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1950-02-03 第7回国会 衆議院 予算委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年二月三日(金曜日)     午前十時四十八分開議  出席委員    委員長 植原悦二郎君    理事 池田正之輔君 理事 尾崎 末吉君    理事 上林山榮吉君 理事 小峯 柳多君    理事 苫米地英俊君 理事 川上 貫一君    理事 圖司 安正君 理事 今井  耕君       淺香 忠雄君    天野 公義君       井手 光治君    江花  靜君      岡村利右衞門君    小淵 光平君       角田 幸吉君    北澤 直吉君       小金 義照君    小平 久雄君       坂田 道太君    高橋  等君       玉置  實君    中村 幸八君       永井 英修君    丹羽 彪吉君       西村 英一君    松浦 東介君       松野 頼三君    松本 一郎君       南  好雄君    稻村 順三君       西村 榮一君    武藤運十郎君       北村徳太郎君    中曽根康弘君       林  百郎君    米原  昶君       奧村又十郎君    小坂善太郎君       山本 利壽君    平川 篤雄君       松本太郎君    黒田 寿男君       世耕 弘一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  吉田  茂君         国 務 大 臣 殖田 俊吉君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君         文 部 大 臣 高瀬荘太郎君         農 林 大 臣 森 幸太郎君         通商産業大臣  稻垣平太郎君         運 輸 大 臣 大屋 晋三君         郵 政 大 臣         電気通信大臣  小澤佐重喜君         労 働 大 臣 鈴木 正文君         建 設 大 臣 益谷 秀次君         国 務 大 臣 青木 孝義君         国 務 大 臣 本多 市郎君         国 務 大 臣 増田甲子七君  出席政府委員         (條約局長)         外務事務官   西村 熊雄君         (主計局長)         大蔵事務官   河野 一之君         (銀行局長)         大蔵事務官   愛知 揆一君         通商産業政務次         官       宮幡  靖君         経済安定政務次         官       西村 久之君  委員外出席者         專  門  員 小林幾次郎君         專  門  員 小竹 豊治君     ————————————— 本日の会議に付した事件  昭和二十五年度一般会計予算  昭和二十五年度特別会計予算  昭和二十五年度政府関係機関予算     —————————————
  2. 植原悦二郎

    ○植原委員長 これより会議を開きます。  通告順によつて質疑を許します。西村榮一君。
  3. 西村榮一

    西村(榮)委員 與えられた時間内に総理大臣質問いたします。  まず第一に簡單事項質問申し上げたいと思います。総理大臣の大まかな御見解でさしつかえありませんが、お伺いいたしたいと思うことは、日華貿易の将来についてであります。これは私が賛言するまでもなく、つとに御了承だと思いますが、従来日華貿易わが国貿易比重占むる率は、三〇%の重要な率でございました。ジヨンストン報告によりますと、わが国貿易は十五億七千五百万ドルを輸出しなければ、日本国民生活最低が維持しがたいということが、昨年アメリカ陸軍省から公表せられたのであります。しかるに本年のわが国輸出計画は、わずかに六億ドルしか見積ることができない状況にあるのでございます。従つてジヨンストン報告書によるわが国国民最低生活を保障するための十五億七千五百万ドルの輸出のためには、日華貿易を至急再開いたしまして、その目的を達しなければならないと思うのであります。そこで私は時間の節約上私の希望を申し上げますれば、第一点においては、思想政治の対立はしばらくおいて、日華両国民の経済を連結するために、貿易再開を至急関係方面に要請することであります。第二点といたしましては、香港を中心とする三角貿易は、コスト、運賃等非常に高くつくのでありますから日華両国の直接取引といたしまして、政治思想の問題はあとまわしといたしまして、経済的な問題だけには商務官を交換いたしまして、貿易使節団あるいは領事貿易事務所等再開を至急懇請されてはどうかと思うのであります。それに対する総理の御見解を承りたい。第三点、輸出に対しては従来間接貿易といたしましても、戰略物資輸出は禁止されておるのでありまして、これは私は当然なことだと存じます。しかし戰略物資の認定の範囲がきわめてあいまいであるのであります。たとえて申しますならば、繊維品であるとかあるいは雑貨であるとかいうものは、純然たる民需でございますけれども中国に現在必要といたしておりますところの車両であるとかあるいは機関車であるとか、紡織機あるいはその他の機械類は場合によりましては、これ砥間接的な戰略物資とも見られるのでありますが、私ども日本工業中国経済現状から行きますならば、車両であるとか機械であるとか、あるいはそれに類する品物は、これは民需物資とみなされて、貿易の振興の比重が上るように、関係方面に懇請されてはどうかと思うのでありますが、総理大臣の御見解を承りたい。
  4. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えいたしますが、日華貿易は、これはお話通り日本として重要な一つの対象であることはもちろんでありますが、何分今の政情の安定しないときに、一方において貿易を促進するということは事実むずかしいことでありはしないかと思います。実際の事情は知りませんが……。しかし同時にこういうことは承知しております。ずいぶん密貿易が盛んだということは、これは事実であろうと思います。密貿易でありますからして、盛んなりと私が言うだけの何はありませんけれども、事実相当以上の物が、中国から入つて来ているようにも承知しております。それからたとえば開平炭のごときは、掘つて日本輸出したいという希望を持つて蓄積しておるということもあるようですが、これも持つて来るためには、いろいろな障害がある。これはむしろ中国側障害であつて開平炭鉱としては持つて来たいが、しかし来れないという事実はあるようです。そこでまず正式に貿易するというところまで中国政権が安定しないと、こちらでは希望してもできないことに結局なると思うが、政府としては、またGHQとしても、日華貿易は大事だということは承知しておるので、なお努めてくれておるようです。また番港との間にもいろいろな話合いをしているように承知しておりますから、決して司令部においても日華貿易を軽視していることはないと思います。しかし問題は相手の方にもあると思います。  それから商務官の問題、これも相手方によるわけで、今日権利としてわれわれが要求するわけには行きませんが、この問題も中国の問題はさしつかえありませんが、その他の国の問題としては向うが希望を持ち、こちらもむろん希望をしておりますが、順次実現し得るのではないかと思います。これは続くと思います。それから戰略物資、これは商工大臣からお聞き願いたいと思います。お答えするだけの材料を持つておりません。
  5. 西村榮一

    西村(榮)委員 次にお尋ねいたしたいのは、わが国外交基調は、何と申しましてもアジア重点を置かなければならないのじやないかと思うのであります。重点を置くということよりも、アジア外交中心として置かなければならないのではないかと思うのであります。こういうふうな意味においてこれを産業上から考えてみますからば、トルーマン大統領が非常に力を入れておられます後進地開発計画には、私は南方後進地開発計画の中には、日本技術工業をこれに活用していただくように懇請せられてはどうかと思うのであります。これは距離的に申しましても、工業の施設並びにその技術の現段階においても、日本潜在工業力南方地域開発には最も適当ではないか、これを懇請していただきたい、こう思うのであります。  それから次に第二点においては、外交基調アジアに置くというわが国外交方針がそこにありますならば、同時にこれはインドパキスタン、ビルマ、シャムインドネシア、その他におけるアジア諸国に対しまして領事貿易事務所等設置を、関係方面を通じて相手国に懇請して、もつてこの点から両国外交機関設置という段階に進められてはどうか、こう思うのでありまして、総理の御見解を承りたい。
  6. 吉田茂

    吉田国務大臣 お話のうちでもつてパキスタンインド関係は対日感情は悪くないことは事実でありますが、相当悪い国もあります。たとえばマレーなどは日本の船を寄せてくれないかという話をしましたところが、日本の船を寄せた場合にはクリーが働かない、まだ対日感情は決してよくなつておらないから、もう少し待たなければならぬという当局者の話もあります。シヤムはよいそうであります。けれどもインドネシアは私は相当悪いのじやないかと思います。フィリピンが悪いそうです、仏印もあまりよくないように開いております。でありますから、むろんそういう所にこちらの在外公館ができるということはけつこうでありますが、今のところただちにということはむずかしいのじやないかと思います。一番望みのあるのはインドではないかと思いますが、その他の所においては近くそういう公館を置き得るかどうかは、今のところは確信をもつてお答えができないのであります。シャムもいいそうでありますが、そういうような国以外を除くと、まだずいぶん相手方の対日気分が直つておらない。自分の方は戰災を受けたが、しかしながら敵国である日本の復興は、自分らよりよよほど早いなどということが、相当やきもちといいますが、そういうような気分がある。それからインドネシアに至れば、今民族意識を高めたのは、日本占領政策があるというように聞いております。しかしなるべく公館を置くことにはしたいと考えております。
  7. 西村榮一

    西村(榮)委員 その問題については一段と御盡力願いたいと思います。  次にお尋ねしたいことは、引揚げ問題とソ連に対する抑留同胞に対する損害賠償の問題であります。これは戰争終了後、かくのごとく長きにわたつて同胞が抑留されたということはあまり前例を認めません。同時にポツダム宣言第九條において明記されておる事項にも相反しておるのであります。はたしてソ連に抑留されておるわが同胞が、事情やむを得ず抑留されておるのか、他に合理的な事情があるのかということは調査しなければならないと思いますが、しかしながら一般社会通念に照し、国際慣例に照してみて、不幸にしてその遅延の理由が了承できないといたしますならば、これは明らかにポツダム宣言第九條において連合軍によつて認められたるごとく、各自の家庭に帰つて宇和的かつ生産的な生活を営むことができなかつたのでありますから、本人及び家族の上に生じた損害に対しては、不法行為によつて発生したものと考えて、当然その賠償を要求すべきではないかと私はかく考える。不法行為による損害賠償は申し上げるまでもなく、広く世界の文明諸国において例外なく認められた共通の法理観念でありまして、今日文明国家をもつて任ずるソ連においても、おそらくこの例外たり得ないと思いまして、これは要求することが日本政府の当然の権利なりと私は解釈いたすのでありますが、総理大臣はいかようにお考えになつておられるか。
  8. 吉田茂

    吉田国務大臣 引揚げ問題につきましては始終お答えをしますが、総司令部では非常に熱心にこの問題は再三再四取上げておつて、最近においても対日理事会シーボルト議長発言をされて、遂にソ連代表は退席するというところまで、熱心にシーボルト議長が取上げて、この問題を始終討議の中心にいたしておるのであります。総司令部においてこの問題を相当熱心に取上げておるという一面に、御承知のごとくいまだ外交関係に入つておらないソビエトに、直接交渉するということもできがたい現状にあります。そこで今のお話は、政府としては伺つてはおきますけれども、ただちにこれに対して私としてとやこうここでお話することはもちろん差控えたいと思います。
  9. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は将来外交が回復した場合、あるいは回復の交渉のせつなにおいて、この不当抑留者に対して損害賠償要求権利が、わが国にありという主張をいたしまして、総理はこれを記憶していただきたいということを申し上げておきたいと思います。  次に私が総理大臣に対してお伺いいたしたいことは、もちろん私は外交の問題はしろうとであります。同時に国際法は存じておりません。しかしながらわが国の大多数の国民は、外交しろうとであり、国際法を知らざる多数の国民でありますが、日本国民とし七重大な関心と感情を持つております。復つて私はそのしろうとである日本国民代表いたしまして、率直にその感情と疑問とするところを明らかにいたしたいと存ずるのであります。懇切な御答弁を煩わしたいと存じます。  まず第一に一お伺いいたしたいことは、昭和二十年九月二日に、ときの日本政府並びに大本営の代表によつて調印せられましたところのミズリー艦上における降伏文書は、国際法上の合意に基く條約であるか、あるいはしからずといたしますならば、歴史上、国際、法上におけるいかなる種類に属する協定でおるか、一応その点をお伺いしてみたいと存じます。
  10. 吉田茂

    吉田国務大臣 日本が全権と調印しているものでありますからして、これは合意に基く條約、こう解すべきものと私は思います。
  11. 西村榮一

    西村(榮)委員 合意に基く條約であるといたしますならば、それは一個の国際法によつて規定せられたものでありまして、同時にその條約は、カイロ宣言並びポツダム協定においてきめられた諸候件を積み重ねて、わが国が受諾したものでありますから、従来までの国民観念並びに政府が提唱せられた無條件的降伏であるから、いかなる命令、いかなる方針を授けられてもいたしかたがないのであるというふうな、従来の無條件的降伏であるからやむを得ないという観念は、ここに修正せられるようなことが可能だと考えるのでありますが、どうお考えですか。
  12. 吉田茂

    吉田国務大臣 九月二日の條約は、無條件降伏内容とする條約であり、日本政府としてはその條約の範囲内において拘束を受けると解すべきものである、こう私は思います。
  13. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はただいまの総理見解と同じように、これは合意に基く條約であるから、その條約の範囲内において拘束を受けるということでありますならば、今までの無條件的降伏というこの概念は、いわゆる有條件を無抵抗に受諾した、こういうような意味において解釈してよろしいか。
  14. 吉田茂

    吉田国務大臣 非常にむずかしいことになりますが、とにかくあの條約は、無條件降伏内容とした條約でありますから、実質においては結局無條件降伏になると私は思います。しかしこれは事態により問題によりますから、具体的問題についてお話を承りたいと思います。
  15. 西村榮一

    西村(榮)委員 そうすると、拘束を受くる範囲というものは條件に従う。有條件であるから、その條件従つて拘束を受けるものであつて、無條件的降伏だというので無制限命令は当然わが国は将来拒否する権能もあるし、あるいは将来の講和会議に対しまして、当然発言権ありと考えてもさしつかえありませんか。
  16. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは言葉の違いがあるかもしれませんが、とにかく日本が同意した條約の範囲内において、総司令部命令なり、連合国命令なりというものは、その條約の範囲内において、日本は無條件に受諾しなければならぬと思います。
  17. 西村榮一

    西村(榮)委員 條約の範囲内において命令を受諾し、かつまた法律的な拘束を受けるといたしますならば、私はここに将来この條約外の命令が発せられた場合には、当然これを拒否する権能日本国民にはあるし、同時に條約の中には講和会議に対して発言権限範囲、それらは定めておらないのでありまして、これに対してわが国は、しからば條約の範囲内においては、当然これは講和会議に対する発言権、ないし将来條約に基かざる命令連合軍からありましても、これを拒否する権能は、日本国民には法律的にはあると解釈してさしつかえありませんか。
  18. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは連合国といえども、その條約の範囲内において拘束せられるのでありますから、あとで具体的に申し上げてやりたいと思います。
  19. 西村榮一

    西村(榮)委員 私の申し上げておるのは、具体的な問題として講和会議に対してわが国発言権があるのかどうか。同時に将来その法理に基かざる命令を受けても、それを拒否する権能があるのかどうかという点をお伺いしておるのであります。
  20. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは具体的問題として現われたときにお答えいたします。
  21. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は法理的な解釈を今総理大臣にお尋ねしておる。わが国講和会議に対する発言があるのかないのかということは、総理大臣は條約に基いて拘束を受けるのだと言われたのでありますから、その條約の解釈上、講和会議に対する発言権があるのかどうか。あるいは将来條約以外の命令を受けても、この命令を拒否する権能日本にあるのかないのか、法律上の解釈をお尋ねしておるのであります。
  22. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは法理論なら答弁をお嵌りいたします。しかし原則論としては、條約は締盟国の間において相互を束縛する義務がありますから、條約の範囲内において、相手方拘束を受ける、こちら側も拘束を受ける。またその條約以外の問題については、日本政府としては抗議をすることもできますれば、拒否することもできます。
  23. 西村榮一

    西村(榮)委員 大体わかりました。私は今條約上の解釈として、総理答弁講和会議に対しては條約上から見る場合においては、講和会議に対してわが国発言権あり、同時にその條約に基かざる命令に対してはこれを拒否する権能がある。こう総理大臣お答えなつた。こう解釈してさしつかえありませんか。
  24. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の申しますのは、條約がすべての問題の基準になる。その範囲内において政府拘束を受ければ、ま大主張もできる。こういう解釈です。
  25. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はなぜこの点をしつつこく総理にお伺いするかといいますならば、将来の講和会議の方式並びにわが国あり方につきましては、非常に重要性がありますから、しつつこくお尋ねしたのであります。その私のお尋ねした目的とするところは、本日の論議において明らかになつたのでありますが、無條件的降伏という概念で、何でも命令されればやむを得ないで、これを受諾せざるを得ないということ。これは私は現在の文明社会において通用ぜざる考え方だと思つてつたのであります。これが総理のただいまの御答弁に基いて、そういうことではないということが明らかにされたことは、まことに喜びにたえません。もしも従来の政府並びに一般に流布されておるごとく、無條件的降伏であるから、何を命令されてもいたしかたがないということでありますならば、従来の観念からしますならば、わが国はこれは征服併合せられた実質を備えるのであります。少くとも私の解釈は、今は日本占領せられておる。占領せられておるといたしますならば、それは主権人格は認めばするが、軍事上その主権の行使に対して一定の制限を付しておる、拘束しておる。しかし基本的には相手人格主権を認めるというのが占領である。相手主権人格を認める間は、これは会議における契約でなければならない。その契約に基いて命令が発ぜられ、その契約に基いて発せられる命令について被占領国たる日本拘束を受ける。もしもこれが征服合併であつて、絶対命令権が行使されるということになれば、それは法律的な拘束は、わが国は受けないのであつて、その命令の違反に対して力関係から来るところの懲罰はあり得るけれども、法律的な拘束力はない。私はこう考えておつたのでありますが、ただいま総理大臣答弁の中に、私は重大な点が明らかになつたことは喜びにたえません。総理大臣答弁の中には、いわゆる日本占領されておるのであつて、征服されておらないという性格が明らかになつた。同時に占領されておるのであつて、その命令、あるいは占領政策といろものは、いわゆる條約に基く範囲内における命令であつて、これ以外の命令は拒否する権能はあり得るのだということが第二点において明らかにされた。同時に講和会議に対してわが国発言権があるという点も、大体了承なさつたようでありますが、私は今質問を通じて——時間もございませんし、他の同僚が待つておりますから、私の結論に入りたいと思いますが、さような点に今の総理の御答弁解釈して私の質問打切つてもよろしいかどうか。
  26. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の言つたことの解釈は御自由でありますが、私は條約の範囲内において連合国調印国相互義務を受ける。従つて権利もある。こういう解釈であります。
  27. 西村榮一

    西村(榮)委員 大体わかりました。私の意見と同じであります。答弁も同じであります。これは日本のためにまことに私は喜びにたえないと思うのであります。  この際総理希望を申し上げておりまずならば、かくも明確なる法理的な解釈を持たれ、政治的な見解を持たれるにかかわらず、吉田総理の言説並びにあなたの率いられる閣僚は、占領されておるのだから、いたしかたがない、無條件的降伏をしたのだからいたしかたない。何でもその一言で片づけて、深く本質を掘り下げなかつたところが今日までの弊害であります。私は今後におけるわが国が、この国を再建して行く大方針としては、今の総理答弁を堅持して行つてもらいたい。同時に総理大臣に対しましてなお希望を申し上げておきたいことは、総理大臣みずから肯定されたことく、わが国は征服併合せられておるのではない。占領されて制限はされておるが、主権人格は認められておるのであつて、その條約に従つて相互権利義務が生じておるのである。この点を明らかにされたのであります。従つてわれわれはここに占領されておるとは言いながら、人格主権が認められておるのであります。私はこの人格主権制限つきであるけれども、認められたという現実に立つて、つらつら西ドイツやり方わが国やり方とを考えてみますならば、反省すべき幾多のものがあるのではないかと思うのであります。一例を申しますと、西ドイツ総理大臣が議会において報告しておる言葉の中に、いかなる言葉を使つておるかと申しますと、自分は目下米英仏三国とは工場解体の問題、その他西ドイツ経済あり方の問題について、交渉中であるという言葉をしばしば使われておるのであります。あるいはまた米英仏三国におきましても、この工場解体賠償緩和等につきましては、パリで会談を開きましても、その結論を得るや、パリ西独総理大臣を呼びつけるということをせずに、みずから代表をボンに邊つて、その結論をつけて、ここに西ドイツ米英仏三国の代表たちが、相互に対等の立場において、交渉を続けられて、その結果を西ドイツの国策とせられておるのであります。私はこれらの点を考えてみますならば、もちろんいくさに負けた今日における力の相違はございますけれども国際関係は道義と正義と国際法理従つて事を処理いたしますならば、ここに私どもは従来の観点を捨てて、人格主権を認められたという上から交渉するという段階と矜持を持つて外交に臨むことが当然ではないかと思うのでありまして、こついうふうな外交あり方を私は総理大臣に切望いたしておきたいと思うのであります。私はこの希望だけを申し述べて、外山問題に関しまして、一応総理大臣に対する質問を打切ります。  ただ私は簡單に、あなたの閣僚意見を統一してもらいたいという希望的な意見を開陳するとともに、あなたに御所見を承りたいと思うことが一点あるのであります。それは昨日も大蔵大臣並びに通産大臣に対しまして私はかような質問をいたしました。その質問の要点は、今戸の中小工業者は非常に窮迫しておる。そこで中小工業者に対して運転資金並びに設備資金は四百六十億円が現在必要とせられるけれども、これは政府において、通産省において二百八十億円を、本年度内必要額として査定いたしまして、とりあえず百五十億円を中小工業の設備資金並びに運転資金に国家資金を放出するということに、昭和二十四年八月八日の閣議において決定せられたのであります。この決定の施行に対しまして、大蔵大臣通産大臣もそういう決定は記憶がないという御答弁でありました。私はその百五十億円が閣議決定されて、中小工業者が困つておるがこの閣議決定をいかに予算の上に生かし、いかに具体的な政策の上に生かしていただいたかということを質問したのでありますが、所管大臣たる大蔵大臣並びに通産大臣もこの閣議決定を御存じないという御答弁でございました。閣議というものはさような軽いものであるかどうか、同時に閣議で決定されたものが、なぜそのように軽く扱われるのか、同時に自分の所管事項を両大臣とも知らぬうちに閣議が決定されるということがはたしてあり得るか七こういうふうな点について総理大臣の御所見を承りたい。
  28. 吉田茂

