますと、現在の簡易裁判所判事でこれだけの仕事を負担し切る能力があるかどうか、この根本問題に私は非常に疑念を持つのであります。そこで第一番に聞きたいのは、いわゆる判事の資格をもつて簡易裁判所判事になつておる者がどれだけあるか、判事の資格のない者でどれだけやつておるか、それから先ほど欠員が百名ほどあると言われたのですが、それらのことについてまず聞きたいと思います。
  241. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 それは資料の十四ページにありますが内訳といたしまして六百二十名の現在員のうち、判事から任命した者が百十九名、それから判事補から任命されておる者が九十名、検察官から任命した者が十名、弁護士から任命した者が百十二名、これはいずれも本来判事としての資格のある者なんです。選考によると任命は二百五十名になつております。このうち三十三名は司法科、行政科の試験をパスしておる者、あるいは法務官をした経験のある者、それから満州国の審判官をしておつた者で、特に裁判所の職員としての経歴を方する者が二百五十九名のうち三十三名あるわけです。ですから二百五十九名マイナス三十三名というものが、いわゆる選考による資格のない簡易裁判所の判事とお考えくださつていいわけです。その他の二十二名というのは、今申し上げたようなやはり司法科とか行政科とか法務官とか満州国の審判官とかいつた経歴はありますけれども裁判所に初めから関係がなく、つまり裁判所の職員としての経験のない者で、そういう資格を持つてつた者であります。ですから今鍛冶委員の最も御懸念される部分は、選考による任命のうちの二百五十九名から三十三名を引きました二百二十六名、このものについて一番の御懸念があるのだろうと思われるのです。その御懸念になつている二百二十六名のうち、大学を卒業したのが五名あります。つまり大学は卒業しておるけれども資格は持つておらないので、裁判所に入つて職員として働いておつた、そういう者が五名あります。それから專門学校の卒業者が三十五名あります。それから中学校を卒業しておる者があとの残りです。ですから選考による任命によつて簡易裁判所の判事になつている者は、今申し上げた二百二十六名ですが、これは大体中学卒業ないし大学卒業の学歴を持つておる者なんです。そしてこういう者はたつた一人きりで簡易裁判所にぽつつとおるというのはむしろ例外です。東京とか大阪とか少し大きいところになれば、本来判事から任命された判事の有資格者の簡易裁判所の判事とか、検事から任命された者とか、弁護士から任命された者というのが、たいてい一人とか二人とかと一緒におるわけです。ですから実際今度訴訟物の価格が上つて、従つて事件が多少困難性が加わるという面が生じて来ると思いますが、そういう事件は、事件を見まして本来資格のある簡易裁判所の判事に実際面において取扱わせよう、こういうくふうはこちらはいたしておるのであります。それから場合によつては、なお三年以上を経ました判事補簡易裁判所の判事として活動ができますから、そういうものをも動員の中に加えて、今度の訴訟物の価格、あるいは刑事の事物の複雑になるというような面に対しては対応処置して行こう、こういう考えを持つております。
  242. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今おつしやるように練達堪能の判事が一緒におつて、そうしてさしつかえないようなものだけやらせて、それでめんどうなことはそういう古い人にやつてもらうという制度になつておれば、ある程度補われるかもしれませんが、現在の事情はわれわれはそうは聞いておりません。裁判は何といいましても国民の信頼を得ておる者がやるということが私は一番根本だろうと思います。その意味から言いまして、特別選考の判事にやらせること、もしくは若い判事補にやらせるということは、私はこういう拡張前でもあまりおもしろくないと思つているし、また世上いろいろの批評を聞いておるが、裁判所の方ではどうも選考の判事にやらせたがためにあまりおもしろくないという評判を今まで聞かれたことはありませんか、まずその点をお伺いしたい。
  243. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 御質問通りおもしろくないという声も聞いております。それから一方においては、検察官とか弁護士から来た者よりも有能だというような例も、時には耳にいたしておるのでありまして、一概に概論的には申し上げられないようなわけですけれども、正直に申し上げれば頼りがないということらしいのですが、その声はありますから、その点は私ども事務局の面としては十分気をつけて注意いたしております。ただ頼りがないということもほんとうに頼りがないのか、どうも簡易裁判所の判事になりましてからまだ年数が若うございますから、そういう点で多少ふなれだという面で頼りがないというのか、本質的に頼りがないというのか、それは二種類あるだろうと思いますけれども、とにかくそういう声は耳にいたしておりますから、そういう点は十分注意しておるつもりでおります。
  244. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 実際堪能であるかどうか知らぬが、実際に堪能でない者もあるらしい。私はあまり近ごろ裁判所へ出ませんから断言できませんが、いずれにいたしましても頼りがないと言われる者を判事にしておくということは、裁判の信用の上に最も悪影響があることだと思います。そういう現状であるにもかかわらず、なおさらにこの管轄をふやしてこういうことをやられて一体うまく行きますか、それが私は一番懸念されるのです。
  245. 鈴木忠一

