○中曽根康弘君 私は、
民主党を
代表いたしまして、ただいまの
統制撤廃の問題に関して、
関係大臣に
質問をいたしたいと思います。
このたびの
指定生産資材割当規則を中心とする一連の
統制撤廃に関しては、私は、ある程度の経緯を実は表するのであります。御存じのように、今回の
統制撤廃によ
つて、まず第一に、国家財政の負担がかなり軽減されるであろう、第二番目に、今まで
統制あるがゆえに流通を阻害されてお
つた部位が、かなり打開されるのであろう、第三番目に、
統制あるがゆえに、
統制にからむいろいろな犯罪、そういう暗黒面が、社会からある程度払拭されるであろう、こういう、いい結果を反面生むと思うのであります。しかし、この
統制撤廃の問題については、重大な問題が内在していると思うのであります。この
統制撤廃については、明暗二つのものが織り交ぜてある。そこで私は、この暗に属する
部分、暗い方面について、
政府がいかなる
政策を持
つているか、お聞きしたいと思うのであります。
御存じのように、
政府が現在や
つている財政
政策というものは、どういう基本的な
政策に基いているかということを反省すると、池田財政のねらいというものは、今年の四月、予算
委員会その他で
説明されましたように、
日本経済を資本主義的な
原則によ
つて再建しよう、荒れはてた
日本経済に資本主義の温床を整備しよう、こういう
原則であ
つたと思うのであります。そのために、実は冷酷無情な資本主義の
原則を、この荒廃した
日本経済に適用した。そこで、かなりのゆがみと、大きな
犠牲が、ある
部面にできているのであります。
御存じのように、池田財政のねらいは、たとえば三百六十円レート、あるいは六千三百円ベース、あるいは一連の農産物に関する低
価格、こういうものによ
つて国民生活を圧縮する、それによ
つて輸出力を増大して、しぼり出し、これを外国に売
つて、それによ
つて、さらに
輸入を促進して、生活水準を高めよう、こういう野心的なねらいであ
つたと思うのであります。このねらいは、ある程度成功した。御存じのように、労働の
生産性は向上し、
物価や賃金は横ばいし停滞している。これは成功の
部面であります。
しかしながら、このような生活圧迫、言いかえれば、昨年の七割増しの所得税をとるとか、あるいは労働者の賃金を釘づけにするとか、低米価を強行する、こういうことによ
つて、なるほど、ある
部面では輸出力が出て来たけれ
ども、その反面、大きな被害や
犠牲者というものが、ここで裏にはあらわには出ていないけれ
ども、あるのです。それがいかにな
つているかということを、われわれが一番問題にしなければならないのであります。
池田財政というものは――今まで
日本のインフレーシヨンというものは、コンシユーマー・インフレーシヨンであ
つた。つまり、インフレで暖ま
つてお
つた。そして、暖ま
つて膨脹した
日本経済を、冷蔵庫に入れて凝縮させた。ここまでは、なるほどや
つた。しかし、凝縮した結果は、からだが縮かんで、毛細血管に血がまわらなく
なつた。動脈硬化の
状態にある。どこにそれが一番出ているかというと、農付であり、
中小企業であり、勤労者である。歴然としてここに出て来ておるのであります。こういうような大きなゆがみを持
つて来た。そのまま今
日本経済は国際
経済に突入しようとしている。御存じのように、伝えるところのローガン構想というものは出て来ておる。このローガン構想によ
つて、荒廃した、ゆがみを持
つた日本経済が、国際
経済の冷たい嵐に突入しようとしている。ここに問題がある。ここに、今や
統制撤廃というものが、実は出て来ておるのであります。
しかも、現在出て来ている
経済状態はどうな
つているかというと、滞貨は輸出入一千億円ある。売出金は約六百億円ある。
政府が、かりに、見返り資金や、預金部資金や、あるいは
復興金融金庫の回収金を出せば、九百億の金が出る。見返り資金だけでも六百六十億程度の金がたま
つておる。これが出ない。こういうところに、現在の一億のモラトリアム
状態が出ておる。これが普通の
自由経済や正常な景気の運行
状態で起
つてお
つたなら、これは当然銀行の取付に行くところなんだ。しかし、それが行かないということは、連合軍最高司令官の権威と信用によ
つて辛うじて保たれておるからである。これが安定だと言うことは、実におめでたい限りである。他人の力によ
つて辛うじて保たれているのが
日本の
現状であるのであります。
〔副
議長退席、
議長着席〕
こういうふうな
状態のもとにおいて、私
どもが一番心配しなければならぬのは、はたして民自党が言うような、
自由経済のそういうような
政策をそのまま伸ばして、
日本の生活の向上や再建ができるか、という問題なのであります。この問題は、超党派的な問題として私は心配しなければならないと思うのであります。(
拍手)
どうしてそういうことを言うかというと、言いかえれば、勤労者や
中小企業者や
