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1950-03-29 第7回国会 参議院 厚生委員会 第22号 公式Web版

  1. 会議録情報

    公聽会 ———————————————— 昭和二十五年三月二十九日(水曜日)    午前十時三十二分開会   —————————————   委員の異動 三月二十八日委員小杉イ子君辞任につ き、その補欠として高良とみ君を議長 において指名した。   —————————————   本日の会議に付した事件 ○青少年飲酒防止法案姫井伊介君外  二十一名発議)   —————————————
  2. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 只今より参議院議員姫井伊介君外二十一名より提出にかかる青少年飲酒防止法案について公聽会を開会いたします。  この際公述人の方々に一言御挨拶申上げます。本日は御多忙の中に、当厚生委員会のために特にお繰合せ下さいまして公述して頂きましたことを、厚く感謝いたします。  公述して頂きます時間は大体十五分以内としてい質疑応答の時間を十分間ぐらいにしたいと思います。最初に弁護士清水郁君に公述をお願いいたします。
  3. 清水郁

    公述人清水郁君) 私はこの法案反対意見を持つているのであります。その理由は、この法案は、十五歳以下の青少年に対する飲酒を禁止する、若し違反した者に対しては、これに科料の制裁を加える、いわば国民の自由に対する一つ制限でありまするから、何故こういう法案が必要であるかという理由は、我々国民の十分納得し得る理由でなければならんと思うのであります。そこで私が疑問としまするのは、この法案理由のところを読んで見ますと「青少年飲酒習癖を、防止し、もつて国民の健康な素質を養護するため、」ということになつておるのであります。つまりこの法案理由の全部は、国民の健康のために飲酒習癖が悪いのである、国民の健康のためにこれを防止する必要があるということが、全部の理由になつているのであります。ところが、ここに言う飲酒習癖というのは、どういうことを意味するものであるかということを考えて見ますると、飲酒習癖者の中には、朝から晩まで酒を飲まねばおれないというのもありますし、或いは晩酌に一杯ぐらい飲んだ方が、どうも身体のためにいいという意味から飲む人もあります。或いは、酒があれば飲むがなけらにや飲まなくてもいいという程度の、極く軽い程度習癖者習癖ということになると思うのでありますが、法案趣旨からいいますると、その軽い習癖者すらこの習癖防止することが国民の健康のために必要である、こういう趣旨になつておるやに思われるのであります。ところが、私の考えるこの点の常識としましては、大酒が体に害があることは、これは考えられるのでありますが、軽い習癖は別に体に害があるという常識を持つておるものはないと思うのであります。そこで若しこの法案を成立せしむるというならば、この点に対する十分な科学的の根拠、極く軽い習癖でも健康に害があるという、この科学的の根拠を示して頂かないと納得できないのであります。私はそういう習癖は決して体に害がない、こういうふうに思つておるのであります。  それからもう一つ、この法案で二十五歳以下の青少年飲酒を禁止しておるのでありますが、従来未成年者に対しては禁酒があるのであります。この法案では満二十歳から二十五歳までの間の禁酒が新たにできるわけでありますが、これを禁止することが飲酒習癖防止することになるというその理由も私は考えられないのであります。この期間の禁酒が、延いては将来の習癖防止になるということは、主に統計的の根拠が必要だと思うのでありまするが、それに私は拘泥できないのであります。のみならず、日本法律によると、成年は満二十歳であります。成年者には選挙権すら持たしておるのでありまするが、この青少年満二十歳上二十五歳までの者が酒の害悪面に対する自覚とか克己とかいうところに決して欠くるところがないと思うのであります。これが特に二十歳から二十五歳まで禁ずるというこの趣旨が私には分からんのであります。  それから第三の理由は、これは一種刑罰法規でありますから、これを出した以上十分完全に取締れる自信と設備が要ると思うのでありますが、ちよつと考えて見ても、その設備は非常に大変な設備であり、又取締方法ということも非常に困難であるのではないかと思います。それは年齢によつて制限がありまするから、一々酒を売る場合等に非常に困難な事情が起つて来ると思うのであります。殊にちよつと考えて見まして、この法案の中に例えば医療用として医師の指示するところに従つて用いる分には差支ないとありますが、医療用の、今日の例えば予防医学の点からすれば、病人に対する酒のみならず、健康な人が病気に罹らないための酒も一種医療用であります、こういう場合等の取締りも非常にむずかしいことになつて来はせんかと思うのであります。  先に禁酒法を施行し、後にこれを廃止した外国の例を見ましても、これは私正確にここで確かにそういう理由だということを断言はできませんが、私の記憶によりますると、取締り及び取締り費用というものが非常な国庫の負担になる。及び酒の害悪というものが、そう禁止法を施行したときに考える程のものではないのだというようなことが、廃止された理由であるやに聞いておるのであります。ですから、若しこれが、取締りが事実上できない程度の困難なものであるとするならば、むしろこの国民遵法精神の上に及ぼす影響は却つて害があるのでありますから、成立しない方が私はいい、こういうふうに思つておるのであります。  それから最後理由では、これは私がここに出る前に十分調べて来る余裕があればよかつたのでありまするが、外国の例であります。飲酒ということは、これは日本国民特有な一つ習癖としいいまするか、嗜好といいますか、それではないので、世界各国に通ずることなんです。ですから、理想としては、私は飲酒は若し害があるとすれば、世界各国とも禁止して呉れればいいのです。まあその点は世界の大勢に順応して、そうしてやるべきじやないかとおもうのであります。若しこの法案が成立するならば、日本においては二十五歳以下の我が国の人、及び日本に滞在中の外国人にも適用されることになるのでありまするから、外国人としては非常に窮屈な思いをしなければならん。尤も真に健康に害があるとするならば、そう外国人のことまで考える必要はないと言われればそれまででありまするが、併し今後日本外国との交通が非常に頻繁になるので、あります。こういうことはやはり外国人に対する思いやりも多少加味した方がいいのではないかと思つております。殊に観光日本というようなことが目下の一つでありまするならば、尚更観光に酒というものはつきものでありますから、そんなに外国より以上に窮屈なことにする必要はないじやないか、こういうことが私の反対理由の大要であります。
  4. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 何かお聞きになることはありますか。
  5. 中平常太郎

    中平常太郎君 今清水君のお話通りに、目的が身体的に偏することのお話があつたように思いますが、この法案の第一條はやはり「天分の素質を養護し、「心身共に」とあるので、心という字が入つておりますので、身体的だけでなく、やはり精神の向上ということが謳つてあるのでありますが、その点はどうなりますか。
  6. 清水郁

    公述人清水郁君) 私から申上げましたのは、法案最後に書いてあります理由という点で、主として申上げたのでありまするが、第一條には成る程心という点もあります。併し心という点から見ましても、極く軽い、私の申上げたような習癖というものは、むしろ益があつても害がないのであつて、疲れて帰つて来る、晩酌を一ぱいやる、翌る日の仕事の能率が上つて来るというように私は考えております。
  7. 中平常太郎

    中平常太郎君 もう一つお伺いしたいのは、軽い習癖は害がないというお話でありますが、我々も一つはそうであろうと思いますが、軽い習癖から酒害が重くなつて来る。習癖の累増によつて、自然と軽い習癖なるものが、ひどくなる。そういう機会が度々あると、重い習癖になつて来ることについての御意見はどうですか。
  8. 清水郁

    公述人清水郁君) それは私は各人の体質とか、何かというようなものによつて、主に決定されるべき問題であつて、酒の好きな人も量においては沢山飲めない、体質上飲める人は飲むが、飲めない人は相当毎晩飲んでおつても、そう飲めるものでない、私はそういうふうに考えております。
  9. 姫井伊介

    姫井伊介君 清水さんにちよつとお尋ねしますが、二十歳になれば選挙権が與えられる。これは申すまでもなく政治上の理由でありまして、今ここで申しますところの社会悪に対する一つ防止法ということがこの法案の狙いであるわけなんで、その点から申しますと、例えば犯罪者などから考えましても、二十歳、二十四・五歳までの人のいわゆる不良化傾向が多いのです。その不良化傾向には直接間接に酒が中に流れ込んでおるという実情があるわけなんで、そういう点から言いますと、ただ政治上の事由があるから、外の社会上の事由は認められないということは、どうかと思いますが、その点どうですか。
  10. 清水郁

    公述人清水郁君) 私は理論的に言えば成年者選挙権を與えられたから、後は全部外の壮年、老年の人と同じように待遇しなければならんという、そう窮屈なことを考えなくても私はよろしいと思います。例えば政治的に選挙権などについての資格は違うようでありますが、それはよいと思います。その点は結局大体本人らの気持から言うならば、成年に達したらやらしでもよいじやないか。そうして壮年と同じようにしてもよいじやないかということが、大体成年に達する者の気持であろうと思うのであります。特にそういう気持を二十五年まではいかんということでやめさすほどの、実際重大な健康に害がある事柄かと言えば、私はそうでない。
  11. 姫井伊介

    姫井伊介君 次は取締りの困難、費用の点のお話がございましたが、法律が出たならばそれは厳重に執行されなければならない性質のものでありますが、併しこういう性質のものはそこまでは期待ができない。例えば軽犯罪法が出ておりますが、殆んど適用されていない。併しこういうことをしては悪いぞということが一つ国民に対する示唆になりますれば、今度の場合でもこれを基本として国民一つ国民運動といたしまして、酒害防止、殊に一條にありまするような目的を達するために、そういうふうな運動も展開されるわけなんで、やはり一つ根拠がないと日本人は御承知通りにどうも立上りがしにくいわけなのです。そういう点から考えまして、必ずしも取締が困難が故にといたしまして、一般弊害が非常に多い、殊に不良化傾向が多い、犯罪傾向が多い、という、これを放任しておくということはどうかと思われますが、この点如何ですか。
  12. 清水郁

    公述人清水郁君) 私は在来の法律家としての点から考えて、この点は申上げられると思うのでありますが、刑罰法規を出して取締を厳重にしないということでは、国民遵法精神というものに非常にひびが入ると思つております。国民刑罰法規のうち、例えば窃盗なら窃盗はいかんことだから何しなければいけないが、こつちの方取締も緩いであろうし、政府も取締る意思がなさそうだし、ただこういう一つの戒めに過ぎないのだということでは、遵法精神は養われない。即ち、出す以上は徹底的に許す限りの取締方法をとる。そうしてそれを履行して行くということにして頂きたいのです。それが結局国民の、法律に対する厳粛な考の基礎となると私は思つております。
  13. 姫井伊介

    姫井伊介君 法は、今度民主的に国民が作るのでありまして、さつき申したように、これができれば国民自覚と理解によりまして遵法するような運動が展開されるわけなんです。これ以上は議論になりますから、止めますが、次には外国の例のことをお話になりましたが、御承知通り憲法でも日本戰争はしない。これは恐らく外国に例がないことなんで、そういう文化的な健康な生活を進めで行くといろ国を作る場合におきまして、必ずしも外国の例によらないでも、つまり社会悪に対する社会善というもの強く押立てて行く点から申しますならば、むしろ世界に誇つてもいいじやないかというふうな気持も持つのでありますが、その点如何ですか。
  14. 清水郁

