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1950-02-15 第7回国会 参議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年二月十五日(水曜日)    午後二時十五分開会   —————————————   本日の会議に付した事件中共地区実情調査に関する件  (右件に関し証人の証言あり)   —————————————
  2. 野田俊作

    委員長野田俊作君) 只今より開会いたします。  本日は中共地区実情について清水董三君より伺うことになつております。尚証人宣誓宣誓書に捺印して頂くことによつて代えます。    〔証人宣誓書に捺印〕
  3. 野田俊作

    委員長野田俊作君) 皆さんはもう御承知でありますけれども、清水董三君は東亜同文書院教授及び大使館通訳官、参事官として在支三十余年、中国要人と親交多く日支外交交渉には殆んど全部参画せられました。現在外務官吏研修所にて研修員の指導に当つておられます。外務省関係では最も優秀な中国通であります。私この一昨年の六月の末に清水董三君からやはりこの国政研究会中国の話を聞いたときに、清水君がもう今日の蒋介石政権はどうしても持ちきれない、中共軍が必ず中国全部を支配するようになるんだということを一昨年の六月に御講演になつた。そして詳細その理由もお話になつた。でその当時はまだまだ中共が満州の大体は支配しておつたけれども、長春や瀋陽や錦州辺りはまだまだ中国のいわゆる蒋介石軍が占めておつた北支でも辛うじて太原が陥落し、開封が或いは事実上陥落したという程度のときに、清水君は到底この蒋介石、いわゆる国民政府は存立ができない、かならず中共政権中国を支配するということを言われて、私今日清水君に会つて非常な卓見をお褒め申上げたいと思います。過去においては清水君の御意見が的中しておりますから、今日お話下さることも恐らく最も中国の真実であろうと思いますから、私共ここで清水君のお話を承りたいと思います。
  4. 清水董三

    証人清水董三君) それではこれから中共地区実情について私の知つておりまする情報を総合しましてお話したいと思います。ただそれが非常に局限されました範囲の情報で、新聞雑誌の外は時々香港方面から参ります中国友人に直接聞いた話であります。私が眼でみたものではありませんので材料は極めて乏しいのでありますが、それを総合してお話申上げたいと思うのであります。  只今委員長からお話がありました通り中国共産党の勢力は今殆ど全支那を掌握しまして、今日中国の中で僅かにチベット、台湾海南島、これだけを残してその他は大部分中共政権支配下に入つてしまつた状態であります。一体この中共政権基礎はどうであるか、ということから申上げたいと思います。中共政権が非常に鞏固なものであるか、非常に弱体なものであるか、或いは当分持つものであるか、或いは間もなく潰れてしまうものであるかというようなことをここに検討しても見たいと思います。で中共政権基礎がどうであるかということを考える場合には、先ず以てその対立関係にある国民党がどうであるかというとを考えるのが、一つ中共政権基礎考え材料かと思います。国民党は現在敗残の兵を台湾海南島それから舟山列島の数個の島においておりますが、大体台湾には二十万以上三十万近い軍隊がおるように思われます。これは陸軍、海軍空軍も合せまして二十万乃至三十万ぐらいの兵力が未だ台湾に残つておる。それから海南島には広東と広西の部隊が恐らく十万程度は残つておるだろうと想像されます。その他舟山列島辺りにおりまする軍隊を会せましても先ず四十万乃至五十万ぐらいになつておるのであります。その他奥地に敗残兵が土匪、匪賊というような形になつてゲリラ戰をやつておるのがあります。これは反共救国軍というような名前を付けてゲリラ戰をやつておるようであります。これが確たる数がはつきり分りませんが、やはり二十万か三十万ぐらいはおるでありましよう。併しこのゲリラ部隊中共軍に対して大きなことはできない、問題にならないと思うのです。今一番問題なのは台湾であります。海南島の方はすでに前から中共系軍隊がおりましてその後も中共から侵入しております。この海南島の中共に占領されるのも遠くない将来であろうと想像される。後へ残つたの台湾だけでありますが、台湾蒋介石が直系の部隊、それから最も信頼する役人を配置しまして、最後牙城として防備に懸命な努力を拂つておるようであります。特に蒋介石派にとつて有利なのは空軍海軍とを持つておる、飛行機なぞも恐らく三四百はあるではないかと考えられます。それから軍艦及び船舶数十艘をあすこに保留してある。