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田村文吉君
大蔵大臣にお伺いいたしたいのでありますが、細かい点について尚後日お尋ねをさせて頂きたい点があるのでありまするが、今日は大体総括的の問題について三、四の問題をお伺いいたしたいと
考えております。
先ず以て、今日の
世相が
経済的に可成り險悪な
状態に相成
つておりますことは、
大蔵大臣も特にお認めのことであろうと
考えております。成る程ドツジ・ラインに
従つて大蔵大臣が勇敢に超
均衡予算を作られた点につきまして、その
手術の
鮮かな点につきましては、私共は秘かに
敬意を表しておるものでございまするが、
国家の
財政の
均衡予算がとれたのは結構でありますが、
個人の
懷勘定の
均衡がとれなくな
つて参りましたので、これが即ち今日の非常に
経済界における不安となり、各種の
世相の悪い面が出て参りました原因じやないかと考は
考えております。そこで私は何が一番この問題の癌をなしておるだろうかということを昨年来常に研究を怠らず
考えて
参つてお
つたのでありますが、畢竟は私は
税金が高いということの一事に盡きるのではないか、こういうことを
考えて見まして、
昭和十
年度におけるあの
一体予算というものはどんなふうであ
つたか、税の
徴收はどんなふうであ
つたかということを参考に調べて見たのでありますが、勿論賢明な
大蔵大臣は十分この
数字を御了承のことだろうと
考えておりますが、大蔵省及び日銀の御
調査になりました資料を基にいたしまして
ちよつと比較して見たいのであります。
国民所得の
計算から参りますというと、
昭和十年におきましては百四十五億と算定されております。本
年度の
予算に盛られました今
年度、二十五年における
国民所得の概算は三兆二千二百三十億と相成
つております。
国民所得は二百二十倍と相成
つております。次に歳計でありまするが、
歳出はどんなふうに相成
つておりますかと申しますと、
昭和十年においては二十二億六百万円と相成
つております。本
年度の新
予算に計上されましたものは、御
承知の
通り六千六百十四億と相成
つておるのでありまして、この
倍数は三百倍と相成
つておるのであります。これの
歳出を賄うために盛られて参りました
税金の中で、酒の
税金は、二億九百万円に対して一千三百億に相成
つておりまするから、
大凡五百倍と相成
つております。
專売益金は、一億九千八百万円に対して千二百十億とな
つておりまするから、
大凡六百倍とな
つております。これまではよろしいのでありまするが、
所得税が一体どういうふうに相成
つておりますかと申しますと、
昭和十年においては二億二千七百万円の
税收入でありましたものに対しまして、
昭和二十五
年度は
所得税、
法人税を合せまして二千八百七十三億と相成
つておりまして、この
倍数は千二百倍と相成
つておるのであります。私はこの
数字を見ましたときに、
日本の
経済の今日の一番の重点の悩みはここにあるものであるということをはつきりと認識し得たような感じがいたすのであります。即ち
国民所得に対しまして
昭和十年に
拂いました
所得税、当時は
法人税も一緒でありますが、
所得税の率は一分六厘、それが
昭和二十五年におきましては八分九厘の
割分に相成
つておるのであります。これが、酒の税が五百倍、煙草の税が六百倍ということは驚くべき
数字でありますが、さして私は
考えないでおりますが、今の
所得税が千二百倍にな
つておるということは、実に国の大きな病院であり、大きな
手術をして治さなければならない点であると
考えておるのであります。成程
大蔵大臣は今度の
予算を以て、
税金もできるだけ減らした超
均衡予算の上に、若干の
復興予算として計上して、
世界に誇るべき
予算を組立てたと
仰せになるのでありますが、この千二百倍にな
つておる
所得税というものをお
考えにな
つておるかどうか、この点を私共は第一に問題にいたすのであります。成程国の
予算は出
ずるを量
つて入るをなすのでありますが、
個人の
計算におきましては、反対に入るを
量つて出ずるをなさなければなりませんが、その入るをなすために、めいめいがその
