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政府委員(
宮幡靖君)
只今提案いたしました
不正競争防止法の一部を改正する
法律案につきまして、
提案の理由を御
説明いたしたいと存じます。
経済上における自由
競争は、現代の経済発展の原動力でありまして、大いに奬励さるべきであります。併し、この自由
競争も適正な手段によ
つてこそ始めて経済再建の基盤となり得るのでありますが、我が国の事
業者の中には、往々にしてただ目前の個人的利潤を追求するに急なあまり、ややもすれば不公正な方々を用いるものがあり、例えば他人の氏名、商標等と類似のものを使
つて商品の誤認、混同を生ぜしめたり、原産地表示を詐称したり或は他人の
信用を毀損したりする者がありまして、従来、
国内におきましても問題があつたばかりでなく、
国際市場におきましても我国の
信用を落したことがしばしばあつたのであります。そもそも現行
不正競争防止法は、
国内法制の欠陷を充するためよりも、工業所有権保護同盟條約のヘーグ改正條約に加入する準備として昭和九年に制定せられたものでありまして、條約に基く最小限の義務を規定しているに過ぎない
状況でありますから、今後
貿易の振興を図り、事
業者の公正健全な活動と国際的
信用を確保するためには、この
法律を現状に即して改正することが望ましく、又我が国の事
業者の要望にも副うものと思われるのであります。尚、本改正
法案の中、「商品の原産地又は品質、
内容、数量等について虚僞の印象を與えるような表示を禁止」する点につきましては、
関係方面より特に強く指摘せられている
関係もありますが、
政府としては、かかる指摘も待つまでもなく、自由
競争に立脚した経済の健全且つ公正な
運営のために、不公正な
競争を行うことのないように、法制上の措置を構ずる必要を痛感しておりましたので、ここに本改正案を上提する次第であります。
以下、本改正案の要点を御
説明申上げます。
第一は、
不正競争防止法第一條第一項各号に掲げる行為をする者に対しては、その者が不正
競争の
目的を以てすると否とを問わず、被害者はその行為の差止を請求し得ることとした点であります。即ち、不正
競争防止の
範囲が拡大されることに
なつたのであります。
第二は、故意又は過失により、
不正競争防止法第一條第一項各号に掲げる行為をする者は、損害賠償の責に任ずることであります。即ち善意の行為者にはその行為の差止を請求し得るのみとし、故意又は過失の場合にのみ損害賠償の請求をなし得ることといたしました。
第三は、不正
競争の
目的を以て
不正競争防止法第一條第一項第一号乃至第三号に掲げる行為をした者及び後で述べますように本條に新たに加えました行為をした者に対し、刑罪を科することとした点であります。即ち現在は、第四條の違反行為以外については罪則の規定はなかつたのでありますが、新たに三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金の規定を設け、不正
競争の
目的を以てする行為者に対する制裁を強化いたしました。
第四は、
不正競争防止法第一條第一項第一号及び第三号に掲げる行為について、新たに
輸出する行為を加えた点であります。即ち單に
国内において商品を販売若しくは拡布する場合のみでなく、その商品を
輸出して、仕向地で誤認をおこす場合を追加しましたのは、今後の
外国取引において一層国際的
信用を確保せんがためであります。
第五は、商品若しくはその広告にその商品が産出、製造若しくは加工された国以外の地において産出、製造若しくは加工された様な誤認を生ぜしめる表示をなし、又はこれを表示した商品を販売、拡布若しくは
輸出する行為も
不正競争防止法第一條第一項各号に掲げる行為と同様に扱うこととした点であります。これは、従来我が国の商品が往々
外国産の商品であるかの如き誤認のおそれある表示をして、
外国人から非難せられましたので、今後
貿易の振興をはかる一方において国際的
信用を確保するために設けたものであります。
第六は、商品若しくはその広告に、その商品の品質、
内容若しくは数量につき誤認を生ぜしむる表示をなし、又はこれを表示した商品を販売、拡布若しくは
輸出する行為も
本法第一條第一項各号に掲げる行為と同様に扱うこととした点であります。これも、従来我国の商品には、その品質、
内容又は数量について誤れる印象ら與えるような表示をしたもの少からず見受けられましたので、今後消費者の保護および我が国の国際的
信用を確保するために新しく設けたものであります。
第七は、第五條の罰則の強化その他若干軽徴な字句の整理をしたことであります。
以上申上げました諸点が、此の
法案提出の理由並びに改正の要点であります。何とぞ愼重御
審議の上速やかに可決されんことをお願いいたします。