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菊川孝夫君
只今議題となりました「
日本国有鉄道の
本州及び
九州における
地方組織改革実施延期に関する
決議案」の
発議者の一人といたしまして
提案理由の御
説明を申上げます。
日本国有鉄道は来たる八月一日を期して
本州及び
九州における
地方組織の
改正を行うこととして
只今鋭意その
準備を進めております。この
改正は
国鉄創設以来正に画期的な大
改正でありまして、
我が国の
経済社会に及ぼす影響は極めて大きいものがあります。
国鉄が昨年六月一日、運輸省の
所管を離れまして
公共企業体として
運営されることになりましたゆえんのものは、
国鉄は
国民大衆のものであり、その利益と幸福のために
運営されなければならないという高邁な理想を追求するためであることは申すまでもありません。従いましてかかる大
改正を
実施するに当
つては、たとえ
日本国有鉄道法にその明文がないといたしましても、国の
最高機関たる
国会にその
構想意図を
説明して
理解を求め、助言を要請することは当然の処置であります。然るに
国鉄の
幹部は
管理委員会の承認のみでこと足れりとして、極祕裡にその
計画と
準備を進めたのでありまして、彼らはこれを以ちまして
国鉄の
自主性を擁護するものなりと盲信しておるようでありますけれども、勿論
国鉄そのものを政争の具に供すべきではありませんし、
公共企業体は
経理と人事の
独立があ
つてこそその本来の使命を果し得ることは申すまでもありません。併し
公共企業体である限り
国民の
批判を受け、その意向を斟酌しなければならないのは当然であり、
国鉄のような
独占企業におきましてはより必要なことであります。
国民の声は
国会を通じて最も権威あるものとして反映されておるのでありますから、今回のような
組織の大
改正を行います場合には、予め
国会に
説明を
行なつたからと
言つて、決して
自主性と相反することにならないのであります。これをなさなかつたところに、
国鉄に今尚
官僚性が根強く存在していることを見逃すわけに行かないと思います。
官僚独善の危険は我々が今日まで余りにも多く経験したところでありまして、この際
国鉄当局に対しまして強くその反省を求めなければならないと思う次第であります。今回の
組織改正は従来の
本庁、
鉄道局、
管理部及び
現場の四
段階制を改めて三
段階制とすると共に、従来の地域的な
横割組織を改めて職能的な
縦割組織とし、
本庁の下に
地方営業支配人を配置し、
本庁、
鉄道監理局及び
現場の三
段階制にしようというものであります。これによ
つて従来全国にあつた
九つの
鉄道局、三十七の
管理部を
廃止して、新たに二十七の
鉄道監理局、外に
本州、
九州だけでも十五の
地方営業支配人、五十の
地方営業所、二十七の
地方経理事務所、十四の
地方資材事務所を
設置するのであります。尚この外に
九つのやはり
運輸支配人を配置することにな
つております。その狙いは業務の
簡素化、
管理部門の
人員縮小、
責任体制の
明確化、
サービスの改善によ
つて、この
独立採算の
体制を整えようとするところにあるのであります。
国鉄当局が従来の
官庁組織から拔け
切つて、新らしい
組織を以て能率の増進、
サービスの
向上を図り、且つ
責任体制を明確にし、
独立採算制を確立して
国民に奉仕しようとする努力と
熱意に対しまして、敬意と賛意を表するに吝かでありませんけれども、今回の
計画は
幹部が独善的に強行する嫌いが多分にありまするために、逆効果を生ずる危険も又極めて多いことを恐れる者であります。一例を挙げますならば、
国鉄労働組合はその
趣旨に賛成であるが、
準備が十分に整
つておらないから、一ケ月
実施を延期するように申出を
行なつていますが、
国鉄の
幹部はこれを拒否しており、又従来何かと
国鉄に協力して参りました
管理部所在地で、今回
監理局設置を見ないことに
なつた
地元民は、一致して
監理局の
設置、或いは
所管区域の是正を
国鉄当局に
陳情いたしましても、
運輸事業の実際を知らない素人の無
理解として、甚だしいのは極めて横柄な態度ではねつけているという事実もあるのであります。
国鉄の
運営は個人の
責任にありとする
国鉄幹部諸君の
気慨は勇ましいかも知れませんけれども、
戰前、
戰時中を通じまして、我々は
軍閥官僚のこうした勇気と気概の犠牲に
なつたことを忘れてはなりません。尚この
改正について
関係方面も非常な
熱意を以て指導を與えていることを聞いております。我々はその好意に感謝し、且つアメリカの
近代的事業管理の方式を採入れることに怯懦であ
つてはいけないと思うのでありまするけれども、十分に受け入れる
体制を整えてからでないと、
国民感情の相違から来るところの無用の
摩擦対立によ
つて、折角の
組織をして十分にその機能を発揮できないことになるのであります。先般テスト・
ケースとしてすでに
実施しておりまする
北海道、及び
四国における
実績を見まして、再
検討の必要な点が多々あることを認めざるを得ません。
以上申述べましたように、この
組織改正は
国鉄にと
つて極めて大
事業であるに拘わらず、これを
実施するに内外の呼吸がぴつたり合致して、その
実施に邁進しようとする
体制が整
つておらないことを認めなければなりません。こうした大
改正は主体的な
條件が十分に整い、且つ客観的な好
体制ができ上
つてこそスムースに履行され、所期の目的が達成せられるのであります。従いましてこうした気運を醸成するために、暫く時をかす必要を痛感する次第であります。
主体的條件から申しまして、第一に
北海道及び
四国においてすでに
実施しておりまするモデル・
ケースの
実績について未だ確信を掴み得るだけの
資料が示されておらないのみでなく、いろいろと
批判が起
つているのであります。現に
