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1950-06-27 第7回国会 参議院 厚生委員会 閉会後第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年六月二十七日(火曜日)    午前十時三十八分開会   —————————————   本日の会議に付した事件 ○社会保障制度に関する調査の件   —————————————
  2. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) これより厚生委員会を開会いたします。  前回に引続きまして、休会中の継続調査と相成つておりまする社会保障制度に関しまする調査を続行いたします。本日は、前回社会保障制度審議会試案につきまして、当該事務局長から概略説明を聴取したのでございますが、本日は社会保障制度の上におきまして、最も重要なる課題でございまする各種の数理的研究問題につきまして、政府専門家でありまする鈴木数理課長から、これらの諸問題についての専門的意見を聴取いたしたいと存じます。尚、健康保険組合松本調査部長からも社会保障制度数理計算というような問題につきましての所見の開陳も求めたいと存じております。これより鈴木課長から所見を聴取することにいたします。
  3. 鈴木正雄

    説明員鈴木正雄君) 只今社会保障制度財政に関する数理計算説明をせよとのお話でございますが、話が抽象的になりますので、先程社会保障制度審議会研究試案ができまして、それに対する数理計算資料がお手許に配付されておるように存じますので、それに基きまして大体のお話をいたしたいと思います。  先ず、社会保障に関する財源の問題は大きく二つに分けて考えるのが適当と思います。それは現在いわゆる健康保険と言われております疾病等に関する給付の場合及び失業保険に関する場合、この場合はいずれも大体一年の期間を単位にいたしまして、その期間の必要な財源を一年間の収入を以て充てるというふうな組織のものが第一でございます。第二は、年金制度のように、実施の当初は保険給付が少く、漸次年を経るに従つて非常に増大して来る傾向を持つもの、こういうふうな将来に亘る計画を必要とするものと、この二つに分けることができます。先ず、最初健康保険失業保険、そのような場合の計算短期給付短期計算と一応呼んでおりますが、先ず短期計算の場合について御説明申上げます。お手許に配付されておりまする「社会保障制度研究試案による収支概要及び保険料計算について」を御覧願いますと、「短期給付計算基礎」という表題で、以下その内容がございますが、先ず第一に、計画の場合に何人の人が被保険者になるかということの予定が必要になります。それでこの制度の立て方といたしまして、被持者保険と、その他の保険と分けておりまして、制度を二本建にするという形になりますので、先ず被用者予定一般国民予定と別個にいたします。この計算では被保険者数総理府統計局調査によりまする産業別従業上の地位別就業者数基礎にいたしまして、被用者保険男子が九百三十九万人、女子が二百八十万人、合せて千二百二十七万人、それに対しまして家族が二千八十六万人もあるものと推定しております。日本の総人口八千万といたしまして、その他の一般国民の数を四千六百八十七万人と推定いたします。この推定によりまして、次に被保険者一人当り一年間にどのくらいの給付が要るかということを推定することになります。この表の二番目に給付費算出基礎とございますが、これは各制度給付別に一年間に被保険者一人当り幾ら費用が要るかということの計算根拠が上つております。このうち最も財源に重大な影響を持つものは(1)の療養に対する費用でございます。この計算には一年間に被保険者一人当り何回医者にかかるか、及び一回かかつた場合に幾ら費用が要るかということが計算基礎になつております。この基礎は最近の健康保険制度、これは政府管掌組合管掌とありますが、その両者を加えまして、更に共済組合実績及び船員保険実績、この三制度実績平均をとりまして、この受診率の三・一三二というのが決まつております。それから一件当り費用というものは、政府管掌健康保険基礎を、最近の実績による一件当り基礎基礎にいたしまして、八百八十四円というものが算定されております。これは各制度実績でございますが、例えば健康保険組合について考えますと、組合には組合自身の運営する診療機関もございますし、又事業主の運営する自己診療機関もございます。こういう診療機関の経営は、或る場合には事業主が一部財源を持ち、或る場合には被保険者の払う単価を低くするとかいうふうな関係がありまして、一般保険医に支払う費用というものとは相当差がございますので、全体の費用といたしましては、そういうものを考えない健康保険保険者実績を使うのが適当という意味で、この八百八十四円というものを使つております。こういう数字基礎にいたして、被保険者一人当り一年間に幾らの金がかかるかということが算定されます。以下傷病手当金分娩費出産手当金葬祭料哺育手当金の各項がございますが、いずれも以上申しました三制度実績基礎にして給付の起る割合計算してございますし、又給付種類によりましては、報酬に比例をする給付をする場合もございますが、これは平均報酬を八千円といたしまして、又女子の場合には四千五百円といたしまして、費用計算基礎といたしております。これらを総合いたしまして、一年間に幾ら費用がかかるかということが算定されます。被用者家族に対する給付費用につきましても同様の計算で算定されております。その結果は次にございます「短期給付種類別負担別内訳」という表がございますが、この費用総額という欄に結果が計上されておりまして、被用者の場合の療養給付が三百五十七億円、傷病手当金が九十八億円という結果が出ております。又家族に対する給付家族療養費が三百五億円、配偶者分娩費が三十三億円というような字数が出ておりまして、これらを合計したつまり八百四十億円というものが、先程申しました千二百二十七万人に対する一ケ年の給付総額ということになります。健康保険関係給付は、大体保険事故の発生する割合が安定いたしますと、この程度費用が毎年あれば賄つて行ける、これを国庫負担し或いは保険料として被保険者負担する。或い場合には一部負担制度があつたならば、これを被保険者負担する、こういうような財源で賄えるように保険者率國庫負担の金額なんかを決定するわけであります。  次に、失業保険につきましては、失業率を四%といたして計算してあります。勿論失業率は年によつて、景気の如何によりまして、非常に変動のある要素でございますが、保険制度といたしましては、この試案によりますると、最初の六ケ月間保険給付が貰えて、以後は保険給付が貰えないということになりますので、相当長期大量の失業者が起りましても、そういう現象の起る当初の期間には相当の保険給付が要りますが、それを経過いたしますると、又財政状況が安定いたします。