    公述人清水郁君) 戰争を忌避するという、そういうこれは、むしろ日本の年来における特殊な事情から来ておつて、勿論憲法に定められておる以上は、国民としてはこれを厳守し、飽くまでその精神を貫かなければならないと思いますが、先程申しましたように、酒の嗜好というかとは、世界の人類の等しく嗜むところであつて我が国特有事情でないのでありまするから、こういう問題は、私は今後ますます交通も短かくなり、一般外国とり交通が頻繁になる時勢になつて来たのでありますから、私はできるならば社会運動世界的に起り、法律としても世界的なものを拵えるのが理想じやないかと思う。一方の方では許す、一方の方では許さん。許さんところへ行くと非常に不自由を感じるという現情でないことが私はいいのじやないかと思う。
  15. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 次に炭鉱生活援護協会理事小松原光太郎君に公述をお願いいたします。
  16. 小松原光太郎

    公述人小松原光太郎君) 私はこの法案賛成をいたすものであります。先程公述人の方が炭坑能率を増進するために酒は非常によいという言をなされましたが、私は従来炭坑生活者として三十年、その間に炭坑或いは重工業、筋肉労働者として働いて来ましたときに、この炭坑に酒を配ばるということは決して増産にならない。それはどうかと申しますと、この酒を飲んだ翌日というものは必らず頭が痛くて入坑するのに、率が仮に十二人のうち半分はこの寄宿舎において、或いは長屋において寝ておる。それは満州において、或いは樺太において、常磐炭鉱、或いに九州その他の北海道の奥の方におきましてもみんな同じなんであります。ぞればかりでなくして、この酒を飲んで山に入りますと、この地下数千尺の中に入つてつたときに、やはり空気が悪いために、酒を飲んでふらふらしておる者が往々にして、ぼうつとしてガスの爆発、或いはドアーの密閉の崩れたのを知らずして立坑に落ちるのがあるのであります。そのために樺太あたりでは二年間も石炭山が燃えつつあつてどうすることもできないという例があるのであります。  私共はただ、先程の公述人の方に反対せんがための反対でなくして、農村の場合をとりますならば、今日我が国農村の四千万戸以上の一戸当りについて、この酒に米を潰しまして「どぶろく」というもりを仕込んで、何の会であるとか、或いは田植を終り、或いは麦刈入終つた、今度は何のお祭りであるとか、一年中米を潰して「どぶろく」を仕込んで、いわゆる密造しておる米は、一戸当り一俵から二俵づつは、この農家の人々が潰しておるのを私共は知つておるのであります。これは全国を私共が廻つて実地農村で働き、或いは隧道工事に従事した場合において、みんな床の下に、或いは物置の隅に米を潰した、いわゆる「どぶろく」を称するものをやつて置くので。あります。この四千万俵以上の米というものを、今日そういう密造をさせないで出すのでありまするならば、これは今日の新聞にもありましたが、米を十五日分配給するというのでありますが、この分においてもアメリカから輸入を、放出物資であるとか、いろいろ頂かなくとも。一ヶ月分の、この一年中の米の配給に麦を混ぜますならばこれはできなければならない。その点からいつて私は断じてこの青少年飲酒というものを防止しなければならん。禁酒法案というものをもつと厳罰なものをやらなければならん。体刑に処し、ただ拘留場に入れ、ただ警察の豚ばこの最長期限の二十九日なら二十九日だけにすることなくして、真に厳罰をもつてして臨むということにいたすことを私は望んでおるのであります。  尚幾多私共は工場において、その他海運の船、伝馬船に従事した場合におきましても、酒のために船を衝突させたり、或いは陸へ上がりましてその間にしけが来まして船を流したり、幾多の事故を発生するばかりでなくして、而も青少年なり人民の保護をしなければならん警察官が、わざわざ制服のまま宴会に臨んで酒を飲み、親を殺したり、兄弟を殺したり、二、三日前の新聞にも出ている。そういう点からいたしましても本来から申しまするならば、この敗戰後におけるところの日本が真に平和日本独立国として立つて行くのでありますならば、私は若しも日本国民全体が。五年なり、十年禁酒で本当の独立をし、平和独立というものをしなければならんという建前の上から行きましても、私は青少年飲酒防止法案に対して賛成をするものであります。
  17. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 御質疑はございませんか。
  18. 中平常太郎

    中平常太郎君 小松原君にお尋ねしたいのですが、炭鉱内における飲酒者禁酒者との能率の差、並びに精神的の方面の差というようなこと、いわゆる禁酒者飲酒者との行動面において、或いは能率直においての差を何か統計的なものはお持ちになつておりませんか。統計がなければあなたの感想をお述べ下さい。
  19. 小松原光太郎

    公述人小松原光太郎君) この差につきましては石炭局統計を取つておりまして、今度酒の配給を少くして、それに対する甘味料を余計しなければならんということで、昭和二十二年から、三年、本年度にかけてこの酒の率を少くして、甘味料を沢山配るとか、水飴を配るとか。滋養糖を配るとか、甘い甘味料を余計殖やしたことにおいても、これは嗜好率が、酒を少くしたために嗜好率が少くなつたという例は石炭局の方に統計が出ておりますから、ちよつとお調べを願いたいと思います。
  20. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) では次に歯科医師下村雄君の公述をお願いいたします。
  21. 下村雄

    公述人下村雄君) 私は自分のアメリカ生活の体験上からこの法案反対いたします。その理由といたしましては、丁度欧州戰争が一九一八年十一月に終りました。この後アメリカにおいて皆ヨーロツパから帰還勇士の方が続続と還つて来た。彼らは皆ヨーロツパ戰争に行つて盛んに酒を飲んだ。酒を飲むということは終戰後のどこの国でもある現象ですが、そういうことが馬鹿に目立つて、それでその後。ハーデイング大統領のときに、キリスト教団体とか、婦人団体禁酒する必要があるというので、法案を出した。これが通過しまして、そうしてアメリカ禁酒国なつた。その結果どうなつたかというと、やはり人間の嗜好品というものはなかなか法律で抑えることはできない。それで至るところ密造が流行して、いわゆるブードレカー、ムーンシヤインというような密造がどんどん殖えて来る。その密造流行つて各州各州どんどん殖えて来た。そうして密造酒を販売する。それを飲む。従つてその密造酒たるや質が悪い。それだから病人が出て来る。それをどんどん運んだり売つたりする。それを又取締る。従つて罪人が出て来る。丁度日本カストリ焼酎のような密造が出る。あちらこちらにギヤングができる。実に恐ろしいギャングです。一番有名なのはカポネ、これは日本における何と申しますか。大組織を持つて、トラツクを持ち、機関銃を持ち、戰車を持つている。そういうようなボスが出まして、そのボスのためにアメリカ中に非常に犯罪が殖えた。一方に密輸入です。密輸入はこれはさすがに大きな国ですから、潜水艦で、それから飛行機で持つて来る。カナダから真鍮のパイプを通して密輸入する。従つて非常に密造密輸入が氾濫して、値段が又馬鹿に高い。二倍にも三倍にもなつた。そうすると一方においては取締を厳重にする。厳重にすると、今度ポリスポリスで以てその酒を没收する。没收したものを又闇に売るというので、一向に禁酒というものは実際に行われない。むしろ逆作用する。酒を禁止すればその反対に飲むことに一つのスリルを感じて、そうして今まで飲まなかつた青年とか女性が飲むようになつた。そのためにアメリカにおけるところの、何といいますか、国家の大きな收入とする酒造税が全然なくなつてしまつた。一文もなくなつてしまつた。反面にそれを取締費用が莫大なものになつた。それで当時だんだん不景気が来まして、少しも税收入が上らん。取締費用がかさんで来る。こういうようなことで不平が挙がつて来ました。もう不景気のために倒産者ができる、破産者が出る。そのために各州でもぼつぼつウイスキーの販売緩和策を立てました。例えばニユーヨークの隣りのニユージヤージーのごときは非常に緩和した。そのためにニユーヨークの連中はどんどんハドソン河渡つてニユージヤージーへ行つて飲みました。ニユーヨークへもお酒を売りに来る。警察官でも売りに来る。皆売りに来る。だから少しも酒に不自由しないのみならず、各シヨーウインドウにはこれとこれを合せれば酒ができるといつて販売している。ところがこれは合法的にやつている。四度以下のものはよろしい。四度以下のものを持つて来て、それを今度は二週間ずると十五度ぐらいのものになつて脱法行為である。それを飲むということで、却つて酒を飲む量は殖えて、そうして犯罪者は殖え、それからアルコール中毒者というものは氾濫する。こんなことは今までなかつたというので、とうとう約十年間続きましたこの禁酒法が、この間亡くなつた、ルーズベルトが就任すると同時に、こんな馬鹿げた法律はない、一大悪法であるといつて止めてしまつた。以後十七年間誰もこんな馬鹿げた実行不可能な法律を出すものはない。日本で以てやつたとすれば、今アメリカでやつた失敗を又繰返すとううことは、害のみあつて利益はないのです。むしろ酒造所を殖やして、そうしていい酒を作るという方が健康の上にも衛生の上にも私はいいと思います。大体こんな程度で‥‥。
  22. 中平常太郎

    中平常太郎君 下村君にお尋ねいたしますが、アメリカにおける禁酒法の一方的な、つまり取締の困難な点及び乱雑な脱税飲酒状態は、お話なつたことにつきましては、そういう方面についてはまあ一面そういうような状態であつたと思うのですが、それはすべての禁酒であつて、二十五歳というふうな意味でなかつたのであります。  それともう一つは、アメリカは富の程度が非常に高いので、どういう密輸の酒でも飲めるということと、それからあらゆる面において冨の程度が高いために、そういうことができ得られるという国柄でもあつたと私共は思うのであります。  又、一面お話のような状態を見るというと、ますますその禁酒状態が普及しておつた点もあると思われる。それでどうしても飲めないために高いものを買うということは、飲めないという多数の者の存在を我々は認めざるを得ないわけなのですが、その点があなたのおつしやるようなことになると、誰も彼も密輸なり、密造で飲みよつた結論のように見えるが、困難であればある程多数の者が遵法しておつたということにも思われるのですが、その点如何ですか。
  23. 下村雄

    公述人下村雄君) 只今の御質問の富の程度、この問題に対しましても、実は新聞その他で論ぜられました。即ち金持はどんな値段であつても酒が飲める、併し貧民は酒が飲めない、而も飲もうと思えば悪い酒しか飲めない。従つて富と言いますが、アメリカでは貧民が非常に多いのです。もうこの当時もやはり一千万人の失業者がありました。従つて毎日々々市役所の十セントの公給夕食を攝り、そして寝るときには公園その他で新聞紙で以て寝るという失業者が非常に殖えておる。冨の程度と言いますが、やはりそういつた高いものは飲めない。  それから年齢の問題、これはやはり先程公述人からおつしやつたように、年齢を切るということは私はどうかと思うのであります。脱法行為をしようと思えばいろいろな方法でできる、例えばコップへ水をついだといつても酒だ、酒をついでおつても水だと言えばごまかせるというような、年齢というものをここに区別するということは徒らに煩雑になつて、そして取締上非常に困難です。又この二十五歳までの間の青年の心理的にいつても、非常に動揺し易い時代に徒らに刑罰を以て処罰せられるのは、その受けたシヨツクは非常に大きな弊害、むしろ害になると思われます。
  24. 中平常太郎

