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証人(小林直人君)
参議院の皆様が
公労法施行後の事態に鑑みて、院議として
公労法の
改正を御発案なさるということにつきましては、私共この
公労法の運用をあずかる者といたしまして誠に深甚の感謝を申上げる次第であります。で、お示しを頂きました
改正参考案十六條と三十
五條につきまして私少しく自分の
意見を申上げる次第でございますが、十六條につきましては、
参考案に私は心からの賛意を表します。三十
五條につきましては、その第二項に関する限り幾分の私見を申上げて見たいと思いまするので、暫く御溝聽頂きたいと思います。
この
参議院の
改正案の範囲というものについて私が感じましたのは、
公労法を
改正するとなりますと、その第一章から始めまして、種々様々の議論があり得るのでありまして、又運用面に照しましても、技術的な
改正も必要かと
考えておりますけれども、これらは恐らく
政府提出を期待できる範囲でありましようから、十六條と、三十
五條をお選びになられた御
趣旨というものが、議員提出にあらざれば好結果を期待できない範囲に問題を集約して、私共の御
意見を参酌せられるのではないかと思いまして、大変その御
趣旨に賛意を表する次第でございます。何分にも政治的にからまる法規でございますので、何としても
政府提出で全部の
改正を期待できるわけには行かない。
改正と称して或いは改惡になるかも知れない。又
当事者双方が
改正を欲しないようなことが
改正されるかも知れないというふうなわけでありまして、この
法律ばかりは
政府提出のみでは期待できないというように私共ひそかに
思つておりましたところ、図らずも
参議院から、その私共の苦にするところの部分に限
つて議員提出の
法案を御考究遊ばされて、すでに幾たびかの試案を経て
参考案に掛
つておられることを拝見しまして深甚の感謝を重ね重ねいたす次第であります。これを拝見いたしますと、十六條につきましては我が意を得たりと感じておりますわけでありますが、三十
五條の
改正につきまして私の
意見があると思いますところをこれから申上げたいと思います。
本来
公労法は基本的な労働法の特別法であり、労働法規の特別法に当るものであります。それでこの三十何ヶ條かの
公労法の殆んど全部は、本質的に
労働関係に関する
規定でありまして、特別労働法と見てよろしいものであります。ところがそれらの
規定の中に交わりまして、
現行規定上第十六條と三十
五條の、
現行法では但書にな
つておりますこの二つの
規定は、これを他の多数の法規と同様、労働法的な
規定であると解してよいかどうかという理論的な問題があるのであります。私共は理論的にも、又実際の運用に当
つていろいろ実施面を
考えての上からも、これは労働法規の中にちりばめられた財政法規である、
一般財政法の特別
規定である、
公共企業体労働関係に適用すべき特別財政法規である、こういうふうに理論的にも、実際的にも
考えたいのでございます。そうして図らずもその特別労働法規にちりばめられた財政的性質を有する法規二つに対して、ここに
参議院が特別の御注目を向けられてその是正を図られるということについては、誠に妥当であることを感ずる次第でございます。本法は本来
争議権という大切な
労働者の賜物を濫用することなく、もうそれを奥の殿にしま
つてもつと理性的にその
争議権を実施したと丁度同じような
結論を平和的、有効的に実現して行こう。そのためには
労使対等の
原則に則る
模範的な
団体交渉をさせて、集団
労働條件を労働
協約で結実さして行こう。こういうところに何としても眼目があるのでございます。従
つてこういう
考えから出発しまして十七條において
争議権を奪い、そしてその他の各條におきまして
団体交渉の立派な慣行と育成を期しておるわけでございます。そこで私共運用の面に当る者にとりましては、この
労使の
団体交渉がその法の企図したごとく
模範的に、理想的に行われ得るような素地を作
つてやらなければならない。この
公労法によ
つてそういう場所が與えられなければならないと思うのでございます。それで数字の調停にも携りました
経験から行きますと、
労使の対等の
原則による
団体交渉というものが理想的に行われるためには、若しその
団体交渉に使用者側が誠意がない場合には、
労働者側としては
争議権を行使してもよいというところに憲法の保障があるのでありますから、それに匹敵するだけの中立的な一方に遠慮のないよりどころがなければなりません。事実その調停に苦心しましても、まあ
争議権がないから何とか
言つておりや通る、こういうふうな御気分が
ちよつとでも
公社側にあります際には、何としても
団体交渉はもう進行しません。それで結局そういうよりどころと理解されるものが三十
五條にございます
仲裁委員会の