それでこの程度失業率を以てすれば、或る場合には相当失業保険金の支払が多くなつて財政がどうなるかという懸念も表面上は見えると思いますが、長い目で見れば十分に賄つて行けるのではないかと思います。この結果は失業給付に対しましては、二百八十七億円の費用が一年間に要る。これを国庫保険料と分担いたしまして、給付国庫負担額総額保険料総額が決定されます。これによりまして被保険者事業主負担すべき保険料率、或いは保険料額というものが決定されるわけであります。  次に、一般国民の場合におきましては、やはり前と同じような計算基礎計算されますが、特に療養給付につきましては、受診率を現行の国民健康保険実績基礎にいたしまして算定してあります。現在の国民健康保険は凡そ被保険者医者にかかります場合の一部負担金費用の五割程度になつております。本業におきましては、これが三割になりますので、被保険者医者へ行く機会が多くなるという点を見込みまして、年間一・五、つまり保険者一人一年間に一回半医者にかかるという根拠で一・五というものが見込まれております。又一件当り費用は、最近の国民健康保険実績に基きまして、一件当り費用の六百円が算定されております。受診率健康保険に比べまして、非常に低くなつておりまするが、実は現在までの状況が、保険に対する知識の普及程度が低いことと、又場所によりましては、診療機関の利用に非常に支障のあるような場所もありまして、又分布が不十分である、そういう点もありますので、将来保険思想が発達し、或いは診療機関が適正に配置されますと、これは増加されるものと思います。従つてこの一・五というのは、実施当初の見込でありまして、診療機関整備伴つて順次これは増加して来る。この数よりは、或る程度まで上昇して行こうと了解すべきだと思います。結局一般国民に対する費用総額で五百一億円かかりますが、そのうちの四百二十二億円が療養給付になります。これは今申しました通りに、診療機関整備保険思想普及に伴いまして、若干の増加を期待しなければならないという結果になります。  以上総合いたしまして、保険給付費用総額がこの表の三にありまする一千六百二十八億ということになります。この国庫負担或いは保険料内訳負担割合等によつてつて参りますが、一応この表によりますると、国庫負担が四百十億円、それから都道府県及び市町村の負担が八十四億円、保険料が八百七十五億円、一部負担が二百五十九億円、こういうふうな結果が出ております。尚、以上の数字を被保険者一人当りにいたしますると、被用者につきましては、一年間の費用総額が九千百八十一円、国庫負担が二千三百四十四円、保険料が五千七百六十四円となります。この保険料の五千七百六十四円を平均報酬八千円として計算いたしますると、保険料率としては四・四%程度になります。併し四・四%と申しますのは、全被保険者平均したものでございますので、仮に現在の政府管掌健康保険の被保険者のみを考えますると、商工業被用者が対象となりますので、一般平均よりも低い。その結果或いは四・四%よりも高くなるかも知れない。というのは、組合管掌の場合におきましては、大企業でありますので、平均報酬が若干高廻る。更に医療機関種類如何によりましては、医療費一般保険医にかかる場合よりも低くて済む。そういうふうな医療保険料率は低くなるというふうな傾向がございます。又一般国民の場合の一人当り負担額は、費用総額が一千六十九円、国庫負担が二百六十一円、都道府県百八十円、保険料は三百五十八円という結果になります。その三百五十八円は被保険者一人当りの数でございますので、仮に一世帯五・五人といたしますと、凡そ年額二千円程度負担になるわけであります。  以上短期給付負担関係はこれまでにいたしまして、次に、年金制度負担についてお話ししたいと思います。年金制度財政をどうするかということは非常に問題の多い点でございまして、世界各国制度を見ましても、非常にまちまちな方法をとつております。それでこの計画案といたしましては、どういう方法であるかと申しますと、この年金の部という方の計算基礎説明が残つておりますが、その最後計画案として被保険者一人当り費用負担額というのがございます。この表を御覧願いますと、この男子の欄につきまして、昭和二十六年から三十年までは費用総額年額二千四百円、そのうち事業主及び被保険者負担月額が百六十円、その下に〇・〇二とございますが、これは負担報酬に対する割当が掲げてございますが、最初の五年間はこういう負担で行く。次の五年間、つまり昭和三十一年から三十五年までは費用総額が三千六百円、事業主及び被保険者負担月額が二百四十円、料率にいたしまして〇・〇三、以下五年目ごとに四%に上げ、五%に上げて、四十六年からは九%七になるというような表がございます。この表は尚事務局の方におきまして、更に実際的な表は今計算中の模様でございますが、一応大体の構想は、当初と低い保険料を取つて順次上げて行く。そうして最後には一定料率を賦課するというふうな基礎になつております。こういうふうな計算方法に行く前に、種々の年金財政の建て方についての案が提出されまして、その結果最後にこの案が適当だという意見で、これを計画の案にしたらどうかということになつております。  どのような問題があるかということの概略お話申上げますと、この表のあとの方に参考資料として、社会保障制度における被用者年金に関する資料というのがございます。その第一番目に数理的保険料内訳という表がございます。この数理的保険料というものはどういうものであるかと申しますと、或る時期に新しく労働者となつて、そうして被保険者になるというグループを考えます。そういたしますると、その人達は死亡する場合もありますし、或いは癈疾者になつて年金受給者として、被保険者の身分をなくす者もありますし、又独立営業者となりまして保険の範囲から離れて行くというふうな者もございます。そういう人達を、入つた時からの経過年数別予定することができます。そういうふうに或るグループ労働者になつてからその人達が全部労働者でなくなるまで、こういうものを相当長期に亘りまして予定いたします。そういたしますると、その半面幾らの人が労働者として残つているかという数字計算されるわけであります。これができますると、そのグループ人達が将来どのくらい保険料を払込むかという計算の材料が一方にできるわけでございます。それに対しまして毎年のいろいろな事由で以て保険団体から離れて行くというふうな数字が出ますと、経過年数別幾ら、何人の人がどのような給付貰つて保険から離れて行くという数字根拠が出るわけでございます。更に年金につきましては例えば養老年金について考えますると、十五年以上被保険者であるとして働いた後に、順次保険団体から離れて行く。