    ○鈴木最高裁判所説明員 これは私の方の管轄と異るかもしれませんが、その事物管轄を今の状態から今度の改正法に引上げて、どのくらいのパーセンテージが実際において簡易裁判所に行くかということも考えなければなりませんが、一面において今の鍛冶委員からお話の素質の点については、私どもはただ考えておる、注意しておるというだけでなくて、司法研修所の制度を利用いたしまして、簡易裁判所の判事をできるだけ集めて、いろいろ実務の方、理論の方の足らないところは入れかわり立ちかわり全国から集めて修習をさせております。  それからもう一つは、選考ということが裁判所法にとにかく規定がありますから、これを全然行わないわけにはいかないでありましようけれども、行うについては、今までの実績というような点をよく考えまして、厳重に行うという方針をとつております。ですからいろいろな考え方もありましようけれども、現在の簡易裁判所の判事のスタッフでできないとは申されません。まあできる。それにはよくできるように事務局の方としても手を打つて、できるという確信でおります。
  246. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それは国民が信頼しようがすまいがやらせるんだというのならば、それはやれましようが、それではわれわれは裁判の威信が保てないと思う。その点を憂えるのです。それから判事補で三年たてばやらせられるというのはたいへん問題だと思う。なるほど学問もし、頭もいいからやらせればやれるんだ、あなたは、やらしてごらんなさい、いいですとおつしやるかしらぬが、国民はそう言わないのです。われわれは前によくいなかの区裁判所行つたが、いなかの人は、あれが判事ですか、ああいう人に裁判せられるのですかと、こう言います。私はロンドンへ行つたときに、ロンドンで一番初めに聞いたのですが、日本から三十そこそこの者が来ておれはジャッジだという。そうすると驚いて、日本にこういうジヤツジがいるのか、一体日本にはほんとうの裁判があるんですかと言われた。そういうこともあるのです。とにかく国民の信頼を得る裁判所をつくつてもらうことが根本である。従いまして私はこの簡易裁判所の管轄を広めることは、趣旨としては賛成でありまするが、まず裁判所そのものの内容が充実した上でやるべきものであつて、今のように百名の欠員があつたり、それから半分くらいは国民から信頼を受けない特別選考の判事があるようでは、私は時期尚早なりと言わざるを得ないと思うのですが、これ以上は議論になりましようから、とくとひとつ御考慮を願つておきます。  その次に、たびたび議論になりまするが、期日の変更はやむことを得ざる事由の存するとき、これは一昨日野木政府委員質問しましたが、和解ができそうだから延ばしてくださいというときに、それはやむことを得ざるものとは認めぬというのは、訴訟を促進するというお考えかどうか、これをひとつ……。
  247. 野木新一

