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1950-07-20 第8回国会 衆議院 厚生委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年七月十五日       青柳 一郎君    大石 武一君       松永 佛骨君    柳原 三郎君       岡  良一君 が理事に当選した。     ————————————— 昭和二十五年七月二十日(木曜日)     午前十時三十九分開議  出席委員    委員長 寺島隆太郎君    理事 青柳 一郎君 理事 松永 佛骨君    理事 金子與重郎君 理事 岡  良一君       田中  元君    中川 俊思君       堀川 恭平君    松井 豊吉君       亘  四郎君    柳原 三郎君       堤 ツルヨ君    福田 昌子君       苅田アサノ君    松谷天光光君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 黒川 武雄君  出席政府委員         厚生政務次官  平澤 長吉君  委員外出席者         社会保障制度審         議会会長    大内 兵衞君         総理府事務官         (社会保障制度         審議会事務局         長)      小島 徳雄君         專  門  員 川井 章知君         專  門  員 引地亮太郎君     ————————————— 七月二十日  理事柳原三郎君の補欠として金子與重郎君が理  事に補欠当選した。     ————————————— 七月十九日  災害救助法の一部を改正する法律案内閣提出  第一三号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  理事互選  災害救助法の一部を改正する法律案内閣提出  第一三号)  社会保障に関する件  地方税法案につき地方行政委員会に申入れに関  する件     —————————————
  2. 寺島隆太郎

    寺島委員長 これより会議を開きます。  まず理事互選を行います。前会において選任せられました理事柳原三郎君が、理事の辞任を申し出られておりますので、この際その補欠選任を行わねばなりませんが、選挙の手続に関しましては、委員長より御指名申し上げることにいたして御異議ございませんでしようか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 寺島隆太郎

    寺島委員長 御異議なしと認めまして、金子與重郎君を理事に御指名申し上げます。     —————————————
  4. 寺島隆太郎

    寺島委員長 次に、災害救助法の一部を改正する法律案議題といたし、審議に入ります。まず政府より提案理由説明を聽取することにいたしたいと存じます。黒川厚生大臣。     —————————————
  5. 黒川武雄

    黒川國務大臣 ただいま議題となりました災害救助法の一部を改正する法律案について、その提案理由説明いたします。  災害救助法第三十六條は、国庫負担に関する規定でありますが、これによりますと、都道府県災害救助のために支弁した費用合計額が、前年度標準賦課率で算定した地租家屋税事業税、いわゆる三收益税合計額の百分の五を超過したとき、その超過額に対して一定の率で国庫負担することになつております。ところが三收益税は、数次にわたる標準賦課率引上げ等のため、非常に増加を示しており、昭和二十一年度昭和二十四年度とを比較しますと、五十八倍の増となつております。これに対して災害救助に要する費用は、物価騰貴を勘案して若干の改訂を行つたにもかかわらず、法制定当初に比較して、三倍の値上りになつているにすぎません。つまり法制定以後、都道府県の三收益税増加率応急救助費用増加率との間には、今日においては著しい不均衡を生じて来ておるのでございます。その結果よほどの大災害が発生しない限り、国庫負担がないというきわめて不合理な事態を生ずるに至り、第三十六條の規定は、実質上制定当初の意味をまつたく喪失していると申しても過言ではないのでございます。災害は予見し得ない、しかも多額の財政支出を伴うので、都道府県財政負担は、ただでさえ容易ならぬものがあり、また災害救助法では、非常災害時の罹災者救助は、国の責任で行う建前になつていることからしても、事実上国庫負担が停止されている現状を早急に改める必要があると、かねがね痛感されていたのであります。たまたま今国会に提出されております地方税法案によりますと、従来の都道府県税制が根本的に改変され、地租家屋税事業税は、その課税主体その他すべてにわたり改正を加えられることになり、従つてこの三收益税国庫負担算定基礎にすることが不可能となりましたので、これにかわるものを新たに採用せざるを得なくなつたわけでございます。そこでこの機会に懸案の第三十六條の改正を行うこととし、第一には、国庫負担基礎として、従来の三收益税合計額にかわるものとして、地方税法案に定める標準税率で算定した当該年度都道府県普通税收見込額を求め、第二には、都道府県の支弁した救助費が、その額の百分の一を超過するときに国庫負担をなし得るように改め、昭和二十五年度より適用することといたしたのであります。すなわちこの改正案は、地方税法案により都道府県税制が改まる機会に、国庫負担基礎を新税制に合せるとともに、国庫負担についての前述の不合理を是正し、真に地方財政の実情に即した国庫負担をなし得るようにしたものでございます。この改正により都道府県財政負担が著しく軽減される結果、都道府県災害救助活動が、一層積極的に実施されるようになり、罹災者救助の万全を期し得られることと確信いたす次第でございます。  何とぞよろしく御審議の上すみやかに可決せられるよう希望いたします。
  6. 寺島隆太郎

    寺島委員長 本法案の審議につきましては、この程度にとどめまして、暫時休憩いたします。     午前十時四十七分休憩      ————◇—————     午前十時五十六分開議
  7. 寺島隆太郎

    寺島委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  次に、社会保障に関する件を議題といたします。本日は社会保障審議会会長大内兵衞君、並びに事務局長小島徳雄君の御出席を願いまして、終始本問題について検討いたしたいと存じます。まず大内会長より現在の社会保障制度審議会で御検討せられております試案について、御説明願いたいと存じます。大内社会保障審議会会長
  8. 大内兵衞