そういう人が六十歳以後になつて年金を貰いますが、そういうふうな予定生命表基礎いたしまして計算できるわけでございます。例えば二十年目にやめた人がある。そういう人はまあ或る程度平均年齢が仮定されまするので、六十歳になればどのくらい減る、それ以後一年ごと死亡者がございますが、何人くらいの人が残つて行くというふうな計算ができるわけであります。こういうふうな各年度にやめて行く人につきまして計算しますと、最初に被保険者なつグループが受ける年金人員予定が全部立つわけでございます。そうしますると給付予定額がありますので、毎年の給付の総費用が一応推定されます。一方先程申しました被保険者人員年数別計算されますので、幾ら保険料を払つたらこの給付に見合うかということが計算できるわけであります。その場合に年金といたしましては相当長期に亘る問題でありますので、そのグループだけで計算することになりますると、一定フアンドができて参ります。それに対しては利息收入が一方にあるわけであります。従いましてこの利息計算に入れた場合の財源と、それから一方に計算されました給付費用と見合うようにした保険料を決めることができるわけであります。逆に申しますると、一方で保険給付年次別に出ておりますので、それを被保険者なつたときの原価計算し直す。つまり一定利率で割引をした額を計算して、一応その一方で各年次別保険料を払込む人員がございますので、これをやはり一定利率で割振りいたしまして原価に直しまして、その何%、或いは幾ら保険料を取つたらば保険給付と見合うかというふうな計算によりまして保険料率を決めます。これを数理的保険料と申しております。この数理的保険料を用いますと、或る時期に或るグループの人が被保険者になる。そのグループの人のみについて計算しますと、その保険料を徴收して行けば、最後の被保険者がいろいろな種類給付を貰いながら全部死に絶える、そのときに一銭も過不足がなくなるというふうな計算機構になつておりますので、この保険料に対する考え方は被保険者グループとして払つた保険料と、それから被保険者グループとして貰う給付が、利息計算を入れて完全に一致をするというふうな結論になりますし、又そういう考え方計算をしてございます。  で、この保険料を実際に適用しておる例は、イギリス社会保障制度ではこの保険料が適用されおります。イギリス社会保障ではこういうふうに計算された保険料つまり保険者が払込んだ保険料とそれから貰う給付とが利息計算を入れて一致するような保険料が最も適当であるという、そういう思想を昔から持つておりまして、この保険料が適用されておるわけであります。それで一応数理的保険料に関する問題はそれまでにいたしまして、大体被保険者の払込むべき保険料というものに対する考え方を申し上げますと、只今申しました数理的保険料というのが先ず第一番に考えられるのでありますが、これはイギリス社会保障でとつておりまする概念によりまして、こういうものが一番適当だという考え方保険料であります。第二番目には毎年の必要な給付保険料が賄うという計算方法つまり健康保険或いは失業保険のような短期給付と同じ観念で保険料を決定する、そういう方法が第二番目に考えられます。それから第三番目の問題といたしましては、これはちよつと簡単でございませんが、先程申しました数理的保険料は新しく被保険者になつた者に対して適用される保険料ということになりますが、実際に制度実施いたします際には、すでに五年なり十年なり二十年なり労働者として経過した人がございます。そういう人達年齢が三十歳或いは四十歳というふうに高齢になつております。従つてその人達にその保険料を適用いたしますと、過去に払込まれなかつた期間があるに拘わらず年金が付くというふうな関係がありまして財源不足する結果になります。その不足財源をどうするかという問題になりますので、そういう不足財源まで全部保険料に込めて計算する、つまりこれから制度実施のときに初めて被保険者になつた者、及びそれ以後毎年新しく被保険者になる者、これらを全部総合いたしまして一定保険料を課して、そうして給付をしながら財政を持つて行けるようにする、こういうやり方が第三番目に考えられます。これはドイツを中心として欧州ブロツク社会保険ではそういう考え方を持つております。保険料計算の仕方としては以上の三つの方法が大きく分けて考えらりめわけであります。ところでそういう保険料を徴收しながら保険財政をどういうふうに持つて行くかということが関連して同時に考えなければならない問題になります。それで先ず第一の数理的保険料を徴收した場合にはどうなるか、こういう場合の計算がこの計画一として載つてございます。その計画一の将来の新規加入者に適用する負担を課した場合、これはつまり数理的保険料を課した場合はどうなるかという計画でございます。その場合の財政に関しましては、先程保険料の第三番目の形の場合に申上げましたように、新しく実施いたしますると、そのときに一時に被保険者になる人、こういう人については財源不足を生ずる、結局その不足財源をどうするかという問題が解決できなければこの数理的保険料は採用するわけには行かないわけであります。その方法としては二つ方法が考えられまして、先ず第一はその不足財源利息だけを国が負担する場合、この計算におきましては大体二千数百億円の財源不足する結果になつておりますが、この財源不足額に対する利息のみを国家が負担する、これはどういう考え方かと申しますと、或る一定資金年金会計として不足しておる、これが正規に運用されておりますれば将来財政には不安がないのであります。そこでその不足財源が仮にあるものと考えますると、一定利率によりまする運用收入が入つて参ります。それではこの考え方フアンド不足しておりましても、その利息を入れて置けば丁度そのフアンドが十分にあると同じような作用をする、そういう考え方から、この利息のみを国庫負担するという考え方が一応成立するわけであります。その計算はこの收支見込の「(a)当初加入者に対する不足財源利息のみを国が負担する場合」、この表に大体の将来の見込みが載つております。この内容を見ますると、昭和二十六年度には事業主及び被保険者負担が五百六十六億円、積立金は当初はございませんので零、給付の二割の国庫負担が三億円、それから当初のフアンド不足に対する国庫が九十七億、收入の合計が六百六十六億円、保険給付支出といたしまして十六億円、差引收入支差額六百五十億円ありまして、年度末には六百五十億円のフアンドが集まる、この状況が続きまして事業主と被保険者負担は、計算年度によつて若干の増減がございまして違いますが、大体五百六十億から六百億程度になつて毎年入つて来る。積立金利息フアンドが増加いたしますので、三十一年度には百十億円、三十六年度には二百四十九億円というふうに全部増加いたします。又給付に対する二割の国庫負担、これも給付が年々順次増加いたしますので、当初の三億円から、三十一年度には三十二億円、三十六年度には五十六億円というふうに漸次増加いたします。