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江崎真澄君 私は、ただいま議題となりました
都市建築物の
不燃化の
促進に関する
決議案の
提案者を代表いたしましてその趣旨を弁明し、
諸君の御賛同を得んとするものであります。
まず
決議案を朗読いたします。
都市建築物の
不燃化の
促進に関する
決議
わが国は、年々火災のためばく大な富を喪失しているが、これは、わが国の建築物がほとんど木造であ
つて、火災に対し全く耐抗力を有しないことに起因する。
特に都市においては、都市計画の実施、消防力の強化とともに建築物の
不燃化を図らなければ、火災による損害の防止は期し得られない。
過去三十年間、法令に基いて
都市建築物の
不燃化に努めて来たが、
都市建築物の
不燃化は単なる法令の施行のみでは誠に困難である。幸いわが国経済力も漸次回復し、不燃建築に要する建築資材の入手難も漸く緩和されたので、急速に
都市建築物の
不燃化に努力すべき時期に到達したものと信ずる。
そのため、今回建築基準法を制定して近代的不燃都市の建設を企図しているが、これら法令の整備と相ま
つて、
政府は速やかに具体的措置を決定し、これを実施することを強く
要望する。
記
一、都市の
不燃化を
促進するため、防火地域内に建設する不燃建築物に対し、国庫補助金の交付及び建設資金融通の途をひらくこと。
二、都市の火災危険
地区において既存建築物の防火改修事業を実施し、これに対し国庫補助金を交付すること。
三、新たに建設する官公衛等は、原則として不燃構造とすること。
四、防火地域内における小宅地の利用を合理化するため、共同建築物の建設を
促進するよう適切な法的措置を講ずること。
右
決議する。
御承知の
通り、わが国は火災国というきわめて恥辱的な別名を冠せられております。相次ぐ火災によりまして、勤勉にして精励なる国民の築き上げた国富を、あたら烏有に帰せしめておる現状であります。その最大の原因は、何とい
つても建築物のほとんどが燃えやすい構造であり、火災に対する抵抗力がきわめて貧弱であることに起因いたすのであります。このわが国建築物の重大なる欠点を是正せんがために、過去三十箇年にわたり、法令によ
つて不燃化建築物の建設に努力して来たのでありますが、笛吹けどもおどらず、現実は、火災にあえば、その火災の損失をとりもどすために急ぎ木造家屋をつくり、その木造家屋はまた焼失し、いたずらにこれを繰返すのみとなり、
不燃化建築の構想は容易にその実効をあげ得なかつたのであります。
決議案第一より第四に至る各項に対する理由を申し上げますと、第一の点でありますが、大正十一年、時の
政府は、東京都内においては、
日本橋、京橋、丸ノ内等、
中心部約百五十八万坪の地域を甲種防火
地区として指定したのでありますが、耐火建築がなされたのは、指定地域内宅地面積九十三万坪に対しまして、わずか十二万坪にすぎず、総宅地面積の一四%という態たらくであります。また
昭和九年、大火災によりまして甲種防火
地区に指定された函館市においては、現在まで不燃性’建築物は、甲種防火
地区でありながら二棟という、お話にもならない
状況であります。法令によ
つて堂々と不燃建築物たることを規定しながら、かくのごとく実効をあげ得ないのは、建築費が木造に比して高価であり、わが国民の経済力をも
つてしては、とうていその建築費をまかない得ないことが、その最大の原因であると認められるのであります。
たまたま
政府は、今
国会に
建築基準法案を
提出し、本日衆議院においてこれが可決を見んとしているのでありますが、この法案それ自体は、きわめて民主的にして、しかも地方自治の精神にか
なつたものでありますが、この法案の中には、特に項を設けて防火地域を設定し、その地域内の建築物はすべて不燃性建築たることを厳重に規定しておるのであります。かかる規定は、国家百年の大計のためまことに喜ぶべき
思想でありますが、すでに申し述べました
通り、国民自身の経済力は、この規定、この
思想には、とうていつき得ない困難が考えられるのであります。そこで
政府は、この際燃えない都市建設の大目的貫徹のため、特に耐火建築の建築費に対しましては国庫補助金の交付及び建築資金の融通等積極的施策を樹立し、急速なるこれが実現に質せられたいのであります。なお、防火地域内に建築する不燃建築物に対し国庫補助金を交付し、かつ建築資金を融通した事例は、か