    大内説明員 お許しを得まして、社会保障制度研究試案要綱を御説明いたしたいと存じますが、非常に大きな案でございまして、多岐にわたつております関係上、案そのものをあまり詳しく説明することは適当でないと存じますので、案はどういう由来でできたか、今日どういう位置にあるか、将来厚生関係立法としては、どういうふうにお取扱いをお願いしたいか、そういう点を二、三述べてみる考えであります。  社会保障制度改革しなければならないことは、終戰後から既定の事実とされておりました。と申しますのは、憲法第二十五條に、すでにそのことがはつきりと書かれておりまして、日本国民は健康にして文化的なる最低生活を保障せられるという條文が入つたときに、すでにその必要は生じておつたわけであります。しかし問題が広汎でありますのと、ほかの諸制度改革とにらみ合つて、しかもそのあとからいろいろな関係上うまく行かないということもありまして、だんだんと遅れておるものと考えます。しかしいろいろの改革がすでに一段落に達しようとするときにおきましては、すなわち入権に関する諸改革教育に関する諸改革に農業の土地関係に関する諸改革終つた今日におきましては、残るところの最大の制度上の改革は、どうしても社会において生存競争に脱落した人たちを、国家はいかにして救済し、かつそれらの人たち人間としての生活を保障するかという問題になると思います。そういう意味においてだんだんと延び延びになつておりましたが、昨年の五月に社会保障制度審議会なるものが設置されまして、昨年一ぱいこの社会保障制度に関する現在の諸制度を彌縫することに多忙でありました。と申しますのは、非常にこれらの制度が混乱に陷つておりまして、特に財政上ほとんど研綻に瀕する部面も多いわけでありましたから、これらを何か彌縫しないと、その次の問題には入れないという状態でありました。本年に入りまして、本格的に社会保障制度の実態に関する調査を始めまして、本年の七月において、社会保障制度審議は大体の案をつくつたわけであります。あるいはお手元に参つておると思いますが、社会保障制度研究試案なるものがこれであります。これは名称の通り試案中の試案でありまして、このことでただちに法律的な効果を持つとか、あるいは必ずこの通り立法されるというものではありませんが、社会保障制度審議会としては、大体こういう趣旨ではいかがなものであるかということで、目下各方面意見を聞いておるわけであります。この案をもちまして、日本の各地の主要都市において関係諸団体の代表者諸君意見を目下徴しておりまして、大体その過程が終り、残るところの次の段階は、八月の初旬におきまして、すべてこれらの意見を総合して、再び研究会を開き、そうして大体の案を得たならば来月の十三日に大体の決議を得たいと考えております。もし幸いにしてその決議が得られますならば、それを政府に対する勧告書として提出するつもりであります。社会保障制度審議会会議法によりますと、これが提出されますと、大体その趣旨従つて議会立法をする段取りに入らなければならない、あるいは政府がその段取りに入らなければならない、そういうことになりますので、その政府議会との関係それ自身は、法律には何ら規定してありませんが、会議法の方から申しますと、勧告が終れば当然に政府もしくは議会が、その趣旨従つて立法してくれるものと期待しているというふうにつくられておる考えでありまして、一応社会保障制度審議会そのもの任務一段落に達すると心得ております ところがこの社会保障制度なるものは、非常に広汎な範囲を持つておりますので、それから財政的にも相当大きな負担国庫にかけるということでもあります。かたがたおそらくは日本厚生行政つて以来の大改革意味することであろうと思いますから、あらかじめこの案の性質の御説明をお聞きいただくということは、私どもにとつては非常に光栄であるのみならず、諸君におかれましても、それぞれの心用意のために御必要のことかと存じます。  大体そういう地位に私ども会議がありますのですが——もつともその間にまだ多少の問題がありますが、かりにそういうふうに進行いたしますとすると、それは大体どういう内容のものであるかということに話がなると思います。この社会保障制度試案というものは、率直に結論を申し上げますと、この社会保障制度に関して、世界的の標準に比べますと、やらなければならぬことが非常に多いのにかかわらず、日本財政状態が、そういうことを許さないような状態にある、その両者のはさみうちにあいまして、その両者利害をまず妥協させるということに非常に苦心を拂つたのでありまして、私ども社会保障の問題に関心を持つ者、それの完成を期待し、希望する者から申しますと、案自体は非常に貧弱であります。しかし一歩財政負担の方から考えますと、この案でも、そうやすやすとできるというふうには考えないのであります。それで、社会保障制度審議会が、初め問題を立てたときには、二つの問題に当面いたしました。一つ日本社会保障制度なるものは、戰争前からありましたし、特に戰争中に発達した関係から、そしてそれらの時代は、日本経済が非常に著しく変動した時代でありました関係から、すなわち社会保障制度を取上げる精神そのものが、非常に局部的であつたということと、しかもその局部的な、つまり割合に大きな志を持たない社会保障制度なるものが、非常な経済の激浪にさらされるということのために、社会保障制度なるものは、戰後において数々の制度としては存在いたしておりましたが、非常に大きな破綻状態にありました。それはどうしても彌縫しなければならぬ状態で、彌縫してもなかなか社会に役立つように、社会のからだの現われておるところ、痛いところを包むに足りるようなものではないということが一つ現実でありました。それに対してもう一つの皮肉なことは、世界情勢社会保障制度なるものを、この数十年間に非常に進歩させたということであります。このことをお話すればむろん長いのでありますが、ともかくもイギリスは一九一一年以来の諸制度十分目的を達しないということでありまして、一九四二年すなわち戰時中に、すでに非常に大きな包括的な社会保障制度改革ということに着手いたしまして、それが一九四一年の八月に労働党政府によつて完全に実行されるということになりました。その趣旨は、つまり彼の言葉で申しますと、搖籃から墓場までの人間生活それ自身を、全部国家がめんどうを見るという精神においてできております。と申しますのは、つまり社会劣者廃者不具者、あるいは困窮者、それらすべての者の責任国家がとるという、非常な大きな思想においてできております。これに対しましてアメリカも非常な進歩をしまして、ルーズヴエルトの一九三五年の社会保障法なるもの以来、それが非常な発達を遂げました。アメリカ精神は、このイギリスのように社会主義的ではなく、資本家労働者とが相互責任をわかつて、あらゆる問題を解決するということに主力が注がれておるのでありまして、その点においてはイギリスのとは違つて、まだ個人主義的ではありますが、しかしその内容それ自身は非常なぜいたくなものでありまして、つまり人間は六十まで働きますと、何にもせずにりつぱに食える社会をつくろうということがありありと出ておる、そういう状態であります。そういう世界情勢日本に反映いたします。この反映は具体的には日本憲法を通じて反映したように思います。そうしてまた同じ思想がマツカーサーの日本政府に対する勧告となつて現われ、そしてまた社会保障制度を大いにつくつたらどうかという話になつたと思うのでありますが、このことは非常にむずかしい問題をわれわれに提供いたします。すなわち一方では国内の破綻した諸制度をどうするかという問題、他方においては世界のこういう大きな流れに従つて日本国民もまた自覚し、かつそういうことを希求するのは当然であるということを承認しなければならない。そういう二つ交叉点にわれわれの任務を見出したわけであります。  そこでまずここに試案として出て来たのは、第一には、ともかくも現在ある社会保障に関する諸制度は維持して行く、破壊するというふうにはしないで、悪いことは全部直してとにかく会計が立つようにする。これは相当金を要しますし、また行政上の改革を要するのでありますが、とにかくそういう目標を達する方法考えるということで、一つは出発いたしました。それから第二には、少くとも社会保障制度なるものは、局部の人々関心の事柄ではなくて、全国民関心事であり、全国民利害国家が持つものであるということと、少くとも非常にたくさんな量においてはできなくても、少い量においても全国民に実質的に知らしめ得るような制度をつくらなければならぬ。これらの点からはなはだ貧弱でありますけれども、全国民に対して養老年金あるいは寡婦、あるいは援助のない子供不具者廃疾者、そういう者に対しましても、国家がごくわずかな金でありますけれども、ある程度の金を現実にやるという制度をつくらなければならぬと考えました。  それから先ほど申し上げましたように、いろいろ戰時中につくつた制度は、まじめなものもありますけれども社会的、歴史的に申しますと多少のまじめを欠いておるものもありました。と申しますのは、たとえば年金制度のごとき、戰時中労働者その他年金をかける人から金をとるという方面国家が目をくらませて、それらのとつた金を他日国民に返すというふうには力を注いでいない。それは非常に不都合な結果を生じたわけでありまして、インフレーシヨンがとまつてつまりせつかく労働者がかけた年金は、現実に今日ただになつているという状態を、何とかして合理的な基礎の上に立つように試みた次第であります。それから市町村が今日国民保險という制度を持つております。これは全国市町村のうちで約六〇%、六千の市町村が持つているのでありますが、このうちの大半は哀れな財政状態にありまして、制度それ自体が危機の状態にある。これは農村の人々が、都会の人々に比較して健康状態があまりよくない、少くとも健康に関する知識及び健康を維持する方法を使うという点においては、非常に遅れているということを相照応いたしまして、はなはだ残念に思うところでありますから、社会保障制度審議会は、これを何とかして健全なものに、会計の立つようにしてやりたい、それには国庫がある程度の負担を、従来よりはよけいするという制度にしたい、そういうふうに考えて案をつくりました。そういうような諸制度をあわせまして、いずれにいたしましても全体として国民保險健康保險失業保險労働者災害保險、船員の保險共済組合、そういうような従来ある諸制度を通じて一つの一貫した制度の中にそれを織り込んで、相互の間の不都合と重複とを避けるということを試みた次第であります。そういうふうにいたしますと、従来の保險制度そのものを改善するという趣旨が徹底すると同時に、その改善を全国民に及ぼすというふうにやつて行きたい考えであります。いずれもはなはだ微少でありまして、イギリスアメリカ制度と比べますと、徹底せざることおびただしいのでありますが、しかし乏しきをわかつというような、言い訳のようでありますけれども精神としてはそれしかないのでありまして、だんだんとそういうふうに進んで行きたい考えであります。  もう一つ、それらの諸制度改革するとともに、公衆衞生とか、あるいは福利施設、あるいは国家の貧乏人に対する特殊の給與、この三つの大きな制度をこの一つのシステムの中において考える。つまり衞生に関しましても、福利施設に関しましてもあるいは従来の民生委員扱つてつたような昔からある貧困者の問題、窮迫者の問題につきましても、それぞれ従来の制度を一応ずつと見渡して、そして新しい保險制度とどういう関係にあるかというふうに、それを調整する考えを持つております。それが全体として、いわゆる社会保障制度なるもの、すなわち国民最低生活を保障するというふうなその中心思想とにらみ合つて、全体としての統一をはかりたいと考えております。それらのうちでさらに重要に考えておるのは、健康につきましては、一般に公的な病院を拡大いたしまして、そうしてそれを特に府県の中心地にそういう病院を設け、それをヘルスセンターというようなものといたしまして、一般社会医療組織の新しい施設を広く国民の間に及ぼさせる中心機関としたい、というふうに考えております。公衆衞生としてはそういうふうに行くと同時に、国民に対しましては、先ほど申し上げた社会保險制度を通じ、またそういうヘルスセンターの出張所のようなものを通じまして、予防衞生ということに力を注ぐつもりであります。つまり早くいろいろな病気を診断し、それからまた簡單に治療できるものについては、なるべく早くやるという方法を講ずる考え中心にして立案をしておるのであります。  もう一つは、肺病——特に肺病といつて悪いかもしれませんが、新たに結核を征服するということを、この社会保障制度の諸方面にその精神を織り込んで、各方面から国民病としての結核を征服するという最初組織的な試みをしようとしておるつもりであります。これには非常に巨額な金も要する次第でありますが、しかし今日の医学的な知識と技術とをもつていたしますならば、結核患者が今日の日本のように百五十万も全国にあるということは、確かに文明の恥辱でありまして、そのことが完全に撲滅できるという世界情勢に照しますと、何ほどかの決心をもつてその第一歩を踏み出すことが必要であると考えまして、そういう趣旨でこの案ができておるのであります。  その他いろいろな問題がありますが、たいへん広汎な組織になつておりますので具体的にこれを法律にいたすとしますとこれ全体が一つ法律になりますか、あるいは区々に切つて幾つかの法律としてつくつた方がいいか、そういう問題は未定でありまして、諸君の御指摘によつて、これから政府がそれぞれの方面に進むことと思いますが、これは日本厚生行政を完全に統一し、革新するものでありますから、われわれの案によりますと、もしできますならば、新たに一つ主管省をつくつて、そしてこれらの諸行政一つに統一する。かりにこれを社会保障省と名づけますならば、社会保障省なるものが、今日の厚生省の大部分と、それから労働省その他の諸省の一部分とを吸收いたしまして、それを新たなる省として、しかも相当大きな省としてこれをやるのが適当であろというような勧告になつておる次第であります。  これらのことをやるのに、しからばどのくらいの金がいるだろうかという問題であります。これがおそらくは皆さんにおきましても、ただちに質問されることでありましようし、この案の運命自体を決する問題であると思いますが、私ども立案趣旨は、何とかして実行できるように、この際どうしても社会保障制度なるものを日本にイニシエートさせるということが必要であるので、過大な要求をいたしますと、それは政治上の理由によりまして、また財政上の理由によつて不可能であるということを十分によく承知いたしておりまして、最初に申し上げたように、はなはだわれわれとしては満足しないのでありますが、がまんがまんを重ねて、ぜひともできるような案、国民議会も、どうしてもこの案ならばやらなければならぬというふうに考えるであろうというような案をつくつたつもりであります。大体において普通の年でまず七、八百億という年額の支出、そのぐらいのところを見当としております。現在これは計算が非常にまちまちでありまして、広く社会保障制度といいますと、非常な広いものになりまして、あるいは教育とか、あるいは子供の給食とか、そういうようなものの費用も入れると、たいへん広いことになりますけれども、そうでなく、この案の範囲として、プロパーな固有の社会保障制度考えておるものの現在の予算では、国家予算としてどのくらいあるかということを計算いたしてみますると、大体三百五、六十億でないかと思われるのであります。それに継ぎ足してこの案では、まずスタートして、二、三年後における平年度におきましては、四百億円ぐらいがその三百五十億に加わるということになります。つまりこの案全体としては、七百五十億ぐらいの案であるということが、大体として申し上げることができると思います。しかしながらこの案自体の中に、場合によつて財政上の都合とか、あるいはほかとの見合いによつては、もう少しふやさなければならぬ部分もありますし、また減らし得るように考案してある部分もあります。そういうことがありますから、今申し上げた数字は固定的なものではありませんで、ある程度増加したり、ある程度減少し得る可能性のある数字と御了解願いたいのであります。  私はまだいろいろ御説明申上げたいところがあるのでありますけれども、むしろ御質問に応じて個々の点は申し上げた方がいいだろうと存じます。大体の趣旨、どういう趣旨でわれわれはこの案をつくつておるか、またこの案なるものは、立法府にとつてはどういう位置のものであるかということを一応御説明申し上げた次第であります。何の心用意もいたしませんで、はなはだまずい説明をいたしまして恐縮に存じます。
  9. 寺島隆太郎

