○
岡田宗司君
社会党を代表いたしまして、昨日の
吉田首相の
施政方針に対しまして質問をいたします。
去る六月二十五日
朝鮮に勃発しました事件は、
国際関係に重大な
影響を及ぼしておるのであります。
我が国はこの動乱の
朝鮮と僅か
海峡一つを隔てておるだけでありまして、たとえ今日
占領下にあり、未だ正常な
国際関係に立ち戻
つていないにいたしましても、かように地理的に接近しているということからいたしまして、あらゆる面におきまして非常に大きな
影響を受けざるを得ないのであります。
そこで先ず
吉田外務大臣に対しまして、この事件がどういうふうに発展して行くか、それが
日本の
国際的地位、
講和の問題、
国内政治経済に如何なる
影響を及ぼすか、又
連合国なかんずく
アメリカの
日本占領政策がどういうふうにこれによ
つて変化するであろうか、それらの
見通しについてお伺いしたいのであります。
更に
周東安本長官に対しましては、この事件が
日本経済即ち
日本の産業、貿易、海運、
外貨予算等に及ぼす
影響につきまして、現在お分りにな
つておるところを詳細にお承わりしたいのであります。
次に私は
吉田外相に
講和の問題についてお伺いしたい。昨秋来
講和の問題がやかましく論議され、特に六月には
アメリカのダレス氏の
来朝等がありまして、
講和会談の開催近しという感じを
国民が誰しも抱くようにな
つております。
講和に関する論議も一層盛んにな
つて参つたのであります。たまたま勃発しました
朝鮮の戦乱によりまして、
講和が遅れるか、或いは早くなるか、今のところいずれとも
見通しが付かない状況にあるのでありますが、この
戰乱を背景に、いわゆる
單独講和論が一層声を大にして叫ばれるようにな
つて来ておるのであります。
吉田首相は今日
早期講和という名前にすり替えておられるのでありますが、
首相も又このいわゆる
單独講和論の急先鋒であるように私共には見受けられるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)いわゆる
單独講和論者の言うところを要約して見ますと、韓国のような
状態に陥らないためには、
連合国全体との
講和なんて
言つておられない、一日も早く
米英側と
講和條約を締結して、その実力によ
つて日本の安全を保障して貰いたいということに要約されるのであります。そして
社会党の唱える
全面講和論のごときは單なる
理想論であり、空念仏であると
言つて、
首相のごときは先頭に立
つて罵倒の言葉を浴せておるのであります。それなら、
首相初めいわゆる
單独講和論者の唱える
一辺倒の
外交政策で、両
陣営の
接触線上にある
日本の独立と平和とが恒久的に保障されることになるのでありましようか。今回の
朝鮮の動乱は、みずから守る力のない国が二つの相争う
陣営の或る一方に属し、一方の
陣営の
安全保障にのみ頼
つていることが、その国の独立と平和にと
つて如何に
危險なものであるかということを、むしろはつきり示したものに他ならないのであります。(
拍手)両
陣営の間に挟まれておる
日本といたしましては、両側より安全を保障されて初めてその独立の地位を維持して行けるのでありまして、みずから進んで
一辺倒の
政策を主張するということは、外の側より深き疑惑を受け、それこそ事あるときには重大な
危險を招く虞れが多分にあるのであります。(
拍手)
日本は
米英ソ中国を含む
連合国に降伏したのであります。
連合国側における対立の結果、
講和会議の開催が遅れているということが事実でありましようとも、いずれの側の国も公式的に一方の
陣営に属する国々のみが
日本と
講和すべきであるという
見解を明らかにしておらない今日、降伏せる国の
政府当局者がみずから進んで一方の
陣営に属する国々との
講和を唱えるがごときは、軽率も甚だしいと言わざるを得ません。(
拍手)又
日本は将来
国際社会に復帰した場合、速かに
世界平和の機構としての国連へ参加し、その
安全保障を受けることを念願しておるのでありまして、将来国連への参加を不可能ならしめる
單独講和論を
首相兼外相みずから率先して唱えるがごときは、
日本の将来に暗影を投ずるものと言わざるを得ないのであります。いわゆる
單独講和はイージーゴーイングな道であります。併し今イージーゴーイングの道をとることは、将来も坦々たる道を進み得ることを意味するものではない。このことをよくお考えにな
