○羽生三七君
日本の経済の当面の対策については又別の機会にいたしまして、私は先日の本
会議の緊急質問でも
総理大臣に
お尋ねいたしましたように、
日本の経済の現状から見まして、どうしても将来の或る一定時期を目安に、ロングランに経済の計画性を持つことが絶対に必要であるという信念を持
つておるのであります。これに対しまして
総理大臣は先日の御
答弁で、一年以上の計画を立てることは極めて困難である。むしろ長い目先を持
つた経済計画の立案は、
国民に迷惑を與えることになるという
意味の御
答弁でありましたが、私はこれは誠に遺憾に思うのであります。どういうわけで私が遺憾に感ずるかという点につきましては、実は細かい点に触れるかも知れませんが、これを申上げたいと思います。我が国の経済が安定に向いつつあるという
政府当局のたびたびの言明にも拘わらず、実質的には今堀越さんも
お話がありましたように、中小企業者までも含む広汎な勤労大衆が、極めて困難な生活條件の中に喘いでおるということは、特に指摘するまでもなく明瞭でございます。
今日のデフレ要因が、すべてドツジ氏のプランに起因しておるかどうかということについては、これは別の問題にいたしまして、とにかく
進行するインフレを何等かの形で阻止しなければならず、且つそれが実際にドツジ・プランによ
つて一応收束の形を取
つたという事実は、私共もこれは率直に認める
ところであります。そうして又私共は敗戰
日本の経済の実態が極めて容易ならんものであるという、その現実の嚴しい諸條件についても又よくこれを了解しております。実を言うならば、そうであればこそその嚴しい條件の認識の上に立
つて、
日本経済の将来についての一応の計画性の必要を私は主張するのでありますが、
日本経済が戰後五ケ年、一応再建の遂に著いたと申しましても、これはまあ私の主観になるかも知れませんが、併し私といたしましては、十分
考え拔いた結果のことでありますが、実質的には満洲事変以前の経済的構造、或いは経済的実力以上に
日本の今日の経済力がないという私は
考えに立
つておるのであります。その点について詳細に申上げますると、先ず第一次欧州大戰の直後に、我が国は、確か、これは正確な数字を持
つておりませんが、二十億
程度の金保有があ
つて、これで頗る
日本の経済は活気を呈したわけです。その後大正八年を頂上といたしまして、大正九年に、いわゆる反動恐慌に見舞われまして、
日本のみならず世界の各国が非常な恐慌に直面をいたしました。
昭和二年の金融恐慌に引続きまして、更に
昭和五、六年に農業恐慌が参りましたが、このときは御
承知のように米が石十八円、麦が五円、まゆが一貫目一円八十銭という極めて農産物価格の大低落をしたときであります。その後
日本の
政府は、御
承知の為替安と賃金安で大ダンピングをや
つて一時を糊塗して参りました。当時の
日本の生産物で対外競争力を持
つてお
つたものは、私の記憶にして誤りなければ、綿布と綿糸その他の雑貨製品であります。その後
昭和六年に例の満洲事変が起りまして、その後わが国の経済は一種の軍需インフレに転化したのであります。つまり
国民経済の内部的な発展ではなく、軍部の作為的な、いわゆる膨脹政策の結果として、一応外見上我が国の経済が発展したかの様相を呈して来たのであります。つまり国の内部の経済の実力の発展の結果として、活気を呈したのでなしに、軍部の作為的な膨脹政策の結果、如何にも
日本経済が飛躍的に発展したかの外貌を呈したというのがその後の経済
事情であります。これは非生産的な軍需の結果でありますから、先にも申しましたように、我が国経済の内部的発展とは
関係のないものでありますし、又これは全く似ても似つかぬものであります。
従つてそういう場合の
政府需要を差引きますと、
日本経済の実力は最初の出発点と少しも変
つておらない。つまり今日インフレ打切りとか何とかい
つておりますけれども、実をいうならば、
日本経済の実態は、満洲事変当時、
昭和五、六年、当時の経済にしかな
つておらない、
日本の経済は。このことを私共が
はつきり認識いたしますれば、これはあとで申上げますように、
日本の当面の政策だけで事足りるような、そんななまやさしい経済條件ではないということがよくお分り願えると思うのであります。即ち需要が
政府需要であ
つたために、対外競争力とは無