    寺島委員長 質疑の通告がありますので、これを許します。岡委員
  10. 岡良一

    ○岡(良)委員 私は社会党の立場から、この画期的な社会保障制度試案要綱が、ようやく日の目を見たことにつきましては、社会保障制度審議会の各委員諸兄に対して衷心より敬意を表し、感謝の意を表したいと思います。あわせてまたその間きわめて多端なる会長の職務をとられたる大内教授の御労苦に対しましても、私は衷心から感謝をいたす次第であります。この試案要綱は、今私どもの手元にいただきましたので、これをしさいに目を通して、いろいろ細部にわたつて何かと会長の御意見を伺いたいと思つておりますが、その余裕もありませんので、今大内教授の御説明なつたお言葉について二、三点お尋ねをいたしたいと思います。  私ども考え方からいたしますと、大内教授のお言葉によりますと、財政的な顧慮について、常非なる苦心を拂われたというでことあります、従つてお言葉をそつくり繰返しますと、まことにおそまつな案ではあるが、しかし現在の財政事情ではいたし方がないというようなお言葉であつたようでありますが、財政的な余裕があるとか、社会保障制度予算的な裏づけが完全に果されるか、果されないかということは、たとえばその時の政府の政策によつて非常に左右されることではないかと思うのであります。従いまして、たとえば資本の安定のためには、生活の安定は犠牲にするというような政策を政府がとつているといたしますならば、それでは社会保障制度予算的裏づけというものは、とうてい期待できないということに相なるのであります。そういう点について大内教授といたしましては、その財政的な顧慮について非常なる御苦心を拂われたという根本的な建前において、たとえばそういういわば政府の意識的な政策によつて、これが予算的裏づけにおいて非常な困難を感じ、従つてきわめておそまつなものを出さなければならなかつたというのに理解してよいのでございましようか、その点をまずお伺いいたしたいと思います。
  11. 大内兵衞

    大内説明員 お答えいたします。社会保障制度審議会といたしまして、財政の点に考慮したと申しますのは、どの政府とか、どの政党とか、そういうことではありません。日本の現在の財政的事情全体を考えまして、これらの社会保障制度にどのくらいさき得るであろうかということ、また、さくのが国民所得の大きさ、租税の重さと比較いたしまして、どのくらいであるかということを主として考えました。しかしそれを考えましても、あまり大きなことはできないというのがわれわれの結論、その範囲においては、最大限にその案をつくるというふうに努力をしたつもりであります。
  12. 岡良一

    ○岡(良)委員 率直にお尋ねいたしますが、たとえば自由党の内閣であつても、社会党の内閣であつても、現在の国民負担能力や、日本財政的規模からは、さしあたりこの七百五十億がせいぜい社会保障制度予算的裏づけとして出し得るものである、大体そういうふうなお考えでそのわくをきめられたわけですか。
  13. 大内兵衞

    大内説明員 さようであります。
  14. 岡良一

    ○岡(良)委員 この試案の基本原則だけをちらつと目を通したのでありますが、それについて二、三お尋ねをいたしたいと思います。きわめて抽象的な論議にわたるようで恐縮でありますが、第一の目的におきまして、困窮の原因に対する経済的な保障、あるいは事実生活困窮に陷つた者に対するところの生活の保障ということがうたわれておりますが、私どもは、この社会保障制度の対象とする、いわゆる保障する対象たるいわば国民と申しますか、人間と申しますか、この概念規定が、社会保障制度にとつては非常に重要な問題であろうと存じます。ある立場からすれば、人間は、たとえば労働者一つの肉塊であつて、労働を売り、また余剰価値から富の蓄積をはかるという考え方も一部にありますが、そういう立場からするならば、社会保障というものは、いわばその対象を單に生活の場において保障するということにとどまると思うのであります。またある立場からするならば、むしろ働く労働者こそが生産の主体であるという増え方において、生産の保障ということが、むしろ社会保障の中では最も重点的に取上げられると思うのであります。この案で拜見いたしました場合において、保障の対象たる、いわば国民を、大内会長のお考えといたしましては、生活の場において保障しようとせられるのであるか、あるいは生産の場において保障しようとせられるのであるか、あるいはまた生活と生産とを総合された一体的な場において、保障の対象を把握されようとするのであるか、そういう点についてのお考えを承りたいと思います。
  15. 大内兵衞

    大内説明員 ただいまの御質問にお答えいたしますが、社会保障制度審議会といたしましては、確かに二つの面を考えておる次第であります。一つの面は、労働力としての日本国民、あるいは日本国民の労働力、それは生産の面において大切なものであるが、それを社会保障制度によつて十分尊重しなければならない、ということが一つであります。それからもう一つはしかしながら生産にどうしても携わることができないような事情ができる。あるいはそういう社会的事情でなくして、いろいろな個人的事情のために、生産に携わらないでいる人間がある。それらはいわゆる貧困者として、また社会劣者として非常に困つたものでありますが、それを食わせて行き、かつそれを維持して行く、食わすのみならず、それをできれば向上するようなふうな地位に置くということが、社会責任であり、それをこの制度国家責任として取上げる、そういうような二つ考えを持つております。
  16. 岡良一

    ○岡(良)委員 趣旨はよくわかりました。古いことわざに、どんなユートピアンが自分の理想的なコロニーをつくろうとしても、刑務所や墓場をつくらなければならないだろうという言葉がありますが、そういう意味で、この国がどんな体制と秩序を持つたとしても、どうしても働けない者、国が生活を保障しなければならないという対象の出て来るのは当然だと存じますので、このことに社会保障制度審議会が努力を拂われたということは当然でありますが、ただ私が申し上げたのは、やはり生活が再生産の基礎という意味において、生活の場においての人間をとらえるという考え方を社会保障制度としては、やはり大きく基本的な性格として取上ぐべきものじやないかということを、実は申し上げたかつたのであります。なお第三に「国民社会責任」という言葉がありまして、社会連帶の精神を基盤とするということがうたわれておりますが、社会連帶という言葉は非常に多様な解釈があるのでありまして、たとえば現在でも日本の国で、ある政党は、社会連帶を大きな旗じるしとして掲げでおります。しかし、私は現在その政党が掲げておるような政治的な旗じるしとしての社会連帶という概念には、賛同し得ない一人であります。たとえばそれが労資協調というふうな意味合いにとられやすいという危險が、非常にあるのであります。イギリス社会保障制度のフアミリー・サークルというパンフレツトが来ておりますが、あの中で、アトリー首相は、社会保障制度の根本的な概念は、コモン・ビユーテイということだとうたつております。コモン・ビユーテイという言葉は、日本語の社会連帶という言葉とは、いささか概念が違うようであります。私は公共連帶という飜訳をしておるのでありますが、大内教授のお考えといたしまして、社会連帶はやはりイギリスのアトリー首相の、いわゆる公共連帶というふうなお考え方であつて、現在いろいろな政党が、その旗じるしとして掲げておる政治的な用語として、国民に現在訴えられておるような社会連帶とは解釈が違う、概念が違うものでありますかどうか、その点をはつきりとお伺いいたしたい。
  17. 大内兵衞

    大内説明員 社会連帶という言葉は、たしか使つてないと思います。社会保障制度で、社会連帶というふうな思想はありますけれども、それは労資協調とか、そういう問題ではなくして、貧困にしましてもあるいは困窮にしましても、あるいは労働力をりつぱに維持することにいたしましても、すべてそれらのことに対して、程度はいろいろでありますけれども、個人だけではなく、社会責任を持つ、そういうことでありまして、その中でそれを将来の社会主義への道と解するか、あるいはそれを現在の社会を安定させる意味と解するかは、社会保障制度審議会としてはことさらに明瞭なる解釈をいたしておりません。それは案自身が答えておるところであると考え、その案自身について、解釈者がいかようにも解釈してくださるようにというふうに考えております。
  18. 岡良一

    ○岡(良)委員 第三の国民社会責任には「本制度は、社会連帶の精神を基盤とする」と、はつきり書いてあります。それでその問題は別として、第十でありますが、社会施策との連繋という点で「本制度は、最低賃金制の確立、恒常的な雇傭の安定その他社会施策の推進と極めて緊密な関係にある」ということをうたつております。これはきわめて当然であろうと思います。一体日本の現在の賃金というものは、この間大河内一男教授が帰られたときの帰朝談を見ましても、イギリスアメリカの雑工業の最低賃金よりも、日本の鉱工業の賃金は七分の一、あるいは十二分の一という低位に置かれておる。あるいは雇用の安定と申しますか、現在なるほど登録失業者は四十万そこそこしかありませんが、半失業者と申しまするか、潜在失業者というものが、一千万人にも達するというようなことが伝えられております。こういうような状態をそのままにしておいては、とうてい社会保障というものは、もうまつたく木によつて魚を求めるようなことになるのでありまして、われわれは社会保障制度は、同時並行的に最低賃金制の確立、あるいは完全雇用への道というような方向を力強く驀進して同時並行的に解決しなくては、社会保障というものは成立し得ないと、私ども考えている一人であります。そういう点について、大内教授のお考えをこの機会に承りたい。
  19. 大内兵衞

    大内説明員 ただいまの御説は、私もまつたく同じように考えているものであります。第一には、日本生活水準が今日の文明諸国、特にアメリカその他と比較いたしましては、多分十分の一以下であろうということは、われわれとしては耐え得ない苦痛であります。しかしそれを向上させる方法いかんとなりますと、これはいろいろなことを必要といたす次第でありまして、もつぱら歴史的ないろいろなあらゆる立法と、それから社会的な闘争とを必要とすることであります。社会保障制度は、そういう意味におきましては、そういう制度の足らないところをわずかに補うというところでございます。国の事情によつていろいろ違いますけれども日本はそういう足らないところが非常に多いのを、しかもこの社会保障制度で十分に補うに足るという確信はないのでありますが、しかしながら十分でなくとも、ぜひとも今回はこれをやりたい、そういうふうな意味において、社会保障制度それ自体だけで、最低賃金その他の問題が解決するというようなことはまつた考えておりません。それはまた別個の立法その他努力に期待したいと考えそれと歩調をなるべくなら合せたいと考えている次第であります。
  20. 岡良一

    ○岡(良)委員 そういたしますと、たとえば、資本主義なら資本主義というものの矛盾や不合理が、貧困の原因であるが、この原因には目を伏せておいて、とにかく一応その現われた現象にだけ軽く手を当てて押えようというようなことしかできない、こういうふうにおつしやるのでございますか。
  21. 大内兵衞