この台湾空軍海軍中共が占領しておりまする上海とは或いは福川、廈門という海港を封鎖しておりまして、飛行機は更に例えば上海南京間の鉄道を破壊するとか、いろいろ中共軍事基地を爆撃するとかいうことをやつておるようであります、これは相当中共にとつては痛いのであります。併しながら大勢考えてみますると、如何に蒋介石初め国民党幹部台湾でやつて見ましても再び復活して中共政権を打ち倒すというようなことは、不可能であると考えられます。もう大勢は如何ともすべからず、台湾の陥落も結局は時間の問題、勿論中京としましても、台湾攻撃というのはなかなか容易ではありません、中共の方には台湾国民党に匹敵するような空軍海軍がありません。その点極めて困難でありますけれども、併し考えてみますると国民党側軍隊の士気が衰えております、これはすでに南京上海が落ちる前からのことでありまして、昨年以来の国民党共産党戰争を見てみますると揚子江の南では殆ど戰争らしい戰争をやつておりません、漢口から広東を攻略する場合などでも、予想外国民党の逃げ足が早くて中共軍予想外に早く進撃したくらいであります。でありまするから海軍などもいつ何時中共の方に寝返りをうつかも知れないというので、成るべく台湾では軍艦を外に出さないように努めておるくらいであります、うつかり軍艦を出すとその軍艦共産党のほうに行つてしまつてつて来ないという心配がある。近頃は成るべく空軍海軍家族台湾に呼び寄せて、その家族を人質に取つておいて本人が逃亡するのを防ごうというようなことを考えておるくらいであります。飛行機にしましてもうつかり飛行機を飛ばしますと中共の方に行つてしまつて、その飛行場で着陸をして中共に降参する、飛行機ごと向うに行つてしまうというような危險も感ぜられるくらいであります。そういう状態でありまするから、中共攻撃が本格的に開始されまして、たとえ小さな船でも台湾に乘りつける、或いは台湾内部から宣伝を始めるということになれば、この台湾の保持ということも困難になる、いつまでも台湾を持ち耐え、或いは台湾から更に反撃をするというようなことはちよつと不可能だと思われます。台湾海峽は丁度二月から三月頃までは波が非常に高いものでありますから、まだ攻撃は始まつておりません、併し恐らくは春から夏にかけて台湾攻撃をやるんじやないかと想像されます。ともかく国民党が今最後牙城と頼んでおる台湾もそういう状態で、到底これは持ち耐えることができないというふうに見た方がいいじやないかと私は考えております。そういう工合で、この点から見ましても中共政府というものはなかなか強固である。  第二は中共政府それ自身の内部の問題でありますが、今のところ昨年以来着々中央政府地方政府の機構を整備しまして、その組織から申しましても命令系統或いは人事問題等もなかなか嚴重に、そして極めて組織を緊密にやつております。政府のいわゆる民衆集中制と申しますか、相当よく行届いておりまして、中央命令が末端にまで及ぶという、この中共独特の組織力相当な成果を挙げております。そして共産党政治局がそれを支配して採配を振つて政治をやつておる、その政府中央地方との関係なども今のところまだ破綻はどこにも見えておりません。それから軍隊でありまするが、軍隊訓練中共が従来とも力を盡しておつた問題でありまして、軍隊は常に教育をやつております、必ず軍隊にはその後に政治部隊が付いておりまして、始終政治訓練軍隊に注ぎ込んでおります。従つて将校は勿論のこと一兵卒に至まで中共主義方針というようなものをだんだん頭に入れられている。その軍隊内部にもまだこれという弱点を表面化しておりません。行政面におきましても軍隊方面におきましても中共監視相当嚴重でありまして、苟くも中央方針に反するようなことがありますと直にそれが分かる、そうして上司に報告されるという、非常に内部の偵察が行届いておるそうであります。内部から謀叛を企てたり叛乱を起すというようなことは非常にむずかしい、そういう状態で、行政面軍隊面共なかなかしつかりと固めておるというのが現状であります。  殊にこの場合に眼につくことは、中共政権におきましては従来中国に見られましたような道閥、道教の閥或いは自分親戚縁者を引入れるという閨閥と、或いは同じ学校の同窓だけの者を採用するあの学閥とか、そういう道閥閨閥学閥というような閥というものを非常に排撃しまして、役人軍人任免黜陟もそういう重大な情実をできる限り排除する、こういう人事行政を採つております。これも政府及び軍隊規律相当嚴格にしておる一つの要素になつておるのであります。  その次には軍隊はすでに正規兵三百五十万と号しておりいまするが、私も恐らくこれは実際の数に近いだろう、或いはもつと多いかも知れないとさえ思うのでありますが、とにかく三百五十万という軍隊を今日持つております。武力におきましてももはや中国にはこれに匹敵するものはありません。