不足財源に対する国庫負担はこれは一定不足財源があるものと考えられますので、九十七億円は毎年変らないで負担しなければならないことになります。これに対して保険給付費は十六億円から百五十八億円、二百七十九億円、七十六年度には二千三百九十九億円というふうな額に行きます。そうして各年度收入支出差額がございまして、順次積立金が増加して二十六年度の六百五十億円から五年目の三十一年度には三千四百二十億円、更に三十六年度には六千九百四十八億円、最終の七十六年度には二兆八千六百十一億円という巨大な積立金が積まれるという結果になります。  それでこの方法に対しまする一般的な批判を申上げますと、先ず長所といたしましては保険料負担は被保険者が払う保険料保険給付とが、一応保険の理論から行きましてバランスシておりますので最も合理的ではないかという点がございます。それから保険料が初めから決まつておりますので、負担する側から言つて計画が立て易い。それから国庫負担が九十七億円という一定額は当初から負担しなければなりませんが、これを余分に負担する味意給付の二割の負担と合せまして大した大きな負担にはならない。  次にフアンドがありますので、被保険者といたしましては給付の将来に対する安定が持ち得るのではないかというふうな点が挙げられます。これに対しまして、反対論といたしましては、積立金が非常に大きくなつて資金運用が困難になるとか、或いは余り多過るために経済全体に及ぼす影響が見逃すことのできないようなものではないかというのが最も大きな反対論であります。これはこの案のように積立金を積んでそうして運用して行くという方法に対する根本的な欠陥とも考えられますし、又根本的な反対論根拠ともなつております。  次に積立金を相当持ちますので、貨幣価値が下落した場合に一遍に効果がなくなる、特に今回のような急激なインフレが起りますと、非常にたくさん積んでいたものが一遍に殆んど無くなるような結果になつてしまう、そうしてそのあとにその財政の穴埋めをどうするかという問題が起るかというのが考えられる欠陷になります。  次に、この方法はそのままにして置きまして、第二の(b)という項に当初加入者不足額を後年収支バランスが取れたとき国が負担する方法、これはどういう方法かと申しますると、最初の案は、不足財源に対する利息を国が負担するという方法を取りましたが、この案では初めはそれをやらないでつまり穴を穴として放つて置くという考え方であります。そうしますと、当然利息収入がなければならないのに、それが入りませんために不足財源というものは年と共に増大して行くわけであります。そうして最後には積立金を崩すようになつてしまつて、その積立金もしまいにはなくなる。そうしますると、保険給付保険料とは非常な差ができまして、給付ができなくなる、その場合に国が国庫負担するという方法であります。これはイギリス社会保障年金制度がとつておる方法であります。イギリスがどういう意味でそういうふうな方法をとつたかと申しますと、制度実施のときの財源不足というものは制度実施することによる国の責任である、そのためにこれは国で負担しなければならないという考え方から、一応そういうものに対しては国の負担であるという根本原則を決めまして、そうしてその方法といたしましては、国がその不足財源に対する負担を初めからやらないで実際の給付の増加に従つてつて行くという方法をとつたわけであります。尚イギリスにおきましては、年金に対する資格年数が非常に短いために現行制度の前身である寡婦孤児老齢拠出年金制度実施され、一九二五年以後数年にして保険料保険給付とのバランスが崩れまして、国庫負担実施しておるような状況になつております。この計算におきましては、まだ数字の上では昭和七十六年になりましても国庫負担数字は出ておりません。これは年金の資格年数が十五年であるために給付実施が相当遅れる、そのために当初はフアンドが可なり詰りまして、それが切崩される時期が相当先になるという結果からこういうふうにまだ国庫負担が出ておりません。併しいずれこの先になりまして多額の国庫負担が必要になつて来る。極端に申しますると、保険給付金が約二千四百億、これに対しまして保険料負担が約五百八十億、その差額の一千八百億程度国庫負担になるわけであます。この方法の批評を申しますと、負担に関しましては最初のA案と同じように非常に合理的な負担である。財源不足は理論的に国が補償して国が責任を果すという点、それから第四番目は実施当初は積立金が相当できるけれども、たとえインフレが起りましても国の責任がはつきりしておりますので、そういう影響は第一案よりも少い。又フアンドを積むことが条件にならないので、給付の回転が容易にできるというような点が長所になります。短所といたしましては、将来国の負担が非常に大きくなる。つまり将来国庫負担実施が可能かどうかという見通しがなければ、なかなかこの案をとりにくいという点だろうと思います。  次に、この計画の二の表題にあります「現在及将来の加入者のすべてに適応する負担を課した場合」、この場合は先程保険料計算の第三の場合として申上げましたように、制度実施されるときに入つて来る新しい被保険者及びその後毎年新しく労働者になる被保険者、これらを含めて初めから同じ負担率を課してフアンドを積みながら運営して行く方法、この方法によりますと、事業主、被保険者負担は当初年度が六百八十六億、その他国庫負担が三割ありまして、保険給付費の十六億を控除して六百七十三億のフアンドができます。それから三十一年度になりますと、違いますのは積立金ができますので、その利息が計上され、給付が増額しますので、国家負担が若干殖えて行く、これによつて保険給付費は十六億から百五十八億に殖えて行く、差引き六百八十九億の金が残りまして、このときの積立金は三千四百二十億になります。こういうような経過をたどりまして、七十六年度にはフアンドとして二兆八千六百億の金が集まることになります。この案はいわゆる完全積立式という言葉で呼ばれておりまするが、最初計画と違います点は、保険料負担は数理的な保険料では一般男子について見ますと、月額四百四十四円、これは平均賃金八千円といたしまして五・六%になります。この案によりますると、五百二十八円の負担月額になります。平均賃金八千円に対する料率が六・六%になる、約一%の増加になつております。これは実施当初の財源不足額を将来の保険料として賦課されておるという結果になりまするので、このために一%の差額があるわけであります。それで、この案に対する批判といたしましては、長所はやはり先ずフアンドの点につきましては、フアンドを持つために被保険者に安定感を與えるということ、又保険料負担一定でありますので、事業主及び被保険者負担が安定して計画的である。それから国庫負担は、給付の二割を取る以外には、全然国庫負担を課していない。