    中平常太郎君 続いてお尋ねします。遵法、いわゆる法律を守りにくいということはもとよりあり得るのでありますが、日本にも賭博というものが、従来禁止されておるが、賭博全国にあります、賭博がむしろ一つも減つていないと私共は思うのであります。そのくらいに賭博が内密においては潜行してやつておるのでありますけれども賭博は禁止されておる、禁止されておるけれどもが、行われておるからということで賭博の禁止をやめるということは誰も賛成する者はないと同じように、この禁酒という問題も相当取締が困難であるけれどもが、脱法行為が行われ易いのじやないかというだけで、この考え方に反対なり賛成するのはどうも理由が薄弱と思われます。どんな法律でも脱法行為はあり得るのであります。  それからもう一つは、その虚僞なことができる虚僞のことは、即ち脱法行為でありますが、どの法律もそういうことは一面にあり得るのであります。それよりも日本の敗戰問題と、日本再建の青年層の素質をよくするという大きな、高度の狙いから出発しての反対意見としてはどうも薄弱なように思われるのでありますが、もう少しその点に対し。日本の敗戰とアメリカの富の程度の違い、日本の敗戰から起きて来る今日の日本の再建における青年のあり方ということから考えられたお考えを一つ伺いしたい。
  25. 下村雄

    公述人下村雄君) 私は酒を一種の害惡なり、こういう前提の下に考えられることは非常に不賛成です。というのは酒を飲んだ、その瞬間においてはこれは確かに酩酊します。併し酒はそう飲んだからといつてしよつちゆう間違えるものではない。酒を飲ませれば、生理的に見ましても、素質も下ります。要するに血管において。血液が〇・〇四以下の場合には非常にあれしまして、そうして愉快を感ずるという、本当の嗜好品としての価値がある。そうして而も二時間くらい経てば完全に分解してしまう。水と炭酸ガスになつてしまう。そういう性質のものであります。ですからこれを絶えず飲んで常習癖という、常習癖というのはこれは一種病人であつて、普通の大衆は一日の労働を終えて、そうしてこれを慰安のために一日の疲労を恢復する、こういう意味において飲むのであつて、酒そのものは嗜好品であると同時に一種の食糧であります。これを罪悪視するということは非常な、統計的に見まして酒を飲むものは非常に、これは外国においても日本においてもそうだろうと思うのでありますが、六割五分乃至七割という人は酒を飲むのであります。従つてその結果起きた、中には少数のものは弊害を起す分子がある。その少数の結果の方を見て酒によつて非常に疲労を恢復し、それから元気になるといういい面を無視して、弊害だけ挙げるということは早計じやないかと思います。
  26. 中平常太郎

    中平常太郎君 この酒というものに対する、禁酒に対する反対の御意見の方には多分に軽い習癖においては害がないというふうに結論をつけられるようでありますが、我々もその点に対しては同感であります。然るにこの習癖が嵩じて非常に重い中毒性、或いは又いろいろな重い習癖になり、そうして日々そのために自分の家庭の経済を破壊し、尚他人に迷惑を及ぼし、そうして志操、心身共に傷めて行きつつある青年層の現在の状態、並びに全国に起きているところの、犯罪統計から二十五歳以下の犯罪統計が六割も占めているという実にひどい状態に置かれているところの犯罪取締、並びに刑務所あたりの行刑においては殆んどどこもかも満員。のみならず到るところ浮浪者の実に乱雑な行いなどのことを考えて見ますというと、酒が敗戰の日本に、二十五歳程度までのものが、万一全部には行われないでも、多分に禁酒法が行われるならば、多分に犯罪行為が減つて来るであろうと私は思うのであります。その点に対しまして御意見をお伺いいたします。
  27. 下村雄

    公述人下村雄君) これは戰争中並びに敗戰の直後ですが、殆んど酒は統制になつていまして、そうして十分に飲めない。従つてやはり密造、俗にカストリ焼酎という最も悪質なもの、それから戰争中から戰後に拵えられたアルコール、不良なアルコール、これをウイスキーと称して氾濫さした。こうした悪質なものを飲んだために、非常に衛生上に害を及ぼし、それから又犯罪の件数を殖やしたものであう。従つてこれは敗戰後の一時の現象であつて、幾らでも改良の余地があります。最近においては段々そうした密造カストリ焼酎というようなものもなくなりました。それから又ウイスキーも段段質をよくして……、自然競争で段々質が向上して来るのみならず、外国のようにアルコールのパーセンテージの多い、中には四十五度以上、アブサンのごときは六十度もある。そういう強いものを飲んだ者や、或いは日本でも無統制にやつたために、敗戰後検査をしないから、いろいろ不良なメチールとかが入つてつた。そうして規格もまちまちである。これが最近には本当に一般化されて、日本酒は十六度以下、焼酎も二十五度以下、そうして質は向上して来る。こういうようなことになれば今後ますます改良されて来て、成績に及ぼす弊害はずつと減つて来ると思つております。
  28. 中平常太郎

    中平常太郎君 犯罪が減つて来るようなお話がありましたが、その点もう一遍お伺いしますが、現存において八歳から二十五歳までの犯罪は、実は二十五万件もあつて昭和十年度の十倍と言われておる。だから犯罪が減るという考えはどうかと思いますが、その点は犯罪が減ると思われておりますか。現在の事実は殖えておる。
  29. 下村雄

    公述人下村雄君) それはやはり統計においては、最もアメリカ世界に誇つております。日本統計が非常に杜撰であるということは分つております。アメリカ統計というものはあらゆる方面において進んでおる。そのアメリカにおいて統計をとつた結果、禁酒法を施行した後の犯罪統計は、アメリカにおいては非常に減つてつたのです。日本も同じく私は酒を飲むということにおいては同じような統計になりはしないかと思つております。
  30. 姫井伊介

    姫井伊介君 アメリカのように全国民に対する飲酒防止でないということは御承知でもあり、中平さんも言われた通りです。ところが今日二十歳までの禁酒法は、これは一般に肯定されておるところだと思う。ただそれ以上二十五歳までということが問題になるわけでありますが、この第一條に書いてありますように、青少年飲酒の癖を與えない、なじませないということなんで、先程嗜好は法で抑えられないとおつしやたつが、成程そうなんです。嗜好は法で抑えられませんが、嗜好がついていないようにする。生れながらに酒を飲んでおるんじやありませんから、現在の法律が完全に励行されていないといたしましても、恐らくは六〇%はやはり法の力によつて飲んでいない。それをそのままずつと押して行きますと、飲んでいないのですから嗜好はついていない。いないままに一年宛上げていくわけですから、嗜好のついている二十歳以上の者をぴたつと抑えるのでなくして、二十歳末満の者から一年宛順に上げて行くのですから、その癖はついていない。言い換えると味を知らない。だからそのままにこれを保持して行くということは無理ではないと思うのです。そこにおいて、そういう方法によつて目的を達成できるんでありますが、その辺は如何お考えになつておりますか。
  31. 下村雄

    公述人下村雄君) 私はこう考えます。酒を飲む機会が、法律取締れば少くなる。一応それは肯定します。けれども人間の弱点といいますか。こうした問題が若し法律によつて取締られました場合には、その対象になるところの青年そのものが、結局犯罪というふうな形になつて現われて来る。そういうことになると少しばかり飲んだのでも引つ張られて行つて犯罪者になる。そういうショックを與えるということはそれだけの非常に簡単なことなんだけれども、そういう犯罪者になるような印象を受けるということは、青年の前途に対して。非常な不安といいますか、一生自分の運命の上においても不幸な結果になると思います。弊害の方が多いのではないかと思います。
  32. 姫井伊介