関係に生産が促進されて来たのであります。つまりコストが何ら考慮されない。
従つて日本工業の実力は、特殊な部面を除けば、全体として技術の低下、非能率を招来して来まして、つまり国際的な経済から遮断をされて、温室の中で育
つて来たのが今日までの
日本の経済であります。つまり一種の島国経済的なもの、或いは変則的な経済であ
つたということが
考えられることができると思うのであります。今日にな
つて見ますると、この経済の実態では、国際経済にも対応できないし、又我が国
国民経済にも対応できないと私は
考えております。池田大蔵大臣は、しばしば国内経済を鞘寄せさせるために、
日本企業の合理化を行うと言われておる。全くその
通りであります。そのこと
自体は私は否定しない。そのことによ
つて起る派生的な諸問題については、私は今日触れませんけれども、そういう満洲事変以来の非常な作為的な膨脹政策でもたらされた
日本経済の実態というものを、インフレをここで打切りましても、それは何もそれによ
つて日本経済が安定するわけではないという、この根本的な立場を私たちは
はつきり捉えなければならんと思
つております。問題は依然として
昭和五、六年の極めて貧弱な経済水準に戻るということに過ぎないのです。こういうふうに満洲事変以来蓄積されて来ましたインフレ要因を今日切捨てるのでありますから、それが非常に困難な條件を伴う、そうして又更に先にも申上げましたように、とにかくドツジ氏の方式が短期間にインフレを抑圧したという事実も、私共はこれを率直に認めるに吝ではございません。併しインフレ抑圧には成功いたしましたが、それで
日本の経済の復興の緒につくことができるかというならば、今申上げたような事由で、問題はやはり今後に残されておる。私はそう
考えております。実は
国民経済の基盤は、或いはその実態は、私が今申上げたように満洲事変当時の水準に戻るのでありますから、そのことを考慮に入れてロング・ランに
日本の経済の長期計画を立てなければならん。敗戰の結果曾ての植民地、或いは半植民地というものが、そういう支配から満洲、朝鮮、台湾、樺太等が全部失われまして、
従つて又一切の資源を失いました今日の
日本が、一方では増大する人口を抱えまして一体今後どうして自立して行くのか。この際特別に大きな対外貿易でもなければ、恐らく
日本の経済再建は不可能でありましよう。この際
政府は補給金の撤廃乃至は
軽減、又は種々なる統制方式の改廃によりまして、いわゆる価格調整作用を復活して、これは自由主義の原則に基くものでありますが、そういう価格調整作用を復活いたしまして、
日本経済の自由経済方式への転換を図
つておるのが今日の政治であります。併し諸種の国際的制約を受けております今日の客観的な條件の下におきまして、即ち具体的な例を申上げるならば、為替レートの問題、或いは
日本船舶による貨物の輸送がまだ十分許可されておらない。一説によりますれば
日本の百八十万トン
程度の荷積みのできる船舶が船舶運営会の運営の廃止によりまして、今後は八十万トン
程度の貨物の輸送しかできない。而もこれによ
つて沢山な船員達を失業者にする、船は全部繋船されるという事実があるようであります。或いは又ポンドの比率の切下げの問題によりましても、貿易の前途には極めて困難なる問題が存在しております。こういう條件の下では、
日本の企業の合理化が、国際経済への鞘寄せをするといたしましても、その抵抗の最も弱い部面に犠牲を負わせることによ
つてのみ遂行されるという形を取るわけであります。即ち
日本経済の実態が全体として見たときに均衡が取れておらない。
予算は均衡
予算であるかも知れませんが、
国民経済の基礎構造は極めて不均衡なものとなるのであります。こういうことの結果から、中小企業の破滅、或いは労働者の失業は恐らく加速度的に増大して来ると
考えるのであります。必らずそうな
つて来るのであります。国際経済への鞘寄せということも勿論重要ではありましようが、併し今日のような
日本経済の條件の下におきましては、これは先日木村議員からも指摘されましたが、インフレ抑圧のシヨツクは最少限度に喰止めなければならん、先程私が申上げたことを繰返すことになりますが、つまりインフレを断ち切
つたならば、たとえ多少の派生的な問題がありましても、これで