これらの点が長所と考えられまするが、短所はやはりフアンドを非常にたくさん持つという形になりますので、資金運用並びに保有上の欠陷があるわけであります。貨幣価値が下落した場合には非常に重大な影響を蒙りますので、これが大きな欠陷になつておる。それから第三番目に一応数理的保険料が理論的の保険料といたしますると、負担がそれだけ多くなつておる。これは実施当初の財源不足を将来の被保険者に負わせておるという点が、一応まあ理窟はありまするが、欠点として数え挙げられます。  それから計画三に移りますが、これは毎年の給付費用をその年度負担を以て賄う場合、これは健康保険と同じように毎年必要な給付費用保険料で賄つて行くという方法であります。昭和二十六年から三十年の五年間を平均して見ますと、保険給付は六十八億、一年間平均六十八億になりまして、その二割の十四億が国庫負担となりますので、保険料負担としては五十四億でいい。結局被保険料一人当り保険料負担年額四百三十四円、月額三十六円で済みます。次に三十一年度一年間を考えますと、給付の百五十八億に対して、二割の国庫負担の三十二億を控除した百二十六億が一年間の保険料として徴収すべき額になります。これを被保険者一人当りに換算しますと、年額九百九十八円、月額八十三円というふうな二人当りになります。併しこれが年を経過いたしまして昭和七十六年度の数を見ますと、保険給付の二千三百九十九億に対しまして、国庫負担は四百八十億で、保険料としては千九百十九億を取らなければならない。このために被保険者一人当り負担年額一万四千八百八十五円、月額千二百四十円というふうな高いものになります。これを数理的保険料の四百四十四億に比べますと、殆んど三倍に近いような高い数字になります。で、この制度の批判を申上げますと、長所といたしましては、実施の当初は負担が非常に軽いのですぐに入り易い、実施し易い、それから第二番に、積立金を持つことがないので、資金運用したり或いは保有するような煩しさがない、つまり積立金運用す方式の欠点の大半がなくなるわけでございます。勿論インフレーシヨンの影響もなく又給付の変更も容易にできるわけであります。併し一面短所といたしましては、この表にあります通りに、将来の負担が非常に多くなる、そのために制度をそのままの形で持つて行くことが困難ではないか、後に国庫負担或いはその他の給付財源を求めるような疑問が起つて来るという点でございます。従つて計画としては、この保険料を課するんだということを予め予定するということが、理論的に成立たないんじやないかというのが勿論大きな欠点になります。又保険料を、つまり七十六年度に千二百四十円の保険料を取りますが、これを今のような貨幣経済が続いて行けば、外に任意年金制度のようなもので、個人的に投資もできるわけであります。個人的に投資した場合とそれからこの制度によつて受ける給付と、どちらが得かと申しますと、勿論個人的の投資の方が利息が入りますので得になる、従つてその比較において非常な問題が起るんではないかという点、それから第三番目に保険料を払う人と保険給付を貰う人とが、時代的にずれている、つまり保険料を払うのが現在の労働者でありますが、保険給付を貰うのは、三十年、五十年先の労働者である、そういうふうなずれは、たとえ相互扶助の観念を以てしても解決できないんではないかという疑問がありますが、勿論負担に非常な差がありますので、不公平ではないかという点もございます。まあこれらの点がこの制度の批判となると思います。  それから計画の第四番目は、これは大体三と同じでございますが、ただ国庫負担を若干変えて行く、と申しますのは、保険料計算短期計算方法によりまするが、国庫負担は初め計画三と同じように、給付の二〇%を持つて行く、但し給付が漸次増額いたしますので、最終段階になる前に、保険料負担が終料段階において給付の三分の二、つまり仮りに二千四百億円を給付の最高といたしますると、千六百億円までは保険料負担とする、併しその後は国庫負担の二割を増して八百億円まで増加するという考え方であります。これはこの前のアメリカからの社会保障調査団の勧告案が大体こういう形になつております。これは当初は国庫財政が困難であるから、国庫負担を条件としないで、後になつて国庫負担を課したらいいだろうという考え方であります。年金制度につきましては、以上のような種々の方法が考えられまするが、いずれを採りましてもフアンドをたくさん持つようなものは、資金運用と又インフレの影響からいつて大きな疑問があります。又フアンドを持たない方法によりますると、先になつて負担が非常に多くなる、従つて国庫負担を初めから或る程度考慮に入れなければできない問題ではないかというふうな疑問がございます。それで計画を立てるのは、非常な困難に直面するわけでありまするが、今回事務局の方で立てました案といたしましては、最初に御説明いたしましたように、当初は保険料幾らか低く取つておる、そうして順次一定期間を置きましてこれを増加して、或る時期において一定の率にするという案を考えられたわけであります。併しこの場合も、相当多額の積立金は保有されることになります。この計画案の表に続きまして、収支見込という表がございますが、昭和二十六年におきましては二百五億、三十一年度におきましては一千百五十億、これが昭和七十六年度におきましては二兆一千六百五十億という金額になります。ただ計算上はこういうふうな結果になつておりまするが、この案の考え方といたしましては、先ず第一に、短期計算方法予定計画として立てることも困難がある、又完全積立式を予定計画として立てることも困難が予期される、従つてそのいずれも当初としてはとり難い。又第二の点といたしましては、保険料を、現行制度と比較して飛躍したような高額のものを取るのはどうか、現在の労働者負担能力からして、およそ現行で取つている程度にとどめたらどうだろうかという点を考慮いたしまして、当初はこの案のように、およそ男子については二%、船員、坑内夫は、ここでは四・八%になつておりまするが、これは現在事務局の案では三%程度にとどめたいという模様であります。まあこういうふうな現行制度と大体同程度保険料を以てスタートして行く。そうして一応計画としては、いわゆる短期計算よりも多くして、フアンドが殖えますので、積立金を以て行く方法をとる。そうして順次これを上げまして、或る年度におきまして一定料率にする建前をとるのが、最も、理論から言いましても、実際から言いましても、適当ではないかという考えでできたのがこの案でございます。勿論このように二兆なにがしのフアンドが積まれるということは、完全積立式と同じような形式を持つていることになりますが、これは現況のみを以て判断いたしますると、更にいろいろな疑問がありましようが、日本経済が将来どう安定するかということを見合つて、更に将来この問題は検討すればよろしいのではないかということも一応考えるわけであります。以上話が非常に錯綜しておりまするが、年金制度に対するこの案の考え方、或いは年金制度全般に対する財源或いは財政運用の幾つかのモデルというものについて御説明申し上げたわけであります。勿論年金制度財源は、保険料國庫負担フアンド利息、これ以外にはございませんので、而もその短期計算によりますると、フアンド利息がないために負担が非常に多くなる、国庫負担等の問題も起る、又長期計算におきましては、フアンドが大きくなるということに対する大きな欠陥があります。それでありながら、やはりそれ以外に財源の入る途がないという点で、将来も非常に大きないろいろな問題を残すと思いまするが、一応この程度の案でスタートして、将来の実情に合せながら尚この構造を研究して行くというのが、実際的であろうかと考えております。  以上で私の御説明を終ります。