    姫井伊介君 その点は、法律はそこまでいつておりませんから‥‥、議論になりますからもうこれで置きましよう。
  33. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 次に東京都立大学附属高等学校学生佐々井朗人君の公述をお願いします。
  34. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 私は実は学校で禁酒禁煙青年同盟を結成いたしまして、青少年の生涯禁酒禁煙を目指して鬪つているものであります。何故に私がこんなことを始めたかと申しますと、近頃学校で友達や下級生の間に不良じみた連中が非常に多くなりまして、どうも学校の空気が面白くないのであります。それから今までまじめに勉強していた生徒がよく授業をサボツたり、年中遅刻して来たりする。又健康な人間は次第に学校を休みがちになつて、青白い顔をしている。それから校風が乱れて。今まで学校で禁じられておりましたマージャンを学校の中でやる。それから男女共学というものを履き違えて、女の生徒を面白くない噂の立つ者が出て来る。それから甚だしいものに至りましては、近くの飲食点から煙草を盗んだ者さえ出て来ている現状であります。  そこで私は前途有為の青年がこんなことではいけないと思つて、彼らが一体如何なる生活をしているか、それを自分で調べてみたのであります。ところが彼らは全部が全部煙草を喫つたり。それから酒を飲んだりしていることが分つたのであります。私はもとから酒や煙草に害のあることぐらいは一応知つてつたのでありますけれども、まさかそれが青少年不良化や、学生生活の頽廃とか、堕落とか、そういうことにまで関係のある程重大な害を持つているものではない、そういうふうに考えておりました。どうしてもこんなに害があるということは信じられなかつたのであります。  そこで私は実際に酒や煙草についていろいろと調べてみましたけれども、調べれば調べる程、酒や煙草の害が如何に重大なものであるか、そうして如何に恐るべきものであるかということを知りまして、思わず背中がぞつと寒くなる程の感じに打たれたのであります。  その一例を挙げてみますと、煙草にはニコチンという害がありますけれども、これは青酸カリよりももつと甚だしい毒でありまして、而も一本の紙巻煙草の中に致死量に近いものが入つてつて、これを若し赤ちやんが間違つて食べたら、僅か二時間程の間にころりと死んでしまうのであります。そういうことが外国にも日本にも沢山あるのであります。  それから酒の中に含まれているアルコールは人間の細胞を破壊する。アルコールを例えばあぶらに加えて見ますると、油はこれを溶かしてしまうところの力がある。それから豆腐等の蛋白質に加えて見ますと、豆腐はまるで煮られたようにこちこちに固まつてしまう。このようにアルコールは蛋白質を擬固させる力を持つておる。ところが人間の細胞というものは脂肪と蛋白質によつてできておりますので、酒を呑めば蛋白質、脂肪を壊されるのであります。肺病も心臓麻痺も脳溢血も胃潰瘍も、肝臓癌も皆酒から起つて来るということが分つたのであります。人間の頭脳は、これは頭でありますけれども、この頭は意志中枢と智能中枢と運動中枢、呼吸中枢、心臓中枢と、この五つの部分から成り立つておりますけれども、これがいわゆる中枢部と称せられて実際に動いておりまするが、意志中枢とか智能中枢というものは非常に遅れてできたものでありまして、非常に高等であります。ところが高等であるだけに構造が弱いのであります。アルコールというものは麻酔剤でありますから、酒を飲めば神経を麻痺させるから脳は忽ち麻痺する。一番弱い高等な部分が麻痺されてしまうのであります。  第一の意志中枢が痺れると自制心とか、道徳心とか、判断力などという非常に意志的な高尚な能力がなくなつてしまう。酒飲みは根気がないとか。それから道徳心が薄弱で獣に近くなるということはこれによつて説明することができるのであります。それから又人間が堕落したり、犯罪に近ずいたり、青少年不良化するということも又ここから始まつておるのであります。  第二の智能中枢というものが痺れますと、今度は自分で何をしているのか分らなくなり、喧嘩をしたり、くだをまいたりしますけれども、これは実は智能中枢が痺れる結果であります。  第三の運動中枢が痺れますと今度はもう身体の動きがとれなくなる。動きがとれないから千鳥足で歩く。  第四、第五の呼吸中枢、心臓中枢というものが、痺れて参りますと、今度はもうそろそろ死がちかずいて来ます。それでよく酔つ拂つた者が町で凍死なんかいたしまするけれども、これは実は呼吸中枢や心臓中枢が犯された結果であると思います。酒や煙草にはこのような害がある。併しながら今挙げた例に実にほんの一例に過ぎないものでありまして、もう酒や煙草の害というものは実は数え切れないものであります。私はこういうことを調べまして友達を見捨てて置くことができなかつた。そこで早速禁酒禁煙青年同盟というものを結成いたしまして、酒や煙草にはこういう害があるということを説明して皆に廻つたのであります。私の学校では毎年秋の十一月になりますと記念祭というものを行いまして、創立を記念するところのいろいろの行事を行うのであります。昨年の記念祭において。友達と一緒に教室を二つ借りまして、禁酒、禁煙展覧会というものを開催いたしました。ところが誰も我々の趣旨に賛同してくれない。殊に共産党の諸君などは真先にこういうことを取上げて問題にすべき人達であるけれども、事実は酒を飲んでおつて、我々を嘲笑する。友達の中でひどい人間になりますと、夜中に会場に忍び込んで来て、看板をズタズタに破いたりポスターをはがしてしまう。我々は実に散々な目に遭いました。私は一旦始めました以上は断固としてやりぬく決心であります。酒を飲んで身体を壊したり、精神薄弱になつたり、自立して行けないような、或いは自分で善悪の判断がつきかねるような人間は、これからの日本にとつて全然無用の人物であります。敗戰の祖国に求められている人間は、身に降りかかる苦難を避けることなく冷靜に苦痛を直視して、正面からこれにぶつかつて、これを克服することのできる信望強い、意志の鞏固な青年でなければならないと信じます。こういう人間を作るためには、未だ酒や煙草の味を知らないところの純真な青少年に、このような惡い習慣をつけさせずに、生涯禁酒禁煙の立派な人間に育てることがこれが第一であると思います。こうすることが祖国を再興し、日本民族を破滅から救う唯一の道であると信じております。かく信ずるが故に私は全校の嘲罵を浴びながらも禁酒禁煙のために孤軍奮闘しております。私は断固として闘い拔く覚悟であります。生涯禁酒禁煙を以て闘い拔く覚悟であります。  併しながら私は自分の苦い経験を通して見まして、このような問題は個人に委せておいてはならない問題である。国家が取上げて、法律の力によつて青少年を保護すべきものであると思います。これは誰からもおしえられたものではなく、自分の苦い経験を通じて得たところの真劍なる考えであります。個人の力には限りがあります。個人が百年かかつて成し途げ得られないものを、国家は一日で成し途げるにことができる。国家が法律を以て青少年飲酒ばかりでなく、喫煙も禁止し、毎年その対象年齡を一年づつ繰り上げて行けば少しの無理もなく容易に日本禁酒、禁煙国家にはすることができる。そういうふうになつた暁に日本が一体如何なる立派な国家になるか、そういうことはもう論ずるまでもないことと信じます。現在施行されておるところの二十歳禁酒禁煙法というものは非常に不合理な混乱のある法律であります。今の教育制度では大体満二十五歳以下の青年というものは大抵これは学生に属する状況であります。然るに学生の中で二十歳に達しないところの人間に酒を飲んではいかん。煙草を喫つてはいかん。然るに二十歳に達した人間は酒や煙草を喫つていい、こういうことは二十歳未満の青年に対して実に惡い影響を與えるものであります。こういうことは私に身を以て経験いたしております。先生方も学校において生徒の中で酒を飲んでいる者、煙草を喫つている者は、それが故に学生が非常に堕落して行く、こういうことを見ておられない。そういうふうに先生方も申しておりますけれどもこれを止めることができない。何となれば生徒の中に二十歳未満の者と、二十歳に達しておる者とありまして、而も我々の学校のような学校になりますよ、丁度その境目の年齡になつておりまして、同じ教室におりまして、片方の生徒が酒を飲んで他方の生徒が酒を飲めない。こういうことが非常に悪い影響を與えておるのであります。それから酒や煙草というものは例えば我々初めて飲んでも決してこれはうまいものではない。ところがそういうふうに申しておるのでありますけれども、上級生が盛んに下級生を誘惑する。僕の学校にはそういう人間が多くつてプールであるとか、或いは倶楽部の会室であるとか、そういうところで上級生から酒や煙草を下級生が突きつけられまして「お前これを飲め」そして飲めないと「お前みたいな意気地なしはない」といわれるために、その下級生はそういわれるのが残念であるために自分では好かないが酒を飲んだり煙草を喫つたりする。するともうこれはやめられなくなつてしまい、自分はまずいまずいと思つて飲んでいても、これはしまいにはうまくなつて遂には飲まずにはいられなくなつてしまうのであります。  今回参議院に二十五歳飲酒防止法が提出されたと聞きまして、私は非常に嬉しかつたのであります。実にもう心の底からこの法案のたまに喜びました。恐らく日本国中の親達にとつてもこれはもう非常な喜びに違いないと思います。少くとも満二十五歳以下の青年を持つておる親達というものは、悉く双手を挙げてこの法案のために賛成されることと存じます。何となれば親というものは自分の子供が酒を飲んだり、煙草を喫つたりして体を痛めるのを心配こそすれ、決して喜びはしないからであります。どうかこの法律を一人の反対者もなく参議院を通して頂きたい。そして一日も早くこの法律を実行に移して頂きたいと念願する。私はそれを日夜念願してやまないのであります。もしこの法案反対される議員が一人でもありまするならば、そしてこの法案を通すことに絶対に反対する、そういわれる方がありますならば、それはどういう人間であろうか、そして又どんな理由で以てこの法案反対されるのか。私はそういう人間の心の中が少しも分らないのであります。  最後に二つばかりお願いしたいことがあるのでありまするが、その第一というものはこの法案が通過いたしました後も、議員各位におきましては、日本禁酒禁煙国家にして立派な日本を再建させるために毎年この法律の対象年齡を一年ずつ繰上げるように努力して頂きたい、これは決してむずかしいことではないのであります。全然酒や煙草をのんでいないところの青少年をのまさせないようにして、一年ずつその対象年齡を繰上げて行きますれば、容易に日本禁酒禁煙国家にすることができる。私はそれが実現されることを日夜念願し、そのことのみを夢見ておるのであります。それからその次にお願いしたいことはこの法律が布かれましても、現在行われておりまするような二十歳禁酒法のように、空文にならんようにして頂きたいと思うのであります。今の法律は実行されていないばかりでなく、この法律の存在を忘れてしまつて、厚生省や警察においてさえも禁酒法があつたかどうか、それを全然気がつかない人間が頗る多いのであります。禁酒法は断じて人間を抑圧する法案ではないのであります。青少年の堕落を未然に防ぎ、その人間の幸福を守るための法律でありまするから、政府がこれを大いに宣伝し、徹底させなければ、この目的というものは達成するわけには行かないのであります。取締に当つても違反者を処罰するという態度でなくして、飲酒という惡い習慣のついたところの不幸な青年を救うという態度で取締つて頂きたい。そして病院に入れるなりなんなりして、この少年が社会に出たときに再び酒をのまないように煙草ものもないようにその惡い習慣をすつかり除いて、社会に再び送り出して頂きたい。そういうことをお願いする次第であります。
  35. 井上なつゑ

    ○井上なつゑ君 ちよつとお伺いいたします。大変に青少年の何といいましようか、精神的ないろんな方面の堕落を防ぐ意味において、この法律は今結構だとおつしやつたけれども、この法律を、御承知のように第二條にもございますように、今皆様の学校では学生は二十歳から二十五歳までの人が多いとおつしやつておられますけれども、この法律ができて若し適用されますと、二十歳までの人と申しましようか、現在二十五歳までの人は構わないことになつております。そうしますと結局皆様のグループで又二つに分れると思います。それはどういうふうにお考えになつておりますか。この二條にございますような「この法律施行の際、現に年齡二十年以上に達している者は含まない」ということになつております。そうしますと今皆様の学校に二十一歳、二十二歳、二十三歳、二十四歳、二十五歳の人が、すでに酒を飲んでおる人が、これが適用されないことになりますが、それに対してどういうふうにお考えになりますか。
  36. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 非常に残念なことでありまするけれども、最早飲酒の癖がついた人間というものは、これを取締りますと、まるで自分が抑さえつけられているような感じがいたすものでございます。僕なんかも盛んに禁酒禁煙を説きますと、お前は俺を苦しめるといつて非常に困らされるのであります。そうするとこの五年間というものは、やはり学校にそういう習慣が続くわけでありますけれども、これは法律を布きまして、これからは二十五歳まで禁止する、そしてたとえ僅かな間でも非常にこれを宣伝いたしますれば、生徒に與える影響というものは非常に喜ばしいものがあると思います。
  37. 山下義信

    ○山下義信君 誠に立派な御意見を拜聽して感激したんですが、私は二つ程聞きたいのです。年取りましてあなたのような年齡の時代もあつたが、年取つて今の若い人の気持が分らんので聞くのですが、一つはあなたのご家庭でお父さんやお母さんは酒や煙草を召上りますかどうかということと、家庭で両親が酒や煙草をたしなまれておいでになるのをどういうふうに御覧になつておられるか、若しおのみになつておれば……。それからもう一つは、あなたは酒も煙草も召上つたことがないのでしようか。
  38. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) はあ。
  39. 山下義信

    ○山下義信君 召上つたことがなくて分りますか。害が……。その辺はどうですか。どんなですか。その二点を……。
  40. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 第一私の家庭のことでありますが、私の父親は現在新潟の方に別居いたしておりまして、私とは全然違つたところに居るのでありますけれども、私の父は非常に大酒飲みでありまして、私の小さいときの記憶しか残つておりませんけれども、毎晩非常に酔つぱらつてつて来ては家の家族に迷惑をかけている……。
  41. 山下義信

    ○山下義信君 それでよろしゆございます。お煙草は………。
  42. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 現在私はお祖父さんと一緒に住んでおりますが、お祖父さんはむかしから一滴も酒を飲んだことがない。煙草ものんだことがない。それからお祖父さんばかりでなく曽祖父さんも飲んでいない。そうしてお祖父さんは現在六十八になりますけれども、非常に元気でありまして、僕なんかよりずつと元気なんです。そうして酒や煙草をのんでいる人はややもすれば頭が禿げたり髪の毛が白くなる……(笑声)私のお祖父さんは耳の傍に白髪があるだけです。殆んど真黒な髪の毛をしている。誠に壯者を凌ぐばかりの健康でありまして、現在尚、小学校しか出でいない男でありますけれども、現在尚むずかしい本を読み、原子物理学とか考古学とか、そういうむずかしい本を読んで勉強している、そういう人間であります
  43. 山下義信

    ○山下義信君 それからもう一つ……。
  44. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) それから……。ちよつともう一度……。
  45. 山下義信

    ○山下義信君 あなたは酒も煙草ものんだことがないのでしよう。のんだことがなくて、酒と煙草の害、本当の害をあなたが握れますか。把握できますか。やはりあなたの一つの観念ですか。酒と煙草の害というものの体験はないのでしよう。その辺はどうですか。分りますか。
  46. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 自分自身体験したことはありませんけれども、自分の身近かなところで、酒や煙草によりつて一生を過つたり、或いは家庭を破壊したり、そういう例を幾らも聞いております。それから学校に行つておりましても、酒や煙草をのまない人間の方が明らかにまじめな生徒です。酒や煙草をのんでいる人間は年中学校をサボつて映画を観に行く、或いは口先だけの人間であつて、議論ばかりして実は勉強していない。そういうような人間ばかりが非常に多い。それから私は禁酒禁煙運動というものを始めましてから今まで半年の間に酒や煙草の害、或いは酒や煙草の害があるかどうか、そういうようなことを述べでありました本を沢山読んで、実際に酒や煙草の如何に害があるかということを痛切に感じております。
  47. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 外に何か……。
  48. 佐々井朗人

