○境野清雄君 加藤
委員と私が
視察に派遣せられました関西
方面の
状況を
報告いたします。
日程は九月十一日から十七日まで一週間でありまして、
視察地は名古屋、一ノ宮、大阪、神戸、滋賀の東洋レーヨン、福井でありまして、
目的は
鉱業法案に関する
意見聴取、商品取引所
法案の施行
状況並びに
通商産業一般に関する諸問題に関してでございます。
各地の
視察状況を要約いたしまして
鉱業法案に関する問題、商品取引所
法案に関すること、中小企業に関する件、貿易に関する件、災害に関する件、この五項目に分けて御
報告いたしたいと思います。
第一に
鉱業法案に関する件について御
報告申上げます。先ず
継続審査にな
つておりまする
鉱業法案、
採石法案に関して名古屋の
通商局管内の
意見を徴しましたが、大体におきまして原案に賛成する者は多いのでありますが、
耐火粘土業者には若干の注目すべき反対論があ
つたのであります。それは今回の
法案において
耐火粘土は
法定鉱物に追加されるわけでありまするが、この追加に関する反対なのであります。
業者といたしましては多治見の組合と最近では三重県伊賀の組合も反対しておるということであります。
業者の
理由とするところは主として経済上から来るものでありまして、
法定鉱物になりますと
鉱山保安法によ
つて律せられることになり保安上の諸
施設が必要にな
つて来る。これは現在では労働基準局の要求する設備で足りるのでありまして、そういう面から行きましても諸
施設が余分にな
つて来るというような一つの議論なのであります。次に
法定鉱物になりますと、
鉱区税と
鉱産税とを納付しなければならない。
鉱産税はそれだけ
事業税を減ずることになりますけれども、
鉱区税の方だけは増税されることになる。第三番目には
法定鉱物になりますと、官庁
関係の書類は増加する虞れがある。
業者も多くは小規模なのでありまして、第一項の保安
施設と共に書類の多いことは中小企業をして大企業に比しまして不
利益な立場に立たせるものである。こういうのが
業者の反対
意見なのであります。
業者以外の反対者といたしましては、多治見の市長、土岐津町長、笠原町の助役が挙げられるのでありますが、
理由は主としまして次の二つなのであります。その一は治山治水の点からであります。
法定鉱物に
なつたために
土地の
所有者でない者が
採掘に当ることが
予想されますが、その場合従前よりも濫掘となる弊があるのじやないか。その第二といたしましては、財政上の
理由からいたしまして公有の山地を貸して
採掘しておりますが、これが
法定鉱物となりまして
鉱業権を
設定して
採掘が行われるような場合は、市町村の財政收入が減少することが懸念される。以上が
耐火粘土の
法定鉱物追加に対する主なる反対論でありますが、これらの反対論の多数が小規模経営なる点は特に注目されなければならない。天規模も小規模も同一の法令によ
つて律しようとするところに無理があるのじやないかというようなことが考えられるのであります。この点は特に
研究する必要があると共に、今後右の
法案審査に当りまして、公聴会を開催するような場合には、右の反対論者の
意見をも聴取すべきではないかというように考えるのであります。
次に商品取引所の施行に関する問題であります。商品取引所法は御承知の
通り、前回の国会におきまして成立したところの法律でありまして、八月五日に公布せられ同二十日から施行せられておるのでありますが、右の施行を
業界一般は如何に迎えておるかということを
調査することも今回の派遣
目的の一つであ
つたのであります。商品取引所法は一般に非常に観迎されているように見受けられたのであります。併し我々の会
つた者が多く当事者でありますから、その他の者からも取引所法の施行を不可とする者が全くないということから見まして、現在商品取引所を開設することは決して時期を失したものではなか
つたというようなことが考えられるのであります。商品取引所ができることによりまして、商品価格の真の位置を知ることができ、生産者は「つなぎ」取引を利用することによりまして価格の激変による不
利益をカバーし得ることに
なつたわけであります。取引所を開設すべき時期に際会していたという事実を立証するものといたしまして次のことが言えると思うのであります。
その第一は、取引所類似の取引が
各地で盛んに行われておることであります。即ち福井、大阪の人絹の「仲間取引」いわゆる「オツパ」のごとき、又神戸におきまするゴムの「仲間取引」のごときがそれであると思うのであります。併しながらこれらは取引
関係も限られておりよく市場の空気を反映しているとは言えないのでありまして、却
つて暴騰暴落の原因を作ることがあるということが考えられるのであります。取引所が開設されますれば、かかる取引の大
部分が取引所に移行されまして需要も供給も全部が一ケ所に会して取引することになりますから、これら「仲間取引」に伴う弊害を除くということができるというふうに考えたのであります。