    大内説明員 社会保障制度の面は主としてそういう面でありまして、社会保障制度だけでは、社会問題は解決しないと思います。
  22. 岡良一

    ○岡(良)委員 結核の問題を非常に重要視すると、大内会長はおつしやつておられましたが、もちろん結核の問題につきましては、先般の国会においても、衆参両院とも、その対策の徹底的な拡充についての決議をしたようなわけでありまして、われわれも非常な関心を示しております。従つて社会保障制度としても、いわゆる大内教授の、国民病としての結核について、国の大きな責任において撲滅をはかるということについては、われわれもまつたく同感であります。ただしかし、今おつしやいましたような、国家結核の問題を取扱われるということは、われわれ結核と数十年とつ組んでいる者としては、きわめて遺憾なのであります。結核国民病と申しまするが、結核の原因は、もうその国の経済機構にある。これは端的に申せば、ソーシヤル・ダンピングが日本結核の根本原因である。私どものところに「すいに行く姉を殺した綿工場」、こういう川柳があります。私は石川県のいなかでありますが、それは要するに、零細な規模を持つている農家が家族労働力に余剩を生じて、困窮やあるいは不時の物いりのために出かせぎに行く。ところが出かせぎに行つたその娘が、結局長時間労働や低質金、悪い環境で結核なつた。使いものにならないから村に帰つて来る。しかし農村では、その家計は不如意である。そこで姉を殺したところのその工場にまた妹が出かけて行く、それが石川県において結核日本一の名を受けた根本の問題である。従いまして、社会保障がこうした現われ方、現象としての結核に対していかに努力をしても、日本結核国民病であるということが撲滅はできないのであります。そういうような点におきまして、せつかくの会長のお骨折りではありますが、この基本原則にうたわれております一貫しておりますお考えについては、われわれ社会党の立場において何となく腑に落ちないものがあるということを申し上げまして、私の質問を終えたいと思います。  なおこの際に委員長にお願い申し上げておきたいと思いますが、何と申しましても、社会保障制度の問題は、全国民あげて非常な期待を持つておるのでありまして、厚生委員会としては、この問題と真剣に取組みたいと思います。われわれは衆議院がむしろ特別委員会を持つて立法府としての立場から当然取組むべきだと思いますが、その取扱いについては、理事会等において十分御審議の上、たとい国会が開かれていなくても、合宿をしてでも、ひとつ真剣に取組んで行こうというような機会をつくつていただくことを、この機会にお願い申し上げておきます。なおそのときには、大内会長みずから御出席をいただきまして、どうか教授のヒヤリングをやつていただきたいと思います。
  23. 寺島隆太郎

  24. 金子與重郎

    ○金子委員 この社会保障制度研究試案要綱に対しまして、第一編の基本原則について二、三、それと次の第二編以下の関連性につきまして、御質問申し上げたいと存じます。  まず第一に、基本原則の第一の目的という点につきましは、これだけ多くの目標を掲げましても、私の考え方といたしましては、どういうような政治組織を立てても、国費におのずから限度があるので、一時にこれだけの全目的を達するということは、相当至難だということがよくわかります。但し、この十まである中で、今度の社会保障制度に対して、最も根本的に考えなければならぬことは、第四の保障の原則であります。この保障の原則は、「本制度による保障は、すべての国民を対象とし、公平と機会均等を原則とするものでなければならない」とありますが、私はまつたくこれに一致した意見を持つておるのであります。  次に第二編の医療、出産及び葬祭、それから老令、遺族及び廃疾というような問題におきましても、いずれも被用者と一般国民というものを区別して考え方を立てているが、これが私どもとしては、非常に納得の行かない点であります。なぜ納得が行かないかと申しますと、すべての国民を対象として、公平と機会均等を原則とするものでなければならないというような趣旨を持つてないがら、この被用者と一般国民というのは、たとえば疾病のことに例をとりますならばかつて健康保險と、国民健康保險の、そのあり方をそのまま、幾分彌縫的に補足して行くというような形に受取れるのであります。しかしながら、考えてみまするならば、労働者々々々とよく言われますけれども、一体ハンマーをとつたり、サラリーをもらう者だけが労働者ではないのであつて日本の四割八分を占めている農民というものは、アメリカにもこの例はありませんし、イギリスにもない日本独特の企業の形であつて企業でないものである。そうしてまつたくの労働報酬によつて辛うじて生きているというのが日本の農村の特異性であり、国民全体の分野からいつて、特に取上げられなければならぬ問題だと思います。その利害というものは、自分の経営にまかされているとはいうものの、労働報酬を拔くならば、企業利潤というものはまつた日本の農業にはついていない。日本にはこれだけの農民がおるけれども、農業経営を目ざして始めたという人は、おそらくほんのわずかの人であつて、あとは運命的にその職についているというような状態にある。従つてくわとる労働者であるから、一般国民として、生活を特に軽く見る必要があるか。また工場の場合を考えても、私の地帶におきましては、製糸工場があつて、娘が製糸工場に行つて働いている。そうすると工場に働いている人は、サラリーで働けば、憲法規定の延長である被用者としての思典を受ける。それがたまたま子供があるために工場で働けないから、かまがけの賃糸を引いて暮しておる。この二つを対象にしたとき、はたしてどちらが病気に対する経済的な抵抗力があるかということを考えたときに、決して工場に働いておる人か脆弱性を持つておるとは言われないのであります。従つて、私はこの際あくまで根本的に考えて、この第二編の社会保險のうち、医療、出産という限界を狭めても、この面だけでも機会均等の線に沿つて——どの国民も同じ立場に置いてあるのでありますから、この原則第四の趣旨を実行したらどうかという考え方を常々持つておるのでありますが、どういうわけで、審議会の方といたしましては、こういうふうにいまだに差別をつけて行かなければならぬという結論になつたのかという点と、また内部に出たいろいろな御意見等も、お伺いいたしたいのでございます。
  25. 大内兵衞

    大内説明員 ただいまの御質問の点は、まさにわれわれの試案が非常に幼稚であるといいますか、問題がむずかしいために、十分に目的を達し得るようにできていないという点だろうと思います。イギリスでありますと、日本のような独立な、しかも非常に小さな農民がありませんので、ほとんどすべての勤労者は、いわゆる勤労者でありますために、單一の制度が置かれて、そうして全国民がそれらに対して責任を負いましても、あまり不公平はないということになるわけであります。ところが、日本では四割何分という農民がありますが、この農民の生活の形態が、また方法が、今御指摘の通り、普通の近代的な形をとつておりませんために、それらの人々の地位は、非常に特殊なものであります。これが健康保險国民健康保險との両建になつておる理由でありまして、健康保險一本、すなわち労働者資本家とが両方から保險料を出して、いろいろな保險事項を保險するという制度ができますならば非常に都合がいいのでありますが、もしそういうことをいたしますと、地方では資本家に当る階級がないし、あつても、その階級の人々から、その被保險者である人々に直接に金を渡すような方法をつくることができないのであります。やむを得ず小生産者、小農民というようなものの特色を十分考えまして、資本家という階級がないから、国民健康保險の方は、なるべく国家負担を多くすることによつて、勤労者と地方農民とのバランスをとるというふうに考えておる次第であります。それでもなおかつ農民の方が非常に不利益な状態にありはしないかというのが、今の御意見であると思いますが、それは経済状態の問題としては、確かにそうであります。経済状態を前提といたしますれば、そうでありますが、社会保障制度としては、農民の方によほど有利になつておる次第であります。それでもつて経済状態全体をどうするということは、なかなかむずかしいのであります。むしろ不可能でありますけれども、とにかく社会的に起つた不幸を、ある程度是正して行く、社会連帶の責任において矯正して行くという点では、確かにこの案は農民に有利にできておるつもりであります。
  26. 金子與重郎

    ○金子委員 農民に有利なということでありますが、それが有利であるか不利であるかということは、結局予算の出し方だと私は考えておるのであります。そうしますと、その次の問題としましまして、一般国民というものは、かつての国保の延長のようなものでありますが、これによりますと、あるいは私の勉強が足らぬかもしれませんが、市町村を経営主体としておる健保にかわるべき被用者というものは、県が一応組織体の中心になつておる。この差別はどういうわけでこういうふうにつけなければならなかつたか。
  27. 大内兵衞

    大内説明員 お答えいたします。その点は委員会でも問題になり、いまもつて多少問題を残しておりますし、反対意見もあります。つまり全体を府県でやるのがいいか、全体を国家でやるのがいいかあるいはこの案のごとく健康保險は府県、国民健康保險は町村でやるのがいいかということが非常に問題でありますが、この案の考え方の基礎二つであります。一つは、保險それ自身におきまして、特に農村の保險事業におきましては、いろいろなことが公平に親切に行くのは、府県單位ではなくして町村單位でなければなりますまいというのが一つであります。それからもう一つは、府県單位でありますと、この保險制度に府県單位でやつて、その目的を十分に達するようにやるのにはおそらくは現在の日本行政能力では力が足るまいという見込みであります。それよりは、やはり市町村でやつて行くがよかろう。それで反対に、健康保險の方でありますと、勤労者というのが中心でありますから、どうしても大都会中心であるから、行政が簡單で、その点は行くであろうという見込みであります。
  28. 金子與重郎

    ○金子委員 その点につきまして、あとで私としての意見は別に申し上げたいと思いますが、こういうふうに現実に矛盾が現に起つておりますし、将来もそれは続くと思われるのであります。それは御承知のように国民健康保險は、一応地域的な一つのグループを保險の対象としておる、健康保險は職域的な一つのグループを対象としておる。従つて、ある地域に職域的な保險に参画する資格の人たちの分量が多い場合には、残された人々組織するものが、非常に国保の場合と同じように弱体化して来る。むしろ現在のような任意制度の間においては、都会のような健康保險に惠まれておる住民の多い地域には、国保はできない、私どもは実際この問題に携わつて、おつてできないのであります。そして健保の思典を受けることのできない農村の人たちが、ほかに行く道がないから、辛うじてこれを組織するという段階にあるのであります。この問題は、この制度で行きますと、今後とも解決しないと思いますが、その点はいかがでありましようか。
  29. 大内兵衞

    大内説明員 実際お話の通りの点が、非常に困難な点でありまして、見込みが十分に明らかではないのであります。しかし、これは実地調査をやりましたし、それから府県の意見も聞きましたし、各町村の意見も聞いて、大体これが一番やりいいだろうという今の見込みであります。
  30. 金子與重郎

