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1950-03-16 第7回国会 参議院 法務委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    公聽会   ————————————— 昭和二十五年三月十六日(木曜日)    午前十時五十三分開会   —————————————   本日の会議に付した事件商法の一部を改正する法律案(内閣  送付)   —————————————
  2. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) それではこれにより商法の一部を改正する法律案に対する公聽会を開きます。  御承知の通り商法改正案が今国会に提出されまして、この改正要綱は七十三項目に亘りまして、これらの各改正項目日本の現在の産業界並びに経済界に及ぼす影響は極めて甚大なるものがあると考られるのでありまして、この改正決定の如何によつては、将来の日本経済に相当な影響を及ぼすものと考えられます。我々といたしましては各界の有識者の方の御意見を拜聽いたしまして、この法案に対するところ審議の完璧を期したいと、かように考えた次第でございまして、本日の公述人の方々の御意見をお伺いいたしまして、これらを資料にいたしまして審議の参考に供したいと、かように考えて本日の公聽会を開いた次第であります。どうかその意味におきまして忌憚のない御意見をお述べ願いたいと思います。  それでは先ず日本通商専務矢野範二君の公述をお願いいたします。大体公述時間は二十分程度にお願いいたしたいと思います。
  3. 矢野範二

    公述人矢野範二君) 只今御紹介賜わりました矢野範二でございます。肩書が少し違つておりまして、日本金属産業取締役社長をいたしております。御指名によりまして、誠に浅学な、常識的な意見ではございますが、時間の限り申述べさして頂きます。  沢山法律の中で会社法程私共経済人にとつて直接関連のあるものではございません。従つてこれがどのように改正されるか、又改正されねばならんかということは重大な関心事の一つでございます。昭和十三年に御案内通り可なり大巾な商法改正があつて以来、殆ど改正らしい改正がなかつた会社法が、終戰後の新しい経済事情に対処し、即応するために改正されねばならんとことはもとよりでございまして、我々の異存は少しもございません。さりながら先般の改正が、確か昭和四年以来の長い月日に亘りまして二百数十回の審議を重ねられた結果改正されたものであつたに比較しまして、今回のそれは、聞くところによりますと、昨年の八月の十三日に法制審議会に諮問されまして以来、まだ経過する日数も僅かでありますし、もとよりその審議会では有識、達識の智能の結果をなされて、深い検討と審議とがなされたものであるとは申せ、早くも目下開会中の国会に提案されておりまして、恐らく通過し、恐らく通過後公布され、来年の七月には実施されるであろうということが見通しされます限りにおきまして、余計に我々の問題でございます。況んやその内容が、先きの改正と違いまして、株式会社法の根本に触れる多くの問題を含み、従来のドイツ法系の法則を一変して、英米法化せんとするところにあるにおいておやでございます。御案内通り我が国法制が殆んどすべて独法系に属しておつたことは周知の通りでございますが、これを英米法化せんとすることは、正に法制を貫く、又法制を組み立て、延いては諸々の経済活動の規律をなしておる大きな思潮の一大転換と考えます。もとより戰争終結後、殊に敗戰後国家におきましてその会社法を変えることは、先の欧州大戰後ドイツを待つまでもなく、歴史に繰返されるところでございまして、殊に商取引関係国家間に結ばれ、資本が国境を越えて行きます場合、むしろ会社法国際的統一すら考えなければならんことでありまして、我が国現状より見まして、当然英米法に近接することが必要であることは言うまでもございません。問題はただ、それが現在の経済状勢経済人の通念、経済倫理に合致するかどうか、或いは合致すべきものであるかどうかという点に係つておると考えます。私は法律専攻家ではございませんが、二、三の要綱に示されました点について意見を申上げ、大方の御叱正をお願いする次第であります。  第一の点は、申すまでもなく授権資本制度の採用と、無額面株式発行を認めた点と考えます。この点はアメリカでは現在、無額面株式も現在の普通株の約三分の二程度優先株式の場合は約三分の一程度は、無額面発行が現在アメリカには行われておるようでございまして、日本にこの制度を持つて来ることは、そして現在の経済事情に持つて来ることは、必ずしも非とは考えておりません。この両制度採用は、簡單に、端的に申せば、会社資本調達を容易ならしめようとするものでございまして、多くの会社がインフレの進行過程に多くの借財をなし金員を受けておる。これを自己資本に振替えるためには、こうした授権資本制度、或いは無額面株式発行を許すことは結構と考えるのでございます。ただ問題は、現物出資の場合に警戒を要しますことと、資本確定の原則を採らないために、会社財政の基礎を危うくする虞れがあることから見て、現在の事業会社の殆んど多くが、多くの金融機関から借金をしておつて債権者法においてもう少し一考を加える必要があるのではないかと愚考する次第でございます。授権資本制度並びに無額面株式発行については、我々事業家としては、英米法に近接する途であり、又外資導入を促進するためにも必要であるという立案者の御意見に従うわけでございます。  第二の問題は、取締役経限強化、延いては取締役会制度の設定でございます。この点も無額面株式発行や、或いは授権資本制を採る以上、当然に現在の株式会社株主総会中心主義から取締役会中心主義へ移行する結果として出て来るわけでございまして、敢えて異議を挿むものではございません。而も取締役地位強化は現在の株主総会が殆んど、特殊な例外を除きまして、空文化し、取締役の思うまま、意のままに改正され、決議されている実情にも即しておるのでございます。又企業所有経営分離は、多くの人が申されますように資本主義経済根幹でなければならんと信じます。少数優位な経営者経営を委ねることが会社発展の要訣でございまして、言うまでもなく株式所有大衆に、企業経営における経済的の力は少数な有力なる担当者に集中して行くところ会社の本質的な性格があると思います。従つて取締役権限強化に伴いまして、取締役会制度はつきりと明文化し、或いは取締役会議事録を作るとか、現在の現行法では取締役の各自代表が特別の定めのない限り容認されておりますのに、取締役会決議従つて代表者を設けねばならんとか言う如き一連の規定は誠に当を得たものと考える次第でございます。従つて監査役制をこれに伴つて廃止せんとするか、はつきり分りませんが、監査役制を廃止せんかとする改正案趣旨も我々には肯かれるわけでございます。  第三の問題は、株主地位強化という問題であります。そうして又最も私らが問題にしたいところでございます。現行法株主株主総会に出席して議事の可否を決する議決権、その議決権というのは株主権と見ていらつしらないようでございますが、或いは配当とは、残金資産の分配を受ける財産的権利とか、或いは或る場合に株主総会を招集しろと要求する言わば経営者監督的立場に立つ権利などがあるわけでございます。ところ改正案はこれらの外に多くの権限を認めて、その株主地位強化せんとしております。その趣旨はもとより取締後の権限強化いたします半面、その專権を防ぎ、企業経営をして誤りなからしめんとする措置であり、又株式投資民生化を促進し、資本調達を容易ならしめようという経済的理由と考えます。取締役が大部分が大株主から選任される従来の慣例より見ましても、小株主はいつも冷遇視され、殆ど忘れられた形になり、大株主の方針に盲従する外はない、このことは企業の健全なる運営発展のためには好ましいことではない、小株主意見も十分尊重され、その経営参画機会もできるだけ認めることが、いわゆる民生的企業形態と言わねばならん、かように説明されておるかに承つております。併し私は非常にこの点不満があるわけでございます。ここに時間のある限り具体的に述べて見たいと思います。  先ず第一は、改正案株主総会の招集を請求することができる、いわゆる少数株主の緩和をしておるのでございます。現行法は、資本の十分の一に当る株主に右の権限を譲りまして、而も尚裁判所監査選任請求をなす場合とか、会社の整理の申立の場合、清算人解任請求の場合、特別清算における検査漏申立の場合等にはいずれも十分の一の外に、株式を三ヶ月前から持つておることを必要としておるのでございます。ところ改正案は、右のいずれの場合にも発行済株式総数の百分の三以上に当る、即ち三%の株式を有するもので足りるとされております。更にこの上に取締役に対する訴えの提起とか取締役権限踰越、又は定款法令違反行為差止め請求権少数株主どころではなく、個人株主にすら與えようとされております。このことは株主保護、この地位強化に、偏重して株式会社実情を無視する嫌いはないかと考えます。言うまでもなく大資本を必要とする現在の事業経営におきましては、従来に比してどの会社発行株式数が非常に多く、又株主数も激増しております。このことは一面株式民主化株券大衆化でもあつたわけでございます。卑近な例を取ることをお許し願いたいと思いますが、私共の会社で戰争中、大体資本金に対する株主の比例は、一万円に対して一人の株主というのが普通の常識でございました。私の方が六千万の会社でございますが、大体六千人、当時三千万の会社でございましたが、一万円で一人というのが大体多くの会社株主実情でございました。それが終戰後多くの有力会社増資増資を重ねました結果、非常な株主数に激増いたしておるのでございます。従つて右に述べましたような、経営者に対する監督的な権限を僅か三%しか有しない株主に與えるということは、その権能を濫用される虞れが非常に多いわけでございます。殊に経済倫理の発達の乏しい我が国民性から見ても、むしろ子供の火遊びに似た観がいたします。三%であることに拘わるわけではございませんが、仮に三%の株式を持つことを許されますと、一〇%の株式を持つた株主は同じようなことを三回一緒に裁判所にも提起することができるわけでございます。現在、私共が東京都の労働委員をしておる関係で、よく実感することは、不当労働行為という名目で労働者諸君から、会社経営者訴えられます場合、同じ事件について沢山人間訴えますことは、沢山人間でなくても、二、三名の人間が幾つも数を重ねて出しました場合には、仮に不当労働行為がなくても、あるかのごとき錯覚を委員としては持つのでございます。ここに同じように、株式を三%だけしか持たない株主にかかる権限を與えることは、多くの問題を提起するのではないかと愚考する次第でございます。さなきだに事業経営多難なる現下の経済界にありまして、会社経営者に対する請求や注文が多くなることは、それだけ企業の円滑な運行を妨げ、日本経済復興を遅らしめると信じます。少くとも現行法同様に一〇%を限度すべきではないかと愚考いたします。会社の帳簿、書類の閲覧又は謄写の権限を、現在の一月十日付の要綱によりますと一〇%以上の株主に限るように改正されたかに聞いておりますが、この御努力を御当局に更に一歩進められんことを切望して止まないわけであります。  第二に、改正案は、取締役選任議決に当りまして累積投票方法を認めております。累積投票とはここで詳述するまでもございませんが、自分持株選任される取締役の数を乗じまして、その多くなつた持株で以て、集注的に自分の意図する意中の人に投票し得る制度であることは言うまでもございません。アメリカの多くの州が認めていることも承つておりまするが、改正案は、定款にどういう定めがあつても、少くとも発行済株式総数の四分の一以上に当る株式を有する株主から請求があれば会社はこの投票方法によらねばならんとされております。四分の一以上の制限がありますので、濫用される虞れは少いと考えます。併し非常に角度違つた取締役選任され雑居するということは、経営の妙諦が人の和にある以上、必ずしも望ましいことは限りません。殊に終戰後会社従業員自分の所属している会社株主に非常になつております。増資のために、なかなか株式の売れ行きが悪いために、自分ところ従業員に株を殆ど会社が持たしております。又最近は非常に遅配とか、欠配とか、給料が拂えない会社では、賞與とか或いは越冬資金自分会社のいわゆる抱き株を分けているのでございます。こうした株主が若し組合代表会社取締役に送るというふうな事態が起りましたならば、必ずしも法の、そうして又我々の経済倫理の希望する事態は、惹起されないと考えます。この点御一考を煩わしたいと、かように考えております。  第三に、改正法によりまして個人株主権利として新たに認められましたものは、要綱の三十三、三十四、四十、十九に列記されておりまする株式買取請求権とか、取締役責任追求訴えを提起する権限とか、取締役行為差止め請求権とか、株式発行停止権限などであります。時間がありませんので、極く簡略に申上げます。株式買取請求権は大体においてアメリカ特有制度で、すでに三十七州以上にも実施されていると聞いておりますが、問題は株式買取価格であると考えます。協議が調わなければ裁判所価格決定請求をすることができると立案されております。株主保護立場から申せば、この権利を認めることも敢えて非とするわけではございませんが、株主は、言うまでもなく市場売買にかける流通性を持つています。株主はいつもその株券を売ることによつて株主たる地位を脱却することができます。この点会社従業員と非常に変つているのであります。従つて株式を処分して株主たる地位を脱却することが不可能な株券所有状況が仮にありましても、会社営業譲渡とか、或いは合併などに反対したがためにその意思に添わずに合併され、営業譲渡をされた場合に、株式買取請求を要求する。そうして価格が調わなければ裁判所請求するという制度は、先程も田中先生に御指示を受けましたように、全く契約理論から発展したものと考ええられるのでございまして、我々は納得ができかねるのでございます。殊に買取いたしましたならば、会社はそれだけ資本の、少なくとも運転資金の減少を來たすわけでございまして、数多い株主にこういう事態が起つたならば、会社の基盤であるところ資本充実実態はもろくも崩壊するに決つております。少なくとも法制上は、決議なかりせばその許すべからざりし公正な価格を以てとありますのを、時価を以てという程度に変えて頂きたいと考えるのでございます。この法制を認める以上は公正なる価格と言う代りに時価を以てと、裁判所にも或いは株主にも経営者にも分りのいい、時価を以てという程度に変えて頂きたいと考えるのでございます。  次に取締役行為差止め請求権でございますが、これも或る一定の條件の場合に取締役行為を差止めすることができるという株主権利でございます。これも濫用されますと却つて会社業務運営の支障となるのではないかと考えます。少くとも或る程度株主資格株主個々に與えるものでなく、或いは三%とかの株式を持つておるとか、或いは何ケ月前から株主であつたとかいう程度制限を設けるのが必要ではないかと考えます。  以上くだらんことを縷々申上げましたが、改正法案はいろいろな角度、いろいろな意味から言つて株主に多くの権限を與え、その地位強化しております。併し具体的には、前に申しましたようにいずれも可なり行き過ぎではないかと考えます。我が国民大衆株式投資に興味を持ち、株式民主化が行われましたのは極めて最近のことでございます。従つて一般株主と申しては甚だ失礼な申し方でございますが、経済倫理の観念も薄く、会社実態の把握も極めて低いのでございます。とすれば、株主に種々の権限を認めることは、徒らに事を構える機会を多くしまして、企業経営の円滑なる運行を妨げる危険が生ずると申さねばなりません。目下の私共企業経営者は、一面重税に喘ぎ、他面金融逼迫に苦悩しております。言うまでもなく従業員労働攻勢は潜在しておる時代でございます。この秋経営者にとりましては、理解のある株主こそ唯一の支援者であり協力者であります。そのよき協力者である支援者に多くの武器を與えますことは、経営者をして徒らに敵を潜在せしめることでありまして、策の秀でたものでは絶対ないと確信いたします。誠に企業の自由と経営分離こそ新しき資本主義経済根幹でなければならんと考えます。たとえ経営者たる取締役権限強化しましても、これが濫用なり不正を防止する方法は別に講ずべきだと考えます。その別とは何か。これはお歴々の識者を前にして甚だ先程来御無礼申しておりますが、証券取引法に盛られておりますごとく、或いは目論見書作つて会社実態を公衆の前に曝すとか、或いは統計会計士制度を早く設けるとかいうごとき公的な監督方法取締役制度に対しては別個に考えるべきだと考えます。私共は民主主義、デモクラシーの名に捉われまして終戰後労働組合法ができまして、慣れない労働組合に対し多くの紛争を会社経営者との間に起しまして、日本生産復興を遅らしめたようにね株主地位強化株主利益の擁護というふうな美名の下に個々株主を擁護し助けるということのために、却つて多くのトラブルを起さないようにお願いしたいわけでございます。  尚最後に改正案外資導入を促進させる趣旨から申しましても、又各種の事業会社が多額の借入金を現在の金融機関からなしておる現状からいたしましても、会社債権者保護という点について一段の御留意を賜わるようお願いいたしまして、誠に浅学な、殊に御無礼な私の意見を終らせて頂きます。
  4. 伊藤修

