○
奥むめお君
自分の
生活に照し合せて
政治を批判し、
自分の
生活に直結するよい
政治の在り方を求めておりますところの多くの
消費者の
立場から、私は日常の問題について御
質問申上げたいのでございます。
政府は治安維持の必要から警察力の増員を発表いたされましたが、さぞ沢山の
予算が要ることだろうと思います。私達は再建を急ぐ
日本の復興と治安を衷心から願いますが故に、敢えて警察力による、力によ
つて抑えられた治政というものが
如何に危險なものであるか、心ある者はきつと将来の不安を更に深刻に感じておるだろうということを申上げたいのであります。
首相によ
つてエデンの園と謳われましたこの
日本の国内で、親は子供のために飢えております。失業者を持
つておる家族や、給料の遅配欠配に悩んでいる気の毒な家庭の台所向きを大臣は御存じあるのでありましようか。学業よりも食うことに追われて、多くの少年や青年達が全く青春の希望を失
つておるのであります。中小企業の倒産は相次ぎ、親子心中はその辺の住民の涙をしぼ
つておるのであります。こういうふうな中で
国民は税金に搾り取られたあとの津で、どうして
生活を立てようかと毎日生き悩んでおるのが今日の実情であると言わねばなりません。又農家におきましてもいろいろ破産に瀕しておる実例が社会に現われておりますが、中でも二男三男の将来の結婚の問題、生計の立て方は一体どうなるんだろうかと、みんな生きる希望さえ失
つておるのでございますが、これが
国民大衆の多くの実情でありますが、こういう人々を温かく包んで思いやりのある施策を與えることこそ
政治の本領であると私は確信するのでございます。然るに
総理大臣は「経済安定の度を加えた今日」と言われております。それではどこに
国民生活の安定、経済の安定があるのでございますか。
国民生活の安定なくしてどうして治安の
確保がございましようか。この頃の著しい傾向として、
国民生活の不安と不満に忍び寄る過激思想があるのであります。(
拍手)又反アメリカ思想も又一部
国民の煽動や鼓吹によるだけではなくして、実に
国民生活のこの動搖と不安を温床として芽生えておるということを
政府はお
考え頂きたいのであります。(
拍手)
総理大臣に特に申上げたい。去年の総選挙の頃、自由党は絶対多数をお勝ち取りになりました。これは自由党の候補者に対する
国民の期待というよりも、
吉田総理大臣、
吉田総裁その人に対する信望であ
つたのでございます。
吉田さんのあの不屈の力を感じた
国民は、
吉田さんを信頼して、この人が
総理大臣に
なつたならば、
自分の力では伝えようもない、微力な
国民の力では訴えるすべもない日常の辛さ、悲しさを、きつと進駐軍当局にも伝えてくれるであろう。又
自分達に寛大な処置をとるように、その筋に願
つてもくれるであろう。この
吉田さんに対する期待が、非常に大きく働いて、自由党の天下が今日来ておるのだと、私は
考えるのでございます。然るに歴代内閣の中でも、
吉田内閣は極めて高圧的で、
国民の輿論に耳を傾けようともしなそうで、(「その
通り」と呼ぶ者あり)むしろアメリカの威光をかさに着て、強引に押切ろうとさえ見えるのでございます。(
拍手)
国民感情はこれでは反撥せざるを得ないのであります。(
拍手、「そんなことはないよ」と呼ぶ者あり)このために反
政府即反米というような思想も又出て来るといたしましたならば、誠に
責任は重大である。(「その
通り」と呼ぶ者あり)又アメリカが
世界の歴史にない寛大な温かい思やりで、降伏した曾ての敵国である
日本に対してこのように五年にも亘
つて援助を贈られておるこの行為に対しても、それでは誠に相済まぬことではないかと思うのであります。私はこの
意味におきまして、警察力
増強に多くの
予算を今割こうとしていらつしやられる
政府に対して、それと並んで、或いは警察力
増強以上に国の治安保持に必要なところの
国民生活の安定、
国民の
生活感情の安定というような問題にあらゆる施策を立てて、
予算をこの方面にも沢山廻して、そうして
国民が喜んで
政府の施策に
協力するような体制を急いで立てて頂きたいと思うのでありますが、これは
大蔵大臣にお伺いしたいのでございます。
大蔵大臣は(「
考えなし」と呼ぶ者あり)警察力
増強に
予算措置をおとりになるに当りまして、この方面の
国民生活感情の安定のために
予算をお割きになるということは、おありになりませんか。
如何ですか。
尚、私がお問い合せしたいことは、すべて
国民生活の安定にかか
つておるのでございますが、主食についても朝鮮の
戰争が始まりましてから非常な不安を抱いておるのでございます。
