○説明員(
小川朝吉君)
予防課長でございますが、只今総括的な点につきまして局長が御説明申上げましたが、私から若干細部に亘りまして申上げたいと存じます。
結核対策につきましては、今日特に新らしいものがあるということでなしに、
考え方といたしましては、大体一貫した方針によつて実施せられて来たのでありますが、従来は時の政府、時の主管省の関係によりまして、その内の実施せられる分野につきましては若干の変動がございまして、或る場合におきましては施設の面に重点を置き、或る場合には
予防接種等の点に重点を置くというように、若干の変動がございましたが、最近におきましては、それらの包括した事項につきまして、必要なものを全面的にやりたいという考えを以て実施いたしております。本日御説明申上げます内容は、予算と直結した恰好で申上げますよりも、お手許に差上げました資料によりまして、その事項別に御説明申上げました方がお分りかと存じますので、その資料に基いて若干御説明をいたしたいと存じます。
先ず第一に
結核予防施設の現状について申上げたいと存じます。十一頁になるかと存じます。
先程局長から御説明申上げましたように、
結核予防施設は大体指導的な分野を扱う
保健所とか、各職域におきまする病院、
診療所、或いは
一般診療施設というような
指導施設という場合と、それから
收容施設とに分れるのでありますが、先ず第一に
保健所について申上げます。
保健所につきましては御案内のように、大体衞生
行政各般の
第一線機関になるのでございますが、私共
結核対策につきましても、これを中心として運用いたす方針でございます。究極の目的といたしましては、少くとも人口十万につきまして一個所ずつ設置いたしまして、そこに
必要数の
結核專任の医師、或いは必要な
技術者、
保健婦等を設置する予定でございますが、来年の予算に計上いたしておりますのは、全国で七百四個所になると存じます。尚私共は各
保健所ごとに最低二名の專任の医師を配置しまして、同時に
保健婦が各般の業務をいたしておりますが、結核だけをやるといたしますならば、少くとも六名要るという
考え方でございます。現状といたしましては、そこにも記載してございまするように、本年は六百八十九個所の
保健所に対しまして、專任医は九百三十三名でございます。尚そうした見地から見ますというと
保健婦も二千四百二十二名でございます。又問題は、現在の実情は非常に給與が低いために不十分と思われる
定員数すら充足しておらないということが現状でございます。尚又明年は七百四個所に増加いたしまして、
專任医師は千四百八名、
保健婦三千百十六名に達する予定でございますが、これ又多くの困難を予想しておる次第でございます。
次に
職域指導施設等について申上げますが、現在
保健所はその管内の
公衆衞生をやるということは中枢的な役割だけで、
実践面の役割については、例えば工場につきましては工場の衞生
管理者、学校につきましては
学校医というような、それぞれの施設におきまする
指導施設というものが十分に活動いたさなければ、
結核予防の目的は達成できないのでありますが、現在私共が見ますというと、そうした会社、工場の施設、或いは
学校医等につきましては、その機能は十分であるというふうに考えておらないのであります。これは直接
厚生省だけの所管ではございませんのでありますが、こういうような点につきましては
労働者、或いは
文部省と緊密な連繋を取りまして推進をいたしておりますが、大工場或いは特に理解のある中
工場等では、或る程度の衞生管理は行われておりますが、それ以下の
中小工場、
零細工場等につきましては、全く指導的な役割がないと
言つてもよいんじやないかというふうな現状でございます。
尚又
一般診療施設について見ますと、やはり一般人はそれぞれかかりつけのお医者さん、
家庭医につきまして指導を受けるわけでございますが、結核の方は正しい指導をするためには、
レントゲン施設その他の施設が必要でありますが、一般の結核を御覧になる開業医についても、十分なる施設を有する医師は必ずしも多くないのでございまして、今後こういう方面に対しましても、医師会その他と十分な連絡の上に、十分な機能を有するように要請する必要があると考えております。
次に
收容施設について申上げますが、お手許に差上げました三枚組の資料を御覧頂きたいと存ずるのであります。先ず第一に
結核療養所、
結核病院、いわゆる