    委員会伊藤修君) それでは公述人に対するところの質疑は後に一括してお願いすることにしまして、次に弁護士大橋光雄君の公述をお願いいたします。
  5. 大橋光雄

    公述人大橋光雄君) 只今御紹介頂きました大橋でございます。商法改正案が世論に上りまして以来、我々職業的な立場からしまして主として理論と実際、殊に実際面から見まして、どういうような不都合を来たすであらうか、どんな影響を来たすであらうかということをいろいろと検討しておりましたのでございますが、本日弁護士会代表としまして意見を述べさして頂く機会を得ましたことを感謝いたします。私が申上げようとすることは、大体弁護士会理事会の了解を得ましたのでございますが、必ずしも全部弁護士会の一致した意見というわけでもありませんので、私の私見も相当入つておる次第でございます。  大体におきまして先ず総論各論とそれから結論、こう分けたいと思いますが、総論におきましては、どんな思想で貫かれておるか、それがどんなふうに現れておるか、その現れ方をもう少しくこんなふうに修正したらいいのじやないか、こういうふうな大掴みなことを申しまして、その次に各論におきましては各條文順にこれはちよつと困るという点だけを約九点ばかり指摘させて頂きたいと思います。それから結論部分におきましては、大掴み言つて、今後改正案が施行されたとしまして、それを施行するに当つてどんなふうの対策が必要であるか、こういうことを申上げてみたいと思います。  先ず総論におきまして、本改正案を貫くところ思想がどんなふうであるかと言いますと、私は率直に申しまして思想混乱があるということを申上げたいのであります。大変その表現がどぎついような表現でありますが、思想混乱がある。先ずその極めて小規模利益団体に適するような規定があるかと思いますと、他方には非常に大規模企業のみに適するような規定もある。そしてそれをバツクするところ思想を考えて見ると、小規模利益組合に発生したような理論もありますし、それから又二十世紀の大企業においてのみ見得るような、大企業があつてのみ生れて来るような思想も現れておる。そんなふうに思想混乱がある。例えば、どんなようなものが小規模利益組合思想を現しておるか。現在我が国商事立法におきまして極めて小規模利益組合としましては、その代表的なものは、恐らくは私の考えでは、船舶共有制度というのがあるんでございますが、これには株式の絶対讓渡制或いは船舶共有持分の絶対讓渡制とか、持分買取請求権とか、こんなような制度があるわけでございますが、丁度それがこの改正案に出ておる。折角今まで企業が順次大規模になるにつれて発展して来たところのいろいろな制度が、極めて初期に発生した利益組合船舶共有のような制度に逆行しておる。つまりレトログレツシヴと申しますか、極端に言いますと時代逆行的である。こういう感があるのであります。それでは改正案に現れましたいろいろな制度がすべてそういう小規模利益組合に適するような思想を以て貫かれておるかと言いますと、豈図らんや、又大規模企業のみに見得るような制度が考えられて来ておる。例えば、最近よく言われておりますところ所有経営分離というようなものを根拠付けるようなことから出て来るような、例えば、株主総会権限を縮少して、取締役経営者権限を大ならしめて、そうして取締役資格株主資格とを分離する。それから財政状態をガラス張りにして公表する。こういうような制度は大企業においてのみ発展を見得るところの現象でありまして、こういうものが又改正案にも現れておる。一口に言いますならば、結局これは思想混乱である。そういうような混乱した制度が、率直に言いますと、これはアメリカ会社法に見られる。アメリカ会社法は世界のいろいろな国の会社法と比較研究しましても必ずしも模範とは言い難い。こういうことは、第一次大戰後ドイツが、アメリカ資本を導入する必要に迫られましてアメリカ会社法を大いに研究したのでありますが、丁度我が国が今それと同じ状態に陥つておるのでございますけれども、その当時のドイツ法学者の研究の結論としましては、米国会社法は必ずしも模範的に非ずと、こういう結論を出しておるのであります。そうしてドイツは必ずしもそのアメリカ制度は採らなかつた。必要止むを得ず外資導入……その当時のドイツアメリカ外資を導入する、全く必要止む得ざる程度改正しかやらなかつたのでございまして、今回のごとくに、殆んど向うの制度を鵜呑みにするというようなやり方はやらなかつたのでございます。若し英米制度に持つて行かなければならんというのが現在の態勢でありますならば、私はすべからく英国会社法模範として、非常にまとまつて、よくコデイフイケーションのできておる英国会社法に範を採るべきであつたと、こう思うのであります。  今まで申しましたところから一口に申しまして、少規模利益組合を表すような思想と、大規模企業に現れるような思想とが混つているということを指摘したのでございます。  次に総論のうちの第二段でございまますが、そういう、いわば組合思想と大規模会社思想とが混在しているという結果としまして、どんな不都合が出て来るか、それは一口に申しますならば、会社経営が余りに煩雑になり過ぎている。例えば、今後の株主総会運営並株主に対する対応策、こういつたものがもう非常に現行法に較べまして煩わしい。いわば経営上非常なるトラブルも起きて来るでありましようし、非常な費用がかかる。その費用や手続の煩雑に堪え得るものは大企業だけでありまして、恐らく小規模中小企業は、この会社法によつては運営できない。費用倒れになつてしまう。そうして中小企業はむしろ有限会社法に移行せざるを得ないのじやないか。ところ有限会社法は、必ずしもまだ。もう少しくこの今の改正案通つたとしまして、この改正案から逃げ出すであろうというような企業には必ずしも適していない。有限会社の方ももう一つ改正しなければならん。こんなふうな実際的結果を来たすのではないかと思うのであります。そこで概括的に、そういうふうな思想混乱した規定が非常に煩雑になつているということからしまして、私が国会に要望するところとしましては、総論の第三段としまして、どんなことを要望したいかと申しますと、概括的に申しまして、会社法におきましては先ず大規模会社に適応するところの法規を規定して貰いたい。大規模会社を予想して、それに適するところ思想を以て一貫して規定して頂きたいと思います。そうしまして、又、有限会社法に行くまでに至らんところの、いわば中規模程度に適合するような会社には、定款を以て別段の定めをなすことを得と、こういうようなふうに整理して貰いたい。先に思想混乱があると申しまして、組合思想と大規模会社思想とが混在しているということを申しましたが、大体の方向としましては、法律面におきましては、大規模会社思想で以て一貫する。そうして定款規定を以て組合思想を入れて来る、そんなふうのアウト・ラインで以てデイダクションして頂きたいというのが概括的な私の供述であります。  その次には各論としまして、この條文だけはどうもまずいから一つ御勘考願えないかという点だけを條文順に拾いまして、若干指摘さして頂きたいのであります。先ず改正案百六十六條の一項五号というところでございますが、ここに新株引受権を定款定めるようにということが書いてあります。新株引受権を認めるか否かということは、この改正案審議の当初から甚だ問題となりまして、私共はどちらかといいますと、新株引受権を認めた方がいいとこんなふうにも考えておるのでありますけれども、最後のところに行きまして、新株引受権は必ずしも認める必要なしということになりまして、そうしてそれの又妥協案としまして、定款で新株引受権を認めるかどうかということを規定せよと、こういうことになつたというふうに洩れ承つておるのでありますが、この新株引受権を定款定めるということは実際的に無意味であるということを私は指摘したいのであります。無意味でありまして、結局これは新株引受権を取締役会に一任するということと同じことである。定款に記載するということはこれはナンセンスであるということを申上げたいのであります。何となれば、ここにありますのは新株引受権の有無又は制限に関する事項とありますので、ナツシングというところまで定め得るのでありますからして、例えば取締役会に一任する、新株の引受権のあるかないかということは、あるというふうに決めてしまえばいいかも知れませんが、ないと決めてもいい。それだけならはつきりしますが、制限に関する事項といいますならば、例えば取締役会に一任することを得とこうありますが、そうしますというと、そういうこともこの解釈で言うならばいいことになる。そうすると、恐らくすべての会社は、定款を以て取締役会に一任することを得というふうに書くであろう。そんなふうならば、それは定款定めるということは無意味じやないかというように私は考えます。でこの問題は、この授権資本、無額面株の問題とも絡んで来まして、相当大きな問題なんでありますが、そうしてその授権資本の規定、それから無額面株の規定は、なかなかうまくデイダクションができたと実は私は感服しておるのでございますが、最後にここに至りまして画龍点睛どころじやなくて、その逆に行つた。今まで非常に敬服の感に堪えなかつたところ授権資本、無額面株の制度をうまく取り入れられたという敬服の感が、ここに至つてもうすつかり興醒めしたというような気持になるのでございます。  それからもう一つ、解釈上の問題としまして、そういうのは実際的にはこれは無意味だということと、それからもう一つ解釈上の問題としまして、一つ非常な矛盾があるということを指摘したいと思うのであります。それと申しますのは、今度のその新株発行というのは定款変更じやないのです。増資でないんだからして定款変更じやないというような立場から、現行法におきまして定款変更の中にあつたところ増資規定を引張り出しまして、別の節を設けまして、新株の発行という節を設けたのであります。そうしてその新株の発行は決して増資じやないんだという頭でずつとやつて来ておつたわけであります。ところがここで、定款の中に新株引受権の有無を記載すべしということを書きましたために、今度はいわゆる増資の場合、今までのオーソライズド・セアーズをもう一つ殖やそうといつた場合、新らしい言葉で言えば増資ではないのでありますが、いわば増資の場合にその増資分につきましてやはり新株の引受か否かということを書かなければならん、そうなりますとこれは定款変更になつてしまう。そもそも初めに新株の発行というものは定款変更じやないんだからと言うておいて、定款変更の節から引張り出して新株の発行という節を設けた。そうしておいて、この新株引受権を定款に記載するということを一つ書いたために、豈はからんや、それが定款変更になつてしまう。そんならば何も新株の発行というものは定款変更じやないから出したんだということは無意味になつてしまつて、又元に引込めていいじやないかということになつてしまう。だからそういう点からしましても、これは画龍点睛でなくて墨を塗つたんだということになると私は思うのでございます。それでございますから、新株引受権を認めないなら認めないでよろしいが、併し定款に記載するということはこれは引込めて貰いたいと私は考える次第でございます。  各論の第二点としまして、二百六條の第三項という規定を見て頂きたいのでございますが、ここには「会社株券ヲ登録スル為定款ヲ以テ登録機関ヲ置ク旨ヲ定ムルコトヲ得」という規定があるのでございますが、この問題は私は、率直に申しまして削除すべきであるということを提唱したいのでございます。その凡そ法文に現れましたところは、これは一般国民はその法文だけを見て分るようにデイダクションして置かなければならんのでありまして、一部の立法者は、これはこういう意味であるからお前等はこういうふうに解釈せよと言われましても、それは甚だ困る。立法、司法、行政は、これは分立しておるのでありますからして、立法者はそういう意思でありましたとしましても、併しこれを法の運用に至りましては必ずしもそれに拘束されないのであります。そうなればこの表面に現れたことだけでこれを見なければならんのでありますけれども、そうした場合に、株券の登録ということは一体どういうことか、それから登録機関というものは一体どういうことか、登録ということは元来……。そこでそういう疑問が出まして、それで外にはこの疑問を解決する條文はどこにもない。僅かにこの一項目だけでありまして、登録機関というものはどういう作用をするのであるか、登録したならばどういう効果を生ずるのであろうかということが、全然他には規定がない。そういう訳の分らぬ規定を置いて、そうして国民に分らしめるということは困る。これは立案当局に窃かに洩れ承るところによりますと、こういうことだというのでありまして、例えば株券発行した、それがオーソライズド・セアーズの枠の中であるということを証明して貰うというと、それがその信用を増す。だからそういうことは必要だとこういうお考えのようであると聞いておりますが、まあそういうお考えでありますとしましても、もう少しくそのデイダクシヨンを考えて貰わなければいけないと思うのでありますが、例えば、株券を登録するということはどういうことであるか、株券の登録と言いますと、如何にも自分らで以て一々の株券を登録して貰う、丁度無記名社債を泥棒に取られる心配からこれを登録して貰うというふうに受取れる。その登録の枠内で発行した、こういうようなことをレヂスターとして貰うのでなくて、自分の持つている株券が泥棒に取られては困るからというので、用心のためにどつかに登録して貰うというふうに取れる。株券を登録すると申しますと、そういうふうに取れる。それから登録機関という言葉も一つおかしい。元来我が国法制におきましてはいわゆるレヂスターを登記と登録とに分けておりまして、行政官庁のレヂスターするものを登録と称し、司法機関のレヂスターするものを登記としておるということは言うまでもないことでありまするが、立案当局の予想しておるところの登録機関なるものは、どうも他の会社であるらしい。例えば信託会社であるとか、銀行とか、又はそういう新しい商売ができたものとか、そういうどうも私立会社を考えておるらしい。そうしまするというと、従来の我が国法制で一貫して用いられておつたところの登録という文字と大分違つて来る。こんな点からしまして、この一項目は削除すべしとこう申上げたいのであります。但しその制度自体をそう反対したいとは思わないのでありまして、こういう制度が必要ならば必要で結構でありますからして、これはもう少し研究をされまして単行の法律を以てやつて頂きたい。