○
公述人(吉田秀夫君) 全日本産業別労働組合幹事の吉田秀夫であります。産業別組合会議というものは單に労働組合を代表するのみならず、実は加配米とか作業衣、そういつた労働用物資の問題で殆んどあらゆる地方の労働
団体が集
つて構成し、又地方の労働者代表もこれに参加しております。労務用物資の全国会議を代表しまして、全国の労働者としまして
住宅問題につきましては素人じやないですが、そういう点からと、もう
一つは私現在内閣の社会保障制度
審議会、社会保障
審議会の
委員も兼ねておりますので、そういう面からもこの問題について
意見を申上げたいと思うのであります。
大体この
住宅金融公庫法案が
勤労者や或は引揚者、戰災者等の非常に
住宅に困
つている者を
対象にするという点につきましては、一応社会政策的な意義はあるのでありますが、ただ具体的な
内容につきましては、殆んど
自己資金を持たない我々労働者階級にとりましては、殆んど無縁の長物である、或は絵に描いた餅に過ぎないと、そういつた印象をはつきり我々は持
つております。その点で反対せざるを得ないのであります。例えば二月下旬から三月の初めにかけまして、関西方面におきましては労働者側も或は資本家側もこの
法案につきましては非常な期待を持ちまして、大挙上京したり国会その他
関係方面にいろいろと陳情したのでありますが、その当時は圧倒的にこの
法案については上京なさつた方或は関西方面の方逹は期待を持
つていたわけであります。併し在京中に或はその後のいろいろな
審議の経過におきまして、この
法案自体が大して本当に困
つている或は低賃金で苦しんでおります労働者階級にとりまして役に立たないというようなことが、その後の関西のこの問題についてのいろいろな会議の模樣を我々は
東京で受取
つておりまして、現在におきましては非常に失望しているというのが事実であります。その点前置としまして、現在の労働階級の生活状態はどうか、或は
住宅問題にどういうふうないろいろな具体的な調査があるかというような点を
簡單に申上げたいと思います。
先ず第一に労働者の
住宅の欠乏、非常に著しい欠乏自体が生産を阻害しているという事実であります。この点につきましては、関西の産業復興会議によりまして昨年の六月いろいろな調査がなされました。大体こういう調査自体は、終戰後最も要求する問題としまして、
自分逹の
住宅が欲しいという要求があつたことは確かであります。それで大体
住宅の
資金になる
対象としまして、実は労働者にとりましては厚生年金という年金制度があるわけであります。この厚生年金は現在二百億近い積立保險が労資双方の
負担によりまして積立てられ、これが厚生省の保險局から大蔵省の預金部にあるわけであります。この金が司令部のメモランダムによりまして全然凍結に
なりまして、法律的にはその中の一部を労働者の
住宅や、或いは厚生施設に
融資してもいいというようにな
つているに拘わらず、今以て一銭もこの
融資がないわけであります。そういつたことにつきましては、今までたびたび労働者側からも或いは資本家側からも要望があり、司令部等にも働きかけがあ
つたのでありますが、併し具体的にそれにつきましてはデータを出せというようなことで、関西産業復興会議の労使双方ともこの調査にかかつたわけであります。この調査の
内容を申上げますと、例えばこの調査の
対象に
なりました関西の栗本鉄工所本社工場、或いは日本橋梁、アルマイト工場の神崎川工場、東洋ゴムの大阪工場、この四社の労働者約千八百七十八人について調べたのでありますが、これは
住宅と
会社の
関係、特に通勤の所要時間別の
関係でありますこの
関係からいきますと、大体三十分以内に通勤できるというのが四五・八%にな
つております、一時間以内というのが三一・四%、一時間半以内というのが一四・九%、二時間以内というのが六・三%、二時間半以内が一%、二時間半以上もかかるというのが〇・五%あるわけであります。そのために普通の成人の男の労働者の平均の欠勤日数が、三〇分以内の場合には三・一二%、一時間以内の場合には四・二八%、一時間半の場合三・〇八%、二時間以内の場合には四%、二時間半以内の場合には一・五%、更に二時間半以上もかかるという労働者は三・三三%も平均欠勤が多いわけであります。更に遅刻の場合を申上げますと、こういう統計がずつとありますが、やはり一番多いのは二時間半以内、或いは二時間半以上もかかるというのが圧倒的に遅刻が多いのでありまして、