結核病床について申上げますが、第一頁に挙げてございますのは二十四年の現状でございます。これは統計上お手許に差上げました資料には昨年の十月の現在数、
国立施設数につきましては、本
年度予算におきまして三月末に完成すべき病床、その中から挙げてございます。私共現在これを拜見しますというと、大体全国で八万床の
結核ベットがございます。その中国立として五万五千が三月末には完成する予定でございます。従来この
結核病床を
結核対策上幾つ作るかということにつきましてはいろいろ議論がございますが、現在
アメリカでは大体年間の
死亡者の二・五倍ということを
結核対策上の目標とすべきだという結論のようでございます。尚又従来に
国際連合等のこうした会議の結果で、
最少限度の数字として
死亡者数と同数にせしめるということを目標としまして了承されておることでございますが、現在の実情を見ますというと、十四万五千の
死亡者に対しまして八万でございます。
従つてその率は五五・三%、つまり同数にいたしますということを一応仮定いたしますと、現在は五割五分程度完成せしめておるというような恰好でございます。一応これを対する政府の
考え方といたしましては、国立において取敢ず八万床にいたすという計画を持つておるのでございます。
明年度はそのうち八千五百床増加することになつております。その詳細は
療養所課の方から申上げたいと存じます。こういうのが現在の結核の病床の実情でございます。私共は取敢ず国立においては八万床確保するが、その八万の確保の目標といたしましては、各県毎にその県の
死亡者数の半数を
最少限度保有せしめ、同時に
大都市周辺でありますとか、或は北海道というような広地域につきましては、少くとも七〇%—八〇%国の責任において設置する必要がある。かような
考え方でございます。尚又急速に
死亡者数と同数にいたしますには、
地方公共団体或いは
公益法人の
療養施設につきましても援助をして、
病床増加を容易ならしめるということが必要でございますが、現在では国立の病床の拡充の方に重点を置いておる次第であります。
尚外国の
死亡者数の
実情等につきましては、この資料の附表に表を以て揚げてございますから、後列御覧頂きたいと思います。
次に
結核病院でない
收容施設といたしまして、
保養所という性格のものがございます。これは病気になる前、つまり発病の虞れのある者を收容したしまして、これによりまして患者の発生を防止するという施設でございますが、私共は現在発病の虞れあるものを收容するという建前から、
従つて健康診断を科学的に徹底して行うということに重点を置いて運用いたしております。現在は
厚生省の所管といたしましては、小兒の
保養所が、東京、横浜、名古屋に一箇所、大阪に二箇所、尚本年は神戸に建設中でございます。二十五
年度予算といたしましては京都に建設が決定しておる次第でございます。その他、
保養施設といたしまして、
文部省の所管いたしますいわゆる
学校教職員の
保養所がございますが、それはお手許の三枚綴りの一番最後の頁に一応揚げてございます。これは実質的に真の
保養所の目的で使用されておる
保養所と、それから病院に入れると恰好が惡いというので、実際は
結核患者を入れております教職員の
保養所と二つに分けられております。患者を入れることは
医療法の適用を受ける病院とみなすべきものだか、一応表向きは
保養所でございます。これが千九百八十九床あります。
次に後
保護施設につきまして申上げます。
結核患者は非常に長期を要するのでありまして、或る程度治療いたしましても、昔の体に帰ることが、困難でありますので、場合によつては職業の
転換等をする必要がございます。或いは又
永久排薗者というような形でございますので、永久に保護を加えるというような傾向の患者もあるのであります。かような方々のためには、後
保護施設いわゆるアフター・ケアー・システムという施設が必要でございます。これは日本では現在非常に少いのでございまして、そこにやはり第三頁目の表にございますように、極く僅かの施設しかないわけであります。而もこれが公にやられておりますのは現在はございませんで、国立の場合におきましても私共
療養所の一部として実施しておるような次第であります。これなども将来の問題として積極的に研究の余地がある仕事ではなかろうかというように考えております。
次に
研究施設について申上げますが、
研究施設は特段の行政的なものの対象となつておりますのは、
結核予防会の
