○衆議院議員(田中角榮君)
建築士法案の
提案理由の
説明をさせて頂きます。
過般来より衆議院
建設委員会で各党議員提案といたしまして、
法案の立案に当
つておりました
建築士法案も、各党議員の御協力を得まして、去る四日衆議院に提出、去る五日衆議院
建設委員会に付託になりまして、
建設委員会の審議を煩わし、衆議院を通過いたし当参議院
建設委員会の御審議を煩わすことに
なつたのであります。
建築士法案の提案の理由及び要旨を総括的に先ず御
説明いたします。
建築物の災害等に対する安全性を確保し、質の向上を図ることは、
個人の生命財産の保護と社会公共の福祉の増進に、重大な
関係を有するものであります。そのためには、専門の知識、技能を有する技術者がその設計及び工事監理を行うことが必要であります。
建築士法は、この
趣旨に則り、建築物の設計及び工事監理を掌る技術者の資格を定めて、試験制度により、建築士の免許登録をすることにより一定の技術水準を確保すると共に、その
業務に対する責任制度を確立しようとするものであります。
過去数十年来、建築士法制定の必要性は、識者の唱導して来た所でありまして、欧米においても、夙に建築士制度を法制化し、建築の設計及び工事監理に知識技能豊かな専門技術者を当てて、建築設計技術の向上と設計者の責任制度の確立に努めておる
状況であります。
今回
政府においては市街地建築物法を全面的に改正すると同時に、臨時建築制限規則を廃止して、建築手続等も極力簡易化せんと企図しております。丁度この時建築士制度の法制化を実現しますことは、両々相俟
つて、今までの監督行政を脱し、民主的な建築行政を確立する所以と
考える次題であります。
次に本
法案の内容に関し特長とする点を二、三御
説明いたします。
第一に、試験による免許登録制度によ
つて、建築の設計及び工事監理の專門的技術の一定水準の保持とその向上に資することができます。
第二に、建築に際して建築
関係法規の確実な適用が期待されると共に、建築士の創意工夫により合理的且つ経済的に建築物の安全性の確保等の経済価値の増進を図ることができます。
第三に、建築の設計は建築士に、工事の実施は
建設業者にとおのおの責任の所在を明確にすることにより、相互に不正過失の防止を図ることができます。
第四に、建築士制度の確立により建築主は設計、建築手続、工事監理についての煩鎖な事務を、建築士を信頼して委せることができるようになります。
最後に経過的措置について若干
説明を附け加えます。かかる制度が新たに設けられますと、現在までこの方面の職に従事していた人々が或は試験に落ちて職を奪われはしないかという心配が起ります。本法においては、我が国の現状に鑑み、建築士を一級及び二級に分けておのおのその適当な職分を受持つことができるように配慮しておりますから、この心配は少いのでありますが、更に附則において、現在の有
資格者に対しては暫定的に試験を用いず、選考によ
つて免許を与える道を開いております。又この場合の学歴や実務経験の基準を十分に
実情を考慮して一方余りに緩に失して法の
目的を阻害せしめないと共に、他方余りに嚴に過ぎて、現在の営業者を困らせることのないように十分に留意したつもりであります。
以上で本
法案の大要を御
説明申上げました。何とぞ十分に御審議の程をお願いいたします。
次に本
法案の各條につきまして簡単な御
説明を申述べたいと思うのであります。第一章は総則であります。第
一條は法の
目的を明らかにしたものです。第二條は法文中に出て来る用語の定義であります。建築士という名称はアーキテクトの訳語として、現在すでに我が国でも通俗的に使用されております。これが本法により法律用語となると、これに類似の用語の使用は禁止せられます。
建築士を二階級に分け、
程度の高いむずかしい構造物を設計する人を一級建築士、その次の
程度のものを設計する人を二級建築士といたしたのであります。二階級に分ける方が現状に即すると
考えられたからであります。
名称の先例としては、教育職員免許法に一級普通免許状及び二級普通免許状という言葉が使われております。当初は建築士及び建築工務士という案もありましたが、工務士の名称は外国のエンジニヤの訳語と間違えられることを恐れて避けました。又建築士及び建築士補の案も出ましたが、必ずしも輔佐的な仕事に限らないという理由で止めました。この外建築士及び建築工士の案も
考えられましたが、原案の方が
一般に分りやすいであろうという理由で採用されました。
工事監理という言葉は、普通に工事の監督という場合よりやや
狹い意味に定義されております。法律で縛るのはこの範囲として、
建設業者との限界を明確にするよう留意したものであります。尚第二十
一條の
業務の條で明らかな
通り、建築士が工事の監督をすることは
差支ないのであ
つて、ただ法律的な責任としては、設計及び工事監理の範囲に限られるわけであります。
第三條は、建築士に権限を与え、これを保護する
趣旨の條文でございます。これは元来別の法律といたしまして近く