僅かに一項目で以て分らしめるということはそれは甚だ困ると思うからして、単行の法律でやつて頂きたい。つまり実体は反対しないのでありますが、法のデイダクシヨンにおいて適当でないとこういうふうに申上げたいのであります。  第三点としまして、株式の質入れのことをちよつと指摘させて頂きたいのでございます。二百七條でありますが、元来譲渡と質入れということは大体同じことと考えなければいけいない。普通に質に入れて、それを返金を怠つている場合には質物を取られますが、取る場合には、やはり譲渡の方式を備えおる。或いは質権の処分の形式、処分の名義を與えているとか、何か処分と類似の、譲渡と類似の方法がなければならんのでありますが、ところ我が国株式におきましては、現行法もそうでありますが、譲渡と質入れとは甚だ規定がマツチしていないのであります。記名株式を単純に引渡すことによつて質権を対抗要件としているかのごとくでありますが、一体単純に渡しまして、それが単純に渡した場合には、一体それでは拾つて来た場合と同じやないか。外見的に見まして拾つて来た場合と同じことではないか。これに、質入れしましたら処分して頂きましても文句はありませんという一札が入つてつてこそ、質入れの方式が整つているということが言える。ところ現行法は単純に渡すということになつている。何も書かないで渡せばいいと、こういうことになつておりまして、ただ実際界におきましてはその法律通りつておらない。守らないからいいようなものでありますが、現行法通りつたならば、実におかしなことになつて来る。そこでこの点は、現行法においてもすでに御勘考して頂きたかつたところでありますが、改正法におきまして株式譲渡について、株式をほぼ手形と同様に考えたわけであります。  裏書によつて譲渡する。裏書を成立條件としておる。それから裏書に代るものとして譲渡証書を以て譲渡し得る。大体裏書というものを大筋として、そうしてそれに譲渡証書を以てする方法も認めておるというふうに、大体手形と同じて考えたわけであります。そうしまするならば、質入れにつきましても手形と同じように考えるべきではないか。手形の質入れにおきましては、いうまでもなく質入れするということを書いて手形を渡すという方法を取つておるわけであります。単純に手形を渡してそれが質入れになるということではないわけでありまして、この点が譲渡と、質入れとがマツチしていない。それから、いわゆるトランスフアー・エージエンシイという、名義書換代理人という制度を譲渡の場合に認めておりながら、質権の場合には認めていない。どうも準用規定がなかつたと思うのであります。第二百六條第二項の規定は、質入れにはなかつたと思うのでありますが、これもやはりマツチしていない。要するに質入れというものと譲渡ということと全く別に考えておるということがいけない。もう少しく質入れと譲渡をマツチするように考えて頂きたい。  それから第四点としまして、時間をちよつと超過しましたので、第四点としましてはこういうことを申上げたかつたのであります。株主保護が強過ぎる。これを可及的に現行法通りとして貰いたいということでございますが、これは他の公述人からも恐らく出ることであろうし、又もう一人弁護士の方から藤林という方が出られますが、これも同見でありますから、この点は時間の関係上省略しまして、要するに取締役に対する訴権とか、株主の書類閲覧権とか、買取請求権とか、行為差止め権というようなごときを認められることはちよと行過ぎであるということを申上げたいのでございます。これは詳しくは時間の関係上省略します。  それから第五点としまして、取締役資格株主との分離は行過ぎであるということを申上げたいのであります。二百五十四條第二項であります。これはいわゆる所有経営分離ということを端的に表現しておる條文でございますが、この思想が必ずしも適当でない。従来所有経営分離ということは、非常なはやり言葉でありまして、これを了解し得ない者はもう時代遅れであるというふうなことくに考えられておりまするけれども、この思想は、これは一つの現象として、一つのフエノメノンとしては理解し得る。大企業における一つの現象としては理解し得ますけれども、これを一つの法理論にまで高めるということは、もう少し躊躇しなければならんじやないか。所有権を持つておる者が経者権がないというようなことは、資本主義下においては必ずしもこれは了解し得ないところでありまして、現象として説明することはともかくとして、これを法理論にまで高めるということには非常な躊躇がなければならん。それを極めてはつきりとこういう條文を置くということはちよつとおかしい。船舶共有の場合におきましても、共有者が経営権がないというような思想は決して現れていないのでありまして、これは少くとも定款を以つてこういう條文は訂正し得るということにしなければならん、こう思うのでございます。  それから第六点としまして、二百六十五條を指摘したいのでございます、これはいわゆる雙方代理の規定でありまして、現行法趣旨は同様、ただ現行法にいわゆる取引という文字が具体的に表現されたという点でございますが、そのことは少しも反対することはありません。ただここに注目すべきことは、現行法におきましては「此ノ場合ユ於テハ民法第百八條ノ規定ヲ適用セズ」とこういう規定があつたのでありますが、改正案におきましてはこれが削除されておる。その削除の意味が私は分らない。一体民法百八條の適用しないという意味なのか、或いは理論上当然分り切つたことだから削除したのか、一つ何れかにはつきりして頂きたい。適用があるならある、ないならばない、どちらにいたしましても、それ程実務に差支えることもないのであるますが、とにかく契約面とか、手形を発行する場合とか、やはりちよつと注意しなければならん、百八條の適用があるとないとでは、やはり実際的の扱いにちよつと注意が要りますから、何れかにはつきりして貰いたい。どちらでも結構です。併しなるべくなら現行法通りの民法百八條を適用せずという結論の方にはつきり規定して頂きたい、こう申上げるのであります。  第七点、大変時間を取りまして申訳ありませんが、あと急ぐことにいたします。二百三十條の二という條文を御覽頂きたいのでございますが、ここにおきましては、株主総会権限法律又は定款定めたものに限る、こうあるのでございますが、これも又一つの行過ぎではあるまいか。それでは株主総会権限が縮小された結果としてどこで膨らんで来るかと申しますと、これは言うまでもなく取締役会の方に膨らんで来るというわけでありましようが、それでは一体取締役に全権を委任するというその根本は、やはり株主所有権、株主経営権というところになければならん。それを結集したものが株主総会でありますから、それが縮小されるということでは訳が分らん。一応資本経営分離というような思想もここに現れておると思いますが、それはそれでよろしうございますから、もう少しこれ自体を以て、又この規定を適用しないというようなことを定款に書き得るように、概略的にいわば定款にあらゆる事項を書いて置けばそれは結構かも知れませんけれども、そうじやなくて、この規定自体を定款で削除し得るというふうにしたい。若しこれを表現通り受取つたと仮定しまして、実際上どんな不都合があるか、これは卑近な例を一つだけ考えますと、二百六十九条におきまして、取締役の報酬は株主総会定めところによるという、これは結構でございますが、それでは取締役の退職金を定めるのは誰が決めるのか、これは法律定款規定のない場合には取締役会が決める。そうしますと取締役の退職金はお手盛りで以て取締役会が決める、こう言つたへんてこな解釈問題になるのじやあるまいか。この二百三十條ノ二は、そういう意味におきまて……それは一つの例でありますが、その他いろいろな例が出て来ますが、これは一つ御勘考願いたい。  その次に会社の計算に移りまして、第九点としまして、二百八十一條以下ですが、ここにおきましては概略こういうことを申上げたいのであります。外の改正規定を見ますと非常によく詳しくできておる。殊にそのオーソライズド・キヤピタルとノンパー・ストツクというように規定を誠によく取入れたと思いまして感心しておるのでございますが、計算の規定におきますと、余りに規定が簡略である。外の規定は時には非常に詳しい。詳説であると世で思われるくらい詳しい規定ができでおりますのに、計算の規定になりますというと、殆んど現行法通りはまつておられるわけでありまして、これはもう少しくよく研究して、この規定を十分に研究して、もう少しこれを詳しくして貰いたい。その改正の一番の眼目は、資本準備金と利益準備金とを分けたこと、こういう点でございますが、そうして資本準備金にはどういうものを記載し得るかというようなことが書いておりますが、これはそれだけのリアクションしかないのであつて、準備金を二つに分けたということの思想的な根拠がもう少しも出ていない、これだけを見ますというと、準備金の百を五十と五十に分けた、そうして損失があつた場合には先ず利益準備金から食つてつて、それが食い足らん場合には資本準備金を食うんだ。まるでこういつた第一準備金、第二準備金を同じ性質のものを、ただ額の上で分けただけだというごとくに受取れるのでございますが、実は二つに分けたということの思想の背後には大きな変更がなければならん。言わば果実の樹に実が成ることを考えますというと、果実の樹が年々成長して行くという場合のその利益、これが大体その資本準備という方の思想にあるわけです。それから年々果物が成るということの思想の方の準備金が利益準備金であります。そうしますとその資本準備金に繰入れるか入れないかということは、これは幹を枯らしてはいかんという思想に繋がつてつて、そうして法人税法においてそれは税金を掛けちやならんという思想に繋がつて来る。こういつた資本準備金と利益準備金とを分けたということは、單に計算的に、数学的に分けたんじやなくて、実に質的に分けておるという重要な問題があるのでございます。そうしてもう一つ別の面から行きますれば、従来ドイツ系の財産目録を中心としたところの、いわば靜的に財産状態を把握するという方向から、英米式の動的な方向、動的に財産状態を把握するという方向に移つておるという重大な変化を示しておるという問題でございます。その重大なる利益準備金、資本準備金の帳簿が要求されていないという欠陥があるわけであります。そこで私はせめてそれを今リアクシヨンしてくれと言つても、なかなか一朝一夕にはできませんかも知れませんが、その利益準備金の帳簿を、どういうものを利益準備金とし、どういうものを資本準備金とするということの帳簿関係をもう少しく尊重する意味において、会社はこういうものを備え付けなければならんという、監査役の検讎しなければならんという種類の一つにせめてこれを加えて貰いたいとしまして、私は改正案二百八十一條第五号に、準備金計算書と申しますか、剰余金計算書と申しますか、そういう帳簿を一つ要求する。そうしてその一、二、三、四、五、のそれを総合した結果として、改正案の五号を六号としまして、利益及び利息の配当に関する議案、こういうふうに持つて行きたい。一、二、三、四、五としてその総合した結果が六に現れておる。少くとも五号として利益準備金、資本準備金の帳面につけてくれ、こういうことを一つ要求したいのでございます。  それから第十点としまして……大変時間を取りまして恐縮ですが、もうあと二、三分で終らせて頂きます。株主総会決議要件が嚴格に過ぎる。普通決議におきましても、特剔抉議におきましても要件が嚴格になつておる。これは他の公述人からも恐らく言われるでありましようからして、それだけを指摘することに止めまして、これも可及的に現行法に近ずけて貰いたい。大変時間を取りますが、これで総論各論とを終りまして、最後に結論としてもう一、二分頂戴いたします。  最後の結論としまして、こういうような若干の欠陥を持つた改正案を制定したといたしますと、そうしますとどういうふうな対策を考えなければならんか、今言うたようなことが幸いにして御採用になればこれで結構でございますが、御採用にならないとして、このまま鵜呑みにされたとしまして通つたとしますと、本法を施行する上におきましてどういうことを考えなければならんかということでありますが、先ずこの改正案通つた結果としましては、非常に煩雜になつて、その煩雜に堪え得るものは大会社だけである。非常にそれは大会社にアダプトしておるという意味ではなくして、大会社だけがやつとこさでこの改正案の煩雜さに堪え得という意味において、これは大会社にのみ行われ得る。中小規模会社は、本改正案を以つてしては到底立ち行かない。その結果としまして本法から逃げ出さなければならん。だからして速かに中小企業立法を考慮されたい。この法律を適用するならばそれでよろしうございますからして、中小企業立法にはもう中小企業立法に適した立法を速かに考慮されたという問題であります。それから新法の研究期間を相当長く設けた貰いたい。昭和十三年の改正におきましても、新法を適用しましたのは昭和十五年の一月一日からでありまして、それは一年以上、一年半ぐらいあつたのでございますが、今度のようないろいろな欠陷を持つた改正案通つたと仮定しますならば、非常に研究を要する。先ずいろいろな会社はで得る限り実際界に適応するようにその定款を改めて来なければならんのでありまして、即日、今からでも定款を研究しなければならんのでありますからして、それからいろいろな問題が出て来るということを予想していなければならんから、是非一つ研究期間をできるだけ長くして貰いたい、こういう二つのことを結論として申上げたいと思います。  大変長時間に亘りまして時間を取りましたことは誠に申訳なく存じております。有難うございました。
  6. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) 只今大橋光雄君の御公述日本弁護士連合会を代表してということに訂正申上げて置きます。  それでは午前はこの程度で休憩いたします。田中さんの公述は午後の劈頭にお願いいたしたいと思います。午後は一時から再開いたします。    午後零時九分休憩    —————・—————    午後一時二十九分開会
  7. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) それでは午前に引続きまして公聽会開会いたします。一橋大学教授田中和夫君。
  8. 田中和夫

