○細川嘉六君 私が
日本共産党を代表し緊急
質問をいたしますわけは、本会議において総理大臣吉田茂君が我々国民の運命にと
つて黙過することのできない主張をなされたからであります。
吉田君は奧議員の
質問に答え、特別警察力の設置は共産軍が
日本の領土を侵す不安があるからだと述べられた。この吉田君の主張に何の根拠があるのでありますか。
第一に、共産党の領導している国が他国を侵略するということは、そのよ
つて以て立つ理論の上から考えてもあり得ないことであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)共産党の領導しておる国が他国を侵略することがあつたとしたら、それは共産党の領導する国家自体が自滅せざるを得ないということであります。他国領土を掠奪する
政策そのものは、自国内においても又異民族を圧迫し、勤労者を暴圧することとなるからであります。現在隆々進歩しておるソ連はこの真理を現実に眼前に証明しておるではありませんか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
第二に、現実当面の問題といたしまして、中国、ソ連等の諸
政府をと
つて見ましても、現にこれらの国は国内における無限の建設に全力を注いでおり、侵略どころではない。世界平和擁護
運動の先頭に立
つておるではありませんか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)却
つて日本において侵略
政策の方向がますます強化しておる事実に対して深甚なる脅威を感じておるのであります。中ソ條約においても、
日本及び
日本を助ける国の侵略
政策に対して闘うものであることを明言しておる。これは空想上の危險に対して言つたのではない。実際に
我が国の産業が軍需産業へ切り換えられ、軍事基地が設定されておるなどの事実に対応して言
つておるものであります。軍事基地に関する大山君の
質問に答え、吉田君は、将来のことは将来起つた場合においてお答えすると述べられた。又軍事基地と占領基地とを区別しておりますが、国民はこの区別は変だと考えておる。占領基地は
日本管理のためにそう沢山要るものかどうか、深く疑いを持
つております。同時に国民はかかるものが設けられることは堪え難いことだと挙
つて反対しておるではありませんか。(「その
通り」と呼ぶ者あり)吉田君はこの国民の熱望に応え、如何なる場合においても一切軍事基地を設けさせないと確言することはできないか。できないとすれば如何なる
理由によ
つてそう言われるのであるか。(「
答弁々々」と呼ぶ者あり)
更に吉田君は、義勇兵を結成するとか再軍備を行うとかいうことについては許すことはできないということを衆議院の
外務委員会で述べられておるのであります。この点について我々国民にと
つて最も重大なことは、
我が国内における
措置がこの方針によ
つて具体的に運ばれておるかどうかということであります。最近諸所において義勇兵が隠密の間に募集されておるということが伝えられております。
政府はこれを知らない筈はない。火のない所に煙は立たない。昨年国会において国民党
政府のための義勇兵の募集が問題と
なつた際、
政府は、これは
日本政府の管轄外であり、総司令部のものであるとして、これについての糾明をなさなかつたのであります。今日
政府は義勇兵の問題に対し如何なる取締方策を具体的に立てておられるか、伺いたい。
又特別警察隊の設置についても、
政府は勿論再軍備のためのものではないと言
つております。併しここでも問題は言葉の上のやりとりではありません。実際我々国民の求めるところは、結果において再軍備にならないという具体的な保証であります。ヒトラー・ドイツにおいて警察力を設置するという名の下に再軍備が遂行されたことは周知のことであります。戰後の