取引所法が観迎されている
理由の第二番目は、
現行法で指定されておりまする九品目以外にも是非とも上場したいという物件がすでに考えられているということであると思うが、これは小樽、函館で雑穀、海産物を上場する取引所を設けたいという陳情はすでに前国会でも見られたのでありますが、名古屋で毛織物、福井で人絹織物を上場できるようにいたしたいと言
つておりますことはこの機運を端的に示すものと言えます。
従つて各地における取引所の設立
状況は頗る円滑でありまして、大阪の化繊におきましては十月十日頃、他は名古屋の繊維取引所、大阪の三品、神戸のゴム、福井の人絹はいずれも十一月には開設の運びに至るような
状況と見て参
つたのであります。併しながら商品取引所の将来について、全然懸念がないかといえば必ずしもそうではないと思うのであります。その最も大きな脅威と
なつたものは、前回の当
委員会でも問題に
なつたところの暴利取締に関する政府の態度であります。たまたま我々の
視察中に暴利取締に関する経済
調査庁の強硬な措置が問題とな
つてお
つたのであります。商品取引所の決定する価格と暴利との
関係如何が
業者の関心の的とな
つてお
つたのであります。暴利の何たるやについて議論することはここに避けたいと思うのでありますが、商品取引所を開設するからには商品の公正なる価格の決定は挙げて取引所に一任すべきであると思うのであります。若し価格統制を再び行おうとするならば取引所の機能は全く抹殺されるのでありまして、取引所
関係者が、これを憂えておるのは当然であります。
業者の多くは暴利という名目の下に価格を抑えても、騰貴する価格はこれを抑えきれるものでないのであります。むしろ需給の面において考慮すべきでありまして、表面的な価格を抑えることは本末を顛倒した措置であるという者が多いのであります。併し綿糸布については暴利取締の実施と共に若干の値下りを見たのでありますが、これは偶然の一致でありまして、暴利取締を行わなくともすでに値は下るべき大勢にあ
つたと考えられるのであります。決して暴利取締の
効果のみではないとい
つておるのであります。むしろ暴利取締が海外に喧伝されて、日本の相場下落を故意に
予想せしめ、そのために切角の買気配を頓挫せしめたという結果を来たしたと嘆いておりました。幸いに政府も物価再統制は行わない旨、再三声明しておるのでありますが、
業界も又これに期待しておる
状況であります。
然らば取引所法に関しては何らの不満もないかというに瑣末の点で二、三の改正
意見があ
つたのであります。その一は取引税との
関係であります。その二は会員の預託する会員信認金の有価証償について、証券取引所に上場されていない証券は如何に確実なものでもこれを許さないというのは不便であるというような意向か多か
つたのであります。これらはすでに
法案審議の際にも問題とな
つたのでありますが、今後更に
研究を重ねて行く必要があると思うのであります。その三は貿易の自由、殊に輸入の完全なる自由が望ましいということでありまして、これなくしては取引所は完全にならないというような
意見があ
つたのであります。
次に第三の問題といたしまして、中小企業に関する問題を申上げます。中小企業に関しましては一ノ宮と大阪と福井において観察し、
各地で
業者の
意見を聞く
機会を持
つたのでありますが、その困難性は大
部分が大企業との関連において生じつつあるという点で注目すべきでありますが、その二、三を述べますと第一に金融難は依然として強い。彼らの陳情と
意見とを聞いて見ると、現在の金融
業者には中小企業のよさを発見する能力と努力が足りないという感が深いのであります。
従つて政府は金融
業者に対して、中小企業の健全なるものを発見するための努力を勧めると共に、金融
業者が安んじて中小
企業者に資金を流し得るところの
條件を備えてやるように努力しなければならんと思います。即ち国家補償による中小金融、或いは中小企業信用保険制の実施等が考慮されなければならないと思うのであります。
第二に協同組合助成についての陳情が名古屋及び一ノ宮で聞かれたのでございます。協同組合の多くは従来の統制組合の因習から脱し切れず到る所で経営不振のようであります。中小企業庁においても漸く最近に至りまして協同組合課を新設したのでありますから、一段の努力を望む次第であります。尚組合は加入脱退が全く自由なる原則を持
つておるのでありまして、この原則がありまするためにたとえ組合が自発的に企業の濫設をみずから抑え、無暴なる競争によ
つて共倒れになることを防ごうといたしましても、加入脱退の自由は組合の企図を行い得ないようにしてしまうことを指摘しなければならないのであります。これは一ノ宮の毛織組合で強く主張されてお
つたのでありまして、
事業者
団体法との関連の下に、今後
研究すべき重要課題であるというふうに考えておるのであります。
第三は大企業との関連において中小企業が置かれておる不