つて頂きたいのであります。
朝鮮に
戰乱が起りましてから、
国民の一部には不心得にも
義勇兵として進んで戰争に参加し、又この
戰乱を利用して私利を図ろうとする者、或いは積極的に介入して
日本の地位の回復を図るべしと唱える者も出ておるのであります。又他方には
アメリカ及び国連の態度を
帝国主義的侵略なりとして
反米闘争を
国内に展開しようとしている者もあるのであります。
国民のうちにかかる
考え方が生じ、それが拡が
つて行くということは、みずから戰争に飛び込む下地を作るものでありまして、
日本の平和、
世界の平和にとり極めて
危險なことであります。かかる
考え方はいずれも
国民みずからの手によ
つて速かに克服しなければならないのであります。
スイスが中世以来戦争に巻き込まれず、中立を維持して来ている
ゆえんのものは、その
地理的地位や強国の力の均整ということだけではないのであります。
スイス国民みずからが戰火に巻き込まれまいとしてなして参りましたところの並々ならぬ努力とその心構えによるとことが多いのであります。我が
日本社会党が今
全面講和を唱え、
平和運動を推進せんとしている
ゆえんのものは、少数の
冒險者達の
危險な
考え方や行動によ
つて国民全体が不幸なる戰争に巻き込まれる素因の作られることを防止しなければならんと考えておるからなのであります。(
拍手)我々は
世界における二大
陣営の対立の激化の結果、人類を破滅に導く第三次
世界戰争がやがて起るであろうということを宿命的に
諦らめておるわけには行かないのであります。戰争の危機が高まるに連れまして、全
世界の良識ある人々の間には更に強力に
平和運動が進められて参るでありましよう。我々も又
日本の平和、
世界の平和を推し進めて行くために、今こそ全
世界の
平和運動の一環として我々も又真劍な運動を展開しなければならないと確信しておるものであります。(
拍手)然るに
朝鮮における
戰乱の勃発後、
岡崎官房長官は、進んで韓国を支持すべしというがごとき談話を発表し、
首相又同じような
考え方を発表しておるのであります。これは
戰乱への介入に向
つて国民の心理を煽る作用を持つものでありまして、
危險且つ不謹慎な態度であると言わなければなりません。国連の決定を支持する国々でさえ、インドを初めその行動は極めて慎重であるとき、
占領下にある
日本の
政府が
戰乱への介入に拍車をかけるがごとき態度をとることは断じてなすべきことではないのであります。(
拍手、「そうだ」と呼ぶ者あり)
そこで私は
吉田首相より改めて詳しく
朝鮮の
戰乱に対する
我が国の立場についてお伺いしたのであります。
占領以来すでに満五年を経ている今日の段階におきましては、被
占領国である
日本も又漸次
政治経済の面におきまして
自主性を回復して行くことが必要であると思うのであります。
日本は
連合国、特に
アメリカの至れり
盡せりの指導と援助によりまして、今日の
状態まで漕ぎ付けて参
つたのでありますが、
日本の
民主主義国家としての発展、
経済的自立のためには、
占領政策という大枠の下におきましても、
政治経済の面においてもつともつと
自主性が與えられなければならんのでありまして、その方が
占領の
目的達成の上にもより効果的であろうと思われるのであります。西ドイツの場合を見ましても
日本より遥かに
自主性を認められておるのでありまして、而もこのことは
連合国の
占領政策と何ら相反するところはないのであります。
日本といたしましては、諸制度が民主的に改編されるに連れまして、又
経済力の発展の度合に応じまして、
国内政治、産業、貿易、海運、
国際金融等における
自主性の回復を、
政府は
占領軍当局に対して進んで要請し、これが実現を期すべき段階にあると信ずるのであります。
政府は、
政治経済の
自主性の回復につきまして、今、如何なるお考えを持ち、又如何なる方策を以てこれを進められようとしておるか、その点についてお伺いしたいのであります。
次に
吉田首相にお伺いしたいのは
超党派外交についてであります。
吉田首相は、
講和問題に対処する一つの方針といたしまして、最近俄かに
超党派外交を唱えられ、御自身も
民主党の芦田氏に会う等、大いに努められておるのであります。
超党派外交ということにつきましては、我々は慎重に考えて見なければならないのであります。先ず、外交に対する
国民の輿論が一つに帰する場合におきましては、相争う政党の間にいわゆる