    吉田国務大臣 閣議は決定しておらないそうであります。事実を取調べてお答えいたします。
  29. 西村榮一

    西村(榮)委員 閣議決定しておらぬということは、それは通産大臣としては言えないと思う。あなたの方の通産省のお出しになつておる公報の中にちやんと書いてある。この公報が誤りですか。
  30. 稻垣平太郎

    ○稻垣国務大臣 昨日西村さんに私はお答えしたと思いますが、閣議でさようなことを決定した記憶がございませんとお答え申し上げました。但し、その際申し上げましたように、閣議におきまして報告をいたしましたことはあるのであります。その報告があなたの今おつしやつたような問題について報告をいたしておつたのであります。そこで今お示しになつておる書類には、早々の際で、ことに断り書きまでしてありますが、はなはだまとまつていない云々と一番初めのページに断り書きもしてあるようでありますが、その点についての記録間違いがあつたと存ずるのであります。記録間違いについてははなはだ私は遺憾と存じます。
  31. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は政府が世人を惑わす怪文書のようなものをお出しになることを不思議に思うのでありまして、総理大臣もよくお耳にとめていただきたいことは、通産省からお出しになつておる中小企業に対する金融課から出た中において、簡單に申しますと、中小企業金融緊急対策という中に、昭和二十四年八月八日閣議決定としてあります。私は総理大臣の手元にまわしてもよろしい。閣議決定とされております。この中に中小工業者に対しては二百八十億円の設備、運転資金が必要であるけれども、とりあえずさしあたり国家資金百五十億円を放出して当面の緊急対策とするということをここに書いてある。特にこの報告は閣議の決定を記録した報告をずつと書いてある。私は一体通産大臣の監督下において、こういうふうなものを、閣議の決定もしてないにかかわらず、役所の公文書として何がゆえにこういう怪文書をお出しになるか、その責任を問いたいと思う。
  32. 稻垣平太郎

    ○稻垣国務大臣 閣議の決定というその言葉が非常に誤りをもたらしたと思うのであります。きのうお話がありましたから、記録を調査いたしてみましたが、閣議にその問題を報告いたして、中小企業庁において調査の結果、これだけの融資が必要であると思うので、それに対するところの報告をいたしますと同時に、当時出席の閣僚に対して御了承願つたのであります。しかしながらそれをその通りに実行するとかしないとかいう問題を閣議決定に至らずしておるのでありまして、了承事項であります。それに対してそれを発行いたしました中小企業庁とわれわれの方の連絡に非常な遺憾な点がありまして、閣議に報告いたしたのを決定事項と誤り記載したことについては、はなはだ私遺憾と存じております。
  33. 西村榮一

    西村(榮)委員 それでは中曽根君からおれにまわせという交渉がありましたから、野党同士の同盟のよしみをもちまして打切りますが、私はここに明らかにしておきたいことは、この文書の問題につきまして私は食い下るつもりではありません。しかし通産省の事務当局がここに絶対最低額が必要なりとして、この公文書は閣議決定としてあります。決定事項になつておる。閣議の申合せ事項になつておらない。この文書を見たときに、中小工業者は何と考えますか。さだめし閣議で決定されたと思うであろう。従来中小工業に対する非常な熱意ある対策を持つておるということを、しばしば民自党並びに現内閣は宣伝されている。しかるにかかわらず、これに対して通産大臣大蔵大臣は何らの記憶もなかつたと昨日は答弁された。きようはそういうふうな了解事項あるいは申合せ事項はあつたがというふうなことでお話なつしおるのでありますが、このことから申しますならば、直接中小工業の指導監督、あるいは折衝に当つておる事務当局は、つとに百五十億円というものが最低必要であるという見地に立つて、これは閣議決定なりと解釈してこの文書を発表したものと私は思うのでのります。従つてこの文書の公表を見た中小工業者は、これで一応救われるのではないかというふうな大きなる期待をかけたにかかわらず、関係閣僚お一人は御存じない。しかもこの問題については今日まで半年間そのまま等閑に付せられておる。こういうふうな事実から考えまして私は率直に申しますならば、従来中小工業者に対する救済策、あるいは中小工業者の繁栄策というふうなことはこれから宣伝なさらぬがいい、こう考えるのであります。さような熱意がないから通産大臣の頭からもこの問題が薄らいでおる。大蔵大臣の頭にも百五十億円というものの融資が頭にない。閣議の決定でなくとも関心を持つならも何とかしなければならぬとか、あるいは削減してでも、この目的の一部分でも達成しなければならぬというところの記憶が、通産大臣並びに大蔵大臣において頭にありますならば、きのうの私の質問に対しては明瞭に答えられたはずであります。事務当局に、お帰りになつてきよう初めてこれを聞いて来られたということは確かに関心がなかつた。従来の宣伝は軍に党利党略の宣伝以外にはないということを考えますならば、中小工業者対策に対しては、あまり大きなほらはお吹きにならぬ方がいい。同時に総理大臣に対しまして御希望を申し上げたいことは、かような政府の中に怪文書のようなものが出るようなことは、かたくあなたの独裁力をもつて統御せられる必要があると思うのでありまして、この点を御希望申し上げます。同時に私は中小工業——九八%の工場数を占め、生産六四%、雇用量六七%の日本産業の基幹、基礎をなすところの中小工業者に対して、過去のから宣伝にも似合わず、現内閣は関心が薄かつたということを、ここに明らかにいたしまして私の質問を打切ります。
  34. 植原悦二郎

    ○植原委員長 中曽根康弘君。
  35. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣質問を申し上げます。その前に簡單なことをまずお尋ねいたしたいと思うのでありますが、この間の講和條約に関する本会議質問の際に、わが党北村最高委員総理大臣に御質問いたしたのでありますが、遺憾ながら議場が非常に騒然として総理大臣すら聞き取ることができなかつた。この問題については與、野党おのおの責任はあるでございましようが、私は国会全体の名誉のために悲しむのであります。私はここで責任を追究するようなことは申し上げません。ただ国会のためにこういうことが将来起らないようにぜひしたいと思うのであります。総理大臣は絶対多数党の指導者でありまして、国会運営のキイ・ポイントにおられる方であります。そこで今後あのようなことを起さないように、どういうような御所信で議院運営を円滑にすることを党に御指導なさるか、また国会に対して要望なさるか、まず総理大臣の御所信を承りたい。
  36. 吉田茂

    吉田国務大臣 われわれも指導いたしますが、あなたの党においても指導していただきたいと思います。
  37. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は與党、野党に責任があるというようなことを言つておるんじやないのです。あの事態は国会として遺憾であつたから、今後両方で気をつけようじやないか、こういうことを私は言つておるのであります。しかも総理大臣は絶対多数党の指導者であつて、非常に大きな影響力を持つておる方だから、あなたの御信念を承りたい。こういう意味で申し上げておるので、何も野党攻勢として食いつこうと思つて申し上げておるのじやないので、もつと虚心坦懐に御答弁くださらんことを希望するのであります。
  38. 吉田茂

    吉田国務大臣 私も虚心坦懐にお答えをいたします。どうぞあなたも虚心坦懐にお尋ねを願いたい。
  39. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次に簡單な問題を二、三まずお尋ねをいたします。追放解除という問題について、去年の夏以来も内閣は盛んに新聞その他に情報を漏らしておりましたが、最近の殖田法務総裁の談話によると、かなりの案件の審査が済んでおるということでございます。一体追放解除の問題は、大物はだめだが、小物は大丈夫らしいというのが大体の情報でありますが、今どういう段階にありますか、総理大臣の御見解を承りたい。
  40. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは交渉内容に属しますからして、答弁いたしかねます。
  41. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 交渉内容に属することを、あなたの部下の法務総裁が放言して、新聞に出すということは不可解であると思うのであります。法務総裁が言つておることと、あなたが今交渉なさつておることと、大体同じようなことでありますか、それとも違うよう心ことでありますか。
  42. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は新聞の記事については一切責任を負えません。
  43. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 恒例の答弁が出て来ましたから、これ以上私はこの問題は触れません。  その次に、先般一月十五日に行われた公務員の試験について、吉田内閣においては、多少修正したいという希望を持つておられた。われわれもあの問題につきましては内閣と大体同感であつたのであります。ところが試験の行われた結果を聞いてみると、やはりわれわれが予想したような不安な要素があるようであります。たとえば数字によつて人間を判定するというようなことや、あるいは人物考査の比重を單に身体検査程度にしか見ない、こういう問題は相当慎重に考えなければいかぬ問題であります。あの試験の結果をごらんになつて、もしそのような点において遺憾なことがあれば、これを修正するとか、何かの措置をおやりになるというお考えはございませんか。
  44. 吉田茂

    吉田国務大臣 ただいま人事院に対して試験の内容、試験の結果等について問合せ中であります。その答申を待つて政府も考慮いたしたいと思うのであります。
  45. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次は、この間の国会における総理の御答弁の中に、官吏の給與ベースは、人件費あるいは物件費の節約によつて、多少色をつけたいという御発表がありました。この問題は行政整理とひつからんで、おるいはまた出て来るんじやないかと思うのですが、昭和二十五年度において内閣は行政整理をおやりになる意思があるか、またそれこれいろいろなことによつて、官吏の給與ベース六千三百七円というものに対して、多少味をつけるような御構想があるか、承りたいと思います。
  46. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は行政機構といいますか、政府機構をもつと簡素化して、廃合なり何なりして、もつと国家の行政を簡素化することが、当面の急務だと思います。人員の整理もいたしますが、簡素化をするためには自然人員整理と申しますか、よつてつて政府の歳出をもつと減じてもさらに減税にまで持つて行きたいと思つております。その結果については今答弁いたしかねますが、方針としては行政機構をもつと簡素化する。従つて人員もこの際淘汰して減税にまで持つて行きたいと思います。
  47. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 現行の給與ベースに味をつけるというようなことはどうですか。
  48. 吉田茂

    吉田国務大臣 これも考えたいと思いますが、今のところ具体的に具体案を持つておりません。
  49. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その行政整理の問題とからみますが、地方の都道府県の区画をある程度整理する必要もあるという議論がありますが。地方行政会議でそういう問題を御検討になるだろうと思いますが、この地方の自治団体の区画整理の問題について、総理大臣はいかなる御所見をお持ちでございますか。
  50. 吉田茂

    吉田国務大臣 区画整理というとどういう意味ですか。
  51. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 行政区画の統合の問題です。
  52. 吉田茂

    吉田国務大臣 これもできればいたしたいと思います。地方庁ですか、どこかで研究しているはずです。
  53. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次に伺いますが、日本の自立経済という問題を相当重要視しなければならないと思うのであります。すでに御存じのように、西村君も中共貿易の必要性をとなえました。総理大臣が御廃棄になつた五箇年計画の内容は、それを目標にして昭和二十八年に大体昭和五——九年ベースに帰ろう、そのときには輸出入それぞれ十六億ないし十七億程度にしてバランスをとろうという計画であつたと思います。アメリカの援助もわれわれは毎年期待することはできない。そうだとすれば今後二年あるいは三年の間に、どうしても日本を自立する方向へ計画的に持つて行かなければならないと思います。そのためには一つは国内市場の開拓という問題もありますが、もう一つ大なき問題は、海外市場の開拓も日本貿易構造の変換というものがあるだろうと思います。われわれが聞くところによるとも中共貿易が円満に行われると、大体二億ドル程度の収支がある。そうして現在は大体三億二千万ドルの援助でありますから、貿易外収支の八千万ドルからあと一億ドルくらい伸ばせば今後自活ができるという構想も聞いております。将来日本を自立させるために貿易構造なり、日本経済環境というものをも年度別にどういう方向に持つて行くか、何年くらいで自立する方向に持つて行きたい計画であるか、総理大臣の大まかな方針を承りたいと思います。
  54. 吉田茂

    吉田国務大臣 むろん自立経済に持つて行くことも必要であり、またアメリカの援助資金も年々減じて行き、現に今年は減つたようでありますが、減るということも事実でありましよう。従つて日本としてはその自立経済をどうするかということが重大な問題で、政府としても相当増えますが、一つ考えなければならないことは、たとえばどこそこと貿易を今までやつたから、今日それを復活させようとか、あるいは中共とはこれだけの貿易をして、あそことは、これだけの貿易をするという計画がかりに立つても、日本の現在としては直接に交渉のできない状態でありまして、今のところ、いろいろな未定の問題がありますから、計画を立てようといつても、そうたやすく立てにくいのがほんとうであり、また立ててただちに変更するということもよろしくないのでありますから、計画経済はけつこうなことでありますが、現状においては幾多の未定の問題があり、不安定の問題があるのであります。従つて私は五箇年計画など立てるということはおかしな話だと思うのです。また三年計画にしても、この国際状況の変転きわまりなきときに計画を立てるということは、事実不可能なことと思います。でありますから、政府はこの国とこれだけの貿易をする、あの国とはこれだけの貿易をする、中国とはこれだけの貿易をするというような計画は立たないのがほんとうであつて、立てようとするのが間違つていると思います。
  55. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 計画には必ず齟齬がつきまとうものでありまして、この試行鎖誤をば漸次修正さして行くのが、計画の本質的なものであります。従つてくずれることは当然なんだ、くずれることを予想して計画をつくるべきものだ。しかし大まかな日本貿易構造を、たとえばドルからポンドに切りかえるというようなことを総理大臣としておやりになるというのは、何かやはり定見があつておやりになるのだろうと思うのであります。そういうような貿易構造の変換とか、日本国際的な経済環境の変換というものを、どういうふうに持つて行くか、その方針を聞きたいと思つておるのでありますが、総理大臣の御見解がありましたら承りたい。
  56. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は今立てるべきときでない、立てないのがほんとうであるという議論でありますから、あなたとは根本が違う。
  57. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 根本が違うならばもうこれ以上この問題は尋ねませんが、もう一つ大きな問題を承りたいと思います。  今年の下半期はかなり重要なときになるだろうと思います。というのは、いわゆる未開発地開発計画であるとか、あるいはことによればアジア・マーシャル計画というようなものはかなり具体化して来るのではないかと思います。われわれが聞いておるところによると、その場合に日本あるいはインド中心になるだろうと言われております。しかしわれわれが考えるところによれば、そういう企画能力があるのは、日本以外にはないのではないかと思う。そういう問題がおそらく出て来るであろうと思われるが、そのような事態に対して、日本政府としてはそういう企画を立てる必要があるか、またそういう用意があるか、この問題について承りたいと思います。
  58. 吉田茂

    吉田国務大臣 ただいまのお話はアメリカの計画を基本とするようでありますが、アメリカの計画は私は存じません。従つてお答えができない。
  59. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 アメリカの計画が基本になることはもちろんでありますが、しかしドイツの場合でも、あのルールの辺の復活の問題について、ドイツ人の企画能力というものはたいへん使われておるのであります。日本も今度の戰争によつてアジアの資源や何かのこともたいへん知つている。そういう点からサービスしてお助けすることはできるだろうと思うのであります。それをまた積極的にやることがいいことだろうと思うのでありますが、そういうおさしずや、助けてくれというような話があつた場合に、これに即応して受入れるだけの能力や用意が、日本の安本その他にあるかということをお尋ねしておるのであります。
  60. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは能力があることを確信いたします。しかしまだ注文もお尋ねも受けておりません。
  61. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 注文やお尋ねを受けていないと言われますが、アジア極東経済会議が行われておりますが、これから安本に対して資料の要求があつたということを私は開いております。あるいは国際連合からフランス人のマインハイマーという人が来て、やはりアジア経済の資料を要求しているということも聞いております。あるいはこの間ヴォリーズ陸軍次官が来たときに、バンコック会議に持つて行く参考資料を要求されたということも聞いております。これらのことは一連の前ぶれではないかと思つている。そのために聞いておるのであつて総理大臣自体が自分の内閣でそういうことをおやりになつているということを知らないということは、はなはだ遺憾に思います。  その次に伺いますが、今朝の新聞によると、ソ連が天皇に対して戰犯としての裁判の請求をアメリカにしておられるようであります。私はこの事態を非常に悲しむのであります。おそらく日本人八千万は、すべてこの問題を悲しみとしてとらえるだろうと思うのであります。幸いにアメリカの側においては、とれを拒否せられるような情報が新聞に伝えられておりますが、申すまでもなく日本の天皇は戦争には絶対反対し続けられて来た方であります。最後の終戦の前には、生命を冒してまでもこの終戰を断行された方であります。このような方が、一軍司令官その他がやる、細菌を使うとかなんとかいう作戰上の問題に御関係があろうとは、われわれは夢にも思わないのであります。このような事態に対して、総理大臣はいかにお考えになりますか。
  62. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見は御同感であります。こういうような問題が出ましたことは、はたはだ遺憾なことであります。しかし真相は今問合せ中であります。いずれ真相がわかりましたら御報告いたします。
  63. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次に承りますが、最近日本をめぐる国際環境を見てみますと、たとえば共産党側の陳営にしても、ウード総領事を逮捕するとか、あるいは北京の総領事館を接収するとか、野坂參三氏が怒られるとか、非常な刺激的なことが起つておる。また一方においては、アメリカの統合参謀本部の首脳部が続々日本に渡つて来て、あるいはバンコック会談、セイロン会談というものが行われておる。非常に日本をめぐる風雲も急になつておるようであります。この際日本人としては、一部には、どうも戦争の危険性がふえて来た——たとえば水素爆弾の製造というような問題も、相当刺激的な現象で為ろうと思うのであります。この中にあつて総理大臣は、アジアあるいは世界における国際関係はどのように推移して行くか、その大まかな見通しを日本国民に與えでいただきたいと思うのであります。
  64. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は、新聞以外に何らのも御承知の通り在外公館を持つておりませんから、諸君の考えられる判断以上に、私においても別段特にこういう材料からこうであるという、御説明するだけの材料を持つておりませんから、お断りいたします。
  65. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 材料を持つておられない、われわれと同じ程度しか日本総理大臣が知らないということは、私は非常に遺憾なことであります。少くとも総理大臣関係方面とも御接触になつておるだろうし、あるいはいろいろな筋から情報を収集しておられて、われわれよりも二日も三日も先に日本の前途というものを予知しておられるのではないかと思うのであります。はたしてわれわれ以上に情報も知らない、何にも接触がないというならば、外務大臣としての職責を果していない。総理大臣として日本国民の上に立つて政治を指導して行くだけの職責を果していないと思ろのです。はたしてこういう状態で総理大臣は今おいでになるのでございますか。
  66. 吉田茂

    吉田国務大臣 事実そういう状態におります。
  67. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は、ただいまの吉田内閣総理大臣のお言葉をまじめに聞きまして、日本国民八千万のために非常に悲しく思うのでおります。私は悲しみのために、これ以上質問する勇気がありません。この問題についてはこれで打切ります。  その次にお尋ねいたしますが、御存じのように、アメリカの統合参謀本部の首脳部がおいでになつております。あるいはセイロン会談やら、バンコツク会談が来月にかけて行われる。国際関係の風雲はまことに急であります。この中にあつて日本の自主独立に関するわれわれの願望、つまり講和会議に対するわれわれの願望というものを、いつわれわれは表明できるのか、いかなる方法でわれわれは表明できるのか。講和会議のときは、おそらくイタリアの講和会議の例でもわかるように、パリの平和会議で、ガスペリが行つて陳弁したけれども、もちろん聞かれなかつた。かれは悄然として帰つたと書いてあります。日本の場合も同じことであります。そうすると、われわれの願望をいつ言うかということが問題になるのであります。総理大臣は、十一月二十三日の私の予算委員会における質問に対して、こういうふうにお答えになつておる。本質的に申せば、無條件降伏をいたしたのでありますから、かれこれ注文を権利として主張することはできない、しかし国民希望なり、あるいは意見なりというものを全然無視した講和條約ができたとすれば、結局これは行われないことになつで、国際紛争が起きる、こうお答えになつておる。そうすると、希望意見の表明というものは、やらなくてはならぬ問題であります。講和会議のときまでそういう状態であるならば、一体いつ言うか。私は、私の貧しい考えから申しますと、セイロン会談あるいはバンコック会談もイギリスやアメリカの主催しておる会議の妥協点に、日本の自主独立の問題、あるいはその時期の問題が来るのではないかと思います。そうすると、その草案や構想を練つておる現在が、われわれの意見を表明する時期ではないか。もちろんわれわれは無條件降伏した国でありますから、愼まやかにやらなければならぬ。それはよく知つております。しかし何らかの形で、いついかなる方法で表明するか、この問題は八千万にとつて最も大事な問題なのであります。この問題に関して総理大臣は、日本国民にいかにお考えをお示しになりますか。
  68. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは、私が常に申しておるように講和会議が日々刻々あるのだ、国民はその希望なり、あるいは願望なり、自由に発表してよいじやないか。ゆえに、その形式を、こういうふうにしなければならぬとか、ああいうふうにしなければならぬとかいうことを私が申すべきでありませんが、しかし国民としては、自分希望なり、願望なりというものは、自由な形式において、いついかなるときにおいても発表せられて一向さしつかえないものと私は了解いたします。
  69. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 ただいまの総理大臣のお言葉に対して、私も非常に同感であります。しかし現在の国内の情勢を見ますというと国民の意思というものはあまり表明されておらない。それは相手を刺激するからという躊躇があるだろうと思うのであります。私は現在のバンコック会談や、あるいはセイロン会談の雲行きからすると、相当国民の輿論というものは自由に表明されてよろしい、むしろ政府や国会がまあまあと国民の肩をたたく程度まで行かなければ、私は時期を逸するのではないかと思うのでありますが、現在程度の国民の輿論の表明という程度ではたしてよいものであるか、どうであろうか。もちろん政府としても、これを強制するわけには行きません。しかし総理大臣として、現在のような輿論の状態ではたしてよいのであるか、あるいはもつと国民の自由な表明が積極的にあつた方がよいと思うのか、この点を承りたいと思います。
  70. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは、当局者として、国民の輿論を指導するとか、あるいは奨励するとかいうような政策はとらぬつもりであります。国民の自由意思で、自然に意思が発露せられ、輿論が形をとる、こういろ自由な発表、自由な形式でもつて発表するように期待をいたしますが、政府として、こうしたらよかろうと、指導するとか、命令するとか、奨励するとかいうことは、とらぬつもりであります。
  71. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 講和條約の問題につきましては、私はあとで私の見解を申し上げたいと思いますが、その表明の一つとして、オリンピックが来年開かれます。そのオリンピックに対して、どうしても私は日本を参加さしていただきたいと思うのでありますが、最近古橋選手の功績や、あるいはその他の問題で、日本の体育も相当発展しておるし、日本の平和愛好精神というものも、私は十分自由に表明されると思うのでございます。このオリンピック参加の問題、もう一つはユネスコに参加の問題であります。これも、日本国内においては世界連邦に対する関心も相当動いて参つておりまして、このユネスコ参加も非常な国民の熱願の一つであるだろうと思うのであります。このオリンピック参加とユネスコ参加に対して、政府はいかにお考えになりますか。
  72. 吉田茂