農村というものを、かなり圧迫している。かなりのゆがみが出ている。そこで、国際
経済へ突入さして、あるいは
経済的な合理性からは、ある程度納得しても、社会的な副作用やその他によ
つて必ず破綻するという危險性が出て来ているからであります。言いかえれば、なるほど
統制を
撤廃した。民自党の諸君は、
自由経済を
公約して来られたので、
公約を実行されるという
努力を懸命にや
つたことは、私は敬意を表する。しかし、ここに出て来た
統制撤廃というのは、からだを萎縮させて、買いたいのだけれ
ども、がまんさせる。圧縮させる。言いかえれば、買いたいのだけれ
ども、金を諦めて出させない。従
つて、余
つてしま
つた。拡大再
生産ができて来て、物が増産されて来てそうして物が余
つたというのではない。
生産は、かなり上昇している。しかしながら、もう停滞している。そこで、圧縮して、買いたいのだけれど、買わせない。そういう
状態で今の
統制撤廃が行われているというところに問題がある。(
拍手)
そういう
観点から、私は、民自党の各
大臣に対し、次の四点について
質問をしたいと思うのであります。
まず第一は、このような一種のモラトリアム
状態、不景気の
状態というものを、いかに打開するか。なるほど、
統制撤廃ということはや
つた。しかし、この背景にどういう見通しがあるかということを聞きたいのであります。御存じのように、
有効需要の振起ということは、直接には来年度予算に
関係しておるのであります。
政府は、来年度予算を今明日くらいに出すとか新聞に報ぜられておるのでありますが、そこで、来年度予算、つまり二十五年度の財政の規模について私は伺いたい。それによ
つて、来年度の景気がどうなるか、この
統制撤廃の
影響がどどうなるか、この
統制撤廃の
影響がどうなるかということを私は検討することができると思うのであります。
そこで、青木
安本長官に数字をも
つてお答え願いたいと思うのでありますが、最近の新聞によると、ヴオリーズ陸軍次官が、来年の
日本のエードというものは大体三億八千万ドル程度だと言われている。来年度予算について、一体幾らを基準にして、見返り資金あるいはアメリカよりのガリオア、イロアのエードというものを計上しているか、それが第一点であります。
第二点、来年度の国際
状態が多分に機微な
状態にな
つて来ているので、終戰処理費の大幅な削減ということが言われておる。これは
国内の
有効需要、財政負担その他にかなり響くと思うのであります。この終戰処理理費は、これは一体どの程度になるか、これが第二点。
第三点は、債務償還をどの程度やるかという問題であります。債務償還というのは、実はデフレの原因になりておる七千五十億程度の債務償還をやると言われておるのでありますが、具体的にどの程度の債務償還を構想されているか。
その次は、来年度の補給金の見通しは、どの程度の額を與えるか。そうして、さらに来年度の財政投資、つまり特別会計を中心とする財政投資というものは、どの程度行われるか。伝えられるところによると、今年度とほとんどかわりないと言われている。公共事業費は一千億程度出るけれ
ども、特別会計に対する財政投資は、かわりないと言われているのであるが、これはどの程度であるか。この諸点について、青木
安本長官の、明確な、数字をも
つての御回答を願いたいと思うのであります。これによ
つて、私は、現在の不景気、現在のモラトリアム
状態が、来年度いかに展開されて行くかという見通しをつけるのでございまして、
統制撤廃の重大なる背景にな
つておらなければならない問題であります。
その次にお伺いいたしたいのは、やはり来年度の景気の見通しの要素でありまするが、はたして貿易協定がどれくらいになるかという問題であります。日英貿易協定ができたが、そのほかの諸国に対する貿易協定ができる見通しのもの、できつつあるもの、それがどれくらいにな
つているか。特にアメリカ圏から東南アジア圏に貿易対象というものが転換されておりまするが、その程度は、どの程度になるかということを、私は明確にお尋ねしたいと思うのであります。
そのうちで、特に私は、青木
安本長官に正確に
お答え願いたい。稲垣さんでもけつこうでありますが、最近、中共方面より開らん炭が入
つているという
状況であります。これは、第三国人あるは外国人を経由して入
つているという
状態でありまするが、来年度、中共貿易はどれくらいになるか、これが
日本の設備あるいは
生産財方面に対して非常な
影響を持
つているのでありまして、大体
有効需要の振起というものは、国家財政によるもの、貿易の面から来るもの、この二つが大きな問題であります。そこで、中共貿易については御親切な
答弁を承りたいと思うのであります。そうして、以上のようなものを集計して、来年度の
国民所得がどれくらいにかるか、
生産指数がどれくらいまで膨張するか、このことを結論的にお伺いしたいと思うのであります。
第二番目に
関係大臣にお伺いいたしたいのは、先ほど申し上げましたように、