超党派外交が容易に成立するのでありまして、国論の帰一を見ない場合には、かかるものは決して成立しないのであります。
首相が今考えておられる
超党派外交とは何であるか。
首相及び與党の
見解なり方針なりに合致しない他の会派、党派の
見解、方針を、
自分達のそれに従わせ、異論を封じまして、而も責任だけを分担させようという極めて老獪な
考え方に外ならぬのであります。(
拍手)そればかりではない。これを道具に使いまして他党との連携を図り、内政上の争いの問題につきましても反対なり異論なりを封じ、以て漸く
国民から見離されようとしておる
自由党政権の
維持強化を図ろうという一石二鳥の効果を狙
つておるものと見受けられるのであります。(
拍手)たとえ
無条件降伏をいたしたにいたしましても、
日本国民は
講和問題に関して、
政府の方針なり、やり方なりを批判する自由はこれを有しておるのであります。又
講和の成立が、
日本の置かれている地位、
国内の
政治経済に及ぼす
影響について、
見解を異にする者のあることも当然のことであります。今
政府が
超党派外交を唱えて、
政府及び與党と
講和問題について、又それから生ずる結果の見直しについて、別の
見解に立つ我が党に
政府の
見解を押し付け、責任を分担させようとお考えになりましても、これは決して成功する企てではないのであります。
講和問題に対しては慎重であるべき
首相が、選挙前に俄かに
單独講和論を唱え、これを政争の具に供し、
講和に関する国論を沸騰させて置きながら、今又突如として
超党派外交を唱えるとは一体何事でありましようか。(
拍手)我が党といたしましては、
講和問題については、
国会外務委員会におきまして
吉田首相兼外相の御出席を願いまして、そこで堂々と論議いたしまして、
国会の決するところに従う決意を持
つておるものであります。
吉田首相は如何なる動機なり或いは理由なりに基きまして
超党派外交なる構想を持たれるに
至つたのであるか、又
社会党を抜きにして、
民主党とだけでもこれを実現したい
おつもりであるかどうか、お伺いしたいのであります。
次に本
国会の開かれました
最大眼目である
地方税の問題について
岡野国務大臣にお尋ねしたいのであります。
このたび提出されました
地方税法案を見ますと、
附加価値税一年延期と
固定資産税の税率の〇・五%引下げだけで、実質的には前
国会に提出されたものと殆んど変りはなく、税額におきましては、あの案よりも少しも軽減されておらないのであります。この修正は全く羊頭を掲げて狗肉を売るものであり、前
国会におきまして
愼重審議した結果、
地法税法案を否決いたしました
参議院を、全く小馬鹿にした態度と言わなければなりません。(
拍手)又
首相は、第七
国会において
地法税法が成立しなかつたために
地方財政が非常に困つた、これを
参議院のせいにして非難しておるのでありますが、あんな
国民の背負い切れないような税を課そうとしたから、我々は憲法の命ずるところに
従つてこの悪税法を否決をしたまででありまして、責任はむしろかかるものを提出いたしました
政府にあると言わなければなりません。(
拍手)
第一に、
一体附加価値税の実施を延期したのは、この税が欠陥が多いから延期して置いて、その間に再検討して修正するか外のものに代えようというのでありましようか、或いはそれとも今回
参議院を通すための
便宜手段としてそうしたものであるか、それを先ずお伺いしたいのであります。
第二に、四—七月に
地法税が徴収されなかつたことのしわが八月以降に寄せられることになり、
国民はそのために更に重い負担に悩まされなければならんのでありますが、
政府はこれを緩和する方策を考えておられるかどうか、その点をお伺いしたいのであります。
第三に、
地法税は増額されて参りますが、国税、
地法税を通じて見れば負担の軽減になるというのが
首相の御説明であります。これは併しながら机上の計算に過ぎないのでありまして、地方、特に
農山漁村等は、
固定資産税、
住民税が非常にこたえて参るのでありまして、恐らくこの方面におきましては徴収困難の面が生じ、住民と自治体との間の対立が激しくな
つて参りまして、
町村長等の辞職というようなことが頻発すると考えられるのであります。
政府はこの対策をどう考えておられますか。要するにこの重税を課す前に、先ず
地方民の所得の増加を図り、大体負担に応じ得られるようにして置くべきことが先決問題であつたろうと思うのであります。