曾て蒋介石は四百五十万程の軍隊を持つてつたのでありますが、今日は主格転倒して中共軍が三百五十万、蒋介石軍隊が約五十万というふうになつてしまいました。こういう三百五十万の武力を持つておるということになりますると、中共政権というものはこの武力の点から見ましても容易ならない力を蓄えておるわけであります。それから毛澤東以下の幹部連中の間には国際派と申しますかソ連の方面に非常に接近した者と、民族派と申しますか中国民族主義を強く主張する派と二派あつて、これが軋轢しておるというようなことをよく外部で観察する人がありますが、これとても現在まだそういうような表面化したことは出ておりません。私もこの幹部の中には思想的に違つたものを持つておる者があると思います。例えば毛澤東とか周恩來とかいうような人に対して、李立三とか或いは劉少奇とかいうような人の思想は多少違うかとも考えております。けれども現在のところ別段これが対立して相争う、その結果中共内部が分裂するというようなことはまだ考えられない、そういうような欠陥は今表面化しておりません。大体においてやはり幹部は一致して今後の中共の発展に努力していると見た方が間違いがないと思うのであります。  以上申上げところを以て見ましても、この中共政権というものが近く崩壊するということは考えられない、私はこれは当分はこの政権は継続するものである、内部からも外部からもこれを押し倒す、或いは崩壊するということは今のところはまだ見えておりません。従つて中共政権基礎はどうかと申しますと、私はこれは相当に鞏固なものであるこれは当分継続する可能性があるというふうに見るのが公平な見方ではないかと考えられるのであります。勿論中国にもいろいろな見方をする人があります。今申しましたように、現に台湾にはまだ国民党が頑張つております。国民党でなくても中共でもないという中間階級の人もおります、その人達の見方はそれぞれに違つております。  私は丁度去年の暮に中国友人から出版物を三册貰つたのでありますが、一册は中共の方にいる人から貰つた「新中国の誕生」という本であります。これをみますると、中共が進出して、来てから以来の中国は非常に新しく非常に発展しつつある。今までの蒋介石政権のやり方は非常な罪惡を残し、その惡いことは曾ての日本以上であつた、それから汪兆銘以上であつた、それが今日においては農村工業地帶も日に日に新たに進歩しつつある。これを読んで見ますると実に中共治下生活というものが天国のように書いてある。もう一册の台湾の方の友人が呉れたパンフレットを見ますと、反共という言葉を謳つてあります、これには共産地区というものは実に、もう独裁で個人の自由は奪われ、税金は非常に高い、もう人民は奴隷の生活をしてもう今にも耐えられない、必ずこれは直ぐに潰れる、こういうことを書いてあります。これは両極端のことを書いてある。ところが最近又香港からの友人から貰いましたパンフレットを見ますと、これ又非常に面白い、国民党なんというものはもう駄目である、ああいう腐敗はもう当然である、ところが中共も下手をすると駄目だ、都会の方面でも失業者が町に溢れている、農村を見ると前よりももつとひどい税金を取られて農民が反抗の運動をお越しつつある、今の状態でいくと必ず中共も段々駄目になる、こういうふうに書いてある。こういう三種類の人物が中国にはおる。この前の中共方面の非常に中国が見違えるようによくなつたということも少し行き過ぎでありますし、又共産党など問題にならないという国民党側のこれも我田引水が多過ぎると思うのです。ただ最も注目すべきは、私が最後申上げました、この国民党側でもない、中共でもない中国知識階級の人間がいろいろ苦悶しているということ、この世の中にいわゆる第三党と申しますのがどうも今はつきりとどういう組織をなしているというような形はできていないようであります、ただ何となく漠然と中国の、主に知識層でありますが、いわゆるインテリ階級の問に批判的な態度を以て中共の将来を見守つているという分子が少からずおるということだけは事実であります。この連中の力というものは別に大した武力があるわけじやありませんし、政治的の組織を持つておるわけじやありませんし、ただそういう気持だけでありまするから、今日到底問題にはなりませんけれども、併し将来時局の進展と共にこういう第三党、つまり中間的な立場からものを見ようという連中の作り出す世論というものは場合によつたならば相当影響を及ぼすものではないかというふうに考えております。併し今のところこれは大した力はありませんから政治的には問題になりませんけれども、ただそういう思想の芽がはやくも中国に萠えつつあるということだけを我々は考えて置けばいいと思うのであります。  