    公述人(佐々井朗人君) 若しそれ以上発言がなければ、もう少し述べさせて頂きたいと思いますが如何でしようか。
  49. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) もうよく分りましたから……。それでは午後一時から更に続行することにいたしまして、これを以て休憩いたします。    午前十一時四十八分休憩    —————・—————    午後一時二十七分開会
  50. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) これより、午前に引続きまして公聽会を開会いたします。この際公述人の方々に一言御挨拶申上げます。本日は御多忙の中をお繰合せ下さいまして、当委員会のために御講義下さいますことを厚くお礼申上げます。書面でも申上げて置きましたように、大体公述して頂きます時間を十五分ぐらいにし、且つ委員との質疑を大体十分ぐらいで終りたいと思いますから、そのつもりで一つお願いいたします。  それでは関東配電労務厚生係長の小川春季君に公述をお願いいたします。
  51. 小川春季

    公述人(小川春季君) 申上げます。私の同法案に対する解釈は、今までの禁酒法による禁酒されました年齢の十九歳から二十五歳に引上げるということと、それから医薬用及び結婚、儀式用は認められるということが、今までと変つて来るというふうに解釈いたしまして意見を申上げます。  私の会社の事業場におきましては、電気産業は重要産業といたしまして、産業用の酒の割当を受けでおります。これを成年男子全員に配布いたしております。その数量は例えば二十四年度についで申上げますと、一年間の受配実績は清酒が二百八十二石一斗九升、燒酎が五石七斗九升でありまして、これを配給いたします人員は、成年男子を対象といたしましたものですから、満二十歳以上の男子でありまして、合計一万九千八百十名であります。一人当たりの受配量は年間にいたしまして清酒が一升四合二勺強、焼酎が三勺弱であります。一人当り一ケ月の平均数量を出して見ますと清酒が一人一合一勺強、焼酎が〇・二勺強というような少量でございます。併しながらこの少量の酒の受配も、私供の電気産業の労務者のように、常に高電圧の電気に始終挑んでおります者は、仕事中猛烈な緊張をしております。御承知と思いますが、高圧線、低圧線の間隙は非常に狭いのでありますが、その中で大きな体を動かして高圧に触れないように仕事をしておりますから、非常に緊張をした仕事をしておりますので、仕事が終つてから緊張を解き、疲労を癒し、勇気を振い起すというために、若干の飲酒ということは非常に役に立つておりますために、事業上から考えますと、飲酒が及ぼす刺激といいますか、貢献といいますか、これは非常なものだと思つております。それが産業用として官庁から私共の事業に割当になる理由一つだと思つておりますが、そういうわけでございますから、酒の配給は今後も続けて官庁には申請いたしたいと思つております。又それが如何に労務者に喜ばれているかということも、御承知のように私の方の電気産業の賃金ベースは、非常に一般に比べまして安いといわれておりますが、その低賃金で生活苦と闘つております労務者が、一般配給物資の集金に対しては非常に低調でありますが、酒の配給につきましては必ず前金で全部一斉に揃つ集金ができます。これが労務者の喜んでおる唯一の証拠だと思つております。又私共の会社の成年男子の構成を見ますると、満二十歳から満二十五歳まで、この法案によつて今後飲酒防止される年齢に該当する者は七千三百六十一名、満二十六歳以上が一万二千五百五十八名、この率は、率で申上げますと、成年男子の中の満二十五歳以下の者が三六・七%でございます。満二十六歳以上の者が六三・三%となつておりますが、この三十六・七%の人員は人員では二十六歳以上よりも少ないのでございますが。技術的にはとも角といたしまして、力の生産に及ぼす影響といいますか、生産を力的に推進するという力は、この三六・七%の若い者でやつておるのでおります。二十六歳以上の者は、主として技術的な指導もしてはおりますが、生産に及ぼすところの効果というものは若い者の方がむしろ與つて力があると思つております。又医学的にいろいろ書類を見ますると、二十五歳までは成長期だと、従つて飲酒はしない方がよいということはよく分りますが、併しながら私共の常識から考えましても、満二十歳になりますと選挙権を與えられております。人としての思考力の独立というものを法的に認められておるわけでありますから、これを法律によつて禁止する……、この法案防止と書いてありますが、酒類を飲用してはならないと書いてありますから禁止されたことでありますから、これは非常に矛盾しておると思います。体質的に又健康的に悪いと思う者は、自分の考えで自分から律して行くのがよいと思います。従つて私はこの法案に対しまして、第一條目的に対しては極めて適当なものとして賛意を表しまするが、第二條以下は是非止めて頂きたいと反対するものであります。そうして今後も生産の能率を上げるのに必要な程度の受配量は、満二十歳以上の成年のみ飲ませられるようにして頂きたい。勿論過度の飲酒が健康上悪いということは、これはもう当然なことでございますが、自分の体のことでございますから、思考力のある人間でしたらば適当に考えまして、飲み過ぎるというふうなことはないように私共にも指導したいとは思つておりますし、本人もそういう馬鹿なことは余りしないと思います。それから先程もちよつと申上げましたが、私共の割当配給を受けます酒の量から申しましても、極めて量は少ないわけでありますから、是非この法案の、飲んではならないということはお止め願いたい、反対を申上げる次第であります。
  52. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 御質問はいいですか。
  53. 中平常太郎

    中平常太郎君 只今小川君の業務上の配給量の僅少なことから、こうしたことは害はないというお話でありまたが、多分配給量のお酒くらいで害があろうとは思われませんが、併しそういう青年層が事業面で配給される酒だけでしんぼうしてるものであるかどうか、その他の方面で、その他の自由な飲酒習癖がないと、お考えになろうか、この点お伺いいたします。
  54. 小川春季

    公述人(小川春季君) その他の酒を飲めるかということですか。
  55. 中平常太郎

    中平常太郎君 配給量で極めて有効だというお話はよく分りましたが、そういう酒だけで、後の他の面で勝手に酒を飲む悪習というものはあなたのお考えの範囲内にはないと思われるのでありますか。どうも現代の青年の気分か悪くなつて酒害によつていろいろな悪いこともできておるようなのですが、あなたのお考えではそういう配給量以外の酒は飲んでいないと思われるのですか。
  56. 小川春季

    公述人(小川春季君) いやそういうことは思いません。勿論配給以外に酒は飲んでいると思います。併し反対する程強い……、つまり悪酒と言いますか、深酒と申しますか、そういう飲み方をする青年はそう沢山はいないと思います。むしろ深酒をする者はもつとずつと年齢の上の人の場合に多いと思いすます。
  57. 中平常太郎

    中平常太郎君 只今お話の、深酒は年齢の長じた者に多いというお話は御尤もと思いますが、そういうような酒の害の、軽度からだんだん重い度に進むという前提は、二十五歳までの間にできて来て漸次深まつて行く性質を持つているものでありますしするので、その二十五歳までの習癖が、二十五歳以上の者にも非常な大きな影響を與えて来ておると我々は思いますが、その点をどう思われますか、それから又危険な仕事をするという業務上の危険性にある場合には、尚更禁酒、こういう方面に二十五歳までなら禁酒の方がよくはないかと思いますが、この点もちよつと一緒にお答え願いたいと思います。
  58. 小川春季

    公述人(小川春季君) あとの方の御質問に先にお答えいたしますが、私はむしろ逆だと思います。少量の酒は決して害にならない、却つて心身を爽快にし、勇気を百倍にさせるというふうに考えます。それから二十五歳までの間に習得したい習得したというと変でございますが、覚えた悪習というふうなお言葉でしたが、これは二十六歳から飲み始めても同じ結果だと思います。五十歩百歩で年齢を特に現在の二十歳未満をこの二十五際以下に切替える理由にはならないと思うのでございます
  59. 姫井伊介

    姫井伊介君 従業員の中に三十六・七%のこの青少年は何歳でございますか、何際から二十五際まで……。
  60. 小川春季

    公述人(小川春季君) それは三十六・七%は全従業員の中でありませんで、成年男子の中の満二十歳から満二十五歳までの数でございます
  61. 姫井伊介

    姫井伊介君 二十歳から二十五歳……。
  62. 小河春季

    公述人(小河春季君) 成年男子のうちの、成年男子だけの数字のうちの満二十歳から満二十五歳まで……。
  63. 姫井伊介

    姫井伊介君 成年男子というのはどのくらい、成年男子の中に二十歳から二十五歳が……。成年男子の何歳から何歳までが……。
  64. 小川春季

    公述人(小川春季君) 満二十歳以上……。
  65. 姫井伊介

    姫井伊介君 成年というのは成る人ですね、青いじやないのですね。
  66. 小川春季

    公述人(小川春季君) そうです。成年の方……。
  67. 姫井伊介

    姫井伊介君 その中の二十歳から二十五歳ですね。
  68. 小川春季

    公述人(小川春季君) そういうことでございます。それが二十六・七%でございます。全員に対しては女子と未成年者がおりますので、減りまして三〇・三%になります。これは関東配電全体の数字でございます。
  69. 姫井伊介

    姫井伊介君 それから受配はその成年に対しまして均一受配なんですか。
  70. 小川春季

    公述人(小川春季君) そうでございます。均一でございます。
  71. 姫井伊介

    姫井伊介君 飲む者も飲まない者も……。
  72. 小川春季

    公述人(小川春季君) はい。
  73. 姫井伊介

    姫井伊介君 そうすると飲まない者から横流しがございますか。
  74. 小川春季

    公述人(小川春季君) 職場の中で飲まない人は飲む人に譲るという形はあります。
  75. 姫井伊介

    姫井伊介君 実際飲む者は幾らですか。
  76. 小川春季

    公述人(小川春季君) それは調査しておりませんが……。
  77. 姫井伊介

    姫井伊介君 凡そどのぐらい……。
  78. 小川春季

    公述人(小川春季君) ちよつと想像はできませんが……。
  79. 姫井伊介

    姫井伊介君 そうしますと実際飲む者と飲まない者との仕事の能率はどうなんですか。
  80. 小川春季

    公述人(小川春季君) それは全然酒を嗜まない人ですね、この方については、まあ論外なんですけれども……。
  81. 姫井伊介

    姫井伊介君 飲まない方がどうなんですか、仕事の能率というものは、……。
  82. 小川春季

    公述人(小川春季君) 飲む者と飲まない者との仕事の能率でございますか。
  83. 姫井伊介

    姫井伊介君 能率ですね。
  84. 小川春季

    公述人(小川春季君) それは同じようなものだとは思います。
  85. 姫井伊介

    姫井伊介君 酒を飲んで仕事をすれば……。
  86. 小川春季

    公述人(小川春季君) さして変化はないと思います。
  87. 姫井伊介

    姫井伊介君 酒を飲んで仕事をすれば精密作業やなんかは緻密な作業、根気の要る作業はできないということは分つておりますが、あなたのおつしやるのは、ただ緊張を解く、まあ慰安にするということですね。
  88. 小川春季