    公述人(田中和夫君) 今度の改正商法のことは詳しく法律案を研究したこともないわけでございまして、ただ参議院の方から送つて頂きました要綱と、それから雑誌に出ておりました今度の改正法律案とを材料にしまして、私の感じましたことを簡單に申上げたいと思います。  要綱を読んでみますと、今度株式会社におきましては、従来の株主総会中心主義から取締役会中心主義に移つたようでありまして、勿論その取締役会の性質は従来の取締役会と相当に違つておるようでありますが、とにかく中心が取締役会に移つた、こういうふうに理解いたしたわけであります。一方におきましては、その株主総会権限を非常に制限いたしまして、重要事項に限ることにし、その代りに総会の決議の要件を非常に嚴重にしております。他方におきまして、取締役選任につきまして累積投票制度採用いたしまして、取締役会株主総会のむしろ縮図たらしめることを企図し、他方におきましては各株主に諸種の強い権利を與えまして、これによつて取締役の專断横暴を防止しようということを企画していると考えます。即ち各株主をして自分自分利益を擁護せしめるためにいろいろな権利を與えておるのでありますが、実際問題といたしましては、殆んどすべての株主会社経営ということに対して無関心であることはまあ実情であると思いまして、従つて強力な権利株主に與えましても、普通の株主はこれを行使しない。たまたまその與えられた権利を行使する株主は、いわゆる会社荒しではなかろうかということを一般に恐れられているのじやないか、こう考えます。私自身といたしましては、株主に強い権利を與えた場合にそれを濫用することを恐れまして株主権利制限してしまおうという考え方には賛成できないものでありまして、ずつと学校におりまして実際界の事情を知りませんので、果して会社荒しというものが存在するかどうか、又どういう手段で会社荒しをするのかということをよく存じませんですが、そういう一部の者が濫用するということで株主権利を強くすることをやめにするのは如何か、こう考えるわけです。と同時に、商法としてはその濫用を防止する方法規定すべきじやないか。伺いますところによりますと、会社経営者は、そういう株主権利を濫用する者が来た場合には金一封でこれを処理してしまう、こういうことを今までやつているようでありますが、会社経営者としても、そういう方法をやめまして、法律で許されただけの手段を以てこれに対抗するという態度が必要ではないか、すべての問題を法廷において争いまして解決を付けるというのが、法優位の原理を採用した新憲法の精神でもあるのじやないか、こう考えます。会社荒しということを非常に強調するのは、大体会社経営者が事柄を公の問題にせずに、裏面において解決したいという考えがあるがために跋巵するのじやないか、こう考えまして、そういうことはやめるべきである。従つて株主権利は新法に強大にしてもいいのじやないか。ただその濫用を防止しなければいけないのでありまして、そのためには或いは單独株主でも権利を持つというようなことに制限を加えまして、率は少くなければいけないと思いますが、一%の株主とか、そういうものなら強力な権利を行使し得るというふうに制限を附け加えるもの一つかと、こう考えます。  それからこの問題に関連しまして、今度の改正要綱によりますと、現在の商法の二百五十一條に規定しております裁判所の裁量による請求の棄却を認める規定を削除することになるようであります。要綱の六十九にありますが、そういうふうになるようでありますが、これは廃止すべきではないと私は考えます。会社の活動を、もつと広く言えば法律問題を、すべて数字のように條文でちやんと決めてしまう、割切つてしまうということは到底できない問題でありまして、裁判官に相当の裁量の余地を與える、具体的な事件において株主がその與えられた権利を濫用する、或いは実質的に濫用した場合、形式的には或る一応理屈が合うかも知れないけれども、実質的にはよろしくない動機によつてそういう権利を行使しておるのだというような場合においては、現在の二百五十一條にありますように、裁判所が裁量によつてその請求を棄却することを得るという規定をもつと広く活用できるように改正すべきじやないか、こう考えております。裁判官に裁量の権利を與えれば裁判官が專断に陷るということが恐れられておるのじやないかと思いますけれども、併し裁判官の裁量と言いますのは、これは司法的裁量でありまして、判例によつておのずから妥当な結果が出て来るのじやないか、こう考えます。裁判官がその具体的事件に当つて判例を作りそれによつて一定の法則ができて来るという、その法則もすべて條文でちやんと書いてしまうということは到底できないことであると考えます。現に要綱の六十九の中では、裁判所の裁量によつて請求の棄却を認める規定を廃止するとはいたしておりますけれども、要綱の四十とか或いは四十一には、「著しく不公正な方法によつて」とか、「著しく不公正な発行価額で」というような言葉がありまして、原則はやはり、裁判官に或る程度の裁量を認めない限り、事柄をうまく規制することができないのじやないか、こう考えるわけであります。でこの株主権利の濫用をすると同様に、又取締役の方においての專断と言いますか、或いは権限の濫用ということも行われ得るわけでありまして、今度の改正案におきましても、取締役の責任を重くする規定が相当設けられておるようでありますが、この場合につきましても、この改正法律案の二百五十四條の二に「取締役ハ法令及定款ノ定並ニ総会ノ決議ヲ遵守シ会社ノ爲忠実ニ其ノ職務ヲ遂行スル義務ヲ負フ」というような規定がありますが、この規定を実際に働かせるためには、やはりその裁判官が、果して取締役が受託者的見地に則つて行動したかどうかということを、裁量権を以て判断し得るようにしなければならないのではないかとこう考えます。要綱の四十、四十一というのは、さつき引きましたのですが、これは新株発行の場合につきましての規定でありますけれども、勿論一般に取締役、惡徳取締役権限の濫用を防止するための規定も、もつと一般的な規定をおいていいのじやないかとこう考えるわけであります。  それから尚この外株主権利の濫用を防止するという上から考えまして、先程引きました要綱の六十九の中に、この会社編に規定する訴について、担保の提供を要しないものとするということにいたしまして、現行法のこの担保の提供を要するという規定を変更するようでありますが、これも如何かと考えるわけであります。勿論他方から考えてみますというと、最初私が申しましたように、濫用しない株主というものはやはり考えなければならないし、これに強力な権利を與えることによつて取締役権限の濫用を防止するに役立つと、こう考えておりますので、そういう濫用しない株主が訴を提起する場合に、担保の供與を要求することは場合によつては不当でないかと思いますけれども、この場合につきましては原則として担保の供與を必要とすることにいたしまして、それから民事訴訟法の訴訟上の救助のような規定を、事情によつて裁判所は申し立によつて担保の供與を免除することができる、但し勝訴の見込なきにあらざる時に限るというような條文をおいておけば、株主権利の濫用を防止することができるのじやないかと、こう考えております。尚少し行過かとも思いますけれども、今度の改正されました民事訴訟法の三百八十四條の二ですか、この「訴訟ノ完結ヲ遅延セシムル目的ノミヲ以テ控訴ヲ提起シタルモノト認ムルトキハ控訴裁判所ハ之ニ対シ控訴状ニ貼用スベキ印紙金額ノ十倍以下ノ金銭ノ納付ヲ命スルコトヲ得」というような規定に類似した規定を設けることも考慮していいのじやないかと考えます。明らかに権利を濫用して訴を起したという場合は、裁判所の手続をも濫用したことになるわけでありまして、そういう制裁を考えて、株主に與えた権利は本当に正当な目的のためのみにこれを行使し得るという立法措置を講ずることが適当ではないかと、こう考えるわけであります。  それから今度の改正案を全部一通り見まして感じました点は、先程大橋さんが思想混乱があると、こういうふうに言われましたんですが、そういうことを感じます。それから実際は立法に当りますというと、多くの意見の妥協として法案ができるわけでしようから、辻褄の合わない点が多少出て来るのは止むを得ないかと思いますが、例えば累積投票規定につきましても、「定款をもつて累積投票によらない旨を定めることができる」、こういう要綱の文句になつておりますが、ところが後の方は累積投票をとる、即ち総会の縮図が取締役会である、こういうことを前提として、取締役会の招集とか、或いは定足数について詳しい規定を設けておるわけなのでありまして、その規定が「定款をもつて累積投票によらないことを定めることができる」、勿論四分の一以上の株主申立があれば云々ということはありますけれども、その場合を除外して考えますというと、結局殆んどすべての場合には「定款をもつて累積投票によらない」という定めをおくだろうと思うのであります。そうしておけば、取締役会株主総会の縮図でない。言い換えれば反伝派の取締役は全然入つていないということになるのだと思いまして、そうすれば取締役会について規定したいろいろな規定が、どうも例外を認めることによつて不必要になるのではないか、のみならず却つて会社経営の活動を阻害する結果になるのじやないかと、こう考えるわけであります。この累積投票を認めるか認めないかということは、少くとも暫定的には当分の間は会社定款の自由に委ねる、これは要綱もそういうことを認めておりますが、自由に委ねることにしまして、若し累積投票制度を採らない場合においては、取締役会の招集とか、或いは定足数等の細かな規定は適用しないことにすべきではないかと、こう考えます。  それから改正案は非常に細かな制限規定を設けておりまして、これは先程大橋さんが申されたように、大会社の場合にはそれでも運営して行けるかと思いますけれども、株式会社には非常にいろいろな種類があるわけでありまして、それを一律に、例えば定款による株式讓渡の制限を禁止するとか、その外いろいろな規定を作つて一様に当嵌めようとするのは、これは困るのでないかと、こう考えております。甚だ簡単でありますが、これで終ります。
  9. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) それでは日本鉱業株式会社総務部長、春日良夫君。
  10. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) それでは先だつて御送付にあずかりました法務委員会法律案要綱の大体の順序によりまして、大変細かいことで恐れ入りますが、我々実務に携わる者の立場から簡單に二三の点を述べさして頂きたいと思います。  先ず第一に要綱の第十二でございますが、これは株式の名義書換えの停止期間を六十日以内とするという制限と、それから株主権行使の基準日を規定しておるのでありますが、この要綱に基く法律改正案の第二百二十四條ノ二の第四項を見ますというと、名義書換停止又は基準日の三十日以上前に予め公告をして、停止するぞという公告をしなければならんとこういうふうな規定になつておるようでございます。これは普通通常の定時株主総会前の名義書換停止などについては、多くの会社定款に停止期間を指定してあるのが普通だと思いますので、これについては余り問題がないと思うのでありますが、私共の、会社のように多数の株主を持つておる会社にとりましては、臨時株主総会を開催するといつたような場合には、御承知のように現在会社等臨時措置法が廃止せられまして、遅くも総会の二週間前に招集通知を、各株主に招集通知状を発送しなければならないとこういうことになります。又この改正法には総会の定足数を決めておりまして、現行法に比して決議方法が大分嚴格になつておりますので、特剔抉議の場合は勿論でありますが、普通決議の場合でも、例の証券取引委員会規則によつて、あれは財務局ですか、届けるといつたような面倒な手続を経てからでないと委任状の勧誘ができない、こういうことになつておりますので、この招集通知状の発送も、途中で委任状の催促をしないというとなかなか定足数が集まらないというのが実情でありますので、この委任状の催促をするということを考えまして、法律では二週間前ということになつておりますが、実際問題として約一ケ月ぐらい前、少くとも四週間ぐらい前には発送しないというと、途中で督促をして委任状を集めるということがなかなか困難であります。従つてこの発送までに株主名簿を閉鎖しまして、株主名簿を整理しまして、その整理して確定した株主名簿によつて発送するわけであります。そうしてこの株主名簿整理のためには、例えば、当社の場合のように七万人ぐらいの株主を持つておる会社にとりましては、最小限度十日間ぐらいの整理期間はどうしても必要なんであります。そうしますというと書換えを停止してから総会の会議まで大体約一ケ月半、更にその一ケ月前に停止公告を出さなければならん、こういうことになりますというと、少くとも二ヶ月半ぐらい前にもう停止公告を出して行かなければならん、こういうことになる。停止公告を出すために総会の日取りであるとか、或いは議案をどうするかというようなことを決定しておかなければ停止公告が出せない、こういうことになると思うのであります。これは相当厄介なことであつて、無理な場合が予想されるわけでありまして、特に緊急に株主総会を開くといつたような場合には、場合によつては開催不可能になる虞れすらも予想されるわけであります。そこでこの改正案の二百二十四條の二の第四項は是非一つこれを削除して頂くか、さもなくんば現在大体の会社の慣行になつておると思われます書換停止前の大体一週間から十日くらい前の公告で以て足るとこういうふうに修正して頂けば大変結構だと思うのであります。  次に要綱の第十九でございますが、これは営業讓渡などの場合に、この営業讓渡に反対した株主に、会社に対してその会社株式買取請求権を認めておるのでありますが、この買取価格についていわゆる公正な値段を判定するということは、これは実際問題としてなかなか困難でありましようし、最後には裁判所請求して価格決定をして貰えるということであつても、実際問題として手続が煩瑣であるとか、そういう理由から、会社はそこまで行かない前に、而もその当時特に株価でも下落しておるというような際には相当高値で以てこれを買取らされてしまうというような場合が多かろうと予想されるのであります。又仮に会社が買取つた場合においても、いわゆる自己株式の取得として取得後相当の時期にこれを処分しなければならない。その処分期間に制限がある関係上、不利な処分もせねばならん場合もありましようし、又買取株数が相当の数になる場合は、会社の資金繰りといつたような点からいつまでも資金を寝かして置くわけには行かぬというような関係から、早急にこれを処分せねばならん立場に追込まれるというようなことも予想されます。そこでこの制度は一つ取りやめて頂きたいと思うのでありますが、若しそういうことができないとするならば、取引所に上場されておつて市場で以て自由に処分できるような株式についてはこれを除きまして、それ以外のなかなか市場で自由に処分できないといつたような株式についてだけこういう規定を認めるというような工合に修正して頂ければ大変結構だと考えるわけであります。  その次に要綱の第二十一でございますが、これは例の取締役選任決議の場合には、いわゆる普通決議について、たとえ定款に定足数を過半数要らないというようなことが書いてあつた場合でも、発行済株式総数の三分の一以上の定足数を要するということでありますが、今回の改正によりますというと、取締役の任期も一年減じまして二年になりましたし、従来よりも一層取締役選任するという機会が多くなるんじやないかというふうに考えられるのであります。そうしてその都度この定足数を要するということは、御承知のように株式がますます大衆化の傾向にあります今日、これだけの株式を、総株数の三分の一の株式を集めるということは、先程もお話がありましたように現在の株主総会に対する関心の程度からではなかなか容易ではないのでありまして、当社の場合について申しますというと、大体招集通知と同時に委任状を出しますというと、それで以て委任状を送つて下さる株主は約精々一五%程度、それで更に二回目の委任状の催促をやるわけです。そうして約三〇%程度に達する。そうして第三回目をやつて漸く株主の半分程度が集るというのが実情であります。従つてその手数と費用などは相当なものでありますし、場合によつては現在も時々行われておるようでありますが、特剔抉議と普通決議の両方の議案がある場合に万一委任状が集らないために、普通決議の方の議案まで未審議に終つて困るというようなことから、両議案について同じ日に別々に総会を二つ開くというような厄介な手続までせねばならん場合も予想されるのであります。従つて今回の改正によつて取締役権限強化に伴つて取締役選任決議も普通決議よりどうしても或る程度嚴格にせねばならんものでありまするならば、この定足数をせめて発行株式の総数の五分の一乃至は四分の一程度に緩和されることを希望する者であります。  次に要項の第二十六でございますが、これは取締役会の定足数を全取締役の過半数としておるんであるが、地方に事業所を沢山つて、その事業所の、大体大きな事業所でありますが、大体大きな事業所の長として地方在住の長が多数ある。例えば私共の場合で申しますと、現在十一名の取締役がおりまして、そのうち四名までが地方の在住の取締役として、事業所の所長として赴任しておりますが、こういう会社などにとつては、取締役会は必ず会議体を以て……書名決議はできないのでありますということにしますと、殊に緊急な問題のあつたような場合に、必ず右の過半数の定足数の出席を得るということは……現在でも本社在勤の取締役だけの取締役会を開く場合でも、全員が出席するというようなことは比較的少いのでありますから、これは困難な場合が相当多いんではないかと思われます。従つて業務の円滑なる運営を阻害する虞れがありますので、この定足数の制限はこれを削除すべきであると考えるのであります。  その次に要綱の第三十三でございますが、これは例の取締役の責任追及の代理訴訟、つまり持株数の如何を問わず、各株主がたとえ一株主であつても、みずから会社のため取締役の責任を追及する訴え請求できるということになつておりますが、これは戦後特に甚だしい、いわゆる会社荒しなどの悪意の、自己利益だけを図る株主にとつて会社の円滑な業務運営を阻害する有力なる手段となる虞れが多分にあると思うのです。然るにこの追及権はいわゆる共益権として正当な権利行使としてのみ本来認められるべきものと考えますので、そのためには一定の資格制限を設けることによつて、一般には相当数の株主による権利行使の場合に初めて右の正当行使が推定せられるというふうに考えられますが、従つてこれは六ヶ月以上引続き発行株式の総数の百分の一以上に当る株式を有する株主という工合にやるか、或いは今回の改正によりますというと、一般の少数株主権の資格制限と同様に、発行株式の総数の百分の三以上に当る株式を有する株主という工合に、この程度資格制限を設けるのが妥当ではないかと考えるのであります。そうしてこのことは取締役権限強化に伴いまして株式権の強化という要請に対して決して逆行するものとは考えないのでありまして、あくまでも正当になる株主権行使を弱体化するものではないと思うのであります。そうして尚右述べました事柄は、要綱第六の、発起人の設立に関する責任追及の訴えの場合についても同様なことが言われるのではないかと思われます。  尚最後に一言希望申上げたいことは、この改正法の施行期日の問題でありますが、今度の改正昭和十三年の改正に勝る、正に商法の性格を一変するような大改正でありますので、これに規制される我々といたしましては、十分な研究と準備とが当然必要なわけでありますので、施行までには相当な期間を設けて頂きたい。改正法案の原案を拜見いたしますと、来年の六月一杯までくらいに施行するようになつておるようでありますが、これでは十三年の改正に比しても短い。十三年の改正の場合も確か一年八、九ケ月あつたと思いますが、それにも増して短いということであつて、できればこの点はもつと大巾に緩和願いたい。それに又この改正に伴いまして、現行法との移り変りの関係において、いろいろの経過規定が公布されることと思いますが、これも今述べました理由と同様な理由から、できるだけ一つ早目に公布されるように一つお願いしたいと存ずるのであります。簡單でありますが以上で終ります。
  11. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) それでは三菱商事精算事務所稻脇修一郎君。
  12. 稻脇修一郎