最後にそういう交通事情のために非常に疲労するというような統計に
なりますと、二時間半以上もかかる労働者は一〇〇%、非常に疲労するというようなことでその次は順次時間がかかるその
範囲内で八三%、或いに六割、或いは五十何%、三九%ということにな
つておりますが、こういつた事実そのものが、やはり非常に生産を阻害し、或いは労働者の肉体を消耗し、結局生産も或いは生活も破壊していくというような事実だろうと思うのであります。更に
住宅難自体が労働者の殊に結核患者を増大せしめておりますが、これは最近の日通、といいましても通運
会社でありますが、この関東日通の労働者の実質的な統計によりましても、例えば新橋にあります汐留というような管内の労働者は、疊一疊か或いは二疊に一人というような割合で、非常に密集した地域に住んでおります家族は、圧倒的に結核の罹患率が高いのであります。併し靜岡或いはその他の僻地でありまして十疊に一人、二十疊に一人というような、これは何か戰時中のいろいろな施設を利用しているというような形にな
つておると思うのでありますが、こういつた割合に楽な余裕のある
住宅におきましては殆んど結核の罹患率が少い、或いは殆んど皆無に近いというような統計も出しております。更に昨年の十月の労働組合の調査協議会の生活実態調査によりますと、
住宅の不足で非常に狭苦しくて休息もできないというのが六割六分に上ります。それから追い立てられて困
つているというのが一二%、別居しているというのが七・七%、共同生活が非常に不便だというのが五%、疊上げもできないで非常に不衛生だというのが五%以下その他にな
つております。
で具体的にそれでは労働者はどれくらいの
住宅を欲しが
つているかという統計が、やはり関西産業復興会議の昨年の四月の調査でありますが、例えば工員につきましては十二万五百七十二人のうち
住宅が絶対に欲しいというのは、一万三千八百三十五人約一割一分五厘であります。職員につきましては二万二百十四人のうち欲しいというのが三千五百九十三人、これが一割七分にな
つております。結局十四万近い工員と職員の、労働者側の殆んど一割二分以上がどうしても
住宅がないでは困るというような統計にな
つております。これが大阪府下の八十万の労働者と仮定しますと、その中の約九万二千余戸が直接間接に
住宅がなければ困るという
対象になるわけであります。又大阪府下の
重要産業中、比較的大規模な工場の
住宅需要の戸数は約一万戸に上るといわれております。この点で大阪側の労使双方の要望としましては、今回この
住宅金融公庫法案の実施によりましては、重点地区を選んで欲しいというような要望すらあるわけであります。これが一昨年でも大体
資金難で
余り建設がなされておりませんし、昨年はより以上
資金難で殆んど絶望状態であつたというようなことにな
つております。
更に労働者の
家賃その他の
負担の状態でありますが、これは
東京の亀有の日本紙業という割合に古い
会社でありますが、ここの昨年の五月の統計によりますと、最低五十円以下の
家賃から最高四百円までの
家賃の分布状態が一応出ておりますが、これは時間がありませんから割愛しまして、大体一戸あたりの平均
家賃は百九十四円四十七銭にな
つております。更にこれはCPSの統計によります二十三年の十一月の
東京都の
家賃の階級別の統計でありますが、二十円未満が四%、二十円から五十円が一九%、五十円から百円が二五%、百円から二百円が二四%、二百円から三百円が一一%、三百円から五百円が七%、五百円から千円というのが四%、千円以上というのが僅かに一%であります。更に非常に古い既存の
貸家と新らしい戰後の
貸家の統制の
家賃の比較は、
ちよつと古いのでありますがそれを申上げますと、昭和十四年に建てました
家賃が、このCPSの
東京都の統計によりますと二百一円七十銭であります。二十四年に建てました
家賃によりますと二千四百七十九円六十七銭ということにな
つております。これが生計費のうちに占める住居費の割合は
戰前は僅かに一六%二で、そのうち
家賃の占める割合が一三%一であ