附属結核研究所でございます。それ以外には東北大学の抗
酸薗研究所、大阪大学の
竹尾研究内、
京都大学の
結核研究所等が
結核患者の対策を研究しているのであります。日本におきます結核の研究並びに業績につきましては、ある意味におきまして世界の水準若しくはそれ以上の業績がございます。問題はこれらの政策が直ちに行政に板されるという点に問題があると考えております。尚又日本の特性としまして
研究施設が小さいので、立派なものを持ちながら一般的に経費が少いので、研究にはいずれも不自由しておると私共観測しております。
以上が大体
結核予防施設でございますが、次に
実践面の
予防事業の現状につきまして概要を申上げたいと思います。先ず第一に
事業面として考えられます問題は生活の改善でございます。これには連合軍のサムス準将も指摘されておられますが、日本の生活のうち疊の上の生活、
蛋白質脂肪等に乏しい生活が結核の温床であるというふうに指摘されておりますが、誠にその通りだと私考えております。特に戰後の
住宅事情は
結核患者も普通の家族も密集しておる関係上、最近は全般的には結核は減つておりますが、乳幼兒の死亡が増加して来ております。かような意味におきまして、住宅問題の
根本解決或いは病床の
増設等がその解決をするわけであります。取敢ずの措置といたしましても、患者の
居室改善等につきましては意を用いるべきものではないかという
考え方を持つております。次に栄養問題でございますが、栄養問題につきましては、これは一般的に日本は質の取り方が下手でございまして、
従つてその関係上患者になりましても給養の質等は相当損をしているのではないかと考えております。これは
栄養調査の結果に徴しても明瞭でございます。結核で一つ問題がございますのは、従来結核の施設に入院している患者につきましては主食の増配を行つておりますが、自宅にいる患者が実は多いのであります。これらの方々には主食の配給が行われておらんというようなことで、私共
事務当局といたしましては懸命の努力をいたしておりますが、まだ完全な解決点には到達いたしておらんのであります。若し患者の家庭に主食が増配できるならば、これは病院に入つております患者も喜んで自宅に帰りまして療養ができる。
従つてベツト等も有効に活用できるのでありますが、現在はさような矛盾がございます。
次に
予防接種について申上げます。この問題は
予防事業中の最重点として実施しているのでございますが、現在
予防接種法によりまして、年齢三十歳までのものにつきましては年一回の
予防接種をいたします。而も尚年一回だだけの接種では、学者が示したように、例えば
予防接種の結果、結核の発生を二分の一に阻止する、或いは
死亡率を八分の一以上に減少せしめるということは確定の事実でございます。年に一回の
予防接種ではそのままの
額面通りの成績は收め得られるものではありませんので、我々の考えといたしまして患者の家族であるとか、或いは東京とか、その他結核の多い地区に存在します中学生、
高等学校、或いは二十五歳までのものにつきましては、少くとも年二回を実施するように指導をするのが必要だと考えております。ところでもう一つ問題になりますことは、この
予防接種の実施は従来は昭和十八年以来や
つて参つておりますが、従来は
予算措置によりまして、
地方庁のやります
予防接種に政府が三分の二を補助しまして実施して来たわけであります。
予防接種法に包括された関係上、一般的の
財政見地から、定期の接種につきましては
実費徴收という形になつております。これは全般的の政策からそういうことを入れたのでありますが、私共
事務当局といたしましては、せめて強制します
予防接種ぐらいは無償でやつて貰いたいと思います。現在ではそういう状態で
予算措置ができないということを、ここで御参考までに申上げたいと思います。
次に
健康診断でございます。この
結核患者を早期に発見して、早く治すということがやはり又
結核対策上、
一般事業として最も重要なことに属します。而もこの
健康診断と
結核予施接種をかみ合せましてやることによつて、大体に
結核対策が完成するわけであります。一番成功いたしましたのは石川県でごいます。石川県は
健康診断と、
予防接種を昭和十五年に強力に実施いたしましたところ、従来は日本一の
結核患者の県でありましたが、現在では平均県になつております。而も尚これが十分なる実施をいたしました十五年度乃至十六年度というものは、四分の一に減少いたしております。かようなことを強力にやるという考えで、