さて、この
地法税法案が再び
参議院におきまして
愼重審議の結果、欠陥が多いものとして否決されたといたしましたならば、
政府はその際にどうする
おつもりでありましようか。
政府は今度は大丈夫だと或いは甘く考えておられるかも知れませんが、決して予断は許さないのであります。先の
国会でこの
重要法案が否決されました場合に、
政府は当然辞職すべきものでありました。然るに
政府は
参議院選挙を賭けまして、そのまま居座
つてしまったのであります。若し今回も不成立ということになりましたら、一体
政府はどうするつもりであるか。即ち総辞職をするのか。
衆議院を解散いたしまして民意を問うのでありましようか。
政府はその際にどういたしますか。その点について
吉田首相にお伺いいたしたいのであります。
次にお伺いしたいのは
国家警察増強の問題であります。七月八日、
マッカーサー元帥の書簡により、
政府は七万五千の
国家警察予備隊の設置、
海上保安力八千の増員を認められたのであります。
国内に六十数万の
朝鮮人が在住しまして、而も本国同様深刻な抗争を行
つております。又密航、密輸入も跡を絶
つておりません。更には今日
国内におきましていろいろな
破壊活動が行われ、
暴力革命への推進が行われておるのであります。かような場合におきまして、
政府は治安の維持に万全の措置を講じ、
民主主義制度の
不安動揺をなくなして行くようにしなければならんのであります。今回の
警察力の増強は今後の
日本の
治安維持の上に大きな力を発揮するのでありましようが、併し
政府が一旦その組織なり或いは
運用方法を誤
まりますならば、それこそこの
警察隊は戰前の
特高警察或いはナチス・ドイツのゲシュタポ或いはゲー・ベー・ウーのごとき存在となりまして、
日本を
民主主義国家ではなく、逆に
警察国家たらしめる
危險を生ずる虞れがあるのであります。
特高警察或いは
憲兵隊による政治ということのその害毒は、
戰時中吉田氏みずから体験されておる筈なのであります。殊にこれが設置に当りまして気を付けなければならないことは、一挙にこの定員を充たそうといたしますと、素質の惡い者がどつと流れ込んだり、又
ファッショ分子がこれに潜り込んで参ります。十一日の
記者会見で
吉田首相は
共産党員の潜入を大いに恐れているのでありますが、
首相はこれに気を取られまして、旧軍人、
ファッショ分子が大量に入
つて、この
警察隊を牛耳る
可能性も又多いということに気付いておられないようであります。最近起
つております別に治安を乱すというようなことのないデモや集会の禁止、
労働運動に対する非常識なる
取締等を見ておりますと、憲法に定められておる
基本的人権の蹂躪と思われる事件さえ起
つておるのであります。若しかような
国家警察隊が如何わしいファッショ的なる傾向を持つ
分子達に握られまして同じようなことをやるといたしましたならば、それこそ
日本の
民主主義は忽ちその存立を危うくせざるを得ないのであります。
更にこの
国家警察隊の機構が問題であります。
海上保安隊の方は従来のものに附加えるだけで、そう問題はないようでありますが、
国家警察隊の方は従来の
国家地方警察に
予備隊として配置するのか、これとは別の組織として
政府に直属せしめるかによ
つて、その性質が非常に違
つて来るのであります。現在の
警察法によらない、
公安委員会の
指揮監督も受けない別の存在にな
つて参りますならば、その
警察隊の
最高指揮者達こそ
国家の
最大権力者となり、
警察国家の
支配者となる者がここから生れて参る
可能性も非常に多いのであります。これこそ
民主主義体制を根本から覆すものである。それ故に
民主主義の
政治原則に基きまして、かかる権力の発生をチェックする方法を設けることこそ、この
警察隊設置の際に最も重要なものであることをここに指摘せざるを得ないのであります。
そこで
首相並びに
関係大臣にお尋ねしたいことは、我々は、新たに増強される
国家警察隊は
国家地方警察の
予備隊として配属され、
警察法と
公安委員会の下に置かるべきものと思うが、
政府の構想は別の組織を作るつもりであるかどうかという点であります。又かかる場合には、先に述べたような権力の発生を阻止する機構をどういうふうにしようとするのか。更に又この増強は一挙に行おうとするのであるかどうか。その訓練と教育とは如何なる精神、如何なる方法を以て行おうとするのか。これは