    ○野木政府委員 昨日は改正法案のようなやり方でやれば、和解のチャンスは準備手続期間中にあつて、口頭弁論に入つてからは従前のようにあまり行われないであろうという一応の見解のもとに考えておりましたが、かりに鍛冶委員のおつしやるように、準備手続を経て、いよいよ口頭弁論になろうという場合にも、当事者双方が單に事件を延期するというだけでなくて、真に和解の意思がある、しかも口頭弁論を開いたらそれにさしさわる、あるいはむだになるというような場合には、やはりここに言うやむを得ない事由の存する場合というように解釈して行つてよかろうかと存じておる次第であります。
  248. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 これは実際弁護士の方でも考えなければなりませんが、和解できるからと言つて延ばすこともないとは限りません。これは大いに愼しまなければなりませんが、ほんとうに和解できるものとすれば、一昨日も言いましたけれども訴訟促進ということはいらぬことなんです。民事訴訟の根本は当事者の紛爭をなからしめることであつて、何も判決することが根本じやないですから、機会さえあれば紛爭をなからしめて当事者に円満に手を握らせてくださることは賛成である。それを裁判所に出て来たら何でもかでも判決をしなければならぬという考えは、私は大いに改めていただきたいと思いますから、質問したのです。  それから今判事のことを申しましたが、一面今の簡易裁判所は近ごろできたので、各所にできまして、当事者にとつてはたいへん都合のいいことですが、弁護士の分布はなかなか行き渡つておらぬと思います。そのときに、このように簡易裁判所の管轄をふやしましても、弁護人をつけられない。ぜひとも弁護人をつけたいというと、所々方々かけ持ちをしなければならぬから、先ほど集中審理のときに言つたと同じように、かえつて期日を入れることの妨げになりはせぬかと考えられますが、この点御考慮になつたことがありますか。
  249. 野木新一

    ○野木政府委員 まことに御指摘のような心配の点はまずもつて考えなければならないわけでありますが、私どもといたしましては、まずおもに民事が問題であるかと思いますが、民事の点につきましては、訴訟は大体都会地が事件が多く、辺鄙な所はごくわずかだと推定している次第であります。都会地と申しますと、大体元の区裁判所のあつたところ、現在支部のあるところでありまして、そういうところには弁護が一人、二人はおるわけでありますから、抽象的に考えたよりは困ることはないのではないかと一応推定した次第であります。
  250. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私はむしろ民事より刑事なんです。これは根本的に違つて来ます。これだけの犯罪をみな簡易裁判所にやらすのですし、地方裁判所のあるところ、高等裁判所のあるところではないところでこういうことをやらせるのですから、たいへんなことになります。
  251. 野木新一

    ○野木政府委員 今回の改正によりまして簡易裁判所事件がふえるのは約一割くらいでありまして、御承知のように簡易裁判所におきましては、すでに窃盗事件等については国選弁護の制度が行われておりまして、大体弁護人方面の御協力を得まして、当初思つたよりも円滑に動いているように承知している次第であります。従いましてそれらから考えますと、実施して見ますれば、今抽象的に考えるような非常に当事者にとつて不便だという事態は、まずなかろうと一応推定しておる次第であります。
  252. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうもこれも見解の相違というよりほかはありません。われわれはさよう簡單には考えておりません。このために訴訟促進を考えたこの点が、かえつて訴訟の不円滑を来し、当事者に迷惑のかかることも保しがたいのであります。しかしこれはここでこれ以上議論したつてしようがない。  次に民事訴訟法の二百五十三條でございますが「当事者カ期日ニ出頭セス又ハ前條ノ規定ニ依リ受命判事ノ定メタル期間内ニ準備書面ヲ提出セサルトキハ受命判事ハ準備手続ヲ終結スルコトヲ得」これはごもつともだと思いますが、この終結ということは、もう証拠を提出する機会を失う意味でありますか、準備手続じやなくして、あるなら一つ公判でやつてもらおうという意味でありますか。
  253. 野木新一

    ○野木政府委員 この点はこの次に出て来ます二百五十五條と関連するわけでありまして、二百五十五條は実はこの集中審理の制度を徹底いたしますれば、二百五十五條もある程度改正しなければ筋が通らないということに非常に潔癖に考えますれば、そういう考えもありますが、今回のところでは、ともかく二百五十五條は一応そのままに存置してありますので、この但書に該当するような場合には、口頭弁論においても準備書面に記載しない事項等を主張することを得る。そういう仕組みになつておるわけであります。
  254. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 二百五十五條のできたときには、裁判所でやれるとかやれぬとかいつてずいぶん問題になつたこともわれわれは覚えておるのですが、これなら原則としてもう証拠は出させないんだという意味だろうと思いますが、そういうことでしよう。これは但書にはまるとかはまらぬとかずいぶん議論されたことをわれわれは記憶しておりますが……。
  255. 野木新一