つたのであります。これが全然新築というようなことを度外視しましてそのままで現在の労働者低賃金と兼ね合いますと、二十四年五月のCPSの発表では
戰前の一六%二というのが七・四%に圧縮されております。このうち
家賃の占める割合が二・四%であります、ところが十坪の新築の
木造住宅に
なりますと約二千五百円
程度の
家賃を拂い、それが現在の労働者の賃金からいいますと生計費の二割以上になるというようなことにな
つております。
それでは現在の労働者の賃金状態はどうかというようなことに
なりますと、二十四年度の、これは
政府が発表しております毎月の勤労統計によりますと、常雇いの労働者特に産業別に見ますと工業でありますが、この労働者の平均賃金は毎月決
つて貰える現金の給與が九千四百三十四円である。その他残業やその他で臨時にその月限りに入るものが二百九十六円で合計九千七百三十円にな
つております。これは一応の
政府の統計でありますが、現在におきましては更に金詰りや或いは
中小企業の崩壊によりまして、平均以下の労働者の数が恐らく六割、七割を占めるというような状態であります。殊に最近は失業した連中が職業安定所に参りましても二千円や三千円で一応大の男が働く、そういうような形で就職の斡旋をされる、そうして五人十人の非常に小さな工場におきましても四千円で働いている熟練工を首にして、二千円、三千円で新らしい労働者を雇うというような形にな
つて非常に賃金が切下げにな
つております。更に厚生省の二十四年度昨年十一月の統計によりますと、約十四万余の
政府管掌の健康保險の
事業所でありますが、三百人以下の
事業所でありますが、ここに約三百三十二万人
余りの労働者うち男が二百四十四万人、女が八十七万という数に
なりますが、その標準報酬月額が六千三百七十五円にな
つております。男が七千三百三十五円、女が三千七百五円ということにな
つております。これは大体健康保險が赤字で、大蔵省も実際の賃金に合わして税金と同じように強行に引上げるというようなやり方をやりました結果がこの形なんでありまして、恐らくこれは三百人以下の
中小企業の標準月額の一応の水準じやないかと思うのであります。これに対しまして三百人以上千人、二千人、或いは五千人というような大
企業の所に
なりますと、これは七百六十五の統計でありますが、二百八十四万人の労働者のうち二百二十一万人の男、六十三万人の女子労務者というような形で、平均の手取りが八千九百五十円にな
つております。男は一万円と百十八円でありますが、女は四千八百六十六円というような賃金状態にな
つております。
こういつた状態から見まして、それではこの
住宅金融公庫法案が実施される場合、こういつた賃金或いはこういつた
住宅に悩んで、或いは結核に侵され、その他非常に苦労をしている労働階級にどういう利点があるかといいますと、何と申しましても今までの
公述人の方の御
意見にもありましたように、五万円乃至七万円の
自己資金がなければ到底
住宅が建たないという形におきましては、我々労働者側からいたしましても
金融公庫法案自体、この法律自体が高嶺の花であり、全然労働者階級には縁がないとい
つてもよいと思うのであります。
次に具体的にこの
法案の
内容につきましての
意見を申上げたいと思います。第一番目の
融資の
対象でありますが、この問題につきましては、單に労働組合ばかりでなしに
関係のあるいろいろな民主
団体の意向も聽いて、その上で共同して今まで陳情
なり請願という形もあつたわけでありますが、そういうことも含めて一応
意見を申上げたいと思うのであります。第一番目に、大体大
企業の
会社につきましては職域の生活協同組合があるのでありますが、こういつた生活協同組合を
融資の
対象にして貰いたいというような
意見。それから
住宅組合につきましては今までいろいろな功罪があり、批判があり、失敗があ
つたのでありますが、それを更にもう一遍戰後の新しい状態に合わせて考え直して、もつとこの
住宅組合を活用するような途を講じて貰いたいというような点が第二点。更にこれは関西の労使双方の要望であり、又私のところに日本発送電
会社の労使双方の意向としまして、要望が来ておりますが、
会社側が給與
住宅として出すというそういつた
対象につきましても、是非今回の
住宅金融公庫法の
対象にして貰いたいという
意見があるわけであります。この点は例えば
