○
紅露みつ君
年の瀬を控えまして、
国鉄従業員や、
国家公務員の年末
手当、
賃金ベース改訂等の問題が重大化して参りまして、
賃金ベースの
改訂は暫くおくといたしましても、年末
手当につきましては、不満足ながら一応その要求員容れられようとしておりますことは、御同慶の至りでございます。併しながら
政府がこれを以て能事終れりとしておられまするならば、それは頗る
認識不足であり、且つ
片手落な政治であると言わなければなりません。私は民主党を代表いたしまして、この点を指摘し、
全国二百万になんなんとする
未亡人中、
子供を抱えたいわゆる
母子家庭約六十五万
世帶の
福祉に関し、数点の
質問をいたしたいと存ずるものでございます。この中には
留守家族も含まれております。これら
母子家庭の多くは、
生活保護法の
適用を受けまして、僅かな
給與金によ
つて、いたいけな
子供を育て、且つその中には身体の不自由な老人を抱えておる者も少くないのであります。一家の
経済を支えるところの夫がおりましてさえも、尚、
国民の大
部分はその日の
生活に喘いでおりまする今日、彼女らは
女手一つでこうした負担の下で
社会の
荒波に漂流し、現在におきましては正にこの
荒波に押し流されようといたしておるのであります。それでもハンストも決行せず、デモも行わないのであります。と申しますよりは、それさえも行えない悲しい
環境に置かれておるのであります。即ち
組織らしい
組織も持たない彼女らは、
生活権擁護の運動を起そうにもその手がかりがないのであります。又僅かに
組織されつつある
関係者への連絡をとりましようにも、その
交通費、通信の費用にさえも事欠く状態でありまして、尚その上に足手まといになる
子供を抱えておるのでございまするからして、いよいよ以て身動きができないというのが現在の
実情であります。その結果は、力盡きて、かわいい
子供を道連れにして默々と自殺して行く者、或いは心ならずも肉体を闇に売
つてその日の糧を得ておる者、その跡を絶ちません。毎日のように新聞紙に報ぜられておるところでございまして、
政府におきましても御
承知の
通りでございます。このことは人道上から見ましても見逃して行くことのできない
社会問題だと存じますが、
政府は果してこの現実をどのように見ておられますでしようか。これは
総理大臣にも御
所見を伺いたい点であります。
次に第二点、
政府は一昨年来、
兒童福祉法を
実施して、
子供が生れ落ちるから
成年期に至るまで
国家の
責任において
心身共に健やかに成長するように
保護をいたしておる筈でございます。
凡そ子供を
考えます場合に切離すことのできないのは母であります。殊に父のない
子供にと
つて母親の
存在は絶対不可分の
関係にあります。然るに
未亡人を現在のような窮状に放置したまま、一方において
兒童福祉法を唱えるがごときは、矛盾も甚だしいものであると私は存じます。
兒童福祉法の完全な遂行は、
母子福祉、
母子福祉です、
母子福祉対策の
強化に待たなければならないものであることを私は断言して憚らないものでございます。この
意味から申しましても、
母子家庭に
援護の手を差延べることは、この際、緊急欠くべからざる
措置であると存じまするので、
政府は
差当り若干の
特別支給金を
支出いたしまして、越えかねております
年の瀬の陰惨な
生活から
母子を護るべきであると存じまするが、
政府にその御意思がありますかどうか。勿論、年内余日も僅かでありますし、
予算上、又技術上困難なことは分
つておりまするが、この点特に
政府におかれては御考慮を拂われまするように強い
要望をこめてお尋ね申上げる次第であります。この点は首相にも御
所見を伺いたいところであります。
第三点でございますが、
政府は
母子福祉対策要綱というものを去る十一月三十日の閣議に了解を得られまして、十二月一日附で
厚生省次官通牒として各
都道府県に流しておられますが、私共はこれを拜見いたしまして、全く失望を禁じ得なか
つたのであります。それはただ抽象的に問題を羅列したに過ぎないものでありまして、あの
程度の
内容を
盛つた一片の
次官通牒などを以ていたしまして、
母子家庭の
生活が保障されるとお
考えになる
政府の御
認識を疑うものであります。現在の世相はそれ程ゆるやかなものではありません。
政府が衷心から
母子の
生活を護る熱意をお持ちになりますならば、
施設の問題にしろ、住宅の問題にしろ、融資の問題にしろ、或いは内職を初め職業の問題にしろ、もつと強力な
具体策を示し、且つ速かにこれを
法制化すべきであると存じまするが、
政府にその御
用意がありますかどうか伺いたいと存じます。
厚生大臣は去る十二月十四日開催されました
母子福祉対策国会議員連盟の総会にも御出席になりまして、親しくこの
次官通牒に加えられましたところの
検討も御
承知の筈でございまするので、その後相当の御決心もお付きにな
