○
政府委員(村上朝一君)
国籍法案の
内容につきましては、提案
理由の
説明の中で申上げました外、先般逐條
説明を便宜プリントにいたしてお配りいたしたのでありますが、その外に
委員長から釈明を求められております点につきまして御
説明申上げます。
先ず第二條に関連してでありますが第二條の第一号の「出生の時に父が日本国民であるとき。」とあるこの「父が日本国民である」とは一体どういうことを言うのか。むしろ
戸籍法の
適用を受けている者、或は父が現在日本国民とされている者であるときというふうに改めてはどうかというような点であります。申すまでもなくこの第二條は出生による日本国籍取得の要件を
規定したものでありまして、日本国民はどういうものであるかという定義を挙げたわけではないのであります。第一号におきまして、子の「出生の時に父が日本国民であるとき。」は子は「日本国民とする。」と
規定しております。が、これは子の出生の際父が日本国民とされている者であるならば、子は出生の事実によ
つて当然に日本国籍を取得するという
趣旨でありまして、現行法の第一條と全同
趣旨であります。現行法第一條の「父カ日本人ナルトキ」というこの「日本人」とは何を言うかということは、結局現行
国籍法施行の際、即ち明治三十二年
施行されました当時における
一般通念によ
つて日本人であるとされてきた者及びその後
国籍法の
規定によ
つて日本の国籍を取得した者で而も
国籍法の定める国籍喪失の事由がない者を言うわけであります。
第二号及び第三号における父又は母の日本国民たる資格についても同様であります。この子の国籍上の
基礎となる父又は母の日本国民たる資格を一層明確にするために、子の出生の時に父でありますけれども、
戸籍法の
適用を受け戸籍に記載されるためには、先ず日本国民であるということが前提條件となるわけでありまして、これによ
つて日本国民の意義を明確にするというわけには参らないかと思います。又父が現在日本国民とされている者であるときと改めましても、その「日本国民」とは何を言うかという点につきましては同じ疑問が残るわけでありまして、現行法のまま踏襲いたすのが適当ではないかと
考えるのであります。次に同じく第二條につきまして、この「子」というのは
法律上の父子
関係の子を指すのかどうかという点であります。この第一号、第二号にあります「父」という言葉は、これは
法律上の父子
関係にある場合を言うのでありまして、単なる事実上の父子
関係を意味するのではないことは現行法とこれも全く同様であります。改正案におきましては、子の出生における父の認知に当然には戸籍得喪の効果を伴わないことといたしまして、別に簡易なる手続を必要とすることにいたしたのでありますが、認知の有無に拘らず、事実上の父の国籍に従うという
趣旨ではないのであります。
次に日本の国籍を取得したということを戸籍以外の国民登録その他の制度によ
つて公法上明かにすべきではないかという点であります。朝鮮人、台湾人等、いわゆる
戸籍法の
適用を受けないものを除きまして、日本国民はすべて戸籍に記載される建前にな
つておりますので、戸籍の外に別に日本国籍を有するものを登録する国民登録というような公簿を設ける必要はないのではないか、現行法と同様でよいと
考えておるのであります。尚日本国民で
戸籍法の
適用を受けるものはすべて戸籍に記載される建前ではありますが、戸籍の記載はもとより日本国籍取得の要件ではないことは当然のことでありまして、例えば出生によ
つて国籍を取得した子について出生届出が怠られておる。そのためにその者が事実上戸籍に記載されていないといたしましても、これがために異国籍となることはないのであります。尚その点に関連しまして外国人である男と日本人である女との婚姻以外の子の戸籍が明かでないという御疑問もあ
つたようでありますが、これは第二條第三号、現行法の第三條と同
趣旨でありますが、これによ
つて日本の国籍を有するわけであります。
次に
国籍法案は現行法通り父系主義を採
つて、父が日本人であるときは子も日本人であるとする父系を優先されておるのは、男女平等の憲法の
趣旨に反するのではないかという点であります。この
法案におきましては、出生による国籍の取得について、現行法と同じく父系主義を原則としておるのでありますけれども、出生による国籍の取得につきましては、血統主義を採用する諸国で母系主義を原則としておるというのは一つもないのであります。父系と母系を同等に見ております例は二三ありますけれども、極めて少数であります。大多数の各国立法例は父系主義であるのであります。従