地方庁を督励いたしておるのでありますが、ここで問題になりますのは、現在
健康診断につきまして法制的な基礎のございますのは、
労働基準法にありますところの
健康診断、それから
学校教育法におけるところの学校における
健康診断、並びに
厚生省の所管いたしておりますところの
結核予防法に基くところの
健康診断と三者の
法的基礎がございます。ところがこれらの診断の内容につきましては、それぞれ事務的に調整を図つておりますが、私共は率直に申上げますというと、必ずしも十分に行つておるとは限らんのであります。即ち工場におきます或いは事務所におきます
健康診断では、その実施の義務が
工場長、
使用者になつております。現在
俸給等の遅欠配もある今日、十分
健康診断させるような経費につきましては、十分にやらなければならんのでありますけれども、負担に堪えない工場が多々ございます。特に
中小工場、五十人以下の
零細工場におきましては、全く無視されておると
言つてもいいのでありますが、結核の発生がこういう
零細工場にあるということは、全く注目すべき事実ではなかろうかと考えておりまして、尚又学校につきましては、理解ある学校におきましては、又
父兄等の非常に金持であるような場合には、立派な施設に委嘱しまして、十分な
結核診断をやつておりますが、これ又
文化水準の低いような学校では、親というものは飴玉を買うには五十円、百円と金をやりますけれども、学校へ金を持つて来て
レントゲンを撮るというような場合には金を出したがらないのであります。私共は
健康診断につきましては強力に一本化しまして、実施しないところにはそれぞれ又
補助予防策を採つて、完全実施するという政策が必要ではなかろうかと思うのであります。
次に最も重要な問題でございますが、
健康診断をかように普及いたしましても、問題はできた患者の始末であります。できた患者の始末につきましては、私共はいわゆる
事後措置と申しておりますが、
事後措置の徹底によつて、初めて第一の目標の
健康診断ができるわけであります。例えば
病毒伝播の虞れある患者が多ければ直ちに休ませるし、或いは就業を禁止する、入院を強制するという措置を取る必要があります。現在現行の
予防法におきましても、さような規定があるのでありますが、実質的には運用せられないのであります。その理由といたしましては、例えば政府管掌の健康保險の対象者は六百万余りでございます。そのうちの加入者は三百万なにがしであります。五〇%近い未加入者があるのであります。この方々を若し
健康診断の結果就業の禁止をいたしますということが若し可能であるといたしましても、これは翌日から生活に困窮を来たしまして、そういうような意味合からそれを救うのが保護法でございますが、保護法までの過程に何らかの措置が講じられるというのが、実質上の
結核対策推進上最も大きな政治問題と考えなければならんと存じます。現在皆樣によつて御検討中の社会保障制度の確立に当りましては、特にこの点に御留意頂ければ幸せではないかと考えております。これ又政府からとしての御説明としては、甚だ不適正な言葉でございますが、私共はその点につきまして、将来において折衝いたしたいと存ずる次第でございます。
尚次に
結核患者の收容、指導、保護という問題につきましては、別の面から申上げるのでありますが、入院して治療すればこれは一番いいわけでありますが、先程申上げましたように、三百五十万の
結核患者があり、病床は八万でございます。一応目標といたしますところにつきましても、非常に多数、殆んど大部分の者が自宅において療養いたしております。これらの者につきましては、適正な医師の指導と、或いはそれの協力者としての
保健婦の指導、並びに社会的な保護が必要なわけでありますが、現在これも細かく申上げれば限りないことでございます。私共の專門的な見地からといたしましては、十分に行われているということは言えないと存じます。その外一般の医師の結核に対する協力というような字もございますが、これは医師が、例えば現在の
結核予防法におきましては、医師が
結核患者、特に
病毒伝播の虞れがある
結核患者を診察いたしますと、それに対する必要な指示の義務がございます。又指示を受けた者はこれによる履の行義務がございますが、実質的には非常に低調である、というふうに申上げて然るべき実情ではなかろうかと考えております。尚又