政府から提案されるであろう建築基準法に規定するので適当でありますが、一応本法に簡明に規定いたして、詳細は同法に譲る予定でございます。尚建築基準法の成立が遅れるような場合には単行法として出すことも
考えられておるのであります。学校、病院、劇場、百貨店等特殊用途の建物で九十坪以上のもの、鉄筋コンクリート等木造以外の建物で二階以上又は六十坪以上のものは、一級建築士でなければ設計又は工事監理ができなくなります。又特殊用途の建物で三十坪以上、木造以外の建物及び木造でも三階以上又は九十坪以上のものは一級建築士又は二級建築士でなければ設計又は工事監理ができなくなるのであります。その外の建物、即ち特殊用途の建物の三十坪未満のも又は二階までの木造で九十坪未満の建物はこの規定ができてからも誰でも設計又は工事監理ができるわけでございます。
従つて一般の木造
住宅の建築等に対しましては大きな影響を与えないのであります。この緩嚴の
度合につきましては論議の余地が尚あることと思いますが、我が国の現状から一歩前進した形といたしまして上述の
通りの規定を構想いたしておる次第であります。
第二章は免許の章であります。本章は建築士の免許、登録制度に関する規定でございます。第四條は、一級建築士の免許を国が行い、二級建築士の免許を
都道府県が行うといたしたのは、二級建築士の仕事が大体その
都道府県内で行われると予想せられますので、
実情に即した免許を行い得る便宜があると
考えたからであります。先例といたしましては、保健婦、助産婦、看護婦法による甲種看護婦は国で、乙種看護婦は地方で免許することにな
つております。
第八條は建築に関する犯罪者は勿論不適格でありますし、その他のことに関しても禁錮以上の刑に処せられた者は不適格といたしました。ただ後からこの條文に対しましては御
質問、疑義等があると思うのでありますが、禁錮以上の刑に処せられた者、及び建築に関し、罰金以上の刑に処せられた者は全然不適格であるかというと、そういうものではなく、聴問その他によりまして尽くすべき手段を尽して、尚取締のできないというような者を審議会の議決によ
つて不適格者として決定するつもりでおります。
第十條は、建築士に不誠実な行為があ
つたときは、その軽重により、懲戒として、戒告、一年以内の
業務の停止、或いは免許の取消等が行われることを規定いたしております。
業務の停止及び免許の取消は建築士に取
つて死活に関する重大問題でございまするから、特に聴問を行い、且つ審議会の同意を得るという民主的な手続を踏むこととし、当事者の独断を排し、慎重を期したのでございます。
第三章は即ち試験の項でございます。本章は資格試験の
方法、受験資格等に関する規定であります。
第十二條は、試験の課目といたしましては、建築設計及び製図、建築構造、建築施工、建築材料、建築衛生、電気並びに給排水等の建築設備、建築
関係法規等に関する基本的な事項が予想せられております。一級建築士に対してはこの外構造力学、煖冷房設備、建築史、都市計画等に関する常識的な事項が加わることも予想せられます。
第十三條は、試験は少くとも一年に一回は行うこととして、免許の
機会を長い間塞ぐことのないようにした規定でございます。
第十四條及び第十五條は、受験資格を定めたもので、その年限を図示いたしますれば、別紙の参考図の
通りになるのでありますが、この別紙はお手許まで配付申上げたいと思います。学校の課程といたしまして、建築、又は土木といたしましたのは、両学科共建築物の安全性に
関係する構造力学を十分に修得しておると見られるからであります。
一般に建築と土木の学歴に特に差別をつけなか
つたのは、建築、衛生、設備又は意匠方面の知識は建築に関する実務経験中に修得されるものと予想せられるからであります。
従つて、第十五條第一号のごとく、学校卒業が直ちに資格を生ずるような場合に限り、土木工学科の卒業生に対しては、更に建築に関する実務経験一年を必要といたした次第であります。機械、電気、衛生等の課程を修めた者も同様に
取扱つたらどうかという要望もあるのでありますが、これらは構造力学に関しては不安な点がありますので採用いたしませんでした。
一級建築士の受験資格として、実務経験のみのものを認めなか
つたのは、鉄筋コンクリート等の構造物を設計するには、構造力学に関する基礎知識を必要とすると
考えたからであります。学歴の全然ない者に対しましては、二級建築士の経験四年を必須要件とし、その間にこの方面の知識を補えるものと予想いたしたのであります。
第十四條第四第号及び第十五條第三号に「前各号と同等以上の知識及び技能を有する者」とあるのは、大体、外国の学校を卒業したものを予想いたしておる次第であります。
第十六條は、受験手数料は一級建築士に対しては八百円
程度、二級建築士に対しては府県の
実情に応じてそれ以下の額が予想されておるのであります。
第四章は
業務の項であります。本章は建築士の
業務に関する規定でございます。