つて若し父が外国人である場合に、母系主義を採
つて母が日本国民であるときは子を日本国民とするというようなことにいたしますと、必ず二重国籍の状態を生ずることになるのでありまして、この二重国籍を防止するために、外国の多くの立法例に倣
つて、この
法案におきましても現行法の父系主義を踏襲したのであります。尚父系主義を採ることは、父としての権利或いは母としての権利に差別を設けるということを意味するのではないのであります。男女の本質的平等という憲法の
趣旨に反するものではないと
考えるのであります。
次に第二條につきまして、捨子の場合、日本で生れたという立証は困難であるから、推定
規定を設ける、つまり日本で発見された捨子は日本で生れたものと推定するという
規定を入れるべきではないかという点であります。この改正案の第二條の第四号、現行法の第四條、これが捨子に関する
規定でありますが、外国の立法例では、その国の領土内で発見された捨子は国内で生れたものと推定するという、捨子の出生地に関する推定
規定を設けているものもあるのでございます。四面海に囲まれております我が国の地利的條件から
考えますと、かかる推定は
法律の
規定を特に俟つまでもなく当然生ずるのでありまして、捨子の出生届に関する
戸籍法の第五十七條の
規定も、日本国内で発見された捨子は当然に日本国内で生れたものと推定する、従
つてこの
国籍法が補充的な原則として採
つております出生地主義によりまして日本の国籍を取得するという前提に立
つておるわけであります。この捨子の問題につきましても、この際現行法を改めて特に推定
規定を設ける必要はないかと
考えるのであります。
次に第三條につきまして、この帰化の許可は自由裁量か法的裁量かという点であります。これも現行法におけると同様自由裁量の行為でありまして、外国人に
法律上帰化の請求権を認める
趣旨ではないのであります。要するに第四條乃至第七條に
規定しております帰化の要件は、
法務総裁の裁量権をこの限度において制限する
趣旨でありまして、この要件を充たす限り帰化の請求権があるという
趣旨ではないのであります。この点も現行法と同様であります。
次に第四條でありますが、国籍離脱については、改正法は全く自由に放任しておるが、帰化については厳格主義で臨むのが相当である、又緩和主義によるのが相当であるという点であります。この点も現行法の
規定をそのまま踏襲いたしたのでありまして、この際現行法の
規定をより厳格にし、或いはこれを緩和する必要はないかと
考えておるのであります。それから第四條の第二号でありますが、無国籍人については本国法というものがない、二十才以上で外国の国籍を有する者にと
つては、その本国法によると改めるべきではないかという御疑問でありますが、無国籍人につきましては、法令の第二十七條第二項によりまして、住所地法又は居所地法が本国法とみなされるのでありまして、住所地法又は居所地法によ
つてそのおのおのの能力の有無が判断されるわけであります。
次に第五條につきまして、日本国民の夫たる外国人、日本国民の妻たる外国人によ
つて帰化の條件が違う、居住期間に差異を設けておるのは如何なる
理由であるかという点であります。
一般に外国人に帰化を許すに当りましては、我が国の利益を常に考慮しなければならないのでありまして、そのためには日本に住所を持
つておること、その他何らかの点において日本の国と密接な
関係を持ち、或る
程度日本の生活に同化しておるということが必要なわけであります。然るに現実の家庭生活を見ますと、
現状の下におきましては、言語その他日常生活様式の上において、夫が妻の属する国の生活に同化する
程度よりも、妻が夫の属する国の生活に同化する
程度の方がより大きいことは我々の経験上明かでありますので、又他面妻に対してその
意思に反して夫の国籍に従うべきことを強制すべきではありませんけれども、妻が夫と同一国籍を取得することを希望するならば、これはもとより好ましいことでありますから、差支ない限りその希望する途を開く必要がある、そうして
一般に夫が妻の国籍に従うことを希望する場合よりも、妻が夫の国籍に従うことを希望する場合の方がより多いことも普通
考えられるのであります。以上の日本国の利益及び夫婦相互間の通常の場合における立場を考慮いたしまして、この
法案におきまして日本国民の夫たる外国人と妻たる外国人の帰化の條件に差別を設けたのであります。併しながらこれは本質的に妻を夫よりも低い地位にあるものとして、現行法のように妻の帰化の能力に
法律上の差別を設けるわけではありませんので、憲法の男女平等の原則には、
精神には反しないと