    ○金子委員 その次にお伺いいたしたいのは、経費の一部を資本家負担する、また被傭者が負担する、残りは国家並びに地方自治体が負担する。一方一般国民の分は、資本家、いわゆる使つておる人たち負担しないから、そこに矛盲がある。これを一体化できないということが中心であろうと私も思うのでありまするが、しかし、これはもう一歩広義に解釈いたしますならば、なるほど資本家負担はしておる形にはなつております。しかしながら、これは資本家自体負担でなくて、結局それは生産費の中へ当然包括されて来るものであつて、そうしてただ給料につけ加えた保險料というものを支拂つているだけだというふうな見解を、私は持つておるのであります。そうするならば、もし事業経営者が非常にたくさんの人を使用するために、特にこの社会保障に対して経費を拂わなければならぬというならば、拂つてもしかるべきりくつは成り立つんじやないか。そうして一般の中小企業者や農民は、経営者であり、同時に労働者だ、こういう階級が日本のおそらく半分以上を必ず占めておると思うのでありますが、この階層と特に区別をつけておるところに、まだ私には割切れない問題があるのであります。資本家が出すという場合、それは資本家が出す給料プラス保險料、この保險料は結局生産コストの中に乗つけておるんじやないかという見解を持つておるのでありますが、その点の御見解をお伺いします。
  31. 大内兵衞

    大内説明員 今の問題はたいへんこんがらかつて、むずかしい問題になると思います。しかし経済の理論その他むずかしい問題は拔きにしまして、現象的に申しまして、またわれわれは法律問題としてはそういうふうに理解していいと思いますが、やはり資本家が半分負担しておるということになつておりますと、労働者負担は半分であるということになります。それを府県のようなところで、そういう半分の資本家負担するものを持つてくれということは、国家が持つてくれれば別ですが、絶対に不可能であります。国家で持つてくれという問題になりますと、非常な経費になりますので、これはどうしてもできない。やむを得ないでそういうことになつております。
  32. 金子與重郎

    ○金子委員 先ほど大内教授の御説明の中の一般国民、いわゆる国保の延長されたような形のものと、それから被用者、いわゆる健保の延長されたようなものの中で、結果として農村を主体とした国保の延長であり、一般国民というふうな制度に対して、非常に恩惠が多くなつておるというふうなお話があつたのですが、それは具体的な例といたしますと、どういうことなのでありますか。
  33. 大内兵衞

    大内説明員 それは保險料の負担の問題になるわけであります。保險料の負担は、健康保險、それから普通の組合の保險におきましては、原則としては国家負担しないで、ただ事務費を負担するということになつております。しかるに国民健康保險、すなわち市町村の行う健康保險におきましては、事務費は全部国庫負担、それから給付費の三割は国庫負担、それから市町村が一割、府県が一割ということになりまして、実際上市町村民の被保險者の負担するのは、五割ということになつております。そういう点で、つまり国家の方から申しますと、国民健康保險の方が、たくさん負担しておるということになるわけであります。
  34. 金子與重郎

    ○金子委員 そうしますと、そこに疑問が出て来るのでありますが、一方資本家負担しておる分を、一般国民の場合には負担できないから、そこでこれはどうしても別な形をとらなくてはならない。いわゆる財源の問題に理由がなつておると思いますが、そこで結果といたしまして、今度は国民の立場から見たときに、一般国民の方が有利だという結果が出るならば、いつそのことこれを一本化しても、何ら問題は出て来ないと思いますが、その点はどうでございますか。
  35. 大内兵衞

    大内説明員 その一本化するという問題が、やはり片方は資本家労働者とが半分ずつ負担して一になつておるし、片方は国民あるいは農民といいますか、農民と国家その他公共団体が負担して半分になつておるということで、ちよつとすべて計算の立て方、保險料のとり方、それから契約の仕方、組織の仕方ということが違つておるのでありまして、しいて一緒にすればできないことはないと思いますが、なるべくならば、別の方が事実上便宜なのであります。
  36. 金子與重郎

    ○金子委員 それでは時間が大分過ぎましたから、もう一点お伺い申し上げると同時に、これは成案ではない、これからまだ研究の余地もあるということで御説明がありましたので、私の意見を差加えまして終りたいと思います。  今までのなりきたりがかわつているとか、あるいは費用の徴收がかわつておるとかいうことはありましても、結論といたしまして、どちらも同じ恩惠を受ける形になるのだということであるならば、それだけの国費を出すならば、当然私は少くともいろいろの社会保險のうち、疾病に関する限りはこの際機会的均等の実を革新的にやるべきだ。それでなかつたならば、いつになつてもこの問題は、解決がつかぬということを確信しておるものであります。そして第四の、本制度はすべての国民機会均等の立場においてやる。それが現実的にむずかしいときには、少くとも疾病だけは、この際そう改むべきだということを私は考えておるのであります。それから第三の国民社会責任、「本制度は、社会連帶の精神を基盤とするもので、国民はその責任を自覚し、本制度の維持に必要な個人の社会的義務を果さなければならない」、——この問題でありまするが私はかつての経験から行きまして、この疾病に関する社会保障制度は、地域制度で行くべきだ、職域的で行くべきでない。そしてその地域制度というものは、一応過渡期といたしまして、この原案にもありますような、市町村を対象とすることがよろしい、こういう考え方を持つておるのであります。それはなぜかと申しますと、私ども国民がりくつで考えた場合と、常識で頭に来る感じというものに、非常に違いがあることは、一つ社会連帶といいましても、その範囲が非常に広いと、その観念が薄らいで参ります。たとえば、私どもが個人ないしは友人間における連帶保証の借金は、非常に借金として感ずるのでありますが、県債から国債まで延びたときには、おそらく借金の感覚はなくなつて来る。国家社会保障制度をやると同時に、これをお互いが切瑳琢磨して仕上げて行く。こういう考えにおきまして、私は日本の今日の段階におきましては、この社会連帶の線を強く組織の上に出して行く。同時に、その社会連帶の観念を、その事業を通じてお互いに訓育して行くということが必要だ。これはりくつでなしに、私ども長く国保の指導をやつておりまして、その指導がよくできた村は成功するし、ただ病気にかかれば、人が費用を出してくれるという観念の村だつたら、必ず失敗する。従つて、私はりくつは別といたしまして、現段階の日本国民社会通念といたしましては、なるべく地域狭をくとつて、そうして地域を狭くとると、経済的に破綻する心配ができる、そのときにこれを県なり、あるいは連合会なり、あるいは国が、今の農業災害のように再保險制度をとるならば、この問題は解決するのではないかと考えております。そういう点から考えましたときに、私はこの際疾病の問題だけは、特にほかの問題はできなくても、單一制度の地域保險として、あくまでも社会連帶の線を強く出して行くべきだ。そうしてどういう立場に働く人も、一つの地域にあるものは助け合つて、そうして国家が保障して行くということと相まつて成功するものではないかと考えております。  もう一つの問題は、今のような保障制度というものに国費なり、あるいは地方費なりを使つておりますが、その保險を維持するために、たくさんの事務費、あるいはそれに関連した副費用というものがかかつておる。医療直接のためでない費用がかかつておる。これらの事務費というものは、病気を直すために何の役にも立ちません、あるいは予防衞生の上にも何にも役に立たぬ、ただ複雑な社会機構の中にそのために携わる人たちの失業救済をする結果になつておる。この点からいつても、きわめて簡素な能率的な一つの機構に立たなければならない。この点から行きましても、私はさいぜんの考え方を持つものであります。最後になりまして、意見が加わりましてはなはだ失礼でございますが、何らかの御参考になればと思いまして申し上げた次第であります。     —————————————
  37. 寺島隆太郎

    寺島委員長 次に社会保障問題に関連いたしまして、青柳委員より、地方税法案に関し地方行政委員会に申し入れることについて御発言を求められておりますので、これを許します。
  38. 青柳一郎

    青柳委員 この問題は、前国会におきまして、同様地方税の改正につきまして、地方行政委員会に申入れを行いましたので、煩瑣な説明を略しまして、ただ朗読にとどめようと思います。 主 旨  社会保障制度確立の要最も急を要する今日社会保險事業社会事業等の見地からして今次の地方税法改正には未だ極めて不合理、不均衡の点がある。 修正意見及び理由  一、附加価値税において   (1) 健康保險組合、同連合会並びに国民健康保險組合(代行組合を含む。)及び同連合会の行う社会保險事業は非課税とすること。   (2) 医師の診療收入中、社会保險診療報酬分に対しては特別の税率を設けること。   (理 由)   (1) 健康保險組合及び同連合会並びに国民健康保險組合(代行組合を含む。)及び同連合会の行う社会保險事業は、元来政府又は、市町村が行うべき事業を代行するものであるから、第二十四條第一号の公営事業と同様当然非課税とすべきものである。   (2)健康保險及び国民健康保險等の社会保險事業は、現在財政難の実情にあるが、その診療報酬單価は、本事業の建前上極めて低廉に据置かざるを得ないのである。     しかるに本税においては、事業税の性質を有する特別所得税において、必要経費として控除せられていた人件費は、第三十條第七項にいわゆる特定の支出金額とならぬため、課税標準から控除せられないこととなり、一点單価を決定する因子に変動が起るため、その修正が必要となつて来る結果、社会保險経済を一層困難に陥れることとなる。     よつてこの結果を防ぐ意味において社会保險診療報酬分については、特に低率の税率を設ける必要がある。  二、固定資産税において健康保險組合、同連合会及び国民健康保險組合(代行組合を含む。)取び同連合会の行う社会保險事業に直接供する固定資産は非課税とすること。    更に私的医療機関の諸設備については、医療の公共的性格にかんがみ固定資産税の減免を行う必要がある。   (理 由)    一の(1)におけると同様の意味において、これらの固定資産は第三百四十八條第二項第一号の公用文は公共の用に供する固定資産と同様に扱うべきである。殊に同條同項第九号において社会事業等の用に供する固定資産が非課税と明定されておる以上、社会保障制度の確立の要望せらるる今日特にその必要がある。    更に医療の公共的性格、私的医療機関がわが国の医療制度上に占める重要性と他面において医療法等によりその設備について種々の負担を負わされている実情にかんがみ私的医療機関についても固定資産税の減免を行うこととは特に必要である。  三、市町村民税において、六十五歳以上の老齢者であつて、十八歳未満の孫のみを有する場合、又は総所得金額年十万円未満の者は非課税とすること。   (理 由)    寡婦であつて十八歳未満の子を有する場合又は総所得金額が年十万円未満の者に対しては第二百九十五條において非課税の特典が與えられているが、六十五歳以上の老齢者であつて十八歳未満の孫のみを有する場合又は総所得金額が年十万円未満の者も寡婦と同様の悲惨な境遇に在るものであるから同様の趣旨において非課税とすべきである。  四、市町村の目的税として国民健康保險税を創設すること。   (理 由)    国民健康保險事業の危機は主として、その財政面にあり、その財政を確立して本事業の崩壊を未然に防止することは、社会保障制度確立の強く要望せらるる今日、緊急の要務である。    よつて従来の保險料を当該市町村の目的税たる国民健康保險税に改めて、国保財政の堅実化と市町村財政の確立化を図る必要がある。以上であります。
  39. 寺島隆太郎