以上申しましたように中共政権というものは相当鞏固な地盤を築いてしまつているというふうな考えで私はおりますが、然らば一体今後どうなるかという将来のことについて少し検討してみたいと思うのであります。中共政権の優れた点というのをここに上げることができますが、それは先ず役人官紀規律、それから軍隊規律、これが非常に嚴正なことであります、これは中国としは非常に珍しい現象であります。中国では役人になりますと大体賄賂を取る、或いは金を儲けるということが殆んどもう当り前のようなことになつて今日まで参りました。それから軍隊というものは人のものを只取る、徴発は自由というような習慣になつてつたことは御承知通りであります。ところが中共におきましては役人汚職事件というようなものを殆ど聞いておりません。軍隊にしましても人民の物を取らないという規律相当嚴重に守られております。例えば上海を昨年占領しましたときなぞにも中共軍隊が食うや食わずの行軍をして上海へ着いたときには殆ど腹が減つて倒れるばかりであつた一般市民は非常に同情してお茶を出したり食物を出したりしたのでありますけれども、中共軍隊は頑としてそれを受け付けない、人民の物をただ貰うということはもう絶対にしないというので上海市民も非常に驚いたという挿話が伝えられております。それから物を買いましても決して余分の物は受取らない、こういう役人軍人規律が非常に正しい。これは勿論教育の点もありましようけれども、監視が付いている、役人なぞはちよつと変な金でも取れば直ぐに分かるような仕掛けになつている、そういう監視嚴重であるということからも来ておると思うのでありますが、いずれにしましてもその結果において官紀軍紀が非常に嚴重である、この点は従来中国に見られなかつた点であります。殊に国民党と比べて見ますると雲泥の相違がある。国民党終戰直後からもう人民の物は取り放題というようなことで非常に信用を害しました。国民党がこれ程脆く敗れたのは、その第一の原因役人軍人腐敗であると言つて差支ないと思うくらひいどい状態でありましたが、それに反してこの中共官紀軍紀嚴正なことはこれ又中国にも稀なくらいに厳重であります。これは確かに私は中共一般民衆に與える大きな影響だと思います。こういう官紀軍紀嚴正さをいつまでも持ち耐えられれば中共政権というものは相当に発展するのではないか。又それに反して段々これが腐敗堕落して行けばやはり又国民党の二の舞を演ずるのでありまするから、中共政権の将来の運命を予測する場合には、一番今中共の優れた官紀軍紀嚴正なのがどの程度に維持されて行くかということを見るということも一つの方法じやないかと考えられます。  ところが中共政権に課せられた今後の問題は非常に大きいのであります、恐らくはこの問題で中共政権というものが興るか、或いは倒れるかということになるだろうと思われます。それは国民経済生活を安定させることができるかどうか、又それより進んで立遅れた中国の産業を復興することができるかどうか。農業国から工業国へと段々躍進するということができるかどうか、将来のことは別問題としまして、今現実に中国の困窮した一般大衆生活を、安定せしめるかせしめないかによつて中共の今後の興廃が決せられる。国民党が倒れて中共が進出したというのはこれは決して三民主義がどうとか、マルクス・レーニン主義がどうとかいうようなそんなイデオロギーじやないのであります。大衆から言わせますと彼の終戰後に起つた惡性インフレ惡性惡性お話にならない程なインフレによつて物価騰貴、それから交通の杜絶による物資の交流の断絶、そうしてもう農民は勿論のこと、商工業もすべてが困り抜いて、それがこの国民党が敗退し共産党が進出した一番大きな原因だと考えなければならない。問題はこの生活問題であります。御承知のように中国の人口の八割を占める農民は大した教育も受けていないのでありまするから、先ず以て無学文盲といつてもいいかも知れません。最も簡單に考えるのは自分達が困る政府は歓迎しない、自分達を救つて呉れる政府を歓迎する、これが一番中国一般大衆の率直なる考えであります。何しろ八年間に亘りますところの日本との戰いにおいて、あらゆる方面生産設備も或いは交通も破壊され、その挙句又中共国民政府軍との戰いで、又それに劣らない程の破壊を蒙つたのであります。食糧は足りない、物資は出廻らない、貿易は杜絶する、物価騰貴する、この中国一般大衆生活というものはこれはもう惨怛たるものであります、これを何とか早く楽になりたい、この苦しみから拔けたいというのが中国一般大衆の念願であります。こういう環境が中国国民党敗退中共進出になつた大きな基礎をなしている、こう考えられるのであります。そこで中共がいよいよ政権を取つた今日、果してこの中国の非常に困窮した国民生活を救済することができるかどうか、これがこの中共の今後の将来を決する問題であります。