○工藤
公述人 昭和三十四年以来、健全財政の
方針がとられており、二十五
年度の
予算案におきましてはさらに一歩前進したように看取いたしております。この問題に関連しまして、海外からも
日本財政は健全であるというおほめの言葉をいた美いておりますが、
現状では少しくすぐ
つたいような気がいたします。国民
経済が健全になり、その上に健全財政が打立てられまして、初めて真の健全財政と言うことができるのであります。それまでの
状態に達しますまでには、今後相当長い期間われわれの非常な努力を必要とすると思います。ただいまやられております健全財政なるものは、どちらかと申しますと、国民
経済を安定に導き、健全に導く
一つの手段として用いられておると思います。そのために
政策に大きな変換が行われ、それを強行いたしましたために、産業界には相当の重圧がかか
つており、またそのしわは金融界に寄せられておるというのが実情であろうと思います。従
つてこの
予算案の実行にあたりましては、
説明書にもありますように、「
経済基盤の
充実と
輸出貿易の振興とを基軸として、
経済の合理的かつ自主的運営態勢を推進する」こういう
方針でや
つていただかねばうまく行かないのではないかと
考えております。
次に国民
経済を育成するという
考え方、すなわち
予算そのものはやや消極的でありますが、これを動かす場合には相当積極性を加えていただきませんと、国民
経済が不幸にしてもし破綻するような場合には、せつかくの健全財政も砂上の楼閣になるおそれがあると思います。今度の
予算を見てみますと、財政面では資金の引揚げが非常に多額に行われます。従
つてこの引揚げた資金を円滑に
経済界に還元することが行われませんと、
経済界はそのために非常な支障を来すわけであります。ところが従来の実情から申しますと、必ずしもそう行
つていないうらみがあります。たとえば対日援助見返資金のごときは、二十四
年度の第一・四半期におきましては、ちつとも経浩界に出ておりません。最近やや円滑をとりもどしておりますが、それでも私は不十分であると
考えております。またもう一面は、これもだんだん緩和せられておりますが、
税金の徴收が季節的に一時期に集中いたしますために、国民
経済を非常に不円滑ならしめる結果を招来いたしております。要するにこの
予算の運営面につきましては、今申し上げたような点を十分御
考慮願
つてや
つていただく必要を痛感いたしているわけであります。
産業の面から申しますと、今後
日本の
経済界にはプラス、マイナス、いろいろの相矛盾する要素が錯綜しておりまして、その見通しはなかなか困難であります。この
説明書に示されております
予算の基礎と
なつた諸
條件には物価ぼ大体横ばい
状態を続ける、給與
水準は
現状を維持する、
経済統制はだんだん整理して行く、貿易の面につきましては、
輸出入合計において約二割の増進をする、こういう
考え方のようであります。そのほかの
説明は省略されておりますが、おそらく
生産面につきましては、例のセメント四百万トン、普通鋼材二百五十万トンという線から、
生産も二割くらい増進する計算にな
つていると思います。こういう要素から国民所得を三兆二千五百億円に計算いたしまして、税額その他が割出されていると思います。
租税及び印紙
收入四千四百四十六億円は、財政
收入全体六千六百十四億円に対しまして、三分の二以上の多額を占めるのであります。前
年度に比べまして七百十三億減少いたしておりますが、これは主として基礎控除、扶養控除、勤労控除等の控除額の増大と税率の軽減から来ていると思います。従
つてその計算のもとにな
つております
経済諸
條件及び国民所得は今申し上げた金額だろうと思いますが、その基礎にな
つている
経済諸
條件が見通しの
通り達成できるかどうかは、今後の運営いかんにかか
つて来るわけであります。現在物価面におきましては、
生産原価を割
つた投売り的な不健全な物価下落が生じております。これが一時的現象にとどまると非常にけつこうなのでありますが、もしそうでないといたしますと、勢いこれは
生産意欲にも影響を持
つて来るのでありまして、その面からはたして
生産が増大して行くかどうかということについても、危惧の念があります。また貿易の問題につきましても、
国内だけでなく、海外の
事情その他から申しまして、その進展にもなかなか困難があります。また最近の不況から失業者の数もふえておりますので、それらの人の所得も減少するわけでありますから、国民所得についてもこれらの点が
考慮に入れられなければならないと思います。従
つてもし予想しておりますような
租税收入を確保いたしますためには、やはり
生産活動、
経済活動を旺盛ならしめるような、積極的にこれを推進する手段がとられなければならぬと
考えるのであります。二十五
年度の産業資金につきましては、長期資金は大体千二百四十億、短期資金は三千七百十七億見当が押えられていると私は推定いたしておりますが、もし物価
水準、賃金
水準等にかわりがなくて、貿易が二割増進し、
生産が二割増大するということでありますならば、二十四
年度よりも約六百億少い運転資金三千七百十七億では、当然これは足りないのではなかろうかと
考えているわけであります。従
つて今後の財界の見通しは非常に困難でありますが、もし歳入に盛り入れてあるような税及び印紙
收入を確保いたしますためには、どうしても積極的に
経済活動を盛んにするような方策が必要であり、それに関連して産業資金等も、もう少し豊富にする要があるように
考えます。
