○
姫井伊介君
総理、
安本、
大蔵、三
大臣の
演説に対しまして、
国民生活と
国家経済の安定に関する
立場から
質問をいたします。
政治の目標を通俗的に
考えますると、
国民の誰もが能力に応じて働き得るようにしなければならないこと、
国民の誰もが健康で
文化的な
標準生活を営み得るようにしなければならないことだと思うのでございます。そこで
質問の第一の
内容は、
完全生産と
完全雇用を実現するための
政策についてでありまして、
質問要目は後で結論的に申上げます。
総理の
施政方針演説におきまして、
総理は、
経済の安定は
自然政情の安定を促がし、
民主主義は
国民の間に根柢を固め、健全な発達をしておると述べられております。
安本長官は、我が
国民経済の
基礎は未だ巨額の
輸入超過の
状態を免れず、又国土の復旧は思うに任せず、企業の資本は減
つており、我が
経済発展の
基礎は未だ十分でないと言
つておられます。
大蔵大臣は、徒らに
経済の不安を説くことは、いわゆる、ためにする
議論に過ぎないと言
つておられます。それぞれそこに若干の食い違いを見出ずのでありますが、それはともかくといたしまして、眼前の事実はどうでありますか。
経済不安、
生活不安、社会不安はますます深刻化するの樣相にあります。ここに
経済不安、
生活不安の一現象である
失業問題を取り上げて見ましよう。
失業の原因、
失業者の
状態につきましては略します。併し
失業者が漸次その数を増しつつあるという
現実は御
承知の
通りであります。これに対しまして、即ち
失業対策といたしましては、
輸出産業及び
一般産業の振興、
公共事業及び見返
資金の活用、
失業対策事業、
失業保險制度の
充実等が挙げられております。これで処理のできない
最後の段階は
生活保護法で受止めるということになるのでありますが、それでも未だ不十分であります。一方、
健康保險、
国民健康保險の運営の行詰りは御
承知の
通りであります。これら
社会保險その他
公共福祉等の
事業を打
つて一丸といたしましたところの
社会保障制度が確立されなければならないので、すでに
審議会によ
つて熱心に考究せられておりまするけれども、未だ遅々として目鼻が付いておりません。この
審議会の二度の勧告に対しまして、
政府はどういう
措置をとられましたか。どういう態度をとられましたか。私共はつきりそれはしていないと思うのであります。
政府はこの
制度確立につきまして
積極的推進の熱意があるのかどうか、疑わざるを得ないのであります。
総理大臣は
失業対策など
社会政策諸費に五百六億計上したと言われるのであります。これは
一般会計、
特別会当の総計から重複した額を差引いた純計金額の一兆七千四百億円の僅か三%弱であります。
政府の出されました
予算編成の特色の第五を見ますると、
教育、
文化及び社新
政策関係費の
充実を図つたこと、とある。
教育、
文化費を除いて、
国民の一割に当る
不遇生活者の
生活を保障して、且つ自立、自活の途を與えるところの
経費が、僅かこのぐらいで十分なりとお
考えにな
つておりますか。
大蔵大臣は
一般会計、
特別会計、
政府関係機関を通じ、
建設面に向けられる
経費は
総額二千百五十億に達すると言われております。更に主として
産業資金に充てられるべきところの
債務償還総額は一千三百八十六億に及んでおります。これを合せますと三千五百三十六億にな
つて、
会計総額の二〇%強に当るのであります。この姿は、
生産建設の主力であるところの人を主とせず、物を重んずる
片寄つた政策の現われではないでしようか。適材適所、
適能適職の
政治理想は少しも認められないのであります。病人を治療することと共に、
病気にならぬように
予防措置をとることが必要であると同じように、不徹底な
失業救済よりも
失業防止の
方策が根本的に必要でありましよう。一昨日でありましたか、
赤木議員の
質問の要旨を借りて申しますならば、
河川工事の必要もあるが、
砂防工事が行われなければならないと話されております。それと同様であります。即ち
完全生産、
完全雇用のための
計画経済が絶対に必要であるというゆえんであります。諸
外国におきましても、この
完全生産、
完全雇用実施促進の