我が国において軍国主義を根絶するための公職追放が徹底していないことは言うまでもなく、殊に今日朝鮮の内乱に関連して裏面において旧軍人将校が策動していることはぽつぽつ表面に現われておるのである。
我が国に
関係ある外国側においても、
日本の軍備撤廃は誤まりであるとか、
日本国民八千万で安い兵隊が作れるとかいうことが公言され、国内の反動的情勢を煽
つている
現状であります。
政府は再軍備は
賛成できぬと言
つておるが、実際上朝鮮の内乱に乗じて再軍備の方針をと
つているということを疑われてもしようがないではありませんか。
政府は我々のこの深甚な疑いが事実と
なつた場合、如何なる責任をとられる覚悟でいるか。再軍備にならぬということを何によ
つて具体的に保証し得るか、伺いたい。今日は今日のこと、明日は野となれ山となれというのでは
政府としての資格は全く欠いているものであります。
以上の問題と関連しまして、吉田君は永世中立は空念仏であると言つた
理由を堀議員に
説明した際、
日本とソヴイエとの間の中立倹約はソヴイエトによ
つて侵害されたと答にております。ソヴイエト
政府が期限満了前一年前にこの條約を解約する意思ある旨を通告し、更に太平洋戰争がますます熾烈と
なつた際、
日本に対し宣戰を布告したことは事実であります。第一に、
日本政府はこの中立條約を忠実に守つたかどうか。そうでないことは極東軍事裁判の記録によ
つても明らかである。その判決文には、「ソヴィエト連邦との中立條約にも拘わらず、
日本はドイツに援助を與えた」と記されております。
日本は中立條約にも拘わらず、ソ連に対する攻撃の時期を、独ソ戰における最も好都合な場合を選ぶつもりで大軍を満州に集結し、戦争準備を整えていたのであります。判決文によれば、時の外務大臣松岡氏は、中立條約に調印後、駐日ドイツ大使オツトー氏に対し、「ドイツとロシアの衝突の場合に、
日本の総理大臣や外務大臣は誰であ
つても、
日本を中立にして置くことはできないであろう。この場合
日本は必然的にドイツ側に立
つてロシアを攻撃しないわけには行かなくなるであろう」と述べております。更に独ソ開戰後スメタニン・ソ連大使が松岡氏に対し、
日本は中立條約に
従つて中立を維持するかどうかと聞いた際、松岡氏は「三国同盟は
日本の対外
政策の基礎であり、若し今次戦争と中立條約が矛盾した場合、中立條約は効力を失うであろう」と力説したのであります。これが日ソ中立條約に対する
日本側の正体であつたのであります。ドイツ々援助し、シベリア侵入への準備の煙幕として使つたことは、何人にも明らかなことであります。そればかりではない。この條約が締結された直後、御
承知の
通りソ連に対するドイツの侵略が始まり、
従つて日本はドイツの味方となり、米英はソ連の味方に
なつたという、重大な国際的変化が起
つておるのであります。ドイツの敗北後、世界戰争は極東において尚続行され、連合国は世界平和を一日も早くもたらすために全力を挙げていた。アメリカ
政府はこの際、この上更に幾百万の兵を犠牲にするということに対して不安の念を抱き、世界平和の立場から特にソ連に参戰を求めたのであります。この間の事情については、当事者であつた元国務長官バーンズ氏の回想録スピーキング・フランクリンによ
つても明らかにされております。トルーマン大統領がソヴィエト
政府に参戦を要請した文書の中において、特に国連憲章第百三條を引用しておるのでありますが、それには、「本憲章に基く連合国の義務と他の国際
協定に基く義務との間に抵触する場合には、本憲章に基く義務が優先する」と記されておるのであります。ソ連は中立條約違反の責を負うべきだという吉田君の主張は、これらの道理と真実とを国民の前に蔽い隠すものに外ならない。(「その通力」と呼ぶ者あり、
拍手)ソ連の対日参戰は、
日本帝国主義の侵略戦争を一日も早くやめさせ、世界平和をもたらすために、連合諸国民の要請に応じて行われたところの世界正義の戰争であります。(「ソ連に行け行け」と呼ぶ者あり)総理大臣吉田茂君、君はソ連からの帰還が完了した後も引続き未帰還者三十七万もあるという恥知らずなデマ宣伝を続けている。更に又、ソ連が中立條約を何の
