○三橋八次郎君 北陸地方の稻の被害状況の調査に
委員長並びに飯島委員、私と三名調査に参りました経過並びに結果を御報告申上げます。参りましたのは八月六日から七日間、新潟県を振出しに新潟、富山、石川、福井県と調査して
参つたのでございます。今年の北陸地方の稻熱病は大体その
原因は大
部分は天候にあるようでございます。昨年の冬の暖冬によります紫雲英の過剩繁茂、引続きまして苗代末期におきましての非常な高温多濕、場所によりましては苗代稻熱が多少発生した傾向の苗を移植したような事実もあるのであります。その後本年大猖獗を極めました外の
原因は、六月に入りましてから非常に低温になりまして、例年そこで土壤中の大
部分の一等有機物が分解いたしますところ、それが分解せずに持ち越されまして、七月に入りましてからの急激なる高温によ
つて腐敗分解を起しました結果、今入込稻熱或いは引込稻熱と申しますか、そういうものが稻熱の大被害を蒙むつた
原因であるのでありますが、全く人力の及ばない天候によ
つて発生したものと認めて差支えないと思うのであります。あの地方の篤農家に聞きましても、六十年来田圃を作つ参ておるのだけれども、これ程の稻熱病の大発生に遭遇したことかないという程の突発的なものであり、又北陸四県殆んど同様の気象状況であるというような
意味から、やはりこの発生の
原因が第一に苗代の温度の不均衡、本年初期の低温、それから分蘖にとりかかりましたときの急激なる高温と、この三つが大事な
原因のように
考えておるのであります。即ち根腐れを起しまして根が腐り、地上部近くの均衡を失するということによりまして稻熱病の発生ということが起るということは、これは
一般に認められておる通りであります。又富山県におきまして、一部その
原因と又外の
原因とが加わ
つて発生した地帶があるのであります。黒部川の下新川でございますが、ここは黒部川の水が灌漑されるのでありまして、黒部川は御
承知のように非常に深山から出て来ます
関係上、水温が夏でも十三度以上を越えることはないのでありまして、我々参りましたときには測
つて見たものでも十三度前後であ
つたのであります。従いまして、あの地方は気温は非常に高い、併し冷水の灌漑によりまして他温の上昇ということがそれに伴わないために、地温で支配されます根の成育は、気温で支配されます葉の成育よりも非常に惡くて均衡を失したために、そこに稻熱の発生を見た。これはやはり気候的の
関係ではございますが、黒部川の水の灌漑されますところは、更にそうい奇
原因も加わ
つておるということは注意しなければならんことだと思います。丁度我々参りましたときは、一応葉稻熱病が終熄の傾向にあつたときでありまして、ただ表面から見た場合におきましては、さほどひどいような被害がないのでありますが、具さに田圃に入
つて見ますと、その以前の病勢のひどかつたことは、下の枯葉が非常に侵されておるということによりましてよく分るわけでございます。すでに福井県などにおきましては、
農林一号が出穂をし、それに甚しい稻熱病が出てお
つたのでありまして、被害は大体これを察することができると思うのでありますが、まだ出穂しない葉稻熱病の発生の後におきましては、今後発生する穂首稻熱の如何によりまして、被害が非常に憂慮されるものがあつたと思うのであります。北陸四県の被害面積は本省の方の調べもあつたわけでございますが、十三万八千町歩に及んでおるのであります。総面積三十四万町歩の約四一%に稻熱病が発生いたしておるというような状況にな
つてお
つたのであります。防除の方は、これは葉稻熱病時代から県
当局並びに本省の指示などによりまして、非常に防除に努力をしてお
つたのでありまして、農家の防除意識も高揚され、涙の出るような努力を拂
つて防除しておるというような状況を見て
参つたのであります。併し先程農政
局長の方から
お話のありましたように、必要以上に薬をかけておるというようなことも二、三見かけられたのであります。ああいうようなところでは更に技術の指導を施したならば、防除費用の軽減ということに大変役立つと思うのであります。更にあの地方で福井県の一
部分には黒椿象が大発生いたしまして、約三百町歩ぐらいがその被害を蒙む
つておるのでありまして、薬剤も十分入手ができずに、農家が中へ入
つて手で捕殺をしておるというような状況であ
つたのでありまして、非常に苦心をして
増産を図ろうという場面がよく見られたのであります。とにかく突発的な大被害でございましたので、防除費用などにつきましても、防除に寸刻を争うものでございますので、まあ一応防除して置け、費用は後で
一つ支出の途を
考えるというので、各県応急にや
つておられたようでございますが、例えて見ますると、新潟県あたりですと、七月末までに七千九百五十万円ぐらい支出しておるようでございます。福井県では四千七百八十万円ぐらい出しているようでございまして、非常にこの防除費用が高ま
つているのでありまして、又
増産をしたければならんから防除費用は後で
考える、どうでも防除をやれというような指導で行つたわけでございまして、この費用というようなものは恐らく農家は到底
負担ができないと
考えている次第でございます。
尚農薬でございますが、農薬は最初は可なり順調であつたそうでございますが、終いには農薬は不足を来す、而も値段が三倍にも五倍にも値上りいたしまして、防除はして見たところが費用倒れにな
つてしまうというような状況が非常に多くありまして、そのために防除意識を非常に沮喪したそうでございます。こういうような事柄から
考えます場合におきましては、先ず次のようなことを