戰争は長引くものと見なければなりますまいが、
政府はこの
国民の主食
確保に
如何なる方策を持
つておられるのか伺いたい。主食を多量に海外に仰ぐ程不安なことはないのであります。この不安をなくさなければなりません。私共は農民の生産意欲高揚のために適切な施策を行うこと、同時に農業
生活に希望を與えて、明日の増産を期する将来の計を立てることが、今こそ非常に必要だと思うのでありますが、
如何でありましようか。先ず米麦熱の
政府の買上価格を引上げることも農民に希望を與えることでありましよう。併しこれが
消費者価格を引上げることを伴いますならば、これも今日の現状において堪え難いのでございますが、幸いにして米の生産者から
消費者に渡る中間経費の米六十キロについて千六百四十円というものが計上されておるのでございます。これは大き過ぎるのでございますから、これを削る
措置をとりましたならば、農民の生産者価格を引上げるということは決して不可能でないのでございますが、米価審議会におきまして、生産者側からも
消費者側からも中間経費の問題をとり上げますけれども、
政府の一顧だも得られなか
つたのでございます。農林大臣の御
答弁が願いたいのでございます。
又米や麦に農民の課税が非常に大きいことが今日の農家の破産の原因にな
つておると言わなければなりません。地租を軽くして欲しい。農家の反当り支出を見ましても、労力費、肥料代の次に非常に大きくな
つているのが租税でございます。私共はこれを又農地改良その他の増産のために農村に大幅に
予算を廻して頂きたい。見返資金によることもできますでしよう。又は輸入補給金を二百億円ぐらい減らすこともできるのではありますまいか。債務償還費を流用することも絶対にできないというわけのものではなさそうなことは、警察力
増強によ
つても明らかなのでございます。(
拍手)これによ
つて農村の二男、三男も救われ、農村の増産体制も立てられるということになりましたら、
国民の不安な感情も余程緩和されるのではないかしらと思います。
又第三に、着物は大丈夫ですか。朝鮮の
戰争以来、衣料の原料又は纖維製品に関連するあらゆる産業に
関係している者が非常な不安を感じておりますが、大丈夫であるとしたら、どのようにして大丈夫なのであるか。
政府はその見通しをここで
答弁して頂きたいのでございます。
首相は貿易の躍進を喜んで、今後更に貿易の促進に力をいたされるとおつしや
つたのでありますが、紡績などの国内向けがこの輸出優先主義によ
つて犠牲にな
つていることを私達はしばしば聞くのでございます。これは貿易振興と言いましても、
日本の輸出の増加は中小企業を潤しているものではありません。ただ仕事を止めるわけにいかないので操業するというだけで、採算割れの仕事で機械を動かしているに過ぎないのですから、その製品は売急いで叩かれ放題なんです。こういう
政府の輸出優先主義によりまして、内地向けの原料の供給にも支障を来たしているし、又犠牲も大きいのでございますが、この関連産業は又同じように直接間接の不利益と損失を余儀なくされているということにつきましては、家庭の主婦連は又台所を脅かされる新しい問題として非常な不安を感じておるのでありますから、
政府の御
答弁を願いたいのでございます。
次に、私は義務教育費を是非国庫の負担にして保証して貰いたい。多くの親達は今日子供を学校へや
つているために、その負担に堪えられない苦しさでございます。今六大都市の学童に向
つてアメリカから寄贈されたメリケン粉がございます。これをパンに拵えて、おかずを添えて、そして子供達に完全給食しようという方針があるのでございますが、僅かに一日二円か三円の費用が多くの親達にと
つては負担に応じ切れないという
意見が非常に多いものですから、遂に二月に実施するところが四月になり、四月に実施する予定のところがまだ手が着けられないという僞らざる実情がこの
通りなのでございます。私共の主婦連合会が、昨年度一ケ年間の東京の家庭の義務教育にや
つている子供のために親が使
つている金を調査しましたときの結果を見ますと、学童一人当りについて支出した額は、これは教科書、材料費、遠足費、給食費、PTAの
関係の費用その他合せて一年生で四千二百七十八円、二年生で五千二百三十四円、三年生で六千九円、四年生で七千五十一円、五年生で七千八百八十二円、六年生で八千八十三円、一年上になるごとに千円くらいずつ高くな
つている。これが着物や食べ物やおやつを拔きにした全く学校