中共が今日先も申しましたように軍隊は三百五十万を持つておるのであります、その上に戰争をどんどんやつております、この軍費が容易じやありません、歳出の凡そ四割程というものはこの軍費にとられちまう、この軍隊の喰べる食糧だけでも容易じやありません。その上に行政公務員家族まで合わせますと九百万も今養つている、中国全体でありますから九百万ぐらいになりましよう。三百万という軍隊を養い九百万もの公務員を養う、それだけでもこれは大した金であります。この経費はどこから取るか、結局においては一般大衆即ち農民負担になる。税金を取つているのでありますが、今日は税金でなく穀物を取つております。場合によりますと、その一年間の収穫を皆持つて行かれるというようなことすらもある、税金の額というものは殖えればとて減ることは先ずない。昨年中共財政当局の言明によりますると当分農民税金は減額することは不可能だと言つております。その上に戰争の献金、それから最近ではあとで申しますが、財政上の赤字を補填するために国債を発行しておりますが、公債強制募集等もやつております。国民負担相当今日重いのであります。最近北支の方の農民は「蒋介石萬税毛澤東萬々税」という歌を唱つております。萬歳の歳の代りに税が当てられているのです。中国の音では歳と税とは同じ発音で「ワン・スェ」であります。蒋介石のときは萬の税金がかかつた毛澤東になると萬々の税金がかかつた、つまり国民党のときよりももつと中共になつてから税金が重くなつた、こういうことを歌に唱うようになりました。この中国一般大衆はなかなかこういう歌をすぐ作ります、これはなかなか馬鹿にならない、新聞にも出ないし何にも出ませんけれども、口から口へ伝わる歌というのが一つ世論でありましよう。この前或いは申上げたかと思いますが、例えば終戰のときに上海で「抗戰八年飯が食えた、終戰二ケ月飯が食えない」こういう歌がはやつておりました、これはやはり国民党に対する一つの不信を現わしております。「蒋介石萬税毛澤東萬々税」というのも、どうも中共になつても一向税金は下らない、うかうかすると蒋介石よりももつと税金を取られるのだというふうなことを素朴に唱つているのであります。  この経済問題には中共も非常に頭を悩ましておりまして、一生懸命に何とかインフレを抑止して財政経済基礎を安定させよう、昨年末に決定しました一九五〇年度の予算で、大体米ドルに直しまして歳出が十七億米ドルぐらいであります、これも極力赤字をなくすということで苦心しておるようであります。それにしましても約米ドルにしまして六億ドル位収入が足りないのであります。この足りない分は三分の一を公債あとの三分の二は銀行券の発行でやろう、依然としてこのインフレは止まないという状態でありす。併し前の国民党の時代に比べますと余程このインフレはよくなつて参りました。中共が進出する前の物価騰貴というものはとても話にならない状態でありまして朝騰貴して又晩に騰貴する、一日のうち二回商品の値段をつけ変えるという状態でありました。中共になりましてからそれ程のことはありませんが依然としてやはり物価騰貴というものは止まない。さつき申しましたように三百万も四百万もの軍隊をいつまでも養つてつたのでは中国経済の復活はおぼつかないというので、これも苦心惨怛して台湾海南島、西蔵などの解放を完了すればできるだけ早くこの軍隊の復員を考えている。又復員しない前でも軍隊が余暇のあるときは畠へ出て田を作るなり或いは開墾するなり、或いは工場に行つて機械を動かすなりして生産運動増産運動にこれを使おうという計画を発表しております。つまり中共としましても経済問題には一番頭を使つておる、又これが最も困難な問題だというふうに自覚をしております。従つてこの正月の元旦に政府の発表しましたものを見ましても、もう今年は生産の年である、あらゆる力を生産の復興に集中しなければならないということを強調して、今申しましたように軍隊すらも生産面に使おうというふうに考えている。  ついでですから申上げますが一九五〇年にはどういうことをしようと考えているかと申しますと四つの目標を考えております。第一には今年中には中国全体の解放を完成する、つまり台湾西蔵海南島を占領して全中国統一大業を完成する、これが今年の予定の第一であります。第二は生産を励行する、生産回復には最大の努力を拂わなければならない。そうして綿花にしましてもその他の農産物にしましても糧食にしましても、大体の予定数量を揚げてこれだけは是非増産するということを謳つております。財政もできる限り赤字を克服して均衡の取れた財政にする、さつき申しましたように軍隊もこれを経済の回復建設の促進の方向に参加せしめる、こういう生産回復というものが第二。第三はこの解放された地区の土地改革に着手してこれを完成する、現在中共地区の土地改革は満州、北支は一段落終了しまして、中支から南支、これがまだ手がついておりません。