国家警察隊の性格に関する問題でありますが故にはつきりとお答え願いたいのであります。
次に
国家警察隊増強に関し、
政府は如何なる
法的措置、
財政的措置を講ぜられるかをお伺いしたい。この間
マ元帥の書簡が出た後において
政府は何とも
見解を表明していないし、
吉田首相もその演説中にこの点には全然触れていないのであります。
ポ勅令によるということが盛んに伝えられておるのでありますが、これをそのような一片の
行政措置で片付けてしまうには余りにも重大なる刻下の問題なのであります。
只今国会が開かれておるのでありますから、
政府は直ちに
立法化の措置を講じ、
関係法律案を
国会に提出し、その審議を受くべきであります。又この予算につきましても、
元帥書簡に
一般会計中の
債務償還費よりこれを出すべきことが命ぜられておるのであります。併し一旦
使用目的の定められた項目を変更するのでありますから、
政府は
財政法の定めるところにより、直ちに
補正予算を組みまして、
法律案と共に本
国会に提出することが当然であると思うのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、
拍手)
政府は本
国会に
警察力増強に関する
法律案、
補正予算案を提出するかどうか、提出するとすればそれはいつ頃になるかをお尋ねしたいのであります。
次に私は
天野文相に教員の
政治活動禁止の問題についてお伺いしたい。今
衆議院の
自由党が教員の
政治活動を禁止する
議員提出法律案を出すという計画があると伝えられておるのでありますが、かかることは誠に憲法に定められておる
基本的人権を蹂躪するものと言わざるを得ない。(
拍手)全国数十万の教員はひとしくこれに憤激しておるのであります。文相は一体教員の
政治活動禁止をどういうふうにお考えにな
つておるか、その点について、はつきりとその
見解を披瀝して頂きたいのであります。
次に
経済問題につきましてお伺いしたいのであります。
吉田首相は、超
均衡予算の実施により、
物価賃金も一応の安定を見、インフレの
危險は去つた、これは正に
国民全体が誇るに足る
安定計画の成功であると自画自讃しておるのであります。だが
日本の
経済の現実の姿は、安定せる
経済であり、デイスインフレの
状態であると言えるのでありましようか。実際は
デフレ−
ション恐慌の
進行過程にあると言わなければならんのであります。二十五年度
予算実施以降の状況を見ましても、幾多の事業の倒壊、整理、縮小が行われ、
失業者数は著しく増大し、賃金の不拂い、遅配、切下げが頻発し、商品は売行きを減少し、滞貨は増大をしております。又金融の梗塞、破産の増加、
不渡手形の
激増等、すべて
デフレ恐慌の
深刻化の様相を露呈しておるのであります。かてて加えて
農山漁村も
恐慌状態にあり、
国民の大多数は、この不況に、所得の減少、
生活水準の低下を強要され、塗炭の苦しみに喘いでいるのであります。而も一方において、
自由党の
財政経済政策により銀行は莫大な利益を挙げ、大資本は着々とこの全体の
不況下にその
経済支配力を強化して、その指導の下に
国民大衆を犠牲にして
経済の再編成を行わんとしておるのである。かかる
状態が
国民全体が誇るに足る
安定計画の成功と言えるでありましようか。犠牲に供せられる
国民の呪詛は、実に
独占資本の代理人である
吉田内閣の上にかか
つているのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)ドッジ・プランの強行による
デフレ−
ションの
進行過程において
経済は著しく不安定になり、
国民生活の
不安動揺も増大いたしまして、この
政策をもはやこのまま強力に推し進めて行くことのできない限界に達しておるのであります。換言すれば
ドッジ・ラインに基く
政府の
財政経済政策はすでに破綻を示したのでありまして、
政府は好むと好まざるとに拘わらず、その口実はともかく、
政策の転換を行わなければならん羽目に追込まれておるのであります。
池田蔵相が今まで断乎拒否して参りました
給與ベ−スの
引上げを認めざるを得なく
なつたこと、対日援助見返資金よりの
債務償還を本年度において未だ行な
つておらないこと、来年度には
債務償還を行わないということを決めたこと、又
輸出金融公庫の
設置等々一連の計画は、