    公述人(稻脇修一郎君) 我が国産業界におきますビジネスの慣行というのは、大体におきまして非常に英米の慣行に倣つておるところが多いのであります。殊に私共の経験から申上げますれば、商業貿易に長年関係しておりましたものでございますが、殆んど英米の慣行と申上げてよろしいのであります。これによりまして前回の改正のときも成るべく英米法の長所を採つて頂きたいということを申上げておつたのであります。今回は幸いにしてアメリカ法の長所を多分に取入れておられるという点から申しまして、甚だ欣快に堪えない次第であります。尤もこの改正法の場合につきましては、必ずしもどうも現在の日本実情に合つておるということが言えない点が相当ありますかに存じております。  先ず総論的に申上げますならば、大体株式会社は、先程どなたかもおつしやいましたが、小さいのは二十万円内外から、非常に大きいのは十億というふうでございまして、その規模の差が種々雑多であります。尚殊に今日は貨幣価値が非常に下つておりますので、五百万円とか一千万円という会社にいたしましても、昔の金にいたしますれば、ただ三万円か、或いは五万円か、或いは十万円か、それ以下の小さい会社でございまするので、そういう程度以下の、而もそれですら一千万円以上の会社というのは割合から申しますと存外少いだろうと思います。それでそれ以下の会社に対しまして余りにもいろいろな制限を附加されますることは実情に即しないのじやないか、かように考える次第でございます。聞くところによりますれば、或いは商事会社のような有限会社にしたらよいじやないか、こういう話があつたそうでございますけれども、有限会社株式会社とそれぞれその性質を異にするものでございまして、会社資本金の高によつて決められるべき問題ではございません。現にドイツのE・G染料が有限会社でございまして、これが一億マーク以上の資本金を持つております。そのことによつて考えましても、資本金の大小によつて有限会社にしたらよいじやないかということは乱暴ではないか、殊に信用の点その他を顧慮しまして、嚴重な規定に甘んずる覚悟で以て株式会社の組織を利用しておるというようなものが相当あるのでございますから、有限会社にしたらよいだろう、こういう考え方はどうも賛成でき兼ねる次第でございます。  それから第三に申し上げたいことは、日本民主化というものは、申上げるまでもなくその発展段階においてはまだ非常に低い程度にございます。権利と責任との関係というものが国民に深く認識されておるというわけでもないように私は承知しております。従つて徒らにその株主権利を與えるということが必ずしもよい結果を生ずるということばかりは言えないかと存じております。  第四に今日、通信、運輸状況というものは非常に改まつてつておりまするけれども、かと言つて戰前の状態には復しておりませんでございます。そういうようなことのために、先程の方がおつしやいましたように、株主総会を招集するとかいう手続について非常に支障を生ずる。それから先ず本質的に申上げますれば、企業所有経営分離の傾向が非常に進んで参ります。そのためのみならず終戰後の虚脱状態とでも申しまするか、極く最近に至るまでの株式市場の状態を御覧になりましてもお分りになりますように、むしろ賭博に類するような乱暴な株の値段が出たというような状態でありますので、従つて株主がその会社経営について深甚なる考慮を拂つておるということは、現状においては望めないのではないかと考えるのであります。それに対応して、今、申し上げますようなことを根幹といたしまして、改正法案を拝見いたしますると、具体的な問題から申しますれば、授権資本制度と無額面株式の登場は、これは資金調達の上から申しますと誠に権利なことに相違ないのでありますけれども、併しながら、これが一面におきまして発起人或いは取締役がこれを惡用いたしまして、そうして私利を図るということが可なり予想できるのじやないかと思います。殊に従来……戰前のことでございまするけれども、発起人が会社を創立いたしまして、そうして莫大な利益を獲得するというようなことは事実あつたことでございます。でこの点につきましては相当な予防方法を講じて頂きたいと存ずる次第でございます。それからその予防の方法と申しましても、單に罰則を強化いたしましたり、というような、そういう面だけでは足りませんので、そういう事態が起りませんように、予防的という立場から若干の考慮をお拂いが願いたいと存ずる次第でございます。  それから只今もお話が出ましたから詳しくは申上げませんが、発起人、取締役等に対します株主の訴権の問題、或いは整理開始の申立、こういうような問題につきまして少数株主権の濫用を防止するような深い考慮が現行の法律を作りましたときに拂われておるのでございまして、今度の案のごとく、各株主にすべて一様に訴権を與えるということになりますというと、どうも善良な株主はそれに対して恐らく無関心だろうと思います。そうしてこれを惡用するいわゆる会社荒しのようなものに利用されるだけのことでございますので、むしろ現行の法律通りでよいのではなかろうかと存じまするが、若し他の事情によつてやむを得ないとするのならば、或いは総会招集請求株主権利……百分の三でございます、あの程度までの株主が集まらなければ合同……そうして訴訟は合同訴訟にいたしまして、それでなければいけないというような制限は、是非これは存置して頂きたいと考える次第でございます。この点につきましては東京商工会議所からも意見が提出されておるように承知しております。それはやはり飽くまでも十分の一を主張しておるようでありまするが、私は他の事情、それを許さない場合も多少あるのではないかという考えがございますので、やむを得なければ、先程申上げましたように百分の三まで下げましても、少くもそういうことの種の制限は是非存置して頂きたいと存ずる次第でございます。  次に株式讓渡の制限を禁止することになつておるのでございますが、これに先程申上げました株式会社規模の大小によつて、考えられなければならん問題だと存じます。中小規模会社でございますと、なるべくならば株主と理事者との問に、非常に親密な関係を持つて、そうして一致協力して会社を大きくして行こう、こういうことを考えておるのでございます。それで非常に大きくなつてつて、株の公開をしなければならんというような場合に立至りますれば、讓渡制限のようなものを設ければ株の買い手がないということで、自動的にこの制限は皆取れてしまうのであります。従つて中小規模程度株式につきましては、讓渡制限を認めても一向差支ないのじやないか。殊にそういう時代でございますというと、好ましからん資本家の入つて来ることを恐れるのでございます。極端なことを申しますと、折角育てた事業を奪取される、奪われるということも起り得るのでございます。又そういう事実も我々は目撃しておる次第でございますので、讓渡制限を設けるという会社の意図は必ずしも捨てるべき問題ではなかろうかと、こう考える次第でございます。  次にこれも即にお話が出たことでございまするが、合併、営業讓渡等の場合に、株主株式買取請求権、これが今回の法案規定されておるのでございますけれども、これは合併を阻止するとか、営業讓渡を阻止するというような結果に陥り、それを利用いたしまして、過当な金額を取ろう、或いはたまらんから会社の方では過当な金額をやるというような、こういう点にのみ利用されるのではなかろうかと存じますので、この買取請求権は是非やめて頂きたいと思います。  それから取締役会でございますが、これは先程の方がお話になりました通りに、事情はどの会社でもほぼ同じだと存じます。私も三菱商事の文書課長を長くしておりまして、取締役会の召集に非常に手を焼いたことがございます。中には取締役が日を忘れて出席しなかつたというようなのがままあるのであります。それでこれは先ず第一番目に、能うことならば書面決議を認めて頂きたい。それから第二に議事録でございますが、法案では議事録となつております。取締役会というものは非常に頻繁に開かれるものでございますから、その度に非常に詳細な議事録を作らせるということは、事実非常な事務の負担となるかと存じます。これは決議録でよろしいのじやなかろうかと思います。それに尚多少の註文をつけられたところのもので、議事の概要までは書く必要がないのじやないか、かようにして事務の簡單化を願いたいと存じます。  次に取締役会社との間の取引に関する規定でございまするが、中には誠に軽微なこの規定にあります取引が行われるわけでございます。例えば取締役が旅行をする旅費の前借りをする、或いは会社の商品を家庭用のために買つて行くというような、これはもう極く極端な例ではございまするけれども、おのずからその取引の重要さにおきまして差異がございます。でございますから、この点は或る程度の例外を認められるべきではなかろうかと存じます。  それから次に監査役制度の問題であります。監査役制度が廃止され、そうして会計監査だけにするということになつておるのでございまするが、この会計監査にいたしましても、我々の過去の経験から申しまするというと、なかなかその会社の会計の内容を知るということは、勿論外観では分り兼ねるものでございます。殊に大会社になりますればなりまする程、内部の組織或いは取引その他の実務に相当の通曉をいたしておりませんことには十分の監査は不可能かと私は考えます。従つて全然会社関係のない公認会計士のごとき方々がお調べになるということになれば、勿論お調べになることはできましようが、そのためには多大の労力と非常に長い時間を必要とするのではなからうか。それでありまするから、現在各社、大体の多くの会社に行われておりまするのは、監査役が監査の効果を挙げまするために、取締役会に必ず出席をいたしまして意見を述べることができる、こういうことになつております。そういう定款を非常に沢山見受けるわけでございます。これは監査を十分にいたすために是非必要なことではなからうか、従つてそれは單に会計監査に限定すべき理由はない、運営の関係と両方見合つて初めて監査というものができるというふうに私は考えるのであります。それから取締役の内部で監督する方の立場に立つ取締役を作つたら、それで目的を達成するんだという英米法の考え方をそのまま持つて来て主張しておられる模様に承つておりまするが、それは必ずしもそれがうまく運用されるかどうかということは非常に疑問があると私は考えるのであります。何故ならば、取締役というものは一つの言わば内閣のごときものを作つて、それが大体において非常な利害の反しない限りは同腹であると考えなければなりません。それが一方のものが一方を監督するというようなことは、事実非常に不可能なことじやないか、むしろその逆効果として取締役間に反自葛藤を生ずる、そのために会社経営が非常に蹉跌を生ずるということの方が却つてあり得るんじやないか、かように私は考えます。  次に取締役権限が俄かに拡大する、これは本質的に申上げますれば、例えば株券発行だとか、それから会社取締役との取引の承認だとか、いろいろなことがすべて取締役会に委譲されておるのでございまするが、それをそういうふうに権限が俄かに拡大されておるに拘わらず、それを監督する方の監督陣の方が弱体化されて、單に会計監査だけに止まつてしまうというようなことは、これはむしろどうもおかしい話じやないか、問題は、問題が起つてからでは仕方がないのでありまして、間違いが起らないように予防するという機構が必要なんであります。そこでただそういう取締役権利の濫用が起つた、だからそれは罰したらいいだろう、責任を追及して行つたらいいだろう、それでは必ず救済の道を万全に盡されておるということは言えないと私は考えます。どこまでもこれは予防するという点を先ず第一に考慮さるべきことだと考えますので、従つて現在の監査役の制度といたしまして、この点についてはむしろ現在の方がずつとよろしいんじやないか、かように考える次第でございます。ただ現状において一番非難されておることは、監査役は何もしていない、こういうことが言われるように承つておりまするが、併しながら大体監査役は、勿論例外は多多ございまするけれども、会社外の人でありまして、而も社長と同格とか或いはそれ以上の人とかいうような人を求めておりましたり、或いは又堪能な法律家を入れましたりというようなふうに、多面的に監督しておるのでございます。この点は單に会計監査のみに止まらないで、事業の全体の運営に対しまして、黙つておりましても心理的な重圧を、悪いことをしてはいけないという点につきまして、その点につきましては心理的な重圧を加えておる、その効果は計数では分りませんが、確かに相当なものがあるのじやなかろうかと私は考えております。そうなれば監査役は十分機能を発揮しておるんじやないか、こういうことが言えるように思えるのであります。それからもう一つは、問題が起らないから実は監査役が無能なことく見えるのであります。問題が起れば監査役はやはり機能を発揮する。例えば会社に対する訴権を行使いたしますような場合におきましても、取締役自分がやつたことに対して自分がやはり原告になつたんじやおかしな話です。それで全然地位を変えた監査役が訴権を行使して初めて或る程度の目的が達せられるということになるのでございます。監査役の機能は外にも多々ございます。取締役会社との取引につきまして承認を與えるというような点につきましても、監査役の方がより適当であると私は考えております。それから若し現在のままに存置が困難であるというのならば、監査役は何も一人に限つたことはない、そのうちの一人に或いは公認計理士を入れるとか、或いは又でき得るならば、どうしても公認計理士を使わなければならないというのであれば、これは貸借対照表その他の決算書類に対して公認計理士が証明するというような制度だけでそれで足りるのではないか、殊に今申上げますように、公認計理士を使うような点につきましては、中小規模会社にとりましては相当難儀な問題だろうと私は考えます。そういう今まで申上げましたような理由によりまして、監査役の制度を存置し、そうして監査の機能を発揮させて行きたい、こういうふうに考えておる次第であります。  それから次に現物出資の場合の検査役でございます。これは東京商工会議所からも意見を出しておりますと存じております。これは現在の制度におきましては、裁判所が任命いたしまする検査役が必ずしも現物の価格の評価につきまして明るい人であるに限らないと存じております。従つて現状におきましては、更に現物の評価をする人を傭入れる二重の手間を取つているわけであります。そこでそれでは検査役の仕事は何かと申しまするというと、勿論理論的には現物の出資価格が適当であるかないかということ以外の、数多の点につきましても要求しておられるのでありましようけれども、苦しそうであるとするならば、金銭引受の場合と一向に差異があるわけはございません。従つて検査役の專らやつて頂かなければならん点というのは、結局現物出資価格が適当であるかどうかという点に盡きるのではないか、そうすれば例えば信託会社、或いは裁判所の鑑定人、信用ある鑑定人の鑑定によつて別段検査役の制度を設ける必要はないじなやいか、こういうふうに私は考える次第でございます。  次に帳簿の閲覧権の問題、これはやはり会社荒しの問題になるのであります。結局帳簿を閲覧するということは、実は我々は今日までこれを知らなかつたのでございますが、この税務署の帳簿の検査が非常にやかましくなりました結果、帳簿をよく押收される、或いは三日も五日も帳簿を調べられる、そのため帳簿が使用ができないために事務が停頓する、これが実は今度分つたことなんであります。そこでこの帳簿閲覧は止むを得ずといたしましても、これはもう事務に差支えないようにして頂きたい、適当なそういう制限を設けて頂きたいと思うのであります。それからもう一つはそういうわけでございまするから、どの帳簿も引張り出して見られたのじや誠に困るのでありまして、従つて、閲覧を請求するのには一つの範囲を決める、その範囲に限つて閲覧を許すというようなことに願いたいと思うのであります。先ずこれは結果におきましては恐らく会社荒しに利用されるだけのことだろうと存じまするけれども、先ず止むを得ないとするならば、そういう点に止めて頂きたいと存じます。これも同様の意見が東京商工会議所から出ておりまする筈でございまして、私その方に関係しておりましたものでございますから、その方でそのことを承知しておるのでございますが、その意見書を尚御閲覧御いまするならば、はつきりいたしますと存じます。更にこれは蛇足かと存じますけれども、それに附け加えまして、閲覧して得た結果が、何のために閲覧するかと言いますと、結局これを利用する、惡用する、或いは漏洩する、これはどうも必然的な問題じやなかろうかと思う。それでこれに対しましては、嚴罰を以て臨むというようなことにして頂きたいと思う次第でございます。  それからその次に、特剔抉議の定足数の問題でございますが、これは通信運輸状態その他の関係から、なかなか定足数を獲得するということが容易な仕事でございません。のみならず非常に経費がかかる、仮決議方法を採るにいたしますれば、二回の総会を開かなければならん、まあこういうようなわけでございます。手許に総会費用の実額をお調べになつた表も持つておりまするが、誠に驚きに堪えたものでございまして、大会社でございますると、一回の総会に百万円以上の金がかかる、こういう次第でございます。特剔抉議で救済されておるからというだけではどうも足りないかと思うのでありまして、従つてこれは是非、発行済株式総数の過半数に当る株主が出席いたしまして、そうしてその議決権の三分の二以上で決めるという程度で御緩和が願いたいと存ずる次第であります。これに関連しまして、別に意見書が出ておりますと存じまするが、今のこの株主総会の招集手続でございますがこれを、通信運輸状態が改善されるまで一時臨時措置を採つて頂きたい、これは報告を以て代えるという現在の、戰時中に変りました臨時措置と大体同じような方法でございます。  それからその会社法上の訴えは大体におきまして会社荒しがこれを利用するのでございまして、どうしてもこの会社荒しの防止方法につきまして十分な御配慮が願いたいと存ずる次第でございまするが、この一つの方法といたしまして、会社法上の訴えにつきましては、担保の提供を命じて頂くということ、できれば現行法を支持して行きたい、こういうふうに考える次第でございまして、固よりこの資本の百分の三とか或は十分の一とかいうような株主が集つて起しまする場合につきましては、担保の提供はまあこれを許すといたしましても、その他の訴訟につきましては、やはり担保の提供を命じて頂いて、濫争を避けるようにして頂きたいと存じます。  それから施行期日につきましては、先程の方から仰せになりました通り、よく改正の御趣旨はつきりいたしまして皆さんの肚に落ちるまでは施行を延ばして頂きたいと存ずる次第であります。  簡單でございますが……。
  13. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) では次に東京地方裁判所民事部判事恒田文次君
  14. 恒田文次