    吉田国務大臣 オリンピックの参加はけつこうなことだと思いますが、まだできておらぬそうであります。ユネスコの参加については、無條件ではなく、ユネスコの憲章にある通りの條件を備えなければならぬのでありますから、加入については有條件であり、この有條件については、日本の承諾し得る條件であるかどうか、これは具体的に問題が出たときでなければお答えができないと思います。
  73. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次に、日本人の要望に関する問題でございますが、ただいま西村君から御質問のありましたように、日本人として主張し得る限界という問題がございます。御存じのように、われわれはポツダム宣言、及びこれから出て来ているカイロ宣言に拘束されるわけでありますが、このカイロ宣言によつても、われわれはこういう保障を受けておる。それは、三大同盟国は日本国の侵略を制止し、これを罰するため今次の戰争をしておる、右同盟国は自国のために何らの利得をも欲求するものにあらず、また領土拡張の何らの念願をも有していない、こういうことをはつきり保障されております。それからポツダム宣言においては、要するに日本国民の自由に表明された意思に従い、平和的傾向を有し、かつ責任ある政府がつくられなければならない。こういうことも言われております。また民主的傾向の復活強化に関する一切の障害を除去すべし。こういう点からすると、私は連合国意見というものは、西欧的な民主主義というか、伝統的民主主義に沿つて、自由にして責任ある人格者としての日本をつくり上げる。こういうお考えであるように思うのであります。そういうようなお考えにわれわれは拘束されるわけでありますが、その際にたとえば日本にある軍事基地が設定されるとか、あるいは日本の領土がたとえ一時的なりとも、他国の管轄権に講和條約後服する、私はこういうことばポツダム宣言なり、あるいはカイロ宣言に、ある程度抵触するのではないかと思うのでありますが、この問題について総理大臣はいかにお考えになりますか。
  74. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは常に船答えをしているのでありますが、軍事基地の問題はいまだ政府として交渉を受けておりませんから、お答えをいたしません。
  75. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからばこの問題は除きまして、次に自衛隊の問題について承ります。総理大臣外交の堪能者でありまして、私はしろうとでありますから、総理大臣の御意見をお教え願いたいと思うのでありますが、日本に自衛権がありと総理大臣は演説でおつしやいました。われわれも同感であります。あなたが御存じのように、国際連合憲章によると、五十一條に集団的自衛権ということが認められている。これは第二次世界大戰後初めて認められた言葉であります。かくのごとき集団的自衛権というものを総理大臣はお認めになりますか。
  76. 吉田茂

    吉田国務大臣 当局者としては、集団的自衛権の実際的な形を見た上でなければお答えができません。
  77. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 国際連合に表明されているような、つまり連合憲章五十一條か示しているような集団的自衛権を認めるか、こういう意味であります。
  78. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは現にこういう自衛権を認めるか認めないかと言つて連合国政府から交渉を受けたときには、政府としては見解を発表しますが、お話のような問題に対しては、すなわち仮設の問題に対してはお答えいたしません。
  79. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 仮設の問題とおつしやいますけれども、私は外交界の先輩に対して、国際法上の解釈を教えていただきたいと申し上げているのであります。先ほども申したように、国際連合憲章五十一條には集団的自衛権というものがちやんと書いてある。われわれも独立国になれば当然こういう問題の渦中に入る。従つて講和條約に専心してもつぱら御研究なさつている総理大臣のことでございますから、私は当然御研究もあるだろうし、御見解もあるだろうと思います。この集団的自衛権という問題は、日本の独立後私はおそらく一番重大な問題になつて来る問題だろう。そういうところから私はお尋ねしているのであります。この問題についてこまかい問題がありますから、あとで自衛権のこまかい問題について西村條約局長にお尋ねすることにいたしまして、この自衛権の解釈の問題につきましては、あとに留保いたします。
  80. 植原悦二郎

    ○植原委員長 中曽根君まだあなたの質問はかなりありますか。あと十五分ぐらいで終りますか。
  81. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣に対してはそのくらいです。條約局長に対しては少しあります。
  82. 植原悦二郎

    ○植原委員長 総理大臣に対する質問は十五分くらいで終りますね。
  83. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 たしか十五分くらいで終ります。私の質問だけで、総理大臣答弁時間入れないで……。最後に講和会議の準備態勢についてお尋ねいたします。まず第一は前にも申し上げましたように、われわれは現在全面講和か、單独講和かなんということを論議するのはもつと将来の問題だ、もつと前に日本人としてしなければならない問題がある。それはわれわれの希望をいつ表明するか、いかなることを表明するかということと、それからわれわれはどういう態勢でこれを迎えるかという日本人自体の問題であります。この問題については、前にもお尋ねいたしたのでありますが、答えが明瞭でないのでまず第一に政治的な態勢について承りたいと思うのであります。われわれの考えは、講和会議に際しては日本人は挙国一致をしなければならない、挙国一致によつて野党、與党おのおの愛国心を貫いて分担しなければならない。與党には與党の使命があり野党には野党の使命がある。與党の言えないことを野党として願望を表明するということはあり得る。そういう意味で挙国一致をやらなければならぬ。それは必ずしも挙国連立内閣を意味しない、こういう考えを持つております。こういうふうな考えで、われわれは講和会議に前進して行きたいと思うのでありますが、総理大臣もそのようか御見解を肯定なさいますか。
  84. 吉田茂

    吉田国務大臣 よく御趣意がわからぬのでありますが、挙国一致内閣をつくれとでもおつしやればできないことだと思います。
  85. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 挙国一致内閣をつくれと私は言つておるのではないのです。愛国心を貰いて、国民が持場々々を分担しろ、そういうふうに国民全体が提携して行け。なぜ私はこういうことを言うかというと、総理大臣の今までのお言葉を新聞その他で聞くとも吉田内閣だけで講和会議をやるのだ、あるいは吉田個人で講和会議をやるのだ、こういうふうに聞える。しかしそれは吉田内閣でやつてもよろしい。そういう気が国民に満ちればよろしい。しかしその場合、吉田内閣は八千万の支持を受ける、少くとも圧倒的な支持を受ける、野党からもこの内閣ならやつてよろしいといろ支持を受けなければいけないと思うのです。そういうような大きな気持が内閣になくして、国民の支持や野党の支持まで受けることはできない。野党が支持するというのは愛国心のゆえに支持する。そういうような大きな気持で講和会議にお臨みになるのか、あるいは私の質問に対して、そつけなくぽいと答えるような、まだそのような小さな個人感情でこの問題をお考えになるのか、総理大臣の御見解を承りたい。
  86. 吉田茂

    吉田国務大臣 挙国八千万とともにやることができればまことにけつこうな、理想的のことと思います。しかしながら民自党内閣だけでもつて講和内閣を独占しようとか、私が独占しようとかいうようなけちな考えは持つておりません。
  87. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 けちな考えはないということを聞きまして私も了解いたしました。  その次に承りたいことは、講和條約を迎えるに際して現在の日本国民の心理状態も感情は現在のままでよろしいかどうかという問題なのであります。私は現在のような気持ではいけないと思うのです。少くとも講和会議のときには、日本国民が各戸に日の丸をあげる。日の丸には黒い喪章をつける。八千万が涙を浮べてその日を迎える。そのくらいまで気分が粛然としなければ、私は講和会議を迎える資格がないと思う。日本人は過去の大戰争において大きな罪悪をやつておる。その罪に対する贖罪意識というもの、あるいは過去四年間に、われわれが世界の信頼にこたえるために、どれだけのことをやつたかということに対する反省、そういう気持で、粛然として涙をもつてその日を迎えるようなところまで行かなければならないと思うのです。しかし日本人の現在の感情はそこまで行つておりません。このような感情のままに放擲しておいてよろしいと思われるか。それからもう一つ考えなければならぬことは、このことはわが党の北村最高委員が特に言おうと思つて、あの騒ぎで言えなかつたことでありますが、われわれは政治的独立を獲得する前に精神的独立を獲得しなければならぬということであります。ポツダム宣言その他に書いてあつてわかるように、民主主義というものは人格の尊厳ということが根底にあるのです。この人格の尊厳というものをまず日本人が獲得しなければならない。しかし現在の日本人の感情から言うと、そこまで行つていない。何でもいいからあるものにすがろう。自分の独立の主体性を獲得せずに、何でもあなたまかせの年の暮をやろう。こういう感情がこの四つの島に彌漫しておる。これを私は憂えなければならぬと思うのであります。私は、たとえ日本人は敗れたりとはいえ、われわれは過去において光栄ある伝統を有しておつた国民であります。その国民の意識というものは、決して、軍国主義や超国家主義だけではない、もつとりつぱなものもあつたはすだと思うのであります。最近のいろいろな新聞や何かによると、あるいは軍事基地であるとか、あるいは防衛であるとか、いろいろなことに惑わされてしまつて、その前に日本人自体が解決しなければならぬ問題が取上げられていない。私は日本があるいは同盟をやるとか、あるいは軍事基地が設定されるとか、いろいろな問題があるけれども、それらの一切の問題は、日本が完全なる自主独立を回復してからの問題である。精神的独立と政治的自主独立を完全に回復してからもそれらの問題が出て来べきはずであると思います。言いかえれば、日本民族の貞操を先に確立しろ、民族の貞操というものを先に確立せずして、そのような事態に臨む資格がないということを、私は訴えなければならないと思うのであります。たとえば軍事基地とか、あるいはその他の防衛の問題を言つておりますが、それらの問題はどういうことになるかというと、私はよく比喩で申しておるのでありますが、日本という女は前科一犯を犯した。前科一犯を犯した女が今収保釈になろうとしておるのである。前科一犯だから仮保釈になつて、これをある男が来て蹂躙しようとしてもしようがないのだ、こういう気持が国民にある。それではいけない。われわれは前科一犯をやつたけれども、しかし日本人として贖罪をやつておるのだ、新しい人格として出て来たのだ、そういうような意識がない。総理大臣は横を向いておられますけれども、これはまじめな問題ですよ。まじめな問題はまじめに聞いてもらいたい。(「例が悪いんだ。」と呼ぶ者あり)なぜそういうことを言うかというと、つまり日本を防衛しようという問題が一番大きな問題であります。しかし日本を防衛しようという問題であつても、日本人が道徳的勇気に基いて、この国土を守ろうという気が出て来なければ守れない。あるものの土俵になろふとしたり、あるものの傭兵になろうとするような安易な気持でこの国土が守れますか。日本人が自由を守るために、国土、伝統を守るために、真剣に死を賭してやるというほんとうの道徳的勇気が出て来なければ日本は守れない。それを持ち出すのが、それを生むのが、終戰四年後、われわれが最もやらなければならぬ問題であります。それが遺憾ながらまだ十分出て来ていない。私はこのような風潮は講和会議を迎える国民としては、はなはだ悲しまなければならぬと思う。総理大臣は現在の国民感情や、国民の風潮をもつて満足しておられますか。この問題について御見解を承りたい。
  88. 吉田茂

    吉田国務大臣 あなたが日本国民あるいは国家のために憂えられる憂国の至情については了解いたしますが、しかし私は日本国民は独立を要求し、自由を要求し、一日も早く講和状態に入り、講和條約を締締したい、この精神に燃えておるものと考えております。その点においては決して遺憾がないと思います。
  89. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 日本国民は燃えておるけれども、私に言わせれば、政府の要路者は燃えていないと誤解されておる。たとえば増田官房長官がこの間新聞に失言したということは何であるかというと、向米一辺倒だというあの態度は何かといえば、私に言わせれば、増田官房長官はかつて吉田家の家老であつた。今あるものの三太夫になろうとしておるではないか刀こういう非難が出て来ておる。私は少くとも政府の要路者は国民の師表に心つて、精神的独立だけはぜひ毅然として示してもらいたい。それによつて国民の勇気も出て来る。それがあやふやであるから私は申しておる。われわれ民主党が総理大臣言葉にいろいろ反感を持つたりかみついたりしておるのはどこであるかというとその点の誤解から多分に来ておると私は思う。そういうような日本国民としての毅然たる問題を、今後総理大臣の御施政の上に、率直に表明していただきたいとまず思うのであります。  第二の問題はその問題と関連いたしますが、最近の社会風潮を見ると、今の問題とひつからめてはなはだ遺憾にたえないものがある。たとえば学生の風潮を見ればどうかといえば、あの山崎という光クラブの社長の例が一番いい例であります。あるいは心中といういろいろな事件が、新聞に毎日たくさん出ている。太宰イズムというものが日本の国土をおおうている。これは決して正常なものではありません。南原総長がアメリカで演説をたさいました。あの中には、レフォメーシヨンも、ルネッサンスもないということを訴えられております。しかし人格の尊厳を守るような日本人は常々として努力しておるということも訴えられておる。しかしそういう努力をわれわれ日本人が過去四年間やつておるか。終戰後あのインフレーシヨンに災いされて、日本国民精神は堕落の方向に行つておるのではないかと思う。このような社会風潮をこのまま放任してよろしいか、内閣は社会教育政策として、この問題をどういうふうに収上げられますか。
  90. 吉田茂

    吉田国務大臣 国民の徳義の高揚には、政府として最も努め大いと考えております。
  91. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣に対する最後の私の質疑をいたします。それは講和條約に際してわれわれが何を望むかという問題であります。私が先ほど申し上げましたように、全面講和かとか單独講和かという條約締結の方式が、まず第一に出て来るのではないのであります。その前に日本人として何を要望肥するかという具体的な内容が用意されておらなければならぬ。この具体的内容が貫徹されるのは、全面講和によるのか、單独講和、集団講和、多数講和によるのか、それは第二の問題に出て来るのであります。そこで第一のわれわれの主体的要望をこの際申し上げたいと思うのであります。  その第一は、何といつても憲法を守れということであります。四年間国際関係がいろいろ流れてきた。しかし多少の国際関係の雲行きの変化によつて日本人が一旦世界に誓つたところのあの憲法の原則、世界の公理であるあの憲法の原則が、四年間くらいのわずかな風雲によつて動かされるということになつては、日本自体の国際信用にかかわると思うのであります。この憲法の原則を守らしてくれ、言いかえればあの憲法の内容は、日本の運命と世界の運命が一つだということから来ておる。その憲法の原則を守らしてくれということが大動脈であります。そこから具体的な講和條約に対する要望を申し上げたいと思うのでありますが、まず領土の問題については、われわれとしては台湾やあるいは朝鮮の問題はカイロ宣言、ポツダム宣言によつて制約されておる。しかし現在かつて日本の領有であつて管理されている所、たとえば沖縄だとかあるいは千島の一部あるいは小笠原あるいは北海道本島の一部の色丹、水晶列島といいますか、これらのかつて日本が領有し、ポツダム宣言やあるいはカイロ宣言に拘束されない日本近海の周辺の島というものはどうしても日本に返していただきたい。このことが第一であります。  第二の問題はも千島と樺太は御承知のようにポツダム宣言、カイロ宣言に拘束されないヤルタ協定の問題であります。この問題もやはり日本の領有する所は日本の領土である。従つてこの返還についても総理大臣の強い御主張を私は希望するのであります。  それから第三番目にこの領土の問題で触れたいと思うのでありますが、台湾の問題であります。アメリカは年来の門戸開放機会均等政策によつて、台湾に特殊的な軍事的経済的関係を設定しない、そこでトルーマンは台湾を放棄したというような情報があるだろうと思います。この態度は公平であります。私はそういう公平なことをやつているから、アメリカはあの道義的な戰争になつてあのものすごいような愛国心というものが発散するのだろうと思うのであります。われわれもそういう態度でこの台湾に対する問題をとりたいと思うのでありますが、歴史的に見ても台湾は経済的に日本と非常に関係のある所であります。従つて経済的な交流という問題については、私は台湾に関してはぜひとも特別の考慮を要請されたいと思うのであります。これが第一の領土の問題であります。  第二はおそらくイタリアの講和條約によつてもわかるように、政治條項が問題になります。この政治條項の問題についてはいろいろな問題があるけれども、特に申し上げたいと思うことは、一つは国内治安維持力の問題であります。現在の警察制度で私は十分とは思わないのであります。戰争前のあの精微な警察制度によつても、関東大震災になれば軍隊が出なければ警察は維持できない。警察は軍隊の上におどつている人形にすぎない。軍隊がない。しかも警察は戰前より弱体になつておる。今の十二万五千の警察力で、具体的に九州の一角に暴動が起つた場合には幾ら動員できるかというと、一万五千か二万しかできない。なぜなれば自治体警察で東京・大阪にあるものが一部転用できるだけであつて、あとのものは駐在所からひつこ抜いて来なければならぬ。常時移動できるのは一万か一万五千くらい、しかもそれは食糧の補給がついているかという食糧のストックは何もない。配給を受けてかついで行かなければならぬ。これが講和会議後も残るという状態では絶対に日本の治安は維持できない。自由にして責任ある政府というものは、外国の手先になつて転覆しようとするものを、自分で克服できるものが自由にして責任ある政府である。従つてそういうような力をぜひとも私は持つようにお願いしたい。  第二の政治上の問題は、自主独立を何とかしてやつてもらいたい。全面とか單独とかいう問題以外に、日本人の主体性を確立するという意味において、言いかえれば講和会議後は日本に対する内政干渉ができるだけなくなるように、内政干渉に関する煩雑なことがなくなるように、私は希望したいのであります。  その次の経済條項の問題につきましては、特にお願いいたしたいと思いますのは、人口問題であります。移民の問題であります。もちろんわれわれは人口調節によつてみずからもためなければならないことはよく知つております。しかしそれだけでわれわれは片づくものとは思わない。また移民によつて相当多くの人間を外に出せるということも、われわれはそんなに期待しない。しかしこれによつて打開し得るものは、日本国際社会に受入れられたといううれしい感情なのであります。そういうようか国際社会の一員として快く受入れられるというわずかな証拠でもよいから、移民を一方でも二方でも主万でもよろしい、国際社会の友情を見せてもらう意味において、私は移民の問題をぜひ取上げていただきたいと思うのであります。  それから経済のことに関連してもう一つ申し上げたいと思いますのは、歩の東京軍事裁判によつてもわかりますように、文明というものが一切の原動力になつておる。東條は文明の敵であるとして、彼は死刑になつたのであります。それでありますから、文明を発展させるためにいろいろなことが行われておる。学問の研究も行われておる。あるいはその研究の成果の利用も行われておる。この問題だけは日本人にも認めてもらいたい。具体的にいえば学問研究の自由であり、科学研究の自由であります。たとえば原子力という問題があります。湯川博士はサイクロトロンがないからアメリカへ行つて研究するよりしようがない。しかしこの原子力という問題は、国内の医療の問題にしても、食糧の問題にしても利用できる問題である。こういうような科学研究、原子力研究の自由というものを平和日本にぜひ認めてもらいたい。次には航空機の利用であります。われわれは敗戰国でありますから、航空機の製造や軍事化などということは毛頭考えない。しかし民間旅客の利用ということだけは敗戰日本にも認めてもらいたい。これは文明の名において私は認めていただきたいと思うのであります。  そのほかいろいろ申し上げたいことはございますが、特に以上の点は、日本国民の一人として総理大臣にお願いいたすのでございます。これらの問題について総理大臣はいかにお考えになりますか、御所見を承りたい。
  92. 吉田茂

    吉田国務大臣 講和問題についてはも私は意見を発表することを差控えますが、御意見は承つておきます。
  93. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 以上で私の質問を一応打切ります。
  94. 植原悦二郎

    ○植原委員長 中曽根康弘君の質問で條約局長に残つておる分は、午後劈頭に簡單にしていただいて、あなたの質問は終了といたします。  これにて休憩いたしまして、午後は一時半から再開いたします。     午後零時二十二分休憩      ————◇—————     午後二時開議
  95. 植原悦二郎

    ○植原委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  質疑を継続いたします。川上貫一君。
  96. 川上貫一