ドッジ・ラインが一角から一角と崩れ去るであろうことを示しておるものと言わざるを得ないのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、
拍手)今や
政府は
デフレ−
ションの進行による
経済不安定を克服するために、
ドッジ・ラインを乘越えた新らしい見地に立つ
総合的経済政策を樹立しなければならんのであります。その核心は何か。即ち
財政投資の思い切
つた増加と、それによる
有効需要の喚起と
雇用量の増大であります。(
拍手)この方法によらざればヴァイシャス・サ−クルを断ち切ることはできないのであります。私はかかる見地に立
つて、当面緊急に解決しなければならない若干の問題について対策を各大臣にお伺いしたいのであります。
第一は
金融梗塞を如何に打開するかという点であります。二十四年度は
政府資金の対
民間収支を見ますと六百五十二億円の
引上げ超過になっており、この
引上げ超過による
デフレ的影響を
金融部面における
信用供與によ
つて中和することが二十四年度の
金融政策の狙いであ
つたのである。然るにこの
引上げ超過は二十五年度に入りましても依然として続き、六月三十日に終る第一
四半期におけるその額は実に三百十億に及んであるのであります。而も第二
四半期におきましては、七月の
申告税の徴収、八月の
地方税の徴収によりまして、
引上げは累加する一方でありますのに、
信用供與の方は、五月よりの日銀の貸出引締めによりまして、
金融梗塞は第二
四半期においていよいよひどくなり、その結果多くの企業の倒壊整理が予想されるのでありますが、先ずこれが緩和につきましての具体的なる方策を池田大蔵大臣より説明せられたいのであります。
第二は見返資金の運用についてであります。本年度予算額千三百三十億、前年度繰越百四十八億、計一千四百七十八億中、六月末までに決定しました運用額は僅か百二十六億円に過ぎない。而も海運の三億二千七百万円、中小企業向けの三億円を除きますれば、公共事業、電力、石炭も、鉄鋼も、化学工業、農林水産も何らそこには投資が行われておらない
状態にあるのであります。而も余裕金が三百五十四億もあ
つて、これが食糧証券の保有に当てられておるという極めて不合理なる
状態にあるのであります。これでは折角の対日援助見返資金が有効に使われておるとは言えないのでありまして、この運用の促進は
有効需要の喚起、
雇用量の増大に大いに役に立つのであります。更に問題の
債務償還費五百億を産業投資に振向けることを当局に懇請いたしまして、これが許されるということになりますれば、これ又景気回復に非常な効果を挙げるものと考えられるのであります。
政府は見返資金の運用を促進し、又
債務償還費を産業投資に振向けるために努力するつもりであるかどうか、その点をお伺いしたいのであります。又預金部資金は本年に入りまして著しく増加しているにも拘わりませず、その運用は地方債の引受け三百七十億円が決ま
つているだけでありまして、これを鉱工業、農業等にも廻るように運用すべきではないかどうか。これは蔵相のポケツトにある効果あるカンフル注射なのであります。蔵相の力を以てすればこれが使用のできない筈はないのではないかと私共は考える。この点に対しましての
池田蔵相の
見解をお伺いしたいのであります。
次に貿易の問題について
関係大臣に二三お伺いしたいのであります。輸出額はほぼ予定通り行
つているようでありますが、これだけの金額では現在の
デフレーシヨン恐慌を乗切りまして景気回復の大きな梃子とはならんのであります。而もその内容を検討して見ますと、繊維その他軽工業品は割合にいいのでありますが、金属、機械、化学製品等重要なものが比較的不振であるのでありまして、この点は
日本の貿易の将来にと
つて極めて重大な問題なのであります。
政府は当面の対策の一つとして
輸出金融公庫の設置を計画しておられるようでありますが、先ずその組織、資金、
運用方法、その効果等につきまして、その概要を通産大臣よりお伺いしたいのであります。だが、問題はこの公庫の設置だけでは、解決できません。補給金撤廃後の製品のコスト高が輸出の障害になっているとするならば、
政府はこれに対して如何なる方法を講じようとしているのでありますか。又この際一ドル三百六十円の為替レートが障害にな
つているかどうかを検討する必要はないか。この点についてもお伺いしたいのであります。
次に中小企業対策についてお伺いしたい。中小企業は数において九割、生産額において五割という