中支において減息、減租と申しまして小作料と利子の引下げということを先ず実行しております。これを更に丁度日本でやりましたような土地改革まで持つて行く、華中華南もこれをやるというのが今年中の目標であります。第四の目標は中国とソ連及び各民主国家との団結を強化する。これが今年の目標であります。この中でも特に必要であり最も詳しく書いてあるのは第二の生産増強、生産復興の問題でありまして、これが中国国内におきましては中共政権の興廃を決するというふうに考え差支えないし、又中共政府それ自体も国内経済問題を最も重んじておるようであります。又それだけに困難が伴つておるというふうに考えられます。  そこで中共はどういう方法で経済の安定なり或いは経済の復興なりを一体やつて行くのか。御承知通り中共が進出しましてから、外国との貿易は表面上杜絶しまして今は主として香港との間に貿易が行われている、その他の国においてもちよいちよいありまするけれども勿論昔のようなわけには参りません、非常な輸入輸出共に激減であります。それからその上に先刻申しましたように台湾から飛行機軍艦等によつて海港を封鎖されましてこれが貿易に相当な打撃を與えております。で上海なども昨年の暮れにあちらへ行つて見ました友人の話を聞きますと、もう店には殆んど商品らしい商品はない、あの有名な上海の各デパートなどでも今は野菜を売つたり米を売つたりしている、こういう実に憐れな状態であるということを言つておりました。今日公けに貿易の道が開かれておるのは満州を通じてのソ連との貿易であります。満州からは大豆その他の食糧をソ連に持つてつております、ソ連からはそれの見返りとして綿布とか雑貨とか或いは多少の機械とかいいうものが入つておりますけれども果してそれだけで中国経済建設ができるかどうか。尤も中共当局は、ソ連でも曾てはそういう非常な困苦欠乏に耐えて今日のような建設をやつて来たのだ、中国でもそれができない筈はないと言つて台湾の封鎖が非常に激しい昨年の秋から冬の頃は頻りに自給自足の経済樹立ということを宣伝して、上海なども遊んでいる人間はどんどん田舎に帰れ、そうして人工を半分に減すというような案まで立てたのであります。併し考えてみますると中国はそういう人間を養う所がもう今日はない。現在でも失業者の数というものは、私は恐らく何千万もおるだろうと思います。顯在潜在両方合せますると何千万という失業者がいる。農村に行つても働く所がない、都会には勿論職はない。これ以上国民が耐乏生活をするということは要するに餓死をするということであります。中国大衆生活程度の低いことはこれはご承知通りでありまして、都会でも農村でももう餓死をする一歩手前という人間が非常に沢山おるのであります。こういう大衆に更に又耐乏生活ということは、今後五年も十年もその耐乏生活をするということは、果して可能か不可能か、可能だとしても、必ずそうすればその失業者群は匪賊になり或いは流れて流民と申しますか、中国によくそうゆうもう住むに家のない人間があちらこちら流浪して歩くという流民、これが賊になつて流賊となりますが、こういう流民が殖え匪賊が殖えるというと、社会の治安が乱れる、社会の治安が乱れるとこれを取締るために軍隊の数を殖やす、その軍備に又金が掛かる、ますます経済生活は苦しくなる、そうすればそれに附け込んで、さつき申しました第三党のような、知識階級の間に起る一つの反政府運動というものが、段々こういう失業者などを煽動し或いは組織化して更に又革命を起すということは、これは中国の歴史に何回も繰返されておることであります。それをどういうふうにして中共が切抜けるか、ここ一、二年まあ中共に言わせますと台湾海南島、西蔵解放して、その後に今年一杯にはもう本格的な建設に入らなければならんということを言つております。今年から来年段々二、三年と経つうちに如何なる方法でこの困窮したところの中国民衆生活中共が救うことができるか、これが中共の将来を卜する唯一の問題だと私は考える。これは私ばかりでなくて中国の人も恐らくそういう考えを持つておる。こういうふうに考えられるのであります。  最後中共とソ連の関係申上げてみたいと思うのでありますが、その前にどうしても私共の頭に入れておかなければならないことは、中国一般の対外感情であります。一言にして申しますと中国一般国民は親米つまりアメリカに非常に親しむという感情は持つておらないようであります。それは私共が現地において終戰後に重慶の人にも会いましたしいろいろなひとに会いましたが、これはもうすべてアメリカに対して好感情を持つていない人達でした。中共あたりが非常にアメリカを世界の帝国主義の権化のごとく攻撃しております。併しこういう中共の宣伝がなくても私は中国人にはそれ自体に反米の空気が相当強いように見受けられました。