考えなければならんかと思うのであります。本年の稻熱病は全く人力の及ばないところに大きな
原因があつた。即ち天候が一番大きな
原因で、北陸四県に大発生をしたということのその状況に先ず鑑みまして、本年かかりました防除費の補助というものを大幅に行うことが必要であると思います。
それから被害の
程度は個人的にいろいろ差があり、又收穫物の品質なども病気の
関係で非常に低下しているわけでございます。尚又今年の稻熱病は土壤の醗酵による惡性ガスの発生というようなことから出たのでありますので、県内におきましても穀倉地帶が非常な被害を受けているというような事情を一応考慮に入れまして、供出の割当でありますとか、或いは農業課税ということに際しましては重きに失しないように、これを処置をして行くということが必要であると思うのであります。
その次は恒久対策として、今年の発生の実情から考慮いたします場合におきましては、こういうようなことを先ず
考えなければならんと思うのであります。薬剤の手配が速急にでき、防除に時期を失しない場合におきましては、これ程までの大被害にならなか
つたのではないかということが判断ができます。従いまして農薬の備蓄制度を確立をする、これは非常に緊急なことであり、これ程北陸四県のような大発生はしないのでありますが、愛媛県におきましても一時薬剤が不足しまして、広島或いは岡山などに薬を買いに行つたという事実もありますので、どうしてもこれは緊急に農薬の備蓄制度を確立して頂くということが必要であると思います。
尚、防疫法ができまして病虫害防除には一段の効果が上ることは誠に喜ぶべきことでありますが、植物防疫行政を実施する上におきまして、現在の機構がいいか惡いかということを先ず
考えて見なければなりません。丁度これは火事の場合の消防夫と同じことでありまして、一刻を争う事柄でございますので、この防疫行政につきましては一元化をする必要があるのではなかろうかと思います。現在におきましては、行政の方は農政局の方であり、発生予察ということは改良局の方であり、薬剤の取扱いは資材の方でや
つておるというような工合に、全くばらばらの状況にあるということは、火急を要する防除に支障が多いように存ずるのであります。従いまして国はこれを一元化しまして、いわゆる防疫課というものを作りまして、一体にな
つて動けるような組織というものが必要でなかろうかと思うのであります。更に稻熱病につきましては、技術的に、再々発生する地方におきましては可なりの知識がありますが、いつどこで突発するか分りませんので、全体的の防除の技術の普及宣伝というようなことをやる必要があるのではなかろうかと思います。私愛媛の方でずつと稻熱病のことを取扱
つて参
つてお
つたのでありますが、先程池田委員からも
お話がありましたように、愛媛では病気の発生の有無に拘わらず田植の前には必ず薬剤を撒布させるというようなこと、ボルドー液を撒布させるというようなことをさせておるのでありますが、又種の消毒というようなことにつきまして、北陸四県で
ちよい
ちよい伺
つて見たのでありますが、どの農家に伺
つても大概消毒はしておると、こう申しますが、消毒をしますと、
意味の分らない病虫は大体一遍も発生しないのであります。而も消毒をしても馬鹿苗の発生するところを見ますと、あれは恐らく消毒はしておらぬと思うのでありまして、ああいうような地帶におきましては、必ず発生を未然における
計画的防除ということが非常に効果が挙がるのではなかろうかと思います。尚先程農政
局長の方からも
お話がありましたが、結局病虫害の防除というのは予防が非常に必要なのでありまして、私は保險の方に命をかけるというのも結構でございますが、病虫害も種類によりましては保險の
対象にな
つておるのでございます。従いましてこの火を消す
設備を如何にしましても、火事を止めるという
設備に抜けがあつた場合におきましては、これは如何に保險制度がありましても、災害を蒙むつた全部の農家に
関係するわけでございませんから、結局保險金で埋め合わしてやるよりも、その金を病虫害の防除という方にどんどん注ぎ込んでやりまして、そうして病虫害から受ける被害というものを回避させてやるような方策をとりましたならば、農家が保險金を貰うよりは非常に農業経営というものは楽になるのではなかろうかと思うのであります。向その外これに附随しまして、いろいろな問題があ
つたのでありますが、あの地方におきましては、「つと」虫の発生、青虫、黒椿象などの被害というものも
相当な減收があるように見受けられたのであります。尚地帶としまして非常に御
承知のように低濕な地帶であり、殊に七月の中旬からの高温に対しましては、あの地帶は恐らくあのままで放置して置けば、毎年稻熱の被害を見ると思うのであります。あの地方の農家の方々は極力排水に努めておりますが、機械排水をや
つておるわけでございますけれども、機械の排水の電力料が非常に高くなりましたので十分にこの機械排水ができない、そのために土壤の肥料発効が遅れまして、稻熱の発生
原因にな
つたような事柄も十分に見受けられるのであります。この電力排水につきましては、電力料の値下或いは
増産用のものに対しましては、特別の料金を定めて頂きたいというようなことも如実に見せつけられて
参つたのであります。どうぞ
一つ北陸四県の稻熱病に対しましては、今申上げましたように、全く人力の及ばぬ
原因が主体にな
つております
関係上、特別の御高配を願
つて、あの地方の農家の生活の安定を図りますように格段の御配慮をお願いしたいと思います。