日本の産業構造上重要な地位を占めておりますが、これがドツジ・ラインの実施以降今までにばたばたと倒れております。そして今後も一層その倒れて行く数は増加して行くと予想されるのであります。恐らくその倒産等のために自殺する者の数も先に池田さんの言われた五人や十人ではなく、五十人、百人、或いはそれ以上にな
つているものとも思われるのであります。中小企業に活を入れるものは結局景気回復の力でありますが、当面の対策といたしましては、殆んど銀行に相手にされず、金融力のない彼らに、
政府が積極的に金融の面倒を見てやることにあると思うのであります。今までの施策では燒石に水でありまして、これから一層必要が痛感されるのであります。そこで
政府は預金部資金の運用、見返資金の使用額の増加、
政府による損失補償等によりまして、この中小企業に対する金融をなさる
おつもりはないかどうか。その点につきまして
関係大臣より詳細にお伺いしたいのであります。
次に失業問題につきまして保利労働大臣にお伺いしたいのであります。ドツジ・ラインによる
財政経済政策の結果、昨年来失業者の数が月々累増して参りまして、労働省統計によれば四月末において顯在失業者五十万にな
つているのであります。その後も殖えておりますことは確かでありますから、現在ではその数は恐らく六十万を超えているであろうと推定されるのであります。これに統計面に現われておらない失業者、半失業者を加えますれば、実に厖大なる数に達するのでありまして、この労働者階級の犠牲の増大は
吉田内閣の責任に帰せらるべきものと私は考えるのであります。もとより失業者の減少は景気の回復による
雇用量の増大が基本的なものでありますが、当面、公共事業、緊急失業対策事業の規模を拡大いたしまして、できるだけ失業者を吸収すること、失業保檢、失業手当を受取る期間の延長、範囲の拡大が当面の急務であります。このために
政府の支出が増額されましても止むを得ないのであります。
吉田首相は昨日の
施政方針演説中において失業対策について若干述べておられるのでありますが、これらの点につきまして詳細な説明を労働大臣にお伺いしたいのであります。
次に公務員の
給與ベースの
引上げの問題についてお伺いしたいのであります。
給與ベースの
引上げは各公務員個人の生活の保証という意味で重要なばかりではなく、直接消費購買力を増加させるという意味におきまして、全体
経済の景気回復の手段として重要なのであります。
首相は
施政方針演説中
給與ベース
引上げをやると声明しておられるのでありますが、一体幾ら
引上げるのか、いつからそれを実施するのかについては何ら言明されておらないのであります。先ず私は人事院総裁に対してお伺いしたいのであります。先の七千八百八十八円ベースの勧告案は
政府に無視されたのでありますが、今度
政府に出し抜かれる前に当然新らしい勧告案を出すべきではなか
つたのでありましようか。若しその準備があるとするならばこれを速かに出すべきではないかと思う。人事院総裁はその点についてどうお考えにな
つておるか、これをお承わりしたいのであります。
次に大蔵大臣より、
施政方針演説中のベースの
引上げというのは人事院の新勧告に従うという意味なのか、或いはそれとは別の金額であるのか、又それをいつから実施するかという点について詳細にお承わりしたいのであります。
次に廣川新農林大臣に(笑声、「しつかりやれよ」と呼ぶ者あり)農業問題に対して若干お伺いしたいのであります。
日本農業はその構造が脆弱であるために
デフレーシヨンの作用を最も強く受け、深刻な恐慌の
状態にあり、農民の
生活水準は著しく低下せしめられているのであります。今
政府が思い切つた農業恐慌対策を講じて、この窮乏に喘ぎ不安におののく農民に援助の手を差延べ、農民の生活の安定を図るならば、その効果は農業のみに止まりませず、
日本経済全体にその活力を與え、景気回復を促進することになるのであります。そして、この際最も重要な施策は、農産物価格
政策、農村への
財政投資、
国家資金による農村金融の三点にあると思うのであります。
この見地に立
つて第一にお伺いしたいことは、食糧管理制度をどうするかという点であります。
自由党は先に米麦の供出後の自由販売、米券制度を主張いたしまして、又早く統制を撤廃するということを唱えられているようでありますが、農家
経済の安定のためにも、又
朝鮮の
戰乱の長引く場合のことを考え合せましても、
政府による食糧買上制度は廃止すべきではないと思うのでありますが、農相の