利益でありまして、中小企業の多くは第一次加工部門たる大企業の製品を原料として第二次加工を施すものが多いのであります。例えば一ノ宮の毛織物、福井の人絹織物、大阪のメリヤスのごときものがそれぞれ大企業たる紡績、人絹
会社からその製品たる糸を受入れて織物やメリヤスにするのでありますが、この場合若し大企業の採算が有利な場合はなかなか原料糸を廻し呉れないということになります。大企業の下請となるか、然らずんば大企業の臨時余剰の原料だけを購入して加工するという不
利益な立場に置かれ勝ちなのであります。中小
企業者が団結して大企業に交渉するか、或いはみずから資本を集めて組合の力で原料部門の経営を行うかというようなことが一応考えられるのでありますけれども、それは決して容易にできることではないと思うのであります。大企業との関連を如何に調整するかは依然として大問題たるを失わないのであります。この
関係はゴム
会社の原料たる綿糸布についても同じであります。輸出がよいために内需に廻る綿布が少いことを訴えてお
つたのであります。
第四番目に、貿易に関する事情を聴取したのであります。貿易につきましては先にも述べましたように、輸入の自由が強く
要望されてお
つたのであります。輸入が為替統制の影響を受けて円滑に運ばず、そのために買入の時機を失して高い仕入をするということは国としても非常に損であるとの声が聞かれたのであります。
次に対等貿易への希望があります。占領下で対等貿易を主張することは無理かも知れませんが、外国の輸入税について見ても日本は依然として敵国の扱いを受け、甚だしいのはシリア、レバノン等におきましては日本は西ドイツ、イタリヤの二倍の輸入税を課せられておるという話も聞いたのであります。又クレームにも
業者は相当困
つておるのであります。クレームも必ずしも正当なるクレームのみではないのであります。
従つて小貿易
業者は貿易組合のようなものを結成いたしまして、クレームに対して相互補償する制度を作り、国家が再補償するごとき制度の生まれることを望んでお
つたように見受けられたのであります。
輸入税については、染色
関係者から高級染料の無税輸入が主張され、又一ノ宮毛織染色
業者から公団の手持染料のために高級染料の輸入が手控えられるとの噂があるけれども、輸出品の重要原料であるからその措置を誤らないようにとの陳情がありました。東洋レーヨンにおきましては、将来の輸出
産業としての化繊工業保護論と共に、重要
産業の保護を関税によるべきか、生産奨励金によるべきか大いに考慮すべき点であるのであります。
雑貨、殊に名古屋の陶磁器
業者の希望として注目すべきは、貿易協定に際してしばしば雑貨が協定品目の中に入れられない危險があるから注意して欲しいということ、更に陶磁器のごとき重要貨物につきましては是非とも日本船による安い運賃が必要であるから日本船による運搬に関し当局の一段の努力を望む旨が述べられたのであります。
最後に災害に関しての
報告を申上げます。我々の旅行中
キジア台風の進路如何が毎日心配されてお
つたのでありますが、
キジア台風は幸いに我々の
視察地へは襲来しなか
つたのであります。併し京阪神並びに福井におきまするその前のジエン台風による
被害が著しいのであります。そうしてその
報告を聞いたのでありますが、出発前に大阪工業会から書面で和歌山県知事から電報でいずれも
委員長宛に、台風
被害が激しいから復旧融資その他について格別の助力を望む旨の陳情が来てお
つたのでありますが、
現地において見聞したところは相当な
被害があ
つたように見受けて参
つたのであります。大阪
通産局の
調査によ
つて九月九日現在までに判明いたしました
被害状況は鉱工業のみで百五十三億、これが復旧に要する資金は設備資金百六億、運転資金九十六億、合計二百一億という厖大な額を要するというような
状況であります。今回の災害で特に注目すべきは阪神の海岸地帶でありまして、ここに約二メートルの高潮が襲来して
工場、倉庫等を潮浸しにしたことであります。高潮を防ぐための防潮壁のある
工場は極めて少く、そのためにたとい防潮壁はあ
つても地下からの湧水を汲み出さねばならん
状況であ
つた。かくのごとく高潮の襲来することは地面の沈下したことも一因であ
つて、必ずしも不用意なる立地選定によるとはいえないらしいのであります。この際高潮の危險地帶から
工場を他に移転することも考えらますが、又海岸地帶に防潮壁を築くことも考えるべきであろうと思うのであります。もとよりその
費用は企業のみのよくなし得るところではないのでありまして、日本全体としての災害
対策の重要なる一環として復旧
対策に遺漏なきことをお願いしたいと存ずるのであります。
以上私共の
視察して参りました
報告の
概要でありまするが、
各地におきまするところの
要望事項はそれぞれ妥当なるものと私共も考えてお
つたのでありまして、政府におきましても又本
委員会におきましてもこういう問題に関しまして格段のお力添えを願いまして、
要望事項の貫徹するように御助力を賜わりたいと存ずるのであります。以上甚だ
簡單でありますが私の
報告を終ります。