第十八條の二項は、建築士は法令に適合した設計をせねばなりません。この規定があるために、建築士の設計した建築物に対しましては、特に許可手続を簡易にすることができるわけであります。
第三項は、工事施行者が建築士の注意に従わない場合、建築士はその旨を建築主に報告せねばなりません。その結果、建築士の依頼によ
つて、建築士が更に種々の措置を取ることは当然
考えられるところでありますが、これは本法規定の範囲外のことでありまして、建築主と建築士との間の別の民法上の契約に基く行為となるのであります。
第十九條は、設計変更の場合は原則といたしまして原設計者の承諾を求めて行うことにな
つており、
従つて、その責任も当然原設計者が負うことにな
つております。何かの
事情で、例えば設計者が遠隔の地におる場合等、原設計者の承諾が得られなか
つたときは、他の建築士が自己の責任において変更することになるのであります。この場合変更部分の設計責任は変更を行
つた建築士が負うことは勿論でございますが、将来その建物に障害が起り、それが設計変更のために生じたということが技術的に確認されたときは、その責任は設計変更者が負うべきものと解せられます。
尚一級建築士でなければ設計できないような構造物の設計変更を、二級建築士が行うことは当然許されないのであります。
第二十條は、建築士が設計図書に記名、捺印してその責任を明かにいたした規定でございます。
第二十
一條は、建築士は本来の
業務の外、本條に掲げる
業務を当然に行うことができます。建築手続の代理
業務は、府県によ
つては、條例による免許制度を採
つているところもありますが、本法による建築士は、その條令に拘らず、当然に代理
業務をも行い得ることといたしたのであります。
第五章は、建築士事務所の項であります。建築士が
業務を行う建築士事務所に関しましては、当初登録制にすることも
考えられましたが、種々の
事情で単なる届出制に改められたわけであります。
従つて府県毎に建築士事務所名簿を作成する等のことも法律には規定されませんでしたが、これらの仕事は民間の団体、即ち建築士会等において自主的に行い、公衆の便宜を図るべきものと
考えておるのであります。
第二十三條は建築士事務所を開設する場合の届出に関する規定であります。出張所については規定せられておりませんが、独立して
業務を行う場合は一個の建築士事務所として当然届出なければなりません。
他の府県へ移転した場合は、元の県へ廃止届をし、新たなる県へ開設届をすることになるのであります。
第二十四條は、一人の建築士が多数の建築士事務所を持つことを禁じた規定でありまして、これによ
つて責任ある
業務を行わせようとするものであります。法人等で各地に支店、出張所を設ける場合には、専属の建築士を配置しない限り、建築士事務所と称することは当然できないのであります。
第二十五條は特定の建築物の設計、及び工事監理は建築士でなければできないので、設計料等を独占的に不当に引上げられた場合には、
一般の人が迷惑することになります。又、逆に競争的に不当に引下げるようなことが起れば、正当なる
業務を行い得ないようになることがあるのであります。料金の最高又は最低の基準は建築士会等の民間団体が地方別に自主的に定めることが最も適当と
考えられますが、何らかの
事情で行われ難い場合を予想いたしまして、必要があれば
建設大臣も中央建築士会の同意を得てこれを勧告することができるように規定いたしたのであります。
第二十六條は、建築士事務所の監督に関する規定でありまして、不都合があ
つた場合は
都道府県知事が閉鎖を命じ得ることにな
つております。但し閉鎖命令も重大な問題でありますから、聴問並びに審議会の同意を必要といたしたのでございます。
第六章は、建築士審議会及び試験委員についてであります。
即ち第二十八條は、
建設省に中央建築士審議会、地方に
都道府県建築士審議会を置き、本法施行に伴う重要事項の審議に当らせると共に、
関係各庁に建議することができることにな
つております。これはこの種法律の民主的な運営に必要な措置と
考えられます。
第二十九條は、審議会の委員は原則として建築士の中から
建設大臣、又は
都道府県知事が委嘱することにな
つております。
一般にこの種、審議会は
関係官庁の職員や学識経験者を以て構成するのが従前の例でありますが、
大臣や
知事の
諮問機関に官庁の職員が入る必要はないという意見もありますので、且つ餅は餅屋の方が適当であろうということで、原案のごとくいたした次第でございます。勿論、建築士の資格があれば、官庁の職員や学識経験者も委員となることができるのであります。
二項は小さな府県等で建築士の数が十分でないような場合には、その他の学識経験者を以て補うこともできるようにな
つておるのであります。
第三十二條は、本法施行上必要な試験委員も原則といたしまして建築士を以て当てることにな
つております。これはかかる制度を技術的に権威づけるゆえんと
考えられたからであります。
第七章は罰則であります。原則といたしまして、余り重い刑罰を科することなく、行政上の運用によ
