○赤木正雄君 私は主として治水問題につきましてお伺いいたします。
先ず第一に、治水
政策について
総理大臣のお
考えを承わりたいのであります。
昭和二十二年の九月三十日に、あの当時の大水害に鑑みまして、この席上で
災害に対する決議を満場一致を以て決めました。その際、時の
総理片山さんは、この席上から、單に
災害復旧のみならず、治水の根本に対しても十分の策を立てると強く言われたのであります。その後、芦田内閣におきましても、芦田さんは又治水の根本を立てるということを強く
お話になりました。この内閣でも治水問題を最も重要な
政策とされておることは我々はよく存じております。併し果してその
政策に盛られるものは、治水の如何なるものかを十分御了解にな
つておるかどうか。ここに私は多大の疑問がありますから、敢えて
お尋ねする次第であります。
一体
我が国の
河川は、その重要なものに対しては、すでに明治年間から仕事に着手したのであります。北上川、最上川、信濃川、利根川、荒川、近くでは多摩川或いは木曾川、神通川、淀川、吉野川、筑後川等、恐らく二十二の大きな
河川はすでに竣工したのであります。それがために、その当時盛大な竣工式を各
地方で挙げて、もはやこれで水害は永久に来ないものと地元の人々は皆安心をしています。又安心をしたのであります。その他の
河川におきましても、重要な
河川に対しては、必要な個所に
相当の仕事がすでにされたのであります。これにも拘わらず、
昭和二十二年の水害以来、再び
河川改修を、今までした
河川に対しても起す、北上川とか、最上川とか、江合成瀬川、信濃川、利根川、木其川、常願寺川、或いは淀川、吉野川、筑後川等の十大
河川は無論、その他の多くの
河川に対しても再び改修せねばならぬ、こういうことになりましたが、一体、
河川改修の生命はそれ程短かいものでありましようか。かく
考えて来ますと、再び改修を必要とする原因として何があるか。これは皆樣も御
承知の
通りに、
戰争中における森林の濫伐とか、或いは
戰争中において
河川に殆んど手を触れなかつた、これは世間も申しております。この
会議場でも皆樣からこの席上でたびたび言われました。併し私はこの外に
我が国の治水
政策に大きな欠点が存在する、これを指摘せざるを得ないのであります。
一体、洪水時の水量は、御
承知の
通りに水量と土砂の量であります。甚だしいものにおきましては、洪水の中の半分以上は土砂から成り立
つております。この中の水量は、これは立方に計算して
河川改修の
計画が立ち得るのでありまするが、土砂に対しては予めこれを計算することができない。どうしてもこれが出て来ないような
方法を講じなくてはなりません。即ちこれが砂防
工事であります。私がここに申す砂防
工事とは、單に建設省
関係のみならず、農林省
関係の治水
事業をも含めての意味であります。即ち治水というのは、
河川の改修と砂防
工事の二つを完全に行な
つて初めてその目的が達成し得るのであります。然るに従来の治水
工事は、ややもすれば
河川改修を以て治水の全部であるかのように
国民を
考え、又
政府もそれに主力を注がれて来たのであります。これでは
河川の改修は竣工しても、日夜土砂が流れて来ますから、一朝洪水に会つたならば氾濫することは当然のことであります。あの二十二年の利根川の水害で栗橋が破堤した場合に、すでにその附近は改修した当時よりも河床が一メートル内外高ま
つておるということは、
地方の人々がすでに申したことであります。言い換えるならば、従来
我が国には
河川工事はあ
つても、一つの
河川について水源から河口に至るまで
計画的に治める治水
工事はなか
つたのであります。この理論上の欠陷が各地に
災害をもたらした、即ち
河川の再改修を必要としておる大きな原因の一つである、こういうことが言えます。このことは、僅かながらも
河川工事と砂防
工事とを併せて行
なつた場所には殆んど水害がない、その森林は
相当に濫伐しても、今までに出水のための水害がなかつた、この事例を見ても明らかであります。
又ひとり治水上から見たばかりでなく、利水の面から
考えましても、今後
我が国の動力源といたしまして極めて重視されておるものは水力発電の点でありますが、折角堰堤を築いて貯水池を設けても、水源が荒廃しておるために、多量の土砂が堆積沈澱して、貯水池の作用を著しく減退しておるのであります。例えば木曽川水系の大井貯水池は、水を湛えて以来二十一年間に全容量の七〇%が失われております。又黒部川水系の小屋平
調整池では、十一年間に八八%が失われております。
全国的の統計を見ても、百五十一地点の貯水池、
調整池の調査において、全容量十億立方メートルの一〇個が堆積土砂によ
つて失われております。この結果は、貯水又は
調整能力の減少となりまして、無効な放流を余儀なくされて、発生電力量に著しく損失を来しておるものであります。
国民の多くは、堰堤を築いて水力発電を行えば永久に発電し得るものと
考えておるかも知れませんが、以上のような事実に徴するならば、
我が国のように水源が荒廃していてもこれを治めない以上は、この期待を裏切られるのであります。
政府が来
年度の
予算をいよいよ建設の年の発足として、
公共事業費の中においても、特に
災害に鑑みて、治水
事業を重点に取上げられた点は我々もよく存じております。併し最初、閣議の結果を新聞で見たときに、
相当の砂防費も計上されておりまして、この
政府によ
つて初めて正しい治水
事業が断行されるものと、私は非常に期待を持
つておりました。併しドツジ博士による査定の結果は、御
承知のごとく、最も甚だしく減額されたのであります。私はこれに対して、或いは本
年度の
予算よりも多額に組んだと