    ○野木政府委員 二百五十三條、二百五十五條の点は、この改正案につきましては今まで通りと御承知願いたいと思います。
  256. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 これはたいへんな條文になりますが、それでは準備書面を出すことのできなかつたやむを得ざる事由を何か疎明でもしたら、この但書にはまりますかどうか。
  257. 野木新一

    ○野木政府委員 その点は現在と同じでありまして、それは但書に該当するのではないかと存じます。
  258. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私は一応これで終ります。
  259. 田万廣文

    ○田万委員 裁判所職員の定員に関する法案について三点だけお伺いしたいと思います。この法案によりまして連合国人に対する裁判権の拡張という事実が起つて参りますが、それに伴いましていかなる種類の裁判が増加するというふうに見ていらつしやいますか。
  260. 野木新一

    ○野木政府委員 一応これまで軍事占領裁判所に係属していたものがこちらにまわるものと思いますので、そういう点から考えてみますと、刑法犯そのほか特別法犯等がありますが、その詳細は最高裁判所の方からお答えを願いたいと思います。
  261. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 昨年軍事裁判所が全国で取扱いましたものは五千八百余件、約六千件であります。ですから少くともそのくらいの件数はこちらの方の裁判所へ来るだろうと予想されます。ただ一時に比べますと、捜査能力が全国的に拡大されておりますから、事件はあるいはもつと増加するかもしれません。事件の種類は、私の方の調査では刑法犯、特別法犯の両方にまたがつておりまして、刑法犯も窃盗、強盗のような財産犯から、偽証とか文書偽造、涜職、誣告といつたような知能犯、殺人強姦といつたような暴力的な犯罪と、あらゆる種類のものを含んでおります。特別法犯の方は連合国軍の財産不法所持、あるいは道路交通取締法、麻薬取締法あるいは外国人登録令違反というような、これも種類から申しますと、相当多岐にわたつております。
  262. 田万廣文

    ○田万委員 次にお尋ねしたいのは通訳の採用であります。これは英語あるいは中国語というような語学別にした場合、これはどういうふうになつておりますか。要するに採用するにあたつては、語学の種類によつて採用率がいかようになつて参るか。
  263. 野木新一

    ○野木政府委員 事件となつて日本裁判所に来るのを考えてみますと、関係者といたしまして大体今までの実例等を見ましても、やはり英語を解する人もしくは中華民国人が将来予想せられますので、大体英語及び中華語としたわけです。朝鮮人等が多いではないかという御疑念もあるいは起るかもしれませんが、今までのところは、内地におる朝鮮人は大体日本語を解しますので、当面的には朝鮮人の通訳ということは必要ないと思います。この際最小限度の必要の語学ということで英語、中華国語といたしたのであります。
  264. 田万廣文

    ○田万委員 最後の点ですが、在野法曹として、外国人弁護士は米国人が非常に多いようでありますが、朝鮮人あるいは中国人というふうな方面の弁護士の認可についてはどういうふうになつておりますか。
  265. 内藤頼博

    ○内藤最高裁判所説明員 外国弁護士の資格を有する者の選考、承認を最高裁判所でいたしておりますので、私からお答えいたします。  現在までに最高裁判所が承認いたしました外国弁護士の資格を有する者の数は、三十三名になつております。そのうちイギリスの弁護士の資格を有する者が一名でございます。それから中国の弁護士の資格を有する者は一名でございます。そのほかはすべてアメリカの弁護士の資格を有する者になつております。
  266. 田万廣文