つて大正十二年の関東大震災後に、東京及び横浜市内の防火
地区においてこれを実施いたしたのであります。この際、その例を全防火地域において復活し、不燃都市建設を
促進しなければならないと確信するものであります。
第二項につきましては、最近熱海市の大火を初め、飯田市、能代市等、せつかく戦災を免れながら、不慮の事態から甚大なる被害をこうむ
つているのでありますが、過去十箇年間において百戸以上を消失せる火災は、実に八十九件の多きに上るということであります。そのほとんどが中小都市であるという点も忘れてはなりません。
これは、それらの都市における都市計画事業の遅滞とか、消防力が貧弱であるとか、いろいろな悪条件にもよりますが、根本においては、木造不良住宅が密集し、いかにも大火災発生のための温床といつたわが国建築物のあり方によるものであると言わなければなりません。従いまして、これらの頻発する火災を防止するためには、すでに申し述べましたように、まず防火地域を指定し、新たに建築する建築物の
不燃化を積極的に進めますとともに、既存火災危険地域における建築物を耐火に改造する措置を急速かつ大規模に施する必要が感ぜられるのでありす。しかしてこの必要は、特に経済の少い地方中小都市に多いのでありして、この改修事業を強力に行うたには、何としても国庫より相当の補金を交付する原則の確立をいたさなればならないと考えるのであります。
第三に、近来官公署の火災は特に立
つて多いのであります。最近の例あげてみましても、たとえば県庁とては、青森、埼玉、佐賀、長野の庁を燃やしているのであります。また役所は、
山口市を初めといたしまて奈良、能代、西宮、熱海等の各役所を数えているのであります。のみならず、東京駅の八竜州口、あるいはまた、過ぐる二十六日には高崎市役所を焼失するなど、実に枚挙にいとまき
状況と申さねばなりません。過去四簡年間の官公庁の火災被害は、延べ十万坪の多きに上り、二十五億円といわれております。これによる国民大衆のこうむる直接、
間接、有形、無形の損害は、実にはかり知り得べからざるものと言わなければなりません。かかる見地からしても、まず官公庁の建設は当然不燃建築を原則とし、これが実現に真剣な考慮を拂うべき段階に到達したものと言わなければならぬのであります。
第四に、わが国の都市の宅地はきわめて細分化されており、特に防火
地区に指定されているような
中心部においては格別この傾向が著しいのでありまして、このことも耐火建築物の実施を妨げる重大な障害とな
つておるのであります。たとえば東京都中央区では、一筆三十坪未満の宅地は総宅地筆数の三五%に及んでおり、このように細分化された宅地を合理的に利用するためには、数筆の宅地の上に共同建築をしなければならないのであります。この共同建築物
促進のためには、民法の規定のみでは不十分でありますから、所有に関する特別の法制をつくり、共同建築を容易にすることが必要であります。これはまた一面、
不燃化建築物の建設
促進の一因となるものと考えるのであります。
以上、各項目にわたりまして理由のおよそを申し上げたのでありますが、まつたく都市
不燃化促進は、目下の喫緊事であると申さなければなりません。か
つて英京ロンドンにおいても、一六六六年、全市をおおうた大火に見舞われるまでは、相続く火災に悩まされて来たのでありますが、当時レーン氏の提唱する
不燃化都市計画を、ときに夢物語であると笑う人もあつたのでありますが、断固これを採用することによ
つて偉大なる成功を収めたのであります。但しこれは、先ほどあの辺からもやじが飛びますように、すでに二百八十年も昔の話であります。この
決議案にして、今日ここに声を大にして論ずるなどは、いかにおそきに失するかを思わせる感ありと言わなければなりません。今こそわれわれは、わが国建築物の最大欠点である燃えやすい構造を打破し、改むるにおそきはなしとして、一刻もすみやかに
不燃化を強力に推進しなければならないと確信するものであります。
以上の理由によりまして本
決議案を
提出し、
諸君の全面的御賛成を得、
政府におきましても、この趣旨にのつとり早急に具体策を講ぜられんことを
期待するものであります。以上、本
決議案の趣旨弁明といたす次第であります。(
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