中小企業、
農村、勤労者の
犠牲において、ある程度毛細血管に結滞が来ながら、国際
経済に参加しようとしておる。ところで、一番大きな問題は
農村の問題であります。御存じのように、日英通商協定が三億九千万ドルできた。アメリカ圏から東南アジアに転換しているということは喜ばしいことなのであります。しかし、あの日英通商協定によ
つて、われわれは機械や雑貨や化学製品を出す。彼から入るものは何であるかと言えば、これはゴムとか、あるいは一部の石油、あるいは鉱産物、こういうものしかない。われわれの貿易が伸張すればするほど、返
つて来るものは農産物以外にはないのである。ここで、来年度は農業の危機であるということが言われておる。そういうときに、
日本国内経済に、他の一面では
統制撤廃が行われているのであるが、
農村に対する
政策はどうなるかということは、
全国四千万
農民の最も聞きたいところであるのであります。(
拍手)
そこで、具体的に
農林大臣にお聞きしたいと思いますのは、御存知のようにバリテイというものは、ある程度公定
価格を基準にしてや
つている。米価は四千二百五十円の低米価ですえ置いて、公定
価格の基礎にな
つているパリティの品物が、これが
統制撤廃によ
つて、おそらくある程度上ると思うのであります。米価だけすえ置かれて、ほかのものは上る可能性がある。こういうときに、米価の算定について、
農林大臣はいかなる腹案を持
つてやられるか、いかなる米価に修正するか、この基本的
政策をお伺いしたいと思うのであります。(
拍手)
農村問題について、同時にお伺いしたいのは、国際小麦協定に参加するという情報があ
つたのでありまするが、最近これが、やや停滞しているということを聞いております。この国際小麦協定に加入するかどうかという問題も、またこれは重大名要件であります。この間の情報を
農林大臣よりお聞きしたいと思うのであります。
最後に、御存じのように、蚕糸の安定という問題は、
日本国民経済にと
つて、特に輸出の問題について重大な問題であります。伝えられるところによると、いわゆる蚕糸公社案というものによ
つて蚕糸価の公定をやろうとしておる。しかし、独占禁止法その他によ
つて、これがある程度停滞しておるという話でありますが、
日本の生糸の輸出を増大するためには、まだ
日本の養蚕農家を安定させるためには、どうしても蚕糸の安定という措置が必要であります。この蚕糸業及び蚕糸
価格の安定という問題について、
政府はいかなる対策か進めて、いかなる
段階にあるか。
それから最後に、木材の
統制撤廃によ
つて、おそらく木材に対する
有効需要は、ある程度上ります。一千億円の公共事業費が認められれば、一千億円の資金百億程度が認められれば、木材に対する
需要は、かなり上ります。この木材に対する
需要が上
つた場合に、濫伐その他の危險性が出て来る。ここで建設
大臣との
関係が出て来ると思うのでありますが、この木材に
統制撤廃後の森林資源の保護というような問題に対して、
内閣はいかなる対策をお持合せか、その点を最後にお聞きしたいと思うのであります。
第三番目にお伺いいたしたいと思いますのは、拡大再
生産の問題であります。ただいまのように、
自由経済によ
つて自由放任にした。これはそのまま停滞するということである。現在程度の
有効需要というものは、回復すべき
日本国民経済の
有効需要より、はるかに低いものであります。ここで
自由経済にもどすということは、期待すべき、回復すべき
日本国民経済に
有効需要より、はるかに低い。しからば、この低い
有効需要から高い
有効需要にいかにして持
つて行くかということが、第三番目に最も重大名問題であるのであります。このような回復というものは、実は
自由経済からは出ないのである。
先ほど
上林山君は、
経済安定本部を
廃止せよと言
つた。しかし、二十世紀のこのまん中の現代において、
経済的企画官庁を
廃止せよと言うのは、アダム・スミスの時代に帰れと言うことである。こういうような時代錯誤的な
政策は、これは良識ある者としては、とれないと思うのであります。この現代の
自由経済の悲劇あるいは失敗というものが、どこへ出て来ておるかというと、株価の低迷というところに来ておる。このような、六箇月に及ぶ株価の低迷というものは、自由党が一番期待してお
つたものについて、まつ先にここに没落が来たということであ
つて、
自由経済の悲劇にほかならないのである。この株価の低迷というものを、いかにしてまた上げて行くか。この問題は、兆基資金をどういうふうにして供給するかという問題になるのであります。
最近、いろいろ目前的な対策がとられている。目前的な対策の中に、伝えられるところによると、株式市場と資本市場との愛だの調整
機関を必要とする。たとえば証券投資会社をつくるというような構想も言われておる。あるいは見返り資金を動員して、てこを入れるということも言われておる。あるいは
