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今井参考人 堀木委員の陳述に若干補足させていただきます。今回の
專売裁定に対して
仲裁委員会といたしましては、
予算上可能という結論を出しました。
政府におきましてはこれと反対の御
見解で、ただいま御
審議に相な
つておるわけでありますが、またこの
法律論につきましては、ただいま
堀木委員からもいろいろとお話が、ございました。もはやこれを補足する必要もないのでありますが、ただ私
どもがそうい
つた見解をとりました意味におきまして、
堀木委員の言われた以外に、一点だけを最初に補足させていただきたいと思います。
それは
財政法と
公労法の
関係でございます。申すまでもなく
予算がない場合に、
予算の範囲を越えまして国が債務を負担するということは、
予算の根本原則を打ちこわすものでございます。現に
財政法の十
五條にもその点を明確にうた
つておるのであります。「
歳出予算の金額の範囲内におけるものの外、国が債務を負担する
行為をなすには、予め
予算を以て、
国会の
議決を経なければならない。」こういう明文がございます。しかしまた一方
公労法の第十六條には
予算上、不可能な
協定をした場合には云々とございまして、
予算上、不可能な
協定をしてよろしいと、またはつきり書いてあるのです。この
両者をどういうふうに調和して
考えるか、私はそこがこの
法律論として、一つのはつきりした
考え方を出すわかれ目でなかろうか、かように存ずるものであります。その点を最初に一点だけ申し上げておきます。
次に今回の
裁定が
国鉄の
裁定と違いまして、
調停委員会の
調停案を基礎として行われたという点につきまして一言申し上げます。御
承知の
通り公労法におきましては、
調停委員は
公社側から五名の候補者を出します。その五名のうち
組合側がこの人ならよろしい、こう申しまして一名をきめます。また反対に
組合側も五名の
調停委員の候補者を出しまして、それを
公社の方で一人より出すわけであります。従いましてこの
調停委員二人に対しましては、
両者ともに納得ずくできめた人であります。しかもこの
両者が話合いまして、中立のもう一人の人を選びまして、そこでその人が
委員長にな
つて話を進めて行く、こうい
つた建前をと
つておることは申し上げるまでもありません。この
関係は
労働委員会におきますよりも、さらに一層
当事者の
意思を反映するものかと
考えます。従いまして、また両方が納得したその人にきめられたことということは、労働問題というものが納得ということを基礎にして解決されなければならぬ建前から申しまして、一番民主的なところでなかろうかと
考えるものであります。特に
專売の
調停につきましては、九月の初めから
調停委員諸君が
団体交渉にも立ち合うような御熱心さで、種々あつせんを重ねられまして、ほとんど話がまとまるとい
つたところまで事実上参
つたのであります。その点必要ございますれば、私
どもよりもむしろ
調停委員の方から直接お聞きになれば、おわかりになると存じますが、そうい
つた経緯にもかんがみまして、私
どもとしては極力われわれの
考えと基本的に違わない限りにおきましては、
調停委員会の
意見を中心に事を進めたい、こうい
つたことが今回の
裁定の基礎とな
つておることを次に申し上げておきます。
それから
法律問題はやめにいたしまして、末弘
委員長がか
つて国鉄の
裁定の際に申し上げましたように、労働問題というものは、
法律論で、片づけるべきでないとい
つた説に、私
ども賛成するものの一人といたしまして、以下
公社側の
予算上はたしてどういうことにな
つているかということにつきまして私
どもの調べた一端をお耳に入れようと思います。
公社の御
見解によりますと、本年度に歳出が二十六億余る、しかしながら歳入の方が三十一億足らなくなる、こうい
つた振り合いにお見込みにな
つておられるようにお見受けするのであります。
政府がこれを
予算上、不可能とお
考えになりまして、
国会へ
提出されました最大の原因も、この五億だけそのために益金が少くなる、これは一大事である、歳入欠陷という意味合いから不可能である、かような御判定をなさ
つたように承
つておりますので、この点をいま少しく解剖してみたいと思うのであります。
問題はタバコの売れ行きの見込みであります。もちろん
公社の経営者のような、こういう厖大な経理を扱
つておられる
責任者といたしまして、いずれかと申せば、どうしても歳入は内輪に見、出す金は一ぱいに見ておく、これは私
ども人情としてやむを得ないことであるとは
考えますが、しかしながら少くとも労働問題を背景とする立場から