    公述人(小川春季君) 勿論仕事の前に酒を飲むというようなことは、これは職場の規律で厳重に禁じておりますから、そういうことはございません。
  89. 姫井伊介

    姫井伊介君 そうしますと酒を飲んでもいいということではございませんね。
  90. 小川春季

    公述人(小川春季君) 仕事中ですか……。
  91. 姫井伊介

    姫井伊介君 仕事中にもこれは……。
  92. 小川春季

    公述人(小川春季君) 仕事中は勿論いけない。
  93. 姫井伊介

    姫井伊介君 酒が仕事にいいものとは言えないのです。ただあなたのおつしやるまあ緊張をとくとか疲労をいやすために、その緊張を解くとき疲労をいやすということはこれは生理上、医学上、いろんな点があつて、これは皆さんからお話がありましようからこれ以上お話申上げませんが、次に思考力の独立というようなことを言われまして、自己判断ができるとこういうことですが、私は実はまだ二十か二十五まではできる人もありましようけれども、できない人もある。ただ選挙権が許されておるということは、これは政治上もの平等であり、自由であつて、外の社会上の責任になつている、社会上に対するところの一つ国民の責任の点から考えますというと、これは自由でもへ何でもないので、むしろそういう思考力を天分を伸ばさせるために酒の害に犯されないように、天分素質を護つて行こうと、さつき第一條賛成だとおつしやつたのですが、そういうことでむしろそういう人達の本当の自由を尊重しようというのがこの法律の建前であつて、ただ選挙権を認めてこの方は禁止するというのはおかしいというのは、考え方の観点が違つて来るのではないかと思うのであります。又酒を飲んでよいということは、飲む癖がついたからそうなんであしまして、私共は生まれたときから酒を飲むわけではないのでありますから、殊にさつきお尋ねいたしましたように、青少年の人々が全部酒を飲んでいるのではない。横流しもするといつたようなふうで、そういうように酒を飲まない者に対して、二十歳以上になつたからもう飲んでもいいのだということで、誤つて自分の心身を害するようなことをさせないように癖をつけない。癖をつけなければ飲みたくも何もならない。二十五歳以上になつたということになりますれば抵抗力もつきますし、素質にもよりますから、私は必らずしも抑えないでもいいと思うのでありますが、従つて今酒を飲んでいるという、酒癖がついたから飲みたいということの、そこの根を断ち切ろうということがこの狙いなんであります。尚申しますと、酒を一ぱい飲んで働けということは、いわゆる封建的な考え方が今日まだ流れて来ているのでありまして、つまり働く人を去勢するとか、操縦するとかいう一つの道具に使つてつた。それが今日一つ社会惡の分野において流れ込んで今日継承されておる。健全な文化国家を建設する上におきましては、戰争まで拠棄したのでありますから、こういうものも断ち切つて本当の天分素質を伸ばして行く方向をとりたい。つまり青少年を本当に保護し護つて行こうということでありますので、この点から申しますと、さつきお話になりましたように、むしろ飲ました方がよかろうということの点に聊か疑点があるのでありますが、そういう点もお考えになりましたかどうかということをお伺いします。
  94. 小川春季

    公述人(小川春季君) 私はちよつと今の御意見に承服し兼ねるのでありますが、酒を飲ました方がよいというふうに申上げたつもりはないのであります。禁じて貰わない方がよいというふうに申上げたつもりであります。飲む癖のない者に進んで飲ませようというような考えは私は持つておりません。それが第一條には賛成いたしますと申上げました理由でございますが、それから酒を飲んで働けと、飲ませるから働けというような封建的な考えた方だというふうなお言葉でしたが、大体厚生理念というものはそういうものではないと私は思つております。厚生というものは、使用者と労働者との協力によつて出て来るものでありまして、その協力から労働の再生産性を強力に昂揚させよう、能率を挙げようというのが厚生理念であります。酒を飲まして、飲ませるから働けというふうな封建的な考えはこれは勿論紡績会社が女工を募集したようなそういうふうな考え方でありまして、近代の厚生理念とは相容れないものだと思つております。酒を只でやつて、労働者に飲まして、そうして働け働けというのでしたら別でございますが、労働者は自分でその酒の代金を拂うのでございます。会社はその酒の代金は一切支出するわけではありませんですから……。
  95. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 実はここは言うまでもなく公聽会でありまして、賛成並びに反対、或いは又公正な立場からの御意見を率直に私共が承わる会でありまして、我々の今後の法案の審議にそれを参考にするということで、お互いの議論を討議する場所でないということは言うまでもないことでありますが、その点十分に一つお考えの上で説明して頂きたいと思います。  次に、日本禁酒同盟常任理事小塩完次君、公述をお願いいたします。
  96. 小塩完次