  4. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) ちよつと速記を止めて。    〔速記中止〕
  5. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) 速記を始めて。
  6. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) 鈴木さんの今の最後社会保障に関する予算調の社会保険のところの収入に、恩給というのがあつて、ここにある五十七億三千八百円は、今年の年度の予算ですね。
  7. 鈴木正雄

    説明員鈴木正雄君) これは二十五年度の実際予算であります。
  8. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) そうすると、これを収入に入れてある以上は、これは一つの別個の計算で、今の恩給は現状のまま支払うという計算でございますか、打込みになりますか。
  9. 鈴木正雄

    説明員鈴木正雄君) 御説明が洩れたのですが、私が先程御説明申上げました案は、現行制度の現在金が行つておるものは一応別個に考えまして、新しくこの制度実施された後にどうなるかと、そのものだけについてどうなるかというような計画の御説明を申上げたわけであります。現行制度の現在貰つておる年金については、一応考慮されていないわけであります。つまり先程の財源或いは財政の御説明には、現行制度によつて受けておる年金受給者、或いはその持つておる積立金等は別個の問題として考えるということで、先程の数字はできております。
  10. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) 別個の問題としてできておるが、併し収入の分がそこに入つておるというのは……。
  11. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) つまり収入国庫納金の中に入つておるが、恩給の五十六億は入つておらないと、こういうことですか。
  12. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) いや、入つておると言うのです。
  13. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) 初年度給付の中には入つておりません。
  14. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) 八十六項のところに初めて挙つておる。
  15. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) 国家公務員共済、つまり恩給でありますが、三年たつた昭和二十九年度からこの社会保障制度の方に入るような計算になつております。
  16. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) 恩給の方は……。
  17. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) 恩給も一緒くたにしまして、昭和二十九年から出て来ることになります。
  18. 松原一彦

    ○委員外議員(松原一彦君) 分りました。
  19. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) それでは今の点なりその他の点について、松本君からお話を願いましよう。
  20. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) 只今紹介頂きました松本でありますが、鈴木さんから御説明がありましたので、あえて申上げるまでもございませんが、若干蛇足と思いますが、二、三述べさして頂きます。  実は社会保険計算基礎は、只今のお話でもお分りと思いますが、社会保険計算基礎でございます。皆さんの御手許の七十一項を開けて頂きたいのであります。ぺらぺらの方の給付計算基礎のところを御覧になつて頂きますと分りますが、問題は短期給付でございます。短期給付財政を左右するものは、一にかかつて療養給付、それのみと言つてもよろしいと思いますが、その他傷病手当金分娩費出産手当金葬祭料というものがありましても、それは正に九牛の一毛としかならないのであります。問題は療養費というものの計算基礎の立て方如何というものがこの制度を決めるのであります。この計算を御覧になりましたら分ると思いますが、この給付費算出基礎のところの(a)の被用者療養の場合に、受診率ゐ三・一三二、一件当り費用が八百八十四円になつております。これを掛けますと二千六百五十円ばかりの療養費が一年にかかるという計算になりのであります。ところが下の方に下りまして(b)の被用者家族保険者の(1)の家族療養費のところを見ますと、三・五五二の受診率で七百円を掛けますと、家族が一・七人でありますから、それを一一・七で割る、つまり七百円に三・五五二を掛けて、更に一・七で割りま千四百五十円ぐらいになる。もう一つの受診率が一・五で、一件当り費用が六百円でありますから九百円になります。この三つを比較いたしますと、一般療養費が二千六百五十円かかる人と、千四百五十円かかる人と、そうして九百円かかる人と、こういう非常に大きな違いがある、そういうことが今度の医療制度の設定とか、計画とかいうことで、又どう動くか分らないのであります。従いましてそういう点、一応これはこういう統計で見ればこのようになつたのだと、かようにお考え願いたいと思います。ではこういうものの点数とか、こういうものをどのように我々見たらいいかといいますと、これは新しい経済学的の知識を導入して申上げますと、つまり自由診療の場合におきましては、今までの保険制度のない場合には、お医者さんの生産者価格と申しますか、経営をやつて行くに足るところの費用を患者に押付けても十分であつた。