    ○川上委員 総理大臣に対して御質問いたしたいと思います。質問の要点は講和問題に関することと自衛権に関することがおもな質問事項であります。質問いたします前にお願いしておきたいと思うのでありますが、この前の本会議において総理大臣質問いたしましたのですが、そのときには御答弁願えなかつたのであります。これははなはだ遺憾に思うておりますが、本日はどうか私の質問いたしますことについて、親切にお答えを願いたい、これを特にお願いいたしたいと思います。  まず講和の問題であります。従来総理大臣は講和の問題については、たびたび御見解を発表になつているのですが、これは施政演説によりましても、またわが党が質問いたしましたことに、対する御答弁によりましても、どうもその具体的な御見解言葉の上でわれわれにはつきりいたしません。去る二十八日の本会議における星島君の質問に対して総理の御答弁はその一部分に、單独講和とか全面講和とか言う人の気が知れぬ、要は講和を一日も早く取結ぶということである、こういう御答弁があつたと思うのであります。まことにごもつともなことで、今日全国民がこの占領状態が一日も早く終了して、講和が取結べて日本の独立の状態がはつきり確立されるということをこいねがわない者はありません。これはまことにもつともであります。しかしながらそもそも早く講和を取結ぶということにつきまして、早い講和ということがどうしたら実際できるかということは、私は問題だと思うのです。今度の戰争は、数年にわたつて非常に残酷な戰いが行われたのでありますが、この戰争のそもそもの出発点は、日本に関して申しますならば、日本中国に戰争を構えた、いわゆる中国との戰争という問題がそもそも出発でありました。この最初は中国との戰争である。そういたしますと、日本が講和を取結びますならば、第一にこの中国との解決がつきませんければ講和はできない。これが一つであります。  第二番目には、今日の世界の状態から考えまして、強大国であるアメリカ、強大国であるソ同盟、こういう大きな国、世界の強国が互いに協和しまして、その基礎の上に立つのでなければ、日本の平和を民主主義と独立を招来するような講和は、われわれは結べないと考えております。それゆえに講和という問題は、これらの国々の、すなわち大国特に四つの大きな国の協和によるところの、全世界各国の協和による講和でなければ、第一に早期講和の可能性がないと思う。第二には、これでなければ日本の平和的独立と繁栄を期待することができない。本日の新聞によりましても、カナダの外相は完全講和を希望すると言われております。これは正しいお言葉であるとわれわれは考えておるのでありまして、早期講和はかような形でなければ結べないとわれわれは思うのでありますが、総理大臣はこれをどうお考えになつておられますか、第一にお伺いいたしたいのであります。
  97. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたしますが、戰争は中国と始まつたのであるから、まず第一に中国と講和関係に入れという御趣意でありますが、私はそうは考えません。いずれの国といえども日本との間に戰争状態を終了したい、日本との間に平和状態に入りたいという国があつて、その国との関係において日本が独立を回復し、もしくは日本として国際団体としての交際がどこの国と始まろうが、とにかく戰争状態を終了せしむる、千和の状態に入るということがわれわれとしては念願すべきことであつて、どこの国から一番先に講和しなければならぬということの御議論は、私としては承服ができないのであります。  さらに今お話の四大国でありますか、それと講和をするということが第一である、そうでなければ早く講和かできない、こういうお話でありますが、日本の講和関係というものは客観状勢によるところだと始終私が申すのであつて、われわれが希望したからといつて、その通りになるものでもなし、一に客観情勢によるべきものでありますから、どこの大国と一番先に講和をしなくちやいかぬとか、あるいは講和の形について今から予定するということは、結局講和の時期を遅らしむるものではないかと思いますが、これも客観情勢によることでありますから、こうしなければならぬ、こうあるべきだという議論は、私としてはいたすことはできないのであります。
  98. 川上貫一

    ○川上委員 ただいまの総理大臣の御答弁によりまして、一つのことが明らかになりました。これはある一箇国とでも講和を結べばそれで講和である、こういう御答弁であつたと思うのであります。(「それは違う」「独断だ」と呼ぶ者あり)この問題についてはあとで質問いたします。もし私の開き方が問違つておるのでありましたら、あとで質問いたしますときに御訂正願いたい。  総理は民主主義ということをよくお唱えになりますし、ごもつともであります。また平和をよく大衆に対して述べておられます。これももつとも千万なことであります。ところがこの民主主義あるいは平和を実現するとかいうことが、四大国を中心とする世界各国の協和というものの上に立たないでもできるかどうかという問題、これは言葉の上のりくつの問題ではありません。戰敗国日本の実際の状態、この点から考えましても、これは私は非常に疑問だと思う。申すまでもなく、かつて第二次世界大戰を顧みましても、世界の民主主義はフアシズムとの戰いで大勝しました。この大勝はいかにして行われたか。これはルーズベルト、スターン、チャーチルというような強大国間の首脳が協同いたしまして、そうしてフアシズムに対する戰い、これで大目的を達しております。これが民主主義の勝利であり、平和の勝利であつたとわれわれは考える。これが現実です。だからこそすでにはや今日において共産主義の国と資本主義の国とが共存し、存立する可能性があるということをたびたびこれはスターリンも申しております。(「あなたのおやじか」と呼ぶ者あり)皆さんはいろいろな、おやじかとかなんとかおつしやいますが、そういう私は簡單なことじやないと思う。しかもこの大協同の精神、この精神が真の民主主義である。この民主主義の上にこそヤルタ協定もできましたしもカイロ協定も結ばれておる。そういうことの上にこそポツダム宣言が行われたのだと私らは考えておる。また一九四五年十二月のモスクワの外相会議の決定もこの基礎の上に行われておるのだ、そうして日本はこのポツダム宣言を受諾したのだ。このポツダム宣言は古びた古証文ではありません。これは日本の完全独立を保障しております。非軍事化を要求しております。(「それを守らぬ国はどこだ」と呼ぶ者あり)だれが守らぬ。民主化を要求しております。平和経済の発展を保障しております。四大国の協和による平和と自由と独立による日本再建を保障しております。すなわちこのポ宣言の立場こそ平和と民主主義の基礎である。この前提に立たなければどうしても私は平和的な講和を結ぶことはできないと思う。この点に関して総理大臣の御見解を特に承りたいのであります。去る三十一日の本委員会において林議員の質問に対して、総理大臣は講和の形体、これについて御答弁がありました。それは共産党の言う講和、これは了解はするが賛成はしないという明瞭な御答弁であつたのであります。共産党が申しておりますことは、ほかのことを申してはおりません。終始一貫いたしまして、四大国の協和に基く全世界各国との早期講和ということを共産党は言うておるのであります。これは前にも申しました通りに、全世界の協和と協力によりましても民主主義と平和を築く唯一の講和方式であるとわれわれは考えておる。これがポツダム宣言の精神であり、これを遵奉することが、ポ宣言を受諾した日本国民義務であるとわれわれは考えておる。これのどこが御賛成にならぬのか、これが第一点であります。  同時にこの講和こそが最も早い講和である、こうわれわれは考えておるのであります。しかるに総理がこの講和方式に御賛成でないと申されることになりますと、私は総理が平和あるいは民主主義と申される真意を疑わざるを得ない。そこで私はお聞きいたしますが、第一に総理大臣はこの四大国方式になぜ賛成なざらないのであるか、第二は講和はポツダム宣言の精神によつて行われるべきものであると思うが、共産党はこれを主張しておるのでありますが、これに賛成なさらない理由が何であるか。第三にはほかにいかなる講和を御期待になつておるのであるか。この三点について御答弁を願いたい。
  99. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の申すことはなるべく早く講和関係に入る。戰争関係を終了したい。その方式がこうでなくちやいかぬとかもそれではいけないとか申しておるのではありません。主としてなるべく早く戰争状態を終了せしめたい。これが国民の声であり、国民の要望であると考えて、その限りで私は申しておるのであります。
  100. 川上貫一

    ○川上委員 御答弁は私の質問に合うておりません。私が御質問申し上げましたのは、共産党の申しております講和方式のどこに御賛成なさらぬのであるかということを聞いておるのであります。この点であります。(「早く引揚者を帰してくれよ」と呼ぶ者あり)上林山君に問うておるのじやありません。
  101. 吉田茂

    吉田国務大臣 私が今申しました通り、なるべく早く講和状態に入り、戰争を終了せしめる状態に入りたい。こういう意味であつて、共産党の諸君の主張せられる四大国による全面講和でありますか、それに対して——それでも早くできればけつこうな話であります。
  102. 川上貫一

    ○川上委員 これは総理大臣は大分お困りになつた御返事ですが、そうではない。共産党のどこに御賛成なさらぬのであるかということを聞いておるのであります。共産党の申した講和方式のどこに御賛成ならぬのであるか。これを聞いておる。
  103. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はそういう点についてお答えしなければならぬ義務は感じませんから、お答えいたしません。
  104. 川上貫一

    ○川上委員 これはおよそ総理大臣がお困りになつたのだと思いますから、これ以上は申しません。(「独断々々」と呼ぶ者あり)独断でけつこうです。
  105. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。
  106. 川上貫一

    ○川上委員 そういたしますと、続いて御質問いたしますが、総理大臣はわが党民自党内閣は、国民を率いて講和態勢の確立に邁進すると申しておるのであります。そのわが党民自党の星島君は二十八日の本会議において————————————————————ということをはつきり申しておられます。ソ同盟はかつて対日講和を阻害したることはないとわれわれは考えております。たとえば一九四八年の九月、極東委員会においてパー二ュシキン大使は、対日講和はあまりに遅れておる、日本の平和産業は無制限に発展さすべきであると発言しております。また副首相のマレンコフ氏は、去る十一月六日の革命記念日の前夜祭に、対日早期難和はソ同盟における五つの大きな政策の一つであるとはつきりと申しております。ソ同盟は講和を阻害しておりません。ソ同盟は日本に軍事基地を持つておりはしません。首相はソ同盟が対日講和を妨害しておるとお考えになるか、この点をはつきりとお考えを承りたいのであります。
  107. 吉田茂

    吉田国務大臣 その点は私は存じません。お答えいたしません。
  108. 川上貫一

    ○川上委員 これが吉田総理大臣のいつものこと、わが党民自党内閣はと言うておられるその民自党の総裁、その民自党が代表質問しておるのです。星島君が代表質問で———————————と言うておる。それの総裁がわしは知らぬ。これは答弁になりません。およそ一国の政治をやるときには、信義を保たなくちやいかぬと思う。これはここでやるお互いの口先だけの芝居じやないと思う。いやしくも一国の政治を論議する場合、與党たると野党たるとを問わず、この日本の独立と繁栄のために、これをいかにすべきかということを審議しておるのがこの委員会であります。その際において、民自党総裁である総理大臣が、民自党の代表演説ではつきりと、しかも本会議で述べておることを知らぬと言われるようなのは、これはよろしくないと思う。もつともこれは見解の相違だとか、かつてによろしくないと思つておるのなら思うておれとか、こういう御答弁になるかもわからぬと思いますが、私はそれではこの危難に瀕した日本の運命を背負うて行くのに足らぬと思います。これはほんとうに吉田総理大臣はお知りにならぬのですか。民自労総裁として責任をお持ちになりませんか。この点をもう一回お聞かせを願いたい。
  109. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はここで総理大臣としてお答えをしておるのであつて、総裁としてお答えをいたしておるのではありません。また問題は星島君であれば星島君にお開きになつたら一層よくわかるだろうと思います。
  110. 川上貫一

    ○川上委員 およそそういう御答弁がおるかもしれぬと思つておりました。これはまじめに政治を審議する態度ではありません。まつたく口先だけでごまかすところの態度である。これが吉田内閣の本質なのである(「共産党の本質なんだ」と呼び、その他発言する者多し)異論があればあとで靜かにやりなさい。大政党ともあるものがやいやいやじるなんとはみつともない……
  111. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。
  112. 川上貫一

    ○川上委員 次に御質問いたしますが、中国に先に私が申し上げました通りに戰争と大被害国であります。この被害国の人民大衆に対して、日本の軍国主義がいかに重大なる罪悪を犯したかというとは、われわれ国民として心に銘じて忘れてはならぬと思う。これを忘れないことこそが日本の将来の繁栄の基礎であり、世界平和の基礎であると思うのです。そういたしますと、この中国との親交、講和会議における中国の参加、このことは絶対必要條件である。しかも今日中国はイギリス、インドあるいはソ同盟等が承認した共和国である。しかもこの国はすでに蒋介石の時代から早期講和を望んでおります。昨年七月の七日抗日十二周年記念日には、政協会議準備委員会で、対日講和の早急締結という声明をしておるのであります。この日本にとつて重大な責任がある国家を除外して考えることができるかどうか。私が察しますのに、総理大臣はこれをはなはだ無視せられておるのではないかと疑わざるを得ない。たとえば施政方針演説にいては、「隣邦の政情はなはだ安定を欠き」と言つておられます。どこが不安定なのですか。またそのあとの言葉では、「共産分子]という言葉を使つております。日本言葉では分子という言葉はどういうときに使う言葉か、常識があればわかる。自由党分子あるいは銀行家分子、こういう言葉はありません。しかし総理大臣は施政演説において、間接的には全世界に向つて日本内閣総理大臣が、日本政治方針を明らかにするところの施政演説においてすら、「共産分子」という文字を使つておられます。これは中国に対して互いに提携し、日本の平和と、極東におけるところの親交を強める御意思がないものとわれわれは解釈せざるを得ない。隣邦中国との講和、これがなくても日本の繁栄は期待されるとお考えになつておりますかどうでありますか、この点について親切に正直な御答弁をお願いいたしたい。
  113. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は共産分子と言つても、分子自身が侮蔑の意味とは考えないのであります。ただ分子であるから分子と申しただけの話であります。  それから親切な答えをしろとおつしやるが、これはもう本日幾たびも幾たびも申しておることであつて、講和は客観情勢によることであるから、日本として今日いかんともすることはできぬということをしばしば申しておるのであります。
  114. 川上貫一

    ○川上委員 講和は客観情勢によるものであるから、日本としてはいかんともすることができぬのだというようなことを言うて、この重大なる問題に国民の耳目をおおうてはいけません。これがそもそもわれわれは了解ができぬのだ。共産党であろうとだれであろうと、一に一を加えれば二になるのだ。現に総理大臣は、わが常民自党内閣はと、先に申しましたように申されて、その民自党の星島君は——これまた星島君に聞いてくれ、こういう御答弁になるかもわかりませんが、二十八日の本会議で多数講和という意見を発表しておられます。しかしこれは政府と民主自由党とのやおちよう質問でありまして、この言葉政府はここでは関係のないことだ、総理は知らぬことだとおつしやられるかもしれませんが、これでは国民は納得いたしません。わが常民自党内閣の長老である人の、その党の代表質問において、多数講和という意見を発表になつております。われわれはこの多数講和——マジヨリティー・ピースこれは講和じやないと思う。これは直訳したらなるほど多数講和となるかもしれませんが、この意は單独講和である。(「ノーノー」)なぜならばこれは第一にソ同盟、中国を除外する危險があるのです。第二にモスクワ外相会議の決定に違反する危險がある。第三にポツダム宣言受諾に違反する危險があるのみならず……(「ノーノー」)確かに違反するのだ。第四に、かようなものはただちに大国間の対立を深めます。今日本が置かれておる状態を実際に考えてみて、日本が間に入つて大国間の対立をますます深める方向をとつたら一体どうなる。これで日本の存立、平和的な、民主的な、戰争を放棄した日本の存立を全うすることができるかどうか。これは私は重大な禍根を将来に残すものであると思う。だからこそ今日、たとえば佐藤帝銀社長はどう言うておられますか。單独講和はソ同盟との対立となるからいけない、はつきり言つておられます。これは帝銀社長だ。奥村野村証券社長はどう言つておるか。経済人として講和には中共の参加を望むとはつきり言うておる。また豊田商工中央金庫理事長は、戰争に巻き込まれない講和と言つておる。これは財界人のみの問題ではありません。およそ国民全部がこれを言つておる。全部の人が希望しておる。これが多数講和であると総理大臣はお考えになるかどうか。この多数講和はソ同盟、中国を除外する危險があると思う。これは決して真の講和ではなくて、もし言うならば單独講和にすぎない。單独講和のごまかしにすぎない。今日世界の四大国の講和によらずして、頭数だけで、全面講和、完全講和ということは絶対に言えない、こう私は考えておりますが、総理大臣はさつきのような逃げ口上ではなしに、ほんとうに民自党総裁として、その総裁が内閣総理大臣になつておられるその立場から、親切な御答弁をお願いしたい。
  115. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は親切にも不親切にも、お答えすることはきまつております。なるべく早くたくさんの国と講和状態に入りたい、これ以上言うことはない。
  116. 川上貫一

    ○川上委員 あの答弁を一つ総理は覚えた。いかなる場合にもとれをもりて対抗しよう、こういうお考えらしい。私はこういうことはよくないと思う。この講和の問題のごときは……     〔発言する者多し〕
  117. 植原悦二郎

    ○植原委員長 お靜かに願います。
  118. 川上貫一

    ○川上委員 お互いに所信を披瀝しなければならぬ。與党たると野党たるとを問わず、お互いに意見を披瀝し、内閣総理大臣は自己の所信を親切に率直に述べられ、これで国政が審議されるのでなければ、国会ではありません。総理はいつもこの問題については、まことに要領を得ぬ、のらりくらりとした返答をなさる。そうしておいて、実は国民の知らない講和の実績をどんどんつくり上げてこざる。さきにも総理大臣は、講和は一日々々とつくつておるのであると御答弁なさる。早い講和がいいのだというようなことを言うておる間、どんどんと講和の実質をつくり上げておられるのが吉田内閣であるとわれわれは考える。たとえて申しますと、戰争状態終了宣言の用意があつたという話である。これは外務省においてすでに早くから研究、調査されていたのであります。すでにこの調査は完了しておると聞いております。これが今日明らかになつておる。これは実際においては、多数講和さえできぬから、こんなことを考えておられたに違いない。しかるに総理はいまだかつて一度もこれを国民の前に明らかにされなかつた。しかも今回わが党の質問通告に対して、外務委員会の前日に、突如としてこれを新聞に発表になつておる。してみればこれはこれまで繰返し発表された、一日も早からん講和というのは、これでありたのではないかと国民は疑わざるを得ないかもしれない。また国民を率いて講和態勢の確立に邁進すると言われたのは、あるいはこのことであつたのではないかと国民が疑うかもわからない。これは重大な問題です。これは全然講和をやらないで講和の実体をつくり上げる方法である、講和の無期延期であります。一日も早からん講和ではありません。講和の無期延期であります。講和をしないで、世界の特定の国との間に部分的に外交條約を予想するかもわからぬ。軍事協定の可能が生じで来るかもわかりません。また軍事基地の提供とか、軍隊の半永久的駐屯というような問題も予想されないことはありません。ともかくかようなことをこつそりと予定していた事実だけはおおうことができない。総理大臣は、この宣言について、外務省においていろいろ研究、調査され、すでに完了しておるという話でありますが、なぜこういうことをなさつたのでありますか。この点について御答弁をお願いいたしたいと思うのであります。
  119. 吉田茂

    吉田国務大臣 外務省としては、講和問題を取扱つておる省として、いろいろの問題は研究しております。その研究の一つには、そういうこともありましよう、が外務省はこれを研究する職責にあるから、講和問題のいろいろな形を研究するのは当然な話である。
  120. 川上貫一

    ○川上委員 それを聞いておるのではありません。総理大臣は、そのようなことを全然予想しておられませんか、おられますか。これを聞いておるのです。
  121. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは先ほども申す通り、仮定のこと、予想の問題についてはお答えができない。あなたが何とわれわれの考えを、播磨臆測せられても、それはあなたの御自由である。しかしそれにはお答えしない。
  122. 川上貫一

    ○川上委員 総理大臣のおはこは仮定なこと、予想のことには答えぬ。よくこれは言われます。一体仮定を立てないで二十五年度予算が立ちますか。一国の政治をいたしますときに、一つも仮定を立てないで何ができるのですか。先のことはわからぬと申されますが、二十五年度予算は来年の三月まで予想しております。この三月危機の問題が言われておる。大蔵大臣は答えられた、どう答えられたか、予想を答えられた。本年も六千三百円ペースかどうかという問題が出た。これは大蔵大臣も必ず労働者の生活はよくなることがわかつておる。そう予想しておる。これが政治です。結局少しも予想をしない、少しも仮定をしない、また先のことについては一口も言わぬ。こんな政治というものはありません。(「物によるさ」と呼ぶ者あり)物によるべきではありません。(笑声)日本のこのきわめて重大なときにも先のことはわからぬとか、仮定は言えぬというようなことでは、七政治ができないと思う。これは総理大臣が始終言われる言葉でありますから、私は総理大臣がどういう気で言うておるということは推察できます。これはなかなか言えないのだろう、と思う。それを追究はいたしませんが、かようなことは口に民主主義を唱える総理大臣のほめられた態度でないということを、はつきり申し上げておきます。現にこの終了宣言については可能性があるということを、外国の電報が伝えておりますが、オーストリアにも先例があります。また総理が單独講和とか、全面講和とかいうことを言う気がわからぬと言われておる裏にも、そういうことが予想されておる。しかしながら総理は何を聞いてもどうもわからぬ、あれもわからぬ、これも仮定だ、とにかく答弁をしさえしなければいいという態度をとつておられる。そこでこれはどうしても総理にお聞きしなければなりませんが、総理は一体どういう講和を希望しておられるのか。早い講和を希望しておるのは国民全体、これではわからぬ。どういう形の講和を希望しておるかということを、総理大臣は明らかにされなければならぬと思う。この点をこの際明らかに御答弁をお願いいたしたい。
  123. 吉田茂