    公述人(恒田文次君) 今度の商法改正につきまして意見をお求めになつておられまするが、私といたしましては、特に商法を大して研究もいたしておりません。ただここ二、三年ばかり東京地方裁判所の民事部判事として実務を執りました関係で、その面で関係した或は体験したこと、その程度でのお話しかできないと思います。  先ず要綱が七十三ございますようですが、裁判所といたしましては、実際の会社の運営ということには素人でございまして、そういう要綱については実は意見は申上げられない状態でございます。裁判所側としてもこの法案に対して多少研究をしておりまして、或る程度まとまつた意見もあるようでございますが、今日はその意見という意見でなしに、大体それもお伝えはいたしますが、その外に個人的の意見も加えまして、結局個人の私としてお話し申上げることと御了承願いたいのであります。  商法改正の全体の方針については我我として非常に賛意を表しております。殊に毎日当つております訴訟が、先程から度々お話に出ましたように、非常に少数株主が濫用しておる、これは現実に体験いたしております。併しながら会社法の全体として見ますると、大きな会社、それから小さな会社、これは資本金をどのくらいで区別したら宜しいか分かりませんが、仮に百万とか五百万という数字で区別しますと、大きな会社をマークした規定と、それから小さい会社も含めた規定ということになると、非常に統一がむずかしいであろうと思いますが、最近非常に物価も下つておりまするので、或る程度の線でこのいわゆる大会社会社を区別して、商法では大体大会社の方に適用する、小会社は例えば有限会社というような方面でルールするというような方法ではどうかというふうな意見もございます。  それから要綱の順序で先ず意見を述べさせて頂きますと、第一の無額面の問題でございます。これは制度としてはいろいろ御批判もあるようでありますが、裁判所として、こういう制度採用になれば、勿論これに応じた態勢を整えて行く準備は十分いたしておりますが、結局取締役が不正の行為をする機会があるのじやなかろうか。これは要綱の二十三、或いは二十四、まあここらで相当セーブできるようでありますから、これは運営で補い得るのではなかろうかとこう思います。  次に要綱の第六の、ここに裁判所関係する発起人責任追及の訴えというのがございます。ここでは現在では少数株主十分の一、これが今度は各株主に変つたと、こういうふうに考えられるのでありますが、これも非常に訴えの濫用が虞れられるというふうな感じがいたしまして、強いて各株主に少くとも多少の、例えば百分の三というふうな、ちよつとブレーキを掛けてもいいのではなかろうかというふうなことが考えられます。  その次に、第七の要綱讓渡制限というのでございますが、これも小さな会社、つまり個人経営が相当俎上にも現れて参りまするから、又俎上に現れますのが小さい会社の方が紛争が多いようでありますから、この株式讓渡の制限を禁止するという問題は改正する必要はないのではなかろうかというふうな意見もございます。  その次に要綱の第十でありますが、これも少数株主資格が緩和されたようでありまするが、これもやはり濫用される虞れがありはしないか、無用な総会招集の請求があるのではなかろうか、こういう疑問が持たれております。  それから第十五の買取請求、これも同様に濫用の虞れがあるのではなかろうか。  次に要綱の十九でございますが、これは解任の訴えというのが新しく附けられておるようであります。商法の今までの二百七十二條が違つた規定になつて、結局非訟事件としての代行者選任申立というのがなくなるようでありますが、これも現在、取締役の職務執行停止、代行者選任というのが非常に濫用されておりまして、僅か二、三日の間に選任をしなければならんというので、非常に多忙を極めておる。つまり濫用されておりまする状態でありますので、この解任の訴え株主百分の三以上となつておるようでありますが、これも十分の一くらい、つまり少数株主をもう少し制限してはどうかというふうな感がいたします。  それから第十九の二というのに、取締役会制度というのがございます。これは取締役会制度は別に意味はないのでありますが、従来の株主総会決議無効、或いは決議取消というふうな訴えの場合に、これは非常に多く出るのでありますが、この決議無効、取消の訴えということに関して、多少規定の面で御配慮願つてはどうか。この事件は相当多いのでありますが、実際問題としては、判決までに行かないで取下げになるというのが大部分であります。結局濫訴ということの裏書にもなりますが、ただその訴えの取消の規定を配慮して頂いてはどうかと、こういう意見がございます。今のは十九の二……失礼いたしました。十九の取締役解任の訴えでありました。十九の二は取締役会制度で、それについての今の訴え規定を、こう御配慮願つたらどうか。  その次に十九の七、監査役の制度がございます。これは先程もお話がございましたが、監査役制度が果して悪いか、実務を扱つておりますと、先程も申しました商法に二百七十二條の取締役職務執行停止事件、あれが相当ございますが、その場合に非訟事件手続ばかりで、取締役監査役の陳述を聽くということになつております。この監査役を喚んで聽きますと、内容を知らない監査役もありますが、相当良心的に監査役としての仕事をしておる方もあります。でありますから、全体としてさ程監査役が働いてないと言われるかも知れませんが、或る事案によつては非常に監査役というものも必要だという感を受けます。監査役を置くという弊害がそれ程強くないならば残してもよろしいのではないかという感がいたします。尚会計監査役、これも勿論必要とは存じますが、これと併用するかというふうな問題も十分考慮の余地がある問題ではないかと思われます。  それから要綱の二十三に行つて取締役責任追求訴えというのが出ております。これも恐らく濫用されるのではなかろうかという懸念がいたします。  その次に要綱の二十四の行為差止請求という問題であります。もう一つ、要綱の三十の株式発行の停止請求権、これは二つ共同じような意見になるのですが、この制度自身には賛成でありますが、ただ判決としても仮処分で、或る裁判をしますとして、その強制力が疑問を持たれるような感がいたします、結局その裁判に反する行為が無効にするか、或いは違反に対して罰則を設けるかというふうなことが考えられるのではなかろうかと思います。  その次は、要綱の二十八に、設立後の検査制度規定があるようであります。この検査制度について、先程現在の裁判所の検査制度に変更を加えたらという御意見を拝聽いたしました。過去二ケ年この検査役の選任をいたして参りましたが、これは東京だけでありますが、弁護士会の推薦を得ましてその方にお願いしておるのでありますが、事実上は現物出資の場合、大概鑑定人がその価格を評価しております。そのために費用のかかることが勿論多いのでありまして、例えば検査役の報酬が二万円としまして、鑑定の報酬、鑑定の費用としてその半額ぐらい出すというのが常態でございます。ところがこの財産の評価だけでありますとよろしいのですが、土地の場合の賃借権とか、或いは債券出資というふうな場合にいろいろ法律問題が生じますので、これを全部いわゆる各鑑定人だけにお願いするということに多少の懸念が持たれます。又弁護士の方とそういう鑑定業の方と併用するということは考えられますが、一応現在の状況を御参考までに申し上げて置きます。ただ検査役に対する報酬が現在のやり方で行きますと、余りにルーズになつておりまして、検査をした後で適当な額を決めて、それを任意に拂つてつております。直接拂つてつております。併しこの点を検査役報酬を明確に費用として予納して頂き、申立人に予納して頂いて、その中から支拂うという方法にさして頂ければ、裁判所としては非常に仕事が楽になると考えられております。額を決める問題、或いはその申立人が安くしてくれというふうな折衝、これが現在は場合によつて裁判所がタツチしておりましたが、費用予納ということにしてそういう面を規律的にやれるようになれば非常に幸いだと思われます。  それから要綱の第四十三の整理の規定がございます。これは整理事件は、過去二ヶ年に東京で僅か四件したございませんでしたが、その数の少いという理由は大体三つと思われました。一が、債権者全員の同意が要るということ。それから第二が、同意を得られなければ破産の宣告を受けるということ。先程三つと申上げたとすれば、二つでございます。大体今の債権者全員の同意を得ること、同意を得られなければ破産の宣告を受けること、この二つの障害があるために、非常に制度自身は希望を受けながら利用がない状態であります。現在の株主十分の一というのを百分の三と緩和されるようでありますが、これは濫用を避けるという意味現状のままにして置いて頂いてよろしいのではなかろうか。会社が申し立てる場合は別でありますが、株主申立てる場合としますと非常に濫用という危険を感ぜられるのであります。これは整理の制度に検査役の制度がありますので、相手方を検査するということで非常にいやがらせをする危険性がありまして、現在破産部会で用意されておりますようですが、会社整理法でも一日も早くできましたならば別でありますが、現在の状態でありますと、今の全員の同意を債権者四分の三の同意で足りる、或いは不成功の場合でも破産の宣告に行かないというふうな取敢ずの御改正が願えれば、整理事件も相当申立があつて救われるのではなかろうかというふうな感じがいたします。  その次に、要綱四十七と四十八に株主資格緩和、株主資格を緩和するというふうなのがございますが、これも濫用を避けるという意味改正して頂かない方がよけしいのじやないかという感じがいたします。  その次に、要綱第五十に二つ問題があるようでありますが、先ず担保の提供という問題でございます。これはいろいろの法規に亘るようでありますが、全体として担保は提供さして頂きたいという結論でございます。それは、今の取扱では五万円乃至十万円の担保を訴えの提起がありますると求めますが、その担保が積めないというので棄却される例が比較的ございます。ということは、結局濫用の証拠ではなかろうか、本当に申立てるつもりでない、一種のいやがらせではなかろうかということが感知されるのでありまして、そういう濫用を防ぐ意味から担保の提供はさして頂いた方がよろしいと思います。  その次にやはり五十の中にもう一つ、裁判所の裁量による請求棄却が削除されるようになつておりますが、これもやはり裁量を認めさして頂く方がよろしいのではなかろうか。行政事件特例法なんかにもありますようですし、裁判所にその程度の裁量権を與えて頂いた方が、却つて法の硬直性を緩和するという意味で、一般の利益になるのではなかろうか。これは審理法しまして、証拠から出て来る結論と、それから想像される実情が、非常に喰違うことがありますので、そういう場合に裁判所の裁量権を認めて頂けば円満な解決が望めるのではなかろうかと、こう思われます。  それから最後に、先程もお話がございましたが、実施期間の点でありますが、今度の改正を拝見いたしますと、裁判所の手数が省けますのが……要綱としては、完全に調べてはおりませんが、要綱の十と十九、或いは増資が無くなりました関係ところ事件の増加が考えられますのが、要綱の六と二十三、四十七、四十八、五十。それから新しく設けられましたのが十五、十九、二十四、二十八、三十、四十四というふうに思われますが、このために裁判所の職員と、いろいろ準備の資料と、こういう面で準備期間を與えて頂ければ幸いだと思われます。その期間は何年という程はつきり申上げられませんが、少くとも二年くらいは必要ではなかろうかと、個人的の考えでありますが、そう思われます。また何か言い残しましたことがございましたらあとで御説明申上げます。
  15. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) それでは新産別中央執行委員萩澤公彦君。
  16. 萩澤公彦