考えますと、やはり公正な、少くとも第三者的な見方をそこに加える必要がありはしないかと思うのであります。まずタバコの販売数量でありますが、販売数量につきまして四月から十二月までの実績を見ますと、本数は昨年よりも実は二割以上ふえておるのであります。ところが
公社の今回の一―三月のお見込みは四・三%しか昨年よりふえない、こうい
つたきわめてかたいそろばんをと
つておられます。もちろんその間いろいろこまかい
事情もございますから、私
どもも決して四月から十二月までのその二割以上ふえた勢いでずつと行く、こういう極端なことは申しませんが、もしかりにそうい
つた線をひつぱりますと、五十七億売れ行きはふえるのであります。また
公社のお見積りによりますと、四月―十二月には相当高級品が売れた、しかしながらだんだん購買力も低下しておるから、そこでいわゆる下級品しか売れないようにな
つておる、
従つて一つ当りの單価は下る、かようにごらんにな
つておられます。この点も私
ども相当ごもつともな点はあると思うのでありますが、その下りぐあいは四月―十二月に対しまして大体五パーセント近く單価が下る、かように織り込んでおられるのであります。もしこれをかりに前の線でそのまま売れると仮定いたしますと、大ざつぱに見てそこに約十八億円ばかり出て参るのであります。何も四月―十二月の実績その他を、そのまま機械的に延長すること自身に、私
ども正しいということをがんばろうというものではありませんが、そういうような見方をいたしますと、とにかく七十億とか八十億とかいう数字は出て来る余地がある。こういう点から申しましても、この五億だけ足りなくなるという点につきましては、私
ども多大の疑問を感ぜざるを得ないのであります。実は
專売益金と申しますのは、簡單に申すと、タバコ屋に売りましたときをつかまえまして、これが益金になります。従いまして三月に売りましたものが四月にな
つて消費者に渡りましても、三月中にタバコ屋の手に渡れば、これはその年度の益金になるわけであります。現在タバコ屋さんはおおむね二週間分程度の手持ちを持
つておられるようであります。従来戰前のレギュラーな時代には、一箇月分くらいはお持ちにな
つておられたというお話でありますが、この五億という金は、実はタバコの一箇月分の売れ行きの約四パーセントであります。率直に申せば一日分程度であります。
従つてこれを売れると見ることも、売れないと見ることも、どちらとも言えるという程度の金額に相なる次第であります。こういう見地から、私
どもここは極端に申せば手心いかんであると思うのでありまして、
專売局の
政策いかんによ
つては、三月により多くタバコ屋に売
つて、その年度の益金を多くするとい
つたようなことが、従来実際にも行われて参
つたことがあるのでありますが、そういう手かげんのほんの一部で解決する金額であると申し上げて、まず間違いなかろうと存じておるのであります。なお一方歳出の方面につきましても、
公社のお立場から申し上げまして、何分あと三箇月の間の経済界について、有効需要等の問題でいろいろとお
考えになるようなお立場もありましようから、
従つて不用額の二十六億につきましても、先ほど申し上げた
通り相当かたく見ておられるのでありますが、このほかに
不用額が出ないかと申しますと、私
ども官庁の経理に多少経験を持
つた人間から申しますと、これは出ないとはどうしても断じ切れないものであります。
予算というものは、
予算制度というものの持つ、いわば基本的な、宿命的な欠陷かもしれませんが、特殊な
経費は別にいたしましても、普通末端に配付しますれば、大体これは使われるものであると見るのが率直に申しておおむねの実情であります。しかしまたこれを若干減らしましても、はたして経理にさしつかえがあるかと申しますと、そうでない場合も少くないのであります。今回問題になりました一億二千万という金は、全体の一年間の
予算に比べますと一・何パーセントという数字であります。この一―三月に比較をとりましても、これも一%に満たない程度の金であります。私
ども一部調べました点から申しますれば、
公社のおあげにならなか
つた費目の中からも、まだ数千万円あるいは一億とい
つたような費目を出すことは、事業の経営に影響なしに可能であるという見方をとらざるを得ないものであります。
それともう一つ費用という立場から
考えまして、ここで非常に問題になりますことは、先ほど
堀木さんの触れられました塩の問題であります。塩は本年度の当初
予算では百六十五万トンの
予算で、年間の計画を立てられたのでありますが、実際に売れますのが百四十万トンを割る。しかるにいろいろの
事情から買う方はよけい買わなければならない。輸入塩につきましては、ただいま