    吉田国務大臣 外交と予算とは少し違いまして、外交においてこういうことを考えておる、こういう作戰を考えているということを言う外務大臣はどこにもいないと思います。であるから、お答えしない。
  124. 川上貫一

    ○川上委員 それは答弁になりません。日本が今この講和の問題について国をあげて、国の危急存亡にかかわる問題であると思つて国民がこれを考慮しておる際に、総理大臣が講和についての考え国民の前に言うことができないというようなことは、政治ではありません。仮定の問題とか、仮定の問題でないとかいうことは言えないのである。この重大なる講和の問題について内閣総理大臣としては、かくのごとき講和を希望するという意見がなぜ発表できないのですか。これができなければ政治にはなりません。(「言つておる」と呼ぶ者あり)これはしておりません。これは明らかにおつしやつていただきたいと思う。
  125. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えは前言の通りであります。
  126. 川上貫一

    ○川上委員 少しも親切な答弁が出て参りません。あらかじめお願いしたのでありますが、やはり親切でない。(笑声)  次に承りますが、そういうことを総理は口でおつしやりながら、実際においては着々として事実上の講和的な方向を推し進められておるとわれわれは考えております。たとえば事実上の講和の実体をつくつておる。たとえば一つの貿易政策をとつて見ましても、これはあとから通産大臣その他に詳しく質問申しますから、ここでは詳しく触れませんが、あるいは外山父官の派遣というような問題にいたしましても、あるいはまだこれは決定されておりませんが、国際小麦協定への参加という方阿にいたしましても、あるいは税金まで下げて外国の外資を入なければならぬというような政治の方向、あるいはアジア・マーシャル・プランを歓迎すると、政府の責任ある方がこれを歓迎しておられるような事実、あるいは外国銀行の国内における業務の開始、日本軍事基地化の下心——とははつきり申し上げませんが、かような方向、これことごとく講和なき講和の実体を吉田内閣がつくつておられるとわれわれは思う。この方向は、口では何と申されましても、決して四大国全面講和の方向ではありません。これは事実上の單独講和が行われておる方向であります。これは事実において世界を二つに割つて一方に傾く方向であります。決して全面講和の方向じやありません。これはほかの言葉で言えば、傾くだけではなくて、吉田内閣は従属する方向をとつておられるとわれわれは解釈せざるを得ない。(「それは君の方じやないか」と呼びその他発言する者あり)その結果国民大衆が目を開いた時分にはいつか知らぬ間にすでに実体は片づいてしまつておるというような危險が決してないことはありません。     〔発言する者あり〕
  127. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。
  128. 川上貫一

    ○川上委員 これは真の講和を阻害し、真の講和を妨害しておると言つてもよろしい。全面講和は、かような形において不可能な形にだんだんと追い込められておるとわれわれは考えておるのです。これは吉田内閣が実際においては全面講和を希望するとか、完全講和をできれば望むとかおつしやりながら、事実においてはそうでない方向にしやにむに政治を推し進めておられるということをおおうことはできないと思う。このことを吉田総理大臣はお認めになりますか、お認めになりませんか。むりなことを聞くというような顔をなさいますが、(笑声)しかしこれははつきり聞いておかなければならぬ。
  129. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はむりなことを聞くというような顔はしませんが、ばかなことを聞くという顔はいたします。何となれば、先ほどから繰返して申すように、平和状態をなるべく早く推し進めたい。それが事実上であろうが、法律上であろうが、なるべく早く日本の状態を普通の状態に返したい。こう考えて議論をいたしておるのであります。また今お話のような、講和とか軍事基地の問題とかが、国民の目をおおうて祕密にできるなんということをお考えになつておるのは、これはあなたの頭がどうかしていると私は思う。
  130. 川上貫一

    ○川上委員 どつちがつまらぬ質問をしておるのか、どつちがつまらぬ答弁をしておるのかわからぬ。(笑声)事実において国民の目のつかぬところで、なしくずし講和が行われておるということは、これは疑うことができない。この問題につきましては、今時聞がありませんから、私のあとの時間で大蔵大臣通産大臣その他につぶさにお聞きいたしたいと考えております。  次に自衛権についてお聞きいたします。(「まだあるのか」)と呼び、その他発言する者あり)民主自由党のためにはこの辺でやめるのがよろしいでありましようが、もう少し聞かなければぐあいが悪い。(笑声)
  131. 植原悦二郎

    ○植原委員長 川上君、議員にも議場の靜粛を願いますが、どうかあなたもなるだけ議員の感情をいらだたせるようなことのないように、お言葉の上の御注意を願います。
  132. 川上貫一

    ○川上委員 了承しました。     〔「おやじの前で行儀の惡いことをするな」と呼ぶ者あり〕
  133. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に。
  134. 川上貫一

    ○川上委員 自衛権の問題でありますが、総理大臣は今度の施政演説で特にこの自衛権ということを強調され、持ち出しておられます。しかしこの自衛権の内容が、これははなはだわからぬ。総理の言われる自衛権というのが一体どういうものであるかということが、きわめてわからない。たとえば自衛権のためならば、日本の安全を保つという理由で外国の軍隊に依存する権利、こういうものも自衛権と総理はお考えになつておるだろうかどうか、あるいは必要に応じて軍事基地を提供する、こういうようなことも自衛権とお考えになつておるだろうかどうか、あるいは軍事協定を結ぶ、こういうことも総理の言われる自衛権というこの問題と同じに解釈してよろしいのであろうか、自衛権の内容解釈してよろしいであろうか、この点についてここで特に明らかにお聞きしておきたい。
  135. 吉田茂

    吉田国務大臣 これもしばしば説明をいたしましたが、自衛権は読んで字のごとく、みずから守る権利であります。その権利がいかに発動するかということは、その前提として自衛権を発動せしめなければならぬ形態によるのであつて、その形態によつて自衛権の内容は定まるもの、こう解釈するのが普通の解釈であります。あとは仮定の問題でありますから、例によつてお答えはいたさない。
  136. 川上貫一

    ○川上委員 二十九日のUP電によりますとも吉田首相は、米軍がある程度の基地を日本に持つことは賛成であると公然と語つておる、こういう報道があります。総理大臣は新聞記事には責任を持たぬとおそらくおつしやるだろうと思う。(「その通り」と呼ぶ者あり、笑声)
  137. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜かに願います。
  138. 川上貫一

    ○川上委員 新聞記事に責任を持つてもらいたいとは思いません。こういうことをお考えになつておるかどうか、これをお答えを願いたい。
  139. 吉田茂

    吉田国務大臣 UPの電報については私は責任は持たない。従つてまた今のような問題にはお答えができません。
  140. 川上貫一

    ○川上委員 答えができないはずはない。こういう考えを持つておられるか、おられないか、聞いておるのです。そうすれば、それにどうして答えができないのですか。軍事基地を提供することには賛成であると公然と語つておる。この新聞記事には責任を持たぬがもこういうことをお考えになつておるかどうかということに対してなぜお答えができないのです。これはお答えができるはずです。これをお聞きしたい。
  141. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはしばしば申しておる通り、軍事基地の問題は一度も交渉を受けたことがないのであります。従つてまた私の考えを述べたこともなし、ここにおいてそういう仮定の問題についてはお答えができないということは、しばしば申す通りであります。
  142. 川上貫一

    ○川上委員 その答えのうちには、交渉を受けたら応ずるかもわからないという、こういう心があるに違いない。そうでなければ、ここでお答えができるはずなんです。かようなお考えがあるからこそ、ここでお答えができないのです。  次に一月三十一日の読売新聞その他によると、青森県の三沢に戰闘機基地があるという報道があります。北海道の千歳には空軍基地があるということが新聞に載つております。本日の新聞によりますと、これは朝月新聞でありますが、横須賀の軍事基地の問題が載つております。しかもこれには米海軍司令官ベントン・デッカー少将は、これは横須賀のことでありますが、「米国はこの重要価値ある日本の旧海軍基地を、無期限に使用する保証を獲得すべきだ、と強調した」と新聞に載つております。このほか新聞で見ますと、相当多くの軍事基地があるように伝えられておりますが、日本に軍事基地が幾らあるのでありますか。これをお伺いしたい。
  143. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは私はお答ができません。なぜならば、幾つあるかは総司令部の中ではわかるかもしれませんが、開いても、これは秘密だと言われるでありましよう。政府としてこれを知らせろということを要求する権利は持つておりませんから、従つて政府は存じないことであります。また存ずることもできないところであります。
  144. 川上貫一

    ○川上委員 政府の何も知られないことが、端から端から新聞に発表される。実に奇怪千万な政治だと思います。それで横須賀の問題でありますが、この横須賀海軍基地を永久に持たなければならぬ、こう言われたことがありますが、これに対して総理はどうお考えになりますか。
  145. 吉田茂

    吉田国務大臣 そういう交渉を受けたことはありませんから、今は何も考えておりません。
  146. 川上貫一

    ○川上委員 ブラッドレー大将はちようどそのときに、かような問題は国民が決すべきであると言うておられます。国民代表であるところの内閣総理大臣が、そんなことはわからぬ、来てみなければわからぬ、来てみたらきつとそれを約束する。これは済んだことだと言う下心があるに違いないのです。(「何を言つてるんだ」と呼び、その他発言する者あり)これは実際に、わいわい騒ぐ問題と違います。こういう問題を、そういう御答弁をなさることは、私は少くともこの状態にある日本総理大臣として、少しも適当でないと思う。国民が決定すべきものであるとブラッドレー大将もはつきり言つしおられる。しかもただいまの問題についても、総理は仮定の問題であるとか、あるいわそういうことわ来てみなければわからぬとおつしやいますが、ここに朝日新聞のワシントン発AP、これは一月十二日でありますが、こういうことを書いてある。「コナリー上院外交委員長が十日明らかにしたところによれば、アチソン国務長官は同日の上院外交委員会で、米国の太平洋防衛問題その他につき、次のように言明した。米国の太平洋安全保障線は台湾の東方に置かれ、日本、沖繩、フィリピンを連ねる線にある。日本、沖繩、フィリピンにある基地によつて米国の太平洋における防衛線は鉄壁である。」これはアチソン国務長官が上院外交委員会で述べられたところであります。仮定の問題ではありません。もうすでに日本がかようなところになつておるのではないかと疑わざるを得ない。これは仮定の問題ではなくて、国の実際の安全あるいは国の将来の独立、繁栄をお考えになる総理大臣であるならば、これを仮定の問題とかどうとか言つて、こういう状態にある日本の状態を国民の前に隠すことはいけません。これは真に民主的な政治家の態度であろとわれわれは考えることができない。自衛権、安全保障の問題というものは、そのときの問題ではありません。すでに今月、今日の問題である。来たりわかるというのではない。すでに来ておるのです。現実の今日なのです。総理大臣も講和は日々進んでいると言われておる。事実進んでおる。また実際進められておる。たとえば関税協定なんかに入つている。しかもそこに行つた人間は、ある会合に自分が行つて判を押した。総理大臣の信任状を持つ行つたという話なんである。そうしておいて、それがかようにして日々日本は講和を進めているのだという演説をしておる。それが真実を得ておる。仮定の問題ではありません。現実の問題です。だから私は、知らぬ間に国民が目を開いてみたら、日本の状態が片づいているという危險があるのじやないかと言うておるのです。これを総理大臣は仮定の問題であり、先の問題であるとか言うて、いつもごまかしておられる。そこのところに吉田内閣の本質がある。これこそわれわれは危險なやり方だと思う。たとえば仮定の問題でなく、一つの例を申しますと、今回東支那海のマッカーサー・ライン附近に出動中の水産庁監視船によつて発見されたトロール船襲撃事件という問題が起つておる。これにつながるところの日本の漁船の不法拿捕事件というのが起つておる。これの相手国はどこかと申しますと、韓国と台湾国民政府であります。これが日本の漁船を不法に拿捕しておる。これについて——これも具体的に起つた自衛権の問題であろうと私は思う。これを進駐軍、米軍に対して援助を請うておられる。このことを私は問題にするのじやありません。ここに日本の今月、今日の自衛権の問題があるとわれわれは思う。これは総理の言われます自衛権とは関係のたいことでありますか。この点をひとつお聞きしておきたい。
  147. 吉田茂

    吉田国務大臣 その問題はすでに解決しつつあります。それからまたこれが自衛権に関係あるかないか、そういうひまな議論はごめんをこうむります。(「重要な問題じやないか」と呼ぶ者あり)
  148. 川上貫一

    ○川上委員 実にばかげた答弁だと思う。(「ばかげた質問だよ」と呼ぶ者あり)これがばかげた答弁じやないとすれば、日本の国会というものと日本政治家というものは何のことやらわからぬ。これは自衛権の問題に関係があるのだ。かような問題を永久化すること、ここに危險があるのだ。ここのところに戰争終了宣言工作の問題もあるのです。こういうことがどんどん永久化されるということ、そのことのうちにこそ日本の危險があると思うのであります。またこの方向をとつてござるのが吉田内閣であるとわれわれは考えておる。たとえば将来こういう事件が起つた場合に、戰争状態終了宣言でも、あるいは一方的に、さきに総理の言われたように、一箇国とでも講和をしていいもこういうようなことであるならば、これは必ず特定国と軍事協定をしなければ自衛が保てるものじやありません。これをしなと思うたならば、四大国の方式によるところの講和でなければ絶対に不可能だ。総理はここのところをごまかすために、早い講和——とにかく国民の耳目をおおいながら私は繰返して申しますが、ふたをあけてみた時分にはもう片づいてしまつておつたということになる危險、これを着と々やつておられると思う。こういう形であれば吉田内閣の、吉田総理の自衛権問題は、これは実際に日本の人民に対する自衛権ではなくて、人民に対する彈圧と、侵略のための自衛権であるとわれわれは考えざるを得ない。ここは……     〔発言する者あり〕
  149. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。     〔「宣伝演説はやめろ」と呼び、その他発言する者あり〕
  150. 川上貫一

    ○川上委員 委員長、整理を願います。
  151. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。
  152. 川上貫一

    ○川上委員 最近サイパン、テニャン、硫黄島、沖繩等に軍事基地建設のため、日本の物資並びに人員を使用するという計画があるように聞いておりますが、事実であるかどうか。特に沖繩等には多数の人員を送る計画があるやに聞いておるが、この事実があるか。現に日鉄、鋼管、日本セメント、小野田セメント、豊田自動車、三菱化成、東芝、藤倉電線、古河電工等が重要な物資の契約をしたという話であるが事実であるかどうか。また清水組、鹿島組、竹中組、間組、西松組、大成組、池田組、大林組等が参加する大工事が計画されておるということであるが、事実であるかどうか。東洋経済新報によると、セメントは第一年度に六十万トン、第二年度に四十万トン、トラック三百台、鋼材二十万トン、電線十五億円等と伝えられている。かような事実があるかどうか、これを御答弁お願いいたします。
  153. 吉田茂

    吉田国務大臣 総司令部としては、あるいは連合軍としては、いろいろな物資の注文をいたしておるでありましよう。その一々、何の注文が発せられたかということは、日本政府は承知いたしません。
  154. 植原悦二郎

    ○植原委員長 川上君、まだ総理大臣に対する質問は相当長いですか、いかがですか。
  155. 川上貫一

    ○川上委員 もうすぐです。もう五、六分、あまり御心配いりません。(笑声)  総理大臣は、さようなことは司令部でやられることであるから知らぬ。いつでもこの手である。これが吉田総理大臣の本質である。     〔「司令部に行つて聞きたまえ」と呼び、その他発言する者あり〕
  156. 植原悦二郎

    ○植原委員長 上林山君、靜粛に願います。
  157. 川上貫一

    ○川上委員 司令部ではありません。日本の人間がこれだけ行つておる。日鉄、銅管、日本セメント、小野田セメント、豊田自動車、一々あげているのです。鹿島組、竹中組、間組、西松組とあげているのです。こういう事実があつたか、ないか。これは司令部のやられることであるから日本政府は知りません。これでは政治になりません。もうこういうことだつたら、私は質問して何にもならぬと思う。あらかじめ親切な御答弁をお願いしたいと言つた、が、いくら質問しても何も知らぬ、何も知らぬ。多数を頼みにしてかような御答弁ばかりなさつておるが、これで一体いいのであるかどうか。国民がこれで納得するだろうか、どうだろうか。私はこれを疑わざるを得ない。かような事実は総理大臣は知らぬとおつしやいますが、これこそ日本軍事基地化と日本経済の軍備拡張下請工事化の方向だと言わなくてはならぬ。かようなことこそが四大国方式を妨害しておるのです。この方式を妨害するのはソ同盟である、共産党であるという声を開く(「その通り」)あにはからんや、この方式の講和を妨害しているものは大体どこにあるか、すでに單独講和ということを主張したのはソ同盟であるかどうであるか。このことをもつても明らかである。私ははつきりここで申し上げるが、このほんとうに日本独立のため、かような状態に置かれた日本を真に独立と平和と繁栄の日本に持つて来る、りつぱなる講和を結ぶことに妨害を加えるものは吉田内閣だと思う。だからこれを人が売国吉田内閣と言うのです。     〔「妨害しているのは共産党だ」と呼び、その他発言する者多し」
  158. 植原悦二郎

    ○植原委員長 靜粛に願います。
  159. 川上貫一

    ○川上委員 この妨害しているものが共産党であるかどうか、必ずや近い将来に愛国的日本人と全世界の民主勢力か決定するだろう。かようなやり方吉田内閣がやられたら、将来必ず何らかの形の軍事協定を結ぶに違いない。かようなことをやられるから、だからこそせつかく渡米した日本の国会議員団がボイコットを食うような情ないここにならなくちやならぬのだ。これはまさに売国的吉田内閣の責任だと思う。これらはへらへら笑つたり、少数党から何なりと言うておれというような問題ではありません。これでは日本の国の独立はできません。日本の繁栄と民主化は不可能です。私は今日本はきわめて危険な状態に陥りつつあると思う。もしもこの危機の状態にあつて、内閣諸公がほんとうに日本人の血が通うしおるならば、かような政治はおやめになつた方がよろしい。それは私ははつきりと申し上げておく。全国民はこの問題について大いに心配しております。日本の真の独立と真の繁栄がいかにして保てるか。日本が隷属しはしない。われわれの祖先に報いることがぎるか。われわれの子孫にりつぱな日本を伝えることができるかということを心配している。この問題に対して吉田内閣のやり方はこたえるゆえんではないということを申し上げて、私の総理大臣に対する質問を打ち切ります。
  160. 植原悦二郎