    公述人(萩澤公彦君) 私は商法を専門にやつているわけではございませんし、今回の改正につきましても要綱だけした拝見しておりませんので、詳しいことは申上げるわけには参りませんけれども、実際に私達が日常出合つた経験に基きまして、非常に断片的でありますけれども、思いついたことを一つ二つ申述べさして頂きたいと思います。  この改正要綱を拝見いたしますと、いろいろな線と申しますか、いろいろな性格が出ておりまして、一体何を狙つておるのかということが、十分に理解できないのでありますけれども、大体におきまして、授権株式の問題その他を通じて考えますと、従来一部の株主にのみ委していた会社経営を全株主に参加させようという方式を採つております。その意味におきまして、いわゆる株式民主化に伴う経営民主化と申しますか、そういつた方向へ目指しておるのではないかということが想像されるのであります。併しながらそういつた方向、いわゆる経営民主化という点につきましては一応異論はないのでありますけれども、二つの点で疑義を持つのであります。と申しますのは、一つはこういつた形式的なやり方で、果して経営民主化されるかどうかという問題です。先程からいろいろな方が申されておりますように、大体一般株主と申しますものは会社経営内容について余り興味を持つていない。従つてこのように全部の株主にこういつた機会を與えて見たところで、結局その権利を行使する者は極く少数の、一部の株主になつてしまうのじやないかという点と、もう一つはこの民主の方向が、いわゆる資本主義そのままを更に高度に持つて行くという方向を採つておる点であります。この点は、実はここで申上げる点ではないのでありますが、私達の立場は、日本経済は社会民主主義の方向を目指しておるという意味からいたしまして、この改正の方向につきまして若干の疑義を持つておるわけであります。それでこの改正要綱は初めに申上げました通り、実際に果してどれだけの効果があるかどうかという点について疑問であるばかりでなく、他面におきまして私達が心配しておりますのは、一般債権者に対して権利の侵害がなされるのではないかという危険であります。これは実際法律の具体的な條文に当つておりませんし、又一つ一つの例を考えて見たわけでもありませんので、具体的な例を申上げることはできませんが、例えば、現行商法の二百六十一條におきましては、取締役はそれぞれ独立して会社代表するとなつております。ところが今日の改正要綱におきましては取締役会制度を設けられる。而もこの取締役会制度は、書面決議を認められておりませんし、又議事録を作らなければいけないということになつております。改正要綱の二十八におきまして会社代表すべき取締役を置くこととすとなつておりますが、取締役会制度から申しまして、代表すべき取締役権限がどのようなものであるかということについても、はつきりした規定は考えられないわけであります。従いまして特に私達従業員を以つて組織する労働組合の場合には、しばしば一度約束したことが、取締役会の云々というふうな理由で引つくり返されるという慮れが全然ないということは申せないわけであります。これは勿論、その他の一般的な法律規定で救済することもできるわけでありますが、現に一昨年、或る会社株主総会で否決されたという理由を以て取締役が一度結んだ契約を破棄しようとしたという例さえあるわけであります。このような意味におきまして、いわゆる株主、それから社債権者以外の一般債権者に対する保護が若干欠けておるのではないかという点が考えられるわけであります。そればかりではなく、取締役会の問題ばかりではなく、株主取締役、或いは株主総会に対する訴え資格がこのように緩和されました、いわば一般債権者は目に見えない手で会社を引つくり返されてしまうような感じを受けるのであります。株主会社に対する関係、勿論実際に会社経営に深い関心を持つておる場合は別としまして、一般の極く少数株主会社に持つておる利害関係よりも、一般法務債権者の利害関係の方が遙かに深い場合があるわけであります。そういつた場合に、極く少数の、いわば訴えを濫用するような株主によつて一般債権者が権利の侵害を蒙るということについて非常に心配をしているわけであります。特に労働者の立場から申しますと、最近賃金或いは退職金の未拂が非常に大きくなつて参りまして、それがいわゆる一般債権者と同様の債権になつて来る傾向が非常に強くなつております。勿論この雇傭関係から生じた債権につきましては、現行商法の二百九十五條において先取特権の救済がされておりますが、寡聞にして未だ私は商法二百九十五條が発動された例を見ないのであります。むしろ逆に賃金債権或いは退職金の債権が一般債権者によつて侵害されているような例がしばしば見られるわけであります。そこで今申しましたような意味におきまして、いわゆる取締役の第三者に対する権限と申しますか、責任と申しますか、そういつたものを明確にして頂く、それから株主総会取締役との関係を、勿論要綱の第十三に書いてはございまするが、一層明確にいたしまして、第三者が不当な損害を受けることのないようにして頂きたい。  それから最後に、これは技術的に甚だ困難でありますし、又却つて弊害を生ずる慮れがあるのじやないかと思いますが、いはゆる債権者総会と申しますか、そういつたような形のものを一応考えて頂きたいと思うのであります。昭和十三年度の改正でありましたか、十四年でしたか、ちよつと覚えておりませんが、その改正に当りまして、従来いわば会社外の存在として置かれていた社債権者、この社債権者が株主と同様に社債権者総会というものを持つように規定されておりますが、これに倣つていわゆる一般債権者の債権者総会というようなものを考えて見る必要があるのじやないかと申しますのは、現在、例えば会社が解散する、或いは清算手続に入つてたというような場合に、賃金債権を持つている者は、商法の二百九十五條を適用するよりも、むしろ一般債権者、銀行とか、原料の売掛金を持つている者とか、そういうものが集つて現実にこの債権者の集会を以て会社の清算事務に当つておるわけであります。このような既定事実の上に立てば、この債権者の集合体を開くということもあながち無意味ではないのではないか。これが私達の立場から申しますとどのような利益があるかと申しますと、商法の二百九十五條のような規定がありましても、実際に我々がそれを行使することは甚だ困難なのであります。而も一般債権者は、つまり銀行その他の一般債権者は非常に商事取引に慣れておりまして、会社の清算とか解散とかというような場合は、いち早く救済手段を打つことができるのでありますが、私達の立場からはどうしてもそれに遅れ勝ちなのであります。その場合に、丁度破産手続に似たような形になりますが、債権者が集つてよりより協議するという形は非常に有効な役割を果たすのではないかと思うのであります。  要は今回の改正につきましては、結局民主化の方向を採つておられる事は一応納得できますが、ただ基本的な方面におきまして、つまり日本経済を再建する基本的な方向におきまして若干異議があるということ、それから要綱自体について申しますれば、一般債権者の利益を護るような処置を講じて頂きたい。これだけをお願いいたします。
  17. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) 公述人の方々に御質問ございませんか。
  18. 大野幸一