日本経済が安定するというならそれでいいですけれども、私の言うのはそうでない。インフレを断切
つてデフレにな
つた。併し問題は過去二十年間の満洲事変以来の
日本の作為的経済を建直すということでありますから、そう簡單ではないと私は申上げておるのであります。そういう
意味から
考えますならば、この際一千二百余億円に亘る債務償還を無理に強行するような必要は殆んどない。むしろ逆にこれを直接或いは間接を問わず、電源の開発に使うとか、或いは住宅問題の解決については一般会計、特別会計を合せまして百五十億円の
予算が計上されております。けれども、尚且つこれでも足りない、戰災で徹底的に破壞された
日本が、住宅は悉く燒かれておるのに鉄、セメントの建設資材が余るということはどこかに欠陷があるのであります。そういう面から
考えましても、電源開発、住宅問題の解決、或いは給與問題等の解決に資するように
予算が工夫されなければならない。勿論インフレは切らなければならないが、それはそういう
意味ではドツジ氏の政策が間違
つておるとは申しませんが、そのシヨツクを最小限に食い止めるために、そういう方針がとられなければならないと思います。見返資金の運用についても、私は同様のことが言えると思います。若しインフレを抑圧することにのみ急でありまして、そのシヨツクの及ぼす
影響というものを十分に考慮しなか
つたならば、先にも申上げましたように、今後の失業問題は非常な大きな様相を呈して来ると思います。恐らく我が
国民経済は救うべからざる
状態に立至るものと私は
考えております。その場合の
影響は、今日言われておるような三月危機というような生やさしいものではない。私はそう信じております。そういうものではなしに
日本の自立が可能か不可能かという、そういうもう基本的な問題に打突かる、私はそう
考えております。恐らく決定的な
影響を
日本経済に與えるものと
考えておるのであります。もとよりイギリスのような国におきましても、或る種の耐乏生活は行われております。併しそれは完全雇用と広汎な社会保障制度の建前の上にイギリス流の耐乏生活が行われておるのでありまして、そういうものを何も持たない
日本が直ちにこういう形をとるということは、極めて多くの矛盾を生むものと
考えられます。そして又一方イギリスやフランスではそういう、まあフランスは社会保障制度なんかイギリス程ではありませんけれども、併しイギリスもフランスも共通したことは、国家
自体が大規模な国家資本を投下して、産業の近代化或いは高度化のために非常に大きな犠性を拂
つておるのであります。どんどん産業は近代化されておる。又最も高度に資本主義が発展して、自由経済の典型的な国だといわれておりますアメリカにおきましてすら、個々の問題は別といたしまして、大きな
意味では一種の経済の計画性が進められたことは私が申上げるまでもなく、
総理大臣御
承知の
通りだと思います。最近アメリカから帰りました大和田氏の
報告によりまするならば、アメリカでは農業恐慌化の問題が非常に深刻に論議されて、それを回避するために
政府はあらゆる努力を拂
つておる。そうしてそのために約十億ドルを支出するという、いわゆるフラナン・プランというものが立てられたようでありますが、これは実行には至らなか
つたようでありますけれども、とにかく別段恐慌に見舞われておるわけではないアメリカが、そういう一種の先を見通しての大きな計画を立てておる。先日私の緊急質問の直ぐ後に、渡米議員団の諸君のアメリカ視察の
報告がありましたが、その中に波多野議員が相当厖大な
予算でアメリカが農業恐慌対策の
予算を組んでおるということを
報告されておりましたが、フラナン・プランは潰れたかも知れませんけれども、別にそういう対策が立てられている。そういうような世界各国、高度に自由主義の発展した国、典型的な資本主義といわれておる国々においてすら、厖大な国家資本が産業に投下され、或いは又今申上げましたように、長い期間を見通して十分な恐慌対策というようなものが立てられておるのであります。私は繰返して申上げますけれども、今日の
日本経済の実態は、熱病のような一時的なものではありません。若しそれが一時的な熱病でありますならば、恐らくドツジドクターの処方箋で解決するでありましよう。先程申しましたように、若干の派生的な問題があ