政府は言われるかも知れませんが、さような
枝葉末節のことをここで申そうとは思いません。ただ容易にこの水源の
事業費が減額されたその精神の問題であります。
明治の初年にデレーケその他のオランダ人が初めて
我が国の治水
計画を立てましたときに、例えば淀川、木曽川のごとき、明治十四年の
河川改修費は共に六万円であります。そのうちの四万円は砂防
事業に、残りの二万円は
河川改修に使用したのであります。これは申すまでもなく治水は先ず水源を治めて次いで
下流の改修に及ぶべきであるという治水の純理論に立脚した処置と
考えられるのであります。その後、明治の中頃から、これらの外国人が帰るに及んで、現在のような治水
政策に転換しましたが、ここに大きな治水上の欠陷が介在して、すでに申したごとく、折角した
河川改修も再改修も必要とする原因とな
つたのであります。
今や
我が国は資源の開発、土地の完全利用、これを図るために国土の総合
計画を考うべき時期に到達いたしました。これも治水が主となりますが、殊に今後
農村経営の
合理化といたしまして、土地の交換分合という極めて大きな問題が残されております。これは耕地の改良と、なかんずく治水の完成によ
つて土地の安定が図られることが、その根幹となるものであります。水源の治まらない
河川改修だけでは決して役立つものではありません。即ち国土の再建は水の理論に立脚した正しい治水
政策によ
つて初めて目的が達成され得るものであります。併し何分にも従来の
政策を変更するということは非常に障害が多い。殊に多くの
国民は治水というものはかようなものかと、即ち現在の治水
政策を以て治水のように思
つていますから、これを転換させることは非常に困難であります。これは内外共に非常に困難であります。併しこの治水の原則に従わない治水
政策で決して永久に
我が国の治水は成り立つものではありません。この観点からして、私は砂施
工事も
河川工事も平等に取扱
つて、平等の観点から正しい治水
政策にこの際転換される必要がある。我々は單に眼前の数年間の経過を以て満足すべきでありません。この際に、本当の正しい治水
政策に転換しない限り、
我が国は永久に水害から免れることはできません。この意味におきまして、果してこのいろいろな障害を打破しても正しい治水
政策に持
つて行かれるかどうか。無論、私がここに申す治水
政策は決して砂防のみではありません。無論、
河川の重要さも十分
承知しています。即ち合理的の治水
政策に持
つて行かれるかどうか、この点を
総理大臣にお伺いしたいと思います。
次に、
災害問題に関しまして、
建設大臣、安定本部長官並びに
大蔵大臣にお伺いいたします。来
年度の
災害復旧費は四百七十億という
相当思い切つた
予算が計上されております。併し二十四
年度の府県の土木
災害で
国庫の補助を要求した総額は五百四十七億七千二百余万円に達しております。又これに
相当する
災害復旧個所は六万五百十三ケ所にな
つております。これを建設省で査定した結果は四百三億九千二百余万円、個所数において四万一千三十七ケ所とな
つておるのであります。即ち一万九千余ケ所は、これは
国庫の補助を受くることができません。一体この
部分に対して如何なる処置をとるでありましようか。無論この一部は県が自分の費用を以て
災害復旧もいたしましよう。併しその多くは何ら手を着けずに放置して置くのが今までの習慣であります。そうしてこの次の出水に対してこれがますます破壞して、いわゆる国の補助を受け得るように大破壞をして初めて
災害復旧をなす。こういう形なのであります。況んや初めからこの
災害復旧の
国庫の補助の対象とはならない小さい破損の個所はその何百倍あるか存じません。このことは、我々がいずれの
河川を見ても、至るところ護岸の一坪ぐらい壞され、橋が少し壞されておる、こういう事実を認めることにおいて明らかであります。これを一体どうするか。二十四
年度におきまして、仮に二十七都府県が
河川の維持費をどれ程計上しておるか。その額は一億四千二百五十六万円であります。これによ
つて二千六百三十九
河川を維持せねばならない。言い換えるならば、一つの
河川について僅かに五万四千円より維持費を計上しておりません。何故にかように府県が維持費を計上していないか。僅かに一つの
河川で五万四千円ではこれが維持できる筈がない。これには第一に今まで維持費に対しては国の補助がなかつた。国の補助のないものは起債も認められることはなかつた。
従つてこれがますます破壞して、これも
災害復旧の
国庫の対象になるまで放置して置く、こういう
状態であります。でありますから、何としても大きく破壊する前に、先ず維持をしなければならない。ではこの維持はどうするか。無論今は我々の税金は決してこれを軍部に捧げるわけでありませんから、早く維持費に用うべきでありますが、そこは、まだいたしておりません。何としても補助をしてこれをすることが必要であります。来
年度の
予算には防災
工事ということをやりまして、やはり維持費を計上されております。この維持は如何にするか。今よりも多額の維持費を計上さるべきではないか。この点が一つと、もう一つは、
災害復旧と同じような仕事が各省に跨が
つておる。或いは建設省、或いは運輸省、或いは農林省、これがために各府県から建設省に出しておるのが不合格になれば運輸省に持
つて行く、或いは農林省に持
つて行く、こういう不合理がありますから、こういう不合理を改めて、この点からも合理的な行政機構に改むると同時に、今までの
災害査定の規定を根本的に改められる御意思がないかどうか。この点を承わります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