理由もなく破棄したと言うのである。これは厚顔無恥の上塗りではありませんか。(「そういうことを言うから駄目なんだ一と呼ぶ者あり)吉田君の
答弁によ
つて今又更に明らかにされたことは、
政府の根本
政策が戰前軍部内閣の行
なつた防共
協定による謀略の手と何の異なるところがありましようか。(「何だ、大きな声を出しても駄目だ」と呼ぶ者あり)この
協定が共産主義或いは共産党の危險を叫び、国民大衆を欺瞞することによ
つて、内は国民大衆を暴圧し、外は外国民を侵略するため、国民大衆を世界戰争に追込み、(「それは共産党だ」と呼ぶ者あり)帝国主義
政策を強行することであつたではありませんか。(「懲罰だぞ」と呼ぶ者あり)この点において戰]前と戰後の今日と何の差があるか。(
拍手)同僚
諸君、明らかに今日の時勢は軍備や戰争や暴力沙汰で片付く時代ではありません。(「共産党じや駄目だ」と呼ぶ者あり)
ところで、現在大
資本家の支配する国外の強大国は、その性質上切迫している大恐慌か第三次世界戰争によ
つて逃れようとして、軍備の空前の大拡張と全体主義の実行とに狂奔しているのではないか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)吉田君の
政府の一切の
政策は、これに便乘して、朝鮮、満州を支配した帝国主義の再現を狙
つているものであります。(
拍手、「怪しからんことを言うな」と呼ぶ者あり)
諸君、これは国民として、政治家として、許すべからざることではありませんか。(「何だ、お前だ、それは」と呼ぶ者あり)
政府は、朝鮮、中国、インドシナ、フィリピン等の人民革命の情勢が民族の更正躍進であるということを理解する能力がなく、(「その
通り」と呼ぶ者あり)共産主義乃至共産党の危險だとわめいて、我々国民を反動と戰争へ追込まんとしているものである。
政府の月は狂
つているのである。誠に遺憾千万であります。(「共産党の目が狂
つている」と呼ぶ者あり)吉田君は先国会においても「中国は乱れている。これはアジアの危險である」という
意見を述べられた。(「全く狂
つている」「その
通り」と呼ぶ者あり)併し国民の目は狂
つてはいない。(「狂
つているのは共産党だ」と呼ぶ者あり)毎日の
事態の推移国民大衆を啓蒙している。況んや戰前の実物教訓は国民の胸に生きているのである。(「その
通り」と呼ぶ者あり)現に今日国民大衆の間には、又々大本賞発表の流行することに
なつたとか、朝鮮に対する干渉は理解できないとか、国連もいい加減なものではないかという見方が拡が
つて来ている。(「アカハタの発表か」と呼ぶ者あり)この事実は
政府にお分りではないか。若し
政府が全面講和に対する国民的要望を抑圧し、單独講和を強行するとすれば、(「共産党には
日本のことが分らない」と呼ぶ者あり)その結果はどうなるか。未曾有重大な結果が起らないと断言することができますか。(「ソ連へ行
つてみい」と呼ぶ者あり)かかる
事態が惹起された場合、その一切の責任はすべて
政府の負うべきものであるということを肝に銘じて置きなさい。(拍子)
我々は総理大臣吉田茂君に次のことをお答え願います。共産軍が侵入する不安があるという根拠は一体何か。(
拍手)第二には、義勇軍を募集せず、再軍備をしないという具体的保証は何であるか。(「ソ連へ行け」と呼ぶ者あり)軍事基地を一切設置させないと確約できない
理由はどこにあるか。(「そうだそうだ」「具体的例を挙げて」と呼ぶ者あり)ソ連の中立條約の破棄は正当且つ適法でないと言うのかどうか。これらの四つの点について明確にお答えを願います。(「スターリンに聞け」「笑われぬようにしろ」と呼ぶ者あり)
〔国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