つて措置する方針を採
つております。例えば、建築士が法令に適合しない設計を行
つたとき、建築主に対する報告を怠
つたとき等は、すべて第十條にいうところの「不誠実な行為」をしたものと見なして
業務の停止又は免許の取消等によ
つて臨み、刑罰は科されないことにな
つておるのであります。
第三十五條は、本法による最も重い刑罰でございます。第三号は不誠実な行為により
業務停止を命ぜられたものがこれに違反した場合であります。第四号は専任の建築士を置かずに建築士事務所を開設した場合で、第一号に言う
業務を行うための名称詐称に等しいと認められます。第五号は建築士事務所が
都道府県知事の閉鎖命令に違反した場合であります。
第三十六條は、これは前條よりも軽い罪で、体刑は含んでおらないのであります。第一号は単純な名称詐称の場合であります。第二号は試験委員等が不正を行
つた場合であります。
第三十
七條は最も軽い過料処分でございまして、これは建築士事務所の届出を怠
つた場合に適用されるのであります。
附則について簡単に申上げます。第一は施行期日に関する規定であります。第二十二條の建築士でないものが建築士の名称を用いてはならないという規定、及び第五章の建築士事務所に関する規定は、実際に建築士が選考されて
業務を開始し得ると認められる時期、即ち明年七月一日まで施行を延期いたしたのであります。第二から十二まででありますが、二項から十二項までは現在設計及び工事監理を業としている者に対する経過的な措置を規定いたしたのであります。かかる人々に対しまして、試験を行わず、選考により資格を与え得る便法が講ぜられておるのでありまするが、余りにも緩やかに過ぎて本法の
趣旨を没却されることのないように、必要と認められるものに対しましては考査を行うこともできるようにな
つておるのであります。二項三項の選考の
対象となる資格は、第十四條及び第十五條の受験資格より若干きつくな
つておりますが、即ち経験年数において一年乃至二年ぐらい延長されていますが、これは試験を省略するための当然の要請であります。但し、従来正規の学校を出なくて、この種
業務に従事する者も若干おりますため、その救済のため、実務十五年の経験を有する者は一級建築士に、実務十年の経験を有する者は二級建築士に、それぞれなれる道を開いてあります。勿論この場合には第七項による考査を行
つて実力のない者が建築士となることは防止せねばならんものと
考えます。この條項に対しましてもいろいろ御
質問御疑念があると思うのでありますが、二項の第四号に規定したものの中には、今までこの種法律の條文が不備のために実力がありながら実際に試験を行わなければ経過措置によ
つて拾い上げられなか
つたというがごとき、即ち専門学校令によらない学校、中等学校令によらない学校で専門な学校がございます。それは即ち専門学校に準ずる学校では中央高等工学校、早稲田、日大、法政の各高等工学校、武蔵高等工学校というがごとき高等工学校、及び中学校令によらない学校ではありますが、これに準ずる学校、即ち築地の工学校早稲田工学校、中央工学校、
東京工学校、法政工学校、日大工学校のごときものもこの第四号において拾い得るようにしてあります。尚第五号の「建築に関して十五年以上の実務」ということでありますが、これは即ち
建築士法案の主
目的を達成するに逆行しない人人を実は規定しておるわけでございます。條文として書き込むことは非常に技術的にむつかしいのでこのような條文にな
つておりますが、大体の考といたしましては、現在学歴はないのでありまするが、実務経験十五年以上あり且つ
東京都並びに大阪府等によ
つて條例で試験をいたし、その合格者が建築代理士としてこの種
業務に携わ
つておる現在の人達を大体の
対象として指しておるわけであります。第四項は選考の資格は明年三月三十一日を基準といたし、選考の申請は同じく四月三十日までとしてあるのであります。これは種々に準備等に要する期日を見込んだものであります。第五項から第十項までの選考委員に関する規定は試験委員に関する規定に準じたものであります。但しこの場合は未だ建築士がございませんので、選考委員は
関係官庁の職員と学識経験者を以て当てることにいたしておるのであります。第十一項は選考及び考査の基準というのは、実務経験とは如何なる経験を指すか、如何なる場合に考査を必要とするか、或いは考査の課目等に関する事項で、これが各地方で区々にならないため
建設大臣が告示をすることにな
つておるのであります。考査の課目は大体前に述べた試験課目に準ずるものと
考えられております。第十二項は本年は選考前でありますから当然試験は行われません。初の試験は明年の後半になるものと
考えられておるのであります。第十三項は建築士が定まるまでの建築士審議会の暫定的な構成を規定いたしたものであります。第十四項は
建設省設置法に事務的な改正を行う規定であります。
以上で甚だ雑駁なものでございましたが逐條の御
説明を終りたいと思います。よろしく御審議をお願いします。