方策が講ぜられておりますことは御
承知の
通りであります。
ここで私の
質問の第一は、
社会保障制度は
国民と国の
負担力を
考えて漸進的に整備して行かなければならぬが、その第一段階実施の第一歩を二十五年度において踏み出すの意図ありやどうか。並びに
社会保障制度審議会勧告の受入体制は用意されておるかどうかということ。
第二は、資本主義的自由
経済の中で、言訳だけの
計画経済でなく、
計画経済の中で自由
経済産業政策をとるの
考えがないか。若しその
考えがないとしたならば、その理由が承わりたいのであります。
質問第二の
内容は
生活の安定に関する
政策についてでありまして、三
大臣の
演説を伺いますと、徹頭徹尾、
経済安定から
生活安定への理論に立
つておられるようであります。即ち物を主とし人を従とする物主人従主義と思われるのであります。そういたしますならば、共産主義の唯物史観が或いは笑われぬでしよう。適例を国家公務員の給與ベースの問題にと
つて見ましよう。
総理大臣は、
政府は今回の公務員給與ベースに関する人事院勧告には応じ難しとの結論に達した。給與引上げを行えば物価と賃金の悪循環を引き起し、再びインフレに逆行する。
政府も目下の給與を以て足れりとするものではない。財政の余裕を待
つて更に検討を加えたい
考えであるから、公務員諸君も暫らく忍んで国力の回復に協力せられんことを
希望する。これは私は
国民側から
考えると、恐るべき邪見の
言葉であると思うのであります。
大蔵大臣はこれについて、給與ベースは変更しない。賃金水準、物価水準の安定こそは
経済安定のための不可欠の條件である。先ず
経済の安定を強化することに全力を挙げ、然る後云々、更に曰く、人事院勧告を実施すれば中央地方を通じ、一ケ月当り約五十億、年額約六百億の財源を必要とする。
経済安定のための基本的
政策がすべて破壞されると言
つておられます。
ここで私共が
考えべきことは、然らば第一、給與額は適正であるかどうかということであります。
総理大臣みずから目下の給與を以て足れりとするものではないと言
つておられる。二十三年七月、生計費と民間給與実態調査による六千三百七円ベース算定の当時から、生計費も民間給與額も上昇しております。そこにスライド制は行われておりません。公務員給與は均衡を失し、適正を欠いておる。即ち現給與額は適正ならずと断定せざるを得ないのであります。第二、給與と物価は安定しているか。
総理は、物価は月を追うて低落の傾向にある。これは一部の観察に過ぎない。
安本長官は、公定価格と自由価格を総合した実効物価は昨年初頭以来大体同一水準にありと言
つておられます。これは相当ごまかしがあると思うのであります。
大蔵大臣は、物価も賃金も全く安定していると言
つておられます。給與の方はいわゆる統制的
措置でこれを釘付けにして置いて、物価の多くは自由に流して、而してこれが両方が安定していると言えましようか。重い物価と軽い給與の天秤は決して安定していないのであります。
総理は「新年を迎えて新
日本建設の決意を新たにするの状あるは」と言
つて楽観されておりますが、
国民の多くは年末年始を泣いて通つたのであります。
第三、給與を適正にすればインフレに逆行するか。
経済安定の基本的
政策がすべて破壞されるかどうか。過去のインフレは給與賃金による消費インフレではなかつたのであります。適正の給與は
生活を安定させ、勤労能率を高め、適度の購売力を培い、有効需要を起し、貯蓄もできることになるのであります。資本蓄積は勤労大衆の手でも行えるようにならなければならない。即ち資本の御主化の要があるのであります。そこにこそ
経済安定の
基礎は確立されると
考えるのであります。
第四、財政に余裕がないのか。
産業資金面に対しましては、見返
資金活用、金融機関の増資、債券の発行、企業の起債、優先株式の発行、証券金融の優遇、証券市場の育成助長、あらゆる資本主義的の手を打
つておられるのであります。而も投資大衆の保護を図ると公言されております。投資家大衆とは誰でしようか。この莫大なる
資金放出が流れる中間に或る吸い取りが行われるのであります。莫大なる額であります。そこに資本家、企業家の
生活が最大限度に賄われ、勤労者には最小限度のお裾分けしか出て来ないのであります。