見解はどうであるかお伺いしたい。
第二は農産物価格
政策であります。農産物価格が相対的に低く、これが今日の農業所得の減少の主因の一つとな
つているのでありまして、これは当然この八月からの肥料価格の値上げその他を勘案いたしまして、相当大幅に
引上げなければならんのであります。私の考えでは二十五年度産米は当然石五千五百円以上にしなければならないと思うのであります。今まで
政府が買上価格決定の際に使
つて参りました価格パリテイの方式が農民にとりましては今日不利でありますので、これを生産費計算にするか、又は所得パリテイの方式をとるかしなければならんのでありますが、農相はこの点についてどうお考えにな
つておられますか。
第三は農村の金詰りの打開に関する方策についてであります。第一に、農家の窮乏、肥料価格の騰貴、肥料の統制撤廃によりまして、肥料に対する金融が当面重大な問題にな
つておるのでありますが、それに対処すべき金融対策を具体的にお示し願いたいのであります。第二に、戰前には補助金等の形で農村に相当多額の財政資金が投ぜられていたのでありますが、今日ではそれが非常に減少している。その上、農地改革により土地が担保力を失つたために、長期金融の道が断たれているのであります。零細農家ではなかなか多額の自己資金を蓄積することはできないから、このままでは耕地の拡張、土地改良、灌排水施設その他、金のかかることはできません。このために農業生産力の維持発展ということは極めて困難にな
つて参るのであります。そこでどうしても
政府は農業生産力維持発展のためには、
財政投資、見返資金の相当額の使用をやり、又預金部資金等を低利に廻しまして、これを長期資金に当てることが必要であると思われるのでありますが、その点に関する
政府のお考えを具体的にお示し願いたいのであります。
第四にお伺いしたいことは、農業協同組合の今日の危機をどうして救うかという問題であります。今日農業協同組合は全面的に危機に瀕していることは御承知の通りである。この原因は経営者が当を得ていなかつたということによる点もありましようが、多くは農村不況の
深刻化に基くものであり、又農協に対する
政府の
経済的保護助長
政策が今日廃止されていることによるものであります。
日本の農業は
アメリカの農業とは全く事情を異にしているのでありまして、普通の営業者と同じにこれを取扱うことは農業
政策上大きな誤謬であると思うのであります。農協が倒れれば農民の損害は非常に大きいのであります。
政府はこの農協の危機を救うために直ちに百億ぐらいの金を農協に融資するつもりはないか。又外に農協対策を持
つておられるならば、それを具体的にお示しを願いたいと思います。
第五に、我々は、現在の農地改革は未だ徹底しておらん、地主の保有地なる制度を原則的に解消せしめることを主眼とする第三次農地改革を推進したいと考えているのでありますが、これは農地改革に反対をし、早くこれを打切
つて又地主制度の復活への道を開こうとする
自由党の
考え方と真向から対立するが、農相は農地改革に関してどういう考えを持
つておられるか、お伺いしたいのであります。
最後に、まだなかなか封建制の抜け切らない
日本農村の民主化を促進するために、都市における労働組合と同じように農民組合の発達を図ることが必要なのであります。先に極東
委員会の農民組織に関する十六原則は、農民組合法制定を勧告し、今日総司令部におきましても熱心にこれが調査研究をしているのであります。又農民の間にもこの制定に対する要望が段々に起
つて来ているのであります。
政府は次の
国会ぐらいまでにこれを
法律案として出す準備があるかどうか。その点お伺いしたいのであります。
これを要しまするに、
吉田首相の自画自讃いたしておりますところと相反しまして、ドツジ・ラインに基く
財政経済政策の破綻がすでに今日到来しておるのでありまして、
財政投資の増加と消費購買力の増加を基調とする
財政経済政策に転換せざるを得ないのであります。我々は
政府が
給與ベースその他の問題で九月には臨時
国会を開き
補正予算を提出しなければならんと思うのでありますが、
政府は一体次の
補正予算を審議すべき臨時
国会はいつ頃開く
おつもりなのでありますか。その点を
首相又は蔵相にお尋ねいたしまして、私の質問を終りたいと存ずるのであります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