考えるのであります。
次に帰化の條件に関する
規定をもつと整理する必要があるのではないかという御
意見もあるのでありますが、この案の第五條及び第六條は、いわゆる簡易帰化に関する
規定でありまして、大体におきまして現行法の九條、十條、十四條、二十五條、二十六條の
規定の
趣旨を踏襲したものであります。ただ現行法は第九條の
規定を見ましても分りますように、
規定の仕方が複雑でありまして――読みにくいのであります。現行法の以上の諸
規定を整理してこの
法案の五條及び六條の二ケ條にまとめたわけでありまして、むしろ現行法よりは分り易く
なつたと
考えておるのであります。
次に第五條の第二号において、日本国民であ
つた者の子として「(養子を除く。)」としてありますが、養子を除くのはどういうわけであるかという点であります。これは国籍の得喪につきましては、養子と実子とは同一に
取扱うのが適当でないのでありまして、日本国民であ
つた者の養子の日本に対する
関係は、日本国民であ
つたものの実子の日本に対する
関係よりも稀薄であるという考に立脚したわけであります。殊に両親たるべきものが、日本の国籍を失
つた後にその養子と
なつた者にまでその簡易帰化を認めるということは当を得ないということであります。尚養子の簡易帰化を認めることになりますと、何らかの目的を達するための手段として縁組をするという弊害の起る可能性も
考えられるわけであります。第六條第二号におきまして養子を除外し、養子につきましては別に第三号で実子と異る簡易帰化の條件を定めましたのも、第五條第二号で養子を除外したのと同様の
理由でありますが、尚外国人を入夫又は養子とする場合の條件を
規定しました明治六年第百三号布告改正
法律の
趣旨を踏襲したわけでありまして、その詳細につきましてはこの第六條第三号に関する逐條
説明に記載した通りであります。
次に第六條につきまして、日本国民の妻たる外国人に対しては、本條の第一号において簡易帰化を認めるに止め、現行法のように日本国民の妻は当然に日本国籍を取得するということは止めたわけであります。従いまして夫婦別国籍の場合を生じ得るわけでありまして、この場合の戸籍の
関係についての御疑問でありますが、この場合には外国人たる配遇者の戸籍の備考欄に婚姻の事実が記載されるに止まるわけであります。これは戸籍には日本国民たるものだけが登録されるという建前から来るわけでありまして、民法及び
戸籍法における夫婦同一戸籍の原則とは別個の問題となるわけであります。
次に養親又は養子の一方が外国人である場合の戸籍の
関係も夫婦の一方が外国人である場合と同様でありまして、外国人たる養親又は養子は戸籍に載るわけではなくて、單に日本国民たる当事者の一方の戸籍の備考欄にその縁組の事実が記載されるに止まるわけであります。
次に第八條に関連しまして、アメリカに対して日本人の帰化が許される見込についての御質疑でありますが、アメリカ合衆国におきましてはアメリカ
国籍法第三百三條の
規定によりまして、日本人には帰化の資格が認められていないわけであります。現在アメリカでこの
規定を改正して、日本人にも帰化の資格を認めるべきであるという
意見が一部にあるようなことが新聞に出たことはありますけれども、
一般の見込につきましては、目下のところ全く予測ができない状態なのであります。
次に第九條に関連しまして、沖縄に住んでおる日本人の子は二重国籍になるかどうかという御疑問であります。沖縄は講和條約によ
つて領土の帰属が決定いたしますまでは本法にいわゆる外国には該当しないわけでありまして、沖縄に居住する日本国民の子が出生によ
つて二重国籍を取得するといふ問題は起きないわけであります。いわゆる沖縄人も講和條約によ
つて国籍の帰属がどう決められるか分りませんけれども、とにかく講和條約成立までは尚日本国民でありまして、日本の国籍を有するものと
解釈いたしておるのであります。
次にいわゆる第三国人と申しますか、朝鮮人及び台湾人のことでありますが、朝鮮人の国籍の問題も、終局的には講和條約によ
つて決定されるわけでありますけれども、それまでは日本の国籍を有するものと
解釈いたしておるのであります。ただポツダム宣言によりまして、日本の領土から除かれることが確定的に予定されておりますのみならず、事実上外国人に準じて扱うのが相当でありますので、我が国内法のうちにおきましても、例えば外国人登録令におきましては朝鮮人及び台湾人はこの登録令の
適用については外国人と見なすということにな
つておるのでありますけれども、
国籍法の
解釈といたしましては尚日本国籍を有するものと解しているわけであります。