所得の中に、昔と比べると千二百倍、
物価の釣合いから五百倍、六百倍が正しいのであるとすれば、その二倍の
税率を拂わなければならないような
状態に相成
つてお
つたのでは、到底
個人の
懷勘定の
均衡がとれるものではないのであります。これを端的に説明いたしておりますものは、国の
借入金、
公債というものがどんなふうにな
つておりますか、これはその当時の
数字を
ちよつと比較いたして見ますというと、
公債借入金は、
昭和十年には百七億二千万円でありまして、今日は凡そ三千八百円と
計算されると思いますが、
借入金は三十八倍にしかな
つておりません。言い換えますと、今日の三千八百億というものは国の
歳出予算に比べますと、ようやく六割
程度にしかな
つておりませんが、一ケ年の
歳出の六割を若し外に使用することができ得ますならば、
日本の
借金というものは直ぐ消えてしまうのであります。ところが当時の
昭和十年における百七億は
予算の二十一億に対しまして五倍以上の
借入金をも
つてお
つたわけであります。かようなことの結果は、国の
財政といたしましては誠に堅実な歩みをお進みにな
つておるのでありますが、これを受けて立つ民衆の方から申しますと、非常な
借金と非常な苦しみをしなければならない。これがそもそも今日としては非常に
社会大衆の困
つて来ておる
状況を説明するものでないかと
考えております。で私は何を措いてもこの際は、
国家の超
均衡予算もドツジラインにおいて行われるのは非常に結構なことでありまするが、同時に
国民の
負担というものをこの際徹底的にこれを減少するということが絶対に必要なのであります。これがそもそも病の因であり、今後の
復興ができるかできないかという大きなキイ・ポイントに相成
つておるのではないかと
考えておりますので、一体
所得税と
法人税と併せて二千八百七十億でありますが、
所得税二千四百八十億、これは当然半分くらい減少なさる、今お
出しにな
つております
所得税の
税率は半分くらいまでお減じになることが絶対に必要な段階に立ち至
つているのではないか、これに対してはあらゆる工夫と工面をいたしまして、この
所得税というものを千二百億
程度までに減らす、即ち戰前の
昭和十年の六百倍
程度までに少くも減らしてしまうということが必要でないかと
考えておりますのであります。この点につきましていろいろ
大蔵大臣も苦心されたのでありまするが、ただ私共の遺憾に思いまするのは、立派な
手術ではありまするが、
麻醉も、
局部麻醉もしないで、赤ん坊が泣き騒ぐのを強引に手際のよい
手術を
といつて手術をなさるだけでは
政治というものはいけないのでありまして、飽くまでもこれは
局部麻醉もやり、又注射もやり、又
手術のあとには
栄養物をやり、これをよく看病して育てるという
考えでありませんと、折角名医の
手術もその効果を
收めることはできないということを心配いたすのであります。この
意味におきまして、無論来
年度においては十分の
減税をやるお
考えにな
つておるとは思います。思いますが、これは今日の日日の現状から
言つて、どうしても早急に解決して頂かなければならない問題でないかと
考えます。尚これは御
承知でもありましようが、私は
新聞紙で知りましたので、正確な
数字は分りませんが、
アメリカの
所得税率において三百六十円
レートで
計算いたします場合は、一人について二十一万六千円ずつの
基礎控除があるということを聽いておるのであります。尚百万円の
所得者がどのくらいの
税率でお
拂いになるかといえば、一割八分ということを大体聽いております。さようなことであるのに、
日本では百万円もありまするというと、大体今度の
税率では四割とか四割五分を拂わなければならんという点がありまするから、
外国人が
日本に寄留する場合に、
税金を半分にしてやろうというような、誠に以て面白からざる
議論も出て来るのであります。こういう点も
考えまするときに、私は今日は何を措いても、あらゆる万難を排いても
税金というものは、今の
税率は半分まで引下げなければならないような結果に相成
つておると
考えますので、敢えて
大蔵大臣のこれに対する御
所見を一つ承りたいのであります。