裁定ということになると思います。これが
争議権の代償として與えられたものであるかどうかということが学者間の議論とな
つておりますけれども、私共濫用の上からも、理論の上からも
争議権を奪
つて、而も対等の
原則による同体
交渉ができる場として與えられた制度であるということは、これはもう一言の疑いもない事案であろうと思います。そういう機能を営むべく
仲裁委員会の
裁定の制度があると見てよろしかろと思います。そうなりますと、
仲裁委員会の
裁定というものが
労使双方に独立した
機関であるばかりでなく、
政府とか、政治勢力とかいうものからも独立してまでも、世の中の條理というものを代表するような一つの独立
機関でなければならない。その
裁定の効力がやはり独立
機関にふさわしい最終的効果を発生するものでなければならない。その
仲裁委員会の
裁定の効力が、めぐ
つて来て又
政府その他によ
つて否定されるような、そういう弱体の効果であ
つては、
本当のこれが企図しております
労使対等による
模範的な
団体交渉のその裏付けとしては到底役目を果せないということを私共実地に
経験するわけでございます。それでこれは
公労法というものが、争議の発生を予防して、対等の
団体交渉によ
つて平和的、有効的に
労使関係を打ち立てて行くという企図の上からは、法規以前的に、超法規的に
仲裁裁定というものの性質が、そういう最終的なものであ
つて、独立した効力を発生するものでなければならないという要請を感ずるわけでございます。そういうふうに
前提しましてこれらの諸
規定を眺めますと、
現行法の十
五條に、
労使双方は雇用の基礎的
條件を毎年労働
協約にすべく一回以上の
団体交渉を行わなければならない、そうしてそこでできた労働
協約が十六條によ
つて、その財政
措置を明記されておると思うのでございます。それから労働
協約が実らずに
団体交渉が決裂した場合におきましては、仲裁が結局において発動して、三十
五條一項において仲裁判断が下されたときには、
当事者双方は最終的
決定としてこれに服従しなければならない旨が
規定してあ
つて、まさに
争議権に代る裏付けとな
つておるわけでございます。そうして最終的な
決定である
仲裁裁定が
現実に
履行されるための財政
措置として、その但書が
現行法にあるわけでございます。それですから三十
五條の本文と但書とは、本文のほうは、本来的な労働法規、争議を行な
つてその後に取り結ばれた労働
協約と丁度同じような機能を営むところの
労使間の
関係の設定なんでございます。但書のほうは、そういうふうに
労働関係が当事者間ですでに設定されたものの財政的実現の
措置なんです。ですからこれは財政法的な性質の
規定であります。二つは極く軽率に結び付けられておりますけれども、理論的には別條に明記して、性質を明らかにして本来
規定さるべき
規定であると思うのでございます。そういうふうにして読んで参りますと、十六條というものは、これは長い
條文でありますが、全部十
五條によ
つてできた労働
協約の財政
措置が書かれた財政法的性質の
規定である。それから三十
五條のほうは、本文は本来的な
労働関係の
規定でありまして、但書は丁度
協約の場合の十六條に匹敵するところの
仲裁裁定に附随する財政
措置の
規定、こういうふうに
考えていいわけであります。
仲裁裁定は、今申上げましたように、
争議権の実施に代る最終的裏付けでありますので、その
現実の
履行を援けるところの財政的
措置につきましても、最終的裏付けにふさわしい最終処理的なものであるまいかと理論的にも思うし、実際の上からもそう
考えるわけであります。若しこれが、財政
措置を始めたところが途中で難関に逢着して実施ができない、行き詰る、更に何らかのものが助け船を出して来る、或いはこれが棚上げにな
つてしまうというようなことでありますと、その本文であります
仲裁裁定の最終的裏付けであるという性質そのものが根本的に損われてしまいますので、これはどうしてもこの財政的
措置は最終的
措置にふさわしいところの断定的な処置でなければならない、こういうふうに
考えるわけでございます。そう見て行きますと、十
五條に対する十六條は、今回の御
改正を以て私は、私共実施に当る者として誠に運用がし易い法規にな
つて有難いと思うわけでございますが、三十
五條の二項として、今度御
改正の企図にな
つておりますところの
規定のほう、これを読みますと、「
公共企業体の
予算上、
資金上不可能な
資金の
支出を
内容とする事項について
裁定の行われたときは、第十六條の定めるところによる。」、こういうふうにある、この
規定につきましては、私はこの
規定であ
つても、今の但書よりはずつとその
趣旨を正解せしめるいい
規定ではありますけれども、方向としては私共は賛意を表するのでありますけれども、併し最終的