    ○植原委員長 なお総理大臣に対する質問を継続いたしたいのでありますが、ごらんの通り、いまだ総理はかぜのあとで薬を携えて歩くような次第でありますから、今日は総理大臣に対する質疑はこれをもつて終了いたし、他の大臣に対する質疑を継続いたしたいと思います。中曽根康弘君。
  161. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 午前中に引続きまして、外交問題の残りを、主として西村條約局長にお聞きいたします。  私がまずお尋ねいたしたいと思いますことは、最近戰争終了宣言とか、あるいは戰争終了状態ということが言われております。この問題が第一であります。第二は、いわゆる自衛権の問題、自衛権に関連いたしまして、最近北大西洋防衛同盟條約であるとか、あるいは国際連合憲章に認められておる集団的自衛権の解釈の問題であります。  まず戰争終了状態あるいは宣言の問題についてお伺いいたしますが、今まで戰争終了状態であるとかあるいは宣言というようなことが、国際法上実際行われた例がありますか。まずこのことからお尋ねいたします。
  162. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 書類を持つておりませんから、ただ記憶をたどつて申し上げます。戰争というものは、平和條約によつて終了するのが一番普通の場合でございます。それ以外の方式で戰争が終了することもあります。学者の説によりますと、それ以外の方法といたしましては、エチオピア戰争の場合に、イタリアがエチオピアを征服して同国が滅亡いたしました。ああいうふうないわゆる征服による戰争の終了という場合もある。また十九世紀に数回ありましたけども、交戰両国が戰争にあきまして、いつとはなく戰場から兵隊を引揚げ、その後何のこともなくて自然と戰争が終つた。こういろ実例もございます。自然的方法による戰争の終了という方式でございます。最後の方式としてハイド教授だとか信夫先生は、今中曽根委員から御質問の、いわゆる戰争状態終了の宣言とか、または通告というふうな方式で戰争が終つたこともあると言うて、その方式を立法的措置による戰争の終了と言つたらよかろう。こう言つておられます。立法的という意味は、そういう措置をとる国の憲法上の手続によつて、戰争を終了させる方式という意味のようでございます。その例として一九一九年第一次世界大戰後、戰勝国とドイツとの間は、ベルサイユ平和條約によつて戰争状態は終了いたしましたが、アメリカと中国とは当時ベルサイユ平和條約に参加いたしませんでした関係上、アメリカは批准いたしませんでしたし、中国は調印いたさなかつたわけであります。アメリカはいわゆる上下両院の一連合の決議という方式——アメリカが対独宣戰をやりましたときには、上下両院の連合決議の方式によつて戰争宣言をいたしました。だからそれと同じ方式によつて戰争状態の終了を決議いたしまして、それをハーディング大統領が裁可して公布した。それによつてアメリカとドイツとの間の戰争状態は終りを告げた。それから中国もほぼ同じような国会の決議によつて中国大統領が布告を出す。こういう形式をとつたわけであります。ごく最近の例といたしましては、四六年オーストリアに次いで英国政府が戰争状態の終了の通告をいたしました。オーストリアは御承知の通り、この戰争のあとにおきましては一種独得の地位におりまして、いわゆる戰敗国の立場をとらない。解放国の待遇を與えられております。モスクワ外相会議の決議によつてであります。しかし同国は四六年に英、米、ソ、仏四国間に締結されたオーストリア管理協定によりまして、四国の占領管理のもとにあることは御承知の通りであります。しかしその占領管理協定によりますと、オーストリアは列国との外交関係再開を許されております。がイギリスは——今日付は忘れましたが、将来オーストリアと平和條約を締結することと、四六年の占領管理協定を留保いたしまして、戰争状態を終了させるという趣旨の通告を行つたのであります。これは察するに、オーストリアにつきましては、アメリカとかフランスとかいう国は、いわゆるオーストリアとの間に交戰関係にないという立場をとつておるわけであります。それでイギリスとしては交戰関係にあつたので、いわゆる交戰関係を終了さして、アメリカまたはフランスとほぼ同じ立場に立つということになつたものと了解いたしております。ソ連とオーストリアとの関係は、現在なお交戰関係にあるのか、それともアメリカやフランスのように、もともと同国とソ連との間には戰争関係はないという立場をとつておるかどうかということにつきましては、私資料をずいぶん探しましたけれども、何もございませんので、その点判定いたしかねております。こういうふうな三つが大体今までありました先例と申せばよかろうかと考えております。
  163. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、先例によつてかりに米国なら米国が、日本との戰争状態を終結させようとすると、やはり議会の上下両院の議決を必要とするわけでありますか。
  164. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それはもうまつたくそういう措置をとろうと、すぐ国の国内法上の問題でございまして、私どもとしてはどうなるであろうか、ないしどうすべきであろうかという点についての意見は、申し述べ得る立場にないと存じます。
  165. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからばそのような宣言あるいは通告を日本がかりに受諾する場合には、日本の国内法上、つまり憲法上の措置としてやはりこれは政府が單独にやるのではなくて、国会が講和條約に関する権限を持つておりますから、国会の議決を必要とするわけでありますか。これは国内法上の問題だと思います。
  166. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その問題につきましては、先刻も総理から御答弁になりましたように、まつたく何と申しますしようか、現実的の問題でないし、仮定の場合でございますから、そういう場合につきまして日本の国内法土どうなるか、ないし国際法上こうなるであ’ろうというような意見は、條約局長として申し述べる立場にないということを御了承願いたいと思います。
  167. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 どうも吉田外相の部下だけあつて病気がうつつて来たようですが、あなたはしかし條約局長という職柄をやつておいでになるのですから、国際法と国内法との接触する部面については、これは当然御研究になつておられると思います。私は政治的な意味の御答弁を要求しておるのではないのでありまして、日本国憲法第何條でしたか、講和に関する問題、それとひつからめてこの問題はいかに解釈すべきか、という憲法の解釈論をお聞きしておるのです。もう少し御親切な御答弁をお願いいたしたい。
  168. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 何と申されましても、今どなたか申されましたように、條約局長という政府の一小役人としてお答えできる性質の問題でないということは、わが尊敬する中曽根さんはよく御了解になつておることと思います(笑声)
  169. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 西村さんは私の大学の大先輩でありまして、日ごろ敬愛しておる方でございますが、その方がみずから小役人と称せられるのは、私ははなはだ遺憾に存じます。あなたは講和会議後にはどうせ大使になつて出る方ではありませんか。(笑声)  しからばこの問題はこれで打切りまして、その次に戰争終了宣言とかそういう状態かできた場合にもその具体的な効果はどういうものがあるか。たとえば外交能力が復活するとか、通商経済上の能力が復活するとか、具体的にどういう効果がわれわれの方に出て来るか、その問題を承りたいと思います。
  170. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点もたいへんむずかしい問題でございます。と申しますのは、先日私外務委員会で御答弁申し上げましたように、この方式が西ドイツ政府と英、米、仏三国政府との間に正式の問題として取上げられておるということは、皆様御承知の通りでありますが、昨年十一月に締結されました三国政府と西独政府とのボン議定書の第九項に、戰争終了状態の宣 言の問題が審議された。この問題には多くの——コンシデラブルという言葉が使われておりますが、多くの法律上及び実際上の困難がある。これらの困難は研究されなければならない。私諳誦しておりますが、直訳でございます。そういう規定がございますように、いわゆる関係四国の首脳部専門家が知能をしぼつて考えてみましても、なおかつ非常な法律上及び実際上の困難があると告白をいたしております。そうしてその後の外国電報によりますれば、今年の二月または三月に関係国の間でその問題について考究するという報道がございます。こういうふうに先例が非常に少うございますのと、問題が非常に複雑なのでございまして、今中曽根委員から御質問になりましたような事柄について、具体的にこうなるであろう、ああなるであろうということは、ほとんど御返事申し上げる自信がございません。ただ漠としてこういうふうに考えておるということを先日の外務委員会で申し上げました。それは普通ならば平和條約によりまして、戰勝国と戰敗国との間の戰争状態が終了すると同時に、戰勝国が戰敗国に課しまする諸候件も確立いたします。この点はベルサイユ條約の前文の末項と、ごく最近できましたイタリア平和条約の前文の末項をごらんになりますと、戰勝国はここに戰争状態を終了することを宣言することに決し、よつて平和條約を締結することにして云々という問題がございます。そういうのが普通でございますが、この方式がとられる場合には、普通ならば同時に発生するこの法律的の効果は、まず戰争状態終了という状態を発生させて、そうして戰勝国の戰敗国に課する條件の確立を後日に留保するのである、こういうことがまず確信を持つて言えると思います。しからば戰争終了状態の宣言ないし通告の措置をとつてから、平和條約による戰勝国の戰敗国に課する條件が確立するまでの間において、いかなる範囲において、またいかなる限度において平常状態が克服されるかということはも原則として戰勝国の決定いかんによるのではなかろうかというのが、私の今までの結論でございます。
  171. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 確かにこれは戰勝国がきめるものですが、しかし国際法戰争終了状態とか、あるいは宣言通告ということがあるからには、やはり一定のわく内容というものが快定されておるのだろうと思うのです。そこで私は具体的にお尋ねいたしますが、まず第一に敵国としての取扱い、あるいは敵人としての取扱い、あるいは敵産としての取扱い、こういうことが通商上、あるいは経済上解除されるかどうか。それをまず第一に伺いたい。
  172. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 先刻御答弁申しあげましたこと以外にわたりまして、具体的の御質問に対しては私お答えする自由を持ちませんし、また自信もございません。
  173. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それでは先例を追うて聞きますが、オーストリアの場合はたしか英国と外交使節の派遣接受が行われたと思うのでありますが、外交関係が一部復活するとか、あるいは通商航海條約の締結がかなり自由になるとか、こういうような効果はないのですか。
  174. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 オーストリアの場合は、その宣言措置をイギリスがとる前に、すでに管理協定においてオーストリアが外交関係の復活を認められておりました。なお通商関係がどうなつておるかということについては、資料を持ち合せません。
  175. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、外交関係の復活とか、外交能力停止の解除という問題は、戰争終了宣言とか、そういうものと関係なしに、個別的に各国と行われ得るものでありますか。
  176. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろんそういう問題はこの措置の効果いかんの問題として、当然考慮される事項のうちの重要なる一つであると考えますが、どういう結論が出るかということは、国際法上ないし先例によりましてこうなるべきものであるとか、こうなるであろうというようなことを、今いわゆる結論的に申し上げられない性質のものであるということを御了承願いたいと思います。
  177. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 最後にこの問題についてもう一つ承りたいと思うのですが、それはある国と戰争状態が終結した場合に、交戰国のうちの別の国との関係はどういうふうになりますか。それはたとえば日本とある国が戰争終了宣言をやつた、それで同じ連合国である他国と日本との関係がどうなるかということと、連合国同士にどういう関係が起るか。たとえば最高司令官の地位であるとか、あるいは極東委員、対日理事会の地位がどう変化するとか、日本に対する管轄権がどういうふうに変化するとか、この問題を聞きたいと思います。
  178. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 問題の点は完全に連合国相互の問題でありますし、われわれとしてかれこれ意見ないし見解を申し述べる事柄ではないと思います。日本とそういう措置をとつた国と、とらない国との関係、特にとらない国との関係においてどうなるか、こういう問題ですが、これまた毎回総理の御答弁を引用してまことに恐縮でございますけれども、仮定の問題でございますので、意見を申し述べることを差控えたいと存じます。
  179. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 どうもいよいよ病気が蔓延して来て、條約局長まで感染したかと思うと、私もはなはだ遺憾であります。これはこの程度にして、しからば次に自衛権の問題をお聞きいたします。  国際法上自衛権というのはどういうのであるかということを調べてみますと、ここに立さんの本がありますが、こういうふうに定義しておる。危害が急迫たる緊急の場合において、危害を去るに必要なる行為を行い、危害に関して責任あるものに対して自衛上必要なる処置を行うは、権利行為である。つまり要件としては、国家自身あるいはその機関またはその人民の危害が急迫しておるということ。それからやむを得ざることに出たということ、すなわち他の手段をもつてしては危害を去ることができない、ほかに手段がないということが第二番。第三番目は必要程度以上に越えてはならない、危害を取去る行為には制限がある。第四番目に、国家あるいはその機関の不法行為に基いたものであるということ。第五番目に、危害が国家またはその機関の不法行為によつて起つたか、または当該機関が危害の回避の責任を全うしなかつた。こういうことが要件になつております。こういうふうな自衛権というものは日本にあるんだ、こういうふうに解してよろしゆうございますか。
  180. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御意見の通り解釈いたします。
  181. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そこでお聞きしたいと恵うのでありますが、国際連合憲章第五十一條を見ると、集団的自衛権というのがあります。集団的自衛権という概念は、第二次世界大戰以後出て来た新しい概念だろうと思います。わが国においては横田教授がこれを支持しておられる。この横田教授の所論を読んでみますと、今私が申し上げたような自衛権概念からやや離れている解釈をしております。ここに「国際法外交」という雑誌がありますが、この二十四年十月一日の集団的自衛の法理という横田さんの文章を読んでみます。これによると、こういう意味の自衛権ではなくて、それは一種の集団的正当防衛である。簡單に申し上げると、ここにいる人が殺されそうになつた、そこでこの人が防衛するのみならず、第三者がこれはあぶないと言つてつてやる、第三者が危害を加えられる人を守つてやる、これが集団的自衛権であるということを言つているのです。こういうような考え方が現在国際法学界というか、世界の国際法の通念において主流を占めて来ているのか、あるいはまだほんとうの部分的な少数説にすぎないのか、そのことを承りたい。
  182. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私はその点にお答えするについては、も学者でもございませんし、まことに自信がない次第でありますが、中曽根委員御指摘の通り、自衛権について集団的自衛権という観念が突如として現われましたのは、国際連合憲章第五十一條によつてであります。国際連合に加盟しております六十弱の国は、むろん国際連合憲章の規定を受諾いたしておりますので、そういう国の政府は、むろん公式に集団的自衛権はあるというような考えをとつておられるものと解釈するのが常識だと思います。しかしこれを他方純粹の国際法上の、いわゆる論拠、主張としてみます場合に、今日自衛権について個別的の自衛権と別に集団的自衛権というものが、国際政治上の必要からかどうか知りませんが、そういうものが国際連合憲章によつて認められたにつきましては、いかにしてこれを学問的に見て肯定するかという、その論拠について非常な研究が行われておるようであります。私の知つている範囲内におきましては、横田先生の発表されました、今御紹介になりましたような解釈、これは私そんたくいたしますのに、日本の刑法の三十六條に見ましても、三十六條は、個人の正当防衛権に基く行為はこれを罰しないという趣旨でありますが、そのときに自己及び他人の権利、云々という規定になつておりまして、必ずしも正当防衛権を行使するその個人でなく三他人に対する不正なる危害も認められているというのが、刑法上の規定でもあるし、また判例もそうなつているというところから演繹されての一つの試論——集団的自衛権というものを、国際法上肯定するについての一つの試論の程度において、先生御発表になつておるものと了承いたしております。私の知つている範囲内におきまして、頭から集団的自衛権というものは、肯定さるべしという議論を述べられた国際法学者の説には、お目にかかつたことがございません。
  183. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そこでお尋ねしますが、この固有の自衛権、狭義の自衛権、この自衛権は私はその国に固有のものであつて、他国に委任することはできないと思うのです。この固有の自衛権は他国に委任できますか。
  184. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点につきましては、憲章それ自身が言つているように国家に生れながらにしてある——インヒアレントという字が使つてありますが、国家に生れながらにしてある自衛権、こういう言葉を使つております。私どもはそれを固有の自衛権というふうにかりに訳しておりますが、その文句につきまして、サンフランシスコ会議に出ましたアメリカ代表団の大統領あての報告の中に、その固有のという文句を説明しまして、この固有のというのはこれを放棄し得ず、また何人も奪い得ない、こういう意味のものであるということを言つております。私どもの持つておる国際法上の常識から見まして、自衛権というものは放棄することもできないし、また委任することもできない、性質の権利であると考えております。
  185. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 固有の自衛権というものが委任できないということをお聞きいたしまして、これは私は相当注目すべき発言であるだろうと思います。しからば集団的自衛権と個別的な自衛権との関連でありますが、集団的自衛権というものをしからばわが国も持つておるものであると解釈してさしつかえないですか。
  186. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点につきましては、先刻総理から御答弁がございましたので、私はそれを御敷衍申し上げる僣越をいたしたくないと思います。
  187. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は総理大臣質問しておるのではなくて、條約局長国際法解釈を聞いているのです。尊敬すべき先輩から教えていただこうと思つて今言つておるわけです。そこでもう少し御親切に御答弁願いたいと思うのですが、たとえばアメリカならアメリカの場合を考えますと、国には固有の自衛権と集団的自衛権と二つの自衛権があるわけですか。
  188. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 合衆国は国際連合憲章を受諾して、これに加入いたしております。その受諾して加入しております国際連合憲章の第五十一條に、個別のまたは集団的の固有の自衛権云云ということが規定されております。従つて私は以上の事実からしまして、アメリカ政府としてはそう考えておられるであろうという推測をあえていたすものでございます。しかしこれも断定的に申し上ぐべき立場にないということを御了承願います。
  189. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、個別的の自衛権と集団的自衛権というものは、根元は全然関係なしに別個なものとして二つ持つている、こういうふうに解釈してさしつかえありませんか。
  190. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 非常にむずかしい学問上の議論になりますが、私は一つのものであろうかと思うのでございますが、ほんとうに自信がございませんということを告白いたします。今申し上げましたように国際法上、自衛権について集団的自衛権というものが肯定できるかできないかということが、現下の国際法学者の非常に興味のある、いわゆる研究課題になつておりますので、その研究課題になつておる問題につきまして、専門家でもございませんような一小役人が、こう思うというような意見を述べることは差控えたいと思うのです。
  191. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 どうも急所に来ると小役人と言つて煙幕を張りますが、これはそういう政治的な問題でなくて、ひとつお答え願いたいと思うのです。(発言する者あり)そこでお聞きいたしたいと思うのでありますが、この集団的自衛権の問題です。それは国家の基本権として、国家が成立するからには当然認められる権利なんですか。
  192. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 もちろんそう考えております。
  193. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば日本が独立した場合、あるいはタイであるとかインドネシア共和国連邦であるとか、完全な独立国の場合は、いずれの国も個別的な自衛権と集団的自衛権を固有に持つておると解釈してさしつかえありませんか。
  194. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点は私の先刻の答弁によつて御判断を願います。
  195. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかし今條約局長は、国家の基本的な権利として固有に持つておると言われた。そうであるならば、国家として成立しておる国には、みな個別的自衛権と集団的自衛権があるべきじやないでしようか。一番重大な問題だ。     〔発言する者あり〕
  196. 植原悦二郎

    ○植原委員長 私語を禁じます。委員長はかように見ております。自衛権の問題を突き進んで政治的に考えるには、ある程度の原理原則を学術上から知つておく必要があるから、決して関連のない質問とは思いません。ただそれが度を越すか越さないかというだけのことでありますから、その点を御了承願います。
  197. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 集団的自衛権そのものにつきしては、たびたび申し上げますように国際法上から、いわゆる一つの研究課題として存するというのが現状でございますし、また中曽根氏のあげられましたような具体的な国名をあげての設問に対しての答弁は、直接間接政治的の意義を持ち得ると思いますので、私は答弁を差控えさせていただきたいと存じます。
  198. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は、では具体的な名前をやめにいたしまして、しからば完全独立国である場合には、個別的自衛権と集団的自衛権というものを固有に持つておる、こういうふうに解釈してさしつかえないですか。
  199. 植原悦二郎