併しながら現在のような被保険者、患者というものは療養費用というものは何らの願慮がなくて、保険制度でありますから、いわゆる新しい言葉で言いますと、療養給付の医療需要に対する弾力性係数というものは無限大になつて来ておるのであります。従いましてその無限大になつ費用を被保険者自体が負移することはできないのであります。併しそれに相当する生産者の費用としてお医者さんは請求しなければならん、つまり言い換えれば生産者は自由診療であるが、自由医療的な形でありながら、消費者である患者の方は独占的なといいますか、変つた統制的な保険制度で行つておるために、医療費というものに対する生産者価格と、消費者価格が完全に一致しない形になる。丁度米の生産者価格と消費者価格というのが一致しないために、別の形で生産者価格が米価バリテイというようなものが閣議で毎年秋決定されておる。そして生産者価格は、生産者の負担し得る能力の範囲内で米の価格ができておる。それと同じような概念で療養費は、標準標養費という言葉が使われておりますが、標準療養費というものは、生産者価格と消費者価格と別個の立場からこれを見て、その差額国庫負担するという方法を持つて行かない限りは、自由診療のお医者さんの制度を残して置きながら、社会保険をやつて行こうとしたら、どうしてもこれは財政が行き詰る、それは英国の社会保障制度が正にその通りであります。英国の社会医療問題、ヘルカ・サービス・アクト、保健事業法というものは八七%が国庫の補助で行つて従つて保険者が毎週五ペンスずつそのために保険料を払つておるのは、これはいわゆる消費者価格として、負担能力の限度しか払つていない、そんなもので保険財政を賄つた日にはお医者さんはたまつたものじやありませんから、お医者さんは生算が立つて行くだけの費用を貰わなければならない。それは保健事業法の療養費の全体の八七%を国庫が補助しているということで行われているのであります。そのような概念で只今申上げました一人当り費用なども見て行かないと、健康保険の危機と同じようなふうに、国民全体の医療問題が、発展した問題が起るだろうということが、我々アクチユアリーの場合から一つの大きな心配になつている点であります。  次に、年金の問題を簡單に申上げます。長期給付計算基礎というところがございますが、これはぺらぺらの紙の年金の部と書いたところがあると思いますが、本で申しますと、七十六項でございます。年金計算の場合に根本となります計算基礎がおおむね四通りあるのであります。それは計算基礎予定利率と書いてありますところが一つと、その次に生命表と書いてあるのが一つ、その外に被用者男子の場合に、死亡率、癈疾率、脱退率、業務上の死亡率、業務上の癈疾手当金率と、いろいろ細かく書いてございます。給付事由発生率とおおむねこれを称するのであります。それと給料指数と、この四つであります。これらの計算基礎をきめまして、昭和七十年とか七十六年とか、将来のことをきめて、その計算基礎通りぴたつて現実が一致するということは、到底夢想もすることができない。従いまして実際に計算基礎というものは現実に一致しないものであるということを先ず御認識願いたいのであります。そうすると非常にでたらめであるのじやないか、こうおつしやいます。併いながら三十年、四十年先の計算基礎をぴたつて当てるというのは、神か予言者の仕事である、決して統計学者の良心のある者の行えるところじやありません。従いまして現在我々の信ずるところのこの程度計算基礎を、我々の知識できめられるというところで始めたものが、この計算基礎であります。従いまして社会保険の現在の通念から申しますと、この計算基礎が、五年間ほぼ狂いなく行ければ、非常にアクチユアリーの感覚はよかつたというように言われるくらいであります。そうすると非常にでたらめとおつしやるかも知れませんが、その点は誤解のないように御解理願いたい。実はアクチユアリーの言葉で言いますと、経営不析ということを、毎年計算基礎予定通り行つたかどうかということを絶えずチエツクして行きます。五年ぐらいたちますと、大体その計算基礎がよかつかた悪かつたかということがあると、そこで又計算を建直して、従いまして保険給付保険金というものが一文も残らないで、計算基礎が変つて保険が上つたり下つたりすることがあり得る、そういうことであります。それから生命保険におきましてはそれと違いまして、生命保険は三十年満期、四十年満期、終身保険というものの計算基礎を時々変えた日には、保険料が毎年変るというので、非常に不安定であります。併しこれは任意加入で契約者が自由にそれを納得の上で入つたのであるから、非常に安全を見込んだ計算基礎できめて結構であります。従つて三十年、四十年の計算基礎をきめますから、生命保険計算基礎は非常に安全になつて来る、従つてその安全を現実の差というものから利益が出て来る。その利益が利益配当となつたり、株主、今生命保険会社には株主配当はございませんが、火災保険にはございます。そういうものがつまり株主に配当になつても納得の上でやつている。こういう点を末高先生が一昨日の読売新聞に、社会保障制度試案の焦点という読売新聞の日曜評論の中におきまして、今度のこの制度が生命保険技術によつておるということを、まあ非難されたのです。従いまして社会保険計算基礎というのは、利益が起らないでも現実的なものをとろう。強制加入、例えば予定利率の問題でありますと、予定利率というものは四分なら四分としましたら、先ず我々の考えでは五年間それが四分に廻らなくてもいい。二年間四分以下で、三年間四分以上であつてもいい。五年間ならして大体四分になれば十分予定利率が成り立つ、そうして五年たつたときに、五年が七年の場合もありましよう、そういう場合に予定利率が安定過ぎたと思つたら、もつと上げてもいいわけです。そこでこの財源の中で最も大きなフアクターを占めるのは、予定利率が本質的なものであります。それを四分にするとか、六分にするとかということは、非常に大きな問題なのです。それで財政計画の、只今鈴木数理課長お話なつたところの計画1というところ一つ御覧願いたいのです。計画1の(2)の収支見込のAの欄を例えば見て頂きましよう。そこで昭和七十六年度の欄を一応見て頂きますと、昭和七十六年度におきまして、収入という合計が二千三百八億という勘定になつております。そのうちで積立金よりの利息が千百四十億という、収入の半分が利息という計算になつております。ところがこれが予定利率が四分計算でありますが、六分の計算といたしますと、積立金よりの利益が五割増しの勘定です。これを一応計算して見ますと千七百二十二億という勘定になるわけなのであります。そうすると、その他の事業主及被保険者負担五百八十三億、給付の二割の国庫負担不足財源に対する国庫負担、四百八十億と九十七億を足しましたところの千二百五十一億というものは、六百七十七億というように減つてしまう。