つておられると存じますから、これに対するその後の御心境について伺いたいと存じます。
第四点として、第五
国会におきまして本院は
未亡人並びに
戰歿者遺族の
援護に対する
決議案を上程し、
全会一致を以て可決いたしております。又
衆議院においても
遺族援護に関する
決議案をこれ又
全会一致で可決通過せしめております。然るにこれについての
政府の
報告書を見ますと、
衆参両院に対し、
遺族年金又は
弔慰金の
支給は現在困難である、ただこれだけで、いとも
簡單に片付けられておるのであります。又引揚促進に関する
決議案の可決は、第一
国会以来実に五回を数えるのでありますが、その都度、
関連事項として
留守家族、
遺家族の
援護が強調されておるにも拘わらず、これに対する
政府の
施策には殆んど見るべきもののないのは甚だ遺憾に堪えないところであります。とりわけ、この
留守家族、
遺家族の中には少からぬ
母子世帶が含まれておるのでありまして、この点については特に一言申上げなければならないと存ずるものであります。一体彼女達から大事な夫を奪
つたのは誰でありましようか。た
つた一枚の
赤紙召集令状によ
つて否応なしに
家族が奪
つて行つたのではなか
つたでしようか。そうしてあの当時あの
命令を拒み得る力を持
つた人があ
つたでしようか。全く絶対
命令であ
つたことは誰もこれを否定する者はないと存じます。若しあのことがなか
つたら、彼女達は一家団欒して、たとえ
生活は豊かでなくても、今
日程の憂目は見なか
つたであろうと存じます。若し
侵略戰争に参加した者の懲らしめのためだというような
考えが万一にもどこかにあるといたしまするならば、それこそ、とんだ
見当違いであり、余りにも残酷なことと言わなければなりません。なぜならば、
侵略戰争の
過誤については、これを反省し後悔しておらない者は、今日、
日本に一人もないと存じますが、殊にこれらの
留守家族や
遺家族は最も大きな
戰争の
犠牲者でありますだけに、
戰争に懲り懲りいたしまして、平和を祈念する
程度が誰よりも強いからであります。而も彼女らが
戰争の
主謀者でなか
つたことは申すまでもありません。ですから懲らしめの対象などになる謂れは絶対にありません。然るに彼女らだけがこうした苛酷な苦難の中に立たされておる。これはどう説明したらよいのでございましようか。又彼女らの夫は当時の
国家にと
つてなくてはならない
存在であ
つたでしよう。それは恰かも現在の
公共企業体の
従業員や
国家公務員が
国家にと
つて必要な
存在であると同じようなものであ
つたろうと存じます。そうして、その要請に応えて今日の不幸な結果を見たのであります。
従つて彼女らの
生活を擁護することは、
国家が犯した
過誤への償いであり、跡始末であるということができると存じます。して見れば、
国家公務員の
遺族恩給と同じ
意味のものが
戰歿者の
遺族及び
未亡人に與えられることも又当然と
考えられまするが、
政府としての御見解は如何でありましようか。この問題に関し
政府は
責任をお感じにな
つておられないのでしようか。これは
総理大臣にもお
考えを伺いたいと存じておるのであります。又若しその
責任を果すために何か
隘路がございまするといたしますならば、
政府はその
隘路を打開するために積極果敢な
努力をなさるべきであると思います。
至誠は天に通ずる筈でございます。
至誠を貫くために
政府は臆病であ
つたり卑屈に
なつたりしてはならないと存じます。この点も併せて御
所見を伺いたいと存じます。
最後に、
現行の
生活保護法でありますが、これは極めて貧弱な
内容で、到底現在
一般困窮者の
生活を維持するに足るものではありませんので、
給與を引上げて、これを最も近い
機会に改正する必要があると存じますが、
政府に果してその御
用意がありますかどうか。私はこの
保護法が改正されまして、然る上に更にプラスして以上申上げました諸点が私共の
要望しておりますような形に顯現されることを念願し、
全国未亡人、
留守家族、
遺家族、殊に
子供を持つ
母子家庭が現在の苦境を脱し、明るい
生活を営み得ることを念願して止みません。
総理大臣は
全国母子家庭にと
つてはお
父樣とも或いはお
祖父樣とも頼られるべきお立場でありますので、この
方々のために親身にな
つてお
考えを頂き、納得のできるようなお答えを頂きたいと存じます。又
厚生大臣は、現在お屋敷にお帰りになりますと、おやさしい夫君であり、慈愛溢れるお
父樣であられるのですから、
母子家庭への思いやりは一しお深いものがあると拜察いたします。本日は
所管大臣の
責任に加えて、
全国二百万の
未亡人、
遺家族、
留守家族、殊に六十五万
世帶に及ぶ
母子家庭への愛情の程を御披瀝されることを御期待申上げます。
私の
質問は以上でございます。(
拍手)
〔
国務大臣林讓治君
登壇、
拍手〕