北海道の某
監理局におきまして、
輿論調査を行いましたところ、この
改正を支持する者は極めて少数であ
つて、圧倒的に再
検討の必要を強調しておる事実は、このことを立証していると思います。
第二に、運輸大臣も、
国鉄総裁も、当
委員会における
質問に答えて、近き将来において
地方の要望にも応え且つ
実績に徴して考慮すると言明している事実によ
つても、確信の程が疑われるのであります。特に僅か三億円の問題で、最高裁判所において組合側と係争しなければならないような
国鉄の
経理状態の中から、相当額の経費を注ぎ込んで行う
組織改正が、再び
改正しなければならないようなものであ
つては、
国民に対して申訳ないと存じます。
第三に、運輸大臣も、
国鉄総裁も、この
改正に要する経費は約七億であると言明しておりまするけれども、労働組合側の言明を見ましても、或いは專門家の意見を徴しましても、二十億以上要するであろうと言われております。従いましてこの食い違いから推察して、予算の闇流用が行われる危険が多いと存じます。最近
国鉄におきまして、度々大事故が勃発して
国民に迷惑をかけておりまするが、その原因は、線路、車両の老朽によ
つて生ずる場合が極めて多いのであります。今仮にこれらの補修に要する
費用から姑息的に
組織改正のために流用せられるようなことは、
国鉄の安全を保持する上から重大問題であろうと存じます。この
組織改正は、名分の立つた堂々たるものであります限り、これに伴う予算も、姑息な手段によることなく、必要経費を遠慮なく計上して、補正予算として
国会の議決を求めるべきであると信じます。
第四に、
日本国有鉄道法第二十七條によりますると、
職員の任免はその者の受験成績、勤務成績、又はその他の能力の立証に基いて行うと規定されているに拘わらず、との科学的人事管理の方式が何らなされておらないのであります。先日
組織改正に伴う
幹部職員の発令を
行なつたのでありまするけれども、旧態依然たる最高
幹部の独断的任免であつたのであります。
国鉄は
鉄道省当時から最も学閥人事が牢固としておつたのであり、今日尚その形骸が温存されておりまして、
職員中にはこれに対する不満が極めて強いものがあるのであります。
組織は
組織自体として動くものではなく、これを動かすものは何と
言つても人であると思います。
組織のみ如何に新らしくとも、これを運用する人の頭が切換えられない限り、決してその
組織は生かされないことは申すまでもないのであ
つて、それがためにこの
組織を契機として、法律に基くところの合理的、科学的な人事管理が行われ、広く人材登用の途が講ぜられる必要があるのであります。このことがなされていないところに大きな問題があり、
組織改正に対しまして、画龍点睛を欠くと申さなければなりません。以上の諸点を矯正する必要からしても、この際暫くその
実施を延期するのが至当であることは明らかであります。又これを客観的に見まして、第一に朝鮮事件に関連して、内外の政治、
経済、社会の諸情勢は異常に緊迫して参りまして、いつ如何なる突発的な事態が発生せないとも保障されません。八月一日に
組織改正を行いまして、一応それが軌道に乗るためには、どうしても三ケ月の時日を要すると思います。朝鮮事件の推移に徴しまして、最も重要なる期間に相当することになるのであります。この期間におきます
国鉄の任務は重大且つ微妙なものがあることは申すまでもなく、この
組織改正によ
つて、一時的にせよ、能率の低下、
輸送の混乱が内外に及ぼす影響は極めて大きいと思うのであります。
次に
宇都宮、姫路、
甲府、下関、青森、松阪等々の
地方から熱心な
監理局設置の要望がせられていることは、皆さんすでに御承知の通りであります。これら諸
地方の
地元民諸君の要望も、一概に單なる門外漢の反対であるとして看過し得ないものがあります。
国鉄は
戰前、
戰時中を通じまして、これら
地方の自治体を初め住民諸君に種々協力を要請したのであり、今後もその協力に俟たなければならんことは勿論であります。従
つてこれらの
地元民の
理解を求めた上で
廃止すべきは
廃止するだけの
措置を講ずる必要があります。従来のような一方的な押しつけでなく、十分の
理解を求め納得を得ることこそが民主主義の発展のために欠くことのできない要素であります。こうした見地からいたしましても、八月一日は絶対的なものでない限り、面目にこだわることなく、率直に暫く
実施期品を延期して、然るべき
措置を講じ、且つ内外の諸情勢を判断して最も適当なる時期を捕えて、十分な
準備を整えた上で
組織改正を
行なつて所期の目的を達成せられんことを期待する次第であります。政府はよろしくこれらの事情を勘案して、この際
国鉄当局に対しまして、その監督権を発動して、暫時延期の勧告を行い、指導の義務を果さるべきことが至当であると信じまして、本案を
提出した次第であります。
只今から決議文を読み上げます。
日本国有鉄道の
本州及び
九州における
地方組織改革実施延期に関する決議
日本国有鉄道は、その機構に関して、今回
国有鉄道創始以来ともいうべき極めて広範囲にわたる大
改革を
実施せんとしている。
元来、
輸送機関は、その国の
経済の動脈であり、
国民の足として安全、迅速、正確、利便を最高度に確保しなければならないものである。従
つて、その
機構改革に当
つては、
国民に不安の念を抱かしめないように、
愼重な
計画と、完全な
準備とを必要とすることはいうまでもない。殊に内外多事の現在の国状においては、
輸送機関の能率を保持する必要上、新機構の
実施には充分の
準備期間をとるべきである。
しかるに、今回の
機構改革は、その
準備期間において全く不充分であるといわなければならない。よ
つて
政府は、当分その
実施を延期するよう適当の
措置をとるべきである。
右決議する。
以上が
決議案文であります。どうか
愼重御
審議下さいまして、御賛成願いたいと存じます。