    ○植原委員長 中曽根君、西村條約局長はその点についてはまだ集団的自衛権の問題は、特殊な新しい国際法上の問題として学者の間でもかなり異論のあることであるから、條約局長の立場としては、それ以上お答えすることはできぬと申しております。それ以上幾たびお繰返しになりましても、それ以上の答弁は私できないと思いますから、その質問はその程度においてやめられんことを委員長として希望いたします。
  200. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 委員長はちよつと誤解かあるようです。私がお聞きしたのは、要するに国家の固有権として個別的自衛権と集団的自衛権があるということを條約局長は言われた。それを私は具体的にとつて、ではシャムとかほかの国には生れながらにあるのかというと、それは答えられない。その点がはつきりしたかつたから、では抽象的に完全独立国の場合には……
  201. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 ちよつとただいまの中曽根委員の御発言の中に一言つけ加えさせていただきたいと思います。私が国家にいわゆる個別的自衛権と集団的自衛権があると申し上げましたのは、むろん言うまでもなく、国際連合憲章を受諾いたしまして国際連合加盟国となつておる国については、憲章の明文にそう規定してありますから、そういうふうに解釈するのが穏当であろうと考えております、という形式で申し上げたということをお忘れにならないようにお願いいたします。
  202. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そこではつきりしました。要するにあなたは、しかし国家の基本権としてあるということを言われた。基本的権利義務は人間にもあるけれどももこれは別に法律にあるから認められたどいうよりも、生れながらにしてある、こういうふうに大体解釈しております。従つてどんな国でもあるのじやないか、こういうふうにだれでもとるわけです。  この問題はこれで切上げまして、それに関係した問題でこの間横田教授が読売新聞に軍事基地の問題を書かれておつた。それはどういうことであるかというと日本の憲法の解釈において、あるいは国際法解釈においてこういうことが認められたのだと言つておる。それは日本国内に軍事基地を置いてはいけない、しかし一旦緩急あつて侵略が日本に開始された場合には、ほかの国が侵略開始と同時に日本国内に軍事基地を設定しても、それは憲法違反にならない、それはなぜならば自衛権があるからだ、こういうようなことを読売新聞に発表されておつた。そういうようなことがはたして国際法上及び日本憲法上可能ですか。
  203. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御指摘になりました横田先生の御見解というものは私も拜読いたしました。この問題につきましては、あらゆる機会に吉田総理からたびたび御答弁になつておりますように、すべて仮定の問題である、ないしはいまだ具体的にどこからも交渉を受けていないからと言われまして、総理の方で御答弁を差控えられております。そういう問題でございますから、一下僚の私から意見を述べ、御答弁申し上げる筋合いのものではないということを御了承願います。
  204. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それではあなたにこれ以上お尋ねするのは気の毒ですからこれでやめますが、最後に一つお尋ねいたします。日本憲法に抵触しないで、しかも国際連合に加入し得る方法がございますか。
  205. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 これまた一つの仮定でございますが、私は可能であると考えております。
  206. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかも国際連合憲章によりますと、ある国が侵略行為を開始した場合には、武力援助をして集団的にこれに制裁を加える場合には、軍隊の通過を許す。軍事基地の設定を認める。こういうことがあるのであつて、戰争参加ということになるのではないかと思います。その点日本憲法第九條との関係はどうなります。
  207. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろん可能であると申しますのは、無條件で可能であると申す意味ではございませんので、日本の憲法によつて與えられております新しい国家の性格と両立し得るような條件につきまして、国際連合と日本政府との了解がつき、もしそれが可能であつたならば、そういうふうな形式のもとに可能となるであろう。憲法と憲章とを読み合せて、ただそれだけで加入は不可能であるというような結論は出ないではないか。こういう意味におきまして可能と考えるという意味において申し上げたのであります。
  208. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 具体的に聞きますが、戰争の問題、戰争に関する條項に関するその部分については留保をしなければ、われわれは国際連合に加入できないのではないか。この問題に対してはどういうふうな御見解でありますか。
  209. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 国際連合憲章は、御承知の通りどこにも戰争ということを容認しておりません。この点は連盟の規約と非常に違うところでございます。連盟規約はある場合には合法的な戰争というものを認めております。国際連合におきましては、完全に戰争というものは禁止いたされております。しかしながら国際連合というものは、第七章によりまして、強制的措置をとる。この場合には武力の行使、すなわち協力的措置をとることを規定しております。その場合には加盟国は、安全保障理事会の決定に服従する義務があるということになつております。従つて日本のように交戰権を放棄するのみならず、軍備を持たないという性格を持つておる国が、かりに加盟国になりますならば、憲章第七章の規定によつて予見されておるような連合の行動に対する援助をなし得ない。いわゆる国内法上限界があるということは当然でございます。従つてその点についての連合と日本政府との関係についての明確なる留保なり了解なりがあつた上に、それが可能であるならば、その場合に初めて日本国際連合加入というようなものが可能になるであろう。こういうように考えておるのでございます。
  210. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 最近の国際関係解釈について、私は現在勉強しておりませんけれども、横田教授の説と田岡教授の説が二つ顯著なる対立を示しておるのだろうと思います。つまり横田教授の説は、第二次世界大戰以後の世界においては、バランス・オブ・パワーに基く中立というものは存在し得ないのだ、国際連合憲章自体が戰争あるいは侵略に対しては、参加国の全世界がこれに対抗して措置を講ずるのだ、従つてその間には中立というような余地はないのだ、こういうことを横田教授は言つておられる。それに対して田岡教授は、必ずしもそうであるとは断定できない、国家の意思と能力、たとえ少いとはいえ、国家の意思と能力を活用して、そういう余地があり得るのだ。こういう対立をしておると思うのであります。この点に関して條約局長はいかなる所信を持つておられるのでありますか。
  211. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 尊敬いたしております横田先生と田岡先生の御両所の御意見について、相当の相違があるという点については日ごろ承知いたしております。しかしただいま中曽根委員が表現された事柄は、少し両博士の立場を正確に言い表わしてないかと思いますので、つけ加えさしていただきます。両先生とも問題にされておりますのは、永世中立の制度についての見解の相違でございまして、中曽根委員が言われるように広い意味の中立、一国が外交政策として他国の戰争に介入しないような政策をとつて行くことを、国策として行くという広い意味での中立の問題についての意見の相違ではございません。永世中立というものは御承知の通り——また講義めいて恐縮でありますが、一国がその国策として中立政策をとつて行くというだけでは不十分でございまして、関係諸国特に利害関係の深い大国がその国と條約を結びまして、その條約によつて永世中立国となる国は、永久に中立政策をとつて行く義務を負う。従つて平素他国との戰争に巻き込まれる可能性のある條約をつくることは、できないということになりますに対して、いわゆるその他の関係国、保障国というものは、その国の中立を尊重すると同時に、その国の中立が他国によつて侵略されるような事態が発生したときには、武力をもつてこれを制止する義務を負う條約関係にある国が永世中立国であります。こういう性格の永世中立国というものが、今日の日本のいわゆる安全保障という方式として妥当であるか、妥当でないかという点についての両先生の見解が違つておる、こう了解いたしております。永世中立の性質そのものについては、決して御意見の相違はございません。しからばどこから両先生の御意見の相違が出て来ておるかと申しますと、横田先生は、今申し上げましたような永世中立国という制度は、十九世紀から二十世紀の前半における。いわゆる国際政治において、国家主権の傾向が非常に強くありまして、国家はお互いに独立国であるという思想が強く、二国または三国の間で戰争が起つても、他の大多数国が中立関係で残るというような時代には、安全保障の方策として最も有力な制度であつた。しかしながら第一次世界大戰後の世界というものは、国際連盟が設立され、国際連合が設立され、世界のほとんど全部の国を包含する国際平和と安全維持の組織ができ、しかも国際連合憲章のように、戰争というものを全部否認いたしまして、あらゆる国際紛争を全部国際連合の手によつて平和的に、またそれで成功しない場合には強制的措置によつて、これを防渇ないし中止させるという大きな国際政治国際社会の組織が変化しておる今日は、すでに永世中立というものは時代遅れの観念だという言葉を横田先生は使つております。この時代遅れであるという横田先生の考えに対して田岡先生は、そうじやない、何となれば、日本は憲法によつて交戰権を放棄し、また武装も持たないという独特の国家がここに現われておる。それからもう一つはいわゆる連盟、ことに今日国際連合というものはできたけれども、しからばそれによつて現実的に国際の平和と安全が確保されるという自信われわれは持ち得ない。世界の客観情勢から見て、こういう時代であるならば、永世中立という制度を十九世紀的のオブソリートな制度だといつて軽くあしらわないで、日本の安全保障の方式として、もつと違つた目から検討する必要があるのではないかという立場をとられて、いわゆる永世中立制度というものに、新しい意義を持たせようという立場をとつておられるのが、田岡先生の立場だと了解いたしております。この二つの学説はなるほど違つはおりますが、主として学説上の争いではございませんで、両先生の国際政治現状に対する見方の違いから来ておる結論だと私は判断いたしております。実は学者の学理上の争いではなくて、二国際法大家の国際政治観の違いである。こういうふうに判断いたしております。従つてこの問題につきまして、どちらに私が加担するかということは、結局今日の国際政治をいかに見るかということについて、私の見解を述べるということになりましようから、そういう問題についてはお答えできないのであります。(拍手)
  212. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その程度のことは実は私も知つておるのでありまして、つまりそれは妥当性の外交政策としてどちらをとるかということを私は聞いたのです。しかしあなたは小役人とかなんとかいう関係から言われないとおつしやいますから、これ以上追究いたしません。どうも御苦労さまでした。これで私の條約局長に対する質問は終ります。  次に経済及び財政政策に関しまして、池田大蔵大臣及び青木安本長官その他の関係閣僚に御質問いたします。私は初めこまかいことをお尋ねいたしまして、最後に包括的な問題について、つまり吉田内閣の国策についてお伺いいたしたいと思います。  最初にお聞きしたいと思いますことは、いわゆる一—三月の危機の問題であります。御存じのように新聞でも、ラジオでも、一—三月の危機ということがいわれております。聞くところによると、中小企業庁長官が罷免されるのもそれに原因があつた。これくらい大きな問題になつておるのであります。少くとも日銀券というものを対象にして、われわれが一—三月における経済情勢を判定すると、どうしても相当なデフレであり、相当な窮迫が国民生活をおおうと考えておるのであります。なぜかというと、たとえば年末における通貨が三千五百億円である。それを大体三月末に三千億円程度までおそらく収縮するだろうと思うのですが、しかるに一千六、七百億の徴税がその間にある。この間を縫うて日本銀行券を三千億円台にとどめておくためには、少くとも六百億円ないし六百五十億円の金がこの三箇月の間に出なければカバーすることができない。その六百五十億円程度の金を出す余裕が今政府にあるか、どこからどの程度の金が出て、三月末にはどのくらいの通貨が維持できるのか、この御見解を承りたいと思います。
  213. 池田勇人

    池田国務大臣 政府から出ます金は、五百億円や六百億円ではありません。千億円以上出るのであります。従いまして私の見ますところでは、一—三月の政府の引揚げ超過——これのおもなものは税金、専売益金、あるいは食糧関係の主食の売拂い代金、あるいはまた貿易関係の滯貨の売りさばき、あるいは預金部の郵便貯金その他の預金の増加、こういうものの引揚げと、それから政府一般歳出並びに供米代金あるいは貿易会計等への借入れ代金、こういうもの、こういうふうにやつてみますと、大体一—三月では千億円程度の引揚げ超過ということになろうと思うのであります。これは終戰処理費の使い方その他によつても影響がありますが、大体千億円以内にとどまると考えております。昨年度の様子では大体千二、三百億円程度で、税金の総額はある程度ふえましたけれども、以上のような状態で大体千億円以下でとどまる。しかしてこの千億円のところで日本銀行がどれだけマーケット・オペレーシヨンをやるか、あるいはまた日本銀行がどれだけ貸出しをやるか、しかもまた預金部資金をどの程度一般放出に使うか、こういうことによつて通貨の問題に影響いたして来ると思うのであります。また見返り資金につきましては千億円の原因の中に入れておりますが、見返り資金の使いようによつてもある程度違つて来るのであります。私は大体三月末は三千億円程度の通貨に相なると思うのであります。ディスインフレとかデフレの問題、通貨にも相当重要な問題であるのでありますが、やはり預金、通貨の問題も考えて行かなければなりませんので、一概に租税が一—三月に固まつて来るからもさあこれは三月危機だとかいうことを言つておりますが、私は今申し上げましたような状態で、適時適正な措置をとつて行けば、円滑に年度を越して行くと考えておるのであります。
  214. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 池田大蔵大臣は相かわらず楽観的なことを言つておられますが、私は見解を多少異にするのであります。その前にお尋ねしますが、一体三月末に日本銀行券の発行をどのくらいに收めておくおつもりでございますか。
  215. 池田勇人

    池田国務大臣 私は決して楽観はいたしておりません。今言つたように適当な措置を講じて円滑に年度を越える、こういうことを言つておるのであります。決して楽観ではない。私のいわゆる努力目標であるのであります。三月末の通貨の問題は財政演説で申し上げましたように、通貨をその経済状態によつて適正量に維持して行く、しかもまたこれは預金、通貨との関連の意味考えて行く、こういうのでありまして、通貨が三千億円なければならぬ、あるいは三千三百億円が適正だ、私はこういうひねくれた、考えは持つておりません。
  216. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 通貨を三千三百億とか三千億にするのはひねくれた考えであるとは私は考えておらぬ。何といつて経済界の人が商売をして行く上において、毎日、新聞の下を見ておるのは何かというと、通貨の発行量を見ておる。つまり貨幣というものを中心にして経済があなたの力で動くようになつて来た。その基準になつておるものに対して、そう関心を持たぬということは、私ははなはだ遺憾な態度であると考えます。     〔委員長退席、小峯委員長代理着席〕  池田大蔵大臣御承知のように、一昨年の十二月末には約七百億の金が一箇月だけで出ておる。大体千六百億くらい散布超過になつておると思いました。昨年はどうかというと、約四百億くらいしか十二月末は出ておらぬ。しかも一昨年はインフレがやや安定するというときです。今年はデフレの危險性があるというときにもこの際ぐつととるということは、産業界に及ぼす影響というものは昨年や一昨年の比では、ない。そういうことが一つ大きな問題としてあります。それからもう一つは、税金の問題でもよくわかるように、申告課税の徴收はきわめて惡い。たしか四〇%くらいしか行つていない。これは中小企業は金に詰まつて、税金も納めることができない実態を現わしておるだろうと思うのです。もう一つ問題になるのは、たとえば日銀から貸出しをやるとか、そういう措置をやろうとしても、実際問題として銀行は授信能力がない。十二月の末東京の社員銀行の統計を調べてみると、預金がほとんど貸出しと同じくらいになつてつて、貸出し千八百億円に対して千九百億円くらいになつておる。もし三千億円、三千三百億円の通貨を維持しようとすれば、銀行は大体において百パーセント以上の貸出しをしなければならぬということになつておる。こういう銀行の構成の不健全というところから、外銀から日本の銀行に対して信用がないということもあるし、稻垣さん自身が心配しておる、あるいは大蔵省の銀行局で心配しておる銀行の改編という問題が出て来ておるだろうと思う。現実に銀行の信用とか運営の健全性というものがここで疑われておる。そういうさ中にあつて、依然として通貨の問題や金融の問題を心配する必要がないという根拠を、私はもう少く明確に示してもらいたい。数字をもうて、預金部資金からこれくらい出るだろう、見返り資金からこれくらい出るだろう。あるいはオペレーシヨンでこれくらい出るという、その具体的な数字を示しでいただきたいと思います。
  217. 池田勇人

    池田国務大臣 一昨年の暮に政府の支拂超過が七百億というお話でありますが、私の持つております数字はもつと多くなつております。ただ問題は政府の支拂超過、引揚げ超過の問題に、預金部資金を関係せしむるかせしめないかによつて数字が違ますが、お話の通りに一昨年の暮は相当金詰まりその他を心配しまして、終戰処理費とかいろいろなことで政府の支拂いを非常な速度でやつたのであります。しかし昨年の暮は、前もつてそういうような十二月にぱつと出るようなことをしないように、八、九月ごろから注意いたしておりましたので、大体四百億か五百億ぐらいにとどまつたのであります。しかして数字的に一—三月がどうかという問題でございますが、個々の数字を申し上げましてもこれは先ほども申し上げましたように、正確な数字というものはなかなか出ません。たとえば日本銀行のマーケット、オペレーシヨンでは、大体社債その他興銀債で二百四、五十億円を見込んでおります。また貸付におきましては、二百五十億あるいは三百億を見込んでおります。しかしこれも銀行の貸出しの状況によることでありまして、五十億や百億は動いて参りましよう。しかしそういう場合に大蔵大臣としていかなる処置をとるかということにつきましては、私は用意をいたしておるのであります。どういう用意をしておるかということは、これは今申し上げられません。財政金融政策を遂行して行きます上におきましては、ある程度やはり関係方面との打合せもしなければならぬ問題であるのであります。私はいろいろな金の使い方につきまして、この手で行かなければあの手、あの手で行かなければこの次の手と、いろいろな手を持つております。それはどういうことがあるかといえばも預金部資金もありましよう。見返り資金もありましよう。あるいは閉鎖機関の持つておる百五十億もありましよう。いろいろな手があるのであります。そうしてまた一般会計が国庫金を使つておるのを、日本銀行から借り出して、国庫金の余裕を使うというように、四つも五つも手があるのであります。見返り資金はどうとか、預金部資金はどうとかと言われますが、大蔵大臣のところでは見返り資金も預金部資金もさることながら、国庫金とか、閉鎖機関の金とか、いろいろなものがあるのでありますから、大体千億円足らずの引揚げ超過、そうして日銀のオペレーシヨン並びに貸出しを五百億円前後、見返り資金の国債償環百二十五億ができるかできないか、預金の増加もどうか、こういう問題があるのであります。今計画的に金をどうするというよりも、ただいま考えておる当面の問題といたしましては、株式金融の問題、それともう一つ中小商工業者に非常な影響のあるものが滯貨金融の問題、ことに公団あるいは貿易関係の滯貨あるいは未收入金の問題、これが数百億ありますので、この点についてただいま手をつけておるのであります。いろいろな手がありますので、楽観しておるのじやありません。そういう手をうまく使つてつて円滑にやつて行く、こういうことであります。
  218. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 手がうんとある、うんとあると言つて、盛んに見せびらかしておりますが、一体どういう手がおあ、りになるのか、もう少し詳細に示してもらいたい。たとえば命を出すと言えば、ほとんど今の場合ですから銀行を通じてコマーシャル・ベースで出す。ところがオペレーシヨンをやるにしても、銀行の方ではもらつた金は日銀に返してしまう。返済に使うとか、あるいはまたかりに今度は貸出しを受けるにしても、資産構成の上からも受けられない。こういうほとんど詰まつた状態に出て来ていると思う。こういうような飽和点に達した状態にさらに食え、食えと言つても食えない状態である。直接国家が商売でもやつてやるなら別です。その手の中に秘めているあなたの秘中の秘というおはこを、ぜひこの際示してもらいたいと思う。
  219. 池田勇人

    池田国務大臣 銀行の貸出しが預金に対して非常な高い率になつておる、こういうお話でございます。これはた、びたびそういう御質問があつてお答え申し上げたのでありますが、御承知の通り、銀行はできるだけ貸出しをするようにいたしておるのであります。昭和七、八年から最近までにおきまして政府は国債を相当出しております。また終戰後におきましても千億円程度の復金債を持たしておるのであります。従いまして銀行は貸出しをやるよりも政府のあつせんと申しますか、勧奬によりまして復金債や国債を持つた。復金債は今年度におきましても千億円も償還をいたしておる。その金を遊ばしておくわけに行かないから実は貸出しをやつておる。われわれも銀行が貸出しをすることは非常に望んでいる次第であります。従いまして今全国平均でいつて預金に対しましての貸出しは八十二、三パーセントになつております。昭和元年から五、六年ごろまではやはりその率だつたのであります。だから全体といたしまして預金に対しまして貸出しが八十二、三パーセントということは何ら心配する必要はない。これを行うことがディスインフレーシヨンの方向であるのであります。決して銀行がこれを自分のところで持つておるとかなんとかいうことは、銀行経営上から言つてもいかないのであつて、こういうことは心配はいりません、従いまして今後来年度において国債を償還することになると、これは貸出しが預金を超過するようなことが平均的にあると思うのであります。しかしそれだからといつて心配はいりません。それは見方によつては貸出しばかりしてしまうと、日本銀行へ行くときに質ぐさの問題なんかもあるということも考られますので、普通銀行が長期資金を直接に投資するよりも、できるだけ興銀とか勧銀あるいは農林中金というものを通してやつた方がいい。そうして金融債を普通銀行に持たした方が、ちよつと見たかつこうがいいからというので、金融債の発行を考えておるのであります。従いまして平均的に、申しますと、預金に対して貸出しが、八十二、三パーセントになつております。八十二、三パーセントになつておりますが、東京のある銀行におきましては、これは預金よりも貸出しがふえておりましよう。日本銀行からうんと借りております。法律にかかるようにまで借りております。しかしその銀行が不健全かといつたら決してそうじやない。産業の振興に非常に協力している。預金よりも貸出しが越えておる銀行が非常に不健全だとは全然考えていない。今のいわゆる金融界の状況がそういうふうにたつております。従いまして貸出しその他によつて銀行の経営をどうこうということは私は心配はいらぬと思います。どんな手を打つかという問題でありますが、これはことによつたら、手をみんな打たなければならぬこともあります。あるいは公団金融なんかの点を考えれば非常にスムーズに行くかもしれない。私はできるだけ経済界に非常な変動を與えないように、徐々に自立経済を立てて行こう、こういう考えで行つておるのであります。ときどきとにかく適当な手を打つて、三月の年度を越えたいと考えておる次第であります。
  220. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 適当な手、適当な手とばかり言つておるから私は重ねて聞くのですが、適当な手というのは一体どういうのか。池田大蔵大臣は預金と貸出しの問題を取上げましたが、私が調べたところでは、昭和十年で全国銀行平均で七〇%です。大銀行で五二%です。それが昭和二十四年十月になると大銀行ですら八五%に上つておる。全国銀行は八七%です。日銀からの貸出し総量は約千六億円、資本金百九十五億の五倍、これくらいにふえておる。今まではこれでいいかもしれない。しかしこれ以上水を飲めと言つたとて飲めない状態である。ことに本年の資金計画を見ると、おそらく年度当初の資金計画を完了するためには、第四・四半期に至つて第二・四半期も第三・四半期の一・五倍から二・五倍くらいの金が一挙にどつと出なければこの危機が救えないと思う。そういうような時期にあたつて、これ以上飽和点に達して飲むことができないこの現実をどういうふうにごこらんになりますか。
  221. 池田勇人

    池田国務大臣 飲むことができないというのは、たれが飲むことができないのですか。
  222. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 銀行だ。
  223. 池田勇人

    池田国務大臣 銀行は預金がふえて来ればどんどん預金を飲んで行きまして、そうして金のいる方面に出して行くのであります。飲む飲まぬの問題では私はないと思います。
  224. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 預金を飲むというのじやない。貸出しを受ける力がないということだ。
  225. 池田勇人

    池田国務大臣 貸出しを受ける力がないというので、私は早く各企業体が銀行から信用を受けて、どんどん金が貸せられるような態勢をとつていただきたいということを、財政演説にも言つておる通りであります。皆さんこのごろ口を開けば金詰まりと言つておりますが、必ずしも金詰まりではない。信用詰まりであるのであります。従いまして私は各企業家におきましても、早く立ち直りをするようにと言つておるのであります。飲む力がないというのは銀行ではないのでありまして、ほんとうに銀行の金を借りる力がないというのが、今の実情であると考えておるのであります。
  226. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 もちろん企業自体も大分資産問題、税金問題その他で力がなくなつておることは事実でしよう。しかしそれに金を貸したり企業自体を運営さして行つて、たとえば貿易をやるにしても、貿易関係の輸出入の資金がいる。あるいはその他の一般の企業にしても、年末の金詰まりあるいは滯貨を処分する滯貨金融もいる。こういうことをやつて行くためには、銀行というものが中間に立たたければならぬ。銀行が中間に立つて、しかもあなたが一番重要視しておる政府が直接関係するのじやないのだ、コマーシャル・ベーシスを通してやるんだ。そのトンネルは何かといえば金融機関以外にない。その金融機関がそういう状態で、しかも企業自体もそういうふうに能力なしという状態で、三月まで安全に推移できますか。私はできないと思う。その状態は、たとえば中小企業の納税関係でもはつきり出ておると私は考える。
  227. 池田勇人

    池田国務大臣 だから金詰まりの問題もせんじ詰めれば信用の問題であるのであります。しこうして私が今企業家あるいは中小商工業者に、早く合理化して自立態勢を整えていただきたいということを一方で申しますと同時に、今滯貨になつております問題、すなわちどこから手をつけるかと申しますと、民間の滯貨よりも早く公団関係の滯貨について手をつけますと、これがおのずから民間の方にもまわつて参りますので、ただいま緊急の問題というのじやございませんが、急いで一番先に手をつける問題として、公団の金融等を考えておる次第であります。中小商工業者の税金のことを非常に御心配になつておるようであります。私ももちろん心配はいたしておりますが、事業所得でこの一—三月に徴收すべき税額は大体九百億余と考えております。このうちには農業所得もあります。水産業その他お医者さんとか庶業所得がございます。こういうものを引きますと、中小商工業者の納税資金は大体四百億程度ではないかと考えておるのでおります。前年のそれに比べまして大した差はないと考えます。片一方でいろいろな滯貨金融その他の手を打てば、私は円滑に年度を越えると考えておる次第であります。
  228. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 銀行の問題で心配がないと言つておりますが現にけさの新聞でもわかるように、新たに銀行法を改正をする上において、関係方面から示唆を受けておる。それでもんであるような状態であります。そのように銀行自体が不健全になつて来ておる。この事実をそのまま放任しておいて、銀行は大丈夫だ、こう言つておる大蔵大臣の真意が私にはわからない。
  229. 池田勇人

    池田国務大臣 銀行の内容が不健全だから改正するような示唆は、この大蔵大臣はまだ受けておりませんから、御安心願います。
  230. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 けさの新聞の銀行法の改正というのはどこが問題になつておるのですか。
  231. 池田勇人

    池田国務大臣 これはさきに財政演説で言つておりますように、長期金融の円滑を期するために、見返り資金等から出資をさせまして、そうして金融債発行についての改正であるのでありまして、お話のような銀行の内容がどうだとかこうだとかいう問題で、銀行法を改正する気持は私は持つておりません。
  232. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 けさの日本経済新聞によると、單なる昔の特殊銀行のみならず、一般金融機関にもそれを及ぼそうという記事が出ておる。それもやはり否定されるのでありますか。
  233. 池田勇人

