○
政府委員(
網島毅君)
只今の御質問にお答え申上げます。
只今お尋ねの点に対しまして御疑問を持たれることは誠に尤もだと存じます。この点は、私共が今度の
法案を国会に提出いたしまして、
民間放送を
一般に許してもよろしいという方針を決めますときに、我々を非常に悩ました問題であり、又我々も大いに議論し検討した点であります。
御承知のように、
中波の
放送の
バンドは従来は五百五十キロ・
サイクルから千五百キロ・
サイクルまででありまして、この間において
日本及び
各国の
放送が行われておるのであります。ところで
只今御
指摘のように、
我が国の
受信機か
世界で余り類例を見ません程非常に低級……と申しては少し語弊がありますが、質の余りよくないものであります。特に
受信機が
簡單にできております関係上、波を別ける、選び出すという点において
能力が非常に欠けておるのでありまして、これが
我が国の
民間放送を普及させる上において、相当大きな障害になるということは、
只今御
指摘の通りであります。現在
東京とか、
大阪というような大きな町には、
日本放送協会の第一
放送、第二
放送、それに進駐軍の
放送、この
三つの
放送がございまするが、この
三つの
放送ですら現在十分に
分離して聞えない所があるということも私共存じております。ところでこの
三つがなぜ十分
分離して聞えないかと申しますると、これは現在の
受信機を
対象として
技術的な理論と申しまするか、
技術的な見地から申しますると、これは十分
分離して聞えなければならないのであります。ところが
波長を選定いたしまして、
日本放送協会にこれの
割当をやる場合には、十分その点は
考慮して行な
つておるのでありまするが、実際問題といたしまして若干の
場所にそういう所があるというのは、これは
受信機もさることながら、その
受信機の
使い方が十分でない。例えば
受信機というものは、大体
空中線を付けて使うのが、これが原則であります。ところが
東京の都内におきましては、
日本放送協会の
電波が相当強いものですから、
空中線を付けなくても
電燈線その他から伝わ
つて来るところの
電波を
受信機が受けまして、そうして
十分受信機が働くというところから、
一般に
空中線は使
つていないのが例であります。ところが、この
空中線を使いませんと、
受信機の
選波力と申しまするか、
選択の
能力が非常に低下するのでありまして、
従つて只今お話し申しました現在第一、第二が
分離して聞えないという所でも、
空中線を付ける、或いは又
アースを付けるというようなことによ
つて、大
部分はその
混信が排除できるのでありまして、
日本放送協会においてそういう
周知宣伝を行
つておりまするが、実際又こういうことによ
つてそういうトラブルが漸次解消しております。ところが先般千九百四十七年にアトランテイツク・シテイにおいて作られました條約によりますると、
中波の
放送の
バンドが、従来の五百五十K・Cが五百三十五K・C、千五百K・Cが千六百五K・Cまで拡がりました。約千五十K・Cばかり拡が
つたわけであります。
従つて今後の
周波放送は拡が
つた、即ち五百三十五K・Cから千六百K・Cというものを一応頭に入れて
考えなければならないのでありますが、然らば仮に
一つの
都市において
幾つの
放送が、現在
日本で使われておるところの
四球程度の
受信機を以て十分
分離して聞えるかということを
考えなければならないのであります。私
共いろいろ計算により、或いは又実際のテストによりまして、この問題を調べたのでありますが、純
技術的な
考慮からいたしますれば、この間におきまして、
一つの
都市に大体
五つの
放送局は存在し得る、言換えますならば、大体現在
一般に普及されておるところの
受信機を以
つてしても、適当に波の
割当を行いますならば、
五つの
放送局は十分
分離して聞える、聽くことができるという
結論に到達いたしております。それから若し設置するところの
放送局の
電力でありまするとか、或いはその
場所というようなものにつきまして、特別な
考慮を拂いますならば、或いは六つぐらいは可能かも知れんという
考えを持
つております。仮に
五つといたしますれば、先程
お話申上げましたように、現在すでに
三つが存在しておりまするからして、あとこの
割当て得るところの
放送局の数は
二つということになるのであります。これが即ち、私共たびたびこの
委員会において御
説明しておりますように、
東京、
大阪という所におきましては、現在の
受信機を
対象として、大体
二つぐらいは
民間放送は可能であろう、
三つは或いは可能かも知れないけれども、相当無理があるということを申上げておる根拠でございます。
只今私が申上げましたのは
一般的な概論でございまして、これはもう少し掘下げて
考えますならば、ただ單に
波長と
波長との
間隔を相当拡げたというだけでは、この問題は解決しないのでありまして、一方の
電波とそれから、言換えますならば、この聽く方の、
聽かんとするところの
電波の強さ、それからこれに
妨害を與える、いわゆる
混信として入
つて来るところの
電波の強さ、その場合の
電波の強さも亦
考慮に入れなければならないのでありまして、即ち
聽かんとするところの