    ○大野幸一君 春日さんにお伺いしますが、あなたの会社株主が七万人あつたそうですが……。
  19. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) はあ。
  20. 大野幸一

    ○大野幸一君 資本金は幾らですか。
  21. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 先達て増資して、現在では十億五千万円。
  22. 大野幸一

    ○大野幸一君 そうすると、日本では大体何位ぐらいの会社ですか。
  23. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) そうですな。今十億ぐらいの会社ができておるそうですから、九番か十番ぐらいじやないかと思います。
  24. 大野幸一

    ○大野幸一君 一回の株主総会を開くのに幾ら費用がかかりますか。先程百万円とかいうことでしたが……。
  25. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 八十万円から八十二、三万円ぐらいかかります。
  26. 大野幸一

    ○大野幸一君 一年に何回ぐらいやりますか。
  27. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 定時総会は二回。今までは、例えば社債を発行するとか、増資をするといえば臨時総会もやる。去年は増資決議のために一回、報告総会のために一回、臨時総会のために二回、尤も去年は例の再建整備法で特経会社になつてつた関係上、決算期が延びておりましたので、定時総会は三年程やりませんでしたけれども、昨年の十月末に認可になりましたから、今後は毎年二回は必ず定時総会はあります。
  28. 大野幸一

    ○大野幸一君 労働組合はあなたの方は株主になつておりませんか。
  29. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 組合としてはなつていないが、先達ての増資のときに従業員に割当てましたので、従業員に親子株を割当てて、現在従業員の持つておる持株は凡そ十五万株ぐらいです。
  30. 大野幸一

    ○大野幸一君 というと何%ですか。
  31. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 二千八百万株で、資本金が十億五千万円でございますから、その中の十五万株ですから、そうすると幾らになりますかな。
  32. 大野幸一

    ○大野幸一君 萩澤さんにお尋ねしますが、あなたの組合でなくても労働組合が、組合を原告として、会社を被告として賃銀の請求訴訟を起したことがありますか。
  33. 萩澤公彦

    公述人(萩澤公彦君) あります。
  34. 大野幸一

    ○大野幸一君 その結果はどうですか。
  35. 萩澤公彦

    公述人(萩澤公彦君) その場合は大抵仮差押の手段に出ておるわけであります。そうすると会社は大低拂うわけでありますが、併しこの場合は操業が中止されるために拂うわけであります。従つて清算中の会社とか解散後の会社に対しては全然効力を発生しておりません。
  36. 大野幸一

    ○大野幸一君 恒田さん、先程要綱をおつしやいましたが、あれは旧要綱ですか。
  37. 恒田文次

    公述人(恒田文次君) 旧要綱がなかつたものですから、今番号を整理して一つずつずらして頂けばよろしうございますが、申訳ございません。
  38. 大野幸一

    ○大野幸一君 分りました。
  39. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) 田中和夫君から補充的に御公述を願うことにいたします。五、六分願います。
  40. 田中和夫

    公述人(田中和夫君) 先程、今度の立法が、多少辻褄の合わなくなつたのじやないかと申上げましたが、そこのところで末梢的のことを申上げて中心のことを忘れて落したので申上げておきます。  今度累積投票制度を採つて、そのためにその取締役会少数株主代表者が現れるということを前提として、株主総会権限制限し、取締役中心に規定を設けておるのじやないかと思うのでありますが、ところが先程申上げましたように、取締役選任累積投票を原則として任意にしてしまつた結果、株主総会権限を縮小してしまつたということ自身が、反省を加えるべきものじやなかろうか。即ち最初のお膳立が累積投票制度を一応任意としたその結果、大多数の会社においては、恐らく累積投票によらない旨を定款定めるだろうと思います。そうすれば最初の構想自身が崩れて来るのじやなかろうかとそういふうに思うわけであります。ちよつとそれだけ補充させて頂きます。
  41. 松井道夫

    ○松井道夫君 春日さんにちよつとお伺いしたいのですが、あなたのような大会社会社荒しというようなものございますか。
  42. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) はあございます。
  43. 松井道夫

    ○松井道夫君 どんな形であるのですか。
  44. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 平素もよく、総会のないときでも時々はやつて来ているのでありまするが、大体総会の前になるとやつて来きす。それで大低ああいう人達は雑誌とか、新聞とか、そういうものを実際発行しておるかどうか知りませんが、そういう肩書を持つておるわけです。雑誌を発行しておるとか新聞を発行しておるとか、そういうことで、そういうものにお附合いしてくれというような場合も相当ございますし、それから今度の議案を見せてくれということで、それで会社の説明のしようが惡いというと、総会で一つやるぞというような気勢を見せるわけなんでございます。それでよく納得させるわけです。そのためには時によつては一杯飲ましてやるというようなこともあるわけでございます。今のところ東京ばかりじやなくて大阪、名古屋方面からも来る人もありますので、二十人乃至三十人くらいあると思います。併し総会のときに必ずしも皆は出ませんです。十名かそこら来るようでありますが、よく納得さしておくというと、つまり議事進行係を任じて、議事を進めてくれるわけです。
  45. 松井道夫

    ○松井道夫君 大体幾株くらいの株主が多いですか。
  46. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 一番少いのは本当のワン株主がございます。文字通り一株しか持つていない。それから増資なんかありますと殖えるという場合もありますので、数百株持つておるのもございますが、そんなのはそう沢山はございません。やはり十株ぐらいとか。二十株くらいというのが割合に多いのでございます。極端なのは文字通りワン株でございます。
  47. 松井道夫

    ○松井道夫君 なんですか、やはり金一封なんという方法会社としては講ずるわけですか。
  48. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) それはその場合によつてですね。新聞紙に公告を出してくれとか、或いはこの新聞を講読してくれというようなことで来ますが、大して公告の価値はないとは思いましても、或る程度のお附合いで出すというようなことも、たまにはあります。
  49. 松井道夫

    ○松井道夫君 併しそういつた新聞に公告を出してくれといつたようなものは、これはなにも会社でなくても、実業界の人や或いは政治家とかそういつたようなところには、ちよいちよいあるような例ですがね。
  50. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) それに最近はまあ、例えば新聞とか、或いは今度こういう事業を起したから、まあ少し株を持つてくれんかとか、そういうような方向にですね。あまり総会の方え直接引つ懸けないようなんですね。時には引つ懸けるんでしようけれども、そういうような方向に来ているんじやないかと思われる節があるんです。
  51. 松井道夫

    ○松井道夫君 そういうのは来るとやはりなんでしようか、天罰があるとか……。
  52. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 私のところで一度荒れたことがございます。荒れたと言つちやおかしいですが、まあ議長が説明を始めたんでございます。そうしますというと、議長の説明を聽かないで、いきなり起ち上りまして、それでまあいろいろなことを言うわけです。そうして一人が言うわけでなくて、七人及至十人くらい出ておりますから、そういう者が入れ替り立ち替つて言うわけですね。そうして普通ならば、大低の総会というのは相当の議案があつても二十分か三十分で済むんですが、それを二時間から三時間くらい引張つちまう。そしてまあいやがらせと言いますかね、議長が立往生になつてしまうわけです。
  53. 松井道夫

    ○松井道夫君 そういつた人達にまあ費す費用ですね、大したものじやないでしよう。
  54. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) そうですな、場合によつて違うと思うんですが……。
  55. 松井道夫

    ○松井道夫君 年にどのくらい。
  56. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) それは総会の回数によつて違いますでしようが、昨年などはまあ社債の決議をやつたり、増資決議をやつたり、報告総会をやつたりしたものですから、たびたび総会の機会があつたわけなんです。総会の都度に大体そういうことになるわけなんです。
  57. 松井道夫

    ○松井道夫君 別にそう経営上差支えるといつたような、そんな馬鹿な費用は必要ないわけですね。
  58. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 費用でございますか。
  59. 松井道夫

    ○松井道夫君 ええ。
  60. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 費用はそうですな、どのくらいかかるかということは、ちよつと分らないですが、時によつて違うようですから……。
  61. 松井道夫

    ○松井道夫君 総会の百万円という中に入つておるわけですか。
  62. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 今私の申上げたのは、郵便料とか印刷費とか、そういうもののあれですが、その中には全然入つておりません。
  63. 松井道夫

    ○松井道夫君 訴えを起されて困つたようなことはございませんか。
  64. 春日良夫

    公述人(春日良夫君) 私の知る限りではございません、今のとこは。ただ非常に訴えるぞというような気勢や態度を見せることは時々あるようですな。
  65. 大野幸一

    ○大野幸一君 萩澤さんにお尋ねしますがね、労働組合として株主になるというようなことはできませんか。
  66. 萩澤公彦

    公述人(萩澤公彦君) それは例えば労働組合の中で企業を起す、印刷所を造るとかいうような場合には、組合としてそこの株を買うというようなことは今までやつておりますが、そこの会社の株に対しては、従業員個々に対して株を分けるということはありますが、組合としてそれを取るということは今までやつておりませんし、又現実に不可能だと思います。
  67. 大野幸一

    ○大野幸一君 当該会社従業員組合で取るというようなことは……。
  68. 萩澤公彦

    公述人(萩澤公彦君) そういうことは実際にはやつておりません。
  69. 伊藤修

    委員長(伊藤修君) 他に御発言ございませんか。ではお忙しいところ皆様貴重な御意見を拝聴さして頂きまして有難うございました。  本日はこれを以て散会いたします。明日午前十時より引続き公聴会を開きます。    午後三時二十八分散会  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    理事            鬼丸 義齊君            岡部  常君            宮城タマヨ君    委員            大野 幸一君            鈴木 安孝君            松井 道夫君   公述人    日本金属産業取    締役社長    矢野 範二君    日本弁護士連合    会代表    (弁護士)   大橋 光雄君    一ツ橋大学教授 田中 和夫君    日本鉱業株式会    社総務部長   春日 良夫君    三菱商事顧問  稻脇修一郎君    東京地方裁判所    民事部判事   恒田 文次君    新産別中央執行    委員      萩澤 公彦君