    公述人(小塩完次君) この法律が成立いたしますと、現在行われておりまする未成年者飮酒禁止法がこれに吸收されるわけでございますが、この未成年者飮酒禁止法が問題になつておりましたときに、学者に対する諮問が行われましたその学者の答申は二十歳を限度とするやり方ではこれは徹底をしない。満二十五歳でなければならないというのが、すでに大正年間の答申に出ておつたのであります。今度の御改正は、その学問上の実際上の二十歳では不適当であるという適用年齡を、満二十五歳以下と改められたことでありますから、その意味において、これは実にそうなければならんと思うのであります。二十歳がすでに完全な人間として法律成年に達しているのであるということを言われまするが、これは、人間の能力年齡はそれぞれその対象によつて異なることでありまして、結婚は十八歳からよろしい、犯罪年齡は十四歳からである、被選挙権は二十五歳である、それぞれその能力年齡は、その目的によつて異なるものでありまして、これは必ずしも現在の民法上の、経済行為をなし得る年齡が二十歳からと言つて、それに他のものの規範を合一せしめなければならないということは少しもない筈であるのであります。そうして酒を飮み出す年齡につきまして、私共が或いは職場において、或いは青年団において、或いは学生の集団において、各方面において調査をいたしましたその統計的な結果によりますと、これはむしろ二十歳を越えて二十二歳乃至三歳この年齡の者が最も多く酒を飮み始める年齡であつたことはすでに明かなんであります。そういう点から申しましても、実際問題として今までの二十歳を適用の限度とする法律では及ばなかつたところが大変大きかつたわけであります。すでに今度の法律の定義におきましても、大攵よくここのところはお考え下さつて、二十五歳以下ではあるが現在すでに二十歳以上に達しておる者はこれを含まないということをその定義にも述べられておるのでありまして、すでに習慣の付いておる者から酒を奪うということではなく、その従来の法律によつて酒の習慣を付けないように保護されて来たものを、それをそのまま推進めて行く、そうして二十五歳以下に至らしめるということでありますから、大変ここは無理がなく行つて結構な改正になつたと思うのであります。もう二十歳になつて一人前であるから自分でそれはできるのであるというお話もあつたのでありますけれども、私共が調査いたしました例えば京阪神の労働街において、可なり多数の者について取調べいたしましたものによりましても、性病に罹る、どういう動機、理由から罹つておるかというようなこと、及び年齡及び配偶の有無ということを調べて見ますと、いずれも二十歳から二十五歳までの期間の者が、最大多数が酒を飮んだことによつて、飮んだということよりは、むしろ飮まされたことによつて、その酒を飮んだために酒気を帶びて感染時の状況が、酒気を帶びて性病に感染したというのが全体の八七%も占めております。酒気を帶びなかつた者は一三%、これを年齡によつて分けてに見ますと、最大多数を占めるものは二十一歳から二十五歳までの者がこれが三四%を占めております。二十歳以下というものはこれは言うに足らん数でありまして、僅かに二%であります。それから二十六歳から五十歳が第二位であります。これが三一%、この二十一歳から三十歳までのものが殆んど全体の三分の二を占めている、又独身者が六二%であつて、有配偶者が三八%である。それ又動機を調べて見ますと、各種の宴会及び友達と会飮して、その帰りにそういう遊びのところに行つたという者が、これも全体の半数以上占めているのでありまして、單独で以て、独りでもつて酒を呑んで行つたという者は、僅に一四%であるのであります。つまり呑んで行つたというよりは呑まされて行つた。呑む機会があつたために、ついそういうところに行つてしまつたというものが、殆んど大部分を占めるということが示されているのであります。二十歳になれば、十分自分で判断をしているというお話もあつたのでありますが、これはダーヴインなどの調べによりますと、性格が安定するのは智、情、意が平均を得て一つの性格が固まつたということになるには、四十歳がその生長の限度であると言つている人さえあるくらいでありまして、まあそういうところから四十にして惑わずというところが来るでありましようが、四十にして惑わずと言われた孔子様も、七十にして則を越えずでありますから、酒のような麻醉薬、麻痺薬に対しまするには、七十に至らないということさえ考えられるのであります。これも二十歳以下、二十五歳に至らしめたということは、決して高過ぎる年齡制限ではないということは言い得るのであります。  二十五歳以下の人が、産業上の大切な推進力になつている、生産力の根幹をなすものであつて、その労働能率を高めるためにも、又喜んで働いて貰うためにも酒が必要であるというお話もあつたようであります。これにつきましても私共、或いは造船所において、或いはゴムの工場において、或いは電気工場において、或いは鉱山において、各方面において取調べをいたしておるのでありまするが、この非常な緊張を要する電気産業におきまして、その災害を受けたものを調べて見ますと、酒の影響を看逃すことはできないのであります。この点について最も熱心に本法案を支持しておられましたのは京都大学の電気の專門家であられた青柳博士でありまして、先生はいくつかの会社、工場の顧問をしておられました。それらの点によつてお調べ下さつたものによりましても、電気産業において災害を起したものの多くはアルコールの原因から来た、これは少しの酒ならば却つて苦労をいやす、沢山はいけないけれども、少しの酒はいいのではないか、仕事の前に飮むのはいけないけれども、仕事の後に飮んだらいいのではないかということは、一応は考えられることであります。今日欧米におきまして実際の立法令を見ますと、就業前八時間前に飮酒してはならないということで、極く最低の立法令でありまして、これを延長して八時間ではでは足らない、十二時間前から、ブルガリア交通取締規則のごときは、就業前十二時間以前に酒を飮んではいけないということになつておるのであります。こうなりますと、今日働いて、今晩僅かの晩酌をやつたということは、明朝起きて働く人のためにはもはやその十二時間前よりも迫つておるということになれば、もはやその人は働く資格はないわけであります。また少しの酒ならということでありますが、ドイツの立法及びスエーデン、ノールウエイ、ブルガリア、トルコ等の立法によりますと、アルコールは飮んだ量には大した影響はないので、一升飮んでもそれほどでない人もある、五勺飮んでも存分酩酊をする人もある、それを何によつて調べるかというと、飮んだ量ではなくて、血液の中に出て参るアルコールの濃度によつてそのことが決定される、そのことは各方面の定説になつておるのであります。この定説に従いましてドイツの立法のごときは血液中に含まれておりますアルコールが一立方センチメートルに対して一ミリグラムのパーセンテージ、即ち二千滴の血液に対して一滴のアルコールがあつた場合に、もはやこれは仕事に堪えないものといつて交通会社にあつてはその自動車免許なら自動車免許をとり上げてしまい、その上で体刑に処するというような随分重い取締りをされているが、その限度は二千滴の血液に対して一滴のアルコールであります。ノルウエーでは千滴に対して一滴でありますが、いずれにいたしましても結局微量のアルコールの有害性ということが、もはや学者の研究や議論ではなくて、実際上の交通取締り、産業災害の防止能率の増進というような点から、欧米の各国においてはすでに現実の問題として採上げられているのでありまして、我が国におきましても多くの工場、それから炭坑、造船所等において取調べられたものを見ましても、大概一対三の割合で、酒を飮む者と飮まん者の災害の相違が出ているのであります、甚だしい実例につきましては、住友忠隅炭坑におきまして調べたものは、一対十でありまして、酒を飮む者は十倍の災害事故を生じている、こういうことでありますから、作業能率を増進するという点において酒を飮まんことが有利である。殊に二十五歳以下の人がその産業の推進力をなしておるから、これに飮まさなければならないということは出て来ない、却つてその反対でありまして、本法案がどうしても速かに成立せられなければならないことを示しているのであります。  そういたしますというと、この法案で重要なことは一体アルコール飮料というものはどういうものを指すのであるかというと、本法案の二條の二にその定義が掲げられてあるのであります。これによりますというと、アルコールの含有量三度以上の飮料分ということに出ておるのであります。これは恐らく重量パーセンテージのことと思うのでありますが、これを容量パーセンテージに直しますならば、今日市市販のビールはもはやこれに該当するわけであります。ドイツの禁酒立法はビールを避けなければならないということに重点を置いているのであります。ビールを民族毒であると言つておるのでありますが、若しこの定義に従いますというと、日本においてはビールは差支えないということにもなり得るのであります。またその商人の立場から考えますならば、この三度以下の飮物を作りまして青少年の飮物であるというようなことを仮に申す者があるといたしますならば、これは非常な危險なことでありまして、アルコールが一度のものを三杯飮めば、三度のものを一杯飮んだアルコールを攝取し得るわけであります。三度以下のものでありましても、その飮む分量につきまして血液の中に出て来るアルコールは同じでありますから、ウイスキーに含まれておるアルコールも又同じであります。ビール以下のものを作りまして、それに含まれておるアルコールも同様なことになるのでありますから、寧ろこの種類の定義は現下の酒税法において列挙的に清酒はこういうものである、ビールはこういうものである、燒酎はこういうものであるというように列挙されておりますが、その通俗的な分りのいい方法を取つて、その酒類と言われて普通国民が考えておるものは全部含むものであるということにすることによつて、この微量アルコールの有害性が強調されて参る、ところがこの法律が国として即ちその点は罪人を作るのではなくて「国民はすべて、青少年に飮酒の機会を與えないように努めなければならない。」ということが第三條の二に駆われてありまして、国民すべての協力と理解と親切によつて青少年に飮酒の機会を與えないようにする、大変これはよいお取り決めの仕方であると私共感謝をいたしておるのでありまするが、さてその点から見ますというと、第三條の「青少年は、医師の指示に基き医療用として使用する場合及び結婚の儀式用として使用する場合を除いては、酒類を飮用してはならない」とあるのでありまするが、これは寧ろ現行法のごとく未成年者は飮酒することができない、極めて明瞭な規範を示しておる、そのように「医師の」以下「除いては」まではこれは寧ろ、どつか除外規定として若し必要があるならば別なところに掲げられて、第三條は青少年は、酒類を飮用してはならない、とこう原則をはつきり示すことが飮酒をする機会を與えないようにするよい方法ではないかと思うのであります。医療用として酒類を用いるということは、これは世界を通じて千九百三十年代からで年がたつともうなくなつたことでありまして、イギリスの例なんか見ますというと、千九百年の初めに比べまして五十年たちました、今日におきましては九八%の減少を示しておる、殆どなくなつておるということであります。医師が処方としてアルコールを用いなければならないという場合は殆んどなくなつておる、又仮に麻醉剤として用いる場合にはもつと適当なものが外にできておるということになつておりますので、これを今更駆わねばならない必要がそうあるのではないというふうに私共は考えるわけであります。又結婚の儀式用として、使用するということがあるのでありまするが、これも近頃は酒を用いない結婚式をどんどんやつておるのでありまして、仏前において行い、或いはキリスト教会において行い、或いは集団結婚を行う等をいたしまして、殊に工場労働者が職場なんかにおいて実に近代の人達に適合したような新らしい習慣をどんどん作りつつあるのであります。酒を用いて三々九度をやらなければ結婚式をやつたことにはならないという考えはなくなつておるのであります。併しながら止むを得ずこういうことを認めるということであるならば、これはどつかに除外規定として用いるのであつて、原則として青少年は飮酒をしてはならないということをお示し下さることが、飮酒の機会を與えないことの一番大切な規定になるのじやないかと思うのであります。先程申上げましたように自分から飮むというのではなくて、宴会或いは忘年会、或いは新年会、送別会、結婚式とか冠婚葬祭等にまつつて飮まされるそういう機会があるから、それで酒を覚えるということが殆んど大多数でありますから、その機会を原則として示した、第三條に結婚式はどうしても酒を用いねばならないような印象を與える、又アルコールは医療用として相当値打のあるもののような印象を與えるような除外規定が原則のごとくに掲げられておるのは、寧ろ御一考を願う事項ではないかと思うのであります。こういうふうに考えるのであります。勿論この法律ができましてもこれはそれだけで励行が十分に行くということではないということは、これは勿論でありまして、これは国民すべてこのことに努力をしなくてはならない、そういう意味におきまして、この新らしい法律ができますと同時に、未成年禁酒法においては、あの法律が大正十一年に施行せられまして以来、ただの一銭も国家は、これに向つて予算を計上せず、その趣旨の徹底に努めたという事実もなければ、又文部省がこれを教科書に盛り込んだという事実もなければ、少しもこれに対してその趣旨の徹底に努めるということがなかつたのでありますから、今度法律が完全になりますると同時に、こういうことが、すべてここにありまする、国民はすべてこのことに努めなければならないという意味において、私共はこれに希望を副えますならば、予算の上にも相当の計上をして、これの励行徹底に当る。又教科書におきましては、これは実に驚くべきことでありましたが、私共は取り調べをいたしましたところが、今日は木内議員はおいでになりませんが、本内議員等がお調べ下さいましたところによりますと、従来の教科書におきましては、一年から高等二年までの間において、二十八ケ所酒に対しての記載があつたのでありまするが、その中のただ一ケ所高等一年の修身の教科書の一部に、酒は身体に害があるから飮んではならないということが一ケ所あつただけでありまして、あとの二十七ケ所は読み誤りますと、酒はいいものである、酒は飮めば元気が付く、大江山の頼光が、酒を飮んで退治をしたというようなことも書いてあり、又親孝行の報いで、泉が酒に変つたという養老の滝のこともあるというようなことでありまして、むしろこれは逆のことを記載しておつたというような事実もあるのであります。  アメリカが挙国禁酒令を布くことに至りましたその五十年前におきまして、ヴエルモント州が最初に、一八八二年でありますが、学校禁酒教育法というものを制定いたしまして、学校において酒害を教えるようにした。これが十年の後にアメリカ全州がその立法を持つようになつた。フインランドがアメリカよりも先に禁酒国になりましたのは、やはり学校において、小学校、中学校、高等学校等において禁酒教育をすることを法で定めて、これを実行した。殊に先生になるべきものは、最終の年において、四十時間以上酒害について、アルコール問題について特別の講義を受けたものでなければ先生になることができないというような規定すらあつたのであります。又イギリスやフランスにおきましては文部省の手によつて、副読本が、編纂せられまして、禁酒読本、これが用いられていたというふうに、相当の努力を学校教育の方面でもいたしておるのであります。又この頃私共が受取りました、是非公聽会に行つて、こういうことも一つ申上げて頂きたいということを手紙を添えて参りましたのには、浦和の中学において二十二歳になる先生が、生徒達に燒酎を飮ませた、宿直室において。ということがあつたそうであります。かくのごときことは、その先生自身もこれは本法の中に入れるべき年齡の、二十二歳であります。生徒はそれより年の若い人でありますが、これに生徒達が持つて来た燒酌を宿直室において一緒に飮んだというような事実があるのであります。学校の先生となるべきものは、第一にこの本法の趣旨精神を体得したものでなくては先生になることができないというような、例えば奈良朝のときの制度を見ますというと、学校の先生と、官吏になるものは不飮酒戒、仏戒を受けた者、即ち仏の戒律によつて禁酒の誓いをしたのでなければ役人にしない、先生にしないという制度を聖武天皇のときにお立てになつておることが奈良朝文化燦然たるあの基礎をなしておつたと言われおるのでありますが、こういうふうに先頭に立つところの役人、先生、官公吏、教職員の禁酒というようなことが合せ行われて、少くとも学校教育においてこの禁酒、問題が真劍に取上げられるというような努力が合わされる、その方の達成がなされるものと思うのであります。そういう点をも合せお汲取り下さいまして、本法速やかに成立いたしますようにお願いいたす次第でございます。
  97. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 御質問はございませんか。それでは東大精神科の助教授吉益脩夫君に公述を願います。
  98. 吉益脩夫