保健婦の事業でございますが、これは在宅患者即ち入院しておらない患者に対する唯一の手掛けでございますが、先程
保健所の整備のところで申上げましたが、現在では
保健婦の数も不足でございますので、家庭におる者に対する保護の手が十分でないという実情でございます。私共としましては御医者さんの届出に対しまして、平均四回くらいの家庭訪問を実施させたいと存じておりますが、旅費等の関係等、実際の経費の足りない点で、そこまで手が伸びておらんというのが実情でございます。
尚結核の治療について一言申上げますが、最近外科的手術、或いはストレプトマイシンという新しい薬品の発見によりまして、従来不治とせられております
結核患者は、適当な時期に治療いたしますれば、むしろ治る病気であるというような結論にな
つて参つておるのでございます。ところが外科的手術をいたしますには、やはりそれぞれ必要な、病院施設を必要といたします。尚又ストレプトマイシンに対しましても、これ又御案内のように現在では輸入によつて極く一部の方に蒲高ておる実情でございます。かような意味合におきまして、急速に医療施設の拡充を図り、ストレプトマイシン等の生産に対しまして今少し政府が協力する必要があるのであります。特にこれ又病床等にも制約されるのでありますが、外科的手術を要する患者が再質的には非常に多いのでありますが、一般には人工気胸術というような胸郭の中に空気を入れる方法でございますが、これによりましても相当な成績が收め得られるのでございます。これに対しましても現在
保健所等を非常に督励いたしまして、成績が挙がるようにいたしておりますが、やはり一般の診療施設におけるかかる近代的治療が普及するという点が問題になるだろうと存じております。まだ国民の中には迷信的治療をして、適切な医師の指導よりも、隣りのおかみさんに指導されますと直ぐ考えが変るというような、一般的なこの間違つた観念につきましても、これを矯正しませんと、近代的な治療の恩惠に国民一般が與るのが遠いのではないかと考えております。
次に
結核予防職員の確保について申上げたいと存じますが、現状といたしましては政府といたしましては相当の努力をし、又皆さんの御指導によりまして
結核病床が戰後におきましては或る程度急角度に増しております。只今御説明申上げますというと、日本の
結核対策は何から何まで皆不十分じやないかとお考えになるか存じませんが、これは結核という專門の見地から申上げるのでありますが、多年かかりました結核施設の眼から見ますというと、終戰後におけるいろいろな病院の増加、
保健所の増加等も急角度に上つておりますが、それに対しまして技術職員が非常に不足いたしております。それは給與の水準の問題が根本問題だろうと存じます。例えば大学を出た新らしいお医者さんを五六千円の俸給で雇おうとし、或いは又十数年経ちました経験のあるお医者さんでも一万円前後であるというようなことでは、我々の期待する知識と経験の十分な医師を我我の施設に入れることすら困難ではないかというのが実情でございます。従いまして給與水準の改正につきまして、
厚生省としましては人事院当局にも強くお願いに上つておるような次第でございます。尚又多数の医師に対しまして、近代的治療をなせるような立派な技術を体得させることが必要でございます。現在では
結核予防会の研究所におきます訓練が一番理想的なものでございまして、これは海外から見えられた方も感心するような教育を行つておりますが、こういうような特殊の教育は量的には十分にならんのであります。
従つて私共は短期の講習会を方方で行つておりますが、予算的にもまだ十分というような実情ではございません。次に特に政治的な見地から重要な問題と考えられますのは医療社会事業でございます。即ち結核はやはり貧困な方に余計出ますし、又裕福な方もこれに襲われますと貧困になります。そういう意味合におきまして、而も又結核治療には相当長年月を要します。そういう意味合から医療社会事業は結核という問題については最も大きな課題でございます。現状の医療社会事業の基礎となりますものは健康保險、その他の社会保險、或いは共済組合或いは
生活保護法等でございますが、先程も申上げましたように、健康保險に入るべき資格を有しながら入らないものが三百万ございます。
学校教職員等につきましても、共済組合に入つておらんものが四%ございます。これらの人は若し結核と診断されますと即日生活に困窮を来たす、医療ということよりも生活に直ちに困窮いたすような実情でございますので、かような見地から先程申上げましたように、急速に広い意味の社会保障制度が確立される必要があるのでなかろうかと考えるのであります。尚国立病院或いは一般