    寺島委員長 他に本件に関して御発言はございませんか。  それではお諮りいたします。ただいま青柳委員より、地方行政委員会に対しまして、地方税法案に関する申入れをいたしたいとの御発言がありましたが、内容は別といたしまして、この申入れをなすこと自体について御異議はございませんでしようか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  40. 寺島隆太郎

    寺島委員長 御異議がないといたしますれば、地方税法案に関しまして申入れをなすことに決定いたしました。  次に、申入れの内容につきましては、青柳委員より御提示になられました通りにいたしたいと存じますが、これに対して御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  41. 寺島隆太郎

    寺島委員長 ただいまの通り申入れを作成いたしますから、さよう御了承願います。  午前中の審議はこの程度にいたしまして、正一時から再開いたしたいと存じますので、その間休憩をいたします。     午後零時二十五分休憩      ————◇—————     午後一時二十三分開議
  42. 寺島隆太郎

    寺島委員長 休憩前に引続き会議を再開いたします。  社会保障に関する件について、質疑の通告がございますのでこれを許します。苅田委員
  43. 苅田アサノ

    ○苅田委員 いろいろお聞きしたいのでございますけれども、時間がないようでございますから、ごく大切な点を二点だけお尋ねしたいと思います。  まず第一番にお聞きしたいのは、この社会保障制度審議会ができましたところの趣旨は、大内会長もお述べになりましたように、大体憲法二十五條の趣旨に基いて、健康で文化的な生活国民全般に保障する、こういうことが一番の目的になつておるわけであります。この第一編の目的というところにも、はつきりと「すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるように保障する」ということが書いてあるわけなんです。そこで私がお聞きしたいのは、そういう憲法二十五條でいわれておるような文化的な健康な生活、文化社会の一員としてふさわしい生活の基準というものが、どこに置かれておるかということが、この研究試案では明瞭に書いてないわけなんです。その点、非常に私は不十分だと思うのです。それからこれはこの試案だけじやなくつて、前国会で改正されました生活保護法のときにも、同じような憲法二十五條に基いて、健康な文化的な生活国民すべてに権利として要求することを與えるというような條文ができておる際に、私どもやはりその基準がどこにあるのかということをお尋ねしたわけなんです。これは社会施設のことを実際に取扱つておいでになつているどの方に聞きましても、現在の生活保護法の基準というものでは実際健康な文化的なことができない非常に低いものだということは、みなお認めになるわけで、一体ではどこに基準があるかということをただしたときに、政府当局の答弁といたしましては、それは現在進められておる社会保障制度審議会の方に課せられたる問題なんで、そこから明確な答弁が出るんだ。ですから、それをわれわれは待つておるのだ、こういうお話があつたわけです。そこでお聞きいたしたいのは、はたしてこの社会保障制度審議会の方に、そういう問題が持ち込まれておるかどうか。持ち込まれておりましたならば、この点につきまして、皆さん方の方ではどのような具体的な研究をなすつたか、それをお聞きしたいわけなんです。もしまだそういうものができていないとすれば、これは私は政府の大きな食言だろうと思うのです。少くとも会長として大内氏個人としては、現行の生活保護法の基準というふうなものが、少くとも憲法二十五條の意味しておるような、文化的健康な生活の水準として許されるものかどうか。また大内氏個人として、審議会委員長といたしましては、現在の日本国民生活費の指数等もたくさん出ておるのでありますが、どのようなものをもつてその基準をおきめになるおつもりであるか、この点について最初にまずお聞きしたいわけであります。
  44. 大内兵衞

    大内説明員 まさにこの点が問題であります。最低生活費が、日本においてどのくらいであるかという問題と、それからその最低生活費をこの案が保障するように実際になつておるかどうかという問題と二つあると思いますが、最初最低生活費がどのくらいであるかという問題につきましては、いろいろの調査があります。日本生活標準なるものは、西洋のように、いわゆる賃金労働者によつてきまるようにはなつていないので、つまり賃金労働者でない農民、いわば最低生活費以下で何か食つておる、あるいは虫のように食つておるといつてもいいのですが、そういうように生きておる人間がたくさんあるので、最低生活の実際を知ることが非常にむずかしいのであります。賃金労働者だけについて言いますと、一箇月五千円とか、六千円とかいうのが出ますけれどもそれ以外の実際にもらつておる賃金の調査によりますと、一箇月千二百円から千五百円ぐらいの人もたくさんあるのでありまして、こういうことでは生活は決してできていないわけであります。そこで具体的に日本最低生活費というものは幾らであるかということを、西洋のような意味においてきめるということは、実際むずかしいので、まず腰だめということに結局なるのではないかと思います。そういうのでは政府の調査がたくさんありますけれども、それから平均したり、あるいはそれを合計して割つたりというようなことでは得られないのでありますから、どのくらいで、あるかということをちやんと申し上げられませんのです。そういうことで非常に困りますが、しかしそれより困る問題は、最低生活憲法によつて保障すると言つておりながら、憲法で保障するだけの力が現在の国民経済の中にあるか、従つてその国民経済の中から取上げる租税にあるかという問題であります。これは前の問題をどう答えましてもちよつとないという結論に、大体私どもはなつておるので、そこでまたさらに、やむを得ずその最低生活なる程度をずつと引下げまして、たとえば養老年金におきましては、七十幾つの年寄りが、幾らで生活し得るかということを、これで答えておるところによりますると、一箇月二千円、一年二万四千円、それからまた寡婦その他におきましては、それではどのくらいかという問題に、ある意味において答えておるところによりますると、それはやはり一箇月二千円、一年二万四千円、それから子ども一人につきましては、一箇月千円というような、そういうことで答えておるのでありまして、それもなおかつ全国民にそれだけを保障するというのではなくて、特殊な條件を持つておる者だけを保障するということになつておるので、はなはだその範囲は狭いのであります。
  45. 苅田アサノ

    ○苅田委員 そうしますと、今会長がおつしやいました中にも、現在の日本の実力は、実際を言うと憲法二十五條がはつきり打出しておるだけのことを国民に保障する実力がないということを言われたわけです。私も実際そうに違いないと思いますが、そうであるにもかかわらず、生活保護法にしろ、あるいは社会保障制度審議会から出ております試案にしましても、やつぱりそういうできないことをうたつておることは、私どもとしては、これは非常に不明朗な気がするのです。なぜかと言いますと、明らかに日本の中では、日日の新聞を見ても、実際生活をし切れないで、どんどん自分で死んでいる。一家心中が絶えずあるのに、しかも片方ではそういうふうに、国としてはそういうふうなことは全部保障しているのだ、死ぬ者はかつてだと言わぬばかりの法律が出て行く。そういう点について、私はやつぱり、不十分なら不十分なように、法律の建前そのものも、そうしたうわベを飾らない、むしろ不十分をさらけ出して、率直にこれの改正するような形に出してもらいたい。そういう点で、ひとつ率直な御意見をさらに伺いたいと思います。  それからまことに失礼ですが、私先ほど申しましたように、標準生活費のことについての諮問を、審議会はまかされておるかどうかということについてイエス、ノーの御返答と、それからもう一点厚生省当局は、私どもに対する答弁として、あなた方の答案が非常に科学的になされるのだから、それによつて万事は決定されるのだと言つておりますが、そういうものを今の審議会においてなし得る実力があるかどうかという点、この二点を、御迷惑かもしれませんが、率直にお答え願いたいと思います。
  46. 大内兵衞

    大内説明員 第一の、十分できないようなことを日本法律、特に憲法に書いてあるし、お前たちのこさえておるものにも、そういうような動きがあるのはよくないというお話は、御意見といたしましては、私ども同感の点があります。しかし日本憲法は、御承知のようにやはりほかの條文にも、たとえば人権擁護あるいは教育権その他の問題でも、やはりそういう色彩をよほど持つている。その点で憲法二十五條もやはりそういうふうにあるということは、はなはだ悲しむべき事実でありますけれども、幾分か理想主義的にできておると思つております。それを受けて、この目的というふうに書いてある所にもそうなつておりますが、これもやはり、それゆえに保障するとは書いてないので、わざと保障することを目的としておると書いてある。ある意味においてはごまかしですが、そういうことを念願とした一つ立法であるという方向を示すという点においては、必ずしもうそではないのであります。しかし事実としてはなかなか保障できてないということは、その通りであります。  それから次に、社会保障制度審議会最低生活の調査及び意見を確実に述べなければならぬということは、会の定款といいますか、会それ自身規定の中にはありませんので、それは多分論理的にそういうふうに答えられたのだろうと思います。つまり憲法にそうあるし、社会保障制度というのは、最低生活を保障するものであるから、この委員会最低生活が幾らであるかということをきめるであろうということを答えられたと思いますが、しかしながら、先ほど申しましたように、最低生活が幾らであるということを、かりに十分計算して出して見ましても、現実の問題はそれを十分に保障し得ない、その距離が相当大きいので、私どもとしては、それにはそんなに大した力を注いでおりません。ただ今ある資料は、全部持つております。
  47. 苅田アサノ

    ○苅田委員 この点はいろいろ政府当局との折衝の場合に、私どもがやはり困る点がありますので、さらにもう一点だけお聞きしたいのですが、先ほど大内会長から、国民の多数が実際虫のような生活をしいるというお話ですが、やはり少くとも文化的あるいは健康的な生活標準となれば、そういうものは最低生活標準にならないはずだと思います。科学的に最低生活標準を出せという場合には、そういうものはもちろん標準にならないはずだと思うのです。それにつきまして、個人としての御意見でもけつこうですが、簡單にそれをお話願いたいと思います。
  48. 大内兵衞