堀木さんのお話のように、当初の百二十五万トンを百五十七万トン、すなわち三十二万トンのよけいな、本年度に売れないものを買わなければならない、こうい
つた形に相な
つております。このために当初の
予算よりも塩の購入代金として三十億近い金が必要に相な
つて来ております。しかもそのために塩の包裝費であるとか、倉敷料でありますとか、こうい
つた関係につきましても、たとえば数量がふえたために、運賃だけで三億ばかり、保管料も二億五千万ばかり、これだけ本年度によけい
経費を出さなければならない問題が起きております。しかしながら、こういうものは明年にな
つてまた売れるのであります。今年はいらないかもしれません。またその保管費や運賃の方、あるいは特に目減りというような問題が起るかもしれませんが、原則といたしましては、明年度に売れれば、明年度の益金になるのであります。これがもしも会社の経理でありますれば、繰越し商品といたしまして、この三十億という金は当然に資産の上に上りまして、決して
経費には浮きません。しかしながら今の
專売の会計は、純然たる官庁会計を使
つておりまするがゆえに、三十億の金を使
つて物にかえますと、それだけ益金が減る。こういう経理法をと
つておるのであります。従いまして一億、二億の問題よりも――その
関係にあります以上、しかもこの三十億円近い、こうい
つた年度当初になか
つた見込みの増というものは、実は率直に申しまして、労務者の方には何にも
関係のないことであります。單に経営の御都合で、やむを得ずお買いにな
つたものであります。そうい
つたために、もしも拂えないとか、拂えるとかいう問題が起りますと、これはま
つたく中立的に見まして、労務者諸君に気の毒でなかろうか、かような感じがいたすのであります。
本年度のタバコが、例のピースその他が非常に売れないということは、すでに新聞等でよく承
つておるところでありますが、とにかくそれにいたしましても、
公社並びに
組合側の非常な御努力によりまして、当初本年度は六百四十五億本しか売れないであろうと見積られたところが、六百九十五億本、すなわち約一割近い増産ができた。そのために下級品をよけい売りまして、そうして益金をほとんど支障のない程度まで持
つて行けるという見通しがついたということな
ども、私としてこの機会にお耳に入れておきたい一点でございます。ついででありますから、ここに
專売事業の生産性という点を一言触れますれば、大ざつぱに申しますと、昭和初年に比べまして、生産性は約二百にな
つております。また近年をとりましても、二年前と比べますと数量の方は四五%以上ふえておるように思いますが、人員は二割もふえておりません。その点は経営者、
労働者ともに、この悪條件下にかかわらず、非常に努力されておるという点がうかがい得られるのじやなかろうかと思います。
なお経理と
関係いたしまして私
どもふに落ちない点、いわゆる
政府が不可能とお
考えになる――もつとも
政府は
国会に一切をまかせるというお立場のようでありますが、私
ども納得しにくい点をちよつと二、三申し上げますと、昨年の年末手当は、御
承知の
通り基本給の三分の一、
職員一人当り七百円、こうい
つたことで画一に全部切られたことは、
政府の発表にもある
通り明白であります。
国鉄会計につきましても、それが
予算上不可能の線である。
專売につきましても、それが
予算上不可能の線である。こうい
つたことは、偶然の一致にしては、あまり一致が過ぎてやしないかと思う、こうい
つた感じを持ちます。特に
公社が
提出されました
予算上歳入欠陷が五億出るという見通し、この案でありますが、私
どもの
裁定を出しましたのが二十八日、年末手当が出たのが二十四、五日であ
つたかと記憶いたしますが、その間著しい変化もなか
つたといたしますと、その当時からすでに五億の歳入欠陷の見通しがあ
つたのじやなかろうか。すなわち一億二千八百万円だけが、ちようど歳入欠陷にな
つたというのならば、これは私
どももつともと思いますけれ
ども、十二月の末に、
公社側はすでに五億歳入が足らぬということを
政府の方に
申請しておられますから、五億足らぬということは、おそらく年末手当が
支給されるころにも、五億足らぬというそろばんが出ておるはずでありまして、もしも五億足らぬということが
理由でありますならば、私は年末手当は出せなか
つたのじやないかと思う。ところが年末手当の線までは可能である。その上に一億二千万円乗つかると不可能であるという点につきましては、私
どもも納得しかねるやに思うのであります。
なお次に、皆様方の御
理解に多少の助けとなるために、今の
專売の
経理状況をきわめて簡単に一括して申し上げようと思うのであります。
專売にはただいま正確な原価計算はできておりませんし、またいろいろこまかい点もございますが、そうい