    ○田万委員 採用の三十三名についての内容はただいまも承りましたが、特に米人が多いというのはどういう事情から来るのですか。
  267. 内藤頼博

    ○内藤最高裁判所説明員 現在のいろいろな情勢を反映しているものでありまして、結局承認を申請する者の数が圧倒的にアメリカの弁護士の資格を有する者が多いわけでございます。
  268. 北川定務

    ○北川委員 この際動議を提出いたします。裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正する法律案につきましては、大体質疑が終つたようでございまするので、この際質疑を終局しまして、討論を省略、採決に入られんことを望みます。
  269. 安部俊吾

    安部委員長 ただいまの北川定務君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  270. 安部俊吾

    安部委員長 御異議なしと認め、質疑を終局し、討論省略の上採決に移ることといたします。  それでは裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正する法律案を採決に付します。本案に賛成の諸君の起立を願います。     〔賛成者起立〕
  271. 安部俊吾

    安部委員長 起立総員。よつて本案は原案の通り可決いたしました。  なお本案についての委員会報告書の作成については、委員長に一任せられたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  272. 安部俊吾

    安部委員長 御異議なしと認め、その通りに決しました。
  273. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もう一つお尋ねしますが、弁護士会から意見が来て、農地問題に関する事件相当複雑である、こう言つて来ておりますが、この点は今までの裁判所の御経験から、相当めんどうなことだということをお認めになるかどうか、そういう点を。
  274. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいま鍛冶委員からお話の農地問題に関する訴訟、これは御承知のように農地の買収計画または農地買収処分に対する取消しまたは変更の訴え、いわゆる行政訴訟でございますので、普通の裁判所では従来やつておりませんでした。今度新しい種類の訴訟として、相当めんどうな問題が提起されております。ただ農地買収及び農地買収計画に関する問題は、例の農地改革の問題にからみまして、大部分処分が終りまして、それに対する訴訟はむしろ漸次減少しつつありまして、ただその第一審の判決に対しまする控訴、上訴がだんだんふえているという傾向でございます。内容的に申し上げますと、いろいろ新しい行政訴訟に伴いまする問題が含まれておりまして、たとえて申し上げますと、自作農創設特別措置法の買収に関する法文が憲法違反であるとか、いろいろ憲法問題に触れた問題がただいま最高裁判所に係属しておるわけでございます。なおめんどうかどうかというお問いに対しましては、めんどうな訴訟に入ると思います。
  275. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 行政訴訟だとすると、管轄は別だと思うが、そうすると三万円以下ならどうなりますか、どこに行くことになりますか。
  276. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 すでに御承知かと思いますが、行政訴訟でございますので、価額のいかんを問わず地方裁判所に相なります。あるいは弁護士会の方でも誤解なすつていらつしやるのではないかと思いますが……。
  277. 安部俊吾

    安部委員長 ちよつと速記をやめて……。     〔速記中止〕
  278. 安部俊吾

    安部委員長 速記を始めて……。
  279. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 これは私わからぬから聞くのですが、この裁判所法の一部を改正する法律案の第三十三條の二で「罰金以下の刑にあたる罪、選択刑として罰金が定められている罪」こうなつておるのですが、そのあとで「簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。」という但書になつております。これは罰金と選択刑だつたら、禁錮であろうが懲役であろうがやられるのですか、これはどういう意味ですか。
  280. 野木新一

    ○野木政府委員 たとえば各種の経済違反の事件考えてみますと、多く体刑と罰金刑とが選択刑になつていますから、事案により簡易裁判所に起訴できるわけでありますが、簡易裁判所といたしましては、罰金以下の刑しか科せない。禁錮以上の刑は三十三條第二項によつて科せない。但し今までの規定によりますと、窃盗だけにつきましては、三年以下という限度で科せるということでありますので、経済違反につきましては、たとえば懲役を求刑しよう、懲役にした方がいいという事案は強い注釈です。そういう関係になつている。
  281. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そうするとここに「選択刑として罰金が定められている罪」というのは、選択刑のうち罰金だけやれる、こういう意味ですか。
  282. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいまの点は、地方裁判所簡易裁判所とは共通的管轄を持つておるわけでありまして、一応この第二項の規定がないといたしますと、そういう選択刑の事件簡易裁判所が管轄し、どんな刑でも処せられるという形になりますが、そうなりますと行き過ぎでありますので、第二項のような規定を置きまして、これは新憲法以前の日本裁判権の分配の関係からいうと、非常に異例な規定でありますが、新しい考えといたしまして三十三條第二項を設けたのであります。
  283. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 選択刑ならやられるが、しかし判決は禁錮以上のものはやれぬ、罰金だけだ、こういうことですね。
  284. 野木新一