電波が非常に弱くて、それから聽かなくてもいい、或いは
妨害するところの
電波が非常に強いということでありますれば、理論的に可能な
範囲に
波長を分けましても、
波長の
間隔を拡げましても、この強い方のものが大きく行きますから、弱いものの上にかぶさ
つてしまう、言換えれば
妨害されてしまいという
結論になるのであります。これを具体的な例に取
つてお話申上げまするならば、今ここにAとBという
二つの
放送局がございます。その
放送局の
場所が相当離れておるといたします。そうしますと、このAの
放送局の近くに住む人は、Aの
放送局の
電波が非常に強いのでありまして、個々の或る一定の
範囲内におきましては、Bの
電波は全然聽くことがでかないという
結論に到達して参ります。これは
一つの
都市に
放送局が複数存在する所には、常にこういうことがあるのでありまして、この
一つの
放送局の
電波が非常に強いために他が聞えない、他を聽くことができないという
区域は、これをアメリでは
プランケツト・エーリヤと称してあります。その
言葉の
意味は、丁度毛布を敷いたようにかぶせてし
まつたように、その
範囲におきましては、他のものは何も聞こえないという
意味であろうかと存ずるのでありますが、この
プランケツト・エーリヤの問題は、この
複数個の
放送局が存在する場合には、常にこの事実があるのでありまして、このブランケツト・エーリヤに入
つた聽取者は、その局しか聞えない、
自分の近くの局しか聞えないということにな
つております。そこでこの
放送政策上から
考えまして、
聽取者か立場上から
考えまして、
プランケツト・エーリヤに入るところの
聽取者はできるだけ少くした方がいいのでありまして、
アメリカにおきましては、この
プランケツト・エーリヤに入るところの
聽取者の数は、その
区域の全
聽取者の一%以上でなければならないという
政策を採
つております。逆に言いますならば、そういう
聽取者の一%以下の人は、そういう
犠牲があ
つても、これは他の九十九%の
聽取者が
三つなり四つなり或いは十なりの
放送局を聽くために、これは止むを得ない
犠牲であるということでございます。
我が国におきましても、今後
複数個の多数の
放送局が
一つの
都市に置かれるということになれば、やはり同じような問題が起るわけでありますが、私共といたしまして、この
プランケツト・エーリヤに入る所の
聽取者はできるだけ少くする方がいい。現在大体一%以下、できるならば、〇・五%ということを目標にいたしまして、いろいろ
放送局の
電力でありますとか、或いは又その
設置場所というようなものについていろいろ研究しておる次第であります。ところでこの
プランケツト・エーリヤを少くするためには、できるだけ
放送局を
一つの箇所に集めればいいのでありまして、現在川口の近くに
日本放送局の第一第二
放送というものがたま
つておるのもそのせいであります。即ち一箇所に集めますと、そこの地域におきましては、どれもこれも全部強いのでありまするからして、強いもの同士ですから、やはり
受信機は余り他からの
妨害を受けないで聽くことができるということになる次第であります。
以上いろいろ
お話申上げましたので、或いは
結論をお掴みにくいかも知れませんが、私の申上げたいと思いまするのは、現在の
受信機を
対象として、大体
一つの
都市に
二つくらいの
民間放送は可能である。
技術的にいろいろな
考慮でめぐらすならば、或いは
三つぐらい可能であるということであります。
ところで先程
受信機の
改善の問題につきまして
お話がございましたが、私共も現在の
受信機を以て将来の
日本の
放送文化を向上させる方において十分であるとは
考えておりません。先程申上げましたように、現在
我が国の
受信機は
世界各国どこでも使
つておらないような非常な低級なものであります。私共としては先ずこの
受信機に
選択性を持たせる、こういうことが先ず必要であろうということから、いろいろ工作を進めておるのであります。併しこの
改造には
相当金のかかるものては、現在
日本の
経済状態から
言つて、これはできないのでありまして、
空中線回路に或る特殊な
選波、波を選ぶところの
回路を入れる、これを我々の
言葉では
ウエーブ・トラツプと
言つておりますが、そういう
ウエーブ・トラツプ式のものを入れる。それによ
つて相当選波性が増します。これは大体二三百円から四五百円でできる筈であります。尚更に若干
改造を加えることによ
つて、現在の
受信機を
スーパー式な
性質のものに変えるということもいろいろ
考えております。これらは
新聞通信社と連絡をとりまして、
周知宣伝をすると同時に、
全国ラジオ業者の
組合等とも話合いをいたしまして、その
方面からもできるだけ安く、而もいい
技術を以て受知機の
改造に当るようにということで、
いろいろ協確を進めておる次第であります。こういうふうに
受信機の性能が向上して参りますならば、
我が国におきましても、
アメリカその他の国のように、
一つの
都市に十
幾つという
放送局ができるということも不可能ではないのでありまして、私共といたしましては、できるだけ速やかに、そういう時期の到来することを念願しておる次第であります。