つたことはあまり実際の御
審議には必要でなかろうかと
考えますので、私が私なりに我流ではありますが、や
つたものを申し上げようと思います。タバコは申すまでもなく光とかピースという高級品と、ゴールデンバットその他によりまして、益金が違います。しかしこれをならしまして、みんな一本にして
考えてみた方が簡單だと思いますので、そうい
つた形にして、光五十円というものにならして
考えますと――
現実の光の計算ではありません。タバコというものを光に代表させて
考えるといたしますと、光が五十円の場合に、この中に益金が約三十七円、四分の三が益金にな
つております。実際の
專売局の原価は、私の計算では約十円ということになります。残りの三円はタバコ屋の販売手数料です。その十円の中で葉タバコの原料代すなわち耕作農民に渡すものが五円五銭というそろばんが出ました。そのほかに紙代、箱代その他の副材料みたいなもので一円十三銭、それからこれをまた運送したり、保管したりするために八十六銭、なお、今の官庁会計の建前から、いわゆる工場その他の建設費が実はその年度の歳出となりますから、これが九十二銭ばかりになります。そのほかいろいろこまかいものがありまして、結局
労働者の賃金、
專売職員の賃金は八十銭であります。むろん必ずしもこの割合の小さいことが、問題を小さからしめるゆえんではございませんが、とにかく
日本の産業の中では、非常に労賃の割合が少い事業であるということは申し上げられると思うのであります。タバコ屋の手数料が三円、労賃は約八十銭であります。しかも今回のこの
裁定案は五十円のうちの約三銭であります。ごく達観いたしまして、どこからでも出せる程度の金じやなかろうかと思うのであります。現にこうい
つたことがございます。タバコ屋さんに対しましての手数料の話でありますが、これが以前は配給分は一割、ピース、光等の自由販売品は四%ということでや
つておられました。それをひつくるめますと五・九%になる。これではめんどうだということと、自由品が多くな
つた立場から、
公社がこれを六%に統一されたのであります。もちろん経理上もつともなことと思いますので、別にその点をとやかく申すのではありませんが、そのために
公社の損したものが年にやはり一億二千何百万円、ちようど今回の
裁定額に当るのであります。すなわちそれくらいの金額である。端数整理をどつかでやると、すぐそれくらいの金は出るとい
つた一つの例として、この機会にお耳に入れておこうと思います。
なお最後にもう一点だけつけ加えさしていただきたいことは、マ書簡との
関係であります。
公労法がマ書簡に基いてできたことは申すまでもございませんが、マ書簡は申すまでもなく、
国家公務員と
公社の
職員とを截然と区別しております。
国家公務員につきましては、
政府は国体交渉をなす立場にない。すなわち一九三六年の有名なルーズベルトの言葉を引用いたしまして、
国家公務員は
国民の使用人である。
従つてこれの使用者は
国民である。いわば
国民代表たる
国会である。ゆえに
政府は、同じく
国民にサービスすべき立場として、これが
団体交渉をやる地位にない。こうい
つた有名なルーズベルトの言葉を根拠にして、あのマ書簡が出ておることは御
承知の
通りであります。一方
公社につきましては、これには
団体交渉を認めろ、団体協約を認めろ、こういう立場ではつきりうた
つてあります。
従つて国家公務員の給與につきましては、
国会が直接おきめになるということが、マ書簡の精神に沿うゆえんであるということは申すまでもありませんが、しかしながら
公社につきましては、
団体交渉できめるのが本則だろうと思うのであります。ところが、これはもちろん
法律問題でも何でもありませんが、ただいまの運用で参りますと、結局賃金に関しましては、全部
国会でおきめ願う結果、
国家公務員と
公社の
職員とは何も差がない、こういうことになりはしないかということを、私は憂うるものであります。特に明年度の
予算総則にはつきり條文が入りまして、
公社につきましては給與総額は幾ら幾らである、これを一円上げる場合にも
国会がきめる、こうい
つたような案が出ておるようであります。これは行政改革にもないとかいう話でありますが、
公社にだけそうい
つたような條文が入りますと、これは少くとも給與につきましては結局
国会でおきめ願わなければならぬ。私
どもは
国会でおきめくださること自身が、必ずしも本質的にどうという
意見ではございませんけれ
ども、とにかくマ書簡といたしまして、
公務員と
公社との截然たる区別という見地から申せば、そこに御
検討の余地があるのではなかろうか、かように存知まするがゆえに、あえてつまらぬ一言を申し上げた次第であります。これをも
つて終ります。