    ○野木政府委員 さようでございます。
  285. 梨木作次郎

    ○梨木委員 最高裁判所の方にお伺いしたいのでありますが、裁判の進行の問題については、最高裁判所としては、下級審のやり方について、相当の関心を払わなければならない立場にあると思います。ところでこれは元中島飛行機株式会社、現在は富士工業株式会社となつておりまして、この三鷹工場で会社側が立入り禁止の仮処分をやつた。このために労働者との間に非常に大きな衝突が起りまして、警官が二千名ぐらい動員された事実は、御承知だろうと思うのであります。ところでこの事件に対しまして、従業員の方から立入り禁止仮処分に対しまして、異議の申立をなし、さらに解雇された従業員からは、身分保障の仮処分の申請をいたしまして、これが八王子支部にかかつておるのであります。これは労働爭議にかかわる事件といたしましては、非常に世間の注目を浴びた事件であります。従つてこれらの事件の処理についても、最も公正に、かつ迅速に行われなければならないと思うのであります。ところが仮処分であるにもかかわらず、九月の下旬に訴訟が提示されまして、最近になりまして結審をしておるのでありますが、判決が延び延びになつている。こういうことのために労働者側からは、裁判所に経営者の方から何らかの圧力が加わつたために、かように裁判を引延ばしておるのではないかということで、裁判所に対する裁判の公正さを疑つて来ている事実があり、われわれの方にもこれについての注意を喚起してもらいたいという希望が来ておるのであります。この点について、最高裁判所の方で、どういうふうに事態をつかんでおられるか、それを承りたい。
  286. 關根小郷

    ○關根最高裁判所説明員 ただいま梨木委員のお話の三鷹工場の事件につきましては、最高裁判所事件の報告がございますが、ただ具体的の事件につきまして、当該裁判官が判決をいつ言い渡すべきかということを、最高裁判所側から早くしろとか言うことは、具体的事件に関しまする限りはいたしません。それでただ全般的に仮処分事件は、急ぐ事件であるにかかわらず延びているようなときには、先ほども申し上げましたように、会同その他におきまして善処方をお互いに話合う、その程度でございまして、特にまた期日の指定なりにつきまして不穏当な場合、たとえば終結後数箇月たつても、なお判決を言い渡さないというようなことにつきましては、その理由を最高裁判所に申し出ろという通達を出しております。これは一般抽象的な問題として出しております。この具体的の三鷹工場事件については、終結後どの程度に早くしろということは、実はいたしておりません。
  287. 梨木作次郎

    ○梨木委員 これは裁判の公平、司法権の独立という面から、私は非常に重大だと思う。世間の注目を引いた事件であり、しかもこれはわれわれの聞くところによりますと、従業員から出した仮処分異議並びに身分保障の仮処分申請は、これは法律的にいつても、どうしても従業員側の主張が正しいようである。そういうことになつて来て、これは早急に判決を下すことが、裁判の公正を維持するゆえんだと思います。ところがこれが延び延びになつておる。労働者側から申しますれば、この判決が延びれば延びるほど、そのうち労働者はくたばつてしまうだろうというような経営者側の裁判の延引が経営者側の利益と合致するということからも、ますます裁判所態度を疑うようなことになるのでありまして、この点はどうか最高裁判所におきましても、十分関心を持つて処理していただきたいということをお願いしておく次第であります。
  288. 安部俊吾

    安部委員長 本日はこの程度で終りまして、次会は明日午後一時から開会いたします。  これにて散会いたします。     午後五時五十一分散会