○
深川タマヱ君
法務総裁に対しまして
検察の
運営に関する
二つの御
質問を申上げます。
その先ず第一番は、
勾留の
濫用による
人権蹂躪についてでございます。
刑事訴訟法第二百八条第一項によりますと、「
勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、
検察官は、直ちに
被疑者を釈放しなければならない」と
規定しております。而してその第二項には止むを得ない
事由がある場合に限りまして、更に十日以内の
延長が認められております。即ち
検察官の
勾留期間は原則といたしまして十日以内に決め、真に止むを得ない場合に
限つて更に十日以内の
延長を認めておるのでございます。然るに、最近における
検察官による
勾留の
実情は、この第二項を
濫用しまして、どんな
事件でも一度
勾留すれば二十日間は当然
勾留する権利があるがごとく、取扱われておるようでございます。即ち同条に
規定されておる止む得ない
事由があるときは、という
制限は、全く無視されておるようでございます。
かくては、第一項の「
検察官は、直ちに
被疑者を釈放しなければならない」という
人権擁護の重大なる
規定はあ
つてなきがごとくであり、
かくては
人権上由々しき問題であると
考えます。止むを得ない
事由がないにも拘わらず、
勾留期間を更に十日間平気で
延長するがごときは、
法律を無視するばかりでなく、これこそ
勾留の
濫用による
人権蹂躪であると断ぜざるを得ないのでございます。御
参考までに一例を挙げて見ます。詳細に記述した
本人の
上申書を御
参考までに提出しておきますから、御覧願いたいと存じますが、今その要点を申上げますと、新聞にも出ました
通り、あの例の
太陽クラブの
事件でございますが、
櫻井馨というものが
石野や春日井というもの担がれまして、
社長に祭り上げられ、本社の
事務所を提供させられるなど、利用せられておりましたが、
櫻井を担いだ
石野などが
社金を勝手に使用したため、
詐欺容疑で
取調を受けたのでございますが、
櫻井本人としましては、
債権者から預か
つた金は一銭も不法領得していないばかりでなく、逆に数十万円を負担させられるという大変な迷惑を蒙
つておるのでございます。
従つて詐欺も横領をないことは、
会社の
帳薄や
出金伝票などによりまして明白であるにも拘わらず、三月五日
逮捕され、
検事勾留十日に処せられましたが、
検事の事実に関する
取調は一回もなく、更に十日間
延長せられましたが、その間にも
検事の
取調は全然なく、丸二十日目に
告訴人の代理人である
自由法曹団の
今野弁護士が突如として現われまして、
示談に応じなか
つたならば
起訴されるかも知れんという圧迫の下に、不本意な
示談を強いられ、三月二十五日に
処分保留のまま釈放されたという事実がございます。これは初めの
勾留そのものが先ず問題でございますが、
勾留期間中何らかの
取調らしい調べもなく、最初の十日を徒過し、何ら止むを得ないの
事由があるとも思われないのにも拘わらず、更に
勾留期間の
延長をいたしております。かようなことは現在
日常茶飯事に行われているように聞いております。
旧法時代におきましては、
行政執行法を悪用いたしまして、検束の
むし返しをなし、何十日、何ヶ月でも
警察の
留置場に放り込んでおくという、ひどい
人権蹂躪が行われていたことは、
かくれもない公然の事実でございまして、当然のこととして何人も疑わなか
つたところでございます。今回
刑事訴訟が改正されまして、再びこのようなことが起らぬよう、
人権尊重に関する二百八条の
規定ができたわけでございますが、再びこの
規定が無視蹂躪されておるようでございます。かような
法律無視の
人権蹂躪が行われないよう、
法務総裁の適切なる御指示と、御監督をお願いいたしたいというのが、第一の
質問の要旨でございます。
第二番目を簡単にここに申し添えます。第二番目の御
質問は、
検察庁が
示談に関與することは極力避けて頂きたいということでございます。
被疑者を強権を以て
勾留して置いて、
示談に応じなければ
起訴になるかも知れんという、重大なる脅威の下に行われるような
示談は、公正を欠く場合が多いと存じます。先程の
太陽クラブの
事件の例によりましても、
社長の
櫻井は自分では一銭も着服していないのに、道義上の責任を感じて、昨年十一月十六日全
債権者の
代表者十名との間に、
櫻井氏の所有する
家屋、即ち
太陽クラブの
事務所に使用していた
家屋、時価百万円以上のものを全部提供する約束をいたし、如何なる
事由に基くとも廃棄せざることを固く約束していたにも拘わらず、
勾留の切れる最後の日に、
山梨検事のところに突如現われた
自由法曹団の
今野弁護士との間に、前の
示談を全然無視して
告訴をした一部
債権者だけとの間に再び
示談を強要されております。これは
告訴をしなか
つた者に対しては非常に不公平であり、
本人も前の
示談が無視せられたこと、及び
全員との
示談でなく、一部
告訴人だけとの間の
示談につき、甚だ
不満を持
つており、客観的に見ても誠に不合理と思われます。
検察庁における
示談、特に
勾留されている者、
勾留されている
被疑者との
示談は、事実上強制的なものとなり、その
内容も無理を生ずる場合が多く、且つ
検察庁を利用して
示談を強要する場合もありますので、余程慎重にして頂くよう、
検察官に御
注意願いたいのであります。以上
二つの御
質問に対しまして、
法務総裁の御所見をお伺いいたします。