決定に対する最終処置であるというところの性格がこれに出て来ない、何か途中でジグザグする危險性を多分に包蔵している、その点の担保が少しもあり得ないという点において私自身、まあ自分一人の
考えとしましては、
ちよつと心配になる
改正である、こういう感じがいたす次第でございます。然らばどんなふうな
考え方をしたならばこの問題が改まるかと申しますと、これは
仲裁委員会の仲裁判断というものは、これは結局するところ、民事訴訟法の第八編でございましたか、仲裁判断の
規定がありますけれども、その中の八百條に仲裁判断の効力の
規定がありまして、仲裁判断というものは当事者間において確定した裁判所の判決と同一の効力を有すると、こういう旨が民事訴訟法八百條にございますが、何かこの
條文を準用し得るような極く簡單明白なお
考えを願うことはできまいか、こういうことを御提案申上げる次第であります。
仲裁裁定の効力については、民事訴訟法八百條を進用するというふうな
考え方で、もう少しく三十
五條二項について、この
参考案を御吟味願えないか、こういうふうなことを感ずる次條であります。若しそのようなふうにいたしますと、仲裁判断の仲裁の
裁定が下された以上は、
裁定の
結論に対しまして、
国会の
審議は行われないことになります。これが
国会の
審議権の阻害になりはしないかという御懸念が一応起るのでございますが、私はその点はそうでないと思うわけであります。
国会の
審議権は、個々の事案が起るごとに個々の
審議を盡すのが一つの
方法でございますし、
法律によ
つて包括的にその種のことの一貫
審議をして、
法律の
規定で効力を與えてしまうという
方法も
国会の議決を経たことになるのである、そういう徹底した行き方を以
つてしてもできるのではなかろうか、この例はもう多々あるのでございまして、例えば極く卑近な例を挙げますと、不法行為という制度が民法に
規定してある、
国鉄その他の
予算官庁がときどき列車事故を起していろいろ
一般市民に損害をかける、勿論これは
予算にはありません。併しそうや
つて被害弁償の訴訟を起され、損害賠償の額が
法律上確定したといたしましよう、そうすると確定判決に基いて、
国鉄のそういう
予算はありつこないのでございますが、
国鉄の所有金に対して、例えば国庫に預けてある
国鉄所有金に対して、その確定判決を基にして
履行を迫るということは、これは凡百行われていることであ
つて、誰も疑
つておらない。今日までずつと行われておる、今日も疑問もなく過ごしておるのである。そういうふうに不法行為制度というものが、
法律であらかじめ定めてありますと、こういう不時の災害その他の損害に対して損害を賠償するという事柄につきましては、その個々のことについて
国会の
審議をせずとも、
法律で
一般的に包括的に権限を與えて、裁判所の審査で以て直ちに
履行を追
つても、
国会の
審議権を損なわないような
趣旨にな
つておるわけであります。それで本件の場合におきましては、三十
五條の
仲裁裁定を最終的裏付けとしての品位を與えるためには、そういうような方向においての御処置を願えたらば最も適正簡明にこの
公労法をして価値あらしめるではなかろうか、こういうふうに思う次第でございます。
私の
只今申上げる
意見が、若し極端論のように解されるといけないのでありますが、
仲裁委員会の人的構成を今日の
現行法のように愼重に、
政府も
当事者双方も参加して愼重に練
つて人選する
手続にな
つておる以上、そこに極端分子が現われて来て、国の
方針と著しく反するような仲裁判断を下すはずもなく、そうしてこの問題は
労働関係の微妙な点に触れるのであ
つて、
政府当局或いは
国会としても、必ずしも適任者ばかりがおらないのであるが、
專門的な
仲裁委員会が
政府の利害を代表して十分な審査を盡して
仲裁裁定をする場合におきましては、過去における幾つかの
仲裁裁定の例に見るごとく、その
裁定が十分国の利益、国の
予算を勘案したものであり、
職員に対して不当な利益を與えるものでなく、適正な
労働関係の維持発展を図るものであるということは、ほぼ認めることができるではないかと思いますので、そういう事実をここに引用いたしますと、私の申上げるような断定的な
考え方をいたしましても、
法律の目的を達するのに資することではなかろうか、こういうふうなことを思う次第でございます。誠に言い過ぎかも知れませんけれども、その点を御考慮を煩わした上で、愼重に三十
五條の御
審議を盡して頂きたいと思う次第でございます。十六條と三十
五條は
政府提出によ
つては改善を期待できない
規定でございますので、是非とも院議を以てこの
参考案に見るがごとき
方法において御善処を頂くことは、私共実際に
労働関係そのものに立入
つて犬馬の労を執
つている者としては誠に心嬉しいことでありまして、感謝申上げる次第でございます。以上簡單でございますが、これで……。