日本銀行に対する担保の中に株式を認めるというような構想が進められている。これらの問題が、現実にいかに打開されつつあるかということを、私はまずお聞きしたいと思うのであります。
われわれが最も寒心を持
つておる問題は、この年末から来年の三月にかけての問題であります。ただいまの日銀券の発行他は、御存じのように約三千八十五億円である。昨年度は、三千五、六百億円程度で年越しをや
つた。現在は、それが三千八十五億円であります。この年末
金融をどうするかということは、今までいろいろ
質問はあ
つたのでありますが、これでまずわれわれが心配しなければならないのは、一月から三月にかけて、どういう対策が行われるかということであります。
御存じのように、一月から三月にかけて、約千六百語十億円の税の徴收が行われる。これに対して、いろいろ食糧証券その他によ
つて金が出る。差引すると、約千億程度の吸上げ超過になる。この吸上げ超過に対して、
政府は、たとえば見かえり資金を出すとか、あるいは預金部資金を動員するとか、いろいろな手を打たれておるようであります。特に、この一月――三月の資金問題、
金融問題というものは、いままで営々として再建してきた
日本国民経済が、この瞬間にどうなるかという重大な問題を内包しておるのであ
つて、私は
安本長官に対して、いかなる有効な具体的
政策をやるかということをお聞きしたいと思うのであります。
私は冒頭に、今度の
政策というものは、
中小企業と勤労者と
農民の
犠牲において、
日本経済を資本主義的な
原則で整備しようという
政策であると申し上げました。
農村の問題については先に申し上げ巻いたが、われわれが最も寒心を持
つておるのは、
中小企業と勤労者の問題であります。この
中小企業の問題というのは、この
統制撤廃とも
関係があるのであ
つて、
統制撤廃というのは何であるかといえば、それは能率化ということであります。
合理化ということであります。この
合理化によ
つて、一番適応しやすい正確を持
つておるのは何であるかというと、それは大
企業であり、大
産業である。ただいま行われているいろいろな
合理化――
統制撤廃その他の
合理化によ
つて、間接的に大きな被害を受けておるのは、実は
中小企業であります。
御存じのように、たとえば現在大工業の
合理化というものは、下請をたたくとか、あるいは不能率な工場を閉鎖するとか、労働者の首を切るという原始的な
合理化が行われている。機械を入れるとか、技術を改善するとかいう
合理化ではない。従
つて、この
統制撤廃を中心とする
合理化がこのまま押し進められるということは、下請その他の
中小企業がますますたたかれるということになるのであります。従
つて、このような
統制撤廃による
合理化を行うとすれば、当然その反面に、
中小企業に対する保護育成
政策というものが行われなければならないのである。その保護育成
政策というものは、一
部分、稻垣商工
大臣も
考えられておるようであります。
たとえば、朝日新聞の十四日付のものによりますと、見返り資金十五億円を十五箇月間に出す、こういう構想もある。あるいは日銀の別わくを、三十一億あ
つたのを、もう一億ふやすという構想もあるということを聞いておる。しかし、これらの手によ
つて現在の
中小企業の苦難が除かれると思
つたら、とんでもない間違いであります。こういうような、姑息的な、小さな
政策によ
つては、絶対に
日本の
中小企業の打開ということはできないのであります。
もう
一つは勤労者の問題でありますが、この間から、国鉄あるひは一般公務員が非常なる攻勢を展開したように、特に
日本の重大な問題として
考えなければならぬのは、来年度における公務員の給料の單価の問題であります。現在の單価六千三百七円をそのまま継続してやるということになれば、勤労者に対する重圧というものは、さらに出て来るのである。最近の新聞によると、税金その他によ
つて軽減するということを言
つておるけれ
ども、他面においては、
統制撤廃によ
つて物価が上昇する。補給金の
撤廃によ
つて物価が上昇する。この差引によ
つて、結局
中小企業や勤労者に対して、さらに多くの重圧がかかるということを、われわれはここに予想しておるのであります。
このような問題を明確にしないで、ただ
統制撤廃、
統制撤廃と言
つて祝い酒をふるまうようなことは、ヒロポンを注射するにひとしいのであります。(
拍手)このような、ヒロポンを注射することによ
つて目前を陶酔して、そうして
中小企業を一時の陶酔にひたらせるというようなことは、
民主自由党としては絶対にとらないところであると思うのでありますが、もし、われわれが今予想しておるようなことを、あなた方がや
つたならば、言いかえれば、強盗が人の首を縛めて、それをゆるめて、助けてや
つたと恩をきせるようなことになる。こういう
政策が行われないことを期待して、
関係各
大臣の
答弁を要求するものであります。
〔
国務大臣青木孝義君
登壇〕