関係に余儀なく出すところの費用なのでございます。この調査で見ますと、年收十万円くらいの家庭の家計費はその二割を学童のために割かなければならない。子供の三人も持ちましたら、その二割を学童のために割いているというのでございます。文部省は地方税実施と併せて標準義務教育費の法案を出す予定でおられまして、多くのPTA
関係や親達が期待してお
つたのでありますが、いつの間にかどこかへ流れてしま
つたのでございます。文部省のこの案によりますと、学童一人当り三千二百円と計上されております。多くの親達が実際に拂
つている費用は到底それくらいでは勘定できないのでございますが、併しないよりもよろしい。文部省が標準義務教育費の法律案を成るべく近い
国会に提出して、審議して、これを実施する用意をお持ちであるかどうかを聞きたいのでございます。
尚、消費
生活協同組合の育成に対する
政府の御方針が伺いたい。今日のような社会不安、
生活不安に
国民の大多数が悩み苦しみ拔いておりますときにこそ、愛と協同を建前として、又合理的な共同購入とお互いに利用し合う協同事業をいたそうとしております消費
生活協同組合は、今日こそ大いに太鼓を叩いて宣伝して、これを極力助けて、全国の職域にも、地域にも、農山漁村にも拡げて行かなければならないと思うのでございますけれども、法律を作
つただけで
政府はその保護育成の途を講じていないのでございます。二十三年の
吉田内閣のときに、これは單独法として作られましたけれども、消費
生活協同組合法ができましてからは、その前まで持
つていたところの保護規定さえも失
つてしま
つている。奪われてしま
つたのです。多くの組合はそのために潰れました。又現に潰れかか
つているものが非常に多いのでございます。私共は
生活協同組合法がこの
国会を通過しますときに、最も近い機会にこれを改善するという申合せで通したのでございましたが、未だにその機会がない。組合はその行う事業によ
つて組合員及び会員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてはならぬと書かれています。又組合員の外の者にその事業を利用させてはならぬと枠を決められている
生活協同組合、これを全く営利法人と同率の課税にしたのでございます。何という不合理でございましよう。又生協法のできる前には、即ち産業組合法によ
つていた時代には、農林中央金庫から融資の途が開かれておりまして非常に助か
つたのでありますが、それに代る生協融資の途がないのであります。そればかりか、この九月が産業組合法から生協法への切替え期限で
生活協同組合の途が断ち切られるものですから、今農林中央金庫では、前にすでに貸してある金さえ早く拂
つて呉れないと帳尻が付かないと言
つて催促されているような
状態なのでございます。又地方税法が若しも
通りますならば、来年の一月まで延ばされたとしても、附加価値税によりまして多くの
生活協同組合は大きな打撃を受ける。固定資産税又住民税、いろいろな問題が
生活協同組合を脅かしているのでありますけれども、特別な
措置を図ろうとする何らの動きもまだ見えないのは誠に残念だと思うのでございます。尚、
生活協同組合は戰前までは、米の配給が統制でなか
つたときは、主食を扱うことが一番大きい事業量であ
つたのでございまして、その経営の基礎もこれに頼
つていたということができるのでありますけれども、この八月を以て切替えられる主食の取扱に対しまして、
生活協同組合は除外されております。公団の従業員を優先的に扱う建前で切替えは今進められております。来年の一月に
なつたら消費
生活協同組合も主食が扱えるじやないかという話でございますけれども、その問の五ケ月間の実績をどういたします。我々は配給所の不親切さ、配給所のごまかし、配給所の生意気に倦き捲きして来たのにも拘わらず、又公団
関係の者しか主食を扱うことができない。戰前に
生活協同組合が扱
つておる米だけは精白度も確かだ、量目も間違いがない、安心して買えるという信用を得ておりましたのですのに、その仕事を行う途を阻まれておるということは、厚生大臣はどのようにお感じでありましようか。又その途を開く
措置をと
つて頂くわけには参らないか。(
拍手)
尚、厚生大臣に併せてお伺いしたいのは、妊娠中絶を少くともここ三年間、希望する者には自由に行えるように優生保護法を改めて欲しいということです。
日本の人口増加率の大きいことが
世界の関心を深くしております。
政府はこの狹められた国土に溢れる程の人口を持
つておる
日本について苦慮せられておることと思うのでありますが、
国民自身においても、より一層
自分の問題として切実にこれを
考え、切実に苦労しておるのでございます。できることなら適当な数の子供を適当な期間をおいて生みたいのです。併しそれの正しい方法は一体どうしたらいいのだ。まだ宣伝も啓蒙も行き亘