それら予定利率が、若し仮に八分であつた……現在金融債とか地方債は八分以上であります。八分であつたといたしますと、積立金よりの利息は倍にすることができます。そうしますと、保険料保険給付というような負担は三億か四億で済む勘定になります。尤も予定利率が変りますと、年度末の積立金の二兆八千六百十一億というものは多少の変動はございますが、余り変動はないのです。これから見ても分かりますように、予定利率が一分なり二分違つても非常に保険料影響するものだということになります。そこで現在の厚生年金の例をとつて頂きたいのですが、厚生年金予定利率が三分五厘であるために、預金部にこれを四分に預けておる。これは地方債に投資しても八分位になります。そこで預金部で四分の利鞘が稼がれておるということになります。今度の計算におきましても積立金が、一番少い計算をやりましても二百五億ぐらい出る、勘定になつている。ましてや計画1の場合におきましては、初年度に六百五十億ができる、こういうもので、少くとも日本の金利水準が如何に低くなりましても、国際水準に鞘寄せするなんてことは到底考えられないといたしますと、四分で積立金計算したら莫大な利鞘を作つてしまうのであります。労働者からの強制的に取上げたもので利鞘を作るということは、社会政策自体の本質に悖るのではないかということが一つ考えられておる点であります。  それからもう一つ次の話といたしまして、積立金について一言私の考えを申上げたいと思います。積立金を積むということは、非常に多くの、二兆八千億の積立金を積むということは運用に困るだろうとおつしやられ、併しこれだけになるのが現在の勘定でも五十年ばかり掛つてしまうという、一年間に五百億ぐらいしか増加積立金がない。一年間の五百億といいますと、現在の見返資金でも一千億以上のあれでありますから、五百億ぐらいの投資ということはそう困難を感じない、それを非常に困難だというのは、いわゆる私営の銀行の金融というのは、半年ごとに、これを貸付けてはすぐ回収するというような、非常に短期融資をやつている。短期融資に二茂八千億もやるということは、これは非常に困難かも知れない。併しながら社会保険積立金というのは、この計算機構から分りますように、利息さえ生んでくれれば結構です。従つて長期金融で結構です。資本の蓄積を行うために……。長期金融をやるために毎年五百億ぐらいやるということは、これは極めて容易な問題で、決して積立金によつて恐れることはないということは言える。それからインフレの場合に積立金が困るだろうということがございますが、これが国家の場合におきまして、実は大内先生が国債棒引論をおつしやいましたけれども、インフレご高進したために、国債の負担ということは国家財政に何ら重圧にならなかつたという例がある。而もそのために恩給受給者にしろ、国家公務員共済組合にしろ、六千三百円ベースに全部引上げる財源つて楽々と出たという現実でございます。要するに社会保障制度というのは、所得の再分配であるということによりまして、インフレに対したつてそう心配は要らないということであります。では、それは国家の場合だが、私営保険の場合はどうかというと、国家公務員共済組合というのがありますが、これは或る意味では一つの企業でやつているようなものでありますが、この国家公務員共済組合積立金を、以前預金部に預けておりましたが、終戦と共に全部預金部から引出しまして、それでいろいろな事業をたくさん起しまして、そうしてそれの長期金融ですから、二十年年賦とか、三十年年賦でこれを融資することができる。市場金利というものは、当時終戦後ですから一割以上でございましたけれども、予定利率が四分程度でございますから、四分か六分の低金利でできる。そこで健康な資本の蓄積ができるというので、つまり何と申しますか、雇用の増大というようなことができるのであります。ちよつと速記を止めて頂きます。
  21. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) 速記を止めて。    〔速記中止〕
  22. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) 速記を始めて。
  23. 松本浩一

    ○参考人(松本浩一君) そういう点で積立関の問題を必ずしも非難することはできない。  もう一つ最後に、年金制度というものは、生命保険でありますと、任意加入でありますが、社会保険は強制加入でございますから、既往の在職年数、保権料を払わなければならない既往の在職年数を遡及計算するということは大原則なんでございます。ところが現在のこの計算におきましては、これは要綱がそうなつておりましたから、我我はそのようにしたのでございますけれども、今度強制加入される五人未満の従業者を持つておるところの事業所で、新たに加入される四、五百万の被保険者は、十五年たたないと年金が付かない。つまり年齢四十五歳前後の人は、果した十五年勤められるかどうかというのは極めて疑問であります。そういう人までも強制加入させて保険料を取るということは、社会保険の大原則に反してしまう。その例といたしましては国家公務員共済組合の第九十二条に、昨年の十月だつたと思いますが、国家公務員で二十年以上の雇員でございます、雇員で二十年以上たつたものは、一文の掛金を払つておらなくても、とたんに、二十年以上国家公務員であつた年金制度が付くということが、はつきり条文に謳つてあります。それは国家公務員法に謳つておる。去年の秋、アメリカの労働争議で始まつたいわゆる第四次労働運動、社会保障闘争というものは、月百ドルの年金をくれというのではない、既往在職年数を遡及通算するということだけにアクセントがかかつておる。国有鉄道の共済組合が、大正九年に年金制度をとたんに布きましたときでも、明治四十年に国有鉄道法ができてからの保険料を払わなかつたけれども、とたんに十三年遡及通算したというように、過去の既往の年数を遡及通算するというのは、これは大原則なんであります。それがこの程度の要綱の中に極めて不明確に出ているという点を、私達にはまあ多少もの足りなく感じたのであります。大体私の要点は……
  24. 山下義信

    ○委員長(山下義信君) 何か御質疑ございませんですか。  別に御質疑もございませんければ、本日はこれを以て散会いたします。    午後零時十一分散会  出席者は左の通り。    委員長     山下 義信君            石原幹市郎君            井上なつゑ君   委員外議員            松原 一彦君   説明員    厚生事務官    (保険局数理課    長)      鈴木 正雄君   参考人    健康保険組合連    合会調査部長  松本 浩一君