つても、そういう処方箋で解決すると思います。併し実にそれは先程来申上げますように、満洲事変以来の二十年間に亘るこれは痼疾の疾患でありますから、これを切り捨てるのでありますから、その
意味におきましては極めて愼重な対策が立てられなければならない。その
意味で、応急的な当面の施策と共に、この過去の経済の認識の上に立
つて、ロングランに
日本経済の基本的な構想を用いなか
つたならば、
本当の
意味の
日本経済の自立はできないと私は
考えております。
首相は長期計画はできないし、又
国民のためにもならないということを先にも申したように言われましたけれども、これは大変な間違いであるし、誠に私としては遺憾に
考えております。占領治下の今日においては、なかなか経済の計画性を樹立することは困難であるということは、これは事実又私も率直に認めます。併しそうであ
つても、それ故に
日本経済のロングラン・プランが立てられないという
理由がない。立てようという努力が私はないのではないかというように
考えられる。今日経済安定本部は漸次その機能を縮小されて、やがては廃止の運命にもさらされようとしているかのように
考えますけれども、私はこの点、今日の経済安定本部そのものが、私は満足なものとは少しも
考えておりません。併し先にも述べましたように、この
日本経済の嚴しい諸條件を
考えますれば、これに対して万全の対策と構想を持つという
意味におきまして、経済の計画中心部を作ること、若し
政府が計画経済という
言葉が厭でありますならば、経済の計画と申しても差支ありません。そういうものを持つような私は努力が要ると思うのであります。従いまして先程来申上げますような問題は、單に今日一般に言われているようなデフレ問題ということだけではありません。
日本経済の実態を率直に認識いたしますならば、今申上げましたような経済の安定計画を十分に立案いたしまして、これに基いて
日本経済の個々の政策を進めて行かなければならんと私は
考えております。私は現在の経済安定本部をそのまま残して置けばいいということではなしに、もつと積極的な
意味で、どうしても
日本経済の計画性を持つ必要がある。こういうことを私は申上げているのであります。
日本は必要な輸入を賄うために、輸出工業力の増強を
考えているわけでありますけれども、
国民経済の基盤が全体としてバランスが取れ、それをバツクしてやるのでなか
つたならば、必要な物資を輸入することすら私は不可能だと思
つております。而も現在対日援助費の大部分は、輸入食糧に使われております。二十五
年度予算におきましては、九百二十余億が計上されている。このような実情においては、今後何らかの方法を講じない限り、恐らくこのバランスを変えまして、必要な輸入物資は、全部
日本の工業生産力による輸出で賄えるというような
状態を再現することは極めて困難であると私は
考えております。今日の、私は今申上げましたように経済安定本部をそのままでいいというようなわけではありませんけれども、こういう経済の認識の上の我々は立
つた場合に、果して
首相がそういう
意味の計画性すらも尚且つ、先日私の緊急質問にお答えがありましたように、必要でないとお
考えにな
つているかどうか。この点を先ず伺います。要するに国際経済にマツチするように、個々の企業の自由性がその経済の基礎となりましても、この限られた島国の中に、八千数百万の人口を有する
日本が、何らかの計画性なくして生存できるはずがないということを、我々は基本的な問題として
考えているのであります。こういう
意味におきまして、とにかく機構はどのようなものでも構いませんが、
首相が本年一年だけの経済の計画しか立てられない。長期の計画は無理であるというお
考えを今尚お持ちにな
つているのかどうか、この点について伺いたいと思います。私は、
首相がどうか、失礼な言い分でありますけれども、当面を糊塗するだけの御
答弁でなしに、
日本の経済の
本当の実態というものがこういう貧弱にして、惨憺たるものであると、この事実をお
考えになり、又将来私共は
本当に自立の経済の基礎を確立して行くために、今申上げたような條件から
考えて行くならば、相当ロングランに経済の計画を立てて、むしろ国際條件をそれにマツチして貰うように努力しなければならんと私は
考えております。どうかこの点について、大
総理大臣の率直な御見解を承わりたいと
考えておるのであります。