つておりませんから、ほんの一部の少数知識階級の手にこれが握られておるだけで、一番産兒制限を必要とするところの貧しい或いは無知な階層の人々には殆んど知られていないし、行うすべも知られていないのでございます。私共は厚生省が避妊薬や避妊の器具の許可制度をと
つていらつしやることに大変期待を持ちました。併しながら去年あたりこれらは大きな新聞紙、雑誌の広告によりまして売出されて、非常に売れて非常に儲か
つたらしいのでございますが、この頃はとんと広告も見られない。売上げも非常に減
つた。何故でございましようか。これは私はそれらの器具や薬が避妊に効かないというのではないのです。効かないものもあるでしよう。又惡徳な者の手によ
つて出されたものもございましよう。併しそれよりも、その使い方を知らない。その効用を理解していないのです。これに対しましてはもつと国のすみずみにまで避妊の正しい方法を教えなければならないから、大急ぎでこれのために力を注がねばならん。併しながらそれを待つというのには、
現実の差追
つた生活の不安でございます。この
生活の不安を幾分でも緩和するために、私はせめてここ三年間、
日本の人口問題緩和にも多少はなるでしよう。又かわいい子供の出生を悲劇に終らせないためにも役つでしよう。ともかくここ三年間を限
つて妊娠中絶の手術を広く開放して、自由にできるように優生保護法を改正して行きたいと思うのでございますが、厚生大臣は
如何ようにお
考えになりますか。無論これは営利を目的とする者に任せることはできないのでございます。
最後に私は綱紀粛正について
総理大臣に
責任の所在を聞いたいのでございます。
政府の要人、官僚、政党の幹部、公団
関係の人々の相次ぐ不正行為、又疑いなど、
責任ある
地位におる者としてあるまじきことが至るところに行われて、その所業に対して一体
責任はどこにあるのかと
国民は口を合せ、腹を立て、又疑問を持
つておるのでございます。(
拍手)最近にも贈收賄、着服の廉で大蔵省から五十七名が送検されました。五千万円を超える不正事実だというのでございますが、
国民は税金なんか拂う気になれぬと言
つております。(
拍手)八つの公団が揃いも揃
つて不正な濫費をして、(
拍手)実に五十一億に上る大きなごまかしが明るみに出ているのであります。ごうごうたる世間の非難攻撃でありますが、
政府にこれが聞えぬのでございましようか。(
拍手)まだ一番大きい食糧公団の不正が出て来ていない。世間ではこうも言
つております。(
拍手)これに対する最高の監督者たる
責任は一体どこにあるのでございまして、どなたがこれをお負いになるのでございますか。(「
吉田総理大臣」だと呼ぶ者あり)遡
つては
昭和電工の事件がございます。近くは五井産業の事件がございます。ときの最高
政府の要人が、幾人か問題に関連ある者として召喚されております。政党の重要な幹部も法に問われるという事態を生じているのであります。これは私共
国民が最も遺憾に存じているところなのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)
首相の
施政方針演説の中にも、一言もこれらの官吏の不正な行為に対して反省の
言葉がおありになりませんでした。又公団の不始末に対して、監督官庁としての
責任の陳弁もございませんでした。更に政党幹部などの破廉恥な行為に対して反省を求められるような苦言も聞かれなか
つたということは、私共何と申上げたらよろしうございましようか。巷に漲る声なき声を私が代表して、
総理大臣初め各大臣に訴えざるを得ないのでございます。(
拍手)
終戰以来社会の道義は頽廃しまして、人の心は荒み、青少年の上にも非常に惡影響を及ぼしまして、若い者の犯罪が急激に増加しているのでございます。この二三年は特に赤の魔手に動かされて、惡質な犯罪も増加しておると見られるのでございますが、
政府はこの点に心を留めて法的
措置を種々とられておる。又治姿対策に苦慮されて、警察力の
増強を図られているというようなことも、誠に諒とすべきだと思うのでございますが、
政治の根本義から言いますならば、こうした法的
措置以上に、民心の不満、社会不安の原因を取除くということ、その温床を作らないようにするということに皆が懸命に努力して、
国民から疑惑の眼を以て見られないようにする。
国民から信頼せられる
政治を行うように心掛けるということが、最も大事だと私は敢えて申上げたいのでございます。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