○苅田アサノ君 ただいま
上程されております
法律案につきまして、
日本共産党は
反対であります。
本案の
改正点は二つありますが、その一つは、厚生年金
保險を十年以上かけて職を離れた人々が、養老年金を目的に、
規定の継続二十年になるまで任意に掛金をかけ続けようとする場合の
保險料率が、今回千分の二十六ときめられたことであります。元来、厚生年金
保險のおもなる目的は、年と
つて働けなくなつた場合の養老年金なのであります。遺族年金とか傷害年金、傷害手当等もありますが、これらはみな、比重から言
つてごくわずかでありまして、実際の利用からい
つても、二十三年度の例を見ましても、厚生年金の実收が六十七億六千万円に対しまして、三%の二億二千万円程度の給付がされておるにすぎないのであります。でありますから、毎年取立てる多額の
保險料――二十五年度におきましては百十五億円以上の
保險の收入が予定されておるのでありますが、その大部分は勤労者に沸いもどされることなくして――
昭和三十七年までは、これが労働者に沸いもどされないで大蔵省の預金部に積み立ててあり、その総額は、今年の一月で百八十一億円という、預金部資金の一割以上にも及ぶ厖大な額に上
つておるのであります。
ここで問題なのは、
日本の
現状で、労働者が、一体二十年先の老後のことを考えて毎月百円
内外の金を積み立てるということが、今日の常識で妥当と考えられるかどうかということであります。なぜならば、二十年先の老後の
生活の安定ではなくて、今日目の前の差迫つた不安定をどうするかということが、今日の労働者のせつぱ詰まつた状態なのであります。それは、だれもよく知
つておる
通りであ
つて、毎日のように報道される自殺者、
一家心中の例を見ましても、このことはわかるのであります。こうして、
生活苦のためとか、あるいは失業のため、または過労、栄養失調、病気等によりまして、今日生きるに生きられなくて死を選ぶ人々の中には、二十年先の養老年金を積んでおる人も多くあるに違いないのであります。そういう矛盾の多い制度によ
つて積み立てました金が百八十一億もあるのに、これが少しも今日の労働者の
生活をよくするために使われていない、いな、命を救うためにさえも使われていないという状態なのであります。この点において、自分たちの積み立てた金を自分たちの
生活を助けるために使えという正当な要求が大衆の中から強く盛り上
つておるのに、
政府は何一つしていないのあります。
そればかりではなくて、病気がふえて
保險経済がやれないから
といつて、健康
保險で掛金を上げるとか、あるいは初診料を取るとか、診療の
内容を悪させるとか、いしやの支沸いを滞らせる。その結果、なお年度末には十二億円の赤字は必至だと言われておる状態なのであります。こんなふうにして、健康
保險はがたがたにな
つております。国民健康
保險は、もつとひどい状態であります。労災
保險にいたしましても、今日
中小企業の危機のために、どんどん労働者の負担に切りかえられておる状態なのであります。これでは、何の社会保障、何の社会
保險と言い得るでありましようか。勤労大衆からの大收獲を隠す煙幕としての今日のこういう制度の役割も、今ではもう、ぼろぼろになつた着物同様であ
つて、まるで役に立たなくな
つている状態なのであります。
一にも二にも、
政府は予算がないと言
つております。最近では、商業新聞でさえも苛斂誅求ということが言われております。このむごたらしい大衆課税は、一体何に使われるか。これはしばしばわが
共産党がこの議場でも暴露しましたように、大衆の
生活を守るためではないのであります。大衆の
生活をこわすため、もつとはつきり言えば、戦争の準備のために使われておるという状態なのであります。
そればかりではありません。労働者から取立てました百八十一億の厚生年金の
積立金は、一体何に使われておるか。従来、大蔵省の預金部を経まして地方公共
団体へ貸し付けられて、これが土木費にもなり、また産業経済費にもな
つておるわけでありますが、なお相当の部分が
警察の費用にもまわ
つているということは、地方自治庁の資料を見ても明らかであります。さらに二十五年度には、この預金部の資金の中から多額のものが産業資金として使われる計画が進められておるということは、
委員会において、大蔵当局の
答弁にも明らかであります。
一体、労働者の金が労働者の福祉のために使われないで、労働者を弾圧する
警察費になつたり、大資本家の手に渡
つて、あべこべに労働者をしぼり上げる金になつたりというような、べらぼうな話があるでありましようか。勤労大衆からは根こそぎ取上げて、これをあげて一部の大資本家につぎ込んで、国を再建するためでなく、国を破壊するために使う
吉田内閣のやり方は、この一つの厚生年金制度の中にも、以上のように、だんだん露骨に現われて来たわけでありまして、私
どもは、これには絶対に
反対であります。
今回の
改正にいたしましても、給料の中から天引きされる標準報酬の千分の十五にしても容易でなかつたものが、任意で千分の二十六のものが、かけ続けられるわけのものでないこと、労働者の老年の保障のためには、もつと実質的な処置が講ぜられなければならないということを強く要望いたします。
第二の
改正点は、
昭和十九年以来支沸いを停止していた、旧労働者年金
保險特別会計法によ
つて積み立ててある労働者の退職
積立金及び退職手当金を沸いもどすという
改正でありますが、この両方合せて、労働者一人
当り二百七十八円七十五銭、これはその当時、
昭和十九年におきましては、相当の額に違いないのでありますが、今日この同じ額では、百分の一のものも買えないのであります。これは労働者の任意の貯金ではありません。
政府がか
つてに凍結しておいて、百分の一以下の実質になつたものを、何の弁償もしないで、そのまま返すというような、そんな大衆をペテンにかけるようなやり方には、
共産党は
賛成するわけには行かないのであります。この際、厚生年金
保險はむしろ廃止し、ただちに
積立金を労働者に拂いもどし、それにかわるべきであ
つて、このたびのような欺瞞的な
改正案には全面的に
反対するものでございます。(
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