会社側が責任を持ちまして、その
資金の斡旋
なり、
家賃の設定
なり、或いは若し退職する、それを抜けた場合には一応労使双方によりまして割合に円満に行くというような
意見があるわけであります。こういう点が
融資の
対象につきましての一応の要望であります。
更に
住宅の規格の問題でありますが、これは我々が労働組合側として打合せたときにも大分問題があ
つたのでありますが、例えば百五十億の約三割が
コンクリート建の集団
住宅であるというようなことを全然やめて頂きまして、これを全部最小限度の耐火設備を持つた
住宅に切替えれば、恐らく一倍半から二倍ぐらいの、十五割から二十割ぐらいの戸数が建つのじやないか、そういうように小規模の
住宅に
融資を受けられるように最小の建坪に引下げて貰いたいというのが要望であります。こういうように
なりますとやはり
家賃も恐らく下がるだろうと思いますし、それに均霑する
人逹の数も非常に多くなるという点が理由であります。
それから
融資率につきましても、これは今までの御
意見にもありましたように七割五分というようなことでなく、全額を
融資するようにして頂きたいというわけであります。この理由につきましてはとやかく申上げる必要はないと思うのであります。
更に
融資の
方法でありますが、これは非常に重要な要望としましては、民主的にこの
融資をするための
融資住宅管理
委員会というようなそういつたもの、これは協議会、管理
委員会、名称はどのような形でもいいと思うのでありますが、少くともこの
融資を受ける
対象によ
つて構成される、殊に労働者側、引揚者側、或いはその他の
民間人の参加を前提にする、そういつた民主的な
融資のための
住宅協議会、或いは
住宅管理
委員会、そういつたものを設けて、具体的な
仕事をする場合に適正、公平を期して頂きたいというわけであります。更に業務の委託、特に
金融機関にこの
窓口を委託するという点でありますが、これは先程も話が出ましたようにやはり
窓口業務は全部地方庁に任して、地方庁が具体的にやるというような形が望ましいというわけであります。結局最終
決定は、いろいろな
決定をする場合には、前述の管理
委員会なり協議会がやるという
建前にしまして、具体的な
窓口業務は地方庁にお願いしたい。この理由は、
銀行等の
金融機関になると勢い
担保力や
收入等を重視することに
なりまして、一番困
つている労働者や引揚者その他の
住宅希望者が除外される危險が多分にある、單なる金貸の
機関にな
つてしまうというのが理由であります。
それから
貸付の利率の問題でありますが、これが法律によりますと五分五厘にな
つております。これが先程
ちよつと触れました厚生年金の二百億近い積立金のうち約一割を労働者の
住宅その他の施設に廻そうという動きが三月からずつとありまして、これが大蔵省、厚生省、預金部の
審議会を
通りまして司令部に折衝中でありますが、大体この厚生年金というのは労働省、資本家によりまして積立てられました金の
融資ですら、大体大蔵省が、五分の
利子で
金融機関にこの金を
貸し、
金融機関も
従つてそれに二分五厘を加えて、二分五厘の手数料で
融資をするという形にな
つておりますが、この点から見ましてもこの五分五厘というのは非常に高率でありできれば三分以下に下げて貰いたい。殊に先程
お話のように、二分五厘ということに
なりますと非常にこの点では借りる方の有利になると思います。その点の問題につきましては、例えばやはり
土地の問題でありますが、
土地の問題につきましては、現在
相当神社仏閣等の
土地で安く拂下げにな
つております
対象が可
なりあると思います。それから公有地や官有地でも
相当対象にな
つていると思いますので、こういう
土地につきましては優先的に何かの特別な制度を設けられて、
土地の取得につきましても特別な法的な措置を講じて頂きたいと、そう思うわけであります。
以上のような我々の要望事項がやはり具体的にこの法律の
内容に盛られませんと、結局は
相当の金を持つた労働者でなければ実際には借りられないし、又借りたところで現在六千円や一万円にならないような低賃金の労働者にとりましては、月々二千円もの
家賃その他のいろいろな
負担金はとても拂えないというのが現状でございます。以上でございます。