これは過去一世紀に亘つて散々外国から圧迫されそうして今日においても依然として外国に頭が上らない、政治方面においても経済方面においても、とにかく世界から取残されてそうしていわゆる後進国という名前で呼ばれている中国人から見ますると、外国に対する感じというものは我々日本人と又違つた感じを持つております、いわゆる排外思想であります。孫文の革命当時それから近くは蒋介石の北伐当時においても一番猛烈であつたのはこの排外運動であります。例の香港の封鎖なんというものは一年間も続いたのであります。あれは大正十四年であります、一年間も広東香港との経済絶交をやつてつたのであります。それから漢口、九江、武昌などのイギリスの租界を暴民がこれを暴力で奪い取るというような事件も起つております南京事件はすでに御承知通りであります。この排外運動というものは、一つはときの革命を起こしている連中が士気を鼓舞するためにも行いましようし、又国民の喝采を拍するためにも起すでありましようが、ともかくもそういう外国に強く当る、更に進んで外国の勢力を駆逐するという考え方は、これはもう十分長い間養われた中国国民一つの感情である。これは中国ばかりではなくて凡そアジアの民族の普遍的な一つの感情で、曾て英国が強かつたときにはそれが英国に向い、フランスが強ければフランスに向う、今日はアメリカが西欧諸国のチャンピオンとして現われておるという状態においてアメリカに楯つくという考え方は、民族主義の高揚しつつあるアジア民族の間にはこれは普遍的な一つの感情だと思うのであります。中国人から見ますと何かアメリカという国は我々アジア民族を又もう一度殖民地にでもするというような勢で、その財力と武力を提げてのしかかつて来ておるのではないかという疑惑を持つているのかもしれません。日本なんぞも下手をするとその仲間入りをして又我々の所に来て侵略をするのではないかという疑惑を持つことも当然であります。こういう反帝国主義運動民族主義の高揚しているこのアジア民族に対して、尤も今力になるのはソ連の主張するところの反帝国運動中共としましてはこれは勿論中共が生れたときからマルクス・レーニン主義で立つている、今更マルクス・レーニン主義を捨てるということはできません、これはもう一枚看板であります。そういう点からいつても当然でありますけれども、今申しましたような中国人全体の感情から見ましても中共は反米親ソ、ソ連と共にソに向つて一辺倒、つまりソ連側に付くという政策をはつきりと揚げておりますし、又私は当分そういう態勢で行くだろうと考えております。この点においてアジアにおけるアメリカの立場というものは非常に微妙であります。余程上手にやらないとその間隙にソ連から利用されるという点が非常に多いのじやないか。と申しますのは、中国人はソ連から今まで余りまだひどい侵略を受けた経験を持つておりません、この百年以来の外冦においては相手は必ず英国でありフランスであり或いはアメリカであり日本である。政治経済共済に西欧諸国が中国を圧迫したというふうに印象付けられている。ソ連はちよいちよいシベリヤの方から満州の方に侵入しましたけれども満州というところは多少中国本部とは違いまして、元来満州は長城を以て限られた、なんと申しますか、中国から申しますと一つの植民地のような地位であります。ソ連が非常に危険な国だとは先ず一般の常識からいつて考えておらない。むしろ自分たちを圧迫しまた今後も圧迫されると思うのは西欧のアメリカなりそういう国であると考えておる。従つて中共それ自体は勿論のことその国民全体の感情から考えてみても、中共というものはソ連と友好関係を結んで行くという政策は今後も相当長くとつて行くのじやないかと考えます。殊に中共辺りから考えますと、アメリカという国は何か自分の敵であるところの蒋介石を援けてどうも刄向つて来る、早くいえば当面の敵打というふうにも考えられる、そのアメリカが極東においてどんどん進撃して来るような態勢を整えられると、これは困つたものである、而もアメリカが日本と一緒になつて我々を叩きに来られたのではやりきれない、こういう気持がないわけではあるまいと思われます。そういう点からいいましてもソ連と適当に手を握つてそうして自分たちの安全を図るということは当然中共としては考えるだろうと思われます。併しながら若し調子に乘つてソ連が露骨に中国の主権なり領土なりを実際に侵略して来るとするならば、私はソ連は必ず失敗する、中共それ自体も失敗する。この中共が如何にマルクス・レーニン主義を奉ずるところの国体であるとしましても、中国一般国民に申訳のないような主権領土をソ連から取られるというようなこと、これをまで肯んずるということはありません。若しあるとすればそれは中共の失敗であり又ソ連の失敗である。