    池田国務大臣 何もそれは否定しておりませんので、銀行に対しまして長期資金を調達さす、こういう意味で見返り資金から出資する等によつてやるということの改正はありますが、お話の通りに銀行の内容がどうだとかこうだとか、だから銀行法を改正するという示唆は全然受けておらないのであります。銀行に関する規定は一昨年の暮ころから昨年にかけてちよいちよい新聞に出ておりますが、私も知らぬようなことが載つておるのでおります。でありますからああいうことをただちに御信用にならぬようにお願いいたします。
  234. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そんなことはない。この前の議会で私は愛知銀行局長に聞いた。愛知銀行局長はただいま問題になつておる点はこれこれでございますと私にはつきり答弁しておる。愛知銀行局長にちよつと出て来てもらいたい。この前私が質問したことは、たとえば銀行がある一人の特定個人に貸す限度をどれくらいにするとか、あるいは準備率をどの程度にするとかいうことでしたが、そういうようなことをすでに改正の準備をしておる、次の議会に出すということを銀行局長は言われた。そういう事実があつたかないか、銀行局長に聞きたい。
  235. 池田勇人

    池田国務大臣 私からお答えいたします。これは銀行の問題に限らず、商法にいたしましても、いろいろな問題にいたしましても、事務当局がいろいろな問題で論議することはありましよう。しかし事、法案にしてどうこうという場合におきましては、大臣として私が責任を持つておるのであります。従いまして一昨年私が浪人しておるときに、銀行法の改正ということがあつたということは聞いておりますが、大臣になりましてから、正式に私がとやこう銀行法の改正で向うから示唆を受けたことはありません。ただこういうことを向うが言つておるとかなんとかいうようなことは、私の耳に入りますけれども、これは属僚のやることでありましても私はあまり気にしておりません。しかもまた今の預金に対しての制限という問題は、見返り資金を出して出資した場合に、見返り資金の倍数を二十倍で押えたときに、預金こ見返り資金による二十倍の分とを関係させてどうこうするという問題は、の見返り資金の出資で起つておるのであります。これは今あなたが前提とされました銀行の経営云々から来る問題では直接ないのでありまして、長期債を発する場合においての考え方の問題でありまして、銀行の経営が不健全とかなんとかいう問題ではないと御了承願います。
  236. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は事実をもう少し調べてみたいから愛知銀行局長にお尋ねしますが、この前の私の質問は、翌日の新聞にも全部出ておつた。その内容は先ほど申し上げた通りであります。その当時愛知銀行局長は、おそらく次の国会に法案として提出することになるだろう、今準備中だ、こういう答弁をされた。愛知銀行局長にそういう事実があつたかどうかを聞きたいと思います。
  237. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 銀行法の改正につきましては、前国会でも予算委員会で御答弁いたしました通りでありまして、実は一昨年の八月以来、いわゆる金融業法案なるものの示唆が関係方面から出ておりますことは事実であります。しかし前国会でお答えいたしましたように、その後情勢が非常にかわつて参りまして、それから前国会でお答えいたしましたときからもまた情勢はかわつております。前会に御説明いたしました要点は、私の記憶では、たとえば預金支拂い準備制度をとつたらどうかというような考え方がある。それからたとえば一つの貸出し先の制限について、たとえば資本金が百万円の会社に対して資本金をオーバーするところの貸出しをしておる場合があり得る、さような場合に、これはある程度制限をしたらばいいじやないかというような意見があることは事実であります。それからさらに預金その他の外部負債に対して資本金を一定の比率に置いたらどうか、こういう意見もあるわけであります。しかし前国会でも御答弁いたしましたように、それらの考え方も、今日の日本の実情においてただちに必要とするかどうかということについては、非常に疑問がある。この点については鏡意研究中でありますが、時期的には、時期が尚早であり、一つの研究問題というふうに私どもとしては考えております。しかしものによりましては次期の国会に事務当局としては提案し得るような準備をしておく必要があろう、こういうふうにお答えしたのであります。  なお申し添えますが先ほど大蔵大臣からも答弁いたしましたように、これは銀行の現在の内容が不健全であるからということではございませんで、率直に申しますならば、日本の銀行制度をアメリカの連部準備銀行制度に近いものにしようというのが、一つの考え方のようで、必ずしも現在の日本の状況には適さない部分も相当ありますし、いわんや現在の日本の銀行自体が不健全であるからということで、こういう考え方が出て来たものではございません。なお私どもといたしましては、銀行の健全な経営をよりよくするために、銀行検査の制度の拡充改善というようなことは、鋭意研究もし、実行もいたしておるわけでございまして、現在の銀行の業務の内容については、全然御心配になるような状態ではございません。
  238. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 愛知銀行局長にもう一つお尋ねしますが、この前御答弁なつたことと、最近のいろいろな状況の変化によつて、銀行業法の改正ほどういうふうに今かわつておるか、事務当局としての研究中のことをひとつ知らしていただきたい。
  239. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 まずこういうふうに御説明いたしたいと思うのであります。現在の日本の金融界におきまして、より多く望ましいことは、一つには長期の設備資金をどうやつて調達するかということであると思います。第二は、中小金融について有効適切な手を打ちたいということ。第三には農林水産等の関係の資金をどうやつて調達するかということであります。  それで先ほど申しましたように、日本の金融制度をアメリカ的なものに近いような形式的な改善をするよりも、むしろ現在の問情に沿うたような、最も望まれておることを中心にして研究をいたしたいというのが、現在の事務当局の立場でございます。幸いにそういう考え方に対しては私の見るところでは、関係方面でも非常に同情的に最近なつておるように思われるわけであります。  その具体的な一つの現われは、今申しました三つの問題のそれぞれの回答になる案だと思うのでありますが、およそ銀行であれば——勧銀であると、興銀であるとを問いません、およそ銀行あるいは金庫であれば優先株式を発行する。優先株式を発行いたしました場合は、その全額を見返り資金で補充してくれる。そうして自己資本と優先株式の資本とその合計額の二十倍までは預金もとれるし、債券も発行ができる。そういたしました場合に、たとえば興銀のごときは現状では預金はほとんどありませんから、優先株に対する二十倍までは長期の資金ができます。また勧銀につきましても、優先株の発行の金額その他によりますけれども、相当額の長期の債券が発行できる。農林中金しかり、商工中金しかり、こういうことになるわけでありまして、事務当局の希望としては、こういうふうな仕組みによります資金の調達額を大体四百億くらいにいたしたいものと考えておるわけであります。これを要するに、一番最初の金融業法、それからその後伝えられました銀行法の改正というようなことよりは、今申しましたような現実の事態に即して、むしろ日本で在来発達して参りましたような、また国民が習熟もし、銀行側としてもなれておる連中を活用する、そうしてそこに相当な資金量を流して運営するということが、最も現実の事態に即するものであるるこういうふうに考え、そしてこの案は大体現在まとまりまして、ここおそらく数日中に成案を得ることになると思いますが、これはすべて車行法案で御審議を願いたいと考えておるわけであります。
  240. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 銀行局長にもう一点伺いますが、この前あなたが私におつしやつたのは、資本金の問題、それから支拂準備金の問題、それから株式保有の問題、銀行相互の問題、それから小額預金者の方の問題、こういうような問題だつたと思います。この問題については変化はないですか。
  241. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 ただいま御指摘の点は、すべて当時において熱心に研究した題目でございます。しかしただいまのところ、これは私の個人の意見になるかもしれませんが、本国会に前回申しましたような諸点を入れましたような銀行法の改正案を提案することは、この際は差控えた方がかえつて適当ではなかろうか、主としてただいま申しました見返り資金の関係の單行法を中心にして考えて参りたいと思つております。  それから念のため申し添えておきますが、先ほど日本経済の記事を引用されたわけでありますが、これはその記事にもございますように、従来とも資本の充実ということで、預金その他の外部負債に対する一定比率の資本金の保有ということが、必要であろうという意見が一部に有力であることは事実でございます。それをこの際その点だけ單行法にりけたらどうかという意見が一部にある、そのことをおそらく伝えられておるのではなかろうかと思いますが、私ども事務当局の立場といたしましては、それは後日の問題にいたしまして、できるだけ見返り資金と優先株式という関係で、先ほど申しました三つの目的が達成できるようにすることをもつて今日の急務と考えております。
  242. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 現在の税金の状態について次にお聞きしますが、現在の徴收状況は、最近の統計でどのくらいになつておりますか。
  243. 池田勇人

    池田国務大臣 大体今年度内に予定しております租税收入が、一月から四月の末までに千九百億円程度と考えております。一月は当初の予定は五百五十億という予定でございましたが、そんなにはとてもとれぬだろうというので、四百五十億にかえました。一月の実績ほ四百十七億と記憶いたしております。しかしこれは日本銀行へ入つた計算でありまして、国税庁の方の計算とは幾分三、四日の齟齬がございます。大体四百二、三十億と御了承願いたいと思います。
  244. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 二月、三月の予定はどうですか。
  245. 池田勇人

    池田国務大臣 二月、三月の状態は、これは今の千九百億から四百何十億引いたので、あと千四百何十億残りますが、大体四月になつてからの調定が三百四、五十億くらいになるのではないかと思います。昨年度におきましても、大体四月の徴收が三百四十億だつたと思います。その繰越の分を三月に調定して、四月に現金の入る分を除きますと、大体二月、三月で千億余ということになると考えております。
  246. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 時間が問題のようですから、私はこの一—三月の問題だけ聞きまして、残りの質問はあしたに延ばしますが、ただいま池田大蔵大臣の説明によると、千九百億ほどこれから吸收する。一月は四百二、三十億である。こういうお話であります。昨年の実績を見ると、一月は三百五、六十億である。それから二月、三月以降はどうであるかというと、昨年の実績によると、大体やはり五百四十億程度ずつとつている。そうすると、かりに四月になつて調定してとるとしてやつたとしても、五百億から六百億というものはニ月、三月にとらなくてはならぬ。しかし去年と今年の経済界の状態を見てみると、物価の上り方も上つていないし、あなたがおつしやるように相当窮迫している。去年程度の税金がこの際ぎしぎしとれるとお思いですか。
  247. 池田勇人

    池田国務大臣 私はとれると確信いたしております。月に五百億とおつしやいますが、この中で御心配になつております事業所得の金額というものは、その半額近いものであるのであります。従いまして、先ほど来申し上げましたようないろいろな金融の措置講じますならば、去年の三千百億の予算の中でそう。今年は五千百億のところでやるのであります。私は去年よりも大してむずかしくないと考えております。
  248. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 なるほど予算の額はふえておるけれども、事業界の沈滯、所得が増加して行く率の低下というものは、去年以上の問題です。のみならず、先ほど申し上げましたように十二月、一月に比べて、今年の三月、四月というものはデフレが山になつて来る時代である。最後のしわが寄つて来ている時代だ。このときになつてあなたは、私がやる金融政策がうまく行われればとれる、こういう結論になつている。それがはたしてやれるか、やれないか疑問である。そんなに一ぺんにがつとまわしても、政府資金はちよつと給料を渡すようなわけには行かぬ。銀行をぐるぐるまわつて行くようになる。のみならず、全般的に見て所得自体が相当減つていると思う。こういう状態のもとに去年のものから類推するということは、非常にむりがあると思う。大蔵大臣はいかに考えるか。
  249. 池田勇人

    池田国務大臣 私は今言つたような状況でそう心配はいらない。所得自体が減つておるというのは、何を根拠におつしやいますか。私は所得はそう減つていないと考えておるのであります。もし実際に所得が減つておれば、税金はそれだけ少くなるのでありますから、楽になると考えておるのであります。
  250. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 あなたは税金の徴收の実態を知らない。所得が減つているから税金は楽になると言うけれども、去年仮更正をやつて、また今度修正決定をやるにしても、税務署はほとんどわくをきめられておつて、どんなにわけを言つても引きはしない。それが実際の状態である。税務署は割当てられたものを出さなければ、税務署としての職責を果せぬと考えている。そういう実態、現実を前からあなた方はわれわれから言われておりながら、平然として、とれるのだと言うことはどういうわけですか。一般の常識で考えたならば、おそらくニ、三百億の歳入欠陥になるのじやないか、こういうことが、心配されている。この点はどうですか。
  251. 池田勇人

    池田国務大臣 どうも悲観説が多いのでありますが、一昨年の一—三月にもかなりどうこうという問題があつた。去年の一—三月につきましても税金攻勢どうこうということがありましたが、去年は租税收入三百億の自然増收があつたことは、中曽根君も御承知の通力である。私は今の財政状況からいつて、適切な課税はもちろんしなければならぬ。むりな課税は絶対にやらないように実際いたしております。割当の問題なんかも、言つているような割当は決していたしておりません。とにかく予算を見ながらと言うと語弊がありますが、むりな税金をとらないように適切な課税をして、そうして納税の円滑を期するようにということを言つております。決して私はこの年度にニ、三百億の自然減收が出るということは毛頭考えており。
  252. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 普通の常識で、普通の運営をして行けば、おそらくそういう心配がある。しかしあなた方がとつてみせるという考え方でやるならおそらくそういうことはないでしよう。しかしそのかわり自殺や一家心中が相当ふえることは覚悟しなければならぬ。それがほんとうの実態です。そこで私は大蔵大臣にお聞きしますが、一体申告課税で滯納件数はどれくらい今あるのですか。     〔小峯委員長代理退席、委員長着席〕
  253. 池田勇人

    池田国務大臣 今正確な数字は覚えておりません。件数よりも金額の方が主だと思いますが、去年の六月ごろには七百億円くらい、七月、八月、九月、十月と整理いたしまして、よほど減つて来たと考えております。数字については、いずれ政府委員より御説明申し上げさせます。
  254. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 一—三月に中小企業者にとつて一番の問題は、やはり税金の問題です。この税金の問題について正確な資料をすぐ見せていただきたいと思いますが、今お持ちになつておりませんか。
  255. 池田勇人

    池田国務大臣 今持つておりませんが、いずれにしても中小企業関係の税金は、一月から四月までにかけて、全体でやまやま四、五百億だと考えております。
  256. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 去年と今年の状況を調べてみると、一月四日現在で大体昨年は十八億円、今年は二十六億円、しかし五日、六日、七日になると減つて来て、六日になると、昨年の五十六億円か三十三億円に減つている。七日になると、七十五億円が十億円に減つていル。こういうふうにして納入している額が減つている。私はこの傾向はおそらく三月までずつと続くのではないかと思いますが、それを昨年と同じような予想で進むということは、非常な楽観論だと思いますが、どう考えられますか。
  257. 池田勇人

    池田国務大臣 中曽根君の言うのは、いつの数字かわかりませんが、税金の種類をお考え願えばおわかりになると思います。五千百億の中で事業所得の税金は千七百億円でございます。しこうして十二月までに相当納めております。千七百億月の事業所得の中で農業所得が四百数十億、庶業所得が二、三百億円となつております。月初めに納めるのは、主として勤労所得がどつと入つて来るからであります。二月の一日だけで税收入は三十八億円、七、八日ごろまで応相当入つて参ります。それから十日が期限になりますので、十二、三日に入つて参ります。また官吏の勤労所得もありますので、下句の二十三、四日にずつと入つて来るのであります。それから特殊の法人の決定がありまして、ずつと入りますが、大体源泉課税の問題あるいは酒税の問題等で、その月の上旬に半分程度のものが入つて来るのであります。日にち日にちをお比べになつて去年と今年がどうだと言つても、それはその一部分を見るのであつて、全体をつかむ数字ではございません。
  258. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかし去年と今年と同じように申告課税にしても、源泉課税にしてもとつているわけですよ。去年は源泉課税だけで、今年は申告だけだと言つているのでない。両方同じようにとつている。その比率が全般的に見て今年は落ちているということを私は言つているのです。
  259. 池田勇人

    池田国務大臣 今年は五千百億円の中でも二—三月には月に五、六百億円くらいとればよい。しかし昨年は三千百億円と非常に少なかつたのでありますが、徴税が一—三月に片寄つて来たからそういう状態になつたのであります。そういう関係でございますから、四、五日の入りようが悪いからといつて、あなたがそんなに御疑問になるのならば、この二月の終りになつたら、その二月の收入がどうかということがわかります。ここでそういう議論をしても意味をなさないと思うのであります。従いまして、昨年の二月には三百四十億でしたが、今度は四百二十億——これは会社が勤労所得税をとつて、今日佛い込もうか、明日佛い込もうかということで日にちが違つて参ります。これは十日までに納めればよいのであります。それを集計してみるとわかります。これはこの国会中にはつきり現われて参りますから、それをごらんになればわかります。二月には大体五百億円余りの收収入があると思います。
  260. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば昨年は一—三月でどのくらいとつたのですか。
  261. 池田勇人

    池田国務大臣 一—三月で大体千六百億円程度です。千六百億円というのは、三月の調定も入れまして、千六百億円程度だと考えております。大体予算の半額を一—三月でとつております。今年はそうではありません。五千百億円のうちでも千数百億円とればよいのであります。
  262. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 昨年は千六百億円だけれども、今年は三百億円くらいよけいになつておる。もちろん予算のトータルの額は違うけれども現金が詰まつでおるという事態を前において、私は同じように論ずることはできない。昨年以上の金詰まりであり、昨年以上の不景気だということははつきりしておるではありませんか。そのはつきりしている事実を前にして、昨年と同じ、あるいはそれ以上の軽さをもつて税金がとれるということはおめでたい話だ。インドネシア共和国にはハッタという人がいるが、日本の蔵相ははつたり蔵相だと考える。この数字を見て私はそういう怒りを感ずるのです。大蔵大臣はどういう理由で税金が平易にとれるかということをお考えになつているのですか。もう少し明確な話を私は承りたいと思う。
  263. 池田勇人

    池田国務大臣 あなたのお話が数字的に根拠がないのであります。金詰まりである。金がないと言つておるかと思うと、銀行は金があつて貸出しがふえておるというような、いろいろな議論がまちまちに出て来るのであります。私は納税資金は銀行から貸してはいけないということを、一昨年ごろは銀行局で言つておりました。しかし今は納税資金も貸すことを勧奬いたしておるのであります。金詰まりという一つのはつたりであらゆるものを解決いたされようといたしますが、それはむりであります。国民の所得がふえているか、ふえていないかということは、こういう問題からお考え願いたいのであります。この予算はあなた方の御賛成を得まして、五千百億円とれるのであります。しかも昨年の十一月の補正予算で、事業所得は千九百億円の收入だけれども、情勢によつては二百億円くらい減るだろうということで減らしておるのであります。そこで私は申し上げますが、中小商工業あるいは農業といういろいろな問題が起つて参りまして、各国の所得を見ましても、日本の所得状況を見ましても、勤労所得と事業所得——すなわち法人はのけますが、大産業所得、中小企業所得、農業所得等あらゆる庶業所得とどちらの所得が多いかということを聞いたならば何人も事業所得が多いだろうと言う。これは過去の日本の所得の分から言つてむそうであります。しかして今勤労所得税についてどれだけとれておるかと申しますと、予算は千二百億円であつて、補正予算で百数十億円ふやして千三百数十億円になつて、片方事業所得税は千七百億円見込んでおるのであります。これも昨年は一昨年に比べまして、物価高による所得の増も考えられておるのであります。あなたが言うように三百億円も赤字が事業所得から出るというと、勤労所得よりも少くなる。勤労所得はしかも二割五分を控除したあとの税率で考える。そこで私はあなた方が金詰まりだから税金が納まらぬと言われるが、どつちかというとその方がはつたりではないか。もし納まらないというのだつたら、納まらない理論的根拠をお示し願いたい。私はいろいろな点を考えまして、大体この一—三月、四月にかけましては、去年のように一—三月に支拂いをせずに、急いで十二月までにとつておりましたから、私は楽とは申しませんけれども、普通のやり方で、收入は赤字が出ないように確保できると考えておるのであります。
  264. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 十二月末日の数字を調べてみると、源泉課税が大体前年同期収入の七〇%、申告課税が三三%、両方合せて四五%、申告課税が惡いということは例年の話でありますけれども、しかしこの源泉課税や法人税その他一般に比べてみ三申告課税がこのように落ちておるということは、私は中小企業が税金に悩んで苦しんでおるという現実の証拠であろうと思う。こういう具体的の数字を見て、またわれわれが地方へ行つて地方民の言うことを聞いてみて、この具体的な事実は間違いないと考えておる。こういう具体的な数字を見て、あなた方はどういうふうにお考えになりますか。
  265. 池田勇人

    池田国務大臣 せつかくのお示しでございますからお答え申し上げますが、十二月末に三〇何%入つておるのだつたら、一昨年の十二月末は何%入つておりますか。そんなに入つておりません。しからば一昨年の暮よりも昨年の暮の方が、中小商工業者はよくなつたという結論にならざるを得ない。一昨年の暮の数字をごらん願いたいと思います。
  266. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 一昨年の数字はこの際私は持つていないけれども、おそらく三〇何%くらいやはり行つておるだろう。それは源泉課税と申告課税の苦しさというものははるかに違つておる。私はおそらく申告課税は昨年と一昨年とはほとんどかおつていないと思う。それくらい実際中小企業は参つておるのです。私はこの問題についてもう少し後日池田大蔵大臣にお聞きいたしたいと思います。本日は時間が参りましたから一応これで打切ります。
  267. 植原悦二郎

    ○植原委員長 中曽根君の質疑の残つておるのは、通産、安本、文部、地方、人事だけですか。
  268. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 いや池田さんにも財政のほかの問題があるのです。きようは一—三月の問題だけお聞きしたのです。
  269. 植原悦二郎

    ○植原委員長 今日はこの程度で散会いたします。  明日は午前十時より開会いたします。    午後四時五十二分散会