    大内説明員 先ほど申し上げましたのですか、現実の統計、現実の事実、それから現実の賃銀系体を見ますと、実際に安いのがあるのです。子守さんとか、あるいはそうでなくとも、副業的な労働を使つておるところでは、非常に安いのがありまして、最低という意味が、もしそういうものをとりますと、とてもお話にならない、千円とか千二、三百円ぐらいということになるのであります。そういうのをとるのは、私ども適当でないと考えておるので、いろいろ腰だめを結局いたしますれば、四、五千円あれば、十分ではないが、いなかも入れて考えれば、何とか食つて行かれるのじやないか、普通の人がそういう四、五千円ぐらいのところまで保障し得たならば、社会保障制度は成功だ、そういうふうに考えております。
  49. 苅田アサノ

    ○苅田委員 一人四、五千円ですか。
  50. 大内兵衞

    大内説明員 一人といいますか、結局一家族の中でのおもな收入者です。
  51. 苅田アサノ

    ○苅田委員 その点につきまして、もう少しお伺いしたいのですが、ほかのこともありますから、その程度にいたしまして、次に社会保障に対する従来の掛金を目的税といたしました場合、これがこの試案によりまして従来の掛金よりもかえつて重い負担になる場合があるんじやないか。現在の社会保險状態からいえば、掛金で足りなくてほとんど破綻しているわけであります。これを国家がほんとうに思い切つて大幅な国庫負担をやらなければならないときに、こういう全般的な社会保障制度をやるということになりますと、どうしても負担が重くなつて来ると思います。どんなりつぱな案であつても、先ほどもお話がありましたように、最低賃金もきまつていない、また失業者があふれている現在のような状態で、この上大衆の負担を増すようなやり方は、私は賛成できないと思います。共産党としては、当初から、こういうものは資本家国家負担でやつてもらいたいということを主張しているわけですが、一歩引いて考えても、少くとも現在軽くなつて来なければならぬと思うのですが、この点はどうでしようかということなんであります。イギリスなんかの社会保障制度のお話を聞いておりますと、これを行いますためには、思い切つた高度累進課税といものがあらかじめ行われて、その上に立つて、こういつた揺籃から墓場までというような保障制度ができたように聞いておるわけです。日本の保障制度の場合でも、その條件として、少くとも現在よりはもつと思い切つた高度累進課税による税金の醵出ということをやはりはつきり明示しておかないときには、そういつた耐え切れない大衆の負担になるのじやないかと思いますけれども、そういう御用意については、どういうふうにお考えでしようか。
  52. 大内兵衞

    大内説明員 被保險者すなわち勤労者及び農民、そういう個人の負担は、どの場合も原則としては、現在よりは少し安くなることに立案されておるのでございます。しかし今お示しの通り、強制的な目的税として、税としてとるということになりますと、その点はどうしても、ある一番納めにくい人は、困難な問題にぶち当るということは承認しなければならぬと思います。しかしどの階級も、従来よりは少くとも何パーセントかは安くなるように計算かできております。保險率が高くなるということはないので、そのいろいろな制度をみな説明しますと長くなりますけれども、どの制度におきましても、国家負担部分が相当ふえております。  それから税の問題におきまして、累進税との関係でありますが、これは二つ問題がありまして、普通の税の方にこの新しい制度負担がかかつて参ります。それをどうしてとるかという問題については、これは何らの答案をしてないので、むろん社会保障制度審議会としては、一般税の問題としてそれをそつちにまかせてあるわけでありまして、私個人としては、むろん税金がそれによつてもし増徴される場合は、累進税を希望いたしますけれども、この案では、その点には触れておりません。それからこの制度の中で新しくふえる部分につきましては、これも各保險制度及び全体の制度がちよつと込み入つておりますから一概には申し上げられませんが、やはり負担力のあるところには余計かけるという趣旨でできております。累進税という形で言い得るかどうかということになりますと、ちよつとむずかしいですけれども、とにかく必ずしも平等ではないようにできております。負担力があるところから税をとつて一般にこれをやる。労働者の場合もそうなつておりますし、いなかの農民の場合も幾分そうなつております。
  53. 苅田アサノ

    ○苅田委員 この点は、すでに大内氏も御指摘になつたのですが、私もさらに申し上げていいと思いますけれども、現在国民健康保險がこんなに破綻しているのは、つまり掛金の問題が大きいわけで、だれしも現在そういつた医療等についての大幅な補助はほしいのですけれども、その金ができないので、これを税金としてとる場合には、やはりそういう現行の料金を目安にした軽減といつたような程度では、非常に見込みが狂うというようなことも、十分考えられると思いますので、この点御考慮願いたいと思うのであります。  次に、これは先ほどの岡さんの質問と多少ダブる点もあるかと思いますが、とにかくこれを行いますのには、七、八百億くらいの財源を必要としておるわけなんですが、現在の政府のやり方で、はたして七、八百億の財源がこの社会保障のためにとれるということをお考えになるかどうか、私どもはこの点について非常な危惧を持つているわけです。一応こういうふうなものをつくつてみても、実際これはいつ実施するか、こういう点につきまして、私は日をあらためて厚生大臣なり大蔵大臣なりに、一体政府はどういう腹かということをお聞きしたいと思うのですけれども、会長としては、今のようなやり方で、七、八百億の負担日本政府予算の中からとれるというお見通しでおやりになつたのかどうか、この点を参考のためにお伺いしたいと思います。
  54. 大内兵衞

    大内説明員 その点が実は非常にむずかしい点でありまして、御承知の通り自由党は一千億減税とかいうことをスローガンにしておるらしいので、とにかく新しく四百億円ということと、そのスローガンとは直接にぶつかるように思うのであります。しかしそういうことをいろいろ考慮しておりますと、なかなか案ができないので、そういう政治上のいろいろないきさつというようなことを少し離れまして、戰後財政状態、それから日本国民所得、そういうようなものを勘案し、同時に国民生活の中における医療——貧乏人の医者に対する支拂いの苦しさ、そういうことをおもに考えて、このくらいならば政府に出してくれということを言うことが正しいというものをいろいろ計算をしてみました。そういたしますと、決して今の案のように八百億にならないのです。幾つも案ができたのでありますが、しかしそんなでは困る、おそらくそういうことを言つたつて話になるまいということで、審議会ではいろいろ考慮いたしまして、つまり押えに押えて、これくらいは、いかに貧乏な日本でも、またいかにそういうことに関して関心の薄い危險のある政治状態においてもやつてくれるだろう、またやつてもらわなければならぬということを言つておるわけです。しかし実際やつてくれるかどうかということは、まつたく国会及び政府の決心いかんによるのであつて、私どもは、ただこのくらいやらなければおかしいじやないかというくらいのところで出しておるわけであります。
  55. 苅田アサノ

    ○苅田委員 これは御参考までに申し上げておきますが、現在日本に施行されております社会保險等について、これは健康保險にしましても、あるいは失業保險の問題にしましても、あるいは生活保護法の問題にしましても、私どもがその不備をつきますと、いつでも政府の方は、いずれ社会保障制度ができて、全般的な組立てができ上つた上で根本的な解決ができるのだというように言われるのです。今のお話によれば、会長自身が、政府は一体どれだけの腹でこれをやろうとしているかということもわからないで、そういうことを言うのは、どうかと思う、予算の点から見ても、今年あたりの政治のやり方から見れば、出費の方はふえる一方だと思います。今度の朝鮮の問題なんかを初めといたしまして、警察隊なんかに対してだけでも、やはり一千億に近いような予算がいろだろうと思います。この上にそうした社会保障制度のために、また数百億というような予算がとれるかどうかということになると、私どもは非常な疑義を持つ。これがこういうふうにしてじやんじやん発表されて、あたかもこれで国民は救われるのだというような形で出されていることに対しましては、国会の内情を知つている者といたしましては、これはまことに遺憾に思うので、ただいまのような御質問をしたわけでありまして、これ以上は直接政府に対して聞くべきだと思いますから、御質問は申し上げませんが、そういう趣旨でお伺いしたのだということを、一応御了解いただきたいと思います。  最後に、すでにこれは各地方で審議会を持たれて、各地方でいろいろな批判がせられていると思いますので、そういう批判に基いてやられると思いますが、会として、こういう改正はぜひ必要だと思うというようなことが他におありになれば、それも出していただいて、どういうふうにして最終案までおつくりになる御計画であるかということだけをお伺いいたしまして私の質問は終りたいと思います。
  56. 大内兵衞

    大内説明員 最後の仕上げの問題は、各地の公聽会においてみな書いてもらつたものを持つております。それから書かなくても、そのほかのルートを通じて意見をもらつております。そうしてこれに対する少数意見——少数意見という言葉は悪いのですが、修正する点についての申入れがずいぶんたくさんあります。これを八月早々から何日か連日私ども審議会を開きまして——審議会委員会といいますけれども、事実上においては総会に似ておりますが、そうして何とかして案をつくりたいという考えでございます。それで、もしできれば一つの案にして、できなければ多数案、少数案というふうにしまして、八月十五日ころまでには、とにかく勧告の形にして政府に出してみたいという希望を、審議会としては持つております。これが成功するかどうかは、これからやつてみなければわかりません。  それからお説のことについて所感を申し上げますと、やはりこの案が出て、これが実施できないのに、これによつて国民が非常に救われるというふうに見せかける危險があるということですが、そういう危險も一応あると思います。けれども、私どもとしては、少くともこれだけのことぐらいをやらないと、せつかく日本が新しい民主主義国家として出発しているというようなことの、体裁さえ整わないのではないかというくらいの気持を持つておりますから、ぜひともやつてみたいと思つております。
  57. 寺島隆太郎

    寺島委員長 苅田委員に申し上げます。大内先生は二時から関係方面に参られることになつておりますので、松谷委員に御発言願うことになつておりますがよろしゆうございましようか。
  58. 苅田アサノ