でソ連もこの点は余程用心をしておるのと見えまして、最近大連の方から帰つて来た人の話を聞きますと例えば満州におきましてもソ連人は非常に中国人に対して感情を害しないように努力しておるそうであります。私共若い頃によくハルピンあたりでその当時のロシア人がまるで中国人をも人間扱いもしない乱暴な態度を見ている、如何にもこれでは中国人が腹を立てるのも無理はないと思つたのでありますが、最近話を聞きますると非常に丁寧に中国人に対しては取扱う、苟くも反感を起さないようにソ連人が努めている、又その結果大分対ソ感情もよくなつたということも聞いております。私はさもあるべきことと考えるのであります。従つて外交及び軍事、経済あらゆる方面中共はソ連と友好関係を結んで進むには違いないけれども、それには限度がある。今言つたような何といいましてもこの民族主義の高揚しているところの中国で、それに反するような行動を取ればそれはソ連も中共も必ず失敗する。その限度というものは極めて微妙なところに私は動いておるのではないかとそういうふうに考えております。従つて今度の毛澤東がソ連に参りましていろいろ協議したその内情も、そういう大きな線では中共とソ連との友好関係を更に強化するということは、これは当然そういう話が出たろうと思いますが、その反面中共としましても又ソ連としましても、中国国民の反感を買うようなことは極力これを避けるということに努力するんじやないかというふうに私は想像しております。よく新聞などに伝えられまするところによりますると、アメリカあたりの新聞記者などが、中共中国の統一を終つたならば更に東南アジアとか或いは各方面に侵撃するだろうというような観測をするものがあるようでありまするけれども、私はそれとは反対であります。若し中共が図に乘つて対外てきにいこれからいろいろな工作を進めるというようなことをやれば、もう中共の将来というものは殆ど見るに堪えないものである、中共はさつきも言いました通りに国内の建設がもう焦眉の急であります、これに失敗すれば中共そのものが失敗する、また中国そのものが非常な酷い目に遭う。中共としましてはそんな対外問題に頭を使う、或いは兵隊を使うような暇はないのでありまして、恐らく中共としましては極力国内の経済復興に努力をするというのが今後の態度であろう。勿論国防上外から攻撃に対する防禦ということは常に考えましよう、その関係においては外交においても軍事においても国防上のいろいろな措置はとりましようけれども、国政の中心は何といいましても国内の経済建設に努力を注ぐ、若し注がないならば中共はもう命脈はない、この点よく中共当局は知つておることだろうと思います。それから又東南アジアに対しましても、東南アジアには約七、八百万の華僑がおりまして、その華僑が政府に協力するかしないかによつて中国経済建設にも大きな影響があります。従つてこの華僑に対する工作という面においては相当に政治的な手を打つだろう、或いは外向的な手を打つだろうと思います。併しながら中共軍がどんどんマレー、ビルマにも出掛けて行くというような單純な軍事行動はこれは取らないであろう、華僑工作に必要な限度の外交工作、政治工作はどうしてもやるに違いない、併し一般考えているように中共がこの勢力をかりてどんどんアジアを席巻するというようなことを若しやるとするならば、それは非常な馬鹿な話でありまして中共幹部たる者は恐らくはそういう愚はいたすまいというふうに私は考えるのであります。  いずれにしましても今後の中共の問題というのは、中国国内の経済の安定或いはその復興問題に成功するかしないか、その必要によつて外交をどうするかということもさらに一つの問題となつて来るのでありまして、まあさつき申上げましたように、諸外国との貿易を全部断ち切つてソ連との一方の貿易だけで果して中国経済建設ができるかどうか、できないとすれば然らばどういう手を打つか、あらゆる問題は中国国内の経済建設から出発する、又こうゆうふうに向わなければ中共の将来というものはないものと考えなければならんというふうに私は感じております。  大体私の申上げたいことは以上で盡きたのであります。少し雑駁な話でありましてどうかと思いますが、私の言わんとするところは大体において以上のお話で終つたのであります。(拍手)
  5. 野田俊作

    委員長野田俊作君) それではこれで散会いたします。    午後三時四十一分散会  出席者は左の通り。    委員長     野田 俊作君    理事            徳川 頼貞君    委員            淺井 一郎君            伊達源一郎君            星野 芳樹君    委員外議員            久松 定武君    証人            清水 董三君