大蔵大臣は、見返
資金、預金部
資金などについても適時に適量に放出して、極力適正な通貨量を維持したいと言
つておられる。その預金部
資金とは何です。その中には百七十一億という厚生年金の剩金積立金があるのであります。これは明らかに勤労者の手によ
つて積立てられ、勤労者の福祉施設に使われるものでありまするが、それが
産業資金へと横滑りをしておるのであります。情けないかな、勤労者には適所適量の放出が行われていないのであります。
予算編成の特色の第六には、前年度に引続き相当額の債務の償還費を計上する等、財政上の剩余による
経済の安定化を図つたこと、とある。
大蔵大臣は、債務償還金で日銀を通じ或いは直接市中金融機関から緊要
産業に放出されることが、
経済安定の手段、最も確実な識本蓄積の方法だから、特に重要視すると言う。さればこそ銀行職員の給與は一般給與より非然に高く、ベースは一万円以上とさえ言われておる。その償還額は一千三百二十六億で、そのうちの剩余金及び積立金は六百九十六億が算出されておるのであります。二十四年度の予算補正におきまして、六・三制のための
経費、
国民全体が叫び続けて要望した、四苦八苦して捻り出されたものが十五億であります。一方、薪炭需給
特別会計におきましては、五十四億七千万円があつたという間に出てしま
つておるのであります。これでも財政の差し繰りが付かないのか。給與には税金のはね返りもあるのであります。本当に
政府に誠意があるならば、三百億や四百億出しても、
経済は安定こそすれ、決して破壞はされないのであります。
第五、暫らく忍ばねばならぬかということであります。もはや忍ぶべくして忍び得ざる
状態にある。罷業権が抑えられて、心に苦悶の焔を燃やして泣いておるのであります。
総理は労働運動の穏健化を讚えられるのでありますが、
(
議長退席、副
議長着席)
良き馬も去勢されては駄馬に等しくなる。封建的な、封建時代の農民のような駄馬を好まれるのではございますまい。国力の回復に真劍に協力するには、協力し得るように仕向けられなければ協力ができないのであります。かくのごとく勤労者を犠牲にしての安定工作は無理であり、封建的の良からぬ
政治であ
つて、人道的には罪悪ではないでしようか。伸び行く子供、その子供に対して、お前は去年までは配給量が二百二十グラムであつた、そのときお前の身体にもその着物がきちんと合
つておつた、お前が今日太つたが、併しながら先ず昔の三百二十グラムで我慢をしておれ、身幅が合わない丈の短かい着物を着て我慢をして働け、家計の安定ができたら何とかしてやろうということは、これは無慈悲な親だとして世間から非難されるのではないでしようか。
産業復興、
経済安定の必要なことは無論でありまするが、併しその
産業は人のためなんであります。又人の力で働かせる、興さるべきものであります。一部の強者とも申しますか、仕合せな地位のある人を利して、多くの弱者を一層弱者に陷れる、弱肉強食の自由
経済は、多数の不自由なる人間を作るのであります。私は民主自由の名に背きはしないかと思うのであります。国家公務員と
産業勤労者とは違うといつたような錯覚にも陷
つて頂きたくないのであります。更に人事院の勧告並びに公労法によるところの仲裁裁定の取扱、若しも今のように
政府が否認し否定し続けられまするならば、法の威力は
一体どこにある。又それらの機関はどうすればいいのか。幾ら努力しても駄目だということになる。これも又恐るべきことだと
考えるのであります。
そこで
質問の要綱に移ります。
第三の
質問は、民主安定と
経済安定の比重を同じくし、社会厚生
政策と
産業経済政策を同列に置いて、物を主とする物主主義から
民主主義へ展換して、真の民主
政治に立ち直る御意思はありませんか。その意思があるならば公務員の給與ベースの問題などは直ちに解決するのであります。
第四の
質問は、国家公務員給與ベース改訂について、首相の
言葉のごとく、再検討して善処して、愉快に本気に働かせる
政治良識と親切があるかないか。それとも無理押し付けに苦痛と不満の
生活を続けさせられる御意思なんでありますか。以上お尋ねいたします。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