歳出の面で失業対策費が約四十億増加せられまして、八十六億六千四百万円になり、また
公共事業費も相当増加せられまして、九百九十億円ということにな
つておりますことは、
現状に即して非常にけつこうであると存じます。しかし失業対策費、
公共事業費ともこれだけでは満足ということができないのでありまして、昨年一年の間に
農村の人口が二百万人増加している点に、よく注意をする必要があるように
考えてお力ます。従来のわが国の風習で、失業者ができますと、みな帰農いたしまして、これが
農村経済を圧迫することになるのでありますが、統計上はそれは失業者として現われて来ない。こういう点もありますので、失業対策費は、できればもう少し増額していただく必要があるように存じております。終戰処理費が減額にな
つておりますことは、これはその好意に対しては、われわれは大いに感謝しなければならぬと
考ええおります。午前中も
近藤教授から問題に出されておりました
債務償還の点につきましては、私もま
つたく同
意見でありまして、
債務償還が一般会計において七百三十一億、特別会計において五百五十二億、合計千三百七十六億円計上されております。
説明書には單に財政收支の
均衡をはかるにとどまらず、消費インフレを押えて、資本の確実な蓄積を促進する
目的から、こういうことが行われたということにな
つておりますが、どうもその
説明だけでは私は不十分のように感じておるのであります。と申しますことは、
日本の戰後の
経済はまだまだ再興の第一歩を印しただけでありまして、そのために要する資金需要も厖大な額に上
つております。今後予定せられております
生産の増大による資金の需要はもちろんでありますが、電力開発、造船、あるいは国鉄の電化等に要する新しい建設資金が、相当の金額に上
つておるのであります。さらに経営の
合理化ということが従来非常にやかましく言われておりますが、遺憾ながらまだ不徹底にな
つております。すなわち設備の補修、改善及び機械設備その他の取りかえがほとんどできていないのであります。この
状態では
生産原価を安くし、国際的に競争をして行くことが非常にむずかしくな
つて参ります。従
つてこの方面に相当長期の資金が需要せられておるわけであります。また一面昨年の四月以来安定
政策が実施せられますと、
経済界はどうしても一応不況に見舞われなければなりません。そういう実情にな
つて参りますと、普通の金融機関ではなかなか資金が放出しにくくなります。安定
政策が進展するに従
つて、銀行の融資限界はだんだん縮ま
つて来るのが常識であります。従
つてこういう際に、ノーマルな
状態のときのように、普通の商業銀行を動かして産業金融をまかな
つて行くという
考え方は、産業資金を供給するのにどうしても不十分な点を生じて来るのであります。この点につきましては、アメリカにもその例は歴然とあるのでありまして、一九二九年の世界不況の後、アメリカは景気の回復、購買力の増加等について非常にいろいろ
考えたのでありますが、結局その
状態においては、普通の銀行から資金を供給することは密易でない、こうい結論で一九三三年でありましたか、三年でありましたか、復興金融会社というものをつくりまして、財政資金をそこから放出して
経済の再興をはか
つたのであります。御承知のようにこの復興金融会社は現在においても財政資金をリコールして使いまして、大いに
活動をいたしております。アメリカの不況後に比べますと、敗戰後の
日本の
経済は雲泥の差があるわけでありまして、そういう実情のもとにおきましては、どうしても特殊の金融機関がありまして、強力な力を持
つているものが相当の危険を冒してや
つて行くのでなければ、
ほんとうの金融はできないのであります。こういう実情になりまして商業銀行の自由にまかしておきますと、資金は国民
経済を培養するような方向にはなかなか向きにくいのであります。どうしても資金は安全、有利、確実という原則に従
つて動きますから、国民
経済にプラスになるというよりも、むしろマイナスになる面の方に資金が動きやすい、こういう結果になりますので、見返り資金等から予定せられております
政府の
債務の返済につきましては、少くともその三分の一、二分の一
程度のものは直接産業界に投資せられるようにお
考えが願いたいのであります。さつきも申し上げましたように、二十五
年度の
予算は一般的な感覚といたしまして、少し消極性が勝
つておるように私どもは感じております。しかし消極的に
予算を組むということが、必ずしも健全財政と一致するとは限らないのでありまして、国民
経済が健全になり、財政の
收入も自然に増加して来る。こういうことが結局において望ましいのでありまして、また戰後の実情から申しますと、そうしなければ国民
経済の維持がむずかしいのであります。従
つて債務を償還し、それによ
つて普通金融機関の融資能力を増加して、それから産業融資をやるというこの間接的なやり方では、満足のできるような産業金融はむずかしいと
考えておるのであります。援助見返り資金から公債の償還が五百億は計上せられております。私は少くともそのうち二百億円あるいは二百五十億円は直接産業に振り向けていただくようお願いいたしたいと
考えております。またそれに加えて最近のような実情にな
つて参りますと、普通の金融機関は出しにくい面が多々あるわけでありますから、特殊の金融機関、すなわち復興金融金庫のような機能をもう一度生かしで、それによ
つて日本産業の復興をはかるということがどうしても必要じやないかと
考えております。簡単でありますが、私の
公述を、これで終ります。