    ○苅田委員 よろしゆうございます。
  59. 寺島隆太郎

  60. 松谷天光光

    ○松谷委員 時間もございませんので、根本的な点だけ一、二点だけお伺いいたしたいと思います。  先ほどからの会長の御答弁を伺いまして、会長の試案を御作成になられるまでの御努力と熱意を、十分了承させていただいたのでございますが、なお納得が行かない点が一、二点あります。先ほどの岡委員の御質問に対しまして、会長より、その御熱意のあるところ、または審議会の立つ地位につきまして御説明がございました。また内閣に対する立場が、單なる研究会ではないという、その課せられた責任と、権利と申してはいかがと思いますが、そういう一つの重要性を持つた審議会の性格をもお述べいただいたのでございます。そのときの会長の御答弁、または苅田委員の質問に対する御答弁の中に、これはいかなる性格の内閣ができようとも、八百億からの予算はとれると考えているというお言葉があつたように伺つたのでございますが、やはり私ども考えましたときに、この八百億になんなんとする予算というものは、相当とりにくい予算ではないかと思います。苅田委員が御説明になつておりましたような現状もございましようし、または従来からの厚生予算に充てられている、そのまことに貧弱な面から見て参りましても、従来の考えをそのまま踏んで参りますれば、いかに審議会が御熱意を持つて勧告されましても、この八百億の予算が当然とれるものとは考えていないのでございます。また私はその内閣の性格いかんにかかわらず、八百億に近いものがとれるという考え自身、どうも納得が行かない。これは私の考え方がまだ足りないのかもわかりませんが、納得が行かないのでございます。やはりその内閣の立つ、その政治の立つ根本的主義がどこにあるか、社会保障制度が、主義だけで運営されるものとは、もちろん私は考えておりません。またこの試案が、いかなる主義でなければ運用できないかというようなことも考えておりませんけれども、少くともやはり現在行われておるその政治の根本性格と、吉田内閣の持つ性格というものは、いなめない一本の線の上に立つておると私は考えるのでございますが、そういう場合の内閣と、あるいはまたもう一歩社会主義への移行を見たその内閣によつて、この社会保障制度が扱われる場合とは、そこに大きな相違がある。またそれによつて予算というものの組み方も相当違つて来るのではないかと思いますが、そういう点につきまして、会長はそういう基礎と切り離してこの試案を御作成になられたのでございましようか、やはりそういう一つ基礎の上に立つて、この試案が妥当であるとお考えになられたのでございましようか。質問の仕方が非常にまずうございますけれども、御答弁願います。
  61. 大内兵衞

    大内説明員 お答えいたします。私個人というようなことを押し出して参りますと、いろいろ考えがあるわけでありますが、しかし世界社会保障制度の例から見ると、たとえばイギリスにおける実情、アメリカにおける実情、その他最近特に世界の各国にこの制度が行われておる、そういう思想的背景は、やはり二つあると思います。一つは、資本主義そのものを、なるべくならば安泰にするために、幾分損であるけれどもお金を出そう。労働者及び貧民、あるいは社会問題のためにお金を出すという方法として、その道として社会保障をいたすというのが一つ考え方だと思います。もう一つは、申すまでもなく社会保障制度を通じて、改良的な意味ですけれども社会主義への道を歩もうという考え方であります。私自身は、この二つ考えは、現在の世界においてはあり得ることであるし、また日本でも現実にあると思つております。私としては、なるべく両者を妥協して、そうしてそのうちで妥協し得る最大の実績をあげたいという案をつくりたいと思つたわけです。それはできないことではないので、つまり日本における社会保障制度の必要という問題、すなわち問題の大きさというのは絶大でありまして、外国のような小さいものではないのですから、それに対してわかち得る命というものは、そうないという二つの問題がありますから、みんなの熱意がそこに実るというところの最大の線があり得るだろうというようなことで、この案を出しておるわけであります。具体的に申しますと、この案が自由党ではできないというふうには考えないので、自由党の内閣でも必ずできると考えております。
  62. 松谷天光光

    ○松谷委員 重ねて一、二点お伺いいたしますが、その場合には、やはり社会政策としての社会保障制度ということに了承してよろしゆうございましようか。
  63. 大内兵衞

    大内説明員 もし自由党のみが自由党のイデオロギーでやるということになれば、そうだと思います。しかしその場合に、現在の社会党その他の政党が参加して、しかもその参加の中には、社会正義への道ということも考えて参加してくださるならば、そうしてこの案ができるならば、その範囲においてやはりそういう性質を持つと思います。
  64. 松谷天光光

    ○松谷委員 先ほど苅田委員に対する会長の御答弁の中で、大体最終案は八月の十五日ごろまでにおまとめになりたいという御意見を伺つたのでありますが、会長の今までのお見通しから参りまして、この試案が成案されました場合に、昭和二十六年度予算の中にこれが実施できるというようなお見込みがございましようか。あるいはない場合には、一体いつごろからこの実施が見られるというお見込みでございますか、お伺いしたい。
  65. 大内兵衞

    大内説明員 その点を私は政府に申し入れておりますけれども政府からは、まだ回答を得ておりません。というのは、つまり現実勧告が出ていないから、政府としても答える段階にはなつていないのだと思いますが、こういう情勢になつているということを政府に申し入れております。そうして二十六年度予算から、なるべくならば実行に着手してもらいたい、おそくても二十七年度には全部走り出すようにしてもらいたいということを考えております。
  66. 松谷天光光

    ○松谷委員 会長は、お時間もおありで、たいへんお急ぎのようでありますから、あとこまかい点は事務局長から伺わせていただきたいと思います。
  67. 寺島隆太郎

    寺島委員長 苅田さん、事務局長に御質問ございますか。
  68. 苅田アサノ

    ○苅田委員 私は先ほどお願いいたしましたように、あらためて厚生行政一般の問題が出されますときに、厚生大臣にお願いしまして、あわせて大蔵大臣につきましても、どのくらいの腹でこの実施を確保しておるかというようなことをお伺いすれば、こまかい点につきましては、なお最終案ができますときにお聞きすればいいと思いますから、今日の質問はけつこうでございます。
  69. 松谷天光光

    ○松谷委員 ただいままで、お伺いいたしましたところでは、まだ審議会の方から政府に対して、はつきりした正式の勧告も出ておらない。従つて内閣としまして、これの予算措置に対する決意も、まだ決定していないというような場合に、予算措置をよそにして試案だけを検討するということは、私はあまり有意義ではないと思うのであります。こまかい多くの点は、いずれ大臣のはつきりした御答弁をいただいてからに留保したいと思いますが、事務局長がおいででございますから、一点だけ伺わせていただきたい。  住宅の問題でございますけれども、第四部というところに住宅という部面が設けられておりまして、不良住宅地区に対する清掃、また住宅保護というような問題が、非常に理想的に掲げられておるのでありますけれども、先ほど会長がお話になつておられた八百億という予算の中には、住宅資金も含まれておりますのでしようか、それともこういう住宅政策につきましては、八百億より別途に講ずるというようなお考えでありましようか。
  70. 小島徳雄

    小島説明員 先ほど会長が七、八百億と御答弁になつた中には、住宅というものは入つておりません。あれは最低限度いるという費用が見積られて入つております。従つて社会福祉とか公衆衞生の面におきましては、政策によりまして相当多額の費用を費す場合もありますし、また財政面によりましては、非常にこまかい経費しかもらえない場合もありましよう。従いまして、先ほど会長のおつしやいましたのは、最低限度必要ということを主として言われたのでありまして、住宅問題全般に関する問題は含まれていない、こういうふうに御了承願いたいと思います。
  71. 松谷天光光

    ○松谷委員 そういうことを伺いますと、私どもなお一層不安になるのでございます。おそらくこの試案を一條一條検討し審議させていただけば、住宅と同じように、今もおつしやつた公衆衞生とかその他の面で、ああした最低限八百億円ではなし得られない別途会計のものが相当あると思うのでございます。そういうもの全部含めてと申しましても、住宅の予算など含めれば、これはとても数を出しただけで、おそらく内閣はそんなものはできないという一言のもとにしりぞけられるような多額になるのではないかと思いますが、一応成案ができるまでには、こういう住宅の面に必要のある費用、これはおそらく建設費で出て参りますか、公共事業費で出て参りますか、そういう点を、公衆衞生その他について、八百億以外の予算が必要とされる面の資料をぜひおつくりいただいて、参考にさせていただきたいと思つております。それは成案ができるまでにお願いできますでしようか。大体のお見通しでけつこうです。それを伺いませんと、せつかく社会保障制度が法案としてできて来ましても、具体的に私ども生活社会保障制度が浸透して来るその時期の見通しがつかないような気がいたします。
  72. 小島徳雄

    小島説明員 ただいまの全般的な問題につきまして、松谷委員のおつしやる通り、この問題の全般的な財政計画はむろん必要であります。審議会としても、十二分にそういう調査をいたしておるわけでありますけれども、ただこの問題については、おのずから緩急がありまして、いろいろの社会保障の問題につきましても、公衆衞生の問題につきましても、一応年次計画ということを考えなければなりませんし、住宅問題についても、そういうような年次計画を考えて行かなければなりません。そういうような意味で、研究はいたしております。
  73. 松谷天光光

    ○松谷委員 そのような予算措置の場合には、もちろんのことだと考えますけれども、住宅問題であれば、建設省なり、あるいは建設委員会なり、そういうものとの綿密な御連絡をとつておいでになるのでございましようか。それとも審議会だけのお考えでそれをお運びになつておられるのでしようか。
  74. 小島徳雄

    小島説明員 松谷委員は、住宅というものを全般的な住宅行政のようにお考えになつておるのでしようが、社会保障として考える住宅という問題は、低額の所得者に対して、たとえば引揚者の住宅のごとく、低額所得者に対して、公共の事業費をたくさん出して、それを低額で貸すものについて主として考えているわけで、一般の戰災で燒けたとか、住宅が拂底しておるという住宅全般の対策を一般にやるという問題につきましては、社会保障の分野ではない。ここで考える分野は、医療における現物給與と同じように、住宅に困つた者に対して現物で給與する、そういう意味での住宅行政というものを考えておるわけであります。
  75. 松谷天光光

    ○松谷委員 そうすると、予算措置というものは、やはり厚生予算の中でとられる住宅予算でございますか。そう解釈してよろしいのですか。
  76. 小島徳雄

    小島説明員 大体さような考えででき上つております。
  77. 松谷天光光

    ○松谷委員 他の質疑はいずれ大臣のはつきりした御答弁をいただいてから、させていただきます。
  78. 寺島隆太郎

    寺島委員長 本件について、他に質疑はございませんか。——御質疑がないようでございますので、本日はこの程度で散会いたします。次会は公報をもつて御通知申し上げます。     午後二時十二分散会