公益法人等の
療養所におきましては、社会保險或いは
生活保護法の患者というのが大多数でございます。特にその一部負担のできない人の数は相当多いのでございます。或いは又保護法にはかからないが、一銭も拂えないという患者は大変あるのであります。従いまして国立病院それ自体の赤字を御覽になりますと直ぐお分りになるかと存じます。又
公益法人におきましても多々ありますし、一応予算的措置をそのために国が採らなければならないというような現状でございます。その他
結核予防知識の普及びまあ最後的な一般的な施策になります。これにつきましては多言を要しませんので省略いたします。
以上御説明申上げましたところで大体私共の、
事務当局の考えて来ております
結核対策並びに実情というものがほぼ話し盡されたと考えますが、この予算の内容について、その実情を更に簡單に申上げたいと存じます。五十三頁から五十四頁にかけまして現在の結核予算のことが書いてございます。これによりますと、現行の予算は形の上では仕事ができるようになつております。これを率直に申上げますと、形の上では結核に対する事業は或る程度できることになつております。併しながらこれを第一線で大衆に及ぼす場合には、非常に不自由な予算であるというのが現状であります。例えば
予防接種をやりますその際に、取れるものは金を取るという建前は極く僅少の金でありますから何でもないのでありますが、
従つて予算措置といたしましては、貧困者の分だけの
予算措置は講じております。ところが、実質的には金を持つて集まれということになると、集まらんというような点で予算の実情と……、でき得る筈のところも、実情実施しておるところの相違が、現行予算では出ておるというのが実情でございます。
まあ以上一応結核の現状について申上げたのでございますが、私共はその結論といたしまして、担当者の考えておることを附け加えさせて頂きたいと思います。勿論結核を減少せしめます場合には、各個人の生活が裕福になり、国が富んで参りますれば、自然減少して参ります。併しながら生活向上による自然減少というものには、非常な長年月を要します。例えば、各国におきまして結核が減少した実例を申上げますというと、ヨーロッパでも或いは
アメリカでも、今から百年前は現在の日本の結核の倍の惨禍に掩われておつたのであります。即ち人口一万について三十五から四十五という
死亡率を示していたのでありますが、これは現在では日本の五、六分の一ということになるのでありまして、その原因を詳細に検討して見ますというと、大体一八五〇年から一九〇〇年の間におきまして、五十年かかつて結核は半分にいたしております。その頃から結核は
伝染病であるということも明確になり、特定の予防技術というものが、加味されて参りまして、第一次欧州大戰の前後では、その後の半減に対しまして、二十年から三十年の日子を掛けております。それから第一次欧州大戰争から今次大戰争の、現在の絢爛たる医学が適用されることになりましてからは、十二年乃至二十年位で半減いたしまして、そして今日のように極く僅かな
結核患者数になつておるのであります。従いましてこの見方から見ますと、現在では、外国では例えば結核の病床なども非常に多く持つておりますが、病院自体の数においては日本と変つておりません。日本の
結核病床と
アメリカの
結核病床とは絶対数では大した差がありません。即ち外国は結核がどんどん減つておるから病床数が殖えて来ておる、そういうような実情でございまして、現在日本の持つております
結核予防技術を以てすれば一体どの位減るかということが、私共
技術者に課せられた責任でございまして、いろいろな角度から研究いたしました結論だけ申上げますならば、五年乃至十年で私共は日本の結核は半分に減らすことは、現在の日本の科学技術では可能だと考えております。又同時にこれが非常に国力、国の経済力を増加し或いは不要なる経済負担を軽減するものではないかと考えておりますが、これに対しましては十分なる御研究の結果、我我医療行政の施策の上にやり易いような政治的御配慮が願えれば仕合せではないかと思う。そういうような経過的な事項につきまして特別の計画を持つておりますが、別の機会に或いは御説明するようになるかと思いますから、一応概括的な見通しだけについて申上げさして頂きました。