    公述人(吉益脩夫君) 私は今日先ずアルコール問題の私共がいろいろ調査いたしまして事柄を申述べまして、それから私の意見を述べさして頂きたいと存じます。ここでアルコールというものが、一度飮みますとなかなか止められなくなりまして、そうして段々量が多くなつて来る。この点が一番厄介な点だと思うのでございます。ところが中には、私共いろいろ調査いたしておりますると、中にはごく少量で薬のようにごく僅か毎日飮んでおるけれども殖えて行かない、或いは本当の五勺ということで止まつているという人も中にはあるのでございます。それからいま少し飮みますと頭が痛くなるとか目まいがするとかいう、アルコールに全然堪えられない人、それから飮めば飮めるけれども一向飮みたいと思わない人というような人がございまして、これは言い換えますと、アルコールに対しまして素質の違いということができると存じます。それでその調査になりますと酒飮の家系を調べて見ますと、酒飮みが非常に多いということが非常にはつきりいたしております。それから最近の遺伝学では遺伝の研究に双兒を用いるのでございますが、なぜ双兒を用いるかと申しますと、双兒には二種類ございまして、一卵生の双生兒というのがございまして、これは一つの卵と精子から、精子が途中で二つに分れまして、同じものが二つに分れてできた双兒でございます。これは素質の同じ双児でございまして、瓜二つという非常によく似た双兒でございます。それからもう一つは二卵生の双兒でございまして、別々の卵とそれから精子からできた子供でございますので、これは普通の兄弟と同じように素質が違うわけであります。この両方につきまして酒飮みの関係を調べて見たのでございますが、この素質の同じ一卵生の双兒におきましては、一方が大酒飮みでありますと片方もやはり大酒飮み、こういう場合が極めて、多くございまして、全然片方が大酒飮みで、片方が全然飮まないという例は私は見ていないのであります。ところが大酒飮みというやつの双兒は、私の調べましたのでは多くありませんが、九組調べますと、九組おる両方共酒飮み、それに反しまして二卵生の方ではやはり九組ございましたのでありますが、それは、一方だけが酒飮みで、一方は酒を飮まない、こういうふうに非常に遺伝素質の関係がはつきりしておりまして、それは酒を飮む素質というものは遺伝的に極めてはつきりと遺伝的に制約されておるということを示すものでございます。ところがこの酒を飮む素質というものが單独でありますのではなくて多くの場合は酒を飮む素質というものと他のよくない素質というものが非常に頻繁に結付くのでございます。これが非常に厄介なことなんであります。それでアルコール中毒者というものを私共が調べて見ますとそうしたアルコール中毒者というものは世界各国誰も認めておるのでございますがアルコールを飮む前からもうすでに異常な素質を持つておるのであります。これがもう非常にはつきりしているのでございます。でアルコール中毒者というものはアルコールを飮んだために異常になつたというばかりでなくて前からよくない素質を持つてつたという場合が非常に多いのでございます。無論非常に全く健康な人でアルコール中毒に罹る人もあることはございますけれどもそういうものは少い。大部分の場合は初めから異常な素質を持つておる。これが非常に重要な点であろうと私は思うのでございます。それで例えば一例を申しますと或る調査ではアルコール中毒者の少年時代を調べで見ますとその七九%がもうすでに異常性格者である。その異常性格の上にアルコール中毒というものが起つて来たということをこれは非常にはつきり示しておるのでありますがこれは外の調査でもこれとやはり同じような結果が沢山出ておるのであります。  そこでこのアルコールの害でございますがこれは三つに分けることができると思うのでありますが第一はアルコールの子孫に対する害、第二にアルコールの当人の健康に対する害、精神的並びに身体的な健康に対する害、それから第三は社会に対する害、こういうふうに三つに分けることができるのであります。初めの子孫に対する害でございますが、これはいろいろな意味で子孫に害を及ぼす。一つは酒飮みというものはもう全く自分の酒のために家族を顧みない。そのために環境的に非常に妻子が極めてみじめな目に遇うということが一般に言われておるのでありますが、そういう酒飮みの家族の環境的な影響というものが一つでございます。それから次はこの酒によりまして生殖細胞が害を受ける。そうしてその子孫によくないものが生れて来る。こういう場合でございます。これがその変化が一代である場合、或いは数代に亘つてその影響が続くという場合、或いは更にそれがすでに遺伝的な変化を及ぼしまして、これは突然変異と申しておりますが、遺伝的な変化を及ぼして遺伝的に変化して行く。そういう場合もあるわけであります。人間におきましては、これがいろいろ複雑でございますので、まだ証明できておりませんのでありますが、動物においては、例えば二十日鼠を一万匹使いまして、そうして酒の影響が七代の後まで見られたというような研究はございますが、人間におきましてはそれは分らないのであります。それでこの場合には人間の場合には、いろいろ違つた結果が出ておるが、とにかくそういう危險がないという証明はできないのでございます。それからその次は胎内の子供が母親の飮酒によりまして受ける害であります。胎兒の受ける害。それからもう一つは生れてから後の乳兒が授乳中の母の乳から、或いは乳母の乳から受ける酒の害。こういう場合にいろいろな低能の子供ができるとかいろいろ例がございますが、それは余り時間がございませんので略すことにいたしますが、そういう害でございます。  それから第二は本人の健康でございまして、いろいろ統計的には酒飮みの壽命が飮まない人に較べて短かいとかいろいろございます。それからいろいろな病気との関係、伝染病に罹り易いとか、いろいろございますが、こういうものが第二の害。それから第三の害は、社会に対する害でありまして、一番大きなものは犯罪でございます。私共調査いたしましたのと、それから外国の調査で一番はつきりいたしておりますのは、傷害罪と酒の関係でございまして、これはもう非常にはつきりいたしております。ヨーロッパでは一週間の中の土、日、月に傷害罪が非常に高い。どの国でありましてもはつきりいたしております。これは土、日に酒を飮み、又月曜に又その酔いが醒めないで、そうして傷害罪を行なう。こういうことでございます。それがノルウエーにおきましては、強い酒を日曜、祭日の前日の午後一時から翌日の午前八時まで都会で売れないという法律ができますと、そうすると全く実験しましたように、傷害罪の今の土、日、月の山がなくなつてしまつた。こんなのは非常にはつきりと酒との関係を示しておると思います。我が国におきまして私共調査いたしましたが、我が国におきましてはこういう曜日の差異はありませんが、やはり一日と十五日、一日と二日、十五日と十六日と傷害罪が外の日に較べて高いということが出ております。これはやはり酒と傷害罪との関係を示すのであります。それから酒の生産と傷害罪との並行的な関係、それから傷害罪が行なわれる場合が料理屋で一番多いというような、そういう研究は沢山ございまして、外国でも、日本でも極めて明瞭でございます。  ここで一度戻りまして、これから年齡の問題に入つて行きます。一般の人で習慣的に毎日酒を飮んでおる人でございますが、普通の社会におきましては、二十歳から三十歳台におきましては、その後の年齡に較べまして、習慣的に飮む人の割合は非常に少ないのでございます。ところがこれに対しまして私共何度も犯罪を繰返しておる累犯者について調べて見たのでありますが、累犯者におきましては、この二十歳から三十歳台におきまして、すでに習慣性の酒飮みが十倍多いのでございます。それからその後におきまして倍とか、倍より少し多いくらいの程度でございますが、とにかく二十歳から三十歳台におきまして習慣的な酒飮みというものが普通の社会犯罪者におきましては十倍以上違うというところが一つの重要な点でございます。それからもう一つこういう例がございます。犯罪者につきまして習慣的に晩酌をやつておる人間の量を調べて見ますと、大部分のものが何合も飮む。一升も飮むというような、そういう大酒家が非常に多いのでございますが、一般社会の人の晩酌の量を調べて見ますと、これはそれと非常に対照的でありまして、五勺とか、それからほんとに薬のように飮んでおるというのが非常に多いのでございます。この点が犯罪者というようなものは、殊にしよつちゆう犯罪ばかりを繰返しておるというものは、やはり素質的に異常がございますので、それで酒を飮めばなかなか少量で止めることができない。そのために節度がない。それでそのために両方の差異が非常にはつきりいたしておるのでございます。結局やはり酒の害というやつは、素質的に異常のある人の酒飮みというものが極めて危險なんでございまして、そうしてそういう人が結局社会的に非常に害がある。それから当人の健康を害することと思うのでございます。それでそういうアルコール中毒者だとか、それから犯罪者累犯者の酒を飮み始める時期を見て見ますと、そういたしますと、先ず累犯者について私共の調べましためを見ますと、二十五歳後になつて初めて酒を飮む習慣ができて来たという人は七・五%に過ぎないのでございます。後の九二・五%というものは、二十五歳前に酒を飮む習慣をつけでおります。これが一つ目立つところでございました。それから又或る研究によりますと、アルコール中毒者が、病院に入院しておりますアルコール中毒者の、やはり酒を飮み始める年を調べて見たのでございますが、二十五歳前に六六・八%大体六六・八%という、大部分の人が二十五歳前に酒を飮み始めております。でこういう素質が初めからよくない人が酒に耽溺いたしまして、そういう人はやはり二十五歳前にそういう習慣を作つてしまうわけでございます。結局一番の害があります。そういう一番酒が危險である。そういう人の酒を止めさせることが極めて重要なんであります。併しそういう結果がございまするので、そういう人は余計に酒に耽溺し易いので、そういう人をできるだけ酒から長い間遠ざけるということがこれは誠に結構なことだろうと存じます。それから私共の調査では二十三歳のところまでが、特に酒を飮み始める年は二十三歳までが特に多いのでございますが、二十五歳までは二十五歳後と比べますとやはり相当多いのであります。少しは減つてつておりますけれども、相当多いのでございます。それから先程お話かございましたように、二十五歳まではとにかく精神的、特に性格的な方面の発達いうものが、二十五歳の頃まではまだ十分発達しないというふうにの見るのが妥当であると思うのでありますが、私共の今までの経験で、やはり異常性格者の、意思が非常に弱いとか、それから爆発性に興奮するというような人を見て見ましても、二十五歳の頃になりまして、いわゆる人間が固まるとか、それから晩熟、遅く熟するとか、それから興奮性が二十五歳のところで、そこから治まつて来るというような例を随分見るのでございまして、殊に異常性格者というものは、やはり一つの性格の方面の発達の特に障害された人でありますので、それで二十五歳までできることならば酒を飮ませないように、できるだけ酒から遠ざけるということは、非常に必要なことだろうと思う次第でございます。それからもう一つ私共の経験で犯罪者の、私は二十三歳までの青少年犯罪者を千人調べたのでございますが、その中で毎日酒を飮んでいるというものが四・一%ございます。これは丁度、戰前の数でございますが、恐らく私は戰後の現在におきましては、遥かにこれより毎日酒を飮む青少年の数が殖えておると思うのでございます。これはまだ私共最近の調査をいたしておりませんですが、これから見ましても相当二千三歳以下でさえも毎日酒を飮むとい言うものの数が相当多いと思います。こういうことから考えましで、私は特にそういう性格的に十分でない人々に酒を飮ませないようにする。酒を飮むために一層そういう人の弱い意思を余計弱めまして、それから興奮性を余計高めるということは、我々が始終経験することでございますので、そういう素質のよくない人にこそ、余計酒というものが害があるのでございます。できるだけこれを二十五歳まで延長されるということは大変結構なことだと思います。ただ私は法律上の知識がございませんが、この法律が一方におきましては、そういう人に対する衛生的な教育、それから酒に代る健全な娯楽というものを十分與えるということに、同時にその方を十分お考え願いたいと思う次第でございます。
  99. 井上なつゑ

    ○井上なつゑ君 お伺いいたしますが、只今お話ではこうした性格異常者だとか、遺伝的に惡い素質つておりますような人のためには、特にこの法律は大変結構だというお話でございましたが、先生のお調べでは二十三歳以下の子供と申しましようか、青少年を千人とおつしやつておられましたが、日本の国全体ではそうした二十五歳以下の人の中で、そうした異常の性格を持つた人が幾らぐらいございましようか。そのパーセンテージ……。
  100. 吉益脩夫

    公述人(吉益脩夫君) それは低脳者程はつきりは調査できておりませんのでございますが、これは人によつて随分違うのでございます。少くとも或る人によりましては一〇%近くあるという人もありますけれども、少くとも五%内外くらいはあるんじやないかと思うのであります。いろいろ異常者は相当の数がある。
  101. 井上なつゑ

    ○井上なつゑ君 五%乃至一〇%の性格異常者のだめに非常にこの法律は結構だと思うと、若しこれがそうでないあとの九〇%、九五%の青少年の人達もその人と同じように取締られるということについてはどういうようにお考えになりますでございますか。
  102. 吉益脩夫

    公述人(吉益脩夫君) 私はそういう性格異常のない人にでございますね。二十五歳まで酒を、若し健全な人で、そして酒が好きな人が無論あるだろうと思うのでございますが、これは二十五歳まで待つてもなんら害はありませんし、むしろ益があるんじやないかと思うのでございます。
  103. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) よろしゆうございますか……。本日は午前、午後に亘りまして有益な公述を伺いまして、我々が、この法案の今後の審議の上に益するところが非常に多かつたことを深く感謝する次第でございます。ありがとうございました。公聽会はこれを以て終ります。    午後二時三十九分散会  出席者は左の通り。    委員長     塚本 重藏君    理事      今泉 政喜君    委員            中平常太郎君            姫井 伊介君            山下 義信君            石原幹市郎君            草葉 隆圓君            井上なつゑ君   委員外議員    小杉 イ子君   公述人    弁  護  士 清水  郁君    炭鉱生活援護協    会理事    小松原光太郎君    歯  科  医 下村  雄君    学     生 佐々井朗人君    関東配電労務部    厚生係長    小川 春季君    日本禁酒同盟常    任理事     小塩 完次君    東京大学助教授    (精神科)   吉益 脩夫君